2014年11月08日

倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化

 今回はアイヌの捕鯨について徹底的に検証してみたいと思います。といっても、現在もなお続いている太地や南極海での捕鯨と異なる視点で。主なソースは以下。
@アイヌ民族クジラ利用文化の足跡をたどる(岩崎,'02)|北海学園大学人文論集21
http://hokuga.hgu.jp/dspace/handle/123456789/1351
Aアイヌの捕鯨文化(児島,'10)|神奈川大学
http://icfcs.kanagawa-u.ac.jp/publication/ovubsq00000012h5-att/report_02_008.pdf
Bアイヌの鯨類認識と捕獲鯨種(宇仁,'12)|北海道民族学#8
http://www.h6.dion.ne.jp/~unisan/files/ainu_whaling.pdf

 北海学園大学の文化人類学者・岩崎・グッドマン・まさみ氏は、以前当ブログで取り上げたNHKのトンデモ番組に登場した秋道氏との共著や、鯨研通信への寄稿もあったり、沿岸捕鯨の文化の側面を強調する仕事をなさってきた、立ち位置としては捕鯨推進側の方。一方、児島恭子氏は札幌学院大学のアイヌ研究者の方。宇仁氏は東京農大の博物館学芸員の方。
 今回の視点で検証する分には、岩崎氏のも含め、ニュートラルな資料と受け止めることができるでしょう。(以下、引用は@ABとします。強調は筆者)
 これらの文献からは、アイヌやニヴフの人々を含むオホーツク圏の先住民が、海獣と非常に豊かな関わりを持っていたことがわかります。
 トリカブトの毒を用いた噴火湾での捕鯨は有名ですが、離頭銛のほか弓矢も使われたようですし、地域によって利用の形態にも幅がありました。

 しかし、上掲の文献にも示されているとおり、アイヌの捕鯨に関する史料は曖昧で断片的なものしかありません。
 伝統文化が口承で受け継がれたこともありますが、もうひとつ、大きな理由があります。
 それは言うまでもなく倭人(和人)の影響
 江戸時代の松前藩による搾取と抑圧、明治に入ってからの同化圧力(まさに文化と価値観の押し付け!)。そして倭人の近代捕鯨会社による資源の収奪。
 倭人に妨げられることなく残ってさえいたら、今私たちがそれを目にすることが出来たはずですからね。
 アラスカのイヌイットや、ロシアのチュコト族、デンマークの自治領グリーンランドの先住民の生存捕鯨が、国際社会に受け入れられているように。(ちなみに、グリーンランド捕鯨に関してIWCで揉めてるのは、流通形態が他の地域とさして変わらなくなった一方でザトウの捕獲枠増を求めていることが理由)
 倭人に虐げられ、衰退させられたが故に、伝統産業そのものに加え、それを受け継ぐために必要な言葉までも奪われたが故に、現在(いま)の所作として語り継ぐのではなく、過去形の形で一部の年配者の記憶の片隅に留められるにすぎなくなってしまったのです。

 具体的にどのようにしてアイヌの捕鯨が倭人の手で潰されていったか、それは上掲の資料からもつぶさに読み取れます。

クジラが松前藩の重要な産物として流通するようになると、寄りクジラの権利を規制する掟が布達され、アイヌの人々は寄りクジラを発見した場合に待ち奉行所に報告する義務が課せられるようになったと記されている。つまりこれまでのようにアイヌの人々がクジラを利用することは処罰の対象となり、アイヌ民族のクジラ利用は幕府に管理されるようになっていくのである。(〜@P119)

さらにこの地域の場所請負制度はアイヌの労働力搾取に大きく偏り、その結果アイヌの人々は生業を失い、漁労や狩猟の自主性を失っていくこととなった。(〜@P120)

クジラは解体後にその3分の1は上納され、発見者であるアイヌには3分の1が渡されると記録されている。(〜@P120)
↑つまり3分の2は倭人に取られるってこと・・。これは安政4年(1857年)の紋別の2頭の寄りクジラの例。

アイヌ捕鯨の終わりを決定的にしたのは明治4年(1871年)の毒を用いた狩猟の禁止である。この禁止令によりクマ猟やシカ猟と同様に、アイヌの人々が巨大なクジラを得るために、最も効果的な方法であったトリカブト毒を失った。(〜@P120)
↑実は、明治初期にガンガン乱獲してあっという間にエゾシカを絶滅寸前に追いやったのも入植した倭人。そのために敷かれた保護措置でアイヌが割を食ったわけです。ただ、おそらく被支配民に抵抗のための厄介なツールを与えないという裏の動機もあったでしょうね・・

この当時すでにアイヌは寄りクジラを利用する権利を失っており、クジラが浜に上がると、その地域の漁業権を持っている漁業者が優先的にクジラを得る権利を主張し、伝統的なアイヌの権利は認められなかった。(〜@P125)

 このとおり、アイヌの人々のかけがえのない伝統文化を強圧的に、強引に変質させたのは、倭人に他なりません。
 そのこと自体は、白人とイヌイット、アボリジニ、マオリ、ハワイ先住民など多くの少数民族との関係についてもいえることでしょう。
 ただし、先進各国の中でも、少数民族を抑圧した加害の歴史を正しく教えることをせず、権利回復の動きが遅れているのが、世界に捕鯨文化を声高に叫び、人種差別の被害者だとことあるごとに訴える捕鯨ニッポンだといわざるを得ません。
 何しろ、「アイヌなんていない」妄想に憑かれたトンデモなヒトが札幌で市議を務めてしまえるという、惨憺たる有様ですからね・・。

 反反捕鯨論者が口を開く度に唱える「日本の捕鯨9千年!」(中国4千年じゃないけど・・)の代名詞。
 しかし、縄文時代の海獣類の利用とつながり得るのはアイヌの捕鯨(例の秋道氏も述べているとおり)。倭人の捕鯨ではありません。
 化石での大量出土といっても、例えば能登の真脇遺跡から出土した小型鯨類の骨は、集落が存続した4千年の期間で3百体弱程度。縄文時代のそれが、偶発的・散発的な寄りクジラの利用であったことは疑いの余地がありません。石器等での捕獲があったとしても、岸に近づいたものを仕留める、文字どおり寄りクジラ+αの利用。
 寄りクジラで利用できるのは集落で年数頭、10頭も上がれば“大漁”。
 つまり、その形態は後世のアイヌの捕鯨にこそ連なるものであれ、技術革新を重ね、組織的に鯨組単位で年間数十ないし数百頭も捕獲し、莫大な収益を上げて藩の財政にも大きく貢献した、銅鉱に匹敵する一大産業と呼ばれるほどきわめて商業的色彩の濃かった倭人の捕鯨とは、超えがたい断絶があるのです。
 ついでにいえば、古式捕鯨に用いられた技術は中国をルーツにするという説もあり。
 積極的か消極的かという点は主観的、相対的な指標にすぎませんが、アイヌの捕鯨は古今東西の人類によるクジラの利用の中でも、きわめて抑制の効いた、最もクジラに対して優しい(というよりフェアな)捕鯨だったということができるでしょう。
 何より大きな違いは、文化としての継承性、連続性です。
 そして捕鯨の性格。つまり、文化の本質そのもの。

この頃(昭和の終りから平成)のアイヌの人々の記憶には、積極的に海に出て行く捕鯨の話は出てこない。しかし寄りクジラを利用した数々の体験が記録されている。(〜@P113)

(「雄武町の歴史」の)著者はアイヌの先人たちの捕鯨と寄りクジラに関して、非常な危険を伴う捕鯨は地形的に恵まれた地域でのみ行われたと考えるのが自然であろうと述べている。(〜@P114)

寄り鯨は以前に比べて少なくなったことが書かれているが、減産は困るからといって積極的に捕鯨をしたという記録は今のところ見つからない。(〜AP116)
↑そう・・アイヌはまさに太地とは正反対だったわけです。自然に対する向き合い方が。

 児島氏は以下のように指摘しています。

人間の行為としては与えられた鯨の利用と捕りに行くことは別のことである。(〜AP117)

 ここで、倭人とアイヌの捕鯨に関する、非常に象徴的な、そしてあまりにも対照的な記述を紹介しましょう。

(安房で捕鯨を始めた「関東における捕鯨の祖」醍醐家7代目定継が北海道で捕鯨業開始を試みた記録)
蝦夷人の突棒捕鯨の幼稚さに比べて、ずっと進歩した洋式捕鯨の実施を見る日があれば、この地においてのこの事業は驚くほどの成果をえるものと、定継は自ら心を励ました。(〜@P121)

北海道の海にはクジラが多いがアイヌはカムイと呼んでそれを捕獲しないが、シャチなどに追われたクジラが浜にあがると、それを食料としたり、油をとった(『蝦夷土産』安政4年)(〜@P121)

クジラをまず捕るという気で捕るということはあまりない。(白老、アイヌ古老)
沖ではレプンカムイは獲物を横取りされたと思っているのか知れないけどキーキーと泣いて海上をポンポン跳ねていた(寄りクジラの状況 白老、アイヌ古老)(〜@P124)

(クジラ送りの様子)
祈りの言葉はレプンカムイに対して大しては大きなフンベをくれた事の感謝の後、このように祝って送るのでまた来てくれることを願う祈りをする。ハシナウカムイにはフンベの魂が無事に帰ることができるように祈る。(〜@P133)

 フロンティアのつもりでやってきて、目がこぉんな具合(¥v¥)になった倭人と、何世代もそこで暮らしてきたアイヌの人々のクジラ観の差が、如実に表れているといえるでしょう。西洋の捕鯨の収奪的性格を、文明の進歩≠ニいう感覚でうらやむ目でしか見ていなかったことも。
 《カムイ》でもある動物と目線が等しいアイヌに対し、当時から動物を《カネになる資源》としか考えていなかった倭人の、なんという途方もない差。
 アイヌの人々にとって、森の生態系の頂点シマフクロウとヒグマ、そして海の生態系の頂点シャチは、特別なカムイとして一目置かれていますが、表現が微笑ましいですよね・・。クジラ送りではシャチとクジラだけでなくキツネの神(ハシナウカムイ)にも祈りを捧げます。「海の幸は他の動物たちと分け合うものだ」という感覚があればこそでしょう。@P138の「寄りクジラの踊り」には、スカベンジャーとして自然界に欠かせない役割を果たしているカラスも登場します。

 ちなみに、ノコルフンベはアイヌ語でミンククジラを指す呼称。実は和名のコイワシクジラは近代に入って命名されたもので、古式捕鯨時代の倭人はこの種を認識できていませんでした。クジラに限らず花鳥風月の感覚で自然・野生動物を大雑把にしか把握せず、クジラの尾鰭の縦横も判然としないヘタレ絵を描いてたくらいですから・・
 また、アイヌ語にはミンクを指すと見られる呼称が複数あり模様(B)。捕獲時の体長や体色等の違いを反映したのでしょうが、年齢や体色の個体差だけでなく、JとOの区別もついてたかも? あるいはひょっとしたら、明治期に激増した倭人のノルウェー式捕鯨船の乱獲の所為で現在は絶滅してしまった亜種・個体群があったのかもしれませんね・・
 AP119では、「シマフクロウが人間のためにシャチに寄りクジラを頼む神謡」が紹介されています。

シャチが鯨を送り届けてこそ人間が得られるのであって、人間が直接鯨を獲るのが常態であればこれらの口承の物語の内容は成り立たない。(〜AP119)
つまり、鯨を人間に恵むのはシャチであり、シャチへの崇拝が捕鯨文化に作用しているのである。(〜AP120)

 古老の口で語られた「キーキー泣くレプンカムイ」の表現には、彼らの価値観が明瞭に表されています。
 クジラは「まず第一にシャチの獲物」であり、ニンゲンはその「お裾分け」をいただいているにすぎない──
 獲物が減ってもなお自分の獲り分を強引に確保しようとすれば、気高きレプンカムイが飢えることになります。アイヌの人々は、それを自らに許すことなど認めなかったに違いありません。
 それこそは、野生動物と対等に向き合ってきた先住民の知恵にして哲学、自らの存立を支えてきた基盤となる自然の真の持続的利用=サステイナブル・ユースの手本といえるのではないでしょうか。

 補足すると、直接的な規制による抑圧のみならず、横取りする形で奪ったのも倭人といえます。
 鯨種のうちでも北海道方面のアイヌの利用が多かったのはミンククジラとみられます。江戸時代以前には、種名がないことからもわかるように、本州以南の倭人の捕鯨の対象ではありませんでした。古式捕鯨の主要な対象鯨種であるセミやザトウに比べ、泳速が速く、餌場が近かった北海道ほど岸に寄らず、噴気も見分けがつきにくかったのが理由でしょう。ゼロではなかったでしょうが・・
 ただし、ノルウェー式捕鯨が導入されてからは、ミンク船と呼ばれる小型捕鯨船によって日本海を中心に大量に捕獲されるようになりました。
 西洋から押し寄せていた帆船捕鯨は、主要なターゲットがマッコウで、セミもボチボチ獲りましたが、鯨油も乏しくすばしこいミンクは当然対象外。競合の形でアイヌの捕鯨を衰退させたのも、やはり倭人の捕鯨だったことは間違いありません。

 ひとつはっきり言えることがあります。アイヌの捕鯨は、たかだか2、3百年ぽっちの間にめまぐるしく様態を変え、そのたびに収奪的性格を濃くしていった倭人の捕鯨とは、根底から異なるのです。
 対照的な倭人の捕鯨にまつわる伝承をここで再度紹介しましょう。(詳細解説は下掲リンク)

−長崎県の民話・第三話:くじら長者(西彼杵郡)
http://www2.ocn.ne.jp/~i-talk/minwa3-3.htm

 ある日のこと、クモの巣に一匹のこがね虫がかかった様子を見た与五郎。
 「これじゃ、クジラを網(あみ)で捕るのじゃ」と、さっそく大きくて、じょうぶな網を作りました。
 くじらを網で捕る方法は大成功。 毎年、数百頭のクジラが生け捕られました。 与五郎はたちまち日本の長者番付にのるほどの大金持ちになり、りっぱな鯨御殿(くじらごてん)を建てました。
 それから後のある夜、一頭の親くじらが与五郎のまくらもとに現われて、
  「与五郎どの、わたしは子もちのクジラです。 かわいい子を生むために、どうかお助けください」と、涙ながらに頼みました。
 しかしよく日、与五郎は、子もちのクジラを捕らない様に伝えるのをうっかり忘れてしまいました。
 夕方、子もちクジラと子鯨が浜にあげられました。 それを見て昨夜の夢を思い出した与五郎はたいそう悲しみました。
 それからというもの、プッツリと鯨が捕れなくなり、浜はすっかりさびれてしまいました。 あれほど栄えた鯨御殿も荒れはてて、与五郎は六十歳でこの世を去りました。
 そして、子孫(しそん)に不幸が続いたそうです。(引用)

 古式捕鯨の商業的性格の詳細については、下掲の秋道氏主演のNHK捕鯨擁護プロパガンダ番組の批判記事をご参照。
 アイヌ捕鯨と古式捕鯨との間には、かくも埋めがたい差がありました。
 しかし、その江戸期の古式捕鯨も、明治期以降の事業家によるノルウェー式捕鯨の乱獲体質とは比べ物になりません。
 古式捕鯨に引導を渡したのも、さらに桁違いに捕獲数を急増させて資源枯渇を招いた近代捕鯨そのもの。
 北海道や全国各地に棲む陸上の野生動物も、サステイナブル・ユースの感覚とは無縁な倭人の所為で、同時期に憂き目にあったわけですが・・
 それはクジラ観の違いにも明白に見て取れます。
 まずこれが、曲がりなりにも人間らしさを保っていた古式捕鯨時代。

嘗て鯨をとりしが子鯨、母鯨にそうて上となり下となりて其の情態甚だ親しく、既に母鯨の斃る頃も、頑是なき児の母の死骸にとり付きて、乳を飲む様にも見えたり、よって屡々これを取除かんとすれども遂に離れず、拠無く子・母共殺すに至る。いかなるものもその様を見てはその肉を食うに忍びず、此処に葬りて墓を建て供養せり、定めてこの墓の鯨もザトウなるべし。(引用)

