2009年06月08日

調査捕鯨による温室効果ガス排出量はやっぱり最低でも年間4万トン(C02換算)以上だった!

◇調査捕鯨による温室効果ガス排出量はやっぱり最低でも年間4万トン(C02換算)以上だった!
 
 
 

 調査捕鯨による温室効果ガス排出量について、どうしても理解できないという一般の方のために、いくつかQ&A形式でお答えしたいと思います。

Q:船舶からのCO2は、エンジンの主機から排出されるものだけではないのでしょうか?



A:船舶で燃料を消費する機関は主機だけではなく、補助ディーゼル(発電機用)、補助ボイラーがあります。
 貨物船の試算では、燃料消費における主機関の比率は空荷航行の場合で8割、積荷航行の場合6割前後です。電力供給の必要な冷凍・冷蔵室や、スリップウェイ・ウインチ等の各種動力設備を備える捕鯨母船・捕鯨船では、主機の燃料消費比率がさらに下がるでしょう。
 また、ボイラーからは温室効果の非常に高いメタンや、大気汚染を引き起こすSOx、NOxなどが大量に排出されます。
 ですので、船舶からのCO2排出量は、主機の推進能力のみから求めることは不可能です。

参考リンク:
■船舶に係る排出量|環境省
http://www.env.go.jp/chemi/prtr/result/todokedegaiH18/suikei/sanko15.pdf
■船舶の運航に係るインベントリー分析|海上技術安全研究所
http://www.nmri.go.jp/lca/lca_hp/pdf/15.pdf

Q:記事中のリンク先にある重油価格が、半年前のものになっているのはなぜでしょうか?

A:リンク先で公表されている重油価格の統計データは、市況価格を調査し確定してからネット上で公開されるため、当然ながら時差があります。拙記事発表時にはC重油が前年11月、A重油が5月が最新値だったというだけにすぎません。記事掲載時にリンクを確認された方はご理解いただいていると思いますが。
 ちなみに、以下の参照リンクをご覧のとおり、’09年6月8日現在のC重油価格は’08年6月、A重油価格は’09年4月時点が最新データとなっています。

■A重油納入価格調査結果推移表|石油情報センター
http://oil-info.ieej.or.jp/price/data/Ajuyu.pdf
■原油リッター価格|太陽光発電メーカー・オージーテック
http://homepage2.nifty.com/ogtech/gennyunedann.html (リンク切れ)

 続いて補足に入りましょう。
 JANJAN記事では、調査捕鯨活動にかかる温室効果ガス排出を「燃料消費中のCO2排出のみ」に限った場合、その排出量は2.7万〜3万トンと見積もりました。これは掲載時の試算ですが、重油価格差が翌月に前年比40円高とさらに10円も値上がりすることを考慮していなかったため、実際には3.9万(A重油のみ)〜4.9万トン(C重油のみ)と見積もられます。
 加えて、鯨肉生産活動に不可欠の存在である補給&中積輸送船第二飛洋丸(旧称オリエンタル・ブルーバード号)8,725トンによる燃料消費も入れる必要があります。本当は、第68福吉丸とか隠し玉のスパイ船も入れるべきだけど・・。
 第二飛洋丸については、正式な調査船団に加わっておらず、共同船舶の所有でもないため、前掲の燃料コストとして計上されていない可能性があります。大雑把な試算ですが、燃費と航行距離をもとにした第二飛洋丸の燃料消費によるC02排出量は、おおよそ2千トン程度と推計されます。
 繰り返しの補足になりますが、仮に商業捕鯨が再開された場合でも、RMS下では目視調査による個体数把握が必須であり、鯨肉生産活動の一部とみなされるのは当然のことです。

■捕鯨がエコ」だなんて冗談キツイ! 大法螺ばっかり吹いている水産庁の天下り団体と産経新聞 (拙過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/28686903.html

 そのうえ、ここには船舶からのメタン(地球温暖化係数・GWPはCO2の21倍)等の温室効果ガス及び代替フロンHFCの漏洩(GWPは高いものでC02の1万倍以上)が含まれていません。
 このうち、船舶のボイラー燃焼によって排出されるメタンについては、停泊時・低速時の排出量が増加するため、操業期間中もアイドリングを続ける捕鯨母船のメタン排出量は通常の船舶よりかなり多いと考えられます。もっとも、IMOの海洋環境保護委員会の試算では、外航船舶全体でメタンの排出はCO2排出の1%程度と推測されているようです。
 一方、HFCの排出量についても、同委員会の試算によれば、全体でCO2排出の1〜2%とされています。ただし、こちらは要注意。食料品等低温輸送が必要な貨物で使われるリーファー・コンテナからの冷媒の排出量を、原油タンカーや各種の貨物船等をひっくるめた外航船舶すべてのC02排出量と対比させているからです。


■船舶からの大気汚染の防止・外航船舶からのCO2以外の温室効果ガス排出量の見積り|海洋政策研究財団
http://www.sof.or.jp/jp/outline/pdf/06_04.pdf

 で、今回新たに調査捕鯨船団のHFC排出計算にチャレンジしてみることにしました。算出はかなり難度が高いのですが、冷媒関係の資料を渉猟してざっくりながら数値化に成功。結論を先に述べると、なんと1.6万トン(C02換算)以上という結果に。
 リンク先に詳細がありますのでそちらをご参照いただきたいと思いますが、冷凍空調機器の冷媒には強力な温室効果を発揮する各種HFC等の代替フロンが用いられています。代替フロンは機器出荷の際の封入時の漏出、稼動時の自然漏出(スローリーク)とメンテナンスもしくは事故時の漏出、廃棄時の回収漏れ等の形で大気中に放出されます。その排出量は、2.5kwの家庭用エアコン1台で年間なんと約160kg(CO2換算)。皮肉にも、新型の省エネタイプの方が数字が高くなります。冷媒量が家庭用の4倍になる店舗用エアコンでは約600kg(CO2換算)。

 他の冷凍設備については直接試算したデータが見当たらないので、まず冷媒の充填量を調べてみましょう。業務用大型冷凍機の冷媒充填量は、家庭用エアコンの充填量1kgの500倍に当たる500kg。漁船の冷凍設備に至っては、船の総トン数100トンクラスで約1,500kg、総トン数350トンないし450トンクラスでなんと家庭用エアコンの4千倍に当たる約4,000kg
 冷媒の回収率は32%のため、全充填量の約7割は逃げてしまっている計算です。そのうえ、この4月の朝日報道によればリークの見積が甘かったことがわかり、代替フロン分の排出は想定の2倍に上方修正されました。スローリークとメンテナンス時のリークを合わせた機器稼動時のリーク率を表す排出係数(冷媒充填量に占めるリーク量の比率/年)は、家庭用エアコンの2%(修正前0.2%)に対し、輸送用冷凍冷蔵ユニットでは15%(修正前9%)。上掲の貨物船の冷蔵コンテナの場合、充填量の3〜4倍の量を再補充している、すなわちその分が漏出してしまっているとの見積もあります。
 さて、冷凍倉庫を備えた調査船団中の船舶は3隻、母船日新丸(倉庫容量1,700トン)・補給船第2飛洋丸(容量2,300トン?)・目視船の1隻第2共新丸(容量300トン)です。このうち第2共新丸の冷蔵設備の冷媒充填量を前掲の4,000kgと仮定し、各船の冷媒充填量を冷凍倉庫の容量に基づいて計算してみると、合わせて約53トン。冷凍機の耐用年数を12年として回収不能分を年間当りに換算すると充填量の5.7%、稼動時の漏出が15%、両者を合わせて20.7%なので、年間リーク量はおよそ11トン。冷媒をHFC134Aと仮定した場合、GWPが1,430なので、CO2換算にして約1.6万トン。冷媒がGWP2,000のHFC410Aであれば約2.2万トン、冷媒がGWP1,500のHCFC22であれば約1.7万トン。ま、いろいろ誤差を含め、最低でも1万トンを下ることはないでしょう。
 ちなみに、HCFCはオゾン層を破壊するためモントリオール議定書の規制対象となっており、2005年以降新規生産はほぼなくなっていますが、稼動中の旧機種の再補充用がまだ生産されています。調査船団が冷凍設備を新型に更新していなければ、HCFCが現在でも使われている可能性はあります。わざわざ南極くんだりまで出かけて直接野生動物を捕殺するのみならず、オゾン層破壊物質兼強力な地球温暖化ガスを撒き散らすことで、オゾンホールを拡大させたり氷床を後退させ、クジラたちを含む南極生態系を深刻な脅威にさらしているわけですな・・。
 もう一点、母船日新丸は2007年に船内加工場で火災を引き起こし、この時船員の方1名が亡くなっています。冷凍機に影響があったかどうかは不明ですが、少なくともメンテナンスによる再補充が行われた可能性は高く、その際には冷媒の大半が放出される形になります。
 かてて加えて、鯨肉の在庫率は水産物の平均に比べても異常に高いため、捕鯨船団の排出のみならず、陸上での冷凍冷蔵保管にかかる単位生産重量当りの温室効果ガス排出及び電力消費量は、その分他の食品より大幅に高いことになります。
 捕鯨擁護派は、適当な理由を付けて過剰在庫を正当化しようとしていますが、皮肉なことにその膨大な在庫のせいで環境負荷を押し上げてしまっているのです。捕鯨がエコなんて嘘っぱちもいいところ。

■ヒートポンプについて、私は無知だった −2020年の温暖化ガス排出量目標値(中期目標値)との関連で考える−|中西準子のホームページ
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak466_470.html
■代替フロン漏れ、想定の2倍 国、温室ガスの排出量修正 (3/21,朝日)
http://www.asahi.com/eco/TKY200903200258.html (リンク切れ)
■地球温暖化防止のための冷凍空調機器業界の取り組み ('08/12/9,日本冷凍空調工業会)
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g81209b10j.pdf
「冷凍空調機器に関する使用時排出係数等の見直しについて」(3/17,経産省製造産業局)
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90317a02j.pdf

 というわけで、船舶の燃料消費のC02分と船舶の冷凍設備のHFC分という2要素だけの合計でも、年間の温室効果ガス排出量は4万トン(C02換算)を確実に超えてしまっているのです。
 仮に4.5万トンとすれば、調査捕鯨による鯨肉生産を5千トンとして鯨肉生産1kg当りに直した数字は9kg。排出量を見積最大値の5.5万トンとすれば、鯨肉生産1kg当りでは11kgに。さらに陸上輸送分とLCAについても考慮する必要があります。鉄鉱・鉄鋼・造船にかかる温室効果ガス排出(特に大きいのが鉄鋼の生産重量当りの電力消費と石炭燃焼によるC02排出)その他諸々の数値が含まれなければなりません。ですが、こちらはもっと大変なのでまた別の機会に譲りたいと思います。
 

 燃料消費量と冷凍設備の仕様については、もちろん当の共同船舶は承知しているはず。水産庁や独立行政法人の水研センターと異なり建前上1私企業ですし、「不都合な真実」について自ら公開する気はさらさらないでしょう。しかし、国民の血税を投じた事業で利益を得ている以上は、企業としての社会的責任をきちんと果たしてもらいたいものです。「土産」騒動の経緯や人命喪失につながった重大な事故への対応を見ても、この会社はコンプライアンスの概念とは無縁に思えますが・・・
 JANJAN記事は産経記事の虚報──水産庁の見解を捻じ曲げ、水研センターの公式調査であると偽り、「船舶の燃料消費のみ」という事実に反する主張を展開し、排出量について極端に過少な数字を挙げた──を明らかにしただけのものであり、鯨肉生産と牛肉生産の比較は行っておりません。また以前ブログでお伝えしたとおり、「牛肉生産は鯨肉生産よりエコである」という、産経と同レベルの逆の主張が存在するとすれば、それも否定せざるを得ません(筆者はそんなものを見たことはありませんが)。結論として、同等の条件で両者を比較するのは非常に困難であるという点は、研究者クラスの方であれば容易に同意されることと思います。反・反捕鯨論者の「捕鯨はエコ」という素朴な主張は、検証の余地すらない信仰レベルのお話。
 もう一つの視点として、オルタナティブの問題があります。実は最も合理的なのは、両者とも排出量の低い豚肉や鶏肉に切り替えれば済む、という答え。海外でなら十分通用するはずの「植物蛋白で十分だろ!」という主張を声高にいえないのは、優れた伝統菜食文化を失ってしまった日本人としては大変悲しいものがありますが・・。
 そして、肝心なのは、年間1900万トン以上という世界の年間食糧援助量の3倍に達する膨大な食糧廃棄量を徹底的に削り、その分の生産量を減らすこと。これは何を減らしても削減につながり、また手っ取り早く減らすほどより実効的です。そういう意味では、捕鯨を潰すのはかなり合理的な選択とはいえますけどね・・。
 地球温暖化問題にまったく無理解で、一般的な対策に関する議論の文脈を完全に無視する反・反捕鯨論者の滑稽なロンリは、温暖化の促進につながるだけなので無視するとして、公平・公正な観点から見た場合、「捕鯨がエコ」であると主張できる道がたった一つだけ残されています。それは、実際に具体的な排出削減対策を講じてそれを世界に示すこと。要するに、単位生産量当りでも総量でもいいのですが、より大胆な排出削減策を、先に打ち出し、数字で示した方が勝ち。
 牛肉生産については、上掲論文にもあった有機農法への切り替え、メタン回収・再利用技術の導入、システイン含有飼料への切り替えなど、効果的に排出削減を図る技術が既に存在します。それに対して、捕鯨船・捕鯨母船の燃費改善とLCA負荷削減はかなり難題。新造船で多少の改善は図れるかもしれませんが、新規に莫大な環境負荷が発生することに。冷媒についてはアンモニアを利用した漁船用冷凍設備が実用化されているものの、現時点ではまだ普及には至っていません。
 はっきりした高い削減効果が期待できる最も合理的なオルタナティブは、遠洋母船式捕鯨から沿岸捕鯨への切り替えです。後は、牛肉生産については畜産業界・日本政府(農水省)・畜肉輸出国政府(米豪等)の、鯨肉生産については共同船舶・日本政府(農水省)のやる気次第。
 捕鯨サークルが沿岸捕鯨への切り替えという簡単で現実的な選択肢をとるなり、斬新な代替技術の導入を確約するなりして(ハードルが高いうえに鯨肉販売価格を更に押し上げる高コスト体質に直結しますが・・)、地球温暖化対策に積極的な姿勢を具体的に打ち出すのであれば、そして、それが畜産業界の行動より勝っているならば、「捕鯨はエコ」という主張は確かに一定の正当性を持ち得るでしょう。
 ただし、日本の農水省がどちらかをエコヒーキすることは許されない話。なぜって、政府にとっては日本のトータルの排出量を減らすことが第一義だからです。公平にバックアップするか、もしくは第三者に検証させてコストパフォーマンスの優れた方を優先するべき。

■「鯨肉は牛肉よりエコ?」報道に関する公開質問状 (拙過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/29378622.html
■捕鯨は牛肉生産のオルタナティブになり得ない (拙HP)
http://www.kkneko.com/ushi.htm

 最後に、もう一点補足しておきましょう。オバカな御用新聞や応援団と異なり、一昨年にノルウェーの捕鯨擁護団体ハイノース・アライアンスが、産経よりはマシながら日本の遠洋捕鯨とは無関係な「捕鯨はエコ」主張を展開したときも、捕鯨サークル自身は沈黙を守っていました
 それには一つの大きな理由があると考えられます。鯨肉と牛肉その他との置換が可能だという議論は、彼らにとっては“諸刃の剣”となって自らに跳ね返ってくる非常にキケンなもの。
 
今回の一件が、産経の暴走によるのか、裏でやっぱりつるんでいたのかはもちろんわかりませんが、筆者に横槍を入れてもらってホッとしているヒトも、中にはいるかもしれません。
 おそらく彼らは、「捕鯨はエコ」という主張を二度としないでしょう。「環境に優しい捕鯨」に生まれ変わるべく真剣に努力を払うこともしないでしょう。環境負荷をバンバン増やすことを至上命題とする持続的利用論と唯我独尊的食文化論に、これまで以上にしがみつくことでしょう。

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2009年06月02日

はぐれマッコウ騒動の顛末/捕鯨ニッポンと対蹠的なブラジルのイルカ共存文化

◇はぐれマッコウ騒動が映し出したもの──それは迷える日本人の動物観・生命観

■あのクジラ、18日ぶり湾から外洋へ…和歌山・田辺沖 (6/1,読売)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090601-00000470-yom-soci (リンク切れ)
■<迷子クジラ>和歌山・内ノ浦湾から脱出 外洋近くに (毎日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090601-00000036-mai-soci (リンク切れ)
■迷いクジラ 外洋めざし移動 (産経)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090601-00000106-san-soci (リンク切れ)

