2013年09月21日

NHKと産経の奇妙な「ロシアv.s.GP」報道

 先にHP更新のお知らせから。

■捕鯨カルチャーDB
http://www.kkneko.com/culturedb.htm


 久しぶりにネカフェで追加ネタを仕入れてきました。
 追加は「鯨の王」(+2)、「青の祓魔師」(+1)、「波打際のむろみさん」(−3)、そして以前の記事でファンからクレームコメントが付いた「予告犯」(−3)。
 「青の祓魔師」で筆者の一番お気に入りキャラはもちろんクロちゃんだニャ〜。次点が神木の使役する白狐。
 「予告犯」は単なる反反捕鯨という以上のトンデモナイ問題作(本当なら−300点くらいにしたいところ)。「鯨の王」のダイマッコウ考、「予告犯」詳細な批判については、次回の記事でまとめます。
 あと、なぜかニャガトへのアクセスが急増・・
 ということで、本日はニュースネタの解説をば。


◇NHKと産経佐々木氏のトンチンカンな「ロシアv.s.GP」報道


■ロシアでグリーンピース活動家逮捕、海上石油掘削基地に侵入 (9/19,AFP)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2969167/11368546
■ロシア武装部隊が乗員を船に監禁 グリーンピース発表 (9/20,AFP)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2969444/11377870 
■Russia's Arctic: Mission to protect wildlife (8/26,BBC)
http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-23794232
■Russia 'seizes' Greenpeace ship after Arctic rig protest (9/20,BBC)
http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-24170129


■北極海でロシアがグリーンピースの船を連行した本当の理由。ロシアのダブルスタンダード外交|GPJ
http://blogos.com/article/70365/
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/dblog/blog/46705/


https://www.facebook.com/SeaShepherdCoveGuardiansOfficialPage/posts/239976266152611

http://textream.yahoo.co.jp/message/1834578/a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa?comment=65017


■ロシア グリーンピースの船を拿捕 (9/21,NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130921/k10014714631000.html
■クジラ保護で地震探査延期 サハリン2の事業主体 ('09/4/28,共同)
http://www.47news.jp/CN/200904/CN2009042801000820.html
■ロシア:サハリン−2問題をどう見るか?|JOGMEC
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=0612_out_j_ru_sakhalin2.pdf&id=7
■サハリンII問題リンク集
http://homepage2.nifty.com/birding/hogo/sakhalin.html

ロシア政府とグリーンピースは、かつて、日本の大手商社など外国資本がサハリン沖で進めていた石油ガス開発プロジェクト「サハリン2」については、足並みをそろえて環境問題を追及しましたが、北極圏開発では、ロシア政府がグリーンピースの抗議行動を押さえつけようとする姿勢がうかがえます。(引用〜NHK)

・日本側報道においては、環境問題を口実にしたロシア政府による管理強化・資源統制、更にはガスプロムのサハリン−2参加問題での揺さぶり、PS契約破棄の画策といった憶測がなされた。しかし、ガスプロムの参加とPS契約下でのコスト・オーバーランの処理問題に関しては2005年の7月から議論されていることであり、2006年夏に発生した環境問題と結びつけるのは無理がある。
・環境問題に関しては、既に10月20日、サハリン・エナジー側が改善を約する書簡を天然資源省に提出して問題は解決に向かいつつあり、事業の停止や大幅な遅延は避けられる見込みである。
・ロシアの政策において環境保護は高い優先度を持っており、東シベリア・パイプラインの例に見るように、環境問題を理由に大きな計画変更がなされることがある。これは、寒冷地が環境破壊に非常に脆弱であるという、現実的な問題から来ている。
何故、2006年の8月に大きな問題となったかといえば、この時の査察でパイプライン建設現場での著しい環境破壊が明らかになったという事実に尽きる。
今回のサハリン−2に関する問題は、石油・ガスパイプラインの建設現場における著しい環境破壊と、同プロジェクトで持ち上がったコスト・オーバーランのPS契約下での負担の不平等、そしてガスプロムの参加問題の3要素が意図的に結びつけられて報道されている。
しかし、中核的な問題はあくまで環境問題である。他の2つの要素に、環境問題が影響を与えることはあっても、それは結果であって、一部の報道にあるような「目的」ではない。
(引用〜JOGMEC)

