2019年06月27日

商業捕鯨の未来は「low enough」かどうかにかかっている

 今年1月にIWCブラジル総会の旅費の開示請求結果に関する記事を1本書いてから、当ブログはお休みをいただいておりました。というのも、年末に日本のIWC脱退が決まったことを受け、再開される商業捕鯨がどのようなものになるか蓋を開けてみないとわからないため、しばらく様子を見ていたわけです。この間も引き続きツイッターでの情報発信は行っていましたし、ホームページの方にも新コンテンツを2つ用意しましたが。

■再開商業捕鯨改正省令案パブコメ
https://www.kkneko.com/pubcom6.htm
■水産庁Q&Aコーナー・カウンター版
https://www.kkneko.com/faq.htm
https://getnews.jp/archives/2163906

 上掲は、水産庁が3月に募集した商業捕鯨再開に関連する改正省令案のパブコメへの拙提出意見。下掲は、水産庁がICJ判決前に作成し、敗訴後も誤った内容を訂正せず放置しているQ&Aコーナーへの無知なSNSユーザーの感想がなぜか今頃になってバズッたため、仕方なくカウンター版を用意した次第。なお、こちらのコンテンツはガジェット通信さんにも転載していただきました。
 3月に送ったパブコメで、筆者はあえて大幅に譲歩し、条件付で捕鯨を認める意見を送りました。また、先住民生存捕鯨(アイヌ捕鯨)の定義を新たに設けるようにとかなり踏み込んだ提言もしました。正直、苦渋の決断でしたが(政府の脱退方針ではないけれど)。
 大胆な譲歩の理由は2つ。
 まず、日本の捕鯨問題ウォッチャーは主に5つの属性に分けられます。漁業問題ウォッチャー、野生動物/生態系保全問題ウォッチャー、政治問題ウォッチャー、動物(福祉/権利)問題ウォッチャー、そしてクジラ・イルカフリーク。詳細はまた後日論じたいと思いますが、このうち前3つに該当する方々は、美味い刺身*@に反対してくださった参院議員お2人に代表されるように、基本的には沿岸捕鯨容認の立場。ただ、これらの方々が南極海/公海調査捕鯨問題を注視し、捕鯨協会とマスコミによって醸成された反反捕鯨世論≠ノも臆することなく意見を述べてくれたからこそ、捕鯨に関して日本国内にも多様な意見があるということを世界に示し、民主主義国としての面目を(かろうじて)保つことができたのは否めません。
 これらの方々の立場からすれば、日本が公海捕鯨から完全に撤退し、水産予算のいびつな配分や復興予算流用といった不公正な官業癒着がなくなり、絶滅危惧種/系群をしっかり守る措置が講じられたうえで、一定範囲の節度ある沿岸捕鯨に収まるのであれば、これ以上捕鯨問題に注目する理由もなくなるでしょう。ある意味、ようやく「大宮」にたどり着いたといえるかもしれません(といっても若い世代の方には意味わからんでしょうけど・・)。
 また、4の動物問題ウォッチャーの見地からしても、科学の名のもとに南極海で大型の野生動物が年間数百頭の規模で殺され続けるという異常な差別的状況≠ェ解消されれば、捕鯨問題は犬猫生体販売・動物実験・工場畜産・動物園/水族館・スポーツハンティングなど他の動物問題と同じ地平で論じられるテーマの1つに落ち着くことになるでしょう。ゼロを要求しないことに対しては、純真な方たちが多いラディカルな層にはもどかしく思われるかもしれません。しかし、状況の改善にまったく寄与しない動物実験即時全廃論や、ヴィーガン全体に偏見が向けられ普及を妨げる一握りの活動家の違法な暴動のように、当の動物たちにとって逆の効果を招いてしまっては元も子もありません。「急いては事をし損じる」の慣用句どおり。
 沿岸の商業捕鯨をどうするかについては、10年後、20年後、この国を担う将来の世代の判断に委ねていいのではないかと、筆者は考えます。最終的にはその方がクジラたちにとっても有益だろうと。
 捕鯨問題に関して実は国内で一番声の小さかった5番目の層の人たち(筆者は属さず)にとっては、むしろこれからの方が責任重大ということになるでしょうが。
 そしてもう1つ。批判のトーンを抑えたのは、いうまでもなく日本政府に自重を促すため。
 日本のIWC脱退・商業捕鯨再開に対する反捕鯨国の公式の反応、海外メディアの論調が抑制的なのも同じ理由です。4月にナイロビで開催されたIWC科学委員会会合が和やかなムードで進行したのも。
 「日本が自重してくれるのを信じましょう」と。7月1日までは。
 対する日本側も、国際社会に対して公式に自重≠約束しています。以下は外務省の大菅岳史報道官が4月にワシントンポスト紙に寄稿した意見(別オピニオン記事に対する反論)。日本の捕鯨産業による乱獲・悪質な規制違反・違法な調査捕鯨に対する十分な反省が見受けられないのは、筆者としては大いに不満なところですが、そこには目をつぶりましょう。重要なのは、大須賀報道官が日本政府を公式に代表する立場として「low enough」とはっきり名言したことです。

■Japan’s whaling is sustainable and responsible (4/22,ワシントンポスト/外務省)
https://www.washingtonpost.com/opinions/japans-whaling-is-sustainable-and-responsible/2019/04/22/b309abd6-62d2-11e9-bf24-db4b9fb62aa2_story.html?noredirect=on&utm_term=.5432342be11f
https://www.mofa.go.jp/files/000487051.pdf
Japan will conduct its whaling activities only within its own territorial sea and exclusive economic zone and will have catch limits low enough to ensure the long-term sustainability of the affected species.(引用)

 なるほど、あくまで日本のEEZ内で、「low enough」なんですね……。わかりました。だったら、大目に見ましょう──
 シーシェパードの活動家レベルを除く、欧米・豪/NZ・南米諸国をはじめとする反捕鯨国の大方の一般市民はたぶんそのように受け止めることでしょう。本当に¢蜷{賀氏/日本政府の公式見解のとおりであれば。
 しかし……非常に残念なことですが、この日本の国際社会への約束≠ノは大きな疑念を差し挟む余地があります。
 まず、反論の元記事が「stock」=系群(個体群)への言及であったにもかかわらず、「stock」とは書かずに「species」=種(すべての系群を含む)としてしまっている点。これはかなり姑息な誤魔化し。要するに反論にもなっていないわけですが。
 さらに疑いを強めているのが、上掲拙パブコメに対する水産庁の回答。系群毎の管理をするよう求めたにもかかわらず、すっとぼけて知らんぷりをしたわけです。
 今日では保全・管理の対象となる単位は種ではなくあくまで個体群。これは基本中の基本。常識中の常識。
 淡水魚や昆虫等、在来の野生生物保全の場で、他地域の同種の異なる系群が人為的に持ち込まれることによる遺伝子汚染≠フ問題がしばしば取り上げられるのもこの文脈。
 実際のところ、「系群管理」はほかでもない水産庁が調査捕鯨を正当化すべくこれまで国際社会に公言してきたことなのです。
 以下は水産庁が再開を控えたこの6月にアップデートしたプレゼン資料。Q&Aの方はほったらかしたままですが・・。PDFの16ページに注目。

■捕鯨をめぐる情勢|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-29.pdf
資源管理は系群毎に行う(引用)

 商業捕鯨再開の代わりに終了する調査捕鯨に関する記述とはいえ、肝腎の商業捕鯨になったらそれを投げ出していいとするのは断じて許されない話。日本自身を含めた国際社会への裏切り以外の何物でもありません。
 そしてもう一点。大須賀氏は(従来の水産庁見解も)触れていませんが、「to ensure the long-term sustainability(長期的な持続可能性の確保)」は混獲や気候変動・プラスチック汚染等による海洋環境悪化の影響も必ずコミで保証されなければなりません。「いや、知らないよそんなの」では決して済まされないのです。
 持続的利用は環境が健全であることが大前提。野生生物を絶滅、あるいは絶滅寸前にまで追いやってきた主な要因は生息地の破壊と乱獲のセット。生息環境が健全でさえあれば耐えられる捕獲圧でも、生息環境が悪化すれば耐えることができなくなってしまうのです。それは歴史が証明していること。そして、今日の野生生物保全において基本となる共通認識であり、それ故に予防原則が求められるのです。
 ちなみに、再開商業捕鯨の対象となる3鯨種(特にミンククジラとニタリクジラ)の主な餌生物となっているカタクチイワシは、マイクロプラスチックで汚染されている割合が非常に高いことが指摘されています。一方、やはり3鯨種の餌生物で特にイワシクジラが好むカイアシ類は、マイクロプラスチックに対して非常に脆弱であり、仮にカイアシ類が汚染によって減少した場合、イワシクジラなどの捕食者に大きな影響が及ぶ可能性があります。カイアシは多くの魚の主要な餌生物でもあるので、回り回って結局ミンククジラやニタリクジラも影響を蒙ることになるでしょう。(まあ、不自然極まりない捕食者であるヒトが汚染された鯨肉を食べてマイクロプラスチックを体内に溜め込んだとしても、筆者の知ったこっちゃないですけど・・)

■Ingestion of microplastics by fish and other prey organisms of cetaceans, exemplified for two large baleen whale species
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0025326X19303479?via%3Dihub

 不安要素といえば、共同船舶森英司社長が開いた記者会見の内容がまた実にとんでもない代物でした。

■商業捕鯨再開で年2千トン想定 (4/21, 共同)
https://www.47news.jp/3673424.html

 厚顔無恥も極まれりというところ。通常、企業のトップの会見は株主・投資家を意識したものですが、同社の主要な株主は元大手捕鯨会社から譲り受けた水産系外郭団体なので、一般企業のそれと同列には扱えない話。
 さすがに水産庁も、共船に対し満額回答≠ナ応じる真似はしないでしょう。そこまで壊れてはいないと信じたいもの。
 実際、その後の朝日新聞報道から、捕獲枠の公表がG20後に先送りされたことに対し、共船の裏の顔≠ナある捕鯨協会がヤキモキしているのがうかがえます。裏を返せば、森社長が会見を開いて報道させたのも、世論の支持を得て捕獲枠をなんとか過大な方向に引っ張りたいとの思惑によるのでしょう。

■商業捕鯨枠公表、G20後に先送り 業界「早く示して」 (4/25, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/ASM6S5G78M6SULFA02X.html

 ともあれ、永田町の族議員と強固なリレーションを保持し、毎年のように盛大なパーティーを開いてきた共船/協会のこと、同庁に対して強い圧力をかけているでしょう。そして案の定、業界の声を代弁する代表的な捕鯨族議員である国民民主党の玉木議員と徳永議員が同党議連の会合に外務省と水産庁の担当者を呼んだことも明らかに。霞ヶ関側は明言を避けたようですが。

■旧民進系議連 捕鯨再開で国際訴訟懸念 (4/21, みなと新聞)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/92200
水産庁は「IWC脱退後もIWC科学委へのオブザーバー参加を続ける」「訴訟させない努力、訴訟で勝てるような準備をする。国際機関を通じての協力していくことでリスクを減らせると考えている」と語るにとどめた。(引用)

 外務省/水産庁が永田町の族議員に対する説明でこうした及び腰の表現を用いたのは──好意的に解釈するなら──共船/族議員に請われるまま過大な捕獲枠を設定すれば、それだけ国際訴訟リスクが増大することを一応♂っているということでしょう。
 ついでにこちらは産経のパクリ記者・佐々木正明氏のスクープ(?)記事。

■訴訟リスクの商業捕鯨 法的課題の対策急務 (6/16, 産経)
https://www.sankei.com/life/news/190616/lif1906160039-n1.html
今回、入手した政府の内部文書では、新たな国際機関の創設には「時間が必要」と指摘。さらにこの国際機関には「北西太平洋諸国の参加が得られるか不透明」とも明記されている。
北西太平洋諸国とは、捕鯨国のロシアや韓国などを指し、日本政府はこれらの国々の加盟協力を得るのは難しいと判断しているとみられる。日本だけで国際機関をつくるわけにもいかず、政府がこの法的課題を解消することが困難であることを事実上認めている。(引用)

 脱退方針公表直後の1月の段階で法的リスクが厳然として存在することをズバリ指摘したのは、捕鯨問題に精通した研究者であるお馴染み真田氏、石井氏、大久保氏。

■IWC脱退による商業捕鯨再開は脆い前提に立っていないか? (1/9, 真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ)
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2019-01-09
https://twitter.com/ishii_atsushi/status/1085764238692339712
オブザーバー参加だけで、国連海洋法条約第65条を満たしていると解釈するのは明らかに無理があり、違法行為として認識されます。資源も土地も少なく、領土紛争を抱えている日本は国際法を重視するべきで、違法行為を行うべきではありません。(引用)
IWC脱退、関西の反応は(もっと関西) (1/21, 日経関西版)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40368500T20C19A1AA2P00/
一方、東海大学の大久保彩子准教授は「国際社会から国連海洋法条約の違反を問われる可能性がある。得るものが少ないうえ、捕鯨の規模も小さくなるリスクが増えた」と話す。(引用)

 また、霞ヶ関はきちんと認識しているとおり、ロシアと韓国の参加が必須の第二IWCの設立が絶望的なのも、筆者らが従前から指摘してきたこと。

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1140247927861829633
■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html
■太平洋版NAMMCO(第二IWC)は米加中露韓抜きのぼっち機関≠ノ(つまり無理)
http://kkneko.sblo.jp/article/185294238.html

 落ち着くところに落ち着くか。それとも国際法違反で沿岸捕鯨も含めてジ・エンド≠ゥ──。
 すべては、7月に始まる日本の捕鯨を世界が「low enough」とみなせるかどうかにかかっています。
 ひとつ釘を差しておきますが、日本が「low enough」とみなすかどうかじゃありませんよ? 世界が、です。
 筆者個人が「low enough」とみなす(反捕鯨国の市民も大方同意するだろうと考える)条件は以下。ツイッター及びパブコメでも表明しているところですが。

・ミンククジラJ系群を捕獲しない。
・イワシクジラも捕獲しない。
・RMPをチューニングしない。

 少し細かく補足しましょう。
 ニタリクジラに関しては一応4月のIWC科学委会合でRMP適用試験が済んでいます。この試算で提示された数字を超えないこと。共船の要求する生産量にはまったく届かないはずですが。
 それと、ニタリクジラとは種・亜種レベルで異なるカツオクジラを誤って捕獲しないこと。両種の分布境界は黒潮、すなわちその年によって境界線も移動するため、その点を考慮した操業海域の管理が必要になります。高知沖での捕獲は控えるのが無難。
 ミンククジラに関しては、J系群を捕獲しないのは無論のこと、O系群も多系群問題が片付いていないため、少なくともIWC科学委で再評価されるまでは極小(具体的には、日本政府自身がかつて表明した最小の数字。もちろん沖合と沿岸の合算で)にとどめるの賢明。オブザーバーの資格でやるなら当然の気配りといえますが。
 イワシクジラについてはパブコメで詳細に指摘しているとおり、(単系群の場合)北太平洋東側諸国(米・加)との共有財産=B一方、同種についてもミンク同様多系群問題が浮上しており、やはりIWC科学委で議論に決着がつくまでは捕獲ゼロが望ましいといえます。イワシクジラの捕獲は国際訴訟リスクを最も高めると肝に銘じておくべき。

 美味い刺身法制定(脱退で事実上ゴミ箱行も同然ですが)、休漁拒否&日新丸突貫修理、国連受諾宣言の書き換えといったこれまでの一連のやり口を振り返ると、一体どちらに転ぶか、現時点では予断を許さない状況。
 判断材料としては、共船の要求は(クジラにとって)マイナス、共船の焦燥はプラス、G20後への先送りはマイナスという感じ。
 外を向けば、昨今の世界情勢、米国をはじめブラジル・豪州・欧州等が自国中心の内向き志向に陥っているのはマイナス。クジラにとってはまさに逆風。
 ついでに参議院選挙もマイナス。安倍外交といえば、トランプとプーチン相手に接待や貢物の限りを尽くし媚びまくったあげく手のひらを返されてばっかりという目も当てられない有様ですが、そんなやったふり♀O交の中で国内的には唯一、あたかも成果を挙げたかのように見える!WC脱退/商業捕鯨再開を、同政権/自民党はここぞとばかり利用しようとするでしょうしね。水産官僚も官邸に人事権を握られ他省庁同様に忖度≠迫られたろうことは想像に難くありません。ただし、国連海洋法裁判所(ITLOS)に訴えられた場合、「low eough」でなければ日本の敗訴は避けられず(枠が少なくても負ける可能性はあり)、訴訟リスクへの対応準備が整っていることが大前提。したがって、もし枠を増やす方向で進める場合、「訴訟させない努力」(〜上掲みなと新聞記事)とはすなわち日本を訴えてくる可能性のある反捕鯨国との裏取引以外にないといえます。このご時勢だと本当にやりかねないのが怖いところですけど・・・
 各国がエゴをむき出しにしてなりふりかまわず行動してよしとするトランプ流が席巻している間は、日本がそこに便乗しようと企んだとしても不思議はないかもしれません。何しろ捕鯨サークルのことですから。場合によっては、日本近海のクジラたちにとってはもうしばらく受難の時代が続くかもしれません──せっかく南極海に平和が訪れたというのに。「気候変動なんて中国の陰謀だ!」「こっちは体張って守ってやってるのに、米国が攻撃されても日本の連中はソニーのテレビで観てやがるだけなんだぞ! こんな不不公平な話があるか!」「日本が要求する辺野古基地移設は米国の土地の収奪だろ。金よこせ!」等々、トンデモなんてレベルじゃない支離滅裂の発言を繰り返す狂信的な人物がやりたい放題やっている間は。災難はクジラに限らずすべての野生生物の身に降りかかっていますけど・・
 しかし、過激な煽り文句で支持者を躍らせる極右ポピュリズムが長続きするはずはないのです。
 エコ嫌いトランプが退場すれば大きなプラス。
 これまでのように、法の裏をかこうとしたり、被援助支持国を札束であしらいながら道具として利用するやり方を続けるなら、そのときこそ日本の捕鯨は詰む≠アとになるでしょう。
 はたしてそれは、日本にとって賢明な選択といえるのでしょうか?

 筆者としては、水産庁がIWCオブザーバーとしての自覚のもと、誠実に慎ましく振る舞い(日本人の美徳≠ノもとることなく!)、十分「low enough」と世界に認められる捕獲枠を設定し、管理を徹底するのであれば、自身の役割は終わったものとみなし、商業捕鯨の是非については次の世代の手に委ねることもやぶさかではありません。
 逆に、「low enough」が真っ赤な嘘だった場合は、捕鯨問題が未だに収束しておらず、日本の水産行政や野生動物の保全施策全体に有害な影響を及ぼしていることを、これからも口酸っぱく説き続けざるをえませんが──
posted by カメクジラネコ at 23:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系

2019年01月14日

垣間見えた捕鯨ニッポンの接待外交

 年末に脱退を決めた日本が加盟国として参加する最後の機会となった、9月の第67回国際捕鯨委員会(IWC)総会。開催されたブラジル・フロリアノポリスに日本が送り込んだ、国会議員7名を含む総勢62名の代表団の旅費について、当方は行政文書情報開示請求を行いました。そのうち水産庁分の資料が今月8日やっと手元に。
 一月早く届いた農水省(水産庁以外)と外務省の分は解説を交えて以下の記事で公開した次第。

■今年のIWCブラジル総会の日本政府代表団の旅費(の一部)が明らかに!
http://kkneko.sblo.jp/article/185144503.html
■IWC67日本政府代表団旅費等参加費用情報公開請求
https://www.kkneko.com/iwc67delegatesexp.htm

 開示期限を延長した水産庁分がそろったところで、今回修正を加えて再度アップしました。
iwc67_delegates_exp.png
 開示決定から開示まで1週間かかるとのことで、年末年始休暇を挟むためもっと遅れるものと思っていたのですが──内外メディアの取材攻めにも遭っていたことでしょうし──水産庁殿にはお忙しいところ速やかに対応していただきました。また、送料として請求したゆうパックの料金が改訂されていたとのことで、わざわざ10円切手1枚と郵便料金表のコピーも同封。開示担当の漁政課も几帳面なお仕事ぶりで頭が下がります。
 ただ……国民としては、10円分の切手よりも、やはり数十、数百万円、あるいは数億円単位の税金の無駄の方が気になるところ。
 判明した旅費総額(外務省/農水省/水産庁)は51,191,194円
 脱退報道の中で、日本政府のIWCへの拠出金が年間約1,800万円(IWCの収入の6%)を占めることも明らかになりましたが、たった1回の年次総会の旅費だけに、分担金の3倍近い国費(国会議員5名を除く)が投入されていたことになります。
 代表団メンバーの航空運賃はビジネス2クラス、プレミアムエコノミー、エコノミーの4パターンあることも判明。
 ブラジルまでの往復で200万円かかっているのが、国会議員2名、秘書官2名、そして今回判明した山口次長と前参事官の2名の合わせて6名。しめておよそ1,200万円。これだけで総額の4分の1近くを占めます。
 飛行機代だけで1名200万円もかかるというのは、庶民の感覚ではなかなか理解しづらいところ。IWC以外の地域漁業管理機関(RFMO)で水産庁のナンバー2である次長が出席しているのはWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)くらい。
 高額な旅費に見合うだけの結果が求められて当然というもの。
 将来長官、事務次官のポストが約束されている立場で、妥協の道を見出すためにこそ地球の裏側にまで馳せ参じたのであれば、そのことに失敗した山口次長は責任を取るべきでしょう。
 また、もし求めていた結果が最初から脱退(につながる提案否決)そのもの≠ナ、予定通り副大臣に啖呵を切らせたのであれば、次長や族議員らのブラジル外遊に最後の記念旅行以上の意味はないことになります。もはや壮大な税金の無駄遣い以外の何物でもありません。地方議会の視察という名の慰安旅行≠ナはないけれど。
 そして、蓋を開ければ「我が国堂々退場ス」。しかも、水面下では遅くとも春の時点で脱退方針は固まっていたというのですから、これでは話になりません。
 ともあれ、このおよそ5千万円が国会議員5名分を除いた日本政府負担分のすべて──ではありませんでした。
 実は、今回のブラジル総会で、水産庁の開示対象から漏れていた費用≠ェ発生していたのです。
 それが、通訳料の明細から判明した、本会議期間中他の加盟国代表に対して非公式に行っていた接待の費用。初日レセプション、1回のバイ会談(二国間会談)、4回の夕食会が開かれていたのです。
 開示に先立つ決定通知の中で、水産庁が部分不開示とした理由のひとつが「非公式会談及び夕食会の相手国名は、公にすることにより、相手国の意思に一方的に反することになり、我が国との関係に悪影響を及ぼすおそれがある」。で、筆者は早合点してしまったのですが、肝腎の費用に関する資料はなし。
 水産庁国際課曰く、「(通訳料と異なり)旅費に該当せず」との判断で外したとのこと。10円分の切手なんて誰もケチったりしないから、こちらはちゃんと明らかにしてほしかったとこですけどねえ・・・。
 電話での問合せには「水産庁負担は一部」と回答。外務省・農水省と割り勘でしょうかね。会食費は各議員も自分の分は政務活動費から出したのかもしれませんが(庶民だからわからないんですよ〜)。
 バイ会談はホテルの一室の使用料金くらいでしょうが、レセプション・夕食会はIWC事務局が宿泊先に指定したホテルサンチンホ内、あるいは近隣のレストランを借り切ったはず。それぞれの国の代表に、国会議員7名(脱退話をしたのであれば国民民主党の族議員・徳永氏は呼ばれなかった?)、次長・代表代理ほか上級官僚数名(+通訳4名)の会食であれば、食費だって最低でも1名1万円は下らなかったでしょう。レセプション・夕食会には、今回出席した被援助支持国24カ国代表は全員呼ばれたに違いありません。仲間はずれにしたら離反を促すだけですものね。また本会議初日に開かれたレセプションパーティーには、おそらく北欧の同盟国や捕鯨支持オブザーバーも参加し、さらに人数/費用が膨らんだとみてよさそうです。
 とすると、各夕食会の費用は最低でも40万円はかかっていたはず。初日のレセプションはざっくり60万円として、ざっくり推定した期間中の接待費用はおおよそ220万円。当事者の感覚が庶民のそれからどの程度ズレているかにもよりますが、300万円かかっていたとしても不思議はないかもしれませんね。

 初日に続き4日繰り返された会食は、被援助支持国向けのキズナを確認する≠かりやすい接待といえるでしょう。
 気になるのは、国名が墨塗りで伏せられた1対1のバイ会談の相手。仮にとしましょう。
 X≠ニのバイ会談は一体何のために行われたのでしょうか?
 まず思い浮かぶ理由は、日本提案の採択に向けた交渉。
 総会後の記事でも解説したとおり、横山議員が名前を挙げたニカラグアは、期間中に日本の説得に応じて反捕鯨陣営から捕鯨支持陣営に寝返ったわけではなく、それ以前に宗旨替えしていたことがはっきり判っています。

■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html

 それ以外で、一連の決議において従来と異なる投票行動をした国はありません。
 日本提案を支持することが最初からわかっている国は、X≠フ候補ではないはずです。意味がないのですから。
 となると、想定できる相手は2通り。ロシアないし韓国に同調を促すため。あるいは、反捕鯨陣営を代表する米国ないし豪州との間で落としどころを探るため。
 蓋を開ければ、ロシア・韓国はともに棄権。米・豪とお互い歩み寄った形跡もまったくありませんでした。
 GDP世界3位の大国日本の栄えある国会議員7名と水産庁次長以下手練の官僚が、サシの極秘会談の場を設けて懸命な説得をしたにもかかわらず、投票結果に微塵も影響を与えることができなかったとすれば、あまりにも情けない話です。
 上掲拙記事およびリンクでも解説しているとおり、そもそも日本提案は妥協とは程遠い、コンセンサスを得られるはずのない代物でした。オーストラリア代表も首をかしげたように、わざと通らないよう″られたとしか考えられない内容だったのです。
 日本提案には「南極海・公海からの撤退」が含まれていませんでした。IWCで妥協点を見出すために前向きの努力をする気など端からなかったのです。それはただ、脱退の口実にするための国内向けの演出にすぎなかったのです。
 とすれば、X≠ニの秘密裏のバイ会談がなぜ行われたかもおのずと察しがつくというもの。
 そう・・この総会がお開きになった後、日本が脱退するつもりであることを伝えるため──。
 12月27日の朝日新聞も総会前の関係国への根回し≠ノ言及していますが、とくにX≠ノ対してはブラジル現地で伝えておく必要があると、日本政府は判断したのでしょう。
 では、1対1の密談を行った相手X≠ニは一体どの国??
 ロシアと韓国には、第2IWC∞太平洋版NAMMCO≠フ可能性を模索するうえで早めに伝える意義はあったかもしれません。
 しかし、X≠ェロシアである可能性はゼロ。脱退を知りながら、棄権したうえ日本の立場を失わせる発言までするとはさすがに考えられません。同様に韓国もなし。
 ノルウェーとアイスランドの北欧2カ国にも先に知らせる意味はありそうですが、であればバイ会談、すなわちどちらか1国とではなく、三者会談(もしくはバイ会談2回)になっていたでしょう。事前の根回しは両国にも行っていた可能性がありますが。
 豪州はどうでしょうか? 南極海撤退の見込みも含め、事前に伝える意義はあるでしょう。
 ただし、その場合、11月に日本を発った最後の南極海調査&゚鯨は絶対に不可能になっていたはずです。
 その他諸々の事情も勘案し、同国である可能性はやはりゼロ。同じくNZもなし。
 米国は?
 そう……日本が安全保障面でどっぷり依存し、外交で最も神経を使う最重要同盟国・米国こそ、密談の相手であった可能性が高いのではないかと、筆者は推理しています。
 きっと、「日米の仲≠セから先に伝えておくけど、反捕鯨陣営のよその国には絶対内緒にして!」と頼み込んだんでしょうね。
 脱退の通知先であるにもかかわらず、欧州や豪州、あるいは非加盟国のカナダと異なり、米国政府は日本の脱退表明に対して特に公式に声明を出しておらず、反応が鈍いことがそれを示唆しているかもしれません。もともと温度差はありますし、エコ嫌いトランプ政権下ではありますけど。
 ただ、この場合、続く10月にソチで開かれたワシントン条約常設委員会会合でも、日本がIWC脱退予定であること、すなわち、来期以降北太平洋公海でのイワシクジラ捕獲も中止する方向で調整していることを米国は承知していたことになります。それによってソチでの米国の立場・主張が変わることはなかったでしょうが、ある種の茶番だった可能性もあり。
 もう1つのX′補、それはセント・ヴィンセント・グレナディーン(SVG)
 被援助捕鯨支持国は現在捕鯨を行っておらず、将来的にも商業捕鯨に参入することもまた考えられません。それらの国々がIWCに加盟し、総会に参加する国益上の理由はただ1つのみ。それは日本の援助。
 過去に水産官僚としてIWC交渉に携わったミスター捕鯨問題こと小松正之氏は、今回の日本のIWC脱退方針を批判する主張の中で、被援助支持国が日本の脱退によって置き去り≠ノされる問題点を指摘しました。
 日本がこれらの国々の分担金を肩代わりしていたことをドミニカの元環境相が暴露しましたが、現在もマスコミ報道で40カ国とされる捕鯨支持国のおよそ4分の1は総会に来なかったり、分担金未払で投票権が停止していたりします。日本が抜ければ、これ以上IWCに居残り続ける理由もありません。せいぜいSAWS(南大西洋サンクチュアリ)等反捕鯨国の提案採択を邪魔するくらい。もう嫌がらせ以外の何物でもありませんけど・・。
 ただし、1ヶ国だけ、直接利害を有する国があります。それがIWCの管理下で先住民生存捕鯨を行っているSVG。
 ブラジル総会で先住民捕鯨枠は承認されたとはいえ、ブエノスアイレスグループの批判にさらされているSVGとしては、後ろ盾となる日本の脱退は不安要素といえるでしょう。
 もっとも、日本が同国に対して約束できるのは援助の積み増しくらいしかなさそうですが。
 SVGは首相が総会直前の8月に訪日しており、このときにも脱退見込について情報がインプットされた可能性があるかもしれません。

■捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!? (6)セントビンセント・グレナディーンのケース
https://www.kkneko.com/oda6.htm

 X≠フ第3候補は前述のニカラグア
 捕鯨ニッポンヨイショ同盟新参の同国にとって、他の被援助支持国と一緒に日本が用意した宴の卓を囲むのは少々決まりが悪いことかもしれません。そのため、日本側でレセプション参加に替わる便宜を別に用意してあげて、そのことを伝えた・・という可能性もなきにしもあらず。あまりないと思いますけど。
 拙表の試算ではホテルの一室の利用料のみとしましたが、仮にX≠ェ米国であった場合、外務省はセキュリティ面で入念な対策を施し、その費用が上乗せされた可能性もありそう。以前ウィキリークスで盗聴が暴露されて騒動になったこともありますし。
 とういうわけで、筆者の推理では1に米国、2にSVG、3、4がなくて、5にニカラグア。
 X≠ノついて「いや、違う。私はこの国だと思う!」といったご意見がある方は、ぜひお聞かせください。

 さて、水産庁/外務省に対してレセプション名目の費用の開示請求を改めて行うかどうか検討してみましたが、すでに脱退しちゃったことでもありますし、とりあえず試算で済ませようと思っています。水産庁国際課の担当者に露骨に嫌そ〜〜にされ、これ以上煩わせるのもどうかな・・というのもありますし。再開後のビジョンもろくに描けていないのに族議員の号令で突っ走っちゃって、難題山積ですものね。
 まあ、X≠ェどこの国であろうと、日本のIWC脱退が重大な外交上の失策であり、ブラジル総会でこれほど多額の税金を使う必要もなかったのは間違いありませんが。
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2018年12月31日

クジラたちの海、ジュゴンたちの海

 皆さんご承知のとおり、暮れも押し迫った12月26日、日本政府は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を発表しました。
 ついに堂々退場≠オちゃった捕鯨ニッポン。 
 NHKをはじめ各メディアが「IWC脱退(発表予定)」を一斉に報じたのが公式発表に先立つ20日のこと。「脱退」の二文字が新聞の表紙に踊る夢を筆者が見たのがその2日前の晩。まあ、政府の判断が年内に示されるのは9月のIWCブラジル総会後の水産紙報道でわかっていたことなのですが。で、26日には菅官房長官の談話の形で発表され、翌日本当に各紙の1面を飾ることに。