 正直ホッとしました・・。まだ100%安心とはいきませんが。おそらく、ネコや、多くの野生動物の個体が見せる、肉体的・精神的に傷ついた(ストレスが加えられた)状態に陥ったときの行動と同じだったんだろうと思います。代謝の高い小型の動物だと命に関わりますが、クジラであれば絶食にもある程度の期間耐えられますし。
 三重大の吉岡教授は「障害物を避ける動きもあったので、自力で泳ぐことは問題ないと思う」(産経)と指摘。科学者のくせに予測がハズレっぱなしの鯨研石川創氏は、「長期間の絶食に耐えられる体力が残っていたのだろう。遊泳中に偶然、湾の出口を見つけたのではないか」(読売)などと素人の感想と変わらぬコメントでお茶を濁しています。毎年毎年国民の血税を無駄な致死的調査に注ぎ込んでいる組織の次長で、「いつ自動小銃が火を噴くんですか?」などと平気で口にする人物が、野生動物を生かすためのノウハウを持ち合わせているはずもありませんが。今回の騒動で、鯨研・日本の鯨類学者の科学者としての無能ぶりがとことん暴露されたといえます。
 同時に今回の事件は、日本人の情緒的で非合理的な動物観を私たち自身にまざまざと見せつけるものでした。山のように押し寄せる観光客、「助けてあげて」と殺到する電話……ニンゲンは感情的な動物なのですから、ある意味当然の反応でしょう。
 ですが、実は筆者個人は結構冷めた目でながめていました。野生動物の自然死は避けられないこと。計算上必然のこと(でなけりゃとんでもないことになる!)。自然の摂理として仕方のないこと。自然死が避けられない野生動物の中でも、タマちゃんやクーちゃんや今度のマッコウなどは、死亡率が高く繁殖に寄与する可能性も低いはぐれ個体、"保険の対象外"の存在。名前すら付けられないまま死にゆく無数の野生動物の個体と同じく。いや、それ以上に。
 今回のマッコウについていえば、ストランディングの過程にあるものとして、その原因究明のために健康状態等を把握するべく致死的調査の対象とする科学的必要性は、毎年耳垢と胃内容物のコレクションを積み上げるだけの調査捕鯨よりずっと高いはずでした。国際的に認められ得る、科学的に意義のある調査捕鯨の対象といえたのです。消費的に利用するにしても、’60年代後半から開発し始めた南半球のクロミンククジラと異なり、縄文時代から続く伝統的なスタイルに近い正当な利用になり得ました。
 「殺したくない」という人間らしい感情は大切にしたいと思います。しかし、科学より感情を優先する日本の大衆は、NPOや豪州政府が撮影した調査捕鯨の映像や、「殺してるのは実の親子じゃないからいいんだ」というヒステリックでトンチンカンな鯨研の言い訳に対し、心を痛める反捕鯨諸国の市民と、一体どこが違うというのでしょうか???
 自国の伝統などとは何の縁もない南極の海を自由に泳ぎまわる健康なクジラたちを毎年何百頭も殺している国にあって、たまたまテレビを付けたら映像が目に入った野生動物のみを贔屓にするのは、合理的とは到底いいがたいでしょう。釧路のクーちゃんや動物園のアイドルたちに名前を付けて騒ぎ立てたり、便乗商売を始めたり、重要な社会問題を差し置いて狩猟対象のカルガモ親子の映像をニュースで流すような、差別的な愛誤にも通じるものがあります。
 それにしても、この子には結局正式なニックネームは最後まで付かなかったね・・。釧路と違い、捕鯨業界に遠慮して損した田辺市。野生動物に対してここまであからさまな差別待遇をするのは、世界広しといえど日本だけだと思いますが・・。
 心やさしい日本の市民の皆さん。その熱情があるのなら、政府の委託事業、国庫からの補助金という形で間接的に責任のある「野生動物の命を奪う行為」に目を向けてください。自国のことだけでなく、よその国の自然の一部を侵していることにも関心を払ってください。殺す科学に特化した機関であっても、命を救うことにかけては結局何の役にも立たない鯨研に対し、「助けてあげて」と声を伝えてください。
 当の離れマッコウは、別に「日本人の動物観・生命観をあぶりだす使者」としてやってきたわけでもなく、「骨休みしようと思ったらちっこい動物の群れがえらい騒がしかったなあ・・」と思ったか、本来属する自然とつながりのない丘の獣のことなどすぐ忘れてしまうか、きっといずれかでしょうが・・・

参考リンク:
■人として正しいことか|紅海だより
http://inlinedive.seesaa.net/article/119631465.html
■捕鯨とナショナリズム──捕鯨擁護派はこんなんばっか? (拙過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/28972939.html

 

◇捕鯨ニッポンとは対蹠的な地球の反対側でのヒトとイルカの理想的な共存──世界的にも稀有な異種協同文化

■ブラジル〜人と漁をするイルカ|知られざる野生 (5/31 a.m.0:30-,NHKBS-1)
http://pid.nhk.or.jp/pid04/ProgramIntro/Show.do?pkey=001-20130105-10-15692

 '06年に放映された海外放送局との合作ドキュメンタリーの再放送。
 『世界ウルルン滞在記』など日本のTV番組でも何度か取り上げられたことのある、ブラジル・ラグーナでのバンドウイルカとヒトとの協同の漁のお話。
 200年続く伝統のボラ漁は、野毛の鯨肉料理屋なんぞとは重みが格段に違いますが、それだけではありません。この伝統はイルカの側にとっても集団内の個体間で継承される後天的な文化活動であり、すなわち異種合同の伝統文化という、世界でも類稀なきわめて価値の高い文化なのです。
 古式捕鯨時代の日本の捕鯨業者は、捕殺に特化した技術で秀でていた以外、イルカ・クジラについてろくな生物学的知識がなく、クジラを魚だと思ったり、ミンククジラを種として認識できなかったりしましたが、ラグーナの漁師たちは鯨類学者顔負けの個体識別を行っています。
 ブラジルのこの漁を生物学的にみれば、異種間の利他行動であり、共利共生の一つといえるでしょう。最近流行りの言葉を使えば、戦略的互恵関係と言った方が近いけど。
 異種間の利他行動も、後天的な文化も、霊長類や鯨類に限らず動物の間で広く観察されることです。しかし、生態系における様々な種間関係や利他行動の大半は、自然選択の結果の積み重ねである生得的なもので、進化史上のトピックであるのに対し、この種間関係は生物学的には短い期間のうちに確立されたもので、異種それぞれのミーム(R・ドーキンスが提唱した非分子生物学的な遺伝情報単位)がDNAに代わる主役となっています。つまりミームの共進化の事例なのです。
 筆者はラグーナの共生型伝統漁業をUNESCOの文化遺産登録筆頭候補に推したいと思います。
 現在、この連携漁法を心得ているイルカは20頭ばかりとか。この素晴らしいヒトとイルカという2種の動物の関係が、いつまでも存続することを願わずにはいられません。

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2009年05月28日

沿岸調査捕鯨が日本の漁業の役に立つ!? んなアホな!!

◇クジラ関連ニュース・クリッピング

■沿岸捕鯨再開 合意まで粘り強い交渉を (5/25,西日本新聞社説)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/98090 (リンク切れ)

 全国紙の産経に並ぶ地方紙の捕鯨ヨイショ筆頭株、西日本新聞。内容は中日社説と同レベル。
 捕鯨ニッポンのカガク的ジゾク的捕鯨論は、北朝鮮の唱える核抑止論に瓜二つですね。NPTや6カ国協議を蹴ったならず者国家のように、環境ならず者国家がIWCを蹴って破綻への道を歩みだすことがありませんように・・・


参考リンク:
■IWC中間会合関連報道クリッピング (拙過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/27603022.html

 

◇沿岸調査捕鯨が日本の漁業の役に立つ!? んなアホな!!

■三陸沖鯨類捕獲調査:結果を発表 仙台湾にミンククジラ多く回遊 (5/27,毎日宮城版/河北新報)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090527-00000031-mailo-l04 (リンク切れ)
http://www.sanriku-kahoku.com/news/2009_05/i/090527i-chousahogei.html (リンク切れ)
■2009年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)沿岸域調査(三陸沖鯨類捕獲調査)の終了について (5/26,農水省)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/enyou/090526.html

 シーシェパード口撃が主要任務らしい鯨研は相も変わらず自前のHPで何の発表もせず、農水省はサラリと数行のみ。なので、報道した毎日新聞の地方版と河北新報の記事をチェックしてみましょう。

「沿岸商業捕鯨が行われていた1980年代の環境に戻った」とする調査成果を明らかにした。(引用)

 上記は毎日からの引用ですが、要注意。ここでいう「環境」とは、一体何を指しているのでしょう? 記者は一体どういうつもりでこの用語を用いたのでしょう? 読者の皆さん、理解できました?
 もう一方の河北新報記事を読むと、一体何が言いたかったのか≠ェ少し見えてきます。


未成熟個体が多かったことについて、調査総括の加藤秀弘東京海洋大教授は「長期的な海況変動で餌分布が変化したため、若い個体がそれにつられたのではないか」との見方を示した。「一九八八年の商業捕鯨モラトリアム(凍結)以前の個体分布のようだ」とも話した。(引用)

 そもそも60頭では統計的なサンプルとして有用な数字とはいえないのですが(だから曖昧な表現にとどまっている)、年齢分布が過去のそれに近いといってるだけ。沿岸事業者の捕獲統計データはメチャクチャだったことも指摘されていますし・・。加藤氏はこの点について、もっともらしい解釈(青字部分)を付けています。が、「個体数が戻った」などとは一言も言ってません。当然ですけど。赤字の部分は研究者らしくない蛇足の感想
 毎日の短い記事は、二つの非常に危険な誤解を生みかねない内容となってしまっています。

1.「環境」という言葉を用いることで、「生態系の解明に役立つ調査」というイメージを演出している。

2.「商業捕鯨していた時代のクジラの数に戻った」と匂わせている。「捕鯨によって激減した個体数がモラトリアムの効果で戻った」という見方も成り立ちますが、そう読む読者はいないでしょうね・・。

 そういうわけで、記事としての質は河北新報の勝ち。
 両紙にはもう一点気になる記述が。平均体長が調査開始以来最小(過去5年間の平均6mから5.1m)。今回の調査では未成熟個体の比率が高かった、というだけにすぎないのでしょうが、捕獲数が多いメスの平均体長がオスより小さいのが、統計的にあまり意味がないとはいえ、ちょっと気になります。通常はメスの方がサイズがでかいはず。
 この沿岸調査捕鯨は、漁業とクジラとの競合関係を調べるという建前で行われています。調査捕鯨で南極からわざわざ持ち込んだあぶれ鯨肉のせいで割を食っている沿岸事業者に仕事を与えて不満を封じること本当の動機といえますが・・。とはいえ、この建前の正当性がどれほどのものか、もう少し突っ込んでチェックしてみましょう。

 ぶったまげたトンデモ食害論については、筆者や猫玉さん、marburg_aromatics_chemさん、Adarchismさんをはじめ市民ブロガーのみなさんが何度も何度もな・ん・ど・も、さんざん繰り返し、あの捕鯨ニッポンを代表する立場の森下参事官でさえ曖昧表現三段活用法を使って否定してくれているにもかかわらず、一向に火の粉が衰える気配がありません。『SCIENCE』のような科学専門誌から『TIME』のような一般誌まで論文・記事が掲載され、世界でもすでに知れ渡っていることなのに、日本でのみ常識と非常識が逆転しているのはあまりに恥ずかしいことといわざるを得ません。これもひとえに、捕鯨サークルと梅崎氏を始めとする宣伝マンのせいですが・・・
 で、今回の沿岸調査捕鯨の結果報告に合わせ、胃内容物の82%を占めていたというイカナゴ(地方名メロウド)に関する文献を拾ってみました。

■イカナゴ資源管理に関する研究|三重県水産研究所
http://www.mpstpc.pref.mie.jp/SUI/100aniv/85.HTM
■研究紹介:生態系アプローチ|Finding
the balance of nature and man (水研センター・清田外洋生態系G長のHP)http://cse.fra.affrc.go.jp/kiyo/home/pop/intro/Research.html
■平成15年イカナゴ類層や海況の資源評価|北海道区水産研究所
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests15/details/1572.pdf
■イカナゴシンコ(新仔)の漁況予報|兵庫県水産技術センター
http://hyogo-nourinsuisangc.jp/18-panel/pdf/h19/suisan_01.pdf
■瀬戸内海における最近の漁獲量減少傾向〜クラゲが魚を駆逐する?|広島大学海洋生態系評価論研究室
http://home.hiroshima-u.ac.jp/hubol/essay/gyojelly2.html

 一番上のリンクには、半世紀をかけた地道な研究の成果が記されています。もちろん、クジラのクの字も出てきません
 魚探(魚群探知機)の導入により新仔の漁獲が飛躍的に増大、資源の急激な減少を招いたこと。当初、親魚の禁漁を指導しようと試みたものの、科学的資源管理手法が「容易に漁業者には受け入れられず、資源の回復は進まなかった」こと。爆笑を買った」との記述も見られますね。これ、よくあるパターン”です。
 漁業者の自制力、「海の自然への理解」って、しょせんこの程度の代物なのです。真に優れた漁業者とは、その「無知」を自覚して、短期的損益を覚悟のうえで研究者の助言に真摯に耳を傾けられる人たち。関係者であれば、言われずとも黙って頷くはずのこと。そして、残念ながら日本の近代捕鯨事業者の中には、まっとうな漁業者はスズメの涙ほども存在しなかったようですが・・。三重のイカナゴ漁のケースでいえば、漁業者の理解を得て、こうした資源管理が成果を挙げるまでには、結局30年、40年の歳月を要しています。
 イカナゴの捕食者には、ヒラメやマダラなどの大型魚類、カモメやウ、ウミガラスなど多くの海鳥類、そして海棲哺乳類がいます。海棲哺乳類の中には、クジラ以外の鰭脚類も当然含まれます。調査捕鯨を行った仙台湾のイカナゴ資源と関係するのはキタオットセイ。2番目のリンクは水産総合研究センター(「捕鯨はエコ」と言い出したIWC政府代表中前氏が理事長やってるとこですが・・)の研究者の方のHPなのですが、キタオットセイについてはちゃんと非致死的な生態調査に取り組んでおられる模様。

・東北沖における浮魚相の長期変動に対するキタオットセイの反応
仙台湾におけるキタオットセイとイカナゴと漁業の相互関係
非捕殺的手法による海生哺乳類の食性推定

 実はもうひとつ、捕食者の中にはイカナゴ自身(親魚)も入っていたりします(1番目のリンク)。

イカナゴ親魚が仔魚を共食いする現象についても、飼育実験や野外調査を通じて定量的評価が試みられ、再生産に及ぼす影響がきわめて大きく、リッカー型再生産関係を形成する主な要因となっていることが明らかとなった。伊勢湾産イカナゴの加入量は、基本的には親魚量によって決定されることがわかり、翌年漁期のために適切な親魚量を確保するという「再生産型資源管理」の有効性が理論的に裏付けられた。(以上引用)

 逆説的に聞こえるかもしれませんが、イカナゴの場合、親魚があまり多いと返って再生産率が落ちるのです。これもまた、イカナゴ以外の魚種にも見られる、よくあるパターン。一定の周期で大きな魚種変動を引き起こすメカニズムのうちの一つと考えられます。年齢分布がある程度分散されていれば、極端な変化は起きないと考えられるので、まじめな水産研究機関≠ヘそれに沿った資源管理・漁況予測を行っているわけです。
 素朴な間引き論者からは、「イカナゴを守るためにイカナゴを間引けといったトンチンカンな主張が飛び出してきそうですね・・。
 イカナゴを取り巻く生態系を本当に把握しようと思ったら、すべての捕食者(親魚含む)の個体数・摂餌量の解明に等価のリソースを投入しなくてはなりません。しかも、胃内容物調査はバイオプシーによる脂肪酸解析と異なり、捕殺直前に食べた餌生物しかわからず、「この時季の捕食者のひとつ」といっているにすぎません。まさに調査捕鯨の科学的不必要性を示すもの。
 また、イカナゴの幼魚はカイアシ類などの小型の動物プランクトンと珪藻、成魚は各種の小動物(同種の稚魚含む)を捕食します。漁業資源の動向を見極める上では、餌生物の資源状態は捕食者以上に重要。研究者であれば常識でしょう。また、競合種の資源状態の把握もやはり捕食者以上に重要。
 実は、イカナゴにとって脅威になっているのはクジラではなく、同じエサを奪い合う関係にあるクラゲの方(5番目のリンク)。何しろ、ニンゲンによる汚染や生態系の種構成変化に強いですからね・・。
 もう一つ、温暖化による海水温や潮流の変化の把握も重要。特に仙台湾のような内湾であれば、こうした物理的変化が生態系に与える影響は深刻です。クジラはまだよそへ行けばいいでしょうが・・。

 もう一つの参考資料をご紹介。

■中日新聞は「クジラ食害論」を信じているのだろうか|ドイツ語好きの化学者のメモ
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/61376980.html

 上掲ブログで、ミンククジラの餌生物のもう一種であるサンマについて解説してくれていますが、サンマの最大の捕食者はスルメイカ。繁殖率・個体数・生物量(バイオマス)を考慮するなら、ミンククジラの間引き効果は完全に相殺されてしまうでしょう。むしろ、スルメイカの再生産率を上げて、逆にサンマの漁獲量を減らしてしまう可能性の方が高いとさえいえます。
 クジラと漁業のみに焦点を絞った“作業”は、漁業にとって有害以外の何物でもありません。
 
森の中のたった2本の木の関係だけを見て、森全体がわかるはずがないでしょう。特定の海域、特定の時季、特定の対象種に限って大量の経年胃内容物サンプリングを行うという、すさまじいまでに偏向した異常でいびつな生態学調査は、世界でも例をみません。科学的あまりに無意味だからです。
 最初に業態存続ありきの調査捕鯨からは、漁業管理に本当に役立つ成果など決して上がってくることはありません。断言。

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2009年05月21日

捕鯨とODAと温暖化と太平洋の島国/捕鯨は生態系破壊!!

