2015年10月27日

とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる

 実に驚くべきニュースが飛び込んできました。
 記事が掲載されたのはオーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド(SMH)紙。書いたのは捕鯨問題に詳しいジャーナリスト、アンドリュー・ダービー氏。


 「日本が突然、捕鯨に関して国際司法裁判所(ICJ)で異議を挟まれることに対し、予防線を張った」というのです。
 具体的に言うと、ICJの管轄権に関する国連への宣言の中で、「海洋生物資源の調査、保全、管理ないし開発に関わるすべての紛争」について、ICJでの応訴義務を負わないという一文を新たに付け加えた、と。
 強制管轄受諾宣言については、以下のICJ判決前の拙記事をご参照。

■ICJ調査捕鯨訴訟で日本は負ける
http://kkneko.sblo.jp/article/70305216.html

 国連大使吉川氏により受諾宣言が提出されたのが今月6日。そして、訴訟の相手国であったオーストラリアに開示されたのは、SMH記事の書かれた19日の前日、18日の日曜日の夜。寝耳に水とはまさにこのこと。
 で、確かにしっかり書き換えられてました・・

■Texts of the declarations / Japan | UN
https://treaties.un.org/Pages/Declarations.aspx?index=Japan&chapter=1&treaty=311#EndNotesSection
■Declarations Recognizing the Jurisdiction of the Court as Compulsory / Japan | ICJ
http://www.icj-cij.org/jurisdiction/?p1=5&p2=1&p3=3&code=JP

(3) any dispute arising out of, concerning, or relating to research on, or conservation, management or exploitation of, living resources of the sea.

 国際司法裁判所(ICJ)の判決を受け、昨年1年休んだ南極海での調査捕鯨を、この冬から再開させようとの動きは前々からありました。
 違法認定されたJARPAII(第二期南極海鯨類捕獲調査)に代わって登場した新調査捕鯨計画、その名もNEWREP-A
 それがいかにボロッボロな情けない代物であるかについては、前々回の記事でもまとめたとおりです。

■科学の化けの皮が最後の一枚まで剥がれた調査捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/161982529.html
■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015

 今月に入ってから、調査捕鯨城下町・下関で捕鯨サークル関係者が鉢巻締めて拳を突き上げ、「再開するぞ!」と気勢を上げたとのニュースもあり、戦前の学徒出陣めいた破れかぶれの様相を呈していたのですが・・
 まさかその裏で、勇猛果敢とはお世辞にも言えない、こんな卑屈でみみっちい手段を講じていたとは、思いもよりませんでした……。

上掲SMHの記事中で、国際法学者のオーストラリア国立大ドナルド・ロズウェル教授は「日本が法の支配への強力なコミットメントを表明していただけに、非常に驚いている」とコメント。
 また、デイリーテレグラフ・オーストラリア版では、野党緑の党のウィッシュウィルソン議員が「首相は駐豪日本大使を呼びつけ、公に強い抗議の意を表明すべきだ」と述べています。「南極海に船を送るべきだ」とも。


 こちらは英紙ガーディアン。オーストラリア海洋保護協会のダレン・キンドリーサイド氏が「日本はICJに肘鉄を食らわせ、各国にモーニングコールを寄こした」という表現を用いています。「判決を遵守する」と明言した安倍首相の言葉を信じ、安心して休んでいた国々をたたき起こしたというわけです。モーニングコールというより、バケツで冷水をベッドにぶっかけたと言った方が正解でしょうが。さらに、「日本の行動は国際法に対する純然たる侮蔑だ」とのコメントも。
 同記事中には、日本の捕鯨による過去のデータ改竄に関する記事へのリンクのオマケも。

■Australia considers legal action as Japan snubs Antarctic whaling ban (10/20)
http://www.theguardian.com/environment/2015/oct/20/australia-considers-legal-action-as-japan-snubs-antarctic-whaling-ban

 米国の動物愛護団体、全米人道協会(HSUS)のウェイン・パーセル会長は、「日本の行動は国連の枠組に対する、協調する国際社会に対する侮辱だ。世界中の多くの国々が野生動物保護のために手を携える中で、日本が自ら悪役を引き受けているのは悲しいことだ」とブログで表明。
 ブログ記事の中で、中国が象牙取引の段階的中止を宣言するなど野生動物保護に熱心になってきていることに触れ、「Japan, in contrast,」と思いっきり比べられてしまっています。


 環境問題の専門サイト、ザ・コンサベーションは、タスマニア大学の法学講師、ブレンダン・ゴガーディ氏の論説を掲載。
 今日のグローバルコモンズ、いわゆる人類共有の財産≠フ管理において《法》と《科学》が果たす役割の限界を示す象徴的な事例として、日本の行動を捉えています。そして、このような脱法行為を防ぐべく、今後はより強制力の高い外部仲裁機関が必要になるし、法と科学をかけ合わせ≠ト科学に法的な牽引力を与えるとともに、グローバルコモンズに対して金融・貿易と同等の配慮をすべきだと指摘しています。
 今回の日本の行動は、間違いなく国際法史・環境史上の一大事件として、後々までに語り継がれることになるでしょう。その中で、捕鯨ニッポンはある意味ナチスドイツに近い位置づけを与えられたも同然です。

■Japan’s whaling gambit shows it’s time to strengthen the rule of science in law (10/21)
http://theconversation.com/japans-whaling-gambit-shows-its-time-to-strengthen-the-rule-of-science-in-law-49488

 オーストラリアや欧米だけではありません。
 中国の国営メディア・新華社も、豪メディアの第一報の翌日には早くも取り上げています。
 実に淡々とした報じ方ですが、オーストラリア政府にとってまさに寝耳に水≠セったこともしっかり伝えています。
 はたして、中国の人たちはどういう受け止め方をしたでしょう?
 「ああ・・日本ってやっぱりこういうやり方するんだな・・」と、歴史を振り返って感じた世代もあるかもしれませんね。

■Aust'n gov't seeks legal advice after Japan defies whaling injunction (10/20)
http://news.xinhuanet.com/english/2015-10/20/c_134731011.htm

 では、国内の反応は?
 ていうか、皆さん……このニュース、TVや新聞で目にしましたか???
 オーストラリアの一報から6日間、世界を震撼させた外交上のビッグニュースを取り上げた日本のマスコミは1社もありません。
 ニュージーランドが日本のイメージ悪化を狙っているというトンデモニュースを大々的に報じた公共放送アベチャンネ・・もといNHKや、捕鯨問題報道率で他社比3倍は下らない産経を含め。リベラル紙も赤旗含め全滅の有様。
 日本語で報じたメディアは、唯一オーストラリアの経済ビジネス情報サイトのみ。
 (下掲まとめ公開後の26日にオンラインのニュースフィアが報道)

※ 投稿(27日4:40)後の今朝6時、産経佐々木記者が超雑≠ネ記事をアップしました・・
 見出しが一月前にとっくにSMHが報道していた別件で、オンライン記事では2P目をクリックしないとわかりませんが・・
 「より適当」だと宣言(引用)とありますが、受諾宣言にそんな文言は存在しません。もし本当に書いてたら世界の笑い者だけど。。

■豪州の動物保護団体が日本の調査捕鯨を提訴 シー・シェパードが支援 日豪間の摩擦激化の恐れ

■捕鯨論議再燃も、日本の年内の調査捕鯨再開で[政治] (10/21,NNA.ASIA)
http://news.nna.jp.edgesuite.net/free/news/20151021aud004A.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151021-00000009-nna-asia

 仕方ないので、国内のマスコミの周波数以外も拾えるアンテナを持っていた少数の方々のコメントをここで引用しましょう(強調筆者)。

10月6日付けにて、日本がICJの強制管轄権から「海洋生物資源の調査、保全、管理、ないし開発に関わるいかなる紛争」をも除外しました。UNCLOSの下でここで除外された紛争が司法的解決に服する可能性はまだありえますが、明らかに南極海での調査捕鯨の再開(及び北西太平洋の調査捕鯨の継続も)は国際法的に危うい、少なくともICJに持って行かれるのはいやだ、というメッセージです。「法の支配」を標榜する日本としていかがなものでしょうか。(引用)


自信満々で望んだ調査捕鯨の裁判で完敗したからといって、後付けで「ICJの決定には従わない宣言」をするのは、法治国家としていかがなものでしょうか。指摘された問題点に対応し、国際社会の合意を得てから、再開するのが筋でしょう。(引用)
解決すべき領土問題を抱える我が国が、数少ない国際紛争の解決の手段を、ちゃぶ台返ししてしまうのは、得策とは言えないでしょう。(引用)

−勝川俊雄氏(東京海洋大学 産学・地域連携推進機構 准教授)
http://twilog.org/katukawa/date-151022

この通告はクジラに限定されているわけではなく、日本政府は海洋生物資源全般に対して国際司法を尊重しないと宣言してしまったわけで、こんなの日本は無責任国家ですと言っているのに等しい、こんなことでマグロやサンマなどの資源管理に対して国際的なリーダーシップなど取れるわけ無いではないか。(引用)

−津駄 (Masaki E. Tsuda) 氏 (博士/生命科学)
https://twitter.com/teuder/status/657189213629100032

「我が代表堂々退場す」の匂いがしてきている(引用)

−小田嶋隆氏(コラムニスト)
https://twitter.com/tako_ashi/status/657739739211001857

 こちらは勝川氏のコメントに拙ツイを足して富さんに作っていただいたまとめ。

■今後はICJで訴訟を起こされても受けて立たない|Togetterまとめ
http://togetter.com/li/890170
http://b.hatena.ne.jp/entry/togetter.com/li/890170

 Togetterでは4日で6万Viewを突破。
 はてぶも政治経済分野で400超
 おかげさま(・・)で、拙ブログへのアクセス数も土曜1800件、日曜は3000件を突破し平常時の10倍・・

 以下は、まとめをご覧になった方のご感想。

日本のメディアは全く報道していない。
国会でも、全く議論されていない。
日本政府は、勝手に重大事件を引き起こしていた。(中略)
強制管轄を受諾するという意思表示をしていることは、「国際法秩序を遵守する」と宣言していることを意味するから、日本にとっては名誉なことである。(中略)
それを、今回は、負けたから、ひっくり返します。
これからは、国際法違反の「商業捕鯨」を行いますと宣言したのである。
法を守らぬことでは、シーシェパードとどっこい、どっこいになってしまうのではないか。(中略)
僕も、クジラやイルカばかりを特別扱いして、もっと重大な問題を追及しない過激な環境保護団体のあり方には、疑問がある。
日本だけがなぜやり玉に挙げられる、という感情もある。
しかし、いわゆる「調査捕鯨」の禁止によって被る打撃は、だかだか知れている。
「負ければ、脱退して、裁判違反を続ける日本」というイメージを国際社会にばらまくことと、捕鯨の断念と、どちらが日本に取って損失なのか、冷静になって考えれば、誰でもわかることだろう。(引用)

−外国投資家には従うが、国際司法裁判所には従わない!! 何それ日本|街の弁護士日記
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/2015/10/post-59bb.html

 まとめへのコメントでも、国内では少数派である捕鯨反対の人のみならず、中立ないし「捕鯨には賛成」「鯨肉が好き」という方々からさえ、「さすがにこのやり方はおかしい」という声が目立ちます。
 ICJ判決直後の本川発言や、NHKニュースウォッチ9がニュージーランドに噛みついた被害妄想的陰謀論ネタ報道に対する反応にしても同様でしたが。
 マスコミがきちんとこのことを報じていたならば、圧倒的多数の国民が「さすがにこのやり方はおかしい」と感じたことでしょう。
 疑問の声を発したことでしょう。周囲の人たちと首をひねり合ったことでしょう。
 何しろ、ことは近隣諸国との領土問題にも直結する、国際法に対する日本のスタンスの不可逆的な変化の話なのです。
 「一度裁判で負けた都合の悪いことに関しては、裁判で争って白黒決めることはせず、逃げます」と、世界に向かって堂々と宣言してしまったのですから。

 自国の政府が国連に対して重大なアプローチをしたことを、海外の報道で初めて聞かされるというのは、実に気分が悪いものです。
 しかし、海外の報道をチェックする習慣のない人は、自分の住んでいる国が世界中を騒がせているという事実すら知らずに、今もこうして日々を送っているわけです。

  • 本川一善水産庁長官(当時。現在は事務次官に昇格)が「美味いミンク鯨肉刺身の安定供給のために調査捕鯨を行っている」旨の国会答弁をしたことが、ICJに証拠として採用され、日本の敗訴の決め手となった。

  • ニュージーランド政府代表は、国際捕鯨委員会(IWC)の年次会合で「日本が南極海捕鯨から撤退すれば、日本の沿岸捕鯨を認めるのもやぶさかではない」旨の発言をしている。

  • 捕鯨をはじめとする海洋生物資源に関わる紛争に関して、ICJで日本が訴えられることのないよう、国連の強制管轄受諾宣言の文言を書き換えた。8年ぶり、2度目の更新。

 とある訪日外国人の飲酒運転嫌疑(検査の結果シロ)や旅券不携帯、自損事故のような、三行書くにも値しない瑣末事とは比較にならない重大事について、日本のマスコミはひたすら沈黙を守り続けているのです(本川発言については、日経のオンライン論説1本のみ)。
 マスコミ自身が自粛しているのか、それとも、安倍政権の指示で仕方なく口チャックしているのか。
 どちらにしても、これでは日本のメディアが報道管制を敷かれているとみなされても仕方がないでしょう。
 まるで戦時下、あるいは中国や北朝鮮を思わせる情報鎖国状態。もっとも、その中国はちゃんと報じていますが。
 報道の自由度ランキングで現在日本は61位と、先進国でも最低クラス、G7中では最下位にまで落ちています。このようなことを続けていれば、早晩100位以下にまで転落しかねません。中国や北朝鮮と肩を並べる日も、そう遠くはないのではないでしょうか?
 少なくとも、捕鯨問題に関する限り、日本のマスジャーナリズムは完全な機能不全に陥ったといえるでしょう。

 ここで、改めて日本の受諾宣言の書き換えがもたらす意味について、上掲の海外報道が報じていない問題も含めてチェックしてみましょう。


 外務省のプレゼン資料で、今回内容が更新されているのが3P目「日本とのかかわり」とラスト5P目の別紙。
 なんつーか、そこらの学生より下手クソなレイアウトですな・・
 余白も取らずギッチギチに詰め込み、バランスも崩れ、読みにくいことこの上なし。
 担当者にプレゼン資料を作成する能力がない・・というより、わざと読みにくくしている印象を受けます
 ページの右側、2つのリストのうちの上が、昨年の調査捕鯨裁判敗訴の1件。
 特に2行目と3行目は行間がなく、見出しと行間を整え見出しフォントを青字にした下の項目の方がずっと目立っちゃってますね・・。
 文言も、次ページの「最近のICJの判例」とは対照的に、ほぼ完敗したという事実をムニャムニャごまかしている印象がぬぐえません。ちなみに、×特別許可書 ○特別許可証。
 ICJとの関わりという意味では、手前までの話で直接関係ない「模索した経緯」や、「勧告的意見手続き」より、当事国として裁判で争った事例の方がはるかに重みがあるはず。
 改段もせずに付け加えている、PCIJでの当事国事例は、具体的な訴訟の内容もなく、ここに入れる意味はありません。国連(国際連合)の説明資料で、国際連盟について蛇足の説明を加えるのと一緒。
 ちょっと筆者が作文し直してあげましょうか・・

見出し@強制管轄権の受け入れ
見出しA日本人裁判官
見出しB日本が当事国となった裁判
・「南極海捕鯨事件」判決(2014/3/31)
ICJは、5つの争点うち、特別許可証の発給に関する事務手続について定めた附表第30項違反を除き、オーストラリア側の主張を認め、日本の第二期南極海鯨類捕獲調査は国際捕鯨取締条約第8条1項に規定する調査捕鯨に該当しない旨判示するとともに、同条約第8条に基づく将来の発給許可にあたって判決を考慮するよう付言した。
見出しC勧告的意見手続きへの参加
・「パレスチナ占領地における壁構築の法的帰結」事件勧告的意見
 陳述書を提出(と書かずなぜここだけ抜いたのか不明。イスラエルと米国に遠慮したの?)
 ちなみに、このとき日本が提出した陳述書はこちら(ICJサイト)↓
http://www.icj-cij.org/docket/files/131/1601.pdf
見出しD日本によるICJ活用の模索
・アラフラ海真珠貝漁業紛争
 (注:日本の漁業会社は撤退)

 こんな感じでしょうかね・・

 日本の強制管轄受諾宣言が国連に示されたのは1958年、書き換えられたのは2回のみ。
 前回の2007年の更新は、都合の悪い要件を外したのではなく、一般的な「不意打ち提訴」防止のためで、まあ用心深いという程度。狡猾・利己的といった非難を浴びるほどの内容ではありません。
 それに対し今回は、タイミング、内容のいずれをとっても、エゴむき出し≠ニの謗りは免かれません。
 外務省がプレゼン資料に書いた言い訳は以下。

我が国は,我が国が国連海洋法条約の締約国であり,引き続きその義務(注)に服する中で,海洋生物資源の調査,保存,管理又は開発について国際的な紛争が生じた場合には,他の特別の合意が存在しない限り,海洋生物資源に関する規定が置かれ,また,科学的・技術的見地から専門家の関与に関する具体的な規定が置かれている国連海洋法条約上の紛争解決手続を用いることがより適当であるとの考えに基づいて(引用)

 この一文は、当の国連に示した受諾宣言の中にはまったく書かれていません。
 読んでわかるとおり、ICJの管轄権を拒否するために国連への宣言文書をわざわざ書き換えるだけの理由にまったくなっていないのです
 当の国連海洋法条約では、紛争解決手続に関して国際海洋法裁判所(ITLOS)、常設仲裁裁判所(PCA)、特別仲裁裁判所、そしてICJのいずれに付託してもいいことになっています。

■国連海洋法条約|法庫
第2節 拘束力を有する決定を伴う義務的手続
第287条 手続の選択
http://www.houko.com/00/05/H08/006.HTM#s15.2

 つまり、「国連海洋法条約上の紛争解決手続」の中に、ICJは問題なく含まれるのです。
 中には、ICJよりITLOSないしPCAの方が相応しい場合もあるかもしれませんが、そのときは紛争当事国間で調整すればすむことです。あるいは、日本が今回あえてやらなかった先決的抗弁の中で、「ITLOSないしPCAでの仲裁処理の方が適当」と主張すればすむ話です。
 「専門家の関与に関する具体的な規定」とは第289条のこと。その内容は以下。

科学的又は技術的な事項に係る紛争において、この節の規定に基づいて管轄権を行使する裁判所は、いずれかの紛争当事者の要請により又は自己の発意により、投票権なしで当該裁判所に出席する2人以上の科学又は技術の分野における専門家を紛争当事者と協議の上選定することができる。これらの専門家は、附属書VIII第2条の規定に従って作成された名簿のうち関連するものから選出することが望ましい。(引用〜上掲法庫)

 下線にご注目。ICJにも適用されるのです。仲裁裁判に専門家を関与させることが問題なく可能なのです。
 そして実際、南極海捕鯨事件において、両国は最強の専門家を鑑定人として召請しました。日本側は鯨類学の世界的権威であるノルウェー・オスロ大学のラルス・ワロー名誉教授を。オーストラリア側は同国の第一級の鯨類学者・オーストラリア南極局のニック・ゲールズ博士と米カリフォルニア大学の著名な数理生物学者、マーク・マンゲル教授を。
 ワロー氏は長年IWC科学委員会にも参加してきた鯨類学の大家であり、日本政府からわが国の水産政策の推進に寄与した功績をもって旭日中勲章まで授与している人物。ネームバリューの点でも、調査捕鯨への理解度でも申し分なく、むしろ鯨研の御用学者を出すより、ノルウェーの研究者に代弁してもらうのは裁判戦術上も好都合だったはずで、彼はまさに最適任者といえたのです。
 ただ、日本側には重大な誤算がありました。それは、彼が実直で、科学に忠義を尽くすタイプだったこと──。
 もちろん、日本側の御用学者らを立てようとすれば問題なくできたことです。どのみち結果は同じだったでしょうが。
 ちなみに、市井の反反捕鯨ネトウヨ君たちから「ネ申」と崇められる森下IWC日本政府代表も弁護団には加わっていました。なぜか答弁には立ちませんでしたけど・・。

 してみると、ICJは間違いなく「海洋生物資源」にかかる紛争処理にも適していることがわかります。どうして「(ICJ以外の方が)より適当である」という説明が、まるで毛嫌いしているかのごとく管轄権を拒む理由になるのか、まったく理解に苦しみます。
 奇妙なのは、「ICJがより不適当≠ナあるため、管轄権を外した」という、まだしも理屈は通る説明をしないことです。
 なぜそれができないのでしょうか?
 同じプレゼン資料の2ページ目に戻ると、今回管轄権を拒む範囲を一気に広げたICJに対する美辞麗句が並んでいます。

「国際法解釈を通じて長年国際法の発展に寄与。現在でも、その判決や意見には高い権威が認められている」
「ICJには国際法上のすべての問題を付託できる。ICJは、このような普遍的性格をもった唯一の国際司法機関」
「国際社会における実効的な紛争解決機関として、ICJが信頼を寄せられている現われ」(引用)

 かくも素晴らしいICJの管轄権を、なぜわざわざ狭める必要があるのでしょうか?
 その答えはもちろん最初から明らかです。
 外務省自身の省益に沿った従来の方針と、彼らが威圧的な声の大きさに屈服し、渋々応ぜざるを得なかった自民党の捕鯨族議員の認識が、真っ向から相反するものだから。

 上掲まとめでも触れていますが、過去記事の中で筆者は「日本政府が調査捕鯨裁判を対中国・韓国・ロシアとの領土問題を念頭に置いたICJでの紛争処理のモデルケースとみなしていた」と指摘してきました。ICJの場で応訴することで中韓露との領土交渉で自分たちのポジションが有利になると踏んだからこそ、先決的抗弁という合理的な措置を取らずに、あえて受けて立ったのだと。
 実際、当時のマスコミは、関係者≠フそうした発言をあっけらかんと紹介してきたわけです。中韓の関係者にこれ見よがしと見せつけるかのごとく。
 以下は元産経記者の国際ジャーナリスト・木村太郎氏の解説記事。見出しに「エース投入」だの「十分な準備と訴訟戦略を練った被告・日本」だの今読んだらおそらく記者自身穴があったら入りたいと感じそうな文句が並んでいますが、注目は最後の「傍聴席に陣取った韓国大使」の章。

■安倍政権が総力戦で臨んだクジラ裁判の行方 ('13/8/26,ヤフーニュース)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20130826-00027574/

安倍政権の右傾化を指摘する声は強いが、日本はICJに提訴されれば自動的に応じる義務を受け入れている
日本の関係者は「日本は国際法を重視する国で、ICJの場でも国際法に基づいて客観的にみても説得力のある議論を展開できた。国際裁判にはやってみなければわからないことがたくさんある。若手からベテランまで良い経験ができた。クジラ裁判で負けることは想定していない」と胸をはった。
今回の口頭弁論、日本にとっては領土紛争を国際法廷で解決する姿勢を国際社会に示す良い機会だったとも言えそうだ。(引用)

 ついでにもう一例。こちらは敗北直後ですが。

■調査捕鯨敗訴は日本外交の深謀遠慮|アゴラ編集部 ('14/4/1)
http://agora-web.jp/archives/1588801.html

いずれにせよ、今回の国際司法裁判所を舞台にした捕鯨に関する裁判で、日本は完全に敗北したわけです。ただ、裁定には従う、ということを国際的に示すことも大事。損して得取れ、ともいいます。たとえば近い将来、領土問題などをハーグの国際司法裁判所で争うことがあるかもしれない。もしそうなったら「土俵」作りに工夫をし、負けない法廷闘争をする必要があります。今回の対応は、同裁判所の判決を不服として他国の領土占拠などを続ける国が出ないよう釘を刺しておく、日本外交の深謀遠慮だったとも言えます。(引用)

 いやはや……「領土紛争を国際法廷で解決する姿勢を国際社会に示す良い機会」だったのに、これで「深謀遠慮」全部パーになっちゃいましたね……。
 「美味いミンク鯨肉刺身」(by本川一善農水事務次官)なんかのせいで。

 さて・・では本当に、ボロッボロのNEWREP-Aはもう訴えられる心配がないのでしょうか?
 ICJで法務官を務めていたケンブリッジ大のポスドク、マイケル・ベッカー氏がこちらで分析しています。

■Japan’s New Optional Clause Declaration at the ICJ: A Pre-Emptive Strike?
http://www.ejiltalk.org/japans-new-optional-clause-declaration-at-the-icj-a-pre-emptive-strike/

 ひとつは、2007年の初回の更新で追記され、今回削除された一文。「書面の通知によって終了させるまで5年間効力を有する」という文言を付け加えている点。発効まで5年まるまるかけられるかは議論の余地があるでしょうが。
 また、「不意打ち防止」のための縛りが日本自身にもかかってくるため、同じく2007年に選択条項に付け加えた12ヶ月の間は、オーストラリア・ニュージーランド・米国・南米諸国、そして中国・韓国・ロシアも、日本のNEWREP-AとJARPNIIを訴えることがまだ可能なはずです。急げば間に合うと
 もう一点の指摘は、提訴する側に不利な点。国連海洋法条約のもとにICRW/IWCの体制があるのは確かですが、国際捕鯨取締条約(ICRW)と海洋法条約とが国際条約として完全にイコールではないということ。具体的に言うと、ICJに代わるITLOS/PCAでは、海洋法条約違反でないと訴えられない、ICRW違反では問えない可能性があると。
 つまり、まさに卑劣な手口そのもの。その場合、調査捕鯨は完全な無法地帯≠ノ置かれることになってしまいます。
 もしそうした法解釈が正当と認められるなら、外務省の「『国連海洋法条約上の紛争解決手続』には今までどおり従うんだから別に何も変わらない、逃げじゃないんだ」という言い訳は、当然大嘘ということになります。
 ミナミマグロ事件はミナミマグロ保存条約に関する係争をITLOS/PCAで処理したものですから、ICRWだから必ずしも門前払いにはなるわけではなく、筆者としてはそう願いたいところですが。
 なお、ミナミマグロ事件では日本が勝ったからといって、クジラ事件もPCAなら有利だとは限りません(詳細は下掲の拙ブログ過去記事)。

 オーストラリア事情通はご承知のことと思いますが、同国はつい先月、安倍氏との間で蜜月関係を築いていたアボット首相が党首選に敗北して降板したばかり。背景には政権への支持率低下がありました。新しく首相に就任したマルコム・ターンブル氏は、同党ではリベラル寄りで、温室効果ガス排出削減への取り組みを強調するなど、環境問題に対する理解の点でもアボット前首相ら同党の主流とは一線を画しています。また、親族に中国高官がいる親中派だと日本の右翼紙が騒いでる模様・・
 交代前の労働党政権で環境相を務め、反捕鯨の急先鋒としても日本では悪名(?)高いピーター・ギャレット氏も、気候変動問題に対するターンブル首相の姿勢に期待を示すほど。

■Peter Garrett talks Abbott, Turnbull and Midnight Oil (10/24)
http://thenewdaily.com.au/entertainment/2015/10/24/peter-garrett-book/

 もちろん、日豪EPAや防衛装備協定に絡み、最大の友≠演出してきた安倍・アボット両首脳の間で、日本の調査捕鯨に目をつぶる代わりにオーストラリアに諸々の見返りを寄越すといったとんでもない密約が交わされていたとすれば、自由党政権の間はターンブル首相でも身動きが取れないかもしれませんが・・。ウィキリークスが新たに暴いてくれない限り、その内幕はうかがい知れませんし・・
 ただし、来年にはオーストラリアで総選挙があります。
 緑の党は無論のこと、与野党とも選挙公約の中で日本の無法捕鯨に対して毅然とした態度を示すでしょうし、どちらがより実効的な対抗策を打てるか、競い合うことになるのは疑いないでしょう。
 実効的な方策という点に関しては、最後の切り札として、非科学性とずさんさの点でも、「美味いミンク刺身の安定供給のため」という真の目的の点でも、明確に違法認定されたJARPAIIと何ら変わらないNEWREP-Aに対し、国連安保理で審判を下してもらうという手もあります。

 調査捕鯨を法の網の届く範囲から外に置こうとする捕鯨ニッポンの目論見を、世界は一体どう見るでしょうか?
 南極海の自然に対する傲慢で独善的な日本の超拡張主義。最も悪質な捕鯨国として乱獲と密漁を繰り返してきた過去と重い責任を完全否定する都合のいい歴史修正主義。そして、今回の国際法を嘲弄するあざとい手口と常軌を逸した報道管制
 この3つが結び付いたとき、人々のまぶたの裏にどんなイメージが思い浮かぶでしょうか?
 米中豪とも、世代によっては、満州鉄道の爆破や真珠湾奇襲攻撃、太平洋戦争時のダーウィン空襲を想起する人もいるかもしれません。
 いかにも日本らしいやり方だと。
 反攻のための基地として使われるのを未然に防ぐべく実行された1942年のオーストラリア北部の都市への空襲で、無防備だった同市では民間人も多数犠牲になっています。
 現在は太地町と真珠湾養殖の技術交流が縁で(イルカ猟ではなく!)姉妹都市の関係を結んでいるブルームも、やはり空襲で被害を受けています。

 国連の受諾宣言の書き換えは、日本がかくも信頼の置けない国だと、法を尊重せず国際調和を軽んじる国だということを、世界に広く知らしめてしまったのです。

参考リンク:
−ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン(拙過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
−捕鯨ニッポンが最悪のドツボにはまる可能性(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/93046598.html
−みなみまぐろ事件関連記事(〃)
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2015年09月08日

またやっちゃった! 産経パクリ記者佐々木氏のビックリ仰天差別・中傷記事

 前回の記事で《クジラの季節》についてお話ししましたが、同様にイルカにもやはり《季節》があります。
 地産地消∞旬≠ニいう大切な伝統がすっかり崩壊してしまったこの国の捕鯨・鯨肉食と異なり、《イルカの季節》は実際に太地でイルカ追い込み猟が行われる9月〜2月にかけてのシーズンを指します。
 もっとも、太地の関係者にとっては残念なことに、こちらも政治的なニュアンスを抜きには語れなくなりましたが。

 全国の農村では、豊作・・というより、天候に左右されがちな収穫物が少しでも一定以上確保できるように、もっと言えば飢饉に見舞われることがないようにと、地区をあげて多大なエネルギーを費やし、祭事が執り行われてきました。そうした伝統行事を数百年の間絶やすことなく続けてきた人々は、それが本当に豊作のための不可欠な手続き≠セと信じ込んでいたわけです。自然に逆らい収量の確保を目指す農業の近代化に伴い、今では伝統的な食のあり方とともに信仰心の方も薄れてしまい、どこでもほとんど形式にすぎなくなっていますが。
 一方、漁業では農業とちょっと事情が異なってきます。魚種交代のような、人間が関知し得ない要因で大きく収量が振れるため、例えば「漁に出る前は○○をしちゃいかん」といった一種の験(げん)担ぎに近い風習が、日本に限らず世界の多くの漁村で見られるわけです。昔の漁民はやっぱりそれを本気で信じていたわけですが。
 クジラ・イルカに関してはさらに異質でした。多くの日本の漁民にとって、クジラは魚を追い込んでくれる恵比寿、豊漁の神様として崇められる存在でした。全国各地にある供養塔のうち、捕鯨と無関係なほとんどの地域のものが、浜辺に打ちあがった恵比寿の祟りを恐れ、丁重に葬ったものだったのです。
 クジラ・イルカを漁獲対象とみなしていた地域でさえ、そうした祭事は豊漁祈願より供養が前面に出ている点が大きな特徴といえます。「やましさの解消」こそ、古の日本の鯨捕りが自ら求めた手続き≠セったわけです。
 付け加えると、イルカ漁/猟に関しては、捕鯨と同様の供養碑はあるものの、確立され定着した豊漁祈願の祭事の類が見受けられません。それもそのはず、イルカは群れの来遊・ストランディングによって突発的に発生する偶発的な収獲物、余禄であり、生活の糧として依存する持続的な漁業として発展し得なかったのです。
 日本の先住民アイヌの場合、それはシャチの神に対してお裾分けを頼み込むものでした。倭人のそれと性格がまったく異なるのは、野生動物の生態に関する鋭い観察眼と、長い時間をかけて培ってきた持続性の故でしょう。そのアイヌの捕鯨は、明治政府によって強制的に禁止され、潰されてしまったわけですが。

 さて、現代のクジラ・イルカをめぐるお祭り騒ぎはといえば──そのどれとも似ても似つかぬもののよう・・
 イルカ漁業関係者〉 − 〈反イルカ猟団体〉 − 〈マスコミ+反反捕鯨ウヨガキ軍団〉 の監視し合いっこ。

 9/1、太地のイルカ猟解禁を全国のマスコミが一斉に報道しました。
 漁業の解禁日については、それが全国的にも知名度の高い特産物である場合、NHKや地方局のニュースで風物詩的に伝えられることは一応あります。毎年恒例の行事であり、乱獲が祟って禁漁といった特殊事情でもない限り、そもそもニュース性のない情報ですけど。
 狩猟の解禁日に至っては、せいぜい地方紙のベタ記事扱い。TVニュースで放映されたのは観た試しがありませんよね・・。全国の猟友会員は減っているとはいえ10万人近く、太地いさな組合とは比較になりません。間違って殺されたくない山菜採りやワンコのお散歩に行く人だって、知っておきたい情報でしょうに・・。
 しかし、イルカ猟解禁のニュースだけは、何か痛ましい事故や凶悪事件が起きたかのごときおどろおどろしさを伴って報じられます。
 強張った表情のレポーター。棘を含んだナレーション。
 そして、画面にズームアップされるのは、漁や収穫の様子ではなく、生産者以外の人物たちの姿。
 初出漁の模様をビデオに収めたい、初競りの様子を見学したい、あるいはさっそく買いたい、食いたいと港を訪れる観光客は、外国人と日本人とを問わずどこにもいるものでしょうけど・・。
 まあ、確かにちょっと違いますね。メッセージの入った横断幕を掲げていたりすれば。

 彼らのパフォーマンスの目的は明らか。
 「マスコミに絵を提供するため」です。
 そして、大勢のマスコミが押しかける理由も同様。
 その「絵≠提供してもらうため」。つまり、商売です。

 現状、反イルカ猟団体(有志含む)は、太地に足を運んだとしても、「マスコミに絵≠流してもらう」以外に打つ手がありません。
 海上保安庁と警察のこわ〜い人たちが見張ってますからね〜。ほんと、お仕事お疲れさまです。
 フェロー諸島ではSSCS(シーシェパード)がデンマーク軍・警察とすったもんだしていますが、日本で同様の事態が起こる心配はありません。もっとも過激な団体であるSSCS自身が、南極海での日本の調査捕鯨に対する妨害行動から撤退し、リソースを北欧に回すと表明しているからです。
 まあ、これまでもずっと、ウヨガキ君から鶴保氏ら捕鯨族議員まで、被害妄想の強いヒトたちが「なんで日本だけが!?」とすねて文句を言い続けてきたのですから、妥当な判断といえるでしょう。太地にはまだ人員を送っていますが、実際問題、監視以上のことをする態勢を整えてはいません。
 これで反反捕鯨派は「日本たたき」という非常に効果的だったキャッチフレーズを失ったことになったわけです。
 今の彼らのやり方は、SSCSも含め、問題が起こっている現場での非暴力直接行動という欧米の市民運動の最もオーソドックスな手法に則っているわけです。
 ですから、警察と海保の過剰な警備体制は単なる税金の無駄遣い以上のものではありません。目を光らせ続けてるおまわりさんたちは、議事堂周辺でデモ参加者をチェックする公安や辺野古の沖縄県警よりマシとはいえ、楽じゃないでしょうけどねぇ。いや、ほんと、お仕事お疲れサマです。。

