2013年09月12日

ミツバチとクジラ──科学のまやかしと予防原則

■謎のミツバチ大量死 EU農薬規制の波紋 (9/12,クローズアップ現代)
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3401.html
■ミツバチ激減は農業の危機|科学ジャーナリストの5656報告
http://koide-goro.com/?p=2068
■蜂蜜からネオニコチノイド系農薬 ハチに悪影響懸念 (8/18,共同)
http://www.47news.jp/CN/201308/CN2013081801001357.html
■農薬でミツバチの群れ消失 ネオニコチノイド系 (6/17,共同)
http://www.47news.jp/CN/201306/CN2013061701001395.html
■ネオニコチノイド系農薬 諸外国の状況と対応|NO!ネオニコ
http://no-neonico.jp/pdf/nenpyou.pdf
■米国、ネオニコチノイド系農薬4種のハチへの有害性を表示義務化|地球のココロ
http://chikyu-no-cocolo.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-1846.html


もしネオニコチノイド系農薬が原因の一つという可能性があるなら、そして量より質の高品質農業を実現しようとするなら、EUが決めた「予防原則による2年間の使用禁止」は極めて妥当な措置です。
アメリカでは、蜂に止まらず人間のこどもに行動異常が起きるというコホート研究が発表されました。
日本が海外の様子見で時間を空費していいわけがありません。
(引用〜リンク2番目)


山田教授は「ハチが即死しないような濃度でも、農薬を含んだ餌を食べたハチの帰巣本能がだめになり、群れが崩壊すると考えられる」と指摘。養蜂への影響を避けるためネオニコチノイド系農薬の使用削減を求めている。一方農薬メーカーは「科学的根拠が明らかでない」と否定的な見方を示した。(引用〜リンク4番目)

 内外の環境保護NGO、研究者が警告を発しているネオニコチノイド系農薬。
 日本の環境後進国ぶりがここでも浮き彫りになった感じです。
 NHK番組中で取り上げられた長崎での取組には希望もありますが、これは要するに対話云々じゃなくて、ミツバチの受粉に依存している、商品価値の高い果樹栽培農家の力がJA内で強いから、養蜂家たちの味方ができるんだよね、まだ。
 クジラ関係ではみなさん耳タコでしょうが、ここでも予防原則の話が出てきました。
 予防原則にこだわるEUは非科学的で、日本や農薬メーカーは科学的?
 NOです。
 単なる優先順位の話。
 疑わしきをどちら≠フ利益とするか。すなわち、命・自然の側への配慮か、商売・金儲け優先か。それだけの違い。
 不確実性は、常に、どんな問題でも存在するわけです。そして、公害からオゾン層破壊に至る、手遅れになった苦い経験が、予防原則の意義を高めたのです。南極海での日本を含む捕鯨会社による大乱獲も、まさにその一例でした。
 この問題についていえば、いまは「ミツバチへの影響が疑われる」という段階です。「ないとは言い切れない」。だから、少なくとも「ないと言い切れる」ようになるまでは禁止。それが予防原則です。
 農薬メーカー、推進派は、不確実性(=「ないとは言い切れない」)に対し、「非科学的」という用語を用いることで、あたかも「ないと言い切れる」かのように印象操作しているわけです。
 実に便利な用語ですね〜。このカウンターキャンペーンを最も巧みにこなしているのが、化学工業業界、原子力ムラ、捕鯨サークルといえるでしょう。カーソンの時代から叩かれてきた分、慣れてるでしょうし・・
 それでも、EUは市民とNGOの働きかけで政治家が動き、ミツバチ・養蜂家・消費者の安全を守れる未来へと一歩踏み出したわけです。
 科学≠ニいうまやかしの言葉にしがみつき、取り残される捕鯨ニッポン。毎度毎度このパターン、何とか卒業したいもの・・・
 山田養蜂場さんはちゃんと研究助成してくれてるみたいですが、プロポリスだの何だので潤ってる美容・健康食品業界さんも、ハチたちと共存している農家さんと一緒に、ぜひミツバチを応援してあげてください。


 反反原発層と重なる反反捕鯨層は、原発の安全神話や「アンダーコントロール」なる安倍の卑劣きわまる嘘には一切注意を払わず、ヒロシマ・ナガサキ・フクシマを経験した国なら当然の反応というべき、放射能に対するアレルギーに対してのみ異様な敵愾心をむき出しにしますが・・同様にやはり農薬の安全神話を鵜呑みにし、きっと予防原則を真っ向から否定するんでしょうね。実際、狂信的な反反捕鯨論者の一部には農薬漬農業礼賛論者もいますし。ミツバチへの同情なんてこれっぽっちもなさそう・・
 それとも、予防原則の適用除外はクジラオンリーかしら? いや・・彼らは聖なる鯨肉≠守るために、ありとあらゆる環境問題での予防原則適用事例を攻撃することでしょう。「クジラの過ちを繰り返すな!」と。
 捕鯨推進運動はまさに、すべての環境・動物搾取産業を擁護する砦≠ニして機能しているわけです。最大の効果を発揮したのは、やはりマグロ、ウナギでしたが。


 筆者は若い頃、肉食主義者に「蜂蜜はどうするんだ!?」とツッコまれたことがあります(--;; まだ世慣れていなかった筆者は、他人のライフスタイルをとやかく攻撃し、揚げ足を取らないと気がすまないヒトたちが少なくないことを受け入れる用意がなく、返答に窮してしまったものです・・
 筆者は皮革・ゼラチン等動物製品を購入せず、各種肉魚のみならず卵・乳製品も摂取しませんが、蜂蜜は気にしません。まあ、厳密な定義に従うならヴィーガンから少し外れるんでしょう。。彼らの唾液とか混じってるから動物製品といえなくはないけど。
 筆者はワンコつながりで農家・養蜂家さんに現場を見学させてもらったり、近所のお宅の藤棚にニホンミツバチが巣を作った際に相談しに行ったりもしました。少なくとも正しい養蜂においては、事故もありますが、別にミツバチを殺して蜂蜜を奪っているわけではありません。まあ、天敵のスズメバチをトラップ(当然農薬じゃない)で殺したりもするけど。いずれにしろ、受粉用にマルハナバチを大量に殺している一部の野菜より、奪っている命はむしろ少ないんですけどね。あと、合鴨農法とか、混合農業型の有機野菜よりも、ですけど。。
 ミツバチは、ヒトとその文明社会が環境負荷を低減するうえで欠かせない存在とさえいえます。余計な文明の諸産物が要らない、むしろ農薬のように都合が悪いため、シンプルなエコ・スローライフのとても頼れる味方。誰もが知ってていいはずだけど。環境教育の素材としても優秀です。
 ミツバチが元気な社会、元気な国は、持続的な未来が保障されているといえるでしょう。
 自分たちで恐ろしい天敵スズメバチから身を守る術まで開発したけど(セイヨウミツバチに布団蒸し戦法は無理)、ヒトへの攻撃性は低くておとなしいニホンミツバチが、いつまでも花々を飛びまわれる環境こそ、農業・食料生産・国民の健康と安全を維持できる豊かな社会といえるはずです。
 原発や兵器、農薬、公海捕鯨を捨て、ハチたちの巣箱を守りましょう。日本のために。
 


参考リンク:
−ベジタリアンが暮らしにくい国 (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/21557770.html

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2013年09月10日

捕鯨問題進展のカギは日本/イルカの話題2本

◇捕鯨問題進展のカギはAUSではなく日本

■捕鯨問題進展も? 豪州のアボット新首相は親日姿勢 (9/9,NEWSPHERE)
http://newsphere.jp/world-report/20130909-5/

 わかってないで記事書く方が多すぎますね。サイトの運営会社はWebサービス関連企業のようですが、本業のジャーナリストに頼んでいるのでしょうか? まあ、プロのマスコミ・ジャーナリストの捕鯨関連記事も日本は特にボロボロだけど・・・
 オーストラリア(AUS)も米国同様、保守連合(自由党・国民党)でもリベラル連合(労働党・緑の党)でも親日度に特段の差はありませんし、捕鯨政策も然り。
 違いはあくまで戦術です。そこは内向きの動機が絡んでくるわけですけど・・・
 日本との関係強化は経済・防衛面の話。南半球のクジラで譲歩するはずがありません。
 今回の政権交代では、TPPでの対日攻勢が強まったり、アベノミクスの悪いとこを見習ったり、気候変動対策等環境政策が軒並み後退したり、先住民が不利益を被る懸念はありますけど・・。AUS国民の皆さんの選択ですから、外から言っても詮無いことですが、炭素税導入等は急ぎすぎたのかもしれませんね。商業捕鯨モラトリアムじゃないけれど。
 確かに、'09年の日本の政権交代時には、捕鯨問題での進展がちょびっと期待されました。残念ながら、期待はずれでしたけどね・・・
 捕鯨問題が進展するためには、最もラディカルなAUSの軟化は必要ですが、ICJその他の場でも、沿岸ないし北西太平洋の捕鯨に関しては、既に軟化の姿勢は示されているのです。
 北朝鮮やシリアの如く、対外的な強硬姿勢に微塵の変化もない日本側が変わらない限り、進展は決して望めません。



◇興味深いイルカの話題・その1

■イルカ×クジラ、交雑種?の撮影に成功 東京都・御蔵島 (9/10,朝日)
http://www.asahi.com/tech_science/update/0910/OSK201309100006.html?ref=com_top_photo
■クジラとイルカの子がイルカの子を産んだ(なんのこっちゃ)
http://kisosuu.cocolog-nifty.com/zakki/2005/04/post_0750.html

 イルカ殺し列島%本の中でイルカたちのサンクチュアリに位置づけられる御蔵島。水中写真家の鈴木氏は「ソロモン流」に登場した方ですね。
 朝日記事には鴨シーの勝俣副館長と鯨研・西脇参事のコメントがあります(アナログ版だと西脇氏のコメントは削られちゃってるけど・・)。別に西脇氏が鯨研だからというわけではないのだけど、ここは勝俣氏に軍配かなあ。
 イルカも幼齢個体ほどネオテニーで口吻が短いのですが、この子は成熟したカズハゴンドウより尖って見えます。カズハの子なら親よりさらに丸みを帯びてるはず。
 オキゴンやハナゴンとハンドウのハイブリッドは、飼育個体で報告されています。オキゴン×ハンドウは継代繁殖が可能なほど近縁種ということですね。(リンク2番目)
 まあね・・・せっっまいプールの中に一緒に閉じ込められてるから、そういう不自然な過ち≠煖Nこっちゃったんだよね・・・・
 ただ、交雑は種(正確には遺伝子)にとって決して好ましくないわけです。基本的には。場合によっては、隔離の程度の低い異なる亜種間同士の再統合など、進化・種分化を引き起こす要素にもなるんでしょうけど。大体、ホッキョクグマとヒグマ、リクイグアナとウミイグアナ、アカウミガメとタイマイのケースなど、いま飼育下でない野生下で交雑が見られるケースは、大体が個体数の減少と環境異変(結局犯人はニンゲン)が原因と考えられます。人為的要因が絡まない自然交雑の例としては、一部のヒヒが挙げられるようです。
 種・個体群の分布を決めるのは基本的に地理的境界であり、海中では潮の流れや水温・水深などの要素が大きいわけですが、移動自体が阻まれがちな陸上に比べ、海を長距離回遊する鯨類などの動物の場合、社会行動・社会生態の差異から来る障壁≠熨蛯ォいかもしれません。以前関連する学説を紹介しましたが、それがハクジラ類において80種以上に及ぶ種分化が見られる理由のひとつとも考えられます。
 この子がカズハなりゴンドウのどれかの種とのハイブリッドだとすれば、野生動物としてはかなり稀少なケース、貴重な観察事例といえるでしょう。
 シチュエーションはやっぱり気になりますけどね。。母親の雌は普通にミナミハンドウの群れの中で暮らしていますし、雄の個体もいるはずです。フラッとやってきたゴンドウの雄に一目惚れしちゃったんでしょうか・・。母親の個体にしても、群れにしても、どうやって受け入れたのか、その辺が不思議。。
 西脇氏のよその子$烽煖サ味深い仮説ではあります。ザトウとシャチのNHK特集ではないけれど、完全に非互恵型の利他行動の一例といえるからです。
 西脇氏には映像で大雑把な感想しかいえない種の同定より、年齢査定のほうをお願いしたかったところ。その辺は飼育関係者のほうが詳しいでしょうが。ただ、カズハゴンドウは一時的な保護だけで長期飼育の事例はない模様。
 ミナミハンドウは成体の体長が2.5m、生まれたての仔イルカでは1mくらい。授乳期間は1年から1年半。親と比べてみると、この子はまだ離乳してないくらいなのではないでしょうか? 行動を見ても親子≠ツきっきりですし。
 それにしても・・知りたいのはやっぱり父親だよね(^^; 野暮かもしれないけど。。
 まずは無事に生き延びてほしいですが、もう少し大きくなったら、遺伝子サンプルを採取して調べてほしいもの。もちろん、非致死調査で!

