2013年10月18日

捕鯨の町・太地は原発推進電力会社にそっくり

◇伝統産業を政治力でねじ伏せる捕鯨の町・太地のやり方はまるで原発推進電力会社

■イルカ漁の太地町、海洋公園をオープンへ (10/7,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3001001
■クジラ牧場 計画中 和歌山・太地町で世界初 (10/5,東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013100502000233.html

■第2回・第3回鯨の海構想検討委員会議事録概要|美熊野政経塾
http://park.geocities.yahoo.co.jp/gl/mikumanoseikeijuku
■鯨の海構想|(〃)
http://park.geocities.yahoo.co.jp/gl/mikumanoseikeijuku/view/20120328
■第1回 鯨の海構想検討委員会 議事録概要(その3)|(〃)
http://park.geocities.yahoo.co.jp/gl/mikumanoseikeijuku/view/20120419

■森浦湾に真珠を求めて―三幸漁業生産組合|和歌山社会経済研究所
http://www.wsk.or.jp/book/40/02.html

 町立くじらの博物館名誉館長で、日本鯨類研究所(東京都中央区)顧問の大隅清治博士は「可能」と言い切る。「大昔、クジラのエサ場と繁殖場は一緒だった。温暖化でエサ場が冷たい所に移動し、広い範囲を移動するようになっただけだ」と解説する。(引用〜東京新聞)
 町は本年度、調査費として一千万円を計上。湾内で操業していた真珠養殖業者らとは既に漁業権の問題をクリアし、周辺の土地購入もほぼ終わっている。(引用)
 水産庁の担当者は「応援したい気持ちはあるが、魚やイカといった大量のエサをどうするのかや、生態系の問題など、調査の積み重ねが必要。時間はかかるでしょうね」と話している。(引用)

 鯨の海構想では森浦湾を約430mにわたって網で仕切るというのだが、これだけでも人件費を含め莫大な維持管理費が発生する。しかも網干鼻(あぼしのはな)は小さな低気圧が来ても波が高くなる場所で、仕切りだけ考えてもこの構想は、最初から無理がある。 (引用〜美熊野政経塾)
 決まっているのは三幸真珠の漁業権を無償で町に提供してもらおうと考えているので(真珠の)筏は町が(税金で)撤去しなくてはいけないかなと考えいる」ということでした。現在は真珠の養殖はやっていないと聞いていますがどうなのでしょう。(引用)
 オブザーバー 福田忠由 (三幸真珠生産組合長 太地町議会議員)
  オブザーバーより現在の森浦湾利用概要紹介
  @区画漁業権での真珠及びひおうぎ貝の養殖
  A上記養殖と合わせて、静穏な森浦湾を活用したシーカヤック体験事業等
(引用)
 水産庁の補助金がついたので、協議会に期待している。(大隅氏)(引用)

 本題から逸れますが、先に鯨研顧問・大隅御大の珍回答から。
 アサギマダラを始めとする昆虫、ウナギ・マグロから、ウミガメ、クジラ、多くの渡り鳥に至るまで、移動性野生動物は各種存在します。本来なら、それらの種はすべてボン条約のもとに国際的に保護管理されるべきところですけどね・・。
 そうした長距離を季節的に渡る動物の行動のルーツについては、様々な学説が唱えられています。気候変動はプレートの移動とともに有力な仮説ではありますが、クジラについては天敵メガロドンへの対処だったとの説もあります。
 いずれにしても、原生のヒゲクジラ類の祖先種は中新世の中頃、1千万年以上昔に出現し、当時から回遊もしていただろうと考えられます。ナガスクジラ科など現生種の科・属の分岐年代も数万年から数百万年前くらい。それだけの期間、いずれの種も南北両極に近い高緯度と赤道に近い低緯度を回遊し続けてきたわけです。定住型のカツオクジラのように、あまり長距離を移動しない生態に戻ったケースもありますけど。
 まあ、仮に温暖化説のとおりだったとしましょう。人為的な要因に基づく急激な気候変動に、多数の野生動物が適応できずに絶滅することが危惧されているわけです。長期的なスパンで獲得した自然な生態の修正があったからといって、その個体がいきなり大昔と同じ環境に適応できるなどと言い出す動物学者・生態学者がいるはずもないでしょうに。
 「獣は昔はみな魚だったんだから、水槽に閉じ込めたってそのうち慣れる」と言っているようなもの。もうムチャクチャです・・・ 
 そもそも、記者の質問とも全然噛み合ってませんけど。集団飼育関係ないし・・
 実際のところ、動物園・水族館で飼育されている野生動物は、本来の生息場所の環境とかけ離れた人工的環境で飼育され、行動習性も大幅に歪められてしまい、環境教育の効果さえ相殺しているのです。だから、昨今では海外発のエンリッチメントの発想が(形ばかりですが)導入されるようにもなったわけです。「行動を制限してかまわない」という思考のベクトル自体、時流に逆行しているとはいえるでしょう。
 大隅氏が諸手を挙げて賛同しているのは、かつて畜産研究者とともに「クジラ牧場」を夢想し、頓挫した苦い経験があり、なおも諦めていないからでしょうが・・・