 正攻法とはいっても、反対派がいくら太地町でパフォーマンスを繰り広げたところで、イルカ猟を止める力は何もありません。
 The Cove以来多くの市民がすでに知っていることをアピールする以上の成果は期待できないのです。
 太地のイルカ漁関係者は、ただのパフォーマンスを全無視してしまえます。ウザイというだけ。どの商売でも、商品を買ったうえで難癖を付けてくるクレーマー対策にかけるコストはバカになりませんが、そういう連中とは比較になりません。実質的に無害です。
 妨害がまったくないよそと異なり、太地では水産庁の大甘な捕獲枠の限度いっぱいまで、問題なくイルカ猟を遂行できているのが、その何よりの証拠。
 補助金審査の際に慢性的な在庫超過を指摘され、大赤字に陥っていた鯨研が、大減産の口実を作ってもらってSSCSサマサマ、足を向けて寝られないほど大恩があるのとは対照的。
 今年物議を醸した例の事件、WAZA(世界動物園水族館協会)に有効な圧力をかけたのはオーストラリアの少数精鋭NGO。スイスでの訴訟がきっかけでした。
 JAZA(日本動物園水族館協会)の方針転換という、間接的ながら小さな一歩を進められたのは、太地という現場での直接行動ではなかったのです。
 それさえ、JAZA加盟水族館が抜けて太地のイルカ生体バイヤーの比率が変わっただけで、表面上大きな変化はありません。太地漁協は財政的にノーダメージなわけです。例の牧場構想の名目等で国からの補助金も流れてますし。
 円安といっても、太地にメンバーを長期滞在させる費用はバカになりません。そんな金があったら、時間はかかっても着実に成果を挙げるために、交渉すべき、協力を仰ぐべき相手がいるはず……。
 そして、そのことは海外の保護団体側にも理解されるようになってきました。

■イルカ追い込み漁解禁「頼むから町の平穏を乱さないで」反捕鯨活動に不安いっぱい (9/5,産経)

町漁協などによると、例年より人数は少なく昨年の半分くらいという。(引用)

■クジラの町「警戒」…太地の追い込み漁初出漁、抗議宣言や反捕鯨家の姿も (9/3,産経)
http://www.sankei.com/west/news/150903/wst1509030042-n1.html

解禁日の1日以降、15〜20人のメンバーが太地町入りしているとみられるが、和歌山県警によると、昨年同時期の35人からは大幅に減少。町内に住む男性(67)は「イルカ入手をめぐる問題であれほど騒がれたのに、不気味なくらい穏やかだ」と話す。(引用)
 
■和歌山 太地町 イルカの追い込み漁始まる (9/3,NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150903/k10010214731000.html

この日は、捕獲に反対する環境保護団体などのメンバー、10人ほども姿を見せ、地元の警察が警戒に当たるなか、写真を撮ったり漁の様子を双眼鏡で監視したりしましたが、大きなトラブルはありませんでした。(引用)

 もし、気候変動や野生動物保護関連の国際会議場、あるいは紛争発生時の当該国大使館前でのNGO主催のデモ等で、参加者が10人、20人前後しか集まらなかったとしたら、普通はがっかり・しょんぼりするレベル。
 付け加えれば、ここ数年日本のNGO・市民が主体となったイルカ猟反対デモが都内や大手水族館前で行われているのですが、その参加者は日本人と在日・訪日外国人を合わせ、今年太地町でプラカードを掲げた外国人活動家の倍以上。カウンターの連中も相当な人数がデモを取り巻き嫌がらせを働きました。
 しかし、取り上げたメディアはジャパンタイムズのみ。
 今年の太地の浜辺は、日本のマスコミが「たいしたことない」と取り合わなかったいくつもの市民の抗議行動と比べても、明らかに閑散としていたのです。熱気などありはしなかったのです。

 ところで……NHK報道の「10人」で思い出すのは、沖縄での米軍基地辺野古移設に対する抗議デモを報じた産経記事。

■沖縄、盛り上がらない反対運動 県庁集結は約10人 ('13/12/27,産経)
http://www.sankei.com/politics/news/131227/plt1312270026-n1.html
■「沖縄、盛り上がらない反対運動、県庁集結は約10人」といいつつ、実際は・・・|Togetterまとめ
http://togetter.com/li/608151

 そういえば産経は、先月末の国会議事堂前大規模市民デモについても、一部の区画を切り取って数えたうえで「たったの3万人」と言わんばかりのニュアンスで報じていましたっけ・・。
 どうも、思いっきり過少見積したうえで、「10万人以上でなきゃ盛り上がってるなんて認めない」というのが、産経のポリシーのように見えますね・・。
 「沖縄10人」「国会前3万人」をあざ笑うかのような記事を書いた産経のこと、今回は「太地、盛り上がらないイルカ漁反対運動、浜に集結はたった10数人にがた減り」という見出しでも付けた?
 どうもそうではないみたいですね・・。
 上掲の記事タイトルを見ても、沖縄の基地移設反対デモや全国の安保関連法案反対デモとの扱いの差は一目瞭然。
 ともかく、太地を訪れる活動家は減少したわけです。他に効果的なやり方、取り組むべき対象が見つかったから。
 産経記事中に「あれほど騒がれたのに」というインタビューコメントがありますが、WAZA/JAZA問題が太地での直接行動(≠監視)に左右されずに一定の前進を見たからこそ、益のないパフォーマンスに無駄なエネルギーを注がなくなったわけです。太地が「穏やか」になるのは実に理にかなった話。

 しかし、客観的に見ても、まったく盛り上がってなどいなかったはずなのに、産経以外を含め今年の《イルカの季節》国内報道は例年にも増してヒートアップしていました。
 では、現実に盛り下がっていた太地町の騒動を「盛り上げた」犯人は、一体誰なのでしょう?

■9月1日恒例のパフォーマンス|太地町議会議員 漁野尚登のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522

 太地町の町民より日本のマスコミの方が何か非常に関心を持っているのではと首をかしげたくなる今日この頃である。
 日本のマスコミが騒がなければ静かな9月1日だったのではと思った次第です。 (引用)

 引用部分以外も必読。


私は太地に居て,活動家が何かしないかきょろきょろしてますが,見かけるのは,数名が歩き回っているくらい.ふつうに町内で生活していたら,なんら,“活動”は見ません(今のところ).町民の多くもそうです.ニュースで初めて,「あれまあ,こんなことよるわ」と知るわけですわ.(引用)


関西のテレビでは,かなりの時間を使ってイルカ追込み漁の“初日”を報じました.でもね.テレビクルーは活動家の“活動”について回る.だから,数分の“活動”をそれらしく撮影してもらえる.ニュースで見ると一日中,活発に活動が行われているように見えてしまう.これ報道?宣伝??(引用)

 ツイート主の関口氏は『イルカを食べちゃダメですか』の著書で知られる生物講師、ウォッチャーはご存知でしょう。イルカ猟賛成派ながら、公海調査捕鯨に関してはバランスの取れた意見もお持ちで、かなり希少なポジションにいるお方。

 そう……静かな町の平穏を破り、しょぼい抗議活動を大げさに騒ぎ立てた犯人は、日本のマスコミなのです。
 視聴率を稼げるを欲している商売人たち。
 ナショナリズムをくすぐるわかりやすい対立の構図──まさに格好の絵(ネタ)を提供してくれる太地WARSが盛り下がっちゃうと困るヒトたち

 最低限の監視の傍らで形式的に行っているにすぎない活動家らの抗議活動に意味を与えているのは、間違いなく日本のマスコミです。
 英ガーディアンやインディペンデントなど、日本の一地方のイルカ猟解禁を報じた海外メディアもありますが、彼らが使用した絵≠ヘ自国で行われたジャパンイルカデーデモの様子と過去の資料画像。
 「日本のマスコミが自分たちの活動を記録し、連日のようにTV新聞で報じている。この国で注目を浴びている」──その事実が、一部の支援者に対し実績をPRすることにもつながっているわけです。
 つまり、太地のイルカ猟関係者にとってのウザさを倍増させているのも、日本のマスコミにほかなりません。

 イルカ漁業者&反イルカ猟団体&マスコミ+ウヨ応援団による、お互いの思惑が完全にすれ違った《3すくみ状態》
 ここに安定したセイタイケイが出来上がっちゃっているわけです。
 東北大石井准教授が指摘するところの、反捕鯨団体と中央の捕鯨サークル(水産庁+鯨研+共同船舶)との逆予定調和関係の太地版。

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 え? もう1人の犯人、お騒がせ人物がいるじゃないかって?
 イルカ方面で両サイドから一目も二目も置かれる有名人、リック・オバリー氏のこと?
 確かに、彼は今回の立役者といえるでしょう。
 解禁の報とほぼ同時に、いくつかのメディアでは同一の記事内で、彼の名は大々的に報じられました。
 見出しはそろって「活動家逮捕」
 
 本当に彼は騒いだのでしょうか? 太地を、日本中を、騒がせたのでしょうか?
 御歳75歳にして、日本の優秀な警察と海保隊員から成る厳重な警戒網をかいくぐり、太地漁協が窮地に陥るような何かアクロバティックな非合法アクションでもやらかしたのでしょうか?
 ここまでに開陳した筆者の見立ては全部彼に覆された?
 半ばそういうのを期待してたヒトたちもいたかもしれませんね・・。でも、ハズレです。
 オバリー氏は日本でことさら評判の悪いSSCS(シーシェパード)とは一線を画し、船で体当たりするとか、実験施設を燃やすとか、そういう過激な妨害活動をするタイプの反対派ではありません。日本に対しては特別な配慮が必要だということも一応弁えていらっしゃいます・・。
 斜め方向からの訴訟にも関わったりしたようですが、要するに、少なくとも日本では正当な権利としての合法な活動≠オかしてないわけです。
 
■イルカ漁中止に向けて「対話」を 米活動家、アピール ('10/9/16,共同)
http://www.47news.jp/CN/201009/CN2010090601000628.html

日本のイルカ漁を批判的に描いた米映画「ザ・コーヴ」に出演したイルカ保護活動家リック・オバリーさんが6日、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見し、日本でのイルカ漁の中止に向けて「漁業者らと話し合っていきたい」と述べた。
オバリーさんは「自分は反日ではない」と強調。日本の捕鯨活動に反対し、世界各地で調査捕鯨船の妨害活動を行っている団体「シー・シェパード」との連携についても「逆効果だ」と否定した。(引用)

■リック・オバリー|ウィキペディア/『SPA!』2010年7月13日号 扶桑社「エッジな人々」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC

2010年に、「わざと逮捕されて悪法に注目を集める」目的(アメリカの市民運動に顕著である)で、イルカを捕らえた網を切る事もあるが、日本国内においては「単なる犯罪者」になってしまい、そういった効果が望めないので行わないとコメントしている(引用)

 そんなオバリー氏が一体なぜ逮捕される羽目に?
 彼の罪状は、パスポート不携帯(出入国管理及び難民法〜通称入管法違反)。

■パスポート不携帯容疑の反捕鯨活動家を釈放 (9/2,毎日放送)
http://www.mbs.jp/news/kansai/20150902/00000011.shtml

「僕が逮捕されたのは、パスポートをホテルの部屋に置いてきたからだ。そんな大したことかな」(オバリー氏)(引用)

 オバリー氏は「逃亡や証拠隠滅の恐れがないとして」(引用)翌朝までに釈放されました。これを報じたのは毎日放送のみ。

 さて・・旅券不携帯による入管法違反は、一体世間が騒ぐほどの一大事件なのでしょうか?
 以下の法務省の資料をご覧いただきましょう。

 ■平成26年における入管法違反事件について|法務省
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri09_00029.html
http://www.moj.go.jp/content/001138405.pdf

 入管法違反の検挙数は1年で1万件余。不法入国でも不法残留でもない、パスポート不携帯なんてまさに微罪。入管法第76条に基づき、罰金10万以下の刑。資料表中では「その他」にくくられてしまっています。
 罰金刑だけなら、日本で年間約30万人が罰金判決を受けています('13、道交法違反の反則金除く〜ウィキペディア)。1日当り百件近く。いちいち報道してたら、新聞の紙面もニュースの放送時間もそれだけで埋まっちゃいますね・・。

 自分が別格扱いを受けることまで見通したうえで、イルカ猟問題を訴えるためにパスポートをわざとホテルに置きっぱなしにし、狂信的な反反捕鯨監視活動家を利用してわざと警察に通報させた? んなアホな。
 そう……オバリー氏《が》騒いだのではなく、オバリー氏《で》騒いだのです。
 日本のマスコミの方が。
 まさしく言葉通りの逮捕劇=B

 ここで、ツイッターでの反応を拾ってみましょう。


過激派であるシーシェパードが逮捕されるんは、納得できる英語圏の一般人が多いのでもうニュースにはなりませんが、穏健派オバリーさんをパスポート不携帯の理由で拘束するのは、日本の政治的なイメージダウンにしかならないと思うんです…。ヘッドラインにならないうちに釈放されますように。(引用)


「ザ・コーヴ」の監督の逮捕、形式的には違法なのかもしれないが(旅行者に常に旅券の携帯を求めるという法律自体問題で、提示を求められたら近隣の警察署で二日以内に示す、といった条文が妥当だと思う)、諸外国に対しては日本の市民的自由について、むしろネガティヴな印象を与えると思う。(引用。注:監督については出演者の誤認)

 MunroさんはNZ在住で両国の事情にお詳しい日本人の方。
 そして、脳科学者の茂木健一郎氏については説明は要りませんよね。

 ところが……オバリー氏と、一言私見をツイッただけの茂木氏に噛み付いた人物がいました。
 おなじみ産経記者・佐々木正明氏
 彼こそは、オバリー氏《で》最も騒いだ人物。
 すなわち、今年いくぶん戻った太地町の静けさを破り、騒動を無闇やたらに拡大した張本人。

■太地町イルカ問題 静岡・伊東市長をだまし、交通事故起こした大物活動家 追い込み漁めぐる不毛な闘い 今後も続く (9/4,WEDGE)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5330

 スペシャリストである勝川氏や片野氏の漁業問題記事、共同通信記者で日本の環境ジャーナリスト第一人者・井田氏の水族館問題記事、鈴木氏のウナギ業界の闇特集、そして外務官僚として捕鯨交渉にもあたった谷口氏の本音。
 捕鯨を含む漁業に関わる分野で数々の良記事を提供してきたウェッジですが、そのグレードを台無しにしているのが漁業問題にも環境問題にも疎いただの反捕鯨運動監視マニア・佐々木氏。
 産経の記事は写真撮影以外無署名ですが、ウェッジ記事は字数だけでも3倍は超えてそう。
 それだけのボリュームがありながら、中身はボロボロのグダグダ・・・。
 これでよく新聞記者がやっていけるものだと、正直開いた口が塞がりません。
 のみならず、この記事にはいかにも産経記者らしい佐々木氏の内面が如実に現れています。
 日本人としての過剰な自尊心と、外国人に対する前時代的な偏見。そのダブスタに自覚がない無神経さと国際感覚のなさ。
 悪質な嘘と、それを自らに認める歪んだ心理。

 一ウヨ新聞記者の資質だの何のには別に興味ない? そりゃ筆者も同感。
 そうは言っても、彼がオバリー氏やSSCS元代表ポール・ワトソン氏ら特定の個人を公に貶めた以上、その責任は取らせるべきでしょう。大手新聞記者で売れっ子(?)SSCS本の著者という副業も持つ公的な立場の人物なのですから。
 それに、これは彼自身が多くの記事中で表現している、「ビジネスモデル」「利権」にも関わることです。佐々木氏自身の
 以下、詳細にチェックしていきましょう。(褐色反転部分引用)

 それにしても、序文から日本語がメタメタですねぇ。
 冒頭の段落の構成は、A「オバリー氏はドジで嘘つき」 B「オバリー氏は太地の敵」 C「オバリー氏は自分が亀裂のもとだと気づいてる?」 の三段構えですが、読めばわかるとおり三段論法になっていません。言いたいと思ったことを無理やりつなげただけで、まるで国語のできない小学生の作文。時間がないのに長文の記事を書こうとして破綻したのが見え見え。

 飲酒運転の末、旅券不携帯で摘発され

 ??? なぜそんなことが起こり得るのでしょう?
 飲酒運転したのなら、「飲酒運転で摘発」されるはず。日本で検問ないし事故により発覚しながら逮捕できない飲酒運転(酒気帯び運転と、酒酔い運転)は、それが日本人であれ、オバリー氏という特定の人物であれ、彼以外の外国人であれ、存在しません。オバリー氏は飲酒運転をしていないわけです。佐々木氏がこの後しきりに繰り返す記事中の第一の嘘。

 翌々日には懲りずに車を運転し

 ??? さて・・飲酒検問に遭ったけど、基準値以下でパスした日本人の自動車運転手の皆さん。翌々日に運転するのを控えますか?
 ま、仮にちょびっと酒を嗜んで冷や汗をかいた方がいれば(実態としては決して少なくないはずですが)、飲むのは控えるでしょうけどねぇ。

 昨今の水族館イルカ問題でも主要なプレイヤーとなった。

 彼がおそろしく不勉強な人間か、あるいは国語力ゼロの人間か、いずれかであることを象徴する一文。まともな新聞記者が書く文章じゃありませんな。
 事実としては、オバリー氏は水族館におけるイルカ飼育展示問題に長年取り組んできた主要人物の一人ですから、「昨今」を使う意味が不明。
 もし、直近に起きたWAZAによるJAZA除名/復帰問題を指すのであれば、そう明記するのがスジ。ただし、オバリー氏は直接のきっかけを作ったオーストラリア・フォー・ドルフィンズのサラ・ルーカス氏と協力関係にあるものの、WAZA/JAZA問題における主要プレイヤーとまではいえません。「プレイヤー」はWAZA・JAZA・AFD・日本の3NGO。太地すらプレイヤーではありませんでした。

 オバリー氏の言動は、太地町の漁師らが生活の糧としてきた営みを貶め、彼らの誇りや尊厳を傷つけている。

 具体的にどの言動か、記事を通して一切言及がありません。名誉毀損で裁判になるほどでなければ、たいしたもんじゃないでしょうが。
 どの程度「生活の糧としてきた営み」なのか、「利権」「ビジネスモデル」としての要素はないのか、「生活の糧」であれば一切の批判は許されないのか、はたして日本はすべての国民に「生活の糧」を完全に保障している国なのか。
 佐々木氏は大手新聞に籍を置くジャーナリストとして、公正な視点で論争の背景を分析する作業を何一つしてはいません。これは純粋に彼個人の主観のみで書かれた文章。
 日本の各NGOも、オバリー氏らも、そして筆者も、太地のイルカ猟にどれほど多くの問題点があるか、口酸っぱく唱えてきました。
 一言で言うなら、太地のイルカ猟は貶められても仕方がない程度の、とてつもなく浅い代物です。伝統を語るのは、伝統という言葉に対して失礼なほど。
 言い換えれば、誇りや尊厳を傷つけているのは彼ら自身に他なりません。
 佐々木氏は、それらの批判に対して応えた試しがありません。アプリオリに、太地のイルカ猟は批判の余地のない善≠セと決め付けているだけ。 

 オバリー氏は自らが招く摩擦が、日本社会とイルカ保護運動全体に大きな亀裂を起こしていることを把握しているのだろうか?

 摩擦とはお互いのすれ違い、思惑違いによって発生するもの。例えば、貿易摩擦が起こるのは、輸出する側と輸入する側との間に思惑のズレがあるから。
 イルカをめぐる摩擦があるとすれば、国連海洋法に基づき国際管理を求める世界と、それを拒む日本との摩擦。
 国際社会における摩擦を誰か単独の個人の所為にすれば済むと考えるほど、ノーテンキな思考の持ち主がいるでしょうか?
 亀裂の対象も不明。日本社会と保護運動のそれぞれに亀裂が生じているのか、その2つの勢力の間に亀裂が生じているのか、判然としない文章ですね。
 イルカに限らず、市民運動は常に多様であり、NGO・活動家個人によって戦術や理念の違いをめぐる軋轢が生じる場合もありますが、オバリー氏がいようがいまいが、そこに違いはありません。
 日本社会にも、例えば産経と親和性の高いウヨウヨ層と、それ以外との間に深刻な亀裂がある、という見方も可能でしょう。
 しかし、オバリー氏であれ誰であれ、個人がいなくなれば社会の亀裂がなくなるとは誰も言いますまい。それが強大な権力を手にした独裁者でもない限り。
 では、二者の間で価値観の違いに基づく亀裂が生じた場合、どのように対処すべきでしょうか?
 その答えは、お互いの相違点を検証し、着地点を見出す努力をする以外にないでしょう。それこそが国際社会における外交の本質のはずです。
 価値観を押し付け合うだけでは、亀裂の解消にはつながらないのです。
 太地は誠実にそれをやりませんでした。
 ラディカルで原理主義的な保護派といえるSSCSやオバリー氏も。
 そして、彼らと対極にある、佐々木氏に代表される太地イルカ猟性善主義者も。
 両者がいがみ合うからこそ、亀裂が生じるのです。
 佐々木氏の記事は、オバリー氏の素行に関する部分以外、自己の主張を全肯定し、相手側の主張を一方的に否定するだけの内容です。
 対立の輪の外側から事象をながめる記述者というより、彼自身が対立し、摩擦を生む当事者になりきっているのです。少なくとも、オバリー氏と同じくらいには。
 自らが招く摩擦が、日本社会に大きな亀裂を起こしていることを、佐々木記者は把握しているのでしょうか?

 世界のイルカ保護活動家にとって、悪名高き「聖地」になった。

 壊れた日本語ですね・・。
 太地が保護活動家の聖地≠ナあるはずがないでしょうに。太地を聖地扱いしているのは、佐々木氏と同レベルの狂信的な太地教信者たち。

 同市富戸漁港はかつてイルカ漁を行っていたが、国内外からの批判が高まり、イルカを殺す漁をやめ、イルカを愛でるウォッチングビジネスを始めた。

 佐々木氏は西伊豆地方のイルカ猟が乱獲によってほぼ自滅した歴史的経緯すら知らないほど、イルカ猟問題に関する基礎知識がゼロのニンゲンなのです。あるいは、知っていて悪質なごまかしを行ったか。前者でしょうけど・・。
 これは公平な文章じゃありませんね。「イルカ肉を愛でるイルカ猟ビジネスをやめ」と書くか、単に「イルカウォッチングをはじめた」と書くべき。ま、まともな記者なら後者でしょうが。
 非持続的な致死的利用から脱皮し、持続的なウォッチングに切り替えた富戸のみならず、同じ選択をした七尾に対しても、きわめて失礼な話。
 それらの自治体のウォッチング関係者は、少なくとも公社組織を巧みに利用して粗利をがっぽり稼ぐ太地ほどえげつない商売はしていませんよ。

 佃市長は相当に脇が甘かった。オバリー氏の言われなき非難に悩んできた太地町の住民だけでなく、永田町や霞ヶ関の関係者にも多大なる不信感を抱かせた。どんなに弁明してもオバリー氏を市役所に招き入れ、記念写真を撮影したことは明かな事実だからだ。少し調べれば、オバリー氏がこれまでも何度も騒動を引き起こしてきた「要注意人物」(治安関係者)であることがわかったはずだ。

 まあ、親善大使の件は完全にオバリー氏のチョンボですね。FB公開して市長にも泉氏にも迷惑をかけたのはオバリー氏の責任であり、彼は謝罪するのがスジ。
 聞き違い、勘違い、通訳の訳し違い、思い違い、強度の願望の反映、いろいろ理由は考えられるでしょうが・・。
 伊東市長も、「親善大使とまでは呼べないな。そんなになりたきゃ、うちに訪れてカネを落とす外国人観光客を3倍に増やしてくれよ」とか、ウィットに富んだ返事で返してくれればまだよかったのだけど・・
 しかし、そもそも親善大使はイベントを仕事にする象徴的な役職で、通常ボランティアで給料もなし。何か自治体の権限を委譲するわけでもなく、大げさに捉えること自体バカげています。
 いずれにしても、佐々木氏のチョンボで相殺です。
 国語的には「言われなき:× 謂れなき:○」。
 オバリー氏個人の主張が全部正しいかどうかは議論があっていいでしょうが、太地のイルカ猟は非難されて当然のもの。ただし、対象は「住民」ではありませんが。
 そして、何より伊東市は太地のイルカ猟と無関係。太地町のイルカ猟関係者や、永田町の族議員や霞ヶ関の「ミンク刺身美味い」と言ってばかりの腐れ官僚連中に、なぜ異常なまでに気を遣う必要があるのでしょうか?
 いつから太地町は伊東市の上位の行政区分になったのでしょうか?
 形式ですませて枠を消化せず、自然を賢く持続的に活かしている伊東市の流儀を見習うというのであれば、耳を貸すのもやぶさかではないでしょうけど。
 そして、「市役所に入れてはいけない」「記念写真を撮影してはいけない」理由≠ニは一体なんでしょうか?
 まるで、「刺青をした人間は銭湯に入っちゃいけない」とか、「外国人お断り」の飲食店やサッカー場の話みたいですね・・。
 佐々木氏の答えは「要注意人物」だから。
 では、彼ないし「治安関係者」なる所属も不明な人物の言う「要注意人物」とは、どういう人物を指すのでしょうか?
 オバリー氏は(少なくとも日本では)犯罪者ではありません。伊東市を訪問した後で旅券を置き忘れるという微罪を犯しましたが。
 日本人だったら、どのみちその程度の微罪の前科で市役所への出入禁止になどならないはず。微罪とはいえない前科があってさえ、禊をすませれば議員になれちゃうんですし・・。
 ICPOを通じて国際指名手配されているわけでもなし。
 騒動? 最近で言うならデザイナーの佐野氏とか研究者の小保方氏とか? パクリ騒動なら佐々木氏本人だってやらかしてるのにね・・(後述)。
 裁判を起こすのに協力した? デモ等の示威行動? フェイスブックや記者会見での意見表明?  
 それはただの市民の自由≠ナす。思想・良心の自由です。
 つまり、それこそ産経佐々木記者、永田町の国会議員や霞ヶ関の官僚、治安関係者とやらが「市役所に入れるべからず」「記念写真を撮影するべからず」と唱える理由なのです。
 端的に言い換えれば、思想・信条による差別です。
 オバリー氏は思想・信条を理由に「危険な人物」としてマークされました。
 そして、佐々木氏らは何の権限もないにもかかわらず、「思想・信条の異なる外国人に胸襟を開きやがって」と、自治体首長に食ってかかったわけです。「脇が甘い」と。
 およそ差別に無頓着な意見を平気で記事に書いてしまう、そこまで脇の甘すぎるジャーナリストなのです、産経佐々木氏は。
 職員にセクハラを働いたり、談合業者と酒席に興じたり、政治的・差別的発言を平気でポロッと口にしてしまう、およそ自治体のトップに向かないタイプの人物は、全国の地方自治体に数多くいました。
 そういや、「女子にコサイン教えて何になる」だの、「脇が甘い」の一言ではすまない、化石的な女性蔑視・差別感覚の持ち主の知事さんもいらっしゃいましたっけ・・
 佐々木氏の目には、それらの問題首長より、伊東市長の「脇の甘さ」の方がずっと許せない罪と映ったのでしょう。
 霞ヶ関・永田町の捕鯨・イルカ猟関係者、佐々木氏と懇ろにして情報提供に余念のない治安関係者も同じく。

 問題はオバリー氏サイドが情報の削除には応じたものの、なぜ削除したかの説明責任や混乱を引き起こした謝罪を一切していないことだ。この騒動は表面上まるでなかったかのようになっている。

 自分のことを棚に上げて、よくまるで何もなかったかのようにこんなことが言えるものです。その時点で、佐々木氏は紛れもなくオバリー氏未満。
 さて・・ここで過去記事をご覧いただくことにしましょうか。

■大手新聞社外信部記者でも誤訳をするのだ|ドイツ語好きの化学者のメモ
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/62734352.html
■パクリ捕鯨擁護記者サンケイ佐々木氏(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/34692147.html
■捕鯨擁護記者のビックリ仰天パクリ記事(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/34841650.html

 佐々木氏はパクリ元の市民ブロガーの方にひたすらゴマを摩りはしたものの、説明責任や混乱を引き起こした謝罪を一切せず、ネトウヨたちが拡散した誤情報に対しても、「積極的に火消し」なんか一切しませんでした。
 彼とシンパは伊東市に対して英語での説明まで要求していますが、そんな資格はありやしません。
 彼の勤務先の産経も、ずさんなガセネタ記事を枚挙の暇がないほど乱発しながら、謝るほどの必要のなかった朝日吉田調書報道と異なり、訂正・謝罪・検証を一切せずシラを切り通す新聞であることは、まとめサイトをチェックしてる皆さんはとっくにご承知のとおり。
 上掲した「沖縄、盛り上がらない反対運動 県庁集結は約10人」という2桁も鯖読んだデタラメな記事をはじめ。
 以下もその一例。

■産経「鯨肉生産は牛肉よりエコ」はデマだった(旧JANJAN記事)
http://www.kkneko.com/sankeidema.htm

 イルカ漁問題はこれまでもこうして、オバリー氏のような活動家が横のものを縦にするような虚偽の情報を流布し、その情報を海外の人々が正しい情報として受け入れ、漁師に対する非難のボルテージを上げるという負のサイクルが続いてきた。支持者はカリスマが物事を歪めて伝える情報に、煽動された。

 事実を言えば、「イルカ猟問題はこれまでもこうして=A佐々木氏のような御用ジャーナリストが横のものを縦にするような情報を流布し、その情報を国内の人々が正しい情報として受け入れ、太地イルカ漁業者に対する崇拝のボルテージを上げるという負のサイクルが続いてきた」わけです。
 数字の上ではオバリー氏ほどではありませんし、産経外信部記者という肩書きがあってここまで乗った数ともいえるでしょうが、フォロワーや記事のツイート数、RT数などを見る限り、彼を立派な反反捕鯨カリスマにして煽動家と呼んでも差し支えないでしょう。
 彼の横縦虚偽情報はまだまだ続きますが……。

 前日の夜、オバリー氏は自らレンタカーを運転して、那智勝浦町内の居酒屋に1人で出かけた。翌日のパフォーマンスのための景気づけだったのだろう。ビールを飲んで食事をして、2軒目の中華料理屋にも出向いた。そうして、ほろ酔い気分でホテルへ帰ろうとした。ところがその様子を見ていた地元民がいた。『オバリー氏が酒を飲んで、車を運転している』。この情報を和歌山県警新宮署に通報した。(中略)通報を受けた新宮署の警察官はオバリー氏に職務質問した。すぐに呼気検査を実施した。だが、摘発するレベルのアルコール分は検出されなかった。

 奇妙な記述に、いくつもの疑問が沸き上がります(日本語のメタメタぶり以外で・・)。
 警察がすぐに呼気検査を実施したにも関わらず、摘発するレベルのアルコールは検出されませんでした。
 明白な事実として、彼は飲酒運転も酒気帯び運転もしていないわけです。
 少なくとも、検問に引っかかったものの結果として飲酒運転に該当しないですんできたすべての日本人と同じく
 可能性としては、飲酒運転に該当しないくらいの、嗜む程度のごくわずかな飲酒量だったか。
 あるいは、実際には飲んでいなかったにもかかわらず、「不審な外国人」に対する偏見に満ち満ちた地元民なる人物に通報されたか。後述するとおり、日本では十分ありえること。また、店主がまともなら、酒を飲ませなかった可能性も十分あるわけです(これも後述)。
 もう一点、日本の交通法規制におけるきわめて重大な問題を、佐々木氏は華麗(?)にスルーしました。陰湿な故意か、無知か、いずれかの理由で。
 飲酒運転は、幼子の命を奪う悪質な事故等で厳罰を求める声が高まったことから'07年に道交法が改正され、運転者を幇助した酒類提供者にも懲役を含む厳しい罰が課せられることになりました。 
 彼が飲酒運転認定された時点で、記事中の那智勝浦町の居酒屋及び(そっちでも飲んでいれば)2軒目の中華料理屋は有罪。
 1人で、車で訪れたことが明らかであるにもかかわらず、酒を勧めた以上。あくまでも、オバリー氏が飲酒運転の罪で問われるのであれば、ですが。
 日本語が片言しかできない相手であれば、店主はなおさら強く固辞すべきでした。銭湯に入りたい刺青のおっさんや、博物館にプラカード持って入りたいねえちゃん以上に、入店・給仕をつっぱねる道理があったはず。
 問われるのはむしろ、南紀地方の居酒屋の遵法精神といえるでしょう。もし、飲酒運転に寛容な雰囲気が残っているのであれば、地域住民は強く憂慮すべきであり、ジャーナリストはそれを大きく取り上げるだけの理由があるはずです。
 オバリー氏のことを知っていて、そ知らぬふりしてわざと飲ませたというのなら、話はまったく違ってきますけど……。
 さて、はたして佐々木氏は、悪意をもって重要な法的事実を端折った記事を書いたのでしょうか? それとも無知だったのでしょうか? どうも後者にしか見えないんですけどねぇ・・。
 昔の新人新聞記者は交通事故なんかの取材対応等を任せられ、警察に張り付いて鍛え上げられたものだと聞きましたが、佐々木氏にはそうした経験はなかったのでしょうか……。
 さらに、法的に責任はなくても、彼が酒を飲んで車を運転するのを防ぐことのできた可能性のある人物が別にいます。
 警察に通報した人物が、仮に外国人に対する偏見の固まりで、居酒屋から外人の運転する車が発進するのを見ただけで、早合点して通報したのであれば、そこまで求めるのは酷かもしれません。
 しかし、オバリー氏が居酒屋でビールを注文するところを観察し、その飲酒量までチェックし、梯子して中華料理屋に行くまで、執拗に尾行したうえで、警察に通報したのであれば、話は違ってきます。
 なぜ、この通報者は、わざわざ彼が酒を飲んだのを確認し、車を運転するのを待ってから通報し、事故のリスクを放置したのでしょうか? 
 店に居合わせた時点で、「飲んだら乗るな! 乗るなら飲むな!」とビシッと注意すべきだったでしょう。店主に対しても「こいつ車で来てるからビール出すなよ。捕まりたいのか!?」と指摘することはできたはず。
 一連の経緯を見る限り、この通報者に常識的な良心が備わっていたのか、疑問に思えてきます。
 この通報者は、外国人は飲酒運転するものだと決めつける人種的偏見の持ち主か、あるいはオバリー氏をストーカーしていた狂信的な反反捕鯨活動家か、そのどちらかにしか見えません。
 記事中で地元民とありますが、比較的若い活動家レベルの応援団の移住者は実際にいるわけですから、彼らを指して「住民」と呼ぶことも十分可能なわけです。
 公平を期せば、彼らを反反捕鯨活動家と呼ばないなら、オバリー氏らも訪日外国人という一般的呼称で済ませるべきですが。

 治安が悪化している国ではこの時点で不審人物と判断され、署に連行されるケースも多いだろう。しかしここは日本だ。

 「日本は治安がよい国」という先入観と、他の国と相対化することでそれを強調したいという思いにあふれた、事実にウヨ記者らしい文章ですね。
 ですが、これもまた事実と違ったりするわけです。