参考リンク:
−シャチとザトウクジラの深すぎる愛 (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/60552101.html


 

◇興味深いイルカの話題・その2

■イルカの夢精、初めて撮影に成功 「夢とは無関係」 (9/3,朝日)
http://www.asahi.com/tech_science/update/0903/OSK201309030130.html?ref=reca
■イルカも夢精、撮影に成功 京都大、世界初 (9/3,産経)
http://sankei.jp.msn.com/science/news/130903/scn13090320560001-n1.htm
■「大切なことなんです!」野生イルカの“夢精”を撮影 京大研究グループ (9/3,産経関西版)
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/130903/wlf13090319440017-n1.htm

 朝日の方は記事詳細を読めてませんが、どちらもタイトルが変。
 朝日「夢とは無関係」これは森氏のコメント? 科学的には無関係かどうかはわかりません。主観的にはほぼ間違いなく関係していると思いますけど。
 朝日のキャプション「交尾のときにしか露出しない」とありますが、これも間違い。触覚器官として使うケースもあります。フリークはご存知のとおり。
 産経タイトル、「大切なこと」ではまったくありません。ヒト以外でも。夢と同じで、「機能・必要性がよくわかっていない」という言い方もできるでしょうけど・・
 クジラ・イルカは、浮上呼吸の必要性から脳を半球ずつ休ませるといわれています。睡眠の仕方・質が多くの動物種と異なります。夢のほうも、ニンゲンやネコのように長時間ぐっすり眠ってときどきα波が出るレム睡眠の状態に入り、その間に夢を見てる(ときには夢精という生理現象にもつながることもある)パターンとはだいぶ違っていそう。このイルカの場合、いったん目覚めたようなので、正確には夢精といえない気もしますが。でも、ボノボのような社会的性行動もなかったということですから、きっとそういう夢≠見たに違いないでしょうね・・・
 いずれにしろ、森氏も「突発的な射精は観察が難しいが、多くの動物で起こっている可能性があり、人間の夢精の仕組みにも関係すると考えられる」(引用、リンク3番目)と指摘されているとおり、動物のありふれた生理現象です。
 実は、筆者はうちの子のこの生理現象を目の当たりにした機会があり(事後処理もしました・・)、別所の犬猫エッセイで詳細にまとめています・・

参考リンク:
−ちょっと恥ずかしい話(ワンニャンブログ)
http://www.wannyan.sakuraweb.com/wannyan/blog.htm#9

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2013年08月22日

ただちにストロンチウム海洋汚染の監視強化を

◇ただちにストロンチウムによる海洋汚染のモニタリング強化を

■海へ流出、最大30兆ベクレル=ストロンチウムとセシウム−東電試算・福島第1原発 (8/21,時事)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2013082100829
■セシウム・ストロンチウム海洋漏出 管理値の100倍超 (8/22,東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013082202000140.html
■坑道から海に最大30兆ベクレル 福島原発、基準値の140倍 (8/22,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS21050_R20C13A8EA1000/


■福島第一 タンク漏水300トン 高濃度、限度の数百万倍 (8/20,東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013082002000230.html
■タンク汚染水、海流出か 底から漏れた可能性 福島第一原発 (8/22,朝日)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201308210765.html


注意点@:タンクから漏れた高濃度汚染水の海洋流出分は別!


 漏れが判明したのは20日に発覚したタンクとは別の汚染水(日経〜引用)
 東電は、原発専用港の外へは汚染は広がっていないとの認識(東京上〜引用)

 連日の発表で誤解されかねませんが、日経記事のとおり、地下水からの汚染の算定とタンクからの汚染水漏出は別件。要整理です(狙ったわけじゃないんでしょうけど・・)。
 そのタンクから漏れた汚染水ですが、ストロンチウム90(Sr90)の値が1リットル当り8千万ベクレルということは、300トン分であわせておよそ24兆ベクレルのSr90が環境中に放出されたということですね。しかも、現在もこれは増え続けているわけです。
 地下水からの10兆ベクレル分は、東京新聞記事にある東電の弁明を信ずるなら、外海への流出をある程度防止する措置が取られている専用港に留まっているのでしょうが、朝日記事にあるように、タンクから漏出した汚染水のほうは、拡散防止措置の取られていない専用港外に、排水溝から直接流れていたことになります。

注意点A:セシウム比に基づく仮定は禁物!

 これまで分析が難しいという理由で放射性ストロンチウムのモニタリングは十分に行われてきませんでした。食品等の規制基準を設けるにあたっては、代わりに事故による放出量をセシウムの1/10程度(Sr90では1/20)と想定し、その放射性セシウムの測定値をもとに計算してきたわけです。実際、土壌中の分析の結果からもセシウムの数百分の1程度(一部のホットスポットでは6%と高い値も出ている)と見られていました。
 事故後の放射性セシウムの海洋への想定流出量が1900兆ベクレルだとすると、比率でいえば放射性ストロンチウム(Sr89+Sr90)の海洋への流出量はおよそ200兆ベクレル程度。以前の赤旗の記事では、このうちSr90の海への流出量の試算値として72兆ベクレルとの数字が出ています。
 今回明らかになった地下水経由の汚染水は最大の見積でSr90が10兆ベクレル、Cs137が20兆ベクレルで、Sr/Cs比は1割どころか5割の値。タンクから漏れた汚染水と合わせ、これまで流出したトータルの量と比較しても、空恐ろしい数字だということがわかります。
 直接放出された以外の汚染水は、セシウムをある程度除去・回収したうえで循環させたりストックしていたもので、その分ストロンチウムが高濃度に凝縮されているのですね。
 トレンチから溢れだしていた72兆ベクレルに加え、地下水を通じて漏れ出していた10兆ベクレル、さらに新たに発覚したタンクからの漏出分24兆ベクトルも、一部は既に海洋に流出し、土壌に漏れた分も今後海へと浸出することは避けられないでしょう。
 今回明らかになったSr90の放出量は、おおよその初期存在量に基づいて想定された値、規制基準のもととなった数字に新たに付け加わえられるものです。確かに、JANJAN記事でも指摘したとおり、ストロンチウムのみを過剰に怖れる必要はありません。しかし、土壌中の沈着率の数字のバラツキからも明らかなように、環境・生物圏におけるストロンチウムの挙動は理論に従うとは限らず、セシウムと必ずリンクするわけでもありません。少なくとも、「セシウムだけ観測すれば済む。ストロンチウムについてはたまにチェックすればいい」という発想は捨て、ストロンチウムについてもセシウム同様の観点でモニタリングを強化することは必須です。
 下掲リンク2番目に新測定法の報道があります。おそらくコストは従来の手法以上に高くつくのでしょうが、いくら金がかかっても測定の頻度を上げ、対象品目等を充実させることのほうを優先すべきです。
 そして、凝固剤を注入するだの、土嚢を積むだの、安上がりの小手先の対策で済ませようとせず、これ以上の汚染の拡大を食い止める抜本的な対策を打つ必要があります。

注意点B:「東電に対して国が主導を」の主張はすり替え! 税金投入するなら、原子力推進政策の責任を改めて追及すべし!

 いま、マスコミを中心に「東電任せにせず、国が音頭を取れ」という奇妙な大合唱が起きています。
 これは「国民の税金で尻拭いをしろ」ということです。「東電と株主ではなく、国民が責任を負え」ということです。
 事故の評価尺度レベル3への引き上げ(海洋への流出を所外へのリスク≠ニ考えればもっと上でもいい)というのっぴきならない状況に対し、早急に手を打つ必要があるのは確かです。国土強靭化だのともったい付けて癒着業界にばら撒いている補助金・事業手当の類をすべて削ってでも、最優先で予算を付けるべきでしょう。もちろん、削る予算・事業の筆頭に挙げられるべきはガラクタ調査捕鯨ですが・・。
 しかし、あたかも「五輪招致への風評被害を防ぐため」といわんばかりに、責任の所在を一切問うことなく、税金で処理させる流れに持っていこうとする風潮には、汚染そのものに勝るとも劣らない強い危惧を覚えます。
 いま放射能に蝕まれているのは、環境だけではなく、この国の機構、社会風土なのではないでしょうか?
 国が東電の汚染対策をバックアップする前提となるのは、核オプションへの幻想を含む原発神話と完全に縁を切り、国として速やかな脱原発を目指す方針を明確に掲げることです。再稼働も原発輸出も論外。
 そして、政府・電力業界・マスコミ・経団連等にはっきりと「責任を取らせる」ことです。
 最低でも、福島の原発事故が真の℃束を迎えるまで──たとえそれまで何十年かかろうと──アベノミクスの乱痴気騒ぎはお預けにすべきでしょう。

 海を放射能まみれにすることに対し、痛みを感じようとすらしない国に、海洋国・漁業国のリーダーを名乗る資格があると、みなさんは思いますか? 南極のクジラを屠る資格があると思いますか?
 海はニンゲンのものではありません。日本のものではありません。
 海はクジラたちのものです。海の生き物たちのものです。
 これからも海の幸をいただくつもりであれば、まず第一に原発を捨てること≠ナす。そして、慎ましさを取り戻すことです。


参考リンク:
−ストロンチウム汚染を正しく怖れるために(記事中の添付リンクもご参照)|JANJAN
http://www.janjanblog.com/archives/41617
−ストロンチウム 短時間で測定 (NHK) 
http://www.asyura2.com/12/genpatu27/msg/784.html
−ストロンチウムは骨に蓄積されるので、危険だと聞きました。食品中のストロンチウム量についての規制は無いのでしょうか。(その1.規制について) |法医研・放射線被曝に関するQ&A
http://www.nirs.go.jp/information/qa/qa.php
−72兆(テラ)ベクレル流出 ストロンチウム‥2号機取水口汚染水99・9%外洋に ('11/5/30,赤旗)
http://www.jcpre.com/genpa-fukushima2011-3/2011-5-30gen.html
−土壌中のストロンチウム/セシウム比―文科省100地点調査と横浜マンション屋上のSr検出に関連して|togetter
http://togetter.com/li/199689
−ストロンチウムはどこへ?・・・東電魚介類調査から考える|明日に向けて
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9736fa788e839dcb237639ccda3027a0
−水産庁によるストロンチウム測定データ(とセシウム比)|こども未来測定所
http://memoli4future.com/kodomira/learn_radiation/external/entry-9208.html



◇翻訳協力者募集

 現在、鉄砲の弾を撃ちこまれ続けている状況のため、Srの件はじめ行政へのアプローチはその道で飯を食ってる優秀なプロの人達にお任せすることにして、筆者は続編の推敲、表紙作成と小説「クジラたちの海」の英訳作業に専心します。
 「クジラたちの海」英訳版の発行を本気で進めることにしました。現在1章分抄訳済み。


- Part 3: the Northeast Pacific Sea, Chapter 35. Moby-Dick, I -
http://www.kkneko.com/nvl/esec35.htm


 まともに外注するとなると、この章だけでも20万以上、前編で1千万は下らないところですが・・。なんとかコストを低減させる手を模索中。「翻訳委員会」方式とか使えればいいんですが。適切な形で英語版を刊行できれば、ドイツで200万部のヒットを飛ばした「深海のイール」に負けず売れる自信はあるんですけどね・・・
 上掲の抄訳をチェックしてくれる方募集中。校正料については3万円まで用意しますので、メール、HPフォーム、ツイッターでご応募くださいm(_ _)m

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2013年08月12日

あなたはそれでも「ザトウを殺させろ」と南半球の人たちを脅しますか?

◇あなたはそれでも「ザトウを殺させろ」と南半球の人たちを脅しますか?

■イッテQ!カレンダープロジェクト 7月編 オーシャンズ金子 〜バブルネットフィーディング
http://www.ntv.co.jp/q/oa/20130811/02a.html


 映像は大変見事でした。
 これまでも海洋野生生物特集はかなり運に恵まれている同番組ですが、NHKより低予算・短期間の取材で貴重な絵が撮れているのは、あからさまな捕鯨擁護番組を制作したり、偏向報道ばかりしている局との差といえるかもしれませんね・・
 「行ってQ」のライバルNHKが制作したザトウの映像については、リンク先の過去記事一番上をご参照。
 水族館とのタイアップ企画などやや残念な回もあるのですが、海棲哺乳類はじめ野生動物の生態については的確に要点を押さえて茶の間に紹介してくれており、同番組はバラエティにしては結構良質。
 実は、チャタム海峡のこの群れ以外でも、バブルネットフィーディングが見られないわけではありません。一番洗練された漁≠行うのがこの25頭のチームなのですね。チンパンジーのアリ釣りやシャチの狩り同様、群れごとに差のある野生動物の後天的社会行動、すなわち文化≠フ典型例として、今後より詳しい研究を進めていってもらいたいところ。
 少なくともそれは、南極産ナガスの尾の身のようなガラクタ食ブンカに比べれば、はるかに重要で価値のある文化に違いありません。


 みなさんは一連の映像を観て、「南半球のザトウクジラも俺たちの食い物だ。四の五の言わずに殺させろ」とオーストラリアやニュージーランドの人たちを脅している国があることに、胸の痛みを覚えませんか?


 「行ってQ」よりシャッタータイミングと画質はだいぶ落ちますが(汗)、アラスカのザトウのフィーディングの写真が過去記事に貼ってあるのでご堪能あれ。

−アラスカのザトウ (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/57560187.html


その他参考リンク:
−NHK、少しはクジラの宣伝もしたけど、捕鯨業界礼賛偏向番組にはかなわず・・ (〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/32112197.html
−ザトウクジラの社会性 (〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/24045343.html
http://kkneko.sblo.jp/article/24090035.html
−シャチとザトウクジラの深すぎる愛 (〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/60552101.html

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2013年08月09日

海を殺す国、捕鯨ニッポン/ミンクの非致死調査

◇海を殺す国、捕鯨ニッポン

■汚染水海洋流出は10年後「壁で防げる」…東電 (4/19,読売)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130419-OYT1T01208.htm


 東電も同様の計算を独自に行い、汚染水の海への到達は100年以上かかるという結果を得た。(引用)


 ついこの間まで、こぉんなこと言ってたはずなんですがね・・・
 ここまで海を蔑ろにする国に、海洋環境保護・持続的水産業のリーダーを名乗る資格なんて、あるはずがありません。


参考リンク:
■規制委 福島第1汚染地下水検討へ「海に到達の疑い」 (7/11,赤旗)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-07-11/2013071101_02_1.html
■東電の汚染水対策がどう変遷してきたか:ハッピーさんの見解
http://togetter.com/li/543841
■放射能汚染水|3.11東日本大震災後の日本
http://tsukuba2011.blog60.fc2.com/blog-category-8.html



◇反反捕鯨論者の復習帳・その3


@ミンクもクロミンクも非致死調査はとぉっくに実施済!


Q:日本が調査捕鯨で捕獲しているクジラは、殺さないと調査できないのでは?