 で、本題。
 東京新聞の記事等を読んで、筆者は強い違和感を禁じ得ませんでした。
 皆さんはブルーム騒動の話を覚えていますか? ブルームは太地と姉妹都市提携を交わしているオーストラリア北西部の町。詳しくは参照リンクの拙記事をご参照。
 ブルームとの縁は真珠です。イルカではありません。古式捕鯨の壊滅の後、同地の真珠養殖業に潜水士として入植した移民が交流のきっかけだったわけです。養殖技術も日本から取り入れたとの話もあります。
 後ほど詳しく解説する上掲最後のリンクに、昭和30年代には森浦湾を始め和歌山県内で真珠養殖が広く行われていたとあります。
 日本のイルカ猟はどこも散発的に行われただけで、生計を立てる生業とはいえませんでした。イルカが「余禄」でしかなかったからこそ、持続性を持たない乱獲体質だったわけですが。しかも、太地のイルカ追い込み猟は全国でも後発組で、伊豆から技術を導入して本格的にやりだしたのはやっと1969年のことです。
 太地の真珠養殖業は、それ以前から行われていた地域の欠かせない伝統産業だったはずなのです。姉妹都市との縁も取り持った。
 和歌山県ではこの伝統産業が次々に"絶滅"し、後はこの《鯨の海構想》が持ち上がった森浦湾を残すばかりとなりました。
 理由はカネです。経費がかかりすぎて安い輸入物に勝てなかったわけです。そんな他愛のない理由で数々の伝統産業を滅びるに任せてきたのが、この日本という国なわけですが。今日でもまったく変わっていませんけどね・・
 そんな中、まあ太地の真珠養殖はギリギリまで頑張ってはいたわけです。

 さて、その伝統の真珠養殖を、湾をイルカ・クジラ飼育用に専有するために潰そうというのが、この鯨の海構想です。
 多くの零細沿岸漁業同様、産業として成立しているかといえば実態は怪しい節もありますが、曲がりなりにも漁業権を有し、担い手がいれば、採算が取れれば(捕鯨のように不採算でも国庫補助で無理やり続ける手もあるけれど!)、継続したかったのが本音でしょう。
 その漁業権を召し上げ、同湾で辛うじて存続していた伝統産業を無理やり潰してしまおうと、太地町は考えているわけです。
 第一回の検討委員会議事録では「無償で提供してもらう」とありますが、東京新聞では「クリアし」とあり、町の予算で街の土地購入費用等も出したようですね。
 ちなみに、東京新聞にはまるで他人事のような水産庁の担当者のコメントが載っていますが、大隅氏自身が「水産庁の補助金がついた」とはっきり発言しています(第三回検討委員会議事録)。どこまで無責任な庁なのでしょうか?

 強引に腕ずくで沿岸漁業を潰すこのやり方、何かに似ていませんか?
 そう……福島から上関まで、原発立地自治体における電力会社の漁業補償交渉そのもの。原発温排水養殖という形で共存≠オているところまでありますが。
 あるいは、ダム等の大型公共事業にも通じるところがありますね。数々のかけがえのない共同体の有形無形の歴史的資産を水の底に沈めてきた。
 そうしたところはどこも、背に腹は替えられず、地域の多数意見と有力者のひときわ大きな声に逆らえず、伝統の生業を手放さざるを得なかったわけです。表向きは「自発的に売った」形を装って。
 伝統産業をかくも蔑ろにしてきたわけです。この日本という国は。
 そう、原発やダムとまさに同じく、捕鯨・イルカ猟は、地域の誰もが逆らえないご神体になってしまったのです。
 原発であれば、そうした空気≠利用して有力者が利権を貪り、町を私物化する構図が見えてくるわけですが……。
 筏の撤去費用を肩代わりし、土地を購入するといっても、漁業権は無償で放棄させるとするなら、これはある意味では原発よりなお一層タチが悪いといえるでしょう。身内だからかまわないということなのでしょうか? それとも、何か他に裏があるのでしょうか?


