2017年10月18日

徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト

 さる今年3月21日、環境省と水産庁が合同で日本の海に棲む野生生物のレッドリストを発表しました。

■環境省版海洋生物レッドリストの公表について|環境省
■海洋生物レッドリストの公表について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/170321.html
■海洋海洋生物レッドリストの公表について|〃

 以下は御三家を中心に日本の主要な環境NGOが共同で出した声明。IKAN(イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク)も加わっています。

■絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の一部を改正する法律案に対する意見書|WWFJ
■日本政府が公表した海洋生物レッドリストに対する意見|NACS-J
http://www.nacsj.or.jp/archive/2017/03/3824/

 海のレッドリスト初公表ということでマスコミも伝えたものの、そのほとんどは環境省版の概要のみでした。そんな中、朝日が科学面で、東京が特報で、水産庁レッドリストの問題点を解説。NGOの意見も取り上げています。

■「海のレッドリスト」に異議 世界は「絶滅危惧」判定、日本で覆る例も (4/20, 朝日)
■Environmental groups doubt Japan’s Red List for marine life (5/21, 朝日英語版)
■問題山積「海洋生物レッドリスト」|NACS-J

 この件については両省庁の報道発表時、筆者もツイッター等で水産学・野生生物保全方面の識者の意見などを紹介したところ。
 リツイートしたドジョウの研究者オイカワマル氏(@oikawamaru)とアナゴやウミヘビの研究者ヒビノ氏(@wormanago)のやり取りは必見。

 
 今回、日本自然保護協会(NACS-J)が水産学の研究者とともに環境担当記者向けにプレゼンした資料を拝借し、水産庁資料をIUCN(国際自然保護連合)のガイドラインと突き合わせて詳細に検証したレポートを作成しました。

■徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト

 ファイルはワードとエクセルの2ファイル。英語版は要点の解説と図表のみ。全141ページ中前半はIUCN非準拠のカテゴリーと基準など問題点の解説、36ページ以降の約100ページは主に評価対象となった小型鯨類を筆者がIUCNガイドラインに沿って判定し直した結果を水産庁の評価と対比させた「真・レッドリスト」という構成です。
 以下、ここでは図表とともに要点をお伝えしましょう。

 実は、日本のレッドリストは従来の環境省陸域版も含め、本家であるIUCNのそれと評価の仕組みが異なっています。
 特に問題なのが「DD(データ不足)」と、今回水産庁がどっちゃりぶち込んだ日本オリジナルの「ランク外」の2つ。

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 2枚目の図は1枚目のNACS-J資料の図1をもとにDDの違いを表したもの。

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 表記が同じでも、IUCNと日本のレッドリストでは要件が異なるのです。IUCNだったらNTと判定する種が日本ではDDにされたり、IUCNならDDに含めるはずの種を日本はランク外に入れちゃったりしているわけです。

 カテゴリーの違い以上に問題が大きいのが、各生物種を判定する際の基準の違い。これは従来の環境省版にもない、今回の海洋生物レッドリストで新たに導入された仕組みです。それが基準E優先主義と独自規格の準基準E。

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 この準基準Eがクセモノ。実質は基準Aと変わらないのに、基準Aより設定がとことん甘い(当の種・守りたい人たちの側にとっては辛い)ため、大幅に評価が変わってしまうのです。
 例に挙げたのはケープペンギン、ミナミイワトビペンギン、キタオットセイ、ホシチョウザメ、そしてニホンウナギ。こういう具合。

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 酷い代物ですね・・。IUCN・環境省が査定した絶滅危惧種のほとんどは、水産庁方式で判定したら間違いなく格下げを余儀なくされるでしょう。
 河川・汽水域生息する種の扱いでニホンウナギは環境省が判定し、ENと認定されてマスコミが大々的に報じ、注目されました。しかし、もしニホンウナギが水産庁担当の海産種として扱われたとしたら、ニホンウナギを「ランク外」とする判定結果が導かれたうえで、「絶滅の心配はないので、好きなだけウナギを食べていい」というPR に使われ、とめどない乱獲に拍車がかかったことは疑いの余地がありません。
 図5は図4の4種の判定の詳細。水産庁が評価に用いたのと同じ計算です。水産庁版には「500頭になるまでの年数」の欄はありませんが、高校レベルの数学で計算できます。準基準Eによる判定は、専門家にしてみればその程度の楽な仕事=B

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 それでも安心できなかった≠轤オい水産庁は、さらに駄目押しの手順を用意しました。IUCN非準拠のカテゴリーと基準を用いても運悪く$笆ナ危惧と判定されてしまった場合に備え、「付加的な事情の考慮」という定性評価に基づく再判定で定量基準による評価をあっさりひっくり返してしまえる仕組みを設けたのです。これでは何のための基準E優先だったのかわかりません。言ってることが矛盾だらけでもうグチャグチャ。これを使ってDDに落とされたのが唯一ランク外を逃れたナガレメイタガレイ。

 レポートで詳しく述べましたが、水産庁によるレッドリストの政治利用の悪影響は甚大です。最も懸念されるのは、環境省レッドリスト陸域や各自治体のRDBへの波及。もし、それらが水産庁方式へと右へ倣え≠キることにでもなれば、結果的に日本の絶滅危惧種は大幅に減ることになるでしょう。それらの種の境遇に何の変化がなくても。

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 水産庁レッドリストとかぶる上掲の各魚種が煽りを受けるのは必至。
 一番心配なのはスナメリ。広島ではスナメリの回遊域が天然記念物として保護され、市民に温かく見守られていますが、「絶滅の心配もないのに守ろうとするんじゃねえよ」と非難を浴びないか気がかりです・・。スナメリに対するあまりに酷い判定については真・レッドリストのスナメリの項を参照。


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 スナメリの他にも、NGO共同声明でも指摘されているとおり、ツチクジラの新種(カラス)発見の件にもまったく言及がないなど、「これで本当に専門家の仕事なのか?」と目を疑いたくなるほど。ツチクジラについては、固有の複雑な社会性(ゴリラに似た父系社会)を持つ可能性が指摘されていますが、IUCNのガイドラインに沿った社会性への配慮はゼロ。また、同種のオホーツク海系群は同海域への適応状況から、海水温の上昇によって生息域が大幅に縮小するリスクがあります。そうした検証も一切なし。

-Evidence Indicates Presence of Undescribed Beaked Whale Species in North Pacific
http://www.sci-news.com/biology/evidence-undescribed-beaked-whale-species-04060.html
-Genetic structure of the beaked whale genus Berardius in the North Pacific, with genetic evidence for a new species
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/mms.12345/abstract

 ツチクジラに限らず、大半の鯨種ではmejor threatの評価欄に「脅かす条件は見当たらない」がズラリと並んでいます。保全の見地が最初から完全に欠落しており、お粗末の一語に尽きます。鯨類が気候変動やプラスチック・重金属や有機塩素化合物等の化学物質による汚染、過剰漁業による餌生物の減少、遺棄魚網を含む混獲、船舶の高速化や交通量の増加、ソナーの影響等々、さまざまな人為的な環境異変によって棲息を脅かされているのはもはや世界に周知の事実なのに。

■クジラたちを脅かす海の環境破壊

 この点は、文献と合わせて上掲のいくつもの要因をきちんと列挙しているIUCNによる評価との圧倒的な差。IUCNは別にクジラをヒーキしたわけではなく、他の野生生物と同等に扱っただけ。クジラについてのみ常軌を逸したサベツを行っているのは紛れもなく水産庁の方。

 では、魚、あるいは漁業者にとって、今回の水産庁レッドリストはどのような意味を持つでしょうか?
 実際のところ、近海の主要な漁業資源の半数が枯渇状態という惨憺たるありさまを改善するのにはまったく役立ちません。それどころか、「乱獲乱獲いうけど、絶滅に瀕する魚は1種もないんだから、それほどたいしたことじゃない」という大きな誤解を国民の間に生みそうです。というよりむしろ、それこそが水産庁の目論見だとしか考えられません。

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 もうひとつの動機は言わずもがな、「絶滅に瀕するクジラはいない」との捕鯨サークルの従来の主張に合わせること。スナメリもツチクジラもシャチもミナミハンドウもハッブスオウギハクジラも、全種をとにもかくにもランク外に引きずり落とさなければならなかったというわけです。実際、水産庁自身の過去の評価(それさえも問題点を指摘されていたのですが)は覆されました。再評価にあたって全基準による再判定もなされてはおらず、その点もIUCNガイドラインに違反しています。
 以下は水産庁の2回の判定と、日本哺乳類学会、IUCN、そして筆者自身の判定結果を比較したもの。(協力:IKAN)

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 各鯨種の評価の詳細はレポートをご参照。レポートでは水産庁が対象に含めなかったヒレナガゴンドウ(事実上絶滅)、ヒゲクジラのミンククジラ(J系群)とクロミンククジラもあえて加えました。
 ここでは1例として、シワハイルカの判定を挙げておきましょう。
 以下はIUCNの基準A計算ツールに水研機構のデータをあてはめて算出した結果。日本近海に限定されるとはいえ、最も絶滅の恐れが高いCRの判定に。

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 水研機構による目視調査でこれほどの急減が示されたにも関わらず、水産庁は太地のイルカ漁業者のために今年から新たな捕獲枠を設定してしまいました。絶滅危惧のステータスが明らかになった段階で新たな開発に着手し推進するなど、野生生物・生物多様性保全の立場からは言語道断。逆に言えば、同種を絶滅危惧種に入れさせないことが水産庁にとっての至上命題だったのでしょう。

■イルカビジネスで胃袋を拡げる太地とエコヒーキ水産庁

 なお、9月から始まった今期の追い込み猟で、太地は早速割当を超過するほどシワハイルカを捕獲し、リリースした若い個体も衰弱死していたことが、監視にあたるNGOから報告されています。同種は捕獲の減っている(少なくとも乱獲がその一因である可能性は濃厚ですが)ハンドウイルカの代替品=A水族館向けの新商品≠フ位置付け。
 太地町イルカ猟関係者と水産庁にサステイナビリティの感覚が根本的に欠如していることを改めて明示したといえます。

 NACS-Jは「このままIUCNと異なる基準を維持する場合、『レッドリスト』という名称の使用を停止し、全てのカテゴリー名を変更することが必要ではないか」と指摘しています。筆者もまったく同感。水産庁がやったのはレッドリスト詐欺。例えるなら、金融商品や企業・政府の信用度を示す格付で、世界版ではリスクが懸念されB,C,Dにランクされているものが、日本版では安全な資産としてAAAの評価を得るようなものです。
 水産庁にレッドリストの評価を委ねるのは百害あって一利なし。環境省の仕事に不相応に手を拡げようとしないで、自身の本分:日本の水産業をきちんと管理し、世界に胸を張れるところまで建て直すお仕事に専念して欲しいものです──。

 以下は拙サイト英語版(内容は要約)。水産庁トンデモレッドリスト問題についてはもう一段のアクションも検討中。

■Japan's red list of marine creatures by Fiseries Agency is too terrible!!
posted by カメクジラネコ at 10:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2016年12月08日

史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨


 11月9日、マスコミ報道が米大統領選一色に染まる中、こっそりとまぎれ込むように流れた1つのニュースが内外の捕鯨問題ウォッチャーに衝撃をもたらしました。

■政府、捕鯨計画100頭増 北西太平洋 網走沿岸でも調査 (11/8-9,北海道新聞)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/economy/agriculture/1-0336135.html
■北西太平洋で314頭=調査捕鯨の新計画案−政府 (11/9,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016110900941&g=eco
■調査捕鯨、政府が年100頭増の計画 対立深まる恐れ (11/9,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASJC9551VJC9ULFA016.html
■捕獲314頭に増加 北西太平洋・新計画案 (11/9,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20161110/k00/00m/020/111000c

 こちらが水産庁の発表。

■新北西太平洋鯨類科学調査計画案の提出について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/161109.html
■新北西太平洋鯨類科学調査計画案の概要について|〃
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-2.pdf
■Proposed Research Plan for New ScientificWhale Research Program in the western North Pacific(NEWREP-NP)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-3.pdf

 今年の漁期で終了した北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNU)を引き継ぐ形で登場したこの北西太平洋鯨類科学調査(NEWREP-NP)、きわめて大きな問題をいくつもはらんでいます。
 名称こそ、昨年度から開始された新南極海鯨類科学調査(NEWREP-A)に合わせ、「捕獲」を「科学」に置き換えていますが、捕殺数は最後の捕獲調査より約100頭・7割も増えています。
newrepnp.png
 数字以上に重大なのは、捕獲数変更のロジックの破綻。
 これまでも、日本の調査捕鯨は国際捕鯨委員会(IWC-SC)とその専門家パネルによって検証され、批判を浴びながらも馬耳東風と聞き流してきました。が、今回のNEWREP-NPは致死調査とその拡張の根拠のこじつけぶりが、NEWREP-Aを含む既存のどの調査捕鯨よりも際立っているのです。計画提案書の体裁だけは傭船の写真とカラーのグラフを並べてきれいに取り繕っているものの、計画の中身は輪をかけてずさんになっているのです。
 特に許しがたいのが、その変更内容が国際司法裁判所(ICJ)の判決直後に加えられたJARPNUの修正と真っ向から矛盾している点。真逆の主張までしれっと入っていたり・・。
 また、NEWREP-NPにおける対象鯨種と捕獲枠の変更は、ICJからきっぱり違法認定されたJARPAUとそっくりのパターンを踏襲しています。
 言い換えれば、NEWREP-NPはJARPAUと同様の明白な違法性を有しているのです。当のJARPAUの後継計画であるNEWREP-A以上に。

 先にNEWREP-NPの具体的な問題点をまとめてみましょう。

@ワシントン条約(CITES)違反のイワシクジラ捕獲大幅増
A稀少なミンククジラの日本海・黄海・東シナ海個体群(Jストック)を積極的に捕殺
B日本政府自身が主張する改定管理方式(RMP)の捕獲枠を大幅に上回る非持続的な目標捕獲数
C下道水産と伊藤議員の顔を立てる網走沿岸調査捕鯨の新規追加が示す露骨な政治的性格
Dニタリクジラ捕獲中止とイワシクジラ・ミンククジラ捕獲増にみられる違法なJARPAUとの共通性とICJ判決の蹂躙
E沖合ミンククジラ再捕獲の根拠およびレジームシフト解明の調査目的と、修正JARPNUとの間にみられる大きな不整合

 このうち@〜Cに関しては、市民団体IKANの抗議声明とブログ記事で詳しく解説しているのでそちらをご参照。

■抗議声明 「日本政府の新北西太平洋鯨類捕獲調査計画(NEWREP-NP)の撤回を!」
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/329-no-newrep-np
■対話の素地ができたって???
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-bfb7.html
■大盤振る舞い?
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-8c13.html
■地域個体群
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-13ef.html
■スロベニアIWC66(3)NGO発言
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/iwcngo-4e71.html

 ここではA、D、Eを中心に検証しておきます。
 さらに詳細を調べたい方は、以下に掲げたICJ判決ならびに修正JARPNU報告の一次ソースおよび解説と、『クジラコンプレックス』(東京書籍)を読んでください。

■JUDGMENT|WHALING IN THE ANTARCTIC (AUSTRALIA v. JAPAN: NEW ZEALAND INTERVENING)
http://www.icj-cij.org/docket/files/148/18162.pdf
■南極海における捕鯨(オーストラリア(以下「豪州」)対日本:ニュージーランド(以下「NZ」)訴訟参加) 判決 |外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000035016.pdf
■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
■Response to SC 65b recommendation on Japans Whale Research Program under Special Permit in the Western North Pacific(JARPNU) |IWC
https://archive.iwc.int/pages/search.php?search=!collection206&bc_from=themes
■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015
■検証JARPNU〜北太平洋の調査捕鯨もやっぱりガッカリだった・・|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/175081634.html

 特に注目すべきは、ICJ判決直後のJARPNU改≠ニの途方もないギャップ。まるで前計画に関する記憶が頭からスッポリ抜け落ちてしまったかのよう。
 加えて、IWC-SC/専門家パネルが多大な労力をかけたJARPNUへのレビューと各勧告を無視する内容となっています。これは国際機関と専門家に対してきわめて失礼な話。
 JARPNUの主目的は3つでしたが、NEWREP-NPでは「ミンククジラのRMPに基づく捕獲枠算出の精緻化」と「イワシクジラの捕獲枠算出」の2つに。これは南極海のNEWREP-Aの第1の主目的と同じ。
 新旧の調査捕鯨:JARPA/JARPNと南北のNEWREPとで、毎年百頭単位という規模も操業スタイルもほぼ変わらないにもかかわらず、主目的が大きく変更されたのはなぜでしょうか?
 答えは非常にシンプル。数々の問題点を指摘されたJARPAU/JARPNUの反省≠踏まえ、ツッコまれた部分は副目的・補助目的に下げ、ややツッコまれにくい「RMPの精緻化」を主目的に据えることで、致死調査の正当化を目論んだわけです。もっとも、提案書にはしおらしい反省の文面は見当たらず、追及された課題をほぼそのままスルーし、パネルが合意した一部分のみを得意満面にひけらかしていますが・・。
 ちなみに、NEWREP-Aの2番目の主目的には「生態系アプローチ」の用語が残っていますが、ターゲットをクロミンク1種に絞ったことで完全に空文化しています。
 要するに、調査捕鯨の設計そのものが、@捕鯨サークル(水産庁・日本鯨類研究所・共同船舶)が妥当とみなす「鯨肉生産量」→A「捕獲枠(サンプル数)」→B「そのサンプル数を正当化し得る口実」→Cサンプル数に合わせて調節したモデルとパラメータの提示(例:「性成熟年齢の0.1歳/年の変化率を検出」)という具合に進められているからです。彼らは「妥当」「最適」の一言で片付けてそこで説明を打ち切り、何食わぬ顔で口笛を吹きながら、《美味い刺身の安定供給》を続けようとしているのです。
 後付けで理由を探し出すのは、日本の鯨類学の第一人者である粕谷氏が当時の真相を暴露したとおり、商業捕鯨モラトリアム直後のJARPAT導入以来の伝統≠ナもありますが。
 十年一日のごとく耳垢の切片を収集するだけの致死的研究とは対照的に、日進月歩の勢いで進歩している非致死的研究ですが、年齢査定等の精度は先行する致死調査の方が現状では相対的に有利な面はあります。それが、主目的に「RMPの精緻化」を据えた理由。

 では、「RMPの精緻化」は、本当に日本の掲げる商業捕鯨再開のために必要不可欠な作業なのでしょうか?
 もちろん、NOです。
 そもそもIWCで商業捕鯨モラトリアムが採択されたのはなぜでしょうか? 答えは、商業捕鯨が文字どおり非持続的で、乱獲・規制違反/規制逃れ・密漁/密輸を阻止することがIWCにできなかったから。「甘すぎる規制と捕鯨会社の抵抗による導入の遅れが招いた乱獲」「基地式捕鯨等の規制の抜け穴」「捕鯨会社によるデータ改竄等の規制違反」「捕鯨会社も関わった密漁・密輸」。この4つに対して、日本の捕鯨業界はきわめて重大な責任を負っています。
 モラトリアムを解除するために必要な最低要件は、あまりにも当たり前のことながら、当事者である捕鯨国・捕鯨産業による真摯な反省と、過去の過ちが二度と繰り返されないように宣誓すること。乱獲・密漁が商業捕鯨そのものと不可分でないということを、世界に対して証明すること。その一環として、IWCの枠組みで確実に乱獲と違法行為を防止するための実効性のある仕組みを構築することが求められているのです。かくして、いくつものハードルが設けられたわけです。
 ハードルのひとつが改訂管理方式(RMP)でした。賛成・反対両派の科学者が喧々囂々の議論を重ねる中でようやく完成したRMP自体は、最も頑健な管理方式として、今日捕鯨以外の漁業にも活用されています。
 ただし、これは机上の理論の話にすぎません。IWCが商業捕鯨の管理に失敗した理由は、科学的な管理方式が未熟だったからだけではないのです。
 日本は商業捕鯨再開というゴールを目指すハードル競走で、まず1つ目のハードルをクリアしました。すでにクリアしたのです。1つは。
 しかし、1つハードルを飛び越えたくらいで、目指すゴールは見えてはきません。
 RMPの完成で自然科学(資源学)上の課題を克服したといっても、社会科学的に実効性のある管理体制を構築できない限り、そんなものは絵に画いた餅にすぎません。
 改訂管理体制(RMS)をめぐる議論はすったもんだの末頓挫したまま。RMSの合意が成立しない限り、RMPは適用されません。今は机上のシミュレーションをグダグダ繰り返しているだけ。つまり、日本はこの2つめのハードルを飛ばせてもらえないのが実情です。
 過去の乱獲・規制違反・密漁に対する反省がまったく見られないどころか、つい2年前まで調査捕鯨という抜け道を利用して国際法に反する罪を犯し続け、ネットでは日本の業者によるワシントン条約違反の違法な鯨肉通販がいまなお大手を振ってまかり通っている有様なのですから。ドーピング疑惑がぬぐえないので、トラックをそれ以上走らせてもらえないわけです。

