2016年11月20日

捕鯨国際会議の裏側──IWC66で水産庁は国民に何を伝え、何を伏せようとしたか

 10月20日から28日までスロベニアで開催された第66回国際捕鯨委員会本会議の模様については、期間中ツイッターでお伝えしてきたとおり。


 なお、会議の模様は動画で実況中継もされました。

■国際捕鯨委員会スロベニア会合公式HP及びユーチューブアカウント
https://iwc.int/iwc66
https://www.youtube.com/channel/UCLtg7GtpJ_eTaJuPqRyOOhQ

 詳細については以下もご参照。

■66th Biennial Meeting of the International Whaling Commission (IWC66) | IISD
http://www.iisd.ca/iwc/66/
■What happened at the International Whaling Commission Meeting 2016? | WDC
■What happened at the International Whaling Commission 2016 meeting | GP-UK

 国内マスコミの社説は全国紙3紙、地方紙2紙。日経と朝日は南極産美味い刺身≠ノ常軌を逸した熱情を注ぐ国の姿勢に首をひねる大方の国民の意見を代弁する内容で○。後は環境音痴・科学音痴をさらけ出すトンデモ鯨食害論全開で×(詳細はツイッター)。

■クジラめぐる不毛な溝埋めよ (11/1,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO09015410R01C16A1EA1000/
■調査捕鯨 本当に展望はあるのか (11/1,朝日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12636100.html
■調査捕鯨 継続には国民的議論が大切だ (10/30,読売)
www.yomiuri.co.jp/editorial/20161030-OYT1T50124.html (リンク切れ)
■国際捕鯨委員会 機能不全を解消するには (11/7,西日本新聞)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/287335
■捕鯨を巡る対立 粘り強い説得が必要だ (11/12,北海道新聞)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0092118.html

 永田町の捕鯨族議員では、自民党から伊東良孝衆院議員と金子恭之衆院議員、民進党から野田国義参院議員が出席。金子議員、野田議員とも、一部のアフリカ・カリブ海諸国等から成る捕鯨支持国との会食付打ち合わせの模様を報告してくれています。金子議員は筆者がリプライ付けたツイート1個消しちゃいましたけど。。これらの国々の大半は捕鯨産業と何一つ所縁もなければそこから入る益もありません。日本からODAを優先配分してもらえる以外には。

■第66回 国際捕鯨委員会〔IWC〕総会出席のアフリカ諸国政府代表との夕食会|金子やすしオフィシャルサイト
http://www.kaneko-yasushi.com/archives/date/2016/10/25
http://www.kaneko-yasushi.com/archives/date/2016/10/26
■IWC(国際捕鯨委員会)総会へ出席・党捕鯨議連にて報告|野田くによしオフィシャルサイト
http://nodakuniyoshi.net/report/%ef%bd%89%ef%bd%97%ef%bd%83%e5%9b%bd%e9%9a%9b%e6%8d%95%e9%af%a8%e5%a7%94%e5%93%a1%e4%bc%9a%e7%b7%8f%e4%bc%9a%e3%81%b8%e5%87%ba%e5%b8%ad%e3%83%bb%e5%85%9a%e6%8d%95%e9%af%a8%e8%ad%b0%e9%80%a3%e3%81%ab/

 水産官僚や族議員らとともに出席していたのが三軒一高太地町長と下道吉一日本小型捕鯨協会会長。すったもんだの一幕もありましたが、業界関係者にとっては世界にどう見られようと関係ないのでしょう・・

■スロベニアIWC66(3)NGO発言|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/iwcngo-4e71.html
■IWC 66 Day Three | ORCALAB
http://orcalab.org/2016/10/26/iwc-66-day-three/

 で・・以下が水産庁の公式結果報告。

■「国際捕鯨委員会(IWC)第66回総会」の結果について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/161029.html

 上掲の概要を以下のIWC及びNGOの報告と比較してみましょう。税金で送られている日本政府代表団の報告には、実際に審議され採決された重要な決議すら一部しか列記されていません。彼ら捕鯨サークルが、国際会議でどのようなことが話し合われたのかを如何に国民の目から隠したがっているかがよぉくわかります。

■Five Resolutions Adopted on Day Four of the IWC Plenary | IWC
https://iwc.int/day-four-special-permit-whaling
■Decisions taken at IWC 2016 | WDC
http://uk.whales.org/wdc-in-action/decisions-taken-at-iwc-2016
■IWCスロベニア会議 その4決議など|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/iwc-9fbe.html

 詳しい解説はNGOと専門家がバッチリしてくれてますので、筆者の方では要点を1枚の絵にまとめてみました。
iwc66reso.png

 さらに、設立70周年を記念する今年のIWC総会にぶつけるように、日本は自国が法の裏を掻くダーティーな国であることをアピールするかの如く、ネタをわざわざ3つも提供してくれました。

@ICJ判決の反省なく新南極海調査捕鯨NEWREP-Aを強行
A日本の業者が海外向け通販サイトでワシントン条約違反の鯨肉缶詰を販売
B沿岸捕鯨に続き遠洋でも改めて明らかになった過去の商業捕鯨のデータ改竄

■Illegal sale of Japanese whale meat exposed by WDC on eve of international whaling meeting | WDC
http://uk.whales.org/news/2016/10/illegal-sale-of-japanese-whale-meat-exposed-by-wdc-on-eve-of-international-whaling-0#.WAT7uLfjrH4.twitter
■Japan Repeatedly Falsified Whaling Reports (9/13,Seeker)
http://www.seeker.com/new-investigation-finds-japan-repeatedly-falsified-whaling-reports-2004275176.html
■What's the catch? Validity of whaling data for Japanese catches of sperm whales in the North Pacific | ROYAL SOCIETY
http://rsos.royalsocietypublishing.org/content/2/7/150177
■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015
■新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ(拙ブログ記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/176208780.html

 また、関連するトピックとして大きいのが、日本の調査捕鯨操業海域とばっちり重なるロス海MPA(海洋保護区)がようやくCCAMLRで日の目を見たこと。国内ではAFP以外取り上げられず。水産庁のプレスリリースも、閉会日は同じなのに、なぜか3日後に配信されてます。サンクチュアリの意義に対する日本政府の非合理で非科学的なダブスタは決して許されるものではありません。

■CCAMLR to create world's largest Marine Protected Area | CCAMLR
https://www.ccamlr.org/node/92518
■世界最大の海洋保護区、南極ロス海に設置へ 国際会議で合意 (10/28,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3105973
■Major diplomatic coup for New Zealand as world's largest marine reserve finally gets the tick (10/28,NZHERALD)
http://www.nzherald.co.nz/world/news/article.cfm?c_id=2&objectid=11737669
■「南極の海洋生物資源の保存に関する委員会 (CCAMLR) 第35回 年次会合」の結果について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/161031_3.html

 
 閉会後、お馴染みの森下日本政府代表が以下のように発言。これだけ読むと、あたかも日本が理性的・抑制的に振る舞ったかの印象を受けます。

■対話の窓が開かれた=日本政府代表−IWC (10/29,時事)

 当然のことながら、「相手の立場を理解し、主張に耳を傾けること」「お互いに独善的な原理主義を捨てること」「妥協点を探ること」が対話の大前提のはず。

mses.png
■Future IWC for Japan, fishery, the world and whales; the keyword is "Ebisu"

 上掲は筆者が自身のスタンスをいったん脇に置いたうえで提案するIWCのあるべき将来像。「whaling」の定義を拡張することで、IWCは条約と整合性の保たれた現実的かつ理想的な国際機関に脱皮することが可能になります。漁業にとってもはかりしれない利益をもたらし、日本がリーダーシップを発揮して国際社会に貢献し、プレゼンスを大きく高めることだってできるはずなのです。

 しかし・・残念ながら、日本の唱える「対話」は口先だけにすぎませんでした。

■対話の素地ができたって???|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-bfb7.html
■抗議声明 「日本政府の新北西太平洋鯨類捕獲調査計画(NEWREP-NP)の撤回を!」

 NEWREP-NPは、JARPAU、JARPNU、NEWREP-Aより輪をかけてひどい、眩暈がするほどの超ガラクタ調査捕鯨です。
 国民の一人として国の誠意を少しでも信じた筆者がバカだったと、ひたすら残念でなりません……。
 次回、「調査捕鯨という名の乱獲・超ガラクタNEWREP-NP」の予定。
posted by カメクジラネコ at 17:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2016年10月09日

野生動物をことごとく貪る捕鯨推進派の持続的利用原理主義は百害あって一利なし

ゾウ、ヨウム、ハヤブサ、トカゲ、カエルまで、みんな捕鯨のとばっちり!

 ここ半月余り、TVは連日のように豊洲・五輪施設関連報道に明け暮れ、視聴者の身としてはいささか食傷気味。
 確かに、築地市場移転問題は食・漁業に直結することで決して疎かにはできません。振り回される市場関係者が本当にお気の毒ですし、東京都は移転の遅延に伴って発生した損害について、真摯に補償等の対応に努めるのがスジでしょう。そして、どのような形であれ、うやむやな説明でごまかしたり、強弁で押し切るのでなく、市場関係者や消費者が完全に納得のいく形で決着が図られるべきです。
 それにしても、莫大な税金を使ってすでに施設が完成し、いよいよ引越しという間際になってからでは、あまりにも騒ぐのが遅すぎないでしょうか? 五輪施設も同様ですが。
 移転の是非、五輪招致の是非をめぐる当時の報道の質・量に比べ、小池劇場≠ノ注がれるエネルギーの膨大さには、ある種の違和感を禁じ得ません。「この間一体何をやっていたのか!?」という問いは、歴代知事、都の担当者、都議会ばかりでなく、マスコミに対しても向けられるべきでしょう。
 偏った報道の裏には、今国の内外で起きているさまざまな出来事から国民の目を逸らす意図もあるのではないか──つい、そんなふうに勘繰ってしまいます。

 そのひとつ、CITES(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:通称ワシントン条約)の締約国会議がこの9月下旬から南アフリカ・ヨハネスブルクで開かれました。
 3年に1度開かれる、いま絶滅の危機にある世界中の野生生物の帰趨を左右するきわめて重要な国際会議です。
 そこでは間違いなく小池劇場≠ノ負けないドラマが繰り広げられていました。
 プレイヤーは、国益(ないしは業界益)を背負った各国政府代表団。そしてNGO(非政府組織)、いわゆる市民団体。野生動物たちの声を代弁する気ぐるみやマスコットも登場しましたが。
 その中で、とくに存在感を示した役者が3カ国あります。
 それは中国インド、そして日本
 中でも日本は、残りの2カ国とも異色の役回りを演じ、一際目立っていました。
 「どんなふうに」って?
 それは、会議に参加したNGOと研究者の方々が報告の中で教えてくれています。
 CITES#COP17にオブザーバーとして参加したJWCS(野生動物保全論研究会)、JTFF(トラ・ゾウ保護基金)、早稲田大学の国際政治学者・真田康弘氏、会場を取材した朝日新聞アフリカ支局の三浦英之氏による現地からの報告をもとに、日本がどういう具合に脚光を浴びたのか、追ってみることにしましょう。


 以下、背景着色部分引用。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/780065662383382528
クロサンゴ・アカサンゴについての審議が行われています。日本は「サンゴについてはワシントン条約は何の役にも立たない、なぜならサンゴはあらゆる場所で密漁され、小さな漁港に運び込まれるからだ」という。海生種について全面的に国際取引規制を拒絶する姿勢がありありと表れている

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/780516854049759238
前回の締約国会議でサメ関係で決議を妨害しようとしてきたのは日本・韓国・中国だったのですが、今日の審議では中国も表立って今日審議の決議に反対しない立場を取り、決議にいちゃもんをつけまくる日本だけが「悪代官」として浮いてしまっていました。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/781526466974609408
カナダが提案したハヤブサの附属書TからIIへのダウンリストが3分の2に達せず否決。日本はダウンリストに賛成と発言。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782508977032687616
ヨウムの国際取引禁止の提案、日本は附属書格上げの要件を満たしていないと反対の発言。

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/782573163934806016
お昼のサメ関係のサイドイベントにて。水産庁の中の人「この問題は地域漁業機関で扱うべき」と相変わらずのオウム返し。その後で南太平洋地域の政府間組織代表より「サメでは地域漁業機関は全然ダメだったやん」ときっちり反論され、すっかり会場の人に(・∀・)ニヤニヤされちゃいました。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782655613138509824
マレーシアのミミナシオオトカケ全種を附属書Tにする提案に、日本は附属書T掲載の要件に満たないと発言。日本、韓国、インドネシアの反対で、附属書Uで輸出割当量ゼロで合意。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782862611553607680
日本はナミビア・ジンバブエ案の修正を提案し、それを受け入れた提案が秘密投票になりましたが、どちらも否決。この会議の前にマリとベナンの政府代表は、象牙の国内市場閉鎖の議題が合意されたので日本も附属書T格上に賛成するのではと話していたのですが。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782950653769515008
附属書Uのスワジランドのミナミシロサイの自然死したサイの角や密猟から押収した角を国際取引できるようにする提案は、秘密投票で賛成26 棄権17 反対100で否決。日本は保全ができているとして取引支持の発言をしていました。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782971726850383872
クロトガリザメSilkysharkを附属書Uに掲載する提案に日本はサメの識別など実行が負担、掲載の要件を満たしていないと発言。そして秘密投票を提案。結果は賛成111棄権5反対30で採択。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782976277586247685
オナガザメ属全種を附属書U(国際取引に許可が必要)に掲載する提案に日本はまたしても反対。サメとエイは附属書Uにしても保全の利点がないと発言。提案国は附属書Uに掲載して持続可能な漁業をめざしている。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782987499417309185
イトマキエイ属の附属書Uにまたしても日本は反対。生息数が掲載の要件を満たしていない、附属書Uは保全の利点がないとサメと同じ趣旨の発言。コンセンサスができず投票へ

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/783000739308273664
メキシコ提案の観賞魚の附属書U掲載に日本は掲載要件を満たしていないので、自国の種だけ国際取引禁止にする附属書Vを提案。投票で賛成69棄権15反対21で採択

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/783285742193836032
全体会議で委員会の合意を決議しています。クェートからハヤブサのダウンリストが否決された件で、再議論を提案。投票で再議論が否決。日本は再議論に賛成していました。

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/783246893308637185
チチカカ湖にしか生息しないチチカカミズガエルの付属書T掲載提案に、生息国が提案してるのに日本は「科学的根拠が不明確だ」と一人いちゃもんつけるも、議長から「コンセンサスをブロックしないね」と迫られ撤回。水にあるもの皆反対というCITES水産外交の象徴的場面でした。

 なんというか・・もうここまで来ると、「アッパレ」というほかないですね・・・・。
 もちろん、現実の国際交渉の場のこと、個々の種の取引に関する議論では国毎に立場が分かれますし、どの国であれ必ずしも一貫したスタンスが取れるわけではありません(自国の産業に奉仕する面も含め)。
 そんな中、日本はあくまで教条主義的な持続的利用原理主義≠ノ固執し、『(保護のための規制強化には)なんでもかんでも反対!!』の姿勢を貫いた点で、「なんとも不思議な国だ」と世界に強烈に印象付けることに成功したといえます。
 「野生動物はとにかく消費して金に換えないと気がすまない国」だと。自国に直接の利害がほとんどない対象でさえ。
 実際、日本に対する印象は他国との相対評価で大きく下がった点は否めません。欧米のみならず、いま国際政治の舞台で先進国に肩を並べるほど大きな存在感を示している新興国・中国とインドとの比較において。

https://twitter.com/miura_hideyuki/status/781129304029749248
ワシントン条約会議で環境団体のブースを回る。日本人としてはいたたまれない。浴びせられる質問は同じ。「なぜ日本は象牙市場の閉鎖に反対?」「日本人にはそこまで象牙が必要?」。釈明するが合理的な説明にならない。アフリカ諸国が象牙市場の全面閉鎖を訴え、米中が賛成、日本はそれに反対している

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/783051118108696578
サメ系付属書U提案が採択に必要な3分の2を大幅に上回る約4分の3の多数で委員会採択。前回サメ系に反対した韓国は終始沈黙、中国も玉虫色発言を行い、日本が経済的利害のないこの提案に固執し多数の途上国が賛成するなか惨敗しました。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/782553807163121664
日本は、「密猟を増加させるような著しい違法取引」に寄与する国に限って閉鎖すべきと主張していた。これによると、閉鎖対象は、一部アフリカの無法地帯くらいに限定されてしまう。一方、中国は違法取引に関係のない市場など、この世に存在しないと主張、拍手を浴びた。日本の主張は顧みられなかった。

https://www.facebook.com/yasuhiro.sanada.7/posts/1072613156184764
EUはどんな話題にも発言してかんできます。米国にしてもたいがいの場面で発言します。アフリカ諸国もどんどん発言します。しかし日本は私が聞いていた限りでは、第一委員会ではこの日最後に扱った唯一の植物以外の提案であるハヤブサの付属書掲載TからUへの格下げに賛成発言をしただけでした。存在感がなくてとても残念です。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/783553058022289408
一つ一つの国の方向性を観察しても、この10年間で大きく変わった国が多いのが印象的です。保護のもと結束する大多数のアフリカ諸国、大きな問題は残るものの大胆な保護の強化をする中国、再び毅然とした姿勢を示す米国。その中、産業利用一辺倒の政策を20年来全く変えぬ日本は発展を忘れた「化石」

https://twitter.com/miura_hideyuki/status/783679824971886594
会議の実感。中国は国際政治に長けている。日本はどうか。その近視眼的な方策は島国でこそ通用する理論であり利益だ。世界の風をリアルに感じ、大勢を読んで大胆に動く。そんな政治家や官僚が今の日本には圧倒的に足りない

https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=285215&comment_sub_id=0&category_id=256
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:eyZOEgHH5LAJ:www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php%3Fcomment_id%3D285215%26comment_sub_id%3D0%26category_id%3D256+&cd=5&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
象牙取引を巡っては、オバマ米大統領と中国の習近平国家主席が昨年9月の首脳会談で、国内取引の禁止に取り組むことで合意した。アッシュ氏は「中国側は今年中に取引禁止に向けたスケジュールを示すと約束した」と明らかにし「日本も共に立ち上がるべきだ」と付け加えた。

 こちらはおなじみの水産学者・東京海洋大・勝川俊雄准教授のコメント。

https://twitter.com/katukawa/status/783191073438904321
今回のワシントン条約締約国会議は、これまでと違う。中国の方向転換によって、日本が孤立するという新しいステージに突入したような印象を持ちます。

https://twitter.com/katukawa/status/782805366543220737
自然保護のシンボルともいえる象牙は、世界的な関心が高い。「日本は、持続性よりも目先の金が大切な国」という風に受け取られかねない。国益を考えたときに妥当な判断だったのだろうか?

■ワシントン条約の象牙規制

 実際、中国とインドの両国は、悪役∞引き立て役を自ら買って出た日本に事実上助けられる格好で、国際的な好感度≠大幅にアップさせるのに成功したといえるでしょう。とくに中国は必ずしも進歩的な発言ばかりではなかったのですが。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/780357390411718656
CITES CoP17 サイドイベント 中国政府による、中国のCITESの法執行。満席です。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/782545130888855552
インド政府主催トラ保護サイドイベント。1973年に狩猟でトラ個体数が激減し、狩猟禁止にし9の保護区を作った。その後危機もありながら今は28に。密猟防止強化。野生動物保護リーダー国。背景にガンジーの動物たちも生きる権利ありの信念が。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/782865269672771584
これに対し、インドとナイジェリアは象牙の資源利用に依存しない、地域によりそったプログラムが実際に成立することを強調していたことも重要だ。

 何しろ、一方の日本はといえば、こんなところまでしっかり見られちゃう始末・・・・。

https://twitter.com/NakaweProject/status/782290681435918336/photo/1
Sleaze at @CITES!!! Japan delegates treat South East Asian & African delegates to big dinner drinks night before #shark vote at #CITESCoP17

https://twitter.com/JTEFstaff/status/782480807353090048
政府が、自国のポジションへの指示を訴えるために、浮動票の国々を選んで、パーティーやディナー、1日旅行にでかけることは、私が知る限り、1994年以来、何度もあった。

 さすがにこれでは、以下のような指摘も免れないでしょう。

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/783538357687189505
今回の#CITES COP17を通して出席した感想ですが、敢えて先進国・新興国のなかでよせばいいのに唯一嫌われ役を買って出て悪目立ちし、なのにやたら弱く格好の藁人形役とされ敗れる様は、「日本のCITESショッカー外交」と言えるかも、とも思いました。キィ。

 筆者がとくに憂慮するのは、このCITESショッカー外交国民の総意を得たものではないのに、日本のキャラクター≠ニして世界に受け止められてしまうことです。
 これらは経産省・水産庁・環境省の役人が国民の声を聞かぬまま天下り先ともなる業界擁護のために勝手に動いた結果です。さらにいえば、自国の主張が世界に受け入れられる見込みもまったくない中、業界への忠誠を必死にアピールする内向きの動機に基づくものなのです。
 国際会議の場で、ただひたすらジゾクテキリヨウ教という空疎な念仏を唱え続ける日本の役人たちが、世界中の人々の目にどれほど滑稽に映ったことか。
 それに対し、中国は間違いなく外交ポイントを稼ぎました。同国がかつての日本にも重なる一大消費国として重大な責任があるのは事実ですが、米国を始め各国と協調しながら前向きに取り組む姿勢を強く打ち出したことで、国際社会に歓迎されたのです。実効的な政策について強く問われることなく、非難をかわすことができたのは、半ば日本のおかげといっても過言ではないでしょう。中国の方から頼むまでもなく、独り勝手にエゴイスティックな行動に終始し、ショッカーのイメージを一国でかぶってくれたわけですから。
 環境外交での完全敗北は、他の分野にも影響を及ぼさずにはいないでしょう。
 IWC日本政府代表・森下氏ら捕鯨関係者の言説に端的に示される持続的利用原理主義≠ェ日本の国益にとってどれほど有害か、すべての日本国民が知るべきです。

以下、締約国会議に参加したNGOによるイベントのお知らせ
ワシントン条約第17回締約国会議報告会
●主催:認定NPO法人 野生生物保全論研究会(JWCS)
●共催:NPO法人 アフリカ日本協議会
●日時:10月14日(金)18:30−20:30
●会場:地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)
posted by カメクジラネコ at 19:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2016年08月27日

金を払ってSSCSと和解の怪! 司法判断から逃げ続ける卑劣な鯨研と共船

 最後のJARPNU(北西太平洋調査捕鯨)沖合調査が終了し、10月にスロヴェニアで開かれるIWC年次会議まで、しばらくクジラは世間の話題に上らないだろうと思っていたら、唐突にニュースが流れ込んできました。

■調査捕鯨の妨害しない 米の反捕鯨団体と合意 (8/23,NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160823/k10010650891000.html
■捕鯨妨害、永久に禁止=米シー・シェパードと合意−豪団体は活動継続の意向・日本側 (8/23,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016082300406&g=eco
■シー・シェパード 調査捕鯨妨害、永遠に禁止 日鯨研合意 (8/23,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20160823/k00/00e/040/178000c
■シー・シェパード、捕鯨妨害禁止で日本側と合意 米での訴訟決着 (8/23,日経/共同)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H40_T20C16A8CR0000/
■逆風続く調査捕鯨 豪、NZなど根強い反対 妨害禁止合意 (8/23,東京/共同)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201608/CK2016082302000245.html
■「妨害永久に行わない」合意に抜け穴…拠点移し、高速新造船を投入 ワトソン容疑者「南極海に戻る」と豪語(8/23,産経)
http://www.sankei.com/world/news/160823/wor1608230032-n1.html
■妨害禁止「一定の効果」 調査捕鯨、米シー・シェパードと合意=訂正・おわびあり (8/24,朝日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12525379.html

日本側が金銭を支払う一方(引用〜NHK)

 これを聞いて、誰もが一瞬「えっ!?」と耳を疑ったことでしょう。
 裁判で事実上勝っている被害者が、一体なぜ加害者に金を払う必要があるのか、と。
 ネット上では「盗人に追い銭」という感想が聞かれますが、盗人より暴漢に近いとはいえ、あながち間違いとも言い切れないでしょうね。
 NHKは同記事中、他紙も第二報で、今回の取り決めは米国以外のSSオーストラリア支部等には「適用されない」とする当事者のコメントを伝えています。
 「じゃあ、一体全体何のために金を払ったの??」と、疑問はますます膨れあがるばかり。

■捕鯨妨害「禁止」 この合意では安心できぬ (8/26,産経)
http://www.sankei.com/affairs/news/160826/afr1608260011-n1.html
■[捕鯨妨害禁止] 安全性は確保されるか (8/25,鹿児島新聞)
https://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201608&storyid=78229
■捕鯨妨害禁止、安全確保の取り組み続けよ (8/25,世界日報)
http://www.worldtimes.co.jp/opnion/editorial/71537.html
https://vpoint.jp/opnion/editorial/71203.html

 今のところのマスコミの反応はこのくらい。国民の抱く素朴な疑問とはおよそかけ離れた内容で、違和感は強まる一方です。なお、最後の世界日報およびビューポイントは統一教会系メディア。いかにもそれっぽい感じ・・。
 そんな中、唯一ごくまともなツッコミを入れてくれたのが、こちらのコラムニストの保科省吾氏。

■暴力集団シー・シェパードに日本側が和解金を支払う謎 (8/25,メディアゴン)
http://mediagong.jp/?p=18812
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160825-00010000-mediagong-ent&p=1

だが、なぜ正当な理由で得た賠償金を返さなければならないのか。さっぱり分からない。
民事裁判だから原告(鯨類研究所)被告(米のシー・シェパード)とも、なんらかの利があって双方合意したということか。では、日本鯨類研究所の利とはなんなのか。シー・シェパードのそれはなんなのか。
もっと調べないと真実は分からないが、筆者はシー・シェパードにも日本鯨類研究所にもある種の怪しさを感じてしまうのである。(引用)

 当事者である日本鯨類研究所(鯨研)および共同船舶(共船)とSSCSの発表をチェックする前に、まず上掲の朝日と産経の記事中の重大な誤りについて、指摘しておきましょう。
 朝日記事(農水担当野口陽記者)は、アナログ版では8/24の三面、かなり大きな扱いです。
 オンライン記事の方は「訂正・おわびあり」とあり、鯨研が写真した写真のキャプションが間違っている旨追記されています。ちなみに、野口記者が日新丸と間違えた補給船の名称はサン・ローレル号パナマ船籍で船会社は韓国だったりします。いわゆる便宜置籍船。この辺も日本の調査捕鯨のいかがわしさ。

国際司法裁判所(ICJ)は14年、捕獲数が多く肉を販売しており、実質的に商業捕鯨に当たるとの理由で、南極海での調査捕鯨を違法と判断(引用)

 捕鯨の賛否によらず、捕鯨問題・ICJ調査捕鯨裁判の経過をウォッチしてきた人は、この一文を見てあからさまに眉をしかめたことでしょう。実際、和田浦の外房捕鯨の社長である庄司義則氏も「この記述は明らかな誤りです」(引用)と指摘するほど。

■シーシェパード(SS)と日本鯨類研究所の和解報道に関連して (8/25,外房捕鯨株式会社)
http://gaibouhogei.blog107.fc2.com/blog-entry-761.html

 国際捕鯨取締条約(ICRW)8条のもとで副産物≠フ利用は認められており、従来日本の調査捕鯨の合法性の拠り所とされてきました。「肉を販売したこと」が「違法判断の理由」と書いてしまった野口記者は、捕鯨問題の基礎中の基礎もまったく勉強していないことが明らかです。
 ただし、庄司氏の次の主張も明白な誤り。

「ICJが日本の調査捕鯨が擬似的な商業捕鯨であると認定した」と誤った報道をすることにより(引用〜外房捕鯨ブログ)

 無知な野口記者と異なり、事情を知っているはずの庄司氏のコメントは狡猾な誘導といわざるをえません。外房捕鯨は現在IWCの規制対象外となっている日本近海のツチクジラとゴンドウを捕獲対象としており、本来なら南極海母船式捕鯨とは一線を画する立場であっていいはずですが・・捕鯨支持国向けのレクチャーを引き受けたり、侵襲的で硬直的な性格も含め、中央の捕鯨サークルとどっぷり一体化してしまっているのは、きわめて残念なことです。
 ICJは、JARPAUは「商業捕鯨モラトリアム違反」である、すなわち商業捕鯨だったとはっきり認定しています。そして、その証拠として、本川一善水産庁長官(当時)による「刺身にしたとき非常に香りと味がいいミンククジラを安定的に供給するため」との国会答弁を採用し、判決文にもきちんと明記されました。要するに、科学が主目的≠ナ鯨肉が副産物≠ナさえあれば、JARPAUは商業捕鯨ではなく合法的な調査捕鯨として認められていたのです。しかし、ICJは、鯨肉こそが主産物であり、その安定供給がJARPAUの主目的だったときっぱり認定したのです。
 読者の皆さんには改めて説明の必要もないと思いますが、詳細はこちら。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html

 朝日記事に話を戻しましょう。
 「捕獲数が多く」も詳細な補足が必要。ナガスクジラやザトウクジラは捕獲数が少数ないしゼロでも「成果あり」としながら、クロミンククジラのみ大量経年致死調査が「不可欠」とする矛盾を日本側が説明できなかったことがその理由。詳細は上掲拙記事解説をご参照。
 判決後に「じゃあ、捕獲数を増やせばよかったんだ」と外野の捕鯨推進派が訴えたものの、日本はNEWREP-Aで対象種をクロミンク1種のみに絞ったうえ、捕獲数を333頭に縮小、ますます矛盾だらけになったのが実情です。