■内閣官房長官記者会見 平成30年12月26日(水)午前 国際捕鯨取締条約からの脱退について|首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201812/26_a.html
脱退の効力が発生する来年7月から行う商業捕鯨は、日本の領海及び排他的経済水域に限定し、南極海・南半球では捕獲を行いません。(引用)

 公式見解に基づけば、南極海のクジラにとっては大きなプラス日本近海のクジラにとっては大きなマイナス
 ただ・・現時点では不確定の情報があまりに多く、商業捕鯨を再開・推進する日本側にとっても、また対応を余儀なくされる国際社会の側にとっても難題山積。見通しを欠いたまま強引に再開を押し通してしまった自民党捕鯨議連(とくに二階幹事長)と水産庁の責任はあまりに大きいといえますが。
 どこがどう問題なのかについては、20日以降の拙ツイログをご参照。


 ここではマスコミ報道をもとにポイントを解説しておきましょう。

@IWC脱退 7月商業捕鯨再開へ (12/26, NHK)
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20181226/0006652.html
再開する商業捕鯨はクジラの資源に影響を与えないよう適切な頭数を算出したうえで捕獲枠を設定して行われる見通しで、小型の船による沿岸での捕鯨のほか、沖合で複数の船が船団を組んで行う捕鯨も再開する方針です。
捕獲するのは、沿岸では主にミンククジラで、沖合ではミンククジラのほか、豊富だと見られているイワシクジラやニタリクジラも対象にすることにしています。
ただ、日本は海の利用などを定めた「国連海洋法条約」を批准していて、捕鯨を行う場合には「国際機関を通じて」適切に管理することが定められています。
このため政府は、「オブザーバー」という形でIWCの総会や科学委員会に関わっていくことにより、定められた条件を満たしていく方針です。(中略)
水産庁では、脱退後、すみやかに商業捕鯨を再開するほか、捕獲するクジラの種類も増やすことで、調査捕鯨の分がなくなってもクジラ肉の流通量が大幅に減ることはないと説明しています。(引用)

A主張通らず「脱退」 政権、IWC運営に不満 商業捕鯨再開へ (12/27, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13828863.html
政府は節目とされた9月のIWC総会前から、水面下で関係各国への根回しを進めた。(引用)

B感情論に振り回されたIWC 脱退は正常化の出発点 (12/20, 産経)
https://www.sankei.com/life/news/181220/lif1812200041-n3.html
科学調査は捕獲区域の日本近海や北太平洋で開始。鯨類資源が十分にある南極海からも撤退せず、目視による非致死的調査の継続に向け、調整を進める。(引用)

C政府、IWC6月末脱退通知 商業捕鯨、網走、釧路、函館など8拠点 (12/27, 北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/262335
商業捕鯨では網走、釧路、函館を含む全国7地域を拠点に、ミンククジラやツチクジラを捕獲する沿岸捕鯨を行い、山口県下関市を拠点にイワシクジラやニタリクジラを捕る沖合での母船式捕鯨を行う。沿岸捕鯨は全国の6業者5隻が操業、沖合操業はこれまで調査捕鯨を担ってきた共同船舶(東京)が実施する。(引用)

T.「共存」のハッタリ──脱退するために用意された無茶ブリ提案

 複数のメディアが、9月のIWCブラジル総会の前に、日本政府はすでに脱退の方針を固めていたことを伝えています。
 つまり、「共存」なんて嘘八百。実際、日本提案の中身は、双方の主張を取り入れた譲歩案とはかけ離れたものでした。中立に近いインドには問題点を指摘され、捕鯨賛成派のロシア・韓国も棄権、オーストラリア代表には「なぜこんな絶対通らない提案を出したのかわからない」と揶揄される始末。さらに不可解なことに、水産庁の諸貫代表代理が「東京と相談する」と答えて翌日出てきた修正案は、反対陣営がより受け入れやすくなるどころか、逆にハードルが上がっていたのです。常識で考えればありえないこと。
 それもそのはず。要するに、最初から受け入れられない前提で、純粋に国内向けに脱退の口実≠ノするためにこそ用意されたものだったのです。
 日本は9月のブラジルで、その気もまったくないのに共存≠ニいう言葉をこれ見よがしに掲げるパフォーマンスを繰り広げました。世界に対して大嘘をついていたのです。新基地建設を強行しながら「沖縄の負担を軽減する」などとしらじらしいことを平然と口にするのと同じく。
 日本提案の詳細については以下の解説をご参照。

■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案|真田康弘のブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15
■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html

U.いままさに行われているチョウサ捕鯨≠ニいう名の商業捕鯨

 上掲のとおり、日本は9月のIWC総会前に脱退を決めていました。
 と同時に、これはこの11月12日に南極海に向けて出港した捕鯨船団による新南極海鯨類科学調査(NEWREP-A)の許可証発給前であることを意味します。
 2014年の国際司法裁判所(ICJ)の判決により、NEWREP-Aの前の南極海調査捕鯨(JARPAU)の国際法違反が確定しましたが、そのJARPAUの調査計画の非科学性の論拠のひとつに「研究期間が設定されていない」ことが挙げられました。この批判を受け、NEWREP-Aは12年の期間が設けられ、半分に当たる6年後にレビューを行い、数字を見直すこととしています。
 NEWREP-Aは今年でまだ4年目。半分にも達していません。

https://twitter.com/segawashin/status/1075904691899387904
こんな大規模コホート、医学研究でもなかなか目にしないw。こんだけサンプル集めてろくな論文も出てないって、まともな研究者なら座敷牢で折檻されるレベルだな(引用)

 上掲は小児科医/研究者でもある作家の瀬川深氏のツイート。
 NEWREP-Aは必要なデータが集まり切る前に空中分解、科学調査としての意義が完全に費えることが確定したわけです。オブザーバーとしてIWCに提出する報告以外、2018/19のチョウサ≠ゥら国際査読誌に掲載されるだけの学術論文が書かれることなどありえない話。
 要するに、今南極海で日新丸船団が行っているのは、国際条約で認められている(致死的な)科学調査などではなく、純粋に美味い刺身=i〜本川元水産庁長官)を日本の鯨肉市場に供給するための商業捕鯨に他ならないわけです。JARPAIIと同様、国際法のもとでは決して認められないはずの。
 今季のNEWREP-Aは過去の調査捕鯨の中でも最も、限りなく商業捕鯨に近いといっても過言ではないでしょう。
 上掲産経報道Dで「目視による非致死的調査の継続」とありますが、従来の日本の主張どおり「致死調査が必要不可欠」であるなら、これは無意味です。
 もし、代わりに目視調査を行うことに科学的意義があるとするならば、そもそもこれまでのNEWREP-Aを含む南極海調査捕鯨が不必要(あるいは相対的な必要性)だったことを自ら証明するものにほかなりません。国際法のみならず、日本の動物愛護法における3R≠フ趣旨にも真っ向から反していたことになります。
 違法性がJARPAIIより明確な最後の南極海捕鯨≠ヘ、仮にITLOSに訴えられればほぼ確実にアウトでしょう。ITLOSは、三権分立の建前がすっかり壊れ、米軍基地辺野古移設に関して安倍政権に擦り寄る判断しかできなくなった日本の司法とはきっと異なるでしょうから。
 残念なのは、仮にITLOSで違法判断が下されたとしても(差し止め命令は別にして)、そのころには手遅れで意味がなくなっている可能性が高いことですが。
 ただ、たとえ止められないとしても、最後の最後まで国際法を毀損する真似ばかりする国だったと、日本の汚点が歴史に刻み込まれることになるでしょう。
 日本が自らの国益をあまりにも大きく損ねた共同船舶による母船式捕鯨を完全に断念し、厳格な管理のもとでの太平洋沿岸17頭程度の沿岸捕鯨にとどめるのであれば、日本の北方領土や尖閣諸島周辺海域に相当する南極海をサンクチュアリに指定している国々も、「これで本当に最後ね」ということで政治的に黙認することも、あるいはやぶさかでなかったかもしれません。
 各メディアとも奇妙なほど触れずにすませていますが、日新丸船団は今頃南極海でまさに捕鯨を始めたあたり。
 しかし、南半球諸国の市民がこのまま黙っているとは、筆者には思えません。年明けには強い批判の声が巻き起こったとしても不思議はないでしょう。

V.規制に縛られない「オブザーバー」でやりたい放題!?

 「オブザーバー」とは読んで字の如し、傍観(聴)者=B
 会議の場に居合わせて、議論の様子を直接見聞きし、それを市民に伝えることができるのは、例えばNGO(非政府機関〜市民団体)にとってみれば大きなメリットと呼べるでしょう。もっとも、最近はネットを通じた動画中継という手段も登場しましたが。
 しかし、一国政府が加盟国からオブザーバーへと鞍替えすることに、一体何の意義があるというのでしょう?
 IWCでは議長裁量で発言の機会が与えられる時もありますが、オブザーバーに出来ることはただ言いたいことを言うだけ=B他の国際機関や議会では発言権さえない場合も少なくありません。
 北海道記事Cなどでは年間約1,800万円の分担金が要らなくなるとしていますが、9月のブラジル総会の日本代表団の旅費は推計7,000万円。オブザーバーになってからも総会(隔年)/科学委員会(SC)会合(毎年)に相応の人数が参加すると考えられるので、その出席費用で浮いた分など結局消し飛んでしまいます。ちなみに、外務省は(脱退に伴う)紛争解決のための国際弁護費用等の予算約8,000万円を新年度の概算要求で計上しています。
 つまり、加盟国の立場でこそ得られたはずのプレゼンス/影響力、何より貴重な1票を失い、ただの外野に成り下がるだけ。
 まあ、多額のODAと引き換えに加盟国になってもらった被援助捕鯨支持国を放り出すわけにもいきませんし、陣頭指揮≠キべく参加する必要はあるのでしょうが。
 いずれにせよ、加盟国の立場で変えられなかったものを、オブザーバーに格落ちして変えられるはずがないのは、誰が考えても容易にわかること。菅官房長官の発言は矛盾だらけ。
 もちろん、IWCのオブザーバーとなる目的は別のところにあります。
 それが、IWC/国際捕鯨取締条約(ICRW)の縛りから逃れつつ、国連海洋法条約(UNCLOS)65条のもとで商業捕鯨を行う体裁を取り繕うこと。
 該当するのは「through the appropriate international organizations」の部分。IWCにオブザーバーとして参加すれば、この「through」の条件を満たすと日本は考えたわけです。まあ、ある意味UNCLOSの瑕疵ともいえるかもしれません。
 日本側の解釈が正しい場合、捕鯨推進サイドにとってこれはいいことづくめ=B
 これでうるさいこと何も言われずにすむと。「ちゃんと通じてるだろ、文句あっか!」の一言でおしまいだと。
 ただし、あくまで日本が正しい場合ですけどね・・。
 IWC非加盟で(大型鯨類の)捕鯨を行っているのはカナダとインドネシアの2カ国のみ。ともに年間の捕獲数は1桁で、内容的にもIWCにおける先住民生存捕鯨の定義から外れるものとはいえません。
 一部メディアや識者が指摘していますが、日本が捕獲数や規模、商業的性格の点で両国とはまったくレベルの違う捕鯨会社による捕鯨を、条約加盟国の立場ではなく単なるオブザーバーとして強行した場合、どこかの国に訴えられないという保証は何もありません。後は国際海洋法裁判所(ITLOS)がどう判断するかという話になります。

W.商業捕鯨+チョウサ捕鯨???

 日本は再開後の商業捕鯨をIWCで合意された改定管理方式(RMP)のもとで行うとしています。
 捕獲対象となる3鯨種のうち、ミンククジラについては年69頭程度(最小17頭、最大123頭)との試算があります。

■ミンククジラ オホーツク海・北西太平洋|国際漁業資源の現況
http://kokushi.fra.go.jp/H29/H29_50.html

 実はこの17頭という数字、2年前の前回のIWC総会時に日本が要求したもの。しかし、オーストラリア等の反対で通りませんでした。
 なぜ否決されたかといえば、答えは簡単。「非科学的だから」。
 北太平洋のミンククジラは太平洋側のO系群と日本海側のJ系群の2つの個体群に分かれることまでは知られているのですが、さらにO・Jそれぞれが複数の系群に分かれる可能性があり、まだIWC-SCで合意は得られていません。水産研究・教育機構の「国際漁業資源の現況」においても示されているとおり。「日本側がやや正しそう」というぐらいでは、やはりゴーサインは出せません。それは非科学的なこと。
 つまり、日本は科学をいったん脇に置いて、「どうか日本の沿岸捕鯨会社に温情をかけてやってくださいよ、17頭ぽっちだからいいでしょう?」という情緒に訴えかける提案をしたのです。しかも、「その代わり、南極海・公海からは撤退しますんで」という、政治的には着地点となり得る、結果的には脱退することで2年後に自ら招いたのと同じ条件を付けることなく。
 他所で指摘されたとおり、現行の沿岸調査捕鯨によるミンククジラの捕獲数は網走沿岸47(J系群を含む)、太平洋沿岸(釧路・八戸・鮎川)80、太平洋沖合(43)で計170頭。
 ここで皆さんもお気づきになられたかもしれません。
 日本の今年までの調査捕鯨によるトータルの捕獲枠が、IWCで合意された管理方式に基づき持続可能とされる捕獲枠をも上回っていることに。
   調査捕鯨 > 商業捕鯨
 モラトリアム後の日本の調査捕鯨はそもそも、国際ルールからの逸脱を可能にするためにこそ編み出された裏技=B商業捕鯨であれば従わなければならない規制にも縛られることなく出来てしまうところがミソ。
 今回の脱退報道で、事情を知らない一般市民が「これで鯨肉の供給が増えるかもしれない」と誤解する一方、市場関係者が「減ること」を懸念したのは、まさにそれが理由なわけです。
 ただ、上掲NHK報道@では、水産庁が「大幅に減ることはないと」と回答。
 しかし、これはきわめておかしな話です。発表どおり公海から撤退する場合、国産鯨肉の8割方を占める南極海からのクロミンククジラ300頭と北西太平洋公海からのイワシクジラ134頭分の鯨肉はそっくり失われるのですから。
 さらに、@で水産庁自身が「調査捕鯨の分がなくなっても」と説明しているにもかかわらず、上掲産経報道Bでは「科学調査は──」とあり、情報が錯綜しています。後者は森下氏個人の持論かもしれず、記事を書いたのがパクリ記者佐々木正明氏なので、信憑性にやや疑問符がつくところではありますが。
 実際、公海上で行われるNEWREP-AとNEWREP-NP沖合≠ヘ法的根拠を失います。
 しかし、沿岸の非常に狭い範囲で行われてきた(オホーツク海側および太平洋側)NEWREP-NP沿岸は、日本のEEZ内であるため、国際法の上では日本が勝手にやってしまうことが可能。
 「流通量を維持する」という裏の目的≠ナ、RMPを忠実に守っていたのでは決して満たせない分をチョウサ≠ナ補充する超裏技≠ウえ使われかねません。
 その場合、実際には「混獲 + 商業&゚鯨(沿岸+沖合) + 調査&゚鯨」の≪三本立て≫という形で、場合によっては沿岸のミンククジラだけでトータル300頭を超えてしまうことになりかねないのです。
 IWC-SCで合意されているミンククジラの北太平洋における推定生息数は約25,000頭。しかし、同種は太平洋中に均等に分布しているわけではありません。若い個体が岸寄りを通り、成熟に伴って沖合にルートがずれていくのがミンククジラの回遊生態。沿岸での目視数は数百頭どまり。そして、沿岸調査捕鯨で百頭を超える捕獲を行ってきたことで、釧路沖の枠≠満たせなかったり、新規の八戸では開始初年度3頭に留まるなど、乱獲が強く疑われる状態でした。太地イルカ追込猟によるオキゴンドウやコビレゴンドウとも似た状況。
 このうえさらに捕獲数が増やされることになれば、若い年級群に集中的なダメージが加わって人口構造が大きく変わり、かつて商業捕鯨時代にマッコウクジラ捕鯨で犯したのと同じ愚を繰り返すことになるでしょう。
 以下はアイスランドの捕鯨会社社長ロフトソン氏による、日本のIWC脱退についてのコメント。

■「クジラの血が体に流れる」アイスランドの鯨捕りは日本のIWC脱退と商業捕鯨再開の方針をどう見たか (12/25, 木村正人/ヤフーニュース)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20181225-00108985/
「日本のように約30年間も『調査捕鯨』を継続するのは少し行き過ぎだと思います。日本は調査を分析するために50年前の方法を使っています。このため、他の国の研究者は日本の調査結果を用いて比較できないのです」
「商業捕鯨と同時に捕鯨について必要なすべての調査を実施できます。それが、私たちがアイスランドで行っていることです」(引用)

 もし、日本が商業捕鯨と同時並行で調査捕鯨を行い、それによって鯨肉供給を確保しようとするならば、それは文字通り乱獲≠ノ他ならず、同時に非合法な捕鯨=密猟≠ナあることも意味します。
 その場合、たとえ沿岸限定であっても日本は国際訴訟リスクを抱えることになるでしょう。

X.EEZ内で母船式??? 共同船舶の悪あがき

 一連のIWC脱退関連報道の中で、筆者が最も眉をひそめたのが「(共同船舶の)母船式捕鯨が生き残る(かもしれない)」という情報でした。
 「母船式捕鯨」と明記したのは27日の北海道新聞記事C(小森美香記者)のみ。26日のNHK報道@では、沖合捕鯨は「複数の船が船団を組」むと母船への言及はなく、母船日新丸以外のキャッチャーボートを使う形態も考えられたのですが。
 また、27日の朝日報道など、いくつかの新聞は下関の関係者への取材をもとに「独自の水揚・解体施設のない下関市では、母船式捕鯨が行えないと(流通拠点が他の沿岸捕鯨地に移るなどして)同市の産業にとってプラスにならない」という趣旨の報道をしています。
 少なくとも、関係者には正式な決定事項として「下関市を拠点に実施するのは母船式捕鯨だ」と伝えられてはいないのでしょう。詳細な情報がきちんと与えられていないのは他の沿岸捕鯨地に対しても同様とみられますが。
 ちなみに、筆者も情報開示請求の件のついでに「7月以降の日新丸の運用はどうするつもりか?」と水産庁国際課に尋ねてみましたが、「まだ検討中」という以上の返事はありませんでした。まあ、決まっていたとしても筆者に教えるつもりはないでしょうけど。
 下関市の要望に応える形にするのであれば、早々に北海道新聞にリークしたのはあまり賢明とはいえないでしょう。
 両者は間違いなく競合関係にあるからです。鯨肉全体の市場という意味でも、ミンククジラ鯨肉単一の市場をめぐっても。
 公海母船式捕鯨すなわち共同船舶による鯨肉供給によって市場が左右されてきたのは事実であり、沿岸捕鯨事業者の不満を解消するために「沿岸調査捕鯨」が立案され、補助金が拠出されたわけです。
 しかも、沖合捕鯨の対象とされる3鯨種のうち、遠洋性のイワシクジラは調査捕鯨でもほとんど公海で捕獲されており、EEZ内では数頭が限度で(こっそり公海に出て密猟すれば話は別ですが)、探鯨のコストもランダムサンプリングの調査捕鯨と遜色ないほど大きくなると予想されます。ちなみに、JARPNII時代にはサンプリングのコースを外れていたことがIWC-SCで問題になりましたけど。
 また、ニタリクジラは入札でも売れ残った不人気鯨種。水産庁は営業努力次第という言い方をしたようですが、他の2種より価格を下げなければ売れない以上、経営を圧迫するのは明らか。
 そうなれば、直接競合するミンククジラの枠をめぐり、両者の間で軋轢が生じるのは自明のことでしょう。
 そして、事実上EEZ内のみでは採算が取れるはずがない母船式捕鯨の救済措置をはかった水産庁と自民党の捕鯨族議員が、これからも共同船舶に肩入れし続けるのもまた疑いの余地がありません。
 結局、皺寄せはクジラたちに押し付けられることになるでしょう。

Y.太平洋版NAMMCO(第二IWC)は米加中露韓抜きのぼっち機関≠ノ(つまり無理)

 「第二IWC」については野党を含む族議員が勇ましいだけで、菅官房長官も水産庁筋も「これからの検討課題」とやや引いた姿勢を見せています。
 おそらく「IWCオブザーバーに留まる」ことが外務省との落としどころとなっていそう。
 まあ、そんな動きを見せれば日本に対する海外からの風当たりが一段と強まることは避けられないわけですが。
 それだけではありません。
 ワールドワイドのIWCに頼らず捕鯨をしようと思ったら、対象鯨種の回遊先がEEZに含まれる沿岸国に対して合意を得るか、ともに参加する地域漁業(捕鯨)機関のもとで管理されなければなりません(UNCLOS#63)。
 つまり、北欧の捕鯨国が組織している北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)の北太平洋版となる捕鯨管理機関には、以下の国々に頭を下げて加盟してもらう(少なくとも許諾を得る)ことが不可欠なのです。
 ミンククジラ・イワシクジラ・ニタリクジラの3種の日本の捕獲対象となる系群の回遊/生息域は、いずれも太平洋の米国領島嶼にかかっています。
 さらに、カナダ、中国、韓国、北朝鮮、ロシアも、沿岸国として日本の管理に物申す資格のある国ということになります。
 カナダと米国は今年10月に開催されたワシントン条約(CITES)常設委員会で連携して日本の公海イワシクジラ持込問題を徹底的に追及しました。カナダはIWC非加盟で小規模な先住民生存捕鯨を行ってはいますが、国民の鯨類保全に対する関心が非常に高い国でもあります。
 中国は違法象牙の最大の市場がある国ですが、CITESで象牙の大胆な禁止を表明したうえ有言実行で規制を始め、なおも密輸入は止まっていないものの、国際社会からかなり高い評価を得ています。それも、象牙の国際市場閉鎖に後ろ向きなばかりでなく、国際社会に対する対決型捕鯨外交の姿勢を鮮明にする日本と対比される形で。
 中国・台湾・香港メディアによる日本の捕鯨政策に関する報道や論点は欧米メディアとほとんど変わらず、市民の日本に対する視線も冷めています。加盟国の中で捕鯨支持国に分類されているものの、IWC総会へはもうしばらく出席していません。鯨肉市場もなく、せっかくの国際評価を台無しにするだけで何のメリットもない以上、第二IWCに参加して日本に塩を送るまねをするとは考えにくいことです。

■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 ロシア代表はブラジル総会で「対立を煽るだけ」と明確に主張したうえで日本提案を棄権。かつては日本と並ぶ規制違反捕鯨大国だったとはいえ、今は先住民生存捕鯨のみでIWC加盟の恩恵を享受しており、第二IWCに参加する理由はなし。北方領土問題で日本側がさらなる譲歩を申し出れば考えるでしょうが。まあ、譲歩なら安倍首相がすでに十分すぎるくらいしちゃってますけど・・。
 そして、これ以上ないほど二国間関係が冷え切った韓国。
 韓国もロシアとともにブラジル総会で日本提案を棄権。詳細は上掲拙解説記事をご参照。
 捕鯨問題は徴用工訴訟問題に直結します。当然クジラカード≠ヘ自国に有利な形でキープするでしょう。日本がこの件で「ICJ提訴をしない」と確約すれば、あるいは考慮するかもしれませんが。

■捕鯨で負けたのに徴用工でまたICJ提訴? クジラは平等に殺せ、でもヒトの人権ダブスタはOK?
http://kkneko.sblo.jp/article/185024459.html

 また、同国NGOは今回の日本の商業捕鯨再開に対して「韓半島(朝鮮半島)沖のミンククジラが絶滅危機を迎える」と痛烈に批判。J系群のことを指していますが、懸念は実にもっともな話。

■「日本が商業捕鯨すれば韓半島沖のミンククジラ絶滅危機」|中央日報日本語版
https://japanese.joins.com/article/588/248588.html

 北朝鮮は日本の調査捕鯨を「犯罪行為」として強く非難。ネタとして利用しているといってもいいでしょう。
 ま、誘うのは日本政府の自由ですが、はたしてどう応じることやら。また、国際社会からどんな目で見られることやら・・。
 ついでにいえば、日本のIWC脱退は戦前の自国の国際連盟脱退のみならず、同国のNPT脱退とも同列に受け止められるでしょうしね。

■広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/179410385.html

 要するに、太平洋で商業捕鯨を実施するための、IWCに代わる国際機関の設立など、夢のまた夢の話なのです。作ったところで加盟国は日本一国だけ。ぼっち機関=Bそれでは国際法の要件は満たせません。
 外務官僚はきっと理解しているでしょうが。

Z.紛争激化か!? 海賊捕鯨国VS正義のシーシェパード

 上掲のとおり、日本が再開するのが母船式捕鯨であれば、たとえEEZ内のみであっても事情が大きく異なります。
 AISは「妨害」を理由に切り続けるでしょうし、IWC脱退で中立の立場の国際監視員を受け入れる義務もなし。
 そもそも遠洋マグロ漁業についても、IUUを完全に排除する監視制度が不十分なことがNGOからは指摘されているところですが。
 日本の捕鯨産業の過去の行状を振り返れば、ぐるみ違反を含む規制違反は数知れず。
 脱退でIWCの規制を外れ、誰も見張る者がいなければ、それこそ一体何をしでかすかわかったものではありません。
 そこで出番となるのがご存知シーシェパード。
 あるいは、南極海ではなく日本近海、EEZの境界付近でプロレスが始まる可能性もなきにしもあらず。
 もちろん、その場合は海上保安庁、あるいは海上自衛隊が対応することになるでしょう。商業捕鯨船の護衛という新たな任務が課せられ、国庫負担が増えることでしょう。
 捕鯨サークル的には、ネトウヨ応援団がかつてなく盛り上がり、鯨肉需要もほんのちょっぴり喚起できるかもしれませんが。
 しかし、人命に関わるようなトラブルが発生する懸念も捨てきれず。日本に対してはさらに厳しい目が向けられるでしょう。
 クジラにとってはもちろん、日本の国益にとっていいことはひとつもありません。

   ◇   ◇   ◇

 最後に──
 拙ファンタジー小説『クジラたちの海』では、南極海は主鯨公のクロミンククジラ族・クレアたちクジラの楽園として描かれています。
 そして、続編『クジラたちの海─the next age─』では、辺野古のアマモの森はたった3頭の生き残りとなった〈ザンの郡〉のジュゴン族・イオのかけがえのな故郷として。
 クジラたちの楽園には、これでやっと平和が訪れたことになるのかもしれません(まだ安心できない要素も残っていますが・・)。
 しかし、イオたちの故郷に土砂が投入され、おぞましい赤土の色に浸食されていく様は、あまりに胸の痛むものでした。

 ビジョンもなく、採算が採れるはずなどないのに、意地で決定された国際機関脱退と母船式商業捕鯨の再開。
 当分護岸工事に着手できないにもかかわらず、県民投票前に見せしめで土砂が投じられた辺野古の海。

 自制のきかない日本という国の暗澹たる未来を暗示するようで、筆者は新年を喜ぶ気になれません。

 願わくば、南極海の野生動物たちに永遠の平和を。そして、辺野古の美しい海にも再び平和が取り戻せる日がきますように──。

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『クジラたちの海』
『クジラたちの海─the next age─』


 ついでにポーズとる王子。拾ったときはあんなにチビチビだったのに、すっかり青年の顔になりました・・

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2018年12月08日

捕鯨とアイヌのサケ漁──食文化にこだわる日本人よ、なぜこのダブスタを許すのか

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1039819492992249856
先住民生存捕鯨の枠自体なくせと? 先日は紋別で警察にアイヌのサケ猟が阻止される事件があったが、アイヌのサケ猟は行政が「文化を評価」した上でごく一部の枠を与える形で「許可」を出す。それは「人種差別に繋」がらないの? 反捕鯨国の米・豪等では先住民が主体的に天然資源を管理している。

 今回もまずはツイートをご紹介。元ツイは公明党の捕鯨族議員・横山信一氏で、発信は9月11日、開会中のブラジル・フロリアノポリスの国際捕鯨委員会(IWC)総会の会議場から。前回紹介した徴用工訴訟関連より1桁少なくバズッてはいませんが、横山議員の元ツイの倍近くはRTをいただいております。
 で、拙ツイート内に出てくる「先日の事件」というのがこちら。北海道とネット以外ではあまり話題になっていませんが。

■アイヌ先住民権訴え"無許可"サケ漁 (10/24, NHK札幌)
https://www.nhk.or.jp/sapporo/articles/slug-n4a465c1a4f8a
アイヌの人たちの権利をめぐっては、スイスのジュネーブにある人種差別撤廃条約委員会で先月30日、日本政府に対し天然資源や土地に関する権利が十分に保障されていないとして改善を求める勧告が出されています。(引用)
■サケ漁の自由求める 紋別アイヌ協会、道に意見書 (10/10, 北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/236419
■儀式用サケ捕獲「アイヌの権利」知事らに意見書 (10/10, 読売)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20181009-OYT1T50118.html (リンク切れ)
アイヌ政策検討市民会議(世話人代表・丸山博室蘭工業大名誉教授)は「アイヌの正当な権利を制限する同規則は憲法違反であり、日本が締結している国際人権規約にも反する」と指摘。畠山会長は「昔、奪われた権利を返してほしいだけだ」と訴えている。(引用)

 アイヌのサケ漁をめぐるトラブルは今回が初めてではなく、前段がありました。今年は北海道警に漁を阻止された紋別アイヌ協会会長の畠山敏氏ですが、実は昨年も伝統儀式のためのサケ漁を強行しようとし、警察にいったん阻止されたものの、その後捕獲を実施できたのです。
 密漁?? 国際法違反を二度もやらかした調査捕鯨、あるいは、ナマコをはじめ北海道中で横行しているヤクザのそれと同じく? いえ。以下のブログ記事(管理人は浦河町のアイヌの方のために特別採捕の手続を手伝われてきた方)に昨年の経緯が詳しく書かれています。

■もう一つの日本文化 (アイヌ・先住民族の漁業権回復)|もうひとつの日本文化(アイヌ文化)徒然ブログ
https://fine.ap.teacup.com/makiri/218.html
■もう一つの日本文化 (政府は、畠山さんの国連先住民族権利宣言に基づくサケ捕獲権を収奪できるのか?)|〃
https://fine.ap.teacup.com/makiri/215.html
■もう一つの日本文化(地元河川での鮭捕獲アイヌへの奇妙な事実〜政府はアイヌの鮭捕獲を容認か・その1)|〃
https://fine.ap.teacup.com/makiri/190.html
■もう一つの日本文化(地元河川での鮭捕獲アイヌへの奇妙な事実〜政府はアイヌの鮭捕獲を容認か・その2)|〃 
https://fine.ap.teacup.com/makiri/191.html

 なんと驚くべきことに、畠山氏ご本人も知らないうちに、同氏名義の特別採捕許可証が作成・提出されていたというのです。高橋はるみ道知事の捺印付の当該文書の画像も記事中に掲載。
 事実なら指摘されているとおり、北海道オホーツク総合振興局・北海道警・地元紋別漁協の共謀による不法行為といえます。今流行り(?)の私文書(畠山氏の申請書)および公文書(同知事の許可証)の偽造。法律違反を犯したのはアイヌの畠山氏ではなく行政当局。マスコミが報道を拒んだのも、今時分の日本であれば返って信憑性を裏付けた格好ですね。
 以下は北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授の丹菊逸治氏のツイート。まさに氏が指摘したとおりのトラブル。

https://twitter.com/itangiku/status/1068739301653934081
アイヌ民族の伝統的な価値観では、正義と公平を重んじます。調和よりもです。アイヌ伝統社会でも人々は「周囲に合わせる」けれど、それは同調圧力ではなく、自分だけ損しないためです。行動が似ているからといって、同じ価値観だと思うとトラブルになります。(引用)

 倭人の社会の明文化されない暗黙のルール≠フもと、事なかれ主義でなあなあですませようと勝手に申請書まで用意するやり方が、正義と公平を重んじるアイヌの価値観に反するものとして受け入れられなかったと。結局、翌年は警察による実力阻止という形になり、一部マスコミにも書かれる事態に至ったと。
 上掲ブログ記事4番目には先住民捕鯨と日本の沿岸捕鯨問題に関する言及も。