■パスポート不携帯の罰金にご注意(日本編)|中国ビジネス コンサルタント
http://kinnohashi.seesaa.net/article/167741999.html
■パスポート不携帯の罰金にご注意(日中比較編)|〃
http://kinnohashi.seesaa.net/article/167851629.html
■日本人のあなたが外国人として逮捕される日。|ヤフーニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nishantha/20140818-00038350/
■「外国人風外見」をしているだけで即逮捕!?──入管法改正でいっそう強まる外国人のアパルトヘイト化|いったい地球はどうなってんの?カルロス小林の妄語録
http://www.seikyou.ne.jp/mt/mt4i.cgi?id=18&cat=198&mode=individual&no=35&eid=787

 上2つは、外国人登録管理制度と合わせ、外国人に対する差別的制度という点で中国よりひどいという指摘。
 3番目は、日本国籍を持つ在日外国人の方が、オバリー氏と同じ旅券不携帯容疑で誤認逮捕された事件について。論者はスリランカ出身で社会学者兼タレントとして活躍している にしゃんた氏。「不審な外国人」として第三者が通報した経緯も、オバリー氏の一件と酷似しています。
 4番目も、警官自身が外見で判断した同罪の誤認逮捕について。この国に外国人に対する露骨な偏見が存在することを浮き彫りにした事件でした。
 佐々木記者は必読。ついでに、論者らの爪の垢を煎じて飲むべきでしょう。
 筆者の知り合いの外国人も、訪日して街を歩いているとやたら職質に遭う差別待遇をぼやいてましたが、にしゃんた氏の認識は日本を訪れたことのある外国人の間で幅広く共有されています。
 つまり、事実を言えば「ここは日本」それ故に「(罪がなくてさえ)不審人物と判断され、署に連行され」ちゃったりするのです
 ここにも佐々木氏の国際事情に関する圧倒的な疎さが露呈しています。外信部のくせに。

 警察官はオバリー氏に、ホテルにいったん戻って旅券や運転免許証を取ってくるようやんわりと促した。ところが、オバリー氏はこの提案を拒否した。頑な態度をふまえ、新宮署は厳格に法を執行することを決めた。

 さて、この記述を読んで、あなたは「日本の警察はなんて素晴らしいんだろう」と称えますか?
 では、以下の引用に目を通してみてください(リンク先はすぐ上掲3番目)。
 
午後7時40分ごろ、川口市内の路上を歩いていた女性にパトロール中の署員3人が職務質問。署員は女性の容姿が東南アジア出身者に似ており、名前や国籍を尋ねたところ、小さな声で「日本人です」と言ったきり何も話さなくなったため、署に任意同行した。女性は署でも日本語の質問に対し無言を通したため、同署は「外国人」と判断。パスポートの不所持を確かめて同容疑で逮捕した。
女性は逮捕後に家族の名前を紙に書き、母親に確認すると娘と分かって誤認逮捕が判明した。母親は「娘は知らない人とは話をしない性格」と話していたという。(引用)

 尋問に対して黙秘で通すのは、本来市民に認められた権利でもあるはず。
 しかし、警察が恣意的に運用することで、こうした誤認逮捕のような悲劇が現に起こっているわけです。
 これでも日本の警察が人情的だなんていえますか?
 ちなみに、筆者もデモやなんやで警察ともめたことは何度かありますが、大抵の警察官は高圧的で、慇懃な言葉を使いはするものの、「やんわりと」促された試しがありません。
 オバリー氏だけ丁重に扱ったのだとすれば、むしろダブスタにしか見えないんですけどね〜。

 警察幹部は「オバリー氏には遵法精神がみられない」と語った。

 おやおや・・毎日放送によれば、「逃亡や証拠隠滅の恐れがないとして」(引用)釈放されていますよ?
 本当に遵法精神が見られないのであれば、簡単に釈放などしないでしょうに。
 この新宮署の警察幹部たる人物、上掲の知らない人と話せない性格だったため無実で逮捕された女性を尋問したら、きっと「こいつには遵法精神がみられない」と思っちゃうタイプでしょうね・・。
 以下は同じく中国ビジネスコンサルタントからの引用。
 
ちなみに日本人であっても、車の運転の場合、運転免許証の携帯を義務化されていますが、もしそれを忘れた場合、3,000円の罰金が科され、行政処分で済みます。外国人の場合も、せめて、同等に処理するべきでしょう。(引用)

 旅券や免許の不携帯に限らず、10万以下の罰金相当の罪を犯す日本人は年間30万人以上いるわけです。
 この新宮署の警察幹部氏は、彼らを全部遵法精神が見られない要注意人物としてマークすべきだと考えているのでしょうか? そんなことしてたら、日本の検挙率ますます下がっちゃうよね・・。
 うっかり言ってしまったにしろ、佐々木氏に乗せられてしゃべっちゃったにしろ、(とりわけ外国人の)人権を尊重していないことを示す点で、警察署の幹部としては迂闊すぎる発言です。

 茂木氏はさらに「京都を歩いている家族連れの外国人旅行者が、旅券不携帯で逮捕されることはないでしょう」ともつぶやき、和歌山県警の姿勢を暗に非難した。
 しかし、交通事故が多発し、飲酒運転には厳格な取り締り規制を敷いている日本で、運転免許証も持たずに居酒屋に行き、酒を飲んで帰りも平気で車を運転している人がいるのであれば摘発するのは当然ではないか。この時のオバリー氏の態度は、「京都を歩いている家族連れの外国人旅行家」とは違うのである。

さて、続く章で佐々木氏は、例の茂木氏のツイートをわざわざ画像まで添付して紹介しています。
 読めばわかるとおり、茂木氏の指摘は日本の入管法の問題点について。上掲したにしゃんた氏らの主張にも重なります。
 それに対する佐々木氏の反論ですが、入管法には一切触れていません。オバリー氏の特別視を正当化した理由は「飲酒運転」。
 悪質な論旨のすり替えですが、それにしてもあまりにも稚拙すぎて話になりません。
 上で詳細に述べたとおり、オバリー氏は飲酒運転をしていないのです。これは警察がはっきりと認めた事実。オバリー氏と同じ状況に遭った日本人に対して、飲酒運転をしたと言えないように。
 飲酒運転の嫌疑(シロだった)と、旅券不携帯は、法律上一切何の関係もありません。つまり、これは典型的な別件逮捕
 繰り返しますが、茂木氏は入管法の問題点を指摘したのです。京都観光に来た家族連れも、うっかりで、あるいは日本のホテル従業員に絶大な信頼を置いて、パスポートを旅館に置いてきてしまう可能性は十分にありえるのですから。
 しかし、佐々木氏は「態度」こそが問題だと強調しているわけです。日本の司法は、態度によって違法か合法かが変わるものなのだ、と。
 もし、たかが「態度の違い」で法的な取り扱いにあからさまな差が出るとすれば、日本は警察が特権を振り回す監視社会であり、もはや法の下の平等を重んじる先進国とは到底呼べないでしょう。
 茂木氏も指摘したとおり、実際にそういう側面を持つが故に、日本の司法運用の恣意性が問われているわけですが。
 法の下の平等について、とくにマスコミの取り上げ方について、別の事例を挙げましょう。

■山形の41歳消防士長、酒気帯び運転で逮捕
http://www.hochi.co.jp/topics/20150905-OHT1T50067.html
■信号無視で当て逃げ、運転者は飲酒運転の警官
http://response.jp/article/2015/09/02/259191.html
■酒気帯び運転:テレビ岩手社員を逮捕
http://mainichi.jp/select/news/20150906k0000m040046000c.html

 さて、これらはここ数日の間に起こった本物の(オバリー氏と違って!)飲酒・酒気帯び運転の逮捕報道です。ほぼすべてのマスコミからたたかれたオバリー氏の一件より大きくは報道されなかったようですが。
 「酒を飲んで帰りも平気で車を運転し、摘発されて当然」のヒトたち。
 飲酒運転とそれによる事故の問題に関心のある方なら、基準に達しなかった無数の事例に相当する違反していない運転者よりも、警察が飲酒運転と事実認定した飲酒運転者の摘発事例に目が行くはずでしょう。
 ジャーナリストであれば、本来なら取り締まる立場にあり、市民に手本を示すはずの公職の逮捕者、ないし同業者の逮捕に、より一層着目するでしょう。
 ところが佐々木記者は、同業者であるテレビ岩手社員や、記事中でさんざん持ち上げている警官による飲酒運転は取り上げなくても、嫌疑をかけられたものの実際には該当しなかったオバリー氏の飲酒運転だけは、どうしても見過ごせないと言っているわけです。

 次の章では、オバリー氏一個人に対する佐々木氏の異常な執着がさらにエスカレートします。

 オバリー氏は懲りずに自分でレンタカーを運転した。波止場内の駐車場に車を止めようとした際、段差があることに気付かずに、そのまま前へ突っ込み、タイヤが段差に乗り出して、運転不能になった。
 オバリー氏は、警察署から釈放された翌日の9月2日朝、太地町で自損事故を起こした(地元住民提供)
 自損事故。オバリー氏はつい数時間前まで滞在した警察に通報した。当時、周りに車や歩行者がいなかったことが幸いした。本人にも他の人にもケガはなかったが、一歩間違えば、大けがを負う危険性もあった。

 さて・・ジャーナリストとして基本の下調べもできない佐々木記者に変わって、実情をお目にかけましょうか。
 以下は損害保険協会の資料。P6の図8のグラフをご参照。

■自動車保険データにみる交通事故の実態―提言と主な対策― 2009 年4 月〜 2010 年3 月|日本損害保険協会
http://www.sonpo.or.jp/archive/report/traffic/pdf/0033/book_jikojittai2011.pdf

 車両単独事故(構築物衝突及び横転・転落)、いわゆる自損事故の年間発生件数は全国で約250万件1日1万件弱です。
 少し前のデータですが、グラフの増加傾向と高齢者人口の更なる増加を考えれば、今ではもっと多いと予想できるでしょう。
 まあでも・・言わなくたってみんな知ってることだよね。
 日本全国で、毎日のように、このレベルの事故は起きています。まさに日常茶飯事
 筆者もつい先日、自然観察会の帰りにバンパーがへしゃげて路肩で停止し、レッカーを待っている自損事故の車の横を通り過ぎましたけどね。
 オバリー氏の場合、駐車場での車庫入れ時という最も一般的なケース(微妙ですが構築物衝突に該当するでしょう)。人口の少ない地方の町村の波止場で、自分が海に落ちる以外のリスクはきわめて小さかったといえるでしょう。バックを指示する人がいれば、事故自体起こらなかったでしょうけど。
 都市部のコンビニでアクセルとブレーキを踏み違えるとかでなくてよかったですね。
 実際に、そういう死傷事故が毎年何軒も起きているのですから。
 しかも、オバリー氏と同年代の高齢者による事故が急増していることも、資料のみならず、一般の方々が知識として持っているはず。
 米国在住のオバリー氏のケースについていえば、自国に比べ道路も車庫の間隔も狭い日本の道路事情は小さくないでしょう。これはどの外国人でも言えることですが。
 そして、一日前に拘置所で一晩拘禁された疲労とストレスも考慮の余地はあるでしょう。
 自分の運転技術に自信があり、なおかつ他者への共感能力の希薄な方の中には、自損事故を起こした方すべてに対し、「未熟で反射神経の鈍いやつだ。こんな奴にはハンドルを握らせない方がいい」と嘲笑の感情を持つだけの御仁もいるかもしれません。
 新聞・Webメディアで、公然と攻撃するのは、産経佐々木記者くらいのものでしょうけど。
 ただ・・そういう御仁に限って、自分が高齢者になってから運転技術の低下に気づかず事故を引き起こしてしまう可能性が高いともいわれています・・。
 一体、太地町には、自損事故を起こしてはならないというムラの掟でも存在するのでしょうか? 自損事故を起こした人は町へ入ることすら認めず排撃する、そういう町なのでしょうか?
 もしそうだとすれば、太地町以外のすべての市町村に住む住人は引くでしょう。
 いや・・そんなことを思っている狂人は太地町にだっていないはず。どこの町とも変わらない普通の日本人(と在日外国人)が住んでいる町のはずです。
 違うのですか?
 高齢者の交通事故についての問題提起であれば、オバリー氏の固有名詞を出す必要性はまったくありません。筆者自身、もっともなことだと思います。
 しかし、佐々木氏の記事の場合、飲酒運転云々と同様、自損事故に関する一連の記述も、オバリー氏に対するただの個人攻撃にしかなっていません。

現場で事故処理が行われ、レンタカーはレッカー車で運ばれた。何事かと周囲に人が集まりだし、オバリー氏はピースポーズを示して住民におどけて見せた。

 まあどうでもいい部類に入るのですが、カメラを向けられるとつい自然にピースサインを出しちゃうのって、日本人アルアルですよね・・。
 オバリー氏は日本の文化に合わせてくれたんじゃないですか?
 もうひとつの可能性として、カメラを向けた人物が、「ピース」とかサインを出すジェスチャーをするとかしませんでした? 狂信的な反反捕鯨応援団ならいかにもやりそうなことだと思いますけど・・。 
 まあ、逮捕されて日本の狭苦しい拘置所に閉じ込められたり、事故ったり、彼もツイてませんでしたからね。
 そういうときって、人間は自分を励ます意味も含め、ちょっとおどけた仕草をしてみせることはよくあるものです。ヒトという動物の自然な感情。
 ところで、佐々木記者は以前、東北大震災のときに地元の日本人が訪れていたSSCSの監視団に救いの手を差し伸べたことをことさらに訴えていましたが、同様の記述がないところを見ると、今回「集まった人」冷たい野次馬だけだったみたいですね。
 無論、太地町民がみんなそうだとは言ってませんよ。ていうか、「集まった人」とやらも、反反捕鯨監視団のメンバーばっかりだったという臭いがプンプンするんですけど・・。
 他人の衆人環視にさらされるストレスに対する防衛反応としても、自分をリラックスさせる意味も含めておどけみせるのは、やはり人の心理として正常なもの。
 どうも佐々木記者は、崇拝対象であるイルカ猟関係者を除き、相手の心情をトレースする能力に決定的に欠けているようです。ジャーナリストとしては相当致命的だと思いますが。
 まあ、産経だからいいのか・・・

オバリー氏を一躍有名にした「ザ・コーヴ」は公開後すぐに事実誤認にまみれていることがわかった。日本語版上映の際、日本の制作会社が明らかに間違いの部分を省くという修正を行ったほどだ。あらゆるシーンの検証の結果、ルイ・シホヨス監督らは、撮影された時期も場所も異なる映像素材を組み替えて編集してあるはずもない場面を生み出したり、CGを駆使して虚像を作り出したりした疑いも浮上した。

 「ザ・コーブ」にいろいろと粗があることは、筆者を含む内外のイルカ・クジラ問題ウォッチャーにも広く認識されているところですが、事実誤認にまみれているとすれば、編集された日本版は数分にも満たなくなっているでしょう。それは明らかな事実誤認です。
 ここで佐々木記者は、巧みとはいえない言葉遊びでのごまかしを試みています。
 過去記事でも解説したように、「ザ・コーブ」の検証は各方面で行われていますが、彼の記事では「その検証」が誰によるものか、主語が省略されていて不明。「あらゆるシーン」を検証した結果、一部に$燒セと食い違うものが見つかった、というのが事実のはずなのですが、一部≠ニいう表現を省略することで、あらゆるシーン≠ェ虚偽であったかのような印象を与える書き方になっています。実際、それを狙っているのでしょう。
 「CGを駆使」は海面の血の色の強調を意味していると思われますが、虚像という表現はCGの使用そのもの、さらには映画の演出手法の否定につながりかねません。日本が世界に誇るNHKスペシャル等のドキュメンタリー番組も、特定の視点が強調された虚像だらけという批判は可能。最近はとくにCGばっかりですしね。場面場面でCGが使われるのは、基本的にわかりやすく強調するためですよ。
 筆者自身は「ザ・コーブ」の演出を好ましいと思っていないことを前置きしておきますが、ドキュメンタリーを含むあらゆる映画は、観客へのわかりやすさを優先して加工と演出を施されるものです。構図、絞り、フレーム移動、BGM、etc. CGを一切使わなくてさえ、カメラを駆使してにふさわしい映像が撮られます。それらはすべて、一面的な、ある方向から見たものであり、現実と100%一致するわけではありません。ドキュメンタリーであろうと。
 「ザ・コーブ」問題について、詳しくは以下のまとめと引用リンク先をご参照。

■「池上彰のニュースそうだったのか!!2時間SP」の中で言及されたWAZAJAZA問題部分まとめ
http://togetter.com/li/837312
■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
http://togetter.com/li/834969

 捕鯨族議員の筆頭、和歌山県選出の鶴保参議院議員なんて、TV愛知の番組で「映像は太地町ではなく静岡県のものだった」という誘導を狙った姑息な嘘を電波に乗せて茶の間に流しちゃいましたからね(事実は「一部のみ静岡での映像も使われていた」)。オバリー氏の虚言やザ・コーブの粗なんてカワイイもんです。
 もちろん、オバリー氏が飲酒運転したという、特定の個人に犯していない罪の濡れ衣を着せる佐々木氏の真っ赤な嘘と比べても。
 以下は産経報道があった9/1の彼のツイート。


【お騒がせオバリー】飲酒運転とパスポート不携帯で逮捕されたリック・オバリーが今度は太地町で自損事故。75歳。もうやめなはれ、自動車運転は。

 「飲酒運転とパスポート不携帯で逮捕」という日本語はもう誤解の余地がありません。
 たとえある罪を犯したことが事実だとしても、その人物が別の犯していない罪まで犯したと主張することは、立派な名誉毀損にあたります。
 太地町立館に対しては、共闘NGOを通じて裁判戦術も使っているオバリー氏のこと、彼を訴えることも十分考えられるのでは?
 ベルギーの博物館・デザイナーによるJOCと日本のデザイナーへのパクリ疑惑訴訟より、勝率は高いと思えますがね。

 さて・・ここで日本の「ザ・コーブ」対抗ドキュメンタリー映画にちょっと話を移しましょう。

■ 【マスコミ試写会のご案内】
http://jaef.la.coocan.jp/jf/notice/2015/0807.pdf
■Filmmaker tries to rebut documentary on Japan dolphin hunt (8/7,AP)
http://bigstory.ap.org/urn:publicid:ap.org:827ba3bf6d344ea3b8318d4a0de4ae4b
■「シー・シェパード、ひどい」 モントリオール映画祭、日本人女性監督の反捕鯨「反証」作品に熱い反響
http://www.sankei.com/entertainments/news/150905/ent1509050015-n1.html

 プロダクションに勤めていた八木景子氏が単独で製作した初作品という「Behind the Cove」
 モントリオール国際映画祭参加ということで、産経が他の多くの出品された日本製映画とは別格の扱いで取り上げました。やはり沖縄デモ10人とは対照的な報じ方。
 先月にはマスコミ試写会が行われたのですが、宣伝の場を提供したのは日本捕鯨協会に「伝統食文化」「人種差別」の効果的キャッチコピーを伝授した広告代理店・元国際ピーアールの梅崎氏が代表を務める水産ジャーナリストの会
 産経記者と同姓の佐々木芽生氏もベテラン映画監督として「ザ・コーブ」対抗作品のクラウドファンディングを利用した製作を表明されましたが、佐々木監督が「日本人のずるさも描く」とどちらからも距離を置いた中立性を担保したのに対し、デビュー仕立ての八木監督は首までどっぷり浸かった捕鯨礼賛派
 しかも、学校給食の竜田揚げが原点という八木氏、「捕鯨問題に隠された国家秘密と謎解き」なんて怪しげな文句が並び、もう都市伝説臭が最初からプンプン漂ってきます。
 AP通信のインタビュー記事でも、広島の被爆を絡めるなど、乱獲と密猟にまみれた日本の捕鯨産業の黒歴史について何も知らないノーテンキな捕鯨性善説信奉者であることをうかがわせます。
 そして、きわめつけがシネマトゥデイの記事。

■アカデミー賞受賞反捕鯨映画『ザ・コーヴ』を反証!衝撃のドキュメンタリーがモントリオール上映|シネマトゥデイ
http://www.cinematoday.jp/page/N0076186

 「映画では、ペリーが来航し捕鯨の技術を日本に伝達した江戸時代にまでさかのぼり、日本人と鯨の関わりについて検証」(引用)

 ・・・・。正直、もう開いた口が塞がりません。
 賛成派と反対派とを問わず、ウォッチャーには説明の必要はないと思いますが、明治に始まった日本の近代捕鯨は起業家がノルウェーから導入したしたもので、米国の帆船式捕鯨ともペリー来航とも無関係。八木氏は捕鯨史の基本中の基本について、驚くべき無知を露呈したのです。
 まあ、この表現はシネマトゥデイのライターが大ポカをやらかした可能性もありますが、産経記者佐々木氏の言葉を借りれば、ザ・コーブとは程度で比べ物にならないほど、「事実誤認にまみれている」「疑いが浮上した」とはいえます。
 わざわざカナダに行って、「日本は侵略戦争なんてしていない! 従軍慰安婦も南京大虐殺も真っ赤な嘘だ!」と唱えるに等しいほど、デタラメな法螺話を海外に撒き散らしに行ったも同然。
 まさに日本の恥
 正しい歴史を教えてあげなかった捕鯨関係者の責任ともいえますが・・。

 もう何年も太地町の住民はオバリー氏とまともな会話をしていないのではないか。

 佐々木氏は憶測でこう述べていますが、非常に奇妙なことに、彼にインタビューした八木氏とも異なり、佐々木記者自身はオバリー氏本人に直接問い合わせた形跡はありません。FBの記事やコメントをのぞき、間接的に情報を収集しているだけ。
 取材対象は、新宮警察と名前も所属も明かさない治安関係者、ほぼ間違いなく応援団活動家とみられる住民くらい。
 プロの新聞記者、ジャーナリストとして、2chラー水準というのはどんなものでしょうね?
 
 漁師たちは合法で持続的可能な捕獲量で行われている漁を決して止めるつもりはない。

 この表現にもきわめて大きな問題がいくつもあります。
 まず、「合法」という決まり文句は当事者がいつも口にするのですが、非常に大きな誤りです。
 正しくは無法。
 彼らのいう合法は、和歌山県知事の許可に基づいている趣旨。日本国内の都合でしかありません。
 しかし、国連海洋法条約第65条において、「特に、鯨類については、その保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動する」と定められているのです。
 現状で適切な国際機関といえるのは、太平洋の鯨類資源利用(非致死含む)に関わる多くの国が加盟しているIWC(国際捕鯨委員会)ですが、小型鯨類の資源管理を求めるモナコ提案が昨年やっと採択されたばかり。しかも、法的拘束力がないため、日本は無視してしまうことができます。
 国際機関による管理が国際法の要求であるにもかかわらず、未だまともに行えていないのが実態なのです。
 もうひとつ。
 日本には家畜を含む人間社会と関わる愛護動物に関して環境省が倫理指針を定めています。他の先進国に比べると著しく遅れているとはいえ・・。
 ところが、イルカの動物福祉上の法的指針が日本においては存在しないのです。
 
 次のフレーズ、持続性について。さすがに決まりが悪いからか、漁協関係者らは「合法」に比べ「持続可能な」という表現をあまり口にしたがりません。
 実は、同じイルカでも主に三陸地方で行われてきた突きん棒猟の対象であるイシイルカや、害獣として北海道で駆除されているトドに関しては、NOAA(米国海洋大気庁)が策定した管理指標であるPBRという管理方式を一応採用しているのですが、太地町のイルカ追い込み猟の対象種に対しては、ずっと指摘を受け続けながらいつまでたっても水産庁が採用を拒み続けているのです。
 国際的な自然保護団体は、水産庁による現行のイルカ捕獲枠がPBRの2倍近い過大な設定になっていることを指摘しています。到底持続可能な量などとは呼べません。

■有害な捕獲 日本の持続不可能で無責任なクジラおよびイルカの猟|EIA
https://eia-international.org/wp-content/uploads/EIA-Toxic-Catch-Japanese-med-res1.pdf

 もっとも、今ではその捕獲枠を限度近くまで消化しているのは太地町のみ。昨年のハナゴンドウに至っては、オンライン上の国際データベースで枠をオーバーしてしまったことまで記録されています。
 そもそも、日本のイルカ猟は歴史的に非持続的なものだったのです。
 乱獲と密猟(著名な作家、C・W・ニコル氏が証言)の当事者の言うことを鵜呑みにしているだけとも言えますが、裏をきっちり取ろうとしない点でジャーナリストとしては完全に落第でしょう。

 オバリー氏が派手な立ち回りをすればするほど、支持者たちからの寄付金が彼の懐に落ちるビジネスモデルが成立してしまっている。

 NPOに専従職員を置くなというのが彼の主張なのかもしれませんが、それでは福祉方面を含む日本のNPO法人制度自体も全否定することになってしまいます。
 「懐に落ちるビジネスモデル」とは、物は言いようですね。というより、ただの言葉遊び。
 それを言うなら、産経新聞を購読したり、アンチSSCS本を買う支持者がいるおかげで、佐々木氏の懐に金が落ちるビジネスモデルも、同様に成立していると言っていいでしょう。二束草鞋といっても、ほとんど同じ内容を使いまわすんだから、えらい効率のいい商売ですなあ。
 太地のイルカ猟はといえば、公社を利用したからくりで内外の水族館にマージンを8割以上乗せて生イルカを売りさばく、とんでもない荒稼ぎのビジネスモデルにほかなりません。

■第65回IWC(国際捕鯨委員会)について 費用|太地町議会議員 漁野尚登のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/33397714.html

毎回毎回4,5名でビジネスクラスで参加し、すでに参加費用は3千万以上になっていると思います。
国内の旅費は太地町職員旅費条例で定めれらていますが国外の旅費は条例で定められていません。
毎年毎年ブルームやアメリカ等々太地町は多額の海外旅費を計上しております。(引用)

 なぜ佐々木氏が三軒町長らのこういうセレブな振る舞いに噛み付こうとしないのか、筆者は不思議でなりません。
 ひとつ重要な違いを挙げるべきでしょう。
 両者には天と地ほどの違いがあります。個人の意思に基づく寄付と、強制的に徴収される税金という。

 イルカ漁をめぐる不毛な騒動は今後も続いていく。太地を訪れ、パフォーマンスを行う活動家たちは自分たちの行動が反発を呼ぶだけで、むしろイルカ漁の停止から遠のかせてることに気付いていない。

 ここまで見てきて、産経記者佐々木氏がいかにとんでもないダブスタ脳の持ち主か、みなさんにもおわかりいただけたでしょう。
 イルカ猟問題に関心があるのであれば、保護団体の主張の内容にこそ耳を傾けれど、オバリー氏やワトソン氏等個人の素行になんか誰も興味を持つはずがありません。
 捕鯨やイルカ猟について、賛成ないし反対の意見を自由に表明することは、世界中のすべての人々に認められるべき権利です。
 メディアが双方の主張を紹介したり、議論に役立つ情報を提供するのも、報道機関・記者として当然の仕事といえるでしょう。
 しかし、特定の個人の自損事故をブチブチネチネチ記事に書き連ねることが、一体公益にかなうジャーナリズムなのでしょうか?
 ウェッジに掲載された彼の記事は、まさに不毛な個人攻撃の書きなぐり文でしかありません。
 佐々木氏こそ、日本で、いや、世界で最も「イルカ漁をめぐる不毛な騒動」を煽り立てている人物といえないでしょうか?
 ただひたすらイルカ猟に自分を重ね、ケチをつける者に対してはそのすべてを全力で否定しなくては気がすまない。
 おそらく、太地という神々しい聖なる存在の盾の役を自ら買って出た有能な騎士のつもりでいるのでしょう。
 しかし、少なくともそれは、問題を冷静に見つめ、市民に事実を伝えることに務めるジャーナリストの態度ではありません。
 彼がそのことに「気づいている」様子はありませんが……。

 日本の御用記者にここまで書かせるほど、いろいろネタを提供してしまったのは、確かにオバリー氏の落ち度とはいえます。
 筆者としては、ソロモン諸島での活動の後始末、持続的な共存関係を築くまで現地にとどまったほうが、イルカたちのためにもなるのではないかと思うのですけど。
 外国人が暮らしにくい差別国家・監視国家に何度も足を運ぶよりは、きっと健康にもいいでしょうし・・
 それでも・・どちらがイルカ猟の是非をめぐる問題に有害な影響をもたらしているかといえば、佐々木氏にはやはりかないますまい。

 拙ブログではこれまでにも、産経佐々木記者の発信する内容のボンクラぶり、ガッカリぶりを伝えてきました。
 一般人が都市伝説を真に受けてしまう被害を多少なりとも食い止める公益上の必要から、ですがね……。
 しかし、今回の記事はいままで以上にひどいものでした。
 記事全体を通して稚拙で乱暴な表現のオンパレード。
 「オバリー氏が飲酒運転で逮捕された」というあからさまな嘘をついたり、日本で年間数百万件発生している自損事故をオーバーに騒ぎ立てたり、茂木氏にまでツイートをキャプチャーして噛み付いたり。


 佐々木氏は安保法制問題についてほとんどツイートしていません。たぶん、安倍政権にベッタリの産経の大方針に沿った考えなのでしょうけど。
 そんな彼が、マイクで熱唱する茂木氏の画像付報道をわざわざRTしたのは、一体どういう了見なんでしょうか?
 彼はときどき、イルカ猟に疑問を投げかける一般市民のツイートも好んでRTします。当然、記事中の彼の主張とは明らかに反する意見ですが。
 ツイッターユーザーとしても、たぶんそういうタイプ≠ネんでしょうね・・・・・
  
参考リンク:
■イルカ猟の開始|IKAN
※筆者注:産経よりマシとはいえかなりひどい朝日報道の問題点について。
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-cea2.html
■御用新聞のトホホ記者・佐々木氏の珍解説|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/70152801.html
■沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/133050478.html
■捕鯨の町・太地は原発推進電力会社にそっくり|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/78450287.html

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2015年08月21日

科学の化けの皮が最後の一枚まで剥がれた調査捕鯨

◇いよいよ崖っぷち! 科学の化けの皮がとうとう最後の一枚まで剥がれた日本の新調査捕鯨

 みなさんはクジラの季節≠チてご存じですか?
 鯨肉の旬? いえいえ。
 国際司法裁判所(ICJ)での調査捕鯨裁判敗訴のA級戦犯ながら、国民をまんまとだまくらかした功績を買われて(?)事務次官にめでたく昇進した本川一善氏は、水産庁長官時代の2010年に国会で堂々と「ミンククジラの刺身は美味いし香りもいい!」とのたまったわけですが、彼ら霞ヶ関や永田町の連中が高級料亭でつつく刺身鯨肉は、季節が反対のはるか南極の海で捕って冷凍庫に放り込んでたもので、旬もへったくれもありゃしません。
 捕鯨問題ウォッチャーの間で使われるクジラの季節≠ニいえば、主に6月前後に開かれる国際捕鯨委員会(IWC)年次会合の時期と、日本が南極海に調査捕鯨船団を送り込み、反捕鯨団体シーシェパード(SSCS)とすったもんだする冬のこと。
 もっとも、IWC総会は、(日本のネトウヨ以外の)誰もが毎年のお祭り騒ぎをバカバカしく感じ始めたり、予算の都合もあって隔年開催となりましたし、南極海上で繰り広げられていたプロレスの方もマンネリ気味だったことから、SSCSがもう手を引くと宣言しましたが。
 今年はその総会の狭間の年にあたり、サンディエゴでIWCの下部組織にあたる科学委員会(IWC-SC)の会合のみが開かれました。そのせいもあって、マスコミの報道も低調。いつも熱心に騒ぎ立てる産経すら、開催前の報道のみで、肝腎の会合の結果については口をつぐんだほどです。この辺りは前々回の記事で取り上げたところ。

 そうはいっても、今年のクジラの季節≠ノはひとつ非常に重大な動きがありました。
 捕鯨ニッポンの敗色がいよいよ決定的になったのです。
 ICJの判決は、さすがに中立性を重んじる国際的な司法の最高権威だけあって、「9割方日本の負け」といった程度。
 今回、そのICJの判決を受ける形で下された、IWC-SCと専門家パネルによる新調査捕鯨計画の評価は、日本側にとって残り1割の理すらも完全に吹き飛ばすものでした。まさに致命的な打撃
 もっとも、それは自ら掘った墓穴であったことも明らかなのですが……。

 まず、国内でこの件がどのように報じられたか見てみましょう。
 産経はせっかく応援してあげたのにシラを切り通したので、パネル報告とSC会合の両報道がそろっている日経と時事の記事のリンクをご紹介。

■調査捕鯨再開へ追加調査 政府、IWC科学委の報告受け  (4/13,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF13H1G_T10C15A4PP8000/
■日本の調査捕鯨再開、IWC委は両論併記 追加調査求める (6/19,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS19H4Z_Z10C15A6EE8000/
■日本の新捕鯨計画「不十分」=IWC専門家会合が指摘 (4/13,時事)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201504/2015041300819
■日本の調査捕鯨再開に賛否=IWC科学委の評価公表−水産庁 (6/19,時事)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201506/2015061900875

 日本国内のマスコミはどこも、専門家パネルで宿題≠出されたことと、SC会合での「両論併記」を報じています。
 なんだか釈然としませんよね。注意深く読まないと、再提出した宿題≠ヨの評価が「両論併記」だったのかと一般の読者は勘違いしそうです
 しかし、ここでいう両論併記とは、再提出された宿題の評価が○か×かで割れたことを指しているのではありません
 「宿題をこなしてこなかったんだから、当然新しい調査捕鯨なんかやらせられっか!」「宿題は終わってないけど、調査捕鯨はやっていいぞ!」両論なのです。
 AP発の海外メディア報道では、日本の出した宿題≠ノ対する「情報が不十分でまだ追加作業が必要だ」というIWC-SCの結論が、日本のメディアと異なり省略されることなく、しっかり伝えられています(以下のリンクはジャパンタイムズですが)。


But the commission's 2015 Scientific Committee Report found the new proposal "contained insufficient information" for its expert panel to complete a full review and specified the extra work that Japan needed to undertake.(引用)

 なぜそんなとんでもない両論併記があり得るのかって?
 その答えは簡単。「終わってないけどやっていい」と主張しているのはズバリ内輪=A日本側が送り込んだメンバーだから……。

 では、一体具体的にどこが問題だったのでしょうか。
 間に合わなかった宿題≠ノついては、IKA-Netニュース61号の記事中できっちり解説されています。論者は早大客員研究員・真田氏。

■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015

 以下に、最も重要な部分を抜粋しましょう。

 以上のように、日本側が致死的調査・サンプル数の妥当性の評価に必要不可欠な作業に関する勧告と自ら言明している項目についても、全てについて疑問点が提示され、批判が加えられている。これを受けて科学委員会は「ワーキンググループの結論に合意する」とともに、日本の追加説明に示された分析は不完全であり、十分な評価をすることができない」こと、したがって「十分なレビューを行うためにより詳細な情報が必要である」との点で合意している 。41 名の科学委メンバーはこれとは別に共同ステートメントを発表し、日本側がサンプル数評価に必要不可欠なとしている項目についても作業が完了していないのであるから、新調査計画の下で捕獲調査を行うことが正当化させるかについての十分な情報が未だに得られていないことは明白であり、致死的調査が必要だということが証明されておらず、捕獲調査を行わず専門家パネルの勧告で求められていることを実施すべきであると結論付けている。(引用)

 そう……IWC-SCは日本側が要求された課題に応えられなかった、宿題を果たせなかったことを公式文書中ではっきりと認めているのです。明白に合意されているのです。
 日本側が送り込んでいる御用学者達ですら、この点に関しては反論の余地がなかったのです。

 こちらのSC総会前に示された専門家パネル報告の分析もあわせてご参照。

■新調査捕鯨計画専門家パネル報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/307-rwnprc2015-snd

 IWCと水産庁による一次ソースはこちら。水産庁の資料は、SC会合開催前の「宿題ならバッチリやってやるぞ!」宣言──。

■2015 Scientific Committee Report | IWC
https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=5429
■新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP−A)に係る国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会レビュー専門家パネル報告書への対応について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/pdf/review1.pdf

 詳細はぜひ記事をお読みいただきたいと思いますが、かいつまんで言うとこんな感じ──

 ホゲイニッポン君は、IWC大学の学生。
 宿題のレポートを提出したところ、教官に「こんなんじゃダメだ。来月までに書き直し!」と言われてしまいました・・
 ホゲイニッポン君は、「こことここを直しゃいいんでしょ? そんなの簡単です。来月までに必ず直してきます!」と、先生に胸を張って約束しました。
 ところが、翌月になってホゲイニッポン君が再提出したレポートは、「なんだ、やると言ってたくせに全然できてないじゃないか。ボツ!」とまたもやダメ出しを食らってしまいました。
 IWC大学の教員の半分はホゲイニッポン君の身内で、これまでずっと彼をエコヒーキしてきたのですが、そんな彼らもこれ以上彼をかばうことはできず、大学の公式の履修記録で「ホゲイニッポン君のレポートはダメダメだった」とはっきり書かれてしまいました・・・
 おしまい。

 まあ、理研を追い出された某カッポウギリケジョも顔負けのありさま。
 日経・時事・NHKほか日本のマスコミは、森下IWC日本政府代表の「誠意をもって対応する」というコメントを、パネル勧告後もSC会合後も度々引用しています。
 これもまさに、記者会見のフラッシュの中、「STAP細胞はあります!」と叫んだ元理研研究員・小保方氏の台詞と同じ重みしかなかったわけです。
 科学を標榜しながら、ここまで科学を愚弄する分野が、日本の御用鯨類学をおいて他にあるでしょうか!?