調査捕鯨を日本が続けるのは、鯨が増えていることを証明するデータを集め(引用)

 こちらも完全な間違い。NEWREP-Aの主目的は「RMPの高精度化」「生態系モデルの構築」。
 なお、クロミンククジラについては、IWC科学委員会におけるJARPAレビューの中で「調査期間中の増加の停止」が確認されています。
 いま「増えている」と日本側が主張しているのは、「商業捕鯨対象になりえる」との理由で唯一の捕獲対象としたクロミンククジラではなく、ザトウクジラとナガスクジラ。ただし、ナガスクジラについてはIWC科学委員会で生息数について合意されてはおらず、どちらも日本をはじめとする捕鯨会社の乱獲によって激減した状態から少し回復しつつあるとみられるだけで、「増えている」という言葉を用いるのは大きな誤解のもとです。
 詳細はこちら。

■間引き必要説の大ウソ|拙HP
http://www.kkneko.com/mabiki.htm

 続いて、おなじみパクリ記者佐々木正明氏がリオからわざわざ届けてくれた産経記事。ただ、朝日ほどひどくはないといえ、いつもの佐々木節でたいした中身はなく、適当に書いた作文≠ヌまり。

一方、ワトソン容疑者は最近、「フランスを出る」「南極海に戻る」などとの発言を繰り返しており(引用)

 佐々木氏はこんなことを書いているのですが、以下の海外報道が出た25日の2週間前には、当のポール・ワトソンは米バーモント州に入っていた模様。まともなジャーナリストだったら穴に隠れたくなるくらい恥ずかしいチョンボ。
 不思議でならないのは、こんなガサツな作文で原稿料を要求できる佐々木記者と支払える産経の神経。ろくに裏取りもしないで駄文を書く暇があったら、リオでちゃんと仕事すりゃいいのにね・・

■US anti-whaling group to stop interfering with Japanese (8/25,FOX NEWS)
http://www.foxnews.com/world/2016/08/25/us-anti-whaling-group-to-stop-interfering-with-japanese.html
■Sea Shepherd's Paul Watson Returns to the U.S (8/25,MarEx)
http://www.maritime-executive.com/features/sea-shepherds-paul-watson-returns-to-the-us

 マスコミ報道チェックはこんなところで、当事者の発表内容を検証してみることにしましょう。

■対シーシェパード訴訟での調停合意のお知らせ|日本鯨類研究所
http://www.icrwhale.org/160823ReleaseJp.html
■妨害差止訴訟・豆知識|〃
http://www.icrwhale.org/10-A-b.html
■米国第九巡回区控訴裁判所の法廷意見|〃
http://www.icrwhale.org/pdf/daikyujunkaihoutei.pdf
■米国第九巡回控訴裁判所・命令|〃
http://www.icrwhale.org/pdf/karishobunmeirei.pdf

 鯨研&共船v.s.シーシェパードの場外プロレスの経緯は、上掲2番目のリンクにあります。
 まず、2011年に捕鯨サークルの2角をなす鯨研・共船が米国のワシントン州米連邦地裁に妨害行為の禁止を求めて提訴。同地裁が仮差止命令の申し立てを却下したため、翌2012年に鯨研&共船側が第九巡回上訴裁に控訴。こちらで鯨研&共船側の言い分が概ね通ったわけです。
 その後SSCS側が命令を無視したため、法廷侮辱罪として賠償金255万ドル(約3億円)を課せられ、実際に連中は支払ったわけです。
 法廷侮辱罪の罰金は「原告の弁護士費用・経費及び被告の妨害により生じた損害」(引用) 3億円が懐に入ったといっても、決してまんまと大金をせしめたわけではありません。どんな裁判の賠償請求の場合も同じですが。
 つまり、船や機材などの修理代や弁護費用等にかかった実費分を加害者に払わせたはずなのに、その一部(金額不明)をわざわざ返してしまったのです。まさに保科氏の言うとおり、「さっぱり分からない」ですね・・。
 民事賠償請求で、そのような和解が一体起こりえるでしょうか?
 示談金(通常相当な高額)を加害者側≠ェ支払う代わり、刑事告訴を取り下げるという取引なら、よく聞く話です。しかし、このケースでは金を払ったのは被害者≠フ方なのです。
 暴行を受けた被害者側が、すでに裁判自体は勝訴目前(判決には至っていないものの、原告の主張に沿って差止命令を出した状態)のステータスでありながら、損害補填のために得た賠償金を「和解金」の名目で返すなんて話は、およそ聞いた試しがありません。
 朝日記事に写真があるとおり、13年に実害を蒙ったのは韓国企業が所有するサン・ローレル号。鯨研&共船がSSCSから得た賠償金は同号の補修費用に充てられるべきですが、こうなると彼らが本当に受け取れたのか疑わしくなってきますね・・。
 ちなみに、この3億円と同額の予算が「調査捕鯨円滑化事業」の名目のもとSSCS妨害対策費として2009年度から付けられ、その額は年を追う毎に膨れ上がって年間11億円を越え、東北大震災のあった2011年には復興予算まで流用して約23億円が確保されました。
 修理費用にも充てずSSCSに金を戻すくらいなら、国庫に返還するのがスジというもの。
 産経佐々木記者にしろ朝日野口記者にしろ、納税者の視点が圧倒的に欠如しているといわざるをえません。
 報道されているとおり、SS-AUSによる妨害は継続が考えられ、オーストラリアで米国と同様に司法による解決をはかることは不可能です。
 ちなみに、豪連邦裁による日本の調査捕鯨裁判の経緯については、下掲リンク先をご参照。まじめに賠償金を払ったSSCSと異なり、共船は豪裁判所の命令をガン無視。出廷要求にすら応ぜず。

【共同船舶はオーストラリア連邦裁判所法廷侮辱罪での罰金100万豪ドル(約8750万円)支払い命令を無視して未だ納めず】
http://textream.yahoo.co.jp/message/1834578/a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa/1/75954

 SS-USからの資金の流れがなくなるといっても、妨害の規模が縮小するという具体的な根拠は何もありません。産経佐々木記者は抜け穴≠ニ表現していますが、民事の取り決めにすぎず、日本の脱法調査捕鯨と同じ意味での国際法の網の目をかいくぐる抜け穴とは言えないものの、外れてはいません。新船はすでに建造済み、実行部隊はもともとAUS支部、支援者には寄付を直接そっちへ送るよう呼びかければ済む話で、SS側が実質的に困る要素はほとんどないと言っていいでしょう。つまり、今回の決定を受けて、国から安全対策にかける予算が減ることはないのです。日本国民には何の利益もないのです。
 一方、NEWREP-Aでは妨害による計画への支障を減じる万全の対策を講じている旨も、水産庁は公言しています。
 要するに、今回の当事者同士の表向きの和解は、情勢の変化を何ももたらすわけではないのです。
 当事者以外には詳細がベールに包まれたこの不可解な和解は、さらに大きな疑念を呼び起こします。

妨害禁止で合意したのは、訴訟費用がSSに重くのしかかったためとの見方がある(引用〜朝日)

 誰の見方なのか記事には書かれていませんが、朝日野口記者にこう耳打ちしたのは、鯨研・共船関係者に間違いないでしょう。
 しかし、2つの観点でこの見方≠ヘ決定的に間違っています。
 SSCSにとって少なからぬ費用負担となったのは、訴訟費用というより3億円の賠償金(大半は船等の損害賠償)のはず。産経・佐々木氏が以前記事にしていますが、オランダの宝くじ団体から入手した11億円が年間予算に相当するとすれば、3億円の損失は確かに痛いでしょう。
 ただ、弁護士委託等のそれ以外の訴訟関連費用より、南極海に船を送る妨害活動の経費の方がはるかにコストがかかります。反訴によって賠償金を減額させる、あるいは相手からも賠償金を得るという戦術も考えられるでしょう。敵≠ナある相手から金を受け取り、秘密の協定を交わしたうえで手を引くのは、SS流の直接行動をこれまでずっと支持してきたサポーターたちにとってみれば裏切り行為と映るもので、今回の和解自体が同団体のイメージダウンにつながり、寄付収入の減少の形で打撃を与えても不思議はありません。まさに本末転倒です。
 もうひとつ、もし本当に金がなくてSS側が困っているとすれば、なぜ鯨研・共船側から手を差し伸べてやる必要があるのでしょうか? SSCSが本当に財政的に行き詰まり、訴訟費用の負担に喘いでいるなら、鯨研・共船側から救済を申し出なくても、SSCS自らの判断で訴訟ないし妨害活動ないしはその両方を断念するでしょう。鯨研・共船側から、自分たちの蒙った損失分の補償金を返上してまで、彼らに援助≠オてやる理由は何もないはずです。共謀者でない限り。
 すなわち、SS側の不利益とは別に、鯨研・共船側にとってここで妥協を成立させておきたい強固な理由があるはずなのです。仇敵と握らなければ確実に失うもの、あるいはそうすることで得るものが。

本合意の詳細は、裁判所により公開された永久的妨害差止に関する情報を除いて合意条項に基づき対外秘となっている。(引用〜鯨研プレスリリース)

 鯨研・共船側から返還された額が相当大きかった──おそらく3億円の大部分が返ったのでしょう──疑いとともに、お互いにとってそうしたデメリットを補って余りある何かが、この密約の裏に隠されているのは否定の余地がありません。
 誰もがこう疑問を抱いて当然でしょう。

日本鯨類研究所の利とはなんなのか。シー・シェパードのそれはなんなのか(再引用〜メディアゴン)

 以下は筆者の推理。
 まず、SSCS側の大きな利について。


I am now free to travel in the USA and France(引用)

 これはワトソンの8/19のFB。まさに鯨研のプレスリリース直前のコメント
 それに対して、彼が「フランスを出たがってる」と書いてしまったお間抜けな産経佐々木氏が、悔しまぎれにつぶやいています。


米国は日本と犯罪人引き渡し条約を結んでおり、日本側が要求すれば米国はそれ相当の対応をしなくてはなくなります(引用)

 しかし、ワトソン本人の発信を見る限り、びくついている様子は微塵もなさそうです。米国が日本からの彼の身柄請求に応じること、あるいはそもそも日本からの身柄請求自体が来ないことを、確信したうえでの発言と受け取れます。
 むしろ、引退・代代わりもささやかれていたワトソンは、この春のタイミングでSS-USAの代表兼総責任者に復帰し、潮目が変わって℃ゥ由の身になったかの如く晴れ晴れとした風情で、当分米国に腰を落ち着けて任務に励むかに見受けられます。
 ちなみに、死刑存続国家である日本は、欧州諸国との間で犯罪人引渡し条約を結べず、条約を締結したのは米国と韓国のたった2国という先進国として恥ずかしいありさま。
 いずれにしろ、ワトソンがわざわざ直前のタイミングで自信にあふれるコメントを公表したことは、極秘事項の中に彼の身柄に関する事柄が含まれているのではないかという、強い疑念を呼び覚まします。
 というより、SSCS側にとって、南極海で捕鯨を継続している当事者との、金を受け取ることも含めて自分たちに不利を強いる取引に応じるだけの十分な利得があるとすれば、それは「ほぼ3億の返還」+「ワトソンの自由」以外に考えられないという気がするのです。

 では、鯨研・共船側にとっての大きな利とは一体何でしょうか?
 こちらの答えはより明瞭です。
 鯨研・共船側のねらい≠示すヒントは、彼らの発信している情報の中に隠されています。

反訴も含め正式に収束(引用〜プレスリリース)
連邦地裁に差し戻しとなった、永久差し止めの審理は、2016年10月11日に開廷の予定(引用〜鯨研リンク2番目)

 鯨研・共船の行動から明らかなのは、「金を払ってでも、今ここで和解しておく必要があった」ということです。
 では、もし仮に和解をしなかったとしたら、一体何が起こったでしょうか?

 ここで仮定を置くことにしましょう。
 まず、鯨研・共船側の主張が全面的に正しい場合。
 上述の流れで、暫定差止命令と同様に、SSCSに対して永久差止の判決が米連邦裁から下されることになるでしょう。和解による合意内容より厳しいものになった可能性さえあるでしょうね。
 それに対してSSCS側が反訴した場合。
 反訴の内容は、調査捕鯨船団側も人命に危害を加え得るLRADや放水による武力≠ナ応じ、自分たちにも被害が生じたとする主張を展開するものになるでしょう。
 ただ、それで狙えるのは損害賠償額の減額程度と考えられます。「先に手を出したSSCSが悪い」と米判事が判断すれば、それでおしまいでしょうね。
 鯨研・共船側にとっては、「自分たちも暴力をふるった」というエビデンスが残るマイナスイメージくらいで、マスコミを掌握できている間は国内で非難が高まる恐れはないとみていいでしょう。
 どちらもいま沖縄・辺野古で海保が、高江で機動隊が武器ひとつ持たない市民に対してふるっている圧倒的な暴力に比べればたいしたことではないと筆者は思いますけど・・。
 こうして裁判が鯨研・共船側ほぼ完全勝利の形で結審します。
 その後は、SS-USAと本部がそのまま加担し続ける形で、妨害活動が続行されるケースが考えられます。
 しかし、判決はすでに確定し、永久差止命令が下りているため、SSCSは妨害を行う度に法廷侮辱罪で罰金を命じられるでしょう。毎年、SSCS側は3億円を失い、日本側の懐には3億円が転がり込みます。しかも、再犯を繰り返すのは悪質との理由で罰金額は年を追う毎に引き上げられるでしょうね。また、米国内での公益団体としての認可は取り消され、非合法組織としての扱いを受けることになるでしょう。SSCSの台所事情が訴訟費用が痛手になるほどなら、存亡の危機に立たされるのは必至です。
 おや・・おかしいですね。鯨研・共船側にはまったく何のデメリットも存在しません。むしろ、願ったりかなったり。対策を十分に練ってある妨害を後数年だけ辛抱すれば、目障りな連中が勝手に自滅してくれるわけですから。

 次に、もうひとつの仮定に沿った展開を考えてみましょう。
 それは、鯨研・共船の思惑から逸れる、予想外の要素が裁判に付け加わった場合。
 そんなことがあるでしょうか? 主席判事がSSCSのパフォーマンスに対して「義足や眼帯がなかろうとおまえら海賊だ」と不快感も露に表明した以上、ひとつのきっかけで判決内容が覆ったりするでしょうか?
 実は、鯨研・共船にとって予想外の事態は、すでにあったのです。
 もちろん、米司法がSSCSの妨害を肯定することはないでしょう。どちらにしたって、SSCSの有罪はほぼ確定です。
 しかし、和解の形で終わらず、裁判がこのまま進行した場合、判決文は2013年2月に公表された控訴審の法廷意見の主旨とはまるで別のものに置き換えられることになるでしょう。
 そう・・その予想外の要素≠ニは、国際司法裁判所によるJARPAUの違法判決。
 賠償が課せられた期間は2012年/13年から2013/14年までの2シーズン、つまりJARPAUのとき。
 米連邦控訴裁の差止命令には、ICJの判断は一切加味されていないのです。シンプルに日本の調査捕鯨は国際法上合法だという前提に立っていたのです。

国際捕鯨取締条約の第8条は、締約国によって発給された調査許可に従って行われる場合、鯨類の捕獲を認めている。日鯨研は、日本からそのような許可を受けている。(引用〜鯨研リンク3)
捕鯨に関して公共の利益を定義している法は、捕鯨条約法と海産哺乳類保護法であり、両者とも捕鯨取締条約の下で発給された科学許可に従った捕鯨を認めている。日鯨研の活動はそのような許可の下で行われており、よって、海洋生態系に関する議会の政策と合致する。(引用〜鯨研リンク3)

 この部分は完全に差し替えを余儀なくされます。JARPAUは、ICRWと米国海産哺乳類保護法に背く違法行為であり、海洋生態系に関する米議会の政策に真っ向から反するものなのです。国際法の最高権威によって、すでにそういう判定が下りているのです。
 つまり、和解の形で途中で裁判を収束させず、続行させた場合には、10月のIWC年次総会が開かれるタイミングで、国民から忘れられつつある日本の調査捕鯨の違法性に、米裁判所による再認定という形で、改めてスポットライトが当てられることになるのです。
 そう・・それこそは、盗人に追い銭≠やってでも、捕鯨サークルとしては回避すべき事態なのです。ついでにいえば、NEWREP-Aに対して新たな妨害が企てられた場合には、その違法性が議論の焦点にならざるをえないでしょう。
 ICJ判決後、日本は調査捕鯨の看板を挿げ替えたり、国連のICJ受諾宣言の書き換えをやったり、国際司法判断からともかく逃げ続けてばかりいました。今回の一連の顛末も、蓋を開ければその延長にすぎなかったわけです。

 どう考えても被害者らしくない、まともな日本人の目にはあまりにも奇異に映る鯨研・共船の行動の裏には、「自分たちの違法行為を白日のもとにさらしたくない」というエゴイスティックな動機が働いていたと考えれば、皆さんもすべてがストンと腑に落ちるでしょう。
 捕鯨問題に詳しい環境外交のエキスパート・東北大の石井敦准教授は、捕鯨サークルとSSCS等の過激な反捕鯨団体の関係を指して「逆予定調和関係」と呼んでいます。
 今回の一連の経緯から、まさにお互い持ちつ持たれつ≠フ関係が改めて浮き彫りになったといえるでしょう。

   *   *   *

おかげさまで、HPリニュアル版、まとめ、ともに好評をいただいております。
引き続き周知にご協力くださいm(_ _)m

■クジラを食べたかったネコ
■「油目的で肉を捨てていた西洋と異なり、日本はクジラを余すところなく完全利用してきた」って本当?
posted by カメクジラネコ at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2016年08月07日

太地を庇って沖縄を脅す捕鯨族議員・鶴保氏のとてつもないダブスタ

 和歌山県選出の自民党参議院議員である鶴保庸介氏は、太地を地元に抱えるだけあって、捕鯨族議員の中でも最も活躍してきた族議員中の族議員のお1人といえます。
 あたかもシーシェパードと張り合うかのような彼の過激な見解については、当ブログでも幾度か紹介してきたとおり。
 この7月の参議院で4回目の当選を果たした鶴保氏は、今回の第3次安倍第2次改造内閣で初入閣、内閣府特命担当大臣 (沖縄及び北方対策、クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策担当)に。
 その鶴保氏、大臣就任早々、とんでもない発言で世間を賑わしました。

■「消化できないものお口に」 鶴保沖縄相、予算の減額示唆 (8/5,琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-329681.html
■安倍政権 「基地と振興リンク」方針 県民の批判必至 (8/5,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20160805/rky/00m/010/007000c
■鶴保・沖縄北方相「振興策と基地問題、確実にリンク」 (8/4,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASJ845HW7J84ULFA00Y.html
■振興策と基地「大きな意味ではリンク」 鶴保沖縄相、振興に「手段尽くしたい」 (8/5,沖縄タイムス)
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/56004
■菅長官、沖縄振興予算の減額否定せず=鶴保氏は翁長知事と会談へ (8/5,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016080500408&g=pol
■安倍政権の沖縄予算 減額方針 法の理念と乖離 (8/5,琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-329683.html

@「振興策と基地問題は確実にリンクしている」 (引用〜朝日他)
@’「基地問題によって、振興策の中身を含め変わっていくのは十分当たり前のことだ。そういう意味では、振興策と基地問題は確実にリンクしている(引用〜琉球新報)
@’’沖縄振興というなかで、沖縄の大変な割合を占める基地問題、それに関心のある県民感情、歴史的経緯で基地というものは避けて通れないだろう。そういう大きな意味では振興策と基地問題は確実にリンクしていると思う」(引用〜沖縄タイムス)
Aまた、親交があったという国際政治学者の若泉敬氏の「沖縄県民の苦しみに全国民が寄り添うことができないのは、政治としておかしい」との言葉を紹介。「志を継いであげたいとの思いがある。沖縄振興を第一義的に考え、ありとあらゆる手段を尽くしたいと意欲を示した。(引用〜〃)
B基地の問題に対する態度をリンクさせようとする情勢を私はつくりたくない(引用〜琉球新報2)
C「予算額を減らすのは当然。消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよでは、全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」(引用〜琉球新報他)
D「お金は限られた資源だ」(引用〜時事)

 「基地問題と振興策はリンクさせない」としてきた政府のこれまでの立場を完全に覆す、沖縄からしてみればまさに掌を返す仕打ち。
 安倍政権の変節、約束破りはこれが初めてではありませんし、マスコミがそれらをスルーし、国民もいい加減慣れっこになってしまっているのが返って恐ろしいところなのですが・・。
 Cなどは、安倍政権の尖兵を買って出た新人大臣の勇み足にも映りますが、内容的には菅官房長官の4日の記者会見の発言を追認しただけにすぎません。
 従来の政府方針どおりなら、沖縄・北方担当相は防衛省と一線を画する立場で粛々と(菅官房長官語)振興のことだけ、「何が沖縄の人たちのためになるのか」だけ考えていればいいはず。そのためにこそ、沖縄・北方担当大臣という役職があるはず。
 鶴保氏は、就任初っ端から、他省の顔色を伺い、道を譲る姿勢を明確にしたわけです。早急に移設を進め、沖縄県内で米軍基地をたらい回しし、過重な負担を押し続けるためのカード≠ニして振興費をちらつかせるのが自身の役目だと、鮮明に示したわけです。
 てんでバラバラの仕事をつなぎ合わせた内閣府特命担当大臣というポストが、若手議員が本物の閣僚≠ノ昇る手前のステップ、見習い大臣%Iな役職にすぎないと象徴するかのよう。
 もっとも、すでに以下のような話も出ており、いまの日本のマスコミが健全だったなら、甘利元経産相同様糾弾されて、政治キャリアもここで詰んでいたかもしれませんが……。

■“スネ傷”4人が堂々と初入閣…東京地検が狙う新大臣の疑惑 (8/4,日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/187061

今村雅弘復興担当相(69)と鶴保庸介沖縄北方担当相(49)は、六本木や新橋のキャバクラの飲食代「政治資金」から支払っていた(引用)

■政治資金でキャバクラ支出/鶴保元国交副大臣の支部 ('14/11/28,四国新聞)
http://www.shikoku-np.co.jp/national/political/20141128000587

元国土交通副大臣の鶴保庸介参院議員(和歌山選挙区)が代表を務める自民党和歌山県参議院選挙区第2支部(和歌山市)が、女性が接客するキャバクラやラウンジの飲食代5回分、計約25万6千円政治活動費として支出していたことが28日、2013年分の政治資金収支報告書で分かった。
また12年の報告書でもラウンジやクラブの飲食代3回分、計約17万円政治活動費として支出していたことも判明。会計責任者は「誤解を招く支出だった」としている。
報告書や領収書によると、東京・六本木のキャバクラで13年2月に約8万8千円、6月に六本木の別のキャバクラ3万円などを支出。(引用)

 鶴保発言の細かい検証に入る前に、メディアとネットの反応を見てみましょう。

■基地問題とリンク 菅官房長官が「沖縄振興費」削減を示唆 (8/5,日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/187169

 「工事が進まなければ予算が少なくなるのは当然。跡地利用が遅れると、予算が少なくなっていくのは現実問題としてそうでないか」と語り、沖縄振興と基地問題をリンクさせないとしてきた政府の方針を事もなげに撤回した。
 今年1月に沖縄の基地負担軽減と振興策を協議する「政府・沖縄県協議会」の初会合では、振興策を基地問題とリンクさせないことを双方が確認していた。(引用)

■<社説>基地と予算リンク論 恫喝政治の表れだ 沖縄への揺さぶりやめよ (8/6,琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-330355.html

 安倍政権は法の精神をも踏みにじる。沖縄振興の根拠法である沖縄振興法には第1章第1条に「沖縄の自主性を尊重しつつ総合的かつ計画的な振興を図る」とある。辺野古の新基地建設について県知事や地元名護市長が反対し、選挙でも反対の民意が示されたのに、基地建設を進めようとするのは、沖縄の自主性を全く顧みていないということだ。(引用)

https://twitter.com/mas__yamazaki/status/761424262385192960
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/761424744906301440
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/761425191524151296
鶴保庸介沖縄・北方相は就任会見で「沖縄の振興策と基地問題は確実にリンクしている」と述べ、米軍普天間飛行場の同県名護市辺野古への移設作業が遅れた場合、沖縄振興予算を減らす可能性に言及(朝日)。言うことを聞かない者にはカネをやらない大臣
鶴保庸介議員という、沖縄問題への歴史的な理解がなく、テレビ討論では野党議員を馬鹿にする傲慢な態度を見せる人間を沖縄問題担当相に据えた安倍晋三首相の意図は、こういう無慈悲な政策を高圧的に実行できる資質を評価しての「配置」だろう。予算を人質に自国民を脅す政権を、民主主義とは呼ばない。
朝日新聞は、鶴保大臣の談話について「翁長雄志知事を牽制するもの」と書いているが、「予算額を減らすのは当然。消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよでは、全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」等という暴言は「牽制」レベルの話じゃない(引用)

https://twitter.com/kimuratomo/status/761538592975953921
「消化できないものお口に」鶴保沖縄相、予算の減額示唆』政府に逆らう自治体は兵糧攻めだ。政府に逆らう者を当選させたら大損だぞ。いよいよ牙剥き始めた安倍政権からのこの恫喝メッセージ、一体どれだけの国民が他人事ではないと理解出来ているか(引用)

 おそらく、沖縄の市民の皆さんは、鶴保氏がどんな人物か、まだよくわかってらっしゃらないでしょう。
 しかし、筆者には、彼の捕鯨問題に対するこれまでの発言に実によく似ているなあと感じるのです。鶴保氏らしさがにじみ出ているとでもいうのか。
 一言で言うなら、非合理で支離滅裂。
 もうひとつ感じるのは、沖縄と、地元和歌山の太地町との扱いの間にある、途方もない落差。究極のダブルスタンダード

 鶴保氏のちぐはぐぶりは、上掲の5つの発言それぞれが真っ向から矛盾していることでもわかります。
 @は各紙が記者会見から見出し等に用いた、自民党・安倍政権の沖縄に対する立場を明瞭に示したもの。ただ、他紙が省いたその前段の部分を、沖縄の地元紙2紙が別々に取り上げています。
 @’(〜琉球新報)は、単に菅氏の発言をなぞって言い換えた形。一方、@’’(〜沖縄タイムス)は・・句点でつないだこの二つの文を読んだ沖縄の方々は、一瞬目が点になり、続いて腸が煮えくり返ったことでしょう。
 菅官房長官に歩調を合わせ、「基地と振興策の直接リンク」「振興予算の減額」をより明瞭な形で言い直した鶴保沖縄・北方担当相は、「県民感情」「歴史的経緯」にあえて触れたうえで、「予算額を減らすのは当然」「血税の無駄遣い」につないだわけです。
 過重な基地負担に喘ぎ、凶悪犯罪に打ちひしがれた「県民感情」、独立国だった琉球を併合され、太平洋戦争で戦場と化し、米軍に長らく占領され今日まで本土と異なる扱いを受け続けている「歴史的経緯」に配慮するならば、沖縄振興法の主旨に鑑みるならば、基地負担の減少が一向に進まず事実上の新設である県内移設を推進しながら、なぜ減額という形でリンクしえるのでしょうか?
 基地負担が確実に軽減され、県民感情が和らいだ暁には、振興予算の減額が検討されるのも道理でしょう。「そういう意味でのリンク」なら、沖縄の皆さんも納得するでしょう。
 菅氏の発言には、シンプルに沖縄の「県民感情」「歴史的経緯」より「日米安保」を優先するという血も涙もない合理性≠ェ見て取れます。
 それに対し、鶴保氏の発言はわけがわかりません。「なだめ役」「ごまかし役」ですらないのです。
 @’’とCの、沖縄県民の神経を逆撫でするばかりの発言は、政権の立場から見てさえ、「まったく言う必要のない余計な一言」以外の何物でもありますまい。
 同様にAとC、鶴保氏自身の発言と、彼が引用した若泉氏の発言を並べてみましょう。

「沖縄県民の苦しみに全国民が寄り添うことができないのは、政治としておかしい」
「全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」

 これが「志を継い」だ人間の発言だと、皆さんは思いますか?
 同一人物が、同日の記者会見の席でした発言だと、皆さんは信じることができますか?
 Bも、@、Cを平然と言ってのけた人間が、同じ口で何の憚りもなく発せられるということ自体、信じがたいことです。
 彼は、発言の整合性を取るということが、ひとつの記者会見の中でさえ出来ない人物といえます。もちろん、会見中に多少の齟齬が見られるのは、どれほど高い学歴を持つ政治家でも同じですけど。
 しかし、彼の発言には、沖縄の人たちを煙に巻くという意図さえも感じられず、ただひたすら支離滅裂な印象を受けてしまうのです。
 これは一種の二重人格なのでしょうか?? 首相に対しては自己愛性パーソナリティ障害という分析もありますけど・・。
 というより、筆者には、脈絡を考える気/能力のない人間が、つらつらと言葉を発しただけとしか思えないのです。単に沖縄のことを真剣に考えてなどいないだけで。
 そして、その背景には、仮想敵相手の言葉遊び・ディベートごっこでやり込めた高揚感に浸る反反捕鯨思考──竜田揚げ脳の影響があるように思えてならないのです。

 鶴保氏のこの迂闊な発言は、菅氏の発言・安倍政権の方針が内包する大きな矛盾を赤裸々にさらけ出してくれました。もう気づかれた方も多いでしょう。

■復興予算 34%使い残し 15年度 事業遅れ1.9兆円超 (7/30,東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201607/CK2016073002000133.html
■<復興予算>34%未執行 用地取得の調整難航 (7/30,河北新報)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201607/20160730_71014.html
■復興予算9兆円が未使用 11〜14年度、検査院調査 (4/7,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASJ455JF4J45UTIL039.html