仮に日本政府が【沿岸捕鯨は日本文化の一部】として認め、【畠山さんのようなアイヌが、地元河川で何百年、何千年と鮭を捕ってきた権利】を認めないのであれば、現在においても【アイヌは法的には等しく国民でありながらも差別されている】ことになるだろう。(引用)

 実は、ニュースで登場した畠山氏はサケ漁だけでなく、アイヌの伝統捕鯨復活も提唱されていた方。以下は2010年の別のアイヌ支援NGOの記事。

■「アイヌ民族と漁業権」|アイヌ民族情報センター活動日誌
https://blog.goo.ne.jp/ororon63/e/80a9bbdd2126b2c72bbf6f9886e573c1
■「アイヌ民族と漁業権」続き|〃
https://blog.goo.ne.jp/ororon63/e/2052259f7b2fb6f82e95834aff968074

 以下が渦中の畠山氏が安倍首相・高橋道知事・北海道警に宛てて出した声明文。9月には、上掲読売記事にコメントを寄せたアイヌ政策検討市民会議が同氏を招き、札幌で緊急集会を開いています。

https://ainupolicy.jimdo.com/
■カムイチェㇷ゚に対する私たちの権利を、日本国は侵害しないでください|アイヌ政策検討市民会議
https://ainupolicy.jimdo.com/app/download/16423758996/MonbetsuAinuAssociation_statement20181008.pdf
さる2018年8月31日と翌9月1日、私たち紋別アイヌ協会が古式伝統にのっとり、毎年恒例のイチャㇽパ(先祖供養の儀式)・カムイチェㇷ゚ノミ(サケを迎える儀式)のため、カムイチェㇷ゚(サケ)をさずかるべくチㇷ゚(丸木舟)を藻別川に降ろそうとしたところ、北海道警察の車両数台に場所を占拠され、また川岸に立ち並んだ約10人の警察官に行く手を阻まれて、私たちは川に降り立つことすら、かないませんでした。
それに先だつ8月には、北海道本庁・北海道オホーツク総合振興局、また北海道警察紋別警察署から、計7度にもわたって職員・署員らが当協会にやってきて、「北海道知事あてに特別採捕許可を申請せよ」と、しつこく迫られました。また8月下旬には、警察車両がこれみよがしに近所に停車し続け、外出のたびに追尾を受けました。
これは日本国行政機関(北海道警察、北海道庁)による先住民族に対するパワーハラスメントそのものです。私たちが有する当然の権利を、このように全否定されて、これほどの屈辱はありません。(引用)
■緊急集会 アイヌ民族とサケ漁 〜紋別におけるサケ漁阻止問題をめぐって〜|アイヌ政策検討市民会議
https://ainupolicy.jimdo.com/app/download/16308955896/20180916.pdf

 シーシェパード等の反捕鯨活動家よろしく、北海道警がアイヌの伝統漁業を実力行使で妨害したことに対しては、アイヌの漁業者S.Shiikuさんらも以下のようにコメントしています。

https://twitter.com/shinshukeshiiku/status/1037286204788682752
伝統文化を名目にしての商業的な漁は出来ない」って言うなら多分、日本全国の「漁(猟)法」の全てが「出来なくなる」
特に「沿岸捕鯨」(引用)
https://twitter.com/shinshukeshiiku/status/1037287684354404352
例に挙げた沿岸捕鯨なんて「伝統だ、文化だ」って言ってるけど「商業的な漁」だよね、どう見てもさ。
「伝統文化を名目にしての商業的な漁は出来ない」って奴に反して無い?(引用)
https://twitter.com/shinshukeshiiku/status/1037290107617701888
本当に伝統文化だって言うなら木製和船をちょんまげふんどし姿で櫂漕ぎして、銛を打ち込んで捕鯨すべきだよ、あんなキャッチャーボート何かで捕らないでさ。(引用)
https://twitter.com/watashidesu543/status/1037264850739638273
アイヌの網漁がおかしいと言う前に「日本の伝統だ!」とか言い張ってる「捕鯨」は何とかならないの?
日本の伝統ならば最低限、木造船に乗ってふんどしとちょんまげは必要でしょ。(引用)

 アイヌの方々と支援者はこのように指摘しているわけです。
「日本政府は国際会議の場で伝統文化を声高に主張し、調査の名目で南極海での捕鯨を強行し、沿岸捕鯨も実質的に継続しているではないか。なのに、なぜアイヌによるサケ漁を認めないのか? それはダブスタではないのか? 人種差別ではないのか?」と。
 一方、横山氏ら捕鯨族議員や外野の反反捕鯨シンパの人たちは、こう言い張っているわけです。
「IWC/国際社会は先住民の捕鯨を認めているではないか。なのに、なぜ日本の商業捕鯨は認めないのか? それはダブスタではないのか? 人種差別ではないのか?」と。
 以下は捕鯨サークルを代表する人物、長年IWC日本政府代表のポストに就き今年のブラジル総会までの2年間IWC議長も務めた、現東京海洋大学教授・森下丈二氏の主張。

■鯨論・闘論 「どうして日本はここまで捕鯨問題にこだわるのか?」[ご意見:38]|くじら横丁(サイト運営鯨研)
https://www.e-kujira.or.jp/whaletheory/morishita/1/#c38
アンカレッジのホテルのロビーの土産物店では,アラスカ先住民がホッキョククジラのヒゲから作った小さなかごが,ひとつ何十万円という値段で売られていました。これには商業性はないというのは,理屈にならない理屈です。(引用)

 上掲のS.Shiikuさんのコメントと見事にシンクロしていますね。
 「日本の沿岸捕鯨を認めるなら、(現在認められていない)アイヌのサケ漁も認めろ」(「禁止するなら両方禁止しろ」との皮肉)
 「先住民生存捕鯨を認めるなら、(現在認められていない)日本の商業捕鯨も認めろ」( 〃 )
 この2つの文章で一見矛盾するかに見える沿岸捕鯨の実態について、少し細かく説明しておきましょう。
 IWCの管理下にあるミンククジラなどの大型鯨類は現在国際条約上商業捕獲を禁止されています。日本の沿岸捕鯨会社は現在IWCの管理下に置かれていないツチクジラやコビレゴンドウを捕獲しています(小型沿岸捕鯨)。また、禁止対象であるハズのミンククジラも、科学調査の名目で国が許可を出し、副産物≠スる鯨肉を売る形で業態としての捕鯨を存立させています。それがいわゆる沿岸調査捕鯨(北西太平洋鯨類科学調査・オホーツク海側沿岸/太平洋側沿岸)で、実施主体は沿岸捕鯨会社4社から成る日本小型捕鯨協会。ただし、小型沿岸捕鯨の対象種も国連海洋法条約に基づきIWCの管理下に置くべきだとの議論がありますし、国際司法裁判所(ICJ)およびワシントン条約常設委員会により国際法違反の判定が2回も下った公海(南極海および北西太平洋)母船式調査捕鯨同様、沿岸調査捕鯨に対しても国際法に違反する嫌疑がかかっています。つまり、法的に黒ないしグレーな代物を、伝統文化を全面に押し出すことで無理やり正当化させているのが実情なのです。
 S.Shiikuさんの指摘するとおり、現行の沿岸商業捕鯨は文字どおり文化の名を冠するビジネスにほかなりません。
 一方、アイヌのサケ漁は法律上どのように扱われているのでしょうか? それが記されているのが漁業の調整について定めた以下の北海道の規則。

■北海道内水面漁業調整規則 第52条(試験研究等の適用除外)
http://www5.e-reikinet.jp/cgi-bin/hokkaido/D1W_resdata.exe?PROCID=-2013679344&CALLTYPE=1&RESNO=1&UKEY=1543806641288
この規則のうち水産動植物の種類若しくは大きさ、水産動植物の採捕の期間若しくは区域又は使用する漁具若しくは漁法についての制限又は禁止に関する規定は、知事の許可を受けた者が行う試験研究、教育実習、増養殖用の種苗(種卵を含む。)の自給若しくは供給又は伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発(以下この条において「試験研究等」という。)のための水産動植物の採捕については、適用しない。(引用)

 内水面漁業調整規則自体はどの都道府県にもある規則ですが、「伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発」とあるのは北海道のみ。その点に限れば、アイヌの伝統漁業への配慮を謳った北海道ならではのルールといえなくもないかもしれません。この一文が加えられた経緯を、2005年の記者会見で道知事(現在と同じ高橋氏)が述べています。

■知事定例記者会見 平成17年7月8日(金)|北海道庁
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/tkk/hodo/pressconference/h17/h170708gpc.htm
アイヌ民族による秋サケの採捕について
  三つ目は、アイヌ民族による秋サケの捕獲についてでございます。昨年「まちかど対話」で日高管内に入りましたときに、萱野さんにお会いをした際に、ご要望があった件でございます。サケというのは、アイヌの人間にとっては特別な意味があると、アイヌ民族の儀式用に使用する秋サケの捕獲について、ちゃんと位置づけてくれというお話がありました。それを受けていろいろと関係部局で議論をさせたわけですが、北海道内水面漁業調整規則というものがありまして、内水面漁場管理委員会への諮問等の事務処理手続がまだ残っておりますが、国との協議も終了いたしましたので、秋サケが本格的に来遊する前の8月下旬にも規則を具体的に改正する予定です。改正内容は、制限・禁止規定の適用除外事項に「伝統的な儀式若しくは漁法の伝承」ということを新たに明記するということを考えております。「伝統的な儀式」ということを事項の中に入れますのは、全国初でございます。もう一つ、事務の繁雑さという話もありましたので、申請許可を北海道ウタリ協会に一本化するということで、申請事務の簡素化も行おうということを考えております。以上の中身につきまして、ウタリ協会さんとは当然事務的にもいろんな打ち合わせをさせていただきながらやってまいりましたが、萱野さんご本人にも私ども支庁からご説明をし、了解いただいていると報告を受けております。(引用)

 発言中にある「北海道ウタリ協会」はいまネトウヨ方面に利権云々とたたかれている現北海道アイヌ協会のこと(改称は2009年)。「萱野さん」とはアイヌ初の国会議員を務められた故萱野茂氏(後で詳述)。
 実際にこの文言を含める規則の改正が行われたのは、萱野氏が亡くなった後の2010年のことで、高橋知事が約束してから5年もかかっています。
 そして、「アイヌ協会に申請許可を一本化する」という話は実現しませんでした。
 漁獲対象種・数量・区域・期間・使用漁具等詳細を明記した申請書および「許否の決定に関し必要と認める書類の提出」(同規則第5条2)を知事に提出しなければならず(第52条2)、「終了後、遅滞なく、その経過を知事に報告し」なければならず(52条6)、「必要な制限又は条件を付け」られ(52条5)、変更しようと思ったら新たに申請書を提出し再度許可を得なければならず(52条7)、漁の間も許可証を携帯しなければなりません(第30条)。すべて知事の権限に委ねられているのです
 もし、アイヌの漁業者の総意に基づき、アイヌ協会が主体的に許認可の判断を行う形になっていたら、日本は「先住民の権利に関する国連宣言」(国連先住民族権利宣言)の趣旨に即してアイヌの伝統サケ漁を認めていると世界に胸を張ることができたでしょう。日本の反反捕鯨界隈からしばしば非難される反捕鯨国オーストラリアのトレス海峡諸島民によるジュゴン・ウミガメ猟や、カナダおよび米国の先住民によるサケ漁のように。北米西海岸では先住民のトライブが彼ら独自のやり方でサケ漁業の管理を主権的に行っていましたが、権利を勝ち取る裁判を経て、現在は資源評価を担うスタッフや取締官、紛争を処理する裁判所などの体制も整え、連邦政府と共同で天然資源の管理を行っているのです。主体性を完全に奪われているアイヌのサケ漁とは対照的に

■先住民にサケを獲る権利はあるか? コロラド大学ロースクール教授 チャールズ・ウィルキンソン講演会
基本的かつ普遍的に認められる先住民の主権について〜アメリカにおける先住民の主権とサケ捕獲権〜|北大開示文書研究会
http://hmjk.world.coocan.jp/wilkinson/wilkinson.html
アイヌは代々の住み場所から追いやられ、サケなどに対する漁業権も失いました。さっき市川弁護士が説明されたように、現在でも北海道知事の許可なしには、川を遡上してきたサケの1尾を捕獲することすら許されません。しかも、アイヌにサケ捕獲が許可されるのは、文化的・教育的な目的に必要と知事が認めた場合に限られます。そうやって同化政策がどんどん加速するにともない、アイヌ差別が広がりました。現在、アイヌ(コタン)は実質的に土地を保有しておらず、漁業権も行使できない状況です。ただ個人としての地権者、漁業権者がいるだけです。(引用)

 そればかりではありません。改正された北海道内水面漁業調整規則には驚くべき附則が付けられていました。

■北海道内水面漁業調整規則 附則4 一部改正〔平成8年規則75号・22年1号〕(リンク上掲)
毎年8月1日から翌年3月31日までの間におけるさけの採捕及び7月1日から11月30日までの間におけるからふとますの採捕に係る第52条の適用については、当分の間、同条第1項中「試験研究、教育実習、増養殖用の種苗(種卵を含む。)の自給若しくは供給又は伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発」とあるのは、「試験研究、教育実習、増養殖用の種苗(種卵を含む。)の自給若しくは供給、伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発又は知事がさけ及びます資源の保護培養に資すると認める事業」とする。(引用)

 赤字下線に部分にご注目。なぜわざわざこのような断り書きを付け足したのでしょうか?
 はっきりしているのは、この一文によって「漁協が優先しますよ」ということを強調していることです。
 要するに、倭人の漁協が「獲らせてやってもいい」と首を縦に振った場合だけ許可してあげますよ──ということ。
 以下のS.Shiikuさんと丹菊氏の連ツイは必読。

https://twilog.org/kamekujiraneko/date-180905
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280210175971328
多くの和人共がこの記事に「申請すれば良い」と、言ってますが。実際の所、アイヌがアイヌ単体で北海道に「特別採捕許可申請」しても「申請受理して貰えません」、和人はその事がどういう事なのかをしっかり考えた方が良い。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280512337821696
北海道における鮭の特別採捕の許可を出すのは最終的には道知事ですが、実際には伝統儀礼の内容などを説明するだけではなく、地元の漁協の許可を取る必要があります。また、どの川でも可能というわけではなく、ケースバイケースです。「アイヌは許可を申請すればいいだろ」で簡単にすむわけではない。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280666293960706
なんぼ言ってもわかんねえんだな、アイヌが河川に遡上したサケマスを獲る為には「和人の許可」が居る、そしてその許可を貰うためには「和人の懐に金なり何なりの「得する事」」が無いと「和人はアイヌの話も聞かない」って意味が。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280797886111744
そもそも、かつて「鮭の水揚げ日本一」をうたい、現在「破壊され、忘れられたアイヌ文化の復興」を掲げてる俺の住んでる町で「河川におけるサケマスの特別採捕許可」が「申請も出来ず」に居ることで分かるだろう。そしてその「申請も出来ない理由」がどういう事なのかも結局「和人の都合」だと言う事も(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280906266857473
「申請受理してくれない」どころか「その為に関係支庁に行った事」すら「無かった事」にする、挙げ句は「川に揚がったサケが欲しいならふ化場のサケを売ってやる。」とか「自分でわざわざ捕らなくても良いでしょ。」とか言って和人の北海道職員がニヤニヤとしてる顔を見せられるのがせいぜい。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037282212926783488
うちの町を含む当管内の河川に遡上したサケマスは「管内増殖事業団」が捕獲し、採卵し人工受精させたサケマスの受精卵を「他の地域の河川に売ってる」から「河川遡上親魚が「1匹でも」減る可能性が有る事」には「決して許可を出したりはしない」またその儲けは「当地方の各漁業協同組合」にも流れてる(引用)

 上掲した「もうひとつの日本文化(アイヌ文化)徒然ブログ」の記事からも引用。

この特別採補許可、当初の申請時はなかなか許可が出なかった・・・というよりも許可申請書を受理してもらえなかった、地元漁協の協力を得て受理してもらったと聞いている。
また、担当の道職員からは「サケが欲しかったら、道立水産孵化場で何匹でもあげますよ。」などというアイヌへの侮蔑的発言があったとも聞いている。(引用〜@)

 ところで、捕鯨問題ウォッチャーには「試験研究等の適用除外」という項目にピンときた方も多いのではないでしょうか。そもそも水産学者や生態学者が調査を行いたい場合に申請する、他の都道府県では専らそのために定められた事項なわけです。
 そう、まさに国際捕鯨取締条約(ICRW)第8条に基づく調査捕鯨の特別許可証発行と同じスタイル。ICJが判決文の中で「発給された捕獲許可が科学研究目的であるかは、当該発給国の認識のみに委ねることはできない」と言及し、IWCで「致死調査の必要性を立証できていない」と報告されているにもかかわらず、日本政府は強行しているわけです。
 アイヌのサケ漁の場合は、いくら当事者のアイヌ漁業者が申請しても、漁協〜道職員の恣意的な判断によって受理さえしてもらえないのが実態なのに。「申請されたサケ漁が伝統目的であるかは、当該先住民漁業者の認識のみに委ねることはできない」と言わんばかりに。
 関係者の方々の証言する、「サケが欲しければ孵化場のサケをいくらでもあげますよ。自分で獲らなくたっていいでしょ。買ったサケを生簀に入れて銛で突けば?」という道職員の発言には、あからさまな侮蔑の感情が見て取れます。異なる民族の文化を上から目線で一方的に評価したうえで「買ったって同じだろ」と伝統性を言下に否定することが、彼らには出来てしまえるのです。そこには相手を理解しようと努め、尊重する姿勢など微塵もうかがえません。
 上掲ブログ記事(リンク@)には畠山氏が申請したことになっている%チ別採捕許可証に記された数量は「60尾以内」
 たったの60尾。法的には同列の特別許可採捕であるハズの調査捕鯨よりずっと少ないですね。現在の沿岸調査捕鯨の捕獲枠は126頭。過去の南極海調査捕鯨の最大捕獲枠は違法認定されたJARPAIIの850頭。もちろん、漁獲量(トン数)では比較にもなりません。雀の涙。祭事用・自給用以外で商業漁業として成立する数字でないのは明らかです
 北海道全体でも2015年度に実際特別採捕の許可を得たのは11団体だけ。それらの捕獲数を合計しても、現行の調査捕鯨による捕獲総数にも届かないでしょう。
 対する紋別漁協(組合員160名)のサケ・マス出荷量(生鮮冷凍のみ)は2016年で約2,900トン、金額では15億円以上

■もんべつの水産2017|紋別市
http://mombetsu.jp/syoukai/files/2017mombetsunosuisan.pdf

 第一、北海道の規則上は「伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存」の名目でしか認められていないのです。だからこそこの数字なのでしょう。
 ICRW草案の時点では調査捕鯨の捕獲数は数頭程度と想定されていましたし、ICJでも日本側証人として出廷したノルウェーの鯨類学者ワロー氏が妥当な調査捕鯨の数字として「less than 10」と述べました。にもかかわらず、日本は科学調査の名目で毎年数百頭ものクジラを殺し続け、年間数千トンもの鯨肉を市場に提供してきたのです。
 この差は一体何を意味しているのでしょうか? 差別的なダブスタ以外の何だというのでしょうか?
 ここで思い出していただきたいのが、2007年にロサンゼルスタイムズ紙記者のインタビューに対してしれっと言ってのけた森下氏の以下の発言。

■驚き呆れる捕鯨官僚の超問題発言
http://kkneko.sblo.jp/article/30322511.html
■Japan's whaling logic doesn't cut two ways (2007/11/24, LAタイムズ)
http://articles.latimes.com/2007/nov/24/world/fg-whaling24
"You cannot be perfect on every issue and unfortunately that's happening in the case of the Ainu." (引用)
■米国紙がみた調査捕鯨とアイヌ|無党派日本人の本音
http://blog.goo.ne.jp/mutouha80s/e/a863ac35990df463fce164c7633863d5
「我々はいつも首尾一貫しているとは言えない。誰でも全ての点で完全であることは出来ない。たまたまアイヌの問題でそれが起こったのだ。(引用)

 国際会議で日本政府の立場を代弁する上級官僚の口から、ここまで無神経な発言が飛び出すこと自体、とても信じがたいことです。
 国際法上禁止されているハズなのに、違法なハズなのに、伝統文化の名の下で、事実上継続してしまっている日本の沿岸捕鯨。
 国内法上特例として許可されるハズなのに、合法なハズなのに、行政による恣意的な判断の下で、事実上伝統文化としての継続が不可能になってしまっているアイヌのサケ漁。
 法を捻じ曲げて解釈するやり方がいかにも日本的(倭人的)だという点で、どちらも共通しているとはいえるかもしれませんが。
 ここでもう一度、最初に掲げた横山議員の元ツイを振り返ってみることにしましょう。

「食文化を評価するのは人種差別に繋がりかねない議論だ。日本の主張は、先住民捕鯨であれ、商業捕鯨であれ、科学的な根拠に基づき判断すべきと。最も明快。」(引用)

 横山氏のこの主張は、以下の水産庁の公的立場を踏襲したものでもあります。

A■捕鯨を取り巻く状況|水産庁
 http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/w_thinking/
先住民生存捕鯨について
商業捕鯨モラトリアム下であっても、IWCは先住民生存捕鯨を認めており、我が国もこの捕鯨に賛成しています。ただし、
・先住民の定義が確立されておらず、人種差別的な適用が懸念されること
・そもそも鯨の資源管理は科学的根拠に基づき行うべきであること
が原則であり、操業者が先住民であるか否かは、資源管理上は大きな問題ではないことから、会議の場においてこれらの点について指摘を行っているところです。(引用)

 「懸念されること」「行うべきであること」が並列で「が原則であり」にかかっている、日本語としてとんでもなくおかしな表現で、この頁を執筆した担当官僚の国語能力を強く疑ってしまいますが、それはそれとして、ここで問題の先住民生存捕鯨について解説しておきましょう。
 企業による商業捕鯨が禁止されても、IWCでなお別枠として認められているのが先住民生存捕鯨。そこには条件がつきます。「社会・文化的、栄養上の必要性があること」、そして「地域的消費に限られること」。加盟国が申請し、技術委員会による審査をパスし、科学委員会の勧告に基づき総会で承認された捕獲枠設定に従わなりません。国境を越えた管理が求められるグローバルコモンズとして、国際機関の管理下にきっちり置かれるわけです。
 北海道内水面漁業調整規則第52条が条文どおりに♂^用されていたならば、先住民捕鯨との差はないといえるでしょう。ただし、許可されるか否かの判断基準は、先住民捕鯨の定義に収まるかどうかと、科学的資源評価のみ。先住民以外の第三者の利害を優先する附則4に相当する条文はどこにもありません。
 確かに、伝来の土地と天然資源に対する先住民の主権を謳った国連先住民族権利宣言の観点からすれば、先住民側にはやや不満が残るかもしれません。商業捕鯨が全面禁止されている中、先住民のみに特例として認められている点で、破格の厚遇といえるのもまた事実ですが。
 先住民生存捕鯨の定義をめぐっては、厳格な適用を要求する保全NGO側、捕獲枠を維持・拡大したい当事国・先住民側との間でせめぎ合いもみられます。近年物議を醸しているのは、地域的消費・商業性に関して厳しい目が向けられているグリーンランド捕鯨と、そもそも19世紀後半に移民が持ち込んだいわゆるヤンキー捕鯨をルーツとするセントビンセント・グレナディーン(SVG)の捕鯨。このうちSVGと日本の関係については以下の拙HP解説をご参照。実は、SVGの捕鯨が開始されたのは、アイヌの捕鯨が明治政府によって強権的に廃絶に追い込まれた時期と重なります。

■(6)セントビンセント・グレナディーンのケース
https://www.kkneko.com/oda6.htm

 もっとも、ラディカルな反捕鯨の立場の南米諸国を含め、加盟国政府の中に条約上の先住民生存捕鯨そのものを否定する国はありません。自らの都合でけなしながら支持する日本の立ち位置がむしろ特異といっていいでしょう。
 水産庁がIWCの先住民生存捕鯨に対して「人種差別的な適用が懸念される」と(反対しないと言いつつ)珍妙な異を唱えているのは、「先住民だけに認めて日本人(倭人)に認めないのは差別≠カゃないか!」との趣意であるのは明らかです。横山氏の発言もまた然り。
 自分たちがあたかも差別の被害者≠ナあるかのような目線でのこうした難癖って、どこかで見覚えがありませんか?
 そう、女性や、LGBT・障害者・当の先住民族等のマイノリティを優遇する政策への逆差別との批判。女性に一定割合の議席や管理職ポストを配分する行政府や企業の方針、あるいは障碍者雇用率──まさに所轄官庁の厚労省まで数字をごまかしていたことが発覚したところの──をめぐる議論と重なっているのです。これまで権利を存分に享受してきたはずのマジョリティの側にいながら、「マイノリティが過度≠ノ優遇されることで自分たちが不利益を被るのではないか」との被害妄想にも等しい極端な発想に基づいているわけです。
 しかし、格差を生み出すもととなったのは迫害の歴史そのものです。先進国の先住民優遇政策はそもそも、本来享受できたはずなのに後から移入してきた異民族に阻害されてきた、土地や資源などにアクセスする権利などの主権の回復を補償する意味合いを持っているのです。
 上掲の水産庁公式見解は、日本以外のIWC加盟国(捕鯨の賛否問わず)の先住民政策や国連先住民族権利宣言に対する無知、というより無視に基づいているとみなさざるをえません。人種差別そのものに対する無知無理解とともに。
 一応日本政府は2008年に遅きに失しながらもアイヌを先住民として認めています。それも国会の場で。先住民の定義がうんたらと平気で口にしてしまう水産官僚は、トンデモな中国陰謀論に取り憑かれた極右思想の元札幌市議と同水準の認識しか持てないのでしょうか?
 グリーンランド政府が先住民捕鯨擁護の文脈で国連先住民族権利宣言を持ち出すのは一理あるでしょう。しかし、日本政府は決して素知らぬふうに聞き流せる立場にはないはずなのです。捕鯨擁護に熱心な御用文化人類学者たちも。
 アイヌの捕鯨が明治時代に禁止された経緯は、まさに先住民のたどった抑圧・搾取の歴史の最もわかりやすい事例なのですから。

■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 話をアイヌのサケ漁に戻しましょう。
 紋別漁協が千トン単位のサケの漁獲をあげているのに、畠山氏に60尾ほどのサケ漁さえ認めないのは、「科学的根拠に基づく判断」だと横山氏はいうのでしょうか?
 そうでなければ筋が通りませんね。「最も明快」だとおっしゃる以上は。
 もし違うとすれば、アイヌが伝統のサケ漁を自主的に実施する行為を「許可を得ない単なる密漁=vとしか彼はみなしていないことになります。紋別のアイヌ漁師VS北海道警騒動に対し吹き上がったネトウヨたちとまったく同じように。
 横山氏をはじめとする捕鯨族議員、そして水産庁の公的立場からは、アイヌのサケ漁は「漁業ではない」のでしょう。あくまで単なる密漁=B
 確かに、畠山氏が強行しようとして警察に阻止されたサケ漁は、どれほど伝統的手法に則ろうと、真に伝統の保存を目的としていようと、法律上は非合法ということになるのでしょう。
 しかし、丹菊氏はこう指摘しています。

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037277871197188097
先住民族のさまざまな伝統文化が現在まで(あるいはつい最近まで)違法行為として維持されてきたことが判っている。伝統漁業や伝統狩猟を制限された場合、先住民族の多くは密漁(密猟)の形で文化を伝えてきた。アイヌの場合も漁業権が得られなければ密漁しかなかった。(引用)

 捕鯨の場合も、国際法でモラトリアムが定められてからは伝統文化≠調査捕鯨という名の脱法行為(JARPAIIとJARPNII/NEWREP-NPはすでに違法が確定)として維持してきたとはいえますが。
 それはしかし、先住民による伝統を死守するための苦渋の選択とは似て非なるものです。合法的な商業捕鯨時代から行われていたあの手この手の規制逃れの手口の延長
 C・W・ニコル氏は太地の捕鯨会社による密猟をじかに目撃。沿岸ではモラトリアム以前から厳格に捕獲が禁じられてきたセミクジラの切断された頭部が打ち上がったり、座礁個体から銛先が出てきたことも。また、モラトリアム後には鯨肉の代替需要を見込んだイルカの漁獲量が一気に膨れ上がりました。
 捕鯨ニッポンの密輸・密猟・規制違反の目的は伝統文化の維持などではなく、持続性なんて後回しのビジネスの維持だったのですから。
 いずれにせよ、彼らは伝統文化の中身について議論はしないのです。「人種差別に繋がりかねない」(引用〜横山氏)から。
 その発言が真に意味するところは何でしょうか?
 北海道内水面漁業調整規則第52条において「伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存」と明記されたにもかかわらず、北海道担当当局が受付の段階で排除する形で正しく運用されてこなかったのは、ひょっとして横山氏らの意を汲んでのことではないのでしょうか?
 アイヌにだけ特別な形でサケ漁獲の枠を設けるのは、倭人の漁協との「差別に繋がりかねない」。高橋道知事が故萱野氏に約束した道の漁業規則改訂は、横山氏らの視点からすれば「人種差別に繋がりかねず」好ましくないことだったに違いありません。
 しかし、現行の北海道のアイヌ農林漁業対策事業自体、逆差別≠フ観点からすれば問題視されうる要素を含んでいるのです。ネトウヨ方面に「利権ガー」と騒がれるような。

■アイヌ農林漁業対策事業|北海道
アイヌ農林漁業対策事業の概要
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/kei/sen/grp/H28ainugaiyou.pdf

 事例の中にサケの記述があるのですが、それはアイヌ民族の伝統としてのサケ漁の話ではありません。アイヌの戸数や受益割合が一定以上の場合、補助金が出る仕組み。紹介されているのは、アイヌ漁家を含む漁協がサケ加工処理施設を導入する際に助成金が下りるというケース。
 申請する事業の内容にアイヌ特有の事情は何もありません。倭人の漁協との違いは、ただ構成員にアイヌがいるかどうかだけ。アイヌの伝統文化の存続や主権とは関係ない、低所得層へのそれと何も変わらない優遇制度なのです。一種のバラマキという見方もできなくはないでしょう。
 もしそれができるのであれば、取り上げられてきた先住民としての権利を回復してほしいというアイヌの漁業者の方々の切実な要請を断る理由などないはずです。 
 横山氏は北海道出身で国政進出前は道議を務めておられた方。なおかつ、北海道の漁協長によって構成される北海道水産政治協会を支持母体にしています。今年のIWCブラジル総会開催中の当記事の中でも、横山氏は「捕鯨族議員のレベルが高い」とお伝えしましたが、捕鯨だけでなく漁業全体をカバーする水産族議員といえるでしょう。北大水産学部を出て博士論文を書き(内容は噴火湾のアカガレイの摂餌生態)、函館水産試験場科長を務め、メディアも「水産学博士」の肩書きを紹介するほど。


 つまり、アイヌのサケ漁問題には二重に関係してくる政治家といえます。
 彼が地盤である北海道の漁協の利益を最優先するのは、まあ当たり前ではあるでしょう。以下のツイートからもそれはうかがえます。

https://twitter.com/gagomeyokoyama/status/775603202066554880/photo/1
山形県遊佐町の枡川鮭ふ化場の建設現場に来ました。建設に尽力されてきた尾形組合長と。ここから旅立つ鮭は、4年後に北海道ではメジカと呼ばれる高級なブランド鮭になります。遊佐町はメジカのふるさとです。(引用)

 ここで放流された稚魚が成長して回帰する際に北海道沿岸で漁獲されることから、北海道と山形の漁協が連携。横山氏はその実現の影の立役者だったわけです。倭人の漁協に奉仕する水産族議員らしいお仕事ですね。
 横山議員のブログがこちら。国会議員としては発信量の多い方といえそうです。最近は9月のIWC総会関連の記事で止まっていますが、参院法務委員長として忙殺されておいでのようですから、まあ仕方ありませんね。法務委員を務められるなら、外国人労働者の人権問題についても捕鯨に負けない分量の記事を書いて欲しかったところですけど。