 結論からいえば、いくらRMPを精緻化しようがしまいが、商業捕鯨再開の道が開けることは決してありません。
 日本が本当に¥、業捕鯨再開を目指すのであれば、やるべきことは2つめのハードルを飛ばせてもらうために、過去にドーピングをやってしまったことを正直に認めて平身低頭謝罪したうえで、今後は絶対にドーピングをしないことを宣誓し、世界に信用してもらうことです。
 ところが、いま日本がやっているのは、ドーピングについてはあくまでもシラを切り続け、1つ目のハードルの高さを自分で勝手に微調整して、「どうだ、もうちょっと高く跳べるぞ!」と何度も繰り返し跳び跳ねているだけのことなのです。まったく無意味なパフォーマンスにすぎないのです。
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 繰り返しますが、「RMPが精緻でないから商業捕鯨が再開できない」わけではありません。一般の方々が捕鯨サークルの主張を読めば、まずそう誤解して受け止めてしまうでしょうが。
 かつての基地式捕鯨や、違法認定されたJARPAUと同様の脱法行為を繰り返している以上、NEWREP-AおよびNEWREP-NPはむしろ間違いなく商業捕鯨再開へのステップを後退させているのです。
 RMPの精緻化は対象・指標となる特性値とその精度、サンプル数の設定がきわめて恣意的で、すべて日本が勝手に決めているだけ。どのようなケースで、どれくらい精緻化すべきか≠ニいう国際的に合意された科学的基準・必要要件は何一つ存在しません。
 今回、JARPNで獲り続けてきたニタリクジラの捕獲枠をゼロにした理由も適当に言葉を並べただけ。真の動機は「鯨肉が不人気で売れなかったから」に違いありませんが・・。
 対照的に捕獲数を大幅に増加させたイワシクジラに関しては、ICJに「期限を切らずにズルズルやる調査は科学じゃない」と言われたこともあり、捕獲枠算出を急いでやりたいと言っていますが、急ぐ意味はまったくありません。急いだところで実地に適用されることなどないのですから。
 前回の総会では、ミンククジラで17頭の捕獲枠を例外的に%K用するよう求めましたが、RMSの合意とモラトリアムの解除というステップを踏まない以上、もちろん却下。例外が認められる余地はないのです。
 精緻化は、仮に商業捕鯨が再開された場合には、当然データもあがってくるわけですから、それをもとにボチボチやればいい話。獲りすぎは許されることではありませんが、枠に満たないからといって責めを負う漁業はありません。鯨研が債務超過に陥るほど過年度在庫を発生させ、他の一次産品とは桁違いの税金を投入して販促を促しているのが実情なのですから、供給不足を心配するのは杞憂もいいところ。
 また、RMPを精緻化する手法はいくらでも考えられます。非致死調査によっても。
 例えば、現在致死調査に割り当てられているリソースをすべて目視調査に振り向けることで、生息数と動態に関するデータの推定精度が上がり、それに従ってRMPも間違いなく精緻化できます。
 また、繁殖海域を特定することによっても、非致死調査では確定されなかった系群構造に関する解明が飛躍的に進み、やはりRMPの精緻化に寄与するでしょう。
 さらに、致死調査によるRMPの精緻化への寄与は、IWC-SCのJARPAレビューで指摘されたとおり、あくまで潜在的可能性の域でしかありません。NEWREP-Aレビュー勧告に対する日本側の回答では、クロミンククジラの2つの系群(交雑問題はまだ未解決)に対するRMP実装シミュレーション試験(RMP/CLA)をそれぞれ7回試行した結果、うち1回で年齢構成を加味した修正版のMCLA(捕獲枠算出アルゴリズム)の方がわずかながら減っています。また、100年間の保全上の枯渇リスクは1つの試行を除いてみな上がっています。公平な観点からは、(旧来の捕鯨産業にとっては)獲れる数が多いほど旨みがあり、(クジラにとっては)保全上のリスクが低ければ低いに越したことはないわけですが、「リスクが一定以下なら後者は切り捨てていい」というのが日本の言い分(SC/66b/SP/10)。
 しかし、何をもって最適≠ニするかは日本が好き勝手に判断していいことではありません。日本は国際的に合意された最もシンプルな管理方式に対し、独善的な価値観に基づく修正を加え、捻じ曲げようとしているわけですが、RMPで設定された枠からさらに減らすことこそ最適との見方も十分成り立つのです。
 法律にしろ、国際条約にしろ、時代に見合った形で条文そのものを直したり、運用を工夫して適合させていくのは当たり前の話。多額の税金を注ぎ込まなければ維持できない特定の一国・一産業のみの利益を優先せず、炭素固定や海洋生産性の向上、レジームシフトの緩和等、クジラの生態系サービスでの寄与による、漁業を含む人類の福利を最大化するために「捕獲枠を最適化する」のももちろんアリです。
 もし、日本が決着済みのRMPをこね回すのをやめないのであれば、本会議で管理方式について再度議論するか、資源学に偏っているIWC-SCに保全・生態系サービスに関わる研究者の視点を加えるべきなのです。

■Future IWC for Japan, fishery, the world and whales; the keyword is "Ebisu"
http://www.kkneko.com/english/ebisu.htm

 NEWREP-NPの主目的「RMPの精緻化」について要約すると以下のとおり。

「RMPの精緻化は商業捕鯨の再開と無関係」
「どの対象でどの程度精緻化するかを日本が好き勝手に決めており、公的・客観的な基準は何もない」
「RMPは非致死調査で精緻化できる」
「RMPの最適化≠ヘ定義次第で変わり、国際的・学際的な議論と合意がはかられるべき」

 もちろん、その真の主目的≠ヘ明々白々。調査捕鯨という形で北太平洋産美味い刺身を供給し続けること本川一善元水産庁長官が国会でうっかり答弁してしまい、国際裁判の判決文に未来永劫記されることになったJARPAUの動機と何ら変わらないのです。
 「調査捕鯨によるRMPの精緻化」は美味い刺身にとって最適≠ニいう意味でしかないのです。

 それでは、日本政府が公開した計画提案書に沿ってさらにツッコミを入れていきましょう。@〜Eの要点と「RMPの精緻化」という主目的が無意味なことを押えておけばいいので、面倒臭い方は結論まで飛ばしてください。

 提案書(PDF)は全163ページですが、ICJ判決への対応についてはP52からの別添1にまとめられています。たった4ページ。非致死調査の検証に関する記述は本文2.4、2.5および3.1.1(P16〜P24)。概略(P1〜P3)、本文3章、別添1で基本的に同じ内容が繰り返されています。
 まず、提案書の中で「IWC-SC推奨」と何やらサプリや健康グッズの宣伝じみた文言が幾度も登場しますが、そもそもSCメンバーには日本の御用学者も多数加わっています。これが常に玉虫色の両論併記の形となり、国内報道であたかもIWC-SCが調査捕鯨を支持しているかのように伝えられる理由。
 中には誤解を招く表現もあります。提案書のP1他で「JARPNU最終レビューワークショップは『将来ISTを改訂する際には年齢データを組み込むべきだ』と記した」とありますが、これは提案者日本の主張がレビューの報告文書に記載されたというだけのこと。パネルは系群構造仮説を絞り込む作業に進捗があった点に関しては合意しているものの、更なる進展には課題があると指摘しています(詳細は上掲拙ブログ過去記事のJARPANUレビュー解説)。
 要するに、致死調査に基づくRMPの精緻化には依然として未解決の宿題が積み残されており、NEWREP-AにおいてもNEWREP-NPにおいても先述した潜在的可能性≠フ範囲に留まっているわけです。

 3箇所の非致死調査の検証の部分は、いずれも「慎重に検討した」うえで「非致死的手法では実現不能」という結論を先に述べながら、その後に「非致死的手法の実行可能性を検証する」とあり、矛盾に満ち満ちています。結論が最初からはっきりしているなら、非致死調査を並行でやる必要などありません。予算と時間の無駄。
 もちろん、致死調査はポーズであり、「国際裁判所に言われたとおり、非致死調査をちゃんとやってますよ」という日本国民および国際社会の目を欺くメッセージにすぎません。対外的なイメージを気にしているだけで、その時点で科学的合理性など欠片もないのです。
 潜在的可能性≠ノ留まっている致死調査の貢献に対し、非致死調査も一般的な動物学の科学的研究手法としてはすでに十分成熟し洗練されたものになっているとはいえ、日本の掲げる主目的に照らした場合、現状では致死調査と同様潜在的可能性≠ノ留まっているのは事実でしょう。
 先行研究事例を参考に、その分野の先駆者に教えを濃い、想定した成果が得られなかった場合は手法のどこがまずかったか丹念に検証しながら、実地の運用に耐えるよう改良を重ねていくのが、常識的な科学調査のプロセスです。そのための検証であれば問題はないのですが、提案書の記述からは「言われたから仕方なく形だけやっているんだ」というお座なりな意識しかうかがえず、具体的な課題とそれを克服するためのアイディアが何も記されていません。
 2、3年ブランクがあっても影響は小さく無視できるとNEWREP-Aのレビューで専門家パネルが指摘した以上、本来であれば、「代替による致死的調査の削減≠検討する」よう求めたICJの判決の趣旨に従い、今後数年間は全リソースを非致死調査の検証と開発に振り向けるべきなのです。
 致死的手法と非致死的手法との比較考量はすべて定性的な説明にとどまっており、具体的な精度等を並べた定量的な対照表はありません。P23に意味のないチャートがありますが、非致死に「?」と入っているとおり、「実現不能」と結論を出してしまっている本文の記述とも矛盾しています。鯨研茂越氏の準備中≠フ論文からも、該当する定量的資料の抜粋もありません。レビューどころか書き終わってもいない論文を根拠に「実現不能」と結論をまとめてしまうのはあまりにも拙速にすぎます。
 そもそも、まともな比較検証ができるはずはないのです。ICJ判決後のJARPNU改≠ナ、たった2シーズン、全サンプル数の1割のみを非致死調査にあてがっただけ。致死と非致死の割合を9:1に設定する科学的合理性は何もなく、むしろICJ判決直後で国連管轄権受諾宣言の書換という荒業で国際司法の追及を逃れる手を思いつく前のことで、単に判決に萎縮≠オて捕獲数を減らすポーズを取っただけに見えます。致死調査を完全に優先し、その間に片手間でやっただけでは、まともな検証とは到底呼べません。JARPA/JARPAUは足掛け20年間、致死調査の技術自体は商業捕鯨時代からある程度確立されていたのですから、公平に双方の手法を比較するためにも、同じだけのリソースが注がれるべきです。
 現物がない茂越論文をもとに「北太平洋ミンククジラではバイオプシーサンプリングが困難だ」と、ICJ判決以前からずーっと掲げられてきたのと同じ非致死的手法を選ばない口実が述べられていますが、障害や困難を工夫しながら乗り越えることで、短期間に目覚しい発展を遂げてきた非致死的手法の今日をまるで理解していません。というより、見て見ぬふりをしているわけですが。
 提案書でも取り上げられている、主要な目的に関わる年齢査定のための代替研究の一例がこちら。

■Epigenetic estimation of age in humpback whales
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1755-0998.12247/abstract

 ヒトとマウスで開発されたこのエピジェネティクス(後天的な遺伝子の性質変化の研究)による年齢解析手法が野生動物として初めて適用されたのがザトウクジラ。日本の御用鯨類学者以外の世界中の動物学者が、この手法の登場と進展を快く歓迎することでしょう。
 DNAメチル化技術自体開発されて10年しか経っていませんが、この事例では2007〜2011にかけて採集されたサンプルをもとに研究され、論文は2014年の発表。ザトウだって決して一朝一夕に、たまたま開発できたわけではないのです。「ザトウの値は太平洋ミンクにそのまま当てはめられない」なんて理由にもなりません。それは研究者としての努力の放棄。同様のリソースを傾ければ、数年のうちにミンククジラの代謝に合わせる較正作業は十分可能なはずです。まともな研究意欲を持ち合わせた科学者なら。

 一方で、致死調査に対する批判的検証の方は一切なされていません。
 耳垢栓を用いた年齢・性成熟年齢の査定は100%完璧ではありません。標本採集・保存・加工・読み取り(顕微鏡による目視計数である意味古風な職人技)の過程で劣化・誤差が生じます。実は、北太平洋ミンクの耳垢栓の年輪の可読率は雄で45%、雌で41%でしかありません(JARPNT/U期間、p79)。同じくイワシでは63%。しかも、ミンクの沿岸調査で比率の高い未成熟ほど判読の難度が上がります。要するに、程度の問題なのです。
 北太平洋のミンクは南半球のクロミンクより縞が不鮮明。それ故に、技術改良の研究に人員と研究費が投じられてきたわけですが、それであれば、ザトウで実用化されたDNAメチル化技術をミンク用にカストマイズする作業を敬遠する理由は何もありません。
 もうひとつ、致死調査の重大な欠陥の一例を挙げましょう。妊娠雌は捕殺時に銛を撃ち込まれるショックのあまり、一種の堕胎をすることがあります。胎児は貴重な科学的情報もろとも失われます。毎漁期、こうしたデータの欠損≠ェ生じているのです。
 これは致死的手法すべてに言えることですが、経時的に膨大な情報を蓄積していく貴重な科学的資源であるサンプル=生きた野生動物を、ほんの一部の限定的な情報取得のため、瞬間的なスナップショットとして切り取るために破壊してしまう、きわめて短絡的で欠陥の大きな手法です。非致死調査で長期間にわたって追跡していけば得られたはずの科学的成果を無に帰せしめ、有用な研究のためのリソースを奪い、進展を大きく妨げているのです。
 また、非致死調査より致死調査を優先した4つの判定基準には「コストの妥当性」が入っていますが、NEWREP-Aの提案書に投げているだけで、検証結果について具体的な言及が何もありません。リンク先のNEWREP-Aの資料にも、定性的なコメントのみでコスト比較の試算結果などはやはり載っていません。
 実際には、非致死調査のバイオロギングは普及の結果コストが大幅に下がっている一方、調査捕鯨は鯨肉販売不振もあいまって税金投入が年間50億円を突破し、クジラ以外の水産研究予算の総額を上回る大きなお荷物と化しているのが事実なのです。
 日本はICJ判決で求められた、致死的サンプリングのコストの公正で厳密な相対的評価、致死を選択する結論を裏付けるだけの分析などやってはいないのです。この点1つとっても、NEWREP-NPおよびNEWREP-AはJARPAUと同じ国際法違反の謗りを免かれません。
 JARPAUを違法と認定したICJの判決では、鯨肉売却益が得られることが日本が致死調査を選好≠キる動機だと結論付けられました。そして、日本が致死調査を削減・代替するべく非致死調査の実行可能性を探る努力を払うことなく、JARPAと類似した目的でさらに捕獲数を拡大させたことを問題視したのです。JARPAUとJARPAとの関係は、目的をすり替えて捕獲枠拡大を狙ったNEWREP-NPとJARPNU改≠ニの関係にそっくりそのまま当てはまります。

 P18では、まるで手放しで賞賛されたかのごとく、JARPNU最終レビューワークショップの肯定的評価のみを取り上げています。しかし、同WSではICJ判決後のヤッツケ変更に対するあからさまな苦言をはじめ、多くの勧告が出されました(詳細は同じく拙解説記事)。別添にもそれらの勧告リストは含まれず、あるのは系群構造問題に関する日本側の補足説明のみ。そのうえ、NEWREP-NPはJARPNT/Uの拡張版じゃないんだと言い訳し、勧告のうち都合の悪いものは無視する姿勢を鮮明にしています。

 続いて、これまでJARPNUで捕獲し続けてきたニタリクジラ(修正前50、修正後25)の致死調査をバッサリ削除した理由について。P18で、ミンクおよびイワシとは違ってニタリの優先度は低いと、恣意的で定性的な、きわめて大雑把な表現でごく短く述べています。参考文献に(see in 2008)としかありませんが、これは2008年のRMP実装試験に関する第2回IWC-SC中間ワークショップで、複数の系群構造仮説についてRMPの実装シミュレーションを行った結果、4つのうち3つの仮説について追加調査の必要はない点で合意したという報告。
 
■Abundance estimate of western North Pacific Bryde's whales for the estimation of additional variance and CLA application|IWC
https://iwc.int/document_1800
■Research proposal accompanying management variant 2 of the RMP Implementation for western North Pacific Bryde’s whale |ICR
http://www.icrwhale.org/pdf/SC-60-PFI9.pdf

 2008年時点の情報に基づいてニタリクジラを殺す必要がないと判断できるなら、JARPNUでのその後の8年間の捕殺(年50頭および25頭)は不要だったということにほかなりません。
 鯨研側は「主目的が変わったんだからいいんだ」と弁明するでしょうが、致死調査の対象選択にあたって目的の方をいくらでもデザインできることが証明されたといえます。
 JARPNUレビューで日本側が提示した査読論文のうち、2008年以降ニタリの致死調査(胃内容物)をもとにして書かれたのは2012年のたった1本のみ(残りは非致死調査)。その論文の結論は「クジラの生息域は餌生物の選択と密接に関連していることが示唆された」というもので、誰でもわかる当ったり前のことを確認しただけ。
 太平洋ニタリクジラは系群構造への異論が少なくバイオプシーサンプリングの難易度が低い点で太平洋イワシクジラに近く、両者の違いはRMP/ISTが実施済みか未だかくらい。ニタリで精緻化の必要がないなら、イワシもあえて調査捕鯨を使って精緻化する必要はないはずです。
 摂餌生態の調査に関しては、カタクチイワシの占める比率が大きいニタリのほうがミンクやイワシより選択的嗜好性が高いのは確かで、それが今回致死調査不要とした理由。しかし、専らナンキョクオキアミを食べる南極のクロミンクは、当然ながら選択的嗜好性が太平洋ニタリよりさらに高いのです。動機が生態系アプローチであれ環境変化のモニタリングであれ、この大きな矛盾は致命的。
 
 クロミンククジラ(南半球) > ニタリクジラ(北太平洋) > ミンククジラ(北太平洋)
     殺さなきゃダメ         殺さなくていい        殺さなきゃダメ

 動物種のサベツがヘイトスピーチより鶴保沖縄北方相の土人発言より重大事だと考える狂信的な反反捕鯨論者たちなら、「ミンクやイワシを殺してニタリを殺さないのはジンシュサベツだ!」と吠えそうですね。
 それでも、捕獲を増やしたミンク/イワシと枠そのものをなくしたニタリとの扱いの差はやはり主観的な好み≠ニしか考えられず、サベツだとの指摘は当たっているといえるでしょう。
 そして、その真の動機≠ニして強く疑われるのは、JARPNUで調査副産物である鯨肉がニタリクジラでは前2種より不人気で、入札でも敬遠され売れ残ってしまったこと(詳細はIKA-NETニュース57号参照)。本川元水産庁長官流に言えば、「ミンクは美味いし、イワシも一部で人気があるが、ニタリは刺身にしても美味くないから安定供給の必要はない」との判断で外したというわけです。
 狂信的な反反捕鯨論者たちなら、やはり「美味いウシやミンククジラを殺して不味いニタリクジラを殺さないのはジンシュサベツだ!」と吠えそうですね。
 ニタリで必要ないのなら、クロミンクを毎年殺して胃の中身を調べ続ける必要もまったくありません。JARPAUでクロミンクに捕獲を集中させてナガスやザトウを獲らずにICJに矛盾を指摘されたのと同様、こうした科学的合理性のない捕獲対象の取捨選別は、国際裁判にかけられれば間違いなく判事にアウトの宣告を受けるでしょう。実際、高価値種と低価値種を恣意的に分けたことが、ICJ判決でJARPAUが美味い刺身*レ的の違法捕鯨として認定されるにあたって決定的な証拠となったのです。