−鯨文化:鯨を弔った鯨墓・鯨塚など
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/3011/kujirahaka.html

 古式捕鯨時代はまだ、命を奪うことへの畏れ、疚しさを完全には失っていなかったということですね・・。自民党の族議員のセンセイは、世界に供養の話を広めたいとかおっしゃってましたが、ご自身がまず日本人のクジラ観の多様さを一から勉強し直す必要がありそうです。。
 続いて、大手捕鯨会社による戦後南氷洋捕鯨の大乱獲期。監督官を務めた日本の鯨類学の第一人者の体験談。

※ 乳腺にミルクがあり、泌乳していたことを示す。しかし、この場合は、乳腺は退縮中で、泌乳活動を終えつつあるとみなして、仔連れ鯨捕獲の違反の疑いがあるのを目こぼしした。このようなことは日本の捕鯨では普通のことであり、会社や行政からも目こぼしを期待されたが、研究者にとっては耐えがたいことでもあったので、後には研究者は監督官を兼任しないケースが増えた。(補注)
(中略)大きな白の二頭連だと思ったら、小さい三分の二位のが小さい息をまぜて居る。船の連中は、あれは長須が混って居るので、子連れでは無いと言ふ。雌の肥り方。噴気。背鰭。背色等長須の様でもあり、子供の様でもある。しかし、私より実際に目の肥えた連中であり、しかも、監督官の面前で禁令を破って見せる様な事もあるまいと、その侭追尾させる。始めは小さいのが後からついて泳いで居たが、敵(捕鯨船)に追ひかけられたと気がついてからは、小さいのを前にして大きな白が後から揃って泳いで行く。そして、大体の場合♂が敵に近い方に居て♀を守ってやって居る。此の前第三文丸に乗った時は二頭連(夫婦)は一回も見なかったのだが、今日はどうも二頭連ばかりでその中の一頭をやっつけるのは可哀そうだ。しかし可哀想がってばかり居ては漁は出来ないし、当方が可哀想になる、早く帰れる為に犠牲になってくれよと祈ってやまぬ。そして今日の親子(?)の愛情又は夫婦の愛情を見せられては、それを打ち壊して自分の利益にのみ汲々として居る人間達。捕鯨業が嫌になった。母船では感ぜられない嫌な気分だ。遂に追尾成功。♂鯨はあへない最後をとげてしまった。それは大きな、♂にしては全く稀な程大きな85,6 feetもある奴ではあったが、それをやっつけた時、そして私に自らの功を話に来た時の、砲手の喜色満面ニタリとして残忍な笑ひを忘れる事は出来ない。私が、それと全く反対の気持ちで居るのも知らないで。それでもまあ♂で良かった。あれが♀であり、あの小さいのが、長須では無くて、子供だったら。小さいのは育たないかも知れない。此の点が国際協定のやかましく言ふ所であり、鯨を如何に可愛がるかと言ふ点だ。♂が自分が倒れても♀と子を守らうと言ふ精神、次代に示す♂の愛情は生物界いづれも変わらないだらう。犠牲になった♂の冥福を祈り、その犠牲によってのがれ得た♀の、そして小さき者の幸福を祈るや切。引用〜『南極行の記』(北泉社)

 ・・・そして行き着くところまで行き着いた、非人間的な調査捕鯨がこれ。。。

注5.「親子」と豪州政府が報道した鯨は、実際には単に捕獲された2個体の体長に差があっただけである。(〜鯨研プレスリリース)

 スリップウェイを挙がる未成熟と成熟個体の写真が報道され、国際的な非難を浴びるや、当の鯨研は涼しい顔でこんなことを言ってのけました。古の鯨捕りが耳にしたら、伝統の後継者を名乗る子孫の仏の罰を恐れぬ所業に、悲嘆のあまり卒倒したことでしょうね・・
 実際のところ、調査捕鯨の捕獲対象の半数は未成熟個体だったのですが。
 江戸時代の鯨捕りの抱えた激しい内心の葛藤など、もはやどこ吹く風。

 アイヌの捕鯨、江戸時代の古式捕鯨、明治期に輸入されたノルウェー式近代捕鯨、そして現代の、科学の美名を騙りながら「美味いミンク刺身の安定供給のため」(〜本川水産庁長官)に行われている調査捕鯨を、同じ捕鯨文化としてひとくくりにすることは、絶対に許されることではありません。

 アイヌの人々にとって、クジラはレプンカムイ(シャチ)からの授かりものでした。
 大陸渡来人の血とともに、アイヌ・琉球と同じ縄文人の血も引く倭人も、自然の恵みに対する感謝の気持ちはあったでしょう。
 しかし、現代人の口にする「感謝」や「供養」は、もはや正当化のための空々しい言い訳以外の何物でもありません。
 昔は、水害から救ってもらったお礼にウナギを口にするのを戒める、そんな地方もありました。
 いまや、絶滅危惧種に指定されてさえ、乱獲に、欲望にまともに歯止めをかけることすらできない有様。
 便利さや潔癖症の感覚と引き換えに、世界の食料援助の総量を上回る膨大な食糧を捨てている、人口当りで最悪の飽食大国。
 水産庁の担当者は「国産」と平気で嘯きますが、南極産鯨肉は、日本人が自然から授かった恵みではありません。
 地球の裏側の自然から強奪してきたものです。
 ICJ(国際司法裁判所)できっぱり認定されたとおり、捕鯨ニッポンは盗人国家なのです。
 大量の重油を燃やして地球の反対側にまで押しかけ、奪ってきているのです。
 公海・南極海とEEZ内という違いだけで、中国の宝石サンゴ密漁船と何ら違いはありません。
 しかも公海といっても、日本が批准を拒み続けているボン条約の観点からは、渡り鳥と同様に国際的に保護されるべき対象なのです。
 そして、当事者には罪を犯した自覚が欠片もなく、国際社会に対して懺悔し、ペナルティを引き受けるどころか、国庫補助金を増額させ、ますます手厚い庇護に浴するばかり。零細沿岸漁業者の苦境も差し置いて。

 アイヌに対する倭人による差別の構造は、今に至るまで引き継がれています。
 アイヌの人々は、和人(アイヌ以外の日本人)によって土地も言葉も奪われ、ずっと迫害の対象となってきました。現在でも、国はアイヌを先住民族として公式に認めていません。2008年には、前年に国連で先住民族の権利に関する宣言が採択されたのを踏まえ、アイヌを先住民族とみなすよう求める国会決議がなされましたが、日本政府自身は先住民という言葉の定義の問題に終始して明言を避けています。
 さらに、2014年には自民党所属札幌市議(当時)の金子快之氏が「アイヌはもういない」と宣言して物議を醸しました。これはもはや、食文化どころかアイデンティティとしての文化そのものを否定する発言にほかなりません。
 この元議員のみならず、日本人全般に他の民族、他の国の文化に対して無頓着なところが果たしてないといえるでしょうか? 半世紀前にアジア諸国の人々を同化≠オようとしたことも未だに反省していない人が大勢います。それなのに、南極の野生を貪ることを世界に向かって文化≠セと大声で叫んでいるのは、何とも奇異に感じられます。
 そして、そのサベツ意識がきわめて露骨な形で現れているのが、捕鯨問題に他なりません。

「我々はいつも首尾一貫しているとは言えない。誰でも全ての点で完全であることは出来ない。それがたまたまアイヌの問題でそれが起こったのだ。」(森下氏のコメント)

−米国紙がみた調査捕鯨とアイヌ|無党派日本人の本音
http://blog.goo.ne.jp/mutouha80s/e/a863ac35990df463fce164c7633863d5
−Japan's whaling logic doesn't cut two ways (LATimes,2007/11/24)
 現IWC日本政府代表・国際水産資源研究所所長・森下丈二氏が、海外メディアの質問に対して正直に言い放った超無神経発言
 捕鯨でのみ奇妙奇天烈なジゾクテキリヨウ原理主義の完全適用を世界に要求する森下氏は、日本でのアイヌに対するダブスタをして「たまたま起こった」の一言で済ませているわけです。
 なるほど、これが自民党の族議員に「基礎」(?)をレクチャーし、外野の反反捕鯨層にも「ネ申」と奉られるMr.捕鯨問題の国際感覚、人権感覚というわけです。
 NHKニュースウォッチ9での英国とガボンに対する「トロイの木馬」発言といい・・。
 政府代表の立場でクジラ食害都市伝説を否定したのは、彼の唯一評価できる面でしたが、肝腎の族議員に「基礎」を教えないんじゃ話にならないよね(--;;
 「調査捕鯨はオゾンホール発見に匹敵する科学的偉業」だとか抜かすくらいは、まだ“お笑い鯨人”のレベルで済むでしょう。
 しかし、この発言は笑い事で済まされるものではありません。
 他の先進国だったら、“国の恥”と認識されて、国際交渉担当から外されて当然でしょう。
 レプンカムイやコタンコロカムイに比べ、なんと情けないネ申≠烽「たものです・・・・

 仮にもし、アイヌの捕鯨がIWCで申請されたら?
 公海母船式捕鯨を護る盾として使われる、黒に近いグレーとしか認識されていない倭人の捕鯨会社の沿岸捕鯨と違い、反捕鯨国も異を唱えることなどしないでしょう。
 米国のイヌイットやオーストラリアのトレス海峡諸島民と、日本の先住民アイヌとの間に線を引く理由は、彼らには何一つないのですから。
 唯一警戒されるとすれば、「倭人の捕鯨のカモフラージュにならないか?」の一点だけでしょうね。

 従来から表明しているとおり、筆者はアイヌをはじめとする先住民の捕鯨・狩猟・漁労に反対するつもりはありません。
 一番大きな理由は、筆者自身が、彼らから多くの者を奪ってきた加害者である倭人の一員だからです。
 およそあらゆる動物・自然搾取産業にとって効果的な防波堤の機能を提供してきた反反捕鯨プロパガンダのご神体、日本の公海調査捕鯨に終止符が打たれたとき、環境保護・動物愛護/福祉の市民運動のうちクジラに(相当無駄に!)注がれてきたエネルギーは、それを必要としている方面に振り向けられるべきですし、そうなることでしょう。
 倭人や白人の動物や自然に対する振る舞いを、その知恵を引き継いできた先住民の人たちに恥じないレベルにまで導くことに。

参考:
−「縄文からの関わり」の裏◆文化的不連続と持続性のなさ(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/72247285.html
−太地の捕鯨は中国産!? 捕鯨史の真相(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/18025105.html
−民話が語る古式捕鯨の真実(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html
−NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html
−鯨塚の真相(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/71443019.html
−捕鯨の町・太地は原発推進電力会社にそっくり(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/78450287.html
−二人の鯨類学者/西脇氏(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/18205506.html
−驚き呆れる捕鯨官僚の超問題発言(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/30322511.html
−捕鯨問題総ざらい!!! 16. 伝統のアイヌ捕鯨は別だよ!(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/29976279.html
−非科学的な動物"愛誤"団体──その名は「鯨研」 〜仔クジラ殺しを伏せる鯨研発プレスリリースの読み方〜
http://www.kkneko.com/icr.htm
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2014年10月20日

トンデモエセエフ漫画「テラフォーマーズ」──集英社は反中出版社でいいの?

◇トンデモエセエフ漫画「テラフォーマーズ」──集英社は反中出版社でいいの?

 筆者は年に数回、不定期に、主に漫画を中心にリサーチをしており、結果を下掲のDBにまとめています。

−捕鯨カルチャーDB|拙HP
http://www.kkneko.com/culturedb.htm

 反反捕鯨作品はケッチョンケッチョンにこき下ろしますし、逆であればヨイショします。
 解説中でも「口当たりはいいけど後に何も残らないジャンクフード」VS「心の成長を支える栄養価の高いスローフード」に準えましたが、大ヒットグルメ漫画の先例に倣って押し付けがましく露骨な表現を出版社が許容している前者に対し、後者はクジラの味方といってもやはり控えめで婉曲的な表現が多いんですよね。大衆への即効的な影響力の点で比較するなら、まさにジャンクフード対スローフードの如く、正面切っての戦いでは勝負になりません。まあ、だからこそDB化して批判検証する作業が必要だと考えたわけですが。
 皆さんも「この作品(の第何話、何ページ等)にこんな表現があった」といった情報がありましたら、ぜひお寄せくださいm(_ _)m
 で、今回の調査では特に収穫がなかったのですが・・その代わり、捕鯨問題とは無関係に、筆者が非常に強い不快感≠覚えたベストセラー漫画がありましたので、今回詳細にツッコんでみたいと思います。
 問題の作品はこれ↓

■テラフォーマーズ特設ページ - 週刊ヤングジャンプ公式サイト
http://youngjump.jp/terraformars/
■ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%BA

 2013年版『このマンガがすごい!』オトコ編で1位、『全国書店員が選んだおすすめコミック2013』で2位を獲得した。2014年2月18日にテレビアニメ&OVA化が発表された(引用〜Wiki)

 原作者:貴家悠氏、作画:橘賢一氏、 連載はヤングジャンプ(発行:集英社)。
 奇しくも、以前詳細に批判した「予告犯」と同じく集英社のジャンプ系列。
 別に筆者が頭から集英社なりジャンプ系列のすべての漫画作品を毛嫌いしているわけではないのですよ(汗) ご承知のとおり、週刊少年ジャンプは海外のファンも多い日本最多部数を誇る由緒ある漫画雑誌。また、このヤンジャン、ジャンプSQ、「予告犯」が掲載されたジャンプ改(今月で休刊)等、既存作家を活用してターゲットを絞り、ジャンプを卒業≠オた成年層向けスピンオフ誌を生み出してきたわけです。
 筆者自身、同誌輩出で好きな作家・作品も少なくありません。なんたって読みやすい、ハマりやすいですからね。それだけに、こどもたち、社会への影響力も絶大。
 アニメ化に合わせた広報でか、つい最近少年誌のジャンプ誌上でも同作品の短編が掲載されています。

 では、さっそくツッコミに入りましょう。最大の問題点については最後に。
 この作品、ジャンルは何でしょうか? 成年向バトル漫画として見るなら、ツッコむ余地はないです(ていうか、筆者は興味ないのでその方面の方々にお任せします・・)
 しかし、SF作品として見るなら、まさに粗だらけ。
 一言で言えば、まったくSFの体をなしていません。SFファンには読むに耐えない代物。
 確かに、SF風味のファンタジーというのもジャンルとしてはあり。ですが、この作品は劇画タッチで成年層を対象とした宇宙・(遠)未来・生物SFとして、多くの文字数を駆使してウンチクを披露しており、体裁だけはハードSFっぽさ≠売りにしているわけです。
 まず、作品を成り立たせる基本設定がダメダメ。