■露沿岸警備隊、グリーンピース活動家2人を拘束 (9/20,産経)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130920/erp13092021210007-n1.htm
■グリーンピース、テロ行為で立件か?ロシア石油掘削基地抗議で|Cool Cool Japan !!!
http://sasakima.iza.ne.jp/blog/entry/3189367/

沿岸警備隊は数回、威嚇砲撃したが、船は停止しなかった。(引用〜産経)
アークティック号は、かつてグリーンピースが南極海の調査捕鯨船団への妨害活動を行っていたときに、南極海に派遣された船です。
アークティック号は、日本の捕鯨船と衝突し、国際的な問題になったことがあります。
グリーンピースはこうして、ターゲットに近づき、メッセージの横断幕を持って、活動家が抗議しているという写真を収める活動を行います
グリーンピースのクミ・ナイドゥ事務局長は「平和的な反乱だ」として、露当局の対応を批判しています。
一方、ロシア連邦保安庁(FSB)の担当者は、露メディアに「活動家はテロ行為の罪で立件される可能性がある」と述べました。
ロシアでは反体制派やNGOへの取り締まりが集中的に行われており、今回のグリーンピース活動家の捜査にも、こうした社会の雰囲気が反映されているような印象を持ちます。
(引用〜佐々木記者個人ブログ)

 プーチン大統領の息のかかった巨大な半国営企業ガスプロムの石油掘削事業により、北極海の自然に影響を与えるとしておなじみの国際環境保護団体が抗議活動を実施、武装したロシア警備隊に拘束された事件。詳細はGPの発信、AFPの報道をご参照。
 BBC記事(リンク3番目)で、予備探査が行われた場所のすぐ近くにあるセイウチホッキョクグマの繁殖コロニーでの調査に同行取材した模様が伝えられています。これは調査捕鯨と対照的な非致死のいわゆるバイオプシー。WWFの研究者は、気候変動の影響とともに、同海域の石油・天然ガス資源探査・掘削事業は二つの種の存続にとって大きな脅威になると指摘しています。記事中では3つ目のダメージとなり得る北極航路の問題にも触れています。
 GPも福島の原発事故やフロリダ沖のBPの油田事故を例に挙げていますが、北極・南極・深海は自然の聖域としてヒトが手を出すことを厳に戒めるべき。生態系自体が脆弱なうえに不明な部分が多く、回復がそれだけ困難になるからです。何より、予防≠ナきず悲劇が起きた厳然たる事実≠ェあるわけですし。
 未だに覇権主義が色濃いことを伺わせるロシアの強権的な姿勢には困ったもの。銃を突きつけるマフィアじみた拿捕の様子が全世界に流されれば、海外の市民から大きな反発の声があがるのは必至ですが、国内のメディアはコントロールできてるから大丈夫、というつもりなのでしょうか? この辺は日本の捕鯨関連の政府対応と報道によく似てますけど・・・

 その日本、海外では大きなニュースになっていますが、対照的に国内での報道は少なく、内容も変。NHKと産経だから仕方ないけど。。。
 捕鯨翼賛報道に最も執心しているマスコミ2社だけしか注目しないとなると、日本国内では公平な情報が伝わることはおよそ期待できません。他社は何やってんでしょうね?
 背景の問題をとりあえず無視すれば、外国人活動家・外国船籍船による禁止海域、建造物への不法侵入ということで、香港活動家の尖閣諸島上陸と拘束・強制送還(不起訴のままでしたが)に通じる部分もありますし、何しろ北方領土係争の相手であるロシアの話なのですから、日本国民の関心事とはいえるはずです。たとえ北極の自然保護への関心が低かろうと。
 とりあえずNHK・産経両報道のおかしな部分をツッコんでおきましょう。