 ASM(50%が性成熟に達する年齢)の推定については、確かに非致死的手法だとややハードルが高め。しかし、この計画書では、ASMの変化率の検出精度とサンプル数の関係について何も記されていないのです。
 大体、NEWREP-Aの捕獲数333頭は、日本の捕獲対象となる太平洋側2海区中心の2系群について、ASMの0.1%の変化率を90%の確率で検出できるサンプル数として算出されました。いかにも333頭という数字に合わせて後付けした印象がぬぐえませんが・・。
 サンプル数の差を考慮すると、南のクロミンクと北の3鯨種とで、ASMの変化率および検出率に違う値を当てていることになります。あるいは、クロミンクで333頭も捕殺の必要がないか、北の3鯨種ではASMに関して統計的に有意な結果が得られないということになりかねません。

 今回のNEWREP-NPの各鯨種のサンプル数の算出根拠は、ミンククジラ太平洋側127頭が「O系群の個体数の変化率(成熟雌1頭当りの出生率の30%の変化)を検出するのに53頭、107頭、160頭の3パターン用意した中で真ん中が一番適切だ」、同オホーツク海側47頭が「JとOの比率を調べるため、とりあえず暫定的に47にしてみた」、イワシクジラ140頭が「最大持続生産率(MSYR)を4%、自然死亡率(M)を0.05と仮定してみたら140が最適なんだ」と、見事にバラバラ(P35、別添12および別添17)。O系ミンクに関して、なぜ検出する変化率が30%でなければならないのかの説明もなし。サンプル数の設定で成熟雄が埒外なのは、非致死調査に対して雄の性成熟年齢の検出を要求していることともまったく矛盾しています。
 やはり南のクロミンクの333頭と同様、最初に数字ありきで後からこじつけたとしか思えません。
 太平洋側のうち127頭から107を引いた残り20頭はJストック。一方、オホーツク海側の47頭のうち33頭はOストックになる勘定。沿岸調査3箇所の系群比率がそれぞれ想定どおりになるとの前提付ですが、O系群における変化率を検出するなら、網走沖での33頭を加えれば沖合調査で27頭を加える必要はなくなるはずです。いずれにしても、太平洋ミンクは性・年齢に応じて回遊ルートが変わる生態を持っており、仙台沖・釧路沖の沿岸30kmのごく狭い範囲、特定の一時季に捕獲を集中させる調査設計では、捕獲対象の性比・年齢比にも大きな偏向が生じると考えられます。ランダムサンプリングとはいえない以上、年級や生殖状態に応じた行動パターンの変化等による見かけの出生率の変化を検出する可能性が生じますし、真の出生率の変化との区別もつきません。
 ニタリ削除と同様、このサンプル数が設定された真の動機≠推し量るなら、太平洋側ミンクは「2箇所の沿岸事業者のための50頭枠を維持したうえ、沖合調査再開の余地を残した」、網走沖は「下道水産と伊藤議員の顔を立てるべく、仙台・釧路沖と同等の枠を与えた」、イワシは「日新丸の積載能力から、裏作(南極海が表作)の目標生産量として妥当な線にした」といえそうです。
 もう一点補足すると、JARPNU終盤では沖合ミンクは実績としてほとんど捕獲されず、ICJ判決後はレジームシフトを口実に捕獲枠をゼロにしました。理由のひとつとして考えられるのは、鯨肉の過年度在庫を消化するための、南極産と沿岸事業者にミンク鯨肉を譲る形の減産調整。もうひとつは、311の福島原発事故直後に常磐沖で採取されたコウナゴから1万Bq/kgを超える放射性物質が検出され、仙台沖に回遊していた若いミンククジラがこれを捕食して汚染された可能性があること。高濃度の汚染が疑われる年級群もその後沖合に回遊ルートを移動させているはずなので、捕獲する可能性があったのは日新丸船団のJARPNU沖合調査だったわけです。いつごろ収束するか様子を伺っているのではないかと筆者は勘繰っています。
 いずれにしても、多くの渡り鳥のように繁殖海域と索餌海域とを往復するクジラの繁殖サイクルは年単位なので、0.1%ずつ日数でずれたりするわけでもなく、6歳・7歳・8歳ないしそれ以降に繁殖を開始する個体の割合に年毎に差が出るというだけの話。再生産は妊娠率、乳児死亡率等それ以外の要素も関わってくるのですから、単独の特性値の微妙な変化をチェックしたところで参考程度のものでしかなく、致死調査が絶対必要という根拠になどなりえません。RMPの改善には、間接的情報でしかない性成熟年齢より目視による推定個体数推移の精度を上げるほうがより有用です。

 最悪なのが、致死的な胃内容物分析を正当化する言い訳。
 非致死的手法の脂肪酸プロファイル分析は、今日では野生動物の摂餌生態調査で幅広く使用されています。
 提案書では「空間的モデリングのためにクジラが捕獲された時点の胃内容物を明らかにすることが大事なんだ」との主張が短く述べられていますが、これは稚拙なごまかし以外の何物でもありません。
 「クジラが捕獲された直前の胃内容物の情報のみしかわからないというのが正しい説明。
 彼らは「2ヶ月間のみ=A港から30km以内のみ=A特定の鯨種の胃の中身のみ£イべればレジームシフトが解明できるし、逆にそれがわからないと海洋生態系について理解できないんだ」という、とんでもなく乱暴な主張をしているのです。
 仙台沖・釧路沖の生態系は外部と切り離された独立の系で、クジラと餌生物の一部(カタクチイワシ・イワシ・サンマ等)のみから構成され、それらの種は出入りをせず、他の海の生物種との相互作用もなく、調査期間の2ヶ月以外は系が停止しているのだ、と。これでは、網走・釧路・仙台の沖の海はガラスで仕切られた実験水槽の扱いも同然です。
 クジラが餌にしている魚の捕食者にはオットセイ等の鰭脚類、各種海鳥、大型魚、イカ類他多数いますし、幼魚時代には競合種や同種の成魚、大型プランクトンも捕食者になりえます。クジラのように食性を変えるタイプもいれば、食性自体は変わらなくても生物量自体が大きく変動することで捕食量が変わってくるタイプもいます。海況の変化にも大きく影響を受けます。回遊する前や先の海域での捕食・被食関係も変化します。そうした情報を定量的に比較考量することを一切せず、ただひたすらクジラの胃の中身だけ調べ続ければ、「海の自然がすべてわかって漁業に役立つ」かのような言い草は、あまりにも非科学的です。
suiso.png
 生態系アプローチで考慮されるのは構成種と種間関係のごく一部で、現実の生態系とはかなり隔たりがある単純化されたモデルにすぎません。データが不十分な場合は適当なパラメータをあてがう仕様≠ネのですが、そのときの値の取り方次第でいくらでも結果がいじれてしまうという代物。現状では単一種の管理の方が合理的だと水産研究者も指摘しています(下掲リンク参照)。
 構成種と種間関係の入力を増やし、その品質を揃え、モデルをより充実させることで、生態系モデルの精緻化は可能ですが(その代わりシミュレーションは複雑になり膨大なデータ処理が必要になるでしょう)、特定の一種のみを毎年何十頭も殺して胃の中身を調べても、ますますいびつになるだけで、最適化≠ノはまったく寄与しません。

■持続的利用原理主義すらデタラメだった!(拙HP)
http://www.kkneko.com/sus.htm

 本当に胃内容物調査を活かすつもりなら、すべての海域・すべての時季で、すべての捕食者の胃内容物調査を同精度でやるべきなのです。
 もっとも、パフォーマンスを考えれば、コストがかかるだけの超拡張版調査捕鯨などやる必要はなく、バイオプシー脂肪酸解析で十分でしょう。
 ミンククジラもイワシクジラも未知の食害エイリアンではありません。その摂餌生態は、選り好みせず臨機応変に利用可能な餌資源を利用する何でも屋タイプで、野生動物としては至ってポピュラー。サンマが多い年はサンマを、イワシが多い年はイワシを食べるなんて、素人でもわかる当たり前の話で、「だから何?」です。画期的な科学的発見などどこにもありません。これからも、それ以上意味のある知見など決して得られやしません。
 JARPNT/Uの20年間、この胃内容物調査を延々やってきたわけですが、そこからは水産資源管理に活用できる、釧路・仙台両地域の漁業の発展(ないし乱獲の防止)に資するいかなるアウトプットも出てきてはいません。命を奪ったうえで得られたその膨大なデータは、骨董コレクターの収集メモやゲームの入手アイテムリストと同じくらい、(鯨肉好きと業界以外の)社会にも科学にも貢献することのない無価値なガラクタなのです。
 実際のところ、海面漁業生産の1%にすぎない鯨肉生産のための調査捕鯨に回される年間50億円の予算は、クジラ以外の水産水産資源調査に充てられる年間予算34億円を上回っており、明らかに必要な沿岸の漁業資源管理のために投じられるべきリソースを奪っています。そのおかげで、近海の主要な漁獲対象魚種の半数は長年資源状態が低位のまま、FAO白書の統計でも日本だけが将来の漁業生産が落ち込む地域として予測される始末。
 例えるなら、調査捕鯨は報酬ばっかり高くて仕事のできない無能な穀潰し取締役
 捕鯨サークルは日本の水産業を蝕む癌と言っても過言ではありません。

 胃内容物調査と同様に許しがたい欺瞞に満ちているのが、レジームシフトに関する記述。
 はっきり言ってあまりにもふざけています。
 というのも、ICJ判決後のJARPNU改≠ナ、これまで毎年100頭の捕獲枠を設定してきた沖合調査ミンククジラ捕獲をゼロにした理由について、日本側は以下のように説明しているからです。

目視数の減少と餌生物(カタクチイワシ)の分布パターンの変化は、ミンククジラの沖合の分布を変化させる可能性がある。可能な説明として、レジームシフトのような大規模な海洋環境の変化が挙げられる。しかし、その主要なメカニズムは不明なため、われわれはこの種の捕獲を取りやめることを決め、沖合でのこの種の致死調査を継続するよりも、将来の調査計画におけるこの種の取り扱いについて再考することにした(SC/66a/SP/10,p4)。

 そして、ご丁寧に水産庁のカタクチイワシとサンマの漁協予報(日本語)のリンクまで貼っ付けています。
 無論、このわずか2年の間に、レジームシフトのメカニズムが解明したわけではありません。
 「やっぱりやめるのやーめた」です。
 なぜ前言を撤回することにしたのかも、JARPNUの計画の修正の誤り≠ノ対する弁明も、今回の計画書には一言もありません。
 ひたすら支離滅裂の一語に尽きます。
 レジームシフトは北極振動等地球規模の気候・海況変化と魚種交代のメカニズムを結び付ける概念。もちろん、クジラはレジームシフトを引き起こすエイリアンなどではありません。
 クジラの餌生物の切り替えはわかりやすいボトムアップ型の順応的変化です。新しい理論を構築しなければ説明がつかず、そのための追加の情報が切実に求められるような未知の現象ではありません。今までずっと続けてきたのと同じ、殺して胃を切り開く作業を今後何年継続しようと、これまでわかっている以上の新たな科学的知見は決して出てきやしません。
 50億もの予算を投じるのであれば、レジームシフトの海洋生態系全体への影響について調査研究がなされるべきであり、そのために必要とされるのはクジラの胃内容物のサンプルをこれ以上積み上げることではありません。優先順位は最下位。
 要するに、気候変動をテーマにした脂皮厚論文(後述)と同様、もっともらしい用語を散りばめて、美味い刺身*レ的の捕鯨に科学の体裁を装わせようとしただけなのです。
 言葉を弄ぶばかりでおよそ専門家に値しない鯨研の御用学者らに、レジームシフトの謎を解き明かせるなどとは、筆者には到底信じられません。他機関に共同研究を呼びかけていますが、乗らないのが賢明というものでしょう。
 レジームシフトの問題については、クジラの恵比寿〜漁業の救世主≠ニしての側面を、別途改めて取り上げたいと思います。

 地球温暖化/気候変動については、「global warming」の用語を2回、「climate change」を1回使っていますが、この提案書で使い分ける理由はなく、鯨研の研究者の環境問題に対する認識不足が伺えます。
 「調査捕鯨の提供する情報がこの問題に対する洞察に役立つ」と主張しているのですが、南極海も含めておよそ30年やってきた中で、気候学者にとって有用な情報は何ひとつ出てきやしませんでした。脂皮厚の変化について論じた論文がネイチャーに掲載され、ここぞとばかり胸を張った鯨研でしたが、統計処理を誤っていて使えないことがIWC-SCで指摘され、ICJでも恥をかくことに。
 サンプル数算出根拠の項目で「出生率の変化は気候変動やレジームシフト等の海洋環境の変動の結果」とありますが、問題は複合的な環境要因の切り分けが、調査捕鯨のみではまったくできないことです。生態的特性値の変化がどの程度気候変動に起因し、どのくらいの割合が違う要因に基づくのか、調査捕鯨の結果は何も教えてくれません。気候変動に対して捕獲対象の鯨種が他の野生動物に比べてどのくらい脆弱なのか、あるいはタフなのかも、クジラのみを毎年ガンガン殺し続けたところで答えは決して得られやしないのです。

 同様に問題があまりにも大きすぎる網走沖のJストック捕獲問題について。
 まず、現在IWCで合意されている北西太平洋ミンククジラの2系群合わせた個体数の数字は25,000頭。しかし、計画書ではOストックについてサブエリア毎の合算値として約46、000頭、Jストックについて約16,000頭の値をシミュレーションに用いています。この時点ですでに先走っていますが。
 そのシミュレーションの図表の1つが計画書のP41の図7。そのうちMSYR(ちなみに、図では「MSRY」となっていますが、これは単純な表記ミス)1%と仮定した上のほうは完全な連続減少モード。
 この図1つとってみても、J系群はIUCNのレッドリストの定義上の絶滅危惧Tb(EN)、あるいは最低でも危急種(VU)に指定されてまったくおかしくはないステータスです。
 提案書でも、その場合の減少の理由については混獲を挙げているとおり、日本と韓国の混獲が半端ないのは事実。
 「疑わしきは野生動物の利益に」という国際的なグロスタに従えば、混獲にダメージを上乗せする大掛かりな経年捕獲調査などありえません。
 ところが、日本側は既存のデータをもとにJストックの比率を網走沖30%、釧路沖および仙台沖各20%としたうえで、(MSYR1%のケースでは)「34頭獲っても獲らなくても減少モードに変わりないのだから影響はない」とのすさまじい理由で、網走沖での新規捕獲を正当化しようとしているわけです。
 そもそも、時期も未定のまま枠の数字だけ出てくるというのがきわめておかしな話。新たに網走沖調査を追加した真の動機が政治であるのは見え見えですが、絶滅危惧個体群の捕獲を強行するのに掲げた口実を聞けば、野生動物保護に携わる世界中の関係者が目を丸くすることでしょう。いわく、「Jストックの太平洋側での混淆率が増えているっぽい。それは日本海側からあふれて太平洋に浸み出している、つまり増えているからだ」と(別添7)。
 しかし、比較されている過去のデータのうち、専ら成熟個体を捕獲していた80年代の商業捕鯨のデータは52頭のうちJストックが2頭で不明が4頭。この数では、統計学的にも最近の調査捕鯨のデータと比較可能だとは考えられません。P95の図2では両者の捕獲場所が比較されていますが、沿岸ギリギリで幼若個体も獲る調査捕鯨と商業捕鯨とでは、重なっているようでよく見るとずれています。これでは時系列データとして比較するのは妥当とはいえません。
 いずれにしても、仮に分布や回遊パターンに変化があったとして、それを増加の証と捉えるのはあまりにも乱暴すぎます。渡り鳥を例にとれば、ある中継地でのカウント数が増えたことのみをもって「増加の証拠」と捉える野鳥研究者などおりますまい。
 証拠もないのに決め付けで捕獲を強行するのは、絶滅が懸念される野生動物なら適用されて当然の「予防原則」に明らかに反します。
 Jストックの個体数動態について検証したいのであれば、さまざまな要因が考えられ、そのどれかも特定できない間接証拠の収集を真っ先に考えるのでなく、国際協力に基づく繁殖海域・回遊ルートの特定と目視調査に全リソースを振り向けるべきでしょう。もちろん、混獲の実態調査と削減のための方策を開発し運用することも、商法捕鯨再開を早めるうえで役立つでしょう。少なくとも、デモンストレーションじみた網走捕鯨に比べれば。
 網走捕鯨の問題については、社会的側面も見過ごせません。
 伝統とは名ばかりの典型的な移植近代捕鯨としての網走捕鯨の性格については、リンク上掲のIKANブログ記事をご参照。
 何度も繰り返すとおり、北海道で伝統的にミンククジラを獲っていたのは、明治政府に政治的理由で捕鯨を強制的に禁じられたアイヌです。その性格も侵襲的な和人の近代捕鯨とは大きく異なっていました。

■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 2007年にはこんなニアミス事件≠ェ発生。

■“「かわいそう」「気分悪くなった」と観光客” くじらウオッチング船の眼前で、捕鯨船が捕鯨作業…北海道
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1022397.html

 自分たちのショバだとばかり、羅臼町にヤクザじみた逆クレームを入れたのが、太地と共同で当の捕鯨船を保有していた下道水産社長。今年のIWC総会で吼えたのと同じ振る舞いですね・・。
 このときはツチクジラでしたが、NEWREP-Aでターゲットに加えたミンククジラは、知床の観光の目玉でもあるホエール・ウォッチングの対象として、シャチやマッコウとともに親しまれている鯨種です。
 しかも、エリアはユネスコによって世界自然遺産に認定された知床国立公園に重なっています。Jストックはその知床の近海も生息域に含む絶滅危惧個体群なわけです。
 知床が世界自然遺産に認定されるにあたっては、同地域の漁業の持続性に対して厳しい要件がつけられました。
 NEWREP-NPによるJ-ストックの捕獲数は、日本政府自身が持続可能な枠として設定した17頭を超える34頭。
 科学の名を借りた非持続的な乱獲が、世界自然遺産に生息する絶滅危惧個体群に対して行われることなど、許されていいはずがありません。
 網走捕鯨を取り下げないなら、知床は危機遺産に指定されても文句は言えないでしょう。
 この場所での捕鯨が一体どのような意味を持つのか、世界の人々にどう受け止められるか、捕鯨関係者以外のすべての北海道民・日本国民がもっと真剣に考えるべきです。

 目視調査に関しては、IWC-SCのガイドラインを完全に遵守して計画されたトラックライン(航路)どおりに実施することを保証するとしています。奇妙なのは、捕獲調査に関して同様の宣誓が見られないこと。というのも、JARPNUレビューでは、トラックラインを勝手に外れて捕獲していたことが発覚し、調査結果に信頼が置けないと苦言を呈されたからです(詳細はIKA-NETニュース64号)。口先で何を言おうが、実効性のある仕組みがない以上、日本が同じことを繰り返さない保証≠ヘありません。日本は常に規制の裏を掻く狡い国なのではないかと、世界から強い疑いの目を向けられているのはわかっているはず。科学調査の建前でさえこれなのに、どうして商業捕鯨の再開を認められるでしょうか。

 最後に、ICJ判決への対応を記した別添1の最後の項目、海外を含む他の国際機関との連携について。海外の研究機関は、連携するのが当たり前の非致死の目視調査に関するIWC-POWERと、ノルウェーのLkarts Norway(バイオプシー銃等調査ツールを開発している企業)のみ。他はすべて日本国内、遠洋水研等水産庁所管の身内機関や、これまで共著論文数を稼ぐためにサンプルを投げてきた大学等で、JARPA/JARPN時代とたいして代わり映えしません。