1.テラフォーミングについて
 テラフォーミングの順序≠ェ根本的に間違っています。
 最初に気温と気圧を上げ、ある程度放射線・紫外線をカット→植物を導入して酸素を供給→人間の住める環境へ、というのがセオリー。
 気温を上げ、地球の凍土に似た状態で地中に閉じ込められていると考えられる水と二酸化炭素を放出させ、温室効果を働かせるというのは、火星改造モノのSFでは常套的なアイディアですが、冬半球の極で凝結するので効率はよくないでしょうね。
 もし、アルベドを変えるのであれば、墨を撒いておしまいです。コストとリスクを考えても、それ以上余計なことする必要一切なし。 
 そこでゴキブリが出てくる余地はゼロです。ゼロ。
 まず、ゴキブリが黒っぽいのはなぜかといえば、主に夜行性で、林床など暗いところに適応したからです。
 仮に火星の環境に順応したとしても、昼間は岩場の陰に隠れるでしょ。
 それに、地球から黒く見えるほど火星表面を覆うまで増殖したら、どうなると思います?
 苔が食い尽くされます。共食い&餌不足。ゴキブリが死滅。おしまい。
 地球上でバイオマスでも個体数でも圧倒的に多い動物としてシロアリとアリが挙げられますが、仮にシロアリの体色が白じゃなく黒だったって、地球の気温を上げるのは無理だよね・・。
 第一、ゴキブリが太陽光を吸収したら、一体どうなると思います?
 ゴキブリが日光浴で温まれば、代謝が上がり、その生命活動に消費されます。
 日光浴だけで、代謝で消費しきれないほど体を温めるのは火星ではやっぱり無理でしょうが。そもそも先に濃い大気がない以上、赤外放射で熱奪われて終わりだよね。
 結局、地表の温度は上がりません。
 墨もしくは黒っぽい苔 >>>>>>>>>>>> ゴキブリ(その他の黒っぽい動物)
 ついでに、導入したというストロマトライトは苔ではなく、分類学上まったく別系統のシアノバクテリア(藍藻)。現生しているのは塩分の濃い浅瀬。たぶん「苔を改良」の方が現実的。
 いずれにしろ、ゴキブリを火星に送るのはまっっったく無意味。

2.ウィルス??
 地球で火星から持ち込んだウィルスが猛威をふるって人類の生存を脅かす、という設定なのですが・・
 その一方で、培養できない、「増殖しない」とか、とんでもない説明が(火星に行く理由付けのためだけど)。
 地球のウィルスとはかなり違う? 
 NO。それ、定義からしてまったくウィルスじゃないから。
 歯ブラシを靴だと言ってるのと一緒。
 増殖しない? じゃあ、感染しません。できません。
 増殖しないという性質を強調したいのであれば、多少まともなSF作家なら、「ウィルスとも細菌とも異なる未知の病原体」という言葉を用いますよ、最初から。
 SF考証の点では、「なんで1ヶ月もかけずに火星に救助艦が行けるんだ?」とか、他にもツッコミどころ満載ですが、宇宙工学の観点からの説明はほとんどすっ飛ばされていますし・・。

3.ニンゲン大昆虫設定
 ここにもきわめて重要な落ち度が。
 「昆虫の体長を人間大に引き伸ばしたら、諸々の身体能力も掛け算で向上するよね? だから、ゴキブリの瞬発力に人間が勝てるわきゃないっっ!」というのが、この作品の大前提。
 スケールに対し、筋力は2乗(筋繊維の断面積)、体重は3乗に比例します。
 物理の基本。
 もうひとつ。大きな仕事をするには燃料が要ります。それだけ大量の酸素を消費します。
 昆虫は気門から採り入れた酸素の拡散に頼っています(一部の種は一種の気嚢を持っているものも)。それで済むのは、サイズが小さいから。
 石炭紀に昆虫が巨大化できたのは、当時の酸素分圧が今よりかなり高かったため。
 細い外骨格の脚を、ほぼ水平に広げた体勢で、空気中で自重を支えることができるのも、やはり昆虫があのサイズだから、です。
 外骨格の構造自体が、スケールに合わせて重量がどんどん増え、それを動かすための筋肉量が必要になります。しかも筋肉が伸張するスペースも限定されてしまいます。
 ゴキブリがニンゲン大になったら? 胴体を持ち上げることさえ無理に決まってます。動くことも、酸素を十分取り入れることもできず、すぐにお陀仏だわな。
 力学的に最初っから無理すぎる設定。
 このゴキブリたちは肺と内骨格を供えている、ということなんでしょうが、それじゃちっとも面白みないよね・・。第一、ニンゲンとたいした差がなくなるってことですし。
 上記に絡んで補足。「最強動物対戦!」とくれば、確かにこどもたちの興味、読者の関心を引くでしょう。ライオンVSトラ、ホオジロザメVSシャチという感じで。この作品では、様々な動物(一部植物)の遺伝子を導入する特殊な改造手術を施されたニンゲンVSそれを真似たスーパーゴキブリという形で「異種♀i闘技」「最強生物決定戦」を模擬的に実現しており、おそらくそこがこの作品の見せ場、読者の人気につながっている、といえるのでしょう。
 しかし、中高生や大人の読者層にしてみれば、生物界の王者決定戦に当たって、いかに公平なリングを用意するか、またどのような条件だとどの種に有利かといった、細かいシチュエーションへのこだわりの程度が、作品の質に関わってくるはずです。
 その点、この作品は非っ常に中途半端で、意外性や、決着に関して読者がなるほどと頷ける要素に欠けているように感じます。
 一番大きいのは、上掲したように最初の前提がメチャクチャ非科学的だから、なんですが・・。

4.600年後の未来描写
 ここもSFとしては致命的な欠陥。
 舞台は西暦2600年代。SFで分類するなら遠未来モノに該当。
 通常の未来SF小説は、いかにその時代らしさを醸し出すかに工夫を凝らすもの。政治を含む社会の描写から、進歩した科学技術とその時間的な距離感、生活面のディティール、新しい文化や流行、人々の心理。そこがSFの魅力であり、ファンの大きな楽しみのひとつ。
 この作品にはその要素がまっったくといっていいほどありません。
 絵まで、地球上の場面では現代日本との差異が感じられないのです
 この作品は、最近の成年誌漫画ではごくありふれたものになっている、人があっさりと、スプラッタに、ボコボコ死にまくる作品です。
 で、「死んじゃった彼彼女にもこんな人生があったよ」と走馬灯的な、ありがちな回想シーンを挟み、読者の感情を揺さぶるという、そういうパターンがずーーっと繰り返されていきます。
 フィクションのワイドショー。死の娯楽的な消費。
 別にいいんですよ。所詮漫画ですし。筆者は嫌いですが。つまんないし。
 ただ、それらの心理描写、人間関係の描写に、遠未来観がおよそ感じられないのです。
 現代のトピックをうまく消化したうえで、きちんと未来の時代設定に合わせてうまくアレンジする工夫すらも見られないのです。
 地方から上京した青年の苦労話やら、難病の近親者やら(ぶっ飛んだ遺伝子操作技術をネタに使ってるのに!)、不慮の事件事故etc.etc. およそどの漫画にも転がっていそうなエピソード。
 そこを変えると読者(の多数)の感情移入が見込めないという判断はあるでしょう。
 しかし、SFとしては違和感バリバリ

5.ステレオタイプの善玉%米同盟VS悪玉£国
 そう・・ここがこの作品への批判の最大のポイント。
 SFとしていかにずさんで粗雑であろうと、別にかまいやしません。
 例えば、やはり大人気漫画の「進撃の巨人」。筆者には、都市の設定がとても持続的とは思えず、伏線も最初からモロバレな感じで、正直なんだかなあという感じでした。。この作品といろいろ似ている部分もありますが。
 しかし、「テラフォーマーズ」の設定には看過できない重大な問題点があります。
 国家間の交戦・殺し合いを描きながら、国の実名を使っているのです。その必要がまったくないはずの、宇宙・遠未来を舞台にしたフィクションで。
 ちょっと順を追って検証してみましょう。
 この作品では、2600年代の国際的な宇宙事業に参加している、地球を代表する6つの国として、米国・日本・ドイツ・ローマ連邦・ロシア・中国を挙げています。
 ローマ連邦って命名のセンスも首をかしげますが、4.の未来観を唯一打ち出しているのはこの国名くらいだったり・・。
 まず、2600年代、今から20数世代もの先の未来の話なのに、現代の国家というシステムがそのまんま生き残っているとの前提に立っているのが、SFとしてはひたすらザンネンという他ありません。
 もし、その時代まで国境や国家という化石じみたシステムに固執し続けているとすれば、人類はとっくに滅びてるでしょうな・・。
 ここで仮に、舞台設定をもーっと近づけて50年後くらいにしてみましょうか。
 この時期ならまだ、今とさほど変わらない国家のシステムは一応活きてるでしょう。けど、世界を代表する国を6つ挙げるとしたら、ランクインするのはどこだと思います?
 順当に考えれば、インド、インドネシア、ナイジェリア、ブラジルかアルゼンチン辺りが入ってるでしょうね。アフリカからもう1国くらいかな?
 日本の名がそこにあるわけないじゃないですか。
 地域格差、所得格差、不健全極まりない財政、人口構造・・国の将来を左右する課題にメスを入れられないどころか、女性が安心して子供を産める環境づくりなど、他の先進国が率先して行っている取り組みさえ見習おうとしない国が、一等国≠ナいられるはずがありません。
 一日本人としては、「日本? そんな国どこにあるの?」って世界の人々に言われようと、平和な国として存続できてさえいれば御の字だと思いますし、そうあるべきだと思いますが。
 それはさておき、さらに驚くべきなのは、6つの国家体制が600年後も旧態依然としているどころか、現代の同名の国らしさも人名くらいでしか感じられないことです。
 この作品中では、日本が人類の公益(?)を最優先する善良な国家として描かれ、米、ドイツ&ローマ連邦、ロシア、中国の順に覇権主義の度合が強まっています。
 日米はまるで親友・恋人のごとく緊密な、互いに価値観をがっちり共有する同盟国の間柄。キャラクターも主役級の数が日本人、次いで米国人で、読者の好感度を上げるように書かれています。テキサス親父じゃないけど、サムライ&女カウボーイのタッグみたいな。。
 一方、中国人の悪役の中には、人の命を何とも思わないロボットじみた軍人キャラも。
 紋切り型の善(日米)対、同じく紋切り型の悪(中国)。
 正直、のけ反りました。「予告犯」と同じで、善悪の相対化がほとんど出来ていません。中国側の将軍のキャラの立て方も、国と大義に尽くす軍人≠ヌまり。
 まるで昔の西部劇のよう。もっとひどい。ひたすら滑稽です。
 これ、国を実名にする必要、全っっっ然ないでしょ。
 あるいは、この先尖閣に引っ掛けるネタでも用意してるのかしら? まあ、600年経っても棚上げして仲直りの握手ができないようでは、どっちも国としてはそれ以前に滅びていておかしくないとは思うけど・・

 日本の漫画界の巨匠・手塚治虫の「火の鳥・未来編」には、核大国を髣髴とさせる描写があります。こどもの読者でも、これはあの合衆国だな、あの(旧)連邦だな、とすぐ思い当たることでしょう。
 誰かを傷つけることを企図するでも、読者が憎んだり嘲笑うよう仕向けているわけでもない、小気味よい風刺。
 実在する特定の国々に対する、フィクションでしかあり得ない定番的な悪≠フイメージを読者に押し付けんとする現代の若手作家の作品と、なんと対照的なことでしょう。
 中国人の方(在日の方を含む)にこの作品を読ませたら、相当数の方が強い不快感を覚えるでしょう。ロシア人、ドイツ人、イタリア人も。場合によってはアメリカ人も。逆のこと考えたら、誰だってわかるよね?
 集英社としては、メディアミックスの話は受けても、海外語翻訳版を発行する気はまさかないのでしょうね。
 しかし、このネット時代に、中国を含む海外の大勢の日本製サブカルファンの方の目に止まらない、情報が伝わらないはずはありません。
 口をへの字に曲げるくらいの反応かもしれませんが、悲しむ方、幻滅する方もきっと少なくないでしょう。
 さて、集英社殿及びその株主殿。このような表現を平気で使う作品に力≠入れるのは、貴社の文化ということでよろしいのですか?
 「この番組はフィクションであり、登場する人物、団体、場所、事件等は実在のものとは一切関係ありません」の一言で済みます? そういや、「登場する国家」は入ってないけど。。
 ひょっとして、「国内で保守色の非常に強い政権とその支持者に媚びていればいい、14億の中国市場など眼中にない」というお考えなのでしょうか?
 中国でも「ワンピース」は人気を博し、電子サイトとの提携なども進めているとのこと。PTAやら各種業界のクレームに対し異常なほど神経を配り「お灸を据える」という慣用句は、鍼灸師からクレームがきかねないから使っちゃダメ!)、厳し〜い自主規制を行っているんですよね・・。そんな行き過ぎに感じるほどの自主規制ができる貴社が、あからさまに相手国のイメージを貶める作品を梃子入れしていると知ったら、一党独裁国家が規制を敷くのを待つまでもなく、中国の消費者はそっぽを向くんじゃありませんか? それでいいんですか?

 今日の朝日新聞1面及び3面で、出版業界の将来をめぐるアンケート調査の結果が報じられています。主要大手10社のうちの7社、うち1社が漫画に強い集英社(他の6社はトップ面談、集英社のみ書面回答)。

■大手出版各社、電子書籍急伸に期待 「紙の25%に」(10/19,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASGBC5F2QGBCUCVL008.html

 最近では、国内最大のマンガ雑誌である「週刊少年ジャンプ」が電子化されるなど、作品が充実しつつある。(引用)

 これは電子化へのシフトの話で、「マンガ好調」と本当に言えるのかどうか、筆者は正直疑問に思います。ジャンルとしては、業績としては、今のところ「堅調」なのでしょうけれど。
 ここ最近、絵にしてもストーリーにしても、全体の水準が急激に落ちてきたのではないか──筆者にはどうもそうした印象が拭えません。
 それは、311直後の「変わらなくちゃいけない」「変われるかもしれない」というムードが崩れ、はけ口を隣国に向けながら、ないものを貪欲に欲し求める方向に政治が突っ走ってしまったのと期を一にするように、書き手の意思とも読み手の意思ともズレた、市場を強く意識したものに変質していった結果というふうに映るのです。読み手と書き手との緊張を孕んだ相互作用、切磋琢磨とはどこか異質な、市場≠ヨの同調。あたかも、庶民の意識と大きく乖離しているように感じられる、政権の安定を支えるためにマスコミが形成し誘導していく世論と同じような。
 あるいは、これまでの出版戦略の延長にすぎず、プロモーションの手法が新しいメディアに適合する形で成熟し、消費者の側も業界にとって非常に都合のよい勝手連的宣伝媒体に育ってくれたという、それだけのことなのかもしれません。
 筆者の杞憂に過ぎないのであれば、それに越したことはないのですが。
 皆さんはどう思われますか? ただ漠然と、世間がそう評価しているから・・というのでなく、その世界にのめり込める漫画って、昔より増えたと思いますか? 減ったと思いますか?