 NHKは最後の一段まで淡々と事実を伝えるのみでしたが、突然突拍子もない論説をぶちはじめます。それが上掲の引用。
 まず日本語が変ですね。「足並みをそろえて環境問題を追及した」??? 冗談言っちゃいけません。
 サハリン2に関しては、鯨研の販売員殿のツイートもあったりして、筆者もブログやツイッターで幾度か取り上げているところ。
 もともとはロシア政府自体が極東開発の一環として外国資本を呼び込もうと国際入札を行いプロジェクトがスタートしたのです。資本率は下がっても、その後も共同出資プロジェクトのまま。待ったをかけたのは管轄する天然資源省内の一部局。グリーンピースは問題を指摘した多数のNGOの一つというだけ。
 JOGMECの資料に詳しい解説がありますが、権益の配分をめぐってシェルとガスプロムとの間で綱引きがあったものの、アセスの不備やパイプライン事故等に基づく監督局の工事中断指示とは無関係。穿った見方の出所は実はロシア国内で、日経をはじめとする日本のマスコミがそれを借用し、国内で陰謀論が流行した次第。
環境問題の観点からの批判はGPに限らず、WWF、IUCNをはじめとする多くのNGOからあがっていました。日本野鳥の会など、国内のNGOからもです。ニシコククジラばかりでなく、日本に渡ってくるオオワシなど稀少な野鳥への影響も懸念されていたからです。
 大体追及≠チてのは、汚職とか不祥事に対して使う用語だよね。復興予算の流用とか、調査捕鯨のくせに儲かる漁業名目で補助金を赤字穴埋に使っちゃったりするのを追及≠キるってのはわかるけどさ・・・
 この文章ではまるで、ロシア政府とグリーンピースが結託して日本企業を罠にはめ、後で仲たがいしたみたいじゃないですか・・・
 ただ、この記事を書かせたNHKの相応の立場のニンゲンは、明らかに本気で陰謀説≠信じているかに見えますね・・・
 もちろん、サハリンやバイカル周辺のパイプライン問題のときと違い、ガスプロムによる北極圏開発だけは環境への配慮を求める声を無視するロシア政府の姿勢は糾弾に値します。
 きわめて残念なのは、NHKの報道がロシア・プーチンの身贔屓に対する単なる当てつけ≠ノしかなっていないことです。
 北極圏もサハリン同様脆弱で、開発に際して慎重な配慮が必要なのであり、だからこそ<鴻Vア政府のダブスタはいただけない──そうした問題提起には程遠い解説です。
 これでは、「サハリンでもビョウドウに♀ツ境への配慮なんかしないで開発させなかったのはサベツ≠セ!」という怨恨の声にしか聞こえません。
 要するに、NHKというマスコミは、環境問題に関心を持つ市民と認識を共有する気も、環境問題への理解を視聴者に広める啓蒙の役割を担う気も端からないということ。

 一方の産経、記事を書いたのはご存知佐々木氏。ロシア支局担当、環境テロ≠ェご専門のようなので、今回の記事を書いてもらうにはうってつけ(?)だったんでしょうが、記事は200字もない短信のうえ、佐々木記者の主観では引用した一文が一連の事件で最も注目すべき点だったようで・・
 で、自ブログではタイトルに「テロ」の一語をわざわざ入れています。
 自著があるからでしょうが、つくづくテロという用語が好きですね、佐々木記者は。
 テロの定義は国によってさまざま。先日の秘密保全法案では以下のとおり。元は自衛隊法81条の2第1項。


政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為を行う活動(引用)


−(別紙)特定秘密の保護に関する法律案の概要
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000103648