◇捕鯨とODAと温暖化と太平洋の島国

■<島サミット>ODAに500億円拠出へ (5/20,毎日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090520-00000019-mai-pol (リンク切れ)
■環境支援で500億円拠出へ=22日から島サミット (時事)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090519-00000196-jij-pol (リンク切れ)
■<島サミット>島しょ国支援強化へ 中台と「票田」争奪戦 (5/18,毎日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090518-00000084-mai-pol (リンク切れ)
■太平洋・島サミット:占冠で22、23日 太平洋17カ国・地域首脳ら集合 (5/16,毎日北海道版)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090516-00000007-mailo-hok (リンク切れ)
■第5回太平洋・島サミット公式ホームページにようこそ! (外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ps_summit/palm_05/index.html

 北海道占冠で22、23日に開かれる太平洋・島サミットに関する報道。この中で麻生首相が「3年間に500億円のODA拠出」を表明しました。一見捕鯨と関係なさそうに見えますが・・・

参加国はいずれも親日国で、国連などで日本の「票田」だが、中国、台湾からの援助急増で日本の存在が薄れかねないとの懸念も出ている。政府は環境対策を中心に前回を上回る500億円規模の支援策を打ち出し、「日本支持」を念押しする考えだ。(毎日から引用、強調筆者)

 国連と並ぶもう一つの「票田」とは、もちろん皆さんご存知のIWC(国際捕鯨委員会)。太平洋島嶼国のうち現在6カ国が、日本をリーダーとする“捕鯨支持同盟”の仲間入りをしています。
 同サミットは反捕鯨国である豪州・NZも参加しており、サミットの場で直接捕鯨問題に触れられることはないでしょう。しかし、事前の二国間首脳会談などでは、未加盟国へのリクルート含め、「IWCの方もヨロシク」と一声かけられることは想像に難くありません。
 外務省の公式HPでは、20日までに捕鯨支持国キリバスを含む3カ国の首脳と麻生首相が会談しています。会談の概要を見ると、捕鯨に関する言及は見当たらないものの、どの国でもカネによる援助のスタイルとして最も見栄えのするODAインフラ事業に関する“謝辞”“要望”がズラリ。つまり“本題”はこっちということでしょうね・・。
 麻生首相の公約「3年500億」、これは先進2カ国を除く12カ国・地域に対して1カ国・1年当り14億円弱が供与される計算。これも、捕鯨支持国とそれ以外とで“格差”がつくことでしょうが・・。支援策として「気候変動対策と環境保全」「人間の安全保障」「人的交流」の3本柱が挙げられていますが、このうち「環境保全」と「人的交流」の名目で、鯨研のオトモダチ外郭団体・海外漁業協力財団による捕鯨利権がらみの水産技術協力が含まれる可能性は高いでしょう。また、日本のODAが“得意”とするインフラ整備にも、海外水産コンサルタンツ協会に加盟する多くのゼネコンが、“お得意先”の仕事にありつこうとこぞって名乗りを挙げると思われます。 
 ところで、日本政府の地球温暖化対策の中期目標に関しては、経団連など経済界・財界に押され、“間を取って”「2020年に97年比7%減」に落ち着くという見通しが伝えられています。

■<経済同友会>温室ガス削減目標「7%減」案を支持 (5/19,毎日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090519-00000010-mai-bus_all (リンク切れ)
■2020年温室効果ガス目標で政府分析 「EU削減値 実質は5%」 (5/20,フジサンケイビジネスアイ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090519-00000044-fsi-bus_all (リンク切れ)

 とくに下のリンクは読んでびっくり。報道しているのは、鯨研のオトモダチ産経のグループメディア、試算をしたのは国立環境研究所ですが、先日拙記事でお伝えした水産総合研究センターの「捕鯨はエコ」主張とまるでそっくり。温暖化が引き起こす影響と被害コスト・対策コストに関する考証がなく、現実を直視しているとは到底いえませんね。
 国際的に見て公平・公正で、比較検証しやすい最適かつ「現実的」なパラメータは、<1人当り排出量>であり、日本はとくに効率だけでなく、“浪費”や“ムダ”をなくす真剣で「野心的」な取り組みが必要なのではないか……と筆者個人は思うのですが。
 いずれにしても、これでは「地球温暖化問題における世界のリーダーシップを日本がとる」などというのは、夢のまた夢の話といえるでしょう。
 政府は今回の太平洋・島サミットで「温暖化対策での連携強化に向け、“太平洋環境共同体”の創設を提唱する」としています。しかし、大量の温室効果ガス排出と引き換えに多大な経済的恩恵を被った先進国でありながら、こんな後ろ向きの姿勢を示すことしかできない日本を、温暖化の影響が最も深刻で危急の問題として認識している太平洋島嶼国が、強力な同盟関係を結ぶに足る相手とみなせるでしょうか? ましてやリーダーと認めて付き従う気になるでしょうか?? 

キリバスのような小国にとっては、この問題(地球温暖化)は経済成長やライフスタイルといった問題ではなく、キリバスにとって生存に関わる問題である。

 上記は、麻生首相と18日に会談した捕鯨支持国キリバスのトン大統領の発言です(外務省HP)。麻生首相、ちゃんと聞こえてましたか? それとも、またぞろ私の所管じゃない」ですか??
 18日の毎日記事では、「中国版島サミット」に対する“対抗意識”についても解説されています。太平洋諸国の中台乗り替えは有名な話。双方を競わせ援助を引き出す手練手管も、小国が生き延びるのに必要な強かさ──という見方もできるかもしれません。これらの諸国が日本から援助を引き出そうと思えば、それこそお茶の子さいさいでしょうね。

 外務省(及び農水省からの出向組)の皆さんへ。
 太平洋島嶼国との関係を重視すること自体に異存はありません。しかし、何でもかんでもカネで解決しようとするのは如何なものでしょうか?
 現在のODA配分は、バランスの観点からあまりにも公平性・公正性に欠けると思いませんか?
 ODAをあまりにも政治的道具として援用しすぎていませんか?
 あなた方は「オーナーシップとパートナーシップ」の考え方を履き違えていやしませんか?
 これらの太平洋諸国が、自立的・主体的に地域の方向性について議論・決定し、日本、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどの先進国は、そのバックアップに徹するのが正道なのではありませんか?
 日本が誠実なサポートをすれば、それだけ市民・政府の信頼は高まり、様々な国際舞台での支援や理解も得やすくなるでしょう。「日本が導いてやる」などという時代遅れの尊大な札束外交は、まさに外交の邪道だと思いませんか??

 太平洋島嶼国の皆さんへ。
 IWCに加盟して支持票を入れるだけで、皆さんの国家予算からすればとんでもない金額に上る援助を供与され、土建屋さんハコモノインフラをどんどん整備して“お小遣い”もくれるのだから、確かにこれほどオイシイ話はないでしょう。
 しかし、長期的な視野に立った場合、果たしてそれは賢明なことでしょうか? 実際、中台関係は昨年の台湾の政権交替で激変したわけです。
 IWCをめぐり豪州が対抗姿勢を表明して、それこそ中台のような買収合戦の様相を呈する──という事態には、幸いにして至っていません。捕鯨支持から政策を転換したソロモンは、拙記事で解説したとおり、国際機関と日本を含む各ドナーが協調して援助を行うバランスの取れた理想的な援助モデル国となりつつあります。太平洋諸国の皆さんには、植民地としての過去も振り返りつつ、目先の利益に捉われることなく、環境と両立する持続的発展のために必要な国際協調について、真剣に検討していただきたいと思います。

参考リンク:
■捕鯨援助の特徴その5:調整・協調なしの唯我独尊援助 (拙HP)
http://www.kkneko.com/oda2.htm
■ODAで買うクジラ票・非捕鯨国をご接待 (JANJANニュース)
http://janjan.voicejapan.org/government/0905/0905140329/1.php
■ODAで買うクジラ票(下)疑惑まみれ水産ODA (JANJANニュース)
http://janjan.voicejapan.org/government/0905/0905140329/1.php

 

◇捕鯨は生態系破壊!!

■鯨骨生物群集|WIKIPEDIA
群集">http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AF%A8%E9%AA%A8%E7%94%9F%E7%89%A9%E7%BE%A4%E9%9B%86

 日本の捕鯨擁護プロパガンダの大本の発信元である捕鯨協会のPRコンサルタント・梅崎義人氏から、愛誤獣医議員・山際氏、愛誤学者・山田氏などの著名人/有識(?)者、最下辺のウヨガキ君たち応援団に至るまで、捕鯨賛成派の大半は「クジラは野生動物ではない」「海は生態系ではない」「捕鯨は環境破壊ではない」などと、明らかに事実に反する主張をしています。「科学とは、これすなわち水産資源学のみである」と思い込まされ、海をあたかも同じ自然法則の通用しない別次元の惑星のように扱ったり、クジラをエイリアンででもあるかのようにみなす、きわめて非科学的な過ちを犯し、生物学・生態学に対するあまりの無知ぶりをさらけ出しています(ただし、梅崎氏は無知なのではなく、おそらく嘘をついているのでしょう)。
 日本に比べずっと環境教育の進んでいる他の先進各国の市民であれば、「当たり前のことだ」とうなずくでしょうし、環境問題・野生動物の問題に関心のある日本の皆さんにも、改めて説明する必要はないでしょうが、「なぜ捕鯨が環境破壊なのか」、マデイラ総会を前に簡単に講義しておこうと思います。掻い摘んで説明するというのが、筆者は苦手なんだけど(--;
 海洋で最大級の生物であるクジラは、天敵と呼べる捕食者がほとんどいません。シャチも魚もしくは鰭脚類やネズミイルカなどが主食で、大型の健康な成熟したクジラ(IWCの管理対象である大型鯨種)の個体が捕食されるケースは稀です。自然死亡した後のクジラの死体は、サメなどの一次スカベンジャー(掃除屋さん)に一部を捕食された後、基本的に生前の捕食によって直ちに食物連鎖に取り込まれる魚など他の小型の海洋生物群と異なり、残りの多くの部分が海底に沈降します。海底にまで到達した死体は、さまざまな分類群を擁する底生の小型スカベンジャーによって"解体"され、物質循環が一巡するわけです。これが、リンクで紹介した鯨骨生物群集
 以前にも当ブログで記事にしましたが、この鯨骨生態系は貴重でユニークな生物群を育み、ゾンビワームとかハナジルナンチャラワーム(名前はヘンテコだけど、とっても綺麗なゴカイやケヤリムシ、チューブワームの親戚)とかゲイコツナメクジウオいった新種も発見されています。まだ未発見の種もきっと数多く残されているでしょう。また、それぞれの海域ごとに固有性の高い種構成を持っていると考えられます。不連続的な環境であるブラックスモーカー(熱水噴出孔)生物群集の分散・継承との関連も指摘されています。
 回遊性のクジラは、海鳥などとともに、生産力の高い高緯度から生産力の低い低緯度・外洋域・深海に相当量のバイオマスを輸送するきわめて重要な役割を担っているのです。川に帰って陸上の野生動物の糧や樹木の養分となるサケなど遡河性魚類、逆に沿岸域の生産性を高める魚付林などにも決して引けをとらない、海洋生態系に不可欠の存在なのです
 ストランディング(漂着)した一部の鯨類の死骸も、陸上を含む沿岸の生態系に還元されます。厳格な混獲鯨利用や先住民生存捕鯨のレベルであれば、ヒトによる利用もまだその一部とみなすことは可能でしょう(ただし、乱開発汚染・乱獲で海洋の生産性をとことん下げてしまっている日本は別!)。
 そして、ニンゲンの先祖がまだ木の上のサルだった頃から連綿となく続いてきた、海洋生態系の生命の連環を断ち切ったのが、捕鯨に他なりません。近代商業捕鯨によるシロナガスクジラの激減が、こうした底生生物群集に悪影響を与えている可能性については、以前から研究者によって指摘されてきたところ。当然のことながら、シロナガスクジラが激減した以上、ナガスクジラやミンククジラ等他の大型鯨類による"供給"は一段と重みを増してきます
 脳が化石化した旧いタイプの水産学者や素人の捕鯨シンパは、「海洋生態系は単純だ」などと本気で信じ込んでいるようですが、これはまったくの見当違いです。
 生産者(藻類だけでなく硫化水素還元タイプの細菌類なども含む)・低次捕食者・高次捕食者・分解者に至る海洋食物連鎖の階梯は、実際には表層から深層に至る各深度間をまたぐ物質移動が行われ、また各種のニッチが成長段階に応じてめまぐるしく変遷する、非常に複雑な多層構造を持つことがわかってきています。捕鯨擁護派は「オキアミやカイアシ類を捕食するヒゲクジラ類は低次捕食者だ」と主張していますが、これは大きな誤り。そのうえ、「クジラが魚を食い尽くす」などという、上記の主張と真っ向から相反するデタラメも平気で吹聴するところに、科学的思考力の欠如がありありとうかがえますが・・。
 二次はそもそも低次とはいえないのですが、動物プランクトンレベルで既に多段階の〈捕食−被食関係〉が成立しており、高次という点では陸上の猛禽類や大型食肉目と変わりありません。また、実際にはシロナガスやピグミーシロナガスなども含め、個体群あるいはその時々の状況に応じて、浮魚類も捕食対象としており、餌生物のバリエーションには可塑性があります。このことが明らかになったのは、捕鯨や致死的調査ではなく、正統派の非致死的研究の成果
 魚種交代のような大きな突発的変動が起こるのが、陸上と異なる海洋生態系の特徴。その中で、繁殖率の非常に低いクジラなどのK種タイプの種が一千万年以上の永きに渡って存続できたのは、まさしく海が単純な自然などではないからです。これまた当たり前の話なのですが・・。
 鯨研の致死的資源学調査は、こうした複雑な海洋生態系の構造の解明には一切寄与しません。
 
最近では、生態系の解明も調査捕鯨の看板に掲げていますが、非現実的な単純化されたモデルを前提としており、海外の生態学者の批判に耐えるものではありません。しょせん、彼らは畑違いの水産学者なのです。しかも、特定の対象と手法に限定して圧倒的なリソースを集中させるきわめていびつな内容で、生態学の発展に貢献するどころか有害でしかありません。
 「猛禽類や大型食肉目の経年千頭捕殺が生態系解明に役立つ」などと聞けば、生態学者の誰もが目を丸くするでしょう。カタクチイワシが豊富な時はカタクチイワシの捕食量が、サンマが豊富な時はサンマの捕食量が増える──学生がこんなレポートを提出したら落とされて当たり前の、素人が考えてもすぐわかる小学生の夏休みの自由研究レベルの捕殺調査が、科学誌に掲載されるわけもなし。
 資本企業に雇われたただの労働者・捕殺技術の精度向上に特化したただの職人にすぎない捕鯨産業従事者も、その捕鯨業界に寄生してきた御用学者も、クジラが歌を歌うことさえ知りませんでした。9割以上をニンゲンの目に見えない海中で過ごす、ベールに包まれたクジラたちの生態について、彼らは何一つ、本当に何一つ知りはしなかったのです。
 クロミンククジラの冬季の低緯度海域における繁殖生態や社会行動についての科学的データは、未だにほとんど白紙の状態です。鯨骨生物群集において果たす役割についても、また然り。
 近代捕鯨事業者があっという間に彼らを激減させ、自滅の道を歩んだのは当然のことでしょう。その理由は単純明快、「無知の知」ならぬ「無知の無知」何も知らないくせに何もかも知っているつもりでいる傲慢さです。「ワイズユース」だの「持続的利用」だのと口にするのは、おこがましいにもほどがあります。
 ニンゲンというサルにとって、体感的にある程度理解可能であるにも関わらず、およそ管理できていない身近な自然をサステイナブルに利用する「最低限の知恵」「慎ましさ」をまず身に付けましょうよ、日本にお住まいのニンゲンの皆さん。南極の自然まで強欲に貪ろうとする前に・・・・

参考リンク:
■調査捕鯨で絶対わからない種間関係の生物学的重要性 (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/16989845.html
■これが生態系 (〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/12924873.html


 

◇ブログご紹介

■決裂必至の2009IWC総会?|flagburner's blog(仮)
http://blog.goo.ne.jp/flagburner/e/de60eb973c8ebe07e7299d7218b76b93

 前回お伝えした、作業部会の結論先送りに関して、flagburnerさんがBBCの記事を拾ってくれました。オトモダチ新聞産経よりよっぽどアテになります・・・

■WWFのアンケートに答えて魚介類の壁紙をもらった|ドイツ語好きの化学者のメモ
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/61304603.html

 水産庁よりWWFの方が、日本の正しい食文化を守るのによっぽど貢献していますね・・・

posted by カメクジラネコ at 01:28| Comment(6) | TrackBack(1) | 自然科学系

2009年04月25日

「捕鯨がエコ」だなんて冗談キツイ! 大法螺ばっかり吹いている水産庁の天下り団体と産経新聞

◇大法螺ばっかり吹いている水産庁の天下り団体と産経新聞


■鯨肉は牛肉よりエコ?CO2排出量は10分の1以下 (4/24,産経)
http://sankei.jp.msn.com/science/science/090424/scn0904240100000-n1.htm (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090424-00000509-san-soci (リンク切れ)