 従来から表明していることの繰り返しになりますが、筆者は表現規制には強く反対する立場です。
 ジャンプ誌上屈指の名作といえる「はだしのゲン」や、「アンネの日記」を図書館から排除するなんて、冗談じゃありません。
 たとえ「美味しんぼ」が陰謀論を唱えるだけの反反捕鯨漫画、放射脳漫画だろうと、それを理由に出版社が自主規制し、急遽連載を打ち切るなどということはあってはなりません。
 社会への影響については、筆者は一切ないとも、マイナス面だけとも、プラス面(ex.代償のもたらす犯罪の抑止効果)だけとも思いません。たぶん、両方合わせてプラマイゼロという感じでしょうけど。現実と空想の区別のつきにくい人にはマイナス面が強く作用し、そうでない人にはむしろプラス面の方が作用するでしょうから。
 しかし、現実社会の問題については、表現に責任を負いかぶせたりせずとも、現実のシステムで対応していけばいい話。やれることはいくらでもあるはず。ヘイトスピーチ(これは表現ではなく人種差別そのもの)に対して、他の先進国並に厳重に取締るといった具合に。
 そして、体制による言論・表現の自由の統制と、批判≠ニはまったく別。付け加えれば、自主規制≠煖K制とは似て非なるものですが。
 健全な批判なしに、健全な表現、健全なクリエーター、健全なサブカル市場は決して育たちません。
 駄作は駄作、問題作は問題作と、私たちは思ったとおりに、感じたとおりに、憚ることなく伝えるべきなのです。
 エログロナンセンス大いに結構。むしろちっとはないと、逆に社会は荒むでしょうし、ね・・。
 「テラフォーマーズ」「予告犯」の連載やコミックス販売をやめよなどというつもりは毛頭ありません。
 筆者個人がきわめて悪質な駄作だと感じ、「これはクソ漫画だ!」と吠えているだけですから。悪質さの程度で言えば、凶悪テロ行為を賛美しきった「予告犯」の方が「テラフォーマーズ」を上回りますが。
 反中漫画? 反日漫画? 「殺せ」「レイプしろ」といった一線を明確に越える差別表現・凶悪犯罪を扇動する表現を使わなければ、いいんじゃないですか。
 好きに書いてください。好きに発表してください。好きに売ってください。売りたいなら。
 ただ……《健全な批評精神の育っている社会》であるならば、ボロクソに叩かれて、そうした劣悪な漫画は市場≠ノ決して振り向かれないでしょう。
 きわめてニッチな需要はあるかもしれませんが・・商業的には成立しないでしょうね。
 そして、商売にならなくたって、表現の自由は守れます。
 しかし、「このマンガがすごい!」などと高く評価されたり、書店業界が絶賛し(ヘイト本礼賛POPなんてのもあったけど・・)、持てはやしたりするようであれば、話は別です。
 何故と言って、日本の社会が健全さを失い、ヤバイ域≠ノ達していることの表れだと受け取れるからです。

オマケ1 口直し・・
 ツイッターで話題になったエシカルンテ、絵柄が雰囲気にマッチしてとっても素敵。シマフクロウが凛々しくてよいのです。
 ひとつ個人的に残念なのは、「日本人はー」連呼原作付漫画と同じ雑誌に同居なのがなあ(--; 間口が広いといっても。。

オマケ2 ワンピース批判
 海外も含めた集英社一番の稼ぎ頭について。もちろん、チェックしてますよ。
 クジラ関係はカルチャーDBをご参照。
 例の韓国による日章旗批判は、確かにバカげた話。とはいえ、影響力が絶大なだけに、気になる表現があります。
 出てくる社会の体制があまりにも王政に偏りすぎてるんですよね。すでに言い古されてるだろうと思いますが。
 そのうえ、高潔な人格・人徳を備えた善き王とその血族による「善い専制主義」、見方によっては「共和制の仮面を被った専制主義」を讃えている側面を強く感じるのです。悪い専制君主も出てきますが、善良な王≠フ歯の浮くような美化のされ方と対照的な、非人間的な内面で共通してるし・・。
 現実の日本社会(+近隣の専制国家)の実態と照らし合わせたとき、それが一種のえぐみ≠ニなって舌に残る感じなのです・・。
 どちらにしたって、現実の世界においては、そんなものはメディアがこしらえた幻想にすぎないのですが。
 善人だろうと人徳者だろうと、悪人だろうと、ニンゲンの間に線を引くのはやっていいこっちゃありません。
 漫画の中の世界と同じく、現実の世界も過渡期にあり、人類の文明の歴史は未だ野蛮な時代を脱け出せていないという一語に尽きるわけですが。

参考:
−ダイマッコウ考/「予告犯」の正しい読み方|当ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/76286901.html
−集英社自主規制問題|拙ツイート
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-140908
posted by カメクジラネコ at 00:25| Comment(2) | TrackBack(0) | クジラ以外

2014年09月19日

捕鯨礼賛大本営放送NHKがニュージーランドに宣戦布告!?

◇捕鯨礼賛大本営放送NHKがニュージーランドに宣戦布告!?


 ツイッターでの反応はこちらに。
■NHK、ニュージーランドにケンカを売る
http://togetter.com/li/720977

 スロベニアで開かれているIWC(国際捕鯨委員会)総会を取り上げた、9/17のNHK「ニュースウォッチ9」の特集の中で、度肝を抜く解説が。
 視聴者の目に飛び込んできたのは、画面いっぱいにまでデカデカと書かれた「ニュージーランド真のねらい 日本の国際イメージ悪化」のキャプション──。
 さて、同じ太平洋の島国として、報道の自由度をはじめ民主主義の各種指標で高く評価され、非核の道を貫き、地震の痛みをともに分かち合う、かけがえのない友好国であるはずのNZと同国市民に、思いっきり拳を振り上げてケンカをふっかけたNHKの真意は何なのでしょう??

 まず、背景を説明しておきましょう。
 この間、NHKをはじめとする日本のメディアは、同国提出の決議を「先延ばし」を狙ったものだと盛んに報じてきました。大本営の指示どおりに。しかし、実際にはその内容は、単なる先延ばしを目的としたものではありません。調査捕鯨の計画審査にあたり、その妥当性について、科学委員会(IWC-SC)の上位組織となるIWC総会にチェックさせる機能を求めるもの。
 なにしろ、ニュージーランド(NZ)はオーストラリア(AUS)とともに、この3月末ICJ(国際司法裁判所)によって日本敗訴の判決が下された調査捕鯨裁判の当事者なのです。皆さんとっくにご承知のはず。
 調査に名を借りた日本の違法な捕鯨を食い止めることのできなかったIWC-SCに対し、ICJの判断を踏まえてより厳格な運用を求めることは当然のことでしょう。もう一方の当事者に反省の姿勢が微塵も見られないのであれば、なおのこと。

 NHKの主張は、きわめて合理性に欠けるものです。
 友好国を攻撃的に貶めるのであれば、吉田調書や慰安婦証言以上に徹底した精査が求められて当然でしょうに。
 NZの決議に賛成した国は35カ国。一番の“お友達”である米国、AUS、EU諸国、南米諸国をはじめ多数の国々が、NHKいわく日本を貶めようとしているNZに同調したことになります。
 一体、彼らはみな、NZの“悪意”を見抜けなかったのでしょうか? あるいは、彼らもまた、日本の失墜させようと企んでいるのでしょうか?
 その中で、NHKがNZのみをことさらにあげつらったのは一体なぜでしょう? NZの日本に対する悪意が中でも飛びぬけていたから??
 ていうか、NZ、米・AUS・EU・南米諸国等がこぞって、日本に対するイメージを悪くさせようと働きかけている“世界”って、どこなの?? 中国や韓国? ロシア? このやり方で効果ある? それらの国に対して、これ以上日本の評価を貶める意味あるの????
 それを言うなら、国連から勧告を受けたヘイトスピーチや、(否定された一部以外の)慰安婦問題への対応、海外メディアで報じられている極右と政府関係者のリレーションのほうが、よっぽど日本のイメージダウンにつながっているよね・・少なくとも、報道の扱い方を見る限り、NHKはNZの陰謀≠ノ比べれば瑣末なことと思っているらしいけど・・

 第一、日本が決議を遵守さえすれば、国際ルールを守る姿勢を見せさえすれば、国際的イメージの悪化を防ぐことは簡単に避けられます。
 今回のNZの決議以前に、これまで日本の調査捕鯨に対してはIWCで何度も非難決議が採択されてきたわけです。
 捕鯨に伴う「国際的イメージの悪化」は、賛成反対双方がずっと指摘してきました。それを招いたのが、NZの陰謀などではなく、南極海調査捕鯨に固執する日本の姿勢そのものであることも含めて。
 そして、「国際的イメージの悪化」を懸念する声が、霞ヶ関の中からさえも聞こえていたわけです。
 米国・AUS・NZはじめ価値観を共にするハズの友好国に対するイメージを悪化させる、国際協調のつまづきの石としての負の側面と、捕鯨サークルの業界益ないし森下政府代表の言うところの「政治的ニーズ」という、二つの国益を斟酌し、「大きな国益の方を優先するほうが賢明なのではないか?」という声が挙がっていたわけです。
 今年NZが決議を出す以前から。日本国内で。例えばこれ。

−メディアが伝えぬ日本捕鯨の内幕 税を投じて友人をなくす|WEDGE

 今回最初に社説を出した毎日新聞も、「南極海での捕鯨に固執して参加国の反発を招き、沿岸での捕獲枠設定まで否定されるという負の連鎖からは脱却する必要がある」(引用)と指摘しています。
 その点に関していえば、NZは日本の沿岸小型捕鯨再開要求に対し、「南極海での捕鯨をやめるなら検討の余地がある」と日本に対する理解ある見解をはっきりと述べているのです。
 もちろん、日本はやっぱり国際法規を遵守する、敬意を払うに値する国だったのだな、と世界から賞賛を浴びる機会はありました。そう、ICJ判決の直後に。
 ところが、日本は国際的イメージを大幅にアップさせるまたとない機会を、自ら棒に振ってしまったのです。
 商業捕鯨モラトリアム決議から30年以上、「国際的イメージ悪化」などどこ吹く風という態度で、聞く耳を持たなかった捕鯨ニッポン。
 いまさら「国際的イメージ悪化」を気にしてどうするのでしょう?
 公共放送を通じてあからさまに他国の責任に転嫁する真似をしているようでは、その「国際的イメージの悪化」に拍車がかかるばかりに違いありません。
 何より、日本の恥を世界に晒したのは、国際裁判の判決文の形で後世にまで汚名を刻み込まれることとなった、本川水産庁長官の国会答弁・「刺身にすると美味いミンククジラ鯨肉の安定供給のため」にこそ、日本は南極海での調査捕鯨にこだわっているのだ──という、身も蓋もない本音の吐露に他なりません。

 NHKはニュージーランドという国、その国民の皆さんを侮辱しました。その侮辱を通じ、受信料の納付者、国民の信頼を裏切りました。
 中立・公正・公平とは程遠い、朝日吉田調書報道と比べても悪質さと外交への影響の点で比べ物にならない、北朝鮮国営TVもびっくり顔負けの偏向報道の責任を、NHKにはきっちり取らせるべきです。
 ニュージーランド政府はNHKと日本政府に対し、公式かつ厳重に抗議すべき。BPO(放送倫理・番組向上機構)にも審理を申し立てるべきです。
 番組の制作過程に徹底的にメスを入れたうえ、ニュースウォッチ9は打ち切り、ディレクターとトップも引責辞任を。

参考リンク:
−ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
−クローズアップ2014:IWC「調査」先延ばし可決 日本の捕鯨、岐路に(9/19,毎日)


◇追記:森下代表、ガボンとイギリスにケンカを売る

 NZに対する陰湿な誹謗中傷に負けずひどかったのが、ガボンに対する解説。
 中でも看過できないのは、森下代表の「トロイの木馬」発言。
 英国がガボンに戦争を仕掛けている。ガボンを乗っ取ろうとしている──そう受け止められても仕方のない発言です。
 では、実際の経緯を見てみましょう。
 ガボンは2002年にIWCに加盟。期を合わせるように、2003、04年と立て続けにランバレネ零細漁民センター整備計画の名目で水産ODAが供与されています。そして、2009年にはリーブルビル零細漁業支援センター建設計画の名目で11億円を超える水産ODAが供与されています。
 実は、ガボンは石油が採れることもあり、アフリカの発展途上国の中では所得が高く比較的恵まれた国。そうすると、援助要件が変わってくるわけです。ところが・・政治優先の水産無償は、それらの条件を無視して貸付ではなく贈与の形で供与が可能。水産無償はガボン宛の累積援助総額の実に9割を占めていました。詳細は下掲リンクの拙水産ODA問題解説をご参照。
 破格の厚遇があればこそ、「ヨロシク」の一言が利いてくるのです。
 今回、多くの発言で存在感を示したドミニカ同様、援助とセットで押し付けられた日本の身勝手極まる価値観の呪縛から解放されたのが真実。
 今もなお、日本の用意した甘い汁に惑わされ、片棒を担がされている国々が多くあるわけですが・・。
 公正・公平が大原則であるべきODAを、「美味い刺身」という我欲のために捻じ曲げ、アフリカをはじめとする地域の主権国家の尊厳を踏みにじり、国際会議の場で道具≠ニして利用しているのは、一体どこの国なのでしょう?
 ガボン政府と英国政府もまた、NHKと日本政府に強く抗議するべき。
 森下丈二氏には、日本の外交を担う資格はありません。まさに国の恥。コミッショナーを解任すべき。

 
参考リンク:
−国別プロジェクト概要 ガボン共和国
−捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!?──IWC票買い援助外交、その驚愕の実態


◇追記:BPOに意見を送ろう!

 NZ、ガボン、英国の人たちと仲良くしたいと思うみなさん(そう思わない人なんていないはず!)、BPO(放送倫理・番組向上機構)に意見を送りましょう!
 宛先と文例はこちら↓ 

posted by カメクジラネコ at 04:27| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系

2014年09月04日

嘘つきデタラメ捕鯨協会

◇嘘つきデタラメ捕鯨協会──それでもあなたは捕鯨に賛成ですか?

 IWC総会を控え、我らが日本捕鯨協会さんが、またしてもとんでもないキャンペーンを張った模様(--;;
 リンクを示すのもアホらしい限りなのですが。。。

■「それでもあなたは、クジラを食べることに反対ですか?」
http://youtu.be/vO__n5uhFyM

 捕鯨サークル発の都市伝説の総集編という感じでしょうか。。。
 ま、よく出来てますよね。さすがという他ありません。
 その手の都市伝説が大好きな巷の反反捕鯨ネトウヨ君たちや、「美味いミンク刺身」(〜本川水産庁長官談)を料亭でつつくことにしか頭のない、トホホな永田町の族議員たちには、大いにウケそうです。
 腕利きのクリエーターに有償で委託したんでしょうけど。
 トップの重大な失言のせいで国際裁判でボロ負けしたのに、責任を一切取らないまま、大幅に増額された予算も、こういう具合に国民を騙す広報に使われていくんでしょうねぇ。。
 復興予算流用への批判もどこ吹く風。

 筆者にはプロに頼んで対抗動画を投稿する余裕などないのですが、とりあえず絵を1枚作ってみました。


Pyramid.png
pyramide.png

  ◆数十万種に及ぶ海洋生物のうち、人間が商業的に利用している(食べられ、かつカネになる)のはごく一部。
  ◆日本でTACが設定されたり、国際機関の管理対象になっているのは、合わせてわずか数十種。
  ◆国際管理は失敗続き。一握りのTAC設定種以外は「議論に着手したばかり」というお寒いありさま。
  ◆乱獲し放題できたウナギについてさえ、生態についてはわからないことだらけ。
  ◆利用してない(する気のない)海の生物のことはほとんど何も知らず、利用している魚のことさえろくに知らない。
  ◆わからないまま乱獲しまくり、いつのまにか資源枯渇・・の繰り返し。それが捕鯨ニッポン。

 これのどこがアンダーコントロール???
 科学的管理なんて、ぜーんぜんまっったく出来てないわけです。
 海の生態系をぜーんぶ丸ごと、万遍なく管理するなんて、できるはずも、また、しようもありません。

 以下の資料もご参照。
 
−漁業 日本のTACはなぜ7魚種しかない? 「科学的知見が十分でない」というのは本当か|WEDGE
−TAC認定対象魚種について
−全漁獲量の8割を占める魚種数の比較|水産庁

現在のTAC魚種以外にカタクチイワシ、マダラ、ホッケ、ブリ、ウルメイワシといった魚種が新たな追加魚種として挙げられているものの「生物的知見が少ない」、「精度の高い資源量の推定や将来予測は難しい」という理由で採用されていません。(引用〜WEDGE記事)

 こういう具合で、よそで出来てることすらやろうとしない、日本の水産業の悲惨な実態について、あるいは海洋環境・野生動物保護の問題についてある程度リテラシーのある方であれば、上の絵1枚だけでもわかってくれると思いますけど・・

 上記はJWAの主張に対する反論のごく一部であり、そのうちの今まであまり取り上げていなかった論点を述べただけにすぎません。捕鯨サークル発のトンデモ鯨食害論、間引き論については、猫玉さん、Adarchismさん、flagburnerさん、化学者さんはじめ市民ブロガーの皆さん、国内のNGO、そして何より、今もIWC日本政府代表の立場にあるハズの当の国際水産資源研究所所長・森下氏の口からさえも明快に否定されています。
 詳細は以下の市民ニュース記事、拙ブログコーナーのリンク先(2)をご参照。