■よこやま信一公式ブログ
https://ameblo.jp/gagome-yokoyama/

 右側のカテゴリーを見ると、農業・食文化が248本、水産業が196本と記事数で抜きん出ています。3番目が震災復興・災害対策。それに対し、アイヌ文化はたった3つ、働き方改革(2)に次ぎ2番目の少なさ。
 その3本は博物館・民族共生公園の整備事業に関するもの2本、遺骨問題が1本。
 与党公明党議員の横山氏は、遺骨の返還事業及びハコモノ整備とそこでの東京五輪に合わせた集客イベントの展開がアイヌ政策の中心的課題と考えておられるようですね。これらはすでに内閣官房アイヌ政策推進会議が掲げている施策でもありますが。

■アイヌ遺骨問題を考える (2013/6/20, よこやま信一公式ブログ)
https://ameblo.jp/gagome-yokoyama/entry-11555814642.html
これはアイヌの人々の尊厳を損なう悲しい歴史でもあります。速やかな返還を目指して議連として活動していくことを決意しました。(引用)

 アイヌのサケ漁に対する主権を認めないのは、尊厳を損なうことにはあたらないのでしょうか?
 ここで「議連」という言葉が登場しましたが、実は横山議員は「アイヌ政策を推進する議員の会」のメンバー。水産族議員であるばかりでなく、アイヌ族議員でもあるハズなのです。

■河川でのサケ漁、新法で容認を 道アイヌ協会など要望 (2016/10/2, 北海道新聞〜先住民族関連ニュース)
https://blog.goo.ne.jp/ivelove/e/66084cc1051b909f3ad9b25795e2cf56
政府の作業部会では新法の中心となる生活向上に向けた施策として、雇用の安定など6項目を検討課題として列挙。これ以外の検討課題として、伝統的なサケ漁の復活も挙がっている。内閣官房アイヌ総合政策室は「道の特別採捕の実績を把握することなど、どういう手順で検討するかという所から今後議論することになる」と話している(引用)
■アイヌ新法、来年国会提出 政府、「先住民族」初明記 (8/14, 共同通信)
https://this.kiji.is/402011969156695137

 赤字傍線のとおり、残念ながら、検討さえ10月の段階で緒についたばかりの模様。
 道知事の改正前の会見にもあったとおり、国会議員となった萱野氏はサケ漁の問題をずっと訴え続けてきました。国がアイヌが先住民であることを国会で認めた2008年には「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が設置され、北海道ウタリ協会(当時)理事長の加藤氏からもサケ漁に関する要望が出ています。

■ アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会(第2回)議事概要 |官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai2/haifu_siryou.pdf
明治初期、生活のための捕獲を保障されていた共有漁場などを奪われた歴史的経緯などから、漁業権の一般の権利侵害を伴わない範囲での一部付与などは、必要不可欠な事柄なのです。(引用)

 議論を始めるまでになぜ10年もかかったのでしょうか?
 新法と言えば、美味い刺身*@(調査捕鯨実施法)なんて、2014年のICJ判決に危機感を抱いた捕鯨協会の要請を受け、野党民主党(当時)の族議員として玉木氏らが検討を始めたのが2015年。それから2年であっというまに国会に上梓。同じ国会の種子法、今国会の水道法や入管法の改悪≠烽ミどいものでしたが、捕鯨に至っては自由党の山本太郎議員の質疑10分だけであっという間に成立。短時間に審議・可決された法律としてはギネスものでしょう。公明党を代表する捕鯨族議員として横山氏も草案に加わっていたはず。
 調査捕鯨事業に関わる共同船舶等の雇用者は前JARPAIIの時点で330人(慶応大・谷口智彦氏、2009年)、アイヌの人口は北海道だけで16,786人(北海道アイヌ協会、2013年)。
 この温度差は一体何なのでしょうか?
 横山殿。
 貴殿に対して「捕鯨に反対しろ」などと野暮なことは言いません。
 来年1月に提出予定のアイヌ新法には、現在の漁協と同格の漁業権を付与する形で、アイヌの漁業者が主体的に伝統漁業を行う権利を認める文言を必ず入れてください。
 道の漁業団体を支持母体とし、アイヌ議連にも名を連ねる貴殿なら、(倭人の)漁協団体を説得することができるはずです。
 今国会で審議されている改正漁業法では、漁業権の規制が緩和され、企業が参入する余地が増えることになります。漁業法改正の必要性と問題点については東京海洋大学准教授・勝川俊雄氏の解説をごらんいただきたいと思いますが、それが可能であるならアイヌに漁業権を賦与することにはまったく何の問題もないはず。野党は猛反発していますが、企業はともかく、アイヌに漁業権を与えることで北海道の漁協のサケ漁が脅かされることなどありえません。
 改正漁業法の条文に組み込むのは間に合いそうにありませんが、アイヌ新法には確実に明記できるはずです。
 捕鯨・北海道の漁業・アイヌのサケ漁のすべてに関わる立法府の人間として、この許すまじきダブスタを解消してください。
 森下氏らが国際社会に対して「たまたま起こった」などという苦しまぎれの弁明をもう二度としなくてすむように。

 アイヌのサケ漁について、もう少し掘り下げてみましょう。

B■アイヌ社会とサケ|みんぱくリポジトリ
http://hdl.handle.net/10502/5602
日々の食事の主たるメニュ0で、食材は季節によって変化するが、魚の割合はおよそ2〜3割を占めたと推定される[LEE1968;渡辺1988]。そしてその大部分はサケ・マス類である。(引用)

 萱野氏は「主食」という言い方をされていますが、量的な割合もさることながら、冬越しのために欠かせない保存食であり、交易品としても重要でした(江戸時代に入ると次第に松前藩による搾取にすり替わっていきますが)。

サケ類はその部位すべてを食べることができ、身(魚肉)はもちろんのこと、卵巣(イクラ・筋子)、精巣(白子)、軟骨の多い頭、また目、内臓、骨、皮からひれにいたるまで、残すところは殆どなかったという。(引用〜B)

 鯨体完全利用神話の方は、戦前も戦後も捕鯨会社が洋上でバンバン投棄しておりデタラメでしたが、こちらは本物。食用以外に、皮も上衣や靴として加工、膠としての利用もされていました。
 そして、サケをめぐる豊かな精神文化。コタン間の交流もサケ抜きには語れませんでした。
 
そして、この地縁集団の標識となるのが共通の首長と、サケ産卵場のなわばり、住居新築の際の協力、サケに関わる集団儀礼であるといわれるように、共同体の根幹はサケと深く結びついていた[渡辺1977]。(引用〜B)

 そのサケの恵みを取り上げられ、つながりを絶たれるのは、まさに倭人にとってみればコメ・稲作に関する文化を奪われるのも同然といっても、決して大げさな表現ではないでしょう。
 丹菊氏はこう述べられています。

https://twitter.com/itangiku/status/1068736514622812160
「アイヌだけに鮭漁を認めるのは不公平」というのはどうでしょう。和人社会は昔から「分業」社会です。でもアイヌ伝統社会は分業せず、鮭漁も自分でしていた。その価値観が祭祀や食事、道徳観などとつながっている。「伝統鮭漁」はたんなる銛や網の技術だけの問題ではないのです。(引用)
https://twitter.com/itangiku/status/1068737449956827137
アイヌにとって、鮭はたんなる魚ではないし、鮭漁はたんなる銛や網の技術ではない。だから「和人から鮭を買って生け簀に入れて、そこで銛で突けばいい」と言われれば怒るのも当たり前です(実話ですよ)。鮭への意識は鮭漁禁止以来今まで保持され続けてきた。簡単にはなくならないのです。(引用)

アイヌのサケ漁の伝統の奥深さに比べれば、捕鯨サークルや外野の反反捕鯨の説く鯨肉食文化なんぞ、ガリガリくんナポリタンを多額の税金で存続させるのと変わらないと筆者は思いますが。
 南極産クロミンククジラに手をつけだしたのはたったの半世紀前。消費者に敬遠されるからといって極低温冷凍設備やドリップを防ぐ解凍技術に頼ったり、フレンチシェフにクジラ肉のポワレカキのフライ添えカフェドパリバターソースだのわけわからん創作料理をこしらえさせて政治家らが集うパーティーで振る舞ったり。そんなもの、ただの食材でしかありません。伝統文化に値しない食ブンカ

■トンデモ鯨料理一覧
https://www.kkneko.com/shoku.htm

 記事の最後に、萱野茂氏の晩年の著書、平凡社新書の『アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心』から、少し長くなりますが引用しましょう。昨年にはちくま学芸文庫版も出ています。


第1章 四季のくらし サケはアイヌの魚
 サケのことを北海道ではふつう秋味というが、アイヌはカムイチェㇷ゚(神の魚)、またはシエペ(シ=本当に、エ=食べる、ペ=もの、しゃべるときはシペという)と呼んだ。
 北海道というとクマとアイヌが主役で、有名なのはイヨマンテ(クマ送り)で、あたかもクマの肉を主食にしていたように思われがちだ。しかし、私が物心ついて約七〇年、その間に村でクマが獲れたのは昭和一六年頃に二谷勇吉さんが一頭、そのあと昭和三五年に貝沢健二郎さんが二頭か三頭、私の弟貝沢留治が昭和四〇年ごろに一頭獲っただけであった。
 こうしてみると、一〇年に一頭にもならないほどなので、クマの肉はめったに口に入るものではなく、クマの肉のことをアイヌたちは、カムイハル(神の食べ物)というほどであった。
 これに対しサケのほうはアイヌがシエペ(本当の食べ物、主食)という言い方で大切にした食べ物であり、本当に当てにしてくらしていたのである。
(中略)
 アイヌたちが定住の場を決めたのは、サケの遡上が止まるところまでであり、主食として当てにしていたことがそのことからはっきりわかるはずだ。世界中でアイヌ民族だけが使っていたと思われるマレㇷ゚(回転銛)など、サケを獲る道具は約一五種類もあり、サケの食べ方は大ざっぱに数えて二〇種類。その中には生のまま食べる食べ方もあり、獲ってすぐでなければできない料理もある。
 アイヌは自然の摂理にしたがって利息だけを食べて、その日その日の食べ物に不自由がないことを幸せとしていたのである。それなのに日本人が勝手に北海道へやってきて、手始めにアイヌ民族の主食を奪い、日本語がわからない、日本の文字も読めないアイヌに一方的にサケを獲ることを禁じてしまった。
 これはアイヌ民族の生活をする権利を、生きる権利を、法律なるものでしばったわけで、サケを獲れば密漁だ、木を伐れば盗伐だ、と手枷足枷そのものであった。
 話を古いほうへ戻すが、昭和六年か七年のこと、秋の日にわが家の建て付けの悪い板戸を開けて巡査が入ってきて、立ったまま、清太郎(アレㇰアイヌ)行くか、と父にいった。
 父は板の間にひれ伏し、はい行きます、といったままで大粒の涙をポタッポタッと落とした。それを見た私は、あれっ、大人が泣いていると思ったが、次が大変であった。
 父は巡査に連れられ平取のほうへ歩き出し、私が泣きながら父の後を追いかけると、私を連れ戻そうと大人たちが追ってくる。その大人たちの顔に私と同じに涙が流れていたのを、つい昨日のように思い出すことができる。
 毎晩こっそり獲ってきて子供たちに口止めしながら食べさせていたサケは、日本人が作った法律によって、獲ってはならない魚になっていたというわけであった。
 父が連れていかれたあとで、祖母てかっては、「シサㇺカラペヘ チェㇷ゚ネワヘ クポホポンノ ウㇰワエッヒネ カムイト゚ラノ ポホウタㇻ エパロイキヒ アコパㇰハウェ シサㇺ ウタㇻ ポロンノウッヒ アナッネ ソモアコイパッハウェー」と嘆きの言葉をもらしながら泣いていた。
 この意味は、「和人(日本人)が作ったものがサケであるまいに、私の息子が少し獲ってきて、神々と子供たちに食べさせたことで罰を受け、和人がたくさん獲ったことは罰せられないのかい」ということである。
 私はこれまでパスポートを必要とする旅を二四回していて、行った先ではなるべくその国の先住民と称せられる人びとと交流をしてきたが、侵略によって主食を奪われた民族は聞いたことがない。
 現在のサケとアイヌの関わりがどうなっているかを述べよう。北海道全土の漁協が獲っているサケの数は数千万匹という。その中でアイヌ民族が書類を出して獲らせてもらえる数といえば、登別アイヌが伝統的漁法であるラウォマㇷ゚(やな)で五匹獲れるのと、今一ヵ所は札幌アイヌがアシリチェㇷ゚ノミ(新しいサケを迎える祭り)のために獲れるのが数年前まで二〇匹であった。
 この本をお読みになる日本人の方々よ。あなたが悪いのではないが、あなたたちの先祖が犯した過ちが今もなお踏襲されているのはまぎれもない事実なのであり、それを正すも正さないもあなたたちの手に委ねられていることを知ってほしい、と私は思っている。
 もし、よその国から言葉も風習もまったく違う人たちがどさっと日本へ渡ってきて、おまえたち、今日から米を食うな、米食ったら逮捕するぞ、という法律を押しつけたらどうであろうか。これと同じことをアイヌに対して日本人はしたのである。
 こう私はいい続け、書き続けているが、私が語り続けてきたことにまったく反応がないのはなぜだろうか。
 私は、アイヌ民族の食文化継承のために必要なサケはどうぞご自由に、といってほしいだけで、そうむずかしい注文をしているわけではないはずだ。
 私が生まれ育ったシシリムカペッ(沙流川の河口から四キロほどのところ)に、頑丈なやなが設置され、一匹のサケも遡上できなくなり、キツネやカラス、シマフクロウ、クマなど上流で腹を空かせて待っているものたちがいることだろう。こうした動物たち、そしてアイヌに、有史以来食べる権利を持っていたものたちのために、やなを三日に一度でいいから開けられないものだろうか。
 川は誰のものなのか、漁業組合なるものの占有物ではないはず。その流域でくらしている生きとし生きるものたちの共有財産であったものを、一部の人たちの思いのままにしていいのだろうか。(引用。強調は筆者)

 『アイヌ歳時記』には昭和初期、幼少期の萱野氏自身の豊かな自然体験、アイヌ語で祖母や父に教えられた逸話・訓話や生活の知恵が、同化政策によって押し付けられた言語であるところの日本語による確かな筆致で描かれています。目に浮かぶ情景に胸打たれるとともに、読み進む毎に痛みが心に突き刺さってきます。なぜならそれは、連綿となく受け継がれてきた大切な仕来り、かけがえのない自然がひとつひとつ失われてゆく過程そのものだからです。
 合わせて以下もご一読を。

■アイヌの主食は鮭、なぜ捕るなと言うのか?・・萱野茂氏の主張(4・終)|始まりに向かって
https://blog.goo.ne.jp/blue77341/e/f09be0a0e923aa0d9139a9e22464abc9

 萱野氏らが国を相手取った二風谷ダム訴訟で強制収用の違法性の審判は下ったものの、奪われた土地・自然は水底に沈められたままという大きな犠牲を払ったうえで、1997年にはアイヌ文化振興法が成立しました。しかし、その内容は先住権の回復というには程遠い内容でした。
 しかも、倭人とアイヌの、対等とは到底言いがたい、歪んだ関係はまだ続いたままです。萱野氏がこれをご覧になったらさぞかし嘆かれることでしょう。

■沙流川の今。2016年7月29日|流域の自然を考えるネットワーク
http://protectingecology.org/report/6462
清流であった沙流川のアイヌの聖地を水没させた違法ダム「二風谷ダム」。ダムは満杯に泥で埋まっている。国の膨大な予算を使って計画された当時の役割を、完全に失っているダムである。
雨が降る度に、沙流川は泥水が流れ、今なおダムは泥を溜め続けている。(中略)
そして、支流の額平川には、新たに「平取ダム」が建設中である。
平取ダム建設中の額平川も、そこへ合流する宿主別川もご覧のように酷い泥水となっている。これでは、清流・沙流川は更に酷い泥川にされてしまう。沙流川からシシャモの姿が消えるカウントダウンが始まった。
正面の山はアイヌの祈りの場といわれる神聖な山「チノミシリ」である。チノミシリに「穴を穿ち、ダム堤体を取り付け、麓を水没させる」平取ダム。(引用)
■二風谷ダム裁判判決文
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/5596/
■二風谷ダム訴訟判決から20年(2017/3/26, 八ッ場あしたの会)
https://yamba-net.org/20469/

 水産庁の上掲公式HP「捕鯨の部屋」にはこんなことが書かれています。

捕鯨についての基本的考え方
( 2 )食習慣・食文化はそれぞれの地域におかれた環境により歴史的に形成されてきたものであり、相互の理解精神が必要である。(引用〜A)

 一体どの口が言えるのでしょう??
 加害者たる倭人の一人として、筆者はただただ深く恥じ入るばかりです。
posted by カメクジラネコ at 08:48| Comment(4) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年12月05日

今年のIWCブラジル総会の日本政府代表団の旅費(の一部)が明らかに!

 今年9月にブラジル・フロリアノポリスで開催された国際捕鯨委員会(IWC)の第67回総会については、動画で配信された会議の模様やオブザーバー参加したNGOの話をもとに当ブログで取り上げたところ。
 今年の総会にはオブザーバーを除く加盟国政府だけで400名を越える参加者が集まりました。このうちの62名が日本政府代表団。実に7分の1近くを日本が占めていたことになります。もちろんダントツで最多。他の加盟国はほぼ1桁で、代表1名のみのところも少なくありません。
 10月にソチで開かれたワシントン条約常設委員会(CITES-SC)も日本からは18名が出席、参加者数で他国を大きく引き離していました。
 どちらもクジラがらみ。
 すべての産業界にとって無関係ではいられない国連気候変動枠組条約、その昨年の締約国会議(COP)23に参加した政府関係者は197カ国で約9千人(1ヶ国当たりでは50人弱。多く派遣しているのは先進国でしょうが)。100人に上る政府代表団が送られるのは、後はサミットくらいのものでしょう。
 実際のところ、国際交渉で10人以上の政府要員を派遣するだけで、その国にとってよほど重要な案件のはず。それはIWCやCITES-SCへの日本以外の国からの参加人数を見てもわかります。
 もちろん、かかる経費だって決してバカにならないのですから。
 というわけで、筆者は外務省および農水省に対し、今回の総会への日本政府代表団の旅費その他参加費用に関する書類の行政文書開示請求を行うことにしました。
 農水省に関しては、情報公開窓口で農水省分と水産庁分を農水大臣宛・水産庁長官分宛に分けて出してくれと言われたため、開示請求を2通分作成することに。外務省も本来は本省分と在外公館(大使館等)分に分かれるそうですが、こちらは一括で応じてくれました。さらに、開示可否の決定通知を受けたうえで、不足分(開示実施手数料−開示請求手数料)にあたる印紙を貼って開示実施方法等申出書を送付。ようやくブツが手元に。面倒くさいですね。用意する方も大変でしょうけど。あと、フォーマットを省庁間で統一した方がもっと効率的だろうにとも思いましたが。
 農水省・外務省とも部分開示でしたが、とくに農水省は一部不開示とした理由を5項目詳述しており、いずれも合理的な内容で異存はありませんでした。懇切丁寧な対応をしていただいた両省の担当部署の方々にはお礼申し上げます。水産庁以外。
 ていうか、水産庁(国際課捕鯨室)だけ開示決定期限を1ヶ月延長してきたんですよね〜。「権利利益を侵害される可能性のある第三者の意見聴取及び当該行政文書開示・不開示の審査に時間を要するため」という理由で。
 メンバーに庁外の業界団体関係者がいたからということなんでしょうが、すでに当事者であって第三者とはいえないはず。国際会議出席にかかった旅費・宿泊費等の費用を開示するだけで「権利利益を侵害される」可能性のある第三者とは一体誰なのでしょう? 例えば、業界団体の人間には国会議員並にビジネスクラスの航空券やランクの高いホテルの部屋を用意したことが国民に知られると、それが権利利益の侵害にあたったりする? そりゃ、侵害する方とされる方が逆≠ネのと違いますか? 税金使ってるのに。四の五の言わずにとっとと開示してほしいものです。
 さて、現物は農水省がA4用紙36枚、外務省がA4用紙27枚。墨塗りは一部のみで、必要な支出金額はすべて開示していただきました(水産庁以外)。それを一覧表にまとめたのがこちら。表下部の補注もご参照。
iwc67_delegates_exp.png
 同じ表を以下の拙HPでも公開しています。

■IWC67日本政府代表団旅費等参加費用情報公開請求
https://www.kkneko.com/iwc67delegatesexp.htm

 今回明らかになったのは、IWCに参加登録した日本代表団全62名のうち、農水省2名、外務省18名の分。また、資料上は匿名でしたが、在クリチバ領事館のスタッフの方6名がおそらくリストの最後に加わったと考えられます。
 今年のブラジル詣でに加わったのは、このほかに国会議員5名、下関市2名(市長と議長)、同じく太地町2名(町長と議長)。水産庁の幹部クラス官僚5名も確認。残る22名が水産庁職員および業界関係者ということになりますね。
 自民党3名、公明党1名、国民民主党1名の族議員は議院ないし国会委員会の職務扱いで、残念ながら情報公開法の対象外。
 太地町のお2人の分については同町議会の漁野尚登議員が、過去の総会同様、町に対して開示請求されたとのこと。
 今回筆者の方では下関市に対する請求をあえて行うことはしませんでした。おそらく太地町と同額程度と考えられるため。
 で、判明した金額が20,115,297円
 これでまだ≪62分の26≫にすぎません。国会議員では≪7分の2≫。
 水産庁の27名分を除いた残りの推計を含めた35名分で、およそ4千万円
 たった1回のブラジルツアーで家(土地付き)1戸建っちゃいますね・・。
 仮に、政務官と秘書官を除く外務省本省7人分の平均を水産庁の27人にあてはめると、およそ3千万円。しめて約7千万円
 都内の新築マンションが買えますね・・。
 少し細かく見ていきましょう(会計検査院の目で)。
 判明している26名分の旅費のうち8割は航空運賃です。ブラジルはフロリアノポリス開催ということで、渡航費がかさむのはやむをえないかもしれません。
 ただ、その航空運賃の6割近くは岡本政務官と谷合副大臣およびそれぞれの秘書官、計4名の分です。
 谷合副大臣と山本秘書官の航空運賃はそれぞれ2,013,960円。サンパウロ−フロリアノポリス間のブラジル国内線はエコノミーですが、東京−サンパウロ間はルフトハンザ航空のビジネスクラスを使用。岡本政務官は復路で米西海岸2都市に立ち寄っており、谷合副大臣より50万円高い値段(その後カナダへ)。
 それにしても、1度の往復で200万円とはすさまじいですね。会社の業務であれ個人の旅行であれ、比較サイトで格安航空、キャンセル待ちを探す庶民には想像もつかない金額です。とある研究者の方いわく「200万円くれたら10回か11回分国際会議を回ることが出来て、論文も捗るなあ・・」とのこと。しかも、当人の出張がなければ必要のない随行秘書の分で2倍に。議員・政府高官として、万が一にも遅れて会議に出席できなくなることがあってはならないという事情もわかりますが。
 さればこそ、せめて参加する国会議員は谷合氏と岡本氏の2名に絞るべきでした。
 また、会場でのスピーチは初日を谷合副大臣、最終日を岡本政務官といった形で分担すればよく、2人とも丸々5日間会議に張り付いている必要はなかったはずです。外交の場で政府の顔≠ニしての役割を演じるのが彼らの仕事であり、どうせ実務を担当するのは官僚なのですから。そうすれば宿泊費は1泊分ですみ、秘書官含め5日分の宿泊代と日当、40万円ちょっと浮いたはずです。
 実は、今回の総会にはオーストラリアからも与党自由党の上院議員アン・ラストン氏が出席していました。役職は谷合氏に相当する国際開発・太平洋担当副大臣。ラストン議員も日本の岡本氏と同様に豪州政府を代表して初日にスピーチを行ったのですが、内政を優先してとんぼ返り。そのことに対してNGOや豪州国内からは批判の声もあがりました。
 しかし、筆者はラストン議員・豪州政府の判断は賢明だったと思います。長くいたところで税金の無駄になるだけなんですから。
 日本の国会議員が7人も内政をほったらかしてブラジルまで押しかけ、会期中丸々居座るのではなく、2人だけ出席して「本当はずっと会議の行方を見守りたいところですが、地震と豪雨により被災した国民が大勢おります故、1日だけ顔を出させていただくことにしました」とでもスピーチしておけば、国内のみならず対外的にもむしろ日本の株はあがったことでしょう。
 それ以外の議員5名の旅費は、秘書の同行なし、航空運賃と宿泊費は谷合副大臣と同じ(まさかエコノミーで行くはずもないし・・)と仮定したうえでの推計ですが、やはり合わせて1千万円を超えます。また、おそらくブラジルでこれら国会議員に随行し通訳等の世話をするために在クリチバ領事館から追加のスタッフが派遣されたと思われるので、その分余計な支出が増えるとともに、領事館の業務が手薄になったんじゃないかと心配になります。
 はたして、地球の真裏のブラジルまで国会議員7名を擁するこれだけ大がかりな代表団を送り込んだだけの成果は挙がったのか──という点に関していえば、もうすでに結果は出ちゃったわけですが……。

■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html
■IWC67会議報告−1日目〜その他のこと|ika-net日記
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/index.html
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/index.html
■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案 [クジラ]|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15

 判明した一部だけで2千万円、推計で7千万円と言う莫大な税金をかけ、国会議員7名を含む大代表団を送る必要があったとは、筆者には到底思われません。
 過去のIWC総会においても、日本は他の加盟国より相対的に多くのメンバーが出席し、族議員の誰かも加わってはきました。が、今回はとくにコストパフォーマンス的に最悪の外交だったといえるのではないでしょうか。(安倍首相の外遊のそれについてはここでは問わないとして・・)

 日本政府がIWCを脱退する/しないの判断を下すとしたのが今月。
 はたして「我が代表堂々退場ス」ということになるのかどうか。
 9月のブラジルが本当に参加する最後の機会だったとしても、もっと他にやり方があったでしょうにね。

参考リンク:
第66回IWC総会参加費用|太地町議会議員 漁野尚登のブログ
https://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/34527636.html
平成30年 第2回 太地町議会定例会開催のお知らせ|〃
https://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/35172444.html

 近日中にアイヌのサケ漁と捕鯨のダブスタに関する記事をアップする予定です。
posted by カメクジラネコ at 18:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年11月22日

捕鯨で負けたのに徴用工でまたICJ提訴? クジラは平等に殺せ、でもヒトの人権ダブスタはOK?

 今月久々に拙ツイートがバズりまして──まあバズッたといっても高々RT360ほどで、著名人の日常の呟き程度にすぎませんけど。まずは件の一連のツイート(筆者+VARDIGAさん、榧世さん)をご紹介。


 上掲引用RTの元ネタは、日本の最高裁にあたる韓国大法院が第二次大戦中のいわゆる徴用工の新日鉄住金に対する損害賠償請求を認めた判決に関する産経新聞記事。またぞろネトウヨが吹き上がって1,500RTされてますが、その1/5以上の反響はあったことになりますかね。。

@■徴用工問題で日本政府、国際司法裁に提訴へ 大使召還は行わず (11/6, 産経)
https://www.sankei.com/politics/news/181106/plt1811060004-n1.html
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181106-00000042-san-pol
■徴用工 国際司法裁判所に提訴へ 韓国の異常性を世界へ周知、日本単独の場合も韓国に説明義務あり (11/6, 夕刊フジ)
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/181106/soc1811060016-n1.html
A■菅官房長官、国際裁判辞さず 韓国元徴用工判決で意向示す (11/6, 共同)
https://this.kiji.is/432396931954852961
B■徴用工判決は「暴挙、国際秩序への挑戦」 河野外相批判 (11/6, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/ASLC65JB8LC6UTFK015.html

 この件に関しては同日共同通信と朝日新聞も取り上げています。「政府は」で始まり「固めた」で締めくくる大本営張りの産経に対し、共同は菅官房長官、朝日は河野外相の6日の記者会見と出所が明確。官房長官は「国際裁判も含めあらゆる選択肢を視野に」「(今後の対処方針に関しては)手の内を明かすことになるので差し控えたい」としか述べておらず、河野外相も「あらゆる手段を取る用意がある」とややぼかした言い方。どうも、名無しの「政府高官」や「外務省幹部」の意気込み≠竕ッ測のみで「提訴へ」と書いてしまった産経の勇み足、先走りに映ります。「政府は──判断した」が同系列のフジじゃ「政府は──判断したようだ」になっていたり、相変わらずのクオリティ。一応政府部内にいる同紙のシンパが情報源なんでしょうけど。
 実は同趣旨の報道は先月末の韓国大法院の判決当日にも。

C■日本政府、対韓国「戦略的放置」強める 徴用工判決、国際司法裁判所への提訴も視野 (10/30, 産経)
https://www.sankei.com/politics/news/181030/plt1810300039-n1.html
■安倍首相「あり得ない判断」=徴用工訴訟、国際裁判も (10/30, 時事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018103000804&g=pol

 国際裁判提訴の動きに対してはさっそく懸念の声が。以下は東京海洋大准教授・勝川俊雄氏、早大客員准教授真田康弘氏、日本通NZ人ガメ・オベール氏のツイート。

韓国の徴用工判決問題で、国際司法裁判所(ICJ)に提訴すれば日本が勝てるという見通しが大勢なんだけど、本当に大丈夫なのかな。捕鯨の裁判の時は、楽勝ムードだったのに、蓋を開ければ完敗だったので、ちょっと不安です。(引用)


 河野外相いわく「友好関係の法的基盤を根本から覆すものだ。極めて遺憾で、断じて受け入れられない」(引用〜A)「暴挙」「国際法に基づく国際秩序への挑戦だ」(引用〜B)とのことですが、オーストラリア・ニュージーランド首脳にはぜひそっくり言葉を日本に対して突きつけてほしいもの。産経記事「国際協定や実定法よりも国民情緒を重視する韓国への視線は、政府内で冷め切っている」(引用〜C)はやはり一握りの産経シンパがそう言ってるだけなのでしょうが、国際協定や実定法よりごく一部の″走ッ情緒・美味い刺身@~しさを優先する国が言えるこっちゃありませんわな。まあ「一体どの口が」という話です。
 それにしても、「国際司法裁判所(ICJ)」というキーワードが登場したにもかかわらず、日本がそのICJで調査捕鯨をめぐって豪州・NZと争い、敗訴したという重要な事実に触れた記事は1つもなし。上掲真田氏、勝川氏、榧世さんのようにすぐピンと来た記者が1人もいなかったとすれば、日本のマスジャーナリストはお先真っ暗ですな。。外務官僚は単にすっとぼけてるだけにしろ。
 そんな中、唯一自身のメルマガで調査捕鯨訴訟に言及したのが元大阪府知事の橋下徹氏。

■橋下徹"徴用工問題、日本が負けるリスク" (11/14, ブロゴス)
https://blogos.com/article/338621/

日本の悪い癖は、法的な論戦になるときに、きちんとした備えをしないこと。最近では、クジラの調査捕鯨について、国際司法裁判所の場で必ず日本の主張が通ると高を括っていたら、なんと日本の主張は完全に排斥された。(引用)

 「完全に排斥された」とまで言い切っちゃうと、捕鯨サークル(水産庁・鯨研・共同船舶/捕鯨協会)が気を悪くしそうですね(実際には附表第30項違反に関しては日本側の主張が通っています)。まあ、ほぼ完敗に近いボロ負けだったのは事実。「美味い刺身≠フ安定供給目的の国際法違反」とはっきり認定されたわけですから。捕鯨サークル関係者の中には「いや、負けたわけじゃないんだ」と矮小化を図ろうとしている御仁もいますが、橋下氏らの信用を得るには至ってないと。
 ともあれ、保守派論客の橋下氏さえ、韓国政府を提訴した場合の日本政府のリスクを懸念しているわけです。
 徴用工訴訟問題そのものについては以下もご参照。ネトウヨ/産経読者諸兄は吹き上がる前に確認しておくべきでしょう。どうやら調査捕鯨国際裁判敗訴の判例がなくてさえ、日本政府側にとってかなり分が悪そうです。