 もちろん、ロシアの定義は日本のそれと異なり、それ故に「テロ行為の可能性で立件される可能性がある」(引用)と露メディア(佐々木氏ではなく・・)に述べたのでしょうね。
 日本で法律上定義されるところのテロ行為は、特定の動機による殺人・傷害・器物損壊罪に相当するもので、今回のGPのアクションのような建造物侵入ではテロとして位置づけられないということになるでしょう。たぶん。
 海外のメディアがまったく注目しない斬り口を見つけ出す佐々木記者の感性は、実にたいしたものだといつもながら感心します。もっとも、佐々木氏は、「日本とロシアでテロの定義が違う」ということを訴えるために、このセンセーショナルな見出しを付けたわけではなさそうですね・・。
 あと、GPのアークティック・サンライズ号の略称をアークティック号にするのは変ですね。縮めるならAS号とでもすればいいのに。
 そのAS号について、佐々木氏が一行だけ触れている、調査捕鯨母船日新丸との衝突事故については、国際条約上日新丸側・すなわち日本側に非がある可能性が濃厚です。
 
鯨研のサイトでは、なぜかGP船との衝突問題についてのページが英語のみ。COLREG条約の文字は一字もなし。公海上の船舶の衝突事故については、刑事手続の権限があるのは船籍国となっていますが、海難審判を開くには当事者双方の同意が必要。一応当てられた側の鯨研は訴えられるはずなんですけどねえ、自分たちが正しければ。もちろん、GP側は必ず応じたはずですよ。
 ま、そういうわけで誤魔化されてしまったわけです。詳細は以下もご参照。

−グリーンピース 捕鯨反対は「日本人差別」が根底 |そうなのかな
http://huhcanitbetrue.blogspot.jp/2008/01/blog-post_9710.html
−アークティック・サンライズ号衝突の経緯(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/34240502.html


 その下の表現は、まるでGPの活動が横断幕と写真にあると言いたげ。キャンペーンの9割は下地となる地道な調査活動です。どこのNGOであれ。まあ、SSCSなど逆予定調和系の団体では数字の比率が違ってくるでしょうけど。それよりむしろ、研究機関のはずの鯨研のほうが、写真や動画を用いた副産物ないしプロレス興行のPR活動をメインにしているように見えるんですけどね・・・
 続いて「反乱」なる事務局長の言葉、これも露メディアからの引用でしょうか? 本人が直接インタビューしたのでしょうか? 記者のくせに本っ当にいい加減な書き方だね・・・
 AFPでは、GP側の声明として、「『平和的な抗議』に対する不相応な実力行使」(引用)と紹介しています。
 「反乱」なんて物騒な台詞を本当にGP事務局長が口にしたんですか、佐々木殿? 原語ではなんと? 発言はどこで? いつ? 誰に対して? どういう質問に対する答えだったのですか?
 どこの独裁国カマリアだよ・・
 見出しに使った「立件の可能性」も、相変わらず他メディアからの引き写し。
 ところで、GPコピーライトの写真をバシバシ使ってますが、これってGPがプレスに対して提供したものじゃないの? 産経新聞なら一応OKするんだろうけど、そちらもよく見たら写真はロイターの配信だよね?
 佐々木殿、コピーライトの表記はあるけど、勤務先の新聞ではなく個人ブログで使用する旨、ちゃんとGPに伝えて了承をもらったの??
 GPのスタッフは確かにお人好しすぎるけど、これが鯨研だったら、ぜっっったい貸してないよ。。。
 最後の段落には、佐々木氏の個人的な印象≠ェ述べられています。GP側に同情的にも見えますが、産経記事では一言も触れてないよね・・
 いずれにしろ、背景についての分析にしては短すぎ。本当にジャーナリストとは思えない記事です。
 ロシア支局の新聞記者なら、「反体制派やNGOへの取り締まり」の具体的な事例、「社会の雰囲気」を具体的に伝える市民の声や感想などをきちんと取材し、まともな記事の形にすればよかったんじゃないですか?


参考リンク:
−米国海洋法条約未加盟を知らない佐々木正明
http://textream.yahoo.co.jp/message/1834578/a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa?comment=62399
−海賊取締法関連拙ツイート
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-130412
−御用新聞のトホホ記者・佐々木氏の珍解説(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/70152801.html
−元産経木村正人氏もやっぱりトホホ反反捕鯨記者(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/73531621.html

posted by カメクジラネコ at 23:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系
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