−捕鯨問題総ざらい 2.トンデモ鯨食害論を斬る!
−「クジラが魚食べて漁獲減」説を政府が撤回──国際捕鯨委員会で森下・政府代表代理が「修正」発言

参考:
新しい提案|ika-net日記
posted by カメクジラネコ at 01:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2014年08月22日

クジラたちの海・ケータイ版

『クジラたちの海』と続編『クジラたちの海─the next age─』、スマホ等携帯端末でも見やすいよう文字数を調整(32字×14行、16pt)したPDFファイルを用意しました。

■クジラたちの海 〈上巻〉 (全739ページ)
■クジラたちの海 〈下巻〉 (全759ページ)
http://www.kkneko.com/nvl/whalesocean_b_k.pdf
■クジラたちの海 ─the next age─ 〈上巻〉 (全686ページ)
■クジラたちの海 ─the next age─ 〈下巻〉 (全747ページ)
■新旧上下巻4ファイルセット (LZH形式、12.3MB)

作品の概要はこちら。
■クジラ・ジュゴン・イルカたちが問う南極、オキナワ、タイジ、そしてフクシマ
■クジラたちの海─the next age─☆オマケイラスト

動物文学、SF、ファンタジーがお好きな方、読みごたえのある長編小説をお求めの方、ぜひ手にとってみてくださいm(_ _)m
タダです(^^;
夏休みは残り少なくなっちゃったけど、通勤・通学のおともに。。

ご意見・ご感想は当ブログのコメント、拙ホームページのフォームメール、拙ツイッターアカウントDMまで。

posted by カメクジラネコ at 23:16| Comment(4) | TrackBack(0) | 特設リンク

2014年08月07日

クジラたちの海─the next age─☆オマケイラスト

挿絵3枚UPしました。
1作目は全章にイラストを付けたのですが、今作はもう息切れでこの辺が限界。。
どのシーンかは読んでみてください・・
ご感想お待ちしてますニャ〜m(_ _)m

posted by カメクジラネコ at 22:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2014年08月01日

クジラ・ジュゴン・イルカたちが問う南極、オキナワ、タイジ、そしてフクシマ

本日は宣伝ですm(_ _)m

一部残っていた誤字を修正、イラストを加え、再アップしました。


『クジラたちの海─the next age─』
snext_cover1a.pngsnext_cover2a.png

http://www.kkneko.com/
http://www.kkneko.com/nvl/nmokuji.htm
http://www.kkneko.com/nvl/nmokuji2.htm


『クジラたちの海─the next age─』は、'95年に評論社より刊行された『クジラたちの海』の公式の続編・完結編です。


前作『クジラたちの海』は、ズバリ《クジラ版ウォーターシップダウン》。

ジャンルでいうなら、『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』(リチャード・アダムズ/評論社)、『テイル・チェイサーの歌』(タッド・ウィリアムズ/早川書房)、『ジェニー』(ポール・ギャリコ/大和書房)に代表される動物ファンタジー。

日本国内で該当する作品は『ガンバと仲間たち』のタイトルでアニメ化された『冒険者たち』(斎藤惇夫/講談社)くらいでほとんど見当たらない中、海外の優れた動物文学に負けないだけの作品であると、作者自身は自負しております。

前作の見所は、ウォーターシップダウンに出てくるエル・アライラー、同じくテイルチェイサーのミアスラーに当たるクジラたちの神メた・セティにまつわる話中話。それらは他の作品に類を見ない生態学の物語≠ネのです。筆者のお気に入りは世界でただ一頭の醜い生きものクラークにまつわるスカベンジャーの物語。
個性豊かな4頭の旅の仲間が、読者を大海原の冒険へといざないます。そこで読者は登場鯨物たちとともに、公海漁業、核実験、タンカー事故といった海の環境問題に直面することになります。メインのテーマはもちろん捕鯨、そして米軍による核事故。うわべをなぞるだけで終わることなく、さりとて冒険の味わいを損ねることなく、クジラたちの海≠ナいま何が起きているか、読者は身をもって体感することになるでしょう。

続編『クジラたちの海─the next age─』は、いくつかの点で前作よりさらにパワーアップ。
前作はジュヴナイルながら読みにくさ、とっつきにくさが難点でしたが(『指輪』ほどじゃないけど・・)、新作は対象年齢を少し引き上げつつも、文章は前作よりずっと読みやすくなっているハズ・・。
本作の売りは3つ。

100%動物目線の本格動物ファンタジー
現代社会の闇に限界スレスレまで肉迫する社会派小説
時空を超えた圧倒的スケールで展開するSFスペクタクル

相容れないかに見える3つの要素を、ひとつの小説に全部、本気でブッ込んでます・・

まず動物文学の部分について。
前作は異種混成ながら、登場鯨物はほぼクジラメインでしたが、今作ではジュゴン2頭がメインキャラとして大活躍します。そのうち1頭はリュウキュウのザンの郡最後の子=Bこの2頭は、作者が作品中で一番好きなキャラでもあります。
最後の子<Cオの生い立ち、ヘノコの海の危機、そして、南の海から彼を救いにきた長老ヨナや、無邪気なスナメリの子ハナとの交流は、この物語の核でもあり、筆者としてもありったけの思いを筆(キー)に込めました。
ジュゴンが主役級のファンタジーというだけでも、動物文学ファンなら一読の価値ありです。
また、後半では、オキゴンドウのレオやマダライルカのシーベル、カマイルカのファウナなど、たくさんのイルカたちが登場します。出番はやや短めですが、彼らも豊かな個性で物語を引き立てます。中のマゴンドウの賭博師ダイは、ガンバに登場するイカサマがモデル。
物語の見せ場のひとつが、巨大ツナミの脅威に、クジラ・ジュゴン・イルカたちが、それぞれの個性を活かしつつ立ち向かうシーン。
イルカ視点のツナミの描写も、もちろんオリジナル。
今作では、敵方のネオシャチ特攻隊の5頭の将校らも、一癖も二癖もある曲者ぞろい。
主鯨公夫婦だけでなく、懐かしい前作のキャラも登場します。

次に、社会派小説の要素。
本作はクジラ章≠ニ3頭の《毛なしのアザラシ》を主人公とするアザラシ章≠ェ交互に進む展開。
このうち、アザラシパートについては、複数のNGO関係者のほか、官僚、科学者、海保職員、元捕鯨会社社員など、さまざまなキャラが登場します。某船長とか、どっかで団体の誰かに似てない?とか思う方もおられるかもしれませんが、もちろん関係ないです・・
とはいえ、各団体や各キャラ等は、現実の映し鏡となるよう、複数の属性を兼ね備えた、事件≠説明するのに最適な理想化された存在として、役柄を与えられています。現実のニンゲンをモデルにしても、やっぱり面白くないですし、ね・・
本作で描かれるテーマは、南極海捕鯨、米軍基地問題、イルカ猟、そして原発。本作ではサスペンスの要素も盛りだくさん。
いま何かと話題の脱法ドラッグ(名称変わったけど)の問題にも触れています。
実際に起こった事件とは異なりますが、話中で起きる鯨肉絡みの事件は、現実の捕鯨問題の核心に迫ります。
捕鯨とイルカ猟の町、太井地では狂信的な極右団体、その名も在得会≠ェ暗躍。イラストはそのワンシーン。
zaitoku.png
そして、大詰めでは、某NGOの所有船爆破事件を越える、日本史上空前のテロが。
公開中の映画ゴジラの新作についてはいろいろ論評されていますが、311に文字どおり真っ正面から取り組んだ作品として、本作はゴジラにも全然負けてないつもりです。

最後に、SFの要素。筆者としてはあえてハードといいたいところ。
クジラの主鯨公の妻、メルの予言と、アザラシの主人公の一人、紗樹の夢が交差するとき、物語はほのぼのとした動物ファンタジー、現代社会を舞台にした社会派小説から、一気に壮大なスケールのSFへと移行します。
前作でもシャチVSシャチ、マッコウVSマッコウの戦闘シーンがクライマックスを飾りましたが、今作でも息を切らせぬ戦いが複数の組み合わせで展開されます。
原発事故現場で繰り広げられるミュータントVSミュータントの死闘、精鋭ネオシャチ軍団VSC&S<Rンビの戦闘シーンもイラストにするつもりだったのですが、紙がなくなっちったのでまた次回に・・
終盤になると、幾何級数的に物語のスケールが拡がっていきます。

『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』、『テイル・チェイサーの歌』、『スフィア』(マイクル・クライトン/早川)、『海底牧場』(アーサー・C・クラーク/早川)、『スタータイド・ライジング』(デイヴィッド・ブリン/早川)を読んで面白かった方。
ファンタジー、SF、社会派小説が守備範囲の方。既存の小説に物足りなさを感じている方。
あなたを(前作と合わせて)2万+5千マイルの冒険の旅にお連れします。
ぜひ手にとってみてください。
前作(改訂版)、新作ともにいまなら無料で読めます(PDF版+HTML版)。


 ◇ ◇ ◇

筆者としては、ニセヤブじみた自画自賛は本意ではないのですが、翻訳と同時に進めていたエージェントとの交渉がポシャッてしまったため、当面小説の売込を優先せざるを得ない次第(--;
前作が筆者の未熟さに加え、前後左右から鉄砲を撃ちまくられたおかげで、興業的に啼かず飛ばずで終わったため、続編発行の道も閉ざされてしまったわけですが。。
引き続き、海外出版社との交渉協力者を募集中m(_ _)m
有償、条件等応相談。詳細はHPのフォームメールまで。
posted by カメクジラネコ at 21:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 特設リンク

2014年07月14日

捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!・3/JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性・2

◇捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!・3

■巨大クジラ、漁業資源の増殖に貢献? (07/11,ナショジオ)

「我々が新たに検証した複数の研究では、クジラのような大型捕食動物が存在するほうが、生態系における魚類の個体数が多くなることが明らかになっている」(引用)

 クジラたちは、高緯度における生産を貧栄養の深海や低緯度海域に分配し、海の自然の多様性を高めるきわめて重要な役割を果たしていることが明らかに。もっとも、定性的には以前から指摘されてきたことであり、とくに意外性はありません。要は、クジラも「他の野生生物と同じなんだ」というだけのこと。自然について無知な日本の反反捕鯨論者が脳内妄想でこしらえた、海の自然を害するエイリアンのごとき存在などではないという、当たり前のことが再確認されただけ。
 国際司法裁判所からもそのずさんさを指摘された日本・鯨研の調査捕鯨と異なり、「質が高く興味深い研究」とレビューした他の研究者も絶賛。まあ、「刺身にすると美味いミンククジラ肉の安定供給のため」に行われた名ばかりのケンキュウとじゃ、比較にもなりませんわな。。
 以下の拙過去記事と関連リンクもあわせてぜひご参照を。

−捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!
−捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!・2
−捕鯨は生態系破壊!!
−調査捕鯨では絶対わからない種間関係の重要性

◇JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性・2

■SC/65b/Rep02 Report of the Expert Workshop to Review the Japanese JARPA II Special Permit Research Programme
http://iwc.int/sc65bdocs
http://events.iwc.int//index.php/scientific/SC65B/paper/view/686/673

 前回の続きから。
 生息数推定に関する6章では、クロミンククジラと他の鯨種、あるいは捕鯨操業海域≠ノおける生態の情報量のアンバランスが指摘されています。従前から筆者らが口酸っぱく追及してきたことですが・・。以下はJARPATのレビュー時にHPで使ったチャート。Uになってフクサンブツの生産量が倍増、生態系アプローチというお題目が加わったものの、状況は変わってないわけです。
 一言で言えば、おっそろしく偏っているのです。
jarpa.png
 かくもいびつに変更している理由はひとつ──そう、永田町のグルメ族議員に「刺身にすると美味いミンククジラ肉を安定供給するため」。ICJの判決文中にもしっかり書き込まれてしまったとおり・・。
 そのことを端的に象徴しているのが、レビューの23ページに書かれた以下の記述。

The Panel also recommends the collection of data on the ecotype of killer whales to try to allow estimates of abundance to be developed for each. This information is of importance to ecosystem modelling given their different feeding habits and in particular to evaluate the consequences of predation on minke whales.(引用)

 自然死亡のパラメータ推定にも直結する重要な捕食者であることは誰の目にも明らかなことですが、生態系アプローチと言いつつ、両種を含む種間関係の研究には、《耳垢コレクション》と違い雀の涙ほどの研究リソースも割かれてはきませんでした。
 今日ではシャチは食性や分布から少なくとも3つのエコタイプに分かれることが確認されていますが、シャチの個体数と分布動態とあわせ、クロミンククジラの繁殖海域を確定し、海域と年齢によるシャチの捕食傾向を突き止める息の長ーい研究が必要とされるでしょう。日本は単純な4鯨種モデルをぶち上げましたが、その単純なモデルでさえ、パラメータとしてシャチの捕食を考慮するか否かでシミュレーションの結果は天と地ほども変わってくるはず。RMPに生態系モデルを適用するなら、絶対に外していいはずがありません。
 まあ、まっとうな動物学者にしてみれば、挑戦のし甲斐のあるテーマに違いありませんが、副産物の売り込み営業を喜び勇んで兼任している鯨研の連中としては、忍耐力と限界突破の発想と多くの時間を要するこの手の非致死的研究には、きっと食指が動かないのでしょうけれど・・・

 最後のJARPAUレビュー、ツッコミどころはまだまだ残っているのですが、当ブログではこの辺にとどめておきます。興味のある方は直接IWC-SCのレポートをぜひチェックしてみてください。
 調査捕鯨に関してひとつはっきり言えることは、海洋環境保全や沿岸の漁業資源の管理のために必要な、はるかに寄与度の高い数々の研究を差し置いて、長期にわたって巨額の研究費が国によってあてがわれながら、その内容は驚くほどずさんで、疑問符のつかない満足なアウトプットひとつ出せない代物だということです。なんとなれば、《調査捕鯨そのものの正当化》、《永田町のグルメ議員たちに刺身にすると美味いミンククジラ肉を安定供給すること》こそが、調査捕鯨というカガクの目的であり、成果に他ならなかったのです。

参考リンク:
−調査捕鯨の科学性を解体する|Togetter
−JARPAレビュー報告徹底検証
−持続的利用原理主義さえデタラメだった
−調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研 
−ペンギンバイオロギングと調査捕鯨


◇お知らせ

 海外出版社との交渉を担当するエージェントを急募しています。
 交渉料7万円〜(応相談)
 連絡はHPのコンタクトフォームまで。

posted by カメクジラネコ at 17:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2014年06月30日

JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性

◇JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性──IWC科学委で長年ツッコまれ続け、ICJにダメ押しくらったトホホな実態

 国際司法裁判所(ICJ)で日本の南極海調査捕鯨を国際条約違反と認定した判決が出た後、サイエンス4月号で同判決の影響等を論じた1ページの特集が組まれました。
 理研小保方氏のコピペ論文と同様、鯨研発論文の掲載を拒んだ権威ある国際科学誌ですが、法の最高権威たる国連の司法機関から調査捕鯨の科学性が酷評されたことについて、科学者の論評をまとめています。


■[ENVIRONMENTAL POLICY] Court Slams Japan's Scientific Whaling
http://www.sciencemagazinedigital.org/sciencemagazine/20140404C?pg=22#pg22


「ICJの判決は、我々研究者の多くがIWCで唱えてきた主張を踏まえたものだ」(〜オレゴン州立大スコット・ベイカー氏)
「科学研究にとってと同じく国際法にとっても良き日だ」「漁業機関における科学的管理手法の強化の助けにもなる」(〜ハワイ大の法学者アリソン・ライザー氏)
「『王様は裸だ』とIWC科学委では何年も言われてきたことだ」(〜アラスカ水産研究センターフィリップ・クラップマン氏)

 まあ、さんざんな言われようですねぇ・・。日本側証人として法廷に立ったノルウェー・オスロ大ワロー氏の一連のコメント「less than 10」「worthless」等)も紹介。法的観点からも、科学的観点からも、こき下ろされて当然の代物だったわけです。日本の調査捕鯨は。
 華々しい発表会見から一転、袋叩きに近い状況にあるアイドル的リケジョと違い、残念ながら調査捕鯨については、未だに科学性の再検証を求める声が封殺されている状況。それも、「食文化」のかけ声にかき消される形で
 これはもはや、科学に対する侮辱というほかないでしょう。