 日本の公海調査捕鯨はいよいよ崖っぷちにまで追い詰められました。
 厚く塗りたくった真っ白な科学の化粧はすべて剥がれ落ち、地の肌が丸見えになりました。
 下から表れたのは、「ミンクの刺身美味い!」と舌なめずりする、知性の欠片もない突っ張った欲の皮。
 世界はかつてないほど厳しく、かつ冷静に、捕鯨ニッポンを見つめています。SSCS V.S.日本チームのプロレスに煽られることもなく。
 支離滅裂な言い訳はもはや一切通用しません。へべれけになって「日本たたきだ!」と管を巻く酔客じみた捕鯨擁護者以外には。
 永田町の国会議員らがそのレベルだというのは、この国にとって不幸でしかありませんが……。

 せっかくICJが花道を用意してくれたのに……。
 判決前に約束したとおり、国際法を遵守する姿勢を貫いていれば、世界中の市民が日本の潔さを賞賛したでしょうに……。
 いまの北朝鮮、あるいは戦中の日本軍上層部をも髣髴とさせる、面子をすべてに優先する理性を欠いた行動に突っ走り、このうえさらに恥の上塗りを重ねようというのでしょうか?
 東京五輪を前に、わざわざ世界に向かって自ら盛大な逆宣伝をやろうというのでしょうか?
 (一国民としては、調査捕鯨と同じく、一過性のイベントに莫大な税金を注ぎ込んでほしくはないけど。。)

 まだ間に合います。
 今こそ南極海捕鯨からの完全撤退を!!


◇クジラコンプレックス Comming Soon!

 上掲のIKANニュース解説記事も書かれた真田氏と、『解体新書「捕鯨論争」』の編著者、東北大准教授・石井氏の共著。
 クジラ本はこれまで両サイド・外野から山ほど刊行されていますが、ICJ判決について詳細に論じたものはありません。まさに他の追随を許さない捕鯨論争のバイブル。
 この秋発売、すでに各ネット書店で予約も始まっています。要チェック!

■クジラコンプレックス|東京書籍
http://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/80925/
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2015年07月29日

オーストラリアはネコ殺しをやめよ!(日本もだけど・・)

◇まるで日本の調査捕鯨──オーストラリアはネコ殺しをやめよ!(日本もだけど・・)

 捕鯨・イルカ猟、水族館問題だけでも十分頭が痛いのに、最近は駆除の話ばっかり聞かされてうんざり気味(--;;
 そんな中、またしても厄介な問題が浮上。。
 といっても、問題が起きているのは捕鯨ニッポンではなく、海洋環境保全・野生動物保護・動物福祉・持続的水産業で日本の上を行くクジラの味方≠フハズのオーストラリア──。
 
■猫200万匹を殺処分へ オーストラリアで何が起きた? (7/21,ハフィントンポスト日本語版)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/07/21/australia-government-two-million-feral-felines_n_7837602.html
■The war on feral cats begins (7/16,豪ABCニュース) @
http://www.abc.net.au/am/content/2015/s4274581.htm
■Australian government declares war on feral cats in bid to save native animals (7/16,英ガーディアン) A
http://www.theguardian.com/environment/2015/jul/16/australian-government-declares-war-on-feral-cats-in-bid-to-save-endangered-species
■Australia actually declares ‘war’ on cats, plans to kill 2 million by 2020 (7/16,米ワシントンポスト)
https://www.washingtonpost.com/blogs/worldviews/wp/2015/07/16/australia-actually-declares-war-on-cats-plans-to-kill-2-million-by-2020/
■2 million feral cats to be killed in Australia (7/16,ニュース24) B
http://www.news24.com/Green/News/2-million-feral-cats-to-be-killed-in-Australia-20150716
■Australia's war on cats: Government plans to cull 2 million by 2020 (7/19,英インディペンデント) C
http://www.independent.co.uk/news/world/australasia/australias-war-on-cats-government-plans-to-cull-2-million-by-2020-10398555.html
■Australia declares war on feral cats with plan to 'cull two million by 2020' (7/25,英テレグラフ)
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/australiaandthepacific/australia/11743499/Australia-declares-war-on-feral-cats-with-plan-to-cull-two-million-by-2020.html

 発表を受け、同国以外の世界中のメディアもこのネコ大量殺処分計画を伝えました。ごらんのとおり、派手な見出しが躍っています。
 《DECRARES WAR──戦争宣言》
 地元のABCニュースによれば、「対麻薬、対テロに続く国家をあげての戦争」との位置づけ(〜@)。
 実際、この計画はグレッグ・ハント環境相自身が、同国初の絶滅危惧種担当ポストの長となったグレゴリー・アンドリュースコミッショナーに「《戦争宣言》してプログラムを作成しろ」と発破をかけて出来上がったもの(〜C)。
 まさに鳴り物入りのビッグ・プロジェクト。

 野生化したネコの野生動物に対する影響と、駆除を含めた対策については、以前から議論がありました。オーストラリアのみならず、お隣のNZや欧米でも。

■「好奇心はネコをも殺す」 オーストラリアの野良ネコ駆除作戦 ('10/2/24,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/2701120
■New Zealand Cats Are A Hot Button Issue, Pitting Anti-Feline Advocate Gareth Morgan Against Pet-Owners (7/28,HUFF POST)
http://www.huffingtonpost.com/2013/01/22/nz-to-eradicate-pet-cats_n_2524259.html
■米国のネコ、数十億羽の鳥を毎年殺害 研究 ('13/1/30,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/2924432?pid=10189809
■The impact of free-ranging domestic cats on wildlife of the United States ('13/1/29,Nature) D
http://www.nature.com/ncomms/journal/v4/n1/abs/ncomms2380.html
■(@ワシントン)野鳥VS野良猫 ('13/7/10)
http://www.asahi.com/special/news/articles/TKY201307100378.html
■猫狩り禁止法案に猟師ら反発、野鳥保護を主張 独 ('14/10/13,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3028733

 とはいえ、「戦争を開始する」と宣言し、「5年でネコ200万頭殲滅」という途方もない規模の作戦≠展開するのは、今回が初めて。

 オーストラリア政府の動きに対しては、記事でも紹介されているとおり、さっそく市民から批判の声が沸き上がっています。国際的な動物愛護団体として広く知られているPETAも抗議。大女優にして動物愛護家としても知られ、あの反捕鯨団体シー・シェパード(SSCS)の支援者で船に名前まで冠せられているブリジッド・バルドー氏も猛反発しています。

■豪政府、野良猫200万匹の殺処分を計画 仏女優らが非難 (7/22,AFP) E
http://www.afpbb.com/articles/-/3055210
■Brigitte Bardot to Greg Hunt: killing two million feral cats is ‘animal genocide’ (7/23,英ガーディアン)
http://www.theguardian.com/film/2015/jul/23/brigitte-bardot-to-greg-hunt-killing-two-million-feral-cats-is-animal-genocide
■Brigitte Bardot slams Australia's plan to kill 2 million feral cats (7/22,ヤフーニュース)
http://news.yahoo.com/brigitte-bardot-slams-australias-plan-kill-2-million-052216618.html?soc_src=mediacontentstory&soc_trk=tw

「この動物大量虐殺は非人道的でばかげている。猫たちを殺すことは残虐な上、今回猫を殺しても残った猫たちが繁殖を続けるだろうから絶対的に無益なことだ」 (〜バルドー氏、E)
「過去に行われてきた動物の殺処分は効果がないことが証明されている」 (〜PETA、E)

 一方で、奇妙なエールが他でもない捕鯨ニッポンから上がっています・・・・

「オーストラリア人、鯨油を取るためだけに絶滅寸前までクジラを乱獲し続け、カンガルーやコアラが増えれば何百匹、何千匹という単位で殺処分して、今度は野良猫を200万匹も殺処分するという。こんな国の人たちに、1頭のクジラをほとんど残さずに大切に利用している日本人を批難する権利などない」(引用)

 ツイッターのフォロワーが12万を超えるリベラル系(?)カリスマブロガーのきっこ氏。
 7/22の同氏のつぶやきのうち、このトンデモツイートのRT数は300超えで、新国立競技場建設問題や細野氏の原発関連発言のツイートを押さえトップ。。
 
 エールじゃないって?
 いや、どちらかといえば、やっぱりエールでしょう。オーストラリア政府のネコ殺しを容認し、応援する
 要約すれば、「お前らだってコアラやネコを殺してるんだから、日本人のクジラ殺しに文句言うな」です。
 「どうぞご自由にネコやコアラを殺してください。その代わり、捕鯨に反対しないでください」です。
 沖縄に対する米国のジャイアンぶりを非難しているきっこ氏のこと、さすがに「俺サマはお前らのネコ殺しを非難するが、お前らは俺サマたちのクジラ殺しを非難するなよ!」ではありますまい。。
 「アナタ、猫殺ス。ワタシ、鯨殺ス。コレデオ互イHAPPYネ」と言ってるわけです。

 え? ジャイアンなのはオーストラリアだろって?
 いやいやいやいや。
 自国の犬猫の殺処分は、日本・オーストラリアともにやってます。
 自国の有害鳥獣としての(在来の)野生動物駆除は、日本・オーストラリアともにやってます。
 自国の外来生物の駆除は、日本・オーストラリアともにやってます。
 対象種と数、要件や法的根拠、執行体制等の細かいシチュエーションが、それぞれの事情に応じて異なるだけで。

 調査/文化の名目で、赤道をまたぎ越え、相手国のEEZ(二百海里経済水域)内を通り、ボン条約でも保護が謳われている移動性野生動物を殺し、市場で流通させているのは、日本だけです。
 日本でとくに科学的根拠もなく法的に保護されているオットセイが、日本のEEZを出た途端、オーストラリアから来た漁船に捕殺され、ソテーにして食われることはありません。
 日本で水鳥たちのサンクチュアリとなる国立公園で捕獲が禁じられているツルやハクチョウが、日本のEEZの線上を飛び越えた途端、オージーに撃ち殺され、伝統的な食文化のクリスマスの丸焼きにされることはありません。
 クジラでそれをやっちまってるのは日本だけです。

 合理的な観点に従うなら、明らかにジャイアンなのは日本の側なのです。

 それにしても、引用したきっこ氏の発言は、都市伝説妄信型の最も粗悪な反反捕鯨ネトウヨレベル
 捕鯨問題ウォッチャーには改めて説明する必要もないと思いますが、簡単に指摘しておくと、主産物の比率が鯨油か鯨肉かの違いだけで、東西の捕鯨産業の乱獲体質には何の違いもありませんでした。戦前には輸出用の鯨油が目当てで、鯨肉は外洋でうっちゃっており、非効率だと海外の捕鯨国に渋い顔をされていたことも。近年まで密漁海賊捕鯨とべったりつるんでいたり、規制を逃れるためにデータを改竄したりで、日本は捕鯨国の中でもとりわけ悪質だったと世界に認識されているのです。きっちり史実に基づいて。

■やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−その3:戦後繰り返された悪質な規制違反
http://www.kkneko.com/aa3.htm
■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
http://kkneko.sblo.jp/article/116089084.html

 さて、そうは言ってもすっきりしませんね・・・
 筆者も日本人なので、合理的の一言で片付けられるのはモヤモヤします。
 オーストラリアのネコ殺しは、本当に日本のクジラ殺しと違って正当なのかを、詳細に検証する必要を感じます。
 はたして、ネコの駆除は本当に絶滅危惧種保護に有効なのでしょうか?

 最初に、この計画に強力な論拠を与えている米魚類野生生物局(FWS)とスミソニアン保全生物学研究所による論文について(D)。
 日本語メディアの見出し等で使われている、捕食される野鳥・ネズミ等野生哺乳類の億単位の数字は、推定値のうちの最大値。これらの数字は統計的手法を用いて弾きだしたものですが、この研究ではネコによる捕食以外の人為的要因に基づく死亡率の厳密な定量的測定はしていません
 また、被捕食者の生息地の分断・縮小・改変による捕食のされやすさへの影響についても検証されていません。健康な成体の死亡率に与える影響度合の各死亡要因による差、郊外で被害の大きい在来種に対するクマネズミ等による影響とネコとの関係(実はクマネズミも都市から郊外に進出している)についても精査が必要(関連後述)。
 論文中では、「この研究結果は、他の人為的脅威が生物学的に重要でないと示唆しているわけではない」「絶滅危惧種保全のためにすべての人為的要因が定量化されるべき」と一応言及されているのですが、残念ながら、内外のどのメディアもネコの脅威を煽るばかりで取り上げることはしていません・・。

 捕食のされやすさ≠ノついては、先日NHKで放映された番組中でも、水産総合研究センターのカワウ研究第一人者の方がこんな指摘をしていました。いわく、日本中の川が護岸整備によってコンクリでガッチガチに固められたため、魚たちにとって逃げ場となる水辺の環境が失われ、捕食者のカワウに圧倒的に有利な環境が作られてしまったと。

■所さん!大変ですよ「謎の悪臭に悩む街」
http://www4.nhk.or.jp/taihentokoro/x/2015-07-23/21/26353/

 害鳥呼ばわりされている日本のカワウだって、一時はトキやコウノトリみたいに絶滅が心配される状況にまで追いやられたんですけどね。

 実は、オーストラリアのノネコたちによる希少動物への影響についても、同様に疑問符が付けられているのです。

■オーストラリアで小型有袋類が激減、野生化したネコが原因か ('14/5/8,AFP) F
http://www.afpbb.com/articles/-/3014343
■生物多様性の意味を問う 希少種の生命は、ありふれた種にまさるのか? 『ねずみに支配された島』 ('14/12/26,ウェッジ) G
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4569
■島で外来捕食者を駆除する時の注意点:‘Mesopredator Release’に関連して|むしのみち H
http://d.hatena.ne.jp/naturalist2008/20090318/1237362811
■Cats protecting birds: modelling the mesopredator release effect | Journal of Animal Ecology vol.68
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1365-2656.1999.00285.x/full
■It couldn’t have been us! ('12/5/29,ConservationBytes.com) I
http://conservationbytes.com/2012/05/29/couldnt-have-been-us/?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
■Invasive rats and seabirds after 2,000 years of an unwanted coexistence on Mediterranean islands J
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10530-008-9394-z

さらにジョンソン教授は、ネコは長い間豪大陸に生息していたことと、動物の個体数減少が比較的最近に始まったことから、なぜネコが時を経て在来種に壊滅的な被害を及ぼす捕食動物となったのかという疑問が残ると指摘。北部地域で大規模な開墾や疫病のまん延があったことを示す証拠がないことを鑑みると、牧畜農家たちによる野焼きが今回の事態に影響を与えたようだとの見解を示している。 (〜F)
「おそらく一つの原因で引き起こされているわけではなく、いくつかの効果が重なり合った結果であることをデータが示している。これらの効果は全て、ネコたちの狩りの方法に有利に働く傾向があり、これによって地上に生息する小型動物は絶滅の危機へと追い込まれている」(〜F)

 西欧からオーストラリア大陸にネコが持ち込まれたのは17世紀から19世紀にかけて。200年前にはすでにネコたちはこの大陸にいたわけです。明治元年以降とする日本の外来生物法の定義でいうなら、帰化動物に当たるでしょう。
 それが最近になって急激に被害が大きくなった兆候があるわけです。研究者の指摘するその複合要因について、詳細は明らかになっていません。
 ただ、日本カワウに対する護岸と同じように、牧畜農家の野焼きによる環境変化には強い疑いが向けられるべき。

 その辺りの事情も含め、日本でよく似ている動物を挙げるとするなら、ハクビシンでしょう。移入時期の詳細は不明で、文献から江戸時代にいた可能性が指摘されており、遺伝子解析でも外来生物一般と異なり強いボトルネック効果が見られません。かつては天然記念物(長野県)として保護されながら、TV等でも被害がことさら報じられるようになり、特定外来生物の指定こそ免れているものの、近年有害鳥獣としての駆除数が年間7千頭を越えるまで急激に膨れ上がりました。
 ちなみに、筆者はかなり古い時期に日本列島にやってきたのではないかと疑っています・・

■ハクビシンとクジラ (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/36133867.html

 一方、タスマニアの南東にあるマクォーリー島では25年前、野生生物保護官がネコの駆除に着手し、2000年に最後の1匹を殺し終えた。しかし、ネコがいなくなるとウサギが13万匹に増え、ネズミも急増した。2006年にはウサギが草を食い荒らした丘が、春の大雨のせいで崩れ落ち、下で営巣していた無数のペンギンを生き埋めにした。(引用〜G)
 ある島に固有の鳥を保全するために、その捕食者となっている外来種であるネコを除去するとします。しかし、ネコは同じく外来種であるネズミも食べています。また、ネズミは鳥の卵やヒナを襲うので、鳥にとっては捕食者でもあります。つまり、この系ではネコが上位捕食者(top predator or superpredator)、ネズミが中位捕食者(mesopredator)となっています。ここでネコを除去すると、ネズミの個体数が増加し、ネコがいる時よりも鳥に与える影響が強くなる可能性があります。(引用〜H)

 これはPETAなどNGOが指摘している駆除の実効性に対する指摘。
 Hで紹介されている論文の一時ソースの絵とグラフは非常にわかりやすいです。
 図解されているとおり、ネコを駆除してネズミだけが残るのが最悪のケース。
 付け加えると、閉鎖系で外から対象種が入ってこない島嶼であればまだコントロールしやすいといえるのですが、大陸であれば出入りが生じて相殺されてしまいます。広大な閉鎖系を大陸上に設けるのは、予算を考えても非現実的。フェンスの強度やメンテナンスの間隔を絶対不可侵のレベルにするのはほぼ不可能。穴掘る動物もいっぱいいるし・・

 IはFと同じタスマニア大学のジョンソン教授のオピニオンで、ネコと同じく悪者扱いで駆除されているラクダやヤギの存在が、必ずしもマイナス面ばかりではないという指摘。ヒトの手で絶滅させられた大型カンガルーのニッチ(生態的地位)をヤギやラクダによって補完されている可能性、アカシア(オーストラリア以外では強い外来種にもなる・・)の森林を健康な状態に保つ役割さえ果たしているのではないかと示唆しています。
 そして、オーストラリアの生態系がすでに劇的に変わってしまっている以上、その場しのぎの駆除一辺倒に依存するより、この際外来種もセットでバランスを考慮するほうが現実的ではないかとも
 
 Jも興味深い事例。地中海で侵略的外来種の代表であるクマネズミが、地中海の島々で海鳥と長期にわたって共存している理由について。
 生態系は本当に絶妙なバランスの上に成り立っています。生物の種と種同士の関係は、食べる・食べられる・競合するの3パターンばかりではありません。微気候やミネラルの供給源の変化など、ほんのちょっとした要因がもとで、野生動物の動態は劇的に変わる場合があります。
 そして、私たちニンゲンの科学は、すでに起こってしまったことの原因について、せいぜい後付けで説明する以上のことはできません。
 「この計画が成功する見込みは薄い」(〜E)とする国際NGOの意見に、筆者も同感です。

■Field efficacy testing Curiosityレジスタードマーク bait for feral cats Roxby Downs, South Australia, 2014 K
http://www.environment.gov.au/system/files/resources/65e6f9c0-7dac-4312-8006-866f495632e0/files/curiosity-roxby-downs.pdf
■Assessing Risks to Non-Target Species during Poison Baiting Programs for Feral Cats L
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0107788

 上掲リンクKは、オーストラリア政府の委託による、毒物を用いたトラップのフィールド上での影響調査の結果の最新版。
 その30ページに、非常に気になる記述が。
 毒餌散布後、カササギの数が50%減少したと報告されているのです(〜K)。
 毒餌の影響なのか、それとも航空機を使った散布作業に対する応答なのかは不明(推測のみで検証されていません)。仮に後者だったとしても、生態系の撹乱であることに違いはありません。
 ディンゴの減少(調査ポイントでの発見率)はさらにひどくて80%(〜K)。
 アボリジニと一緒に大陸にたどり着いたディンゴは帰化動物といえますが、大型草食有袋類の絶滅に大きく関与し、競合するフクロオオカミやタスマニアデビルにも深刻な影響をもたらした当時の侵略的外来種。いまも家畜を荒らす害獣として駆除されているほか、今では西洋人とともに入り込んだイヌとの交雑問題も生じています。
 ただ一方で、ネコやキツネ、ノウサギの捕食者としてそれらの在来種への被害を軽減する役割も(〜K)。なんともかんとも悩ましい位置づけ・・。
 この報告書では、毒餌トラップによる非対象種への影響のうち、空を飛んで移動してしまう肉食・雑食性の鳥について、十分な定量的評価ができていないことも明記されています。書かれているのは推測のみ。
 対象外の野生動物に被害をもたらす懸念はNGOからも表明されていますが、オーストラリア政府はそれに対して応えていません。

 Lの駆除非対象種(つまりネコ以外のすべての野生動物)に対する毒餌のリスク評価ですが、サイズなどをもとに予めリスク評価の対象種を絞ったうえで、221種のうち47種の脊椎動物(絶滅危惧種のタスマニアデビルを含む)が「毒餌を摂取する可能性がある」としています。
 ところが・・ほとんどの非対象種で、通常は生きた獲物を捕食する等の理由により、ネコ用の毒餌による中毒のリスクは少ないだろうと推論し、また時季をずらすなどの対応で駆除計画による非対象種の被害を最小化・ネコへの効果を最大化できると結論づけてしまっています。
 同報告では、肉食・雑食性の非対象種のみならず、大型の草食種が非意図的に摂取する可能性も指摘しながら、分析の範囲を超えるとして評価していません。

 外来生物問題の厄介さは、自然科学の側面ばかりではありません。
 侵略的外来種の法的な取り扱いは、しばしば指摘されるように、政治によって振り回される面が多分にあります。
 日本で例を挙げるなら、遊漁業関係筋の強い政治的圧力によって指定が引き伸ばされ、現在でも漁業権絡みで一部特例扱いの放流が認められているブラックバス問題然り。
 JAによって使い捨てのツール≠ニして重宝されたために、特定外来指定後も規制の抜け穴が残されたままのセイヨウオオマルハナバチ問題然り。
 在来種への甚大な影響が火を見るより明らかでも、いまだ特定外来生物として指定されず、生体販売も飼育も野放しになっているアメリカザリガニ問題然り。
 つい昨日(7/28)ようやく輸入を禁止する旨の発表が環境省からあったばかりのミシシッピアカミミガメ(通称ミドリガメ)については、ニホンイシガメとの競合の問題がずーーっと前から指摘されていたところ。夜店で子供や酔客相手にカメ売ってるオッサンたちの政治力にさえ、日本固有の自然を守ろうという声はかなわなかったわけです。しかも、輸入禁止までまだ5年もかかる始末。
 状況がケースバイケースなだけに、どの種がより有害かを明瞭に示す客観的な指標がないのも一因ですが。

 オージーたちが、固有性の高い自然・ユニークな野生動物の保護に熱心なあまり、外来生物に対するアレルギーがあるのかといえば、必ずしもそうではありません。少なくとも一貫してはいません。
 日本と同じく、そもそも問題を引き起こしたのは持ち込んだ無思慮なオーストラリア人なわけですが。
 例えば、1950年代から今日に至るまで、同国政府はフンコロガシを世界各地から輸入しており、ハイブリッドの新種まで作ったりして野外に放っています。目的は大量に排出される家畜の糞対策、そしてハエ対策。
 日本のセイヨウオオマルハナバチのケース同様、基幹産業である畜産業にとって有益だからという理由で、積極的に外来生物の導入を図ったわけです。
 確かに、掃除屋を務めるフンコロガシが侵略的外来種になる可能性はまずないでしょう。
 しかし、生態系への厳格な配慮から、同じ過ちを引き起こさないという真摯な反省から、外来種を決して持ち込まないという原則を貫く国ではないのです。
 生き物をヒトの社会にとって有益か無益かで線引きする発想、生態系をコントロール可能なものとみなす高邁な態度は、現代の日本に共通のものですが──(後述)。

 もうひとつ。筆者は以前、さる生物学研究者の方に、「外来生物問題を大事に捉えるのは、より深刻な開発の問題から目をそらすことにつながる」とお叱りをいただきました。
 日本のハクビシンやミシシッピアカミミガメにしろ、オーストラリアのノネコにしろ、外来種にはより有利に、在来種にはより不利になる環境改変がなされ、それが在来の絶滅危惧種をさらに圧迫する歪みの元凶になっていることは疑いありません。
 生息域の縮小・分断や植生等の変化、多様性の喪失、気候変動等の影響で、在来種の体力≠ェ落ち、外来種に抵抗できなくなった結果なのです。
 200年前と今世紀とでノネコの影響が明らかに違うのが、その何よりの証拠。
 ネコの密度・分布等の生息状況の変化によらず在来種の被害を増加させた要因があるならば、まずそれを突き止め、取り除くことで、絶滅の危険を大幅に減らすことが可能になります。少なくとも、それを平行して行うことなく、駆除一本で解決を図ろうとするのは、きわめて非効率で誤った施策です。

 そして何より、自然のバランスを崩した責任は100%ニンゲンにあります。
 ネコには100%罪はないのです。
 責任の取らせ方の公正さ、人道的側面が無視されることは、絶対にあってはなりません。


 多くの科学的な疑問点、不確実性、克服されていない課題がある中、ハント環境相はなぜ、ネコという声を持たない弱者に対して、「麻薬・テロの次はおまえたちネコとの戦争だ!」と拳を突き上げたのでしょうか?
 なぜいま?
 なぜネコ相手に?
 なぜ「戦争」という過激な表現を使わねばならなかったのか?
 今回のネコ駆除騒動をさらに詳しく見ていくと、その強い政治性が浮き彫りになってきました。

 皮肉なことに、このオーストラリアのネコ駆逐計画、多くの点で彼らが非難する日本の調査捕鯨に実によく似ているのです。

 オーストラリア政府が発表した計画の詳細と関連資料はこちら。



〈1〉最初に数字ありき

 オーストラリア全域に生息するネコの数については、2千万ないし3千万という見積もりが取り上げられています。
 ところが、肝腎のレポート中にその数字は登場しません
 ネコ(ノラネコ/ノネコ)の生息数に関しては、1984年、1992年、2010年の文献を引いて異なる推計がなされたとするのみで、それらの数字すら記載されていないのです。

「野生猫の密度が大幅に降雨、食品の可用性、他の捕食者および他の因子の存在に依存して変化するので、正確にオーストラリアの野生猫の数を推定することは非常に困難です」(〜Np5)

■IDENTIFICATION OF SITES OF HIGH CONSERVATION PRIORITY IMPACTED BY FERAL CATS O
http://cutlass.deh.gov.au/biodiversity/invasive/publications/pubs/feral-cat-impacted-sites.pdf

 そのうえ、引用元となる2010年の報告(上掲リンクO)でも、「大陸上でのノネコの生息密度や分布の信頼の置けるデータがない」ことを白状しているのです。そのため、この研究では代用的な値が使われています。
 この報告書にあるノネコの影響を受けるリスクの高い絶滅危惧種とその生息域のリストは、既存の文献と研究者へのアンケートに基づき作成されたもので、共通指標に基づく包括的で大々的なフィールドでの調査(島嶼を除く)を行ったうえでスコアが付けられたわけではありません。
 研究者はこのスコアに多くの潜在的バイアスが含まれることを認めていますが、中でも大きいのは実際になされた調査の努力量で、ネコのみならず対象の絶滅危惧種の生息状況の把握が不十分なために、スコアが下がる可能性もあると付け加えています。

 このアクションプランで具体的な数字が示されているのは、絶滅危惧種の数とこの200万というネコの殺処分数のみ。具体性を伴っているのは後者だけといえますが。
 1年目15万頭、3年のうちに100万頭、5年のうちに200万頭。

 Oでは「ラット等のコントロールがセットでなければならない」と明記されています。
 当の政府のストラテジープランでも、ディンゴ・キツネへの対策および野火を三大脅威≠ニ位置づけています。(MP51)

 しかし、今回のオーストラリア政府の計画で数値目標まで据えられているのは、やはりネコのみ。

 一言で言えば、日本の調査捕鯨的
 駆除数を含む具体的な計画を決定するにあたって、厳密な生息数と動態を把握しておく必要がないというのは、きわめておかしなことです。
 これでは、ICJ(国際司法裁判所)で違法認定されたJARPAU(第二期南極海調査捕鯨)やそれに代わって日本が新たに掲げたNEWREP-Aの目標捕獲数の設定と何の違いもありません。
 個体数を把握するため継続的な目視調査が行われてきたクジラのほうがまだマシなほど。
 測定の困難さでいえば、ほとんど海中に潜っているため発見数を個体数に置き換える統計操作の手法を苦心して編み出してきたクジラのほうがよっぽど高く、オーストラリア政府がそこをすっ飛ばせる言い訳にはなりません。
 あえてネコの個体数を把握するうえでの困難さを挙げるなら、変動の幅がクジラに比べ非常に大きいことですが。

 確かに、生態系の一部そのものである野生動物のクジラと、ヒトによって持ち込まれ生態系を壊す侵略的外来種とでは、生息数を突き止めることの意味は異なります。
 しかし、これまで説明してきたように、生息状況と被害の関係の詳細な把握なしに行う場当たり的な駆除は、漫然と行うただの作業──賽の河原の石積みでしかなく、絶滅危惧種を救う実効的な対策とは到底呼べません。

 なぜ数字がいきなりポンと飛び出したのかについては後述。


〈2〉垣間見える別の動機

 Lの表紙を飾る愛らしいbilby(ミミナガバンディクートの英名)。他にも絶滅危惧種たちのベストショットが何枚も使われています。
 いかにも、彼らの命運を心の底から心配しているかのような演出ですね・・・
 しかし、この計画書には、絶滅危惧種とは直接関係ない、別の動機も示されているのです。
 それは感染症・寄生虫の媒介問題。
 確かに、野生動物に対する影響も考えられるのですが、オーストラリアでそれが深刻な被害となっている事実や、駆除によって解決されることを示す研究はありません。
 絶滅危惧種を重篤な感染症から救う目的で、いま急いでネコを駆除する必要があるとはいえないのです。
 この問題はNの7ページに、絶滅危惧種問題に混ぜ込まれる形で表記されています。

 主要な宿主としてネコが問題視されているのは、トキソプラズマと肉胞子虫。被害を受けるのはヒトと家畜。
 トキソプラズマに感染したマウスがネコを恐れなくなるという事例をもとに、他の野生動物でもそれが起こる可能性を指摘していますが、そもそも行動に影響を及ぼすメカニズム自体解明されておらず、オーストラリアでそれが起こっているという証拠もありません。

 トキソプラズマ問題は、ネコ好きの方々には耳タコの話題でしょう。
 症状が現れることは稀。免疫不全だったり、妊婦/胎児の場合は要注意ですが、ネコと常時接触する機会のある女性獣医師と一般とで妊娠時の感染リスクにないという報告も。
 イルカ肉による水銀中毒以上に恐れる必要はまったくありません。
 行動・人格に変化を及ぼす云々という説はあり、尾ヒレがついてトキソプラズマに操られてるなんて都市伝説も一部で流布してますけど・・
 いずれにしろ、トキソプラズマへの感染リスクは生肉食のほうがネコよりはるかに高いのです。
 オーストラリアのノネコであれば、特定の状況下で排便されたその糞にニンゲンが接触し、感染する機会は皆無に近いといえるでしょう。
 詳細は下掲リンクをご参照。

■トキソプラズマ関連
−トキソプラズマ症|ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%BA%E3%83%9E%E7%97%87
−人畜共通感染症について
http://www.wannyan.sakuraweb.com/wannyan/blog.htm
−(拙ツイログ)

 トキソプラズマでネコフォビアを煽るのは、日本でも保護活動への嫌がらせ的に猫嫌いの諸兄が使っている手口ですが、オーストラリア政府も「ネコとの戦争」に市民の理解を得るための手段として使ったことは疑いないでしょう。
 しかし、この計画の背景を考える場合、トキソプラズマ以上に政治的ニュアンスが強いのは肉胞子虫問題。
 肉胞子虫はトキソプラズマやコクシジウムと近縁の寄生性原生生物で、中間宿主と終宿主の異なる多くの種が含まれます。畜産で問題になるもののうち、ネコを終宿主とするのは、ウシ・ブタ・ヒツジのそれぞれに感染する3タイプ。ただ、病原性が一番高いのはイヌ科を終宿主とするタイプです。
 報告書の中でも、いつのまにやら絶滅危惧種問題が脇に置かれ、ヒツジの肉胞子虫症の発症に伴う肉質低下による畜産業界への経済的損失が槍玉に挙げられています。

 すなわち、これは「絶滅危惧種を救うための戦略」ではなく、畜産にダメージを与える「ネコを駆除する戦略」なのです。
 絶滅危惧種の保全・回復状況を示す数値目標を掲げるのではなく、駆除数が指標に用いられたのも、まさにそれが理由。
 駆除のための駆除。ネコ殺しのためのネコ殺し。
 「ネコが畜産農家にとって損失をもたらす害獣だから」というのが、「愛らしいビルビーを守ろう!」というスローガンの裏に隠された真の動機なのです。
 上述したとおり、公平を期すなら日本の有害鳥獣駆除と何の違いもないわけですが、あたかも自然保護のためかのように謳っているのが嫌らしいところ。
 たとえ絶滅危惧種ではなく畜産業を守るためであったとしても、他の感染症とのリスク比較や、気候変動等による畜産業界の損失について、公平な検証がなされるべきでしょう。「ネコとの戦争」を掲げるのであれば。

 絶滅危惧種保護・生態系保全を看板に掲げるやり方は、科学目的を標榜しながら実際には「美味いミンククジラ肉の刺身を安定供給するため」(by 本川水産庁長官)に行われている調査捕鯨を彷彿とさせます。