 さて、震災の被害を受けた東北の皆さん。とりわけ福島第一原発事故による放射能汚染の影響を被った福島の皆さん。
 復興相「予算額を減らすのは当然。消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよでは、全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」と鶴保氏とまったく同じことを言われたら、皆さんはどう感じますか?
 事業が遅れたから、「住民合意といった調整が難航」(毎日)したから、「予算額を減らされるのは仕方がない」と納得しますか?
 「沖縄と東北は違う」? もし、そう言われたとしたら、沖縄の皆さんはどう感じますか?
 福島の皆さん。もし、復興予算に関して、「福島第二原発の再稼働」「県内の原発新設」を条件にされ、受け入れなければ「復興予算の減額は当然」と迫られたら、皆さんはどう思いますか?
 国の安全保障のために米軍基地という迷惑施設を押し付けられた沖縄と、首都圏への電力供給のために原発という迷惑施設を押し付けられた福島と。そこに共通する差別の構造を指摘する声は前々からありました。そのどちらも、住民・現地企業を懐柔する振興名目の補助金とリンクしていた側面があったのも確かでしょう。
 いずれにしろ、これで沖縄に突きつけられたものが、偏に沖縄だけの問題だけではないということを、国民の誰もがはっきりと悟ったことでしょう。鶴保氏の発言によって。
 医師きむらとも氏の「いよいよ牙剥き始めた安倍政権からのこの恫喝メッセージ、一体どれだけの国民が他人事ではないと理解出来ているか」という言葉が、ずっしりと重みを伴って聞こえます。

 本来ならば、鶴保氏は沖縄・北方担当相の立場から、消化しきれなかった予算額は翌年度に繰り越したり、改めて沖縄振興事業に充当するなどの手を打つべきだと、菅官房長官に対して進言すべきだったはずです。東北の復興予算においてそうした措置がとられているように。
 しかし、鶴保沖縄・北方担当相は、あくまで沖縄県民の苦しみに寄り添うどころか、「消化できないものをお口に」云々と沖縄県民を嘲り、居丈高な菅官房長官語とダブルで追い討ちをかけたわけです。
 もし、本土の東北・福島に対してできることを、沖縄に対してやらないとするならば、そこにあるのは厳然たる差別にほかなりません。

 鶴保庸介殿。沖縄・北方担当相として沖縄という地域を代弁することなく、国の権威の側に立ち、沖縄の主体性を尊重せず県民の感情を踏みつけにすることが、なぜあなたにできるのですか?
 山崎雅弘氏のツイート「沖縄問題への歴史的な理解がない」との指摘は、鶴保氏が「歴史的経緯」という言葉を口にしながら「減額は当然」と言い切ってしまえることだけでも明らかですが、問題は彼が「沖縄に疎い」「歴史に疎い」の一言では片付けられません。
 沖縄の皆さんにぜひとも読んでいただきたいのが、彼が地元の地域紙わかやま新報にスペースを作ってもらって発信している以下のブログ記事。

■捕鯨文化を粘り強く発信 佐々木さんの映画制作に支援を ('15/7/22,わかやま新報)
http://www.wakayamashimpo.co.jp/2015/07/20150722_52442.html

こうしたことが続く欧米社会とは永遠に分かり合えないのではないかという不信感、そして埋めようのない価値観の違いに絶望感すら抱きます。安全保障法制が議論されている昨今、今後こうした欧米社会と価値観を共有し、さまざまな事態に連携して対処していくことができるのだろうか、とは私の考えすぎでしょうか。
イスラムの問題をひきあいに出すまでもなく、自分たちの価値観を押し付けることこそ世界の平和を乱すものである、という強い信念で、われわれの文化や考え方を押し付けるのではなく、粘り強く発信し、理解を求めていくしかないのだろうと思うのです。
例えば同性婚について、これまでさまざまな迫害がありましたが、連綿と続く努力のなかでいまや世界的に容認の方向であるといっていいでしょうし、少なくとも今現在認めていない国々に対して認める国が圧力をかけたり、不満を表明したりすることはないでしょう(引用)

■大物活動家の入国を拒否 史上初の処置、法定化も視野に(2/9,〃)
http://www.wakayamashimpo.co.jp/2016/02/20160209_58092.html

それが怖くて行政は滅多に入国拒否という強硬手段に訴えることはありませんでした。私はこれまで何度も何度も法務大臣にこうした慣例を破るよう迫ってまいりましたが、今回が初めての処置と成りました。(引用)

 上の同姓婚云々の、あまりにも支離滅裂すぎて意味不明(事実にも反する)のトンデモ持論については、以下の記事中の解説をご参照。

■オーストラリアは本当に庭先の自然を荒らす海の無法者&゚鯨ニッポンから潜水艦を買うの?|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/170101475.html

 鶴保氏は国交政務官等は務めてきましたが、農水の政務官・副大臣は歴任していません。
 しかし、太地の捕鯨・イルカ猟のためなら、法務大臣に「慣例を破るよう」迫ることはできるわけです。
 国際司法裁判所の調査捕鯨違法判決直後に鯨肉カレーパーティーを開き、調査捕鯨の非科学性を精一杯世界にアピールしてみせた自民党捕鯨議員連盟の中心メンバーの1人(幹事長代理)として、彼は精力的に活動してきました。
 海外の活動家1人の入国手続に関して法相にまで圧力をかけたのは、上掲のブログでご本人が口にしているとおりですが、これ以外にも、他の捕鯨族議員とともに国の捕鯨政策を左右していたことは疑いの余地がありません。
 水産官僚が日新丸改修のために南極海調査捕鯨の1年休漁を検討していたときに「けしからん」と怒鳴りつけたり、民間団体であるJAZA(日本動物園水族館協会)を呼びつけてWAZA残留の経緯について説明を要求したりしたときも、きっとその場にいらしたことでしょう。

■「反捕鯨陣営」に逆襲する日の丸 ('15/6,FACTA)
http://facta.co.jp/article/201506030.html

鶴保議員は国際的な法律事務所の有力弁護士と議論を重ねるだけでなく、「海外での訴訟経験が豊富な大手企業も回り、世界を相手にした法廷闘争やPR合戦のノウハウを蓄積している」(自民議員)とされる。(引用)

 三軒太地町長いわく外堀≠ナある南極海調査捕鯨を死守するために、ここまでやれてしまうのが鶴保議員なのです。
 太地の捕鯨に寄り添うあまり、「安全保障法制が議論されている昨今、今後こうした欧米社会と価値観を共有し、さまざまな事態に連携して対処していくことができるのだろうか」という、内閣の一員に加わるはあまりに強烈で意味深な言葉をわざわざ口にしてしまえる人物なのです。
 今回の記者会見で、「消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよ」とか、「資源」などという言葉が口をついて出てしまったのも、クジラが一番弁舌をふるう機会の多いネタ、彼の十八番だったからでしょう。

 皮肉なことですが、調査鯨肉はJARPAIIの無理な増産が祟り、鯨研/共同船舶がイベントで無料で配布したり、あの手この手の販促PRを展開しても国民にそっぽを向かれ、過年度在庫が積み上がり、鯨研自身も債務超過に陥ったことを水産庁も正直に白状しているとおり。「消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよでは、全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」という彼の台詞は、調査捕鯨事業にこそピタリと当てはまるものだったのです。
 そして、予算云々に関して言えば、今年度政府予算で宛がわれた捕鯨関連予算はなんと51億円。なんと前年度比2.5倍を超える金額です。TPP関連の一部を除き、農水予算でここまで至れり尽くせりの大盤振る舞いを受けている分野はありません。しかもこれ以外にも水産外郭団体による別立ての基金が27億円用意されています。
 沖縄振興予算の方は3350億円ですが、調査捕鯨予算の拠出先は従業員300人程度の1事業所(鯨研&共同船舶)が中心なのです。沖縄県民143万人と比べるなら、振興予算を百倍の30兆円にしないと釣り合いません。

 どうして鶴保氏は、南極産美味い刺身のために多額の予算を付けたり、米国やオーストラリア、国際司法裁判所にあの手この手で対抗したり、活動家を追い払うため法相に慣例を破るよう要求することはできるのに、沖縄に対しては「予算額を減らすのは当然」とまで冷淡になれるのでしょう? 反捕鯨団体の監視とは比較にならない、まさに人権侵害以外の何物でもない機動隊や海上保安庁の暴力に苦しめられる高江・辺野古の市民を守ってくれないのでしょう?
 ひとつはっきりしているのは、鶴保氏にとっての優先順位が「太地>>米国>>沖縄」だということ。
 彼が差別してるのは人≠ナす。
 クジラやイルカと「猿」と「馬」と「カラス」ではなく。
 それらの動物を平等≠ノ殺すためなら、様々な機関に政治的圧力をかけることも辞さないが、同じ日本の中で同じ人である沖縄の人々がかくも理不尽な差別的待遇を受けている事実に対し、闘うことをしようとはしない政治家なのです。

 鶴保氏の素朴にすぎる捕鯨美化の意識がこの先変わることがあるとは思いません。「南半球の人々に身勝手で傲慢な価値観を押し付け、南極の自然に欲をかくのはやめてほしい」と頼むだけ無駄でしょう。
 しかし、沖縄・北方担当相のポストに就いた以上、県民の心を踏みにじる無知で無神経な発言を繰り返すことは二度と許されないはずです。そこは捕鯨の是非とリンクする話ではありません。
 少なくとも、強大な敵≠ニ闘っている点で、太地と沖縄には共通点があります。もっとも、沖縄との大きな違いは、太地にはそれを上回るさらに強大な味方がついているということですが。
 太地を守るために発揮している政治的豪腕を、沖縄のために行使することは、鶴保氏には可能なはずです。できないはずがありません。
 それをしないというのなら、日本の独善的な捕鯨政策を裏で支える国会議員の沖縄に対する究極のダブスタが、調査捕鯨や太地のイルカ猟に関心のある世界中の人々にもいずれ知れ渡ることとなるでしょう。それが太地のためになるとは、筆者には思えません。

関連リンク:
■沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ|拙ブログ過去記事
■米大使ツイート騒動|拙ブログ過去記事
■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
http://togetter.com/li/834969
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2016年08月03日

びっくり仰天、都合の悪い事実に蓋をする非科学的な水産庁広報資料

 水産庁が実に驚くべき資料を立て続けに公表しました。


 上の資料は、「水産基本計画の変更」について審議するべく、7月13日に水産庁で開かれた水産政策審議会企画部会で使用されたもの。
 そして、下の資料は、農水省ホームページにもあるとおり「消費者の皆さん、農林水産業関係者、そして農林水産省を結ぶビジュアル・広報誌」(引用)。ちなみに、編集を下請けしているのはKADOKAWA。
 何が驚き≠ゥといって、水産資源状態の枯渇とそれに伴う国際規制強化の動きについて、乱獲の当事者である日本の漁業者とそれを監督する責任のある水産庁ではなく、別の誰かの所為にしていること。
 その誰か≠ニは、具体的にいうと「外国(中国・台湾等の周辺国および島嶼国)」「環境保護団体」そして「クジラ」──。

 上掲のファイルをもとにツッコミを入れていきましょう。まずは審議会資料の方から。
 プレゼン3ページ目、真ん中の段、1番右と左、「科学的根拠に基づかない規制」「『環境保護』勢力の圧力増大」は言っていることがほとんどダブっていて2つに分ける意味がありません。まあ、強調したかったんでしょうが・・。
 そのうえ、3番目は科学的根拠に基づ≠ゥず、札束外交・力ずくで言うことを聞かせるやり方を掲げているのですから、自己矛盾もいいところ。
 捕鯨に関しては、「科学的根拠に基づく生物資源の利用全体の観点も見据え、調査捕鯨の継続による商業捕鯨を再開」と、なにやら国語の苦手な中学生の作文状態・・。
 「U−2.太平洋マグロの国際的な資源管理」、【課題】で日本自身の乱獲に一言も触れられていません。
 最大消費国として重い責任を持つはずの日本が、経済規模でも漁業への依存度でも比較にならない太平洋の小さな島国にその責任をなすりつけている図は、みっともないの一語に尽きます。
 前月には同じ企画部会で国内の資源管理について議論がなされ、クロマグロについてもちょびっとだけ触れられましたが、大手巻き網の産卵親魚漁獲集中問題への言及はなし。
 実はこのとき、企画部会委員でもある全漁連常務理事の大森敏弘氏が、とんでもない意見を述べています。


 気候変動、外国漁船の影響のほか、開発行為等、水環境政策など、さまざまな資源の変動要因があるのではないか。これらをしっかりと分析・評価する精度をあげる研究をしていくべき。その上で、漁業者の乱獲が減少要因であれば、厳しい管理措置の実施も何ら避けるものではない。(引用)

 大森氏自身が下線で強調しているこの指摘、言い換えれば「自分たちの責任だとはっきりしない限り、いくら魚が減っていようと規制は受け入れず獲り続けるぞ」ということ。
 つまり、全漁連役員の用いる「持続的」という言葉は、水産資源の持続性を保証するという意味でないのです。
 これは非持続的な乱獲志向の大手事業者に常に寄り添う業界団体幹部の認識であり、日本のすべての漁業者の皆さんがそういう感覚に縛られているとは思いませんが・・。
 密漁に関わる日本の裏社会、あるいは温室効果ガスを大量に放出する産業界の責任を追及し、減船や漁獲削減に対する補償を求めたり、国に実効的な規制を要求するのは、至極正当なことでしょう。
 しかし、「じゃあ、俺たちも獲り続けるよ」というのは、海の自然・魚と長年つきあい、配慮してきた人たちの口にする言葉ではありません。
 例えるなら、全漁連のこの指摘は、気候変動による高潮で国土が水没しつつある島嶼国が、「俺たちの責任じゃないんだから、俺たちはCO2をガンガン排出し続けるぞ」と、無頓着に自国を沈めたがるのと一緒です。
 してみると、翌月の審議会で配布された国際管理に関する資料が、すべての責任を日本の漁業者以外に押し付ける内容になっているのは、業界団体の不満を和らげるガス抜きの配慮と見て取れるわけです。
 なお、クロマグロの問題については、漁業問題に精通する茂木陽一氏のブログの解説を合わせてご参照。

■生クロマグロ水揚げ日本一の境港を訪れて
http://uminchumogi.blog111.fc2.com/blog-entry-455.html

 で、P18からが捕鯨。相変わらず部門の規模に似合わない大きな扱いですが・・。

(注1)環境NGOの活動はその後、公海流し網漁業の禁止、マグロ延縄漁業による海鳥の混獲問題、クロマグロやサメの貿易規制提案等、他の漁業・魚種に拡大(引用)

 P19中のこの一文にはもう笑うしかありません。なぜって?

■(資料2) 漁場環境の保全及び生態系の維持|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/shingikai/pdf/pdf/61data2.pdf
 
 上掲はまさに同じ企画部会で使われたもう一つの資料
 P5に「生物多様性に配慮した漁業の推進」と題して海鳥やウミガメに対する混獲削減に向けた取り組みと一層の改善の必要性が紹介されています。
 そう・・混獲問題に関しては、日本の研究者も米国等海外と協力し、まさに科学的根拠に基づ≠「て、漁業者・国民の理解を求めているところなのです。
 ところが、水産庁自身も率先して漁業者に呼びかけているハズのこうした取り組みに対し、同日に配られた資料1の総論と上掲の記述はまるで「環境保護団体の圧力で、科学的根拠に基づかず仕方なくやる羽目になった」とでも言いたげな様子。
 実際には、環境NGOの指摘に基づく海洋生態系保全のための国際共同研究とは対照的に、科学的根拠に基づかない=A科学≠フ皮をかぶった美味い刺身目的の調査になっているのこそ、調査捕鯨なのです。
 その証拠に、P20は非科学的な珍説のオンパレード。
 環境外交の専門家・早大真田氏もばっさり斬り捨てています。


水産庁の新方針、「クジラのせいで魚が減っているのだ。クジラがどのくらい餌を食べているかはお腹を割いてみなければわからないのだ。だからクジラを科学調査目的でとるのだ」という国際司法裁判所の口頭弁論でもでさんざんけちょんけちょんにされた例の説をまたもや大々的に開陳(p. 20)。
「おなかを割かないと何を食べたかわからない」という理屈に対しては、勿論「じゃあ、なんで特定の種類のクジラばっかりとっているんだろうね。北太平洋で魚など食べ物を食べているのは、日本の調査捕鯨の理屈では、特定のクジラだけなんだ。φ(`д´)メモメモ… 」と外国の科学者たちからこき下ろされている今日この頃です。(引用)

 世界中の研究者から白い目を向けられるようなプレゼン資料を、よりによって国の所轄機関が発表してしまうとは、なんとも恥ずかしい限りです。
 ラッコ先生に倣い、筆者も個別にチェックしてみましょう。

増加したクジラによるこの捕食行動が、漁業に深刻な影響を与えていると懸念されている。(引用)

 まず、「クジラが増加した」という表現が科学的にはきわめて不正確。
 正しくは、「商業捕鯨の乱獲によって激減した鯨種のうち、捕獲禁止後一部は回復に向かっているとみられる」です。
 そして、「漁業に深刻な影響を与えている」ことを立証する論文はどこにもありません。
 まさに非科学的な懸念そのもの。放射脳≠ネらぬクジラ食害脳なのです。
 間引き説を唱えた捕鯨御用学者・大隅氏らが、「鯨類は○○トンの魚を食べる」という、科学リテラシーの弱いネトウヨに受けそうな珍説を披露しましたが、これは南極のオキアミも非商業漁獲対象種も全部ぶっ込んだ数字。
 いずれにしても、数字は「深刻な影響」を意味しません。
 クジラと同じように科学的には意味のない、分類群による大雑把な推計を挙げるなら、魚もイカ等の無脊椎動物もトータルでは鯨類の捕食量を圧倒的に上回ることでしょう。魚(商業漁獲対象種)と魚(非商業漁獲対象種)を分けても、やはり同様にクジラの上をいくでしょう。
 単位体重当り摂餌量で比較すれば、代謝の高い鰭脚類や海鳥類が鯨類を上回ることも確実です。これは食害の効果≠ェより高いことを意味します。
 付け加えれば、資料2には「有害生物による漁業被害防止対策の推進」の項もあるのですが、そこに記載があるのは大型クラゲ・トド・ザラボヤのみ。クジラへの言及はありません。
 まじめな研究者であれば、水産庁所属であっても否定するのが当たり前の話なのです。

 水産庁は、生態系を構成する野生動物にすぎないクジラを、まるでエイリアン、ヒトに対抗する文明種族か何かのように、「クジラと漁業の競合」を掲げています。
 「生態系の一部であるクジラ」と、経済の論理で動く人間の「漁業」とでは、天と地ほどの開きがあります。
 水産庁が故意に狙った$}説に対抗すべく、こちらもなるべくわかりやすいよう図を用意してみました。

oomachigai.png

 食害論については、先日更新したこちらのまとめとリンク先をご参照。

■間引き必要説の大ウソ|拙HP
http://www.kkneko.com/mabiki.htm

 トンデモ図説の隣、P20の右側について。
 文章自体を正しく直してあげましょう。このプレゼンを作成した庁の担当者が国語と水産学双方に疎いとしか思えないのですが・・

2.このため鯨類資源調査においては、致死調査の一貫として、鯨類の胃内容物を調査。
  鯨類資源調査の主目的
(1)致死調査の例
  致死調査によってわかる情報
●資源の構成(耳垢栓による年齢組成分析など)
●系群の分布(組織サンプルの遺伝解析)
●摂餌生態(胃内容物)
(2)非致死調査の例
  非致死調査によってわかる情報
●資源量(目視による個体数推定)
●資源の構成(組織サンプルの化学分析)
●系群の分布(組織サンプルの遺伝解析)
●摂餌生態(組織サンプルの化学分析、バイオロギング)

 筆者が青字で付け足した、水産庁が省いた項目について補足。
 RMP(改訂管理方式)では年齢構成の情報自体不要。日本はこれを調べる目的を掲げて調査捕鯨をやっていますが、そもそも「必要不可欠」な作業ではないのです。日本の主張する精度の改善とは、「調査捕鯨のデータを活用すると、もしかしたら捕獲枠を1割くらい増やせるかもしれない」という話で、商業捕鯨再開の前提でも何でもありません。そのために必要な年齢査定は、DNAメチル化技術で非致死調査によっても可能。後は精度の問題。その精度でなければならないという理由もやはりないのですが。
 摂餌生態については、胃内容物調査はその場限りのスナップショット的情報しか得られないため、むしろ非致死調査の脂肪酸解析の方が優れています。

 続いてP21。
 「イルカはIWCの管理対象外」とあるのは間違い。正確にはまだ規制対象外」。小型鯨類も国連海洋法条約のもとで国際機関が管理するのがスジですが、現在できておらず、IWCできちんと管理・監視すべきだという議論が続いています。
 「科学的根拠に基づく適切な資源管理の下で実施」
 現行では日本の独断で管理しており、イシイルカ等で適用されている管理方式(PBR)を太地の追い込み猟の対象種に対しては恣意的に適用しないなど、科学的にも大いに問題があると批判を受けています。
 「反捕鯨団体による妨害活動」について。
 日本側もLRAD、放水等人命に関わる応戦をしているので五十歩百歩。いずれにせよ、いま沖縄の辺野古や高江で海保と機動隊がやっている非人道的・暴力的な行為に比べれば百倍も千倍もマシ。
 「イルカ漁業への抗議・妨害」について。
 太地イルカ猟関係者はWAZA/JAZAに嘘をついて「生体用と食用の捕獲を分ける」という約束を破ったり、ハナゴンドウの捕獲枠を超過した疑いがあるなど、甚だ信用が置けません。監督者でありながら物申すことができない県・水産庁の責任でもあります。
 世界イルカデーの行動は合法的な市民のデモ。
 先進国であれば市民誰にでも認められた権利です。アイヌの存在そのものを否定したり、在日外国人に対し「殺せ」「レイプしろ」と叫んで子供の安全を脅かす卑劣で陰湿な極右団体のヘイトスピーチとは次元が違います。在特会は(勝手に?)何度か太地に捕鯨・イルカ猟の応援に入っていますが、水産庁は沈黙を守っています。これでは水産庁自身の人権感覚が問われても仕方ありません。
 これは同時に、以前と異なり、過去に日本の捕鯨会社が犯した乱獲や密猟という大きな過ちを認めるどころか、嘘で塗り固めて否定しようとする歴史修正主義と相まって、国際社会に対する日本の国全体のイメージを大きく失墜させるものといえます。

 まとめのP22「基本計画における方向性」
 この1ページだけで「科学的根拠に基づく」と4回も連呼しているのが可笑しくなってしまいます。トンデモ図説のせいで台無し。
 従来の捕鯨政策の延長で、とくに目立った変化はないのですが、今まで以上に北朝鮮を髣髴とさせる硬直した姿勢が見て取れます。
 「生物資源全般の科学的根拠に基づく持続的な利用」を謳うなら、南極の自然に手を出す前に日本がやるべきことはあるはずです。

(1)なぜICJ判決で負けたか、国民にきちんと説明し、責任を果たすこと。
 国民に対して嘘をつき続けるのをいい加減やめ、水産庁トップの「美味い刺身の安定供給のため」発言によって自ら首を絞めたことを明示すること。

(2)公海調査捕鯨をただちにやめること。
 NEWREP-Aの続行は、日本に「国際法的・科学的な正当性」がないことを証明し、世界の信頼を失うばかりです。

(3)南極のクジラ殺しのみを神聖視するダブスタをやめること
 オオハクチョウやキタオットセイやハダカイワシ、多くの昆虫、食用に適さないわけではなく市場がないという理由で網にかかりながら遺棄される多くの魚等、クジラと同じ意味において科学的・持続的に利用可能でありながら日本が現在(ほとんど)利用していない生物資源はいくらでもあります。
 少なくともそこには、南半球のたくさんの人々が生態系サービス・非消費的な経済的価値に浴している野生動物をよそから乗り込んで強奪していく行為によって生じる、彼らの感情を逆なでし、生かす文化≠踏みにじり、友好国との外交関係に支障を来たすという、きわめて高い障害はありません。
 筆者自身は無理にやれというつもりはありませんけど……。

(4)乱獲体質を改め、真の持続的水産業先進国へと脱皮すること。
 日本には水産物の持続的利用で世界を仕切り、発展途上国を指導する資格などまったくありません。
 論より証拠、世銀レポートでも、漁業生産で世界平均23.6%の成長が見込まれる中、唯一日本のみがマイナス成長(-9.0%)と予測されている国なのです。
 日本は持続可能な漁業のできない落第生≠ナあることを示す何よりの証拠。国民に対して嘘をつき続けるのは、北朝鮮にも劣る、先進国としてあまりにも情けないことです。

■世界漁業・養殖業白書 2014年(日本語要約版)|FAO
http://www.fao.org/3/a-i3720o.pdf
■世界銀行レポート FISH TO 2030:世界の漁業は成長し、日本漁業のみが縮小する|勝川俊雄公式サイト
http://katukawa.com/?p=5396

 V章の「海外漁業協力等の推進」、札束外交については、以下をご参照。

■捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!? ──IWC票買い援助外交、その驚愕の実態──|拙HP
http://www.kkneko.com/oda1.htm

 さて、P22の最下段、「政府広報の展開、国内・海外へのマスコミの情報発信のやり方を工夫」の一環といえるのが、農水省広報誌affの鯨特集。
 引き続き、ざっとaffの記事をチェックしていきましょう。

 P1、「日本遺産に認定された鯨と生きた人々の物語」
 日本遺産認定に関しては以下の記事を参照。残念ながら、太地をはじめとする古式捕鯨も、やはり持続性のない乱獲の歴史に他なりませんでした。

■哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html

「畏敬(いけい)と感謝の念を持ち大切に利用されてきた鯨」
 従来はアイヌの捕鯨につながる縄文時代の真脇遺跡の例を挙げるケースが多かったのですが、次頁も含め見当たりませんね・・。代わりに登場したのが壱岐・原の辻の遺跡からの出土品。
 ただ、同地方は大陸・朝鮮半島由来の出土品が多く、捕鯨技術もおそらく大陸からもたらされたものでしょう。鯨と船(?)が線刻されたと見られる土器は紀元前1世紀のもので、時期的にも新宮の徐福伝説と重なります。

■太地の捕鯨は中国産!? 捕鯨史の真相|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/18025105.html

 短いうえに強引にまとめた段落ですが、捕鯨問題ウォッチャーは既にご承知のとおり、日本人はこの文章のように単純化された畏敬と感謝の念のみでない、もっと複雑に入り乱れた感情をもってつきあってきたのです。
 江戸時代初期から捕鯨の乱獲と非人道性に対する批判もあれば、仔鯨殺しへの悔恨の情もあれば、「鯨一つ捕れば七浦枯れる」と戒める地域もあったのです。
 そして、鯨油を売って外貨を獲得することしか頭になかった戦前の捕鯨会社は、南極海で獲ったクジラの肉の大半を捨てていました。大切に利用してきた民族がやることではありません。

■鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性|Togetterまとめ
http://togetter.com/li/977982
■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史|拙HP
http://www.kkneko.com/aa1.htm

「捕鯨の近代化と環境保護主義の台頭」
 規制と環境保護の台頭を自ら招いた日本の捕鯨産業による乱獲と密猟について、一言も言及がありません。
 「食料難に苦しんでいた日本人を救ってくれたのが南極海の鯨」に対し、恩を仇で返すとはまさにこのことです。ライターの下境氏の責任ではなく、すべては捕鯨サークル・水産庁が悪いのですが・・。

P2、「畏敬の念を示す祭事や史跡のシンボル」として、ここで北海道のモヨロ貝塚が紹介されていますが、日本という国は先住民アイヌに対して畏敬を示すことなく、和人よりは持続的で歴史の長かった彼らの伝統捕鯨を強制的に廃止させたのです。

■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 その下には和田浦の小型捕鯨を紹介。
 繰り返しになりますが、「捕鯨の対象は国際管理下にはないツチクジラ」は間違い。正しくは「未規制」です。
 「地元で捕れる物を食べる」とありますが、和田浦の外房捕鯨は北海道沖まで出張っています。地元とはいえず。

 P3。鯨肉は単に割高なだけ。バレニン教≠ノ騙されないように。
 あと、グルメ紹介サイト「クジラ横丁」のドメイン取得者はあろうことにも鯨研。「写真提供/日本鯨類研究所」って、よく恥ずかしくないよね……。
 以下をご参照。

■完全商業捕鯨化に向けKKP発進|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/60376356.html
■鯨料理トンデモ<激Vピ一覧|拙HP
http://www.kkneko.com/shoku.htm

 P4、ここでおなじみ森下丈二氏が登場。東京海洋大教授だけで、現IWC日本政府代表の肩書きがないのが不思議。

 「唐突な商業捕鯨停止提案とIWCでの多数派工作」
今では反捕鯨の立場をとっている国を含め、欧米諸国はかつて鯨油を目的とする捕鯨を盛んに行っていました。1960年代には大規模な母船式捕鯨を展開して乱獲状態となり(引用)

 非常に計算された、狡猾な日本語表現。文字で起している以上、そう断定せざるをえません。
 前半の句点までの主語は「欧米諸国」。後半は主語がありません。
 1960年代、戦後の南極海商業捕鯨の最盛期に最も多く船を出し、トータルで最も多くクジラを殺していたのは日本です。この時期に一番多くナガスクジラとシロナガスクジラを殺していたのも日本
 日本の捕鯨産業の責任について一言も触れない、ここまで卑劣な歴史修正主義が一体あるでしょうか!?