 またまた鯨研のオトモダチ新聞・産経がやらかしてくれました。
 産経新聞といえば、元論説委員の馬見塚氏が年収1千万円の役員の1人として送り込まれており、鯨研ときわめて濃厚なリレーションを築いているだけあって、これまでにも他紙にないスクープ報道を数多く連発してきたマスコミです。今回の記事は、水産庁所管の独立行政法人水産総合研究センター発で、水産庁のコメントも寄せられています。上記の報道が事実だとすれば、他のメディアがこぞって後を追いかけても不思議はない一大ニュースといえるでしょう。
 この水産総合研究センター、養殖技術とか水産畑で役立つ研究をやっている研究機関ですが、クジラ絡みでもどっかで名前を聞いたと思ったら、Mr.捕鯨問題こと小松正之氏が以前“飛ばされた”とこなんですね。結局、小松氏は「こんなとこいたって張り合いがない」と辞めちゃったんですが(「ナショナリズム煽る水産庁の罪・調査捕鯨担当者の辞表」『AERA』'08/4/7)。で、小松氏と入れ替わるように水産庁から天下ってきたのが、IWCの日本政府代表団長を務める元水産庁次長の中前明氏。水産庁を出てセンターの理事長となった昨年からも、サンチアゴ総会やローマ中間会合に出席しています。他の理事の面々はといえば、小松氏が出向した後の増殖推進部漁場資源課長のポストにいったん就いた奥野勝氏、元増殖推進部参事官の石塚吉生氏、元資源管理部審議官の長尾一彦氏、元農水省中国四国農政局次長の高島泉氏と、6人の役員のうち5人が農水官僚という見事なまでの天下り団体(後の1人は水産学者)。
 同センターのホームページでは、他の正直な外郭団体と異なり、役員の前歴を伏せています。あの鯨研でさえ載せてるってのに・・(もっとも、馬見塚氏の経歴は隠したけど)。最近、地球温暖化関連のシンポジウムも主催したようですが、講演の演目を見ると、主に漁業生産への影響に関するもので、遠洋漁業や養殖など高環境負荷型漁業の排出コストの問題は取り上げていない様子。

■独立行政法人水産総合研究センター
http://www.fra.affrc.go.jp/
■「地球温暖化とさかな」出版記念シンポジウム
http://www.fra.affrc.go.jp/topics/210330/program.pdf

 問題の記事ですが、実は2年前にノルウェーの漁業系NPO「ハイ・ノース・アライアンス」が沿岸捕鯨のデータをもとに似たようなことをマスコミに発表しており、日本のウヨガキ君たちが拡大解釈して「捕鯨はエコ!」と産経そっくりの見出しをブログに書きまくっておりました。当時、外野の応援団を除く捕鯨サークル(水産庁/鯨研/共同船舶)サイドはこの件については沈黙。筆者はこの問題に関して、昨年7月に市民WebニュースJanJanにて同団体の指摘が日本の母船式捕鯨に当てはまらないどころか、牛肉生産に匹敵するか場合によっては上回る大量の温室効果ガスを排出する高環境負荷産業に他ならないことを指摘しました。

■遠洋調査捕鯨は地球にやさしくない・日新丸船団、CO2を4万tは排出か?
http://janjan.voicejapan.org/living/0807/0807090629/1.php

 さて、今回の産経の記事は一体どう解釈すればいいんでしょうね? 水産総合研究センターに算出根拠をすっかり明示してもらわないと、どちらが間違っているのか、何を計算し忘れたのか、これではわかりません・・。
 と思いきや、産経が同センターの主張の一部を紹介してくれたことで、どちらに軍配が上がるかがはっきりしました。
 正しいのは筆者です。ハイ。しかも、これは単純に計算間違いをしたとかいうレベルではなく、水産総合研究センターの真っ赤な嘘だということが明らか(あるいは、産経がとんでもない聞き間違いをしたか・・)。
 自称院生ながら算数が苦手らしいウヨガキくんでも、プロのくせに算数が苦手らしい水産学者のお偉い先生方でもわかるように、今から筆者が懇切丁寧に講義してあげるニャ〜

<<<サルでもサンケイ新聞でもわかる算数講座>>>

 まず、記事の一部を引用しましょう(背景着色部分)。

数年前の調査捕鯨船団の燃料使用量からCO2の排出量を計算。捕鯨で生産・販売された鯨肉1キロ当たりのCO2排出量を試算した。
その結果、日本から約1000キロ沖で行われる北太平洋の調査捕鯨では、鯨肉1キロをとるために、約2・5キロのCO2が排出されていると推計。1万キロ以上離れた南極海の調査捕鯨では、CO2の排出量は増えたが、それでも約3キロにとどまった。
これに対して、畜産農家が牛肉1キロを生産するために、排出するCO2などの温暖化ガスは36・4キロと計算されており、鯨肉の排出量は10分の1以下になることが判明した。
牛肉生産では、牛の飼育やエサの生産・運搬などで大量のエネルギーが使われるが、鯨肉は、捕鯨船団の燃料だけですむため、温暖化ガス排出も比較的少ないという。

 「鯨肉は捕鯨船団の燃料だけですむ」大体この説明自体があまりにあからさまな嘘八百なのですが(後で詳述)、とりあえず目をつぶりましょう。。前提条件が単純になりますので。
 まず、水産総合研究センターは調査捕鯨船団のCO2排出量を、筆者と同様に最も誤差の少ない手法で導き出しました。つまり、燃料消費量から換算するやり方です。筆者は新聞記事をもとに推測するしかありませんでしたが、同センターは共同船舶から実際の数字を入手しているのでしょう。であれば、この数字は筆者のはじき出した結果より正確でなくてはならないはずです。
 筆者が導き出した数字は、燃料消費量が1400万リットル(A重油のみとした場合)ないし1600万リットル(C重油のみとした場合)、単位生産量当りのCO2排出量は7.7kgないし9.7kgというものでした。産経の2.5kg(JARPNU)及び3kg(JARPAU)と比べると、とんでもない開きがありますね・・。
 水産総合研究センターの計算が合っていることを前提に、ここで調査船団の燃料消費量と船の燃費を逆算してみることにしましょう。お暇な方は先に進む前に挑戦してみてください。数字のソースは以下のリンク。下の2つは捕鯨擁護派の方のデータベースですが、いろいろ重宝します。

■二酸化炭素排出量一覧表
http://www.skr.mlit.go.jp/eizen/image/hozen/09ondanka/co2haishuturyou.pdf (リンク切れ)
■北太平洋における日本の鯨類捕獲新調査(JARPN II)の経過表
http://luna.pos.to/whale/jpn_jarpn2.html
■南極海における日本の第二期鯨類捕獲新調査(JARPA II)の経過表
http://luna.pos.to/whale/jpn_jarpa2.html

 調査年度が書いてありませんが、生産量が最大で計画に一番近い2006年度の数字を用いると、鯨肉生産量は1900トン(JARPN)及び3400トン(JARPA)と見積もられます。生産量が多ければ排出量の対生産重量比は下がって(往復分の距離が同じなので)捕鯨業界に有利に働きますから、水産総合研究センターもたぶんこの年次のデータを用いているはずです。ですから、燃料消費量は以下の式で求められます。

   A×C=2.5(kg−CO2/kg)×1,900t (JARPN2分)
   B×C=3(kg−CO2/kg)×3,400t (JARPA2分)

 Cは定数の燃料のCO2排出係数。A、BがJARPN2とJARPA2の船団の総燃料消費量になります。ここではとりあえず、調査捕鯨船団が全船A重油を用いていると仮定し、A重油の二酸化炭素排出係数をもとに計算してみましょう。この手の計算で厄介なのは、計算そのものより単位を揃える作業なのですが、リンク先の換算表は欲しい単位に合わせてくれています。1トンは1万kgではなく1千kgですからくれぐれも間違えないように・・。
 すると、右辺(CO2排出量)が4,750トン(JARPN2)及び10,200トン(JARPA2)となるので、

   A=175万リットル
   B=378万リットル

 合計で553万リットルとなります。筆者の見積りの1/3ほどですね・・。
 JanJan記事で述べたように、「燃料費だけでも4億円増える」という鯨研筋の情報を朝日新聞が伝えています。記事が掲載された当時の重油の1リットル当りの価格差(対前年比)は約30円。海外漁業協力財団の無利子融資増額を期待しての言及であれば、過小な見積を出すことはもちろん考えられません。これをもとに筆者は、調査捕鯨にかかる重油消費量を1400万リットルと弾き出したわけですが、少なくとも1千万リットルを下回ることはないでしょう。融資増額を当て込んで、デタラメの数字をマスコミに流す姑息な真似をしたのでもない限り・・。

■クジラ肉、2年連続の値上げ 目標数を捕獲できず ('08/6/24,朝日)
http://www.asahi.com/ business/update/0624/TKY200806240296.html (リンク切れ)
■A重油納入価格調査推移表|石油情報センター
http://oil-info.ieej.or.jp/price/data/Ajuyu.pdf

 別の視点からツッコんでみましょう。 
 CO2排出量は燃料消費量に、そして燃料消費量は航行距離に比例します。ですから、この数字を航行距離で割ると、船団の各船の燃費(平均)を合計した値が出てくるはずです。実際の船の燃費は航行中変動するため、計算が非常に煩雑になるのですが、平均ということで大目に見てもらいましょう。出航時の満載した状態の燃料重量は約4500トンとなりますから、往路と鯨肉を積んだ復路の燃料消費の差は、他の貨物船などに比べるとかなり小さいと考えられます。
 ここで早くも、「JARPAUの船団すべてで3000トンしか燃料を消費していないのであれば、補給船など要らないだろうに」という素朴な疑問が沸いてきます。OB号改め第二飛翔丸は100%中積の役目しか担ってないんですかねぇ? 産経の記事に基づき、調査海域と日本との間の航行距離を片道1,000km×2で2,000km(JARPNU)、片道10,000×2で20,000km(JARPAU)とします。これに総探索距離(各調査船の探索距離を加えた延べの数字)を加えます。2006年度の数字を用いると、それぞれ22,679km(JARPN2)及び30,073km(JARPA2)となります(ソースの単位は海里なのでkmに換算、海里とマイルは違うのでご注意)。
 補足しておくと、総探索距離には目視調査の航行距離が含まれています。その分、過去の商業捕鯨時代より燃料消費が増えることになりますが、RMPにおいて資源量を推定するのに必須の作業である以上、当然ながら鯨肉生産に伴う排出量に含めないわけにはいきません。参入企業がなく再開の見込みが立たない以上、現行の「調査名目での商業捕鯨」の排出量であることも間違いのないところ。
 皮肉なことに、目視航行分の排出量をあえて取り除こうとすれば、往復の燃料消費の比重が高くなって、2.5と3というCO2排出量の調査海域間の小さな差が説明できなくなってしまいます。また、JARPNUでは捕獲数の半数以上が大型のイワシクジラとニタリクジラなのに対し、小型のクロミンククジラが捕獲対象の大半を占めるJARPAUの方は、探鯨・捕獲・曳航作業に伴う航行距離が大幅に伸び、単位生産重量当りの燃料消費を押し上げます。ですから、調査部分を強引にカットした数字を作ろうとすれば、仮にJARPNUの単位生産重量当り排出量を2.5kgとした場合、JARPAUは10kg以上といった極端に大きな数字が飛び出してくるでしょう。
 そうなっていないということは、少なくとも水産総合研究センターは目視航行分を外す形のズルはしていないはずです。どちらの作業にどれだけ燃料を消費したか計算するのは、実際問題としてほとんど不可能ですし。
 以上の前提に基づき、調査捕鯨船団の燃費を計算してみましょう。すると

   175万リットル/(1,000×2+22,679)km=70.9リットル/km
   378万リットル/(10,000×2+30,073)km=75.5リットル/km

 ご覧のとおり、かなり近い数字となっています。三陸沖と釧路沖の沿岸調査の分を上のJARPN2の式に加えれば、数字はさらに接近します。これまた不可解な数字といわざるをえません。なぜなら、JanJan記事でも解説してありますが、南極行の方がプラスαの排出オプションが付くからです。ひとつには、「吠える40度、叫ぶ50度、怒涛の60度」などと呼ばれる荒天海域を2度も突破しなければならないこと。調査海域自体も日本周辺など低緯度に比べれば荒天海域といえるでしょう。当然のことながら、通常の海を航行するのに比べ燃費が大幅に悪化します。
 捕鯨船団の構成は、JARPN(北西太平洋調査捕鯨)とJARPA(南極海調査捕鯨)ともに、総トン数8000トン台の母船1隻及び中積補給船1隻、総トン数700トン前後の目視専門船2隻及び目視採集船3隻となっています(隠し玉のスパイ船等を除く・・)。筆者がWeb上の資料(リンク)をもとに大雑把に試算したところでは、大型船2隻(母船+補給船)の燃費がおよそ30リットル/km、小型船(各調査船)5隻の燃費がおよそ7リットル/kmで、船団の数字を合計すると95リットル/kmとなります(大幅な過小評価の可能性が高いのですが・・)。20も小さいのは、少なくとも鯨肉生産活動に必須であるはずの中積補給船の燃料消費・CO2排出量を無視しているとしか考えられません。確かに、“公式のメンバー”じゃありませんけどね・・。

■石油業界の改正省エネ法荷主対応ガイドライン|石油連盟
http://www.paj.gr.jp/paj_info/data_topics/pajpg200610.pdf

 上記を鑑みると、水産総合研究センターは筆者の提示した温対法上の議論を逆手にとり「自分達は“運送業者”であるから片道分の燃料消費だけ考えればよい」という理屈をひねり出し、燃料消費の半分(もしくはそれ以下)しか計算に含めなかったと思われます。
 ここで、「鯨肉は、捕鯨船団の燃料だけですむため」という、研究機関としてはあまりにも致命的な見逃しについて、拙記事から改めて引用しましょう。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 今年の3月、「捕鯨のほうが畜産より環境にやさしい」というノルウェーの捕鯨推進活動家による調査結果をロイター通信が報じた。
 こうした主張は、日本の捕鯨賛成派のメディアや文化人が以前から繰り返し論じてきたものである。
 ロイターの報道によれば、鯨肉1kg当りの温室効果ガス排出量1.9kgに対し、牛肉は15.8kg、豚肉6.4kg、鳥肉4.6kgと、いずれも鯨肉より多くなっている。
 上記の数字のうち、鯨肉以外は、食料問題や南北問題、工場畜産の問題に取り組むNPO/NGOなどがよく掲げるデータと同じものである。
 この件に対するグリーンピースの反論にもあるように、迂回生産に加え、反芻動物である牛はメタンを大量に排出するため、「どんなものでも牛よりマシ」というほど、確かに牛肉生産による地球温暖化への寄与度は高い。
 ただし、ここにある鯨肉の数値は小型沿岸捕鯨(燃料消費のみ)によるもので、母船式遠洋捕鯨のそれとはまったく異なる。
 そこで、燃料費の増額から求めた調査捕鯨の二酸化炭素排出量を、鯨肉の単位生産量当りの数字に直してみることにしよう。調査捕鯨による年間の鯨肉生産量を約5千tとすると、見積りの最小値である3.9万tの場合で7.7kg、最大値の4.9万tなら9.7kg。最小値でも豚肉を上回り、最大値では鶏肉の2倍を越える。
 実は、この見積りはまだまだ甘い。調査船団の燃料消費は、鯨肉生産に伴う温室効果ガス排出活動のすべてではないからだ。
 船舶からは二酸化炭素ばかりでなく、大気汚染物質でもある硫黄酸化物や窒素酸化物など、他の温室効果ガスも排出される。硫黄分の多いC重油を用いる大型船舶の排気は、とくに硫黄酸化物の割合が高くなる。ボイラーの燃焼では、より排出係数の高いメタンも排出される。
 もう一つ忘れてはならないのが、冷凍・空調設備に冷媒として使用される代替フロンHFCである。代替フロンはオゾン層を破壊しない代わり、種類によっては二酸化炭素の1万倍にも達する強力な温室効果を発揮するものがある。これらHFCは、設備への封入時や、メンテナンス・故障時の漏洩により大気中へ排出される。しかし、測定が容易でないこともあり、環境省の算定報告マニュアルでは事実上無視に近い扱いとなっている。
 船舶の冷凍設備に関しては、陸上施設に比べても管理が甘く、リーク量が多いのではないかと指摘されている。日新丸は1987年、補給船オリエンタル・ブルーバード号は1978年建造の老朽船であることも、念頭に置く必要がある。
 海上輸送にかかる分だけを計算するのでは不十分であろう。国内で小売店や料理店、あるいはネット販売で注文した消費者宅へ届けられる際の陸上運送にかかる二酸化炭素排出もある。例えば、20kgの鯨肉を東京から青森へ運べば、それだけで2kg分のCO2が排出されることになる。そして、もう一つ見過ごせないのが、鯨肉を在庫として保管する際に冷凍設備が消費する電力及び冷媒のHFC使用である。
 鯨肉の月末在庫は平均値が生産量の8割、最低値でも5割で、他の水産物と比べても在庫率がきわだって高い。年間を通じて最低でも2500tの冷凍・冷蔵鯨肉が全国各地の流通会社や食品会社の倉庫に貯蔵されており、そのために電力が常時供給され続けていることになる。
 まだある。投下設備のLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)──具体的には、巨大な捕鯨母船を始めとする船舶と関連設備の建造、鉄鋼など原材料の採掘・輸送・精製にかかるトータルの環境負荷まで、厳密にいえば考慮に入れる必要があるだろう。そうでなければ、他の食糧生産との対等の比較はできない。
 これらの過程で排出される温室効果ガスの量をすべて合計したならば、母船式遠洋捕鯨/調査捕鯨の鯨肉生産による環境負荷は、環境に悪いとされる牛肉の生産に匹敵する可能性もある。飼料を含めた地産地消型の畜産には確実に負けるだろう。この点については、グリーンピースは少々捕鯨に対する採点が甘すぎたかもしれない。
 念のため捕捉しておくと、調査捕鯨の活動よる二酸化炭素排出量には、目視船の走行分も含まれる。これらは直接的には鯨肉の生産に伴う排出にはあたらない。しかし今後、仮にIWC(国際捕鯨委員会)の管理下において商業捕鯨が再開された場合、RMS(改訂版管理方式)という新しいルールに則ることになり、目視調査による継続的なモニタリングが必須となる。
 結論からいえば、大型鯨類の激減、南極海生態系の荒廃と撹乱を招いた乱獲時代の商業捕鯨と一線を画する、厳重に管理された持続可能な新時代の商業捕鯨とは、きわめて環境負荷の高いものとならざるを得ないのだ。しかも、実績がない以上、海洋生態系に果たして影響がないかどうかも未知数である。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 補足しますと、ほとんど把握されていない状態だった強力な温室効果ガスであるだいたいフロンの漏出に関する報道がありました。水産総合研究センターは、とりわけ古い船舶の冷蔵施設から大量にリークしている可能性大の冷媒の代替フロンによる温室効果の影響を計算し直さなければなりませんね。マデイラまでにできますか?