〈3〉目くらまし・その1──開発とネコ

大半のオーストラリアの在来野生動物にとっては生息地の喪失こそ最大の脅威であるにもかかわらず、オーストラリアの新計画は宅地造成や採掘による開発の厳格な禁止より既存の生息地の再生≠謳っている。(〜A)
環境保護団体は連邦政府の新戦略を概ね歓迎したが、生息地の破壊を防ぐ方策とそのための資金調達が欠如していることに疑問を呈した。(〃)

 これは英ガーディアンの報道ですが、非常に奇妙なことです。
 どこの国の場合とも同じく、これらの野生動物たちを追い詰めている最大の要因は生息域の分断・縮小。ネコ騒動以前に反反捕鯨界隈で騒がれたコアラ殺処分問題ですが、同国を象徴する野生動物であるそのコアラを追い詰めている主因もやはり開発であることはよく知られています。

■宅地開発や道路拡張で棲家を奪われる動物たち|オーストラリアの野生動物保護
http://econavi.eic.or.jp/ecorepo/together/224

 コンサベーション系のNGOは、ネコ駆除計画について一応賛同しているところが多いようですが、注文もつけられています(〜A)。
 オーストラリア環境保護基金代表は「一方でこの戦略は、生息地の喪失・断片化という、絶滅危惧種・生態系にとって最大の脅威に対処することに失敗している。新たな保護区の設置や、特に危機的な場所を重点的に保護する施策に、それ以上の投資をすべきだ」と指摘。
 また、同国最大の環境保護団体プレイス・ユー・ラブ(PYL)は、大々的に打ち出された対ネコ戦争の陰でスルーされかけている問題について、懸念を表明しています。PYLが「ワンストップショップ」と揶揄し、ハント環境相に断念するよう求めているのは、開発計画の承認権限を連邦政府から州に委譲する方針。PYLによれば、それらは連邦政府の基準を満たすアセスメントもないままで、このまま承認されれば絶滅危惧種とその生息地に壊滅的な打撃をもたらすだろうと警鐘を鳴らしています。

 この辺の手口が、日本の捕鯨サークルと非常によく似ているなあと、筆者なんかは思っちゃうわけです。
 「ビルビィを救え!」のスローガンは、「クジラが魚を食い尽くす」「海の生態系を壊す」「(ミンクを間引いて)シロナガスを救え!」と唱えるクジラ食害論・間引き論にもそっくり。

 上述したように、ネコによる被害が激化した背景には、牧畜農家たちによる野焼きが影響している疑いがあります。
 感染症による被害者の側面ばかり同政府は強調しますが、生息地を奪われたり、外来種を持ち込まれたり、駆除の憂き目にあった点も含め、絶滅危惧種にとっては畜産農家こそネコに勝る加害者であることは否定の余地がありません。
 シロナガスやナガス、ザトウなどの大型鯨種がまさに日本を含む捕鯨産業の大乱獲によって絶滅の瀬戸際に追いやられた事実にもかかわらず、その責任を問うことなく、ミンクにすべてのツケを負わせようとしている捕鯨サークルのように、オーストラリア政府はすべてのツケをネコたちに回そうとしているのです。
 畜産、鉱業、開発業者が野生動物たちを追い詰めている事実から人々の目を逸らすために。
 乱獲とそれを招く水産庁の無策から、漁業者と消費者の目を逸らそうとする日本の水産庁と同じく。

 業界団体と違ってロビー活動をするわけでもない動物たちは、わかりやすい悪者としてイメージしやすく、格好の標的にされがちです。
 ニンゲンが代弁しない限り自分たちは立場を主張できない最たる弱者≠ナあるネコたちに、すべての皺寄せが押し付けられているのです。


〈4〉目くらまし・その2──気候変動とネコ

 ガーディアンが挙げた開発による生息地の破壊と並び、野生動物の絶滅の主因といえるのが気候変動。
 新戦略の中で政府は、ちょうど「ネコ200万頭殺処分」と並ぶ2本の柱の形で、2020年までの「2000万本植樹」を打ち出しています。しかし、温室効果ガス排出削減の数値指標は何ひとつ打ち出していないのです。
 ネコではないけど、よそでは外来樹種として軋轢を引き起こしているユーカリ、原産国だからそうした問題は起きないにしろ、アカシアやユーカリは寿命が短く、地球温暖化防止の観点からは炭素の一時貯蔵の役割しか果たせません。熱帯雨林等既存の森林面積の減少を食い止めなければ焼け石に水。
 開発規制の具体策なしで駆除を進めるのと同じく、環境対策としては植樹は気休めでしかないのです。
 ちなみに、イオンの社会貢献植樹が累計ながら1000万本超。環境にやさしいイメージ作りにはもってこいなのでしょうけど・・。

 気候変動対策は温室効果ガスの排出削減が何より最優先であることは言うまでもありません。
 そこで問題になるのが、一昨年の選挙で労働党から政権を取り戻した自由党アボット政権により、大きく後退したオーストラリアの気候変動対策

■オーストラリア、再生エネから火力へ 政権交代で大転換 (3/16,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASH2R4WQQH2RUHBI01B.html
■炭素税廃止に動くオーストラリア、G20で孤立の恐れ ('14/6/30,英フィナンシャルタイムズ)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41098
■「直接行動気候変動対策法案」通過 ('14/11/1,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/80369/
■気候変動局、直接行動計画を批判 ('14/12/23,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/85200/

 実のところ、アボット政権は日本のアベ政権とともに気候変動対策に超後ろ向きな姿勢で批判を受けています。
 アボット首相はG20でも「石炭の重要性」を説く逆行ぶりで浮きまくり。
 さらにはこんなブッ飛んだ話まで。

■気候変動懐疑派センターに政府出資 (4/23,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/95059/
■Climate Hoax Aimed at New World Order, Says Aussie PM Advisor (5/11,TAPBROG)
http://tapnewswire.com/2015/05/its-about-a-new-world-order-under-the-control-of-the-un/

 アボットの側近はトンデモな地球温暖化陰謀論者というわけです・・・。

 オーストラリア政府の報告書(N)には、ネコの被害を被る絶滅危惧種のリストが掲載されていますが、そこに「ネコの捕食と同等もしくはそれ以上の脅威」という項目があります。リストアップされた84種のうち15種に気候変動の影響が挙げられています。
 また、野火の影響は39種。気候変動は乾燥によって天然の火災が発生しやすい状況をもたらしている大きな要因。
 野火の発生はまた、その後に野生動物がネコに捕食されやすくなる大きな要因ともなっています(O)。おそらく、近年の被害の増加にも関係しているでしょう。
 ネコの被害が軽微ないし関係ない在来種も含め、気候変動によって大なり小なりの影響をほぼすべての野生動物が受けていることは疑念の余地がありません。

 植樹がただのパフォーマンスにすぎないことは、誰の目にも明らかです。
 絶滅危惧種のためにアボット政権が本当に戦うべき相手は、ネコではなく、温室効果ガス排出責任の非常に大きい、国内の石炭業界・畜産業界のはず。

 地球温暖化をすり替えや宣伝に利用することはあっても、真剣になどまったく考えていないのは、日本の捕鯨サークルとまったく一緒。
 鯨研は以前、調査捕鯨の存続という利己的な目的のため気候変動問題を口実にしようと目論見ました。
 ところが実際には、遠洋捕鯨は温室効果ガスの大きな排出源なのです。
 一方で、クジラはオーストラリアのユーカリにも勝る重要な炭素固定源。
 自分たちの責任の所在を覆い隠すために、罪のない動物を利用する──。
 その構図は、オーストラリアのネコ駆除と日本の捕鯨で何も変わっていません。

■調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/18846676.html
http://www.kkneko.com/english/blubber.htm
■捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/35896045.html
http://kkneko.sblo.jp/article/36133867.html
■援用調査捕鯨は地球にやさしくない(拙HP)
http://www.kkneko.com/co2.htm


〈5〉アボノミクス効果?

 オーストラリア政府の打ち出した対ネコ戦争プランには、さまざまな項目が並んでいます(P15〜25)。
 各研究機関から農家等土地所有者、害獣駆除業者、農薬メーカーまで、各方面に予算が配られる仕組みになっています。
 フェンス代、メンテナンスその他の人件費も含まれますが、中にはメディアにも取り上げられたノラネコ通報携帯アプリ開発なんてものも。
 百花繚乱の印象ですが、不明な環境への影響・生態をこれから解明する研究を含め、進展度合はバラバラ。
 これはネコをダシに使ったバラマキプロジェクトのひとつといえるでしょう。
 義援金を募ったり、「誰もが手軽に利用できるアプリ」を武器≠フひとつに加えたのは、国民総動員の「戦争」に民兵として市民も加わってほしいというメッセージが込められているのでしょうが・・。

 ここにも捕鯨ニッポンとの相似形があります。
 東北大震災の復興名目の予算を、ジャンボタニシ駆除や鯨研の赤字埋め合わせに使ったり。
 さらに復興予算があてがわれた調査捕鯨事業で、捕鯨城下町下関市が我田引水の経済効果を当て込み母港招致運動を行ったり。
 「対ネコ戦争」というド派手なキャッチフレーズ、「200万殺猫&2000万植樹」という一見わかりやすい数字を使ったPRには、実はもうひとつの大きな狙いがうかがえます。

■アボット支持率、再び下降線たどる (6/15,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/99150/
■アボット政権支持率遂に大暴落 ('14/5/19,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/61157/

 昨年からアボット政権の支持率は大きく下がり、今年5月に一時持ち直したものの、再び野党労働党を下回る結果に。
 昨年の世論調査からは、鉱業資源使用税廃止や炭素価格付け制度廃止など、政権交代後の方針転換が世論から反発されているのがわかります。実の妹が同性愛者ながら同性婚に反対しているアボット首相の姿勢に対する批判も。
 そうした不人気を打開するひとつの方策として掲げられたのが、「ネコ殺しと植樹」だったわけです。
 今のタイミングで、それまで存在しなかった「200万殺猫」(2000万植樹)という数字が唐突に飛び出したのは、最初に解説したとおり、ハント環境相が部下に強い指示を与えたから。
 アボット政権がこんなに環境保護に積極的だというPR。
 実際には気候変動にも開発規制にも恐ろしく後ろ向きな、環境にまったく優しくない政権だということを隠すカモフラージュ。
 それ以外の理由は考えられないでしょう。
 まさに安全保障政策、原発推進政策など、国民の過半数の反対を押し切って強引に進める不人気施策に対する批判をかわすべく、絶妙のタイミングで新国立競技場建設の見直しを表明した安倍首相の姿に重なります
 マスコミにがっちり支えられてきた安倍政権が、安保法制問題でようやく支持率低下の兆しを見せ始めたのに比べると、アボット首相の人気はもっと前から下り坂に入っていたわけですが。
 アベ&アボ(ット)コンビ、どこまでも似てますよね・・・

 オーストラリアは野生動物保護、海洋生態系保護、持続的水産業にかけて、総合評価で日本の上を行くお手本というべき先進国。
 お国柄として稀少な野生動物保護に熱心な背景には、フクロオオカミをはじめとする多くの固有種を絶滅させてしまったことへの強い後ろめたさもあるに違いありません。先住民アボリジニを迫害した歴史を含めて。
 アボット首相とハント環境相が、そうした国民の良心の呵責を利用しつつ、重要な環境施策を後退させるならば、そのやり方は到底誉められたものではありません。


《オルタナティブ》

 ハント環境相は、ネコに対して「戦争」を吹っかけると宣言しました。
 テロリストや麻薬マフィアとネコたちを同等に扱おうとしました。敵≠ナあり、悪≠ナあると。
 ハント氏は「ネコを憎んでいるわけではない」と釈明していますが、戦争≠ニいう物騒な用語を用いることと明らかに矛盾しています。
 科学的な見地から淡々と進める野生動物保護政策・外来種対策ではなく、これは「戦争」だとはっきり言ったわけです。

 本来なら、日本国内の狩猟、有害鳥獣駆除、外来生物駆除、犬猫殺処分に対し、外国人がとやかく言えた立場ではないのと同等、オーストラリアの内政問題ですから、日本人の立場で口出しすべきではないのかもしれません。
 しかし、日本は憲法のもと、戦争を放棄した国です。
 世界で起こっているすべての戦争・紛争──パレスチナからイラク・シリア、ウクライナまで──に対し、「NO」と言うのと同じように、オーストラリアで起ころうとしている「対ネコ戦争」に対しても、やはり「NO」と言わないわけにはいきません。
 いままさに、海外で自国が関わりない戦争に先制攻撃までできちゃう「フツウ?の国」にしようと安倍政権が画策している真っ最中なわけですけど・・・・
 アボット首相も、米国に次ぐ事実上の軍事同盟相手として、日本の安全保障に対する考え方がひっくり返ることに歓迎の意向を表明しましたけど・・・・

 戦争の反対は平和
 誰もが知っている答え。言葉の定義が完全に破綻している安倍首相は別にして。
 私たちニンゲンが、ルーツを等しくするとはいえ曲がりなりにも文明的な動物種であるなら、やはり暴力に頼り、相手を攻撃し、殲滅するのではなく、平和的な問題解決を図るべきです。ネコたちに対しても。
 1000%責任を負っているヒトが、それを試みることなく最初から投げ出すことは、決して許されません。

 幸い、平和を愛する(ハズの)日本には、そのための対案が用意されています。殺さずに被害を減らすという。

■小笠原自然環境保護活動について|東京都獣医師会
http://tvma.or.jp/news/2014/05/post-8.html
■天売島のネコが来園しました|しいくにゅーす(旭川市旭山動物園)
http://asahiyamazoo1shiikunews.blogspot.jp/2015/06/blog-post_24.html
■徳之島ごとさくらねこTNR事業|どうぶつ基金
http://blog.livedoor.jp/sakuramimimi/archives/40834271.html

 これらのプロジェクトは現在進行形ですが、小笠原・父島では一定の成果が挙がっています。
 ウトウ・ウミネコ、アマミノクロウサギ、アカガシラカラスバトといった絶滅危惧種のためには、オーストラリアと同様、手っ取り早く殺す方が、あるいは楽かもしれません。
 しかし、面倒だから、金がかかるからという理由で、平和より暴力を選ぶなら、ヒトにはもはや万物の霊長を名乗る資格はありません。ただの暴君に成り下がってしまいます。

 ノネコ・ノラネコ・外猫(地域猫)・飼い猫の間には生物学的な違いはありません。東京都獣医師会は、ワイルドな小笠原のノネコの馴化に成功しています。
 オーストラリアのノネコの場合、ほとんどヤマネコと化しているところもあるでしょうが、挑戦する意義はあるはず。

 絶滅危惧種保護のための予算はすべて、ノネコ自身の生態と個体数動態、ネコの被害が急速に拡大した原因の究明、その他未解明な絶滅危惧種自身の生態解明に注がれるべき。そして、待ったなしの課題である徹底的な開発規制と気候変動対策に振り向けられるべきなのはいうまでもありません。
 これまで説明してきたとおり、また大手動物保護団体が指摘しているとおり、5年で200万頭殺処分という数字には科学的根拠も実現性もありません。
 風呂敷を広げて武器の種類・殺し方を増やし、あれこれ試すのに資金を注ぎ込むのではなく、生かす方法に絞って投じられるべき。単純に非効率です。
 後は、フェンシングによるネコフリー保護区を欲張らずに設定し、徐々に広げ、増やしていくこと。
 ミミナガバンディクート等の絶滅は、最低限のフェンシングで回避できるはずです。危急なのはやはり開発規制と気候変動対策。
 捕鯨ニッポンでさえできていることを、端からできないと匙を投げるのを、オーストラリアはと知るべき。
 正直、1頭も殺してほしくはないところですが、殺処分は日本における殺処分数、年間10万頭以内に。
 そして、人道面に関してはパーフェクトクリアであること。
 人道的側面で「できる限り」などと嘯くのは、やはり日本人に対してあまりにも不誠実です。


 Mの戦略計画の中には、クジラも2箇所ばかりチョロッと登場します。言葉だけで中身は何もありませんが。
 日豪EPAおよび防衛装備協定の交渉時、両首脳の間で密談が交わされたのではないかと囁かれました。
 自民党の捕鯨族議員が抱いたのは、捕鯨をオーストラリアに売ったのではないかという要らぬ疑念でしたが、もちろん真相は真逆。
 日本はオーストラリアに、捕鯨サークル以外の日本の一次産業と平和を売りました。米国に対してと同様。
 オーストラリアは日本に南極のクジラを売りました。
 そうして、似た者同士のアベとアボ(ット)のWIN-WINの関係が築かれたわけです。

 事実、ICJ判決の趣旨に従い中止されるべきだったJARPNU(北西太平洋調査捕鯨)や、穴だらけの張りぼてでありながら強行されようとしている新南極海調査捕鯨計画に対し、オーストラリアは国連安保理に図るなり、ICJに再提訴するなり、毅然とした態度で臨むことが可能だったのです。しかし、アボット政権は何ら策を講じようとはしていません。
 国際裁判の決定的な裁決を勝ち取ったのは、いわば前政権・野党のお手柄といえますから、アボット氏にしてみれば、敵に塩を送るのを嫌がった面もあるでしょう。
 国民のクジラへの関心は、ビルビィへのそれと同様、口先でかわせるという判断も。
 いずれにしろ、アボット氏にとっては日本との商売が優先で、クジラのことなぞどうでもいいわけです。
 ビルビィをかわいがるふりをしながら、政治的に癒着した業界の利益を野生動物より重んじるように。

 そういう意味では、ネコも、クジラも、他の野生動物たちも、みな犠牲者といえるでしょう。
 アボット政権の掲げるプロパガンダ戦争による。
 オーストラリア市民には、国が引き起こそうとしている戦争を止める責任があるはずです。


 最後にもうひとつ、日本の捕鯨とオーストラリアのネコ駆除の共通点について。
 オーストラリアは自国のネコに対して戦争≠仕掛けました。
 日本もまた、はるかな南極の海で戦争を繰り広げました。
 海外のTVで「クジラ戦争」と報じられたように、調査捕鯨船団と実力行使型反捕鯨団体SSCSとの戦争──ではありません。
 両者の争いは、酪酸弾や放水砲、音響兵器が用いられ、双方怪我人を出したにしろ、やはり互いに演出を心がけたプロレスといった方が当たっています。
 戦争の相手は南極の自然。
 両者の違いをあえて言うなら、オーストラリアが一応自衛の要素を持つのに対し、日本は70年前の太平洋戦争にも似た侵略といえますが。

 しかし、その2つには間違いなく共通点があります。
 自然と命に対する支配、そして征服。
 ニンゲンは、生き物たちを増やすも減らすも思うがままに操り、自然を完全にコントロールすることが可能だという、とてつもない傲慢。
 それは、調査捕鯨の動機づけとなる生態系アプローチや、間引き論・食害論といった擁護派の主張に如実に顕れている発想そのものです。
 ネコ駆除計画を推進するオーストラリアの研究者も、調査捕鯨に携わる日本の御用鯨類学者も、その思想の根本に違いはありません。
 しかし……外来生物問題を引き起こしたのも、カンガルーやシカの増加を招いたのも、乱獲の限りを尽くして南極海生態系をズタボロにしたのも、すべてはニンゲンの身勝手さと無知にほかなりません。
 海の自然を管理し、魚もクジラも資源として欲望の赴くままに貪れると思い込む日本の驕慢。
 か弱い野生動物の守護者を自称し、ネコたちをいかようにも制御できると思い上がるオーストラリアの尊大さ。
 今に至ってもなお、新たな外来動物問題は世界中で引き起こされ続けています。種の多様性の喪失はとめどなく進行しています。
 それは、ニンゲンが自らの能力を過信するばかりで、現実から何も学んでいないことの証拠といえないでしょうか。
 そうしたニンゲンの愚かさ・コントロール症候群に対し、小説/映画『ジュラシック・パーク』で警鐘を鳴らしたのはSF界の巨匠クライトンでした。
 福島第一原発事故もまた、ニンゲンの予測能力があてにならないことの証明。
 いま、私たちニンゲンに必要なのは、自然に対する謙虚さであり、これ以上生き物たちに迷惑をかけないよう、自らの振る舞いを改めて見つめ直すことではないでしょうか。


■オマケ・外来生物問題への愚痴(拙ツイログ)
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-150226


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2015年06月25日

水族館の未来

◇これが漁業史の真実──クジラは恵比寿、捕鯨は厄介者

 チェックしてね〜

■『八戸浦”くじら事件”と漁民』に見る、漁民から見た捕鯨
http://togetter.com/li/837408

 
◇がんばれ産経新聞!?

■Japan to resume whaling hunt despite IWC warning (6/20,AFP)

The IWC said Friday that Japan had failed to provide enough detail to explain the scientific basis of its "NEWREP-A proposal", which would target 3,996 minke whales in the Antarctic over 12 years. (引用)

 この6/19に公開された、IWC-SC(国際捕鯨委員会科学委員会)サンディエゴ会合の公開された議事内容についての報道。
 詳しい解説はNGOと研究者にお任せするとして、海外ではご覧のとおり、日本が非常にイタイポカ≠やらかしたことを正しく伝えています。
 一方、NHKをはじめとする国内の報道機関は「両論併記」とだけ。口の巧い森下代表にすっかりだまされるばかり。
 そんな中、いっつも捕鯨問題については他社より3倍は多く記事を書いて(といっても半分方SSCSネタだけど。。)読者に酒の肴を提供している産経新聞から、なぜかまだ報道がありません。
 実は産経さん、会議が始まった日に1本載せちゃってるんですよね〜〜。

■日本の調査捕鯨計画を議論 22日から米国でIWC科学委員会開催 (5/21,産経)

水産庁によると、4月の専門家会合の勧告でも、勧告の趣旨である致死的調査などの必要性の立証と関係ないものが約半分を占めていた(引用)

 AFPが伝えるとおり、SCレポートには水産庁が自ら「必要性の立証がある!」と自慢げに言っちゃった宿題≠熬出できなかったことが書かれちゃってます。
 いつも無署名が多いけど、大半はきっとSSCS問題もとい捕鯨問題にとぉーっても詳しい佐々木記者が書いてんだよね。
 彼個人のツイログでも、重要な国際会議の結果についてはなぜかダンマリを決め込んでるけど・・・
 さあ、産経さん。前月の記事は詳細な解説で他紙を引き離していましたよ。結果がどうなったのか、購読者だって気にかけてるのでは? いつも意味もなくSSCSに絡める佐々木節に、みんなが期待してるはず。
 さっさと記事を書いておくれ! 応援してるよっ!


◇水族館の未来を考える

 この一ヵ月、ジャザワザジャザワザと騒がしかった日本。
 何しろ、一連の問題が報じられるまで、WAZA(世界動物園水族館協会)のことも、JAZA(日本動物園水族館協会)のことも、ほとんどだぁれも知らなかったわけですからね・・。
 今回、JAZAは民主的な形でWAZAへの残留を決定しました。その会員組織として、これまで培ってきたノウハウを野生動物の種の多様性保全に活かすとともに、WAZAの定めた倫理規定に基づき、展示動物の福祉についてもしっかり取り組んでいくという決意を新たにしたのです。
 以下はJAZAの総裁秋篠宮殿下の象徴的な発言。

「難しい判断だったと推察するが、今回の意思決定は協会全体として将来的にプラスに働くと思う
協会がWAZAから除名されると、今後の希少動物の繁殖や種の保全に大きな支障が出て、日本がその分野において国際的な貢献がしにくくなる。日本に古くから伝わる文化の問題と、協会がWAZAの組織の一員であるということは分けて考える必要がある(引用)

■秋篠宮さま、JAZAの対応「将来プラスに」 イルカ漁(5/29,朝日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11779452.html

 ご存知の方も多いでしょうが、秋篠宮殿下はJAZAのほかWWFJの総裁もなさっています(ちなみに、WWFインターナショナルの名誉総裁は英国のエジンバラ公)。オックスフォード大で動物学を学び、ロンドン自然史博物館等にも在籍されたことがあり、単なる飾りではなくこの分野に対して深い造詣をお持ちの方。その彼がここまで踏み込んだ発言をしたのは、皇族の発言という以上の重みを有しているというべきです。
 諸外国に比べても決して開かれているとはいえない日本の皇室の事情を考えればやむを得ないでしょうが、本当は彼にはもっと、せめて英王室くらいフランクにいろいろ発言してほしいと思うんですけどね。まあ、あえてこれ以上天皇制の問題には触れませんけど。

 何はともあれ、これで動物園・水族館が本来果たすべき役割・使命について、国内で幅広く認知されるきっかけとなったなら、さんざん振り回された当のJAZAと加盟園館にとっても意味はあったといえるでしょう。

■動物を理解しよう 動物をまもっていこう 世界動物園水族館戦略|JAZA
http://www.jaza.jp/jaza_pdf/waza_pdf/WZACS_short_jpn.pdf

 WAZA/JAZA除名勧告騒動をめぐる、イルカと水族館の問題については、前回の記事及び以下の良質の報道とまとめサイトをご参照。

■沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/133050478.html

■イルカと水族館問題からみる日本と欧米のギャップのわけ (6/19,WEDGH) ※C
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5075
■イルカ問題について 感情論ではなく、世界の趨勢をみる (6/19,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO87963120R10C15A6000000/
■水族館からイルカが消える!? 〜国際批判に揺れる現場〜 (6/10,NHKクローズアップ現代)
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3666.html
■「環境水族館」館長に聞く、イルカショーに頼らない水族館経営|Altana
http://www.alterna.co.jp/15120

■野生動物を展示するということ|ika-netブログ
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-83ed.html
■人間の娯楽のために野生動物を消費することは許される?|SIPPO-朝日
http://sippolife.jp/issue/2015061500001.html
■「耐久消費財」のイルカを見に行く?|日経WOMANONLINE('10/8/18)
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20100810/108165/?P=1&rt=nocnt

■いるか漁業(追い込み漁)と生体販売の関係 ※B
http://togetter.com/li/824325
■「池上彰のニュースそうだったのか!!2時間SP」の中で言及されたWAZAJAZA問題部分まとめ ※A
http://togetter.com/li/837312
■国内飼育下イルカの繁殖、近親交配の心配をするのはまだまだ先の話。
http://togetter.com/li/824765
■WAZAによるJAZAへの協会会員資格停止通告と、これまでの飼育下鯨類をめぐる環境についての一連ツイート
http://togetter.com/li/821186
■JAZAシンポジウム 「いのちの博物館の実現に向けて−消えていいのか、日本の動物園・水族館」第5回 於:富山 に参加された takibata さんの私的まとめ
http://togetter.com/li/689412
■水族館とイルカ 何が問題なのか?
http://togetter.com/li/825880
■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)  ※@
http://togetter.com/li/834969


 つづいて、《秋篠宮殿下の爪の垢を煎じて呑ませたほうがいいで賞》の発表ニャ〜

<1>和歌山県知事・仁坂吉伸氏

「考えてみたら、水族館は捕ってきたものを結構展示していますよね。それで養殖して繁殖させたものというか、飼って繁殖したものだけを展示するんだったら、今の水族館で展示しているものの何分の1ぐらいになってしまうのではないですかね。希少種なんて絶対できないよね(引用〜5/13)
「それで相手を支配する相手の頭を支配するようなそういう工作なんて全然しないよね。だから、そういうことをもうちょっとこちらも働きかけて、一緒になってやるべきであったという悔いはありますね。今度、じゃあ決定されたと、だけど、世界の方でこの考え方を覆すようにしてもらわないといけませんね。それで、文部科学省や水産庁とかにも協力を願って、もっと有効に今度はちょっとこう変えてもらおうじゃないか、というようなことをして行きたいと思っていますね」(引用〜5/26)
考える能力のない組織かもしれない」(引用〜朝日記事)

■平成27年5月13日/26日 知事記者会見
http://www.pref.wakayama.lg.jp/chiji/press/270513/index.html#d270513_qa
http://www.pref.wakayama.lg.jp/chiji/press/270526/index.html#d270526_qa
■野生イルカ入手で資格停止「いじめだ」 和歌山知事批判 (5/13,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASH5F3JH7H5FPXLB005.html

 イジメ発言で物議を醸した仁坂知事の発言、鈍いマスコミはともかく、一般の方々からもあまりの無知無理解に驚きの声があがったほど。
 13日の会見の引用部分、要するに「希少種を展示するには野生種を獲ってこなきゃ!」と言ってるんだよね。。。。
 WAZAの会員組織だからということでなく、JAZA自身が明確に理解している種の保全の使命。希少種を野生から獲ってくるなんて、一体このヒトの脳ミソはいつの時代で固まっちゃってるんでしょう!!??
 動物園がどれほど苦労して、稀少種を野生調達に依存しないですむようにと繁殖に取り組んできたか、そして、いま乱獲による激減が問題視されているクロマグロの完全養殖への取り組みがなぜなされているのか──。
 仁坂氏はおよそ野生動物保護、種の多様性保全、水産資源保護、いずれの分野についてもおそろしく不勉強だといわざるをえません。
 朝日記事で紹介されたWAZAに対する「考える能力のない組織」というある種の誹謗、ウェブキャストでは確かにそのとおり発言されているのですが、県のHPのページ上の記述ではなぜかカットされています。まあ、上掲の発言だけでも、考える能力がないのは明らかに仁坂知事のほうですが。
 そして26日の「支配」「工作」という物騒な発言は、仁坂氏の外交に対する認識を端的に示すと同時に、「WAZAの一員として国際貢献していきましょう」という秋篠宮総裁の意見表明とあまりにもかけ離れています。時間をかけて培われた、いまや日本を含む先進国の動物園が(ある程度は日本の水族館も)受け入れている流れにまさに逆行することを、工作によって推し進めようとしているわけです。「相手を支配」「相手の頭を支配」して、動物園・水族館のグローバルスタンダードをひっくり返そうと。
 JAZA総裁・秋篠宮殿下はきちんと理解されていますよ。仁坂殿は、彼の頭を支配≠オなければいけない、「考え方を覆すようにしてもらわないといけない」とおっしゃっているのでしょうか??

<2>自民党参院議員(和歌山県選出)・鶴保庸介氏

「WAZAが言ってきたのは追い込み猟そのもの。やり方がどうあれそれが残酷だと言っている」
「ペンギンも、水族館で陳列されているものはすべてが残酷だと考えているのか?」(引用〜上掲まとめ@)
 
 まとめはテレビ愛知放送の討論番組「激論コロシアム」上での鶴保氏の発言。WAZAの声明や倫理規定には何も目を通していないのみならず、動物園・水族館をめぐる問題にまるっきり無知・無頓着であることがモロバレ。

■文化無視の要求と戦う 太地のイルカ漁・捕鯨を守る|わかやま新報
http://www.wakayamashimpo.co.jp/2015/06/20150602_50509.html

 氏のブログ(なぜか地方紙のHP上にスペースを設けてもらっている)を読んでも、伝わってくるのはSSCS憎しの感情ばかり。内外の野生動物の問題を真剣に考える姿勢は微塵もうかがえません。
 ぜひ爪の垢煎じて呑んでほしいですニャ〜。

<3>ジャーナリスト・池上彰氏

「WAZAは希少な動物の取引の助言をおこなっているため、希少動物が手に入りにくくなる」
「この問題をめぐり日本の動物園と水族館が対立
「日本以外の追い込み漁は自然保護団体から非難されていても、世界動物園水族館協会からは非難されていない」
「(わんぱくフリッパー云々の説明の後)そのような理由からWAZAはJAZAを資格停止にし、状況がかわらなければ除名すると通告」(引用〜上掲まとめA)

 大物ジャーナリストの池上氏にしちゃ、あまりのもボロッボロな解説。これじゃまるでWAZAが希少な野生動物の取引を扱う動物商コンサルタントみたいじゃないですか・・。JAZAの方針や、日本が取りざたされた理由についての詳しい補足はまとめにあるとおり。
 こうしたいい加減すぎるコメントからは、除名勧告をめぐる一連の動きも、動物園水族館問題全般についても、取材と熟考を怠っていることが明白です。過密スケジュールのせい? 宣言どおりTV出演は断ってりゃよかったのに。。
 まあ、少なくとも環境問題・野生動物保護問題・動物福祉問題については、彼はお世辞にも一流とは呼べません。ICJ判決の解説もメチャクチャでしたしね。。知名度の高さ、親しみやすく中立・公平そうな♀轤ェ売りの元NHKのお父さんを担いで視聴率を稼ごうとするTV業界に、問題の根源があるのでしょうけど・・

<4>ノンフィクションライター・降旗学氏

おそらくは、エコテロリスト集団(幹部はキャロライン・ケネディ駐日大使の従兄弟)の主張を支持しているのだろうが、動物園と水族館の国際組織・世界動物園水族館協会は、大地町のイルカ漁と、その追い込み漁で捕獲される野生イルカを日本の水族館が購入していることを「問題視」し、このたびの資格停止を議決した。
大地町の追い込み漁は、世界協会の「倫理規定」に反する、と言うのである。で、私たちはあ然とするのである。偉そうに言うけど何なの、倫理規定って。(引用)

■水族館からイルカが消える? 世界動物園水族館協会と朝日新聞に共通の偏向
http://diamond.jp/articles/-/71989

 今回、動物園・水族館問題の背景への取材・認識不足のまま適当に伝えた記事・報道が多かった中でも、ダントツのザンネン賞記事を書いちゃったヒト。
 ノンフィクション・ライターを名乗りながら、200%の先入観で取材対象を捉えているのが文章の端々からうかがえます。朝日の慰安婦報道とJAZA/WAZA問題を無理やりドッキング、朝日とWAZAの共通性に着目したらしいですが、もう目が点になるばかり。。
 なんでもかんでも朝日への恨み節にからめないと気がすまないんですね〜。まあ、このダイヤモンドオンラインの連載コーナーでもしょっちゅう朝日たたきばっかりしてるみたいですが・・。
 引用について補足。キャロライン・ケネディ駐日大使の従兄弟、ロバート・ケネディ・Jr.氏の肩書きは環境活動家ですが、彼はSSCS(シーシェパード)の幹部でも何でもないです。日鯨研が米国連邦裁判所にSSCSを訴えた際、環境法の専門家でもあった彼が法廷代理人を買って出たというだけ。ケネディ大使の発言に親戚の影響があったとしても不自然ではないかもしれませんが、「WAZAが大使の従兄弟の主張を支持」というのは、朝日の瑣末な誤報とは比較にならないとんでもない暴論。
 「何なの、倫理規定って」と言いながら、WAZAのHPで誰もが簡単に読めるWAZAの倫理規定に何一つ目を通していないことも丸わかり。
 朝日記事と産経記事を参考にしたとのことですが、秋篠宮JAZA総裁のお言葉は目に入らなかったんでしょうね・・。

<5>共同通信記者(署名なし・・)

「追い込み漁のイルカ入手をめぐる、世界協会による規制の限界を浮き彫りにした」(引用)

■和歌山・太地イルカ半数は海外に 200頭以上で中国トップ (6/6,共同)
http://www.47news.jp/CN/201506/CN2015060601001919.html
■太地イルカ 半数輸出 専門業者が12カ国へ (6/6,東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015060702000130.html

 オピニオン系はそもそも内容がなく管撒いてるだけのものが多いのですが、事実関係をめぐる報道としてこれはきわめて問題が多く、悪質な記事。
 池上解説同様、主語抜きで「各種統計から分かった」「明らかになった」と言っていますが、公的なデータに基づく分析も含めた詳細はずっと以前にフリー・ジャーナリストとNGOが公開していました。

まとめB
■日本がイルカの供給源になっている/イルカビジネスの実際|ヘルプアニマルズ
http://www.all-creatures.org/ha/saveDolphins/dolphin2.html
■イルカの輸出頭数の推移|エルザ自然保護の会
http://elsaenc.net/dolphihunt/dolphin_statistics/
■日本からの月別のイルカの輸出数(2012年〜2013年)|PEACE
http://animals-peace.net/wp-content/uploads/dolphin_export2012-2013.pdf

 記者は一応2002年以前の1999年からの数字を拾ってオリジナルであることを強調しているつもりなのでしょうが、いずれにしろフリー記者と市民団体の二番煎じにすぎず、この共同記者の取材で何か新たな事実が出てきたわけではありません
 とりわけ重大な誤解を招く表現が上掲の引用。「WAZAが追い込み猟を規制している」とか、「日本だけを標的にしている」という事実は何ひとつありません。これまで各方面で解説されてきたとおり、会員組織であるJAZAに2004年からある自組織の倫理規定の遵守を求めただけ。
 再度秋篠宮殿下のJAZA総会時の発言を引用しましょう。

「協会がWAZAの組織の一員であるということは分けて考える必要がある」(引用)

 それがまったくできなかったのが、この共同通信の無署名記事を書いた記者だったわけです。

この間、太地町以外に漁による生体販売の実績はなく「ほぼ全てが同町で捕獲された小型鯨類とみられる」(水産庁関係者)という。輸出先は中国二百十六頭、ウクライナ三十六頭、韓国三十五頭、ロシア十五頭など十二カ国に及び、この中には米国一頭も含まれる(引用)

 これは事実に反します。「米国も太地から買っているのか」「米国も太地から買っておいて、なぜ日本だけを狙い撃ちするんだ!」と読者に思わせることを狙ったかのような、非常に悪質なミスリード
 確かに、貿易統計には、2012年3月に米国向けに輸出された生体イルカ1%ェという数字が出てきます。実はこれ、鴨川シーワールドからサンディエゴ水族館に引っ越したマゴンドウのアルゴ。この子は2004年に近くの守谷海岸で保護され、鴨シーで保護されることに。その後、寂しいからどこかに集約したほうがいいねという話になり、それぞれ1頭、2頭飼育していた鴨シーからサンディエゴへと引っ越すことが決まったわけです。

■SEAWORLD SAN DIEGO|ceta-base
http://www.ceta-base.com/phinventory/ph_swc.html

 ついでに、東京記事には「漁協は暴利をむさぼることはせず」(引用)とありますが、太地漁協の生イルカ≠ヘ売上原価460万円に対して売上収入2,669万円、粗利率でなんと8割超。常識的に見て暴利≠ニ言われても仕方がありません。

■太地町開発公社平成25年度損益計算書
http://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/33027399.html

 同じ共同通信所属で長年環境問題を取材し傑出した記事を書いてきた井田記者の、コンパクトで要点を的確に伝える記事(C)とは天と地ほどの差。
 池上氏、降旗氏とともに、井田記者の爪の垢も煎じて呑むべし。

<6>東京海洋大学教授・加藤秀弘氏

「水族館は人工繁殖だけでなく、自然界の個体を含めた展示で、人間と自然界の関係を理解させる場
「より良い展示を目指す世界協会が、除名を盾に、日本協会に追い込み漁のイルカ入手禁止を求めたことは、一種の見せしめ印象があり、禁止を理由に、協会から脱退する水族館が出れば、世界協会が目指す本来の役割も担えなくなるのではないか」(引用)

■日本だけが標的、見せしめ、世界協会の限界 (6/7,和歌山放送)
http://wbs.co.jp/news/2015/06/07/62003.html

 おなじみ、調査捕鯨御用学者の加藤氏。
 彼の口から「人間と自然界の関係を理解させる場」なんて言葉が飛び出すと、自然に対する征服感が伝わってくる気がするんですけどねぇ。。人工環境で展示している以上、繁殖か野生調達かで理解度が変わるはずもないのですが。
 WAZAとJAZAの各種方針、秋篠宮殿下のコメントをぜーんぶ読み返して、何が「WAZA/JAZAの目指す本来の役割」なのか、一から勉強すべし!