結論:

 JARPAUが「美味い刺身の安定供給(by本川元水産庁長官)捕鯨」なら、NEWREP-NPは「政治捕鯨」「乱獲捕鯨」「絶滅危惧種捕鯨」であり、性格的には「デタラメ捕鯨」「開き直り捕鯨」「挑発捕鯨」と言い表すことができるでしょう。
 そこには、科学的正当性の更なる喪失と露骨な独善性、過激なまでの侵襲性の増大が見て取れます。
 また、捕鯨ニッポンから世界に向けて発せられた強いメッセージが表れています。国民に対しては必ずしも明瞭ではないのですが。
 大げさに聞こえるかもしれませんが、NEWREP-NPは国際法の尊重・生物多様性保全・動物福祉・持続可能な漁業に対抗する反逆の狼煙にほかなりません。
 国際社会が時間をかけて培ってきた以下の4つのベクトルを、一気に逆転させようとしているのです。

「とりわけ絶滅危惧種に対しては、不確実性を都合よく解釈せず、予防原理に則り、環境・野生動物の利益≠優先しよう」
「乱獲の歴史と現状を直視し、非持続的に魚を貪る漁業を改め、持続可能な水産業に変えていこう」
「たとえ科学目的であっても動物の命を殺すことは極力控え、致死的な手法に頼らず削減していく努力をしよう」
「国際法秩序を尊重し、よその地域にまでエゴを押し付けず、対話を優先して実力行使に訴えるのを控えよう」

 1つ目の流れは、レッドリストをとりまとめ、国家や大手NGOを傘下に収める最も権威ある野生生物保護組織である国際自然保護連合(IUCN)や、ワシントン条約(CITES)・生物多様性条約(CBD)・ボン条約(CMS)といった野生生物関連の国際条約にとって、まさに柱≠なす基本理念にほかなりません。
 特定事業者と族議員への配慮を優先し、予防原則の真逆をいく口実でJストックをターゲットに網走捕鯨の新規追加を目論む日本の姿勢は、その理念を正面から脅かすものです。国内を含む世界中の野生生物保全関係者に強く警鐘を打ち鳴らすだけのインパクトがあります。

 2つ目の流れは、FAO白書が示すとおり、持続的漁業後進国・日本が世界から取り残されているのが実情。その距離はますます開く一方です。
 12/5の読売夕刊に、「商業捕鯨『再開』譲らぬ」と題するNEWREP-NPについての報道がありました(オンライン記事はなし)。
 その中の森下IWCコミッショナーの発言に、すべてが要約されています。

「持続可能な形で水産資源を利用する、という筋を通せないと、マグロなどでも極端な保護を主張する国際世論が高まる恐れがある」(引用〜読売記事)

 あからさまな嘘ばかりで構成されたこの発言には、真実〜日本の漁業の非持続性を覆い隠し国民の目を欺く意図が明白に表れています。特に、太平洋クロマグロで顕著な刹那的荒稼ぎ′^の乱獲を続けるために、批判や規制の流れに抵抗するために、クジラという生贄を彼らは必要としているわけです。
 今回日本は、国際的に合意された持続的利用のためのRMPに基づき自ら試算した17頭と比べても10倍に上る過大な捕獲枠を、規制に縛られない調査名目で要求しました。南極海を荒廃させた過去の捕鯨会社による大乱獲を再現する意思の表れだと、世界が受け止めないはずはないでしょう。

 3つ目の流れは、いわゆる動物実験の3R。
 対象が野生動物であり、殺す場所が実験室ではなくフィールドであるというだけで、調査捕鯨はまさに非人道的で不必要な動物実験にほかなりません。国際的な学術誌への調査捕鯨論文掲載が拒まれてきた理由もそれ。
 ICJは判決の中で、致死的手法削減し非致死的手法によって代替するための検証の努力や、ザトウとナガスの捕獲削減・中止によって示される「より低い精度での結果の受け入れ」に言及しました。そして、JARPAUの規模拡大が、IWC決議と同ガイドラインのみならず、「必要以上に致死的手段を用いない」とする日本自身の科学政策方針にも反するものだとズバリ指摘してみせたのです。
 「RMPの精緻化」は別に必要不可欠≠ネものではありません。商業捕鯨再開のためにさえ。
 今回のNEWREP-NPの提案書で、日本は言葉をはぐらかすように「目的に沿いさえすれば」捕獲数を増やすことすら正当化されるのだと主張しだしています。
 たとえ、ICJ判決の趣旨を汲まない水産庁の政策方針が、目的≠フカストマイズによって安直な致死調査とその拡大を許すものであったとしても、日本政府自身の別の科学政策方針にはやはり明確に反しています。環境省及び農水省の。
 ここで改めて『3Rの原則』について説明しておきましょう。

・Replacement (代替法の利用)
・Reduction (使用動物数の削減)
・Refinement (実験方法の洗練、実験動物の苦痛軽減)

■実験動物の福祉|環境省
https://www.env.go.jp/council/14animal/y143-21/mat01-1.pdf
■「農林水産省の所管する研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」の制定について|農水省
http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/tuti/t0000775.html

 日本の捕鯨サークルは、この3Rに関して世界に挑戦状を突きつけました。彼らの提唱する≪新3Rの原則≫は以下。

・Restoration (致死への復古[いったん中止・削減しながら再度致死的手法へと回帰する])
・Raising (嵩上げ[削減するどころかわざわざ増量する])
・Remissress (怠慢[代替手法や削減の検討・検証をまともに行わず、適当な口実でごまかす])

 致死対象の鯨種に対して掲げられた「目的」と「その目的のために必要」との決まり文句のセットは、「必要だから必要だ」「重要だから重要だ」というトートロジーじみた主張です。JARPAUはICJより「致死調査を用いることへの客観的説明がない」と指摘を受けたわけですが、なぜ特化しているのか、突出しているのかについて、提案書に書かれているのは客観的根拠というよりあくまで主観的な説明にとどまっています。中でもお座なりな説明で済ませている「ニタリ削除の相対的な理由」「暫定的な網走枠」からは、犠牲を減らすために努力をしようとの意思が微塵も感じられません。3Rの趣旨・社会的要請に対する無理解そのもの。
 鳥インフルエンザの調査の公益性の高さは、たかが美味い刺身≠ニは比較になりません。しかし、環境省はそれを口実に、野鳥を対象にした調査捕鯨スタイルの大規模経年致死調査を実施したりなどしていません(詳細は上掲リンクのJARPNU検証記事参照)。
 ある意味で、殺しの拡大志向、無思慮に命を貪る社会≠ヨの道しるべを提示したのが、新調査捕鯨計画だといえるでしょう。その影響は、クジラ以外のすべての動物に波及していくでしょう。
 動物福祉に関わるすべての人々は、日本の調査捕鯨の本質にもっと強い関心を払うべきです。

 公平を期すなら、4つ目の流れは米国・ロシア・中国という大国のせいでいままさに危機に瀕しているのが事実ではあります。しかし、日本は白々しい嘘と国連受諾宣言の書き換えという姑息極まりない手法を用い、国際法の最高権威に唾を吐いて判決を反故にし、「よりによって南極のクジラ≠ナそれをやるのか!?」と世界に衝撃を与えました。
 国民の大多数が関心を持たず、現政権のブレインが「友好国との信頼関係を損ねるくらいなら実にちっぽけな狭義国益にすぎない」と有識者の本音を代弁した、遠い南極の野生動物〜たかが美味い刺身に対し、そのような超法規的手法に訴えることができてしまうのです。そのうえ、現政権の閣僚の1人は、世界で最も緊密な軍事同盟関係にあり、重要な価値観を共有すると互いに公言している間柄の米国に対し、「永遠に分かり合えないという不信感」「埋めようのない価値観の違い」と口にしてしまえるのです(人権尊重の価値観を共有する先進国の閣僚とは到底思えない妄言を連発した捕鯨族議員・鶴保氏ですけど・・)。
 これには北朝鮮も中国もロシアもびっくりです。たかがクジラ≠ナ……飽食・廃食大国の高級料亭で供される南極産美味い刺身を固守する目的で、西側諸国の一員のはずの日本がそれをやってしまえるのなら、彼らの現状変更≠ノ大義名分が与えられるのは、ある意味当然のことでしょう。
 JARPNU改≠フ萎縮モードから、お尻をたたきながらあかんべえをするNEWREP-NPの嘲笑モードへの変化は、「IJC判決に対する無視・逃げ切り宣言」にほかならず、国際法と国際機関、友好国に対する愚弄以外の何物でもありません。網走捕鯨の新規追加は、JARPAUでの南半球ザトウ50頭捕獲と同様、北朝鮮じみた国際社会への示威のニュアンスも帯びています。

 残念ながら、オーストラリアはICJ提訴アプローチを掲げた当時とは政権が代わってしまい、安倍政権との当たり障りのない関係を優先するあまり、国民の愛する身近な自然・野生動物を脅かす、日本にとっての尖閣諸島と同様に自国の領土・領海問題にも直結するところの公海調査捕鯨問題に対し、国際法に基づいて粛々と解決をはかる道をあきらめかけているように映ります。
 IWCも、お互い耳を塞いだまま言いたいことを言い合うだけで、何も変えられない以前の膠着状態に戻りかけています。
 しかし、NEWREP-NPは、「ダメなものはダメ」と言い切れない──本当の友好関係を築くためには避けて通れないはずですが──反捕鯨国とその市民に、思いっきりバケツで冷水を浴びせるものです。
 悲しいことに、捕鯨ニッポンは変わりませんでした。その絶好の機会だったはずのICJ判決で、自ら襟を正すことができませんでした。日本人としては内心忸怩たるものがありますが・・。
 世界はいまこそ毅然とした態度で臨むべきです。曖昧になあなあで済ませ続けるべきではありません。それは、すべての自然、すべての動物たち、必要とされる良き漁業にとって、ためになりません。
 もう一度、国際法の下できちんと決着を着けることを、真剣に考え直すときです。
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2016年07月24日

新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ

 今年は2年ぶりの国際捕鯨委員会(IWC)年次会議の年。
 国際司法裁判所(ICJ)の判決によって南極海調査捕鯨が1年中断し、昨シーズン装いも新たにNEWREP-Aとして再開されてから、初めて開かれる本会議でもあります。
 例年は6月頃に開かれることが多いのですが、今年の総会は10月、前回に引き続きスロベニアで開催されます。
 各国代表が集まる本会議の前、6月には科学者のメンバーから成る科学委員会の年次会合が開かれました。
 今年のIWC総会の焦点は間違いなく、国際法上違法との認定が下されながら、日本が再開を強行してしまったNEWREP-Aに当てられるでしょう。
 いわば前哨戦に当たる科学委員会では、新調査捕鯨はどのような評価を下されたのでしょうか?

 まず、NEWREP-Aをめぐる一連の経緯をざっとおさらいしておきましょう。
 ICJ判決後、わずか半年余りで策定された、NEWREP-Aは、文字通りヤッツケとしか思えない代物でした。IWC科学委員会(IWC-SC)のもとに設けられた専門家パネルでは、「捕獲が必要と立証できてない」とボロボロにこきおろされ、29個もの宿題(勧告)がつきつけられました。昨年のSC会合でも、日本は結局宿題を片付けることができず、「日本は宿題をやってきませんでした」(分析は不完全であり、十分な評価をすることができない)という点で合意に達したという恥ずかしいありさま。
 詳細な経緯については、以下の参考リンク及び『クジラコンプレックス』(石井敦・真田康弘著、東京書籍)をご参照。

■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015
■新調査捕鯨計画専門家パネル報告|〃
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/307-rwnprc2015-snd
■日本の調査捕鯨は違法か|〃

 そしてとうとう、日本は宿題をうっちゃらかしたまま南極に捕鯨船を出しました。
 1年経ち、本当は調査捕鯨を実施する前に片付けておくべきだったはずの宿題は、結局どうなったのでしょうか? 昨年の会議では、「専門家パネルの勧告にきちんと対応すること、その進捗状況を翌年の科学委で再審査すること」で合意も成立していました。
 はたして、新調査捕鯨1年目の成果≠ヘ一連の疑問に応えたといえるのでしょうか?

■調査捕鯨、賛否両論を併記=IWC科学委の報告書 (7/9,時事)
■調査捕鯨継続は両論併記 IWC科学委が報告書 (7/9,共同)■調査捕鯨  継続にIWCが両論併記 (7/10,毎日)

日本はIWCから求められた作業に十分対応しているとの意見と、対応が不十分なため継続は正当化できないとの意見の両論を併記した(引用〜共同記事)

 国内の報道では、賛成派と反対派でただ意見が割れているだけに見えます。ヒトによっては、反捕鯨派が難癖つけてるだけという受け止めかたもあるでしょう・・。
 これらの報道はいずれも水産庁が発表し、農水記者クラブ記者が「両論併記」と見出しをつけてそのまま垂れ流す形。
 何度も解説しているとおり、両論併記になるのは日本側が大量にメンバーを送り込んでいるから。
 実際に、IWC-SCのレポートに書かれている記述を引用してみることにしましょう。先に両者の結論から。

■Report of the Scientific Committee SC66b 

Some members commented that although the work required to fulfil the Committee’s recommendations from last year is still in progress, these tasks remain incomplete and the results thus far have not demonstrated that the NEWREP-A programme requires lethal sampling to achieve its stated objectives.
They noted that the Expert Panel had also advised that a short (e.g. 2 – 3 year) gap in the existing series to complete the recommended further analyses would not have serious consequences for monitoring change.
Therefore, in their view, continuation of lethal sampling in the 2016/17 season has not been justified.
一部のメンバーは、勧告を履行するために必要な作業はまだ進行中だが、これらのタスクは依然として不完全であり、NEWREP-Aプログラムは目標を達成するために致死的サンプリングが必要であることを立証していないとコメントした。彼らは「分析を完了するために2-3年の空白があっても深刻な影響はもたらさない」と専門家パネルが助言していたことも指摘した。
Other members commented that the proponents had responded satisfactorily to most of the recommendations of the Expert Panel, noting that some of the suggested further analyses have already been completed, while others are in progress or will be addressed within a reasonable timeframe.
他のメンバーは、「提案者は専門家パネルの勧告のほとんどに対応した。さらなる分析の一部はすでに完了したし、他は進行中か、合理的な期間内に対処されるだろう」とコメントした。
(引用〜p101)

 この結論は科学的な結論というよりむしろ主観的な意見に見えますが・・さて、正しいのはどちらの言い分でしょうか?
 その具体的な議論の内容をまとめたのがレポートのP92〜100にかけての表。統計の専門的記述を一部端折って筆者が抄訳したのがこちらの表。
table23sc66.png

 注目してほしい要点は以下。
 日本の報道機関は「十分対応している」と伝えましたが、実際には専門家パネルの29の勧告のうち、「完了」したのはたったの2つ。日本側が「合理的な水準に達した」と勝手に判断しているものが2つ。合わせてもたったの4つ。しかも、そのすべてで委員会側で異なる解釈、追加注文が入っています。
 日本自身が「要対処」と認めているものが7つ。
 「1、2年かかる」と言っているのが4つ。
 この11のうち6つは目的A、プログラムの主/副目標に直接関わる内容です。
 委員会コメントには、勧告の3つで「進捗や成果が同会合でまったく報告されなかった」とありますし、「新規情報なし」も1件(総消費量の推定に関する非致死的研究)。
 一体これのどこが「十分対応」といえるのでしょう!?
 提案者である日本政府側のコメントのうち、委員会と特に立場を大きく異にするものを赤枠で囲んでいます。
 中でもふざけているのが勧告3と勧告26、勧告27に対するコメント。
 勧告3では、SC、専門家パネルの見解をまるっきり無視して、優先順位を自分で勝手に落としています。
 勧告26は333頭のサンプル数設定の根拠に対する勧告ですが、委員会側がサブセットの選り好み等不可解な問題点について具体的に指摘しているにもかかわらず、それらの疑問には答えずしらを切って自己正当化を繰り返すばかり。
 さらに、勧告27のコメントに至っては、「やる気がない」旨を明言し、逆に要求を突きつけている有様。
 非致死調査について十分な検証を求めたICJ判決のことなど、もはや頭からすっぽり抜け落ちてしまったかのよう。
 森下IWC政府代表は「誠意をもってできるだけ対応したい」と表明していたはずですが、専門家の勧告に対するこうした不遜で傲慢な態度からは、誠実さなど微塵も感じられません。
 レポートの中では、昨季のNEWREP-Aによって得られた情報についても触れられています。
 そこにはわざわざ枠囲みで、「トラックラインの変更の根拠を説明するように」(p101)と、日本側も主目的に関わる重要な勧告と認めている勧告26に関連する重要な問題点が指摘されています。今回、SSCSの妨害がなかったにも関わらず、サンプリングが高緯度側に大幅に偏り、性比が極端だったことにも関係しているのでしょう。
 また、科学的に最も重要な指標のひとつである脂肪組織の総重量については、333頭中5頭でしか計測していないことが発覚。日本側はなんと、「運用上の都合で測れなかった」と一言言い訳していますが、これも科学的なプライオリティではなく鯨肉の鮮度を優先して作業時間を割り振った結果でしょう。調査捕鯨の科学上の重大な欠陥がまたひとつ俎上に上ったといえます。
 この一点をもっても、日本の調査捕鯨が科学を第一義として設計されたものでないということをはっきりと示しています。
 「美味い刺身(by本川元水産庁長官)」を供給できるかどうか──それこそが、彼らの判断基準であり、優先順位なのです。

参考:
posted by カメクジラネコ at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2014年09月04日

嘘つきデタラメ捕鯨協会

◇嘘つきデタラメ捕鯨協会──それでもあなたは捕鯨に賛成ですか?