■代替フロン漏れ、想定の2倍 国、温室ガスの排出量修正 (3/20,朝日)
http://www.asahi.com/eco/TKY200903200258.html
■温室効果ガス 07年度排出量上方修正 代替フロン漏れ倍増が影響 (4/3,フジサンケイビジネス愛)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090402-00000035-fsi-bus_all

 一方、水産総合研究センターは牛肉の排出量について36kg−CO2/kgととんでもない数字を掲げています。
 以下に海外の研究者発の情報を伝える報道があります。16kgという数字はハイ・ノース・アライアンスの主張と同じ。一体どういう計算をすれば倍以上に増えるのか理解に苦しみますが・・。ノルウェーの捕鯨擁護NPOの方がまだしも紳士的といえますね。

■“温暖化ガス排出食”の王者は牛肉、畜産分野の約80% (2/16,AFP)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2572329/3807742
■クジラの肉は牛肉より環境に優しい=ノルウェー活動家 ('08/3/4,ロイター)
http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-30627220080304

 これについても少し補足を加えておきましょう。
 AFPの記事によれば、輸送コストの割合はそれほど大きくないそうです。地産地消という最も大切な伝統文化を守るに越したことはありませんが、「週に1回、肉と乳製品をまったく食べない日を作るほうが、1年中毎日地元のものに限った肉や乳製品を食べるよりもずっと大きな効果がある」という教授の講義はごもっとも。
 まあ、筆者はそもそも牛肉も鯨肉も口にしない純草食動物なのでどうでもいいんですが、「肉までやめるのは・・」という方には朗報でしょう。メタンについては、現在既に回収して発電に再利用する技術があり、実際途上国との排出権取引に利用されています。温室効果係数でみればメタンの方が二酸化炭素より圧倒的に高いのですが、CO2は燃料としての再利用ができません。また、CO2の地中や深海への固定技術はコストの点でも実用化への道のりは遠く、長期的な環境への影響も十分考慮されていません。そういったオルタナティブの視点を含めても、やはり捕鯨の方が牛肉生産に比べるとよほど環境には悪いのです。

■捕鯨は畜産のオルタナティブにはなり得ない
http://www.kkneko.com/ushi.htm

 問題は、捕鯨による排出量をとことん過小評価し、牛肉生産による排出量の方はとびきりでかい数字を採用する、自分たちに有利なように客観的なデータを捻じ曲げる水産総合研究センターの姿勢
 国の指定する独立行政法人の科学研究機関にあるまじきものといえます。ここまで非科学的で信用の置けない主張は、国内でもオトモダチ新聞・産経以外のメディアはまさか取り上げないでしょう。また、本気で6月のマデイラでこんな主張をしたら、温暖化を含む環境問題全般のプロフェッショナルであるWWFなどのNGOに即座に反論され、捕鯨ニッポンの環境問題に関する無知・無理解及び科学的素養の低さが世界の物笑いのタネになってしまうでしょう。
 IWC政府代表団長も務める水産総合開発センター中前所長、でたらめな数字を引っ込めるか、算出根拠をきちんと公開してください。共同船舶の重油購入の領収書も添付して。

参考リンク:
■地球温暖化とクジラ類との関係についての総説を読む (フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ)

http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/60968123.html

 WWFとWDCSによる、鯨研とは大違いの「まともな温暖化研究」論文へのリンクあり。



◇オマケ
 

 産経の記事が出てからすぐアップすべきでしたが、バタバタして時間がかかってしまいました。

 某タレントさんの不祥事、個人的にはそこまで騒ぐこと(某大臣の発言とか)だとは思わないんですが・・。飲酒運転事故や傷害、薬物事件などに比べたら、他人を傷つける度合を考えてもずいぶんマシでしょう。
 イギリスなどでは、客を泥酔させた居酒屋は営業停止になるとか。飲酒に寛容すぎる社会全体の問題も考え直してみては? 筆者はどのみち煙草と同じく一滴も口にしないヒトですが。
 なんだか今のニッポンは、寛容であるべきところで不寛容で、許してはいけないことについては気にしない、不可解な風潮が蔓延っている気がしてなりません・・・

 
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2009年03月24日

ウミガメとクジラ──有益な胃内容物調査とムダな胃内容物調査

◇クジラ関連ニュースクリッピング

■「殺さない調査捕鯨」作業部会、会合始まる 豪政府主導で (3/23,日経)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20090323AT2M2300R23032009.html (リンク切れ)

 「日本政府がなんでこの作業部会に加わっていないのだろう?」と不思議に思う国民は多いでしょう。水産庁が「やだ」って言うなら、環境省が参加すりゃいいのにね・・。

 
■書評『鯨塚からみえてくる日本人の心』宮脇和人、細川隆雄著 (3/21,産経)
http://sankei.jp.msn.com/culture/books/090322/bks0903220836002-n1.htm (リンク切れ)

 ただの殺しの言い訳と後ろめたさの解消にすぎないものを、「高い精神性と文化性」とまで自画自賛するのは、日本人としてはひたすら悲しくて泣けてきます・・。信心深かった当時の日本人が持っていた“後ろめたさ”すら捨ててしまったのが現代の捕鯨ニッポンですが・・・・

参考リンク:
■鯨塚について(リンクも)
http://www.kkneko.com/aa3.htm


◇ウミガメとクジラ──有益な胃内容物調査とムダな胃内容物調査

■JNN共同制作番組 ウミガメが教えてくれること (3/21 15:30-,TBS)
http://www.tbs.co.jp/program/mbc_umigame.html

 日本とメキシコ沖を往復し、日本で産卵するアカウミガメを中心に、ウミガメを取り巻く環境問題にスポットライトを当てたドキュメンタリー企画。
 メキシコで保護活動に取り組む研究者が、種子島に視察に訪れ、口にした言葉──4WDの轍や大量の漂着ゴミ、そして何より母ガメのUターンの跡もくっきりと残っている消波ブロックを前にしたときの、日本に対する痛烈な皮肉が、たいへん耳に痛かったです・・。
 豊かな飽食大国日本と異なり、「食べる」から「護る」への転換を果たしたメキシコ。小笠原では未だに食っていいことになってますし・・。所得水準では比べ物にならないはずの現地の漁民が、多少コストが高くついてもナイロン製から混獲の危険性の少ない絹製の網への転換を図ったり、さらに日本の定置網にも学ぼうと意欲的な姿勢を見せたり。
 調査のサポートをしている漁民の方は別にしても、実際のところ、日本の魚網・漁業がよその国より野生動物にやさしいとは、お世辞にもいえません。水上で息ができるといっても、体力が弱ればおしまいですし、クジラの混獲は全国で年間百数十頭にも達しています。経済的には世界最高水準の豊かな国でありながら、被害金額がどうのといって混獲を減らす努力を怠り、行政もまともにバックアップする気がないようでは、メキシコの漁民たちに対してとても顔向けできませんね・・。
 保護活動も、未だ途上ながら海洋環境保護後進国・捕鯨ニッポンよりはマシ。バハ・カリフォルニアのWW規制はもっと強化してもらいたいところですが、それでも南極まで押しかけて食おうとする貪欲な国とは段違い。北太平洋唯一の産卵地である日本が、意味もなく砂浜をコンクリで固めて産卵を妨害して人工孵化でお茶を濁したり、被害の実態も定かでないまま混獲を続けているようでは、ウミガメたちの将来はクジラ同様暗そうですね・・。
 こんなことなら、日本ではなく、きれいな砂浜がまだ多く残されているメキシコが繁殖地だったらよかったのに……なんて思ってしまいます。日本人としては恥ずかしい限りですが。どうせ人工孵化をやるのであれば、メキシコで試して母ガメが向こうで産卵を始めてくれるようにできないか、とか。稚ガメが育てる環境として相応しいかどうかは別問題ですし、産卵地を変えてくれる保証もありませんが。
 もっとも、アカウミガメの北太平洋の個体群で、西岸と東岸の間を往復する形の回遊行動が見られる理由もわかっていません。おそらく、海流の変化や大陸移動など、長期的スケールの地史的変動への適応の結果なのでしょうが。魚や鳥、あるいはクジラに比べても、謎の部分が非常に大きいようですし・・。
 ウミガメフリークのサーファーの方が教えていたウミガメレースは、子供たちにも受けていましたし、優れた環境教育だと思いました。水産官僚に対しては何も期待できないけど、将来の日本を担う子供たちには、少し希望が持てた気がします。
 メキシコでは、年間300頭のウミガメが打ち上げられています。それでも調査捕鯨の頭数より全然少ないですが。アカウミガメのストランディングの原因について、研究者もはっきりしたことは現時点ではいえないようですが、魚網が食い込んだのが外見上わからない程度でも、体力を消耗して座礁したか、あるいは魚網片その他の漁業系浮遊物を飲み込んで胃腸障害を引き起こしたことは考えられるでしょう。原因をはっきりと突き止めるためには、詳細な死体の解剖調査と解析が必要です。
 日本の調査捕鯨は、クジラの胃内容物を調査して生態系構造を解明することを目的に掲げているのですが、特定の種に極端に偏った調査で、満足な結果など出るはずがありません。しかも、バイオプシーによる脂肪酸解析より精度が落ちるという代物。「直近の餌がわかったほうがいいんだ」などとまたヘンな後付の言い訳をこじつけていますが・・。時々名目を替えつつ、延々と同じ調査を続けながら、結果をどういう形で環境保護・漁業資源保護・漁業被害軽減その他にフィードバックするかが何も見えてこないのが、その何よりの証拠です。
 南極での、クロミンククジラのみを対象とした、健康な個体を殺して行ういびつな胃内容物調査は、海洋生態系保全にまったく役立ちません。一方で、ウミガメや他の座礁した海棲哺乳類の胃内容物調査は、日本を産卵場所としているアカウミガメを保護するうえで非常に有益である上に、全ての海洋生物の保全に資するものといえます。意味のない護岸でウミガメたちを追い詰めている水産庁としても、少しは責任を痛感し、調査捕鯨分の補助金を全額メキシコのウミガメ研究者に渡してバックアップするべきですね。
 ついでにいえば、かつてのタマちゃんやラッコのクーちゃんなどのはぐれ個体は、保護したところで生態系保護の観点からは何の意味もありません。そして、有害物質の蓄積度と逸脱行動の相関を調査するために、致死的研究に用いる意義は、調査捕鯨なんぞより格段に上です。国民とマスコミの愛誤レベルが先進国中でもずば抜けている日本で、実施することは許されないでしょうが・・。
 自分たちのマスコットは殺さず、よその海で他の国民に愛されている動物は「何が何でも殺さねば」と押しかけて、実際に殺してしまう神経はすさまじいものがあります。一体どこが高い精神性と文化性なのですか???

参考リンク:
■アカウミガメは絶滅の危機に瀕しているか (ひむかのハマグリ)
http://beachmollu.exblog.jp/8425802/



◇ウミガメとクジラ・オマケ
 

■小笠原 絶海の孤島 幕末秘話 (3/21 21:00-,TBS)
http://www.tbs.co.jp/f-hakken/mystery_1.html (リンク切れ)

 こちらもクジラとウミガメつながり。もっとも中身のほうは、クジラとハシナガイルカがちょろっと出ただけで、自然紀行モノとしては不満足な内容でした。昔の航海中の食糧にウミガメが使われたことを、クイズで取り上げていましたが、文化とも呼べない舶来ものの食習慣が、観光客相手の商売として現地で残っていることには触れず。メキシコに完全に負けてしまっています(--;;
 最初に定住したのが米国人とハワイ人の移民だというのは知っていたのですが、小笠原という名が、幕府にガセネタを掴ませた浪人の姓に由来し、それが英米に対して領有権を主張する根拠となったってのは笑えますね・・。
 やっぱり、南島のヒロベソカタマイマイの絶滅のミステリーの方がよっぽど気になりました・・・

参考リンク:
■ヒロベソカタマイマイの絶滅
http://www12.ocn.ne.jp/~mand/luhuana.html

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2009年03月11日

温暖化と捕鯨の科学論争

◇クジラ関連ニュースクリッピング

■9日からIWC中間会合、議長提案めぐり初の意見交換へ (3/9,時事/日経/朝日/毎日)
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2009030900434 (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090309-00000118-jij-int (リンク切れ)
http://www.nikkei.co.jp/kaigai/eu/20090308D2M0702L08.html (リンク切れ)
http://www.asahi.com/politics/update/0309/TKY200903090314.html (リンク切れ)
http://mainichi.jp/select/world/news/20090310ddm002020109000c.html (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090310-00000001-mai-int (リンク切れ)
■調査捕鯨全廃は受け入れず  IWC中間会合で日本 (3/10,共同/時事)
http://www.47news.jp/CN/200903/CN2009031001000129.html
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2009031000086 (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090310-00000027-jij-int (リンク切れ)
■IWC中間会合に際してグリーンピース・ジャパンの声明 ――オバマ政権の確固たる反捕鯨の立場が焦点か (GPJ)
http://www.greenpeace.or.jp/press/releases/pr20090310oc_html

 ローマでの中間会合関連報道。朝日によれば、日本側は「沿岸捕鯨と同じ数をJARPNで引く」などと主張しているようですが、お話になりません。端から交渉する気などなく、ハードランディングでかまわないと思っているのでしょうか? これではやはり、北朝鮮そっくりの独善外交との謗りは免れないでしょう。
 はたして米国が強気になってくれるか気がかりだったのですが、GPの情報によれば、ホワイトハウスの環境問題諮問委員長が調査捕鯨反対の姿勢を明確にしてくれたようです。リップサービスだけでなく、行動で示してくれることを祈るのみ。

■政府、23年ぶりに近海の捕鯨再開を推進 (3/10,韓国中央日報)
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=112414&servcode=300&sectcode=300

 WBCで仲良く上位ステージに勝ち上がった韓国と日本。ここでは決別して欲しいんですけどねぇ・・。両方いっせいのせでやめるんならともかく。

■日々是世界国際情勢分析 シー・シェパード強制捜査に揺れる豪 (3/10,産経)
http://sankei.jp.msn.com/world/asia/090310/asi0903100851000-n1.htm (リンク切れ)

 中間会合についての短い記述は通信社発。独自色を前面に打ち出し大量の発信をしているのはシー・シェパードのネタばっかり。SSの一挙手一投足に異常な関心を注ぐ、鯨研のオトモダチ新聞・産経。それにしちゃ、タスマニアの大学討論ボイコットよりもっと過激な爆破予告事件をなんで伝えないんでしょうね? Web掲載版は、2ページ目がなぜかやたら短い。。


 

◇温暖化と捕鯨の科学論争

■「不確か」認め懐疑論に対抗・温暖化異聞(下) (3/9,読売夕)
http://www.yomiuri.co.jp/eco/ondan/on090223_01.htm (リンク切れ)
http://www.yomiuri.co.jp/eco/ondan/on090302_01.htm (リンク切れ)
http://www.yomiuri.co.jp/eco/ondan/on090309_01.htm (リンク切れ)