アメリカが唐突に商業捕鯨の停止の提案を行ったのは、1972年6月、スウェーデンで開催された国連人間環境会議でした。(引用)

 さあ、耳タコの陰謀論が出てきましたね・・。
 きわめて不可解なのは、森下氏自身が以前、食害論の否定と同様、日本捕鯨協会/国際ピーアールの世論操作に自分は関わっていないと言わんばかりに「当時に直に関わっていたわけではないので何とも言えません」と発言していること。竜田揚げ効果で態度を翻したのかもしれませんが・・。
 ベトナム戦争陰謀論についての詳細は以下をご参照。

■クジラの陰謀|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/324-the-whale-plot-j
■検証:クジラと陰謀|Togetterまとめ
http://togetter.com/li/942852
■「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く〜いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えたトンデモ竜田揚げプロパガンダ映画 |Togetterまとめ
http://togetter.com/li/941637

「捕鯨に関する日本の見解とかたくなな反捕鯨国の姿勢」

 上掲したとおり、南半球ナガスクジラについてはIWC科学委員会で合意された生息数の数字はありません。日本の一部捕鯨関係者が勝手にそう言ってるだけ。

反捕鯨国にとっては、捕鯨国に科学的データを持ち出されてもやすやすと譲歩するわけにはいかない事情もあるのでしょう。
反捕鯨勢力が国際世論を醸成し、今や調査捕鯨にまで「悪」のレッテルを貼ろうとする反捕鯨団体や、鯨やイルカを「カリスマ的動物」として特別視する人たちが登場しています。こうなると科学の範ちゅうの話ではありません。(引用)

 おやおや・・現実と真逆の印象操作をなさってますね。
 国際司法裁判所(ICJ)はなぜ、日本の調査捕鯨を違法と断じたのでしょうか? 「カリスマ的動物」を特別視する反捕鯨勢力が国際世論を醸成したから? ICJまで調査捕鯨に「悪」のレッテルを貼った??
 答えはNOです。その
 日本の調査捕鯨が国際司法機関によって「違法」という事実に即したシンプルな「悪」のレッテルを貼られたのは、判決文にもしっかり記されているとおり、南極産鯨肉を美味い刺身「カリスマ的美食」として特別視する人が日本に存在するからです。反捕鯨国に「いくら科学的データを持ち出されても」、判決直後に永田町で鯨肉パーティーを開いたりする面々に尻をたたかれ、担当官僚も「やすやすと譲歩するわけにはいかず」、看板をかけかえたり、国連の受諾宣言を書き換えるみっともない真似をせざるをえないするわけです。確かに、もうこうなると「科学の範疇」ではありませんけど……。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 「鯨を含む『カリスマ的動物』に対する規制の強化」

 ここで斜めに走るのがお好きな森下氏らしい、トンデモ食料自給論が登場します。

 「多様性の維持」こそが食料安全保障のキーワードなのですが、すでに極端なモノポリー(独占)が進行しているのです。(引用)

 いかにも飢餓と貧困の現場から遠く離れたところで飽食三昧に暮らしている日本の官僚らしい主張ですね・・。
 彼が引用した元FAOの台詞は、国際的な食糧市場を牛耳るGM等のバイオメジャーによって商業作物の種苗が囲い込まれ、途上国で非商業的・伝統的に利用されてきた植物の栽培・利用技術が失われようとしている現状を指したもの。事情は日本においても同様で、地域野菜や雑穀が高齢化・過疎化に加えTPP加入により市場経済への適合をますます迫られることによって、いま絶滅の危機にあるわけです。多額の税金と石油を投じて南極にクジラを屠りにいくことで解決する話ではまったくありません。TPP参入をはじめ、食の多様性を喪失させる方向へと邁進しているのは日本政府に他ならないのですから。国民の目を欺くことで、日本の自給率低下を加速させ、多国籍企業の支配を手助けする効果ならあるでしょうが。
 それにしても、多様性≠ニいう言葉で国民を惑わす手口が原発推進派に実にそっくりです。
 捕鯨がいかに日本の食糧安全保障に寄与しないかについては、こちらで詳細に論じているとおり。

■鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/174477580.html

鯨を前例として、国際会議の場で科学的根拠のないまま、あれもダメ、これもダメと絶滅危惧種の提案や利用を厳しく制限する提案が続出し、ゾウなどの大型の陸上動物、マグロやサメが「カリスマ」のリストに加えられようとしていることです。こうなると、多様性はさらに失われます。(引用)

 そんなにいうなら、いっそ生物多様性条約(CBD)に対抗する食の多様性条約でも提案したらどうかと思いますが・・。
 ゾウ、マグロ、サメと、注意深い管理を求めるだけの生態学的・社会科学的根拠が明確にある野生動物に対し、科学的根拠なく「カリスマ」というレッテルを貼って規制の足を引っ張ろうとする森下氏は、もはや生物多様性の敵といっても過言ではないでしょう。水産庁自身の資料に「生物多様性に配慮した漁業の推進」も入っているのにね・・。
 「未曽有の干ばつや家畜の伝染病が発生すれば、人類は危機的状況」(引用)に陥った場合、南極産鯨肉が2000%助けにならないのは前掲ブログ記事で指摘しているとおり。無知な大衆の危機感を煽るやり方は、過激な市民団体≠フ模倣なのかもしれませんが・・。
 「捕鯨は国家主権の問題」(引用)という日本に右へ倣えの主張をしているのは、日本から多額の援助を受け、農水省から手取り足取りレクチャーを受け、現実的に公海母船式捕鯨を実施する可能性ゼロの国だけです。

「カリスマ的」といった概念を持ち込めば、「私たちの文化は他の文化より勝っている」という文化帝国主義的な議論になりかねません。鯨についても異なる考え方がある。意見の相違があっても相手を尊重する。これもまた、鯨に対する見方の「多様性」であり、まずはこの合意を議論の前提として求めていくべきです。(引用)

 そもそも「クジラはカリスマだ!」と主張している反捕鯨派を筆者は知りませんし、森下氏自身の発明した誘導目的のキャッチコピーだとしか思えないのですが、文化帝国主義≠ヘ森下氏本人のカラーです。南半球の殺さない文化∞生かす文化≠蔑ろにすることといい、アイヌに対するダブスタ発言といい。「意見の相違があっても相手を尊重する」ということをまったくしていないのは、傲慢な超拡張主義的食ブンカを南半球の人々と自然に強引に押し付け続ける日本に他なりません。

■米国紙がみた調査捕鯨とアイヌ|無党派日本人の本音
http://blog.goo.ne.jp/mutouha80s/e/a863ac35990df463fce164c7633863d5
■Japan's whaling logic doesn't cut two ways (LATimes,2007/11/24)
http://articles.latimes.com/2007/nov/24/world/fg-whaling24

「商業捕鯨/先住民生存捕鯨等を行っている国々」

 日本の調査捕鯨の捕獲数を入れないなら意味のない数字。日本はノルウェー・アイスランド産鯨肉の市場となっていることも注意。
 同ページの最後に登場するウーマンズフォーラム魚ですが、NGO(非政府組織)の呼称に似つかわしくない、政府・業界の立場をそっくり代弁する御用団体。詳細はこちら。

■モラトリアム発効と「国際ピーアール」の陰謀|拙HP
http://www.kkneko.com/aa4.htm

 最後のP5は、調査捕鯨の正当化。

持続可能な捕獲量を計算するには目視で得た現在の生息数だけでなく、将来の変動を予測する必要があります。ある鯨種が全体として高齢化していれば今後、減少していくことになるわけです。また若い個体が多くても栄養状態が悪く、成熟が遅れがちだと増えにくいと言えます。(引用)

 持続可能な捕獲量を計算するためのRMPは、生息数のデータのみで将来の変動を予測することのできる安全な方式として考案されたもの。これも繰り返しですが、そもそも調査捕鯨は要らないのです。「必要だから」やっているのではなく、「1割くらい捕獲枠を増やせるかもしれない」という理由でやっているのです。
 クロミンククジラの「栄養状態が悪く」なっているという論文を鯨研はネイチャーに提出、胸を張って宣伝しようとしましたが、統計処理に問題があったと他の研究者に突っ込まれました。なんでそこまできちんと書かないのかしら?
 ICJ判決を受け、今までお座なりにやっていた非致死調査にやっと少しだけ腰を入れ始めたことも、記載がありません。まるで最初から一所懸命取り組んでいたかのよう。それが事実なら、ICJで敗訴することは決してありませんでした。

「北西太平洋における競合の模式図」

 さっきの非科学的きわまりない審議会資料、しっかり使ってますね〜。

例えば南極海ではクロミンククジラの資源が安定していることや、近年ザトウクジラなどほかの鯨種が急増していること、これによって将来、クロミンククジラの餌環境が脅かされてその資源の動向にも影響を与える可能性が否定できないことなど、資源管理をするうえで重要な事実が分かってきています。(引用)

 再掲ですが、以下を参照。

■間引き必要説の大ウソ|拙HP
http://www.kkneko.com/mabiki.htm

 「ザトウがミンクを脅かす」という従来無責任に流布していたのとは真逆の説についてですが、これはあくまで可能性の一つにすぎません。いくつもの可能性が考えられるのですが、特定種の致死調査に特化した調査捕鯨ではそのどれが正しいのか判別することができないのです。詳細は以下を参照。

■調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/18846676.html

 その他、NEWREP-Aの問題点の数々については、前回の記事とリンクをご参照。

■新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ|拙ブログ過去記事


 大越船長のコメント「調査捕鯨を止めてしまえば、これらの技術は失われ、復活させるのは難しいでしょう。」(引用)について。高齢化や経済的理由で伝統産業の担い手が失われるままに放置されている日本ですが、それらに比べれば近代捕鯨の技術が復活困難だとは到底呼べません。調査捕鯨が科学目的ではないと白状しているに等しいですが……。

 7月号のaffの特集は鯨と鰻の2本立て。
 クジラの5ページに対し、ウナギに割いたのはたったの2ページ、しかも1ページは丸々どうでもいい豆知識解説。
 かろうじて一言だけ「乱獲」と入ってはいるものの、「資源管理は避けられない課題」とあり、「クジラのページに書いてあるとおり日本が持続的利用を推進する国なら、なんで今まで出来なかったんだろう??」とまともな読者なら首をひねるでしょうね。
 そしてやはり、密漁にも密輸にも、絶滅危惧種指定にも、一っっっ言も触れていません。
 この構成だけ見ても、農水省/水産庁が、一体何から国民の目を逸らしたいのかは一目瞭然でしょう。
 こちらに読者アンケートがあるので、鯨と鰻の特集を読んでひどいと思った人は、該当欄の「悪い」にチェックを入れて送っておきましょう!

■農林水産省広報誌「aff(あふ)」2016年7月号アンケート
https://www.contact.maff.go.jp/maff/form/d448.html
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2016年07月24日

新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ

 今年は2年ぶりの国際捕鯨委員会(IWC)年次会議の年。
 国際司法裁判所(ICJ)の判決によって南極海調査捕鯨が1年中断し、昨シーズン装いも新たにNEWREP-Aとして再開されてから、初めて開かれる本会議でもあります。
 例年は6月頃に開かれることが多いのですが、今年の総会は10月、前回に引き続きスロベニアで開催されます。
 各国代表が集まる本会議の前、6月には科学者のメンバーから成る科学委員会の年次会合が開かれました。
 今年のIWC総会の焦点は間違いなく、国際法上違法との認定が下されながら、日本が再開を強行してしまったNEWREP-Aに当てられるでしょう。
 いわば前哨戦に当たる科学委員会では、新調査捕鯨はどのような評価を下されたのでしょうか?

 まず、NEWREP-Aをめぐる一連の経緯をざっとおさらいしておきましょう。
 ICJ判決後、わずか半年余りで策定された、NEWREP-Aは、文字通りヤッツケとしか思えない代物でした。IWC科学委員会(IWC-SC)のもとに設けられた専門家パネルでは、「捕獲が必要と立証できてない」とボロボロにこきおろされ、29個もの宿題(勧告)がつきつけられました。昨年のSC会合でも、日本は結局宿題を片付けることができず、「日本は宿題をやってきませんでした」(分析は不完全であり、十分な評価をすることができない)という点で合意に達したという恥ずかしいありさま。
 詳細な経緯については、以下の参考リンク及び『クジラコンプレックス』(石井敦・真田康弘著、東京書籍)をご参照。

■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015
■新調査捕鯨計画専門家パネル報告|〃
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/307-rwnprc2015-snd
■日本の調査捕鯨は違法か|〃

 そしてとうとう、日本は宿題をうっちゃらかしたまま南極に捕鯨船を出しました。
 1年経ち、本当は調査捕鯨を実施する前に片付けておくべきだったはずの宿題は、結局どうなったのでしょうか? 昨年の会議では、「専門家パネルの勧告にきちんと対応すること、その進捗状況を翌年の科学委で再審査すること」で合意も成立していました。
 はたして、新調査捕鯨1年目の成果≠ヘ一連の疑問に応えたといえるのでしょうか?

■調査捕鯨、賛否両論を併記=IWC科学委の報告書 (7/9,時事)
■調査捕鯨継続は両論併記 IWC科学委が報告書 (7/9,共同)■調査捕鯨  継続にIWCが両論併記 (7/10,毎日)

日本はIWCから求められた作業に十分対応しているとの意見と、対応が不十分なため継続は正当化できないとの意見の両論を併記した(引用〜共同記事)

 国内の報道では、賛成派と反対派でただ意見が割れているだけに見えます。ヒトによっては、反捕鯨派が難癖つけてるだけという受け止めかたもあるでしょう・・。
 これらの報道はいずれも水産庁が発表し、農水記者クラブ記者が「両論併記」と見出しをつけてそのまま垂れ流す形。
 何度も解説しているとおり、両論併記になるのは日本側が大量にメンバーを送り込んでいるから。
 実際に、IWC-SCのレポートに書かれている記述を引用してみることにしましょう。先に両者の結論から。

■Report of the Scientific Committee SC66b 

Some members commented that although the work required to fulfil the Committee’s recommendations from last year is still in progress, these tasks remain incomplete and the results thus far have not demonstrated that the NEWREP-A programme requires lethal sampling to achieve its stated objectives.
They noted that the Expert Panel had also advised that a short (e.g. 2 – 3 year) gap in the existing series to complete the recommended further analyses would not have serious consequences for monitoring change.
Therefore, in their view, continuation of lethal sampling in the 2016/17 season has not been justified.
一部のメンバーは、勧告を履行するために必要な作業はまだ進行中だが、これらのタスクは依然として不完全であり、NEWREP-Aプログラムは目標を達成するために致死的サンプリングが必要であることを立証していないとコメントした。彼らは「分析を完了するために2-3年の空白があっても深刻な影響はもたらさない」と専門家パネルが助言していたことも指摘した。
Other members commented that the proponents had responded satisfactorily to most of the recommendations of the Expert Panel, noting that some of the suggested further analyses have already been completed, while others are in progress or will be addressed within a reasonable timeframe.
他のメンバーは、「提案者は専門家パネルの勧告のほとんどに対応した。さらなる分析の一部はすでに完了したし、他は進行中か、合理的な期間内に対処されるだろう」とコメントした。
(引用〜p101)

 この結論は科学的な結論というよりむしろ主観的な意見に見えますが・・さて、正しいのはどちらの言い分でしょうか?
 その具体的な議論の内容をまとめたのがレポートのP92〜100にかけての表。統計の専門的記述を一部端折って筆者が抄訳したのがこちらの表。
table23sc66.png

 注目してほしい要点は以下。
 日本の報道機関は「十分対応している」と伝えましたが、実際には専門家パネルの29の勧告のうち、「完了」したのはたったの2つ。日本側が「合理的な水準に達した」と勝手に判断しているものが2つ。合わせてもたったの4つ。しかも、そのすべてで委員会側で異なる解釈、追加注文が入っています。
 日本自身が「要対処」と認めているものが7つ。
 「1、2年かかる」と言っているのが4つ。
 この11のうち6つは目的A、プログラムの主/副目標に直接関わる内容です。
 委員会コメントには、勧告の3つで「進捗や成果が同会合でまったく報告されなかった」とありますし、「新規情報なし」も1件(総消費量の推定に関する非致死的研究)。
 一体これのどこが「十分対応」といえるのでしょう!?
 提案者である日本政府側のコメントのうち、委員会と特に立場を大きく異にするものを赤枠で囲んでいます。
 中でもふざけているのが勧告3と勧告26、勧告27に対するコメント。
 勧告3では、SC、専門家パネルの見解をまるっきり無視して、優先順位を自分で勝手に落としています。
 勧告26は333頭のサンプル数設定の根拠に対する勧告ですが、委員会側がサブセットの選り好み等不可解な問題点について具体的に指摘しているにもかかわらず、それらの疑問には答えずしらを切って自己正当化を繰り返すばかり。
 さらに、勧告27のコメントに至っては、「やる気がない」旨を明言し、逆に要求を突きつけている有様。
 非致死調査について十分な検証を求めたICJ判決のことなど、もはや頭からすっぽり抜け落ちてしまったかのよう。
 森下IWC政府代表は「誠意をもってできるだけ対応したい」と表明していたはずですが、専門家の勧告に対するこうした不遜で傲慢な態度からは、誠実さなど微塵も感じられません。
 レポートの中では、昨季のNEWREP-Aによって得られた情報についても触れられています。
 そこにはわざわざ枠囲みで、「トラックラインの変更の根拠を説明するように」(p101)と、日本側も主目的に関わる重要な勧告と認めている勧告26に関連する重要な問題点が指摘されています。今回、SSCSの妨害がなかったにも関わらず、サンプリングが高緯度側に大幅に偏り、性比が極端だったことにも関係しているのでしょう。
 また、科学的に最も重要な指標のひとつである脂肪組織の総重量については、333頭中5頭でしか計測していないことが発覚。日本側はなんと、「運用上の都合で測れなかった」と一言言い訳していますが、これも科学的なプライオリティではなく鯨肉の鮮度を優先して作業時間を割り振った結果でしょう。調査捕鯨の科学上の重大な欠陥がまたひとつ俎上に上ったといえます。
 この一点をもっても、日本の調査捕鯨が科学を第一義として設計されたものでないということをはっきりと示しています。
 「美味い刺身(by本川元水産庁長官)」を供給できるかどうか──それこそが、彼らの判断基準であり、優先順位なのです。

参考:
posted by カメクジラネコ at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2016年06月25日

ホームページリニューアル

当方が運営している捕鯨問題中心のウェブサイトのデザインを一新しました。

「クジラを食べたかったネコ」
renual.png

これでやっとHTML5準拠、ほぼデバイス非依存になった(ハズ)(^^;;
最近はツイッターとブログに発信の比重を移していますが、基本的に時事ネタをブログで、トピック単位の情報をホームページでお届けしていければと思っております。ほぼ体裁中心の改装作業でしたが、内容もボチボチ改善していく予定です。

不具合等お気づきの点や、ご意見・ご感想があれば、HP設置フォーム、ツイッター等でぜひお知らせくださいm(_ _)m
posted by カメクジラネコ at 18:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 特設リンク

2016年05月22日

太地イルカビジネス、JAZAと縁を切って万々歳?/哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!

 今回は太地ネタ2本。まずはイルカ猟関連の報道から。

◇太地イルカビジネス、JAZAと縁を切って万々歳?

■太地イルカの取引4割増 和歌山、15年度漁期 (5/12,共同)
http://this.kiji.is/103223288249189883?c=39546741839462401

 JAZAのWAZA除名騒動が巷をにぎわせたのが、ちょうど昨年の今頃。皆さん、覚えてますか? 覚えてますよね??
 もう忘れちった(><)という方は、下掲の過去記事及びリンクを読んで、一連の経緯を復習してニャ〜。

■沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ
http://kkneko.sblo.jp/article/133050478.html
■水族館の未来
http://kkneko.sblo.jp/article/145181677.html
■またやっちゃった! 産経パクリ記者佐々木氏のビックリ仰天差別・中傷記事
http://kkneko.sblo.jp/article/163126790.html

 12日の共同配信記事の意味するところは明らか。
 振り返れば、マスコミやネットでの反応がいかに大げさで、無意味なものだったことか。
 民間の業界団体であるWAZAが、展示動物の調達に関するグロスタの指針を、イルカという特殊な政治的動物にも適用させることを、加盟する会員組織にも求めただけのことなのに、あたかも外国が攻めてきたかのごとき、北朝鮮を髣髴とさせる苛烈な反発が日本国内で巻き起こったわけです。市井のネトウヨのみならず、国会議員や和歌山県知事のような公的立場にある人々からも。
 今回の報道が改めて浮き彫りにしたとおり、買い手が他にいくらでもある太地にとっては、困ることなど何もなかったのです。
 実際には逆だったのです。もし、JAZAが勧告に耳を貸さずWAZAから除名されていたなら、(「国際交流などどうでもいい」というごく一握りの水族館以外の)動物園・水族館の多くが多大な不利益を被るところでした。
 このことは当時も各方面(筆者も含め)から指摘されていたことなのですが……。
 それどころか、太地のイルカビジネスにとっては、うるさい注文をつけてくる、堅苦しい、しち面倒くさいだけの顧客と縁が切れて、逆に大いに潤ったわけです。一時的な不利益すら被ることなく。
 ハンドウイルカの生体販売価格は9月で1頭100万円、10月以降90万円。食用では1頭2〜3万円(〜下掲毎日記事)。ちなみに、今猟期は生け捕られたハンドウ50頭が9月中の捕獲でした。
 今シーズンは前年度比4割増。金額で表すと、いさな組合の売上はおよそ8千万円から1億2千万円に。実に4千万円分の増収。ホクホクですね。
 さらに、これに公社が調教済オプションを上乗せすると1頭当り500万円前後に。こちらに卸した頭数は今のところ不明ですが。
 一方、食用のイルカ肉の売上は全部合わせても2千万円程度。生体販売と大きな開きがあります。つまり、調査捕鯨ではないけれど、生体が事実上の主産物で肉は副産物≠ネわけです。

■[記者の目] 和歌山・太地 イルカ追い込み漁=稲生陽(和歌山支局) ('15/9/9,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20150909/ddm/005/070/074000c
■財団法人 太地町開発公社 平成25年度損益計算書|太地町議会議員 漁野尚登のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/33027399.html

 以下は2猟期分の太地追い込み猟の捕獲数内訳を示した表。ソースはセタベース。
1516taiji.png
■DRIVE HUNT RESULTS | Ceta-Base
http://www.ceta-base.org/taiji/drive/results.php

 冒頭にリンクを掲げた共同記事の記述について、ちょっとチェックしてみましょう。以下、背景着色部分引用、強調筆者。
 生体販売の数字117頭は合っていますが、936頭の方はセタベースと一致しません。リリースした個体を含むのか、突きん棒との合算なのか否か、この大ざっぱな書き方だと判然としませんが・・。

 日本動物園水族館協会(東京)が追い込み漁で捕獲された個体の入手禁止を加盟施設に義務付けて以降初の漁期だったが、規制の有効性が改めて問われそうだ。(引用)

 上掲したように、これはWAZAおよびJAZAという業界団体内の規約に各会員が従うかどうかの話でしかないのですから、よそがそれを「問う」こと自体まったくの筋違いです。(法的な)規制は現在存在しないのです。
 「義務付けて以降初の漁期」という表現も正しいとはいえません。WAZAでは十年以上前からイルカの入手方法について議論され、2004年の年次会議で既に太地追い込み猟の非人道性を強く非難する決議を出しています。これは調達も含め展示動物の福祉に配慮するWAZAの倫理規約に即した内容であり、イルカを特殊視して日本を悪者扱いしたものではありません。WAZAもJAZAも、日本・太地に遠慮して、この間厳格な運用を怠っていたという謗りは免れませんが。
 繰り返しますが、そもそも規制なんてものは何もないのです。必要なのは、日本の動物愛護・動物福祉面での法整備と運用。その中で、実効性を伴う展示動物の調達における倫理指針をきちんと設けることであり、あるいはCITES(ワシントン条約)、CMS(ボン条約・日本は未批准)等の国際法において同様に具体的な規制基準を設けるよう促していくことです。
 現状を例えるなら、製品の安全性や品質についてメーカーの業界団体が法的拘束力のない自主基準を設けるだけでは、未加盟の業者がいくらでも売ることができてしまい、消費者が不利益を被り続けるのと同じこと。
 法的な規制が導入されるまでは、<消費者=水族館を利用する人々>が<サービスの提供者=水族館>を賢く選ぶしかないのです。
 持続可能な水産物の指標となるMSC(マリンエコラベル)と同様、イルカの調達方法について他の展示動物と同様に動物福祉に配慮されているかどうか、水族館を娯楽サービスとして消費している一人ひとりの消費者の姿勢が、改めて問われて≠「るのです。
 動物園・水族館についてはそもそも展示も含めさまざまな議論があり、日本の水族館は他の先進国に比べ何周分も遅れているのは事実です。イギリスではとっくの昔に水族館のイルカ飼育はなくなり、米国では『ブラックフィッシュ』効果でシーワールドがシャチの飼育・繁殖を断念しました。他の先進国でも批判が強まっています。新興国として太地産イルカの需要が高まっている中国・韓国等でも、既に反対の声が上がっています。そんな中、日本の水族館消費者のほとんどは、何の疑問も抱かずにショーを愉しんでいるのが実情です。
 しかし、消費者が情報を入手し、相対的によりよい方を選択することは可能であり、またその手段が提供されるべきです。いま現在は飼育・展示施設のほとんどのイルカが太地産ではありますが、非人道的な捕殺と決別した水族館か、イルカ殺しと共存共栄の路線を未だに歩みながらその事実を伏せる水族館か、そこは見極めるべきでしょう。
 気になるのは最後の一文。昨年にも報道されたとおりですが。

 昨年8月の受注時には、例年並みの約150頭の申し込みがあった。(引用)

■No drop in orders for Taiji dolphins despite restriction (8/11,JapanTimes)
http://www.japantimes.co.jp/news/2015/08/11/national/taiji-moratorium-means-aquariums-may-reducing-dolphin-shows/

 要するに、太地が今年4割も増収を達成したのは、受注が増えたからではないわけです。
 太地が捕獲したイルカを求める水族館・卸売業者(輸出)の購入順は抽選で決める仕組みになっていますが、今年はそのアタリの確率が高かったわけです。
 主な理由は、表にもあるとおり、売れ筋のハンドウイルカの捕獲が大幅に増えたこと。積極的に捕獲したのか、たまたま沿岸への来遊が昨年より多かったのかわかりませんが。
 もし、わざわざがっつくようにハンドウイルカの捕獲数を増やしたのだとすれば、WAZA/JAZA、あるいは内外の反イルカ猟団体・市民に対するアテツケ「自分たちはダメージなど負っていないのだ」という姿勢のアピールにも映ります。太地町長三軒氏ら関係者の発言を踏まえれば、何の不思議もないと思いますが……。
 そんなところも、米国や日本の圧力に屈せず、「核を持つのをやめろ」と批判されればされるほど頑なさを増し、核開発への道を突き進もうとする北朝鮮にそっくり。

 米国こそが最たる核保有国であり、日本がその核の傘に依存しているのも、核不拡散条約がきわめて不平等な条約であることも、確かに事実ではあります。戦争はすべからく残虐なものであり、「核さえなくせばいい」わけではないのも。
 しかし、いくら正論≠セからといって、それは北朝鮮が核を持つことを正当化する口実にはなりません。
 戦争も、差別も、「どれがより残虐な兵器か」「どれがより陰湿な差別か」をめぐる議論に終始して、現実を一歩も変えようとしないなら、私たちの社会は一歩も前へ進むことができなくなります。それでは戦争も差別もない世界など決して実現できやしません。
 太地のイルカ猟に関しても、まったく同じことがいえると思いませんか?
 昨年騒動が持ち上がった際は、マスコミが必死に太地を擁護する一方で、「水族館が太地からイルカを買っているなんて知らなかった」という声も多数聞かれました。
 「ウシを殺してイルカを殺さないのはサベツだが、同じ種・群れのイルカを追い込んで水族館で芸をさせるものと殺すものとに選別するのはサベツではない」との感覚で、イルカショーを存分に愉しむことができるという特殊思考の方以外は、きっとそこに大きな矛盾を感じられることでしょう。
 家族連れで、アベックで、水族館を楽しむのも結構。
 しかし、本当の裏側を知らずに心の底から楽しむことができますか? 最近はバックヤードを案内する企画も流行っていますけど。
 いまあなたの目の前で演技をしているイルカは、いくら愛嬌たっぷりに見えても、仲間を殺され、子供と引き離され、その仔イルカも家族の絆を失って命を落としているかもしれないのです。
 そこにあなたは癒しを見出せますか?
 大切なのは、「水族館がどこへ向かっているのか」ということ。
 今年、太地から新たにイルカの供給を受けた水族館として報道されたのは、以下の「志布志湾大黒イルカランド」「わくわく海中水族館シードーナツ」の2館。
 ※ 23日になって読売が報道したため、リンクを追加。JAZA非加盟施設リストの「じゃのひれドルフィンファーム」を確信犯施設(赤太字)に。

■串間の施設に新入りイルカ、太地町から4頭 (5/1,読売)
http://www.yomiuri.co.jp/kyushu/nature/animalia/20160502-OYS1T50050.html
■新たなイルカお目見え 上天草市の水族館 (3/22,熊本日日)
http://kumanichi.com/news/local/main/20160322003.xhtml
■太地の生け捕りイルカ販売増、「入手禁止」1年 (5/23,読売)

 なお、昨年は太地に同調する姿勢を示していた館が4館(太地町立館は除く)ありましたが、実際にJAZAを脱退したのは現時点では「あわしまマリンパーク」のみ。

■Five aquariums may quit association over Taiji dolphin ban (5/25,JapanTimes)
http://www.japantimes.co.jp/news/2015/05/25/national/five-aquariums-might-quit-jaza-over-taiji-dolphin-ban/

 以下に、引き続き太地のイルカビジネスを支える形で貢献する可能性のあるJAZA非加盟館をリストアップしておきます。赤太字は今年JAZAから脱退ないし太地からイルカを購入したり入札に参加したことが判明している確信犯的施設。
 ニンゲンが自然・野生動物に対する絶対君主∞暴君≠ニして振る舞い、生殺与奪の権利を振りかざし、同じイルカを食い殺したりショーを鑑賞したり好きなように愉しむことをよしとする方は、以下の施設を応援してお金を落とすのも一興。
 「そんなの嫌だ」という方は、最低でも現JAZA加盟の水族館を訪れるようにしましょう。

★JAZA非加盟水族館

 わくわく海中水族館シードーナツ(熊本)
 犬吠埼マリンパーク(千葉)
 あわしまマリンパーク(静岡)
 新屋島水族館(香川)
 海きらら(長崎)
 仙台うみの杜水族館(宮城)※

※ このうち、昨年開館したばかりの仙台うみの杜水族館は、東日本大震災で被害を受け、閉館となった加盟館のマリンピア松島水族館の代わりに新設されましたが、経営は八景島グループ。飼育動物はマリンピア松島から委譲されています。イルカは横浜の八景島シーパラダイスからも持っていったとのこと。早急にJAZAに加盟してもらいましょう。

☆JAZA非加盟イルカ飼育施設

 ドルフィンファンタジー伊東(静岡)
 イルカ島海洋遊園地(三重)
 淡路じゃのひれアウトドアリゾート(兵庫)
 南紀田辺ビーチサイドドルフィンin扇ヶ浜(和歌山)
 日本ドルフィンセンター(香川)
 本島イルカ村(香川)
 室戸ドルフィンセンター(高知)
 壱岐イルカパーク(長崎)
 つくみイルカ島(大分)
 志布志湾大黒イルカランド(宮崎)
 ドルフィンファンタジー石垣島(沖縄)
 ルネッサンスリゾートオキナワ/もとぶ元気村(沖縄)

*太地イルカ追い込み猟と不可分の施設

 太地町立くじらの博物館(以下すべて和歌山)
 ドルフィン・ベェイス
 ホテルドルフィンリゾート
 和歌山マリーナシティ

リスト参考資料:
■「日本の施設で飼育されているイルカたち  水族館はイルカの飼育に適しているか?」|ヘルプアニマルズ
http://www.all-creatures.org/ha/saveDolphins/aquariumreport.pdf
■加盟園館検索|日本動物園水族館協会
http://www.jaza.jp/z_map/z_seek00.html

参考リンク:
■いるか漁業(追い込み漁)と生体販売の関係
http://togetter.com/li/824325
■WAZAによるJAZAへの協会会員資格停止通告と、これまでの飼育下鯨類をめぐる環境についての一連ツイート
http://togetter.com/li/821186
■「池上彰のニュースそうだったのか!!2時間SP」の中で言及されたWAZAJAZA問題部分まとめ
http://togetter.com/li/837312
■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
http://togetter.com/li/834969


◇哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!