 IWC総会を控え、我らが日本捕鯨協会さんが、またしてもとんでもないキャンペーンを張った模様(--;;
 リンクを示すのもアホらしい限りなのですが。。。

■「それでもあなたは、クジラを食べることに反対ですか?」
http://youtu.be/vO__n5uhFyM

 捕鯨サークル発の都市伝説の総集編という感じでしょうか。。。
 ま、よく出来てますよね。さすがという他ありません。
 その手の都市伝説が大好きな巷の反反捕鯨ネトウヨ君たちや、「美味いミンク刺身」(〜本川水産庁長官談)を料亭でつつくことにしか頭のない、トホホな永田町の族議員たちには、大いにウケそうです。
 腕利きのクリエーターに有償で委託したんでしょうけど。
 トップの重大な失言のせいで国際裁判でボロ負けしたのに、責任を一切取らないまま、大幅に増額された予算も、こういう具合に国民を騙す広報に使われていくんでしょうねぇ。。
 復興予算流用への批判もどこ吹く風。

 筆者にはプロに頼んで対抗動画を投稿する余裕などないのですが、とりあえず絵を1枚作ってみました。


Pyramid.png
pyramide.png

  ◆数十万種に及ぶ海洋生物のうち、人間が商業的に利用している(食べられ、かつカネになる)のはごく一部。
  ◆日本でTACが設定されたり、国際機関の管理対象になっているのは、合わせてわずか数十種。
  ◆国際管理は失敗続き。一握りのTAC設定種以外は「議論に着手したばかり」というお寒いありさま。
  ◆乱獲し放題できたウナギについてさえ、生態についてはわからないことだらけ。
  ◆利用してない(する気のない)海の生物のことはほとんど何も知らず、利用している魚のことさえろくに知らない。
  ◆わからないまま乱獲しまくり、いつのまにか資源枯渇・・の繰り返し。それが捕鯨ニッポン。

 これのどこがアンダーコントロール???
 科学的管理なんて、ぜーんぜんまっったく出来てないわけです。
 海の生態系をぜーんぶ丸ごと、万遍なく管理するなんて、できるはずも、また、しようもありません。

 以下の資料もご参照。
 
−漁業 日本のTACはなぜ7魚種しかない? 「科学的知見が十分でない」というのは本当か|WEDGE
−TAC認定対象魚種について
−全漁獲量の8割を占める魚種数の比較|水産庁

現在のTAC魚種以外にカタクチイワシ、マダラ、ホッケ、ブリ、ウルメイワシといった魚種が新たな追加魚種として挙げられているものの「生物的知見が少ない」、「精度の高い資源量の推定や将来予測は難しい」という理由で採用されていません。(引用〜WEDGE記事)

 こういう具合で、よそで出来てることすらやろうとしない、日本の水産業の悲惨な実態について、あるいは海洋環境・野生動物保護の問題についてある程度リテラシーのある方であれば、上の絵1枚だけでもわかってくれると思いますけど・・

 上記はJWAの主張に対する反論のごく一部であり、そのうちの今まであまり取り上げていなかった論点を述べただけにすぎません。捕鯨サークル発のトンデモ鯨食害論、間引き論については、猫玉さん、Adarchismさん、flagburnerさん、化学者さんはじめ市民ブロガーの皆さん、国内のNGO、そして何より、今もIWC日本政府代表の立場にあるハズの当の国際水産資源研究所所長・森下氏の口からさえも明快に否定されています。
 詳細は以下の市民ニュース記事、拙ブログコーナーのリンク先(2)をご参照。

−捕鯨問題総ざらい 2.トンデモ鯨食害論を斬る!
−「クジラが魚食べて漁獲減」説を政府が撤回──国際捕鯨委員会で森下・政府代表代理が「修正」発言

参考:
新しい提案|ika-net日記
posted by カメクジラネコ at 01:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2014年07月14日

捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!・3/JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性・2

◇捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!・3

■巨大クジラ、漁業資源の増殖に貢献? (07/11,ナショジオ)

「我々が新たに検証した複数の研究では、クジラのような大型捕食動物が存在するほうが、生態系における魚類の個体数が多くなることが明らかになっている」(引用)

 クジラたちは、高緯度における生産を貧栄養の深海や低緯度海域に分配し、海の自然の多様性を高めるきわめて重要な役割を果たしていることが明らかに。もっとも、定性的には以前から指摘されてきたことであり、とくに意外性はありません。要は、クジラも「他の野生生物と同じなんだ」というだけのこと。自然について無知な日本の反反捕鯨論者が脳内妄想でこしらえた、海の自然を害するエイリアンのごとき存在などではないという、当たり前のことが再確認されただけ。
 国際司法裁判所からもそのずさんさを指摘された日本・鯨研の調査捕鯨と異なり、「質が高く興味深い研究」とレビューした他の研究者も絶賛。まあ、「刺身にすると美味いミンククジラ肉の安定供給のため」に行われた名ばかりのケンキュウとじゃ、比較にもなりませんわな。。
 以下の拙過去記事と関連リンクもあわせてぜひご参照を。

−捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!
−捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!・2
−捕鯨は生態系破壊!!
−調査捕鯨では絶対わからない種間関係の重要性

◇JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性・2

■SC/65b/Rep02 Report of the Expert Workshop to Review the Japanese JARPA II Special Permit Research Programme
http://iwc.int/sc65bdocs
http://events.iwc.int//index.php/scientific/SC65B/paper/view/686/673

 前回の続きから。
 生息数推定に関する6章では、クロミンククジラと他の鯨種、あるいは捕鯨操業海域≠ノおける生態の情報量のアンバランスが指摘されています。従前から筆者らが口酸っぱく追及してきたことですが・・。以下はJARPATのレビュー時にHPで使ったチャート。Uになってフクサンブツの生産量が倍増、生態系アプローチというお題目が加わったものの、状況は変わってないわけです。
 一言で言えば、おっそろしく偏っているのです。
jarpa.png
 かくもいびつに変更している理由はひとつ──そう、永田町のグルメ族議員に「刺身にすると美味いミンククジラ肉を安定供給するため」。ICJの判決文中にもしっかり書き込まれてしまったとおり・・。
 そのことを端的に象徴しているのが、レビューの23ページに書かれた以下の記述。

The Panel also recommends the collection of data on the ecotype of killer whales to try to allow estimates of abundance to be developed for each. This information is of importance to ecosystem modelling given their different feeding habits and in particular to evaluate the consequences of predation on minke whales.(引用)

 自然死亡のパラメータ推定にも直結する重要な捕食者であることは誰の目にも明らかなことですが、生態系アプローチと言いつつ、両種を含む種間関係の研究には、《耳垢コレクション》と違い雀の涙ほどの研究リソースも割かれてはきませんでした。
 今日ではシャチは食性や分布から少なくとも3つのエコタイプに分かれることが確認されていますが、シャチの個体数と分布動態とあわせ、クロミンククジラの繁殖海域を確定し、海域と年齢によるシャチの捕食傾向を突き止める息の長ーい研究が必要とされるでしょう。日本は単純な4鯨種モデルをぶち上げましたが、その単純なモデルでさえ、パラメータとしてシャチの捕食を考慮するか否かでシミュレーションの結果は天と地ほども変わってくるはず。RMPに生態系モデルを適用するなら、絶対に外していいはずがありません。
 まあ、まっとうな動物学者にしてみれば、挑戦のし甲斐のあるテーマに違いありませんが、副産物の売り込み営業を喜び勇んで兼任している鯨研の連中としては、忍耐力と限界突破の発想と多くの時間を要するこの手の非致死的研究には、きっと食指が動かないのでしょうけれど・・・

 最後のJARPAUレビュー、ツッコミどころはまだまだ残っているのですが、当ブログではこの辺にとどめておきます。興味のある方は直接IWC-SCのレポートをぜひチェックしてみてください。
 調査捕鯨に関してひとつはっきり言えることは、海洋環境保全や沿岸の漁業資源の管理のために必要な、はるかに寄与度の高い数々の研究を差し置いて、長期にわたって巨額の研究費が国によってあてがわれながら、その内容は驚くほどずさんで、疑問符のつかない満足なアウトプットひとつ出せない代物だということです。なんとなれば、《調査捕鯨そのものの正当化》、《永田町のグルメ議員たちに刺身にすると美味いミンククジラ肉を安定供給すること》こそが、調査捕鯨というカガクの目的であり、成果に他ならなかったのです。

参考リンク:
−調査捕鯨の科学性を解体する|Togetter
−JARPAレビュー報告徹底検証
−持続的利用原理主義さえデタラメだった
−調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研 
−ペンギンバイオロギングと調査捕鯨


◇お知らせ

 海外出版社との交渉を担当するエージェントを急募しています。
 交渉料7万円〜(応相談)
 連絡はHPのコンタクトフォームまで。

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2014年06月30日

JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性

◇JARPAUレビューに見る調査捕鯨の非科学性──IWC科学委で長年ツッコまれ続け、ICJにダメ押しくらったトホホな実態

 国際司法裁判所(ICJ)で日本の南極海調査捕鯨を国際条約違反と認定した判決が出た後、サイエンス4月号で同判決の影響等を論じた1ページの特集が組まれました。
 理研小保方氏のコピペ論文と同様、鯨研発論文の掲載を拒んだ権威ある国際科学誌ですが、法の最高権威たる国連の司法機関から調査捕鯨の科学性が酷評されたことについて、科学者の論評をまとめています。


■[ENVIRONMENTAL POLICY] Court Slams Japan's Scientific Whaling
http://www.sciencemagazinedigital.org/sciencemagazine/20140404C?pg=22#pg22


「ICJの判決は、我々研究者の多くがIWCで唱えてきた主張を踏まえたものだ」(〜オレゴン州立大スコット・ベイカー氏)
「科学研究にとってと同じく国際法にとっても良き日だ」「漁業機関における科学的管理手法の強化の助けにもなる」(〜ハワイ大の法学者アリソン・ライザー氏)
「『王様は裸だ』とIWC科学委では何年も言われてきたことだ」(〜アラスカ水産研究センターフィリップ・クラップマン氏)

 まあ、さんざんな言われようですねぇ・・。日本側証人として法廷に立ったノルウェー・オスロ大ワロー氏の一連のコメント「less than 10」「worthless」等)も紹介。法的観点からも、科学的観点からも、こき下ろされて当然の代物だったわけです。日本の調査捕鯨は。
 華々しい発表会見から一転、袋叩きに近い状況にあるアイドル的リケジョと違い、残念ながら調査捕鯨については、未だに科学性の再検証を求める声が封殺されている状況。それも、「食文化」のかけ声にかき消される形で
 これはもはや、科学に対する侮辱というほかないでしょう。

 調査捕鯨の非科学性については当ブログ・拙ホームページ・ツイッターにて再三取り上げてきたところですが、ここで改めて日本の調査捕鯨がどれほどダメダメか、ICJで中止を申し渡される直前、今年2月に東京の日本鯨類研究所(鯨研)で開かれた第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAU)のレビュー資料を中心に、じっくりチェックしてみることにしましょう。


■SC/65b/Rep02 Report of the Expert Workshop to Review the Japanese JARPA II Special Permit Research Programme
http://iwc.int/sc65bdocs
http://events.iwc.int//index.php/scientific/SC65B/paper/view/686/673


 上掲は今年5月にスロベニアで開催された国際捕鯨委員会科学委員会(IWC-SC)の会合に向け用意されたたたき台の資料。ワークショップが開かれたのは今年2月、東京。
 ICJの判決によって実質的に終わりを告げたJARPAUですが、最後の最後までこき下ろされ続けてきたことがよぉくわかります。
 一点、IWC-SCの調査捕鯨関連の報告書に頻出(しかもしばしばゴシックで印字されたり)する語句が「welcome」
 これ、修辞ですよ。日本の顔を立てている、立てざるを得ないということ。
 まず、日本側はSCのレビュー会合でも総会でも、最も多くのメンバーを送り込んでいる多数派。例えばこの報告書も、評価するパネルメンバー9名に対し、日本側の提議者は22名。そして何より、日本は現在IWCの加盟分担金を多く支払っている大口スポンサーの一国なのです(当然の義務とはいえ)。何せ、日本が水産ODAで買収した持続的利用グループの国々は、分担金を払い続ける持続性≠ノ欠けるものですから・・。そういう財政事情もあり、定期的な総会も年1回から2年に1回に変更されたりしているわけです。その辺はIWCの限界、日本の独善的な横暴に対して実効性のある方策をなかなか講じることができない事情のひとつともいえるわけですが。
 そういう具合に日本の顔を一所懸命立てたうえで、なおそのお粗末ぶりをケチョンケチョンに批判せざるを得ない──そのことが一体何を意味するか、皆さんにもお察しいただけるでしょうか。
 以下、レビュアーが指摘している問題点の記述を抜粋しながら、具体的に解説していきましょう。

レビュー結果@鯨類の生息環境のモニタリング(p11-12)

 この項目でパネルが改善≠求めたのは以下の5点。
1.海洋学的データを完全に収集すべく、機器の較正作業をきちんと行うこと。
2.内外のデータベースで報告されている海氷等関連する海洋学的データの有用性を精査し、JARPAT/Uのデータに組み込むこと(NASAのサイトへのリンクも教えてあげるよ!)
3.収集した海洋学的データを他の国際研究プログラムが活用できるよう、提供を検討すること。
4.TDR(音響測深器)とEPCS(電子粒子係数・粒径測定器)のデータは重要だからきちんと分析すること。
5.鯨類の目視・生物学的データと照合させる形で海洋学その他環境データの分析を進めること。

However, to investigate finer spatial and temporal characteristics, which is ideal when investigating the relationships between oceanographic data and species distributions, it is important to collect in situ water samples to calibrate and when necessary correct the instrument readings; as a minimum instruments should be calibrated at the factory once a year.

 1番目の指摘、せっかく諸々のデータを収集したのはいいけど、「計測器は少なくとも年に一度は調整しないとダメ」と言われてます。
 そういうのって基本じゃないんですか? こういうところも某リケジョみたいだよね。若すぎる一個人研究者じゃなく、日本の鯨類学を代表する研究機関のハズなのに。
 2、3、5番目も、日本の鯨類学が専門領域(?)のタコツボに深くはまって安住しすぎ、関連する海洋学の研究情報の収集すら怠ってきたことを証明しています。「日本国内で提供されているデータにすらアクセスしてないじゃん」とツッコまれてるわけです。それらの外部のデータとの整合性を検証する作業は必須ですし、中には重複している無駄な作業もあるかもしれません。これも科学者であれば最初から念頭にあっていいはず。
 ところで、この辺のフレーズ、どこかで聞き覚えがありませんか? ここでちょっと、公海調査捕鯨の再開・継続の意思を表明した林農相の談話(4/18)を振り返ってみましょう。

国際捕鯨委員会科学委員会のワークショップでの議論,他の関連する調査との連携等により、国際的に開かれた透明性の高いプロセスを確保します。(引用)

−今後の鯨類捕獲調査の実施方針についての農林水産大臣談話|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/koho/pdf/danwa.pdf


 前々から指摘されていたことを、あたかもICJの判決を受けて心を入れ替えた≠ゥのごとく弁明に使ってしまう林氏の神経が知れません。まあ、この声明も官僚が用意したんでしょうけど・・。

Unfortunately, this was not done for the last two years (2009/10 and 2010/11) when only TDR data were collected.

 4番目、クジラの分布・生息密度等を把握するうえできわめて重要とSCで評価されたデータが、なぜか後の2年間は収集されなかったことへの遺憾が表明されてますね。
 科学的プライオリティが高い情報収集を怠った理由、なぜだと思います?
 まあ、大体想像はつくでしょう。ソナーを使ったらSSCSに居場所がバレちゃう、と──。
 このことが示すのは、日本という国は科学研究のプライオリティ付けをする能力が根本から欠けているということです。
 「刺身にすると美味いミンク鯨肉の安定供給」「SSCSとのプロレス」のことしか頭にない連中が、計画を立案し推進してきたわけです。
 補完にしかならない致死的データ収集を優先する理由は何もありませんでした。米国とオーストラリアにも協力してもらい、極地研主導で海洋データと目視データの収集・分析を進めればよかったのです。そうすれば、鯨類学にとどまらず、南極圏の物理学・生物学研究に携わる世界中の研究機関に高く評価されるだけの科学的データを速やかに提供でき、場合によっては商業捕鯨再開にさえつながったかもしれないのに。

The Panel commends the collection of debris data, both in the environment and in the stomachs of the whales that can provide valuable baseline data. Such information should regularly (the need to do this annually or less frequently should be evaluated) be analysed and presented to the IWC.

 この記述は一見肯定的評価のように見えますが(科学者という哀しい人種は、データが存在すればそれだけで興味を持つものだけど・・)、カッコの中に注目。「毎年行う必要があるかどうか検証すべき」と。同じことはサンプル数についても言えます。
 実際、胃内容物ではなく海面でのデブリの収集はJARPAUの6年間にわずか88例にすぎません(p58,AnnexD)。それもおそらく偶発的に発見しただけでしょう。そもそも海面付近のデブリの密度をつぶさに調べる調査計画になっていないのです。
 デブリや汚染物質のモニタリングは、まず当該環境の汚染状況を測定・把握したうえで、その環境に生息する野生生物、この場合は南極圏の生物全般で調査を行ってこそ、初めて意義があること。南極海がどの程度汚染されているか、南極海生態系の中で汚染の影響に対し最も鋭敏なのはどの種か、死亡率の増加や繁殖への影響が見られるか、それを調べることこそ真っ先に求められるのです。毎年毎年クロミンククジラの胃を開いて中身をあさる前に。さらに言えば、漂流物が相対的にはるかに多く、影響も懸念される低緯度・北半球のウミガメ、海鳥等のモニタリングに対し、より多くの研究リソースが割かれるべきなのです。海洋汚染の状況を測るのに適切とはいえない種を指標動物にしてしまうのは、単に非効率かつ科学研究予算の無駄使いであり、汚染の実態を見過ごす危険すらはらみます。環境科学の見地からは決して許されることではありません。

レビュー結果A系群構造の時空間的変化(p14-19)

However, the Panel noted that Antarctic minke whales and other baleen whale species are more-or-less continuously distributed around the Antarctic continent; in contrast, the JARPA II research area represents just under half of the circumpolar area. Given the stated objective, the lack of information provided for areas outside the programmes’ research area presents some inherent difficulties in fully meeting the objective to elucidate spatial and temporal variations in stock structure, even though the information developed under JARPA II is probably sufficient for the purposes of developing trials to evaluate RMP variants within the area of sampling.

 調査範囲について最初から大きな疑義が表明されています。南極大陸の周り全部にいるのに、日本が調査しているのはその半分でしかないじゃん、と。
 便宜的に区分された6海区のうち、JARPAUがカバーしているのは、かつて日本の捕鯨会社が操業してきた2海区とその両隣の海区の半分ずつのみ。毎年毎年片側では数百頭分の死体から採取した耳垢栓の標本を積み上げながら、大陸をはさんだ反対側では情報が完全に欠落しているのです。科学的に見ればこれほどアンバランスなことはありません。どうせ裏側にいるクジラなんて来やしないと見込みで判断するのは、事実をもとに仮説を検証する科学者の姿勢にもとります。両隣の海区では、さらにその両隣の海区に分布する系群と混交が起きている可能性も当然否定できないからです。RMPの改善に寄与するという取って付けた目的を掲げるなら、それ以上に重要な改善要請に応じるのがスジというものでしょう。

The Panel welcomes the fact that the authors of SC/F14/J27 referenced the IWC guidelines for DNA data quality control (IWC, 2009) as had also been recommended at the JARPN II review (IWC, 2010). However, the Panel recommends that a revised paper be submitted that explains in more detail how far the guidelines were able to be followed (the present paper did note why the proponents had not been able to follow one recommendation regarding sequencing of microsatellite loci).

 4年前のレビューでIWCのDNAデータ品質管理のガイドラインに従ってないと勧告を受けながら、まだ一部で対応できておらず、その詳細な説明が不足していることを問題視しています。
 その後、SC/F14/J28とSC/F14/J29というクロミンクの系群解析に関する 2つの論文に対するレビューが続きます。SC/F14/J28はミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライトDNAというクジラ以外でも野生動物の多型解析ではおなじみの遺伝子マーカーを用いた解析。SC/F14/J29はそれら遺伝情報に身体測定データを加えて解析したもの。執筆代表者は前者が鯨研調査研究部長Pastene氏、後者がIWC-SCの議長も務める東京海洋大北門氏。
 「よくがんばりました」と花丸の判子を押しつつ、こう言ってます。

However, there are a number of places where additional information is required to fully interpret the results.
 

 このパート(5.2.3 p15)は集団遺伝学のかなりしちめんどくさい議論ですが、要約するなら、「JARPAUによって示されたデータ自体、日本側の提唱する仮説と矛盾しているし、その部分の検証に抜けがいっぱいある」と指摘されているわけです。
 JARPA最終レビューで受けた指摘に対応したという北門氏らの解析に対しては、SC副議長に敬意を表してかせっせと持ち上げつつもPastine論文以上に辛辣なコメントが付いています。勧告の数は合わせて9個。
 まず、「論文の記載で、個体と系群に同じインデックスを使用されちゃ困るよ」と某リケジョ論文を思わせる稚拙さに苦言を呈されています。ほかにも、「モデルはベイズ法か最尤法で処理するように」「形態データの統合にあたっては性差に依存しないパラメータの変化も検討するように」といった指摘がなされており、おそらく統計学・遺伝学畑の方々なら「基本じゃないの?」と首をかしげるのではないでしょうか。これでは過渡的な試論の段階で論文の体裁をなしてないと批判されても仕方がないでしょう。

Management procedure considerations on stock structure focus on developing plausible interpretations of available data not simply the single ‘best’ interpretation when examining uncertainty.