A:大丈夫です。できます。やってます。


 日本の調査捕鯨は、研究者同士で切磋琢磨する環境云々という以前の問題で、そもそも科学ではなく副産物≠フためにやっているものですから、十年一日の如く進歩がありません。日進月歩の勢いで進んでいる野生動物の非致死調査とは、月とスッポンなのです。
 以下の表は、バイオプシーを用いた鯨類の調査研究のリスト。


■Review of cetacean biopsy techniques: Factors contributing to successful sample collection and physiological and behavioral impacts
Table 1.  Summary of studies that used biopsy methods to collect specific samples from odontocete species.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1748-7692.2011.00469.x/full


 たくさんありますね。多くの鯨種が対象になっています。ミンククジラももちろん遺伝情報、有害物質、脂肪酸の解析が行われています。もっと泳速の速いナガスクジラや各種ハクジラ類でできることなのですから、できないはずがないわけです。ちなみに、ミンクの個体識別も知床を含む世界各地で行われています。
 え? それは北のミンクでミナミのクロミンクじゃない?
 大丈夫。我らがオーストラリアのゲール博士が、6月に韓国で開かれたIWC-SC(国際捕鯨委員会科学委員会)の会合でもちゃんと報告してくれてますよ。以下、要約を全文引用しましょう。(リンク先、証明書エラーが出るので注意)


■IWC Meeting Portal
https://events.iwc.int/index.php/scientific/SC65a
https://events.iwc.int/index.php/scientific/SC65a/paper/view/398


During the austral summer of 2012-2013 we studied Antarctic minke whales in their  sea ice habitat in two regions of the Antarctic: the Ross Sea and the Western  Antarctic Peninsula.  In less than a month of field work, during which a portion  of time was dedicated to minke whale research we deployed 16 satellite-linked  data recorders; two short-term archival data recorders; obtained 19 skin and  blubber biopsy samples and took a large number of photo-identification images of  well-marked individuals.  We attached four types of biotelemetry tags using three  different attachment techniques: blubber penetrating satellite tags, dorsal fin  mounted satellite tags, dorsal fin mounted satellite and dive recording tags, and  suction cup mounted multi-sensor acoustic tags.  We believe that such dedicated  effort offers great promise to gain insight into many aspects of the movement  patterns, habitat use, behavior and life history of Antarctic minke whales.


 ま、そういうわけで、クロミンクだって、バイオプシーも個体識別もできちゃってるわけです。「もう面倒臭いから殺しちゃえ」なんて、挑戦もせずに投げ出す人は、そもそも野生動物研究者を名乗る資格などありません。魚でさえ、非致死調査の話が出てきている時代なのですから。
 膨大なデータを蓄積し、提供してくれる貴重な科学的資源を、ほんの一瞬のスナップショットのために破壊し、ときには捕鯨砲による損傷で胎児など有用なサンプルが入手できなかったり、莫大な税金を注ぎ込まないと調査ができなかったり、いろいろ欠陥だらけなうえ偏っており、次の設問で触れるように、まともな科学的成果も上げられないのが日本の調査捕鯨。
 それに対し、今後非致死調査がさらに進展すれば、(調査捕鯨が耳垢の山を築くだけだったせいで)これまでろくに明らかにされてこなかったクロミンクの生活史についても、ますます多くの知見が得られるに違いありません。ゲール博士もそう太鼓判を押してくれているわけです。


A系群判定に調査捕鯨は役立たず


Q:
調査捕鯨は系群解析にやっぱり必要なのでは?


A:
できてないうえに、「他をやれ」って言われちゃったのです・・


 調査捕鯨の理由のひとつにあげられていますが、20年以上かかっても必要な成果をあげられないうえ、「別の調査をしなきゃだめだよ」とIWC-SCに怒られちゃいました。いますぐ調査捕鯨をやめてそっちをやるべきなのです。

■調査捕鯨の科学性を解体する
http://togetter.com/li/486896


 今、捕鯨管理に必要なのは、南極海といったクジラが餌を食べる場所ではなく、子どもを生む場所のデータが必要だというのが国際捕鯨委員会の科学委員会の勧告です。これも日本政府は無視しています。(引用)

■Report of the Intersessional Workshop to Review Data and Results from Special Permit Research on Minke Whales in the Antarctic, Tokyo 4-8 December 2006
http://archive.iwcoffice.org/_documents/sci_com/SCRepFiles2007/59-Rep1.pdf


it was noted that the lack of samples from the breeding grounds precluded description of this as a completely comprehensive dataset for stock structure analyses, (SC/59/REP 1,p14)


Bクロミンクは減少している!


Q:ミンククジラって増えているんですよね?


A:
減っています。

 皮肉なことに、「調査捕鯨の数少ない成果のひとつ」ではあるのですが、日本が本格的に獲り始めた1970年代以降については「多くの観測・解析結果が減少していることを示している」とまで、IWC-SCのレポート上では明記されるようになりました。
 70年代以前については、確かに一時的に増えていたと推測されていますが、これは状況証拠による仮説。調査捕鯨及び目視調査による精度の高い解析の結論として、「現在減少局面にある」と考えられているのです。
 ミンクの減少の原因については、たぶん日本の捕鯨のせい「だけ」ではないのでしょう。カニクイアザラシやミナミオットセイなど他の競合捕食者も大幅に増えましたし、温暖化やオキアミ・南極海漁業資源の乱獲も響いているのかもしれません。調査捕鯨「だけ」では何もわかりませんけど・・
 ニンゲンが生態系全体を管理しようとして失敗ばかり繰り返してきた歴史を考えれば、最も遠く理解の及ばない自然≠ナある南極海で、「ミンクを間引けば(日本を含む捕鯨業者が乱獲で減らした)大型ヒゲクジラ類を回復できる」なんて、そんな単純な話ではないのです。


参考リンク:
■IWC Meeting Portal
https://events.iwc.int/index.php/scientific/SC65a
https://events.iwc.int/index.php/scientific/SC65a/paper/view/282
−ミンククジラの最新推定生息数の意味と南大西洋サンクチュアリ提案の意義 (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/56853884.html
−国際捕鯨委員会2012総括 (〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/57038734.html

−ペンギンバイオロギングVS調査捕鯨 (〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/46531519.html


 政権再交代のせいで、嘆かわしいことに国全体の右傾化が進む中、ひところより素朴でおバカな反反捕鯨層が増えてきた感がありますね・・
 その水準を大きく越える狂信的反反捕鯨論者も若干1名みられるようですが、自作自演の好きなマルチハンドル狂人は9割方自分のばら撒いたゴミへのリンクを張っているだけです。何の価値もないガラクタなのに、権威ある一次ソースのつもりでいるのが哀れですが・・。残りの1割は、多少マシだけど311陰謀論にはまってしまった別の反反捕鯨論者の三次ソースと、黴の生えたごく一部の捕鯨サークル発信の一次情報だけ。
 捕鯨問題について知りたい人は、国際捕鯨委員会の発信する一次情報、同じく日本政府・鯨研の発信する一次情報(注意深い解析は必要ですが)、反捕鯨国・NGOの発信する一次情報、マスコミの発信する二次情報を、発信元の性格を理解したうえでチェックするようにしましょう。それ以外は、著名人も含め、単なる「個人の感想」です。



※ 別件で司法対応が必要になったので、しばらくツイッターでの発信はお休みいたします・・

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2013年01月05日

ヒヨドリの心とヒトの心

 これからする話は、動物と多少なりともつきあった経験があれば、ごく当たり前≠ノすぎないことで、きっと「何をいまさら・・」と顔をしかめる方も大勢いらっしゃるでしょう。一方で、動物に関心のないネトウヨ君から、死体の研究しかしない鯨研の御用学者に至る反反捕鯨論者たちは、事実として受け入れられないことかもしれませんが・・・

 毎年この季節になると、大三島の有機農家さんから箱で送ってもらうミカンを切って、庭の木の枝に差し、野鳥をお招きするのが我が家の慣わし。やってくるのは、主にメジロ、ジョウビタキ、そしてヒヨドリ。都市近郊で至って普通に見られるありふれた野鳥。ヒヨドリは、野鳥の中でもハスキーボイスで通っているし、羽毛もグレーが基調なので、声や見た目はあまり鑑賞向きとはいえないかもしれません(アジアにしか生息していないので、海外のバードウォッチャーにはファンがいるそうですが)。それでも、仕草を眺めているだけで十二分に楽しませてくれます。
 先日から数日にわたってうちに訪れたヒヨさんは、かなり風変わりな子でした。ミカンの実を一房ずつ、順番に嘴で吸い出しているのですが、その食べ方の丁寧でお上品なことといったら。
 大体、複数のミカンを置くと、あっち行ったりこっち行ったり、右から食べてみたり左から食べてみたり、しまいには実がまだ残っているのに皮をビリビリに引きちぎって、「ぎゃー」とか叫びながら地面にうっちゃらかしていく子が多いんですけどね・・。ところが、その子は薄皮1枚すら破らず、差した位置がずれることもなく、芸術作品のようにミカンの形を保持したまま、食事を終え、静かに去っていったのです。いかにも、喫茶店でアイスフロートを注文し、音を立てないようストローでそっと吸っているお嬢さんという感じ。ヒヨは体長も体色も性的二型が明瞭でないタイプなので、オスかメスかわかりませんけど・・。
 ワケアリでうちに来た足欠け文鳥さんは、逆にズボラでオヤジな性格なので、「あなたも少しは見習いなさいよ」と、愚痴のひとつも言いたくなるほど。
 この子はとくに個性が際立っていましたが、訪れる客人(鳥)たちはいずれも、行動も性格も千差万別で、1羽とて機械的な反応≠オかしない子はいません。だからこそ、野鳥・野生動物の観察は興味が尽きないのですが。
 ヒヨドリの行動を観察していると、大体大きく二つのパターンに分かれることがわかります。
 まず、庭のミカンを見つけるや、近くの木に止まり、一声「ボクが先に見つけたぞ!」と宣言するタイプ。
 もうひとつは、こっそり食べ始め、食べ終わるまで一声も鳴かないタイプ。
 前者は、気の強いタイプ。平均よりやや大柄な、年長の個体に多い。
 後者は、気弱なタイプ。まだ年若い、体格も平均よりやや見劣りするタイプ。
 きちんと統計を取れば、両者の傾向にはきっと明瞭な差が表れるでしょう。
 自分がある程度満腹するまで、他の個体が来ても寄せ付けず、餌を独占する自信のある個体が前者。宣言≠出しておけば、近くにいる他の個体は、張り合おうとせずによそへ行くので、食事に専念できるというメリットがあります。ただし、互角以上の相手だと、逆に割り込まれて追い払われる可能性もあるわけですが。
 後者のほうは、食べ終わるまで、他の個体にはなるべく見つからないようにするわけです。ケンカをしても勝ち目がない以上、わざわざ鳴いて寄せ付ける真似をすれば損なだけですからね。もちろん、鳴かなくても見つかってしまえばそこで終わりですが。
 つまり、気の強いヒヨドリの個体が取る行動も、気の弱いヒヨドリの個体が取る行動も、それによって果実という資源を十分に利用できる確率が高まるわけです。いいかえれば、そうした行動が発達し、進化する合理性があるということ。
 もちろん、ヒヨドリは果実を中心にした雑食性で食性の幅は広く、他の野生動物に比べれば、平和的≠ニいえるでしょう。餌が十分あれば、隣り合って仲良く食べることも珍しくありません。ただ、餌をめぐって同種の個体同士で激しい闘争を繰り広げるタイプの種でも、性格類型≠フ基本は変わらないといえるでしょう。
 この行動・性格類型≠ヘ、餌を見つけたときに鳴くか鳴かないかという、個別の条件に対する一つの応答にはとどまりません。ねぐらでの場所取りから繁殖期の異性・同性とのやり取り・戦略まで、様々なシチュエーションがあり、出力としての行動もそれに応じて異なります。そして、それらの行動はいずれも理に適っています。
 そして、この行動・性格類型≠ヘ、一方から他方へ変化する場合もあります。若いうちは「気が弱かった」個体も、場数を踏んで「自信をつける」わけです。体調が悪かったり、年をとると、逆方向へシフトします。
 では、幅広いバリエーションを持ちつつ、一つの特色でまとめることのできる一連の社会行動・反応を生み出しているのは一体なんでしょうか? そう……個性であり、性格であり、感情そのものなのです。それは、遺伝子に代わって生存に有利な行動を臨機応変に出力する、統合された情報処理器官である脳の働きに他なりません。それこそが≪心≫なのです。
 気の強いヒヨドリは、自信に満ちて歌を歌います。気の弱いヒヨドリは、周囲をうかがいつつこっそり餌を食べます。
 勝気な気分、オドオドした気分、それらが状況に応じた、それぞれの個体にとっての最適の行動という出力につながります。
 ヒヨドリとニンゲンの性格類型は、基本的に同じなのです。
 野生動物であれ、犬猫その他の家畜であれ、ヒトであれ。
 テンションがハイになっているときは、積極的に行動し利用できる資源を獲得するのが有利な行動。テンションが下がっているときは、リスクを回避するのが有利な行動。シチュエーションに応じて取られる行動パターンは様々ですが、気分・感情によって突き動かされる行動は、いずれの場合にも最も適切に対処できるようになっています。
 自然とは、生物とは、≪心≫とは、実に巧い具合に出来ているものだと、感心するほかありませんね。
 負の感情もあれば、正の感情もあります。いずれも、進化的にみれば一定の合理性があります。
 社会的な相互作用という機能の側面からいえば、社会性の高い動物ほど感情が豊かだとはいえるのでしょう。