■平成28年度「日本遺産(Japan Heritage)」の認定結果の発表について|文化庁
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2016042501.html
■「日本遺産」 新たに19件が選ばれる (4/25,NHK)
http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/700/243220.html
■捕鯨文化語る「鯨とともに生きる」が日本遺産に認定 (4/25,WBS和歌山放送)
http://wbs.co.jp/news/2016/04/25/79967.html
■熊野灘の捕鯨文化が日本遺産に (4/26,紀伊民報)
http://www.agara.co.jp/news/daily/?i=313618&p=more
■捕鯨文化が日本遺産に 命に感謝する物語 (5/3,紀伊民報)
http://www.agara.co.jp/column/ron/?i=313960&p=more

 先月、文化庁が熊野灘の捕鯨文化を「日本遺産」として認定しました。
 報道をチェックしたところ、19件のうちとくに和歌山の捕鯨の名を挙げたのは、各大手紙地域版と地域紙くらい。ただ、NHKは全国ニュース(Web版でのみ)で代表例のひとつとして言及した模様。
 日本の捕鯨推進派はこれまで、ことあるごとにブンカブンカと口うるさく吠えてきたわけですが、一口に伝統文化といってもピンからキリまであります。捕鯨・鯨肉食文化が一体どの程度格調高い文化≠ネのか、数ある日本文化の中でどのように重く位置づけているのか、われわれ日本人にとってすらイマイチピンとこなかったわけです。
 何しろ、1970年代までは、新聞の社説はどこも蛋白自給論までで、日本捕鯨協会/国際ピーアールがこのキャッチコピーをひねり出すまで「伝統」を持ち出していたところは一紙もなかったくらいですから。
 以下は2009年の記事ですが、その後も今年まで文化勲章受賞者と文化功労者の中に捕鯨関係者は見当たりません。

■文化の日に《ほげ〜ぶんか》について考える(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/33456331.html

 そもそも日本は、経済優先・開発優先で、街の景観から歴史的建造物、遺跡、あるいはダムの底に沈められた由緒ある有形無形の文化遺産まで、他の先進国と比較しても伝統の価値に重きを置いてきたとはいえない国です。
 国際的には、国際捕鯨委員会(IWC)においても先住民生存捕鯨に定義される一部の捕鯨に限り、別格の扱いを受けています。迫害されてきた歴史を持つ各地の先住民・少数民族の伝統に対しては一目置かれるべきだというのが、国際社会の共通認識であればこそ、当然の措置といえるでしょう。その定義に間違いなく当てはまるはずだったアイヌの捕鯨は、かつて日本政府が政治的意図のもとに潰してしまったわけですが……。
■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 それら、ないがしろにしてきた数々の文化に優劣をつけ、国が税金を投じてアピールするのは、反反捕鯨論者の主張するところのサベツに当たるのではないかという気がしますが……。
 ともあれ、今回の文化庁の指定で、やっと箔が付いた形になるのかもしれません。
 しかし、はたして本当にそういえるのでしょうか?
 さっそく中身を検証してみることにしましょう。
 日本遺産は一年前から同庁が始めた認定制度で、2年目の今年は19件、昨年分と合わせて33府県の37件がこれまで指定されています。「おらが県にも!」と知事や国会議員の先生方が鶴の一声を発するだけですんなり通っちゃう、あるあるパターン≠ノはまってるようにも見えます。この分だと、おそらく各都道府県毎にまんべんなく2、3件ずつ登録させる格好になりそう・・。空港や新幹線じゃないけど。
 びっくりするのは、和歌山県/文化庁が付けたタイトル。なんと「鯨とともに生きる」
 もっとも、認定された日本遺産の「ストーリー」をながめてみると、どれも明らかに町興し・観光誘致のための宣伝文句のレベルに見えます。「飛鳥を翔(かけ)た女性たち」とか「政宗が育んだ“伊達”な文化」とか「よみがえる村上海賊“Murakami KAIZOKU”の記憶」とか。筆者にはもはや、イタイオヤジがかっこつけて命名したふざけたタイトルとしか思えません・・。格調どころか、軽薄な印象さえ受けてしまいます。
 また、文化庁のサイトに掲載されている申請の様式やそのボリュームも、学生向けの課題レポートにしか見えません。これでは「申請した者勝ち」になるのは目に見えているでしょう。
 認定にあたっては、「単に地域の歴史や文化財の価値を解説するだけのものになっていないこと」と但し書きもついているのですが、そのプラスアルファの部分に、筆者はどうも商売っ気を感じてしまうのです。そこを除いてしまえば、どれも単なる解説にしか見えません。
 そういう意味では、下部機関イコモスが提案国から提出される膨大な資料を時間をかけて審議するユネスコの世界遺産ともまったくの別物。まさに商店街・商工会のブランドに国がお墨付きを与えたにすぎないように思えます。
 さらに、都道府県・市町村レベルですでに文化財指定されたものも含まれており、一種の非効率な二重行政の謗りは免れません。定義と性格がはっきりしないのは、むしろ国の日本遺産の方ですが。
 当の和歌山県の提出した資料がこちら。

■平成28年度「日本遺産(Japan Heritage)」認定概要
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2016042501_besshi02.pdf

M ◎和歌山県(新宮市,那智勝浦町,太地町,串本町)
≪鯨とともに生きる≫
(ストーリーの概要)
鯨は,日本人にとって信仰の対象となる特別な存在であった。人々は,大海原を悠然と泳ぐ巨体を畏れたものの,時折浜辺に打ち上げられた鯨を食料や道具の素材などに利用していたが,やがて生活を安定させるため,捕鯨に乗り出した。
熊野灘沿岸地域では,江戸時代に入り,熊野水軍の流れを汲む人々が捕鯨の技術や流通方法を確立し,これ以降,この地域は鯨に感謝しつつ捕鯨とともに生きてきた。当時の捕鯨の面影を残す旧跡が町中や周辺に点在し,鯨にまつわる祭りや伝統芸能,食文化が今も受け継がれている。(引用)


 新宮市からは既に県の指定文化財になっている鯨踊が登録されています。
 ところで、同市には日本の古式捕鯨のルーツが実は中国にあるという、ストーリーとしても非常に面白いネタがあるのですが、こっちは日本遺産のセットに入れなかったのでしょうか?

■太地の捕鯨は中国産!? 捕鯨史の真相
http://kkneko.sblo.jp/article/18025105.html

 確かに、日本遺産自体が格調高いものとは言いがたい、客寄せ目的の薄っぺらなキャッチフレーズになってしまっているなら、和歌山の申請だけが特におかしいとはさすがにいえません。
 村上海賊や呉の軍港そのものを復活させろなんて声はどこからも挙がるわけがありませんし、ユネスコ世界遺産の石見銀山や富岡製糸場にしたって、今から稼働させろなんて誰もいいやしませんしね。
 古式捕鯨の記録や史跡、あるいは派生的な伝統舞踊等に対しては、いくら海外の過激な反捕鯨活動家だって、否定する理由は何もありませんし、そもそも意味がありません。近代以前の捕鯨産業の歴史的価値については、現在は日本の公海捕鯨に強く反対している米国や豪州等の反捕鯨国でも、日本以上に尊重され、博物館等を通じてきちんと後世に伝える努力がなされているのですし。
 もっとも・・江戸時代に太地の鯨組を仕切っていた和田氏の子孫でいらっしゃる太地亮氏は、和歌山県の申請内容について以下のように指摘しています。まあ、学芸員の資質をめぐるすったもんだは、部外者の関知するところではないのですが・・。

https://twitter.com/mackujira/status/727327944314523649
1999年、「南紀熊野体験博」が開催され、県より小冊子が発行されました。その中に太地町が資料を提供して「和田頼治は太地角右衛門と相談、網取捕鯨を考案」とあったので、同一人物であることを伝え、県に指摘して、増刷で訂正していただきました。太地町では現在でも誤りが多いです。(引用)

https://twitter.com/mackujira/status/730597315174506497
日本遺産で太地町の「和田の石門」の名称、説明に誤りがあり、訂正が必要。(引用)

 太地亮氏はこのほかにも、今日はマスコミや当の太地町自身が真逆のことを吹聴している、子持ちクジラを積極的に捕獲していたこと等、古文書をもとに風説の過ちを指摘されています。
 「親子連れには決して手を出さない日本の人情捕鯨=vという都市伝説の大きな過ちについては、筆者も再三発信してきたところ。子殺しの伝統≠フみは、それ以外に古式時代から継承した部分など一片もない調査捕鯨で格段にエスカレートした格好ですが。
 太地亮氏は他にも非常に興味深い指摘をされています。


角右衛門頼治は今より300数十年前の当時、自然保護の立場から、「海を渡って来る鳥魚は、みな処を求めて寄って集まるものなれば、海べりの岩も海硝も大事に守り、損ぜざらまじき事」と、人間と自然・動物との調和を述べております。(引用)

 この精神こそは、日本遺産として国内外に声高にアピールする価値のある、最も尊い文化だと筆者には思えます。
 鯨肉という単なる食材、竜田揚げといった単なるレシピなどとは比較にならない、伝統の核心というべきものだと。
 和歌山県選出で捕鯨問題の発信を多数なさっている鶴保庸介参院議員には、ぜひ自然海岸の厳格な保全を国策として協力に推進していただきたいもの。
 何しろ、現代の日本の海岸はテトラポッドだらけ、ガッチガチにコンクリで固められ、持続的な水産資源管理に使われるべき水産予算の相当の部分が水産ゼネコンの手に渡っているのが現状。よく知られているとおり、反捕鯨国の代表格オーストラリアの方が、自然海岸の保全に関しては日本を圧倒的にリードしているありさまなのですから。

■サーフライダーによる海岸保全の世界的なうねり|海洋政策研究所
https://www.spf.org/opri-j/projects/information/newsletter/backnumber/2005/110_1.html

◎フランスやオーストラリアでは沿岸域の開発や海岸事業にはすぐには着手しないことが原則となっている。
◎沿岸域の総合管理という考え方は常識で、縦割りの行政による利害の対立は少ない。さらに、どの国の海岸状態も日本と比べると自然海岸の残存率は極めて高い。また、管理システムの特徴と同時に市民の社会参加も際立って高い。(引用)

 もし、この誉れ高き捕鯨文化の真髄が、日本からすでに失われているとするならば、私たち日本人はまずその失われた精神を取り戻すところから始めなくてはならないでしょう。
 それをせずして、形骸化したブンカを全国区にし立て、南極の自然を貪る口実にするなら、それは捕鯨を含む、先人の築いた由緒あるわが国の伝統文化に対する愚弄以外の何物でもありません。

 太地亮氏がご先祖の興した事業を誇りにされるのは当前のことと思います。
 ただ・・残念ながら、太地の古式捕鯨が自然保護に資した部分は、この一点をおいてのみでした。
 古式捕鯨はすでに過去のものであり、先述のとおり批判する意味はありません。西洋の過去の捕鯨と同じく。
 ただし・・それが現代の捕鯨推進・擁護に強引に結び付けられ、その病理を覆い隠す隠れ蓑として利用されているとなれば、話は別です。
 仁坂和歌山県知事は当初、イルカ追い込み猟までこの日本遺産に抱きこむ意欲≠示していました。

■捕鯨文化、日本遺産に申請 和歌山県、追い込み漁盛り込まず (2/10,共同)
http://this.kiji.is/70112918748218870

仁坂吉伸知事は太地町のイルカ追い込み漁も対象とすることに意欲を示していたが、「申請テーマからそれる」として盛り込まれなかった。(引用)

 
仁坂知事は当初、太地町のイルカ追い込み漁も対象に考えていましたが、盛り込まれませんでした。また和歌山市と海南市が申請していた「紀州徳川家の『父母状』を継承する街」は認定が見送られました(引用〜上掲和歌山放送)

 見送りの理由がまたなんともぼんやりしてますが・・。さすがに知事以外の県関係者は、海外にPRするにはあまりにも逆効果が大きいと理解していたのでしょうけど。
 それでもなお、仁坂知事は驚くべき文化認識をあからさまに表明しています。

太地町などで続く反捕鯨活動に対しては「鯨を殺すな、食べるなという人たちでも、祖先は捕鯨文化の下にいる。思想は自由だが、われわれがこういう文化を持って懸命に生きてきたことに対する尊敬の念はあってしかるべきだ。彼らの文化レベルが高ければ、古式捕鯨文化が脈々と息づいてきた日本遺産の意義は分かってもらえるはずだ」と話した。(引用〜上掲紀伊民報記事)

 仁坂知事のコメントからは、はちきれんばかりにふくれあがった自尊心・優越感が読み取れます。
 前述のとおり、反捕鯨国でも過去の伝統捕鯨まで否定されてはいません。乱獲と密猟の史実を「共存」という空疎な言葉でごまかす日本と異なり、殺す文化から生かす文化へとクジラとの付き合い方が移り変わったにすぎないのです。太地への水族館生体販売ビジネス導入の経緯が端的に示すように、文化の内実を都合よくコロコロと変質させてきた日本と比べても、伝統文化を尊重する姿勢がないなどとはいえません。
 「自分たちの文化レベルは高いが、白人なり捕鯨に反対する者の文化レベルは低いのだ」などと口にする時点で、その人物は文化人と呼ぶにはあまりにも程度が低いといわざるをえません。
 もちろん、本当に仁坂氏の言うとおり、日本の文化レベルが高かったなら、アイヌの捕鯨は日本政府によって滅ぼされることなく、諸外国の先住民生存捕鯨と同じように認められていたことでしょう。
 仁坂知事のこうした常軌を逸した発言には、古式捕鯨の客観的な史実とはかけ離れた美化・理想化が如実に現れているといえます。
 祖先から受け継いだものがすべて善≠ニは限らないのです。人権思想も民主主義も平和主義も、過去の過ちから学んだ結果として社会に浸透していったのです。
 思い出すのは、ユネスコの明治産業遺産登録騒動と、南京大虐殺の記憶遺産登録に対する日本政府・ネトウヨの猛反発。
 歴史の中で耳障りのよい部分だけを切り取り、演出を施して華々しく喧伝したがる一方、影の部分・負の側面については口を閉ざすばかりか、政治的に圧力をかけてもみ消そうと図る始末。
 まさに文化の政治利用
 「尊敬の念」とは、誰かに強要するものではありません。
 仁坂知事がここまでおっしゃるなら、本当に古式捕鯨が神聖崇高な代物だったのかどうか、しっかり検証してみることにしましょう。
 知事の言う、それを持って「懸命に生きてきた」文化の中身が、いったいどのようなものであったかを。

 「ストーリーとして提供する」のが日本遺産のコンセプトなら、太地の捕鯨が加担した乱獲・密猟・侵襲性・非持続性という「負の歴史」に触れずにすませるわけにはいきません。「ともに生きる」はあまりにも実態とかけ離れたネーミングです。
 それらも含めて淡々と史実を伝える分にはおおいに結構。しかし、紀伊民報がタイトルに掲げた「命に感謝する物語」は、後ろ暗い側面をバッサリそぎ落とした子供向けフィクションであり、歴史修正主義以外の何物でもありません。
 江戸時代の日本の捕鯨は、持続可能性を保障する具体的な資源管理の方策を欠いていました。当時の鯨捕りが不漁に際して行ったのは、科学的根拠のない儀式的な供養のみでした。経験に基づき、漁獲努力量(今でいうCPUE)が適正か過大かを推測し、フィードバックする仕組みを、古式捕鯨は持ち合わせていませんでした。なぜなら、クジラは「余禄」だったからです。不漁が続けば、漁場を拡大するか、近隣の組を併呑するか、あるいは単に廃業するか。
 この辺りは、効率的な近代装備が乱獲への甘い罠≠ナあることを見抜き、自重した水産業の鑑≠ニいうべき海女漁や、シャチとの間で獲物を分け合う感覚を間違いなく有していたアイヌの捕鯨との決定的な差でした。
 突取式捕鯨が発祥地である尾張や導入された関東各地で、あっという間に乱獲による自滅に陥ったことは、当時から理解されていました。
 日本で最初に組織的な捕鯨が開始されたと考えられるのは、新聞報道も含めてしばしば誤解されていますが、太地ではなく尾張地方(今の愛知県知多半島南部)です。
 それはあまりにも悲惨な代物でした。
 以下は随筆家/僧侶の三浦浄心が発祥地尾州から関東に持ち込まれた鯨漁の模様を慶長見聞集の中で伝えたもの。乱獲による資源枯渇の実態が手に取るようにわかる内容です。

文禄の比ほひ、間瀬助兵衛と云て、尾州にて鯨つきの名人相模三浦へ来りしが、東海に鯨多有を見て、願ふに哉と、もり綱を用意し、鯨をつくを見しに、鯨、子を深くおもう魚なり。故に親をばつかずして子をつきとめいかしをく。二つの親、子をおのが腹の下にかくし、をのが身を水の上にうかべ、剣にて肉を切さくをわきまへず、親子ともに殺さるゝ。(中略)
此助兵衛鯨をつくを見しより、関東諸浦の海人まで、もり綱を支度し鯨をつく故に、一年に百二百づゝ毎年つく。はや廿四五年このかたつきつくし、今は鯨も絶はて、一年にやうやう四つ五つつくと見えたり。今よりこの世鯨たえ果ぬべし。(引用)

子持ち鯨ばっかり殺していると「今より後の世、鯨たえ果ぬべし」と言った三浦浄心や、一産一子の鯨類において子鯨ばかり捕っていたら年々減っていくのは当然とした「西海鯨鯢記」の著者谷村友三、かなり慧眼だったし、よっぽど自然の事考えていたのでは?(引用)

■鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性
http://togetter.com/li/977982

 古式捕鯨前期の突取式の技術は、このように沿岸性で泳速の遅かったコククジラ、セミクジラに深刻なダメージをもたらしました。セミクジラに関しては、米国等外国の帆船式捕鯨による影響も一部にはあったと見られますが、日本近海での操業時期や捕獲数から推量しても、相対的には当時の日本の捕鯨産業のほうが資源枯渇の責任が大きかったのは否定の余地がありません。
 そして、その乱獲を招いた尾張の鯨取りを招聘し、技術を取り入れ、さらに発展させたのが太地だったのです。

■太地浦鯨方成立の概略|太地角右衛門と熊野捕鯨
http://www.cypress.ne.jp/taiji/3.html

この頃になると、太地浦では兄の金右衛門組とするものの、三組の鯨組(金右衛門頼奥・角右衛門頼治・忠兵衛頼則)となり、また他の地域でも鯨組が多く出来て競合しておりました。そのため、乱獲となり、捕鯨業は衰退しつつありました。(引用)

■多田吉左衛門と網掛突取捕鯨 太地亮著|津室儿のブログ
http://tumurojin.blogspot.jp/2012/05/blog-post_30.html

このような技術革新の結果、当時、乱獲によるためか、突き取り捕鯨の主な対象だった脊美鯨が減少し、熊野での各浦々の鯨組同士の競合が起こり、捕獲した鯨をめぐり争いが絶えなかったため、延宝三年(一六七五年)、熊野の七浦庄屋が突取捕鯨に関する取り決めを行った。(引用)

 そして、こうした状況に対し、江戸時代の日本の捕鯨業者が発揮したのは、乱獲によって資源枯渇を招いたことへの反省、痛めつけられた資源を回復させるための自然への配慮ではなく、利益を維持するため新たな獲物に乗り換える知略だったのです。そのようにして登場したのが網取式捕鯨でした。

https://twitter.com/mackujira/status/728041572307079168
(突取捕鯨と網取捕鯨の差)突取捕鯨で鯨に打つ銛は約100本。潜ると銛が抜けるのがほとんど。逃走されると高価な銛の費用損失が大きかった。従い、鯨を逃せば赤字となった。網取捕鯨では鯨網で動きを止めたので逃走されず、銛もねらい打ちできたので消耗が少なく有利だった。(引用)

 言い換えれば、突取式では銛を打っても捕獲し損ねる場合が非常に多かったことということ。当然、逃走したクジラは死亡したはずです。つまり、当時の不十分な統計では推し量れない資源へのダメージがあったことをも意味します。残念ながら、太地をはじめとする古式捕鯨業者には、それが自然にとって何を意味するのか、胸に手を押し当てて考える気はなかったようですが……。
 ちなみに、今日では生存捕鯨の規制でも銛打ち数が基準となっています。
 日本の捕鯨産業は、乱獲による衰微の歴史を真摯に振り返り、自制に向かうのではなく、さらに効率的な網取式に切り替え、対象種をこれまで捕獲が容易でなかったザトウクジラにまで拡張したうえで、なおも減少の明らかなコククジラやセミクジラにダメージを与え続けました。この辺りは、近代捕鯨が乱獲を防げなかった大きな要因であるBWU制(シロナガス換算)の重大な欠陥(ナガス・イワシを捕りながらシロナガスを追い詰め続けた)にも通じるものがあります。

 ちなみに、網取式捕鯨の発祥地についても諸説ありましたが、一応関係者の間では太地が定説というお話。

https://twitter.com/mackujira/status/727384216694976512
平成18年(2006年)、太地町で「第5回日本伝統捕鯨地域サミット」があり、全国より研究者が集まりました。太地町の「捕鯨発祥地」の解釈について、「延宝5年の網掛突取捕鯨の地」と規定したように思います。(引用)

 ただし、太地が開発した翌年の1678年にはもう、遠く離れた大村(長崎)深澤組が網取捕鯨業を始動したとされます。

■近世日本における捕鯨漁場の地域的集中の形成過程|岡山大学経済学会
http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/journal/14930

 深澤氏が太地を訪れて網取の技術を伝授されたのは1684年とする見方もありますが、いずれにせよ歴史的には瞬く間に広まったといって差し支えないでしょう。
 莫大な利益を生むことがたちまち知れ渡り、網取式の技術は高知や山口、九州北部にまで伝播しました。太地の関係者が出張して教えたり、逆に各地から太地にまで教えを乞いに来るなどして、全国にあっという間に広まったわけです。みんなが同じことをやりだしたらどういうことになるか、誰も関心を持ち、時間をかけて検証することなく、ただ「同じように大金をせしめたい」という欲望から拡散してしまったということです。
 太地では、網取式導入初期の捕獲数が100頭近くまでふくれあがります。

鯨は、“一頭で七郷が潤う”と言われ、当時セミクジラ1頭で約120両にもなり、年間95頭捕れた天和元年(1681 年)には、6,000両を超す莫大な利益をもたらした。このことは、遠く離れた大阪にも伝わり、井原西鶴の著書「日本永代蔵」には、鯨を取って得られる金銀が、使っても減らないほど蓄えられ、檜造りの長屋に200人を超す漁師が住み、船が80隻もあり、鯨の骨で造られた三丈ほどの「鯨鳥居」があるなど、この地域の繁栄ぶりが記述されている。(引用〜和歌山県日本遺産ストーリー)

https://twitter.com/mackujira/status/727303732828889088
1683年暮れから翌春のわずか数ヶ月間で、太地では座頭鯨91頭、背美鯨2頭、児鯨3頭を捕獲して太地は全国に知られることになりました。網取捕鯨法は突取捕鯨法では難しい座頭鯨捕獲に開発されました。そして「太地角右衛門大金持よ、背戸で餅つく表で碁うつ、沖のど中で鯨打つ」と唄われました。(引用)

 一方、技術的に圧倒的に優位に立った太地組に対し、近隣の鯨突組は脅威を感じて禁止を訴えます。

また、紀州藩内の鯨突方の組織が網取捕鯨の組織力と実績に驚異を感じ、突取捕鯨が行えなくなったとの認識があったものと思われるが、紀州藩に訴え、一旦この技術での捕鯨を禁止された。そこで角右衛門は逆に紀州藩に願い出て、訴訟の結果、翌年には網掛突取捕鯨の使用が再び許可されたという経緯があった。(引用〜『多田吉左衛門と網掛突取捕鯨』)

 この辺りも、その後の漁業者と捕鯨会社、あるいは今日の沿岸/沖合ないし競合する漁業種間の軋轢に通じるものがありますね。
 この禁止措置は1680年のわずか1年のみで、翌年には解除されました。
 結果的に紀州藩が、莫大な収益をもたらす太地の肩を持ったということでしょう。まさに政治力のおかげ

 太地町の年間90頭を越えるザトウクジラ捕獲は、完全なオーバーキル、過剰捕獲です。それにしても、和歌山県の日本遺産登録資料中の記述の、なんと無自覚でノーテンキなことか。
 太地の古式時代の年間捕獲数は40頭前後とみられますが、最大の鯨組・壱岐の益富組をはじめ、全国に乱立した鯨組がこぞってこれだけの規模の捕獲を行っていたとすれば、全国では年数百頭のオーダーになります。
 当時の日本の古式捕鯨による捕獲数の推計については、以下の過去記事を参照のこと。

 
■NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html

 性成熟まで10年かかるザトウクジラを、年数百頭、子持ちまで捕獲してオーバーキルにならないはずがありません。

■生息数推定|小笠原海洋センター
http://bonin-ocean.net/estimation

北太平洋では、近代捕鯨が開始される以前、1900年代はじめのザトウクジラの生息数は10,000〜15,000頭で、西部北太平洋だけでも2,500頭とみられていました。しかし、捕獲が禁止になる前年の1965年頃には、この数は1,000頭にまで減っていたと推定されています。
 対象をザトウクジラに限った全国のトータルでは、江戸時代の網取式捕鯨の方が、明治以降のノルウェー式近代捕鯨の年間捕獲数(最大でも1914年の160頭)を間違いなく上回っていたと考えられます。
 米国等の帆船式捕鯨はザトウクジラを捕獲対象としておらず、セミクジラと違ってほぼ100%日本に乱獲の責任があります。
 北太平洋西部の系統群が東部より大幅に少なく、近代捕鯨開始以前から2500頭程度と非常に低水準にあった理由は、間違いなく太地をはじめとする日本の古式捕鯨による過剰捕獲が原因としか考えられません。その後も、舶来の技術でもってさらに絶滅寸前にまで追い詰めたわけですが。網取式の技術革新と同じ過ちを繰り返す、海女漁とまさに対照的な節操のなさがここにも露呈しています。 
 要するに、非持続的な乱獲漁法を全国に広めたのが太地なのです。前述のとおり、網取式以前からすでに乱獲は起こっていたので、乱獲の祖とまではいえませんが。
 続いて、太地等の古式捕鯨に対する「決して乱獲しない持続捕鯨=vと並ぶもうひとつの都市伝説、「決して子持ちを殺さない人情捕鯨=vについて、さらに詳しく検証しましょう。

https://twitter.com/mackujira/status/710490993813024768
太地町で公職にいた方が、明治11年の鯨船遭難に関連して、神津島で「背美の子持ちは捕らえない」と語りました。1791年、太地角右衛門頼徳は同島役所に「背美の子持ちを含め、捕らえる」の内容の公文書を送っているのを知らずに。(引用)