■徴用工問題は本当に「解決済み」だったのか? 日本政府が60年以上にわたり隠蔽してきた日韓基本条約の欺瞞 (11/6, リテラ)
https://lite-ra.com/2018/11/post-4356.html
■徴用工判決と日本政府のブーメラン事情
https://www.youtube.com/watch?v=kZJGp7oZAN0&feature=youtu.be
■元徴用工問題 本質は人権侵害/元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明 (11/6, 赤旗)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-11-06/2018110601_02_1.html
■[インタビュー]日本の弁護士「日本が強制徴用国際裁判で負ける可能性もある」 (11/9, ハンギョレ)
http://japan.hani.co.kr/arti/international/32062.html
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181109-00032062-hankyoreh-kr
■日本弁護士「強制徴用賠償、ICJでも日本が負ける」…その根拠は? (11/7, 中央日報日本語版)
https://japanese.joins.com/article/872/246872.html
■河野外相「個人請求権は消滅していない」…「しかし解決済み」 (11/17, 中央日報日本語版)
https://s.japanese.joins.com/article/j_article.php?aid=247222
■韓国徴用被害を無視した日本企業、中国では年内に基金設立を推進 (11/5, ハンギョレ)
http://japan.hani.co.kr/arti/international/32029.html
■「中国には賠償、韓国には憤怒」強制徴用問題、日本の対応はなぜ違う? (11/2, レコードチャイナ)
https://www.recordchina.co.jp/b657935-s0-c10-d0058.html

 ちなみに、以下は慰安婦問題関連の報道ですが、登場する小和田氏はICJ判事として調査捕鯨訴訟にも携わっています。

■日韓請求権協定締結時に外務省 (2013/8/7, 赤旗)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-07/2013080701_04_1.html

 同「解説」は、「何が『紛争』に当たるか」について、一方の当事国が「ある問題について明らかに対立する見解を持するという事態が生じたとき」と明記。また、紛争の発生時期については「何らの制限も付されていない」とし、「今後、生じることのあるすべての紛争が対象になるべき」だと説明しています。
 そのうえで、日韓間で紛争が生じた場合は、「まず外交上の経路を通じて解決するため、可能なすべての努力を試みなければならないことはいうまでもない」と指摘しています。(引用)

 韓国文政権の方針がまだはっきりしませんが、今後どのような対応を取ると考えられるでしょうか? まずは高齢の被害者への人道的配慮を優先すべく、当該企業に日韓両政府も加わる形での基金による解決を目指そうとするでしょうが、それでもなお日本政府が強硬に突っぱね、6日の産経記事どおりICJ提訴に踏み切ったとしたら? 
 実際、中国の強制徴用被害に対しては、上掲リンクのとおり西松建設・三菱マテリアル等の加害企業が和解金を支払ったり、基金の設立を進めています。強制徴用問題におけるダブスタは橋下氏から赤旗や韓国紙まで指摘しているとおり。ことは人権、ウシやカンガルーとクジラを比べるのとはわけが違うと思いますけどね。アイヌサケ漁問題に対する森下丈二前IWC議長のダブスタ容認発言ではありませんが、ヒトのダブスタはOKとする産経や反反捕鯨ネトウヨの心理は筆者には理解できかねます。
 後は2つに1つ。外務省筋の見立てのとおり、応訴しないか。あるいは、勝てる見込みが十分高いと見て応訴するか。
 どちらを選択した場合にも、2014年の日本ICJ敗訴は相当なインパクトがあります。
 筆者自身も、韓国政府が応訴しない可能性もある程度高いのではないかと思っています。理由のひとつは、たとえ勝算が十分があるとしても裁判に絶対はないこと。もうひとつは、被害者にもう時間的猶予が残されていないのにズルズルと裁判を長引かせるのは──まず日韓請求権協定に基づく仲裁手続が先行するはずですし、物別れに終わってからICJ提訴、審理に時間を割くことになるでしょうから──人道的見地から賢明とはいえないという理由。その場合、韓国政府自身が被害者に一定の補償をする泣き寝入りの形にはなるでしょうが。
 そして、もう1つ。たとえ日本のICJ提訴を無視した場合でも、国際社会における韓国のイメージが傷つく恐れはないから。これは応訴しないことによるデメリットがない(日本企業に責任を取らせることができない点を除き)という意味ですが。
 一体なぜ、産経や同紙シンパの外務省幹部が説くように「韓国の異常性を世界に知らしめる」のではなく、「日本の異常性が世界に知らしめられる」ことになってしまうのでしょう?
 もう説明は要りませんよね。筆者及び識者がツイートしたとおり。
 とはいえ、補足しておきましょう。

 ICJで裁判を開くには原則として紛争当事国の同意が必要で、手続きには(1)相手国の同意を経て共同付託する(2)単独で提訴した上で相手国の同意を得る−という2つの方法がある。政府は韓国から事前に同意を得るのは難しいことから単独提訴に踏み切る。
 その場合も韓国の同意は得られないとみられ、裁判自体は成立しない可能性が高い。だが、韓国に同意しない理由を説明する義務が発生するため、政府は「韓国の異常性を世界に知らしめることができる」と判断した。(引用〜C)

 上掲はリンクした11月6日の産経記事に書かれているICJ提訴の流れ。夕刊フジに至っては見出しで「説明義務あり」とまで言い切っちゃってますが、まったくのデタラメです。10月30日の記事は原川貴郎記者の署名がありますが、こちらの記事は無署名。何も勉強せずに適当なこと書いて給料もらえるんだから産経所属記者は楽でいいですねぇ。外務省内のシンパが吹聴したとしたら、その御仁もおそろしく無能ですが。
 ICJで裁判を開くには、「1ヶ国以上」がICJに付託することが必要。逆に言えば、一方の当事国が相手国の同意なしに勝手に訴えてもICJが妥当と判断すれば受理されます(強制管轄権受諾国同士の場合)。

第53条 1.一方の当事者が出廷せず、又はその事件の防禦をしない場合には、他方の当事者は、自己の請求に有利に裁判するように裁判所に要請することができる。(引用)

■国際司法裁判所規程|国際連合広報センター
http://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/icj/statute/

 実際の手続は3つ。
(1)特別の合意(紛争当事国同士による共同付託)
(2)条約の(管轄権)条項
(3)一方的宣言(強制管轄権受諾国同士の場合)

■国際司法裁判所(ICJ)-よくある質問- 5 . なぜ国家間の紛争のなかで、ICJで取り扱われないものがあるのですか?|国際連合広報センター
http://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/icj/faq/#a5

 日韓請求権協定は紛争の解決を仲裁委員会に委ねており、ICJの管轄権条項は含まれていないため、(2)はなし。竹島問題でネトウヨ方面にも知られているとおり、韓国は強制(義務的)管轄権を受け入れていないため、(3)もなし。つまり、ICJでの裁判が成立するのは韓国政府が同意する(1)の場合のみ。
 産経記事にある「同意しない理由を説明する義務」なんてものは、国際法規上は存在しないのです。
 なお、上掲ICJ規定53条には「その事件の防禦」とありますが、これは先決的抗弁等の形でICJで審理されるべき事案ではないと受理を拒否するよう申請するパターン。
 この先決的抗弁に関しては、ICJ調査捕鯨訴訟の判決が出る半年前に筆者が公開した過去記事で詳細に解説しています。

■ICJ調査捕鯨訴訟で日本は負ける
http://kkneko.sblo.jp/article/70305216.html
■Japan will lose the legal suit on of whaling in the Antarctic at the ICJ
https://www.kkneko.com/english/icj.htm

 お読みいただければわかるでしょうが、日本は当時強制管轄権をほぼ無条件で受諾していたため、「同意するか、あるいはICJが受理すべきでないとする妥当な理由を説明する義務」を負っていたわけですが、この先決的抗弁を使わず「いったん同意しておきながら、裁判の中で同意を拒むみっともない説明」をしてしまったため、判決が出る前から「異常性を世界に知らしめ」てしまったわけです。
 さらにそのうえで、調査捕鯨の国際法違反が確定した1年半後、看板をすげ替えた新たな調査捕鯨計画をぶち上げ、再びICJで違法性を追及されるのを回避すべく、受諾宣言を書き換えてしまったのです。海洋生物資源に関しては国連/ICJの管轄権を受け入れない、と。韓国等とまったく同じ立場。
 いや、もっとはるかに悪質ですね。裁判で認定された違法行為を繰り返すため、わざわざ受諾宣言を書き換えたんだから。

■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 拙記事中で実際に海外から巻き起こった大ブーイングと合わせて解説しているとおり、この時点で日本政府は自らの異常性を間違いなく世界に知らしめていたのが事実なのです。
 今回の徴用工判決問題に関して、韓国政府は「同意しない理由を説明」する必要は何もないわけですが、ICJ、あるいは国際社会に対して淡々と一言言明することはできるでしょう。
 日本が調査捕鯨に関してICJの管轄権を受け入れていないのと同様、韓国には応訴する義務はありません」と。
 被害者の人権救済の観点から国際法を従来と異なる視点で解釈する韓国政府と、南極産美味い刺身≠フために国際法に基づく秩序をぶち壊した日本と、一体どちらが異常だと国際社会が判断するかは、自明のことだと思えます。上掲真田氏らが指摘するとおり。純粋に国際法の見地からみても、少なくとも海外の識者は「どっちもどっちだね」という判断をするに違いありません。産経やネトウヨが「それとこれとは話が別だ!」と吹き上がったら、やはり日本の異常性の方が圧倒的に際立つことになるでしょうが。
 「度重なる韓国の不誠実な対応についてもアピール」(引用〜@)したところで(「戦略的放置」と上から目線の一方で海外に必死に媚びるのは、それだけで相当みっともない気がしますが)、調査捕鯨裁判における一連の対応で、国際法・国際協調をとことん軽視する国として日本の信用はすでに地に落ちています。「韓国の方が日本よりクジラを殺している」というデマをばらまくトンデモ竜田揚プロパガンダ映画の海外上映に対する予算計上じゃありませんが、下手すりゃ火に油を注ぐだけでしょう。
 日本企業に賠償金を支払わせることはかなわないとはいえ、結局国際裁判には韓国が実質戦わずして勝ったも同然ということに。
 では、韓国が応訴した場合は? 徴用工問題と直接関係はないものの、やはり真田氏が指摘するとおり「あんた判決事実上守ってないよね」と足元を見られる可能性はあるでしょう。また、人権の観点のみならず、自らの国際法違反を棚に上げたまま「国際ルール違反といえる行為は枚挙にいとまが」(引用〜C)と一方的に韓国を非難する日本の矛盾に満ちた独善的態度ゆえに、ギャラリーはほとんど韓国の味方で占められることになりかねません。まさか提出資料や口頭弁論でそんな産経ばりの主張を展開するほど外務省は愚かではないでしょうが。
 もっとも、ICJの場で正面から争った場合、よしんば韓国側が勝ってしまったりすれば、政権当事者を含む日本の保守層が憤懣のあまり完全に壊れてしまいそうです。そうなると、北朝鮮の核問題等を抱える中、両国関係に深刻な亀裂を生みそうですし、在日韓国人の方々の身の安全にも差し障りかねません。そういった意味でも、韓国政府としては応訴しない可能性が若干高いのではないかと思えます。ほかでもない日本に対する配慮≠ゥら。
 とはいえ、調査捕鯨訴訟でほぼ全面敗訴したからといって、ネトウヨ連中の心象が悪化した程度で、別に日豪関係にヒビが入ったわけではありません。それどころか、つい先日安倍首相がダーウィンを訪問、安全保障面での協調をはじめ良好な関係を築けているのです。相手が韓国だからといって、それができないはずはありません。国民のほんの一部にすぎないネトウヨや政府部内の産経シンパがいくら感情的に韓国を毛嫌いしているからといって。違うのですか、安倍首相? 河野外相?
 応訴するしないいずれの対応を取るにせよ、韓国側はきっとこのクジラカードを使ってくるでしょう。以下の拙記事で解説していますが、元産経のジャーナリスト・木村太郎氏が「傍聴席に陣取った韓国大使」として紹介しているとおり、韓国政府は日本政府の国際訴訟対応のまずさをしっかりウォッチしていたのですから。

■元産経木村正人氏もやっぱりトホホ反反捕鯨記者
http://kkneko.sblo.jp/article/73531621.html
■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる(再掲)
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html
■安倍政権が総力戦で臨んだクジラ裁判の行方 ('13/8/26,ヤフーニュース)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20130826-00027574/

 日本政府/企業は戦時中の振る舞いそれ自体を真剣に反省し誠実に対応すべきですし、ヒトの権利について日本人あるいは中国人と韓国人との間に線を引くことはあってはなりません。それこそ、ジゾクテキリヨウなどよりはるかに重要な原理原則のはずです。
 とはいえ、本川一善氏や森下氏をはじめとする歴代の水産官僚、日本捕鯨協会&共同船舶、捕鯨族議員らが、国際法を遵守するという国家として貫くべき道理を捻じ曲げるまねさえしなければ、日本の受けるダメージはもう少し小さなものとなっていたでしょうにね・・。

 余談ですが、以下は韓国ではなく日本が国際的イメージダウンを強いられる、産経や外務省幹部(?)の想定と逆のパターンについての考察。日本が狡い手口で国際裁判から逃げたため、日本の対外イメージはもう落ちるとこまで落ちちゃいましたけど。

■捕鯨ニッポンが最悪のドツボにはまる可能性
http://kkneko.sblo.jp/article/93046598.html

 ところで、河野外相の「あらゆる手段を取る用意がある」、菅官房長官の「あらゆる選択肢を視野に」って、どこかで聞いたことがあると思いませんか?
 そう、谷合農水副大臣がIWCブラジル総会の最終日にぶった中途半端な堂々退場演説あらゆるオプションを精査せざるを得ない」

■「さらばIWC! 捕鯨ニッポン堂々退場ス」!? 江島議員発言の真意は?
http://kkneko.sblo.jp/article/184709374.html

 先月には水産紙等で自民党捕鯨議連が国際捕鯨委員会(IWC)脱退の方針を「固めた」かのように報じられましたが、調査捕鯨利権関係団体の抵抗もあり不透明になっている模様。自民党議連・水産庁は年末に方針を示す旨明らかにしていますが、蓋を開ければ「なあんだ、またハッタリか」で終わってしまうかもしれません。
 徴用工判決についても、韓国大法院判決について、また提訴した場合のICJの判断について、事前に分析することはいくらでも可能だったはず。あるいは、こちらも「薮蛇になりかねない」と見送られ、河野外相の勇ましい発言もいつのまにか「聞かなかったことにしてくれ」ということになるやもしれませんね・・。

 日本の捕鯨外交の異常さには、昨今の日本の外交全体の歪みと稚拙さが端的に表れているといえます。国際交渉の中で議論を主導したわけでも、具体的成果があがったわけでもないのに、御用メディアが勝手に持ち上げてくれるため、目立つのは内向きのパフォーマンスばかり。居丈高で独善的な姿勢では捕鯨外交が突出していますが、それ故に返ってさまざまな矛盾が露呈する形になっています。存在感を示せているのは、漁業・野生動物関連国際会議でのヒール≠チぷりだけ。
 公明党谷合氏や自民党江島氏ら捕鯨族議員は、自分たちがIWCでの「共存」を訴えたのにあたかも反捕鯨国のせいで失敗したかのように主張しています。しかし、日本提案の中身は「共存」とは程遠く、IWCでは仲良しのハズの韓国やロシアにも棄権されてしまった代物。
 橋渡し*を自認しながらまったくその役割を果たせていないのは、核廃絶の文脈でも、貿易ルールの文脈でも同じ。
 唯一の被爆国として核廃絶こそ国民の悲願であり、一方では核大国米国と強固な安保同盟関係にある日本として、双方を取り持つことはまったくできていません。国連軍縮総会で決議案を出しても、核保有国には冷たくあしらわれ、核兵器禁止条約加盟国からもクレームがつく始末。捕鯨外交で太地町や下関市を手厚くバックアップするくせ、広島市や長崎市をサポートしようとはしませんでした。
 自国の産業界にとっても一大事でありながら、米中の橋渡しにも失敗し、APECは宣言を出せず。NHKや産経等の国内メディアはまるで中国習近平主席と「握手した」ことがすばらしい外交成果であったかのように誉めそやしていますが。
 対韓国とは対照的におもねってばかりの対米・対露外交もまた然り。
 米国ペンス副大統領が「FTA」とツイートで明言しているにもかかわらず、日本政府は「FTAじゃない」と強調するばかり。食糧危機になったら何一つ役に立たない捕鯨推進の口実に食糧安全保障を掲げながら、一次産業を衰退させ自給率を下げる方向へとまっしぐら。
 安倍首相は露プーチン大統領とのジョーク外交≠継続中。やはり提灯メディアは安倍外交の成果を謳っていますが、二島先行返還もプーチン氏本人にはその気なし。欧米の経済制裁対象になっているにもかかわらず、その彼の側近が経営する国営石油会社に安倍氏は国民の年金を貢ぐ気でいるとの一部報道も。
 ちなみに、北方領土周辺海域では日本は調査捕鯨を実施していませんが、科学的根拠は何もなし。中国と韓国の徴用工への対処方針と同じく、豪州南極海サンクチュアリとのダブスタの謗りは免れません。
 海洋プラスチックごみ対策でも他の先進国に周回遅れ。サンマをはじめとする国際漁業資源管理でも、日本はリーダーシップをとれず。
 そんなのばっかり。
 自分たちがICJでボロ負けした事実をコロッと忘れ、ICJ判決に続きワシントン条約常設委員会でも2回目の国際法違反認定を受けた事実も眼中になく、「韓国の異常性を世界に知らしめてやるのだ」と胸を張れてしまうのは、もはや深刻な社会病理現象といったほうがいいでしょう。
 いい加減日本スゴイ病≠治療し、韓国や反捕鯨国を見下す前に、自分たちの至らなさと素直に、謙虚に向き合うことこそ、いま私たちに求められているのではないでしょうか──?
posted by カメクジラネコ at 16:30| Comment(1) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年10月18日

「さらばIWC! 捕鯨ニッポン堂々退場ス」!? 江島議員発言の真意は?

 9月の国際捕鯨委員会(IWC)フロリアノポリス総会、10月のワシントン条約常設委員会(CITES-SC)ソチ会合と、ボロ負けが続いた捕鯨ニッポン。
 IWC総会で日本提案が否決された直後、政府代表として出席した公明党谷合農水副大臣は「あらゆるオプションを検討する」と表明。脱退への含みを残しつつも、一方で「IWCの可能性を信じ、引き続き様々な形で協力していく」とも発言。かつて国際連盟脱退時に松岡洋右全権代表がぶったパフォーマンスほど内外の受けは芳しくありませんでした。
 その理由は歯切れの悪さのみならず、脱退を示唆したのが今回が初めてではなかったからです。つまり、「またか」と真剣に取り合われなかったわけです。
 日本がこれまで繰り返し掲げてきたIWC脱退フラグ≠ィよび脱退した場合どういうことになるかについては、環境・漁業政策に通じたおなじみ早大客員准教授真田氏が非常にわかりやすく解説してくれていますので、そちらをご参照。

■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案|真田康弘のブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15

 ところが……CITES-SC会合が終わってまだ日も浅い10月15日、IWC脱退の是非をめぐる新たな情報が飛び込んできました。

■「IWC脱退すべき」江島参院議員、下関で総会の報告 (10/15, 山口)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2018/1015/1.html
■IWC脱退を強調 江島参院議員、捕鯨再開へ持論 (10/16, みなと)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/84737
■江島参院議員「IWC脱退」を主張 「国内の産業守るため」 対応など不安の声も 総会報告会(10/16, 毎日山口版)
https://mainichi.jp/articles/20181016/ddl/k35/020/315000c
■自民の捕鯨議連、IWC脱退意向 下関、幹部ら総会報告 (10/16, 朝日山口版)

 注目すべきは、発言したのが江島議員であること、場所が下関であること、そしてその内容
 まず、江島参院議員は自民党捕鯨議員連盟の副幹事長にして同党水産部会長。ただ名前を貸しているだけではなく、積極的に実務をこなしてきた筋金入りの捕鯨族議員。ブラジルまで乗り込んだり(自民党国会議員は江島氏、浜田氏、鶴保氏の3名)、昨年他の重要懸案を差し置いてあっという間に成立した美味い刺身*@(調査捕鯨実施法)の立案に携わった中心人物でもあります。
 そしてもう1つ。いわゆる捕鯨族議員には、沿岸捕鯨地である北海道・和歌山等の地元選出議員と、国が実施する公海調査捕鯨の業界方面とよりつながりが深い議員と2タイプありますが、参院山口選挙区選出の江島議員は後者。元大手捕鯨会社大洋のお膝元であり、捕鯨母船日新丸の母港誘致化を国に積極的に働きかけてきた下関市の元市長でもあります。それも、2002年のIWC下関総会当時の在職。
 ゴミため掲示板で純外野の反反捕鯨狂人が江島氏をしきりに攻撃しているようですが、同氏が最も業界事情に通じ、また捕鯨サークルのために最も汗水流してきた国会議員であることは論を待ちません。
 その江島氏が一連の発言をしたことは、非常に意味深といえます。
 以下は上掲各紙が報じた江島議員の発言のうち注目箇所(引用)。それ以外のIWC批判の部分は特に目新しいものではなし。

「南極海は諦めなければならないので、通年で北半球で操業するようになるだろう」
「自民党としては脱退するつもりでいる」
「年内に脱退を通告すれば、来年6月末に脱退できる」
「調査捕鯨すら次どうなるか分からない。日本が堂々とIWCを脱退し、商業捕鯨を再開する機会は今だ」

 正直、筆者は一瞬目を疑ったほどです。
 南極海捕鯨が不可になるのは国際法規上当然の帰結であり、「オプションを精査」するまでもなく、とっくに知られていたことでした。これまで捕鯨サークルに近い筋から発せられてきた脱退論は、国民に対してその事実を伏せたまま説かれていたわけです。外野のそれは単に無知なだけですけど。
 ところが、今回は捕鯨サークルに最も近いところにいる自民党議員の口からじかに「南極海は諦めなければならない」との言葉が飛び出したのです。
 美味い刺身法$R議中、自由党山本太郎参院議員が反対質問の中で南極海からの撤退を促したことはありましたが、賛成派の国会議員が南極海捕鯨断念に言及したのは初めてのこと。具体的なスケジュールが上ったのもやはり初めて。
 さて、ハッタリとは何でしょうか? それは交渉を有利に進めるために相手を惑わす見せかけの言動。その気もない嘘をつくことで何らかの成果を得ることを目的としているわけです。
 例えば、沖縄県知事選挙で米軍基地の県外移設を訴えて有権者を安心させ、当選してから態度を翻した仲井眞元知事の手口などがそれに当たるでしょう。
 しかし、今回の江島発言がもしハッタリだとすれば、誘導する対象は誰なのでしょう? 国内向けか、それとも国外向けか。捕鯨賛成派なのか、あるいは反対派なのか。
 捕鯨推進派の従来のハッタリは、確かに二重の意図を含んでいました。
 ひとつは、対立を演出することで保守的な国内シンパの煽情的な支持をとりつけるため。まさに文字通りのハッタリ。もうひとつは、IWCでちらつかせることで反捕鯨国の譲歩を引き出すため。前述のとおり、無駄に繰り返したことや、実際に沿岸と公海のバーター提案があっても肝心の日本側が応じなかったこともあり、こちらは効果がなかったわけですが。
 しかし、よりによって地元の下関市で、それも「南極海調査捕鯨支援の会」主催の報告会で、不安をそそるだけのハッタリをかますことが、江島議員にとって、あるいは自民党にとってどんなメリットがあるというのでしょう? 報告会参加者の口にした「不安」に対しても、江島氏は「再開する機会は今しかない」と言葉を濁すのみで、考え直す姿勢は見受けられませんでした。
 単に国内の反応を推し量るための観測気球≠ニいうわけでもなさそうです。
 なぜなら、江島氏は「党ではなく、あくまで私自身の私見だが」と前置きもしませんでした。それどころか、上掲のとおり、脱退は自民党/捕鯨議連としての総意である旨発言したのです。 
 もし観測気球≠打ち上げるのであれば、「地元の沿岸捕鯨を守るため」という言い訳も立つ、野党の徳永議員辺りにその役を押し付けるでしょうね・・。
 外交上のブラフ、すなわちIWCの反捕鯨国に対する牽制の意味はどうでしょうか? オーストラリアやブエノスアイレスグループを慌てふためかせ、思い切った譲歩を引き出す作戦??
 それも考えにくいことです。
 なぜなら、交渉の場がないからです。
 次回のIWC総会は2020年。谷合副大臣の発言の趣旨に則り、2年後の総会の場で「オプションを精査した結果、わが国としてはやはり脱退しかないとの結論に至りました。それで(もう本当に妥協の余地はゼロだという理解で)いいですね?」と反対陣営に迫るのが、正しいハッタリのかまし方≠ニいえるでしょう。
 ところが、江島氏の示したスケジュールに従えば、肝心のIWCの場で加盟各国と折衝する暇もなく、バタバタと勝手に脱退することになってしまいます。
 カードを切る前に、ターンが回ってくる前に、席を立ったまま勝負を投げ出して帰ってこないというパターン。
 これではまったく外交カードとしての意味をなしません。
 一部報道や、公明党の捕鯨族議員横山氏のブログ上の発言などから、対ユネスコライクな兵糧攻め=A分担金減額作戦も「オプション」には含まれていたようですが、このカードを使う間もなし。
 おそらく、全額未払だと投票権を失うだけでメリットがなく、結局効果が見込めない。それならやめても同じこと──という判断なのでしょうが。

 これまでの、ただ騒ぎ立てるだけに留まっていた脱退ムードと明らかに違うのは、江島氏の下関報告会の前に開かれた自民党捕鯨議連の報道からもうかがえます。

■IWC脱退論が噴出 反捕鯨国の強硬姿勢に自民党捕鯨議連 (10/9, みなと)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/today
■「IWC脱退含め見直しを」 自民会合、商業捕鯨めぐり議論 (10/6, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13711404.html

 捕鯨議連最古参の1人である鈴木俊一会長が、過去の脱退検討時には外務省と官邸が非協力的だったと内幕を明かした一方、会合に出席した外務省幹部も歩調を合わせて「党と政府一体で対応する」と積極姿勢を見せており、頓挫してきた今までとは違うぞ、今度こそ前進させるんだ、との姿勢を誇示しています。
 ICJ判決の前、水産庁が老朽化した日新丸の改修のために1年の休漁を検討した際、「けしからん」と官僚を叱りつけ、乗員をリスクにさらし調査期間を遅らせてでも突貫で改修工事をやらせて出漁させた、泣く子も黙る自民党捕鯨議連が、本気度を見せつけたわけです。

 あるいは、江島議員の発言の裏には、ハッタリをかます余裕などないほどの、もっと重大な裏事情があるのかもしれません。
 美味い刺身*@の成立を受け、今年度には老朽化した日新丸に替わる代替捕鯨母船の調達の検討のための予算が組まれました。そのとき、鯨研関係者が、夏季の運用を念頭に置いた漁業資源調査兼用の多目的船に言及しています。イワシクジラ調査捕鯨がCITES違反により出来なくなる可能性が高いことは、この時点ですでに認識されていたわけです。
 裏作≠フ主力・北太平洋イワシクジラの捕獲が不可能になったことで、公海調査捕鯨はそれを支えていた二本柱の1つを失ったわけです。
 不採算事業の公海調査捕鯨を多額の財政出動により何とかここまで延命させてきたものの、ついに限界に来たということでしょう。このうえ、莫大な経費がかかる母船新造に加え、失うイワシ鯨肉収入分を毎年公費で補填するやり方では到底もたないと。
 そのことを強く示唆しているのが、江島議員の「調査捕鯨すら次どうなるか分からない」との発言。これは必ずしも法的にという意味ではなく、裏作≠ェ不可能になって調査捕鯨の運用体制が持続″「難になったという趣意に違いありません。(古参の議員たちがその辺をちゃんと理解できているかはやや心もとないですけど・・)
 そしてもうひとつ。前回の記事でお伝えした、CITES-SCの裁定を受けた後の日本捕鯨協会の「自分たちは国際条約に違反していない!」との、現実を受け止められない、悲鳴に近い嘆き節がすべてを物語っているのかもしれません──。
 復興予算流用、儲かる漁業、ICJ判決無視のための国連受諾宣言更新、刺身新法と、これまで可能な限りの手を尽くしてくれた大恩ある自民党議連の江島氏に「調査捕鯨の先も見通せない」「南極はあきらめるしかない」とここまではっきり言われてしまうと、頼りきってきた共同船舶/鯨研/捕鯨協会としても、さすがに黙り込むしかないのでしょう。
 脱退を決断した折には、共同船舶の上役はともかく、日新丸の乗組員の皆さんへの補償・転業支援のための予算をきちんと組んで欲しいもの。これまで捕鯨対策予算を下回っていた漁業全体の資源管理・調査予算が新年度からようやく上乗せされましたが、調査船を使った事業を拡大することで、再雇用先を創出し、日本の水産業の発展に真に貢献してもらうことも可能なのではないでしょうか。

 筆者自身は今までになく現実味を帯びていそうな感触を持っていますが、もちろん今回の「脱退」がブラフである可能性も依然として残っています。
 ブラフというより、目指しはしたものの、スケジュール的に来年6月までには間に合わないという場合もあるでしょう。
 公海母船式捕鯨を断念するとしても、国連海洋法条約の縛りがあるため、沿岸・EEZで商業捕鯨を再開するためには、ノルウェーやアイスランドが組織したNAMMCO(北大西洋海産哺乳動物委員会)の北太平洋版に相当する新たな国際管理機関を立ち上げる必要があります。
 北太平洋での国際管理機関となれば、最低でもロシア・韓国(捕鯨支持ながら総会で日本提案を棄権)、中国(同じく欠席)、そして米国やカナダの合意を得て、6月までに協定を結ぶことができるかが鍵になるでしょう。
 同海域で曲がりなりにも商業捕鯨の対象となり得るのは、先のIWC総会で捕獲枠ゼロ解除を要求したミンククジラくらい。その捕獲枠は、やはり日本自身が前々回の総会で提示した「太平洋岸で17頭」ということになるでしょう。さすがに脱退したからといって、口うるさく唱えてきた科学≠フ錦の御旗を引っ込め、チューニングして割り増しというわけにはいかないでしょうしね。
 それも、江島氏いわく「捕鯨文化を守るためには致し方ない」こと。
 まあ、捕鯨業者の中にも、再開の念願さえかなえばそれでいいと思っているところもありそうですし。

 一方、IWCはどうなるでしょうか?
 日本の財政負担がなくなることで空中分解、消滅の危機!?
 いや、たぶんそうはならないはず。
 EUと英国、ユネスコや国連万国郵便連合と米国も何やらすったもんだしていますが、EUやユネスコ以上に大きなダメージを受けることはないでしょう。
 日本の調査捕鯨のせいでこれまで余計な負担を強いられていた部分もあるのですし。
 POWER(日本とIWC共同の北太平洋鯨類目視調査)をどうするといった問題もありますし、日本の声かけで入っただけの支持国の間では混乱は否めないでしょうが。

 そうはいっても、筆者としては日本が引き続きIWCに留まり、あるいは脱退したとしても早期に再加盟して、国際貢献し続けてくれることを願ってやみません。環境省とウォッチング業界・自治体の横断組織にバトンタッチしてもらったうえで。水産庁も一緒に残ったほうがいいでしょうが、捕鯨セクション以外で・・。
日本はいまや座間味、小笠原、知床等全国各地で、ハワイやフロリアノポリスに負けず、ホエール・ウォッチングが盛況なWW大国の1つ。IWCで持続的なWWのノウハウを提供し、共有することができるはずです。
 そしてもう1つ。この前のIWC総会では「生態系において鯨類の果たす役割を解明する作業を推進する」決議が可決されました。残念ながら、日本はこの決議にも反対する非科学的な態度を示してしまったのですが。非消費的利用による直接的な恩恵のみならず、鯨類は炭素固定、低緯度や表層海域への栄養塩類供給による生産力向上等の形で多くの生態系サービスをもたらしてくれます。気候変動、プラスチック・有機塩素・重金属汚染、音響・船舶交通の増加等、鯨類を取り巻く海洋環境の悪化に適切に対処し、保全することは、漁業を含む人類の福利に必ず貢献するはずです。
 昔から、八戸や三崎や高知など各地で、クジラは魚を追い込んでくれたり、魚群の居場所を知らせてくれる恵比寿様として大切にされてきました。巷でもてはやされるクジラ食害論に科学的根拠はありませんが、クジラを大事にすることが漁業にとっても恩恵をもたらすことには、きちんとした科学的な裏付けがあるのです。
 表層の浮き魚を中心にした海面漁業の対象種には、魚種交代のメカニズムが働き、漁獲量が極端に乱高下して安定しない、食糧生産・漁業経営の面からは困った性質があります。実は、その時々に多い魚種を摂餌するクジラは、魚種交代の変動の振幅を緩やかにし、豊漁貧乏になったり、減りすぎるのを抑制してくれるのです。
 以下の図は魚種交代のシミュレーションにクジラ(選択的に摂餌する捕食者)の存在を加えた結果(わかりやすくするために効果を少々オーバーに見せています)。
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 元ネタはこちら。

■生態学第14回「魚種交替現象」(2001年9月20日)
http://minato.sip21c.org/oldlec/ecology_p14.html

 日本の捕鯨賛成派からはクジラを過保護に守りすぎと揶揄されるオーストラリア、ニュージーランド、米国等反捕鯨国の方が、せっせとクジラを殺している日本より海が豊かなのが何よりの証拠。
 IWCに残り、各国からクジラの保全について学ぶことは、乱獲の果てに疲弊しきっている日本の漁業を持続的に上向かせるためのヒントをきっともたらしてくれることでしょう。
posted by カメクジラネコ at 19:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年10月14日

捕鯨ニッポン、国際舞台で二連敗! 調査捕鯨、二度目の国際法違反が確定!!