 SC/F14/J29への指摘に続いて、パネルは1ページ以上にわたって長々と「もうひとつの仮説をきちんと検証してちょうだい」と注文を付けています。
 ここで一応ざっくり解説しておきますが、調査海域のクロミンクにはIストックとPストックという二つの系群(個体群)が存在すると考えられ、その分布境界と混交の程度が長年にわたって問題になってきたわけです。2つの系群の境界領域(p7の図1に描かれているグラデーションの部分)の状態を説明するため、<two-Stocks-with-mixing:2系群混交>説と<isolation-by-distance:距離による隔離>説という2つの仮説が立てられました。前者はI系群とP系群の分布が重なる混交領域を仮定するのに対し、後者はI系群とP系群が距離に応じて次第に混じり合う状態によって説明しています。現在日本側が主張しているのは前者。

 こうしたSCの小言≠ヘ、「低緯度の繁殖海域の調査をちゃんとやったら?」と同様、今に始まったことではありません。以下は'06年のJARPATのレビュー時のもの。

With respect to the area of transition, it was suggested that methods that address the question of isolation by distance (such as spatial autocorrelation and Mantel tests) would help resolve the position and nature of this transitional pattern. It was further suggested that other analyses based on individual genotypes, such as landscape genetics as assessed in the program ‘alleles in space’ (Miller, 2005) may help resolve the pattern of structure and mixing (though this would likely require 15+ microsatellite loci to provide sufficient power). (p421)

−Report of the Intersessional Workshop to Review Data and Results from Special Permit Research on Minke Whales in the Antarctic, Tokyo, 4-8 December 2006 | J. CETACEAN RES. MANAGE. 10 (SUPPL.), 2008 411
http://iwc.int/document_1565

 ところが、JARPAU開始年次にはすでに提唱されていた対立仮説を、日本側はずっと無視し続けてきました。JARPATへのレビューに対する応答として、JARPAUの所定の最終年次に提出された論文においてさえ、それは考慮されていなかったのです。
 しかし、今回のレビューでも引用されているとおり(p17)、当の鯨研の論文でも以前は複数の仮説が併記されていたのです。


Therefore the general stock structure archetype for the Antarctic minke whale in the feeding grounds is multiple stocks with spatial (longitudinal) segregation. (p7)


−SC/D06/J9 Genetic analysis on stock structure in the Antarctic minke whales from the JARPA research area based on mitochondrial DNA and microsatellites
http://iwc.int/document_1570


 パネルは「不確実性を解消するために必要なのは、単一の解釈に対して手を替え品を替え正当化を試みることじゃない。複数の仮説があれば、まずどちらの仮説が正しいか検証することだ」と述べ、決着をつけるための具体的な方法(近交係数の経度毎の変化を調べればいい)まで明示しているわけです。
 2つの仮説のどちらが正しいかわからない状態がずーっと続いていれば、強いフラストレーションを感じ、早く結論を出したいと考えるのが、まっとうな科学者というものでしょう。
 同じくP16でパネルは「生物学に大きく貢献するし、JARPAUの目的にも合致するはずだ」と半分持ち上げつつ、対立仮説を検証するよう改めて強く促しています。
 しかし、日本の御用学者たちは、結論を導き出すことよりも、一方の仮説に都合のいい解釈をこね回し続けることに、意義を感じていたというわけです。調査捕鯨ならではの身体測定データを、どうやって致死調査を正当化する口実につなげられるか、そんなことばっかり考えていたと。
 新しいアイディアや手法を優先して試してきた、というわけでもありません。その点に関しては、パネルは形態データの統合を歓迎しつつも、「4.で述べたとおり、海洋物理学的データの統合だって少なくとも同じくらい重要だよ。そっちもやんなよ」と推奨し、さらに衛星タグ、放射性同位体や脂肪酸解析など多岐にわたる手法も提示しています。
 工夫の余地だったら他にもたくさんあるのに、致死的調査にばかり異常に執着したがる日本の鯨類学の偏向には、科学の公平性・合理性・効率性の観点からも到底誉められたものではありません。


 続いて、ザトウクジラについて。けど、ザトウは捕っていません(オーストラリアに対する脅迫カードに使ってるだけ・・)。ここで評価されているのは、いわゆる非致死調査であるバイオプシーを用いたもの。
 短い論評ですが、「致死的調査をしてないばっかりに質が低い!」なんてことは、もちろん一言も書かれていません。論文の記載、詳細なデータの提出の注文だけ。
 バイオプシーだけで済ませているザトウクジラとミナミセミクジラより、致死調査をすることでより充実した中身になっているハズのクロミンククジラとナガスクジラの論文に対するほうが、より注文が多く、かつ手厳しくなっているわけです。
 ナガスクジラの調査結果に対しては、統計学的正当性への懸念は当然として、「過去の商業捕鯨時代のデータや他のバイオプシーサンプルをきちんと調べなさい」と注文を付けられています。
 5章最後の節、写真標識による個体識別データについては、「系群構造解明に資するポテンシャルを認識して、もっと情報の提供と分析に努めるように」と強く奨めています。
 はたしてこれは、IWC-SCが非致死調査ばかり選り好みしている所為なのでしょうか?
 いいえ。

 In such a situation, it was difficult for this study to further distinguish between stock mixing and stock core areas without using the data from the breeding areas. Future microsatellite study should use the samples from the breeding areas. Nevertheless, substantial increases in the numbers of the analyzed microsatellite loci and the biopsy samples allowed us to confirm our previous conclusion on the humpback whale stock structure in the Antarctic.

−SC/F14/J31 Stock structure of humpback whales in the Antarctic feeding grounds as revealed by microsatellite DNA data
https://events.iwc.int/index.php/workshops/JARPAIIRW0214/paper/viewFile/554/543/SC-F14-J31.pdf

 これ、当の鯨研の論文の記載ですよ。IDCR/SOWERの分を加え、トータルで581サンプル。系群構造の解析にはこれでも不十分だったとしてますが、「繁殖海域のサンプルなくしてこの研究はできなかった」との表現は、逆に言えば繁殖海域でバイオプシーを活用した調査を行えばサンプルサイズを抑えることだって十分可能だということ。「無駄な殺しをしなくて済む」ということに他なりません。
 こうやって鯨研自身が「重要な成果だ」と自賛しているくらいなのですから、ICJが「ザトウは殺さずに調査研究できるんだから、クロミンクでその努力を怠るのはおかしいでしょ」と追及するのは当然のことでしょう。
 ついでにいえば、他の野生動物でも遺伝的多型を調べる場合のサンプルサイズはこんなものです。

−地理的スケールにおける生物多様性の動態と保全に関する研究|環境省
https://www.env.go.jp/earth/suishinhi/wise/j/pdf/J01F0140.pdf

 例えば、高尾のリスの個体群構造解析は26個体、中国・近畿のツキノワグマでは同じく92個体。遺伝子サンプルは生検、発見した死骸、糞などから。
 種によっては、狩猟ないし有害駆除された死体からのサンプルが含まれるケースもあります。殺す以上は、徹頭徹尾データを取得することが供養だという考え方もあるでしょう。
 しかし、研究を主目的に、生きた個体を毎年数百頭ずつ殺そうとする、代替手法の開発・改善によってその数を少しでも減らそうと一切努力することなく、むしろ何とかして殺す数を維持しようとあの手この手を画策する──そんな動物学者は世界広しといえど、捕鯨業界のリソースにどっぷり依存している日本の御用学者以外、見当たりますまい。
 彼ら日本の御用鯨類学者は、どの野生動物の研究者よりも、動物実験が主体の医学・生理学者に近いといえるかもしれません。某リケジョのような。。研究実績の指標となる論文数を稼ぐ動機で、必要性に首を捻りたくなる突飛な研究を思いつく特性の点でも。調査捕鯨との大きな違いを挙げるなら、曲がりなりにも3R《苦痛の軽減・使用動物数の削減・代替手法への置換》の概念に基づく明確な倫理指針が設けられ、法規制や科学誌への論文掲載の国際的な審査基準として定着していることでしょう。もっとも、日本と海外先進国との大きなギャップは、動物福祉方面では常に指摘されてきたところですが。
 「なるべく殺さない」──それが動物学の基本常識。
 その中で、日本の鯨類学のみが「なるべく殺す」という常識ハズレの哲学に従っているわけです。
 残念ながら、その哲学は、科学の意義、価値を重んじる姿勢から興ったものではありません。
 副産物こそが目当てだから、解体時間が延びて鯨肉が体温で傷むことさえ恐れ──何せ、水産庁長官曰く「刺身にすると美味いミンククジラ肉」ですから──可能な限り少ない組織標本で済ませようとし、必要な解析・研究をうっちゃらかして、クジラの精子とウシの卵をかけ合わせるなんておっそろしくバカげた研究で論文数だけなんとか稼ごうとする。
 科学が産業と政治に隷属し、二の次になっているが故の哲学なのです。

 実は、上掲のクロミンクの系群構造の2つの仮説をめぐる鯨研発の2つの論文のデータについて、どうにも腑に落ちない部分があったため、パネルメンバーに直接問い合わせてみました。
 該当箇所はこちら。

[SC/D06/J9] 
  No statistically significant level of deviation from the Hardy-Weinberg genotypic proportion was detected through the strata at each of the six loci (Table 9). The same was true for overall loci in all samples combined (chi-square=16.948, d.f.=12, p=0.152).(p6) 
  Table 9(p16) 

http://iwc.int/document_1570

 [SC/F14/J28] 
  Genetic diversity indices are shown in Table 4 for whales in the western and eastern sectors of the research area. The average number of alleles per loci, average allelic richness, and average expected heterozygosity, all over the 12 loci, was high for the both sectors, and the levels of these indexes were quite similar between the two sectors. Both sectors showed evidence of deviation from the expected Hardy-Weinberg genotypic proportions.(p4) 
  Table 4(p8)

−SC/F14/J28 An update of the genetic study on stock structure of the Antarctic minke whale based on JARPAII samples
https://events.iwc.int/index.php/workshops/JARPAIIRW0214/paper/view/551

−SC/F14/J29 Dynamic population segregation by genetics and morphometrics in Antarctic minke whales
https://events.iwc.int/index.php/workshops/JARPAIIRW0214/paper/view/552

 これは同じVEからYWにかけてのクロミンクのマイクロサテライトDNAの解析結果(HW:ハーディー・ワインバーグテスト値)と記述。両論文で正反対になっています。違いは調査期間と解析した遺伝子マーカーの数、そして集団の取り方。JARPAUの方は、解析するマーカー遺伝子数を増やしたものの、各遺伝子座毎の詳細データが提示されておらず、非常に不親切。この点は上掲したように、パネルからも指摘を受けていますが。
 二つの論文の該当箇所を比較してみましょう。
HW.png

 怪しいと言えば怪しいのですが、HWテスト値が真逆になる合理的な理由も一応考えられます。SC/D06/J9のデータは経度による分割を増やした計8つの集団についての解析結果であるのに対し、SC/F14/J28の方は東西の2集団。
 HW平衡が成り立つのは、任意交配が行われる独立した遺伝子集団の場合。ただし、部分集団で任意交配が行われていても、それらの部分集団の集合としてみた場合には平衡が崩れます(ワールンド効果)。HWやワールンド効果については、参考リンクの集団遺伝学講座をご参照。
 パネルは「扁平なトーラス」という表現を用いていますが、<距離による隔離>仮説によれば、クロミンクは通常経度方向にあまり大きく移動することはなく、遺伝的に少しずつ異なる集団が隣接し合い、大陸を取り囲む連続的なスペクトルの状態をなしている、というイメージですね。
 それに対し、日本側が推している<2系群混交>仮説は、単純に2つの個体群が重なり合い、間で混交が起きているというもの。
 日本側はSC/F14/J28で提示されているHW平衡からの逸脱を、年毎に東西系群間の移動・混交の度合が大きく変化することによって説明し、<2系群混交>仮説を支持する論拠としている模様。
 確かに、HW平衡が崩れるもうひとつの理由として、集団への出入りがある場合が挙げられます。ただ、移動・混交の年変化によるなら、より小さな分集団を対象にした以前のSC/D06/J9のHWテスト値は、もっと大きな逸脱を示していてもおかしくないと思うんですがね。実際には
 さらに、同論文のP5では以下の記述があり、JARPAT時の調査結果と大差ないと言っているのがなんとも不可解。

Regarding the work conducted in response to the recommendations from the JARPA review meeting, the number of the microsatellite loci used was doubled from the previous six to current 12. Even with this substantial increase in the loci numbers, however, the level of genetic differentiation among the samples was very low.


 しかし、遺伝的小集団の集合によるワールンド効果という解釈であれば、<距離による隔離>仮説の支持も可能。むしろ、2つの調査結果に示されるHW期待値の傾向が相反することをうまく説明できます。
 一方、<2系群混交>仮説であれば、今年のレビューのP17でパネルが指摘しているように、近交係数とともにHWテスト値のほうも、遷移領域と両側の純系群との間で差が出てくるはずなのです。
 やはりP16でパネルが指摘しているとおり、当のJARPAUが提示した経度によって遺伝的・形態的特性が変化するモデルは<距離による隔離>説と矛盾しません。むしろその方がしっくりきます。身体測定データの差異を解析したSC/F14/J29のグラフ(p10)、皆さんはここで示された9つのグラフの中に、2つの明瞭な不連続境界を見出せますか? それとも、経度方向の漸次的、連続的な変化に見えますか?
 ここでパネルのコメントを再掲しましょう。

Management procedure considerations on stock structure focus on developing plausible interpretations of available data not simply the single ‘best’ interpretation when examining uncertainty. In this spirit, the Panel recommends that during the coming year, the authors of SC/F14/J28 and SC/F14/J29 consider the merits of an alternative to the two-Stocks-with-mixing hypothesis: a single stock that exhibits one-dimensional isolation by distance along a longitudinal gradient. This alternative is suggested by visual inspection of fig. 3 in SC/F14/J29, which shows how morphometric scores for individual whales vary by longitude. Morphology appears to vary more or less linearly along the zone of sampling, rather than being constant at the eastern and western extremes, with an area of mixing in between. Under isolation-by-distance, statistical comparisons of samples from the extreme eastern and western sampling regions could produce the types of results described in SC/F14/J28 (see Schwartz and McKelvey 2009).


 <距離による隔離>は野生生物の個体群動態の実相を幅広く表していますが、中でもクロミンクのケースはかなりユニークなものだといえるでしょう。分断された繁殖海域と明瞭な地理的隔離障壁がない摂餌海域との間を大回遊する生態が、ユニークな系群構造をもたらしたに違いありません。さらに、皮肉にもJARPAUの結果、系群の境界領域は時間的・空間的に変化しており、また性差もあることが確認されたわけです。そうした分布動態が微小な遺伝的交雑の蓄積を生み、経度方向に少しずつ異なる遺伝的集団が出来上がったとも考えられます。
 なお、パネルメンバーのお一方、NOAAの遺伝学者Waples氏によれば、「SC/D06/J9中の問題のHW値等については精査できておらず、パネルとしてのコメントはない」とのこと。
 結局、何年もかけて数千頭のオーダーで野生動物を積極的に殺しておきながら、T期・U期いずれの調査結果も満足な結論を出せるレベルにないということです。
 鯨研はサボタージュを働こうとせず、繁殖海域の調査、JARPAUのサンプルの再解析によって、パネルが指摘した有力な仮説の詳細な検討作業に真摯に取り組むべきです。

 話はここで終わりません。
 生態系アプローチをはじめ、鯨研側の手法や議論があたかも結論にたどり着くのを引き伸ばそうとしているかに見えるのは、調査捕鯨をズルズル延命したいという日本側の動機を考えれば容易に納得できます。しかし、系群構造に関して対立する2仮説のうち一方ばかりに肩入れする理由は何かあるのでしょうか?

 ここで、なぜ捕鯨の管理に系群構造の解析が求められるのか、改めて説明しておきましょう。付ける薬のない狂信的な反反捕鯨論者たちの認識は根本から間違っているのですが・・
 もはや常識ですが、自然保護・野生動物保護の文脈において、対象となるのは種≠ナはありません。個体群です。
 おりしも生物多様性条約の年次会合がカナダで開かれていますが、ここでいう多様性というキーワードの意味は、《自然(生態系)の多様性》であり、《遺伝子の多様性》に他なりません。地球全体で見たそれぞれに特色のある生態系の多様さ、その生態系を保全するために欠かせない構成種の豊富さ、そして、種内の遺伝子の多様性すなわち個々の個体群ひとつひとつをきちんと保全することで、それらが構成する地域の生態系の健全さを可能な限り保持すること。
 小川や林に生息する昆虫や淡水魚などの小動物たちから草花まで、「種の個体群ひとつだけ生き残っていればいいや」などという乱暴な考えは、もはやとっくに時代遅れ。地域地域の自然を構成する、遺伝的に微妙に異なる個体群のそれぞれをしっかり守ることこそが求められているのです。ホタルしかり、トンボしかり、メダカしかり、カエルしかり。
 それが現代の自然保護のトレンドであり、時代の要請なのです。
 ペンギンも、サメも、アザラシも、そしてクジラも、自然保護の標準から外れる差別的扱いは決して許されることではありません。
 クジラの保護管理に責任を負う国際機関であるIWCとて、時代の要請を受け入れる必要があるのです。

 商業捕鯨の管理方式・管理体制においても、当然個体群毎の厳格な管理を念頭に置かなければなりません。
 仮に、クロミンククジラに当てはめるとしたらどういうことになるでしょうか?
 まず、推定個体数の全体の数字(最新の合意値で52万頭)には意味がないということ。保護・管理すべきなのは個々の個体群だからです。
 以前、便宜的な合算値である76万頭(既にゴミ箱行となりましたが)に対し、年間約3千頭(平均)というRMP(改定管理方式)に基づく捕獲枠の試算が示されました。これも系群単位ではなくトータルの値なので意味がないわけですが、この仮試算の数字をもとに改めて概算してみることにしましょう。もし将来商業捕鯨が解禁になったとき、日本がどれだけのクジラを殺せるか、の。
 最初に、76万に対して52万、おおよそ2/3ということで約2千頭。全6海区のうち、日本が伝統的≠ノ漁場としていたのは2海区ですから、1/3で約700頭。実際、インド洋、大西洋側にまで出張っても、燃費がさらにかさんでますます不採算になるだけですからね。まだ名乗り出る気配のない未来の公海商業捕鯨企業が、そんなバカげたことをするはずもありませんし、「南極海のクジラはぜーんぶ俺様のモノだ!」とジャイアンな宣言をするほど、日本が狂った国であるハズがないと、世界も信じてくれていることでしょう・・
 ここで、この数字をJARPAUの目標計画数がすでに上回ってしまっているということに、皆さんもお気づきになられたでしょう。ICJがクロ認定するのは当然のことでした。
 系群構造に応じた管理を考えた場合、対象群の規模が小さければそれだけ注意深い管理が求められ、高い安全係数を見込むことになりますから、全部ブッコミの数字より当然目減りすることになります。
 余計なパラメータの入力を必要とせず、最も頑健で信頼性の高いRMPは、系群毎の管理の要請に応じるために、管理区域を経度10度毎に分割することにしていました。日本側は「それで目減りすんのは嫌だ!」という理由から、管理区域間の線引きの目をもっと粗くしようと目論んでいるわけです。「野生動物は個体群毎に保護しなければダメ」という環境保護の常識からではなく。ついでに、調査捕鯨の大きな口実にもなったわけですが。
 <2系群混交>説に即した場合、IとPの純系群、遷移領域の3つを考えればいいということになるでしょう。一方、<距離による隔離>説が正しければ、経度方向のより細かい管理区分が必要になってきます。仮に、JARPATの調査に基づきHW平衡が確認された集団を1管理系群とみなすなら、2海区で6つ。後者の方がより厳格で慎重な管理を求められるのは言うまでもありません。
 ただし、遷移領域については純系群と同様に捕獲枠を算定するわけにはいきません。捕鯨船がこれから殺そうとしているクジラが、I系群のものかP系群のものかを殺す前に判別する方法がないからです。衛星タグを打ち込んで、遺伝子サンプルを持ち帰って確認した後、翌年回収しに行く? 今はまだどこも名乗りを挙げようとはしない未来の捕鯨会社も、そんなバカげた著しく採算性を損ねるやり方を択るはずもありますまい。
 また、個体群毎の個体数推定の精度も大きく下がることになります。2つの系群を合わせたトータルの数字としてなら算出することが可能ですが、遷移領域(前者1つ、後者は4区ないしそれ以上の細分化が必要)については、さらにそのうちの系群毎の比率を割り出すことが求められます。そして、異なる系群への混獲の影響を最小限にするために、遷移領域ではより少数のほうの系群に応じた捕獲枠を設定することになるでしょう。その場合は、純系群に近い場所ほど捕獲枠を小さく設定せざるをえません。そんなしち面倒くさい管理に従いたがる捕鯨会社など、やはりいるとは思えませんが。そもそも南極海捕鯨をやりたいと言ってる企業自体ありませんけど。。
 まだ問題があります。<2系群混交><距離による隔離>のどちらであれ、JARPAUの調査自身によって判明している時間的・空間的変動と性差を管理にも組み込む必要があるということです。年毎に管理の指標とされる系群の境界が移動し、去年と同じ海域でも異なる系群に該当する可能性があったり、同じ海域でも系群毎のメスとオスの割合が異なるため雌雄別々に管理しなければならないという、きわめて厄介な課題が生じるのです。
 捕獲枠の算定に際しても、年毎に境界が移動する可能性のある変動領域の分を割り引かれなければなりません。でなければ、系群毎の管理の意味がないわけです。該当する海域での捕獲は事実上不可能ということになるでしょう。マッコウクジラじゃありませんから、今に至っても選択的捕獲はほぼ不可能。そのマッコウクジラでは、かつて陸上の狩猟動物の管理に倣ってオスだけの捕獲枠が設定されましたが、この選択的捕獲のせいで妊娠率が大幅に低下、北太平洋のマッコウクジラは個体数が急減し、商業捕鯨管理の無残な失敗のモデルケースとなりました。
 系群の性比のバランスを崩さない厳格な管理を追求するなら、同じ海域内に生息する少数の系群の、少数の性の個体数をもとに捕獲枠を算定する以外にないでしょう。
 結局、遷移領域(両方の系群が混在している範囲)・変動領域(管理区分の境界が年によってずれ得る範囲)については、ごく少数の捕獲しか認められないということになるでしょう。
 合わせて300頭か、200頭か、100頭か。以前のJARPATの規模でも多すぎということになるかもしれません。いい加減で済んだかつての乱獲時代と異なり、細かく区切った管理区域毎に厳重な管理をする、という前提付で。
 以下はそのイメージ。

jarpa2kaisetu2.png
 してみると、日本側が2つの仮説のうち1つのほうに異常なまでに固執するのは、「もう一方では商売≠ノ都合が悪い」という理由以外に考えられないでしょう。
 日本を含む捕鯨産業が大乱獲の果てに大型鯨類を次々に絶滅寸前へと追いやり、南極海生態系を荒廃させた悲劇の歴史を鑑み、慎重のうえにも慎重を期した管理手法として提案されたのがRMPでした。
 「少しでも取り分を増やしてやろう」などと画策する日本の姿には、過去に対する真摯な反省の姿勢が微塵もうかがえません。
 RMPの趣旨を踏まえるなら、遷移領域・変動領域の捕獲枠ゼロ設定は当然のことでしょう。RMS(改訂管理体制)を受け入れようとしない日本に、近海のウナギもマグロもまともに管理する能力のない持続的水産業の落第生に、影響を最小限に抑えながら捕獲する繊細な管理などできるはずがありません。