 公文書に書いてある内容とは真逆のことを流布させてしまうのは、どっかのトンデモ竜田揚げドキュメンタリー映画監督とも共通していますね・・。
 実際、太地の仔鯨殺しについてはそれ以外にも様々な文献史料が残されています。前掲のまとめ『鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性』も合わせてご参照。
 例えば、以下は同町に伝わる鯨歌の一節。 

お脊美子持ちを突き置いて、脊美の子持ちを突きおいて、春は参ろぞ伊勢様へ、きぬた踊りは面白や、なおもきぬたは面白や。
太地網方舵取り掛けよ、月に子持ちを二十五持ち、子持ちを月に、月に子持ちを二十五持ち。(一部引用〜砧踊り歌)

明日の子持ちは覚右衛門様組よ、親も取り添え子も添えて。
ここのお家はめでたいお家、鶴と亀とが舞をする。
とろりとろりと船漕ぎ寄せて、春は参ろぞ伊勢様へ、かけて参ろぞ伊勢さまへ。
組の栄へは網組よ、子持ち連魚賑々と、寄せて掛け取る羽差し水主。
いつまでも旦那かわらず網組よ、右はかわらず網組よ。
今年も一じゃ、大きな大たろ取り済ました。(引用〜明日の子持ちぶし)

座頭の子持ちや、あさなあさなすだちでそだつ、あしたりゃ座頭つれよいさ、ソリャソリャデイチュウジャ。(一部引用〜魚踊り。デイチュウ=銛の刃先。長崎から導入されたデンチュウ銛の呼び名が変化したもの)

 このうち魚踊りは今回の日本遺産の登録文化財リストにも含まれています。覚右衛門讃歌については後述。
 一片の憐憫の情もなく、それでもあえて「子持ち」のフレーズを入れて何度も連呼してしまうあたりが、筆者は正直理解に苦しみます。これらの鯨歌の節からは、彼らがクジラの子をシラスと同程度の感覚で捉えていたようにすら見えます。三浦浄心の嘆きとはあまりにも対照的。
 歌ばかりではありません。元太地町長庄司五郎町長が代表を務めた熊野太地浦捕鯨史編纂委員会がまとめた『熊野の太地 鯨に挑む町』(平凡社)の1ページ目には、上野の国立博物館所蔵の子持ちザトウの捕獲絵図もしっかり収録されています。
 そして、こちらは同じくセミの捕獲絵図。

■背美鯨捕鯨絵図|太地角右衛門と熊野捕鯨
http://www.cypress.ne.jp/taiji/ezu2.html

何鯨ニよらず子持鯨及見候得者、鯨船寄り集り、子江銛を突候而しらせ綱を付、船を引せ申候得者、母鯨子をいたわり、介抱致候様ニ仕候処を、船之銛を段々突鯨を弱らせ、子の頭江鼻もりと申候銛を突、地方江潜入候得者、母鯨何所迄も慕来るを、もりを突また者網ニも懸ケ申候而取得申候。右者座頭鯨せひ鯨児鯨同様ニ御座候。(中略)
「鯨記」も「一、子持鯨は憐れなり。先ず子を突大小に順ひ森(※銛)二、三本、或は十本も突て網を扣て遠く去ざる様にするときは、母鯨二、三里行きても又立帰り、子をひれの下に隠し、己が身に森を受終に死す、誤て子を殺しぬれば半死の鯨も迯去なり。」と記していますが、山見を行いながらひたすら鯨を待つ者にとり、さまざまな条件を付けて捕鯨を躊躇していたのでは莫大な資本を必要とする捕鯨業は成り立たなかったでしょう。(引用)

 ここで太地亮氏のいう「さまざまな条件」には、持続的水産業であれば必須の捕獲規制も含まれることは論を待ちません。
 福本和夫氏が『日本捕鯨史話』の中で銅鉱に次ぐ日本屈指の大規模マニュファクチャーと表現した古式捕鯨は、莫大な収益をもたらし、藩の財政を支える重要な産業であったが故に、正当化されなければなりませんでした。
 動物福祉への配慮はいうに及ばず、自主的な捕獲削減、休漁などもってのほか。
 再度慶長見聞集からの引用。

文禄の比ほひ、間瀬助兵衛と云て、尾州にて鯨つきの名人相模三浦へ来りしが、東海に鯨多有を見て、願ふに哉と、もり綱を用意し、鯨をつくを見しに、鯨、子を深くおもう魚なり。故に親をばつかずして子をつきとめいかしをく。二つの親、子をおのが腹の下にかくし、をのが身を水の上にうかべ、剣にて肉を切さくをわきまへず、親子ともに殺さるゝ。哀なりりることどもなり。心有人は二目とも見ず。殺生このむ人は慈悲の心なきゆへ、世のあわれをも知らず。罪のむくひをわきまへざるのおろかさよ。(中略)
かくのごときの大殺生、天竺、諸越にも聞及ばず。一寸の虫に五分の魂有と俗にいへるなれば、五十ひろ百ひろ有鯨の魂いかばかりならん。佛は十悪罪のはじめに殺生を出せり。五戒も殺生を第一とす。此殺生の根源を尋るに、慈悲心なく欲よりおこる。三毒といふも、どんよくを第一とせり。鯨殺す人、生死の海にちんりし、六道四生の業のがれがたしといへり。

 ひとつはっきりいえるのは、仔鯨を人質≠ノ取れば、大物のメスを逃がすことなく容易に捕獲できることを理解したうえで、彼らはそういうやり方をあえて好んで用いたということ。
 子連れの積極的捕獲が意味するのは、浄心がズバリ指摘した、金に目のくらんだ冷血漢の血も涙もない所業のみではありません。
 繁殖メスと仔鯨の積極的な捕獲は、持続性の基本への無理解の証に他なりません。
 今日の水産資源管理においても、体長制限は基本中の基本。「育つまで待つ」という、伝統的な狩猟・漁労、あるいは林業においては不可欠の認識が、太地をはじめとする日本の古式捕鯨事業者には皆無だったということです。
 もっとも……未成熟個体を多数殺しながら「あれは実の親子じゃないからいいんだ」とのとんでもない言い訳を平然と言ってのけた鯨研の調査捕鯨にしても、サバからマグロまで国際的批判を浴びながら科学的な規制の導入を拒み続ける乱獲漁業にしても、古式捕鯨のこの伝統≠受け継ぎ、現代流により発展させたものだという見方もできますが。

■非科学的な動物"愛誤"団体──その名は「鯨研」
http://www.kkneko.com/icr.htm

 一産一仔で性成熟まで何年もかかる、繁殖率の低い大型動物で、こんなやり方を認めてしまう狩猟を、筆者は知りません。少なくとも伝統として長年続けられてきた、自然と共存する持続的な狩猟の事例としては。
 こどもを人質に取る卑劣で冷酷なやり方に「伝統」の枕詞をかぶせてしまうのは、およそ日本の捕鯨礼賛論者のみでしょう。
 いったいそのどこに人間らしさ≠ェあるのでしょうか?
 その疑問を抱いたのは、当時でさえ、三浦浄心ばかりではありませんでした。

■鯨文化:鯨を弔った鯨墓・鯨塚など
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/3011/kujirahaka.html
■丹後の伝説:45集 鯨とり、捕鯨
http://www.geocities.jp/k_saito_site/bunkn45.html

嘗て鯨をとりしが子鯨、母鯨にそうて上となり下となりて其の情態甚だ親しく、既に母鯨の斃る頃も、頑是なき児の母の死骸にとり付きて、乳を飲む様にも見えたり、よって屡々これを取除かんとすれども遂に離れず、拠無く子・母共殺すに至る。いかなるものもその様を見てはその肉を食うに忍びず、此処に葬りて墓を建て供養せり、定めてこの墓の鯨もザトウなるべし(京都府与謝郡伊根町 在胎鯨子塔)

 日本海を望む丹後半島に位置する伊根町では、太地や西海地方のような鯨組はありませんでしたが、1656年から1928年までに約350頭、年1、2頭ほど寄り鯨を捕獲していたことが記録されています。
 集団心理と慣れ=A大金の入手を正当化する理論武装によって感覚の麻痺してしまった常習的な鯨組と違い、このときの彼らは、母子クジラを殺した深い自責の念に苛まれ、その肉に手をつけることができなかったのでしょう。
 ちなみに、鯨塚の中にはこんなものも含まれていたりします。

■千葉県浦安市:鯨塚「大鯨の碑」|東京湾岸内・外の鯨塚
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/3011/haka-toukyou.html

この大鯨は当時の価格で金弐百円もの高値で売れ、大金を手にした両氏はすっかり有名人になり、どこへ行っても英雄扱いされたそうです。両氏は大鯨捕獲劇のことで仕事も手につかなくなり、このことに終止符を打つために考えた末に年配者の知恵から稲荷神社に大鯨の碑を奉納し、祀ったとのことです。これが大鯨の碑建立の経緯であります。(引用)

 まとめでも述べていますが、古式捕鯨地以外も含め、突発的な飢饉から救済されたことへの感謝から、利用せず単に座礁したイルカ・クジラを祀ったものまで、鯨供養碑は全国各地にあり、建てられた経緯や動機も実に様々でした。
 飢餓からの救済に関していえば、戦後の日本がまさに南極海のクジラに大恩があることを、私たち国民は決して忘れてはならないでしょう。飽食・廃食の限りを尽くしながら、高級料亭や居酒屋で尾の身を貪る腐敗した政治家や芸能人らが、日本人である筆者には忘恩の輩に思えてならないのですが。

 付け加えれば、日本には「鯨一頭七浦枯れる」という、日本遺産でこれ見よがしに掲げられた「七浦賑わう」の謳い文句とは裏腹の諺も、各地に伝えられてきました。

 神奈川県の三崎地方では「流れ鯨を拾うと祟る」という諺があり、流れ鯨を拾ってきた船元の家は栄えた例はないと言い伝えられている。三崎の西の浜の延命地蔵の境内の「鯨塚」は、この流れ鯨の祟りを恐れて供養に建立されたものだという。(引用〜『ザ・クジラ』(文眞堂))

 くしくも、三崎地方は、先述の尾張から持ち込まれた捕鯨が乱獲の末あっという間に廃れた地域と重なります。小魚を追い込んで豊漁をもたらしてくれる恵比寿様≠フイメージのみならず、過去の苦い体験も人々の記憶に残っていたのでしょう。
 漁場の汚染を招く沿岸捕鯨会社の進出に猛烈に反発した漁民の反対運動については、こちらのまとめも参照。

■『八戸浦”くじら事件”と漁民』に見る、漁民から見た捕鯨
http://togetter.com/li/837408

 なお、『多田吉左衛門と網掛突取捕鯨』に「座頭鯨を仮死状態にする技術」とありますが、これは背中に包丁で切り込みを入れて脊椎を損傷させ、半身不随にすることで動きを止めるという、今日の動物福祉の観点からすればまさに身の毛もよだつ屠殺法。

https://twitter.com/mackujira/status/727016113528143872
太地角右衛門頼治が1677年に網取捕鯨法を開発していますが、頼治は1662年に勢子船を塗船8挺櫓15人乗りに、櫓も改良しています。網方では組織を分業化し大規模化しました。近隣の他地域の捕鯨業が廃業の中、太地が生き残り、明治まで専業化できたのは、このためです。(引用)

 太地地方の鯨組の場合、一時は5組にまで分派して互いに競合し合っていたものが統合されます。今日の資本企業と同じく、規模が大きくなればなるほど、自制≠ェ困難になることは容易に想像できます。燃費データを改竄してでも生き残りを図る大手自動車メーカーではありませんが。
 漁場に関しては、太地と近隣の古座浦、三輪崎等の間で定書が交わされていましたが、規制の遵守をめぐるいざこざも起きています。後にこれらの経営権も太地が買収することになりますが。
 江戸初期の組織的な鯨組のルーツに関しては、水軍のカモフラージュだったとの見方もあります。紀伊藩主として封じられた徳川頼宣(家康の第十子)が捕鯨訓練の名目で数百隻から成る水軍を仕立て、鯨を敵船に見立てた調練を行いトラブルになったことが『紀伊南竜公』に記されています。
 成り立ちからして、日々の糧を得るための持続的漁労とは相容れない存在だったといえるでしょう。
 つまり、現代の捕鯨産業の病理の端緒が、この時代からすでに現れていたともいえます。

 続いて、太地の鯨組を統括した和田氏について。創業した頼元の孫にあたり宰領を務めた頼治の系列が覚(角)右衛門を、相談役を務めた頼興の系列が金右衛門を代々名乗っていました。頼興が頼元の長子・頼照の長男、頼治が同じく次男。頼興が病弱だったため、家督を継いだのは弟の頼治の方。
 以下、いくつか太地町の捕鯨史編纂委員会の資料から気になる箇所を抜き出してみましょう。元太地町長も編纂に関わっただけあって、非常に正直で赤裸々な内容となっています。

この関係は明治初年までも変わることがなく、また宗家筋は代々金右衛門を、頼治の筋は覚右衛門を襲名した。またこの両家はたびたび血族結婚を重ねている。頼治の母は頼照の後妻で、頼治は頼興の異母兄弟である。頼治の母は秀吉が朝鮮の捕虜の女に生ませた女の、そのまた女の子で、耳環をはめ、里人に「朝鮮婆沙摩」と称せられたと『太地系譜』にあるが、村の内外にそれに似た記録もなく、伝承もないので、真偽のほどは保証のかぎりでない。(引用〜P73)

ただし、この保守的な世襲制度は、人の才能の発展を抑圧し、妨げる大きな弊害を伴い、人間進化の基本原則に反する非民主的な制度である。最初はそれによって、専門技術を優秀にしても、停滞するとたちまち形式主義に陥ってしまう。そこに太地鯨方が、後代ジリ貧に陥り、無理をしてついに崩壊し去った主因がある。明治十一年の大遭難や、時代の大変革もさることながら。頼元や頼治の堅実で、進取的な伝統を、後代の和田鯨方は継承し、発展させえなかったのも、そこに最大の原因があろう。(引用〜P105)

太地鯨方の象徴は和田(太地系を含める)一族であった。和田鯨方と称して、旧藩時代は金右衛門や覚右衛門は殿様とさえ呼ばれた。居館は町内にあったけれど、明治中期に小学校が建設された際、その屋敷跡を校庭として使用したほどに広大であった。(中略)全盛時代には、新宮水野藩主が和歌山の本藩から借金するのに、覚右衛門が保証人として署名したと伝えられている。
当時の大名生活を語るものにその墓石がある。土佐室津の多田の代々の墓型も特異なもので、幅一メートル、長さ二メートル弱の石の寝棺を石蓋で覆い、その枕頭に碑が建てられている。石はこの地にない花崗岩なので、この一つの墓を造るのに、鯨一頭の代金を要したと伝えられている。和田代々の墓は巨大な五輪塔で、全く大名のそれに異ならず、むろん鯨一頭の資では足るまい。(引用〜P136)

しかし幕末から明治にかけて、この規定(※筆者注:基本給・賞与の支給や補償)が果たして実行されたか否かははなはだ疑わしい。今年九一歳になる鯨方最後の名刃刺し君太夫の未亡人は「わがらの家には多少なりとも水田があったから、朝から晩まで田の中を、ぱちゃぱちゃはい回って、どうにか生きてきたけれど、一升の米でどうして家族何人もの家が暮らしていけるだ、そりゃほんとにみじめなものじゃった」と、当時を思い出して年老いた声をふるわせた。明治維新前後を生きぬいて来た村の古老たちは、みんな同様の苦しい生活を体験している。米飯はおろか麦飯でも、それだけで堅い飯を食うことは一年のうちに何回しかなかった。(中略)しかし、和田の一門がそこまで陥らないずっと以前から、水主や下働きの大多数の村民一同は、これに似た生活を耐え忍んできたとみてよいのではあるまいか。(〜P143)

かれ(覚右衛門/覚吾)は才知もあり闊達な人物だった、しかし父祖代々大庄屋に任じられ、名門を誇るかれは封建色で固まっていた。村の最高権威者をもって自認する彼は傲慢だった。ある年、近村に疫痢流行の兆しがあった。たまたまかれが隣村への一本道である村はずれに来かかると、その隣村の山道から降りて来た一婦人に出会わした。見ると季節物の山桃の実を笊に入れていた。太地に売りに来るところだったのだ。かれは「この不届き者!」と大喝すると、笊を取りあげて、その山桃の実を路上に投げ捨ててしまった。婦人は驚いて逃げ帰った。山桃は疫痢を媒介するからと、かれは信じていたからの行為だった。老幼の差別なく叱り散らすかれに、村民たちはただただ畏怖していなければならなかった。(引用〜P145)

当の宰領覚右衛門、金右衛門両家はもとより、和田一門は一切の家産をその善後処置に投入しなければならなかった。それでも強気一点張りの覚吾(覚右衛門)は百方奔走して、北海道の根室漁場の開発を企画して人を派遣したり、資金調達のために大阪に出て、熊野の物産の扱いで生計を図りつつ苦闘した。そのうち休業していた太地では、無断で一門の者が開業せんとして悶着を生じたり、覚吾はこの苦難中大阪で遊んでいると悪評を立てられたり、ついに収拾不可能に陥った。こうして日本の水産業界に最大の企業組織鯨方の端緒を開くと同時に、その中心勢力たりえた太地鯨方は、ここに栄誉ある三〇〇年の歴史を閉じたのであった。(中略)ひとたび改進を怠れば、世襲という封建の階級に安住する結果を生じて、腐敗するばかりだったからである。しかも旧来の地位を保たんとして、そこから権威主義が生まれ、事大主義が生まれて来る。巨大な墓石はよくそれを象徴しているかに見える。民謡鯨歌の歌詞・曲譜にさえもそれが見られる。元来、日本の民謡は労働生産を賛美するところから生まれたもので、したがって、鯨歌なども、その範疇を出るものではない。(中略)ところが太地のあや踊り歌曲などはそれからはずれてしまっているのだ。(中略)いつしか元禄・享保の江戸中期の町民芸能の影響を受けて生産の祝い歌というよりも、たんなる祝い歌、覚右衛門賛歌中心へと移行したことを示している。(中略)太地の鯨歌・鯨踊りが、早くから町内青年の魅力を失った原因はここにあると思える。こうした些細な現象からも、和田中枢部が封建事大主義から抜けきれず、停滞した非進歩性が十分にうかがわれよう。(引用〜P155)

 で、この『熊野の太地 鯨に挑む町』の解説に対しては、とくに背美流れの部分を中心に、太地亮氏が古文書をもとに強い調子で反駁しています。

■太地捕鯨史の現状 (3/5,熊野新聞)
https://twitter.com/mackujira/status/705980375307137025

 同書で背美流れの描写のもとになっているのは、太地五郎作氏著『熊野太地浦捕鯨乃話』
 このうち、指摘@子持ち鯨捕獲に関しては、確かに亮氏の指摘に分があり、五郎作氏が盛った≠アとは否定できないでしょう。
 しかし、他の指摘に関しては、亮氏の主張するように「裏づけのない」「なんら根拠のない」でたらめな大法螺ばかりを五郎作氏が吹聴したとまでは思えません。第三者の立場からすれば、解釈について両論ありとみなすしかないでしょう。
 以下、熊野新聞記事の指摘をひとつずつチェックしてみましょう。

A時刻について
 冬至の「八つ時」は1時半頃ではなく、1時50分頃。ただし、八つ時といった場合、ジャスト1時50分を指すとも限りません。13:50〜15:40の間のいずれかの時間とみなすことも可能。金右衛門が正確な腕時計をはめていたはずもないのですが。雨天で辺りが夕暮れ時くらい暗かったことも十分考えられるでしょう。

B天候について
 五郎作氏の記述は「殊に天候も宜しく無い」で、獲物のセミの大きさ、時刻、天候等を総合的に勘案してやめたほうが無難ではないかと諌めた、という話になっています。「無理な鯨船出航だった」という記述はありません。
 宰領/相談役の指示もないまま、微妙なシチュエーションで、獲物を前に帰港するかどうかを使用者が判断することはできないでしょう。
 最終的には無理だったかどうかは結果論であり、事故のリスクの高低をどう見るかで金右衛門/五郎作氏と角右衛門/亮氏の見解が異なるという話になります。
 金右衛門の日記にない記載への疑問については後述。

C角右衛門と金右衛門の口論について
 金右衛門は本来和田氏の宗家で、単なる山見担当者ではなく宰領を補佐する鯨方のトップ2。五郎作氏は山見の作業内容について詳細に説明していますが、主として金右衛門が担い、金右衛門に差し支えがある際には角右衛門が担うことになっています。つまり、宰領補佐兼山旦那役の金右衛門に対し、角右衛門の方は宰領兼山旦那補佐役だったわけです。
 角右衛門が経営者としての総括的判断業務に専念し、本部にこもっていたため来遊すら把握しなかったというのは、亮氏の推測であり、筆者には無理があるように思います。角右衛門が常にではないにしろ、経営に直結し自身が担う可能性もある山見の現場に足を運ぶこともあったと考えるのは自然でしょう。逆に、角右衛門が金右衛門に絶大な信頼を寄せ、現場を安心して任せきりにしていたとみるのは、後代にまで続く両家の確執を考えると矛盾があります。
 金右衛門の日記は淡々と簡潔に起きた出来事を並べていますが、奇妙なことに、配置された各船の行動を記してはいても、山見が個々の段階に応じて出していたはずの舟に対する指示に関する記述が含まれていません。亮氏のいう「連携」の具体的中身がないのです。これでは鯨漁に山見は不要といわんばかり。金右衛門自身が総指令役の山旦那≠ナあるにもかかわらず。
 二人の口論について記述がないのもやや不自然ですが、山見の動きが日記に記されていないのは、金右衛門自身が席を立ち、自らは指示を出さず別の場所で漁の模様をながめていたからだと考えれば辻褄は合います。日記を書いた時点では、宰領と相談役それぞれの責任について触れたくなかったという事情もあるかもしれません。
 五郎作氏が両者の口論をあえて遺そうとした背景については、さらに後述。

D明治11年度の不漁について
 15億円は誤り、当時の7千円は現在の通貨換算でおよそ1億5千万円。
 この年度が「不漁でなかった」とする太地亮氏の見解は誤りであると、筆者は判断します。
 クジラは通年獲れるわけではなく、漁期中の上り(春)と下り(秋)の回遊の時期に集中します。下り鯨は黒潮に逆らうコースになることから沿岸により接近するので獲りやすく、一方で上り鯨のほうは繁殖海域から索餌海域に向かう季節にあたるため痩せているという事情もあります。
 注目すべきは7頭の内訳。ザトウクジラ2頭、セミクジラ1頭、そしてコククジラ4頭。
 コククジラは初期から乱獲されて減少していたため、4頭はたまたまと当時の関係者も見ていたはずです。年度前半のピークがすぎても、収益の高いセミクジラはたった1頭、網取式後期に捕獲の過半を占めてきたメインのザトウクジラもたった2頭。このペースではザトウで年間10頭いくかも疑わしく、網取開始期の90頭台とはそれこそ雲泥の差。金右衛門、角右衛門とも、この状況を不漁と認識していたのは間違いないと思われます。大阪での借り入れが不意になり北海道への事業進出が頓挫したことで、年越しへの不安がより一層煽られたのも事実でしょうが。
 ちなみに、明治年間の土佐津呂組及び浮津組の年平均捕獲頭数はそれぞれ17頭、年平均収入は約1万6千円及び約1万9千円でした(〜『日本の捕鯨』高橋氏)。

E対象のセミクジラの大きさについて
 B同様、「技術的に無理な大きさだった」と大きさのみに原因を問うことは五郎作氏はしていません。獲物が大きかったことは亮氏自身もHP中で書いています。
 熊野新聞の記事中では、「では、何が遭難事故を引き起こした原因なのか」がはっきり書かれていませんが、天候/海況、時間、獲物の大きさという諸々の条件に加え、深追いしすぎて獲物を断念する判断が遅れた人災の側面が強かったといえるでしょう。
 リスクをやむをえないものとみなすかどうかという主観のみで、結局のところ、両者の結論にそれほど大きな差があるとは思いません。

 勝浦町長も務めた太地五郎作氏は、太地亮氏と単なる同姓ではありません。どちらも由緒ある和田一門のお家柄。
 といっても、亮氏が角(覚)右衛門系、五郎作氏が金右衛門系。伊東潤氏の時代小説『鯨分限』の主人公のモデル、太地覚吾こと角右衛門頼成が亮氏の曽祖父、一方の五郎作氏は太地覚吾と同時代の金右衛門頼秀の実子という間柄。どちらが宗家かについても両者で見解が分かれている模様。何をもって宗家と呼ぶかにもよるのでしょうが・・。

■太地浦捕鯨図の屏風 石垣記念館で特別展示 ('13/7/14,紀南新聞)
http://www.kinan-newspaper.co.jp/history/2013/7/14/03.html

五郎作は明治7年、太地生まれ。下里郵便局長を退任した翌年の大正8年に勝浦町長、同11年に和歌山信用組合専務理事、戦後は和歌山信用金庫理事長を務めた。父親は捕鯨創始者の子孫で、太地鯨組の山旦那(クジラの来遊を見張り、鯨舟を指揮する山見の責任者)だった。(引用)

 背美流れについて、唯一直接当時の状況が記述された史料といえるのが金右衛門の日記『脊美流れの控え』。熊野新聞の太地亮氏の主張のうち、それ以外の部分は他の史料が示す間接証拠に基づく太地亮氏の推測です。『南海奇賞鯨之記』は太地を訪れた医師が見聞を記したものですが、発行されたのは事故より半世紀も前で、角右衛門頼成は生まれてもいません。
 一方、太地五郎作氏の著書『熊野太地浦捕鯨乃話』の方も、自身の実父である金右衛門頼秀の日記を引用しています。事故当時の五郎作氏は4歳ということになりますが、著書の記述は父頼秀の体験談に基づくものと見て差し支えないでしょう。
 昭和生まれの現代人・太地亮氏と違い、五郎作氏は幼少期に事故とその対応に追われる父親を目の当たりにし、当時の状況をより近しい身(価値観も含め)で知り得る立場にあったわけです。
 実際のところ、古文書の記述が常に正しいとは限りません。人が書いたものである以上、当たり前の話ですが。
 例えば、古式捕鯨について記された最初の史料とされる『西海鯨鯢記』ですが、そこでは発祥地が尾州ではなく隣の三河国と書かれており、著者が国名を勘違いしたものと考えられています。

 もっとも、太地亮氏と太地五郎作氏のお2人の見解が両極端に近いほど異なるのは、それ以外の要因もありそうです。
 五郎作氏の著述する金右衛門と角右衛門は、確かにややステレオタイプで歌舞伎じみて見えます。
 引用したとおり、主に『熊野太地浦捕鯨乃話』をもとにしている『熊野の太地 鯨に挑む町』では、金右衛門と角右衛門の人格が対照的に描かれ、ややもすれば角右衛門の方が悪者に映りがちです。
 それは五郎作氏自身が、実父金右衛門頼秀と従叔父に当たる角右衛門頼成との関係をそのように見ていたことの現れでしょう。また、そこにはきっと金右衛門自身の視点も反映されていることでしょう。百名以上の人命を失い、長く続いた太地鯨方の歴史に幕を閉じさせた責任の過半は頼成にあると、金右衛門自身が考えていたとすれば、角右衛門像の辛辣な描写も腑に落ちます。それが恨み節の形で実子・五郎作氏に口頭で伝えられていたことは想像に難くありません。
 先祖を一にするはずの和田両家・角右衛門頼成と金右衛門頼秀の不和・不仲は何に起因するのでしょうか。おそらく、若くして家督を継いだ頼成が、近隣の鯨組を買収したうえ北海道への事業進出を図るなど、強引な経営手腕をふるい、結果として借金のトラブルで一門が危機に見舞われるに至った経緯に対する、頼秀の不満からきているとみるのが妥当でしょう。あるいは、この2人の代以前から、両家の間にすでに何らかの亀裂が走っていたのかもしれませんが。
 さらに、上で『熊野の太地 鯨に挑む町』から引用した、角右衛門に対する数々の悪評(同書p73,p145,p156)が立てられた背景には、古老が語ったような(p143)村内の大きな格差の問題が横たわっていたことも否定できないでしょう。
 一方、太地亮氏は曽祖父・頼治を崇敬に値する高潔な人物として描いています。フィクション小説に登場する主人公のモデルにふさわしいヒーロー・英雄的存在として。
 要するに、どちらも自身の先祖を贔屓して、お互い精一杯持ち上げているわけです。
 しかし、英雄として持ち上げるのも、悪人としてあげつらうのも、二人の間に優劣をつけるのも、いずれも過ちです。客観的な史実を反映した人物像とはいえません。太地亮氏、太地五郎作氏、どちらの人物描写にしても。残念ながら、先祖を尊崇してやまないこの両者の表現は、主観の檻から脱することができてはいません。 宗家と分家の確執を今に至っても引きずっているとも映ります。
 過去の時代の人々に感情移入しすぎ、没入しすぎて、距離を置いて冷静に客観的に見ることができなくなっては、本当の太地の歴史を伝えることはできないのではないでしょうか。無論、和田家の子孫であるということの枷から自由になるのは、実際には非常に困難なことかと思いますが。
 確かに、子孫である太地亮氏にしてみれば、『熊野の太地 鯨に挑む町』の角右衛門の描き方に不満を抱かれるのも無理からぬ部分はあるでしょう。
 しかし、同書にはこうも記されています。

かれは高慢だったが、あながちに憎むべき悪人だったとは思われぬ。(引用〜P159)