 調査捕鯨の非科学性については当ブログ・拙ホームページ・ツイッターにて再三取り上げてきたところですが、ここで改めて日本の調査捕鯨がどれほどダメダメか、ICJで中止を申し渡される直前、今年2月に東京の日本鯨類研究所(鯨研)で開かれた第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAU)のレビュー資料を中心に、じっくりチェックしてみることにしましょう。


■SC/65b/Rep02 Report of the Expert Workshop to Review the Japanese JARPA II Special Permit Research Programme
http://iwc.int/sc65bdocs
http://events.iwc.int//index.php/scientific/SC65B/paper/view/686/673


 上掲は今年5月にスロベニアで開催された国際捕鯨委員会科学委員会(IWC-SC)の会合に向け用意されたたたき台の資料。ワークショップが開かれたのは今年2月、東京。
 ICJの判決によって実質的に終わりを告げたJARPAUですが、最後の最後までこき下ろされ続けてきたことがよぉくわかります。
 一点、IWC-SCの調査捕鯨関連の報告書に頻出(しかもしばしばゴシックで印字されたり)する語句が「welcome」
 これ、修辞ですよ。日本の顔を立てている、立てざるを得ないということ。
 まず、日本側はSCのレビュー会合でも総会でも、最も多くのメンバーを送り込んでいる多数派。例えばこの報告書も、評価するパネルメンバー9名に対し、日本側の提議者は22名。そして何より、日本は現在IWCの加盟分担金を多く支払っている大口スポンサーの一国なのです(当然の義務とはいえ)。何せ、日本が水産ODAで買収した持続的利用グループの国々は、分担金を払い続ける持続性≠ノ欠けるものですから・・。そういう財政事情もあり、定期的な総会も年1回から2年に1回に変更されたりしているわけです。その辺はIWCの限界、日本の独善的な横暴に対して実効性のある方策をなかなか講じることができない事情のひとつともいえるわけですが。
 そういう具合に日本の顔を一所懸命立てたうえで、なおそのお粗末ぶりをケチョンケチョンに批判せざるを得ない──そのことが一体何を意味するか、皆さんにもお察しいただけるでしょうか。
 以下、レビュアーが指摘している問題点の記述を抜粋しながら、具体的に解説していきましょう。

レビュー結果@鯨類の生息環境のモニタリング(p11-12)

 この項目でパネルが改善≠求めたのは以下の5点。
1.海洋学的データを完全に収集すべく、機器の較正作業をきちんと行うこと。
2.内外のデータベースで報告されている海氷等関連する海洋学的データの有用性を精査し、JARPAT/Uのデータに組み込むこと(NASAのサイトへのリンクも教えてあげるよ!)
3.収集した海洋学的データを他の国際研究プログラムが活用できるよう、提供を検討すること。
4.TDR(音響測深器)とEPCS(電子粒子係数・粒径測定器)のデータは重要だからきちんと分析すること。
5.鯨類の目視・生物学的データと照合させる形で海洋学その他環境データの分析を進めること。

However, to investigate finer spatial and temporal characteristics, which is ideal when investigating the relationships between oceanographic data and species distributions, it is important to collect in situ water samples to calibrate and when necessary correct the instrument readings; as a minimum instruments should be calibrated at the factory once a year.

 1番目の指摘、せっかく諸々のデータを収集したのはいいけど、「計測器は少なくとも年に一度は調整しないとダメ」と言われてます。
 そういうのって基本じゃないんですか? こういうところも某リケジョみたいだよね。若すぎる一個人研究者じゃなく、日本の鯨類学を代表する研究機関のハズなのに。
 2、3、5番目も、日本の鯨類学が専門領域(?)のタコツボに深くはまって安住しすぎ、関連する海洋学の研究情報の収集すら怠ってきたことを証明しています。「日本国内で提供されているデータにすらアクセスしてないじゃん」とツッコまれてるわけです。それらの外部のデータとの整合性を検証する作業は必須ですし、中には重複している無駄な作業もあるかもしれません。これも科学者であれば最初から念頭にあっていいはず。
 ところで、この辺のフレーズ、どこかで聞き覚えがありませんか? ここでちょっと、公海調査捕鯨の再開・継続の意思を表明した林農相の談話(4/18)を振り返ってみましょう。

国際捕鯨委員会科学委員会のワークショップでの議論,他の関連する調査との連携等により、国際的に開かれた透明性の高いプロセスを確保します。(引用)

−今後の鯨類捕獲調査の実施方針についての農林水産大臣談話|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/koho/pdf/danwa.pdf


 前々から指摘されていたことを、あたかもICJの判決を受けて心を入れ替えた≠ゥのごとく弁明に使ってしまう林氏の神経が知れません。まあ、この声明も官僚が用意したんでしょうけど・・。

Unfortunately, this was not done for the last two years (2009/10 and 2010/11) when only TDR data were collected.

 4番目、クジラの分布・生息密度等を把握するうえできわめて重要とSCで評価されたデータが、なぜか後の2年間は収集されなかったことへの遺憾が表明されてますね。
 科学的プライオリティが高い情報収集を怠った理由、なぜだと思います?
 まあ、大体想像はつくでしょう。ソナーを使ったらSSCSに居場所がバレちゃう、と──。
 このことが示すのは、日本という国は科学研究のプライオリティ付けをする能力が根本から欠けているということです。
 「刺身にすると美味いミンク鯨肉の安定供給」「SSCSとのプロレス」のことしか頭にない連中が、計画を立案し推進してきたわけです。
 補完にしかならない致死的データ収集を優先する理由は何もありませんでした。米国とオーストラリアにも協力してもらい、極地研主導で海洋データと目視データの収集・分析を進めればよかったのです。そうすれば、鯨類学にとどまらず、南極圏の物理学・生物学研究に携わる世界中の研究機関に高く評価されるだけの科学的データを速やかに提供でき、場合によっては商業捕鯨再開にさえつながったかもしれないのに。

The Panel commends the collection of debris data, both in the environment and in the stomachs of the whales that can provide valuable baseline data. Such information should regularly (the need to do this annually or less frequently should be evaluated) be analysed and presented to the IWC.

 この記述は一見肯定的評価のように見えますが(科学者という哀しい人種は、データが存在すればそれだけで興味を持つものだけど・・)、カッコの中に注目。「毎年行う必要があるかどうか検証すべき」と。同じことはサンプル数についても言えます。
 実際、胃内容物ではなく海面でのデブリの収集はJARPAUの6年間にわずか88例にすぎません(p58,AnnexD)。それもおそらく偶発的に発見しただけでしょう。そもそも海面付近のデブリの密度をつぶさに調べる調査計画になっていないのです。
 デブリや汚染物質のモニタリングは、まず当該環境の汚染状況を測定・把握したうえで、その環境に生息する野生生物、この場合は南極圏の生物全般で調査を行ってこそ、初めて意義があること。南極海がどの程度汚染されているか、南極海生態系の中で汚染の影響に対し最も鋭敏なのはどの種か、死亡率の増加や繁殖への影響が見られるか、それを調べることこそ真っ先に求められるのです。毎年毎年クロミンククジラの胃を開いて中身をあさる前に。さらに言えば、漂流物が相対的にはるかに多く、影響も懸念される低緯度・北半球のウミガメ、海鳥等のモニタリングに対し、より多くの研究リソースが割かれるべきなのです。海洋汚染の状況を測るのに適切とはいえない種を指標動物にしてしまうのは、単に非効率かつ科学研究予算の無駄使いであり、汚染の実態を見過ごす危険すらはらみます。環境科学の見地からは決して許されることではありません。

レビュー結果A系群構造の時空間的変化(p14-19)

However, the Panel noted that Antarctic minke whales and other baleen whale species are more-or-less continuously distributed around the Antarctic continent; in contrast, the JARPA II research area represents just under half of the circumpolar area. Given the stated objective, the lack of information provided for areas outside the programmes’ research area presents some inherent difficulties in fully meeting the objective to elucidate spatial and temporal variations in stock structure, even though the information developed under JARPA II is probably sufficient for the purposes of developing trials to evaluate RMP variants within the area of sampling.

 調査範囲について最初から大きな疑義が表明されています。南極大陸の周り全部にいるのに、日本が調査しているのはその半分でしかないじゃん、と。
 便宜的に区分された6海区のうち、JARPAUがカバーしているのは、かつて日本の捕鯨会社が操業してきた2海区とその両隣の海区の半分ずつのみ。毎年毎年片側では数百頭分の死体から採取した耳垢栓の標本を積み上げながら、大陸をはさんだ反対側では情報が完全に欠落しているのです。科学的に見ればこれほどアンバランスなことはありません。どうせ裏側にいるクジラなんて来やしないと見込みで判断するのは、事実をもとに仮説を検証する科学者の姿勢にもとります。両隣の海区では、さらにその両隣の海区に分布する系群と混交が起きている可能性も当然否定できないからです。RMPの改善に寄与するという取って付けた目的を掲げるなら、それ以上に重要な改善要請に応じるのがスジというものでしょう。

The Panel welcomes the fact that the authors of SC/F14/J27 referenced the IWC guidelines for DNA data quality control (IWC, 2009) as had also been recommended at the JARPN II review (IWC, 2010). However, the Panel recommends that a revised paper be submitted that explains in more detail how far the guidelines were able to be followed (the present paper did note why the proponents had not been able to follow one recommendation regarding sequencing of microsatellite loci).

 4年前のレビューでIWCのDNAデータ品質管理のガイドラインに従ってないと勧告を受けながら、まだ一部で対応できておらず、その詳細な説明が不足していることを問題視しています。
 その後、SC/F14/J28とSC/F14/J29というクロミンクの系群解析に関する 2つの論文に対するレビューが続きます。SC/F14/J28はミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライトDNAというクジラ以外でも野生動物の多型解析ではおなじみの遺伝子マーカーを用いた解析。SC/F14/J29はそれら遺伝情報に身体測定データを加えて解析したもの。執筆代表者は前者が鯨研調査研究部長Pastene氏、後者がIWC-SCの議長も務める東京海洋大北門氏。
 「よくがんばりました」と花丸の判子を押しつつ、こう言ってます。

However, there are a number of places where additional information is required to fully interpret the results.
 

 このパート(5.2.3 p15)は集団遺伝学のかなりしちめんどくさい議論ですが、要約するなら、「JARPAUによって示されたデータ自体、日本側の提唱する仮説と矛盾しているし、その部分の検証に抜けがいっぱいある」と指摘されているわけです。
 JARPA最終レビューで受けた指摘に対応したという北門氏らの解析に対しては、SC副議長に敬意を表してかせっせと持ち上げつつもPastine論文以上に辛辣なコメントが付いています。勧告の数は合わせて9個。
 まず、「論文の記載で、個体と系群に同じインデックスを使用されちゃ困るよ」と某リケジョ論文を思わせる稚拙さに苦言を呈されています。ほかにも、「モデルはベイズ法か最尤法で処理するように」「形態データの統合にあたっては性差に依存しないパラメータの変化も検討するように」といった指摘がなされており、おそらく統計学・遺伝学畑の方々なら「基本じゃないの?」と首をかしげるのではないでしょうか。これでは過渡的な試論の段階で論文の体裁をなしてないと批判されても仕方がないでしょう。

Management procedure considerations on stock structure focus on developing plausible interpretations of available data not simply the single ‘best’ interpretation when examining uncertainty.

 SC/F14/J29への指摘に続いて、パネルは1ページ以上にわたって長々と「もうひとつの仮説をきちんと検証してちょうだい」と注文を付けています。
 ここで一応ざっくり解説しておきますが、調査海域のクロミンクにはIストックとPストックという二つの系群(個体群)が存在すると考えられ、その分布境界と混交の程度が長年にわたって問題になってきたわけです。2つの系群の境界領域(p7の図1に描かれているグラデーションの部分)の状態を説明するため、<two-Stocks-with-mixing:2系群混交>説と<isolation-by-distance:距離による隔離>説という2つの仮説が立てられました。前者はI系群とP系群の分布が重なる混交領域を仮定するのに対し、後者はI系群とP系群が距離に応じて次第に混じり合う状態によって説明しています。現在日本側が主張しているのは前者。

 こうしたSCの小言≠ヘ、「低緯度の繁殖海域の調査をちゃんとやったら?」と同様、今に始まったことではありません。以下は'06年のJARPATのレビュー時のもの。

With respect to the area of transition, it was suggested that methods that address the question of isolation by distance (such as spatial autocorrelation and Mantel tests) would help resolve the position and nature of this transitional pattern. It was further suggested that other analyses based on individual genotypes, such as landscape genetics as assessed in the program ‘alleles in space’ (Miller, 2005) may help resolve the pattern of structure and mixing (though this would likely require 15+ microsatellite loci to provide sufficient power). (p421)

−Report of the Intersessional Workshop to Review Data and Results from Special Permit Research on Minke Whales in the Antarctic, Tokyo, 4-8 December 2006 | J. CETACEAN RES. MANAGE. 10 (SUPPL.), 2008 411
http://iwc.int/document_1565

 ところが、JARPAU開始年次にはすでに提唱されていた対立仮説を、日本側はずっと無視し続けてきました。JARPATへのレビューに対する応答として、JARPAUの所定の最終年次に提出された論文においてさえ、それは考慮されていなかったのです。
 しかし、今回のレビューでも引用されているとおり(p17)、当の鯨研の論文でも以前は複数の仮説が併記されていたのです。


Therefore the general stock structure archetype for the Antarctic minke whale in the feeding grounds is multiple stocks with spatial (longitudinal) segregation. (p7)


−SC/D06/J9 Genetic analysis on stock structure in the Antarctic minke whales from the JARPA research area based on mitochondrial DNA and microsatellites
http://iwc.int/document_1570


 パネルは「不確実性を解消するために必要なのは、単一の解釈に対して手を替え品を替え正当化を試みることじゃない。複数の仮説があれば、まずどちらの仮説が正しいか検証することだ」と述べ、決着をつけるための具体的な方法(近交係数の経度毎の変化を調べればいい)まで明示しているわけです。
 2つの仮説のどちらが正しいかわからない状態がずーっと続いていれば、強いフラストレーションを感じ、早く結論を出したいと考えるのが、まっとうな科学者というものでしょう。
 同じくP16でパネルは「生物学に大きく貢献するし、JARPAUの目的にも合致するはずだ」と半分持ち上げつつ、対立仮説を検証するよう改めて強く促しています。
 しかし、日本の御用学者たちは、結論を導き出すことよりも、一方の仮説に都合のいい解釈をこね回し続けることに、意義を感じていたというわけです。調査捕鯨ならではの身体測定データを、どうやって致死調査を正当化する口実につなげられるか、そんなことばっかり考えていたと。
 新しいアイディアや手法を優先して試してきた、というわけでもありません。その点に関しては、パネルは形態データの統合を歓迎しつつも、「4.で述べたとおり、海洋物理学的データの統合だって少なくとも同じくらい重要だよ。そっちもやんなよ」と推奨し、さらに衛星タグ、放射性同位体や脂肪酸解析など多岐にわたる手法も提示しています。
 工夫の余地だったら他にもたくさんあるのに、致死的調査にばかり異常に執着したがる日本の鯨類学の偏向には、科学の公平性・合理性・効率性の観点からも到底誉められたものではありません。


 続いて、ザトウクジラについて。けど、ザトウは捕っていません(オーストラリアに対する脅迫カードに使ってるだけ・・)。ここで評価されているのは、いわゆる非致死調査であるバイオプシーを用いたもの。
 短い論評ですが、「致死的調査をしてないばっかりに質が低い!」なんてことは、もちろん一言も書かれていません。論文の記載、詳細なデータの提出の注文だけ。
 バイオプシーだけで済ませているザトウクジラとミナミセミクジラより、致死調査をすることでより充実した中身になっているハズのクロミンククジラとナガスクジラの論文に対するほうが、より注文が多く、かつ手厳しくなっているわけです。
 ナガスクジラの調査結果に対しては、統計学的正当性への懸念は当然として、「過去の商業捕鯨時代のデータや他のバイオプシーサンプルをきちんと調べなさい」と注文を付けられています。
 5章最後の節、写真標識による個体識別データについては、「系群構造解明に資するポテンシャルを認識して、もっと情報の提供と分析に努めるように」と強く奨めています。
 はたしてこれは、IWC-SCが非致死調査ばかり選り好みしている所為なのでしょうか?
 いいえ。

 In such a situation, it was difficult for this study to further distinguish between stock mixing and stock core areas without using the data from the breeding areas. Future microsatellite study should use the samples from the breeding areas. Nevertheless, substantial increases in the numbers of the analyzed microsatellite loci and the biopsy samples allowed us to confirm our previous conclusion on the humpback whale stock structure in the Antarctic.