 残念ながら、これは「商業捕鯨をどうしても再開したいのであれば、最低でもここまではやるべきだ」という筆者のべき論にすぎません。そして、科学者として似つかわしくない「鯨肉販売営業」を平気で兼任している鯨研の連中のこと、時代の要請だといっても、このようなきめ細かな管理に応じるつもりはさらさらないでしょうね。
 レビュー報告の12章では、調査捕鯨を正当化する従来の主張どおり、そのデータがRMP運用の「改善に資する」と日本側は謳っています。「安全第一の管理のせいで目減りする量をちょっと増やせるかも」という意味で。
 こんなものは改善ではありません。日本がやろうとしているのは間違いなく改悪です。
 ナガスクジラを世界で最も多く殺し、南極海生態系の撹乱という未曾有の大実験を遂行してきた捕鯨ニッポンは、かけがえのない人類共有の財産である南極圏の野生動物と取り巻く自然をなおも弄び続け、多様性を損ねようと企てているのです。
 この点に関しては、多数派にしてスポンサーでもある日本への配慮から、両論併記の形で調査捕鯨の有用性に一定の理解を示そうとしているIWC-SC自体が、もはや時代から取り残されているといわざるをえません。
 「資源が枯渇さえしなければいい」という時代遅れの指標はきっぱり捨て去られるべきなのです。

 時代は変わったのです。「種が絶滅しなければいい」という初歩の段階はとっくに過ぎたのです。
 自然の多様性をいかに健全に保つかが、いま何よりも求められているのです。そして、社会の側が自然を開発するニーズについて、より厳しい目が向けられているのです。
 年間300万人の児童が栄養失調で亡くなっている時代に、世界の食糧援助をはるかに上回る食べ物を捨て、世界中のどこの国より命を粗末にしている最悪の飽食大国が、永田町の食通族議員たちを満足させるべく「刺身にすると美味いミンククジラ肉を安定的に供給するため」(by本川水産庁長官)、多額の税金を投じて繰り広げる、地球の裏側の南半球に暮らす人々が愛してやまない自然への、欺瞞と独善に満ちた不当な介入。
 これは南極のクジラたちに対する、ホタルやメダカにも劣る差別的待遇以外の何物でもありません。


 ここまでJARPAU最後のレビューレポートの2章分をざっとながめてきましたが、残りのパートもツッコミどころが満載です。
 とくに野生動物フリーク、生態学に興味のある方なら、これを読んで日本の鯨類学がそこまでお粗末だったということに開いた口がふさがらないはず。
 キーワードはシャチ
 トホホな実態の検証、続きは来月中に・・

(集団遺伝学関係参考資料)
−集団遺伝学講座|霊長類フォーラム
http://www.primate.or.jp/PF/yasuda/index.html
−適応進化遺伝学|東京大学大学院新領域創成科学研究科
http://www.jinrui.ib.k.u-tokyo.ac.jp/kawamura/tekioushinka2013.pdf
−Genetic differentiation between individuals|Journal of Evolutionary Biology #13
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1420-9101.2000.00137.x/abstract
−北海道東部に生息するタンチョウの集団遺伝構造解析|日本生態学会第61回全国大会
http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/61/B1-08.html

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2014年04月16日

今年の小笠原/公海調査捕鯨からの撤退を

◇今年の小笠原

 先週同地を訪れた人からいただきました。
 ギスギスした話ばっかりしてきたので、たまには目の保養に、微笑ましいザトウ親子の写真をお楽しみください(^^;;
 お母さんがずいぶんのんびり屋さんだったみたいで、おチビさんがはしゃぎまわる姿を存分に堪能できたそうです。ウォッチング船の船長さんも、こんなのは初めてだとのこと。
 最後の陸に上がったクジラは、小笠原WW協会にある海洋堂のフィギュア(非売品)。。

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 小笠原は日本、そして世界でもモラルを守った理想に近いホエール・ウォッチングが根付いている場所。時間をかけて、クジラたちもヒトが危害を加えない存在だと学習してくれたから、こうして距離を縮めることができたわけです。
 近すぎず、さりとて遠すぎず、お互いの存在を意識しながら、過度に干渉しない。野生動物とヒトとの最も望ましい関係。
 他の生きものに対して生殺与奪の権利とその能力を持つ万物の霊長≠ニして、威張り散らしながら自然の豊かさを奪うのではなく、他の生きものたちとともに自然を分かち合っているのだという事実をしっかり認識し、あくまで謙虚に自然に向き合うこと。

 どうか、小笠原のザトウクジラたちと同じように、はるか南の氷の海で命を謳歌するクジラたちにも平和が訪れますように。

 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 この15日、鯨研・共同船舶・日本捕鯨協会という3つの頭を持つキングギドラじみた組織が、威勢よく炎を吐き出す怪物の巣窟・永田町で、各党の国会議員ら関係者を招き、大々的な鯨肉パーティーを兼ねた決起集会を開いたとのこと。

 議員の皆さん。
 出水や釧路など、全国各地の水辺で、大勢の日本人の目を楽しませてくれるツルやハクチョウたちを、この国は(それなりに)手厚く保護しています。もし、地域の歴史・文化と切っても切れない関係を持つ、まさにかけがえのない日本の文化にほかならない野鳥たちが、日本の200海里を出た途端、赤道を越えてやってきた南半球の国の船に、年間何百羽も殺され続けたとしたら、日本の愛鳥家たちはどう思うでしょう?
 
「季節のたびに訪れ、目を楽しませてくれる鳥たちを、あなたたちがたくさん殺していることで、私たち日本人はとても悲しい気持ちでいっぱいです。どうかやめていただけませんか? あなた方が自分たちの国の野鳥を殺すことに対しては、胸が痛むこととはいえ、文句を言うつもりはありません。けれど、せめて、私たちの国に渡ってくる鳥たちだけは、どうか見逃してやってくれませんか?」
 そうお願いしても、件の南半球の国は「Xマスの焼き鳥は長い歴史を持つ俺たちの神聖な伝統文化だ! 貴様たちの感情論など知ったことか!」と罵るばかりで、耳を一切貸してくれなかったとしたら、あなた方はどんな気持ちになりますか?

 日本がこれまで、南半球の人たちの文化や価値観を踏みにじりながら、南極海のクジラに対してやってきたことは、まさにそういうことです。

 あなた方の独善的な振る舞いは、私たち日本国民の目から見て、あまりにも目に余るものです。
 引き際を見極め、潔く身を引くことは、政治家として決して恥ずかしいことではありません。
 今回の判決は、この国が自制心を取り戻し、国際社会との正常な関係を取り戻すために、国際司法裁判所が差し出してくれた救い≠フ手とさえいえるでしょう。
 これ以上、飽食の国の身勝手な価値観を、南極の自然と野生動物、彼らに関心を持つ世界中のたくさんの人たちに対して、押し付けるのはやめてください。
 いまこそ公海調査捕鯨からの撤退という英断を!!
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2013年09月19日

イルカ嫌誤#hの非科学的・情緒的な珍説

◇五輪・原発に重なるリニア狂想曲

■リニア中央新幹線は脱原発より切実な話かも?|三軒茶屋ファクトリー
http://www.s-fac.co.jp/new/?p=2190
■夢の「リニア新幹線」は第二の原発か──着工まであと2年──
http://homepage2.nifty.com/kasida/social-matter/frame-linear2012wpb.htm
■リニアモーターカーの稼働には原発3〜5基分の電力が必要 ('12/6/5,週プレ)
http://news.livedoor.com/article/detail/6626117/
■リニア・市民ネット
http://www.gsn.jp/linear/logo.html
■電磁波の影響は?
http://web-asao.jp/hp/linear/%EF%BC%91%EF%BC%90%E9%9B%BB%E7%A3%81%E6%B3%A2%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%81%AF%EF%BC%9F%E3%80%80P9.pdf

■リニア中央新幹線に係る適切な環境影響審査のあり方に関する調査検討業務報告書|環境省/(株)プレック研究所
http://www.env.go.jp/policy/assess/4-1report/file/h24_02-01.pdf

静磁界については、線路脇ではバックグラウンドとなる地磁気の約4 倍、高架下では約0.4 倍の値となっている。(p28、引用)
今日までの研究からは、ICNIRP のガイドラインを下回るレベルで、電磁界が動物相に影響を及ぼすことを示す証拠はほとんど見出されていない。特に、電力線下で放牧されている牛に対する有害な影響は見出されていない。一方、1 kV/m を上回る電界内で昆虫の飛行能力が弱まることは知られているが、そのような影響が顕著に見られるのは、導電性の巣箱を電力線の直下に置かれたミツバチのみである。絶縁も接地もせずに導体を電界中に置くと、その導体は電荷を帯びて、動物、鳥類および昆虫類に傷を負わせたり、行動を混乱させたりする。(p33、引用)
結論:
陸域および水域生態系に対する電磁界のリスクを取り扱った研究の数は限られているが、それらの研究からは、極めて強力な発生源の近くでのいくつかの影響以外には、大きな環境影響の証拠はほとんどあるいは全く示されていない現在の知識によれば、人の健康を防護するためのICNIRP ガイドラインに定められた曝露制限値は環境も保護していると考えられる。(p34,引用)
リニア沿線の磁界の強さは0.2mT 程度であるが、地磁気(0.05mT)と比べると大きいため、地磁気を利用する動物(例:微生物、伝書鳩、ミツバチ)への影響が生じる可能性がある。例えば、沿線近くに養蜂家がいる場合など、実際に苦情が発生する可能性があるという点に留意した方がよいかもしれない。
(p39、引用)

 詳細は市民ネットはじめ上掲リンク先をご参照。
 原発3〜5基分の膨大な電力。新幹線より1時間早く着くってだけで(エスカレーター使って駅から地上に上がること考えれば、短縮できるのは30分もなさそう・・)。原発のない長野、岐阜、山梨が原発依存のお荷物を抱えることに。
 トンネルが貫通する南アルプスに生息する絶滅危惧種としてイヌワシなどが挙げられていますが、開発の影響もさることながら、やはり気になるのは強力な磁場が及ぼす野生生物への影響です。
 上の引用は環境省が建設コンサルに委託したアセスメントの資料(リンク6番目)。
 ネオニコチノイド系農薬にやられてしまっているミツバチたちと養蜂家さんが、さらに追い討ちをかけられる羽目になりそうです。野鳥への影響も証拠がないというだけで、本当にわかっているなどとはいえません。ここでも日本はEUとは真逆の、予防原則と対照的な不確実性の解釈、「疑わしきは開発の利益に」という原則を敷いてしまっているわけです。
 バックグラウンドの地磁気の4倍なんて、地磁気を行動の指針として利用している野鳥などが戸惑わないはずはありません。野生動物は「ニンゲンみたいにカシコくはない」んですから。本能を簡単に修正できるなら、いまごろとっくにリニアや原発を作ってるんじゃないですか?
 もし、そこまで野生動物が賢いと考えてるなら、狩猟は金輪際やめましょうよ・・・
 その下の電中研のは、野生動物への影響とは無縁なただの動物実験。でも、こういうとこで電力業界とのつながりはよくわかるよね・・
 「影響はないよ、だって証拠がないもん」
 このフレーズ、放射能から気候変動から内分泌撹乱物質から、一体どれほど繰り返し聞かされたことか。
 最初からわかるほど、すべてを厳密にコントロール≠ナきるほどニンゲンが利口なら、スペインや中国等での高速鉄道事故も、公害も、オゾン層破壊も、そして福島の原発事故も、決して起こりはしなかったはずですよ。

参考リンク:
−ミツバチとクジラ(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/74729858.html



◇最悪なのは捕鯨ニッポンの生命観・自然観

■アザラシ食害、深刻 サケ漁被害、去年最悪に 絶滅危惧種、駆除に「待った」 (9/18,朝日夕環境面、リンクなし)

 それにしても、最近は朝日を含むマスコミが保護派の意見をまったく取り上げなくなりましたね・・。
 東京農大小林氏曰く「少なくとも600頭」
 総個体数がたった600頭程度の野生動物個体群を駆除≠ナきてしまう先進国が、一体捕鯨ニッポン以外あるでしょうか!? 国内で繁殖する唯一の稀少な海獣なのに。
 600頭ということは、わずか学校一つ分。ゼニガタアザラシの寿命は雄20年、雌30年ということですが、25年として1年級群の個体数は平均たったの24頭。まあ、ピラミッド型の年齢構成だから幼若個体ほど数は増えますが。混獲の被害に遭いやすいのも若い個体ですけど。
 毎年その1学級分以上の個体を「間引け」「殺せ」と言っているわけです。
 仮に〈毛なしのアザラシ〉もといヒトという種のうち、ニホンジンなる個体群が600匹いたとして、「毎年40匹殺したって別にかまわないだろう」と、あなたなら思えますか??
 以前にも指摘したことですが、不漁の影響はお天道さまであり、海であり、そこには乱獲や文明活動の影響という自業自得の部分も含まれるわけです。
 アザラシという弱い相手だけは「憂さ晴らし」できる──そんな万物の霊長にはおよそ相応しくない考えで、手っ取り早く駆除に走ろうとしていませんか?
 駆除すれば被害がなくなる、不漁がなくなるという科学的根拠はあるのですか?


参考リンク:
−クジラが問う311(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/74221625.html



◇イルカ嫌誤#hの非科学的・情緒的な珍説


■イルカは高い知性とモラルを持つ平和的な動物では「ない」という調査結果 (9/14,BUZZUP)
http://buzzap.jp/news/20130914-dolphins-not-intelligent/
■Flipper is a thug! Scientists reveal that dolphins are NOT as clever as other animals and are more likely to fight with one another (9/12,DMG Media)
http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-2415575/Scientists-reveal-dolphins-NOT-intelligent-likely-fight-other.html
http://ukcatalogue.oup.com/product/9780199660452.do#.UjnC9PiCiM9


■「イルカは名前で呼び合っている」、英研究 (7/23,AFP)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2957410/11072273
■イルカの記憶力、20年前の仲間を認識 (8/7,ナショジオ)
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130807002


イルカは特徴的な信号を使ってコミュニケーションをとるけれど、警戒声や食物を発見した時の声を持っているようには見えません。これはその伝達手段が鶏ほどにも洗練されていないと言えます。(引用)


 日本のニュースサイトもいい加減ですが、これは元記事が科学論文の紹介の体裁をなしていないうえ、どうやら紹介されている研究者も間違いなく四流といっていいでしょう。一連のコメントが正しいとすれば。
 まず、およそどんな動物であれ行動には大きな個体差がつきものです。生態・形態的な理由で取る定型的行動は別にして、社会行動の研究において「種の行動」などという言い方をすることはありません。社会行動は異なる個体の行動と相互作用の集積なのです。その意味で、「種の行動」なんてものは存在しないのです。
 「知性」だの「平和的」だのといったフレーズに対しては、研究者はただ距離を置きさえすればいい話で、肯定するのも、そして否定するのも、大きな過ちです。それらは個体間でも、種間でも、一本の物差しで測れるものではありません。優劣を決めるものではないのです。
 この研究は、たまたま観察された特定の個体の行動事例を扱ったものにすぎず、広く見られるものでさえないわけですが。
 ネズミイルカ殺しについては、チンパンジーや大型ネコ類における他のサル目(ネコ目)殺し、他の群の幼若個体に対するカニバリズムに比べて、とりたてて異常な行動とはいえません。ヒトの行動の前ではすべての野生動物の行動はかすんで見えますけど・・。ひとつ、行動の背景について調査研究する能力がこの研究者に備わっていないということはいえるでしょう。少なくとも、科学的な論拠を出す前に一般向けメディアにセンセーショナルに取り上げさせたことは、見出しやコメントからも明らか。狙ったんでしょうね。
 ニワトリの社会行動とイルカの社会行動が異なるのは当たり前です。
 野生のイルカでの署名コールについては、最近科学誌で報道されたもので、カラスやゾウなど音声を用いた高度なコミュニケーションを行う種では可能性はあるものの、はっきりと認められたのは初めて。だから、イルカのみならず野生動物全般・エソロジーフリークの興味を掻き立てたわけですが。残念ながら、ニワトリにはもちろんありません。
 この段階でいえることは、イルカとニワトリの社会行動が「異なる」ということだけです。圧倒的多数の行動学・社会生態学研究者は、対象自身による個体識別・自他の区別を意味する署名コールのほうが、きわめて興味深い高度な社会行動であることを認めるでしょうが。
 しかし、引用部分のコメントからは、このジャスティン・グレッグなる研究者がおよそ分析的な視点・観察力を持ち合わせていないことがはっきりと見て取れます。
 大体、警戒・餌の発見を知らせる主に音声を用いたサインは、ニワトリに限らずかなり多くの動物に見られます。社会性の低い動物が、社会的な動機を持たないまま発信して、他の個体の行動を惹起する形での社会行動につながっているケースが多々ありますが。
 個体群特有の文化的行動のケースも含め、シャチを含むイルカ・クジラは非常に協調的な狩・漁を行います。鰭を用いたサインやアイコンタクトもありますから、音声ばかりとは限りませんが、漁にあたって個体間で情報交換を行っているのは明々白々です。
 イルカも当然警戒行動を取り、親子や群れで状況に応じて協調した行動を取ります。その際にも音声による情報伝達があることは間違いありません。
状況によっては音声以外のサインも使われるでしょうが。
 バリエーションが豊富で複雑すぎるうえ、野生下ではシチュエーションの判断もニンゲンの研究者側が特定できないため(飼育下では逆に単純化されすぎ実態からかけ離れてしまうわけですが)、十分に研究しきれていないのが実際のところ。
 なんですか? それともイルカはテレパシーでも使ってるっていうんですか、グレッグ殿?
 非科学的もいいところ。どこのカルトだよ・・・
 動物の味方の方が、「この研究結果からイルカを低俗な生き物であるかのように蔑む気にはとてもなれません」とおっしゃってくれてますが、筆者もまったく同感です。