 一方で、金右衛門に対しても、途中で退座し沖合いの漁夫の間でも論議にのぼったとあるように、温厚堅実といっても程度の問題であると指摘されてもいます。
 まあ、部外者の目からすれば、どっちもどっちという感じですが……。
 ただ、角右衛門と金右衛門のどちらも、とても人間らしかったとはいえます。完全無欠の伝統捕鯨を主導した、非の打ち所のない完璧な人物などではなく。そんなのはもちろん、作り話の中にしか登場するはずはないのですが。
 過去の人物に理想を押し付けるのは過ちです。
 その当時の人々の行い、倫理観や価値観を、現代に無理やり当てはめようとするのも、やはり間違いといえます。
 フィギュアスケートの織田選手の先祖が虐殺を働いた織田信長だからといって、現代を生きる子孫の人物評価とは何ら関係がないのと同様に。

 こうした太地古式捕鯨の裏話、ドロドロした人間関係の部分は、今回の日本遺産登録で、後ろ暗いところなど一点もない美化された太地像を内外にアピールしたい太地町・和歌山県・日本政府としては、都合の悪いものと映るかもしれません。
 太地五郎作氏の「脊美の子持ちは夢にも見るな」の美談を、太地亮氏の再三の指摘にもかかわらず、未だに太地町が掲げ続けているのも、古式捕鯨時代からの冷血無慈悲な非人道性にスポットが当たることを、好ましくないと判断しているからと想像できます。
 フェロー諸島から導入した屠殺方法を、動物福祉の観点ではなく、血の色で海面が染まって見えないことを優先する形でアレンジしたのと、まさに同じように。
 そう・・問われるべきは、古式捕鯨時代の鯨獲りたちの人間性ではないのです。
 都合のいい、美しい神話の形で、現代の蛮行が正当化されることはあってはなりません。

■太地調査報告|立教大学日本学研究所
http://www.rikkyo.ne.jp/grp/nihongaku/hp/seika/16Taiji.pdf

明治1 9 1886 日本水産会社が出資、鯨組が2 組となる(引用)

 さあ、ここで早くも南極海で乱獲の限りを尽くした捕鯨会社大手の名が登場しました。陰謀デマを流した張本人・産官癒着の象徴たる米澤邦男氏が副社長のポストを得たあの日水が、太地にまで触手を伸ばします。
 そして、『熊野の太地 鯨に挑む町』でも明記されているとおり、南氷洋捕鯨最盛期には太地町から砲手が何人も輩出されました。この時期太地町は最も潤い、クジラ御殿が立ち並んだわけです。
 乱獲の尖兵として銛打ちを供給し、公海・南極海の自然を荒廃させた重大な責任が、間違いなく太地町にはあるのです。

■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
http://kkneko.sblo.jp/article/116089084.html

 古式捕鯨時代にすでに萌芽が見られた自制力のなさは、沿岸のイルカ猟においても同様でした。

「1969年に太地町立くじらの博物館内にある水族館で飼育するイルカ類の捕獲を要請されたことをきっかけに,生け捕り捕獲を行う追い込み漁を開始した。当初は7隻のグループで追い込み漁を行っていたが,小型鯨類の商業的価値が増加するにつれ,追い込み漁を操業する別のグループがあらわれた。その結果,2つのグループ間での漁獲競争がおこり,1回の捕獲頭数が600から800頭を越える場合もあった(P241)

■変容する鯨類資源の利用実態 和歌山県太地町の小規模沿岸捕鯨業を事例として|国立民族学博物館調査報告
http://ir.minpaku.ac.jp/dspace/bitstream/10502/4429/1/SER97_011.pdf

 最悪なのがこれ。密猟
 日本の捕鯨の最もな強力な擁護者として太地町に滞在したC・W・ニコル氏が直接現場を目の当たりにした体験談の信憑性は、太地亮氏、太地五郎作氏の推測に基づく脚色された主張に比べても、はるかに高いといわざるを得ません。


なお、この告発に対し、従来日本の捕鯨を支持してきた論客の一人であるC. W. ニコルも、太地町に住んでいた際操業違反を目撃していた事実を告白し、「味方に嘘をつくのは許し難い」「日本の捕鯨を支持するのはこれを最後にしようと思う」と述べている。C. W. ニコル「徒然の記3:裏切られた信頼」東京新聞2001年10月17日付。(引用)

■やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−その3:戦後繰り返された悪質な規制違反
http://www.kkneko.com/aa3.htm

 半世紀に及ぶモラトリアムのおかげで、北太平洋のザトウクジラの生息数はなんとか2万頭にまで回復したと見られています。
 今ではさまざまなパフォーマンスを繰り広げたり、歌を披露してくれたり、最も観察しやすい大型鯨種として、日本の沖縄や小笠原でも人気が高く、ホエールウォッチングの定着に貢献したザトウクジラですが、網取式捕鯨時代には一番多く捕獲された主要な対象種でした。
 古式捕鯨時代の日本人は、クジラたちが歌を歌うことなど誰1人として知りませんでした。
 クジラの社会生態について、彼らは何ひとつ知りませんでした。
 ただ、親子の絆が深いことのみを狡猾に利用しようとしただけなのです。金儲けのために。
 都合のよい一部を切り取っただけの捕鯨礼賛ストーリーをばらまき、子供たちに、世界中の人々に、嘘をつくのはやめにしましょう。
 どうしても歴史を伝えたいなら、影の部分もしっかり包み隠さず伝えましょう。
 隠そうとすることのほうがよっぽど恥ずかしいことです。
 違いますか、仁坂知事? 三軒町長?

■捕鯨の町・太地は原発推進電力会社にそっくり
http://kkneko.sblo.jp/article/78450287.html
■NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html
■民話が語る古式捕鯨の真実
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html
■鯨塚解説
http://kkneko.sblo.jp/article/71443019.html
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2016年04月28日

検証JARPNU〜北太平洋の調査捕鯨もやっぱりガッカリだった・・

 今年2月に東京で開かれたJARPNU(第二期北西太平洋鯨類捕獲調査)のIWC-SC(国際捕鯨委員会科学委員会)専門家パネルによるレビューの内容が先日IWCで公表されました。


 この件に関しては、奇妙なことに、時事通信が同日の間に立て続けに2本の記事を掲載しています。時事報道の翌日には北海道新聞が報道。以下、引用中の強調は筆者。

@北西太平洋も全面見直し=調査捕鯨、今秋めどに新計画−政府 (2016/04/22-11:50 時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016042200349&g=eco

 ICJ判決は、南極海以外での調査捕鯨についても「判決を考慮することが期待される」と指摘。政府はこれを踏まえ、14年度から北西太平洋でも捕獲枠を削減している。
 関係者によると、今回の全面見直しに基づく新計画では、調査の科学的目的をより明確化。捕獲枠も改めて見直し、殺害せずに皮膚サンプルを調べる「非致死的調査」も拡大する方向だ。またクジラがサンマやイカなどを大量に食べることで生じる漁業との競合についても、調査を強化するとみられる。(引用)

A調査捕鯨見直し発表=北西太平洋、11月にも新計画−水産庁 (2016/04/22-20:23 時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016042200937&g=eco

 水産庁は、IWC科学委の専門家が今年2月に行った現在の計画に関する評価会合の結果も公表。調査手法の詳しい説明などの勧告が出されたが、同庁の担当者「調査捕鯨の中止を求める勧告は一切なかった」と指摘。今後、これらの勧告を踏まえて新計画を策定する方針を示した。(引用)

B北西太平洋でも調査捕鯨見直し 政府、11月にも新計画 (04/23 07:00 北海道新聞)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/economy/economy/1-0262587.html

 調査捕鯨 商業捕鯨の再開を目指し、クジラの生態など科学的なデータを得るため政府が行っている捕獲調査。1987年から南極海で、94年から北西太平洋でそれぞれ実施している。主な対象はミンククジラ。調査で捕った鯨の肉は日本国内で販売されている。(引用)

 以下、順番にツッコんでいきましょう。
 時事@、上の一文は確かに実態を表してはいるのですが、日本政府が「判決を踏まえ」て計画を変更した以上、ICJ(国際司法裁判所)判決前の13年度以前のJARPNUが、JARPAU(第二期南極海鯨類捕獲調査)と同様の違法性を備えていたと自覚していることを意味するでしょう。
 下の一文は、権威ある大手通信社の所属記者が書いたにしては目も当てられないほど、日本語が壊れてますね・・。
   × 科学的目的 → ○ 目的
 調査はそもそも科学目的で行われるもの。まあ、JARPAUは国際裁判で科学とは無関係な「美味い刺身の安定供給」(本川農水事務次官)が目的であると喝破されたわけですが。それで、「こっちの調査の目的は科学的なんだ!」と弁明したかったんでしょうか・・。
   × 殺害せずに → ○ 捕殺せずに
 まあ、刺身目的だとすればあながち間違いともいえないでしょうけどね・・。それにしても、まるで事件報道。さすがに鯨研の研究者も、ここまで非科学的な表現を使われると顔をしかめそうですね。
 先日は毎日新聞が、高速船衝突事故に関する記事に「犯人はクジラか」なんてどうしようもない見出しを付けていましたが、こうした奇妙な野生動物の擬人化は、日本のマスコミの顕著な劣化・幼児化を象徴するようで、本当に気味が悪くなります・・・
 最後の一文はいわゆるトンデモ鯨食害論にあたりますが、サンマとイカを並べている時点で完全にアウト。サンマの最大の捕食者はスルメイカ・・。

−中日新聞は「クジラ食害論」を信じているのだろうか
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/61376980.html

 サンマの資源動態は典型的なレジームシフトのパターンに当てはまります。で、そのレジームシフトを理由に挙げ、日本政府はJARPNU沖合のミンク捕獲枠を14年度からゼロにしました。漁業との競合についての知見は調査捕鯨からは決して得られないと、自ら証明したようなもの。
 そのサンマの資源は現在は落ち込んでいる状態ですが、中国等新興遠洋漁業国を含めた国際漁業管理の新たな枠組みでもリーダーシップを発揮できないどころか、水産庁は科学的根拠を無視して漁獲枠を据え置いてしまう有様。以下は早大真田氏のコメント。

サンマは生物学的許容漁獲量(ABC:科学的に算定した漁獲枠)が8%減ったのに「TAC(実際の漁獲枠)は前年と同量」。なぜなら「漁業者の収入確保を重んじた」から(水産庁)って、科学無視じゃん。(´Д`)

 イカについては、大量に捕食しているマッコウの餌はほとんど非食用の深海イカで、競合との主張自体ナンセンス。IWC-SCでもさんざんたたかれ(後述)、国際裁判敗訴後の14年度からやはりマッコウ捕獲を引っ込めました。
 ちなみに、ミンクもマイクロネクトンに当たるヒメドスイカという小さなイカを捕食していますが、このイカはやはり商業漁獲対象ではなく、多種の魚や海鳥等の捕食者に餌生物として利用されています。ミンクだけ調査しても、海洋生態系についても漁業との競合についても何一つわかりゃしません(後掲の図もご参照)。沖合ミンク捕獲もやっぱりマッコウと同様ゼロになっちゃいましたが・・。
 あまりにずさんな説明に加え、結びには「とみられる」とあり、この時事通信記者が情報を得た「関係者」なる人物は、直接調査捕鯨立案に直接携わる政府関係者ではないとわかります。
 一番疑わしいのは、サンマを持ち出して「クジラに横取り」との感傷的な表現でトンデモ食害論を堂々と唱えている山村和夫会長ら捕鯨協会の関係者ですけど・・。
 時事A、8時間前の記事内容との違いは、登場するのがその「関係者」から「水産庁担当者」に代わるところ。
 時事通信がなぜ同日中にほぼ同じタイトル・内容の記事を2回も報じたのか、なんとも理解に苦しみますが、@がガタガタなので修正を試みたというわけではなく、「中止勧告なし」の一言をどうしても付け加えたかったのでしょうね。
 その水産庁担当者のコメントに対しては、東北大石井氏がバッサリ。

「調査捕鯨の中止を求める勧告は一切なかった」とありますが、科学委員会はそもそもそういう勧告をするところではありませんので、お墨付きがもらえたわけではありません(引用)

 専門家パネルの役割についてはレポートできちんと説明されています。問題は科学的にどう評価されたのか。
 もうひとつ、「調査手法の詳しい説明などの勧告」との表現も実に不可解です。
 皆さんは疑問に感じませんか? 2000年からスタートし、前の2009年の専門家パネルの中間レビューも含め、日本側は毎年資料を提出し続け、IWC-SCでもチェックされているはずの調査の手法に関して、なぜいまさら「詳しい説明」が求められるのでしょう? 提案者の日本が「詳しい説明」を怠るとは、いったいどういう了見なのでしょう?
 実際、レビュー報告の中にも該当する記述はあり、後ほど詳しく述べますが、ひとつ言えることは、水産庁がこの時事通信記者に対してある意図をもってレクチャーを行ったに違いないということ。国民がこの報告書の性格を誤解するように、との。実際には多くの問題点について指摘を受けたにもかかわらず、「手法の詳しい説明を求められただけで、中止勧告もなかった。すなわち肯定的に評価された」と印象付けようとしたわけです。おそらく、記者自身はとくに疑問を感じることもなく、そのまま記事に書いてしまったのでしょうが。記事を書くなら、水産庁の担当者の言うことを鵜呑みにせず、やはり自身でIWCの一次資料に当たるべきでした。

 Bの北海道記事、本文はほぼ時事と同じですが、補注の調査捕鯨の説明が間違っています。
 まず、「クジラの生態など科学的なデータを得るため」とありますが、これではあたかも「生態を調べること」が主目的≠ゥのように読者は受け止めてしまうでしょう。「など」と入っているところは、間違いというより悪質な印象操作の域ですが。
 日本のマスコミはしばしば調査捕鯨の目的の説明に「生態」「生息数」という言葉を好んで用いたがりますが、これらは殺さない調査で調べることができ、実際調べられています。他の野生動物と同じように。また、他のすべての野生動物と同様に、殺すと手っ取り早くデータが入手できる場合もありますが、何十億円もの税金を投じて毎年数百頭の単位で実施される致死調査の不可欠な理由が、「生態を調べること」であっていいはずがありせん。そうした主張はすべての動物学者・生態学者に対する冒涜です。
 確かに、JARPNUの3つの目的の1つには「摂餌生態」との一語が入っていますが、実際にはたまたま殺したときに死体の胃袋に何が入っているかを調べるだけ。それではとても摂餌生態などとは呼べません。この専門家パネルWSでも批判されているとおりです(後述)。
 「主な対象はミンククジラ」も間違い。南極海調査捕鯨の対象はクロミンククジラ。北西太平洋では沿岸で引き続きミンククジラを捕獲していますが、沖合調査のミンク捕獲枠は前述のとおりゼロに。少なくとも刺身≠フ観点でいえば、JARPNUの主な対象はイワシクジラになります。

 報道についてはこれくらいにして、当のIWC-SCのレポートの検証に入りましょう。
 南極の海で行われてきたJARPAU(第二期南極海鯨類捕獲調査)の方は、2014年のICJ(国際司法裁判所)で違法認定を受ける直前に最終レビューがあり、日本側委員が「潜在的可能性」という、科学調査に対して用いるにはしっくりこない、あやふやで珍妙な一語を無理やりねじ込んで、成果を必死にアピールしていました。
 では、はるか赤道を越えた南半球諸国の庭先ではない、公海とはいえ一応日本の近場で行われているJARPNUの方は、世界の研究者からどのように評価されたのでしょうか?
 以下、IWCの報告書SC/66b/Rep06「Report of the Expert Panel of the final review on the western North Pacific Japanese Special Permit programme (JARPN II)」の各章のパネルのコメント及び11章パネルの結論(p45〜)を中心に解説したいと思います。

 11.1「一般的な問題」として、いきなり苦言が並んでいます。その中身はJARPAUレビューには見られなかったもの。
 いわく、JARPNUが科学的な評価によるのではなく、ICJ判決後の日本政府の政治的判断に基づき、大幅な修正を加えられたうえで終了する運びとなったことで、適切なレビューが困難になったと。
 2章「ワークショップの目的」のP6には「an unusual ‘final’ review」、すなわち異例の∞異常な最終報告になったとの表現があります。
 もともと今回のレビューは、前回の2009年の中間レビューに続き、進捗状況を計るため開かれるはずだったもので、最終レビューとなること自体想定外だったわけです。
 「もっと時間があればね〜」という苦言とともに、提案者の持ち込んだ資料の品質がバラバラで、レビュワーの作業が困難を強いられたとも。

it contained insufficient detail to allow a proper review and details of sampling design, strategy, field protocols, analytical methods and conclusions. For this, the Panel members had not only to examine over 90 working
papers and documents, but also references to other unpublished sources (e.g. IWC papers) over the JARPN II period.(〜p45)

 わかりますか? 提案者=日本が、レビューに係る広範な事項について不十分な情報しか提供しなかったために、パネルメンバーに「余計な作業をさせられる羽目になったよ!」と言われちゃったわけです。
 これが時事報道Aで「手法の詳しい説明」とのあやふやな表現でごまかされようとした評価の中身なのです。
 調査捕鯨研究者・鯨研そのものが、理研をクビになった某割烹着リケジョじみているように、皆さんは感じませんか?
 専ら日本側の不手際が招いたことですが、こうした状況を改善すべく、パネルは特別許可に基づく調査捕鯨の審査について定めた附属書Pを改訂するよう勧告しています。

 続く11.2はアウトプット、プログラムの成果の指標となる査読論文について。
 JARPAUではたった2本というお粗末な有様で、ICJでもさんざんにたたかれました。それに比べると、JARPNUでは主目的に沿った論文が31本、付随的な研究による論文が30本と、マシになった印象を受けます。
 パネルは型どおりの評価を述べていますが・・一言、11.1の中で触れたスケジュールの問題、「精査する時間がなかった」という点に言及しています。
 実際のところどんな論文が書かれたのか、筆者がざっとチェックして一覧で表したのがこちら。

jarpn2review.png

 かなりガッカリしたというのが正直なところです。
 31本のうちおよそ3分の1にあたる10本は非致死調査。1個体ないし数個体分のサンプルがあれば済むもの6本。特定の年次の何割か程度のサンプルによる研究が12本。ある程度トータルな致死調査のサンプルを使用した研究(それでも全期間・全個体ではない)がやっと4本
 12本が日本国内の学会の発行。つまり、ローカル。
 致死の21本は、多少時間をかければバイオプシーやストランディング個体からのサンプル収集で対応可能なもの、新たに致死調査を行う必要のないもの、非致死調査での比較検証が必要なもの、対象外の種で同精度の調査を行わなければ真の結論を導けないもの──のいずれか。お断りしておきますが、JARPAT/Uの検証(参照リンク)と同様、筆者の評価はたぶんプロの研究者の方々より相当甘いです・・。
 胃内容物関連が5本。胃内容物調査で得られるのは調査期間中、捕殺直前の未消化の餌生物の情報のみで、まさにスナップショット。わずか1、2ヶ月の調査時期、調査海域以外の摂餌傾向については何の情報ももたらさないのです。時事報道ではありませんが、検死で殺害された被害者の胃内容物から直前の食事時間とメニューを類推することはできても、その人の年間を通じた食生活や好みについては何もわからないのとまったく同じことです。全海域で周年実施できないのであれば、バイオプシーによる脂肪酸解析の方がはるかに優れているといえます。
 年齢査定に使う耳垢栓の年輪読み取り手法の改善が2本。これはいわば調査捕鯨のための研究。基本オキアミ食で摂餌期と絶食期が明瞭に分かれるとみられる南半球のクロミンクの縞がはっきりしているのに対し、生態の異なる別種で北半球に棲むミンクは縞が不明瞭で読み取りにくいとされてきました。ただ、判決後沖合調査のミンク捕獲をやめてしまい、未成熟が大半を占める沿岸調査のみになったため、極端に偏ったサンプルで年齢構成解析の精度を上げること自体あまり意味がなくなったといえます。
 ブルセラ菌関連が4本(ブーム?)。他に細菌とインフルエンザ感染、ウィルス代謝についての研究が3本。クジラからニンゲンへの感染がまず考えられないのに対し、鳥インフルエンザ・狂犬病等では現実に他の野生動物からの感染が社会にとっての深刻な脅威となる高いリスクがあります。しかし、例えば日本に飛来する水鳥の鳥インフルエンザ感染についての環境省の検査は、監視・糞便検査・異常が見られた場合の死体の採取や、捕獲許可に基づく生体サンプル取得(採取後放鳥)という形で行われます。捕獲が禁止されている国立公園のハクチョウであれ、狩猟対象のカモ類であれ、健康な個体を毎年数百頭単位で殺す調査は決してやりません。少なくとも、美味い刺身≠ノ比べれば大量致死調査の公益性は圧倒的に高いはずですが。

−野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル
http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/manual/pref_0809.html

 繰り返しになりますが、同じ調査項目を他のすべての野生動物(哺乳類・鳥類)に適用しようと思えばできますし、中には殺したほうが手っ取り早くある程度の精度のデータが入手できる場合さえあるでしょう。しかし、だからといって健康な個体を年間数十・数百頭も毎年殺し続けることが不可欠≠セと唱える動物学者など、世界中探してもいるはずがありません。日本の調査捕鯨御用学者を除けば。

 11.3「他の研究機関との連携」では、進展があったことを持ち上げつつも、その相手の大半が日本国内のそれであるため、他の地域の研究者/プロジェクトとの連携を推奨しています。

 11.4「主/副目標の達成度」。冒頭でマッコウクジラの調査に関して有意義な成果がまったくないことが再度強調されています。2009年の中間レビューの段階でとっくに指摘されていたわけですが、結局日本はその後も勧告を受けて調査計画を再考しようとはせず、判決後にしれっと枠をゼロにしたわけです。まさに政治を科学に優先する姿勢を日本ははっきりと示しました。パネルメンバーが強い不快感を覚えたとしても不思議はないでしょう。
 続いて、JARPNUが掲げる3つの主目的の達成度への評価。「鯨類の摂餌生態を詳細に解明し、海洋生態系の総合的管理に貢献するため」という水産庁の言葉どおりになっているのかどうか。
 1つめの〈摂餌生態及び生態系の調査〉については「At present, at least, the results have not led to improved conservation and management of cetaceans or of other marine living resources or the ecosystem. 少なくとも現時点では、鯨類/他の海洋生物資源/生態系の保全及び管理の改善にはつながっていない(〜p48)」、2つめの〈鯨類及び海洋生態系における環境汚染物質のモニタリング〉についてはIt is not clear from the papers presented if (and if so how) the work undertaken has contributed to the conservation of other marine resources or the ecosystem. 海洋生物資源/生態系の保全及び管理に貢献したのか、したとすればどの程度か、提出論文からは明らかでない(〃)」とはっきり結論づけています。唯一、3つめの目的である〈系群構造〉に関して、マッコウを除く3鯨種においてRMPの改善への一定の寄与を認めたのみ。3種の系群構造は、商業捕鯨を行う場合は無視できませんが、水産庁の唱える「海洋生態系の総合的管理」にはつながりません。
 もっとも、系群構造に関しては、4章の詳細な議論の中でいくつか注文が付けられています。
 北西太平洋のミンククジラに関しては、日本海側を回遊するJ系群、太平洋側を回遊するO系群に分かれることまでは従来から知られていたのですが、それぞれの中でさらに東西等細かい系群が存在するかどうかが議論になっていました。この問題は依然としてすっきりと決着がついてはいません。今回もまた、遺伝学的・統計学的解析手法に不備があるとの指摘をいくつも受けています。遺伝子型判定の手順が記されていなかったり、データの品質管理に問題があるとも。
 また、パネルは勧告の中で、衛星タグを用いた追跡調査を強く促しています。日本がやったのはニタリ2、ミンク1個体ぽっち。これも2009年時点で指摘されてきたことなのですが・・。
 パネルはその前の3章の中でも、調査海域、時期、サンプルサイズ、トラックラインの設定について、そもそもカバーできていないうえに、予め定めたトラックから離れた場所で捕獲が行われていたりすることを、非常に問題視しています。

This raises important concerns as to whether such samples can be taken as representative of the animals within the surveyed areas.(〜p9)

 サンプリング設計/サンプルサイズに関する2009年のパネル勧告に対し、日本側は何も対処していません(表2、p10)。
 実際、ミンクに至っては、判決直前の沖合調査でたった3頭、その後は捕獲枠自体をゼロに削ってしまったわけですが。この問題への対処は、判決後のサンプルサイズの変更の科学的合理性と合わせ、パネルは今年の年次会議までに明確な根拠を提示するよう求めています。
 最初からわかっていたはずのレジームシフトを口実に、100頭の捕獲枠をいきなりゼロにできるのであれば、いったん致死調査を中断してじっくり非致死調査に取り組み、成果を待つことを拒む理由は何もないはずです。
 系群解析に必要な遺伝子サンプルはバイオプシーで採集できますし、重要な補足データとなる繁殖海域・回遊ルート情報を衛星タグ調査で収集し、統合的に解析すれば、系群構造の解明に間違いなく役立つでしょう。一方、致死調査はといえば、一部の課題で2009年に課された宿題をある程度消化したといっても、遺伝的・統計的解析手法をめぐる議論も未だに解決がつかず、いつまでにコンプリートできるという見通しがあるわけでもないのが実情です。
 致死を非致死より優先しなければならない合理的な根拠はもはやありません。

参考リンク:
−無価値に等しい調査捕鯨の科学性─鯨研発の学術論文を徹底検証─
http://www.kkneko.com/paper.htm
−調査捕鯨自体が否定した3つのトンデモ論─JARPAレビュー報告を徹底検証─
http://www.kkneko.com/jarpa.htm
−絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)、国際捕鯨取締条約(ICRW)および国際捕鯨委員会(IWC)決議に違反する日本の北西太平洋調査捕鯨(JARPN II)に対し、4カ国による国際司法裁判所(ICJ)への共同提訴を求める要請書
http://www.kkneko.com/jarpn2.htm
−持続的利用原理主義さえデタラメだった!
http://www.kkneko.com/sus.htm
−JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性
http://kkneko.sblo.jp/article/100807825.html
http://kkneko.sblo.jp/article/101675512.html
−ミンクの非致死調査
http://kkneko.sblo.jp/article/72090360.html
−ペンギンバイオロギングVS調査捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/46531519.html
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2016年03月14日

鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?