−SC/F14/J31 Stock structure of humpback whales in the Antarctic feeding grounds as revealed by microsatellite DNA data
https://events.iwc.int/index.php/workshops/JARPAIIRW0214/paper/viewFile/554/543/SC-F14-J31.pdf

 これ、当の鯨研の論文の記載ですよ。IDCR/SOWERの分を加え、トータルで581サンプル。系群構造の解析にはこれでも不十分だったとしてますが、「繁殖海域のサンプルなくしてこの研究はできなかった」との表現は、逆に言えば繁殖海域でバイオプシーを活用した調査を行えばサンプルサイズを抑えることだって十分可能だということ。「無駄な殺しをしなくて済む」ということに他なりません。
 こうやって鯨研自身が「重要な成果だ」と自賛しているくらいなのですから、ICJが「ザトウは殺さずに調査研究できるんだから、クロミンクでその努力を怠るのはおかしいでしょ」と追及するのは当然のことでしょう。
 ついでにいえば、他の野生動物でも遺伝的多型を調べる場合のサンプルサイズはこんなものです。

−地理的スケールにおける生物多様性の動態と保全に関する研究|環境省
https://www.env.go.jp/earth/suishinhi/wise/j/pdf/J01F0140.pdf

 例えば、高尾のリスの個体群構造解析は26個体、中国・近畿のツキノワグマでは同じく92個体。遺伝子サンプルは生検、発見した死骸、糞などから。
 種によっては、狩猟ないし有害駆除された死体からのサンプルが含まれるケースもあります。殺す以上は、徹頭徹尾データを取得することが供養だという考え方もあるでしょう。
 しかし、研究を主目的に、生きた個体を毎年数百頭ずつ殺そうとする、代替手法の開発・改善によってその数を少しでも減らそうと一切努力することなく、むしろ何とかして殺す数を維持しようとあの手この手を画策する──そんな動物学者は世界広しといえど、捕鯨業界のリソースにどっぷり依存している日本の御用学者以外、見当たりますまい。
 彼ら日本の御用鯨類学者は、どの野生動物の研究者よりも、動物実験が主体の医学・生理学者に近いといえるかもしれません。某リケジョのような。。研究実績の指標となる論文数を稼ぐ動機で、必要性に首を捻りたくなる突飛な研究を思いつく特性の点でも。調査捕鯨との大きな違いを挙げるなら、曲がりなりにも3R《苦痛の軽減・使用動物数の削減・代替手法への置換》の概念に基づく明確な倫理指針が設けられ、法規制や科学誌への論文掲載の国際的な審査基準として定着していることでしょう。もっとも、日本と海外先進国との大きなギャップは、動物福祉方面では常に指摘されてきたところですが。
 「なるべく殺さない」──それが動物学の基本常識。
 その中で、日本の鯨類学のみが「なるべく殺す」という常識ハズレの哲学に従っているわけです。
 残念ながら、その哲学は、科学の意義、価値を重んじる姿勢から興ったものではありません。
 副産物こそが目当てだから、解体時間が延びて鯨肉が体温で傷むことさえ恐れ──何せ、水産庁長官曰く「刺身にすると美味いミンククジラ肉」ですから──可能な限り少ない組織標本で済ませようとし、必要な解析・研究をうっちゃらかして、クジラの精子とウシの卵をかけ合わせるなんておっそろしくバカげた研究で論文数だけなんとか稼ごうとする。
 科学が産業と政治に隷属し、二の次になっているが故の哲学なのです。

 実は、上掲のクロミンクの系群構造の2つの仮説をめぐる鯨研発の2つの論文のデータについて、どうにも腑に落ちない部分があったため、パネルメンバーに直接問い合わせてみました。
 該当箇所はこちら。

[SC/D06/J9] 
  No statistically significant level of deviation from the Hardy-Weinberg genotypic proportion was detected through the strata at each of the six loci (Table 9). The same was true for overall loci in all samples combined (chi-square=16.948, d.f.=12, p=0.152).(p6) 
  Table 9(p16) 

http://iwc.int/document_1570

 [SC/F14/J28] 
  Genetic diversity indices are shown in Table 4 for whales in the western and eastern sectors of the research area. The average number of alleles per loci, average allelic richness, and average expected heterozygosity, all over the 12 loci, was high for the both sectors, and the levels of these indexes were quite similar between the two sectors. Both sectors showed evidence of deviation from the expected Hardy-Weinberg genotypic proportions.(p4) 
  Table 4(p8)

−SC/F14/J28 An update of the genetic study on stock structure of the Antarctic minke whale based on JARPAII samples
https://events.iwc.int/index.php/workshops/JARPAIIRW0214/paper/view/551

−SC/F14/J29 Dynamic population segregation by genetics and morphometrics in Antarctic minke whales
https://events.iwc.int/index.php/workshops/JARPAIIRW0214/paper/view/552

 これは同じVEからYWにかけてのクロミンクのマイクロサテライトDNAの解析結果(HW:ハーディー・ワインバーグテスト値)と記述。両論文で正反対になっています。違いは調査期間と解析した遺伝子マーカーの数、そして集団の取り方。JARPAUの方は、解析するマーカー遺伝子数を増やしたものの、各遺伝子座毎の詳細データが提示されておらず、非常に不親切。この点は上掲したように、パネルからも指摘を受けていますが。
 二つの論文の該当箇所を比較してみましょう。
HW.png

 怪しいと言えば怪しいのですが、HWテスト値が真逆になる合理的な理由も一応考えられます。SC/D06/J9のデータは経度による分割を増やした計8つの集団についての解析結果であるのに対し、SC/F14/J28の方は東西の2集団。
 HW平衡が成り立つのは、任意交配が行われる独立した遺伝子集団の場合。ただし、部分集団で任意交配が行われていても、それらの部分集団の集合としてみた場合には平衡が崩れます(ワールンド効果)。HWやワールンド効果については、参考リンクの集団遺伝学講座をご参照。
 パネルは「扁平なトーラス」という表現を用いていますが、<距離による隔離>仮説によれば、クロミンクは通常経度方向にあまり大きく移動することはなく、遺伝的に少しずつ異なる集団が隣接し合い、大陸を取り囲む連続的なスペクトルの状態をなしている、というイメージですね。
 それに対し、日本側が推している<2系群混交>仮説は、単純に2つの個体群が重なり合い、間で混交が起きているというもの。
 日本側はSC/F14/J28で提示されているHW平衡からの逸脱を、年毎に東西系群間の移動・混交の度合が大きく変化することによって説明し、<2系群混交>仮説を支持する論拠としている模様。
 確かに、HW平衡が崩れるもうひとつの理由として、集団への出入りがある場合が挙げられます。ただ、移動・混交の年変化によるなら、より小さな分集団を対象にした以前のSC/D06/J9のHWテスト値は、もっと大きな逸脱を示していてもおかしくないと思うんですがね。実際には
 さらに、同論文のP5では以下の記述があり、JARPAT時の調査結果と大差ないと言っているのがなんとも不可解。

Regarding the work conducted in response to the recommendations from the JARPA review meeting, the number of the microsatellite loci used was doubled from the previous six to current 12. Even with this substantial increase in the loci numbers, however, the level of genetic differentiation among the samples was very low.


 しかし、遺伝的小集団の集合によるワールンド効果という解釈であれば、<距離による隔離>仮説の支持も可能。むしろ、2つの調査結果に示されるHW期待値の傾向が相反することをうまく説明できます。
 一方、<2系群混交>仮説であれば、今年のレビューのP17でパネルが指摘しているように、近交係数とともにHWテスト値のほうも、遷移領域と両側の純系群との間で差が出てくるはずなのです。
 やはりP16でパネルが指摘しているとおり、当のJARPAUが提示した経度によって遺伝的・形態的特性が変化するモデルは<距離による隔離>説と矛盾しません。むしろその方がしっくりきます。身体測定データの差異を解析したSC/F14/J29のグラフ(p10)、皆さんはここで示された9つのグラフの中に、2つの明瞭な不連続境界を見出せますか? それとも、経度方向の漸次的、連続的な変化に見えますか?
 ここでパネルのコメントを再掲しましょう。

Management procedure considerations on stock structure focus on developing plausible interpretations of available data not simply the single ‘best’ interpretation when examining uncertainty. In this spirit, the Panel recommends that during the coming year, the authors of SC/F14/J28 and SC/F14/J29 consider the merits of an alternative to the two-Stocks-with-mixing hypothesis: a single stock that exhibits one-dimensional isolation by distance along a longitudinal gradient. This alternative is suggested by visual inspection of fig. 3 in SC/F14/J29, which shows how morphometric scores for individual whales vary by longitude. Morphology appears to vary more or less linearly along the zone of sampling, rather than being constant at the eastern and western extremes, with an area of mixing in between. Under isolation-by-distance, statistical comparisons of samples from the extreme eastern and western sampling regions could produce the types of results described in SC/F14/J28 (see Schwartz and McKelvey 2009).


 <距離による隔離>は野生生物の個体群動態の実相を幅広く表していますが、中でもクロミンクのケースはかなりユニークなものだといえるでしょう。分断された繁殖海域と明瞭な地理的隔離障壁がない摂餌海域との間を大回遊する生態が、ユニークな系群構造をもたらしたに違いありません。さらに、皮肉にもJARPAUの結果、系群の境界領域は時間的・空間的に変化しており、また性差もあることが確認されたわけです。そうした分布動態が微小な遺伝的交雑の蓄積を生み、経度方向に少しずつ異なる遺伝的集団が出来上がったとも考えられます。
 なお、パネルメンバーのお一方、NOAAの遺伝学者Waples氏によれば、「SC/D06/J9中の問題のHW値等については精査できておらず、パネルとしてのコメントはない」とのこと。
 結局、何年もかけて数千頭のオーダーで野生動物を積極的に殺しておきながら、T期・U期いずれの調査結果も満足な結論を出せるレベルにないということです。
 鯨研はサボタージュを働こうとせず、繁殖海域の調査、JARPAUのサンプルの再解析によって、パネルが指摘した有力な仮説の詳細な検討作業に真摯に取り組むべきです。

 話はここで終わりません。
 生態系アプローチをはじめ、鯨研側の手法や議論があたかも結論にたどり着くのを引き伸ばそうとしているかに見えるのは、調査捕鯨をズルズル延命したいという日本側の動機を考えれば容易に納得できます。しかし、系群構造に関して対立する2仮説のうち一方ばかりに肩入れする理由は何かあるのでしょうか?

 ここで、なぜ捕鯨の管理に系群構造の解析が求められるのか、改めて説明しておきましょう。付ける薬のない狂信的な反反捕鯨論者たちの認識は根本から間違っているのですが・・
 もはや常識ですが、自然保護・野生動物保護の文脈において、対象となるのは種≠ナはありません。個体群です。
 おりしも生物多様性条約の年次会合がカナダで開かれていますが、ここでいう多様性というキーワードの意味は、《自然(生態系)の多様性》であり、《遺伝子の多様性》に他なりません。地球全体で見たそれぞれに特色のある生態系の多様さ、その生態系を保全するために欠かせない構成種の豊富さ、そして、種内の遺伝子の多様性すなわち個々の個体群ひとつひとつをきちんと保全することで、それらが構成する地域の生態系の健全さを可能な限り保持すること。
 小川や林に生息する昆虫や淡水魚などの小動物たちから草花まで、「種の個体群ひとつだけ生き残っていればいいや」などという乱暴な考えは、もはやとっくに時代遅れ。地域地域の自然を構成する、遺伝的に微妙に異なる個体群のそれぞれをしっかり守ることこそが求められているのです。ホタルしかり、トンボしかり、メダカしかり、カエルしかり。
 それが現代の自然保護のトレンドであり、時代の要請なのです。
 ペンギンも、サメも、アザラシも、そしてクジラも、自然保護の標準から外れる差別的扱いは決して許されることではありません。
 クジラの保護管理に責任を負う国際機関であるIWCとて、時代の要請を受け入れる必要があるのです。

 商業捕鯨の管理方式・管理体制においても、当然個体群毎の厳格な管理を念頭に置かなければなりません。
 仮に、クロミンククジラに当てはめるとしたらどういうことになるでしょうか?
 まず、推定個体数の全体の数字(最新の合意値で52万頭)には意味がないということ。保護・管理すべきなのは個々の個体群だからです。
 以前、便宜的な合算値である76万頭(既にゴミ箱行となりましたが)に対し、年間約3千頭(平均)というRMP(改定管理方式)に基づく捕獲枠の試算が示されました。これも系群単位ではなくトータルの値なので意味がないわけですが、この仮試算の数字をもとに改めて概算してみることにしましょう。もし将来商業捕鯨が解禁になったとき、日本がどれだけのクジラを殺せるか、の。
 最初に、76万に対して52万、おおよそ2/3ということで約2千頭。全6海区のうち、日本が伝統的≠ノ漁場としていたのは2海区ですから、1/3で約700頭。実際、インド洋、大西洋側にまで出張っても、燃費がさらにかさんでますます不採算になるだけですからね。まだ名乗り出る気配のない未来の公海商業捕鯨企業が、そんなバカげたことをするはずもありませんし、「南極海のクジラはぜーんぶ俺様のモノだ!」とジャイアンな宣言をするほど、日本が狂った国であるハズがないと、世界も信じてくれていることでしょう・・
 ここで、この数字をJARPAUの目標計画数がすでに上回ってしまっているということに、皆さんもお気づきになられたでしょう。ICJがクロ認定するのは当然のことでした。
 系群構造に応じた管理を考えた場合、対象群の規模が小さければそれだけ注意深い管理が求められ、高い安全係数を見込むことになりますから、全部ブッコミの数字より当然目減りすることになります。
 余計なパラメータの入力を必要とせず、最も頑健で信頼性の高いRMPは、系群毎の管理の要請に応じるために、管理区域を経度10度毎に分割することにしていました。日本側は「それで目減りすんのは嫌だ!」という理由から、管理区域間の線引きの目をもっと粗くしようと目論んでいるわけです。「野生動物は個体群毎に保護しなければダメ」という環境保護の常識からではなく。ついでに、調査捕鯨の大きな口実にもなったわけですが。
 <2系群混交>説に即した場合、IとPの純系群、遷移領域の3つを考えればいいということになるでしょう。一方、<距離による隔離>説が正しければ、経度方向のより細かい管理区分が必要になってきます。仮に、JARPATの調査に基づきHW平衡が確認された集団を1管理系群とみなすなら、2海区で6つ。後者の方がより厳格で慎重な管理を求められるのは言うまでもありません。
 ただし、遷移領域については純系群と同様に捕獲枠を算定するわけにはいきません。捕鯨船がこれから殺そうとしているクジラが、I系群のものかP系群のものかを殺す前に判別する方法がないからです。衛星タグを打ち込んで、遺伝子サンプルを持ち帰って確認した後、翌年回収しに行く? 今はまだどこも名乗りを挙げようとはしない未来の捕鯨会社も、そんなバカげた著しく採算性を損ねるやり方を択るはずもありますまい。
 また、個体群毎の個体数推定の精度も大きく下がることになります。2つの系群を合わせたトータルの数字としてなら算出することが可能ですが、遷移領域(前者1つ、後者は4区ないしそれ以上の細分化が必要)については、さらにそのうちの系群毎の比率を割り出すことが求められます。そして、異なる系群への混獲の影響を最小限にするために、遷移領域ではより少数のほうの系群に応じた捕獲枠を設定することになるでしょう。その場合は、純系群に近い場所ほど捕獲枠を小さく設定せざるをえません。そんなしち面倒くさい管理に従いたがる捕鯨会社など、やはりいるとは思えませんが。そもそも南極海捕鯨をやりたいと言ってる企業自体ありませんけど。。
 まだ問題があります。<2系群混交><距離による隔離>のどちらであれ、JARPAUの調査自身によって判明している時間的・空間的変動と性差を管理にも組み込む必要があるということです。年毎に管理の指標とされる系群の境界が移動し、去年と同じ海域でも異なる系群に該当する可能性があったり、同じ海域でも系群毎のメスとオスの割合が異なるため雌雄別々に管理しなければならないという、きわめて厄介な課題が生じるのです。
 捕獲枠の算定に際しても、年毎に境界が移動する可能性のある変動領域の分を割り引かれなければなりません。でなければ、系群毎の管理の意味がないわけです。該当する海域での捕獲は事実上不可能ということになるでしょう。マッコウクジラじゃありませんから、今に至っても選択的捕獲はほぼ不可能。そのマッコウクジラでは、かつて陸上の狩猟動物の管理に倣ってオスだけの捕獲枠が設定されましたが、この選択的捕獲のせいで妊娠率が大幅に低下、北太平洋のマッコウクジラは個体数が急減し、商業捕鯨管理の無残な失敗のモデルケースとなりました。
 系群の性比のバランスを崩さない厳格な管理を追求するなら、同じ海域内に生息する少数の系群の、少数の性の個体数をもとに捕獲枠を算定する以外にないでしょう。
 結局、遷移領域(両方の系群が混在している範囲)・変動領域(管理区分の境界が年によってずれ得る範囲)については、ごく少数の捕獲しか認められないということになるでしょう。
 合わせて300頭か、200頭か、100頭か。以前のJARPATの規模でも多すぎということになるかもしれません。いい加減で済んだかつての乱獲時代と異なり、細かく区切った管理区域毎に厳重な管理をする、という前提付で。
 以下はそのイメージ。