 2018年の秋は捕鯨ニッポンにとって重要な国際会議が立て続けに開かれることになりました。
 1つは前回の記事でお伝えした9月の国際捕鯨委員会(IWC)ブラジル・フロリアノポリス総会。
 そして、この10月1日〜5日にはロシア・ソチで第70回ワシントン条約(CITES)常設委員会(SC)が開催されました。日本が深く関与している象牙の市場閉鎖問題やウナギの密輸問題なども俎上に上りましたが、中でも一番注目を引いたのが、昨年から継続審議となっていた調査捕鯨の条約違反問題。
 野生生物の国際取引を扱う機関がなぜ日本の調査捕鯨を槍玉にあげたのかというと、北西太平洋調査捕鯨(前JARPNII及び現行のNEWREP-NP)の対象となっているイワシクジラの北太平洋個体群がCITES附属書Iに記載されている絶滅危惧種であり、日本も留保外としているため(日本が留保しているのは「北太平洋・南半球・東経0度〜70度以外≠フイワシクジラ」)。そして、公海に生息する絶滅危惧種のクジラを自国内に持ち込む行為が事実上の輸入に当たるから。
 クジラのような野生動物は他国のEEZを含む広い海域を移動するグローバルコモンズ≠ナあり、一国が独り勝手に獲ってくることはもはや許されないのです。今の時代、たとえ自国にのみ生息する野生動物であっても、世界中の市民あるいは子孫に管理を委ねられているのだという自覚を持つことが肝要ですが。捕鯨協会などは「国産」「自給」を謳いますが、とんでもないこと。
 会議直前の9月26日に早大で開かれたシンポジウムでは米国の国際法学者ライマン氏が講演、イワシクジラ調査捕鯨の違法性の要点を日本の市民に伝えました。早大真田氏も指摘しているとおり、CITES事務局の報告書が出た時点で、日本にレッドカードが突きつけられるのは、始まる前から火を見るより明らかだったわけです。

■緊急プレスリリース : イワシクジラの販売は国際取引違反の可能性?!|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/354-pressrelease2018sep
■イワシクジラとワシントン条約(CITES) :日本はなぜ留保を付さなかったのか|早大客員准教授真田康弘氏/IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/348-seiwhale-cites-j
■ワシントン条約事務局、イワシクジラの水揚げが条約規定に反するとの報告書を発表|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-08-25

 実際、2日目の午前中はこの公海イワシクジラ持ち込み問題が集中討議されましたが、日本は四面楚歌の状態でした。日本代表は最初に「商業目的」の定義が曖昧な所為だと弁明。「条約規則の方が悪い」と難癖をつけるやり方はIWC総会のときと一緒。しかし、そんな身勝手な主張が受け入れられる余地はありませんでした。SC勧告の中でも商業目的の「例外的状況(科学調査目的等)」について説明した現在のガイダンスは妥当であると明記され、日本の主張はきっぱり撥ねられています。
 SCメンバーとして出席した各国代表は、米国&カナダ、EU&イスラエル、オーストラリア&ニュージーランド、そしてラディカルな反捕鯨国の多い中南米も、「日本は条約違反」との見解で一致。アフリカ諸国のコンゴ、ニジェール、ガボン、ケニア、セネガルも揃って日本を批判。このうちガボンは反捕鯨国ですが、ケニアとセネガルは日本がIWCで味方として頼りにしている捕鯨支持国。コンゴ代表は「もし違反を犯したのがコンゴだったら貿易制裁を受けていたはず。なぜ日本だけ認められるのか?」と非難しています。日本の肩をもったのは、絶滅危惧種の繁殖を目的とする動物園への生体輸入と鯨肉販売を一緒くたにするトンチンカンな主張を開陳したロシア代表の他は、元CITES事務局長の肩書きで捕鯨協会等にしばしば担がれるジゾクテキリヨウ推進NGOのIWMC代表・ラポワント氏くらいもの。
 中でも米国は、日本のイワシクジラ捕鯨の主目的が商業捕鯨再開を前提としたものである点を強調し、強い懸念を表明。米国の指摘は実に的を射ています。仮にIWCでハードルをクリアして商業捕鯨を再開できたとしても、その時イワシクジラはCITESに抵触するため、(少なくとも附属書から外れない限り)その対象にすることは不可能なのです。要するに、調査捕鯨だからこそ売れるのです。そのイワシクジラ調査捕鯨が商業捕鯨再開を前提としていること自体、大きな矛盾と言わざるをえません。
 かくして、日本に対し「即刻貿易制裁を発動すべし!」との声も出たものの、「来年2月までに是正措置を講じ、来年のCITES-SCまでは許可証を発行しない」との日本側(水産庁諸貫氏ではなく外務官僚の方)が説明。南ア等数カ国が歩み寄って譲歩案を提示し、最終的には座長の采配により猶予の付いた是正勧告の形にまとまったわけです。日本のワシントン条約違反の認定は、下掲の英報道にもあるとおり「ほぼ満場一致」

■Japan faces potential trade sanctions after whaling operations deemed illegal (10/2, インディペンデント)
https://www.independent.co.uk/environment/japan-whaling-cites-trade-sanctions-sei-whales-illegal-meeting-sochi-a8564871.html

 日本がまた政治的な裏工作を進めているのではないかとの情報もあったため、正直筆者は気を揉んでいたんですけどね。IWC総会の62名には及ばないものの、日本は18名もの代表団をソチに送り込みましたし(2桁は日本のみ)。杞憂に終わって胸を撫で下ろしています。
 今回の北太平洋イワシクジラの公海からの持ち込み問題の詳細については、以下のCITES公式発表と会議前後のNGO解説等をご参照。10月25日にはオブザーバー参加した野生生物保全論研究会(JWCS)の報告会が都内で開かれます。

■70th meeting of the Standing Committee - Executive summaries|CITES
https://cites.org/eng/com/sc/70/sum/index.php
http://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/70/exsum/E-SC70-Sum-03.pdf
■70th Meeting of the Standing Committee of the Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES)|IISD
http://enb.iisd.org/cites/sc70/
■【解説】イワシクジラ調査捕鯨による鯨肉流通はワシントン条約違反?|WWF日本
https://www.wwf.or.jp/activities/news/3739.html
■CITES常設委員会「イワシクジラ海からの持ち込み」は条約違反|ika-net日記
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/cites-4ab9.html
■【10月25日】ワシントン条約第70回常設委員会 参加報告会|JWCS
https://www.jwcs.org/event/907/

 会議の模様はインターネット動画でライブ中継されましたが、IWC総会同様、市井の反応はいまひとつ。
 マスコミでは時事・共同・日経・朝日・NHK等が報道しましたが、ほとんどベタ記事のレベル。いくら内閣改造とかぶったとはいえ、ウナギやマグロの扱いが主題となったときと比べても、あまりに小さな扱いといわざるをえません。
 筆者だったら、
『日本の調査捕鯨、二度目の国際法違反認定!』
『日本、ワシントン条約常設委員会で国ぐるみでの違反行為#F定!』
 と大見出しを付けて、一面トップで大きく報じたところですけどね。
 環境外交の専門家・東北大石井准教授も以下のように指摘しています。

https://twitter.com/ishii_atsushi/status/1047316621042180096
2014年の国際司法裁判所でのほぼ完全敗訴に続く、日本の国際法違反が認定。これらについて日本の国際法学者はほとんど何も言ってこなかったわけであり、猛省すべきです(引用)

 以下、本件の国内報道にチェックを入れておきましょう。

■日本の調査捕鯨で是正勧告=鯨肉流通は違反−ワシントン条約委 (10/2, 時事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018100200793&g=eco
ロシア南部ソチで開催された常設委で、反捕鯨国を中心に多くの国が日本での鯨肉流通は「商業目的」と指摘した。(引用)
■日本の調査捕鯨を違反認定 ワシントン条約の常設委 (10/2, 共同)
https://this.kiji.is/419885113997018209
■イワシクジラの調査捕鯨に是正勧告 ワシントン条約委 (10/3, 日経)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36058720T01C18A0EAF000/
是正措置に対する常設委での協議で再び条約違反と判断されれば、事実上の販売禁止などが勧告される恐れもある。(引用)
■イワシクジラ捕鯨、是正勧告 ワシントン条約常設委 (10/4, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13707949.html
■イワシクジラ調査捕鯨 是正勧告受け 見直し検討へ (10/5, NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181005/k10011660071000.html (リンク切れ)

 問題アリは時事と日経。他は扱いが小さいものの基本的事実に沿っています。
 まず時事。すでに解説したとおり、「反捕鯨国を中心に」ではなく、反捕鯨国・捕鯨支持国とを問わず「ほぼ満場一致」。当然のことながら、国際法を遵守しているか否かの判定は捕鯨の賛否以前の話なのですから。
 通信社配信記事に頼ることも多い日経の記事は、昨年の問題提起・事務局による審査結果レポート・今回のSC裁定に至る流れをまったく理解できていません。「恐れがある」のはCITES加盟国との野生動植物取引停止です。
 以下は上掲IKANブログからの引用。

国内報道では、一部、反捕鯨国が〜とか、科学調査なのに〜とかいう頓珍漢なものも見られたが、今回はワシントン条約という国際条約の中で、その遵守義務が関係国間でどのようにして守られるのか、という試金石のようなものだったわけで、その意義は小さくない(引用)

 これで捕鯨ニッポンはIWCブラジル総会に続く二連敗目を喫することと相成ったわけです。NEWREP-A、ミンククジラ対象のNEWREP-NPも、IWC総会で採択された常設作業部会報告書の指摘により、国際法違反の疑いがますます強まったといえるのですが。

 ところが……外務省・水産庁とも、今回のCITES-SC会合に関する公式発表が出ないと思っていたら、10日になって水産庁からとんでもない報道発表が……。

■ワシントン条約常設委員会によるイワシクジラに関する勧告とイワシクジラ製品の国内流通について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/seiwhale.html
平成30年10月1日(月)から5日(金)まで開催されたワシントン条約常設委員会において、日本政府に対し、新北西太平洋鯨類科学調査において捕獲されるイワシクジラの我が国への「輸送」に関して、同条約の規定に適合するよう「速やかに是正措置を講じるべき」との勧告が出されました。
この件に関し、イワシクジラ製品の販売・購入ができなくなるのかとの問い合わせをいただいております。
現在、勧告を踏まえて是正措置の内容を検討中ですが、同勧告は、本年度のものも含め、既に国内に存在しているイワシクジラ製品の流通や消費については触れておらず、日本政府としても、これらを規制するものではございません。(引用)

 所轄官庁にあるまじき、驚くべき記述です。開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。ある意味巧妙(?)な印象操作でもありますが。
 まず、「『輸送』に関して」との表現は、あたかも輸送の仕方がどこかまずかったかのような印象を与えます。ちなみに、原文はintroduction、従来「持込」という訳が充てられてきました。しかし、違法性が問われたのは「(国内への)輸送」した後の利用のされ方。持ち込まれた鯨肉・脂皮等の部位が、科学目的ではなく、商業目的であったことが理由。
 さらに水産庁は「適合するよう」という用語を用いていますが、これは違法性をうやむやに誤魔化す非常に不適切な表現。
 上掲にリンクを紹介したCITES-SC勧告から原文を引用しましょう。

The Standing Committee agreed that the introduction from the sea (IFS) of certain specimens (e.g. whale meat and blubber) of sei whales (Balaenoptera borealis) from the North Pacific population was not in compliance with Article III, paragraph 5(c), of the Convention.
The Standing Committee recommended that Japan take immediate remedial action to comply with Article III, paragraph 5(c), of the Convention.

 条約・法律・規則等に関して「conpliance」「comply」という用語を使う場合の正しい訳は「適合」ではなく、「準拠」ないし「遵守」。霞ヶ関のエリートが間違えていい話ではありません(いくら発音がもろジャパニーズイングリッシュだろうと)。
 CITES-SCは「日本が条約規則を遵守していなかった=vとはっきり認定したのです。そして、「しっかり遵守するように」と勧告したのです。
 その後の記述はあまりにもふざけています。
 「触れておらず」? CITES-SCが勧告の中で現在流通している鯨肉等について触れなかったのはなぜでしょうか?
 確かに、勧告は南ア等の温情による提案によって、日本自身の是正措置を待つ形になりました。しかし、それはCITES-SCが現在流通している鯨肉等を合法と認めたことをまったく意味しません。会議の中で改めて議論されなかっただけのことです。あまりにも当然のことですが、ここでいう「待つ」とは、「商業目的での鯨肉利用の禁止」を待つという意味ではありません。あくまで「日本に対する貿易制裁等のペナルティの発動」を待つという意味です。
 そもそも、「(最初のイワシクジラ調査捕鯨が始まった2002年以降)現在に至る鯨肉の商業目的での利用が条約違反だった」からこそ今回の勧告が出されるに至ったのです。
 「違法に流通されている鯨肉」の取扱について勧告中で言及がなかったのは、日本政府自身がCITESの国内法、国内流通を規制する種の保存法で対処すべきことだからです。ヤフーオークション等を通じて未だに取引されている象牙製品と同様に。
 そして、象牙の場合は規制以前に輸入された製品は合法とし、密猟・密輸品と区別するための登録制度が導入されています。実効性の観点からは不十分だと内外で強い批判を浴びているわけですが。
 それに対し、イワシクジラ鯨肉はすべて100%非合法製品なのです。規制以後に違法に国内に持ち込まれた密猟象牙とまったく同じ。責任はすべて、商業目的であるにもかかわらず科学調査と偽って許可証を発行した水産庁にあるにしろ。
 これでは、水産庁は違法行為を黙認するどころか、公然と国民に推奨したとの謗りは免れません。
 「販売・購入ができなくなるのかとの問い合わせ」が、経産省に対して、他の野生生物に関してあったとしたら、その回答はどのようなものになるでしょうか。
 2016年のCITES締約国会議でイワシクジラと同じ附属書I入りが決まったヨウムを例にとりましょう。
 ヨウムであろうとイワシクジラであろうと、「例外的状況」が同じように認められる可能性はあります。実際には年間数百羽を殺す調査捕ヨウムなどまったく行われていないわけですが。
 だからといって、「これらを規制するものではございません(キッパリ)」などと答える担当者がいるはずもないでしょう。
 問い合わせが2016年の時点だったとすれば、模範回答は「2017年の1月以降、野生個体の国際取引は禁止されます。国内での譲渡等も禁止となります。繁殖個体の取引には、繁殖個体であることを証明する登録証を発行する手続を行っていただきます。現在飼育されている個体を飼い続けるのは問題ありません」となるでしょう。所有しているヨウムを他人に譲渡等もせずに自分で殺して食べた場合は、動物愛護法の範疇。死体を剥製等で取引することは、野生種であれば種の保存法により禁止。そして、死体を食用で取引・流通させるのも、法律上は剥製の取扱と何の違いもありません。ヨウムであれば。
 もちろん、これがイワシクジラであってもヨウムと同じこと。両種の間に法律上の線引(サベツ)は存在しないのですから。
 コンゴや米国、オーストラリア等が発言したように、本来なら問答無用であらゆる野生生物製品のCITES加盟国との取引が停止されるペナルティを食らっていてもおかしくはないところ、日本はお目こぼしをもらったのです。国際条約・実施機関としての厳格さ・公平さを犠牲にする形で。何年も前から指摘され、是正することが可能だったにもかかわらず。前年の同じCITES-SCでも今年と同様ほぼ満場一致の違法性の指摘を受け、事務局の審査で改めて事実上の違反が指摘された後も、なおその条約違反行為をやめることをしなかったにもかかわらず。
 条約も国内法規も蔑ろにする水産庁の姿勢は、日本への配慮から即座に制裁措置の発動をしなかったCITES-SCに対する裏切りでしかありません。

 さらに……政府機関以外で今回の会議の一件について、驚くべき公式声明を出したところがありました。それは日本捕鯨協会。

■ワシントン条約常設委員会による調査捕獲したイワシクジラの海からの持ち込みに関する勧告について|日本捕鯨協会
https://www.e-kujira.or.jp/news/#1539053526-707297
 さらに、マスメディアの言葉足らずの報道により、消費者や鯨肉の販売業者に対し、イワシクジラは「違法鯨肉」だという誤った認識が広がっていることは極めて遺憾です。(引用)
 また、水産庁からもリリースされているように、既に海から持ち込まれ、国内に存在している調査副産物については、今回の勧告でその流通・販売を妨げられるものではありません。
以上から現在国内で販売されているイワシクジラ製品は、国際条約を順守した上で流通しているもので、安心してお取り扱い、ご購入いただけるものであることをご理解ください。(引用)

 捕鯨協会の発表には水産庁発表へのリンクが貼られていますが、奇妙なことに、水産庁の報道発表は10月10日なのに対し、捕鯨協会の方はその前日の10月9日。つまり、問い合わせをした、ないし問い合わせに対する回答を水産庁に用意させたのが捕鯨協会だったということがわかります。
 「言葉足らずの報道」については筆者も同感ですが、捕鯨協会の発表も他人のことは言えません。「鯨肉が国内で販売されていることを理由に『商業目的』と判断された」、つまり、CITES事務局もSCもそれをもって違法と判断したのです。ストレートに黒を白と言ってのける捕鯨協会担当者の図太い神経はいつもながらたいしたもの。
 繰り返しになりますが、イワシクジラ鯨肉は間違いなくワシントン条約第3条第5項(c)に抵触する違法な製品≠ネのです。
 勧告の中で「遵守していない」とはっきり明記されているにもかかわらず、「国際条約を遵守したうえで流通している」などと、息をするように平然と嘘をつく、遵法精神の欠片もない極悪組織──それが日本捕鯨協会なのです。永田町も霞ヶ関も、裏で糸を引いているのは日本捕鯨協会。
 かつて『IWC条約を愚弄する輩』というトンデモ本(訳者はあのドン米澤邦男氏)を発行した日本捕鯨協会ですが、『ワシントン条約を愚弄する輩』こそは日本捕鯨協会に他なりません。

 水産庁はワシントン条約および種の保存法に従い、ただちにイワシクジラ鯨肉の流通販売禁止を通達すべき。無論、非は業者(捕鯨協会のもう1つの看板・共同船舶の子会社共同販売以外の)ではなく全面的に国にあるため、損失は補填すべきですが。
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2018年09月19日

税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ

 9月10日〜14日にかけて、ブラジル・フロリアノポリスで国際捕鯨委員会(IWC)第67回総会が開かれました。
 西日本と北海道が台風・地震による大きな被害に見舞われたり、テニスや自民党総裁選の話題にかき消されたこともあり、マスコミの扱いも一般市民の関心も低調。それ以上に、「もうシーシェパードとのプロレスには飽きただよ」という方が多かったのでしょうが。捕鯨の国際会議に対する無関心ぶりは、閉鎖した犬吠埼マリンパークに1頭取り残されたイルカのハニーに、全国的に大きな注目が集まったこととも対照的です。筆者としてはやや複雑な心境。
 今回の日本が出したパッケージ提案は、国際捕鯨取締条約(ICRW)そのものの改訂まで視野に入れた、過去に提出された前例のない非常に大胆なもので、本来であれば外交問題としても大きな関心を呼んでよかったはずなのですが・・。
 5日にわたる協議の模様はユーチューブで生中継されました。が……地球の真裏の現地とは12時間時差のある日本では深夜にあたるとはいえ、ライブでの視聴数も伸びず、閑散とした有様。
 今でも再生できますので、捕鯨をめぐる国際会議の場で実際にどのような協議が行われたかに興味がある方は、ぜひチェックしてください。


 海外の一般市民にしてみれば、商業捕鯨モラトリアムの採択、そして国際司法裁判所(ICJ)による日本の南極海調査捕鯨違法判決で、もう蹴りがついた話。海の野生動物たちがプラスチック汚染や気候変動など深刻な脅威に直面する中、そちらの方で具体的な取組を政府・国際機関に求めることが優先されるのはやむをえないかもしれません。「まだグダグダやってんの?」「日本はほんとにどうしようもないね」と白い目で見られ続けるにしろ。
 そんな中、非常にうれしい動きもありました。捕鯨支持国である西アフリカのガーナで野生生物保護に積極的に取り組んでいる市民団体が、政府に対して南大西洋サンクチュアリ(SAWS)提案に賛成し日本提案に反対するよう要請し、現地のメディアもそのことをきちんと報道してくれたのです。

■Ghana Wildlife Society Urges Government Officials To Vote In Favour Of SAWS (8/31, MODERN GHANA)
https://www.modernghana.com/news/879046/ghana-wildlife-society-urges-government-officials-to-vote-in.html
■Our Whales and Dolphins in Danger! | ガーナ・ワイルドライフ・ソサイエティ
https://www.blog.ghanawildlifesociety.org/our-whales-and-dolphins-in-danger/

 ガーナは外務省の捕鯨セミナーを受けて2009年に加盟。同年度のODAに水産ODAは含まれないものの、国道改修計画約87億円他しめて140億円超、前年度の約15億円、前々年度の約36億円から桁違いに増額されています。これだけ大盤振る舞いするから「ひとつIWCの方もヨロシク」と頼まれたのでしょう。対日貿易では魚介類が主要な輸出入品目に入っていますが、輸出は絶滅危惧種(VU)のメバチなど大西洋のマグロ類中心、輸入では日本が乱獲の果てに小型化し養殖餌としか売れなくなったサバを東南アジアの代替市場として引き取っている状況。たいしたジゾクテキリヨウ同盟関係もあったものです。
 そんなガーナでの現地NGOの活躍ぶりは何とも頼もしい限り。ぜひガボンを見習い、日本のODAマネーの呪縛≠ゥら解き放たれてほしいもの。と同時に、票を買い漁っている当事国に住む国民としては、肩身が狭い思いに駆られますが。
 筆者としても一日本人として、ICJ判決以降強まっている捕鯨サークルおよび応援団による悪質な歴史修正デマ≠ノ対抗すべく、今総会に合わせて英語版のコンテンツを用意しました。合わせて日本語のコンテンツの方もヨロシクm(_ _)m

■Historical transition of Japanese whale meat diet
https://www.kkneko.com/english/history.htm
■Is whale meat a savior to save humankind from the food crisis?
https://www.kkneko.com/english/foodsecurity.htm
■日本の鯨肉食の歴史的変遷
https://www.kkneko.com/rekishi.htm
■捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!? (6)セントビンセント・グレナディーンのケース
https://www.kkneko.com/oda6.htm
■捕鯨カルチャーDB
https://www.kkneko.com/culturedb.htm

 会議の経過と日本提案、IWC脱退論の詳細については、下掲のお馴染み早大客員准教授真田氏の解説をご参照。

■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15

 開催場所となったフロリアノポリスは国際的に有名なリゾート地で、その目玉のひとつが冬に繁殖に訪れるミナミセミクジラを中心とするホエールウォッチング。NHKも会期直前に紹介していましたが。会期中もそのミナミセミクジラのブリーチがホテルから間近に見られたとのことで、NGO関係者がSNSに写真をアップしていました。市民の環境意識も非常に高く、クジラたちに毎年来てもらえるように(目当てで来た観光客にも満足してもらえるように)、浜辺や海をクリーンに維持しているそうです。
 今回ホスト国のブラジルは、そんな「身近な野生動物・クジラとともに生きる町」にふさわしい宣言をまとめ、各国の理解を得るべく尽力し、念願かなって見事可決成立させることができました。そのフロリアノポリス宣言の和訳を鯨類学通の学生さんがまとめてくれました。どんな内容か、ぜひ皆さんも確かめてください。

■2018年度IWC総会 「フロリアノポリス宣言」の和訳|迷子のオガワコマッコウの放浪日記

 日本が脱退した場合、現行の調査捕鯨および公海での商業捕鯨が事実上不可能になることについては、毎日(捕鯨擁護より)と朝日(ほぼ中立)が報じています。

■政府与党に脱退論、実現にはリスクも IWC、商業捕鯨再開案を否決 (9/16,朝日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13681032.html
■日本手詰まり IWC脱退、慎重論強く (9/17,毎日)
https://mainichi.jp/articles/20180917/k00/00m/020/074000c

 拙ブログでは、今回の総会で採決が行われた5つの決議の星取表≠ご覧に入れましょう。
iwc67votej.png
 結論から言うと、日本の惨敗・・・・。
 対戦成績で行くと、先住民生存捕鯨改訂捕獲枠を除き、1勝3敗の形。
 1勝は可決に3/4以上の得票が必要なSAWSをブロックしたからですが、実は過去20年間提出され続けてきたSAWS提案は、日本側の反対意見を汲む形で科学的にもブラッシュアップされたこともあり、年々得票を延ばしています。前回のIWC66では賛成38票だったのが今回は39票に。まあ、反対も1票増えましたし、賛成派としてはもう後数票欲しかったところですけど。
 SAWSも含め、得票差は13票から17票で、日本陣営はいずれも10票以上水を開けられています。
 かつて2006年には今回のフロリアノポリス宣言のまさに対極にあたる、モラトリアムを不要とするセントキッツ宣言が可決されましたが、わずか1票差でギリギリ。せっせとODAで票を集めた全盛期に比べても、捕鯨支持勢力は明らかに減衰しているのです。日本は今総会に向けてリベリアやサントメプリンシペを新たに陣営に加えたものの、援助外交頼みでは勢力を維持することも困難になっているのが実情です。
 そして、日本側が代表団の説明や報道で「反捕鯨国側に配慮」「共存」と謳い、コンセンサスを目指して反対陣営の説得、落としどころを見つける作業を粘り強く続けていたハズ≠フパッケージ提案は、反対が41票と5つの決議のうちダントツで最多。SAWSやフロリアノポリス宣言に対して棄権ないし不参加だった1、2カ国も明確に反対の意思を表示したことになります。
 つまり、一番のボロ負け
 ちなみに、不在の1票、モナコはたまたま呼ばれたときちょっと席を外していたようで、取り直したはずなのですが採決には反映されず。本当なら反対は42票になるはずでした。
 国民の無関心をよそに、日本側は国会議員7名を含む総勢62名、過去最大級の万全の体制で今総会に臨んだのです。それでいながらこの体たらく。
 特に大きいのは、捕鯨支持国であるはずの韓国ロシアが、日本のパッケージ提案に対し棄権に回ったこと
 採決後、ロシア代表は投票態度について「(鯨類の保全の必要性を理解するとともに)持続的利用を支持しているが、対立する意見をまとめてコンセンサスを得るには時間が足りなかったし、これ以上の分断は避けるべきとの趣旨説明をしました。
 本心から共存のためのコンセンサスを目指すのであれば、見込みがないとわかった時点で取り下げ、次回までに相手方に受け入れられなかったポイントを検証したうえで練り直し、再提案を目指すのが合理的な態度というものでしょう。
 ロシアの指摘は実にもっともであり、棄権したのは合理的な判断だったといえます。日本と同じ陣営にありながら、日本の非を諌め、反捕鯨国に対する節度と礼儀を示すことで、捕鯨支持陣営にポイントを取り戻す役割を果たしたのです。外交の手さばきの巧みさがこういうところに表れていますね。
 翻って日本はといえば、パッケージ案を最初から「次はもう提案しない」と断ったうえで提出。あたかも「我々が譲歩≠キるのは今回限りだ、次はもうないぞ」と脅すかの如く。しかも、真田氏の解説にあるとおり、条約改訂を含むきわめて重要な内容でありながら、提示されたのはたった3ヵ月前のこと。代表団全員にロシアの爪の垢を呑ませたいもの。
 ロシアの発言はまた、日本の提案が「共存」「配慮」との言葉とは裏腹に分断を煽るだけだとはっきりと指し示すものであり、提案国の日本に限ってはロシアを説得できなかった所為で失点をさらに重ねてしまったといえます。自業自得ですが。
 ロシアとともに日本の隣国である韓国は発言しませんでしたが、やはりロシアと同じ動機と考えていいでしょう。
 ただし、日韓両国の関係は日中、日露と異なり政治的にかなり冷え切っている中、IWCにおいては比較的連携が取れていると言われていました。にもかかわらず、棄権されるという結果に。
 日本提案は、友好的なハズ≠フ捕鯨支持国から同調を得られなかったわけです。採択に付してしまったことで、わざわざ℃^成票を減らしたのです。それも、中身が受け入れられなかったわけではなく、「コンセンサスが無理な以上、やめた方がいいんじゃない?」という、ある意味非常に消極的な動機で。
 カリブ、大洋州、アジア、アフリカの捕鯨支持国は、セントビンセント・グレナディーン(SVG)を除いて自ら捕鯨を行う意思はなく、多額の援助を受け取るのと引き換えに日本に右へ倣えするだけの被援助捕鯨支持国。IWCの場では常に日本を「リーダー」と仰ぐ立場。
 日本から援助を受け取らず対等な関係にある捕鯨支持国は、ノルウェー、アイスランド、ロシア、韓国の4カ国。
 つまり、鍵を握る4カ国のうち半分から支持を取り付けることに、日本は失敗したのです。
 4カ国うちノルウェーとアイスランドは日本と並ぶ現近代捕鯨国の三巨頭。異彩を放っているのは、名目上は商業捕鯨でないはずの調査捕鯨を公海、それも赤道を越えた南極まで出張ってやっている日本ですが。両国にとって日本は鯨肉の輸出先市場、お得意様≠ナもあります。
 この2国はモラトリアムを留保しているため、日本提案によって何が変わるわけでもなく、自国にとって直接のメリットはありません。仮に日本が商業捕鯨を再開して鯨肉生産量を増やした場合、輸出が縮小・消失するリスクさえあります。
 それでもなお日本案に同調したのは、むしろ可決する見込みがないとはっきりわかっていたからと推察できます。
 過去には日本とともに最後まで母船式捕鯨を行い、やはり日本とともに悪質な規制違反を犯した事実が発覚したロシアですが、現在はチュコト半島での先住民生存捕鯨しか行っておらず、今回の決議でも無難に3/4票以上を得て捕獲枠が更新されています。
 韓国は混獲によって供給される鯨肉の消費市場が存在する国で、過去に一度調査捕鯨実施を検討し、猛反発を受けて引っ込めた経緯があります。仮にモラトリアムが解除された場合、同一のストックをめぐってわずかな枠を日本と獲り合う競合関係となる可能性もなきにしもあらず。ただ、対象のミンククジラ黄海・東シナ海・日本海系群(Jストック)は混獲による減少が強く疑われており、少なくとも現在申告されている混獲数より大幅に少ない捕獲枠しか設定されず、監査の目も一層厳しくなるはずなので、名乗りを上げれば返って損ということになるでしょう。また、オーストラリアと共同で混獲の実態調査なども進めており、日本のように公海・南極海での大規模な商業捕鯨に進出することも考えられません。
 いわばこの2国は、今回の日本提案によって特段利害が発生しない国。
 言い換えれば、今回の日本提案の意義、コンセンサスが通らず採択になった場合にも賛成票を投じてもらうことの意義を、純粋な外交折衝によって納得してもらう必要があった国です。
 リーダーとしての日本の指図に唯々諾々と恭順する被援助捕鯨支持国と異なり、札束による懐柔策ではない、真の外交手腕が求められる相手。
 今更説明するまでもなく、両国は地理的に日本と近いだけでなく政治・経済面で密接なつながりのある、日本にとってきわめて重要なポジションにある国。ギクシャクしているところもありますが。
 こういうときこそ、まさに国会議員の出番であったはず。
 日本代表団はなぜ、ロシアと韓国の投票態度を確認しなかったのでしょう?
 事前の口裏合わせどころか、まともに意見交換していなかったことが明らかな、あのような発言をロシアにさせてしまったのでしょう?
 特に、「与党代表の一人として商業捕鯨再開に向け努力してきます」(引用〜横山議員のツイート、9/7)と胸を張ってブラジルに乗り込んでいった7人の国会議員たちは一体何をやっていたのでしょう??
 思い起こすのは、IWC本会議最中の12日にウラジオストックで開かれた首脳会談の際、「その場の思いつき」と明言しながら領土問題棚上げ平和条約の締結を進言したプーチン大統領、その場でまともな返答を返すことさえできなかった安倍首相の一幕。両首脳の間に信頼関係などまるで構築できなかったことが赤裸々に暴露された、日本の外交史上に残るであろう屈辱的な大失態。
 安倍首相をあからさまにバカにした態度を取ったプーチン大統領とは違い、ロシアIWCコミッショナーは会議の度に日本の顔を立てる気配り上手な方なのですが、会議の全体を見渡す能力も備えていたことがわかります。
 さらに、最終的には反対に回ったものの、日本提案に対して非常に興味深い発言をした国がありました。それはインド。同国代表は「モラトリアム解除については同意できないが、附表修正の可決のハードルを過半数に下げるのは賛成だと述べたのです。そうすればSAWSも通すことができたのに、と。そもそも日本が1つのパッケージに詰め込んだことに無理があると、インドはズバリ指摘してみせたわけです。それでコンセンサスが得られるわけがないと。
 「共存」を目指す中立・公正な立場で、「反捕鯨国にもメリットがある」と強調するならば、日本が択るべきは次の2つに1つでした。