「日米開戦は謀略だった、日本は罠にはめられた」
「南京大虐殺や慰安婦強制はなかった。欧米だってやっただろ」
「植民地主義の欧米と違い、日本の戦争は侵略じゃない、アジア解放という正義≠フための戦争だ」

「捕鯨モラトリアムはベトナム戦争隠しの謀略だった。日本は罠にはめられた」
「日本はクジラの乱獲も密猟・密輸もしていない。乱獲したのは欧米だろ」
「鯨油目当ての欧米と違い、日本の捕鯨は乱獲じゃない、伝統食文化のための正義≠フ捕鯨だ」

 「よその国の謀略」のせいにしたり、過去を正視せず事実をねじ曲げ美化したり、都合のいい相対主義を持ち込んで自己正当化したり。
 いつも思うのですが、右翼(ネトウヨ)と反反捕鯨の思考回路って、実にきれいにシンクロしてますよね。層がほとんど重なっているのだから、当然っちゃ当然ですけど・・。

 もうひとつ、しばしば持ち出される共通の主張が、将来の捕鯨/軍備を正当化する「(食糧/国防)安全保障論」。付け加えれば、原発推進派のエネルギー安全保障論とも重なります。
 将来への不安をかきたてるのは、こういう場合の常套手段ではあるのですが。
 しかし、憲法改正であれ原発であれ、あるいは捕鯨であれ、「本当にそれが必要なのか?」という丁寧な議論を置き去りにしたまま、不安ばかりを煽って拙速に物事を決めてしまうのはいただけません。

 はたして、それは現実的な解決策なのでしょうか? 物理的・経済的に妥当な結論なのでしょうか?
 日本にとっての問題? それとも、世界にとっての? その2つの議論をごっちゃにしていませんか?
 公平性・公正性の観点から、倫理的に見ても問題はない──そう言い切れるのでしょうか?
 ひょっとして、自らの権益を守るのに必死な業界当事者が、頭の中で描いただけの机上の空論にすぎない……なんてことはないでしょうか??
 当然ながら、今の調査捕鯨の置かれた状況と、将来許可され得る商業捕鯨の形態についても、詳細に検証する必要があります。
 何しろ、ことは日本の国家安全保障に関することなのですから。

 では、代表的な捕鯨賛成派の食糧安全保障論をチェックしてみましょう。
 まずは内野≠フ捕鯨サークルとメディアから。

@反捕鯨団体の言われなき批判に対する考え方|日本捕鯨協会
http://www.whaling.jp/taiou.html
7 戦後の食料不足の時代ならともかく、飽食の時代に、わざわざ鯨の肉を食べなくてもいい。
(回答)  我が国の食料自給率はカロリーベースで40%を切っています。そうした中で、食料生産手段の一つの選択肢として捕鯨を維持していくことは、将来、我々日本人が直面するおそれのある食料不足という非常事態への備えという意味でも極めて有意義なことです。 (引用)

Aどうして日本はここまで捕鯨問題にこだわるのか? 水産庁・森下丈二参事官(当時)|鯨論・闘論(捕鯨協会のポータルサイト、休眠中)
http://www.e-kujira.or.jp/whaletheory/morishita/1/
さまざまな種類の食料が利用できる仕組み,まさに多神教的なアプローチが,食料安全保障のためには必要であり,世界でもっとも多様な食材に恵まれながら,食料自給率が 40% を下回る日本にとっては本当に重要なことです。価値観の違いで,食べることができないものが増えていくことはこれに真っ向から反するわけです。繰り返しになりますが,捕鯨問題は単なる捕鯨産業の維持や役人のメンツといった問題ではないということです。(引用)

B異議あり 小松正之政策研究大学院大学教授(当時) ('10/4/17,朝日)
「持続的な利用が可能な資源なら、禁止する方がおかしい。動物性たんぱく質の多くは家畜に頼っていますが、飼料の栽培に必要な肥料の製造には大量の石油が必要です。河川の水や地下水も大量に消費する。排泄物も出る。クジラは海洋で持続的に生きている。それを利用することは、家畜への依存を減らす事にもつながる」(引用)

C21世紀の捕鯨にむけて(平成12年3月発行の「水産庁船長会会誌」第23号より)小島敏男フリージャーナリスト|捕鯨ライブラリー
http://luna.pos.to/whale/jpn_kojima2.html
 「人口増加が続くと、漁業の衰退、森林面積の縮小、気温の上昇、動・植物の種の絶滅など、他の環境要素にも影響がでる。」
 「地球の温暖化は、燃料消費、土地利用の転換、食料と水供給の潜在的限度も含めて、人口関連問題と切り離せない要素である。」と白書(筆者注・1999年版世界人口白書)は危惧している。
 このような状況で陸地利用の軽減を図るため、地球表面の4分の3を占める海洋の利用に目を向けるのは理にかなったことと思う。 そこに在る豊富なクジラ資源の持続的利用は地球にやさしい行為で、言ってみれば「地球を救う」ことだ。 ということは捕鯨産業は21世紀の未来的産業であり、エコ産業と言えるだろう。 (引用)

D「鯨肉は牛肉よりエコ?CO2排出量は10分の1以下」 ('09/4/24,産経)
産経「鯨肉生産は牛肉よりエコ」はデマだった|拙HP
http://www.kkneko.com/sankeidema.htm

 Aの森下氏は国際水産資源研究所所長で現IWC日本政府代表。彼の主張が、原発推進のエネルギーミックス論とそっくり重なる点に注目。
 Bの小松氏(現東京財団上席研究員)は、JARPA2(第二期南極海調査捕鯨)の増産・減産をめぐって鯨研とすったもんだのバトルを展開しており、その主張の一部は現在の捕鯨サークルとは食い違いますが、食糧安全保障論に関しては@の捕鯨協会とほぼ同じ。
 なお、長年元論説委員が鯨研の役員を務めるなど、マスコミの中でも捕鯨サークルと最も強固なリレーションを築いてきた、国内でも最も右よりの大手紙・産経新聞の流したデマDについては、水産庁担当者が公に否定しています。詳細はリンクの拙HP解説をご参照。

 続いて今度は外野。

EThe Globe Now: クジラ戦争30年|国際派日本人養成講座
http://www2s.biglobe.ne.jp/nippon/jogbd_h11_2/jog097.html
The Globe Now: 捕鯨は地球を救う|(〃)
http://www2s.biglobe.ne.jp/nippon/jogdb_h22/jog660.html
2050年には100億人の大台に乗る世界の人口を養うには、動物蛋白が絶対的に不足する。1キロの畜肉を得るには、その5倍近い飼料用穀類が必要で、今でも世界の穀類生産の半分は飼料向けになっている。また畜肉の中心である牛は、現在10億頭を超えるが、その排泄物は地球環境に深刻な影響を及ぼしている。今後、クジラを中心とした海洋資源に頼らざるを得ないのは明らかである。(引用)

 検索すれば、同様の主張のネトウヨブログが散見されますが、いずれもリンクをたどるとこちらへ行き着きます。まあ、見出しのキャッチが効いてるんでしょう。
 上掲ブログ記事のトップページにいくと、「スターリンと毛沢東が仕組んだ日中戦争」とか、「大東亜戦争:アジア解放」とか、南京大虐殺否定論とか、まあその手の記事がズラリと並んでいます。わかりやすいですね・・。
 で、Eの一次ソースは何かと最後まで読んでいくと、出てくるのが捕鯨協会のPRコンサルタント・梅崎義人氏著『動物保護運動の虚像』と産経記事。なんともかんともわかりやすすぎますね・・。

 結局、捕鯨食糧安保必要論の出所も、ベトナム戦争陰謀論と同様、当事者の捕鯨サークルであることがわかります。

 はたして、食糧安全保障の文脈で、鯨肉の出番はあるのでしょうか?

 まず、南極海捕鯨に焦点を絞り、実際にどれだけの鯨肉生産が可能なのか、そこから見ていきましょう。
 ITQかオリンピック方式かという議論が象徴するように、(自然)科学者が枠の数字を決めるだけでは、漁業を持続的たらしめることはできません。乱獲を確実に抑止する、実効性のある資源管理システムを社会科学的に構築することが必要なのです。
 過去の乱獲の重い責任と悪質な密猟の事実、日本が先進国の中でもずば抜けた持続的漁業の落第生(後述)である現実、象牙からペットのスローロリスまで野生動物の絶滅を未だに助長している恥ずかしい先進国であるという現実がある限り、共有財産であるべき南極海・公海のクジラを日本に任せることを世界は決して認めるわけにはいきません。
 ここでは、その前提をひとまず日本がクリアし(サンクチュアリの科学的意義や気候変動その他の環境異変の影響等も脇に置いて・・)、RMS(改訂管理制度)について国際的な合意が成立し、モラトリアムが解除されて現行のRMP(改訂管理方式)が適用されたものと、かなり無理やり仮定しましょう。
 もちろん、捕獲が許可される可能性があるのは、絶滅の恐れが低いとされ(合意された生息数の数字の上では1980年代の72万頭から1990年代の51.5万頭に激減していますが・・)、ICJ(国際司法裁判所)判決後の新調査捕鯨NEWREP-Aで唯一の捕獲対象種となったクロミンククジラ。

■調査捕鯨は不必要or商業捕鯨は不可能/コスト意識ゼロのたかり企業共同船舶|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/54058582.html

 上掲はICJ判決以前の記事ですが、状況は変わっていません。

■平成23 年度国際漁業資源の現況 クロミンククジラ|水産総合研究センター
http://kokushi.fra.go.jp/H23/H23_49S.pdf
なお本種に改訂管理方式(RMP)を当てはめた試算では、南極海全体で年間1,945 〜 4,490頭、平均3,202 頭という捕獲が持続可能との結果であった。(引用)

 実はこれ、拙記事でも説明しているとおり、76万という暫定的な数値をもとに日本が勝手にやった試算。ひところ推進派が連呼していた「76万」の数字がゴミ箱行きになって以降、毎年更新されている水研センターの記述からは消えてしまいましたけど・・
 合意された最新の数字(51.5万頭)に適用するなら、1,300頭から3,000頭、平均でざっくり2,000頭という数字になります。
 そして、これは南極海全周分の数字。
 日本が伝統的(?)に操業してきた太平洋側の2海区に当てはめるなら1/3の約700頭違法認定されたJARPAIIの計画目標数より少ない値になるのです。
 さらに、日本側の主張が正しいという前提に立てば、調査捕鯨を(商業捕鯨とは別に!)継続しないとRMPの精度が下がり、より高い安全率を見込んで規制を強化せざるを得なくなります。バイアスのかかった人為的捕獲圧が加わり、パラメータの変化を一層注視する必要が生じる中で、調査捕鯨を不要とするのは、30年の過去を全否定するのに等しいことです。よって、商業捕獲可能枠はトータルから調査捕鯨分を差っ引いた400頭弱ということに。
 形態としては、商業捕鯨会社(今もってどこも参入に名乗りを上げてはいませんが・・)が母船1隻。調査捕鯨用に母船1隻、合わせて2船団ということになるでしょう。
 調査捕鯨で333頭、商業捕鯨で400頭弱。ランダムサンプリングの縛りがあり、全体の1/3が未成熟の仔クジラである調査捕鯨より、若干燃費がよく、歩留まりも上がるでしょうが、公費で赤字分がどっちゃり補填される調査鯨肉との競合の問題も発生します。ついでに、雌の方が体が大きい(より肉が採れる)ため商業捕鯨では雄よりターゲットにされやすくなりますが、RMP上では性差に大きな偏りが生じないよう、修正が求められます。
 JARPAIIで一気に増産した後、さまざまなキャンペーンを打ったにもかかわらず、大量の過年度在庫が発生、18億円の巨額な赤字を抱えて債務超過団体に陥ったところを税金で救済され、その後なりふりかまわぬ事実上の国営捕鯨として今年はなんと51億円もの公金がつぎ込まれることになった調査鯨肉に対し、民間捕鯨会社は自助努力で採算を維持しないといけないわけです。因果な商売もあったものです・・。
 鯨肉生産量は、最近の歩留まりを反映すれば調査捕鯨が1,200トン、商業捕鯨分が1,700トン前後というところでしょうか。
 鯨肉生産量に関していえば、仮に調査捕鯨をやめて全部商業捕鯨に回したとしても、増えるのはせいぜい200トン程度。
 通常の食品と同等に正々堂々堅気らしく¥、売するなら、JARPAII増産時の二の舞は避けられない気がしますが……。
 いずれにしても、南極海捕鯨で日本に供給できる鯨肉は、年間2,900トンが関の山なのです。

 日本人1人当り年間22gです……。
 付け加えるなら、全海区合計すれば年間8,700トン日本人1人当り年間68gに。1年間にやっと竜田揚げ2コ分ってとこでしょうか・・。

 ただし、操業規模を太平洋側と同等としても、母船・捕鯨船をさらに遠く離れたインド洋・大西洋側まで送らなければならず、同じ生産量を上げるのに燃料代が大幅にかさむことになります。給油船の派遣も不可避になり、その分コストが跳ね上がるのは必至。黒毛和牛より高価な代物になるのは確実でしょう。税金で見かけだけ値段を下げても、国民の腹を痛めるのは同じことです。
 そしてもうひとつ、これは利用できる南極のクジラを日本がすべて独占できるという前提での話です。

 訪れた食糧危機が世界規模でなおかつ深刻なものだった場合、70億なり、危機が訪れた時点の増加した世界の総人口で割ることになるでしょう。さすがに反捕鯨国も、人類の存続がかかっているとなれば反対ばかり言ってられないでしょうし・・。
 仮に2050年だとすると、予想される人口は96億人(日本の人口は9700人)ですから、年間1人当り0.875gということに。耳かき1杯分くらいですかね・・。
 もちろん、人類が非持続的に食いつぶして自滅を早めるほど愚かでなければ、ですけど・・。
 さすがにその分配の仕方はあまり現実的とはいえませんが、世界的な食糧恐慌ともなれば、クジラをめぐる争いが勃発するのは不可避でしょう。もっと有用で合理的な非常時向け食糧がまったくないという前提の話ですけど。
 その場合、政治的な理由で優先権を主張すると考えられるのは、現在一応凍結されている(放棄はしていない)南極海領有権を主張する7カ国。とくに、南半球で南極海に面しているオーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチンの4カ国は、操業コストが相対的に大幅に低い点でも圧倒的に有利だといえます。
 また、クロミンクが沖合・EEZの範囲を回遊している可能性のあるブラジルや南アフリカも、当然名乗りをあげるでしょう。

 北半球の日本が、大量の石油を燃やし、大西洋側も含めた南極海のクジラを独占することを、一体世界が認めると思いますか? 食糧難の時代に。
 ついでにいえば、食糧輸入国でもある多くの産油国は、石油を食糧と引き換えのカードに使うのは目に見えていますから、日本はそもそも出漁さえできなくなるでしょうね。
 バイオ燃料? どこから調達するのですか? 食糧難の時代に。
 食糧輸入が途絶えた中で、自国の限られた農地を南極行捕鯨船用の燃料のために使い、その分救えるはずの多数の国民を見殺しにすれば、日本は世界から狂った国家とみなされるだけです。
 後は、操業が可能な南極海近くの国から鯨肉を買うしか手はありません。
 食糧難の時代に、石油も食糧もない日本が、一体何を差し出せるのでしょう?
 それとも、戦争でもしますか?
 以前も指摘したとおり、オーストラリアをはじめとする南極領有権主張国にとっては、尖閣諸島に相当する場所なのですよ?
 SSCS対違法捕鯨船団のプロレスではなしに、いざ本物のクジラ戦争となったら、アメリカは日本をバックアップするどころか、安保条約を破棄してAUS・NZの味方をしたとしても、何の不思議もないでしょうな。捕鯨反対という以外の理由で。
 食糧難の時代に、鯨肉・美味い刺身=iby本川農水事務次官)のために、戦争でいがみ合った過去を置いて様々な形で支援してくれ、軍事面を含む同盟関係にあったばかりか、小麦をはじめ基礎食糧を長年供給してくれた大恩のある国々に対し、戦争を仕掛けるというのも、とてつもなく狂っていますが。前世紀の大戦前・大戦中以上に。

 食糧危機が日本だけを襲い、よその国はどこも飢饉が発生していない(ただし、日本が食糧を輸入している相手国はどこも輸出だけできない)、石油だけは問題なく輸入できる、経済的にもそれだけの余裕があるという、非現実的にもほどがある前提条件が成立しない限り、鯨肉の出番はおよそありえません。
 そして、その場合でも、南極産鯨肉にすがれるのは「年間1人当りたったの68g」ぽっちなのです。
 鯨肉1g当り1kcal、1日1人当り必要な熱量を2,000kcalとすれば、南極産鯨肉で補えるのは日本人に必要なカロリーの1万分の1にすら満たないのです。

 いざ食糧危機が起こったとき──「背に腹は替えられない」「贅沢言ってる場合じゃない」状況に見舞われたとき、最優先でまず供給を確保すべき食糧といえば何でしょうか?
 答えは、生きていくための基礎代謝を支える主食です。すなわち、米・芋。
 実際、日本政府も食糧安全保障マニュアルの中で、穀類・芋類への重点的な配分を謳っています(後述)。
 重要なのは、何をおいてもカロリー。
 食糧難とはすなわち、供給カロリーの絶対量が不足している状態なのですから。
 蛋白食品としての鯨肉は、畜肉・多くの大衆魚・大豆・そして、鯨肉と違い世界で食糧難時代の救世主≠ニして本当に注目されている昆虫に比べ、カロリーが低いのが特徴。
 カロリーが絶対的に不足している食糧難時代にあって、豚肉の3倍、イワシの2倍、大豆の4倍、シロアリの6倍食べないと、その分のカロリーを補えないのです。
 これは食糧難の際には致命的です。ヘルシーの謳い文句が通用するのは飽食の時代だけ。
 食糧危機の文脈においては、鯨肉は蛋白源としてさえ、冷凍倉庫のスペースと莫大な電力を無駄に消費するだけで、いいことはひとつもない食品なのです。

 現実問題として、主食が確保できない状況に日本が陥ったなら、低カロリーで年間必要な分の1万分の1も供給できない南極産鯨肉は一切出る幕がありません。
 蛋白源としても、コストと栄養価・カロリーの観点で昆虫食に圧倒的に負けます。
 ちなみに、動物性蛋白質なるものは実際にはなく、問われるのは必須アミノ酸20種のバランスだけなので、玄米と豆類のたった2品目でアミノ酸スコア100%は問題なく達成できます。家畜の飼料用作物ないし農地を直接ヒトの食用に回すのは、水産養殖餌用の魚を直接食用向けに転換するのと同様(後述)、少なくとも食糧危機の場面では現実的で合理的な解決策です。
 昆虫食は、水産業の言い方を借りるならほぼ未利用資源状態。菜食も、迂回生産分を回すだけで状況を劇的に変える効果があります。

■「昆虫食」が世界を救う? 日本の「昆虫料理研究会」にも海外注目 ('14/8/24)
http://newsphere.jp/national/20140824-1/
■「昆虫食」は地球を救う!? 〜食卓にコオロギ料理が並ぶ日は来るか? ('15/12/14)
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20151214-OYT8T50108.html
■FAOの昆虫食報告書”Edible insects Future prospects for food and feed security”の要約(日本語)|食用昆虫科学研究会(E-ISM)ブログ
http://entomophagy.blog.fc2.com/blog-entry-28.html
■ベジタリアンでエコロジー
http://uchishoku.com/wp-content/uploads/2011/02/meatfreemonday1.pdf
■将来の食料問題を解決するのはクジラではなくイモだ
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/61041880.html
■捕鯨は牛肉生産のオルタナティブになり得ない|拙HP
http://www.kkneko.com/ushi.htm

 日本人だけで年間1人当り68gが限界の鯨肉と違い、昆虫食と菜食は、世界の飢餓を解決するだけのポテンシャルを間違いなく有しているといえます。
 必要なのはお金ではなく、ちょっと見方・価値観を変えるだけのこと。
 どうせ税金をかけるなら、来るべき食糧難への供えとなる正しい選択≠フためにこそ用いられるべきでしょう。
 本川農水事務次官や永田町の族議員らが欲しがっている美味い刺身≠フためではなく。
 逆に言えば、年間1人当り最大で68gまでしか供給できないうえに莫大な石油・コストを要し、いざ食糧難となったら糞の役にも立たない南極海捕鯨に、食糧問題解決を名目として年間50億円超もの税金を注ぎ込み続けるのは、合理的な食糧安全保障対策を放棄して国民を飢えさせる究極の愚策にほかなりません。
 原発事故の際、まったく活用されなかったSPEEDIに240億円を投じたのと同じように。

 すでに答えははっきりと出たわけですが、実のところ、日本政府は食糧危機にどう備えているのでしょうか? 鯨肉の出番≠ェあるなどと本気で考えているでしょうか?
 続いて、国の食糧安全保障政策の中で、捕鯨・鯨肉がどのような位置づけにあるか、チェックしてみることにしましょう。

■世界の食料需給見通し|農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_zyukyu_mitosi/
2050 年の全世界の食料生産量は69.3 億トンと将来の世界人口予測の1.5 倍を上回る1.6倍の水準に達する。(引用)

 ここでは2024年および2050年の予測結果が紹介されています。地域間の輸出入割合は大きく変化するものの、生産量は気候変動の影響等を考慮してさえ、需要を賄うだけ十分に確保されるというのが日本政府の見方。捕鯨協会の心配をよそに、当の日本政府は世界の食糧需給見通しについてかなり楽観的なようですね。
 ところで・・シミュレーションの中で水産物が考慮されていないのはなぜでしょうか?

■世界漁業・養殖業白書 2014年(日本語要約版)|FAO
http://www.fao.org/3/a-i3720o.pdf
■世界銀行レポート FISH TO 2030:世界の漁業は成長し、日本漁業のみが縮小する|勝川俊雄公式サイト
http://katukawa.com/?p=5396
国と地域別の生産量と成長率の予測
世界平均では23.6%の増加で、増加の割合は、国や地域によって異なっています。マイナス成長の国と地域は日本(-9.0%)のみです。このことからも、日本漁業の衰退は,世界の中でも特異的であるかと言うことがわかります。(引用)

 上掲FAO漁業白書のP13に「世界の海洋漁業資源の状況の推移」のグラフが示されています。
 天然の漁業資源のうち半数は限界まで漁獲されておりこれ以上開発の余地がない状態、3割近くが過剰に利用されているか既に枯渇に陥っている状態。「乱獲に歯止めをかけ、減らしていかなければ埒が開かない」状況にあるのです。これは水産庁自身も含め、広く認識されていることですが。
 で、下はおなじみ東京海洋大・勝川准教授による世銀レポートの解説。
 日本が世界で一番みっともない持続的利用の落第生なのは、世銀のレポートからも一目瞭然なのです。つまり、日本はよその国の何倍も「乱獲に歯止めをかける努力」をしなければならないわけです。
 これでは、なるべく明るい未来を描いておきたい日本政府としては、食糧需給見通しに水産物を入れて暗い影≠落とすわけにはいかなかったかもしれませんね・・。

 次に紹介するのは、まさしく日本政府自らが策定した、非常時・不測の事態における緊急マニュアル。ちらっと上でも触れましたが。

■不測時の食料安全保障マニュアル|農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/pdf/1sanko2.pdf
水産物については、我が国周辺水域における水産資源の適切な保存及び管理等に取り組む。(引用〜p10)
なお、国民に対する動物性たんぱく質供給において大きな役割を果たす水産物については、水産資源の持続的利用が確保される範囲内で生産の増大を図る
とともに、非食用(養殖用の餌料等)から食用への転換を行う。(引用〜p21)
〔石油の供給が大幅に制約される場合の対策〕
(1)燃料の供給の減少への対応
B 水産業における対応策
水産業において、石油は、主に漁船の燃料として使用されているため、供給の不足が直接的に生産量の減少に結びつくおそれがあるが、魚介類は動物性たんぱく質の供給源として重要であるので、生産量の確保のために必要な供給を行うこととする。また、その際には、経済速度の徹底や船団構成の見直し等石油の有効利用を基本とした生産体制への移行を推進する。(引用〜p42)

 これが、農水省の定めた食糧安全保障マニュアルの中の、水産物に関する記述のすべて(グラフ除く)。
 やはりクジラのクの字、捕鯨の捕の字も出てきやしません。
 「非食用(養殖用の餌料等)から食用への転換」、つまり迂回生産をやめるのはまさに正論であり、本来は水産養殖のみでとどめる話ではありません(先述)。
 注目点は燃油不足への対応。
 前述のとおり、食糧難時代に石油がふんだんに使えるという仮定自体非現実的。
 燃油高騰で誰よりも大騒ぎし国の補填を要求したのが水産業界であるのを見ればわかるとおり、一次産業の中でも圧倒的に石油に依存しているのが漁業です。とりわけ遠洋漁業。

■遠洋調査捕鯨は地球にやさしくない|拙HP
http://www.kkneko.com/co2.htm
■世界の漁業は気候変動に備える必要がある|FAO
http://www.fao.or.jp/media/press_090302.pdf
実際の漁獲操業に比べると、魚穫後の水産物1キロあたりの空輸における排出量はかなり高いとSOFIA は付け加えた。大陸間の航空貨物は、輸送される1 キロの魚につき、8.5 キログラムの二酸化炭素を排出する。これは海上輸送に比べ約3.5 倍であり、漁獲された場所から400 キロメートル以内で消費される地域の魚の運送に比べると90 倍以上である。(引用)

 FAOの資料が示すとおり、公海・遠洋漁業は200海里内の沿岸・近海漁業の地場消費のケースに比べ、なんとCO2排出量が25倍
 そして、筆者の試算では、鯨肉の単位生産量当りのCO2排出量は、そのさらに3.5倍にあたる航空輸送水産物にほぼ等しい値です。
 国のマニュアルにある「船団構成の見直し等石油の有効利用を基本とした生産体制への移行」が遠洋から沿岸への転換を意味するのはあまりにも当然のこと。南極海に船を出すのは愚の骨頂です。

 引き続き食糧安全保障マニュアルから引用しましょう。

しかしながら、我が国の食料自給率は年々低下し、供給熱量ベースでは、昭和35年度の79%から平成18年度の39%へと大きく低下しており、今や主要先進国で最も低い水準となっている。また、我が国の食料は、少数の特定の国・地域への輸入依存度が高いという特徴を有している。(引用〜p8)
不測時の食料安全保障のためには、平素から、農業生産の基本となる農地・担い手の確保、農業技術水準の向上等を通じ、先進国中最も低い水準となっている我が国の食料自給率を高めるとともに、不測時に対応した農業技術の研究開発を促進することにより、不測時における食料供給力の確保・向上を図る必要がある。また、適切かつ効率的な備蓄の運用及び安定的な輸入の確保により、食料の供給が不足する場合に備えることが必要である。(引用〜p10)
我が国の穀物自給率は、175の国・地域中125番目、OECD加盟30か国中26番目(引用〜p75)

 当然ながら、食糧安全保障の基本中の基本は自給率を高めること。
 最も合理的なのは、平時のうちからなるべく自給率100%以上を達成しておき、いざという時には融通してもらえるよう、農業生産に余力のある国々と仲良くしておくことですよね。そう……米国や豪州みたいな。
 平時のうちは自らの首を絞めるような売国的TPPを推進して危機への備えを放り出し、ピンチになったら頼るべき相手の神経をわざわざ逆撫でするような真似をするなんて、食糧安全保障の観点からは一番やっちゃいけないことのはず。
 実際、マニュアルの中でも、昭和48年の「豆腐騒動」時の対応に関して、以下の記述があります。

1.当面の対策
 @大豆の主要輸入相手国である米国、中国の政府及び貿易関係機関に対し、積み出しの促進を要請
2.今後とるべき措置
 @ 国産大豆の生産振興。
 A 大豆の開発輸入を促進し、海外供給源を多角化。(引用〜P81)

 残念ながら、今まさに食糧安全保障の観点から択るべき道とは真逆の方向に突っ走っちゃってますけど・・
 TPPの影響に関して、国は自給率が変わらないするとどう考えてもおかしな試算を発表していますが、それに対するJA側の反論を紹介しておきましょう。

■政府の意図が明確すぎるTPPの影響再試算 ('15/12/29,農業協同組合新聞)
http://www.jacom.or.jp/nousei/rensai/2015/12/151229-28867.php
■「TPP の影響に関する各種試算の再検討」東大・鈴木宣弘
http://www.think-tpp.jp/shr/pdf/report03.pdf

 TPPに参加し、十年で米関税を撤廃すれば、生産農家への所得補償があっても米の自給率は50%にまで下がるという試算。
 そもそも、国内生産量自体、経産省の試算で7割弱、農水省の試算で9割も減少することになっていますが。
 年間生産量の上限が1人当りわずか22gないし68gにすぎない南極産鯨肉どころの話ではありません。
 TPPを強力に推進したのは、米国の現オバマ政権ですが、次期大統領候補は民主党も共和党もTPPに対して批判的。
 その一方で、日本の自民党と経団連はその米国をつなぎとめようと躍起になっているように見えます。筆者には実に滑稽に思えてならないのですが・・。

 奇妙なのは、あまりにもバカげた鯨肉食糧危機救世主論≠唱えている日本捕鯨協会、森下IWC政府代表ら捕鯨サークルの間から、食糧安全保障の根幹を揺るがすTPPに対する懸念の声がまったく聞こえてこないことです。御用新聞産経は社説でTPP大筋合意を絶賛。
 唯一TPPに言及しているのは、小松氏のこれくらい。食糧安保上の危機感はうかがえません。

■政策研究大学院大学教授 小松正之氏 「日本の魚はどうなる」(於東京国際文化会館)|武藤記念講座
http://www.kokuminkaikan.jp/chair/detail20111022.html
TPPについては、(水産業は入っていないが)、24項目の内の農業等の構造的問題を解決せずに補助金で解決しようとしているが、それならば参加しない方がよい。バイ(2国間)かマルチ(多国間)かはよく検討すべきである。日米はバイでやるべきではないか。いずれにしても自分の意見を持たず人の土俵に乗ることだけは止めてもらいたい。 (引用)

 こうした態度が意味することはひとつ。
 捕鯨サークル関係者は日本の食糧安全保障になど実際にはまるで関心がなく、「業界益・自己存続のため」(小松氏の場合は自らの実績を否定されたくないため)というシンプルかつエゴイスティックな動機で、深く考える気のない一般市民にバカげた鯨肉救世主論を吹き込んだのだということ。
 ベトナム戦争陰謀論が、そもそも核問題や環境問題、平和の問題に無関心な連中の手で捏造されたのとまったく同じように──。

 捕鯨業界のPRコンサルタントを務め、その成果を「捕鯨問題に関する国内世論の喚起」で得々と披露した陰謀の立役者、水産ジャーナリストの梅崎義人氏は、著書『クジラと陰謀』の中で以下のように記しています。

中曽根の基本的な外交姿勢は、いまさら言うまでもなく、米国重点主義で、小さな問題はどんどん譲り、まず、大統領の評価を得ることに関心を払う。その結果、貿易黒字などの大きな問題を小さな問題でかわしていくというやり方になる。中曽根は、その小さな問題の中にクジラも含めてしまった。(引用〜同書p263)

 梅崎氏は、TPPの問題・対沖縄基地問題・安保法案・憲法改正等の一連の政策を含む安倍政権の姿勢について、一体どう見ているのでしょうか?
 再び「クジラの陰謀」が蠢きだしたと思っているのでしょうか?
 それは一体何の陰謀なのでしょう? ベトナム戦争? 湾岸戦争? イラク戦争? アフガン戦争? IS等対テロ戦争?
 あるいは、安倍首相は中曽根元首相と違い、米国重点主義ではなく、小さな問題も大きな問題も米国に譲っていないという評価なのでしょうか?
 TPPについて、米大統領候補がみな二の足を踏んで、経団連が必死に引き止めている状況を、どう説明するつもりなのでしょうか?
 クジラの問題と違い、米をはじめとする農業全般は小さく、譲れる問題だと、そう思っているのでしょうか?

 筆者が気になるのは、梅崎氏は一体捕鯨協会からいくらのギャラを受け取ったんだろう? ということなんですけどね・・・・・

「TPP参加を見送る」
「乱獲を厳に戒め、沿岸の水産業を持続的な形に立て直す」
「気候変動に真剣に取り組む」
「昆虫食や菜食を普及させる」
「一次産業の価値を銭勘定で測らず、(本当の)自給率を高める」
「食糧廃棄を徹底的に削減する」
 できること、やるべきことはいくらでもあります。
 本当にやるべきことをきちんと実行しさえすれば、年間1人当り22gなり68g程度の蛋白食品の不足を憂える必要などまったくないのです。
 将来の食糧危機に備えるなら、私たち日本国民は鯨肉の美味い刺身∞竜田揚げ≠ノ税金をびた一文注ぎ込むべきではありません。
 そして、食糧問題をダシにしてはばからない捕鯨サークルの醜いエゴを、決して許してはなりません。
posted by カメクジラネコ at 19:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系