 「涙には目を洗う保護機能しかない、ニンゲンだけが特別だ」と思い込んでいる反反捕鯨君もいるようですが、社会性動物が悲しいときに涙を流す反応は、一種のディスプレイだと筆者は考えています。嬉しさ、悲しさ、という感情は、コミュニケーションの機能を伴う、群れの個体間での共有・相互作用の側面が大きいといえます。苦痛を感じたとき、子供を喪失したときなど、利益を共有する群れの個体のバックアップを必要する切迫した状況に陥ったとき、SOSの信号をわかりやすく発信するためのものでしょう。闘争に負けたときの悔し涙などは、勝者に対する鎮静作用の意味合いもあるのかもしれません(ワンコのお腹ゴロンではないけれど・・)。ニンゲンがどの種より涙を頻繁に流すのは(嘘泣きも含めて)、他の個体の感情を読む能力が低く、しばしば汲み違える鈍感な動物だからなのかもしれませんが・・。いずれにしても、「悲しいから」涙を流すのです。動物(ヒトを含む)は。
 愛も、最も多様な行動を惹起する感情のひとつ。動物の間でかなり普遍的にみられ、汎用性が高い一方で、ときに遺伝子にとっては意味のない相手にまで対象を広げるエラーも引き起こしてしまう、生物学的ソフトウェア=感情・≪心≫といえますが、改めて説明する必要はありませんよね?
 動物の喜怒哀楽については、国際的に著名な動物・人類学者である女子栄養大名誉教授の小原秀雄氏なども、豊富な観察事例に基づく洞察をなさっています。
 これまでも何度か取り上げてきましたが、では、感情・≪心≫がなぜこう≠ネのか? 自分のある感情と他者(ヒトあるいはヒト以外)のある感情が、本当に同じ≠ネのか? を科学的に検証する手立てはありません。分子生物学・大脳生理学的見地から、心のメカニズムを解明する研究が進んだとしても、それらは結局脳の電位、生化学的反応についての記述でしかなく、≪心≫の説明とはいえないのですから。
 もっとも、そうした試みは、感情がニンゲンという種固有のものではなく、「動物のもの」であることをますます立証することになるでしょう。快楽物質とされるエンドルフィンは、ニンゲンだけでなくイヌからラットまで多くの動物が持っています。ホルモンの作用から自律神経系の働きまで、感情にかかわる生理的・生化学的メカニズムは、ニンゲンに限らず多くの動物で共通しています。
 ついでにいえば、ストレスなど心の働きや社会性については、実験動物の結果を外挿する研究が盛んに行われているのも、ご存知のとおり。それもマウスで。当たり前の話ばかりで、論文数稼ぎのためのバカげた研究といえますが・・。
 もうひとつ余談。ネコはヒト、あるいはイヌや他のサルに比べ社会性が低く、感情も乏しいと考える向きもあるようですが、まったくの誤りです。ネコは群れを作らず単独行動とみなされがちですが、行動圏が重複する個体同士で行動時間・ルートを調節するなどして、リソースをうまく共有する独特の社会性を備えています。いわゆる“ネコの集会”も、行動圏の重なるネコ同士の顔合わせで、緊張を回避・緩和する巧みな知恵といえます。ネコがイヌとはまた異なる形で、ヒトとの間に異種混成社会を形成するようになったのも、そうした社会性が背景にあると、筆者は考えています。
 ニンゲンは、ニンゲンの感情や≪心≫は、決して何か特別な、神聖な、超常的なものではありません。それは、社会性動物としての、自然な機能なのです。


 日頃「科学」「科学」とうるさい捕鯨擁護者ですが、こと動物の感情の問題になると、外野のウヨガキ君から著名人層まで、まるで米国の福音主義者のごとく、非科学的な神秘論者に変貌してしまうヒトが日本でも多数見られるようです。言ってることは単なるヘリクツだし、そもそも動物にも、動物学にも興味を持てないタイプの所為か、先天的な本能と後天的な学習行動、反射・感覚・感情・社会行動の区別もついてなかったりしますが・・。
 確かに、動物(ヒト含む)の感情を見抜く感受性は、持って備わった能力と経験値に基づくスキル≠ノよって大きく左右されます。ダメなヒトはいつまでたってもダメでしょう・・。不向きなことを無理強いするつもりはありません。しかし、自分たちに理解できないからといって、自然現象を頭から否定するのは、科学的態度とはとても呼べませんね・・・

参考リンク:
■ザトウクジラの社会性
http://kkneko.sblo.jp/article/24045343.html
http://kkneko.sblo.jp/article/24090035.html
■ヒトとライオンとイルカの心
http://kkneko.sblo.jp/article/20494608.html
http://kkneko.sblo.jp/article/20366571.html
■シャチとザトウクジラの深すぎる愛
http://kkneko.sblo.jp/article/60552101.html

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2012年12月06日

南極海捕鯨は特殊な聖域/シャチとザトウクジラの深すぎる愛 /お知らせ

◇南極海捕鯨は特殊な聖域──文化も科学もとことん蔑ろにする捕鯨ニッポン

■懐かしの町並みを守るには〜失われる伝統的建築物〜|クローズアップ現代 (11/29,NHK)
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3281.html

 前回の記事では、科学を名目にした調査捕鯨にはふんだんに予算がつけられるのに、重要な基礎研究を担い国際的にも高い評価を得てきた極地研の南極観測事業が、あろうことにも財政難で危機に陥っている件を取り上げました。
 今回は文化。これまでもブログ・HPでくり返しお伝えしてきたことですが、文化先進国に向けた歩みはまったく進んでいません。もともと意識の高いヨーロッパ諸国とは常に比較されますが、先進国の中で日本ほど歴史的街並、由緒ある建築物の価値を蔑ろにする国はないでしょう。国や自治体は金を出さず、保存は個人・NPOの自腹。それでいて、身勝手な食文化の定義を、南極の自然や南半球の人々に強引に押し付けるのです。
 千葉県佐原市は歴史的な街並で有名ですが、東北大震災で壊滅的な被害を受けました。しかし、予算がつかないため、修復は未だに手付かずの状態。復興予算は、こうした伝統的な建築物の修復にこそ充てられるべきでした。ところが、あろうことにも、調査捕鯨という名のバカげた南極海でのプロレスごっこのために流用されてしまったのです。
 これは文化と科学に対する冒涜以外の何物でもありません。
 英語が得意な方、発信力のある方は、ぜひ情報発信を!


■クジラをたべたかったネコ(英語版)
http://www.kkneko.com/english/index.htm



◇シャチとザトウクジラの深すぎる愛


■大海原の決闘!クジラ対シャチ|NHKスペシャル
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/1125/


 映像も大変迫力があり、余計な演出もなく、近年のNHKスペシャルの中では珠玉の一作といえる出来でした。
 惜しむらくは、同海峡付近にやってくるクジラ(北太平洋のザトウとコク)の数、およそ4万頭が大きい数字であるかのように視聴者に受け取られかねないナレーションが一部にあったこと。シャチの200頭は言わずもがなですが、4万頭でも決して多いなどとは呼べません。もっと繁殖率の高い陸上の哺乳類の多くは、数万頭のオーダーで保護されているのですから。
 何より興味深かったのは、やはりシャチ(→血縁外のポッド)とザトウ(→コククジラの仔)に対する利他行動の映像記録。ともに血縁関係がなく、互恵性が非常に低いため、この種の社会行動が進化し得たと合理的に説明するのが難しいのです。
 シャチは「赤の他シャチ」をわざわざ招いて≠ィ裾分け。陸上の他種の哺乳類だと、食性を問わずまず考えられないことです。大抵の野生動物は、余裕があっても自分のための資源の確保を最優先する傾向にあります。譲る相手は、配偶者や自分の血を引く子、せいぜい血縁を同じくする群れの個体まで。ここのシャチたちの場合、食性の幅が広く、この海峡のクジラは季節限定(まさにハレのご馳走)でもあるので、「縄張り内の資源」に対するような執着はないのでしょう。余裕がある中で、分量的にどうせ食べきれないのだから・・ということなのでしょう。クジラが食卓に上る機会が少ないから、血縁のほとんどない群れ同士であっても、餌にありついた時は融通し合うことで、結果的に捕食効率をお互いに″b゚ることができる、ということがひとつ考えられます。その意味では、一応互恵性はあるといえるでしょう。あるいは、血縁外の群れとの関係を良好に保つことに、何か別の明白なメリットがあるのかもしれません。この手の推論は囚人のジレンマ問題がネックになるんですけど・・。いずれにしても、血縁外への飛躍は、シャチ以外の動物ではなかなか見られることではありません。
 一方、ザトウクジラによるコククジラの子の救出行動は、正直かなり驚かされました。あのザトウの群れの詳しい構成が知りたいものです。低緯度では、母子、または雄(単独〜複数)から成る、主に繁殖に関わる構成なのですが、高緯度ではバブルネットフィーディングのような共同作業を伴う漁≠するために数頭の群れを作ることがあり、その構成は低緯度の群れとはまた別だと考えられています。シャチの行動の方は、まだ何とか互恵性の説明がつくのですが、ザトウの救出行動の方は単純に見れば〈リスク〉でしかありません。集中攻撃を受けるあのスポットで、シャチの行動を牽制することにより、同種の血縁の未成熟個体のリスクを減らせるメリットもゼロではないかもしれませんが・・これはかなり強引な解釈。それよりむしろ、ザトウにとってみれば、シャチがザトウの仔を狙わずにコクばっかりを狙ってもらうのが都合がいいはずなのです。ついでにいえば、赤の他ザトウの仔の場合でも、やはり見て見ぬふりをする選択が進化行動学的な正解ということになるでしょう。
 さすがに、同種の仔クジラと勘違いしたということはありそうもありません。おそらく雌の群れで、少なくとも母親の経験のある雌がいた、と考えるのが自然でしょう。もしかしたら、シャチに子供を襲われた経験の持ち主が、群れの中にいたのかもしれません。陸上では、カバがインパラの子をワニから守った事例がTVで紹介されたこともあります。カバとワニは生息環境がバッティングする犬猿の中で、衝突の機会も多いのですが。実際、あれは明らかにワニに意地悪したようにも見えましたし、ご飯を逃したワニがかわいそうでしたけどね・・。
 これは進化行動学者、社会生態学者に対して、かなり大きな難題を突きつけたといえるかもしれません。科学的に説明がつかないのです。
 でも、もっとシンプルな見方もできます。要するに、ザトウクジラはバカなのでしょう。愛が深すぎて。
 犬や猫も、ゾウやカラスもクジラに負けず深い愛を持っていますけど・・・
 ニンゲンは、確かに動物の中ではずば抜けて知能は高いに違いないでしょう。しかし、はたしてそのことをもって他の動物より優れていると本当にいえるのでしょうか?
 沿岸に近い浅海に棲み、鯨種の中では研究がしやすいハズのザトウクジラやコククジラについてさえ、このように従来知られていなかった新しい発見が出てくるのです。まだまだ知らないことだらけなのです。ニンゲンはクジラについて、驚くほど無知なのです。南半球のクロミンククジラに至っては、繁殖海域すら特定できていません。低緯度の生態がわからなければ、調査捕鯨を続けても無意味だということは、IWC科学委で再三指摘されているのに。
 クジラは生態系の中で様々な役割を果たしています。NHKの番組でも取り上げられたように、ヒグマやカモメ、深海のゴカイたちまでつながっているのです。海鳥や回遊魚、サメたちの捕食にも役立っています。ニンゲンは、シャチの代わりも、クジラの代わりも決してできやしないのです。海の生き物たちと関わってなどいません。ただ一方的に収奪するだけです。
 番組の中では、コククジラの未成熟個体のシャチによる捕食が過半数と解説されていました。この数字自体は、他の野生動物と比べた場合決して大きくはありません。むしろ非常に少ないのです。ウミガメなんて、200頭の仔のうち198頭は捕食者に食べられる計算ですよ。クジラの乳幼児死亡率が低いことには、少なく産んで手塩にかけて育てるタイプだという、きちんとした理由があるのです。
 たくさんの仔や卵を産むタイプの野生動物なら、一握りの生き残りがいればいいのです。クジラはそうはいきません。数年に1頭の仔がシャチに捕食されれば、その年の繁殖機会は全部不意になってしまうのです。それだけセンシティブ。だからこそ、高々百年のニンゲンの捕鯨の圧力に耐えきれず、あっという間に絶滅の瀬戸際に立たされてしまったのです。
 アリューシャンの海を無数のミズナギドリが乱舞するシーンも紹介されました。海鳥たちの方が、個体数も、単位体重当りの摂餌量も、クジラより圧倒的に多いのです。もちろん、再生産率もクジラよりずっと高いのです。クジラを間引いたところで、海鳥その他が増えるだけ。どのみち、ニンゲンが「換金できる魚」と、海鳥やクジラたちが餌にする魚とは一致しません。「食害○億トン」は非科学的な誇張でしかないのです。
 確かに、この辺りの海でシーズン中に船の間にかすみ網でも張れば、効率的に、持続的に良質な蛋白質が得られるでしょうね。捕鯨をやるよりは。「日本の焼き鳥文化」と強弁することだってできちゃいますよ? 食糧問題解決にも資するんじゃないですか? いま飢えている国を救えますよ、きっと。鯨肉よりは。捕鯨と同じく、まったく「必要」なんてありませんけど・・・
 シャチの捕食について、一点付け加えておきましょう。獲物を窒息させるのは、大型ネコ等陸上の大型捕食者と同じ(そういうタイプばかりではないけれど・・)。行動を封じて消耗を避ける合理的な手法なのですが、苦痛に敏感なヒトの一員としては、自然の裁量に胸を撫で下ろす感もなきにしもあらずです。
 クジラは決して特殊で神聖な動物ではありません。ただの野生動物にすぎないのです。ライオンがシマウマを襲うのも、シャチがヒゲクジラを襲うのも同じこと。獲物が逃げる場合も、殺される場合もあります。そんなとき、子供が逃げてホッとする一方、捕食者が今日のご飯を食べられてよかったとも、筆者は思います。
 ヒト自身は、他の動物と違う万物の霊長を自称する以上、野生動物の水準で満足せず、最低でも即死を目指すのが人道≠ニいうものでしょう。捕鯨砲の致死時間短縮に不平をもらしたり、犬猫をガス室で苦しめるような真似は、万物の霊長のやることではありません。ヒトはシャチと違って、ただの野生動物ではないハズなのですから・・・

 以下、詳細については、拙ツイログをご参照。鯨研の販売員・西脇氏のツイートと併せてチェックしてみてください(手抜きでゴメンナサイm(_ _)m)


参考リンク:
■西脇氏のツイート
http://twilog.org/Ryosyuisanakuma/date-121128
http://twilog.org/Ryosyuisanakuma/date-121129
http://twilog.org/Ryosyuisanakuma/date-121130
■筆者のツイート
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-121130
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-121201
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-121202
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-121203
■ザトウクジラの社会性
http://kkneko.sblo.jp/article/24045343.html
http://kkneko.sblo.jp/article/24090035.html
■ヒトとライオンとイルカの心
http://kkneko.sblo.jp/article/20494608.html
http://kkneko.sblo.jp/article/20366571.html
■NHKの悪質な捕鯨推進プロパガンダ番組
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html
http://kkneko.sblo.jp/article/31241524.html
http://kkneko.sblo.jp/article/31312410.html
http://kkneko.sblo.jp/article/31422606.html
http://kkneko.sblo.jp/article/31617239.html