 保守系メディアながら、先日の社説や南極の環境保護を訴える特集など、このところ捕鯨礼賛一辺倒の立場から脱け出しつつある読売新聞。リベラル派の皆さんから見れば、他の論説には批判対象となるものが多いでしょうが、ことこの問題に関しては一定の前進があったことを評価したいと思います。
 その読売の夕刊で、なかなか面白い特集記事がありました。自然・環境系のネタを扱う「ネイチャー」欄で3/23から3週にわたって連載された「温暖化異聞」。
 調査捕鯨の(非)科学性やトンデモ鯨食害論と密接に関わるテーマなので、記事に対する感想とともに一部を引用しながら、捕鯨問題と絡める形で少し掘り下げてみたいと思います。
 連載初回は「懐疑派と議論本格化」と題し、温暖化を否定するトンデモ本が書店でバカ売れしている状況、トンデモ論に対抗する国立環境研・温暖化リスク評価研究室の江守室長や東北大環境政策論の明日香教授らによる「懐疑派バスターズ」の取り組みと主張を紹介。東北大明日香氏のスッキリした懐疑派グループ分けが面白い。「すべて(リベラル派などの)陰謀」ってのが笑えます・・。山際議員や梅崎氏などはとびつきそうですけど・・・
 続く連載第2回では、懐疑派とIPCC派の討論を一部紹介。主催はエネルギー・資源学会なのですが、いくら正統派を代表するといっても、1対4でIPCC派が江守氏1人というのは公平ではありませんね。JAMSTECでスパコン使って気候シミュレーションをやっているはずのディレクターが懐疑派というのは解せない話。次の回で登場する同じJAMSTECのメンバーは懐疑派バスターズに参加してるのに・・。人為的要因を軒並排除してしまう東工大丸山氏に至っては、無責任な極論としか映りません。丸山氏が主張している宇宙線や太陽活動の短期的変化のメカニズムについては、温室効果以上に不明な部分が多々あるはずですが。地球の気候変動に関わる非人為的な要因である程度仕組みがわかっているのは、銀河系を太陽が公転する際に渦状腕に突っ込んで宇宙線が増えるとか(これは2億年とかのスパン・・)、太陽の核融合が進んで水素/ヘリウム比が変わるとか(10億年くらい未来には金星状態かも・・)、後は地球の公転軌道の離心率の変化と歳差運動とか(これは10万年周期)、そんなもんのはずでしょう。初回で江守氏が指摘しているとおり、IPCCは「自然要因がない」なんて言ってませんし、気温上昇を抑制する方向に働く負のフィードバックの検証(例えば記事中にある雲の影響なども考慮済み)など、世界中の気候学者がおよそ思いつく限りの要素を徹底的に調べぬいたうえで、「最近の急激な気候変動をもたらした主因として最もよく説明できるのが人為的な温室効果ガスの排出である」と結論付けているわけですから。記事自体はちゃんとバランスに配慮できていましたが。
 最終回の見出しは「"不確か"認め懐疑論に対抗」。気候変動からさらに科学全般と社会の関係にまで敷衍し、重要なキーワードである「予防原則」について触れています。著名な天文学者池内氏の「まるで全体主義だ」とのコメントは、「明日のエコでは間に合わない!」とタレントに毎日のように言わせてるNHKに対する当て付けですね。筆者もあれはどうかと思う・・。具体性の欠片もない情緒的なキャッチコピーを連呼するくらいなら、「横断歩道を渡りましょう」とか「飲んだら乗るニャ!」とか言わせたほうが、よっぽど受信料の賢い使い方だと思います・・。
 反反捕鯨派が口うるさく言うセンセーショナルなエゴロジー的プロパガンダがどこよりも得意で、なおかつ国民に浸透してしまいやすいのは、環境教育とマスコミの質が低い捕鯨ニッポンですね・・。後述しますが、とくに東大藤垣氏による一般市民の科学に対する誤解についての解説は、“とある研究機関”とそのシンパに百編でも言い聞かせたいですニャ〜。
 なお、連載3回目の補注で予防原則の解説があります。「非科学的との批判もある」という一文はちょっと蛇足ですね。というのも、記事本文の江守氏、藤垣氏、池内氏のコメントが、それに反駁する必要十分な回答となっているからです。具体的に言うなら、「予防原則への批判」は、科学の限界と社会的責任に関する誤った認識に基づくものに他なりません。
 全3回を通じて実に要領よく的確にまとまっており、執筆者の科学部・中島記者、片山記者の手腕には拍手を送りたいと思います。読売を購読されている方はもちろん、アンチナベツネ派も図書館に寄る時間があれば一読する価値あり。
 ついでに、連載の上・中と同じページの記者コラム「コンパス」も面白い内容です。とくに2/23の「生物多様性って何?」(三島記者)も一読をオススメします。野生動物の中でクジラだけ=A自然環境の中で海だけ≠切り離すのは、非科学的でナンセンス。
 上述の感想のとおり、地球温暖化問題に対する筆者の立場はIPCC派(筆者はもちろん科学者ではありませんから、IPCC派の全面的な支持者)。言い換えれば、この件に関しては多数派に与します。地球温暖化は野生動物としてのクジラに対する影響という点でも無視できるものではありませんし、WWFが主張しているとおり、商業捕鯨に反対する重要な根拠でもあります(詳細は下掲リンクの拙HP)。さらに地球の裏側の南極まで押しかけて行われる遠洋調査捕鯨は、地球温暖化を引き起こす大量のCO2やHFCを排出する“犯人の一人”でもあります(同じくリンク参照)。また、読売記事にある温暖化をめぐる議論のパターンは、日本では懐疑派の方が主流だという点以外、捕鯨問題にもそっくりそのまま当てはまるものでもあります。ついでにいえば、WWFとともにGPも地球温暖化問題に精力的に取り組んできた国際NPOとして定評があるのですが、何故か日本では無視されるか、あたかも反捕鯨団体としてのWWF、GPと別物として扱われているようですね・・。GPに関しては、縦割キャンペーンによる日本の役所じみた蛸壺化の弊害もあるかもしれませんが。いずれにしろ、双方に共通するとりわけ重要な要素は予防原則のスタンス
 ある意味当然の帰趨ともいえるでしょうが、実はクジラの分野でも「反捕鯨懐疑論バスターズ」がいます。明日香氏や藤垣氏とフィールドを同じくする東北大准教授の石井氏と東大特任研究員の大久保氏。また、市民ブロガーのmarburg_aromatics_chemさんやAdarchismさんも理系の専門家としてブログ上で捕鯨擁護派のトンデモな主張を論破してくれています。
 読売記事では、科学技術振興機構の安井氏が「地球温暖化問題に対する懐疑派の主張が社会に歓迎された理由のひとつは、いままで主流派の学者がちゃんと反論してこなかったこと」とコメントしていますが、これは同時にマスコミの側がどれだけ注目したかという問題でもあるでしょう。願わくば、日本でもこれからバスターズの活動が認知され、誤解が解けていって欲しいもの。
 ここでリンク先のページにも目を通していただきたいところなのですが、せっかくなので読売記事に合わせてもう一段深く突っ込んでみることにしましょう。森下参事官ほどのヤリ手官僚になると、丸山氏じゃないけど逆手に取った論理展開も可能でしょうから・・(もっとも、ウヨガキ君たちには拙ブログ以上にちんぷんかんぷんになるだろうけど。。)
 まず、東大藤垣氏作成の「科学のイメージと現実の科学」の表をもとに、その捕鯨版を作成してみましょう。

★(日本の)一般市民が描く、調査捕鯨の誤ったイメージ
 1.(調査捕鯨の内容や手法は)厳密で、常に正しく、客観性がある
 2.(調査捕鯨の成果として出てくるものは)いつでも確実で厳密な答えがある
 3.(捕鯨を再開するかしないかは)科学的知見に基づいて意思決定しなければならない


 1.に関しては、ランダム・サンプリングに関する疑義など、まさに捏造や盗作と同種の科学の闇といえる部分も指摘されています。客観性に関しても、目視データの取り扱いについてさえすったもんだしている有様です。過去の商業捕鯨の監督に関しても、規制違反によってデータの科学的根拠そのものが失われるなど、「厳密で正しく客観的だ」などとは到底いえないものだったわけです。
 2.の成果については、海外の研究者からはさんざん「ムダな研究ばかりだ」とたたかれている次第(下掲リンク参照)。
 3.は最も重大な誤解であり、一般的な他の科学技術分野においては常に戒められることながら、日本では捕鯨業界にどっぷり依存した致死的資源学のみが“絶対的な権威”として崇められる奇怪な状況にあります。
 続いて、具体例として鯨食害論(あるいは間引き論)を挙げてみましょう。懐疑派が反捕鯨側なので、ともすると温暖化と逆の関係に見えるかもしれません。しかし、先日marburg_aromatics_chemさんが紹介してくれたように、TIMEやScienceでも掲載された食害否定説が科学の主流。大隈氏などの食害を主張する学者は、丸山氏と同じ位置付けといえます。

 読売記事にあるように、IPCCの第4次評価報告書では、人為的要因による地球温暖化説が正しい可能性を90%以上としています。比率の数字を厳密に比較してもあまり意味はありませんが、鯨為的要因による水産資源枯渇説が正しくない♂ツ能性は、90%をはるかに上回ることは疑念の余地がありません。何しろ、ボスの森下氏が鯨論・闘論で、二重に曖昧な形容をもって“正確な表現”としたくらいですから、1分未満としたっていいくらいでしょうね。で、その残りの1分未満に該当するのが、一部の海域の一部の魚種に対するホットスポット仮説。ただし、この仮説自体に偏向があります。何故ならば、他の競合者である海鳥類、鯨類以外の海棲哺乳類、非漁獲対象魚種、その他の海産生物の摂餌量の調査に等価のリソースが割かれていない以上、クジラのみ≠フ食害とする結論にそもそもムリがあります。さらに、同じ海域・対象魚種についても、Scienceに発表された論文と同様の結論が今後導かれる可能性は十分ありえるでしょう。読売記事で藤垣氏が指摘するとおり、科学とは確定的なものではなく、常に塗り替えられるものだからです。
 藤垣氏は読売記事の中で、地球温暖化懐疑論者を「残りの10%を過大にとらえて、全部がウソだと言っている」と批判していますが、食害論を素朴に信奉しているヒトたちは、「残り1%もないものを過大にとらえて、全部がウソだと言っている」ようなもんですね。そもそもホットスポット仮説の意味を理解できてないヒトがほとんどかもしれませんが。。
 地球温暖化を100%立証することは、現在の人類の未熟な科学では不可能です。解明されることを待っていては手遅れになります。わずかな不確実性を根拠に対策を遅らせることで、被害を被るのは、貧しい第三世界の人たちであり、次の世代のこどもたちです。そして、人間以外の生き物たちです。とりわけ深刻なダメージを受けるのは、ホッキョクグマやクロミンククジラ、あるいは絶滅に瀕したシロナガスクジラなどです。ヒトのこどもたちを含むそれらの被害者たちには、温暖化に寄与した責任などありません。加害者は温暖化と引き換えに文明の恩恵に浴した私たちです。だからこそ、9割の可能性を率直に認めるべきなのです。それこそが、予防原則の意味に他なりません。
 科学は予防原則を補完するための道具であるべきです。そのことで科学が貶められることなどありません。こどもたちを救うために役立てられるのであれば、むしろ科学の崇高さ、偉大さを証明するものといえるでしょう。

 捕鯨の文脈において、予防原則を適用されるべきなのは、汚染や開発、乱獲など様々な人為的環境破壊に脅かされる南極を始めとする海の生態系の一部を成す野生動物のクジラたちです予防原則はまた、1分未満の科学性と同時に、過去の乱獲に対する責任(があるにも関わらず未だに日本の捕鯨擁護派は外国の所為ばかりにして反省の色がちっとも見られない・・)と、飽食・廃食・伝統破壊大国にとってのあまりに些細な必要性、子孫に引き継がれるべき世界の共有財産としての公海の自然そのものの価値をも考慮に入れたものとなるべきでしょう。

■"殺すべきか、殺さざるべきか"それって、科学が決めるもの?? (拙HP)
http://www.kkneko.com/kagaku.htm
■遠洋調査捕鯨は地球にやさしくない・日新丸船団、CO2を4万tは排出か? (JanJan)
http://janjan.voicejapan.org/living/0807/0807090629/1.php
■地球温暖化とクジラ (拙HP)
http://www.kkneko.com/ondanka.htm
■クジラたちを脅かす海の環境破壊 (〃)
http://www.kkneko.com/osen.htm
■無価値に等しい調査捕鯨の科学性 (〃)
http://www.kkneko.com/paper.htm
 その他拙HPの自然科学系のページをご参照。

 
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2009年03月03日

日韓の捕鯨と日豪のストランディング/ラッコとクジラを差別する釧路

◇クジラニュースクリッピング──日韓の捕鯨と日豪のストランディング

■日本の沿岸捕鯨で攻防も=IWC、9日から事前会合 (3/3,時事)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2009030200034
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090302-00000014-jij-int (リンク切れ)

 一連の過去記事をご参照・・。

 

■<クジラ>船首に載せたまま貨物船入港 苫小牧 (3/2,毎日/読売/北海道)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/environment/150245_all.html (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090301-00000719-yom-soci (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090302-00000000-maiall-soci (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090302-00000000-maiall-soci.view-000 (リンク切れ)

 写真の死体はまだ新しいようですが、巡航速度の内航貨物船の船首に引っかかり、衝撃もなく気づかなかったとのこと。毎日の記事にあるように、絶命して間もない漂流死体か、かなり弱っていたのでしょうね。体長13m弱ということで、ナガスの1歳児くらいでしょうか。成長期に必要な餌を確保できなかったのか、何か他の要因があるのか、調査の結果を待ちたいところ。
 で、調査を担当するのは北大水産学部の松石隆教授。ネズミイルカの混獲防止の研究は結構なのですが、このヒトは勇魚会メンバーで、北海道新聞などのメディアを通じて食文化ヨイショをしてらっしゃいます・・。
 HPにご丁寧に既出論文等の一覧を業績書としてPDFで載せておいでなので、ざっと拝見。水産資源学者としては、ジャンルも対象種もずいぶん幅広いですね。共著論文や研究室の学生さんの論文で、調査捕鯨の目視精度に関係するものが、しかも'04-'05年など今世紀に入ってから出ており、これらは鯨研から研究費が拠出される共同研究となっています。
 そういえば、エゾシカ関係者が目視員の熟練度の差だとかずいぶんとアバウトな話≠してたり、IDCR/SOWERでは2周目と3周目でとんでもない差が出て、でもって鯨研殿がアバウトな話≠して科学委の合意を引き伸ばしたり、同研の藤瀬氏は鯨研通信で掲載されたレビュー概要で「採集作業(つまり捕獲)が目視の足を引っ張ってる」とうっかり(?)本音を漏らしたり……と、森下水産庁参事官が絶賛し、RMPに要する個体数データ取得に不可欠でもある科学調査でありながら、不確実性の壁がずいぶんと高く立ちはだかってるように見受けられるんですけどね。他の国からギャーギャー言われながら、毎年毎年同じことを続ける前に、一度立ち止まって再検討したほうがいいのでは? この際、致死的調査をすっぱりやめて、目視調査の確実性を高めることに専念したほうがよかありませんか?
 もう1点。松石氏が代表を務めるストランディングネットワーク北海道のこの件に関する解説記事には以下のオマケ付き。

 胃内容物から何を食べていたのかを調べ、漁業との競合の有無を明らかにする
 南氷洋では調査捕鯨で、ここ数年50頭を目標に捕獲調査をしようとしているが、妨害等によりほとんど調査できていない
 ナガスクジラの詳細な食性は不明であるが、ナガスクジラ科鯨類はオキアミや表層性の小魚(イワシ・サンマ・小型のスケトウダラ)や表層性のイカ(スルメイカなど)を食べる。(引用)

 見事にクジラ食害論を展開してくれてますが、松石氏はTIMEもScienceも森下参事官の鯨論・闘論の主張も見ていないご様子。JARPAUのナガス年間50頭の捕殺は、尾の身提供目的としか考えられない中途半端な調査で、減らしたのも減産調整の疑いもあれば、火災やら人身事故やらいろいろ遭った所為もあるのに全部SSにひっかぶせてますし・・。最後のいい加減な記述は何でしょうか? 北太平洋でナガスの捕殺調査などやれば、内外の自然保護関係者が大ブーイングを寄越すのは必至。バイオプシーで調べればすむでしょう。精度も高いし、副産物がないこと以外、いいことづくめでしょうに。今回災難に遭った仔ナガスにしたって、空っぽの可能性もあるし、成熟個体と餌の嗜好が違うことも考えられますしね。

参考リンク:
■北海道大学松石研究室
http://minke.fish.hokudai.ac.jp/office-m/
■ストランディングネットワーク北海道
http://snh.seesaa.net/


 

■クジラとイルカ192頭が浅瀬に迷い込む 豪タスマニア (3/2,読売/時事/CNN/Reuter)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090302-00000019-cnn-int (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090302-00000907-yom-soci (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090302-00000044-jij-int (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090302-00000558-reu-int (リンク切れ)

 タスマニアとオーストラリアの間にあるキング島でのストランディングだそうです。タスマニアといえば、SSのワトソン船長が大学で日本の森林伐採について講義をしに行ったら、強制捜査を受けたとの報道があったばかりですが。
 CNNによれば、オーストラリアのストランディングの90%がタスマニアで起きているとのこと。海底地形と海流によるのでしょうが、過去3ヶ月で400頭に上るということで、もし増加傾向にあるとすれば、気候変動による海流や海水温の変化なども関係してきそうですね・・


 

■捕鯨:禁止から23年、韓国の現状(上・中・下) (3/1,朝鮮日報)
http://www.chosunonline.com/news/20090301000018