 内外の科学界のスキャンダルの多くは、定説を覆す突飛な異説をぶち上げ、注目を集めようとするもの。データが全然揃ってなかったり盗用だったりして、後でツッコまれるのがお決まりのパターンですけど。
 非科学的なフレーズ満載のコメントばかりで、まさに色眼鏡を通してしかイルカを眺めることのできない人物。研究対象の動物に対して驚くべきすさまじい偏見を持っている時点で、この人物が尊敬に値するまともな行動学研究者とは到底思えません。
 一体誰がこの研究チーム、プロジェクトにを出しているのかは、少々気になりますけどね・・・
 ここでちょっと直前にAFPで取り上げられた3番目の記事をご覧いただきましょうか。この研究をてがけたステファニー・キング氏は、なんとグレッグ氏と同じ英セント・アンドリューズ大学出身なのです。ニワトリを引っ張り出して当てつけている署名コールってのはまさにこの話。
 少なくとも、まったく肌が合わず、同じ学内でも角突き合わせているんでしょうね・・・
 研究者が本当に「知性的」で「平和的」な動物なのか、疑いたくもなるというもの。
 もっとも、著書のレビューを書いているのは動物福祉の専門家であるマリアン・ドーキンス氏(リチャード・ドーキンスの元奥さん)ですから、「客寄せの刺激的なコメント」だけで、研究内容自体はおそらく一応ニュートラルなのでしょう。
 いずれにしろ、グレッグ氏の「まとめ」には、キング氏の明らかにした新しい知見ほどの価値はありません。

 チンパンジーやゴリラなどヒト科の他の動物、カラス、ゾウ、そして鯨類などコミュニケーション能力の発達した高度な社会性を持つ野生動物の行動学的研究は、人類に大きな知見をもたらしてくれます。それはヒトが動物であり、とりわけ社会性動物だからです。
 ニンゲンの文化や社会を研究するためには、異なる社会を営む動物の社会の仕組みを知ることが必要です。だからこそ、言語や音楽の起源をザトウクジラや十姉妹から探ろうとする試みがなされたりするわけです。
 さて、内外の記事とその反応が意味するのは何かといえば、野生動物の行動や生態などどうでもよく、「ヒトとイルカとニワトリを並べたら、どれが一番頭がいいか?」などいうバカげた無意味な比較にしか関心がない、「エッヘン、もちろんニンゲンサマさ。一番バカなのはイルカどもだぜ」などと胸を張りたがるどうしようもないヒトたちが、残念ながら洋の東西を問わずいるということ・・・
 しかし、動物をひたすらけなすことにエネルギーを費やす動物嫌悪派、反反捕鯨派たちには、イルカの知性もニワトリの知性も、そしてヒトの知性すらも理解することなどできはしないでしょう。中にはベーコン脳どころか、「良質なタンパク質」だの「男は肉を食わなきゃいかん」だのと肉食信仰に取り憑かれ、脳が髄まで筋肉でできてるような精神マッチョたちもいるけど・・。
 残念ながら、このような取り上げ方では、その手の日本の反反捕鯨論者にネタを与え、イルカ・野生動物のみならず行動学研究そのものを貶めるばかりです。
 もちろん、ニワトリは平和的で知的でやさしいですよ。日本のベジ有名人として知られる絵師の伊藤若冲はニワトリフリークで、出店で売られてたひよこを連れて帰ってきて育ててニワトリばっかり描いてたんだよね。
 イルカであれニワトリであれ、命をむやみやたらに貪ることを厳に戒めるのが、日本人本来の動物観・生命観であったはずなのですが・・・

参考リンク:
−あなたはそれでも「ザトウを殺させろ」と南半球の人たちを脅しますか?(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/72321767.html



◇ダイオウイカばっかり愛誤する捕鯨ニッポン


■(ニュースQ3)ダイオウイカがブームとは、これいかに (9/17,朝日)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201309170699.html?ref=com_fbox_d2


 知的なイルカやイカの上をいく商売上手なNHK。
 番組自体はとても優れたものでしたし、筆者も好きですし、ダイオウイカと彼らが住まう海を愛するのは結構なことなんですけど・・儲かったんなら保護と研究のために還元したら?

参考リンク:
−シーシェパードとダイオウイカ(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/24090035.html

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2013年09月12日

ミツバチとクジラ──科学のまやかしと予防原則

■謎のミツバチ大量死 EU農薬規制の波紋 (9/12,クローズアップ現代)
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3401.html
■ミツバチ激減は農業の危機|科学ジャーナリストの5656報告
http://koide-goro.com/?p=2068
■蜂蜜からネオニコチノイド系農薬 ハチに悪影響懸念 (8/18,共同)
http://www.47news.jp/CN/201308/CN2013081801001357.html
■農薬でミツバチの群れ消失 ネオニコチノイド系 (6/17,共同)
http://www.47news.jp/CN/201306/CN2013061701001395.html
■ネオニコチノイド系農薬 諸外国の状況と対応|NO!ネオニコ
http://no-neonico.jp/pdf/nenpyou.pdf
■米国、ネオニコチノイド系農薬4種のハチへの有害性を表示義務化|地球のココロ
http://chikyu-no-cocolo.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-1846.html


もしネオニコチノイド系農薬が原因の一つという可能性があるなら、そして量より質の高品質農業を実現しようとするなら、EUが決めた「予防原則による2年間の使用禁止」は極めて妥当な措置です。
アメリカでは、蜂に止まらず人間のこどもに行動異常が起きるというコホート研究が発表されました。
日本が海外の様子見で時間を空費していいわけがありません。
(引用〜リンク2番目)


山田教授は「ハチが即死しないような濃度でも、農薬を含んだ餌を食べたハチの帰巣本能がだめになり、群れが崩壊すると考えられる」と指摘。養蜂への影響を避けるためネオニコチノイド系農薬の使用削減を求めている。一方農薬メーカーは「科学的根拠が明らかでない」と否定的な見方を示した。(引用〜リンク4番目)

 内外の環境保護NGO、研究者が警告を発しているネオニコチノイド系農薬。
 日本の環境後進国ぶりがここでも浮き彫りになった感じです。
 NHK番組中で取り上げられた長崎での取組には希望もありますが、これは要するに対話云々じゃなくて、ミツバチの受粉に依存している、商品価値の高い果樹栽培農家の力がJA内で強いから、養蜂家たちの味方ができるんだよね、まだ。
 クジラ関係ではみなさん耳タコでしょうが、ここでも予防原則の話が出てきました。
 予防原則にこだわるEUは非科学的で、日本や農薬メーカーは科学的?
 NOです。
 単なる優先順位の話。
 疑わしきをどちら≠フ利益とするか。すなわち、命・自然の側への配慮か、商売・金儲け優先か。それだけの違い。
 不確実性は、常に、どんな問題でも存在するわけです。そして、公害からオゾン層破壊に至る、手遅れになった苦い経験が、予防原則の意義を高めたのです。南極海での日本を含む捕鯨会社による大乱獲も、まさにその一例でした。
 この問題についていえば、いまは「ミツバチへの影響が疑われる」という段階です。「ないとは言い切れない」。だから、少なくとも「ないと言い切れる」ようになるまでは禁止。それが予防原則です。
 農薬メーカー、推進派は、不確実性(=「ないとは言い切れない」)に対し、「非科学的」という用語を用いることで、あたかも「ないと言い切れる」かのように印象操作しているわけです。
 実に便利な用語ですね〜。このカウンターキャンペーンを最も巧みにこなしているのが、化学工業業界、原子力ムラ、捕鯨サークルといえるでしょう。カーソンの時代から叩かれてきた分、慣れてるでしょうし・・
 それでも、EUは市民とNGOの働きかけで政治家が動き、ミツバチ・養蜂家・消費者の安全を守れる未来へと一歩踏み出したわけです。
 科学≠ニいうまやかしの言葉にしがみつき、取り残される捕鯨ニッポン。毎度毎度このパターン、何とか卒業したいもの・・・
 山田養蜂場さんはちゃんと研究助成してくれてるみたいですが、プロポリスだの何だので潤ってる美容・健康食品業界さんも、ハチたちと共存している農家さんと一緒に、ぜひミツバチを応援してあげてください。


 反反原発層と重なる反反捕鯨層は、原発の安全神話や「アンダーコントロール」なる安倍の卑劣きわまる嘘には一切注意を払わず、ヒロシマ・ナガサキ・フクシマを経験した国なら当然の反応というべき、放射能に対するアレルギーに対してのみ異様な敵愾心をむき出しにしますが・・同様にやはり農薬の安全神話を鵜呑みにし、きっと予防原則を真っ向から否定するんでしょうね。実際、狂信的な反反捕鯨論者の一部には農薬漬農業礼賛論者もいますし。ミツバチへの同情なんてこれっぽっちもなさそう・・
 それとも、予防原則の適用除外はクジラオンリーかしら? いや・・彼らは聖なる鯨肉≠守るために、ありとあらゆる環境問題での予防原則適用事例を攻撃することでしょう。「クジラの過ちを繰り返すな!」と。
 捕鯨推進運動はまさに、すべての環境・動物搾取産業を擁護する砦≠ニして機能しているわけです。最大の効果を発揮したのは、やはりマグロ、ウナギでしたが。


 筆者は若い頃、肉食主義者に「蜂蜜はどうするんだ!?」とツッコまれたことがあります(--;; まだ世慣れていなかった筆者は、他人のライフスタイルをとやかく攻撃し、揚げ足を取らないと気がすまないヒトたちが少なくないことを受け入れる用意がなく、返答に窮してしまったものです・・
 筆者は皮革・ゼラチン等動物製品を購入せず、各種肉魚のみならず卵・乳製品も摂取しませんが、蜂蜜は気にしません。まあ、厳密な定義に従うならヴィーガンから少し外れるんでしょう。。彼らの唾液とか混じってるから動物製品といえなくはないけど。
 筆者はワンコつながりで農家・養蜂家さんに現場を見学させてもらったり、近所のお宅の藤棚にニホンミツバチが巣を作った際に相談しに行ったりもしました。少なくとも正しい養蜂においては、事故もありますが、別にミツバチを殺して蜂蜜を奪っているわけではありません。まあ、天敵のスズメバチをトラップ(当然農薬じゃない)で殺したりもするけど。いずれにしろ、受粉用にマルハナバチを大量に殺している一部の野菜より、奪っている命はむしろ少ないんですけどね。あと、合鴨農法とか、混合農業型の有機野菜よりも、ですけど。。
 ミツバチは、ヒトとその文明社会が環境負荷を低減するうえで欠かせない存在とさえいえます。余計な文明の諸産物が要らない、むしろ農薬のように都合が悪いため、シンプルなエコ・スローライフのとても頼れる味方。誰もが知ってていいはずだけど。環境教育の素材としても優秀です。
 ミツバチが元気な社会、元気な国は、持続的な未来が保障されているといえるでしょう。
 自分たちで恐ろしい天敵スズメバチから身を守る術まで開発したけど(セイヨウミツバチに布団蒸し戦法は無理)、ヒトへの攻撃性は低くておとなしいニホンミツバチが、いつまでも花々を飛びまわれる環境こそ、農業・食料生産・国民の健康と安全を維持できる豊かな社会といえるはずです。
 原発や兵器、農薬、公海捕鯨を捨て、ハチたちの巣箱を守りましょう。日本のために。
 


参考リンク:
−ベジタリアンが暮らしにくい国 (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/21557770.html

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2013年09月10日

捕鯨問題進展のカギは日本/イルカの話題2本

◇捕鯨問題進展のカギはAUSではなく日本

■捕鯨問題進展も? 豪州のアボット新首相は親日姿勢 (9/9,NEWSPHERE)
http://newsphere.jp/world-report/20130909-5/

 わかってないで記事書く方が多すぎますね。サイトの運営会社はWebサービス関連企業のようですが、本業のジャーナリストに頼んでいるのでしょうか? まあ、プロのマスコミ・ジャーナリストの捕鯨関連記事も日本は特にボロボロだけど・・・
 オーストラリア(AUS)も米国同様、保守連合(自由党・国民党)でもリベラル連合(労働党・緑の党)でも親日度に特段の差はありませんし、捕鯨政策も然り。
 違いはあくまで戦術です。そこは内向きの動機が絡んでくるわけですけど・・・
 日本との関係強化は経済・防衛面の話。南半球のクジラで譲歩するはずがありません。
 今回の政権交代では、TPPでの対日攻勢が強まったり、アベノミクスの悪いとこを見習ったり、気候変動対策等環境政策が軒並み後退したり、先住民が不利益を被る懸念はありますけど・・。AUS国民の皆さんの選択ですから、外から言っても詮無いことですが、炭素税導入等は急ぎすぎたのかもしれませんね。商業捕鯨モラトリアムじゃないけれど。
 確かに、'09年の日本の政権交代時には、捕鯨問題での進展がちょびっと期待されました。残念ながら、期待はずれでしたけどね・・・
 捕鯨問題が進展するためには、最もラディカルなAUSの軟化は必要ですが、ICJその他の場でも、沿岸ないし北西太平洋の捕鯨に関しては、既に軟化の姿勢は示されているのです。
 北朝鮮やシリアの如く、対外的な強硬姿勢に微塵の変化もない日本側が変わらない限り、進展は決して望めません。



◇興味深いイルカの話題・その1

■イルカ×クジラ、交雑種?の撮影に成功 東京都・御蔵島 (9/10,朝日)
http://www.asahi.com/tech_science/update/0910/OSK201309100006.html?ref=com_top_photo
■クジラとイルカの子がイルカの子を産んだ(なんのこっちゃ)
http://kisosuu.cocolog-nifty.com/zakki/2005/04/post_0750.html

 イルカ殺し列島%本の中でイルカたちのサンクチュアリに位置づけられる御蔵島。水中写真家の鈴木氏は「ソロモン流」に登場した方ですね。
 朝日記事には鴨シーの勝俣副館長と鯨研・西脇参事のコメントがあります(アナログ版だと西脇氏のコメントは削られちゃってるけど・・)。別に西脇氏が鯨研だからというわけではないのだけど、ここは勝俣氏に軍配かなあ。
 イルカも幼齢個体ほどネオテニーで口吻が短いのですが、この子は成熟したカズハゴンドウより尖って見えます。カズハの子なら親よりさらに丸みを帯びてるはず。
 オキゴンやハナゴンとハンドウのハイブリッドは、飼育個体で報告されています。オキゴン×ハンドウは継代繁殖が可能なほど近縁種ということですね。(リンク2番目)
 まあね・・・せっっまいプールの中に一緒に閉じ込められてるから、そういう不自然な過ち≠煖Nこっちゃったんだよね・・・・
 ただ、交雑は種(正確には遺伝子)にとって決して好ましくないわけです。基本的には。場合によっては、隔離の程度の低い異なる亜種間同士の再統合など、進化・種分化を引き起こす要素にもなるんでしょうけど。大体、ホッキョクグマとヒグマ、リクイグアナとウミイグアナ、アカウミガメとタイマイのケースなど、いま飼育下でない野生下で交雑が見られるケースは、大体が個体数の減少と環境異変(結局犯人はニンゲン)が原因と考えられます。人為的要因が絡まない自然交雑の例としては、一部のヒヒが挙げられるようです。
 種・個体群の分布を決めるのは基本的に地理的境界であり、海中では潮の流れや水温・水深などの要素が大きいわけですが、移動自体が阻まれがちな陸上に比べ、海を長距離回遊する鯨類などの動物の場合、社会行動・社会生態の差異から来る障壁≠熨蛯ォいかもしれません。以前関連する学説を紹介しましたが、それがハクジラ類において80種以上に及ぶ種分化が見られる理由のひとつとも考えられます。
 この子がカズハなりゴンドウのどれかの種とのハイブリッドだとすれば、野生動物としてはかなり稀少なケース、貴重な観察事例といえるでしょう。
 シチュエーションはやっぱり気になりますけどね。。母親の雌は普通にミナミハンドウの群れの中で暮らしていますし、雄の個体もいるはずです。フラッとやってきたゴンドウの雄に一目惚れしちゃったんでしょうか・・。母親の個体にしても、群れにしても、どうやって受け入れたのか、その辺が不思議。。
 西脇氏のよその子$烽煖サ味深い仮説ではあります。ザトウとシャチのNHK特集ではないけれど、完全に非互恵型の利他行動の一例といえるからです。
 西脇氏には映像で大雑把な感想しかいえない種の同定より、年齢査定のほうをお願いしたかったところ。その辺は飼育関係者のほうが詳しいでしょうが。ただ、カズハゴンドウは一時的な保護だけで長期飼育の事例はない模様。
 ミナミハンドウは成体の体長が2.5m、生まれたての仔イルカでは1mくらい。授乳期間は1年から1年半。親と比べてみると、この子はまだ離乳してないくらいなのではないでしょうか? 行動を見ても親子≠ツきっきりですし。
 それにしても・・知りたいのはやっぱり父親だよね(^^; 野暮かもしれないけど。。
 まずは無事に生き延びてほしいですが、もう少し大きくなったら、遺伝子サンプルを採取して調べてほしいもの。もちろん、非致死調査で!

参考リンク:
−シャチとザトウクジラの深すぎる愛 (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/60552101.html


 

◇興味深いイルカの話題・その2

■イルカの夢精、初めて撮影に成功 「夢とは無関係」 (9/3,朝日)
http://www.asahi.com/tech_science/update/0903/OSK201309030130.html?ref=reca
■イルカも夢精、撮影に成功 京都大、世界初 (9/3,産経)
http://sankei.jp.msn.com/science/news/130903/scn13090320560001-n1.htm
■「大切なことなんです!」野生イルカの“夢精”を撮影 京大研究グループ (9/3,産経関西版)
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/130903/wlf13090319440017-n1.htm

 朝日の方は記事詳細を読めてませんが、どちらもタイトルが変。
 朝日「夢とは無関係」これは森氏のコメント? 科学的には無関係かどうかはわかりません。主観的にはほぼ間違いなく関係していると思いますけど。
 朝日のキャプション「交尾のときにしか露出しない」とありますが、これも間違い。触覚器官として使うケースもあります。フリークはご存知のとおり。
 産経タイトル、「大切なこと」ではまったくありません。ヒト以外でも。夢と同じで、「機能・必要性がよくわかっていない」という言い方もできるでしょうけど・・
 クジラ・イルカは、浮上呼吸の必要性から脳を半球ずつ休ませるといわれています。睡眠の仕方・質が多くの動物種と異なります。夢のほうも、ニンゲンやネコのように長時間ぐっすり眠ってときどきα波が出るレム睡眠の状態に入り、その間に夢を見てる(ときには夢精という生理現象にもつながることもある)パターンとはだいぶ違っていそう。このイルカの場合、いったん目覚めたようなので、正確には夢精といえない気もしますが。でも、ボノボのような社会的性行動もなかったということですから、きっとそういう夢≠見たに違いないでしょうね・・・
 いずれにしろ、森氏も「突発的な射精は観察が難しいが、多くの動物で起こっている可能性があり、人間の夢精の仕組みにも関係すると考えられる」(引用、リンク3番目)と指摘されているとおり、動物のありふれた生理現象です。
 実は、筆者はうちの子のこの生理現象を目の当たりにした機会があり(事後処理もしました・・)、別所の犬猫エッセイで詳細にまとめています・・

参考リンク:
−ちょっと恥ずかしい話(ワンニャンブログ)
http://www.wannyan.sakuraweb.com/wannyan/blog.htm#9

posted by カメクジラネコ at 20:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系