◇お知らせ:『クジラたちの海』続編・『クジラたちの海──the next age』執筆開始


 以下、拙作をお読みでない方には意味不明の内容ですのであしからず。前作のあらすじ等はこちら。
http://www.kkneko.com/nvl/novel.htm

     〜 〜 〜 〜 〜

 物語の骨格部分をざっとご紹介してしまいましょう・・

 主人公は代替わりしてジョーイに。
 敵の親玉は、前作のクライマックスで行方をくらましたドクガン。
 旅の同行者(予定)はメル、クッキー(自称)、ジャンセン、〈表〉の老ジュゴン、〈最果ての郡〉の仔ジュゴン、迷子のスナメリ。
 クレアは……
 〈列島〉の〈毛なしのアザラシ〉を操作し、〈M11〉なる壮大な計画を推し進めようとするドクガン。〈洗礼〉を受けた〈御子〉であるジョーイは、彼から〈約束の海〉へと招かれることに。
 旅立って早々、一行は〈クジラ食の岩〉と〈謎の黒い岩〉との乱闘に巻き込まれます。そして、そこでリリが……
 大幅に迂回した前回のルートとは違い、北上して沖縄へ。別れと出会いを経て、旅の終着地へ。
 決着の舞台は……フクシマです。
 そう、前作のメインテーマは米軍の核事故でしたが、今作は≪311・フクシマ≫。
 辺野古移設問題も必然的に取り上げることになります。
 対決シーンでは、未来のザトウクジラも登場。
 物語のもう一つの柱が、前作同様、生と死の相克。
 前作では当たり前の生≠ニ偽りの死≠ニの対決でしたが、今作では当たり前の死≠ニ偽りの生≠ニの対決を描きます。
 今作では新旧キャラが多数命を落とします。
 旅の間、自然な死とヒトの手による死という二つの死≠フ意味について、ジョーイは悩み続けます。
 さらに、今回は旅の行程が短くなる都合もあり、地上で繰り広げられる〈毛なしのアザラシ〉=ニンゲンのドラマと交互で展開することに。(予定)
 『ウォーターシップダウン』に対する、『疫病犬と呼ばれて』の位置づけに近いかも。
 メインで登場する〈毛なし〉は、学生時代に理想を語り合いながらも袂を分かった3匹。1匹は、過激な団体のメンバーとして抗議船(〈黒い岩〉)に乗船。1匹は、穏健な団体で若くして国内支部長に。1匹は、ドロップアウトし商社の官公庁事業部で営業を担当。波乱万丈の半生をたどった3匹は、311でさらに数奇な運命に翻弄されることに。
 ジョーイは最後に、本物の死≠ニ贋物の生≠フどちらかを選択することになります。
 次の世代のために。
 前作は希望に満ち溢れたエンディングでしたが、今作は対照的になるかもしれません。
 最終的には、「今度の衆院選の結果次第」なのですが・・・・

 再来年の年次会議までに何とか上梓したいのですが、スケジュール的にかなり厳しいかも・・。他の作品が軒並みポシャッてしまったので、、モチベーションの維持が大変(--; 311後のさまざまな環境異変をブリン、クライトン調に料理したり、ツナミ・断層破壊の海中視点描写など、今の筆者には少々高いハードルもありますし・・前作の水準はキープしたいのですが。
 もっとも、発行元は未定ですので、完成したとしても、旧作改訂版と合わせてネット上で無償公開の形になるでしょう。
 311は、食えない物書きも食える物書きも、日本人なら挑まなくてはならない<eーマといえますが、高橋源一郎の『恋する原発』くらいで、あまりめぼしい作品が今のところ見当たりません。あれは副読本代わりに子供たちにも読ませたいくらいだけど、無理だしね。。。バルセロナでスピーチした村上春樹辺りはいずれ大作を出すでしょうが、時間かかりそうだし・・
 十代も対象に含めたフィクションは、ノンフィクションの映像や報道に代わることは決して出来ませんが、それでもフィクションならではのやり方があります。種を撒く作業です。
 肩書きの有無によらず、さまざまな伝え手が、さまざまな媒体を通じて、それぞれの方法でメッセージを伝えることが、いま求められているのではないでしょうか?
 先日には国内発のイルカ猟反対デモも行われましたが、ことクジラに関しては、水産庁他関係機関から情報を引き出し戦略的に対処できる人材が圧倒的に不足しており、筆者のように不得手なニンゲンまで引き受けざるを得ないのが現状。もっとも、リンク署名にしろODAにしろCdにしろ経済効果にしろ、発信力不足が響いてW/Lの投入量に実効がまったく見合わない始末。。早く優秀な℃瘤閧ェ出てきてほしいんですけどね・・・
 そういう次第ですので、優先順位を完全に切り替え、取材と執筆に全リソースを回すことにしました。水産庁その他へのアプローチは当面お休みにします。IWCでは年次会議が隔年になりましたし、すぐに捕獲数・消費が伸びることはなさそうですし。むしろ、政治の雲行きと原発・沖縄の方が怪しい雲行きですが・・。旧コンテンツについては、ちょこちょこ修正作業を続けます。
 
 既作は残念ながら興行的には大失敗に終わりましたが、読書系SNSなどでご感想をいただいた皆さんには感謝の念に堪えません。
 旧作改訂版について、また別館の動物ジュヴナイル小説・民話絵本にご興味のある方は、HPの問合せフォームないしツイッターのDMにてお知らせくださいm(_ _)m

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2012年11月28日

完全商業捕鯨化に向けKKP発進/研究者の悲哀/調査捕鯨>>南極観測!!??

◇完全商業捕鯨化に向けKKP発進!! けど、キャッチコピーは・・・

■鯨類捕獲調査改革推進集中プロジェクト改革計画書
http://www.jf-net.ne.jp/fpo/gyoumu/hojyojigyo/01kozo/nintei_file/20121002_kujira.pdf

 
 復興予算の便乗ボッタクリ批判を逆バネに(?)、鳴り物入りで発進した捕鯨サークルのKKP(クジラ改善プロジェクト)。
 国の手厚い庇護を長年受け続けたにもかかわらず、鯨研が販売不振で債務超過団体に陥った経緯を踏まえ、広報戦略をガラリと変え、キャッチコピーも刷新した模様。
 「アンチSS」から「バレニン教」へ──。
 これまでは、プロレス観戦が趣味の血の上りやすい若い層をターゲットに、南極でのバトルをネットで実況中継するなどして、反捕鯨運動に対抗してきたわけです。この戦略はいわゆるネトウヨを中心に熱烈な支持を集め、物の見事に成功を収めた……かに見えました。
 しかし、捕鯨サークルにとって目算狂いだったのは、この手の反反捕鯨層はSSをこき下ろして自己満足に浸るだけで、鯨肉購買層と一致しなかったため、連中を煽っても一文の得にもならなかったことでした。
 そこで、次に彼らが狙いを定めたのが、生活習慣が原因で健康の悩みを抱えた中高年層。グルコサミンだのコンドロイチンだのそれっぽいカタカナを並べるだけで引っかかってくれる、(たとえ気休めでも)健康不安を手軽に解消できるなら出費を惜しまない、粗利の高いビジネスを考えている起業家にとってありがた〜い存在。

 さて、上掲リンクで示したKKPの計画書には、バレニンの効果を謳った日本捕鯨協会のパンフレットが添付されています(P62)。ちょっとチェックしてみることにしましょう。
 バレニンは、カルノシン、アンセリンとともに、動物の筋肉中に遊離アミノ酸の形で存在するアミノ酸結合体であるイミダゾールジペプチドの一種。抗疲労効果はこのイミダゾールジペプチドの作用。捕鯨協会はあたかもこの3種が別々の特徴を持っているかのように文体を変えて見せかける工夫をしていますが(P64)、実質的な違いなどありません。このうちカルノシンの比率が高いのは陸棲哺乳類、アンセリンが鳥や魚、バレニンはクジラの他ワニなど爬虫類にも多いとのこと。ちなみに、カルノシンの筋肉中の濃度が最も高いのはニンゲン・・。
 イミダゾールジペプチドの含有量自体の比較では、カツオ・カジキや鶏胸肉と大差なく、鯨肉は単に割高なだけです。ベジとしては、あんまりこういうことは言いたくないんですけどね・・。
 P65、66にはイミダゾールジペプチドの抗疲労効果(臨床データ)の資料を掲載。IPS騒ぎの例の人みたいな長たらしい肩書きの付いた特任教授とかがもっともらしく効用を説いている、健康食品のパンフレットそのもの、という印象ですね。しかし、よく読むと、32名の体感疲労、7名の腿上げ(2回)、マウスの遊泳時間や懸垂スコアが科学的根拠だそう、です・・。
 P65の上段の2つの結果は、血中乳酸の測定など定量的なデータを比較したのではなく、「どのくらい疲れたか」というアンケートへの回答を無理やり数値化しただけのもの。「気の持ちよう(プラセボの効果)」との疲労感の差は僅か。下段の2つ、「カルノシン+アンセリンの効果」は、被験者の少なさ(7名、10名)もさることながら、論文の出典が明記されていません。記載内容が非常に乏しく(フォントを大きくして字間・行間も空けている)、「疲労感の軽減」に至っては、比較対照データとしてのプラセボによる値が示されていません。はたして、期間中の被験者の生活条件を一定にし、チェックしたのかどうか。本当に研究者の手で厳正に行われた臨床試験なのか、甚だ疑問です。
 次頁のマウスの遊泳時間の延長に差が出たのは、4日目のみでした。慢性的に疲労感を覚えているヒトは、毎日飲み続けないと意味がないということでしょうかね・・。
 ちなみに、たった7個体ないし32個体分のサンプリングであっても、驚くべきことに、南極海のクロミンククジラの生息数の目視調査結果よりも統計上の有意性が高いことになっています。これはWilcoxonの符号付順位和検定が、サンプル群を母集団の平均と仮定せずに差だけを見ているため。つまり、あくまで被験者に限った話。「※個人の感想です」というわけです・・・


日々のお仕事でお疲れのそこのアナタ! そんなアナタにオススメなのがコレ、バレニン入りのクジラエキス!! 4日後(だけ)の疲労「感」解消に、効果抜群!(※個人差があります) 鯨肉バレニンパワーで今日も元気に会社へゴー♪ ○粒○円のところを、今ならご奉仕価格○円でご提供! お申し込みは今すぐお電話で──


 客観的にみれば、「バレニン教布教作戦」は「ネトウヨ煽動作戦」に比べ、確かに戦術的な有効性の点でやや勝るといえるかもしれません。メタボ解消やアンチエイジング、美容を謳った健康食品がそこら中に氾濫している中では、訴求力が弱くて埋もれてしまうのではないかという気もしますが・・。
 それにしても、伝統食文化崩壊も行き着くところまで行ったというか、「儲かる漁業」の活用といい、捕鯨サークルのなりふりかまわずぶりには本当に開いた口が塞がりませんね・・。
 駄洒落的ネーミングのサプリメントは既に市場に出回り、ネット通販されていますね。捕鯨サークルにとっては、冷凍倉庫に何年も積みあがったまま行き場のない在庫鯨肉を解消する手立てとして使えるのかもしれませんが。ひとつ気になることが。エキスを絞った残り滓の鯨肉は一体どうしているんでしょう? 「余すところなく利用する」が建前だったはずですが。コストを負担してでも、肥料や飼料としてきちんと再生利用しているのでしょうか? それとも・・・・やっぱり廃棄ですか? 
 何せ現代の日本じゃ、「サプリ教・デトックス教・メタボフォービア教・マイナスイオン教その他諸々」にすっかり席巻されて、「モッタイナイ教」は風前の灯ですし、ね・・。
 皆さんは、気休め+α程度の一時的疲労"感"回復のために、高い金を払って南極の自然を貪りたいですか? 広大な海原を泳ぐ野生動物を殺し、エキスだけ絞って肉を捨てたうえ、錠剤にして呑むことに、何の疑問も覚えませんか? それで心と体が癒されますか?