<7>産経新聞記者・佐々木正明氏

「野生のイルカの入手を制限すれば、次はキリンやゾウなど他の動物の獲得や飼育、園展示にも影響してくる。主要国の動物園、水族館を束ねるWAZAは今回の決断で、自分の首を自分で絞めたのだ−−。動物園や水族館の運営に詳しいある関係者はこう漏らした」(引用)

■カンヌ映画祭に登場したシー・シェパード代表 水族館イルカ問題にも便乗 (5/26,WEDGH) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5008

「水族館のかわいいイルカたちは、子供たちに海洋保護の大切さと動物のいのちの尊さを教えてくれているはず。飼育されている他の動物たちもしかりです。イルカや太地町だけを取り上げて圧力をかけるのは何故なのでしょうか?」(引用)

「水族館や動物園にも、だいぶ反省材料があることを関係者も自覚されています。改革が進むきっかけになればいいですね。そして、今回の問題は動物園や水族館とはそもそも何なのかを考える契機になればと、願っております」(引用)
http://twitter.com/izasasakima/status/601568448217362432

 ご存知、捕鯨サークルとベッタリの産経新聞で捕鯨問題ならぬSSCS問題を熱心に書き散らし続けている、付ける薬のない二枚舌記者氏の記事。産経記者らしく、「詳しい関係者」なる人物の詳しい出自は不明。もし、引用箇所が佐々木氏のメモ違いではなく、本当にそういう発言をしたのであれば、この人物が動物園・水族館の運営にまったく詳しくない人物であることは否定の余地がありません。
 関係者や動物園ファンなら誰もが理解しているとおり──そして秋篠宮殿下が具体的にコメントしたとおり、他の動物の展示にも影響してくるからこそWAZA残留を求める票が多数を占めたのにね・・。
 ひょっとして自分のこと?? 動物(テロ)専門家だからとか。。。
 この御仁が会員資格停止問題のタイトルで出しているまとめですが、WAZAやJAZA、各メディアの報道といった一次・二次ソースはひとつも提示されず、自分のコメントをまとめただけ・・。プロの新聞記者だから自分こそがソースだと思ってるのかしらん?
 2番目のツイートは、狂信的な反反捕鯨論者が秋篠宮殿下の名前を引き合いにしたツイートに対するRT。
 筆者もさすがにここまで動物愛誤≠サのものの文章は初めて見ました。。稚拙な情緒的表現のうえに文法までなっていません。要約すると、「いのちの尊さを教えてくれるはずなのに、なぜ太地町にだけ圧力をかけるの?」だよね。。
 もし、本当に「海洋保護の大切さといのちの尊さ」を水族館のイルカたちが教えてくれるのであれば、数の上でも世界で最も多くの水族館を抱え、太地町産イルカの比率では圧倒的な(今回の一件で中国にはじきに抜かれるかもしれませんが・・)日本では、動物福祉と水産資源保護において他の先進国に抜きん出る高い水準に達していておかしくないはずです。その日本でなぜ、ウナギやクロマグロの乱獲が未だやまず、人口当たり食料廃棄量が最悪で、犬猫の行政による大量炭酸ガス殺処分がまかり通り、畜産動物・実験動物も含めた動物福祉の水準が著しく低いのか、一体佐々木氏は自分の頭で考えることができないのでしょうか?
 実際のところ、彼は3番目の引用箇所のように殊勝に聞こえる発言もしている(でもいかにも他人事だよね・・)のですが、肝腎の彼の書いた記事中には、具体的な「反省材料」の中身や、「動物園や水族館とはそもそも何なのか」についての彼自身の洞察や識者の見解がほとんど見受けられないのです。ただ、「いのちの尊さ」云々という愛誤表現があるのみ。同じWEDGE上の井田記者の記事Cとまさに対照的。
 まあ、ただのSSCSラブなヒトだから無理ないか。。
 秋篠宮殿下の見解なり、井田記者の記事を読めといっても、やはり彼の網膜には何も映らないかもしれませんが・・・

 

 議論が下火になるにつれ、マスコミによる動物園・水族館の取り上げ方は、どうも除名騒動が持ち上がる以前と変わらぬ動物愛誤調≠ノ戻ってしまった模様・・。

 「○○水族館で先月生まれた○○の赤ちゃんが公開されました! ヨチヨチ歩くほほえましい姿が親子連れの心を癒してくれています。 (子供へのインタビュー)『かわいい』 以上、○○水族館からの中継でした!」
 「今日は○○の日ということで、○○動物園では、○○に巨大な○○が与えられました! 大ご馳走に○○も喜んでいます! (子供へのインタビュー)『すごかった』 以上、○○動物園からお伝えしました!」

 相変わらずこんなのばっかり・・・・。
 マスコミ関係者、TV討論に参加した著名人、実際に動物園・水族館を訪れる利用客をはじめとする、日本中の大人のみなさん。
 あなたたちは、動物園・水族館を《幼児向けの絵本》程度のものとみなしていませんか?
 《こどもだまし》の代物だと。
 激コロに出演したジャーナリストの大谷昭宏氏も、「ふれあい」「ふれあい」連呼してましたけど・・・彼も爪の垢煎じて呑めだね。。
 野生動物に「ふれあい」を求めるのは大きな過ちだということは、他の先進国できっちり正しい環境教育を受けて育った大人なら当然知っていて然るべきなんですけどね。。

 一日これといった事件が起きず、放送時間が余ってつい動物園・水族館にネタを求めてしまうのは、日本のマスコミの非常に悪い癖です。
 最近は、安倍首相や閣僚らのブットビ発言、それに対する海外の反応といった、国民に対して伝えるべき重要な事柄があっても、それを報じるかわりに動物園・水族館ほのぼのネタに差し替えてしまう──ますます高く軍靴が鳴り響く中で偽りの平和≠演出するカモフラージュの役割を買っているようにさえ見えます。
 やはり原発や捕鯨問題と同様、誤ったイメージを植え付けてきたマスコミ自身が大きな責任を有していることは否めません。
 個別に名指しで賞を差し上げてきましたが、この業界に携わるすべての人間に《秋篠宮殿下の爪の垢を煎じて飲んだほうがいいで賞》を進呈すべきでしょうね──。

 さて……野生動物のを取り巻く環境が日々悪化し、種の多様性を保全する意義が声高に叫ばれるようになる前の時代、動物園・水族館は単なる野生動物コレクション、見世物小屋にすぎませんでした。
 今回、JAZAはWAZAと足並をそろえ、野生動物の保護のために不可欠な貢献を果たすという自らの崇高な理念を再確認しました。動物の愛くるしさを強調してこどもを喜ばせ、親にチケットを買わせる単なる子供向けエンターテイメント施設から脱却し、子供から大人まで幅広く野生動物の生態と保全の重要性を知ってもらうための、公共性の高い機関へと生まれ変わることを誓いました。他の先進国からの大きな遅れを取り戻す流れができました。
 JAZA総裁秋篠宮殿下の発言がその方向性をはっきりと示したとおり

 はたして動物園・水族館がどこまで野生動物の保全に貢献できるのか?──そういう議論の余地はあるでしょう。
 愉しみのために野生動物を檻や水槽に閉じ込め、自由≠奪うことが許されるのか?──という根源的な問いもあるでしょう。
 自由な意見は尊重されるべきですし、多様な意見があるのは好ましいことです。
 しかし、一つの山が動いたところで、筆者はあえてバランスを斟酌し、動物園・水族館側をちょっぴり擁護する側に回りたいと思います。
 旧くからの拙ブログの読者はご承知のとおり、これまで筆者は、日本の動物園の中でエンリッチメントの先頭を行く旭山も含め、結構ケチョンケチョンにけなしてきたんですけどね(汗)

 まず、動物園・水族館は、繁殖に限らず野生動物を生かすスキル・ノウハウを確かに持っています。
 この辺は、命も含めて基本的に搾取するだけの他の動物利用産業とは違うところ。トキやコウノトリ、ヤマネコ、最近も報じられたライチョウ然り。

■ライチョウ増殖へ本格始動 富山市ファミリーパーク (5/27,中日)
http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/news/CK2015052702100007.html

 水族館についてはまさに突きつけられた課題にこれから取り組まなければならないところですが、動物園の展示動物は今では9割以上自家調達で野生からの収奪は少なくなりました。野生個体を受け入れる場合も、負傷や迷い込み等で保護された個体に限定されてきています。
 今日の動物園・水族館が有する野生動物への負の側面は、外来生物の販売業者や飼育マニア、開発によって彼らの住処を奪う土建屋以上に悪質だとは思いません。
 生態展示・行動展示を普及させた立役者である旭川旭山動物園は、パーム油生産のためのアブラヤシプランテーションがアジアゾウやオランウータンたちの生息場所を奪っているという耳の痛い話を訪れる客に聞かせ、保全活動を行っているNGOと提携するといった、かなり先進的な取り組みをしています。


 こちらも非常にな活動。日本の希少な野生動物ウミガラスの保護と、悪者にされかねない野良猫の里親探しのプロジェクト。

■北海道・天売島の希少海鳥を守れ 旭山動物園、天敵猫の飼い主探し (5/18,共同)
http://www.47news.jp/smp/CN/201505/CN2015051801002095.html

 実は、絶滅が危惧される水生生物の保全に協力し、資金と技術を提供している水族館もあるのです。何を隠そうあの鴨シー。

■シャープゲンゴロウモドキ回復計画|千葉県生物多様性保全センター
http://www.bdcchiba.jp/endangered/recovery_plan/sharp/sharp.html

 こういういいこともやってるんだから、太地産イルカは買ってませんなんて嘘つかないでほしいところ・・・
 野生動物に依存し、それで商売している立場上、その利益を野生動物に還元するのは当然という向きもあるでしょうけど、それがしっかりできていることは評価すべきでしょう。
 手弁当でやってる動物愛護団体にはとても手が回らないことを、彼らは代行してくれているわけです。

 そして、動物福祉に関していえば、WAZAが加盟条件にもしている倫理規約はしっかりしたものです。
 JAZAと加盟園館はその基準に従うことを誓っているのです。
 以下は少々古い資料ですが、WAZAの倫理規約は動物福祉の国内法整備に向け環境省が参照している海外事例。

■資料5 「諸外国における動物の愛護管理制度の概要」|環境省
http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/arikata/h16_01/mat05.pdf

 「動物の愛護および管理に関する法律」の中で、展示動物の飼養指針は定められているものの、まだ罰則や細かい基準を明確に定めたものにはなっていません。
 WAZAの指針を無視できてしまう非加盟園館──中には、催事のふれあいイベント等で稼ぐ実質家族経営のプチ動物園等、福祉の面で十分な施策を講じているかはなはだ疑わしい業者も少なくありません──を規制するためには、上掲の飼養指針の明確化や動物園法の制定が不可欠です。その際には、JAZAの積極的な協力と関与が欠かせません。

 現場の飼育担当者は、そもそも動物好きでその道を選んだ人たちです。長年勤めることで業界の空気に流され、「これでいいのか?」と矛盾を感じながら仕事を続けてきた人も少なくないでしょう。しかし、動物たちの待遇が改善≠ウれることを喜ばない飼育員はまずいません。
 JAZAという協会組織が、海外も含めた会員間での情報の流通と連携を促すことで、これから改善の動きは進んでいくでしょう。旭山旭川動物園のように、先頭を切ってモデルとなってくれる動物園もあります。

 もうひとつ。アベノミクスの弊害により、大衆向けの行楽施設は日本人だけをあてにできなくなっています。これまでの主要なターゲットだった子供の人口も減る一方。海外からの観光客を受け入れるなら、動物園・水族館が国際標準に倣うことは必須といえます。
 動物園・水族館はいま、彼ら自身変わる理由∞前を向く理由≠ェあるはずです。

 動物のことを気にかける内外のたくさんの人たちへ。
 JAZAは今回、思い切った決断をしました。
 さまざまな圧力があったとはいえ、自分自身であまりにも圧倒的な矛盾≠ノ向き合い、修正する方向へと、一歩踏み出してくれたのです。
 まず、そこは評価してあげてください。

 「動物たちに自由を!」という声をあげることは大切なことです。
 「水槽を空にせよ!」と訴えたい気持ちも尊重します。
 ただ……置かれている境遇にしろ、業界自身のベクトルの向きにしろ、相対的にはるかにひどいターゲットはたくさんあります。
 苦渋の選択ながら動物たちにとってプラスになる決断をしてくれたJAZA加盟園館を、いまあえて重ねて糾弾することは、筆者は賢明なことだとは思いません。
 ここが攻め時だとアクセルを踏み込もうとして、ブレーキを踏むことになるのを、筆者は恐れます。曲がりなりにも内部の人たちが改革に向けて乗り出す機運が生まれつつあるときに、その芽を摘んでしまうことになるのを。
 日本国内で忍耐強く啓蒙活動を行い、市民の意識の向上を図ることなく、外圧で一気に潰そうとした結果、調査捕鯨という形ですべてが膠着状態に陥り、返って南極海のクジラたちを不幸にしてしまった事実を知っているからこそ、その二の舞にしてほしくないのです。
 相手を悪=A敵≠ニ決め付け、攻撃することからは、何も生まれはしません。前に進むことはできません。捕鯨サークルや原子力ムラはもはや別格ですけど……。
 しかし、動物園・水族館業界にいるのは、基本動物好き≠ナ知識も経験も豊富な人たちであり、対話は十分可能なはずなのです。

■バンクーバー水族館がパークボードを提訴−イルカなどの飼育規制案撤回求めて|バンクーバー経済新聞 ('14/8/18)
http://vancouver.keizai.biz/headline/1965/
■Vancouver Aquarium defends keeping whales and dolphins in captivity
http://www.cbc.ca/news/canada/british-columbia/vancouver-aquarium-defends-keeping-whales-and-dolphins-in-captivity-1.3111312

 上掲は、水族館側が反発して態度を硬化させることになった悲劇の一例。
 これは停滞です。法廷闘争に無駄な金とエネルギーを費やすことになったわけです。お互いに。

 イルカ一点集中で急ぎすぎることは、当のイルカたちにとっての解放を遅らせることにつながりかねません。
 イルカやチンパンジーのように高度な社会性と文化を備えた種には、ゾウに対して大きな檻が必要なように、特段の配慮が欠かせないのは事実です。
 ただ、不幸にも、捕鯨協会とその広報コンサルタントを引き受けた国際ピーアールが、動物保護の市民運動に対する対抗手段を綿密に練り上げ、イルカ・クジラを逆の意味での象徴的存在=《すべての動物に対するあらゆる規制を進ませなくする障壁=tに仕立てあげてしまったことで、イルカ・クジラに焦点を当てた運動は、あまりにも膨大なエネルギーのロスを強いられるようになってしまいました。
 押せば押すほど高くそそり立つ壁。しかも、そのやり口は多方面に拡散し、模倣されている有様です。
 イルカたちの状況を改善するために、むしろ野生動物・産業動物全体の水準を底上げするほうが近道といえるほどに。
 本当にイルカを助けたいのであれば、そこを避けて通ってはいけません。特に海外は。
 「文化の違い」「外圧」という都合のよい言い訳≠振り回すのはこどもじみたやり方ですが、それを厳しく指弾するのはやはり日本人の役割であるべきです。

 いま、日本の展示動物に関して求めるべきは、動物福祉とエンリッチメントをWAZAの水準にまで引き上げてもらうことです。JAZAと、JAZA以外の園館に。
 繰り返しになりますが、そのためにはJAZAの協力が欠かせません
 一番必要なのは、業界自身というよりも、愛誤的イメージで捉えることしかできないマスコミと、その所為で圧倒的に低いままの国民全体の意識改革ですが。

 動物園・水族館は、ふれあい≠求めたり、愛くるしさ≠消費しに行く場ではありません。
 見世物小屋≠ナはなく──そこから始まったのは紛れもない事実ですが──野生動物保護のために生かすスキル≠活用するという社会的使命を帯びた施設なのです。
 まずはそこから。

 もし、国民の意識が向上したならば、動物園であえて野生動物を飼育・展示することの是非について、本当の、真剣な議論が生まれてくる余地も出てくるでしょう。
 素地ができない限り、一人ひとりの意識がもっと変わらない限り、《爪の垢を煎じて呑ませたほうがいいで賞》を差し上げた面々のようにこどもだまし≠ニしか考えない人々から過激な主張と一蹴され、声を届けることも困難なのが現実です。
 今回の騒動を、みんなが考える直すきっかけに、第一歩にしましょう。


 前回も説明したとおり、動物福祉(AW:アニマルウェルフェア)は、動物を利用する産業である動物園・水族館に内在する要素です。
 動物の解放を求める運動(AR:アニマルライト)は、本来西洋的なAWとは根っこのところで相容れません。
 オオミヤまで一緒なだけ。
(※ 東北新幹線と上越・北陸新幹線が大宮から先別々に向かうことから、あるポイントまでは同じで共闘できてもそこから先は全然考え方が違うことの喩えだよ。ひところ政治家がよく使ったよ!)
 今の日本は、ウエノまでさえ行けていません。
 国の中枢まで巣食った反反捕鯨ルサンチマンのせいで、下手すればシナガワまで戻りかねない気配。。。

 筆者自身は準ヴィーガン(ハチミツ除く)であり、50年後・・100年後・・あるいは200年後には、動物園・水族館も、犬猫&野生動物の生体販売も、工場畜産も、動物実験も、狩猟も、銃も、核その他の兵器も、軍隊も、戦争も、汚染も、飢餓も、差別も、進化論の否定も、みんなみんななくなっているといいなあと思っています。南極海調査捕鯨だけは目の黒いうちに終わってほしいけど・・・・
 つまりARの立場。
 しかし……将来、(自らもサルの一種であるところの)ヒトが他の力を持たない生き物を支配し、管理する暴君であり続けるのか、それとは異なる万物の霊長の呼称に相応しいヒトの道を見出すのか、それを選択するのは、やはり将来の世代です。
 いまの我々の世代にできるのは、50年後・・100年後・・200年後の世代がそれを決めるとき、よりよい道を選んでもらえるよう、自分たちが遺せるものをしっかり遺すことだけです。
 オオミヤから先の考え方の違いで、思い悩んだところで、恐れたところで、意味はありません。
 まずはウエノまで、オオミヤまで、一歩ずつ、前に進みましょう。
 後ろではなく。
posted by カメクジラネコ at 00:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2015年05月22日

沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ


 物議をかもしているJAZA(日本動物園水族館協会)のWAZA(世界動物園水族館協会)除名か残留か問題
 おおよその経緯については、以下のトゥゲッターの最後のページ、水族館事情通の福武さんの連ツイが要領よくまとまっています。

■WAZAによるJAZAへの協会会員資格停止通告と、これまでの飼育下鯨類をめぐる環境についての一連ツイート
http://togetter.com/li/821186

 水族館と太地町のイルカ追い込み猟との関係については、基本情報として、上掲と併せて以下のリンクをご参照。

■いるか漁業(追い込み漁)と生体販売の関係
http://togetter.com/li/824325
■動物園と水族館について|川端裕人氏facebook
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=829896907065836

 今回の一連の騒動、テレビのニュースしか見てない人は、まるで突然振って湧いたかみたいに、1週間の期限を切られて二者択一を押し付けられたかの印象を持った方が多いでしょう。
 しかし、そもそも10年も前の2005年、WAZAは倫理・動物福祉規定を明確に定めており(決議はさらにその1年前)、イルカの捕獲に関してもあくまでその指針に則るよう、日本に対して求め続けてきたわけです。
 採集に関するものではありませんが、和訳版のある倫理指針(下掲リンク3番目)に目を通せば、「社会が求める動物園・水族館の役割とは何か」、また「それが時代によってどう変化してきたか」をつかみ取ることができるでしょう。
 以下は「動物園・水族館による動物研究の実施に関する倫理指針」からの引用(背景着色部分)

したがって、動物園・水族館で研究する国内の研究者にとっては、「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)、所属機関が規定する指針、そして日本動物心理学会「動物実験の指針」を遵守するのはもちろんのこと、WAZA の本指針を自身の行動規範とするのが望ましいだろう。(〜訳者前書)
動物園生物学(zoo biology)は,保全生物学にとって,「できの悪い兄弟分」であるとみなされることが多かった.しかし,動物園生物学は生物学上の複雑な問題を解明する潜在的可能性をもっており,そのことがいまや認識されつつある.これを如実に示すように,査読つきの学術雑誌に掲載される論文のなかには,動物園や水族館に関連する研究が増えているし,大学から連携を求められることも増えている.動物園・水族館は,査読つきの学術雑誌に掲載されるような高い水準の研究に参加できるこういった機会を逃すべきではない.動物園と水族館は,研究のなかで動物を倫理的に使用するための基準を明確に規定することで,この目的のための基盤をつくることができる.(〜背景)

■WAZA Ethics and Animal Welfare Committee briefing on general principles and practice with particular reference to dolphin capture developments, 2010.
http://www.waza.org/files/webcontent/1.public_site/5.conservation/code_of_ethics_and_animal_welfare/General%20principles,%20reference%20to%20dolphins.pdf
■世界動物園水族館協会(WAZA)による「動物園・水族館による動物研究の実施に関する倫理指針」について
http://www.waza.org/files/webcontent/1.public_site/5.conservation/code_of_ethics_and_animal_welfare/Code_of_Ethics_New%20York_2005%20.pdf

 動物福祉への配慮は、現代の動物園・水族館が社会に認められる大前提として認識されているわけです。背景に続いて、動物福祉のキーワード・「3R」についても明記されています。
 動物福祉(アニマル・ウェルフェア)は、日本では動物の権利(アニマル・ライト)としばしば混同されますが、この2つは実はまったく別物です。
 環境省が所管する〈動物の保護および管理に関する法律〉や各指針、各自治体の動物愛護関連の条例は、すべて動物福祉の概念が基盤となっています。動物福祉とは、動物を利用する産業が自ら内包する不可分の要素なのです。それは愛玩動物実験動物産業動物と同様、展示動物に対しても適用されなければなりません。動物園・水族館が社会に関わる存在である以上は。
 日本の旭川旭山動物園がさきがけとなった生態展示、あるいは広く知られるようになったエンリッチメントの概念は、飼育する野生動物に本来の生息環境に近い環境を用意し、展示にあたって配慮することを意味するわけですが、そこには観客への教育・啓蒙活動/動物園の社会貢献の意義と、当の展示動物の負担を軽減するという動物福祉の両面があります。
 言い換えれば、これは世界の動物園・水族館関係者が、訪れる市民やIUCNをはじめとするNGOと関わり合いながら自ら培ってきた、欠くことのできない≪動物園・水族館文化≫の一部ともいえるわけです。
 いまや、動物福祉の否定は、動物園・水族館そのものの否定にほかなりません。

 そして、もうひとつの要素が、人工繁殖の確立と野生調達からの脱却という、動物園にとっての持続的な将来を考えるうえで、決して無視できない大きな流れ。
 上に紹介した「保全生態学の出来の悪い兄弟分」という一種の揶揄は、かつての動物園が、ものめずらしい海外の珍獣で客を集める見世物商売・コレクターとしての色彩が強かったこととも、無関係とはいえないでしょう。
 そんな動物園でしたが、現代では責任ある立場として野生動物の保全に積極的に貢献していく姿勢を明確にしています。どこの動物園に足を運んでも、そうした理念が入場口付近のパネルに掲げられているのを、皆さんも目にしているはず。後述の動物園関係者のコメントからも明らかなとおり。
 そして、たゆまぬ努力の結果、いまや動物園で飼育されている動物のほぼ9割が自然からの調達でなくなり、動物園同士の国際的なネットワークにより、血統等各種の詳細な情報を共有し、綿密な繁殖計画を立てることができるようになりました。
 この点で日本の水族館が動物園、あるいは世界の水族館に比べ、かなり立ち遅れている事情については、リンク1番目と3番目をご参照。
 いずれにしても、イルカの供給をいつまでもズルズルと野生個体の捕獲に頼ってきたこと自体が、世界の動物園の潮流から逆行するものだったわけです。

 ところが・・JAZA側はこの10年というもの、イルカ調達問題を棚上げしてきました。かけがえのない文化の一部を自分たちで蔑ろにしている状況に、目をつぶっちゃったわけです・・。
 事態が大きく動いたのは昨年。日本のNGOによる働きかけによるもので、JAZA・WAZA・日本のNGOによる三者会談が開かれました。

■世界動物園水族館協会(WAZA)、日本動物園水族館協会(JAZA)及び、日本のNGO5団体による合同会議|エルザ自然保護の会
http://elsaenc.net/dolphihunt/waza_jaza_ngo/

 よく読むと、この時点ではWAZAも事なかれ主義で、かなり及び腰だったことがわかります。当然、JAZAへの配慮もあったでしょう。
 一方で、太地で行われている追い込み猟の実態について、JAZA・WAZAともにきちんと把握できていなかったことも明らか。

 具体的には、猟期のうち9月のみ、生体取引用に捕獲された群れは選別後すべて逃がすという、WAZAが求めた要件さえ満たされていませんでした。それが海外で暴露的に報道され、ケネディ米国駐日大使のツイートのきっかけにもなりました。
 残念ながら、JAZAは太地に丸投げで、きちんと監査・報告させる仕組みを作れていなかったわけです。監視してたのは反捕鯨団体・・。

Group: 250 dolphins await slaughter, lifetime of captivity at Japan's Taiji Cove | CNN
http://edition.cnn.com/2014/01/18/world/asia/japan-dolphin-hunt/

 さらに、関係者がまったく問題ないかのように嘯く捕殺方法についても、課題が残されたままなのです。しかも、それは捕殺時間の短縮や苦痛の軽減より、作業者の便宜と「海面が血で染まる映像を撮られて騒がれたくない」という動機を優先した結果でした。

脊髄切断法の開発者は楔による血液の体内保持は致死を遅くする恐れがあると指摘している。今後フェローと同じ指標(散瞳)で致死時間を再検討する必要はあろう。(引用)

■和歌山県太地町のいるか追い込み漁業における捕殺方法の改善|水産総合研究センター遠洋水産研究所、太地町漁協
http://www.cypress.ne.jp/jf-taiji/geiruihosatu.pdf

 生体販売によって財政的に支えられている追い込み猟自体に、動物福祉上の問題があることは否定の余地がありません。
 同時に、WAZAの各種の規定に縛られない非加盟組織・館への輸出を、WAZAに加盟しているJAZA及び傘下の水族館が積極的に支えていることをも意味します。
 WAZAにとって、これほど大きな矛盾はないでしょう。このままでは、WAZAが動物園・水族館自身の存在意義を懸けて確立した倫理規定そのものが空文化しかねません。
 WAZAに対して内外から圧力がかかるのは必然でした。それが、理事会全会一致での決定につながったわけです。

 ここまでの流れを見れば、日本の姿勢が問われるのは時間の問題≠セったことが、皆さんもよくおわかりになるでしょう。
 以下の報道でも、動物園関係者の本音が率直に語られています。

動物園の社会的な使命は展示だけでなく、種の保全にも積極的に関わることだ。絶滅危惧種の繁殖は海外との連携が欠かせず、世界動物園水族館協会から除名されると貴重な機会を失うことになりかねい。問題をうまく解決してほしい」(東山動物園副園長・黒澤氏)
日本を含む世界の動物園は希少な動物の種の保存や遺伝的な多様性を失わせないために、動物の交換などによる繁殖を頻繁に行っているが、国際組織から除名されれば、こうした枠組みに入れなくなるおそれがある。希少な種の保護や繁殖の計画を決める国際会議などに日本の協会が出られなくなるおそれもあり、除名されれば日本の動物園にとって打撃となる(旭川旭山動物園元園長・小菅氏)
日本では動物園の90%余りが繁殖させた動物を飼育しているのに対して、水族館ではイルカを含めて繁殖活動があまり行われていない。今回指摘された捕獲方法より、安易に野生の生き物を入れるという発想に問題があり、日本動物園水族館協会は水族館でも繁殖に向けて努力するという姿勢を示して、国際組織に残るべきだ(〃)

日本の水族館や動物園は、太地町から安くイルカが手に入れられるので保全への取り組みを棚上げしてきた。WAZAは、2005年に世界動物園水族館保全戦略をまとめ、自然から生物を収奪するのではなく、自然保護センターとしての役割を水族館が果たしていくことを求めた。欧米では、野生の生き物を捕まえて飼い、ショーをするということを否定する動きが強まっている。イルカなどの海洋生物は頭がいい生き物ととらえている。そういう世界の動向を分析し、日本の戦略を構築することができていなかった。イルカショーは、本来の行動や習性を伝えるものだったのか、ただの見せ物だったのか。国民の水族館に対する意識も問われる。海洋生態系の保全は国際的にますます重視されつつあり、イルカは問題の一端にすぎない(JAZA前会長・富山市ファミリーパーク園長・山本氏)

■イルカ展示、曲がり角 追い込み漁認めぬ国際組織に残留 (5/21,朝日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11765125.html

ここでWAZAを脱退すれば、日本はいまだに野生の生物、動物を捕まえて展示する低レベルな国だと世界から評価されかねません。日本の動物園はすでに展示動物はほぼすべて繁殖させたものでまかなっています。ところが、水族館は今も展示生物は海から捕ってくればよいという考え方が根強い。食文化に対する指摘なら当然反論すべきですが、今回は展示生物をどこから調達すべきなのかという問題だということを日本の水族館も冷静に考える必要があると思っています」(動物園職員)

■日本いじめじゃない? 水族館の野生イルカ問題は世界のスタンダード (5/21,週プレNEWS)
http://yukan-news.ameba.jp/20150521-13/

 ここで一般市民のみなさんの反応をツイッターから拾ってみましょう。

このニュースが出るまでイルカを太地町から購入していたとは知りませんでした。
動物園の役割が種の保存、繁殖にまで及んでいる中、当然、水族館もそうだと思っていたけど... (引用)
https://twitter.com/mii_sang3791/status/601209987583475712

産業としてのいるかの追い込み漁が残酷かどうかとは切り離して、そもそも動物園、水族館が展示のために野生生物を捕獲する行為は最低限にせねばならない、その努力を怠っている…という話だったんだなこのニュース。(引用)
https://twitter.com/ktgwtky/status/600921636796116993

 この辺が、おそらく日本国民の最大公約数的な意見ではないでしょうか。

 してみると・・テレビでの取り上げ方の異様な偏りぶりに、改めて首をひねらざるをえませんね・・。
 クジラ・イルカが絡む問題の例に漏れず、この一件もマスコミの伝える情報からは全体像がまったく見えてきません。
 5/19のフジTV「みんなのニュース」では、ゲストが「動物園が困るので残留すべき」と明言したところ、キャスターがあわてて引き取り、「文化が〜」と話をすり替えてすぐにCMに移ってしまいましたし。。
 今回の一連の報道では、どこのメディアも、当事者であるJAZA・WAZA、会員であるいくつかの動物園・水族館への取材は行っていますが、肝腎の日本のNGOの主張は英字紙のJapanTimesを除いてどこも取り上げていません。直接には動物園・水族館と関係ないハズの捕鯨関係者のコメントを流すなら、こちらにも取材しないと著しくバランスを欠くと思うのですが・・

 昔からの捕鯨サークルのオトモダチ新聞・産経は付ける薬がないとして、とくにひどかったのがやはりNHKニュースウォッチ9
 21日の環境省でのJAZA会長(鴨川シーワールド館長)荒井氏の会見は、筆者もネット動画で視聴していたのですが、NHKの巧妙な編集には脱帽するほかありません。
 まず、「残留のメリットが大きい」「飼育下で繁殖させる目標はあったが、努力が足りなかったのは事実」「野生からの導入に頼っていたところは反省しなければならない」といった、同会長の重要な発言を思いっきり端折りました。
 そして、放映されたのは次の1カット。

「太地町の追い込み漁 捕鯨の文化を批判しているわけでも非難しているわけでもなく (*) 残念ながらそれを認められなかったのでこのような結論に至っておりまして」

 この(*)の部分を非常にうまくつなぎ合わせて、1つの文章に再構成しています。まるで、JAZAが捕鯨文化を正しいと主張し、「それ」がWAZAに否定されたかのように。
 事実はまったく異なります。WAZAはそもそも加盟組織・傘下館の展示動物の調達方法のみを問題にしており、「水族館と無関係に行われる」追い込み猟に対しては何の意見も持ち合わせていません。日本政府や太地町に対して何らかの要求を突きつけたわけでもありません。あくまでWAZA自身の加盟組織であるJAZAに対する要請です。親子関係に当たる民間団体同士の問題にすぎないのです。
 動物園・水族館の展示動物の調達のあり方が問われたにもかかわらず、太地の追い込み猟の是非こそが主題であるかのように見せかける、きわめて悪質な印象操作。9日の報道は他のマスコミよりマシだったから、ちょっとは見直したとこだったのに・・。
 IWC年次会議後に「ニュージーランドの真の狙いは日本のイメージの悪化」とぶち上げたのとまったく同じパターン。

■NHK、ニュージーランドにケンカを売る
http://togetter.com/li/720977

 スポーツ紙じゃあるまいに、冒頭から12分もの時間を1人のスポーツ選手の進退問題に割いて、オスプレイの事故をたった2分で済ませたり、安倍首相のポツダム宣言よお知らん答弁を伝えなかったりする大本営放送らしいなあとは思いますが・・・
 そんな具合で、連日のように、沖縄の基地問題以上の扱いを続ける日本のメディア。ところが、街頭インタビューがほとんど見当たりません。特にJAZAが会員投票の末、残留を決めてからは。
 各TV局はなぜ、イルカ飼育水族館にレポーターを派遣して、入場客に
「ショーに使われていたイルカが太地の追い込み猟で捕獲されていたことを知っていましたか?」
「太地で獲ったイルカの群れを、殺して食べるものと、水族館で見世物にするものとで選別していることについて、どう思いますか?」
と尋ねないのでしょうか?
 それほど国にとっての一大事と考えるなら、なぜ同じ設問の世論調査を行わないのでしょうか?
 考えれば考えるほどおかしなことです。

 この問題に対しては、自民党がJAZAの幹部を呼びつけて説明を求めたり、元の所管でもないのにWAZAに対して水産庁が撤回を要求するなど、国として民間団体の問題に口を出し、明白な政治的圧力を加えたこと明らかになっています(産経発信ですけど・・)。

「13日に自民党内で開かれた会合で」「水産庁などは、追い込み漁は、資格停止の撤回を求める方針だ」(引用)
■21日までにイルカ問題を回答 日本動物園水族館協会、会員投票で (産経,5/13)
http://www.sankei.com/life/news/150513/lif1505130035-n1.html

 もっとも、林農相は19日の会見でそ知らぬふうを決め込まれたのですが・・。
「直接の所管ではございませんので、直接どうこうというコメントはできませんが」(引用)
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/min/150519.html

 で、結局、JAZAが残留を決定した後、太地町長三軒氏同席で開かれた自民党捕鯨議連の会議で、「JAZAを脱けた水族館を支援しろ」という、とんでもない意見まで飛び出す始末。
 動物園・水族館業界の問題に対して、国として支援をするのであれば、各水族館が今回の決定による不利益を被らないよう、つまりJAZAに留まって恩恵を受けられるように、繁殖に成功している水族館との間で技術協力の橋渡しを支援するなど、いくらでも常識的な対応が考えられるでしょうに。自民党の捕鯨族議員が出したのは、それと真逆の、まさに常識を完全に覆す驚くべき結論だったわけです。

■自民“協会やめる場合には水族館に支援を”(NHK,5/21)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150521/k10010086811000.html

 はるかに長い歴史を持つ全国各地の沿岸漁業を、開発や原発のために金と引き換えに葬り去ることを躊躇しなかった国が、高々40年ほど前に伊豆地方から導入した1漁法を「聖なる伝統」として祀り上げ、マスコミを動員し、世界から必死で庇おうとしている姿は、米国を盾に沖縄を踏みにじり続けるもうひとつの日本と比べたとき、どれほど対照的なことか。
 あるいは、森下IWC日本政府代表が、LAタイムズの取材で「ダブスタはあるものだ」と平然と言ってのけたアイヌの伝統的サケ漁の扱いとの・・あるいは、諫早干拓事業で泣きを強いられた漁業者との、その途方もない格差には、ただ声を失うばかりです。
 21日の日本TV系ミヤネ屋のTV欄見出しは、「JAZA脅迫まがいの勧告受諾」とあります。
 脅迫まがいとは、「辺野古移設を呑まなければ、危険な普天間基地の撤去はしないぞ」と沖縄の人々に迫る日本政府の態度を指すのでは?
 悲惨な戦争は二度とごめんだという沖縄の人々の価値観、平和と安全保障に関する多様な価値観を無視して、米国の権威を借り力を誇示する特定の考えを押し付けることが平気でできてしまう日本政府が、その一方で、国連海洋法のもとで国際的管理が求められる野生動物に対して、動物福祉のグローバルスタンダードを受け入れることを、なぜ激しく拒絶するのでしょうか?
 太地はうやうやしく讃え、沖縄は傲然と踏みつけにする日本。
 なぜ、これほどまでにも圧倒的な違いが生まれるのでしょう? これは差別ではないのでしょうか?