 水産庁の森下参事官が「ナショナリズムと結び付けられるのは困る」と言いつつ、IWC国内総会での右翼街宣やネトウヨ君たちの2chやMIXIでの大活躍を見て見ぬふりをしているように捕鯨推進論とナショナリズムとが分かちがたく結び付いているのは紛れもない事実。検索すれば、韓国にケンカを売ってるウヨガキ君たちのブログがいつでも引っかかってきますしね・・。どちらかというと、似た者同士の近親憎悪の側面が多分にありそうですが・・・
 記事を読むと、どうも蔚山市は食鯨と観鯨をセットでやりたいようですね・・。自らを戒め、律することなく、いいとこどりを目指す優柔不断なところも、日本によく似ているといえそう。
 東海(日本海)のクジラは一万頭と、またごった煮の話をしているうえに、森下氏がばっさり切り捨てた極論のクジラ食害論を日本からそっくり輸入してしまっています。ミンククジラのJ−ストックはたまったもんじゃありません。以前から指摘されているところの密漁問題や、IWCで今後沿岸捕鯨再開が実現した場合、これまで比較的近い捕鯨肯定の立場で手を握り合っていた日韓両国が、わずかなパイをめぐって争い合い、両国の右翼の過激発言に油を注ぐことになるのは必至でしょう。しわ寄せを食うのはもちろんクジラたちです。
 いっせいのせで両国ともにやめるのが、日本人にとっても、韓国人にとっても、クジラにとっても、すなわち誰にとっても恨みを残さないいちばん平和な解決法です。
 記事にあるようにWWは韓国でも軌道に乗っていますし、犬猫食反対と同様に、捕鯨に反対する韓国人だって増えてきているのですから。どちらの国がより命と自然に優しい国になれるか、そういうところで競い合ってほしいですね。

参考リンク:
■危機にさらされている韓国の鯨、我々が守ろう ('05/5/10,JanJan)
http://www.news.janjan.jp/world/0505/0505090829/1.php (リンク切れ)
http://janjan.voicejapan.org/world/0505/0505090829/1.php
■網よりも自由を!―混獲と違法捕鯨で危機にさらされるクジラの嘆き ('04/2/27,日中韓環境情報サイト)
http://www.enviroasia.info/news/news_detail.php3/K04022701J



◇ラッコとクジラを差別する釧路
 

■ラッコ「くーちゃん」、足びれに釣り針/ラッコのくーちゃん、菓子パンも大人気 1000個即完売 (3/2-2/21,毎日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090303-00000000-maip-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090221-00000003-maiall-soci

 ラッコパンだのなんのと、観光の目玉にしたり野次馬が押しかけたり、捕鯨ニッポンらしいたまちゃん型動物愛誤の典型ですな・・・
 そもそも死亡率の高い野生動物の迷子に関しては、自然要因により死亡に至ったとしても放置でいいと筆者は思っています。ただ、今回は明らかに、心ない釣り人/漁師の投棄した釣り針という人為的要因が絡んでいます。すでに気力も残ってなさそうですし、鉛の錘が付いたまま海中に潜ってしまったということですから、生存はかなり絶望的かも。
 名前付ける暇があったら、豪州など海外と同レベルの救護体制を行政とNPOが連携して作ったらどうなんですか? どうせすぐに忘れちゃうんだろうけど・・
 そういや釧路は、明治期以降に移入されたアイヌの文化(余談ですが、昔太平洋西岸にもらっこがたくさんいたころ、アイヌの人たちはラッコの毛皮を交易していました)と無関係な沿岸捕鯨地でもあります。毎年殺されるクジラたちに「らっちゃん」という名前でも付けたらどうですか?


 

◇クジラ関連TV評

■シリーズ人の謎に迫るD言葉はどう生まれたか?|サイエンスZERO (2/22,NHK)
http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp246.html

 おもしろい研究ですね。理化研の岡ノ谷氏、バックのPCにザトウのイラストが映ってたので、出るだろうと思ってはいましたが。
 せっかくだから、階層構造で知られるザトウの歌について、もうちょっと細かく解説して欲しかったところ。筆者自身は、十姉妹に毛が生えた程度だろうとは思ってますが・・。今後は音楽より、シチュエーションに応じた意思伝達の要素が強いと思われるカラスやアフリカゾウ、シャチの言語にも焦点を当ててほしいですね。サバンナモンキーのワシとヘビの単語の話もおもしろかったのですが、先天的要素と後天的要素がどのくらいか(血縁集団間で相違や共通性がどの程度あるか)も調べて欲しいところ。
 佐倉統氏、相似と相同の問題に突っ込んだはいいものの、結論がとんちんかん。社会性に関しては、形態や生理以上に近縁種間の開きが大きいものです。また、形態の相似形質と同じく、行動についても起源が別かどうかは問題ではありません。どのようなメカニズムが働くことで、こうした共通性のある社会行動が異なる系統の動物種同士で見られるのかを調べることに、意義があるのですよ。
 十姉妹、ザトウクジラ、ニンゲンで同じ行動が進化した可能性があるということだけでも、ワクワクする話です。他にもいるかもしれないし、またそれらの間の差異を調べることでもさらにたくさんのことが明らかになるでしょう。
 こういった非致死的研究こそ科学の本当の醍醐味であり、ニンゲンの文化の起源にも迫るきわめて意義高いものです。毎年型どおりに行う副産物目当ての致死的調査からは、血の通わないガラクタしか生まれません。


 

■知られざるハワイ 感動の瞬間〜オアフを彩る宝物たち〜 (2/28,TBQ)
http://www.tvq.co.jp/special/hawaii/

 今年はハワイが州になって50周年ということで、ハワイ州観光局がスポンサーになっていたのですが、内容はなかなかよかったです。ハワイの自然に造詣の深い写真家高砂淳二氏、ザトウのショットとともに「獲るのをやめたことで、ウミガメやクジラたちも警戒心がなくなってきた」と語ってくれました。いい人だ・・。
 絶滅に最も近いといわれるハワイモンクアザラシや、同じく絶滅が危惧されるアオウミガメなども、現地のレンジャーの同行のもとに紹介。アオウミガメが、産卵以外の理由で、代謝をあげる日光浴のために上陸して休んでいるシーンなどは、なかなかか貴重でした。

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2009年02月23日

トンデモ鯨食害論を葬り去るとどめの一撃/中国メディアが捕鯨を分析/日本の動物番組が教える鯨研流致死的研究のお粗末ぶり

 昨日のブログ記事について、櫻井よしこ氏のブログにTBを飛ばしたのですが、さっそく削除された模様。なんだかんだ言って、捕鯨ニッポンに都合の悪い情報は隠したいようですね・・・
 

◇トンデモ鯨食害論を葬り去るとどめの一撃

■サイエンス誌2月13日号に「クジラ食害論」を否定する論文が出た (2/22,フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ)
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/60296955.html

 コメントでも教えていただいた、TIMEとScieceの記事の話。詳細はmarburg_aromatics_chemさんのブログをぜひご参照。
 marburg_aromatics_chemさんが指摘されている問題点の一つは、日本の報道のバランスの悪さ。マスコミの報道の公平性については、次に取り上げるGPJ職員逮捕事件とも密接に関連してきますが。科学ネタといっても、日本の政策・海外で展開している主張に直結する話なのですから、新聞の一面で取り上げたってかまわないくらいですよね。

 もう一点はまさしくおっしゃるとおりなので、以下にそのまま引用させていただきます。
捕鯨サークルには都合の悪い研究結果だが、漁業資源の危機についての認識は一致しているはずだ。
クジラ以外に漁獲高減少の原因があるならば、クジラにこだわって対策が遅れれば、元も子もない。
水産庁が、「感情的対立ではなく、科学的議論をすべき」 と主張しているのだから、
持続可能な漁業を推進するためにも、真の原因を特定し、一日でも早く国際的取り組みを提案してほしい。(引用)
 この研究は持続的漁業開発のためのものということ。水産庁/日本の水産研究者が率先して調査し「バカげたことを言うな」と釘を刺すべきでありました。よそから叩かれる前に・・

 筆者が付け加えたいのは次の2つ。1つは、今後日本の捕鯨擁護論者が「鯨食害論」をぶつたびに、「あいつらまたトンデモなこと言ってるよ」と後ろ指を差されるばかりだということ。ウヨガキ君たちは放置してかまいませんが、科学者、官僚、自治体首長、ジャーナリスト、政治家、文化人の方々は要注意! 誰とは言いませんが・・。
 もうひとつは、Science発表の記事がカリブ海とアフリカ西岸での調査だということです。日本に水産ODAでむりやりIWC票を買わされ、“会費”も出張費も払えずに困っているアフリカ諸国やカリコム諸国ですが、今後こうした科学的事実が浸透すれば、ドミニカと同様、日本の口にする出任せには二度と騙されなくなるでしょう


 

◇日本の司法とマスコミの体質を伝えるGPJ職員逮捕事件

■Greenpeaceは日本の報道各社の特権も侵した? (2/22,flagburner's blog(仮))
http://blog.goo.ne.jp/flagburner/e/07f64011b043deab9b465a27cc5c2a8a

 昨日拙記事で関連情報をお伝えしましたが、LATimesでの報道についてflagburnerさんが拾ってくれました。LATのリンクあり。
 flagburnerさんの言うとおり、国内の事件なのに海外のマスコミより日本のマスコミのほうがきちんと仕事をしてないのは、メディアの十八番を奪ったGPをやっかんでいるからでしょうか? おっしゃるとおり、司法のみならず、日本のマスコミの体質についても、世界から問われることになりそうです。
 それにしても森下参事官、あなたまで捕鯨と無関係な刑事訴訟の件で、素朴な捕鯨食文化論をぶちあげてどうするんですか?? SSを捜査しているオーストラリア政府に対して、あまりに失礼だとは思わないのですか!? それとも、豪州側の持論をどんどん発言してもらいたいの??


 

◇中国メディアの分析

■中国対日観:「捕鯨へのこだわり」にはワケがある  (2/22,Searchchina)
 「日本人はなぜ、捕鯨にこだわるか?」―中国紙が紹介
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0222&f=national_0222_006.shtml

 中国メディアの報道は、国内の人権問題に関しては信用が置けない点も否めないでしょう。しかし、国外の問題については、日本とも欧米とも異なる独自の視点を提供してくれる点で、大いに参考になります。とりわけ捕鯨問題は格好の素材といえるでしょうね。非常におもしろい内容なので、反対派賛成派問わず読まれることをオススメします。櫻井よしこ氏にはとくに読ませたいですね。
 以下に一部を引用しましょう。

 趙氏はさらに、欧米への対抗意識については、「(第二次世界大戦終了までの)侵略行為を認めたくない心理が背景にある」と主張。 米メディアの記事を引用し、「戦前は、日本も欧米も同じ(帝国主義)クラブの一員だったのに、(米国人は)第二次世界大戦のことになると、『あなたたち、日本が引き起こしたものだ』と言う」との、日本の捕鯨関係者の発言を取り上げ、「日本の右翼は第二次世界大戦を、日本がアジアの人民を解放し、アジアを指導して欧米に対抗する『正義の挙』とみなしている」と述べた。(引用、強調筆者)
 日本人の鬱屈した感情は、他の国の人々の目には非常にわかりやすいものです。
 とはいえ、自分をルサンチマンから解放できるのは自分自身だけ。さっさと撤退しましょう。 



◇その他日曜動物系TV番組評──日本の動物番組が教える鯨研流致死的研究のお粗末ぶり・その1

■剣をかざしたスーパーフィッシュ|ダーウィンが来た! (1/22 19:30-,NHK)
http://www.nhk.or.jp/darwin/program/program137.html
■カジキ|Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/ã‚≪ã‚,ã‚-

 カジキを追う水中カメラマンのリック・ローゼンタール氏。撮影対象を驚かさない配慮から、タンクなしというのがすごいですね。
 グレートバリアリーフでのシロカジキの雌雄の行動など貴重な映像も。このときばかりは、タンク付きで長期観察できていたら、決定的瞬間をフィルムに収められたかもしれませんが・・。ヘンなオヤジ演出が入る30分番組より、1時間枠のドキュメンタリー番組を作ってほしかったところ。
 生態に関しては、吻の進化の理由として天敵からの防御を挙げていました。潜水艇にたまたま突っ込んで挟まった映像を根拠にするのはどうかと思いますが・・。映像でしっかり捉えられているように、効率的な捕食のための適応という解釈だけで十分でしょう。それに、やはり映像を見ても、餌の魚に当てて弱らせるより、群れを分散させる効果の方が大きいように見えますね。
 番組ではカジキマグロという呼称に触れ、「マグロとまったく無縁だ」という解説がありましたが、それほど遠縁でもありません。最近になってマグロと同じサバ亜目から外すという意見が有力になったそうですが、同じスズキの仲間ではあります。
 バショウカジキは魚として最高速の時速100キロを出せるといわれますが、陸上のチーターと同じスプリンタータイプのようです。番組中では、スポーツ・フィッシングの他、餌の魚の乱獲によって体長の小型化が進んだという話も出ました。生態系の上位捕食者として、サメやイルカ同様、汚染に対しては脆弱。「生態についてよくわかっていない」とは、番組中のローゼンタール氏の弁。
 連携して獲物を追い詰めたうえで、体色によるシグナルを送り合い、交代で捕食するという社会行動は、非常に興味深いものがあります。外洋表層域に生息する多くの魚種と同じく、大量の卵を産みっぱなしにして後は運任せという繁殖スタイルのはず。成体になってから、捕食行動の際にどのようにして群れを形成するのか、哺乳類の社会性との比較研究なども、今後進むと面白いですね。
 映像の中で、海鳥やイルカ、マグロと一緒に捕食したり、アシカとカジキの群れが協同で狩りを行う珍しいシーンなどもありました。
 さて、カツオドリなどの海鳥、イルカやクジラなどの鯨類、アシカなどの鰭脚類(現在は食肉目の下目の位置付け)、カジキやマグロ、サメなどの大型魚類は、同じニッチを占め、共通の資源をめぐる競合関係にあります。
 鯨研流の致死的資源学の立場から言わせれば、これらの動物は互いに潰し合う関係にあり、ニンゲンがコントロールして繁殖力の高い種を間引いてやらないと生態系が崩れてしまうことになります
 もちろん、そんなバカげた話はありません。
 これらの海棲生物たちの捕食行動の非致死的観察の結果からは、それとはまったく逆の結論が導かれます。これらの動物の間では、餌生物となる小型魚の群れに対するアプローチの仕方やタイミングが微妙に異なっています。例えば、海鳥とイルカは上と下から餌生物の群れを追い詰めることで、お互いに捕食効率を上げています。つまり、競合種が存在することによって、お互いにより好適な環境が保たれるわけです。これこそが自然の仕組み、生物の多様性の意味するところであり、本物のエコロジーです。

 先日、陸上のニホンザルとシカの同様の事例を取り上げましたが(下掲リンク参照)、これらはもちろんほんの一例にすぎません。ニンゲンの浅薄な知恵では解明しきれない部分が、まだまだたくさん残されています。地球上の種は未だに正確には数えられず数千万種といわれますが、それだけの数の種が何億年もの歳月の間一つのシステムを存続させてきたのは、紛れもない事実なのです。
 日本の古式捕鯨は、たかだか300年の間に乱獲による勃興を繰り返しました。明治以降の資本家によるノルウェー式近代捕鯨になってからは、その無節操度は格段に膨れ上がり、日本の豊かな海の自然を枯らしました。共同船舶の前身である大手水産企業による母船式捕鯨によって、複数の大型鯨類を含む数多くの種によって維持されてきた南極海生態系は、壊滅的なダメージを被りました。そこに、無思慮な文明活動による地球温暖化が、さらなる追い討ちをかけようとしています。
 日本の鯨類学者は、捕鯨産業を管理する責任を全く果たせませんでした。現在の状況を何一つ予見できませんでした。当の調査捕鯨によって明らかになったデータさえ、彼らのお粗末な間引き論、食害論とまったく逆の結果が示されたのです。
 「競合する種は間引かなければ生態系が壊れる」などというのは、捕鯨産業に寄生して彼らに貢献することしか考えない堕落した科学者による机上の空論にすぎません。現実の自然を計算する能力を、彼らは欠片ほども持ち合わせてはいないのです。

参考リンク:
■調査捕鯨で絶対わからない種間関係の生物学的重要性('08/15,拙記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/16989845.html
■調査捕鯨自体が否定した3つのトンデモ論(拙HP)
http://www.kkneko.com/jarpa.htm
■無価値に等しい調査捕鯨の科学性(〃)
http://www.kkneko.com/paper.htm


◇その他日曜動物系TV番組評──日本の動物番組が教える鯨研流致死的研究のお粗末ぶり・その2
 

■どうぶつ奇想天外! (〃 20:00-,TBS)
 クマムシを電子レンジにかけたりして遊んでいましたが、TV局がこんなふうに意味もなく命を弄んでいると、日本人の生命観はとことん荒んでいると思われるだけですよ。。
 続いて、オルカやシロナガスなどの写真で有名な水口博也氏が登場。コウテイペンギンを激写。番組中でNGOの方の解説がありましたが、営巣地を移動したり、繁殖期をずらせるなど、地球温暖化による影響に対してなんとか適応を試みているものの、この先温暖化が加速すれば絶滅が危ぶまれます。それはクロミンククジラも同じ
 最後は、小笠原WW協会や東大海洋研を中心にしたグループによるデータロガーを使用したマッコウの非致死的調査を紹介。CGはまあご苦労様という感じですが、地形の縦横の縮尺は実際と違ってたりするので、解説が必要・・。ともあれ、副産物目当ての鯨研の致死的研究とは対照的に、低コストなのに短期間で目覚しい成果を上げていることは、視聴者の皆さんもよくわかったでしょう。
 一方、捕鯨産業におんぶにだっこの致死的資源学は、毎年毎年飽きもせず耳垢の切片を作るばっかりで、目新しい成果など何も出てきません。世界の生物学者からは「無価値だ」とボロクソにこき下ろされ、権威ある科学誌からは掲載を断られる始末。
 番組を見た方はきっと、以下の3つのいずれかに違いないと思われたことでしょう。