 KKPの問題は、もちろんバレニン教広報戦略だけにとどまりません。
 毎日新聞が報じ、多少誤解もあった直販アプローチ。いわゆる「中抜き」です。
 この計画書では、鯨研の赤字体質を解消するための「傾向と対策」が提示されています。しかし、中には正直に¥曹ゥれていないこともあります。資料16(p53)に鯨肉を取り扱う仲卸業者のアンケート結果が示されていますが、不評と取扱量減少の要因は、ここに書かれているものばかりではありません。日の丸を背負った殿様商売で無理やり引き取らせたため、業者の方はモチベーションにならなかったわけです。'07年に報じられた、冷凍食品大手・加ト吉による鯨肉の不正な循環取引、いわゆる鯨肉転がし事件は、まさにそうした歪みがもたらしたものでした。
 計画書には、一部で「業者との協力」の文字が入っているものの、資料17(p55)以降では完全に卸関係を飛ばした取引への切り替えを謳っています。鯨研の赤字は国がてこ入れして面倒見ても、これまでの取扱業者の収益減少は考慮外ということです。業者から見れば、クジラのしがらみから解放される方が助かるかもしれませんけど・・。これは、復興予算流用で被災地を、「儲かる漁業」審査過程で零細漁業者を押しのけたのと、まったく同じパターンに他なりません。捕鯨サークルは究極のエゴの固まりといえるでしょう。
 "余談"ですが、P21には「販売不振により、過年度在庫が発生している」と明記されています。「鯨肉が売れている」という"都市伝説"を妄信してきた狂信的な反反捕鯨論者たちには、農水省の国会答弁書と合わせ、トドメの一撃というところでしょうか。いまや完全に蚊帳の外に置かれた格好ですが・・。

 「儲かる漁業」の制度は、「儲けを優先して資源収奪に走らない漁業」を行政がサポートする仕組みであるべきでした。安定収入が保障されない共生型の沿岸漁業の不利を補い、付加価値を高め、消費者を啓蒙するのが水産庁の役割であるべきだったのです。ところが、そのためのエネルギーは、あろうことにも貪欲な捕鯨サークルの自己保身のために粗方つぎ込まれてしまったのです。日本の水産業にとって、これほどの不幸はありません。
 共同船舶は、もともと大洋・日水・極洋の大手捕鯨三社の捕鯨部門を統合させた合弁企業でした。調査捕鯨は、研究機関としての鯨研が実施主体となり、下請傭船会社の共同船舶から船と船員を借りてるだけ、という体裁をとることで、調査捕鯨の"建前"を通していたわけです。
 しかし、その両者が統合されれば、たとえそれが一時的であったとしても、実質「捕鯨会社」であり、彼らの行う捕鯨はすなわち定義どおりの商業捕鯨に他ならず、もはや調査捕鯨とは決して呼べません。日本の南極海母船式捕鯨は、モラトリアム以前の状態に戻ったということです。化けの皮が完全に剥がれたともいえるでしょう。元からバレバレでしたが・・。
 決して市場で切磋琢磨されることなく、国から「儲かる漁業」認定と多額の税金による補助をぬくぬくと受けつつ、南極の自然を高額健康食品に替えるビジネス──それこそが日本の調査捕鯨の正体なのです。

   隠れ蓑(K) 看破され(K) ポイ捨てしちゃった(P)
   かりそめの(K) 科学捕鯨は(K) 口実(pretext)でした(P)
   カッコワル(K) 科学捕鯨は(K) フリだけ(pretend)でした(P)


参考リンク:
■マスコミが伝えきれない調査捕鯨への復興予算流用問題|JANJANBLOG
http://www.janjanblog.com/archives/84065
■調査捕鯨の正体は「儲かってないけど儲けたい商業捕鯨」だった|拙ブログ記事
http://kkneko.sblo.jp/article/58981151.html
■筆者のツイート(下から順に読んでください)
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-121110
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-121112



◇研究者の悲哀


■『ななつの海から』’12/9号|水研センター
http://fsf.fra.affrc.go.jp/nanatsunoumi/nanaumi3.pdf


 p15に野生動物の移動・分布の解析についてのシンポジウムの報告があります。ミナミマグロ、ツキノワグマからコビレゴンドウ等日本沿岸の小型ハクジラ類の事例までざっと紹介。専門的な内容ですが、移動パターンの解析をもとに種・個体群の分布域を推定する試みの話で、GPS機器などを用いた非致死的な調査手法が威力を発揮する分野です。
 p20からの同センター外洋生態系グループ長・清田雅史氏の連載コラムも、捕鯨をめぐる議論とも深い関わりのある内容なので、チェックしておきたいところ。
 で、本題。P13の『特集2:センチメンタルジャーニー:南氷洋ミンククジラ 個体数推定の思い出』。執筆者は同センター資源管理グループ長/鯨類資源グループ併任の岡村寛氏。捕鯨ウォッチャーならお名前をご存知の方も多いでしょう。ある意味、いちばん手強い"敵"。なぜなら、彼はカタギ≠フ研究者だから(鯨研の販売員・西脇氏と違って!)・・
 本文は、鯨研通信やIWC−SCのレポートで紹介されている議論と同じ、クロミンククジラの個体数推定に関する専門的な内容。興味のある方はお目通しいただきたいと思いますが、筆者が非常に興味深く拝読したのは、実は宇崎竜堂の歌詞をまじえたプロローグとエピローグ。
 その前に一点、「今後の課題」(P13)にも意義深い内容が。資源量(個体数)推定の改善のために、岡村氏自身が他の研究者とともに提案した「テレメトリーデータから得られた潜水・浮上パターンを利用して長時間潜水するクジラの個体数を推定する新しいハザード確率モデル」。何を言ってるかというと、バイオロギング(非致死的調査)の成果を活用することが、クロミンククジラをはじめとする鯨類の個体数推定の精度を上げることに貢献するという話です。調査捕鯨ではなく
 一方、調査捕鯨(致死的調査)はといえば、捕獲に時間を食うせいで目視調査の足を引っ張っていました(「JARPAレビュー報告」by藤瀬氏〜『鯨研通信』#438 p3)。
 そもそも致死的調査は、貴重な科学的資源というべき野生動物を、ほんの一瞬のスナップショットとして破壊し、得られたはずの豊富なデータをすべて無に帰してしまう、きわめてデメリットの多い手法なのです。日進月歩の進展を見せる非致死的調査分野と対照的に、十年一日の如く、耳垢栓のスライスや胃の中身を調べたデータを積み上げ続け、たまに鯨の精子を牛の卵にかけ合せるだのといったしょーもない研究に試料を提出し、論文に名前を出してもらうのが関の山。
 さらに、非致死的研究に対する長所とされてきた経費節減にも役立たないばかりか、振り回されて科学研究としての公正性・客観性を損ねただけだったことが、一連の鯨研の赤字拡大と多額の公金投入の経緯によって明らかにされたわけです。
 で、岡村氏がセンチメンタルな思い出を綴ったプロローグ。’01年当時の回想に登場する畑中氏は、鯨研、海外漁業強力財団、水研センター等の水産外郭団体の役員を歴任してきたいわゆる天下り官僚。なるほど・・こうやって若い研究者を焚きつけようとしたのですね・・。岡村氏曰く、頭から湯気が出ているかに見えたとのことですが・・。岡村氏は律儀にも、それから十年子泣爺を背負わされるハメになったわけですね。言い得て妙というか、筆者には捕鯨サークルの中核にいる連中の印象ともダブって見えますけど・・
 エピローグの文章を読んで、筆者はちょっと胸の詰まる思いにさせられました。学界事情に通じた方なら察しがつくでしょうが、OK法といっても8、9割以上は岡村氏の仕事に相違ありますまい。「すべての研究はそうなのかもしれない」と自らに言い聞かせるかのような台詞は、iPS細胞研究(まだ実質的な成果は出ていない)で賞賛を浴びる京大山中氏などと比べた場合、哀愁を帯びて聞こえます。
 ひょっとして、長年の白熱した議論に決着がつき、数字が提示されたにも関わらず、「なんで"増えたこと"にできなかったんだ!?」と、どっかの方面から怒鳴られたりしなかったでしょうか? パーティーでナガスの尾の身をつつくだけの永田町の族議員ら、ときには科学的なリングの上で「ルールに則った殴り合い」をしてもきた敵≠ニはレベルで比較にならない子泣爺たちに。ま、これは筆者の想像にすぎませんが・・。
 72万及び51.5万という数字を提示し、南極海に生息する大型鯨類の長期にわたる調査結果を比較可能な信頼できる数字のレベルに落とすという大変困難な作業に蹴りをつけたのは、科学的にも非常に大きな意義のある成果のはず。日本の調査捕鯨存続にとって有利か不利かなどという、低次元の政治的立場による評価がたとえどうあろうとも。
 正直、筆者なんて、表に出てくる中間報告からの経緯だけで判断して、「どうせ今年も引き伸ばすつもりなんだろう」と高を括っていましたから。まとまったこと自体、一つの奇跡といえるでしょう。
 岡村殿。貴殿はフェアすぎる。科学者として律儀すぎる。電力会社の寄付にたかる原発御用学者連中などとは比較にならないほど。
 政治の駆け引きに利用され、都合のいい数字を要求される科学。研究者として純粋たらんとすれば、苦しい立場に立たされ、心が引き裂かれる思いをすることもあるでしょう。そこで科学者としての矜持を貫ける人物がどれだけいるか。
 鯨研の自称販売員・西脇氏とは裏腹に、学生や若手にITや数学を講義・指導することには喜んで時間を割くけれど、イベントで売り子をやったり居酒屋に営業に回ったり、科学者にあるまじき仕事に時間を割くのは、きっとまっぴらごめんなタイプでしょうな・・・
 生態系アプローチの件では異論もありますが、岡村氏や、あるいは清田氏のような、学究肌のマットーな研究者に対しては、たとえスタンスが異なるとしても、リスペクトの念を抱かざるを得ません。軽蔑の念しか覚えない御用鯨類学者もいますけど・・・
 水産学界・水産行政は、真面目な研究者が、政治のしがらみに捉われることなく、自負を持って仕事ができる環境を用意すべきです。
 願わくば、岡村氏が研究者として満足のいく終着駅に到達できますように。


参考リンク:
■ミンククジラの最新推定生息数の意味と南大西洋サンクチュアリ提案の意義
http://kkneko.sblo.jp/article/56853884.html
 昨日の拙記事もご参照。



◇調査捕鯨>>南極観測!!??


■南極観測 ヘリの壁・財政難、一機に減り輸送に影響 (11/28,朝日夕)


 ピンチだそうです。族議員がいないから。ナガスの尾の身で釣れないから。
 これは科学に対する冒涜。許せません。
 調査捕鯨は科学の風上にも置けないただの「儲かる漁業」。ほっとけば潰れるところを、復興予算を流用してまで政治的に無理やり存続。
 学術的意義の極めて高い仕事をし、国際的にも多大な貢献を果たしてきた、極地研の南極観測事業をなおざりにし、南極プロレス興行が優先されるなど、絶対にあってはならないことです。国の恥です。
 バカげた健康食品ビジネスに科学の錦の御旗を使わせてはなりません。スパコンで1位を取る必要もありません。地球にとって、ニンゲンにとって、本当に役立つ基礎研究にこそ、国家予算は振り向けられるべきでしょう。
 日本政府は調査捕鯨をただちに廃止して、つぎ込んだ金は全部極地研に回しなさい!!!

posted by カメクジラネコ at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2012年07月14日

国際捕鯨委員会2012総括

◇IWC2012総括〜安全なはずのRMP(改訂管理方式)もこのままじゃ使えない・・・

 7月2日からパナマで開かれていたIWC(国際捕鯨委員会)年次会合が閉幕。
 今年開催を伝えたのは水産業界紙のみで、現地入りした報道機関も通信社1社のみと、日本国内での関心の低さをうかがわせました。みんな、大飯再稼働と消費増税&民主内紛でそれどこじゃないもんね・・。韓国の調査捕鯨計画のニュースが流れてから俄かに細波だったものの、大波にはならず。
 大きなトピックは次の6つ。

@南極海クロミンククジラの生息数推定値合意に関する科学委員会報告
A南米諸国による南大西洋サンクチュアリ提案(否決)
B先住民生存捕鯨の捕獲枠(ロシア、米国、セントヴィンセント・グレナディーンの3国共同案は採択、グリーンランド/デンマークは否決)
C日本の沿岸小型捕鯨提案(採決せず)
D韓国による調査捕鯨計画に関する意見表明
Eモナコによる国連との協議提案(決議は取り下げ、アプローチは推進)

 このほか、議長等人事や財政運営関連事項の決定と、ただの儀式でどーでもいい海上安全(決議等はなし)といった議題もありました。
 日本政府の公式発表を見ると、上記のうちどーでもいい海上安全は載ってますが、非常に重要な@とEについてはすっぽり抜け落ちてますね(リンク先参照)。韓国の調査捕鯨の件は1国の代表がちょろっと意見を表明しただけにすぎず、海上安全に至っては繰り返しの耳タコネタで右から左に送られただけなのに。国際捕海犬委員会じゃないっーの・・・

■「国際捕鯨委員会(IWC)第64回 年次会合」の結果について|水産庁
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/whale/iwc64_kg.html
■第64回国際捕鯨委員会(IWC)年次会合結果|外務省
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/enyou/120707.html

 このうち、BCEについてはNGO等の発信情報をご参照。@Aは前々回、Dについては前回の拙記事で取り上げましたが(リンク参照)、今回は@に関して問題点を追記しておきたいと思います。

■クロミンククジラの最新推定生息数の意味と南大西洋サンクチュアリ提案の意義
http://kkneko.sblo.jp/article/56853884.html
■韓国の調査捕鯨参戦宣言が招いた波紋
http://kkneko.sblo.jp/article/56904118.html


 51.5万頭という数字と前の周回からの減少の意味については過去記事で述べたとおり。ただ、未だに合意できていない部分、合意に至るまでに要した膨大な時間は、日本が表向き*レ指している商業捕鯨再開の議論と密接に絡んできます。
 世界の海を最後の砦・南極海に至るまで荒廃に導いた商業捕鯨をどうやって管理するか。その管理にことごとく失敗した苦い経験が、IWCでのモラトリアム決議の背景にあったわけです。で、日本捕鯨協会とその広告代理店を務めた国際PRは、環境NGOが掲げた「疑わしきは環境の利益に」という予防原則に対し、「不確実性=イチャモン」という文字通りのイチャモンを付ける広報戦術を採用しました。環境問題の文脈で、それを言っちゃあおしまいですけどね・・。もっとも、IWC科学委は別に手を拱いていたわけではなく、日本と反捕鯨国双方の研究者の協同作業で、不確実でも捕鯨ができるようにする新しい管理方式を編み出したのです。それがRMP(改定管理方式)
 詳しくはウィキペディアのIWCの項もご参照。

■国際捕鯨委員会|Wikipedia-JP
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%8D%95%E9%AF%A8%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A#cite_note-21

 以下は、RMPの元となるコンセプトを提唱した日本の田中昌一氏の解説(『鯨研通信』#391)。ちなみに、冒頭で「捕鯨の歴史は乱獲の歴史といわれる」と明示してらっしゃいますし、最近の販売員系の若手研究者よりずっとまともかも・・

 この方法は、資源モデルや生物学的パラメータ等は一切用いず、資源量の相対的指数の水準と変化の傾向だけで捕獲量を調整するというものである。(引用、強調筆者)