1.パッケージから一部の鯨種のモラトリアム解除の附表修正を外し、決議要件緩和一本に絞るか、少なくとも別建てにする。
2.パッケージに捕鯨支持側の附表修正案だけでなく、SAWS設立等の反捕鯨国側の附表修正案を含める。

 これができない時点で、「共存」は見せかけにすぎずきわめてエゴイスティックな要求であることはだれが見ても明らかです。
 日本提案をめぐる議論の応酬は会議4日目のことで、審議が翌日に持ち越された後で日本は提案の一部を修正してきました。しかし、その中身は、パッケージの中でモラトリアム解除の附表修正を優先するという、妥協の姿勢とは程遠い、コンセンサスを得るための努力など微塵も感じられないものでした。
 せっかくインドが親切に意見を述べてくれたのに、日本は耳を傾けるどころか、後足で砂をかけるまねで返したわけです。同国が棄権ではなく反対に回ったのは当然のことでしょう。
 そして、今回日本のパッケージ案が鍵を握っていたハズ≠フもう1つの国が米国
 日本国内ではとかく強硬な反捕鯨国という目で一般から見られがちな米国ですが、実は豪州やNZ、EU、今回のホスト国であるブラジルをはじめとする南米諸国に比べると穏当な立場です。少なくとも現在は。理由のひとつは、アラスカで先住民生存捕鯨を行っていること。もうひとつは、日本と強固な政治的同盟関係にあること。あるいは、二国間交渉によってモラトリアムの留保を取り下げさせた所為で返って日本を意固地にさせ、調査捕鯨という形での延命を許したことへの反省もあるかもしれません。そのため、外部専門家を招いた2009年のデソト案和解交渉時には裏方に徹し、オーストラリアと日本の間を取り持とうと尽力しました。
 オバマ前大統領は建前上、日本の調査捕鯨に明確に反対する姿勢を表明していました。しかし、現職のトランプ大統領は地球温暖化陰謀論を鵜呑みにするエコ嫌いで知られており、捕鯨を含む漁業国際交渉を担当する米大気海洋局(NOAA)の予算も大幅に削られる始末。ある意味、日本にとっては米国の譲歩を一番引き出しやすい政権が誕生してくれたといってもいいでしょう。
 以下は上掲した会議後の17日掲載の毎日記事から引用。

反捕鯨国の米国は今回、アラスカ先住民の捕獲枠を6年に1度要求する時期に当たり、日本は「特別扱い」を求める米国の協力に期待。他の反捕鯨国も反対表明をしない消極的支持を取り付けるシナリオを描いた。(引用)

 「」付の表現は、毎日の加藤記者が捕鯨擁護色が強いうえに、森下氏や横山氏同様、先住民政策のグロスタに無理解なことを示すにすぎません。ただ、米国としてはやはりスムーズに改訂を済ませたい意図はあったでしょう。つまり、水産庁がマスコミにちょろっと漏らして期待感を抱かせたように、日本の立場からすれば先住民生存捕鯨枠改訂をカードに米国と取引をしない手はありません。
 実際、2002年の下関総会の折には、まさに今回と同様、先住民生存捕鯨枠の更新のタイミングと重なっていため、日本側はこれを積極的にカードとして利用したのです。
 ただし、そのやり方はあまり褒められたものではありませんでした。当時交渉を仕切っていたのはあのミスター捕鯨問題こと小松正之氏(現東京財団政策研究所上席研究員)。ちなみに、今回総会に出席した江島議員は当時下関市長。自国開催となる下関総会のため、日本は勧奨活動を積極的に推し進めたうえで、米国に対し日本の小型沿岸捕鯨暫定枠とのバーターを要求したのです。協議が物別れに終わったことから、日本側は先住民生存捕鯨枠の改訂を阻止。「米国のダブルスタンダードを示した」とは当のタフネゴシエーター(?)小松氏の弁ですが、これではただのケンカ、外交交渉とは呼べません。一部筋によれば、このとき米国の怒りを買ったことが小松氏の左遷につながったとも言われていますが・・。
 とはいえ、そのようなごり押しの手法に頼らずとも、ちらつかせつつ交渉を有利に運ぶ余地も決してゼロではなかったハズ=B
 それこそ、国会議員の外交の腕の見せ所というものでしょう。
 ところが……蓋を開ければ、先住民捕鯨捕獲枠改訂に日本は素直に賛成票を投じたのに対し、日本パッケージ提案に対して米国はきっぱり反対票を投じたのです。
 国内向けには威勢のいいことを言いながら、一方的に譲歩しっぱなしの安倍政権の不甲斐ない対米・対露外交のパターンをそっくり踏襲する形。
 まあ、過去の小松氏の強攻策が裏目に出た結果、取り付くシマもなかったのかもしれませんが。だとすれば、毎日記者にあんな記事を書かせた水産庁の担当者は相当罪作りと言わざるをえませんね。
 一体、7人の国会議員は、米国に対してきちんと協力を要請したのでしょうか? それとも、「ただ期待しただけ」で、話し合いの場を設けることさえしなかったのでしょうか? 目線を送れば意思が通じるとでも思ったのでしょうか??
 毎日が報じた、日本の思惑とはかけ離れた日米それぞれの投票は、お互いの間にまともな意思疎通がなく、深刻な隔たりがあることを如実に物語っています。族議員たちはボタンのかけ違いに気づいてすらいないのかもしれませんが。
 一方的な片思いの日米関係とは対照的に、大人の外交を示した国があります。それはブラジルとSVG。
 今回の先住民生存捕鯨枠改訂に対しては、ブエノスアイレスグループと呼ばれるラディカルな南米諸国のうち7カ国が反対票を投じています。これらの国々は決して先住民生存捕鯨そのものを否定しているわけではありません。主な反対の理由は、捕獲枠の自動更新と、地域毎に事情も保全状況も異なる4箇所を一括で処理することに対して。中でも一番問題視しているのが、生存捕鯨としての定義上グレーな、同じ中南米のSVGによるザトウクジラ捕鯨。
 本来ブエノスアイレスGを代表するホスト国のブラジルは、それでも今回同附表改訂に棄権票を投じました。一方、捕鯨支持のカリコム5カ国のうち、SVGだけがSAWS提案に対して棄権票を投じました。
 お互い、相手国への配慮もあったことは想像に難くありません。
 国民に対してはさも深謀遠慮≠ェあるかに見せかけながら、その実何も考えていなかった(としか考えられない)という、外交と呼ぶに値しないお粗末ぶりを晒した日本とは雲泥の差。
 以下は真田氏のツイート(日本政府出席者リスト付)。

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1040545943743946752
参加者リストには日本側62名載っているので、エコノミークラス節約プランで一人40万としても62×40=2480万。議員・大臣・上級官僚はビジネスでしょうから、3000万円かけて地球の裏側で無理筋交渉の挙句バンザイ突撃するみたいです。(;´д`)(引用)

 繰り返しになりますが、一体全体国会議員たちは会期中ブラジルで何をやっていたのでしょう?? 被災地の住民が日常生活を取り戻すのに四苦八苦している中、税金使ってブラジルに遊びに行ってた??
 以下は、出席した国会議員7名のうち4名による現地からの発信。まずは自民党鶴保議員のフェイスブックから。

 自民党捕鯨議連の重鎮3名で仲良く記念写真。明らかに会議のコーヒーブレイクの間に撮ったと思われます。他国との情報交換なり折衝なりに勤しんでいて然るべきだと思いますが・・。
 鶴保氏、江島氏については以下の過去記事をご参照。

■太地を庇って沖縄を脅す捕鯨族議員・鶴保氏のとてつもないダブスタ
http://kkneko.sblo.jp/article/176384491.html
■ちぐはぐ族議員とグルメ好事家官僚が明かした美味い刺身*@のデタラメ
http://kkneko.sblo.jp/article/180420343.html

 で、こちらは公明党の捕鯨族議員・岡本氏、谷合氏、横山氏のツイッター。


 期間中のブラジルからのIWC関連のツイートは岡本氏1回、谷合氏3回、横山氏7回。
 岡本氏は外務政務官、谷合氏は農水副大臣の立場で、岡本氏は初日、谷合氏は初日と最終日にスピーチもしています。
 公明党の3人は、自民党に比べるとまだそれなりに頑張った感があるかもしれませんが・・。
 この中で、現地でのロビイングの模様を伝えているのは族議員レベルの高い横山氏。登場する相手国はカリブ諸国、カメルーン、カンボジア・モンゴル・ラオス、アフリカ大西洋岸諸国、そしてニカラグア。
 いずれも被援助捕鯨支持国です。つまり、リーダー%本に同調することがあらかじめわかっている国々。
 ここでニカラグアについて補足しておきます。まずは以下の横山氏のツイートと拙ツイートにお目通しを。

https://twitter.com/gagomeyokoyama/status/1040293092866379776
IWC4日目。商業捕鯨モラトリアムを継続するフロリアノポリス宣言が採択された。採決後にIWCが機能しないとの意見。このあと、日本の改革案について32か国から意見表明。カンボジア、モンゴル、ラオスのコミッショナーとの昼食懇談では、鯨だけを特別扱いする考えには同意できないとの意見で一致。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1040552638566195201
この3カ国は外務省の方針で東アジアの中の重点的な援助対象。ラオスは首相訪日時「友好の証にIWC入ってるし、援助ヨロシク」と挨拶、わかりやすい日本の勧奨活動の例として知られる。「右へ倣え」する国々と会食するばかりで、対立陣営と対話する気はないの? 税金でブラジル行く必要あったの??
https://twitter.com/gagomeyokoyama/status/1040571443958960128
IWC最終日。午前中に日本提出の改革案が採決される見通し。昨日は反捕鯨国のニカラグアが「商業を理由に商業捕鯨を一切認めないとする態度は欺瞞」「これがIWC正常化の最後のチャンス」として賛成を表明した。昨日の会議後にアフリカ大西洋沿岸の皆さんと懇談。日本を応援するよと激励されました。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1040581138241093633
ニカラグアは会議が始まる前から反捕鯨国にあらず。前総会では拠出金未払で不参加。日本の改革案に対して事前に日本の調査捕鯨を支持する(自国はやらないけど)旨の教科書的な回答を出している。捕鯨族議員横山氏のロビイングの結果、会場で考えが変わって反捕鯨から捕鯨支持に変わったわけじゃないよ

 14日の横山氏のツイートは画像がニカラグア代表と会食等のシーンではないことからも、拙引用RTの批判に対する応答と見ていいでしょう。
 ニカラグアは2003年にIWCに加盟、当初は日本の勧奨に応じた捕鯨支持国でしたが、ブラジル等のブエノスアイレスGの説得を受け反捕鯨陣営に鞍替え。その後いったん分担金未払で投票権停止状態に。分担金は納入したものの、近年の総会には参加していませんでした。前回・前々回も欠席。
 上掲拙ツイートのとおり、ニカラグアは7月に公表された日本の改革案に対し寄せられた応答の1つとして、日本を支持する立場を明確に表明していました。会議が始まる前の時点で、すでに引き抜かれていたわけです。
 そして、拙批判に対して横山氏が画像抜きで反論し得たのはこのニカラグアだけだったということになります。
 話を戻しましょう。
 ひょっとして、100%味方とわかっているハズ≠フ国々でも、国会議員7人がかりでランチをともにし、必死の説得工作を続けないと態度を翻される恐れがある、それほどまでに今回の日本提案は心もとない内容だったのでしょうか?
 しかも、東カリブ海諸国にはブラジル総会直前の今年7月に岡本氏自身が足を運び、日本のIWC改革案への支持を要請しているのです。

■岡本外務大臣政務官のグレナダ訪問(結果)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/fsh/page1_000604.html
■Japan lobbying EC countries to support its proposal to resume commercial whaling
http://www.nowgrenada.com/2018/07/japan-lobbying-ec-countries-to-support-its-proposal-to-resume-commercial-whaling/

 なお、SVG首相の接待招請については上掲拙HP解説記事を参照。
 これだけアプローチしているにもかかわらず、まだ自信が持てなかったのでしょうか? カリブの国々が日本を裏切るかもしれないと考えたのでしょうか?
 それ故に、説得の見込みが薄いロシアや韓国、インド、米国などにかまっている余裕がなかったということでしょうか?
 だとすれば、コンセンサスを目指すこと自体、最初からあまりに無謀だったと結論せざるをえません。
 豪州、NZ、EU、ブエノスアイレスGは当初から否定的な立場でした。
 コンセンサスを目指すのであれば、突破口になり得るのは上記以外の第三勢力。すなわちロシアと韓国、インド、米国などを懸命に説得し、日本側についてもらい、中立軸を動かすことが重要だったはずです。
 コンセンサスを断念し採決を選択するにしても、少しでも賛成票を増やすために必要なのは、すでに陣営に取り組んで票を確保しているハズ≠フ相手に念押しを重ねることではなく、賛否が確定していない国々にコンタクトを取ることのはず。
 選挙の際、最初から自党候補に投票することがわかりきっている党員の家に何度も足繁く通うより、無党派層を意識して街頭に立った方が当選の可能性を高める──政治家ならそう考えるハズ≠ナはないのでしょうか。
 しかし、ブラジルまで足を運んだ国会議員たちからは、そのステータスをフルに活かし、鍵を握る国々と膝詰めで談判しようという姿勢がうかがえませんでした。彼らはただ、仲良しクラブで食事と内輪のおしゃべりを愉しんだだけ。
 もう一点、これらの国会議員の渡航が不要だったことを端的に示す発言がありました。
 4日目に日本提案が討議された後、交渉役の水産庁諸貫代表代理は「日本は深夜で東京と話す必要もあるのでこの議題はオープンしてほしい」とコメントしたのです。
 要するに、司令塔は東京にあったわけです。
 この提案がコンセンサスを得られる見込みがないのは、関係者なら最初からわかっていたハズ=B思惑が外れたというより、想定どおりの結果。
 トップといえる外相・農相(実際には裏方の事務次官)に判断を改めて仰ぐ必要のある、想定外の困難な状況に直面したとは到底いえません。
 にもかかわらず、副大臣の谷合氏、政務官の岡本氏とも、現場で判断して物事を決める権限を委譲されてはいなかったのです。ただの飾り。
 現地に派遣された7人の国会議員は、いてもいなくても関係ない下っ端だったということです。
 東京に相談した結果が上掲のあまり意味のない修正案だとすれば、司令塔の程度もたかが知れますが。
 
ビジネスクラスでブラジルまで足を運びながら、ロシアと韓国、インド、米国などを説得しきれなかった、あるいはしようともしなかった国会議員7人公明党:横山信一氏、谷合正明氏、岡本三成氏、自民党:浜田靖一氏、江島潔氏、鶴保庸介氏、国民民主党:徳永エリ氏)は、無能の謗りを免かれませんロシアメディアに「ジョーク外交」とまで揶揄された売国奴首相ほどではないにしろ。

 その他、横山氏の先住民生存捕鯨否定ツイート、豪州代表による日本提案批判発言直後の森下議長の渋面、国内向けには決して言わない諸貫代表代理の「日本は昔は悪ガキだった」発言等々、今回のIWCウォッチングの見所については下掲ツイログでチェックを。セーリングW杯開会式が新江の水で行われ、イルカショーまで披露したために国際セーリング連盟からクレームがついた件も取り上げています。


posted by カメクジラネコ at 18:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年08月26日

トンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏はクジラよりカラスがお嫌い?−2


◇日本の調査捕鯨は国際法違反!! CITES公海イワシクジラ持込問題、いよいよ王手!

 昨年取り沙汰された北西太平洋調査捕鯨のワシントン条約(CITES)規則違反問題について、日本での聞き取り調査等を行っていた同事務局が調査報告書を公表しました。
 後は常設委員会の判断次第ですが、鯨肉・脂が科学研究目的ではなく「商業目的」で用いられていることは明らかとし、常設委員会が目をつぶらない限り、公海からのイワシクジラ持込はCITES規約に違反しているとはっきり認定しています。
 日本の調査捕鯨の国際法違反(2例目)確定にいよいよ王手がかかった状態!
 詳細は真田先生の解説をご参照。

■ワシントン条約事務局、イワシクジラの水揚げが条約規定に反するとの報告書を発表|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ


◇究極の生物音痴・トンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏はクジラよりカラスがお嫌い?(その2)

 前回の続き。元記事のリンクは以下。

■クジラの情報 正しく伝えたいと研究者が「鯨塾」を開催(八木景子|ヤフーニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/keikoyagi/20180717-00089302/
■封じ込められてきた鯨の情報 正しく伝えたいと研究者が「鯨塾」を開催(同アーカイブ)
http://archive.is/xmAr2

 さっそく八木氏本人の持論の検証にかかりましょう。引用強調箇所は筆者。

これまで、捕鯨についての正しい情報が一般民間人にあまり伝わってこなかった。
過激な行動をとる活動家への拒否感から、多くの企業やマスコミがこの問題を避けてきたと関係者はいう。その所為もあって、捕鯨関係者と一般民間人の間には明らかに捕鯨に関する情報の溝が広がっていった。その傍ら欧米、特にアメリカではイルカ・鯨に関するテレビや映画が70年代から急速に量産されてきている。2010年に米国のアカデミー賞を受賞した『ザ・コーヴ』という和歌山県・太地町のイルカ漁を批判した映画そのうちの1つであり反捕鯨家の多くが現地へ押し寄せるきっかけにもなった。(引用)

 「一般市民」ではなく、政府機関職員や軍人と対置される「一般民間人」と表現してしまう辺り、捕鯨産業を特殊視する八木氏の認識がにじみ出ていますね。捕鯨サークル関係者は一般民間人とは別格の特殊階級鯨界人で、自分もそちら側に含まれるという認識なのでしょう。
 「関係者」とは、ズバリ利害当事者であるところの捕鯨サークル関係者。まあ、十中八九捕鯨協会でしょう。
 ここに書かれている赤字の部分は、全部八木氏個人の主観です。「そういうことにしておいてほしい」という利害関係者の言うことを鵜呑みにしたうえでの。
 そして、全部デタラメ
 梅崎氏/捕鯨協会が八木氏をどのように誘導しているかが伺える点で非常に興味深いのですが。
 以下、その証拠を、梅崎氏がPRコンサルタントとしてクライアントの日本捕鯨協会に宛てたレポート『捕鯨問題に関する国内世論の喚起』(『日本PR年鑑』1983年版収録)から引用しましょう。

それにも拘らず、政府が捕鯨の維持、存続の方針を変えないのはなぜか。その大きなバックボーンとなっているのが、強固な国内世論である。“クジラ戦争”が激化するにつれて、「捕鯨中止の理由は筋が通らない。不当な圧力をはねのけて、日本人の伝統的な食習慣を守れ」との主張は強まる一方である。本稿においては、捕鯨存続のための国内世論をいかにして形成してきたか、について述べてみたい。(引用)

 おやおや・・八木氏の主張(ないし関係者の主張)とまるっっきり違うことが書かれてますね・・。1983年の時点で、政府の強硬な捕鯨推進政策を正当化するだけの強固な国内世論≠ェ形成され、ますます強まっていたそうですよ?

1974年1月、日本捕鯨協会内に、プロジェクト・チームが置かれた。「捕鯨問題対策協議会」という名のもとに、大洋漁業、日本水産、極洋三社の各捕鯨部から一人ずつ、それに日本捕鯨、日東捕鯨からそれぞれ一人、合わせて五人のメンバーが加わった。国際PRが起用されたのは同年3月であった。これより1ヵ月前に、国際PR・カナダの社長、ディーン・ミラーから、東京に手紙が届いていた。グリーンピースの動きを伝え、効果的なPR活動の必要性を指摘した内容だった。われわれはこれを参考にPRプロポーザルを作成、「捕鯨問題対策協議会」に提出した。これが先方のニーズとぴたり合い、契約締結となった。捕鯨については孤立無援の日本の主張を背負い、国際世論の荒波へ出航したのである。(引用)

 この後国際PRは米・加・英の3拠点でPR活動を展開しますが、惨憺たる失敗に終わります。そこで方針を転換、国内でのPR活動に全力投入することになったわけです。

日本共同捕鯨の設立によって、捕鯨協会の事務局も同社内に移された。それ以降のPR活動は、捕鯨協会の名のもとに、実質的には共同捕鯨によって実施されることになった。日本の捕鯨の維持、存続を計るためには、どのようなPR活動が有効か。クライアントの担当者と検討した項目の中で、全員が再優先の印をつけたのが、国内の世論固めだった。ふたつの戦術を練った。ひとつは論説委員対策、もうひとつはオピニオン・リーダーのグループ化である。(中略)農林水産担当の論説委員は捕鯨の実態や資源管理の実状には明るい。IWCが厳しい資源診断のもとに、増加頭数以下の捕鯨枠を決めている点や、資源減少の恐れがないのに、日本が捕鯨をやめる理由はない点を訴えたところで、全面的な同意は得られなかった。一般の日本人が日常口にすることのなくなった鯨肉を、国をあげてまで守る必要があるのか、という疑問が浮かぶのだろう。(引用)

 マスコミ内で最も事情に通じていたはずの論説委員が当初捕鯨業界サイドの主張に真剣に取り合わなかったのは、決して「過激な行動をとる活動家への拒否感」が理由ではなかったわけです。いやはや、顧客向けの報告書の中での梅崎氏は本当に清々しいほど正直ですねぇ・・。
 付け加えるなら、当事者である元捕鯨会社大手が将来の商業捕鯨への参入を明確に否定したり、以前新母船建造話が持ち上がったときに造船業界が二の足を踏んだのは、国際的に事業を展開しているこれらの企業が消費者や株主に敬遠されるなどビジネスに差し障ることを避けたがったためと考えるのが合理的。
 マスコミに関して言えば、例えば中東の紛争地域に入り込んで取材するとなれば、過激派に命を狙われる危険を考慮せねばならず、現に今も1人日本人ジャーナリストの方が拘束されているわけです。北朝鮮や中国チベット地方等での報道も、相手はテロリストではなく専制主義国家ですが、それに近いリスクがあるといえるでしょう。そのおかげで、中東のような地域で何が起こっているか、日本の一般市民はなかなか情報を得にくいわけです。「身の危険を感じること」と拒否感とではニュアンスがまったく異なりますが。
 NGOの捕鯨反対キャンペーンに対する拒否感からマスコミが捕鯨問題の報道を避けた? 反捕鯨団体は本物のテロリスト≠竦齔ァ国家以上に報道機関の活動を制限すると言いたいのでしょうか?
 沖縄についてはどうでしょうか。辺野古米軍基地移設問題では、海上保安庁や県警・機動隊から暴力的な扱いを受けながらも、反対派の市民が海上デモなどで体を張って必死に抵抗している状況。まあ確かに、地元紙といわゆる本土のマスコミとの間では、基地問題をめぐる報道の質・量に温度差があるように感じます。本土のマスコミの取り扱いが小さいのは、過激な活動家に対する拒否感で説明できることなのでしょうか?
 ジャーナリストの鈴木智彦氏は長年ヤクザの世界を取材し続け、ウナギの密輸・密猟と裏社会との関わりを暴いて一般市民に情報をもたらしてくれましたが、反捕鯨活動家への拒否感は強面のヤクザより圧倒的に上だと八木氏は言いたいのでしょうか?
 バカも休み休み言えです。それこそジャーナリズムに対する侮辱であり、冒涜というものでしょう。NGO活動に対してもですが。
 それにしても、嫌悪感・アレルギーに類する感覚の拒否感という独特の言葉遣いがいかにも八木氏らしいですね。関係者(まず捕鯨協会)はきっと別の単語を使ったでしょうけど。
 事実は梅崎レポートに書かれているとおり。日本のマスコミは彼の撒いた陰謀論という餌≠ノ見事に引っかかり、「強固な国内世論」の醸成に大きな役割を果たしたのです。
 拒否感なる個人的感情に縛られるようでは、企業もメディアも成り立ちゃしませんものね・・。

われわれは論説委員、解説委員に対する緊密なコンタクトと、キメ細かな情報の提供がパブリシティの成功のすべてとは考えていない。(中略)
クジラに対する特別の愛着心をなぜ断ち切らねばならないのか。それも不純な仕掛け、筋の通らない言いがかりによって・・。ジャーナリスト特有の正義感、公正な判断基準、反抗精神を発揮する場を、われわれは提供したに過ぎないのである。(中略)
初会合は77年3月10日に開かれた。クジラ好きの人たちばかりであったため、種々のクジラ料理を用意した。「捕鯨懇」の運営で、われわれがもっとも留意した点は、捕鯨協会の応援グループではなく、自主的な、独立した機関という性格を持たせることであった。(中略)
捕鯨懇は79年11月までに7回の会合を開いた。当初、捕鯨問題に関しては漠然とした知識しかなかった各メンバーは、いまやこの問題の専門家である。(中略)
各分野で活躍するメンバーは、それぞれの立場で、自主的にパブリシティ活動を実施している。(中略)
捕鯨懇はいまや業界にとっては百万の味方といえよう。79年11月の会合では、年2〜3回の頻度では少ないので、もっと会合の回数をふやすことを申し合わせた。そして「外国とケンカできるのはわれわれしかいない」との発言も出た。捕鯨懇の存在で、政府は捕鯨問題を軽視できなくなることは確かである。メンバーに対する“お返し”は会合のたびに、鯨肉のおみやげと若干の交通費を渡すだけである。時間と智恵を商品とする文化人が、なぜこれほど打ち込んでくれるのか。われわれは不思議に思う。ただ、“クジラは大きくて深い存在”という感慨をかみしめているだけである。(引用)

 もうおわかりでしょう。モラトリアム成立当時に発足し、高齢化した「捕鯨懇親会」に代わる、新世代の広告塔として白羽の矢を立てられた人物こそ、新宿の鯨肉居酒屋で梅崎氏が発掘した監督志望の映画業界人・八木景子氏に他ならなかったわけです。
 当時の捕鯨懇と同じように、「外国とケンカできるのは私しかいない!」とばかり、鯨肉嗜好と欧米へのルサンチマンだけで精力的に動いてくれる人材。
 前世紀の懇親会で声をかけ集まったのは、すでに高い知名度の確立した文化人・著名人でしたが、無名の新人映画監督ではあっても強烈なキャラを武器にあることないこと拡散してしまえる八木氏は、むしろ21世紀・インターネット時代の広告塔としてうってつけだったといえるでしょう。
 捕鯨協会/国際PRは、一方的で歪んだ情報をマスコミ・著名人を通じて国民に植え付けたのですから、一般人が「正しい情報」に接する機会は確かに少なかったといえます。ただし、「伝わってこなかった」のではなく、意図的に正しくない情報を流したわけです。この点に関しては、環境保護団体側も日本国内での啓発活動がうまく実を結んでいなかったのも事実ですが。
 梅崎氏の果たした役割、参加メンバーの顔触れを含む捕鯨問題懇親会の詳細については以下の解説をご参照。

■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史 その4:モラトリアム発効と「国際ピーアール」の陰謀
http://www.kkneko.com/aa4.htm

 そして後半の、欧米でイルカ・鯨に関するテレビや映画が「70年代から」「2010年」にかけて「急速に量産」されたという部分ですが、他の環境・野生動物を扱ったコンテンツと比較して鯨類モノ≠ェ突出して多いことを示す(社会)科学的データはありません。また、前回ほんの一部をご紹介したとおり、鯨類モノ≠フ多くは海洋環境問題(捕鯨だけでなく)をきちんと取り上げています。
 ここも八木氏個人の感想=B「急速に量産」って、B級ホラー人食いザメ映画じゃあるまいにねぇ・・。
 むしろ日本国内では、捕鯨懇の成立・梅崎氏自身の著した陰謀本発刊以降、多数の捕鯨擁護コンテンツが量産≠ウれており、4年前に八木氏が突然目覚めるまでの間も、捕鯨サークルにとって都合のいい一方的な情報を国民にインプットする役割を担ってきたのです。こちらもその一部を以下にご紹介。

■捕鯨カルチャーDB
http://www.kkneko.com/culturedb.htm

日本の捕鯨ばかりが海外から残虐だと言われるが、近年注目されている鯨類へのダメージの要因をあげるならば、海中のプラスチックゴミ、漁具による混獲、商業船との衝突、そして音によるストレスで脳や耳に出血までさせてしまう海軍のソナーテストによる甚大な被害を無視出来ないしかし、これらは報道されたり、映画化されたりなど、メディアに取り上げられることが極端に少なく、あたかも日本の捕鯨だけがイルカ・鯨を減らしているというイメージ操作がメディアや反捕鯨活動家によって行なわれ続けている。
日本からの情報発信には言葉の壁を乗り越える事、そしてメディアがこの問題をしっかりと報じてくれるか、が鍵となっている。(引用)