 実は、太地町と真珠に関しては、まだ不可解なことがあります。
 ここで上掲最後のリンクをご参照。
 どっかで見た名前が出てきますね・・。そう、この地域経済誌が刊行された2002年の時点では、太地の真珠養殖業を束ねる三幸漁業生産組合の長は、現太地町長の三軒一高氏だったのです。検討委員会議事録に出てくる現組合長の福田氏も、やはり太地町議会議員とのことですが。
 イルカ追い込み猟以上に重要な伝統産業だったはずの真珠養殖の方は、どういう理由によってか、他の方に事業を譲ったうえで、結局鯨の海構想のために潰してしまおうと、三軒氏はお考えになったわけです。
 上掲リンクには、真珠養殖もいろいろ経緯があったことが詳しく書かれています。需要の変化や海外との価格競争など、経済的事情により文化として変質を迫られた部分は大きかったでしょう。乱獲のような問題は生じなかったとはいえ。地域限定の食習慣から外貨獲得目的の鯨油生産、食糧難時代の緊急避難的食糧、魚肉ソーセージ原料を経て、高級グルメへと変遷した、捕鯨・鯨肉食産業ほどめまぐるしい変化とはいえないでしょうが・・
 後半に、赤潮被害についても書かれています。生活・産業排水の問題が大きいのでしょうが、近隣の他の養殖業の影響もあったかもしれません。
 そして、もう一点奇妙な記述が。

 昭和61年に発生した大規模建設の工事中に、その濁水が森浦湾の漁場に大量に流入し、養殖中の真珠がへい死しました。(引用)

 一体なんでしょうねえ、この「大規模建設の工事」ってのは?
 太地町のサイトでは、同年「グリーンピア南紀オープン、浅間山園地完成」とあるくらい。既に売られたグリーンピアは、一応森浦湾を望む位置にはありますが。
 自然豊かで趣があることを森浦湾のキャッチフレーズにしている太地町、御用社会学者の秋道氏らは素朴に礼賛していましたが、伝統産業に被害を及ぼすような大規模な自然破壊が、厳然として太地町で引き起こされていたということです。

 狂信的な捕鯨擁護応援団たちが何を叫ぼうと、イルカ猟と真珠養殖の間に線を引くのは、伝統産業・文化に対する恣意的な差別に他なりません。
 何より問題なのは、資本主義経済の市場の原理、自然な時代の成り行きではなく、国・町が税金を使って無理やりこのご神体≠死守しようとしていることです。
 太地町は、近隣の町とともに海の自然を何よりも大切にするブルームに対し、「イルカ猟に一切口出しするな」と高慢な要求を突きつけました。
 その一方で、二つの都市を結ぶよすがに他ならなかった真珠養殖を、ブルームとは何の関係もない自然搾取娯楽ビジネスのために、滅ぼしてしまおうというのです。
 これは友好に対する裏切り以外の何物でもありません。
 ブルーム市と市民は、ただちに太地町に対して強く抗議を申し入れるべきです。

参考リンク:
−太地−ブルーム姉妹都市騒動の背景(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/31722747.html
−民話が語る古式捕鯨の真実(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html
−NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html



◇コントロール・シンドロームに陥った捕鯨ニッポン(おまけ)

■排水溝で1400ベクレル検出 大雨で流入か 福島第一 (10/17,朝日)
http://www.asahi.com/national/update/1017/TKY201310170092.html

 大きな誤解を生みそうな記事タイトル。これは1リットル当たりの数字。検査は一日置きでしょ。どれだけの量のストロンチウム90が海に流れ出てしまったのか、もはや見当もつかないということ。
 一体どこがコントロールでブロックなのやら。
 「目に見えない海に流れてくれてよかった」と考えている人たちも、おそらくいるのでしょうけれど・・・
 水産物の放射性物質検査は今後ストロンチウムまで必須にしなくては駄目です。
 私は食べないけど、知りませんよ? ていうか、ネコたちだって困るし・・・
 イルカ、クジラを始め、海の生き物たちはもう手遅れかもしれませんが・・・

 
 なお、横浜国大のシンポジウムについては、IKANが記事にまとめてくれましたので、そちらをご参照ください。

■海に関連するシンポジウムが|ika-net日記
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-2f26.html

posted by カメクジラネコ at 02:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系
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