 WAZAは、動物園の展示動物の標準としての取り扱いを、イルカに対しても同じように求めたにすぎません。それは、今回残留票を投じてくれた多くの日本の動物園関係者がきちんと証言してくれているとおり。
 欧州とは比べ物にならないほど粗末に扱われる歴史的建造物や景観、ダムに沈められ渋滞解消目的の道路に潰される遺跡や街並、後継者もなく一握りの高齢者に支えられる風前の灯の伝統産業、かつては主食だったのにアレルギーの児童の需要があってさえ高価で入手しずらくなった雑穀はじめ、飽食の影で日の当たらない数多くの地方の伝統食etc.etc.

 弱肉強食の市場経済の論理に、消滅の危機を迎える地方の深刻な構造的問題に、なすすべもなく翻弄される伝統がゴマンとある中で、太地の捕鯨とイルカ猟だけは、どれほど変質しようと、乱獲規制違反の重大な責任があろうと、持続性を確立できなかった負の歴史を負っていようと、不可侵の聖域として死守されねばならないと訴える、不可思議な国・ニッポン。
 TPPで国の根幹をなす農業を米国に売り渡そうとしながら、水族館の問題では鎖国を謳う、不可解な国・ニッポン。
 それでいて、5年先の東京五輪に向け、原発・財政・災害対策はじめ山積する国内の課題もそっちのけで、「クール・ジャパン」「オモテナシ」を掲げて必死に世界に媚を売る、表と裏の顔のかけ離れた国・ニッポン。

 TVに映った町長さんの健康状態、咽喉の腫れ具合もちょっと気になったのですが・・太地は今のままで本当にいいのですか?
 動物園の国際的な使命と理念を理解し、WAZAとの関係を壊したくない動物園関係者の方々のまっすぐな声は、あなた方の耳に届きましたか?
 記者会見に臨んだ町立くじらの博物館館長・林氏は、会見の席で「キリンとか陸上の動物園の動物もいずれ同じ目に遭う」という趣旨の発言をされてしまったようですが、業界人でありながら動物園を取り巻く諸事情をまったく理解できていなかったことに驚きを禁じえません。自分の無知・不勉強を露呈することになった和歌山県知事・仁坂氏のイタすぎるイジメ発言もそうですが・・。
 マスコミや反反捕鯨応援団、愛国主義者の諸兄は、いつでもあなた方を精一杯持ち上げてくれるでしょう。国会議員のセンセー方も誉めそやしてくれるでしょう。
 しかし、日本人の誰もが、不利益を被ってまで、あなた方を支持し、絶賛してくれるとは限らないと、今回の件で身にしみて感じられたはずです。
 収益の不足分を埋め合わせる生体販売の手法は、消耗品を繰り返し買い上げてくれる顧客として水族館をあてにしたのは、誤りであったと気づかれたはずです。
 韓国ではこのようなニュースもありました。

■済州島の海に戻されるイルカのポクスニとテサニ|ハンギョレ
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/20631.html

 中国その他の地域でも、いずれはそういうことになるでしょう。動物福祉・エンリッチメントは、世界中のすべての動物園・水族館が、存続のためにいずれは必ず取り入れなければならない課題なのですから。 
 この副業に頼るやり方では将来は決して明るくないということを、妙案を編み出し、国際舞台で渉り合ってきたあなた方なら、もう理解できているはずです。
 太地漁協が不快な嫌がらせFAXに憤る気持ちもわかります。生イルカを売ってる得意先のハズの韓国・中国からの非難が届くのは、正直筆者も理解できませんが・・ていうか、それ本当に海外から来てるの?? これまた産経情報だけど。。

 息の長い地域の活性化のためのヒントは、あなた方が自身の持つコンテンツの価値を真剣に見つめ直すなら、いくらでも見出せるはずです。
 代わり映えのしないユルキャラやB級グルメ、ショッピングモール等に頼ってあっという間にもとの木阿弥に戻ってしまう非持続的な町興しではなしに、あるいは、原発立地自治体のように魂まで金と引き換えに売り渡してしまうのでなしに、個性を活かしながら世界に打って出る道を、才覚に恵まれたあなた方なら模索することができるはずです。

「訪日オーストラリア人にも白川郷や熊野古道は人気がある。しかしこれは、伝統的な文化体験等を嗜好する国民性によるところが強いと思われ」
「オーストラリア人は、日本への再訪意欲が外国人平均よりも高い。リピーターは、ゴールデンルート以外の観光地への訪問意欲が高く、また、日本での平均滞在日数が14 日間と長いため、地方の体験型観光にもチャンスがある」(引用)

外国人観光客のプロモーション手法を情報発信!〜平成24 年度海外経済(観光)セミナー開催報告〜|自治体国際協会
http://www.clair.or.jp/j//economy/docs/seminarhoukokusho.pdf

 即時に太地のイルカ猟・捕鯨をやめろと要求するつもりはありません。
 それが国際条約に違反するものだとしても、最終的に決めることができるのはあなた方です。
 それに引き換え、沖縄には自らの道を決めることすら、日米両政府に許されていないのは、あまりにも理不尽だと思いますが・・。
 日本でも世界でも、強大な力、理不尽な運命に翻弄されている人々は数え切れないほどいます。
 その中で、たくさんの応援団が、絶大な権威が、がっちりと守ってくれる太地は、とてつもなく恵まれているといえるのではないですか?
 しかし、あなた方が声高く叫ぶ自分たちの伝統≠ヘ、世界には決して理解されないでしょう。
 最初からバイアスのかかった目で美化することしかできない映画監督が、The Coveに対抗すべく、いくら演出を凝らして英語で世界に発信したとしても。
 なぜなら、あなた方を庇っている日本が、沖縄を、沿岸漁民を、内外の数多くの伝統を、今なお蔑ろにし続けている国だからです。

 江戸時代の網取式捕鯨はとっくに消滅しました。出漁を強行する誤った判断で鯨組は壊滅し、その後ブランクを経て伝統捕鯨とは似ても似つかないノルウェー式の近代捕鯨事業が持ち込まれました。
 町史に記されているとおり、現在の形態のイルカ追い込み猟は1969年に伊豆から導入されたもので、伝統の重みにおいて明治政府に無理やり潰されたアイヌの捕鯨の足元にも及びません。
 網取式捕鯨がイルカ追い込み猟のルーツだというのは、ただの詭弁にすぎません。
 しょせん張りぼてで飾った贋物だと冷たい軽蔑の視線を浴びながら、ご神体≠ノしがみつき続けるのですか?
 突きん棒漁への切り替えは、そこまで受け入れがたいことなのですか? 古式捕鯨から舶来ものの近代捕鯨への転換に比べれば、はるかに些細なことなのに。
 世界に開かれた、伝統と国際協調を融和させることに成功した町として、世界中から賞賛と尊敬を勝ち得る未来よりも、追い込み猟という形式に固執することのほうが大事なのですか?
 何が本当に町の将来のためになるか、よく考えてください。

参考リンク:
−捕鯨の町・太地は原発推進電力会社にそっくり
http://kkneko.sblo.jp/article/78450287.html
−太地−ブルーム姉妹都市騒動の背景
http://kkneko.sblo.jp/article/31722747.html
−民話が語る古式捕鯨の真実
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html
−NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html
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2015年04月03日

乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義

 先日NOAA(米国海洋大気庁)からとある発表がありました。
 私が見つけたときはNOAAのアカウントがツイってから5日経ってましたが、まだ数件しかRTなし。けど、クジラ/捕鯨問題ウォッチャーにとっては重要な内容。
 旧ソ連の衝撃的な違法捕鯨による申告漏れ分を可能な範囲で補正した、20世紀の全期間にわたるクジラの捕獲統計です。

-New Report Estimates Extent of 20th Century Industrial Whaling 
http://www.st.nmfs.noaa.gov/feature-news/3-million-whales 

-First Estimate of Number of Whales Killed During Industrial Whaling 1900-1999 
http://www.afsc.noaa.gov/news/soviet_whaling.htm 

-Emptying the Oceans: A Summary of Industrial Whaling Catches in the 20th Century
http://spo.nmfs.noaa.gov/mfr764/mfr7643.pdf

 殺しも殺したり、その数たるや2,894,094頭
 悲壮なタイトルが示すとおりの、人類の業と罪。

 そのうち、北大西洋が276,442頭、北太平洋が563,696頭、合わせて北半球分が840,138頭
 そして、南半球分が2,053,956頭。北半球の約2.5倍。もっとも、主犯は北半球の国々ですが……。

 NOAAのレポートには国別捕獲統計がなく、正確に同期の取れた数字ではありませんが、前世紀に最も多くクジラを殺した国はノルウェーで約23%、次いで日本が約20%、ロシア(旧ソ連)が発覚した違法捕獲分でイギリスを抜いて3位の約18%、イギリスが約15%
 上位4カ国で、実に全体の3/4以上を占めています。
 日本は百年かけた捕鯨オリンピックで見事銀メダルに輝いたわけです。21世紀に入っても、日本とノルウェーの2ヵ国が引き続き金をめぐって争っているという状況……。

 この1世紀で一番多く殺された鯨種はナガスクジラ(874,068頭)。2番目に殺されたのがマッコウクジラ(761,523頭)。
 この2種だけで、全体の半数以上(56.5%)を占めています。
 以下、3位シロナガスクジラ(379,185頭)、4位イワシクジラ(291,540頭)、5位ミンククジラ(283,905頭)と続きます。
 ※注 ミンクはクロミンクとの合計。イワシクジラには同定される以前のニタリクジラの捕獲が含まれているとみられます。

 ではここで、同レポートの日本に関する言及部分をいくつか抜き出してみましょう。
 まずは、旧ソ連より先に暴露された日本の沿岸捕鯨スキャンダルについて。(背景色引用)

The Japanese were catching many undersized whales in their coastal fishery and falsifying their reports in order to conform to IWC regulations (Kasuya, 1999; Kasuya and Brownell, 1999, 2001; Kondo and Kasuya, 2002).
日本は沿岸捕鯨で(捕獲が禁止されている)体長制限以下の小さなクジラを捕獲していたうえに、IWCに対して虚偽の申告を行ってきた。
(中略)
Finally, it is important to note that some catch totals for the North Pacific are likely to be incorrect to an unknown degree.
The IWC database still contains data from the Japanese coastal fishery that are known to be falsified, notably for sperm whales (Kasuya, 1999); furthermore, analyses of sperm whale length data have raised suspicions about the reliability of the pelagic Japanese catch statistics for this species (Cooke et al., 1983).

 日本の不正な捕鯨と虚偽申告の所為で、このレポートの数字には不確実な部分が残っています。たぶん、金メダルを取れるほどではないでしょうけど……。
 続く記述では、南氷洋捕鯨時代のパナマ船籍の捕鯨船オリンピック・チャレンジャー号のずさんな操業についても触れています。ペナルティに鯨油差し押さえを食らい、売りに出された同号を買い取ったのが、日本の極洋。
 その後、他の大手捕鯨会社もこぞって外国捕鯨母船の枠付購入に走り出します。
 それは、南氷洋の荒廃を決定づけた日本の役割を象徴する出来事でした。(後述)

When this vote was taken in 1982, there were 10 countries still in the business of whaling. Iceland, Norway, Spain, Portugal, and Korea were whaling in the north, while Brazil, Peru, Chile, and the USSR were operating in
the south. Only Japan still had operations in both hemispheres.
(1982年以降)南北両半球で捕鯨を行っている国は日本のみである。

 これこそ、捕鯨国の中で日本がとくに£@かれる理由のひとつ。
 「なぜ日本は南半球でまで捕鯨を続けるのか?」という世界の問いに、日本は誠実に答えた試しがありません。

The following year whaling operations attributed to the Philippines were initiated.
Research into this endeavor has indicated that Japanese nationals owned and operated all facets of this business, which was terminated in 1986.

 商業捕鯨禁止が決まった翌年、マルコス政権下にあったフィリピンが突然商業捕鯨参入を言い出して世界をびっくりさせます。
 案の定、裏で糸を引いていたのは日本の水産貿易会社でした。
 この一件で、「日本は常に規制の裏を掻く国だ」と世界に強く印象付けることになったわけです。

Japan initially objected to the moratorium but withdrew this objection under U.S. threat of fi sheries sanctions
and thereafter exploited Article VIII of the Convention, which permits member states to issue permits
to kill whales for scientifi c research (so-called “scientific whaling,” see Clapham, 2014).

 日本の調査捕鯨は、世界にはもはや、「いわゆるカガク捕鯨」という皮肉な但し書きなしには見られないわけです。
 大方の日本国民も、そういう見方しかしてないでしょうけど……。

Once the moratorium took effect with the 1985–86 Antarctic whaling season, all nations, other than Norway,
Japan, and the USSR ceased industrial commercial whaling.
Japan, Norway, and the USSR all lodged objections to the ban (under the Convention, an objection lodged within 90 days means that the objecting nation is not bound by any decision of the IWC, and this includes the moratorium).

 いわば悪の御三家的な位置づけですね。この後ソ連が抜けて、代わりにアイスランドが加わるという形ですが。
 あるいは、核(潜在的開発能力)保有国に相当する位置づけといえばいいでしょうか。
 もっとも、商業的にペイする公海/南極海母船式捕鯨に関する限り、その能力を有する国は日本も含めてもはやゼロ。
 それは、名乗りを上げる企業が存在しないことと合わせ、足かけ30年にわたる調査捕鯨という名の社会的実験=i自然科学ではなく)によって日本が自ら証明したこと。
 21世紀に成立し得る捕鯨のスタイルは、聖なる食文化≠ニいう大仰な建前のもと、莫大な税金を投入することによって可能になる官製捕鯨のみ。

After 1966, another 87 blue whales were killed by ships registered in Denmark, South Africa, Australia, Chile, Japan, and Spain (Allison, 2012).
Two of the ships registered in Spain, the Sierra and the Tonna, were actually pirate whaling ships that were not registered with an IWC nation but whose operations were linked to Japan (Clapham and Baker, 2008).

 かの悪名高き海賊捕鯨船、シエラ号トンナ号
 1世紀分の捕鯨について記された報告書にわざわざその名が刻まれるほど、重みのある2隻の船の名。
 その裏で蠢いていたのも、やはり捕鯨ニッポンだったのです。
 えっ!? あのシエラ号の名を知らない??
 世界では捕鯨産業の暗黒史として必ず登場するキーワードなのに。
 「聞いたことはあるけど、海賊シーシェパード(SSCS)に船沈められた被害者だろ」とおっしゃる?
 おやおや・・・なぁんにもご存じないんですねぇ・・・・。
 産経のパクリ記者・・もとい、SSCSバッシング本でウハウハ・・じゃなかった、SSCS評論家であらせられる佐々木正明記者に聞いてみてごらんなさい。
 え? 彼は「クジラはごちそうかカリスマか問題」にしか興味がなさそう? そんな、マツコのローカルネタじゃないんだから(汗)
 まあ、しょせん食い物にしてるだけの評論家だからしょうがないか。。。

 SSCSを過激派たらしめたものこそ、日本の大手捕鯨会社と鯨肉市場をバックに悪行の限りを尽くし、国際規制を有名無実たらしめた海賊捕鯨にほかなりません。
 まあ、SSCSなんて、元代表が海賊ぶってるだけのマニアみたいなもんで、妨害の非人道性でもいま辺野古で海保がやってることに比べりゃかわいいもんですけどね・・・

−最も成功した歴史修正主義|3500-13-12-2-1
−やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−その3:戦後繰り返された悪質な規制違反

 フィリピン捕鯨参入の件も合わせ、海賊捕鯨とぐるみ違反に関するさらに詳しい情報は『ザ・クジラ』(原剛著、文眞堂)をご参照。

 捕鯨オリンピックによって大型種から順に壊滅させていった南氷洋捕鯨の歴史については「やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−」で勉強してもらうことにして、ここで国毎の捕獲統計に基づくグラフをもとに、日本が乱獲に果たした責任の重さについて、改めて検証してみることにしましょう。

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 捕獲量ランキング1位と4位のナガスクジラ、イワシクジラについては、『南氷洋捕鯨史』(中公新書)の著者で捕鯨賛成派の板橋守邦氏も、資源収奪の責任が日本にあると指摘しています。
 ナガスクジラの捕獲量をみると、日本はノルウェー、イギリスに続いて銅メダルの3位、全体のおよそ2割というところ。数字だけでいえば、ノルウェーの方がトータルで倍近く捕っていることになります。
 しかし、年間捕獲量の記録で言えば、チャンピオンはやはり日本でした(13,060頭、1962)。2位のノルウェーも僅差とはいえ(12,974頭、1954)。
 さらに、資源状態の悪化の様相が濃くなる後期になればなるほど、トータルの捕獲量に占める日本の割合がどんどん高くなっていきます。
 日本の捕獲量は、1950年代に入った頃は1割だったものが、最盛期の1960年代半ばには5割超にまでに膨れ上がります。
 グラフを見れば一目瞭然。そして、これはほぼすべての対象種についていえることでした。

catchsei.png

 こちらがイワシクジラの捕獲数に占める日本の割合。
 規制がやや厳しくなってから主要なターゲットになった鯨種ですが、このイワシクジラの捕獲比率に関しては、日本がダントツの1位で5割に達します。
 ニタリクジラも同じく日本の比率が圧倒的に高く、5割弱。ミンクとマッコウは、旧ソ連と日本で1位、2位を分け合う格好。
 まさしく、乱獲の総仕上げ、息も絶え絶えの状態にあるクジラたちにトドメを刺す役割を果たしたのが、後発国の日本と旧ソ連だったのです。
 もっとも、大洋漁業ソ連事業部≠ニ揶揄された同国の鯨肉も日本市場向け。
 マグロやウナギと同じく、世界中の乱獲を支えてきたのが日本人の胃袋だったわけです。

 では、日本が主役の座を奪う前に、すでに追い詰められていたシロナガスとザトウについてはどうでしょうか。

catchblue.png

 日本の貢献≠ヘおよそ1割。シロナガスに関する限り、絶滅寸前に追いやった主要な責任がノルウェーと英国にあるのは否定できません。
 しかし……グラフを見て、皆さんはあることに気付きませんか?
 日本の捕獲の比率は、戦前の一時期に急激に膨れ上がります。ちょうど太平洋戦争が始まる1941年、日本は3280頭のシロナガスを殺してノルウェーから首位の座を奪い、束の間の栄光に輝きます。
 そう……第二次大戦と戦後の中断さえなければ、この順位も入れ替わっていたかもしれません。
 シロナガスクジラは、その大きさ故にナガスクジラより先に狙われたため、日本が参入した時点で先攻組に壊滅的なダメージを被っていたわけです。
 もし、南氷洋進出の西洋捕鯨国とのギャップがもっと短ければ、あるいは戦争のタイミングがずれていたら、ナガスと同じく最終的に引導を渡す役割を果たした捕鯨国が日本だったことは、想像に難くありません。
 付け加えれば、捕獲禁止後にシエラ号が密漁したシロナガスやナガスの鯨肉の行き先も、日本にほかなりませんでした。

 これらのグラフから示される日本の捕鯨のもうひとつの際立った特徴、それは多くの鯨種でトータルや他の捕鯨国に比べて捕獲数のピークが後ろにずれていること。特に顕著なのがナガスクジラですが。
 日本がもし、持続的水産業の模範国であったなら、対象資源の危機を素早く察知し、警報が鳴る前に自ら捕獲数を絞ることができていたはず。
 実際に日本がやったことといえば、国際機関の規制にとことん抵抗することばかりでした。
 まさに持続的利用の落第生であったことを、近代捕鯨史は如実に示しているのです。
 残念ながら、その悪しき伝統は、今日の日本の水産業に広く受け継がれてしまったのが実情です。マグロ、ウナギからホッケに至るまで。漁業問題ウォッチャーが正しく認識しているように。

 このように、密漁に関しても、乱獲に関しても、捕鯨ニッポンの責任はきわめて重大なのです。

    ◇ ◇ ◇

「油目当てにクジラを乱獲したのは西洋人だ! 日本の捕鯨は伝統で乱獲なんてするはずがない! もちろん、密漁なんてするわけない!」
 ネット上ではしばらく前から、そうした100%事実に反する誤った歴史認識が横行しています。
 ごく一握りの狂信的な反反捕鯨論者が叫んでいるだけだったら、まだ無視してもいいでしょう。
 しかし、国を代表する立場にある安倍首相の発言を聞くと、不安を覚えざるをえません。少なくとも、「海洋哺乳類を冷酷に乱獲していた」のは厳然たる事実なのですが……

安倍首相は9日、海洋哺乳類を冷酷に乱獲しているとの海外の認識とは違い、捕鯨を行っている地域は漁の期間が終わる時には必ず鎮魂の儀式を行い捕獲の対象を敬っていると説明した。「このような日本の文化が理解されないことは残念だ」(ガーディアン)

−商業捕鯨再開を安倍首相が示唆 “日本文化”を理由に、国際判決に背くのか?海外メディア反発 (NewSphere,'14/6/10)

 自民党をはじめとする各党の捕鯨族議員らが、ICJ判決直後に鯨肉パーティーを盛大に開いて気勢を上げたときも、彼らがあまりにも素朴な捕鯨ニッポン性善説に毒されているようにしか見えませんでしたし。
 捏造された歴史に酔いしれる日本人が急増しているとしたら、それはとても由々しき事態です。

 いま、ヒトラーを髣髴とさせるウルトラナショナリズム首相の威勢のよい啖呵に呼応するかの如く、アジア諸国への侵略行為を中心に、この国の負の歴史を書き換えようとする動きが、これまでになく活発になっています。
 南京大虐殺、従軍慰安婦、沖縄集団自決、etc.etc...
 そんな日本の歴史修正主義に対しては、隣国の韓国・中国のみならず、欧州や同盟国である米国でも、眉をひそめる見方が少なくありません。
 負の歴史から目を逸らし、過去の過ちを正当化しようとすれば、日本は国際的信用を失うだけです。
 反省なしの未来志向などありえません。
「うるせえな、昔のことでグチグチ言うんじゃねえよ。そんなことより前行こうぜ、前」
 国のトップがそんな態度を示せば、むしろ、国際社会から強い疑念を呼び招いて当然でしょう。再び過ちを繰り返さない保証はどこにもないのですから。

 繰り返しになりますが、乱獲においても、密漁においても、日本が世界で最も悪質な捕鯨国のひとつだったことは否定の余地がありません。
 国際司法裁判所(ICJ)にはっきりと違法認定を受けたにも関わらず、水産庁長官の国会発言(「刺身にすると美味いミンク鯨肉の安定供給のため」)もスルーして、反省と検証ひとつなく、再度看板をすげ替えただけの密漁捕鯨を繰り返そうとしているのだから、過去形とすら呼べません。現在進行形

 以前は国際会議の場において、河野談話・村山談話に相当する「乱獲への真摯な反省」を代表団も口にしていたものです。
 そのころはまだ、「調査捕鯨はかつて乱獲を招いた商業捕鯨とはまったく違うんだ」と世界を納得させるために、世界に対して二度と過去の過ちを繰り返さないと表明することが最低限必要不可欠だと、担当者も理解していたということかもしれません。
 残念ながら、最近ではそうした表向きの反省の言葉さえ、滅多に聞かれなくなりましたけど……。
 ある意味で、日本の商業捕鯨と調査捕鯨は、旧日本軍と自衛隊の関係の相似形ともいえました。
 二度とあのような戦禍を引き起こさないという約束が、自衛隊の存在を内外に認めさせるうえで、絶対に必要なものだということは、日本国民であれば誰しもうなずくはずです。
 調査捕鯨の方は、ICJ判決が示すとおり、化けの皮が剥がれてみれば、ほぼ商業捕鯨と変わらなかったわけですが。
 その調査捕鯨同様、自衛隊が再び侵略戦争への道を開く実質的な軍隊とイコールでないことを、一国民としては祈るばかりです。
 つい先日、安倍首相が「わが軍」と口走っちゃったばかりですけど……。
 本川長官が国会で「ミンクは刺身にすると美味い!」と言っちゃったように………。
 
 確かに、西洋の捕鯨国も過ちを犯しました。
 乱獲の悲劇を起こした責任を、彼らは負わなければなりません。
 二つの大戦・ファシズムによって、あまりにも多くの人命を犠牲にした責任から、彼らが決して逃れられないように。
 しかし、それは日本の捕鯨が招いた乱獲や悪質な密漁に対する免罪符には、一切なりえません。
 日本が、自らのファシズム・アジアの国々に対する侵略戦争の加害責任を否定することが、断じて許されないように。
 「いや、その2つはまったく違う。西洋の捕鯨は悪≠セが、日本の捕鯨は善≠ネんだ」という主張は、八紘一宇ではないけれど「西洋の戦争・全体主義は悪≠セが、日本がやったのは正義≠フ戦争であり、侵略もファシズムもなかったんだ」という主張とそっくりそのまま重なります。
  
 私たち日本人は、日本人であるが故に、戦争責任の否定とまったく同じ流れで流布される根拠のない日本の捕鯨性善説≠全力で打ち消さなければなりません。それは世界の恥です。
 自らの犯した罪と真正面から向き合うことをしない限り、本当の未来は決して手に届かないのですから。
posted by カメクジラネコ at 01:43| Comment(5) | TrackBack(0) | 社会科学系

2015年03月07日

To sympathizers for Japan

Let's travel to Japan after it withdraw whaling on the high seas! 
Let's enjoy "Washoku" after Japan cease to impose its values on Southern Ocean! 
Let's buy Japanese brands after Japan plead guilty to the charge of illegal whaling concluded by the ICJ and apologize to the world!

