■安倍政権が総力戦で臨んだクジラ裁判の行方|木村正人 (8/26,YAHOO!ニュース)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20130826-00027574/
ICJ(国際司法裁判所)での調査捕鯨裁判の口頭弁論が幕を閉じて一月。マスコミの関連報道もしばらくありませんでしたが、ここへ来て突然「クジラ裁判ネタ」が復活。世間的にはもう旬を過ぎた話題といえますが、一ヶ月以上もかかって書いたにしては、残念ながらたいした分析もない、間違いだらけのトホホな内容でした。
木村氏が冒頭で張った思わせぶりな伏線についての解説は後回しにするとして、同記事のトホホぶりについて徹底的に解説しておきましょう。
「エース投入」と題した節の最初には、(日本政府関係筋)とするコメントが2つ出てきます。事情通なんでしょうが、「立ったようです」「日本が〜明らかです」といった台詞を見る限り、現在政府部内にいる方ではないでしょう。おそらく木村氏が自分の勘違いでこういう書き方をしてしまったのでしょうが、いくつか誤りを指摘しておきます。
周知のとおり、日本は今回ICJデビュー戦で、普通≠烽ヨったくれもありゃしません。ICJ当事国の代理人は訴訟事案、国によって大使や元閣僚など様々です。そんな中で、AUS(オーストラリア)も、途中参加のオブザーバー的立場で1日しか弁論の機会を設けられなかったNZ(ニュージーランド)も、現職の司法長官を代理人として出席させました。
一方、日本は同格に当たる谷垣法相を出席させませんでした。
木村氏は「安倍政権が総力戦で臨んだ」「本気で臨んだ」と繰り返しています。外交専門家の天木氏も指摘するとおり、TPP交渉で大忙しのはずの鶴岡氏を引っ張り出したのは、日本の外交手法・人員配置のまずさを露呈するばかりなのですが、彼がエース≠セというのは内輪の評価の話。審議官は事務方のトップ事務次官の次に偉い<|ストとなっていますが、「局長級」から「次官級」にレベルを上げてやったんだぞと、相手国やICJに対して威張れる話じゃありません。
少なくとも、この点に関しては、本気度≠世界にアピールしたのは日本ではなくAUS・NZ側だったのです。日本は係争相手国と対等の姿勢を示さなかったのです。
仮に日本政府自身が「これで本気だ」と表明したのだとすれば、AUS、NZ両国に対しては失礼な話であり、世界は日本が国際裁判に臨む姿勢に対してそのような評価を下すでしょう。ICJ判事はともかく。
「本気」「総力戦」云々の表現が、木村記者個人の両国を見下す先入観によるものかは不明です。ただ、ICJでの係争の相手が仮に中国や韓国、あるいは米国で、相手側の代理人が司法長官クラスだったとしたら、はたして日本は審議官クラスで済ませたでしょうか? あるいは、国内メディアや政治家らから「(相手に合わせて)担当をすげ替えろ」という突き上げの要求が起こったりしないでしょうか? 一端のジャーナリストなら、そこまで検証してもらいたいところですね。
政府関係筋の方のもう一つの情報は興味深いものです。過去記事で指摘したとおり、鶴岡氏は水産については門外漢で、仏語のスキルとエースの肩書きが抜擢の理由と思われますが、国連大使を務めた鶴岡氏の父とICJ判事が知己だったことも、彼が代理人に起用された理由と必ずしも無関係ではなさそうです。彼が本筋の司法論争とまったく無関係な個人的な父との思い出話を持ち出したものだから、一体どうしちゃったんだろう?と首をひねったのですが、道理でという感じです。
内容ではなく、コネに基づく印象でなんとか得点を稼ごうという話だったわけです。仏語と同様(後述)、日本はともかくパフォーマンスで勝負する気だったのですね。
鶴岡氏の発言、「異なる文化の間に優劣」云々については、捕鯨サークルの常套句をそのまま借用しただけですが、本来ドングリ食・イルカ食・アザラシ食と同等にすぎない日本のクジラ食ブンカのみを「優れた聖域」と勝手に位置づけ、地球の裏側の南極のクロミンクにまで拡張したうえ、海の自然と野生動物を守るAUSやNZ、その他の南半球諸国のかけがえのない文化を劣ったものとしてバッサリ切り捨てた≠フが日本なのです。
次の節「反捕鯨オーストラリアの論理」に進みましょう。節の見出しが内容に合ってませんけど・・
日本を含む多くのICJ加盟国は、相手国の提訴に応じる義務を受け入れている。このため、日本はオーストラリアの提訴に応じ自動的にICJの法廷で争わなければならない仕組みになっている。(引用)