jarpa2kaisetu2.png
 してみると、日本側が2つの仮説のうち1つのほうに異常なまでに固執するのは、「もう一方では商売≠ノ都合が悪い」という理由以外に考えられないでしょう。
 日本を含む捕鯨産業が大乱獲の果てに大型鯨類を次々に絶滅寸前へと追いやり、南極海生態系を荒廃させた悲劇の歴史を鑑み、慎重のうえにも慎重を期した管理手法として提案されたのがRMPでした。
 「少しでも取り分を増やしてやろう」などと画策する日本の姿には、過去に対する真摯な反省の姿勢が微塵もうかがえません。
 RMPの趣旨を踏まえるなら、遷移領域・変動領域の捕獲枠ゼロ設定は当然のことでしょう。RMS(改訂管理体制)を受け入れようとしない日本に、近海のウナギもマグロもまともに管理する能力のない持続的水産業の落第生に、影響を最小限に抑えながら捕獲する繊細な管理などできるはずがありません。

 残念ながら、これは「商業捕鯨をどうしても再開したいのであれば、最低でもここまではやるべきだ」という筆者のべき論にすぎません。そして、科学者として似つかわしくない「鯨肉販売営業」を平気で兼任している鯨研の連中のこと、時代の要請だといっても、このようなきめ細かな管理に応じるつもりはさらさらないでしょうね。
 レビュー報告の12章では、調査捕鯨を正当化する従来の主張どおり、そのデータがRMP運用の「改善に資する」と日本側は謳っています。「安全第一の管理のせいで目減りする量をちょっと増やせるかも」という意味で。
 こんなものは改善ではありません。日本がやろうとしているのは間違いなく改悪です。
 ナガスクジラを世界で最も多く殺し、南極海生態系の撹乱という未曾有の大実験を遂行してきた捕鯨ニッポンは、かけがえのない人類共有の財産である南極圏の野生動物と取り巻く自然をなおも弄び続け、多様性を損ねようと企てているのです。
 この点に関しては、多数派にしてスポンサーでもある日本への配慮から、両論併記の形で調査捕鯨の有用性に一定の理解を示そうとしているIWC-SC自体が、もはや時代から取り残されているといわざるをえません。
 「資源が枯渇さえしなければいい」という時代遅れの指標はきっぱり捨て去られるべきなのです。

 時代は変わったのです。「種が絶滅しなければいい」という初歩の段階はとっくに過ぎたのです。
 自然の多様性をいかに健全に保つかが、いま何よりも求められているのです。そして、社会の側が自然を開発するニーズについて、より厳しい目が向けられているのです。
 年間300万人の児童が栄養失調で亡くなっている時代に、世界の食糧援助をはるかに上回る食べ物を捨て、世界中のどこの国より命を粗末にしている最悪の飽食大国が、永田町の食通族議員たちを満足させるべく「刺身にすると美味いミンククジラ肉を安定的に供給するため」(by本川水産庁長官)、多額の税金を投じて繰り広げる、地球の裏側の南半球に暮らす人々が愛してやまない自然への、欺瞞と独善に満ちた不当な介入。
 これは南極のクジラたちに対する、ホタルやメダカにも劣る差別的待遇以外の何物でもありません。


 ここまでJARPAU最後のレビューレポートの2章分をざっとながめてきましたが、残りのパートもツッコミどころが満載です。
 とくに野生動物フリーク、生態学に興味のある方なら、これを読んで日本の鯨類学がそこまでお粗末だったということに開いた口がふさがらないはず。
 キーワードはシャチ
 トホホな実態の検証、続きは来月中に・・

(集団遺伝学関係参考資料)
−集団遺伝学講座|霊長類フォーラム
http://www.primate.or.jp/PF/yasuda/index.html
−適応進化遺伝学|東京大学大学院新領域創成科学研究科
http://www.jinrui.ib.k.u-tokyo.ac.jp/kawamura/tekioushinka2013.pdf
−Genetic differentiation between individuals|Journal of Evolutionary Biology #13
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1420-9101.2000.00137.x/abstract
−北海道東部に生息するタンチョウの集団遺伝構造解析|日本生態学会第61回全国大会
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/61/B1-08.html

posted by カメクジラネコ at 01:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2014年05月16日

IWC決議違反の調査捕鯨は国連決議違反の北朝鮮のミサイルと同じ! 国際法秩序を踏みにじる日本の密漁捕鯨は4カ国包囲網で阻止を!!

■「2014年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(沖合調査)」の実施について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/enyou/140516.html
■調査捕鯨船2隻 北西太平洋へ出港 (NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140516/k10014505691000.html
■北西太平洋で7月末まで (共同)
http://www.47news.jp/movie/general_national/post_11034/

 本日、JARPNU(北西太平洋鯨類捕獲調査)の沖合調査に従事する船団が下関を出港とのニュースが。
 南極の海で行われてきた同規模の調査捕鯨に対し、ICJ(国際司法裁判所)がきっぱりと違法認定を下してから、沿岸調査に続く二度目の強行となります。
 国会決議直後の先月18日に、林農相の談話とともに公表された実施計画より、ニタリクジラの捕獲数が5頭増えて25頭に。
 「精査のうえ」、数字をいじったということのようですね。。一体何を精査したの? 鯨研の出納帳? 冷凍倉庫の帳簿?


 やっぱり日本はよその国とは違う。
 本当に国際法を尊重し、信義と礼節を重んじる、信頼に値する国だ。
 どっかの国や、どっかの国や、どっかの国とは違って──
 そのように世界中から絶賛されるまたとない機会を、日本は自らふいにしてしまいました。


 調査捕鯨は密漁です。
 国連決議に違反する北朝鮮のミサイル発射や核実験と同じ。


 確かに、かつて何度も核実験を行い、実際に兵器としても使用しながら、現在も大量の核兵器を保有している国との扱いの差を指摘し、差別≠セと訴える北朝鮮の主張には一理あるでしょう。
 だからといって、彼らが許される道理はありません。
 たとえ落下地点をIMOにきちんと報告して、人工衛星≠フフリをしたとしても。

 同じことです。

 かつて南極海での乱獲に関わってきた捕鯨国に対し、言いたいこともあるでしょう。
 もっとも、上の例に倣うなら、日本自身も核大国ならぬ有数の捕鯨大国として、歴史上の乱獲と資源枯渇に重大な責任を負っている点で、北朝鮮のほうがずっとマシといえるでしょうが・・。

 せっかく最も権威ある国連の司法機関が、国際社会が、日本の顔を立てて、南極海での泥沼プロレスに代わり、由緒正しい国際法廷のリングを用意し、潔く身を引けるように計らってくれたのに。紳士的に正々堂々と戦った末に破れ、拍手とともに惜しまれつつ退場できるように、花道≠用意してくれたというのに。
 沿岸で粛々と、伝統から外れることのない慎ましやかな捕鯨を行うことに、理解を得られる可能性もまだ残されていたというのに。
 日本という国は、南極・公海で、自らの力≠誇示したいなどという、あまりにもくだらない沽券にこだわったあまり、何もかも台無しにしてしまいました。
 合法な調査捕鯨を装い、姑息な脱法行為を長年にわたって続け、世界と自国民の目を欺いてきたことに対し、ついに一言の謝罪もないまま。

 本川水産庁長官曰く、「お刺身なんかにしたときに非常に香りとか味がいいということで(ニタリやイワシやツチクジラより)重宝されている」ミンククジラを、沿岸事業者に枠を譲って少しの間我慢すれば、また「安定的に供給」することができると、大本営は今なお思っているわけです。
 日本はもはや、北朝鮮、あるいは他の国々に対し、《法の正義》を掲げる資格を完全に失ってしまいました。

 違法判決直後に拙速に開始を決めてしまったために、沿岸事業者に委託されているJARPNU沿岸調査も、JARPAUに関しては認定されなかった新たな国際法(ICRW附表第30項)違反に問われる疑いが濃厚です。威勢よく外国・白人たちを叩き、実態を何も問わずに日本の文化を声高に叫ぶパフォーマンスをすればウケるとしか考えていない、ボンクラ国会議員たちのせいで。
 確かに、船を出せないとなれば不安を覚えるのは業者は当然でしょう。筆者としては、漁に携わる術を完全に奪われた福島の沿岸漁業者以上に同情する気はありませんけど。
 しかしその責任はすべて国にあります。
 これまで、南極の自然を貪り尽くそうとした大手捕鯨会社のゾンビに他ならない調査捕鯨事業者を優先するあまり、沿岸捕鯨に対して国際社会から差し伸べられた手を突っぱね続け、ツケを押し付けてきたことを土下座したうえで、「公海調査捕鯨を即時全廃することで国際社会に情状酌量を求め、沿岸捕鯨再開の道を探ります」と言えず、合理的な解決案を提示しないどころか、沿岸捕鯨事業者を捕鯨サークルの犯した罪に巻き込み、相対的に違法の度合い低かったはずの沿岸調査捕鯨に新たな違法性を付け加えてしまったのです。
 一体、これほどの愚行が許されていいのでしょうか?

 日本人として、これほど堪えがたいことはありません。

 昨日、北西太平洋を取り囲むIWC加盟国(水産ODAと引き換えに日本に票を売った国を除く)である4カ国に対し、オーストラリア・ニュージーランドがJARPAUを訴えたように、JARPNUをICJに共同提訴するよう求める要請書を、国の愚行を憂える日本の団体・市民の有志のみなさんとともに提出しました。賛同いただいた皆さん、多謝m(_ _)m
 日英の要請文と補足は拙ホームページのほうで公表しましたが、当ブログ上にも掲載しておきます。


 今からでも遅くはありません。直ちに船を引き返させてください。
 林農相は、「ミンクは美味い」発言を国際裁判記録として後世に残され、国中に恥をかかせた本川長官を直ちに更迭し、自らも辞任すべきです。
 国際法を冒涜するならず者国家の烙印を押されたくないなら。
 このままでは恥の上塗りになりますよ。

 
http://www.kkneko.com/jarpn2.htm
http://www.kkneko.com/english/jarpn2e.htm

 
2014年5月15日

駐日大韓民国大使館
 駐日中華人民共和国大使館
 駐日ロシア連邦大使館
 駐日アメリカ合衆国大使館 御中

 写し:
 駐日オーストラリア大使館
 駐日ニュージーランド大使館
 駐日欧州連合代表部
 日本外国特派員協会 御中


絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)、国際捕鯨取締条約(ICRW)および国際捕鯨委員会(IWC)決議に違反する日本の北西太平洋調査捕鯨(JARPN II)に対し、4カ国による国際司法裁判所(ICJ)への共同提訴を求める要請書


  今年3月31日、オーストラリアおよびニュージーランドと日本との間で争われた調査捕鯨をめぐる国際裁判において、ICJは日本の南極海調査捕鯨(JARPA II)がICRWおよび各種のIWC決議違反に該当すると認定し、今後調査捕鯨の許可証を発給するにあたり、今回の判決を十分考慮するよう求めました。
  日本政府はICJの判決に従うとしながら、今年度もJARPN IIを強行する決定を下しました。しかし、JARPN IIにはJARPA IIと同様、ICJで認定された多くの違法性が含まれていることは明らかです。
  日本政府は国際法規を遵守する姿勢を打ち出していますが、国会議員らは「ICJの判決は政治的だ」と非難するばかりで、国際法を尊重しなかったことへの反省の弁は聞こえてきません。また、マスコミは敗訴の決め手となった水産庁長官の国会答弁等には一切触れず、調査捕鯨の違法性を文化の問題へとすりかえる報道を繰り返しています。
  日本政府が自らの過ちを認めず、国際法に背く行為を続けようとしていることは、日本国民として耐えがたいことです。遺憾ながら、日本の姿勢を改めさせるためには、南半球諸国を代表してオーストラリアとニュージーランドが国連の司法機関に判断を仰いだのと同様に、北半球の国々によって日本の違法性を再度追及してもらうほかありません。
  大韓民国、中華人民共和国、ロシア連邦、アメリカ合衆国は、北西太平洋に近接し、日本の水産ODAによる勧奨活動の影響を受けていないIWC加盟国として、科学の名を借りた違法な公海資源の占有を訴える資格があります。
  とりわけ、韓国は一昨年のIWC年次会議でICRW第8条に基づく調査捕鯨の計画を発表しながら、内外の市民の批判を受けてこれを撤回しました。
  国際法をきちんと遵守する同国とは対照的に、違法な調査捕鯨をなおも続行する国の存在を認めることは、国際社会の公平性・公正性の観点からも許されるべきではありません。
  よって、私たちは4カ国が共同で日本のJARPN IIをICJに提訴するよう、強く要請するものです。

以上


カメクジラネコ

賛同団体 (五十音順)

茨城県民ネットワーク
全日本動物愛護連合
チロとサクラのクリニック
動物愛護党
動物たちとともに W.A.A
フリッパーズジャパン
ヘルプアニマルズ



参考リンク:
−ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
−北は人工衛星という名のミサイル、日本は調査捕鯨という名の商業捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/60752017.html
−調査捕鯨国際裁判敗訴は全て安倍と自民党捕鯨議連の責任
http://togetter.com/li/650580
−捕鯨ニッポンが最悪のドツボにはまる可能性
http://kkneko.sblo.jp/article/93046598.html
−調査捕鯨継続なら、本川水産庁長官は更迭、林農相も辞任すべし!
http://kkneko.sblo.jp/article/93365382.html

posted by カメクジラネコ at 22:02| Comment(2) | TrackBack(0) | 特設リンク