ツイッターでも「『ねえ、俺のいいとこどこ?』って女子に聞いてる奴みたいでキモイ」と卓見を述べていた方がいらっしゃいましたが、ともかく世界から褒めそやしてもらわないと気がすまなくなってしまった今の日本。
ゴールデンタイムのTV番組は、各局こぞって「日本バンザイ!」「日本イチバン!」の大合唱。まるで、手近にいる大人たちのもとに次々と駆け寄っては、不安げにその顔を見上げる幼児。もし、「よくできたわね〜」「えらいわね〜」と頭をなでてくれなければ、「自分がこの世から消されちゃう!」と信じているかのよう・・・
そもそももてなし≠チて相手の立場を汲み取り、気を配ることのハズなのに、これもやっぱり『ねえねえ、俺のオモテナシ気持ちよかっただろ!? 気持ちよかったよな!?』と、自分はテクニシャンだと勝手に思い込みつつ確認せずにはいられないイタイ奴そのもの。カノジョとしては、内心では思いっきり冷めていても、曖昧に返事するほかないでしょうけどね。。目をギラギラさせて、オモテナシのスバラシサに対するコメントを求めるレポーターに辟易する外国人たちには、心から同情するばかりです・・
大多数の国民は、「穴があったら入りたいほど恥ずかしい」のが本音ではないでしょうか?
クールジャパン症候群の病因は至ってシンプル。
マスコミはスポンサーの大企業のため。大企業は投資家のため。そして、投資家は金儲けのため。
国の資産、通貨の価値がいくら下がっても、富がどんどん流出していこうが、投資家たちに向けて当座の利益をもたらすことをPRできさえすればかまわない。
それがアベノミクスの病理
今日も一時1ドル122円台にまで値下がりましたが、円〜日本ブランドの割安感が長続きするわけもなく、消費増税と合わせて国民の大多数を痛めつけながら、日本売り≠ェ進行していくことになるでしょうね。
海外投資家たちにすれば、円は常に基軸通貨ドルの都合のいい一時退避先でしかなく、日本の持続的成長を本気であてにしているはずもなし。
5年後に予定される国を挙げてのお祭り騒ぎが、本当に滞りなく無事に済むとも思えないのですが、一過性のイベント頼みで、その後深刻な飢餓感に陥るであろうことは、誰でも容易に想像がつくはずです。
国の基盤である財政・社会保障のシステムは、将来世代のための痛みを伴う改革を敢行するどころか、格差の恩恵を享受してきた世代の刹那の享楽のために阻まれ、虫の息。どれほどの楽観主義者が見ても、もはや破綻は不可避。
進む侵蝕。
そして、ますます大きくなる軍靴の響き。
破滅──日本終了≠フ予感。
終わらせないための唯一の方法は、背伸びをせず、正直に、真実に向き合うことだけ。
現実から目を背け、空疎な夢を追いかけるのをやめること。
コマーシャリズムに誘導され、他者から奪い取るジユウ≠、本物の自由だと勘違いするのをやめること。
311で、それに気付けてよかったはずなのに。
逆バネが働き、目の前の崖も目に入らず、虚構のミライ<w突き進む道を選んでしまった哀しい国。
いま、日本ブランドに「Amasing!」と喝采を送っている若い外国人たちは、そんなうわべばかり飾り立てた、実在しない幻の異国のイメージに憧れ、惹きつけられているにすぎません。
「Under Control」真っ赤な嘘が象徴する、虚飾の日本。

日本ファンの皆さん。
今、あなた方が賞賛を浴びせることは、私たち日本人、この国にとって、まったくためになりません。
本当に日本が好きなら、闇に蝕まれ、息も絶え絶えにあえいでいる、この国の真の姿を、目を逸らさずに正視してください。
在日外国人や先住民アイヌの人たちに向けられるヘイトスピーチ。
沖縄。
豊カサ≠フ代償として消えていく本物の伝統文化と自然。
追い詰められる野生動物と、虐げられる動物たち。
あなた方が本物の日本ファンなら、きっと思うはずです。
「ここを直したら、もっと日本を好きになれるのに……」と。
遠慮する必要など一切ありません。
バッシングすると逆ギレしないかって?
心配無用。むしろ、一大イベントを控えてマイナスイメージに神経を尖らせ、「また世界にパッシングされやしないか」と不安に怯え、評価に飢えているいまこそ、襟を正すよう促す絶好のチャンスです。捕鯨問題に限らず。
はっきりと、大声で、メッセージを伝えましょう。
(でないと、聞こえないフリをする人たちもたくさんいますから・・)
posted by カメクジラネコ at 19:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2014年11月08日

倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化

 今回はアイヌの捕鯨について徹底的に検証してみたいと思います。といっても、現在もなお続いている太地や南極海での捕鯨と異なる視点で。主なソースは以下。
@アイヌ民族クジラ利用文化の足跡をたどる(岩崎,'02)|北海学園大学人文論集21
http://hokuga.hgu.jp/dspace/handle/123456789/1351
Aアイヌの捕鯨文化(児島,'10)|神奈川大学
http://icfcs.kanagawa-u.ac.jp/publication/ovubsq00000012h5-att/report_02_008.pdf
Bアイヌの鯨類認識と捕獲鯨種(宇仁,'12)|北海道民族学#8
http://www.h6.dion.ne.jp/~unisan/files/ainu_whaling.pdf

 北海学園大学の文化人類学者・岩崎・グッドマン・まさみ氏は、以前当ブログで取り上げたNHKのトンデモ番組に登場した秋道氏との共著や、鯨研通信への寄稿もあったり、沿岸捕鯨の文化の側面を強調する仕事をなさってきた、立ち位置としては捕鯨推進側の方。一方、児島恭子氏は札幌学院大学のアイヌ研究者の方。宇仁氏は東京農大の博物館学芸員の方。
 今回の視点で検証する分には、岩崎氏のも含め、ニュートラルな資料と受け止めることができるでしょう。(以下、引用は@ABとします。強調は筆者)
 これらの文献からは、アイヌやニヴフの人々を含むオホーツク圏の先住民が、海獣と非常に豊かな関わりを持っていたことがわかります。
 トリカブトの毒を用いた噴火湾での捕鯨は有名ですが、離頭銛のほか弓矢も使われたようですし、地域によって利用の形態にも幅がありました。

 しかし、上掲の文献にも示されているとおり、アイヌの捕鯨に関する史料は曖昧で断片的なものしかありません。
 伝統文化が口承で受け継がれたこともありますが、もうひとつ、大きな理由があります。
 それは言うまでもなく倭人(和人)の影響
 江戸時代の松前藩による搾取と抑圧、明治に入ってからの同化圧力(まさに文化と価値観の押し付け!)。そして倭人の近代捕鯨会社による資源の収奪。
 倭人に妨げられることなく残ってさえいたら、今私たちがそれを目にすることが出来たはずですからね。
 アラスカのイヌイットや、ロシアのチュコト族、デンマークの自治領グリーンランドの先住民の生存捕鯨が、国際社会に受け入れられているように。(ちなみに、グリーンランド捕鯨に関してIWCで揉めてるのは、流通形態が他の地域とさして変わらなくなった一方でザトウの捕獲枠増を求めていることが理由)
 倭人に虐げられ、衰退させられたが故に、伝統産業そのものに加え、それを受け継ぐために必要な言葉までも奪われたが故に、現在(いま)の所作として語り継ぐのではなく、過去形の形で一部の年配者の記憶の片隅に留められるにすぎなくなってしまったのです。

 具体的にどのようにしてアイヌの捕鯨が倭人の手で潰されていったか、それは上掲の資料からもつぶさに読み取れます。

クジラが松前藩の重要な産物として流通するようになると、寄りクジラの権利を規制する掟が布達され、アイヌの人々は寄りクジラを発見した場合に待ち奉行所に報告する義務が課せられるようになったと記されている。つまりこれまでのようにアイヌの人々がクジラを利用することは処罰の対象となり、アイヌ民族のクジラ利用は幕府に管理されるようになっていくのである。(〜@P119)

さらにこの地域の場所請負制度はアイヌの労働力搾取に大きく偏り、その結果アイヌの人々は生業を失い、漁労や狩猟の自主性を失っていくこととなった。(〜@P120)

クジラは解体後にその3分の1は上納され、発見者であるアイヌには3分の1が渡されると記録されている。(〜@P120)
↑つまり3分の2は倭人に取られるってこと・・。これは安政4年(1857年)の紋別の2頭の寄りクジラの例。

アイヌ捕鯨の終わりを決定的にしたのは明治4年(1871年)の毒を用いた狩猟の禁止である。この禁止令によりクマ猟やシカ猟と同様に、アイヌの人々が巨大なクジラを得るために、最も効果的な方法であったトリカブト毒を失った。(〜@P120)
↑実は、明治初期にガンガン乱獲してあっという間にエゾシカを絶滅寸前に追いやったのも入植した倭人。そのために敷かれた保護措置でアイヌが割を食ったわけです。ただ、おそらく被支配民に抵抗のための厄介なツールを与えないという裏の動機もあったでしょうね・・

この当時すでにアイヌは寄りクジラを利用する権利を失っており、クジラが浜に上がると、その地域の漁業権を持っている漁業者が優先的にクジラを得る権利を主張し、伝統的なアイヌの権利は認められなかった。(〜@P125)

 このとおり、アイヌの人々のかけがえのない伝統文化を強圧的に、強引に変質させたのは、倭人に他なりません。
 そのこと自体は、白人とイヌイット、アボリジニ、マオリ、ハワイ先住民など多くの少数民族との関係についてもいえることでしょう。
 ただし、先進各国の中でも、少数民族を抑圧した加害の歴史を正しく教えることをせず、権利回復の動きが遅れているのが、世界に捕鯨文化を声高に叫び、人種差別の被害者だとことあるごとに訴える捕鯨ニッポンだといわざるを得ません。
 何しろ、「アイヌなんていない」妄想に憑かれたトンデモなヒトが札幌で市議を務めてしまえるという、惨憺たる有様ですからね・・。

 反反捕鯨論者が口を開く度に唱える「日本の捕鯨9千年!」(中国4千年じゃないけど・・)の代名詞。
 しかし、縄文時代の海獣類の利用とつながり得るのはアイヌの捕鯨(例の秋道氏も述べているとおり)。倭人の捕鯨ではありません。
 化石での大量出土といっても、例えば能登の真脇遺跡から出土した小型鯨類の骨は、集落が存続した4千年の期間で3百体弱程度。縄文時代のそれが、偶発的・散発的な寄りクジラの利用であったことは疑いの余地がありません。石器等での捕獲があったとしても、岸に近づいたものを仕留める、文字どおり寄りクジラ+αの利用。
 寄りクジラで利用できるのは集落で年数頭、10頭も上がれば“大漁”。
 つまり、その形態は後世のアイヌの捕鯨にこそ連なるものであれ、技術革新を重ね、組織的に鯨組単位で年間数十ないし数百頭も捕獲し、莫大な収益を上げて藩の財政にも大きく貢献した、銅鉱に匹敵する一大産業と呼ばれるほどきわめて商業的色彩の濃かった倭人の捕鯨とは、超えがたい断絶があるのです。
 ついでにいえば、古式捕鯨に用いられた技術は中国をルーツにするという説もあり。
 積極的か消極的かという点は主観的、相対的な指標にすぎませんが、アイヌの捕鯨は古今東西の人類によるクジラの利用の中でも、きわめて抑制の効いた、最もクジラに対して優しい(というよりフェアな)捕鯨だったということができるでしょう。
 何より大きな違いは、文化としての継承性、連続性です。
 そして捕鯨の性格。つまり、文化の本質そのもの。

この頃(昭和の終りから平成)のアイヌの人々の記憶には、積極的に海に出て行く捕鯨の話は出てこない。しかし寄りクジラを利用した数々の体験が記録されている。(〜@P113)

(「雄武町の歴史」の)著者はアイヌの先人たちの捕鯨と寄りクジラに関して、非常な危険を伴う捕鯨は地形的に恵まれた地域でのみ行われたと考えるのが自然であろうと述べている。(〜@P114)

寄り鯨は以前に比べて少なくなったことが書かれているが、減産は困るからといって積極的に捕鯨をしたという記録は今のところ見つからない。(〜AP116)
↑そう・・アイヌはまさに太地とは正反対だったわけです。自然に対する向き合い方が。

 児島氏は以下のように指摘しています。

人間の行為としては与えられた鯨の利用と捕りに行くことは別のことである。(〜AP117)

 ここで、倭人とアイヌの捕鯨に関する、非常に象徴的な、そしてあまりにも対照的な記述を紹介しましょう。

(安房で捕鯨を始めた「関東における捕鯨の祖」醍醐家7代目定継が北海道で捕鯨業開始を試みた記録)
蝦夷人の突棒捕鯨の幼稚さに比べて、ずっと進歩した洋式捕鯨の実施を見る日があれば、この地においてのこの事業は驚くほどの成果をえるものと、定継は自ら心を励ました。(〜@P121)

北海道の海にはクジラが多いがアイヌはカムイと呼んでそれを捕獲しないが、シャチなどに追われたクジラが浜にあがると、それを食料としたり、油をとった(『蝦夷土産』安政4年)(〜@P121)

クジラをまず捕るという気で捕るということはあまりない。(白老、アイヌ古老)
沖ではレプンカムイは獲物を横取りされたと思っているのか知れないけどキーキーと泣いて海上をポンポン跳ねていた(寄りクジラの状況 白老、アイヌ古老)(〜@P124)

(クジラ送りの様子)
祈りの言葉はレプンカムイに対して大しては大きなフンベをくれた事の感謝の後、このように祝って送るのでまた来てくれることを願う祈りをする。ハシナウカムイにはフンベの魂が無事に帰ることができるように祈る。(〜@P133)

 フロンティアのつもりでやってきて、目がこぉんな具合(¥v¥)になった倭人と、何世代もそこで暮らしてきたアイヌの人々のクジラ観の差が、如実に表れているといえるでしょう。西洋の捕鯨の収奪的性格を、文明の進歩≠ニいう感覚でうらやむ目でしか見ていなかったことも。
 《カムイ》でもある動物と目線が等しいアイヌに対し、当時から動物を《カネになる資源》としか考えていなかった倭人の、なんという途方もない差。
 アイヌの人々にとって、森の生態系の頂点シマフクロウとヒグマ、そして海の生態系の頂点シャチは、特別なカムイとして一目置かれていますが、表現が微笑ましいですよね・・。クジラ送りではシャチとクジラだけでなくキツネの神(ハシナウカムイ)にも祈りを捧げます。「海の幸は他の動物たちと分け合うものだ」という感覚があればこそでしょう。@P138の「寄りクジラの踊り」には、スカベンジャーとして自然界に欠かせない役割を果たしているカラスも登場します。

 ちなみに、ノコルフンベはアイヌ語でミンククジラを指す呼称。実は和名のコイワシクジラは近代に入って命名されたもので、古式捕鯨時代の倭人はこの種を認識できていませんでした。クジラに限らず花鳥風月の感覚で自然・野生動物を大雑把にしか把握せず、クジラの尾鰭の縦横も判然としないヘタレ絵を描いてたくらいですから・・
 また、アイヌ語にはミンクを指すと見られる呼称が複数あり模様(B)。捕獲時の体長や体色等の違いを反映したのでしょうが、年齢や体色の個体差だけでなく、JとOの区別もついてたかも? あるいはひょっとしたら、明治期に激増した倭人のノルウェー式捕鯨船の乱獲の所為で現在は絶滅してしまった亜種・個体群があったのかもしれませんね・・
 AP119では、「シマフクロウが人間のためにシャチに寄りクジラを頼む神謡」が紹介されています。

シャチが鯨を送り届けてこそ人間が得られるのであって、人間が直接鯨を獲るのが常態であればこれらの口承の物語の内容は成り立たない。(〜AP119)
つまり、鯨を人間に恵むのはシャチであり、シャチへの崇拝が捕鯨文化に作用しているのである。(〜AP120)

 古老の口で語られた「キーキー泣くレプンカムイ」の表現には、彼らの価値観が明瞭に表されています。
 クジラは「まず第一にシャチの獲物」であり、ニンゲンはその「お裾分け」をいただいているにすぎない──
 獲物が減ってもなお自分の獲り分を強引に確保しようとすれば、気高きレプンカムイが飢えることになります。アイヌの人々は、それを自らに許すことなど認めなかったに違いありません。
 それこそは、野生動物と対等に向き合ってきた先住民の知恵にして哲学、自らの存立を支えてきた基盤となる自然の真の持続的利用=サステイナブル・ユースの手本といえるのではないでしょうか。

 補足すると、直接的な規制による抑圧のみならず、横取りする形で奪ったのも倭人といえます。
 鯨種のうちでも北海道方面のアイヌの利用が多かったのはミンククジラとみられます。江戸時代以前には、種名がないことからもわかるように、本州以南の倭人の捕鯨の対象ではありませんでした。古式捕鯨の主要な対象鯨種であるセミやザトウに比べ、泳速が速く、餌場が近かった北海道ほど岸に寄らず、噴気も見分けがつきにくかったのが理由でしょう。ゼロではなかったでしょうが・・
 ただし、ノルウェー式捕鯨が導入されてからは、ミンク船と呼ばれる小型捕鯨船によって日本海を中心に大量に捕獲されるようになりました。
 西洋から押し寄せていた帆船捕鯨は、主要なターゲットがマッコウで、セミもボチボチ獲りましたが、鯨油も乏しくすばしこいミンクは当然対象外。競合の形でアイヌの捕鯨を衰退させたのも、やはり倭人の捕鯨だったことは間違いありません。

 ひとつはっきり言えることがあります。アイヌの捕鯨は、たかだか2、3百年ぽっちの間にめまぐるしく様態を変え、そのたびに収奪的性格を濃くしていった倭人の捕鯨とは、根底から異なるのです。
 対照的な倭人の捕鯨にまつわる伝承をここで再度紹介しましょう。(詳細解説は下掲リンク)

−長崎県の民話・第三話:くじら長者(西彼杵郡)
http://www2.ocn.ne.jp/~i-talk/minwa3-3.htm

 ある日のこと、クモの巣に一匹のこがね虫がかかった様子を見た与五郎。
 「これじゃ、クジラを網(あみ)で捕るのじゃ」と、さっそく大きくて、じょうぶな網を作りました。
 くじらを網で捕る方法は大成功。 毎年、数百頭のクジラが生け捕られました。 与五郎はたちまち日本の長者番付にのるほどの大金持ちになり、りっぱな鯨御殿(くじらごてん)を建てました。
 それから後のある夜、一頭の親くじらが与五郎のまくらもとに現われて、
  「与五郎どの、わたしは子もちのクジラです。 かわいい子を生むために、どうかお助けください」と、涙ながらに頼みました。
 しかしよく日、与五郎は、子もちのクジラを捕らない様に伝えるのをうっかり忘れてしまいました。
 夕方、子もちクジラと子鯨が浜にあげられました。 それを見て昨夜の夢を思い出した与五郎はたいそう悲しみました。
 それからというもの、プッツリと鯨が捕れなくなり、浜はすっかりさびれてしまいました。 あれほど栄えた鯨御殿も荒れはてて、与五郎は六十歳でこの世を去りました。
 そして、子孫(しそん)に不幸が続いたそうです。(引用)

 古式捕鯨の商業的性格の詳細については、下掲の秋道氏主演のNHK捕鯨擁護プロパガンダ番組の批判記事をご参照。
 アイヌ捕鯨と古式捕鯨との間には、かくも埋めがたい差がありました。
 しかし、その江戸期の古式捕鯨も、明治期以降の事業家によるノルウェー式捕鯨の乱獲体質とは比べ物になりません。
 古式捕鯨に引導を渡したのも、さらに桁違いに捕獲数を急増させて資源枯渇を招いた近代捕鯨そのもの。
 北海道や全国各地に棲む陸上の野生動物も、サステイナブル・ユースの感覚とは無縁な倭人の所為で、同時期に憂き目にあったわけですが・・
 それはクジラ観の違いにも明白に見て取れます。
 まずこれが、曲がりなりにも人間らしさを保っていた古式捕鯨時代。

嘗て鯨をとりしが子鯨、母鯨にそうて上となり下となりて其の情態甚だ親しく、既に母鯨の斃る頃も、頑是なき児の母の死骸にとり付きて、乳を飲む様にも見えたり、よって屡々これを取除かんとすれども遂に離れず、拠無く子・母共殺すに至る。いかなるものもその様を見てはその肉を食うに忍びず、此処に葬りて墓を建て供養せり、定めてこの墓の鯨もザトウなるべし。(引用)

−鯨文化:鯨を弔った鯨墓・鯨塚など
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/3011/kujirahaka.html

 古式捕鯨時代はまだ、命を奪うことへの畏れ、疚しさを完全には失っていなかったということですね・・。自民党の族議員のセンセイは、世界に供養の話を広めたいとかおっしゃってましたが、ご自身がまず日本人のクジラ観の多様さを一から勉強し直す必要がありそうです。。
 続いて、大手捕鯨会社による戦後南氷洋捕鯨の大乱獲期。監督官を務めた日本の鯨類学の第一人者の体験談。

※ 乳腺にミルクがあり、泌乳していたことを示す。しかし、この場合は、乳腺は退縮中で、泌乳活動を終えつつあるとみなして、仔連れ鯨捕獲の違反の疑いがあるのを目こぼしした。このようなことは日本の捕鯨では普通のことであり、会社や行政からも目こぼしを期待されたが、研究者にとっては耐えがたいことでもあったので、後には研究者は監督官を兼任しないケースが増えた。(補注)
(中略)大きな白の二頭連だと思ったら、小さい三分の二位のが小さい息をまぜて居る。船の連中は、あれは長須が混って居るので、子連れでは無いと言ふ。雌の肥り方。噴気。背鰭。背色等長須の様でもあり、子供の様でもある。しかし、私より実際に目の肥えた連中であり、しかも、監督官の面前で禁令を破って見せる様な事もあるまいと、その侭追尾させる。始めは小さいのが後からついて泳いで居たが、敵(捕鯨船)に追ひかけられたと気がついてからは、小さいのを前にして大きな白が後から揃って泳いで行く。そして、大体の場合♂が敵に近い方に居て♀を守ってやって居る。此の前第三文丸に乗った時は二頭連(夫婦)は一回も見なかったのだが、今日はどうも二頭連ばかりでその中の一頭をやっつけるのは可哀そうだ。しかし可哀想がってばかり居ては漁は出来ないし、当方が可哀想になる、早く帰れる為に犠牲になってくれよと祈ってやまぬ。そして今日の親子(?)の愛情又は夫婦の愛情を見せられては、それを打ち壊して自分の利益にのみ汲々として居る人間達。捕鯨業が嫌になった。母船では感ぜられない嫌な気分だ。遂に追尾成功。♂鯨はあへない最後をとげてしまった。それは大きな、♂にしては全く稀な程大きな85,6 feetもある奴ではあったが、それをやっつけた時、そして私に自らの功を話に来た時の、砲手の喜色満面ニタリとして残忍な笑ひを忘れる事は出来ない。私が、それと全く反対の気持ちで居るのも知らないで。それでもまあ♂で良かった。あれが♀であり、あの小さいのが、長須では無くて、子供だったら。小さいのは育たないかも知れない。此の点が国際協定のやかましく言ふ所であり、鯨を如何に可愛がるかと言ふ点だ。♂が自分が倒れても♀と子を守らうと言ふ精神、次代に示す♂の愛情は生物界いづれも変わらないだらう。犠牲になった♂の冥福を祈り、その犠牲によってのがれ得た♀の、そして小さき者の幸福を祈るや切。引用〜『南極行の記』(北泉社)

 ・・・そして行き着くところまで行き着いた、非人間的な調査捕鯨がこれ。。。

注5.「親子」と豪州政府が報道した鯨は、実際には単に捕獲された2個体の体長に差があっただけである。(〜鯨研プレスリリース)

 スリップウェイを挙がる未成熟と成熟個体の写真が報道され、国際的な非難を浴びるや、当の鯨研は涼しい顔でこんなことを言ってのけました。古の鯨捕りが耳にしたら、伝統の後継者を名乗る子孫の仏の罰を恐れぬ所業に、悲嘆のあまり卒倒したことでしょうね・・
 実際のところ、調査捕鯨の捕獲対象の半数は未成熟個体だったのですが。
 江戸時代の鯨捕りの抱えた激しい内心の葛藤など、もはやどこ吹く風。

 アイヌの捕鯨、江戸時代の古式捕鯨、明治期に輸入されたノルウェー式近代捕鯨、そして現代の、科学の美名を騙りながら「美味いミンク刺身の安定供給のため」(〜本川水産庁長官)に行われている調査捕鯨を、同じ捕鯨文化としてひとくくりにすることは、絶対に許されることではありません。

 アイヌの人々にとって、クジラはレプンカムイ(シャチ)からの授かりものでした。
 大陸渡来人の血とともに、アイヌ・琉球と同じ縄文人の血も引く倭人も、自然の恵みに対する感謝の気持ちはあったでしょう。
 しかし、現代人の口にする「感謝」や「供養」は、もはや正当化のための空々しい言い訳以外の何物でもありません。
 昔は、水害から救ってもらったお礼にウナギを口にするのを戒める、そんな地方もありました。
 いまや、絶滅危惧種に指定されてさえ、乱獲に、欲望にまともに歯止めをかけることすらできない有様。
 便利さや潔癖症の感覚と引き換えに、世界の食料援助の総量を上回る膨大な食糧を捨てている、人口当りで最悪の飽食大国。
 水産庁の担当者は「国産」と平気で嘯きますが、南極産鯨肉は、日本人が自然から授かった恵みではありません。
 地球の裏側の自然から強奪してきたものです。
 ICJ(国際司法裁判所)できっぱり認定されたとおり、捕鯨ニッポンは盗人国家なのです。
 大量の重油を燃やして地球の反対側にまで押しかけ、奪ってきているのです。
 公海・南極海とEEZ内という違いだけで、中国の宝石サンゴ密漁船と何ら違いはありません。
 しかも公海といっても、日本が批准を拒み続けているボン条約の観点からは、渡り鳥と同様に国際的に保護されるべき対象なのです。
 そして、当事者には罪を犯した自覚が欠片もなく、国際社会に対して懺悔し、ペナルティを引き受けるどころか、国庫補助金を増額させ、ますます手厚い庇護に浴するばかり。零細沿岸漁業者の苦境も差し置いて。

 アイヌに対する倭人による差別の構造は、今に至るまで引き継がれています。
 アイヌの人々は、和人(アイヌ以外の日本人)によって土地も言葉も奪われ、ずっと迫害の対象となってきました。現在でも、国はアイヌを先住民族として公式に認めていません。2008年には、前年に国連で先住民族の権利に関する宣言が採択されたのを踏まえ、アイヌを先住民族とみなすよう求める国会決議がなされましたが、日本政府自身は先住民という言葉の定義の問題に終始して明言を避けています。
 さらに、2014年には自民党所属札幌市議(当時)の金子快之氏が「アイヌはもういない」と宣言して物議を醸しました。これはもはや、食文化どころかアイデンティティとしての文化そのものを否定する発言にほかなりません。
 この元議員のみならず、日本人全般に他の民族、他の国の文化に対して無頓着なところが果たしてないといえるでしょうか? 半世紀前にアジア諸国の人々を同化≠オようとしたことも未だに反省していない人が大勢います。それなのに、南極の野生を貪ることを世界に向かって文化≠セと大声で叫んでいるのは、何とも奇異に感じられます。
 そして、そのサベツ意識がきわめて露骨な形で現れているのが、捕鯨問題に他なりません。

「我々はいつも首尾一貫しているとは言えない。誰でも全ての点で完全であることは出来ない。それがたまたまアイヌの問題でそれが起こったのだ。」(森下氏のコメント)

−米国紙がみた調査捕鯨とアイヌ|無党派日本人の本音
http://blog.goo.ne.jp/mutouha80s/e/a863ac35990df463fce164c7633863d5
−Japan's whaling logic doesn't cut two ways (LATimes,2007/11/24)
 現IWC日本政府代表・国際水産資源研究所所長・森下丈二氏が、海外メディアの質問に対して正直に言い放った超無神経発言
 捕鯨でのみ奇妙奇天烈なジゾクテキリヨウ原理主義の完全適用を世界に要求する森下氏は、日本でのアイヌに対するダブスタをして「たまたま起こった」の一言で済ませているわけです。
 なるほど、これが自民党の族議員に「基礎」(?)をレクチャーし、外野の反反捕鯨層にも「ネ申」と奉られるMr.捕鯨問題の国際感覚、人権感覚というわけです。
 NHKニュースウォッチ9での英国とガボンに対する「トロイの木馬」発言といい・・。
 政府代表の立場でクジラ食害都市伝説を否定したのは、彼の唯一評価できる面でしたが、肝腎の族議員に「基礎」を教えないんじゃ話にならないよね(--;;
 「調査捕鯨はオゾンホール発見に匹敵する科学的偉業」だとか抜かすくらいは、まだ“お笑い鯨人”のレベルで済むでしょう。
 しかし、この発言は笑い事で済まされるものではありません。
 他の先進国だったら、“国の恥”と認識されて、国際交渉担当から外されて当然でしょう。
 レプンカムイやコタンコロカムイに比べ、なんと情けないネ申≠烽「たものです・・・・

 仮にもし、アイヌの捕鯨がIWCで申請されたら?
 公海母船式捕鯨を護る盾として使われる、黒に近いグレーとしか認識されていない倭人の捕鯨会社の沿岸捕鯨と違い、反捕鯨国も異を唱えることなどしないでしょう。
 米国のイヌイットやオーストラリアのトレス海峡諸島民と、日本の先住民アイヌとの間に線を引く理由は、彼らには何一つないのですから。
 唯一警戒されるとすれば、「倭人の捕鯨のカモフラージュにならないか?」の一点だけでしょうね。

 従来から表明しているとおり、筆者はアイヌをはじめとする先住民の捕鯨・狩猟・漁労に反対するつもりはありません。
 一番大きな理由は、筆者自身が、彼らから多くの者を奪ってきた加害者である倭人の一員だからです。
 およそあらゆる動物・自然搾取産業にとって効果的な防波堤の機能を提供してきた反反捕鯨プロパガンダのご神体、日本の公海調査捕鯨に終止符が打たれたとき、環境保護・動物愛護/福祉の市民運動のうちクジラに(相当無駄に!)注がれてきたエネルギーは、それを必要としている方面に振り向けられるべきですし、そうなることでしょう。
 倭人や白人の動物や自然に対する振る舞いを、その知恵を引き継いできた先住民の人たちに恥じないレベルにまで導くことに。

参考:
−「縄文からの関わり」の裏◆文化的不連続と持続性のなさ(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/72247285.html
−太地の捕鯨は中国産!? 捕鯨史の真相(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/18025105.html
−民話が語る古式捕鯨の真実(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html
−NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html
−鯨塚の真相(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/71443019.html
−捕鯨の町・太地は原発推進電力会社にそっくり(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/78450287.html
−二人の鯨類学者/西脇氏(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/18205506.html
−驚き呆れる捕鯨官僚の超問題発言(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/30322511.html
−捕鯨問題総ざらい!!! 16. 伝統のアイヌ捕鯨は別だよ!(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/29976279.html
−非科学的な動物"愛誤"団体──その名は「鯨研」 〜仔クジラ殺しを伏せる鯨研発プレスリリースの読み方〜
http://www.kkneko.com/icr.htm
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2014年09月19日

捕鯨礼賛大本営放送NHKがニュージーランドに宣戦布告!?

◇捕鯨礼賛大本営放送NHKがニュージーランドに宣戦布告!?


 ツイッターでの反応はこちらに。
■NHK、ニュージーランドにケンカを売る
http://togetter.com/li/720977

 スロベニアで開かれているIWC(国際捕鯨委員会)総会を取り上げた、9/17のNHK「ニュースウォッチ9」の特集の中で、度肝を抜く解説が。
 視聴者の目に飛び込んできたのは、画面いっぱいにまでデカデカと書かれた「ニュージーランド真のねらい 日本の国際イメージ悪化」のキャプション──。
 さて、同じ太平洋の島国として、報道の自由度をはじめ民主主義の各種指標で高く評価され、非核の道を貫き、地震の痛みをともに分かち合う、かけがえのない友好国であるはずのNZと同国市民に、思いっきり拳を振り上げてケンカをふっかけたNHKの真意は何なのでしょう??

 まず、背景を説明しておきましょう。
 この間、NHKをはじめとする日本のメディアは、同国提出の決議を「先延ばし」を狙ったものだと盛んに報じてきました。大本営の指示どおりに。しかし、実際にはその内容は、単なる先延ばしを目的としたものではありません。調査捕鯨の計画審査にあたり、その妥当性について、科学委員会(IWC-SC)の上位組織となるIWC総会にチェックさせる機能を求めるもの。
 なにしろ、ニュージーランド(NZ)はオーストラリア(AUS)とともに、この3月末ICJ(国際司法裁判所)によって日本敗訴の判決が下された調査捕鯨裁判の当事者なのです。皆さんとっくにご承知のはず。
 調査に名を借りた日本の違法な捕鯨を食い止めることのできなかったIWC-SCに対し、ICJの判断を踏まえてより厳格な運用を求めることは当然のことでしょう。もう一方の当事者に反省の姿勢が微塵も見られないのであれば、なおのこと。

 NHKの主張は、きわめて合理性に欠けるものです。
 友好国を攻撃的に貶めるのであれば、吉田調書や慰安婦証言以上に徹底した精査が求められて当然でしょうに。
 NZの決議に賛成した国は35カ国。一番の“お友達”である米国、AUS、EU諸国、南米諸国をはじめ多数の国々が、NHKいわく日本を貶めようとしているNZに同調したことになります。
 一体、彼らはみな、NZの“悪意”を見抜けなかったのでしょうか? あるいは、彼らもまた、日本の失墜させようと企んでいるのでしょうか?
 その中で、NHKがNZのみをことさらにあげつらったのは一体なぜでしょう? NZの日本に対する悪意が中でも飛びぬけていたから??
 ていうか、NZ、米・AUS・EU・南米諸国等がこぞって、日本に対するイメージを悪くさせようと働きかけている“世界”って、どこなの?? 中国や韓国? ロシア? このやり方で効果ある? それらの国に対して、これ以上日本の評価を貶める意味あるの????
 それを言うなら、国連から勧告を受けたヘイトスピーチや、(否定された一部以外の)慰安婦問題への対応、海外メディアで報じられている極右と政府関係者のリレーションのほうが、よっぽど日本のイメージダウンにつながっているよね・・少なくとも、報道の扱い方を見る限り、NHKはNZの陰謀≠ノ比べれば瑣末なことと思っているらしいけど・・

 第一、日本が決議を遵守さえすれば、国際ルールを守る姿勢を見せさえすれば、国際的イメージの悪化を防ぐことは簡単に避けられます。
 今回のNZの決議以前に、これまで日本の調査捕鯨に対してはIWCで何度も非難決議が採択されてきたわけです。
 捕鯨に伴う「国際的イメージの悪化」は、賛成反対双方がずっと指摘してきました。それを招いたのが、NZの陰謀などではなく、南極海調査捕鯨に固執する日本の姿勢そのものであることも含めて。
 そして、「国際的イメージの悪化」を懸念する声が、霞ヶ関の中からさえも聞こえていたわけです。
 米国・AUS・NZはじめ価値観を共にするハズの友好国に対するイメージを悪化させる、国際協調のつまづきの石としての負の側面と、捕鯨サークルの業界益ないし森下政府代表の言うところの「政治的ニーズ」という、二つの国益を斟酌し、「大きな国益の方を優先するほうが賢明なのではないか?」という声が挙がっていたわけです。
 今年NZが決議を出す以前から。日本国内で。例えばこれ。

−メディアが伝えぬ日本捕鯨の内幕 税を投じて友人をなくす|WEDGE

 今回最初に社説を出した毎日新聞も、「南極海での捕鯨に固執して参加国の反発を招き、沿岸での捕獲枠設定まで否定されるという負の連鎖からは脱却する必要がある」(引用)と指摘しています。
 その点に関していえば、NZは日本の沿岸小型捕鯨再開要求に対し、「南極海での捕鯨をやめるなら検討の余地がある」と日本に対する理解ある見解をはっきりと述べているのです。
 もちろん、日本はやっぱり国際法規を遵守する、敬意を払うに値する国だったのだな、と世界から賞賛を浴びる機会はありました。そう、ICJ判決の直後に。
 ところが、日本は国際的イメージを大幅にアップさせるまたとない機会を、自ら棒に振ってしまったのです。
 商業捕鯨モラトリアム決議から30年以上、「国際的イメージ悪化」などどこ吹く風という態度で、聞く耳を持たなかった捕鯨ニッポン。
 いまさら「国際的イメージ悪化」を気にしてどうするのでしょう?
 公共放送を通じてあからさまに他国の責任に転嫁する真似をしているようでは、その「国際的イメージの悪化」に拍車がかかるばかりに違いありません。
 何より、日本の恥を世界に晒したのは、国際裁判の判決文の形で後世にまで汚名を刻み込まれることとなった、本川水産庁長官の国会答弁・「刺身にすると美味いミンククジラ鯨肉の安定供給のため」にこそ、日本は南極海での調査捕鯨にこだわっているのだ──という、身も蓋もない本音の吐露に他なりません。

 NHKはニュージーランドという国、その国民の皆さんを侮辱しました。その侮辱を通じ、受信料の納付者、国民の信頼を裏切りました。
 中立・公正・公平とは程遠い、朝日吉田調書報道と比べても悪質さと外交への影響の点で比べ物にならない、北朝鮮国営TVもびっくり顔負けの偏向報道の責任を、NHKにはきっちり取らせるべきです。
 ニュージーランド政府はNHKと日本政府に対し、公式かつ厳重に抗議すべき。BPO(放送倫理・番組向上機構)にも審理を申し立てるべきです。
 番組の制作過程に徹底的にメスを入れたうえ、ニュースウォッチ9は打ち切り、ディレクターとトップも引責辞任を。

参考リンク:
−ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
−クローズアップ2014:IWC「調査」先延ばし可決 日本の捕鯨、岐路に(9/19,毎日)


◇追記:森下代表、ガボンとイギリスにケンカを売る

 NZに対する陰湿な誹謗中傷に負けずひどかったのが、ガボンに対する解説。
 中でも看過できないのは、森下代表の「トロイの木馬」発言。
 英国がガボンに戦争を仕掛けている。ガボンを乗っ取ろうとしている──そう受け止められても仕方のない発言です。
 では、実際の経緯を見てみましょう。
 ガボンは2002年にIWCに加盟。期を合わせるように、2003、04年と立て続けにランバレネ零細漁民センター整備計画の名目で水産ODAが供与されています。そして、2009年にはリーブルビル零細漁業支援センター建設計画の名目で11億円を超える水産ODAが供与されています。
 実は、ガボンは石油が採れることもあり、アフリカの発展途上国の中では所得が高く比較的恵まれた国。そうすると、援助要件が変わってくるわけです。ところが・・政治優先の水産無償は、それらの条件を無視して貸付ではなく贈与の形で供与が可能。水産無償はガボン宛の累積援助総額の実に9割を占めていました。詳細は下掲リンクの拙水産ODA問題解説をご参照。
 破格の厚遇があればこそ、「ヨロシク」の一言が利いてくるのです。
 今回、多くの発言で存在感を示したドミニカ同様、援助とセットで押し付けられた日本の身勝手極まる価値観の呪縛から解放されたのが真実。
 今もなお、日本の用意した甘い汁に惑わされ、片棒を担がされている国々が多くあるわけですが・・。
 公正・公平が大原則であるべきODAを、「美味い刺身」という我欲のために捻じ曲げ、アフリカをはじめとする地域の主権国家の尊厳を踏みにじり、国際会議の場で道具≠ニして利用しているのは、一体どこの国なのでしょう?
 ガボン政府と英国政府もまた、NHKと日本政府に強く抗議するべき。
 森下丈二氏には、日本の外交を担う資格はありません。まさに国の恥。コミッショナーを解任すべき。

 
参考リンク:
−国別プロジェクト概要 ガボン共和国
−捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!?──IWC票買い援助外交、その驚愕の実態


◇追記:BPOに意見を送ろう!

 NZ、ガボン、英国の人たちと仲良くしたいと思うみなさん(そう思わない人なんていないはず!)、BPO(放送倫理・番組向上機構)に意見を送りましょう!
 宛先と文例はこちら↓ 

posted by カメクジラネコ at 04:27| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系