 門外漢には煩雑な統計理論に基づくモデルですが(銀行の利子のネタがよく引き合いにされる)、重要なのは田中氏も強調しているように、変化の傾向を見て、それを捕獲枠設定に逐次反映させていくフィードバック方式だから、頑健で(保護派の目から見ても)安全だということ。そして、最も重要なパラメータであり、かつ、入手も、統計処理等の解析も他のパラメータより容易なハズの、(推定)体数と過去の捕獲統計のみでOKということ。もちろん、この個体数の情報は捕殺に頼らず目視調査だけで得られるわけです。
 当然ながら、加入率・死亡率その他諸々のパラメータ(生物学的特性値)はすべて、母集団のサイズ、すなわち推定個体数に応じて統計的な信頼区間を規定されます。RMP以前のNMP(新管理方式)は、その不確実性を排除できずに失敗しました。日本が南極海と北西太平洋で実施してきた調査捕鯨(JARPAT/U、JARPNT/U)も、自然死亡率に関して(95%信頼区間の範囲で)負の値が取れてしまうといった問題が発生するなど、「より不確実な情報」を提供することしかできずにいます。そもそも不確実なデータに依拠せずに済むことを目指して構築されたのがRMPだったにもかかわらず、そのことをきれいさっぱり忘れ(というよりしらばくれて)わざわざ「不確実なデータ」を集めるために多額の税金をかけて無駄な作業≠しにいっているわけです。それというのも、とにかく南極海での母船式捕鯨事業を延命させたいがために。
 IWC科学委による日本の調査捕鯨のレビューでも、「科学的管理には一切必要のないデータだし、その不必要なデータも役に立ってない」と手厳しい評価を受けました。日本側がやっとのことで無理やりねじ込んだのが「潜在性」(ひょっとしたら、そのうち何かの役に立つこともあるかもしれないねっ!)の一言。生物学分野では異例の大掛かりな調査にしては、あまりにも情けない評価といえるでしょう。鯨研側は「調査捕鯨はRMPの改善に資する」と主張しますが、二つの入力情報だけでは管理がうまくいかないことが明らかになった時点で初めて必要になる話で、実際に運用されてもいないのに「改善」しても意味はありません。調査捕鯨の科学性については以下もご参照。

■調査捕鯨自体が否定した3つのトンデモ論
http://www.kkneko.com/jarpa.htm

 実際のところ、RMPはRMS(改定管理体制)が完成するまで適用しないことになっています。日本の業者を含め過去に多くの操業違反が明らかになっている以上、机上の数式≠セけではクジラを守れないということで、監視体制をどうするかという議論になったわけですが、日本側は受入を拒否。
 捕鯨協会/国際PRは「RMPに続く次の難癖」と盛んに喧伝し、応援団の族議員も「言語道断」と捲くし立ててきたRMS。ところが、今年の沿岸小型捕鯨の提案の中で、日本はなぜか、RMSベースの国際監視員やDNA登録等による監視制度の受入を表明してきました。ただし、科学委に提出した捕獲枠設定の方はRMPではなくNMPによるもの。
 RMSを受入さえすれば、商業捕鯨再開にゴーサインが降りる手はずになっていたのに。太地関係者いわく「本命」のハズの沿岸で素直にRMSを認め、「外堀」にすぎない南極海では受入を拒絶するとは、日本代表団の言動はまったく理解に苦しみます。ま、採決しても通らないことを見込んでのことなんでしょうが・・。
 このように(保護派・クジラにとって)安全第一を謳っているRMP。ちなみに、鯨研などは、その安全度を評して「陸上の動物で捕獲枠が算出される動物はいない」「厳しすぎて他の漁業には使えない」と表現。一産一仔で性成熟に7、8年以上かかるほど繁殖率の低い大型哺乳類のクジラと魚を一緒くたにされても困るし、多くの種がクジラよりはるかに繁殖率の高い陸上の野生動物で計算したら捕獲枠が出ないのに、クジラだったら使えるなんてどういうこっちゃ? と野生動物に関心の高い市民は首を傾げるところでしょうが・・。
 そうはいっても、RMPにも問題はあり、従来から指摘されてきました。
 一つはチューニング問題。IWCでモラトリアム決議に異議申立をしたおかげで(日本は米国との北洋漁業交渉の経緯で撤回)、いまでも北大西洋でミンククジラを中心にした捕鯨を続けているノルウェー。科学委で捕獲枠の削減が勧告されると、初期資源量に対する目標水準の比率を引き下げることで捕獲水準を維持。要するに、下げるのが嫌だから、モデルのほうを獲りたい数字に合わせて勝手にチューニングしちゃったわけですな。捕鯨国が恣意的にいくらでもハードルを調整できるのであれば、何のための管理方式かわかりゃしません。情報公開は日本よりずっと進んでいるとはいえ、水産資源保護先進国のはずのノルウェーにあるまじき姑息なやり方ですな。
 2点目は系群構造仮説。野生動物は個体群単位で保護管理しなければ意味がないのは、狂信的反反捕鯨論者以外誰もが認める環境保護の常識。日本の過去の操業海域と重なるJARPAの調査海域には、2つのクロミンククジラの系群(個体群)が回遊していると考えられていますが、分布の境界や両群が混交する海域とその程度など、詳細は特定されていません。RMPではカスケーディング、キャッピングという未分離状態でも影響を抑えて管理を可能にする手法も提示されてはいるのですが、もちろんわかるに越したことはないわけです。
 今回も、このクロミンク系群問題にまだ片が付いていないことが報告されています。実は系群構造の解明はJARPAの大きな調査目的の一つで、現在は非致死的手法によっても入手可能な遺伝情報の提供など一定の役割は果たしたものの、それ以上の進展には貢献できずにいます。科学委では「低緯度の繁殖海域における調査こそが必要だ」と再三にわたって指摘され続けているのですが。
 3点目、大元の理論が種間関係を考慮せず、環境収容力/初期資源量(個体数)を一定不変とみなしていること。これは水産資源学全般に関わる本質的な問題で、そのために提唱されたのが生態系モデル。
 これまた同じパターンで、日本が調査捕鯨継続の新たな言い訳として付け加えたのが生態系モデルの構築でした。しかし、日本が考えているのはヒゲクジラ4種の競合のみのあまりに単純化しすぎたモデル。これでは単一種管理と大差ありません。北西太平洋でクジラと合わせ30種ほどのデータを用いたエコパス(生態系モデルのひとつ)モデル開発に関する論文も出ています。が、これもかなりの眉唾モノ。三重大の水産学者・勝川氏は「パラメータの設定によって結果が大きく変わる生態系モデルは信用ならない。単一種で頑健なRMPを使うべき」とバッサリ斬っています。
 本来であれば、御用学者が数字をいくらでも恣意的に操作できるいい加減な生態系モデルではなく、実際の自然の生態系の変動を説明できるほど、精緻で厳密な生態系モデルを構築することが理想でしょう。大気モデル計算に用いられるような強力なスパコンでも使うなら、ある程度のシミュレーションはできるでしょうが、問題は元となる各構成種のデータが粗すぎることですね・・。
 以下もご参照。

■持続的利用原理主義さえデタラメだった!
http://www.kkneko.com/sus.htm

 そして4点目がフェイドアウト・ルール問題。個体数のデータは5年毎に取り直すことになっているのですが、なぜか8年まではデータが空白の状態でも許される仕様(それ以上の期間調査が行われない場合に漸次フェイドアウトさせるルール)。田中氏の解説からすると、「解析にさらに2年以上かかるかもしれないから」ということですが、5年もあれば、調査と解析はいくらでも並行でできます。これは受け入れた保護派の研究者たちの失態ですな・・。フィードバックの利点を説くなら、操業海域を従来どおりの2海区とすれば、採用する個体数データも2年置きに更新(反映は解析期間を考慮しその2年後)で問題ないはず。
 RMPのモデル構築・選択に当たっては、環境変動の影響についても一応シミュレートしたはずなのですが、例えば脆弱な南極海や繁殖海域で大規模な石油流出事故が発生するといった、ごく短期間の間にクリティカルな影響を受けるケースまで考慮されているとは思えません。そうした場合、次の目視調査の結果が出るまで最大8年もの間、捕獲枠を維持するとなれば、気づいたときには手遅れという事態になりかねません。捕獲統計に影響の一端が表れても、ノルウェーのようにチューニングして開き直られたり、共同船舶の元船員が証言したように、乱獲時代よろしくコソコソデータを改竄されれば、打つ手がなくなってしまいます。何しろ、南極海についてはRMSを受け入れないといっている日本なのです。運用に問題があるために、田中氏の提唱したRMPのフィードバックの利点が損なわれているといわざるを得ません。
 調査期間を短く取ってこまやかに情報を提供することは、資源管理に大きなメリットをもたらします。個体数推定の精度自体も向上します。獲りこぼし≠ホかりを気にする業界にとっても有利なハズなのです(乱獲ぼったくり型を目指すのでなければ・・)。そしてそれは、調査捕鯨によって「もたらされるかもしれない潜在的な貢献」を上回ることも間違いありません。
 もっとも、今回合意に至るまでの経緯を考えると、8年という大甘のルールでさえ実情に合わないことになりそうです。IDCR/SOWERの3周目分は'92/'93漁期から'03/'04で、最後の調査年がぎりぎり8年前。2周目の最初の1区に至っては、なんと'85/'86年漁期でプラス10年も経ってしまっているのです。しかも、51.5万はまだ過少推定の余地があり(繰り返しますが、真の減少の可能性もある)、その程度がまだ不明なため、同じモデルを適用しつつも単純に比較できないのです。合意に至ったといっても、個体数の推移をモデルに組み込む必要のあるRMPには今のままではまだ使えません
 過去記事で解説したとおり、2周目と3周目の差を説明する理由のひとつとして挙げられるのが氷(の下に隠れてるから見かけ上少ないんだ!)問題。定量的にこの差を説明できない限り、「本当はもっと多いハズなんだ!」といくら弁明したところで無意味です。結局、航空センサス等の手法を用いて、船の航行できない海域の個体数・分布密度を実測し、衛星等で各年の浮氷域を算出し、船舶からの目視データと足し合わせなければなりません。ただし、科学委のレポートによれば、衛星観測データなどにもいろいろ誤差等の問題があるようです。捕鯨船の目視オンリーに頼る以上に問題が大きいかどうかは疑問符が付きますが。結論からいえば、追加のデータ入手法と補正の計算式が完成するまで待つか、あるいは、「氷の下のクジラはどのみち獲れないクジラなんだ」諦めて納得する、すなわち減少≠ニみなすか、二つに一つということになります。
 次の調査データの解析までは、さすがに10年もかからない? いや、そうとは言い切れないでしょう。増えたり減ったりするだけで必ずまた揉めるはずです。結局のところ、今回とりあえずの合意を見たといっても、不確実性の問題を排除すべく、最も重要なパラメータである個体数のみにパラメータを絞ってさえ、観測と推定のモデルの完成度は、南極海の鯨類資源の管理という要求を満たせるほど高くはなかったということです。
 さらに、もう一つの重要データである捕獲統計についても、今回もまた科学委から「なぜ70年代のデータ解析の結果が提供されないのか?」と苦言が呈されています。調査捕鯨のデータが今回の減少理由の解明の一端につながると日本は主張していますが、これらは間接的な証拠にすぎず、しかもその証明のためにはやはり過去の捕獲統計のデータが必要なのです。鯨研は必要なデータをずっと出し渋る一方、不必要なデータはせっせと集めようとしているのです。W/Lの優先順位が完全に逆転していますね・・。調査捕鯨のデータは、最低でも議論の余地のない個体数と捕獲統計の数字が出揃ったうえで、追加の参考情報として提供されるべき筋合いのものです
 今回の総会に合わせてやっと£出された科学委のレポートは、商業捕鯨再開の前提となる管理方式(正確には必要となるデータの取り方)と、同じく再開を前提と謳って強行されている調査捕鯨の問題点を改めて浮き彫りにしました。商業捕鯨のための管理方式・RMPは、必要なデータの質が悪すぎ、南極海で運用できません。調査捕鯨は、RMPがまさに必要としているデータを提供できず、その代わりに多額の資金を費やして余計なデータをせっせと集め続けています。これほど大きな矛盾はありません。
 小型沿岸捕鯨提案に際して、日本政府代表からは「モラトリアムの撤廃を求めない」というビックリするような発言も飛び出しました(いつもながらの歌舞伎の大見得じみた勇ましい脱退示唆宣言もありましたけど・・)。合意を蹴って不意にしたはずのRMSを例外的に#Fめたり。かと思えば、必要なデータを得られないことで再開の大きな障害となっているにもかかわらず、解決のために早急に航空センサスの実施を求めることもせず(むしろ反捕鯨の急先鋒豪州の方が協力的)。目視調査はカネがもったいないからもうやめると言い出したり。
 日本の捕鯨サークルの一連の不可解な態度は、彼らの真の目的が商業捕鯨の再開などではなく「調査捕鯨の存続」とみなすなら、すべてすっきりと説明がつくのです。


 さて、次回の開催は2年後。
 隔年開催に関しては、農水記者会見でかなり勉強不足の記者が「すわ陰謀か!?」と言わんばかりのマヌケな質問をしていましたが、「お互い」委細承知の上です。具体的には、加盟国の分担金未払問題の解消が主要な動機。陣営を維持したい日本にとっては願ったり叶ったり。相手方も同様ですが・・リーマンショック以降どこも金ないからね・・。マイナス面があるとすれば、"クジラの季節"の宣伝効果が減じることでしょうか。このままじゃ、SSCSとのプロレスショー頼みになっちゃいますな・・。今年の状況を考えると、世間一般の関心がますます離れていくことは疑いないでしょう。


 韓国の調査捕鯨騒動ですが、その後時事や朝日等内外のメディアで報じられているとおり、IWCや環境団体の意見に耳を傾ける姿勢を見せ、「他の方法があれば強行しない」と撤回も示唆しました。韓国国内では市民から国会議員まで「世界の恥」と強い非難の声も上がり、朝鮮日報やハンギョレ新聞など大手紙が明快な批判の社説・論説を出しています。日本の捕鯨賛成論者の主張とよく似たナショナリスティックで粗雑な擁護論もありますが・・

■[社説]‘生きている海’で捕鯨をするのか|ハンギョレ・サランバン
http://blog.livedoor.jp/hangyoreh/archives/1644716.html
■【萬物相】捕鯨|朝鮮日報
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/07/13/2012071301250.html
■【時視各角】鯨の争いで腰がくだけた韓国(1)|中央日報
http://japanese.joins.com/article/501/155501.html?servcode=100&sectcode=120