@鯨研の致死的研究とこれらの非致死的研究は、同じくらい生態学的に意義のある研究で、同程度の成果を挙げ、国からも同程度の研究費が出ているに違いない。


A鯨研の致死的研究は税金をもっと注ぎ込んでいる分、紹介された非致死的研究を数段上回る素晴らしい成果をあげ、生物学・生態学の発展に大いに寄与しているに違いない。


B調査捕鯨の研究成果というものをTVなどで聞いた試しがないが、それは日本政府が全然サポートをせず、協力スポンサーも付いていないからで、きっと今回紹介されたのと同じような研究を細々としているのだろう


これは、とんでもない誤解です。
 調査捕鯨の研究成果がTVの動物・環境系番組で取り上げられることがないのは、国民の教養に資する部分がゼロだからです。中味がないからです。
 まあ、TVで取り上げられた回数は完全にゼロではなく、この番組でも捕獲されたマッコウの死体の古い写真がちらっと映ったことはあります。専らマッコウとダイオウイカの種間関係のみですが・・。
 映像価値の高いディスカバリーの番組などと違い、日本の愛誤色の強いTV番組で、ランダムサンプリングに基づく年間100頭規模の仔クジラの捕殺シーンを流すのは、鯨研といえど勇気が要るんでしょう。「あれは親子じゃないんだ!」ととんちんかんな言い訳をして、視聴者を煙に巻く自信もないのでしょう・・。
 国民の間でこうした大きな誤解が生まれるのは、有用な諸分野の科学研究を差し置いて巨額の国費を投入しているにも関わらず、水産庁と鯨研が説明責任をまったく果たさないためです。
 代わって説明すれば、鯨研の研究はフィールドで知恵を絞る他の鯨類学者の研究とはまったく異なり、まず「副産物の鯨肉獲得の片手間まで出来るものという要件が付きます。そして、建前として商業捕鯨再開に必要なデータを集めていることになっていますが、実は現在のRMP(改訂版管理方式)では調査捕鯨をする必要がそもそもありません。ただし、目視による個体数の情報が必要で、こちらはIDCR/SOWERという調査によるデータ解析の結果について、日本側が定性的な理由を引っ張り出して揉め続けています。合理的に判断すれば、無意味な調査捕鯨を直ちにやめ、SOWERの結果を補正するための精密な目視観測にすべてのリソースを投入するのが、商業捕鯨再開のための正しい道です。鯨研理事の藤瀬氏自身、昨年の鯨研通信のJARPAレビューの結果報告の中で、採集活動が目視調査の精度・努力量を落としていることを認めているのですから。
 では、なぜ日本はわざわざ商業捕鯨再開の足を引っ張るような非合理な真似をしているのか? 慶応大の谷口特別招聘教授や東北大の石井准教授を始め、内外の識者が指摘するように、日本は参入企業もない商業捕鯨を再開する気など端からなく、商業捕鯨の隠れ蓑である調査捕鯨を続けたいというのが本音だからです。つまり、調査捕鯨という致死的科学の唯一の目的は、調査捕鯨そのものを続けることなのです。自己存続のためなのです。
 内容が伴わないのは当たり前

 
posted by カメクジラネコ at 02:06| Comment(5) | TrackBack(0) | 自然科学系

2009年02月19日

日本の調査捕鯨の違法性を追及する内外の動き/非致死的調査だけど・・・

◇日本の調査捕鯨の違法性を追及する内外の動き

■豪環境相、「殺さない調査捕鯨」実現へ作業部会 (2/18,日経)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20090218AT2M1802918022009.html (リンク切れ)
■豪環境相、3月にクジラ調査会合 日本の捕鯨阻止目指し (産経)
http://sankei.jp.msn.com/world/asia/090218/asi0902182020005-n1.htm (リンク切れ)
■The Australian Senate Condemns Japanese Violence (2/16,SS)
http://www.seashepherd.org/news-and-media/sea-shepherd-news.html
■動かない豪政府+自分を撃沈した中川 昭一氏 (2/17,flagburner's blog(仮))
http://blog.goo.ne.jp/flagburner/e/acbb4d12aad99e1b0f6f6563645895ba

 日本の調査捕鯨より低コストで有意義な非致死的調査を実施したオーストラリア、科学的成果を今後具体的に活かしていくということですね。産経の報道では米国も参加するそうですよ。政権が変わってから、仲裁案をまとめたホガース議長もさんざんたたかれてますし。米豪が連携した場合、日本がさらに苦しい立場に置かれることは否めませんね。
 そのオーストラリア、日本の捕鯨と暴力行為に対する非難声明が決議されました。音響兵器まで持ち出すわ特攻までやるわ、非難されるのは当たり前。
 で、その違法性についてですが──

■捕鯨に対する日本政府の方針に関する質問書&答弁書 (2/18-26)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/169/syuh/s169038.htm
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/169/touh/t169038.htm
■パナマから船籍剥奪された「Oriental Bluebird」が「Hiyo Maru Two」と名前を変えて調査捕鯨に同行している (1/25,フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ)
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/59904665.html

 日本の調査捕鯨は、CITES(ワシントン条約)によって定められた手続を無視したため、パナマ政府に船籍を没収された補給船オリエンタルブルーバード号を改名(飛洋丸─>OB号─>第2飛洋丸に転々としたそうな。慌ててペンキ塗っただけだから、下の名前が見えとるとさ!)。姑息なごまかしの手口で、数多くの国際条約を蔑ろにする真似を平気でやってきたわけです。日本の国会でも参院喜納議員が質問趣意書を提出しましたが、森下参事官が答弁書を作ったせいだか、ノラリクラリと逃げるばっかりで具体的な答えにまったくなってませんね・・。まるで酔っ払った中川前財務相みたいです。
 ってことで細かくチェック。

◆一.北西太平洋鯨類捕獲調査で許可している鯨種の捕殺は、国際捕鯨取締条約(昭和二十六年条約第二号)の規定に従って実施しているものであり、また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(昭和五十五年条約第二十五号)により禁止されているものではない。

 一部海域でなぜか留保対象外にしているイワシクジラや、留保品目であっても必要な手続きをしていない点など、CITESに抵触するのは明確です。で、よく読んでみると、文脈を微妙に言い換えてすり抜けようとしていることがわかります。確かに、留保対象はイワシの一部だけですから、残りは禁止されてませんしねえ。手続き違反についてはなあんにも答えていませんしねぇ。さすが森下さん、キャリア官僚!
 捕殺は──禁止されていない──要するに、調査捕鯨がCITES違反行為を行っているということを、水産庁は答えたくないわけです。大体、理由を聞いてるのに全ッ然答えないで、しらばっくれてますし・・。

 次の質問趣意書では、「調査捕鯨に際して、CITESに抵触する部分は有るや無しや?」と聞いたほうがよさそうですね。
 この件については、今後米豪など各加盟国にもCITES事務局と直接掛け合って、年次総会などの場で日本政府を徹底低に追及してもらいたいところ。

◆二.我が国は科学的根拠に基づく鯨類資源の持続可能な利用を目指しており、利用可能な鯨類資源が存在する南極海での捕鯨を一律に禁止することは、科学的・客観的な理由に基づかないものであるため、賛成することはできない。

 サンクチュアリはICRW以前の国際捕鯨規制の中でとられてきた管理の一つですし、UNEPやIUCNの提唱する科学的な生態系管理手法に合致するものです。日本に合わせていたら、世界各地の自然保護区の設定は日本を含めてすべて非科学的になっちゃうでしょう・・。

◆三.御指摘のパナマ船籍の船舶は、共同船舶株式会社が私契約に基づき調査船への補給活動等に従事させているものと承知している。なお、このような私契約に基づく活動について、当該船舶の旗国であるパナマ政府の許可等が必要であるとは承知していない。

 びっくり! SSのスティーブ・アーウィンは民間の船舶でしょうが。オランダやオーストラリアにぶーたら言ったのはどこの誰じゃい。
 かんぽの宿の件も私企業の私契約ではありますな・・。鳩山総務相はこの件に関しちゃ正しいし、国民の税金注ぎ込んでるのは同じなんですから、鯨研の委託先の共同船舶の提携企業が違法行為をしていれば不適格事業者として外されるのは当然なんじゃないですか?

◆四/五.捕鯨母船日新丸は共同船舶株式会社が所有する船舶であり、お尋ねの点については、民間企業の問題であることから、政府としてお答えする立場にない。また、水産庁には御指摘のような補助金はない。
 公的な調達先の事業能力に関して把握してないのは問題ですな。


 新母船の建造費、いまはなくても今後補助金を出すつもりじゃないんですか?

◆六/七.お尋ねの条約の締結については、その締結により我が国が負うこととなる義務と、我が国が締結済みの他の条約により我が国が負っている義務との関係について十分な整理が必要であること等から、慎重に検討しているところである。

 UNEPの「移動性野生動物の種の保全に関する条約」(CMS)の話。森下さん、非科学的・非合理的なこと言わないでくださいよ。
 これはもう環境省が主導権を握って水産庁を黙らせないとダメですな。日本の数多くの渡り鳥などを始めとする野生動物の危機です。日本が環境問題で国際的なイニシアチブを握るだなどと、一体どの口がいえるのですか!? ふざけるのも大概にしてほしいですね。

◆八.政府としては、捕鯨問題をめぐっては、異なる考え方があるが、感情的な対立に流されることなく、冷静に科学的議論を行うことが重要であると考えている。政府としては、引き続き我が国の立場への理解を各国に求めていく考えである。

 以下同文。。

◆九.平成十七年から平成十九年までの「再就職状況の公表」では、平成十六年八月十六日以降の三年間に、水産庁の課長・企画官相当職以上で退職し、財団法人日本鯨類研究所に再就職した者は、中山博文、役職は専務理事、大谷博美、役職は参事の二名である。

 喜納議員が過去にさかのぼって出せといってるのに、三年分しか出さないとは怠慢もいいとこですな。渡り先渡り元も提示してほしいんですがね。


 

◇非致死的調査だけど・・・

■ザトウクジラに接近せよ|地球ドラマチック (2/18 19:00-,NHK教育)
http://www.nhk.or.jp/dramatic/backnumber/156.html

 昨年フランスのTV局が制作した研究者の密着ドキュメンタリー。
 監修は例に漏れず大隈氏と並ぶ日本の鯨類学界の大御所で「南極海里海論者」の東京海洋大教授加藤秀弘氏。最近はほとんどこのヒトばっか呼ばれてますね。まあ、さすがに著作権者のいる番組の中味に対して偏向監修まではしていないようですが。
 ところで、アニマルプラネット/ディスカバリー制作のSS密着ドキュメンタリーはどうするつもりなのでしょう? 同局制作の他の環境・動物関連のドキュメンタリー番組は、NHKの同じ番組枠でこれまで頻繁に放映しているんですけどね。政治的にとかく横槍が入りやすい公共放送ですから、無視される可能性が大な気がしますが。
 話を戻しましょう。この番組は、クジラジラミの遺伝子解析によりザトウクジラの系統群判別を試みるフランスの鯨類学者の取り組みを追ったもの。最初は面白そうな研究だと思ったんですが……蓋を開けてみると、なんだかなあ・・という内容でした(--; 非致死的調査ということで持ち上げたいのは山々なんですが、これじゃ鯨研と同レベルだなあ。
 トンガのルルツ島で、母子個体から直接クジラジラミを採取しようと、水中カメラマンの手を借りて何度もアタック。強引な手法による負荷と得られる研究成果を天秤にかけると、筆者がレビュアーだとしたら、「ボツ」と言い渡したくなります。
 クジラジラミというのは、昆虫のシラミとは関係ないカニ・エビ・ミジンコと同じ甲殻類の一種。細かくは、端脚類のワレカラ(よく海藻に擬態してくっついている甲殻類の仲間)の近縁です。クジラの体表(主に頭部やヒレの周囲で見られる。セミクジラやコククジラ、ザトウクジラなど低速で沿岸性の鯨種に多い)に間借りしていますが、血は吸いません。生態については不明な点が非常に多いようです。
 本来であれば、致死的標本採集が大得意な鯨研から情報が大量に発信されていていいはずなんですけどね・・。
 筆者ははじめ、海中で一定の期間浮遊生活を送った後、最終的にクジラの体表に“着床”するんだろうと思っていました。同じ甲殻類の一種でやはりクジラの体表に見られるフジツボは、海中と体表とを行き来する生活環であることは間違いないはずですし。が、近縁種であるヨコエビやワレカラの仲間は、ザリガニのように母親が抱卵し、卵の中で最終形態にまで変態してから孵化するそうです。ワレカラには、親が保育嚢を持っていて、仔ワレカラを育てる種もいるとか。さすがにそうした興味深い生態は、鯨研得意の致死的調査じゃ無脊椎動物だってわかりませんわな
 ワレカラも水産資源でないため、研究事例は少ないそうですが、クジラジラミの生態に関する情報はそれ以上に白紙に等しいようですね。先日の鯨研発の論文一覧にも、該当するものはありませんでしたし。寄生対象であるクジラの回遊に合わせて環境が激変するわけですが、クジラジラミの繁殖・生活環がどうなっているのか、保育嚢の有無や母子関係など、詳しく調べれば非常におもしろい動物のはずですが、ホンッットに鯨研は肝腎なところで役立たずですね。
 まあ、クジラジラミは食えませんし、生態を調べたって捕鯨業界にとっちゃ一文の得にもならないから、鯨研の先生方はモチベーションが働かないんでしょうが・・。
 ただ、番組中では、通常主にナガスクジラに見られ、ザトウクジラでは観察例がない種が、ルルツのザトウで同定されたとも。ナガスがザトウと直接接触する(それもシラミが移動できるような形で)ことがあり得るのか? それとも、これまでザトウで見逃されていただけなのか? 海中を浮遊・移動して別の宿主にたどり着く可能性もあるのか(ワレカラは少しは泳ぐようですし)? 番組中でカメラマンの手に移動して爪で体を固定しようとしたということですから、成体のクジラジラミの運動性が高く、主に母親から子供へという形で直接移動していることは間違いないのでしょうが。
 もっとも、クジラジラミが別のクジラにどのようにして引越しているかわかったのは、後からの話。爪でしっかり固定している動物を生きたクジラから“引っぺがす”という計画の前提に、そもそも無理があったのでは。このカメラマンにしても、アプローチを続けてある程度慣れた時点で、たまたま親子とも眠っている場面にでくわしたから運よく採取できたのであって、接触したときに目が覚めたりしたら、重大な事故に至っていたかもしれません。
 また、ルルツから別の島に移動する個体もいると解説されていましたが、要するに、あまり高い負荷を与えすぎると繁殖に適さない場所だと判断して去ってしまうということ。「系統群判別が進めば保護に役立つ」といいますが、これでは本末転倒です。統計的に有意な標本数が得られない、対象が偏る、情報が間接的すぎる、もっと優れた手法が既にあるなど、多くの欠陥があります。
 やはり番組中で出てきたのですが、大体ザトウクジラは派手なパフォーマンスで知られているとおり、フリッパリングやテイルスラップなど各種の示威行動を頻繁に行うため、そのときに皮膚が剥がれ落ちるわけです。クジラジラミなんかじゃなくて、そいつを使って直接クジラの個体そのものの遺伝子解析をすればすむ話。この研究者、せっかくたまたま皮膚片を採取できたのに、「目的のシラミがいなかった」とかいって放り投げてたみたいですね(--; 独創的な研究として評価されることを優先したのか。まあ、クジラジラミそのものを研究する意義ももちろんないわけじゃありませんが、それは鯨類学というよりクジラジラミ類学
 以前取り上げた、日本の水中写真家による強引な撮影もそうでしたが、メキシコ政府と同じようにトンガ政府も規制をもっと厳しくしなきゃいけませんね。繁殖海域での母子個体への直接のアプローチは、観光ダイバーはもとより、プロのカメラマンだろうと科学者だろうと、要件をもっときっちりと厳格に審査して制限すべきです。

参考リンク:
(クジラジラミ写真)
http://www.vill.zamami.okinawa.jp/whale/kujirajirami.htm (リンク切れ)


 

◇捕鯨批判ブログご紹介

■IWCから「伝統的な捕鯨を復古しろ」と忠告ですw (2/6,不条理日記)
http://himadesu.seesaa.net/article/113744377.html

 自称ネトウヨさんにも話のわかる方はいらっしゃいますが、保守派サイドから「調査捕鯨反対沿岸捕鯨賛成論」がもっと出てこないのはやっぱり不思議ではありますね。

■WWFジャパンが管理捕鯨容認に変わったのは皇室への配慮と分析されている (2/17,フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ)
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/60233635.html

 WWFJが“宗旨替え”してすぐ引っ込めた話ですね。いまも若干配慮が伺える主張ではありますが・・。まあ、予防原則やマルチインパクトについてきちんと明記しているので、筆者としては問題ないと思いますが、社会学的・政治学的視点はGPの方が持ち合わせているといえるでしょうね。
 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社のレポートですか。保険会社ですよねぇ。A○Fは日本じゃ活動してないようですし、SSは共同船舶だけだから、損害保険じゃないですよねぇ。訴訟リスク保険??
 つくづくおもしろいですニャ〜、ニンゲンって動物は・・・

posted by カメクジラネコ at 02:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 自然科学系