 上掲の八木氏の主張を、ホシナ氏の論説や一般の方のツイートを含め、筆者が前回青字で示した部分とぜひ読み比べてみてください。まるでどちらかが地球外の別世界の出来事ででもあるかのようですね・・。
 「本当に海洋資源を守ることをうたうのならば、マリンデブリ問題も日本が主導するべきでは」というホシナ氏の諌言も、八木氏の心には届かないでしょう。確かに日本人としては大変耳の痛いことですが。柏ニャンニャウェーさんの「海洋プラスチックゴミには目をつぶる一方で、これは引くわ」という感想ツイートにも、八木氏は露ほどの共感も覚えないことでしょう。「私が言いたいのはそんなことじゃない。あなたの考え方はおかしいし、話にならないから無駄」とただ頭ごなしに怒鳴るだけでしょう。実際に京大シンポジウムで参加者の方にそのような応対をしてしまったように。
 きわめて残念なことに、ホシナ氏のように「プラスチック規制・海洋環境悪化への取組で反捕鯨国に大きく遅れを取っているようでは(捕鯨を続けるうえでも)困る!」「なぜG7憲章への署名に拒否したのか!? 捕鯨国だからこそリードすべきではなかったのか!?」と、日本政府を問い質すことすら八木氏にはできないのです。あるいは、「どうせ報道されることが極端に少ないに違いない」と頭から決め付け、G7でプラスチックごみ問題が協議されたニュースも右から左へ聞き流したか、関心がなくニュースそのものさえ知らなかったかもしれませんが。
 自分にとって都合の悪い情報は完璧にシャットアウトできる、ずいぶん便利な目と脳ミソをお持ちなご様子──。
 あえて言うなら、上の主張は八木氏が自身の脳内で作り上げたファンタジーの世界の出来事。
 現実の世界の出来事と一致しているのは、「近年注目されている」の部分だけ。注目されるようになったのはもちろん、研究者および協力関係にあるNGOの努力の賜物ですが。
 「注目され」てるのに「メディアで取り上げられることが極端に少ない」とか、同じ一文の中でここまで矛盾した支離滅裂なことが言えるのもたいしたものですけど・・00。
 「残虐なのは日本の捕鯨だけだ」「クジラを減らしているのは日本の捕鯨だけだ」などと唱えているNGOは世界で1つもありません。あのシーシェパード(SSCS)を含め。前回解説したとおり、乱獲と悪質な規制違反の歴史を持ちトータルの捕殺数で2位に立った捕鯨大国であり、1位のノルウェーと違って南北両半球で捕鯨を続けていること、飽食の限りを尽くす先進国であることから、日本への風当りが強くなるのは当然といえますが。
 そんなことを言っているのは、八木氏が脳内ででっち上げたバーチャル反捕鯨団体だけ。
 前回筆者がごく一部を紹介したとおり、プラスチックごみをはじめとする海の環境問題をテーマとする映画やTV番組は、他の環境問題・野生生物保護問題を取り上げたドキュメンタリーに比べて特に多いわけでも少ないわけでもありませんが、たくさん作られています。だからこそ注目≠ウれ、市民がNGOを通じて行政に声を上げ、反捕鯨先進各国で具体的な規制が進められるようになったのです。エコ嫌いのトランプは捕鯨ニッポンと一緒に足を引っ張ってますけど・・。
 付け加えれば、マイクロプラスチックが話題になったのは確かに近年ですが、一連の問題は前世紀のうちからGPをはじめとするNGOと研究者たちがずっと警鐘を鳴らし続けてきたことばかりです。日本の責任も大きい「漁具による混獲」問題に関して言えば、1992年に国連で公海大型流し網の禁止が実現したのは、「ウミガメ・海鳥・クジラたちを守れ」という捕鯨モラトリアム支持と同程度に大きな国際世論の後押しがあったからです。八木氏の年代なら知っていていいことのはずですが・・。
 要するに、「『日本の捕鯨だけ≠ェ残虐で、クジラを減らしている』と海外から責められている」いうまったく事実に反するイメージ操作が、日本捕鯨協会・元国際PR梅崎氏・映画監督八木氏・市井の反反捕鯨活動家らによって行なわれ続けているのが真実なのです。
 日本自身の海洋プラスチックごみ対策の後進性をスルーしたこと以上に、八木氏がきわめて陰湿なのは、前回紹介した『ソニック・シー』:反捕鯨活動家£c体のIFAW・NRDCの資金援助で制作され、反捕鯨国を中心に海の環境問題(軍事ソナーの問題を含め)を告発し、エミー賞も受賞したドキュメンタリー映画について一言の言及もなかったこと。
 実はこの『ソニック・シー』、海外で好評を博しただけでなく、日本国内でも今年になって世界自然・野生生物映像祭で上映されています。よりによって八木氏の『ビハインド・ザ・コーヴ』と一緒に・・。

■「ビハインド・ザ・コーヴ」の第13回世界自然・野生生物映像祭出品について
http://www.kkneko.com/jwff.htm

 同映像祭で、八木氏のプロパガンダ映画は「もう1つの視点賞」を受賞(筆者なら「トンデモ大賞」ないし「いろいろザンネンで賞」を差し上げるところですが)。「環境保護賞」を獲ったのは『ソニック・シー』でした。
 八木氏は自作の出品や講演のことで頭がいっぱいで、ノミネートされた他の作品にまったく目がいかなかったのでしょうか?
 どうもそうではなかったようです。

https://www.facebook.com/behindthecove/posts/2018-04-09/1222856614483759/
今回、ノミネートされていたもので特に私が一番気になっていたのは同じく鯨を扱ったディスカバリーチャンネルから出品作品「ソニック・シー:海の不協和音」でした。
この映画では、イルカ・鯨が海軍によるソナーテストや商業船による身体のストレスを証明しています座礁した鯨類をスキャン、脳や耳から出血していることや、2001年9月11日(テロ事件時)に商業船が運行停止時にはストレスがなくなったことを解説されていました。正に「Behind THE COVE」の話を裏付ける内容になっていました。
本映画祭は、圧力に関係なく独自に作品を選んでいるそうで、クジラ問題をこれまでとは違った角度で捉えた作品「ソニック・シー:海の不協和音」(環境保護賞)と並び「Behind THE COVE」に「新しい視点賞」をくださった事は大変光栄であり感謝しています。(引用)

 いやはや、牽強付会なんてレベルじゃありませんね・・。それにしても、八木氏はなぜ、4月にこのFB記事を書いた後、8月にあのヤフーニュース個人記事を書くことが出来てしまうのでしょうか?
 2016年に『ソニック・シー』が公開されたことを知りながら、自作と同じ映画祭に出品され、自身が獲れなかった「環境保護賞」を受賞したことを知りながら、なぜ「映画化されたりなど、メディアに取り上げられることが極端に少なく」「イメージ操作がメディアや反捕鯨活動家≠ノよって行なわれ続けている=vなどと言えてしまうのでしょうか?
 はっきりしているのは、八木氏が(本人の認識しているところでは)自作の内容を裏付け≠トまでくれた『ソニック・シー』の存在を完全に無視・黙殺していることです。
 「『ソニック・シー』はたった1本だが、環境問題に触れない反捕鯨映画はゴマンとあるから、『極端に少ない』でいいんだ」「私の映画の数々の受賞暦に比べたら、エミー賞や世界自然・野生生物映像祭環境保護賞なんて小さい小さい。そんなんじゃ『メディアに取り上げられる』うちに入らない」「IFAW・NRDCなんてきっと弱小団体で、『反捕鯨活動家』のうちのごくごく一握りに決まってる」──そう思ったのでしょうか??
 たとえ他の数多くの欧米発海洋環境ドキュメンタリーの存在を調べる気がなかったとしても、「数少ない例外」という修飾付でも、「これだけは推薦します」といって紹介しますけどね。筆者だったら。礼節を重んじる日本人として。
 八木氏がやるべきは、自画自賛の自作宣伝ではなく、『ソニック・シー』の和訳・国内上映支援、同映画と同じ内容を訴えた著作『War of the Whales』の和訳・国内発行支援、NRDCの対米軍訴訟キャンペーンへの寄付を含む支援の呼びかけではないのでしょうか?
 まあ、「イルカ・鯨が<Xトレスを証明しています」という文章も相当イカレてますが。驚くべき知能の高さですね。反反捕鯨の口にするイルカ狂≠フ中でも、ニンゲンに対してストレスを証明する能力のあるイルカまでいるとは誰も信じてやしないでしょうに。
 FBならまだしも、記事本文も八木氏の文章は主語述語、てにをはがかなりおかしな具合になっています。どうしてこれでプロのクリエーター・映画監督としてやっていけるのか、筆者はいつも不思議に思います(佐々木氏の日本語はほぼ及第点ですけど)。まあ、個人支援企画だからといってきちんと校正しないのはヤフージャパンの責任ですが。
 もう1つの特徴を挙げれば、捕鯨サークル当事者発の一部を除き、八木氏は情報の出所・出典をほとんど明記しません。基本的に、自分の思ったまま、感じたままのことを書き殴っているからでしょうけど。ジャーナリストとしての資質はゼロ。結果として、一方の利害関係者である捕鯨サークル当事者の言うことを鵜呑みにしたうえで、未消化のまま自分の言葉に置き換え、インプットした関係者さえ予想もできないような枝葉≠付け加えてしまうため、見事にトンデモな主張に仕上がってしまうわけです。さらに、収拾がつかないほど裾野を広げて大見得を切っちゃうと。ネトウヨ流人種差別撤廃提案ネタ、「韓国はIWC不参加」、「CITESからクジラを外すのが目標」等の爆弾発言がその典型。
 『ソニック・シー』がディスカバリーチャンネルで公開されたのは2016年のことですが、同作品は2000年にバハマで起こったマスストランディングから鯨類の座礁と人為的な音響妨害の関連を追い続けた、八木氏が太地に押しかける以前から多大な時間と労力をかけて作られた作品です。繰り返しになりますが、監督が何度も謝辞を述べているとおり、反捕鯨団体のIFAW・NRDCからの資金援助がなければ日の目を見ませんでした。音響妨害に関する科学的知見が蓄積していったのは1990年代以降ですが、環境保護団体は以前から船舶交通やソナー(米軍を含め)が鯨類に与える影響を憂慮し続けており、それ故の映画製作タイアップとなったわけです。
 そもそも米国でアクティブソナー中止を求める訴訟が起こったのは2002年のことであり、米海軍を提訴したのは誰あろう『ソニック・シー』をサポートしたNRDC。下級審ではソナー使用の仮差止命令まで出たものの米海軍側が控訴、残念ながら、最高裁では海軍側が勝訴しています。環境/鯨類の「生態学的、科学的、レクリエーション上の価値」とその重要性を認めながらも、野生生物保全への配慮より国防/安全保障上の公益が優先された形。ただし、米海軍は下級審で示された規制の一部を受け入れ、NOAAへの事前申請と環境影響評価提出も義務付けられた他、海産哺乳動物の調査研究に予算を拠出することも約束しています。他の形でソナーの使用中止を求める米海軍に対する提訴はなおも続行中。

■米海軍軍事ソナー訴訟 Winter v. NRDC事件 : 軍事ソナー演習時の環境配慮義務|佐々木浩子・海洋政策研究財団研究員/慶應義塾大学法学研究会
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00224504-20130328-0025

 ある意味では、日本における原発再稼働と活断層の危険性をめぐる訴訟、厚木基地や普天間基地などにおける自衛隊・米軍の航空機による周辺住民の騒音被害、そして何より、先日やはり残念ながら差し戻し審で訴えが棄却されてしまったジュゴン訴訟と通じるものがあります。
 そしてもう1つ。八木氏は証明と言っていますが、気候変動/海洋酸性化、有害物質による汚染、音響妨害等の影響は、現在のレベルの生産・排出等が継続した場合、各種・系統群の死亡率・乳児死亡率・繁殖率がどれだけ下がり、百年後の生息数が何頭になるといった定量的な評価は未だ十分にはできていません。NGO・市民はあくまで「不確実性がある場合は環境/野生生物の利益に」という予防原則≠ノ則って行動しているのです。米海軍や日本の自衛隊は、それより国防上の利益を優先する立場。近代国家といえど死刑制度や軍隊のある国では、ヒトの命さえ絶対的な価値を持つとは言えないわけですが、裁判になれば対立するそれぞれの利益の軽重が斟酌されるのは仕方のないことでしょう。
 軍事ソナー問題に関しては、日本でも八木氏が4年前に突然覚醒する前から、反反捕鯨ネトウヨたちが騒ぎたててきましたが、彼らは米海軍を相手取って法廷闘争を続けるNRDCを寄付などの形で支援するでもなく、ただひたすら日本の捕鯨を正当化するのみでした。そう、まさに「日本だけじゃないのに、なぜ植民地主義や慰安婦問題で日本だけが責められるのか?」と主張するのと同じメンタルで。
 外野の反反捕鯨ネトウヨはともかく、日本捕鯨協会・八木氏らは次のいずれの立場なのかをはっきり明示するべきでしょう。
@国家安全保障上の公益 ≒ 美味い刺身≠フ価値 > 環境・野生生物の生態学的、科学的、レクリエーション上の価値
A美味い刺身≠含む右以外のすべての価値 > 環境・野生生物の生態学的、科学的、レクリエーション上の価値
 筆者個人の価値観は以下ですが。
Bジュゴンやクジラを守ること(環境・野生生物の生態学的、科学的、レクリエーション上の価値) > 武力に頼る″痩ニ安全保障上の公益、美味い刺身≠フ価値

 続いて、注目の超珍説です。

「鯨って絶滅しかけているんじゃないの?だから日本の捕鯨が反対されているんでしょう。」鯨類の生息状況に詳しくない一般民間人の中で、そんな疑問を抱く人は少なくない。実際はどうか、というと答えはNOだ。
鯨という生物は現在86種類以上確認されており、その中でも例えば日本が調査・捕獲している南極海のクロミンク鯨は50万頭以上いることがわかっている。では、なぜ“絶滅の危機にある”というイメージが一人歩きしてしまったのか。事実、戦前・戦後に鯨の中でも一番大きな種類であるシロナガス鯨やザトウ鯨が捕鯨国の乱獲によって絶滅に瀕した時期はあった。その時の強い印象が、いつの間にか鯨種全体の事と捉えられてしまったのであろう。しかし、これは全ての鯨に当てはまる訳ではない。例えるなら、鳥類の中でトキが絶滅しかけているからといって、カラスも同様だと考えるようなものだ。鯨も種類によって少ないものもいれば、豊富なものもいるのだ。(引用)

 特殊階級鯨界人≠フくせに「鯨類の生息状況に詳しくない」八木氏ならではのデタラメ
 「50万頭いるから絶滅危惧種じゃないハズだ」というのは、生物音痴らしい八木氏の思い込みにすぎず、完全な誤り
 個体数はあくまでIUCNの判定基準の1つにすぎません。より重視されるのは減少傾向。
 ミナミイワトビペンギンの個体数は250万羽(2007年)ですが、絶滅危惧種(VU:危急種)。キタオットセイの個体数は129万頭(2014年)ですが、やはり絶滅危惧種(VU:危急種)。ホシチョウザメの個体数は810万尾(2008年)ですが、最もリスクの高い絶滅危惧種(CR:絶滅危惧TA)。ニホンウナギは個体数に換算すればおよそ4,500万尾(2011年)いると考えられますが、それでも絶滅危惧種(EN:絶滅危惧TB)。
 IUCNレッドリストにおけるクロミンククジラのカテゴリーはDD(データ不足)。ただし、これはIWCでIDCR/SOWER(国際鯨類探査十ヵ年計画)の結果をめぐる議論に決着がつく前の判定(2008年)で、IUCNの基準に正しく従うなら、最もリスクの高い絶滅危惧種(CR)に該当することになります。気候変動に対して脆弱なことや、カドミウムの高蓄積と腎障害の発症を示す調査データなどからも、同種は今まさに絶滅に瀕しているといっても決して過言ではないのです。
 八木氏はまた「シロナガス鯨やザトウ鯨が捕鯨国の乱獲によって絶滅に瀕し時期はあっ=vとあたかも過ぎたことのように主張していますが、こういう書き方がまた八木氏の嫌らしいところ。シロナガスクジラは過去形ではなく今現在$笆ナに瀕しています(EN)。八木氏は触れていませんが(これまた嫌らしいことに)、ナガスクジラも同じく絶滅危惧種(EN)。前回解説したとおり、南半球ナガスクジラは1920年比でわずか4%以下に落ち込んだまま。戦後の乱獲五輪でトップに躍りだし、同種を絶滅危惧種に追い込んだ主犯は間違いなく日本の捕鯨業界そのナガスクジラを違法判決の下ったJARPAUで捕獲対象にし、今なお北大西洋から輸入しているのも日本。
 ザトウクジラに関しては、確かに捕獲禁止が早かったこともあり、現在は回復が順調に進んでいるとみられますが、それでも1940年代の半分の水準に達するまでまだ年数がかかると見られています。今日野生生物種の保全を議論する際には種ではなく個体群/系群を対象にするのは常識。同種も紅海・アラビア海系群やオセアニア島嶼系群は絶滅危惧種(EN)に指定されています。ところが、やはりナガスと同じように日本は島嶼系群を含む南半球ザトウクジラを違法なJARPAUで捕獲対象に設定。実際には捕獲せずにオーストラリア・ニュージーランドに対する脅迫カードに使ったわけですが。主に日本の捕鯨による乱獲が原因で減少した北太平洋の系群も、他の海域に比べると回復が遅れています。もっとも、なぜか日本はモラトリアムからこの方調査捕鯨の対象に含めていないのですが。紅海系群やオセアニア島嶼系群のように絶滅危惧種指定を受けているわけではなく、古式捕鯨でも主要な捕獲対象となっていたのに。
 ミンククジラもIUCNではLCの扱いですが、系群単位で見た場合、東シナ海・黄海・日本海系群(Jストック)は過去の乱獲と現在の混獲により、IUCNの基準で正しく判定されれば間違いなく絶滅危惧種(EN)相当。減少が強く疑われる絶滅危惧系群に対し、日本は「どうせ混獲で減っているんだから少しくらいたいしたことはない」という驚くべき言い訳のもと、IWC科学委員会の勧告も無視して捕獲を強行しているのです。日本はまさに絶滅危惧種(系群)を新たな捕鯨のターゲットにしたのです。あろうことにも、NEWREP-NPにおける同種の捕獲枠は、日本が自ら持続可能な捕獲枠として算出し、IWCに提案した17頭をも大幅に上回っているのです。調査捕鯨は規制を回避して乱獲を可能にする裏技以外の何物でもありません。
 さらに、昨年からイルカ猟の新たな対象種として捕獲枠が追加されたシワハイルカは、IUCNレッドリストの正しい基準に従うなら大幅な減少が見られ、ENに相当する絶滅危惧個体群。その他の捕獲対象種も、日本近海の個体群として見た場合はデータ不足ないし絶滅危惧カテゴリーに含まれるものばかり。
 ところが、水産庁は昨年IUCNの判定基準・カテゴリーとは似ても似つかない独自の基準に基づく偽ブランド≠フ海洋生物レッドリストを発表。IUCNで絶滅危惧種にランクされる鯨種もすべて「ランク外」に蹴落とされてしまいました。国内の野生生物保全関係者が特に驚いたのが、各都道府県レッドデータブックで絶滅危惧種にしっかり登録され、広島では天然記念物としても保護されているスナメリ、そしてツチクジラと近縁の新種カラスの扱い。
 つまり、事実は八木氏の主張とまったく逆なのです。海外で「すべての鯨種が(IUCNの基準における意味での)絶滅の危機にある=vと唱える団体・国は存在しませんが、日本という国は「すべての鯨種が絶滅の危機にない=vというIUCNのレッドリスト判定を無視する誤ったイメージを一人歩きさせようと目論んだのです。
 水産庁と御用学者の許しがたいレッドリスト詐欺*竭閧ノついての詳細はこちら。

■徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト
http://www.kkneko.com/redlistj.htm

 いずれにしても、野生生物の絶滅の意味については注意深く見ていく必要があります。
 確かに、70〜80年代当時、商業捕鯨モラトリアムを求める国際世論が盛り上がる中で「クジラを絶滅から救え!」というフレーズがしばしば用いられてきました。今以上にクジラの生態・生息状況に関する情報が乏しく、生物多様性の概念、その保全の意義がまだ浸透していなかった時期です。一方で、旧ソ連や日本による大規模で悪質な密猟もまだ発覚していませんでした。当時IWC科学委員会の科学者たちが全鯨種のモラトリアムに否定的だったのは、乱獲を食い止める実効性を発揮できなかった水産資源学オンリーの立場で、生物多様性保全・生態系サービスの認識が欠如し、密猟・規制違反に関する情報もなかったためです。
 基本的に野生生物はすべて、「絶対絶滅しない」などと断言・保証することはできません。
 IUCNレッドリストでランクが一番低いLC(Least Consern):軽度懸念種(あまり適切な和訳とはいえないのですが)は、将来絶滅する恐れが低いということであり、決してリスクがゼロであることを意味しません。
 気候変動(地球温暖化)や開発、上掲で取り上げた(八木氏自身も取り上げている)化学物質汚染や船舶交通の増加、音響妨害などの要因は、十分な定量的評価ができていないものの、すべての鯨種≠フ生息に影響をもたらし、絶滅リスクを引き上げているのです。
 重要なポイントは2つ。
@日本の捕鯨・イルカ猟対象種ももちろん♀C洋環境悪化の影響を受ける。
A日本の捕鯨・イルカ猟の捕殺による直接的なダメージは、海洋環境悪化によるダメージにさらに付け加えられ、場合によっては掛け合わされる。

■クジラたちを脅かす海の環境破壊
http://www.kkneko.com/osen.htm

 常識がある人なら、@にすぐ思い至るでしょう。ホシナ氏や柏ニャンニャウェーさんのように。
 ところが、八木氏の場合は「甚大な被害を無視出来ない」と言ったそばから、自分で無視することが平気で出来てしまうわけです。

 今日の環境問題においては、複数の要因が互いにどのように作用し合うかを考慮しないわけにいきません。
 日本の小型捕鯨の対象であるツチクジラ、太地等でのイルカ猟の対象であるハンドウイルカやコビレゴンドウ、オキゴンドウ等は人為的な音響妨害にとりわけ敏感です。ヒゲクジラも聴覚が優れているうえに音声によるコミュニケーションに依存する社会性を持つため、やはり音響妨害の影響を受けます。日本はそれらの鯨種に対し、騒音被害(米軍との合同演習等を含む)+捕鯨という二重のダメージを与えているわけです。あるいは騒音被害×捕鯨。
 ミンククジラ、ザトウクジラなどのヒゲクジラが索餌の際に頼りにする硫化ジメチルは、プラスチック片によっても生成されるため、海鳥同様誤食するリスクが非常に高く、有害物質の蓄積による長期的な影響が懸念されます。つまり、日本がやっているのはプラスチックごみ+捕鯨(プラスチックごみ×捕鯨)。G7憲章署名拒否の日本はプラスチックごみの影響もさらに上乗せしたといえますが。
 実は、捕鯨サークルの御用学者らの言い分は、「健康なうちに殺しちゃうんだから考えなくていい」というもの(聞いた一般の皆さんはびっくりするでしょうけど・・)。しかし、もっとも頑健といわれるPBRやRMPも現時点の目視個体数/捕獲数(それも数年・十数年置き)をもとにしたフィードバックでしかありません。しかも、日本やノルウェーは捕獲数を目いっぱい増やせるよう勝手にパラメータをいじっているわけですが。
 有害化学物質の蓄積による影響は表面化するまでに時間がかかり、死亡に至らなくても繁殖率を低下させる形で作用します。また、有害物質を回収するなどしてすでに汚染された海洋を元の状態に復元するのは、陸上・陸水よりはるかに困難です。「気づいたときには手遅れ」ということになりかねません。捕鯨は明らかに、海洋環境悪化に苦しめられる鯨類から、汚染に対する耐性、回復に必要な体力≠ニ時間的猶予を奪っているのです。
 IUCNレッドリストで絶滅危惧種に分類されないからといって安心できない要素はもう1つあります。
 それは、そもそも絶滅のおそれのなかった種を乱獲によって絶滅寸前に追いやり、規制されてもなおその裏をかいて、絶滅危惧の度合を高めてきた捕鯨産業・鯨肉市場の体質にあります。
 以下は、これも少し前の記事ですが、主要な反捕鯨NGOが捕鯨に反対する理由。あくまで捕鯨に対する反対理由であって「食べるな」ではないので、日本語の見出しには問題がありますが。

■英国で活動する環境保護団体の皆様に聞きました「クジラを食べるな」その理由
http://www.news-digest.co.uk/news/features/2020-whaling-antiwhaling.html

 どこも、「すべての鯨種が今現在(IUCNレッドリストにおける意味での)絶滅危惧状態にある」という主張はしていません。そのような主張をしているのは「日本だけ、捕鯨だけが残虐」と同じく、八木氏の脳内にあるバーチャル反捕鯨団体だけ。
 いずれも、日本の捕鯨を許せば「また絶滅に追いやられてしまう」という趣旨。そうした懸念を抱かれるのは実にもっともなこと。
 日本の捕鯨は世界に「まったく信用されていない」のです。持続可能な水産業で先進各国に大きく遅れを取っていることも含め。
 モラトリアム成立後も、日本の捕鯨業界が直接間接に関わった密輸・密猟は後を断ちませんでした。
 捕鯨会社自身が公式報告の数字をごまかしていた事実が発覚した他、日本の大手捕鯨会社の関係者がバイヤーとして関わった海賊捕鯨船は絶滅危惧種のシロナガスまで密猟していました。
 絶滅危惧種として早期に捕獲が禁止されたコククジラ・セミクジラで、密猟された疑いが濃厚な死体が座礁し報告された事例もあります。
 最近でもアイスランドの捕鯨業者がシロナガスとナガスのハイブリッドを捕獲していることが発覚、日本を含む研究者が連名で懸念を表明しました。ハイブリッドと外的特徴の変わらない禁止対象種のシロナガスが誤って捕殺されるリスクはきわめて高いといえます。また、違反の発覚を恐れて投棄による証拠隠滅が図られたことがはたしてなかったかも、甚だ疑わしいところ。
 そして何より、つい4年前まで美味い刺身の安定供給目的で行われ続けていた国際法違反の南極海調査捕鯨。CITES規約違反(現在チェックメイトの段階)の現北西太平洋調査捕鯨──。
 八木氏は次の段落でいけしゃあしゃあと事実を捻じ曲げていますが。
 日本の捕鯨業界を単純に美化し、過去を粉飾する八木氏のような歴史修正主義者が出てくればなおのこと。悪いことは全部外国の所為にしてしまう欺瞞に満ちたプロパガンダ映画『ビハインド・ザ・コーヴ』によって、日本の信用度はさらにガタ落ちしたといえます。以前は河野談話に相当する「もう過去のような乱獲はしません」という反省の弁も聞かれていたのですが・・。
 国際社会が「これなら大丈夫だね」と認められる、これまでのような違法捕鯨のリスクをすべて除去できる完璧な管理システムについて合意することなしに、「商業捕鯨をやらせろ」と要求すること自体、「盗人猛々しい」の一語に尽きるのです。

 続いて、トンチンカン八木節炸裂の件・・やっとここまできましたか・・。もう一度引用し直しましょう。

例えるなら、鳥類の中でトキが絶滅しかけているからといって、カラスも同様だと考えるようなものだ。鯨も種類によって少ないものもいれば、豊富なものもいるのだ。(引用)

 元川元水産庁長官の「美味い刺身≠フ安定供給」も歴史に残る見事なオウンゴール発言でしたが、これまた強烈ですね。
 日本ではクジラ好きよりずっと層の厚い野鳥好きの皆さんは、この一文を見てきっと目を丸くされていることでしょう。ここまでバカな奴がいるのか、と。
 一言でクジラといった場合、一般の日本人の方がイメージとして思い浮かべる種は、セミクジラかマッコウクジラあたりでしょう。最近ではザトウクジラの方が多いでしょうか。食べる方専門の方はミンククジラかもしれませんが・・。イルカならやっぱりハンドウイルカ(バンドウイルカ)でしょうね。
 一言でカラスといった場合、一般の日本人の方がイメージとして思い浮かべる種はハシブトガラスないしハシボソガラスでしょう。小学校中・高学年なら、はっきり種名を言える子もきっと多いに違いありませんが。
 広義・狭義の定義の差はあれど、「クジラ」、「イルカ」という種≠ェいないのと同様、「カラス」という種≠ヘいません。3つとも総称≠ナす。
 クジラ、すなわち(鯨偶蹄目)クジラ下目(Cetacea)という分類群に属する種が今わかっている範囲で約86種(研究者によりますが、ここは八木氏/石川氏に合わせましょう)。
 カラスとは広義には(スズメ目)カラス科(Corvidae)、狭義にはカラス属(Corvus)の鳥類(鳥綱:Aves)を指します。鳥好きはみんな知ってのとおり。
 カラス科は25属128種、カラス属は46種ほど(〜ウィキペディア)。
 このうちカラス属に限っても、その中にはCRが2種(バンガイガラス、クバリーガラス)、ENが1種(フロレスガラス)、VUが1種(ヒスパニオラガラス)が含まれ、準絶滅危惧(NT)に該当する種も数種います。さらに、ハワイガラスに至っては野生下絶滅(EW)。原因はよくわかっていませんが、寄生虫病の影響が指摘されています。飼育下で繁殖された個体の再導入が何度か試みられ、2017年までに放鳥された個体のうち11羽は順応したとみられていましたが、今年発生した噴火の影響が懸念されています。地域絶滅後中国から再導入されたトキや、野生下絶滅後再導入されたコウノトリによく似た境遇(絶滅のおそれはさらに高い)。

■Rare Hawaiian crows released into native forests of Hawai’i Island

 カラスの中にもトキのように絶滅しかけている種がいるにもかかわらず、この御仁は「カラスはカラスというだけでトキと違って絶滅しない」と言いきってしまえるのです。これは実に驚くべきことです。
 何度も繰り返しますが、現在海外の反捕鯨活動家=A環境保護団体には、クジラの種すべてが(IUCNの定義の上で)絶滅危惧種であると唱えている者はいません。八木氏の脳内のバーチャル反捕鯨活動家だけ。
 しかし、反反捕鯨論者の中には間違いなく同列の間違いを犯している人物がいるのです。「絶滅しそう」より「絶滅なんかしない」の方がよっぽど有害でひどい過ちですが。しかも、その人物は捕鯨協会・水産庁・鯨研の関係者と懇意にし、外務省の予算を受け取り、ブラジルまで押しかけてせっせと広報活動に従事しているのです。
 八木氏が石川氏に事前に原稿のチェックをお願いしていたら、さすがにマズイと思って赤を入れてくれたでしょうにね(彼じゃそのままスルーしたかもしれないけど)。
 実は筆者はカラス、大好きなんですよ。当ブログの読者さんやフォロワーさんはご存知の方も多いでしょうが。
 筆者が身近でよく観察できるのはハシブトガラス、ハシボソガラス、オナガですが、カケスやホシガラスも森・山で見かけたことがありますし。仕事で疲れたときには、彼らの営巣地がある家から40分ほど離れた森へ行き、夕空を円舞する彼らの幻想的な姿に心を和ませたものです。
 全身黒色に包まれた美しい鳥──ただの黒ではなく、構造色の羽毛はときに鉱物のような光沢を放ちます。
 鳥類の中でも夫婦の絆がとりわけ強く、発情期に限らず行動をともにし、ペアを観察していると微笑ましい仕草につい口元がほころんでしまいます。
 ゾウやクジラに負けないバリエーションを持つ音声言語で社会的なコミュニケーションを交わし、遊びを開発する能力に長けることでも広く知られています。
 ヒトに迫害を受けながらも適応力で切り抜け、それでもなおヒトのそばでたくましく生き抜いてきた鳥。
 スカベンジャーとして生態系で大切な役割を担ってきたのに。東洋では八咫烏:神聖な神の遣いとして崇められていたはずなのに、伝統なんかほっぽりだして害鳥扱いされて。
 なんて不憫な鳥なんだろうと同情せずにはいられません。


 一体何が八木氏をして「いつのまにか種全体のことと捉えさせてしまった」のかはわかりません。よっぽどカラスという生き物が嫌いで、カラスという生き物についてほんの少しでも勉強しようという気さえかったのでしょうね。クジラと同じく。
 「ビハインド・ザ・コーヴ」上映会でのトークショーや観客とのやりとりでもぶっ飛んだ発言が飛び出しますが、とある上映会では、捕獲したイルカの親子を引き離すことについて「かわいそうだとは思うが、ペット店の犬猫と何の違いがあるのか」と平然と言ってのけたそうです。水族館・動物実験・レッドリスト等々と同じように、愛玩動物行政においても日本と他の先進国の間には大きな隔たりがあり、その具体例としてよく挙げられるのが生体販売の8週齢規制問題。動物愛護に関心のある方ならみな知っていることなのですが。

■「捕鯨ヨイショ度」診断テスト・パート2
http://www.kkneko.com/sindan2.htm

 ああ、このヒトは本当に、本当に生きものが嫌いなのだなあ・・とため息が漏れます。
 クジラの敵であり、カラスの敵であり、すべての生きものの敵なのだなあ・・と。
 否、このとんでもない生物音痴を広告塔として祀り上げて利用している日本捕鯨協会こそ、すべての生きものの敵に他なりません。
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posted by カメクジラネコ at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系