 韓国の方が日本よりよほど民度が高い? まあ、それもあるのかもしれません。
 しかし、大新聞の論説委員や著名な文人・評論家らを懇談会に招いてレクチャーするなど巧妙な世論操作の手口が劇的な成功を収めた日本の国内事情の方が特殊といえるでしょう。鬱屈した反米・反アングロサクソン感情もその下地になっているわけですが。
 ただし、非妥協的な反反捕鯨運動を後押しし、IWCの膠着状態を招いた一因は、反捕鯨運動のこれまでのやり方にある点も否定できません。SSCSをはじめとする暴力的で演出過剰な活動と、内発的な成熟を待たずに、数・政治の力で強引かつ拙速に押し切ったモラトリアムが、調査捕鯨の存続につながったことは明らかです。


 モナコが提唱した国連との協議・連携については、小型鯨類が保護管理の枠外に置かれている現状はまさに憂慮すべき事態といえます。ノルウェー等4捕鯨国のみで運営されている(日本もオブザーバーで参加)NAMMCO(北大西洋海産哺乳動物委員会)は地域限定のうえ、利害の一致する関係国同士による、まさに軍事同盟のような性格。海洋法条約に示されるような国際機関には該当し得ません。ベースとなる国際条約もなし。ツチクジラ・ゴンドウクジラを対象にした捕鯨やイルカ漁を自主基準≠ナ行っている日本は、これまで「小型鯨類はIWCの管轄外」としてきた手前、かなり歯に物が挟まりまくったような言い方をしつつも、反対に回っています。
 はたして、北太平洋の小型鯨類の管理について、日本はどう解釈するつもりなのでしょうか? 本丸(?)の太地にとっては、外堀を丁寧に固めるのに拘りすぎた所為で、うっかり攻め込まれてしまった感もあるかもしれませんね・・。モナコのアプローチに国連が乗らないと高をくくるか。NAMMCOにすがりつくか。先方は困惑しそうですが・・。あるいは、カリコム、太平洋島嶼国など「ジゾクテキリヨウ」グループの寄せ集めから成る新機関$ン立を真剣に考え始めるか。今までは誰もが(狂信者を除き)ブラフだとわかっていましたからね・・。体裁だけで中身のない張りぼてになるにしろ、思いのままになるを築くための投資は馬鹿にならないでしょう。何より、間に入って仲裁役に努めてきた米国も、さすがに黙ってはいないはずです。外務省にとっては「たかが捕鯨」なのに相当厄介な頭痛の種となりそうですな・・・
 いずれにしろ、モナコの提案が国連で検討されるに至った場合でも、いきなり総会決議(1/2ならハードルはIWCの3/4より大幅に下がる)ではなく、まずは海洋法条約とICRW(国際捕鯨取締条約)の整理のための合同作業部会設置が妥当なところでしょう。お株を完全に奪うわけにいきませんし・・。
 ただ、日本の市民の中には、この動きに対し、対立を先鋭化させてモラトリアムの再燃になるのではないかと危惧する声もあります。筆者もその点には同感です。
 南半球諸国、移動性野生動物の回遊範囲に領海・経済水域を持つ諸国には、日本の公海捕鯨に異を唱える正当な権利があります。そうはいっても、外圧でバッシングするやり方は、特に日本のような歴史と民族性(作られたものとはいえ・・)を持つ国に対しては、およそ逆効果にしかなりません。
 国際会議の場で、1億の人口が総て捕鯨業者と美食家のみから構成されていると言わんばかりの主張を業界関係者が平然と唱え、国内の検討会も密室で、批判派の聴取はアリバイ作りの形式のみという悲しい現実。
 しかし、たとえそれが現実であっても、捕鯨サークルの思う壺にはまってはいけません。国対国、文化対文化の図式に持ち込むことをやめ、日本の市民をバックアップすることが、いま何よりも世界に求められているのです。
 日本が韓国に負けないバランス感覚を取り戻し、自ら南極からの撤退の道を選ぶことができるように。

posted by カメクジラネコ at 06:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2012年07月04日

最新のクジラの生息数の意味と南大西洋サンクチュアリの意義

◇クロミンククジラの最新推定生息数の意味と南大西洋サンクチュアリの意義

■沿岸捕鯨の再開要求へ IWC総会パナマで開幕 (7/3,中国新聞-共同配信)

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201207030108.html

■南大西洋のクジラ禁漁区案を否決、国際捕鯨委員会総会 (7/3,AFP)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2887559/9207550?ctm_campaign=txt_topics


 今年もクジラの季節≠ェやってきましたが、大飯再稼働に消費増税法案採決&民主ゴタゴタでマスコミはクジラどころではなさそうですね。
 今回注目に値するのは、ずーっとごね続けてきた南極海ミンククジラの推定生息数がようやく合意にこぎつけたこと。

■IWC/64/Rep 1 Annex G (国際捕鯨委員会科学委員会レポート)
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=iwc%2F64%2Frep%201%20annex%20g&source=web&cd=1&cad=rja&sqi=2&ved=0CDEQFjAA&url=http%3A%2F%2Fiwc.int%2Findex.php%3FcID%3D3061%26cType%3Ddocument%26download%3D1&ei=IAhpUcWRCIbtiAfzs4HQBg&usg=AFQjCNHgCJ0wmTfIdnKiVvERPauZttXlxQ&bvm=bv.45175338,d.aGc

 まず、当の捕鯨関係者から巷のウヨガキ君たちまでお経のように唱え続けてきた76万頭という数字は、昔の、暫定的な数字。
 10年の区切りで行われてきた目視探査(IDCR-SOWER)の2周目の、6海区を全部足し合わせたものなのですが、日本の研究者が提唱したOK法(岡村氏&北門氏)という解析モデルの方を採用したうえで、これが72万頭という補正済みの数字に置き換えられました。
 そして、直近の3周目について同様に算出した結果が51.5万頭という数字。比較対照が可能なのはこの2つの数字です。
 ちなみに、鯨研通信#453で解説されてますが、OK法は平均の群サイズのパラメータの取り方次第で個体数を過大推定する危険性≠フある、日本に有利なモデル。反捕鯨国側からもう一つのより安全に配慮したモデルも提唱されていたのですが、結局モデルについては譲歩した代わり、過大推定のリスクを下げる補正を加えることで決着したということのようですね。
 実際、これまでの科学委での議論では、日本側は2周目について従来の76万(仮置きの中央値)の95%信頼限界の上限を上回る値に据える、とんでもない真似を平然とやってきたわけです。自然死亡率問題やエコパスモデル問題ではないけれど・・。それというのも、原発擁護の核物理学者・工学者よろしく、捕鯨サークルの御用学者も「結論先にありき」で式をいじったからです。つまり、実測(生)データをどう料理しようと、2周目から3周目に至る時点で激減した事実は書き換えられないため、3周目の数字を76万頭になるべく近づけるよう仕組んだわけです。いままでさんざん「ミンクは76万!」「ミンクは76万!」とお経を唱え続けたもんだから。
 ま、国際会合の場でそんな無理が通るはずもなく。
 ただ、外向けに合意したものの、国内向けにだけはどうやら「51万はほんとの数字じゃないんだ!」と言いたげな様子。氷問題(曰く、「氷の下に潜ってるから見かけ上3周目は少ないんだ!」という日本側の難癖)の解決は、いくらそんな文句を並べたところで埒が開く話ではなく、同じ解析モデルを適用して数字の差を説明できるかどうかにかかっているわけです。奇妙なことに、OK法はトラックライン(調査船の航行コースの設定)が対象動物の分布に対して中立でないと精度が落ちると説明されており、むしろこの問題の対処には不向きなんですけどね・・。氷の分布と個体数密度にどの程度の相関があるかを実際に検証しない限り、計算式をどういじったところで解決にはなりません。
 むしろ、古いデータはこの際きっぱりとゴミ箱行きにし、航空センサスなどで増減傾向も含め新たに測り直すほうが、よほど科学に即した決着がつけられるはず。調査費も、十年揉めた間にコーヒー代から参加者の宿泊・出張費までかけたコストを考えれば、高いとはいえますまい。大体、カネがないはずの鯨研が、SSCSの妨害船を調査≠キるためにわざわざ豪で飛行機をチャーターする真似さえしているのですから。これもまた、日本の捕鯨産業によりかかる形での調査研究の限界を露呈したという言い方もできますが。そして実際、科学委のレポート中でも航空センサスの必要性について言及されています。

 今回の合意は、外向けには妥協の姿勢を示しつつ、内向けには数字が置き換わった経緯を詳細に説明することなく、「本当はもっと多いんですよ」の一言で誤魔化す意図が透けて見えます。
 しかし、常識の観点からいえば、72万→51万を減少と捉えない人はいないでしょう。「氷の下に隠れているんだ」云々は、単なる定性的な解釈のみで定量評価はまったくできていません。確実なのは、同じ測定・算出手法を用いた2つの時系列データを比較すると、明らかに大幅な減少傾向が読み取れるということだけです。
 繁殖率の低い大型野生動物が激増することはあり得ませんが、環境変化で激減する可能性は十分あるのです。ホッキョクグマ、イッカク、アデリーペンギン等と同じく、クロミンククジラが気候変動に対して脆弱で、影響をもろに受けたという推測も成り立つわけです。
 実際、上掲の科学委のレポートには、CP2とCP3(2周目と3周目)の数字の差を説明する理由として、5つ目に以下のように明記されています。

 5. a genuine decrease in abundance of Antarctic minke whales.

 真の減少傾向である可能性を、日本の御用学者も参加しているIWC科学委は否定することができなかったわけです。
 それ以外の4つの理由については、実際の減少傾向と矛盾するものではなく、このこともしっかり明記されています。分布域の移動や群サイズの変化も、環境異変の影響によるものと捉えることもできます。大規模な捕殺調査も某かの影響を与えていないとも限りませんが・・。

 結論の部分でもやはり以下のとおりはっきりと記されています。

 At present, the sub-committee is unable to exclude the possibility of a real decline in minke whale abundance between CPII and CPIII.

 日本の御用学者の主張も一応"they believed"の形で取り上げられてはいます。曰く、減少は環境変動によるものではなく、すべて測定プロセスにおけるエラーで、隣に移ったか、氷の下に逃げた所為なんだと・・。頭から決め付けてかかっているのですね。事故は起こらないんだ、地震や津波は起こらないんだ、という前提で事を進める電力会社&御用学者と実にそっくりです。
 日本側はJARPAT/Uのデータセットと解析の結果を来年には用意するとのことですが、果たして生データもオープンにできるのでしょうか? それまでの間に都合の悪い数字をいじったりしないか心配になります・・。大飯の地下の活断層の写真を隠そうとした関電ではないけれど。前回の記事で取り上げたように、何しろ水産庁は放射能測定において重要な採集地点のデータの公開を拒むくらいなのですから。

 さて、直近の生息数の激減している野生動物に対し、温暖化による影響の検証もなく、日本が南太平洋で商業規模の捕獲をごり押しするならば、人為的影響を排除する系統をせめて大西洋で確保するというブエノスアイノス・グループ(南米反捕鯨5カ国)による南大西洋サンクチュアリの提案は、いたって合理的といえます。これは日本側の主張する屋上屋などではありません。せっかく用意された屋根を、当の日本が壊して台無しにしてしまったのですから。
 実際のところ、日本では大量の水鳥が狩猟によって捕獲されているわけですが、大規模生息地・集団渡来地は保護区として指定されています。先日『東京マガジン』でネタになっていましたが、シカやイノシシ、サルなども国立公園内では原則捕殺禁止。保護区・国立公園内で毎年数百・数千頭規模の野生動物を捕獲し、肉を商業ベースで市場に流すことなど、日本も含めどこの国だってやってるはずがありません。コアゾーンを設定する形のサンクチュアリ形式の野生動物保護には、何の非科学性もありません。少なくとも、ユネスコや日本の環境省以上の非科学性は。
 仮にクロミンクの個体数を6海区全部合わせて51万とすれば、76万に対して3千頭程度と試算されてきたRMPの捕獲枠はさらに2千頭程度にまで下がるでしょう。2海区+αの現行のJARPAUの計画捕獲数は、商業捕鯨で許可されるはずの数字を上回る規模になっているということです。日本のきわめてイレギュラーな科学名目の商業捕獲が、本来厳格な保護区に設定されるべき南極海で強行され続けるなら、せめて南大西洋の個体群について保護の原則を優先させようとの主張はきわめて妥当。
 残念ながら、造反を防ごうと躍起になった民主党執行部よろしく何かアメをちらつかせたのか、今回の総会での提案も否決されてしまいましたが、従来捕鯨国陣営とみなされることもあったデンマークはサンクチュアリ提案賛成に回った模様。捕鯨を行っているフェロー諸島・グリーンランドは自治領、アイヌの(国際的な意味での)主権をほとんど認めようとしない日本政府と異なり、デンマークは先住民の権利保護には敏感。地球の裏側の原生自然にまで出向いて行っている大掛かりな公海捕鯨を推進する日本とは、立場を明確に異にするということでしょう。
 ここ数年のコンセンサスを目指す動きに水を差す昨年の議場退場の手口で、いつも米国に尻尾を振ってこびへつらってばかりいる日本の表の顔と対蹠的な、北朝鮮/戦前の超拡張主義をうかがわせる裏の顔をのぞかせた捕鯨ニッポン。ボン条約を批准せず、南大西洋の人々にとって身近な移動性野生動物を私物化しようと目論む唯我独尊の国に対しては、これ以上甘い顔をする必要はないように思います。今回日本から提案されている小型沿岸捕鯨(稀少なミンククジラの個体群Jストックへの影響大)の否認は当然ながら、これまでナーバスな日本の心情を慮って二つ返事で通してきたSSCS非難決議も、通してやる義理はもはやありませんね。
 どうせやるなら、深刻な放射能汚染の被害を海の自然に対してもたらした東電非難決議を、日本以外の全会一致で可決させるべきでしょう。厳密な定義に従えばSSCSと同じくテロとはいえないでしょうが、連中のチャチな真似事とは比較にならない、まさに海に対する核テロ。危うく日本の核のゴミ捨て場にされるところだった同盟国のパラオなど太平洋諸国も、さすがに黙ってはいないはずでしょうしね・・。

 記事にまとめるのもメンドイので、しばらくツイッターでつぶやいてますニャ〜
https://twitter.com/#!/kamekujiraneko
posted by カメクジラネコ at 03:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系