「ICJ加盟国」って何ですか? ICJは国連下の機関であり、国連加盟国は自動的にICJ当事国になり得ます(国連非加盟国も一定条件下で当事国になり得る)。産経のロンドン支局長にまでなったジャーナリストのくせに、どうしてここまで日本語がいい加減なんでしょうね(--; 佐々木氏じゃないけれど・・。まあ、産経だからしょーがないのか・・・
その次の文は間違い。まず、この義務が生じるのは受諾国同士です。「同一の宣言を行った他の国をして、一方的に裁判に服させることができる」(〜ウィキペディア)です。で、日本にしろAUSにしろ無条件ではなく、応訴に当たって条件を付けています。この裁判をウォッチした人なら知っていて当然の話。何しろ、「『オーストラリアの提訴に応じ自動的にICJの法廷で争わなければならない』わけじゃないんだ」ってのが日本側の主要な論点だったのですから・・。
いやはや、たいしたパフォーマンス勝負ですね。ICJはいつから高校生のクイズ甲子園になったの?(笑)
2つの公用語のうち、仏語のほうが法廷で優位に立つ言語だなんて誰も言ってません。英語での陳述は仏語の通訳が入り、仏語の場合は英語の通訳が入ります。資料も同じ。
確かに、英語圏の方は、英語が標準語で当たり前という感覚なのに対し、フランスとその旧植民地を中心とする仏語圏の方は、仏語を英語より優先する相手に対してほんのちょっぴり好感が増す人も、あるいはいるかもしれませんけどね・・。それだけ≠フ話です。ほんっとに。
「日本は4人も仏語で陳述した」なんて、海外メディアはどこも報じてません。そんなくだらんことに興味を持って記事にするのは木村氏だけです。
まあ、日本政府は藁にもすがる思いだったんでしょうが、ペレ教授にべらぼうなギャラを支払ったことで帳消しですよ・・・
次の節「十分な準備と訴訟戦略を練った被告・日本」、神戸大柴田教授の解説について。
「通常であれば〜不利に」という表現にそもそも首を捻らざるを得ません。あらゆる裁判において、原告が被告より有利に立つのは当然という見方はあるでしょう。「十分な検討」に関していえば、ICJにおける訴訟は提訴から審理が開始されるまでに、過去記事で詳細に取り上げた受理可能性の審議など種々の手続を踏まえ、時間をかけます。2010年にAUSが提訴してから今年の審理に至るまでにも2年半以上費やしているのです。日本における民事・刑事・行政訴訟と比較して被告がより不利になる要素はありません(一審制は双方を縛る)。
一方、原告が不利になる要素もあります。提出資料は提訴国が先。口頭弁論の順番も然り。応訴国側は後出しジャンケンが可能なのです。実際、AUS側のプレゼン資料を都合よく加工したり、日本側は後攻の利を精一杯利用していましたけど・・
「現実的にJARPA2を継続できなくなる恐れはあるかもしれない」というコメント、柴田氏も木村氏もその理由にまったく触れていませんが、もちろんカネです。条約起草時に想定された本来あるべき規模の調査捕鯨しかできなくなれば、日本はバカバカしいのでやらないという話です。ジャーナリストならきちんと突っ込まないといけませんね・・
次の節「焦点のJARPA2の捕獲枠」。節全体がおよそ巧みとはいえない焦点のすり替えになっちゃってますけど・・
何度も解説してきたように、JARPAUは(南極海)生態系モニタリングのための調査に価しません。ミンククジラ特化で取得するサンプルを増やし帳尻を合わせただけ。貧弱で不完全極まりない4鯨種競合モデルを組み込もうとしたものの、そんなものは生態系モニタリングでも何でもありません。
またしても誤り。まず、初めてではありません。2007年に日新丸の火災事故(作業員1名死亡)で中止しています。この他にも、2009年に発生した船員転落事故でも中断しています。「初めて中止に追い込まれた」との表現は、まるでその年の操業が丸々できなくなったと受け取られそうですが、2010/11の中止は、サンプル数をそろえることが科学的に重要でなかったうえに、膨れ上がった鯨肉在庫を解消する必要にも迫られていたからこそ、できたこと。
ワシントン条約は「絶滅の恐れのある野生動植物を保護する」条約ではなく、国際取引を規制する条約です。野生動物・環境問題に疎い人ならではの表現。いずれにしろ、元の肩書きを使うのは小沢一郎=自民党というのと同様にナンセンス。ラポワント氏はもうだいぶ前から捕鯨サークルのオトモダチをやってる持続的利用原理主義の人。AUSのスタンスに関するラポワント氏の単なる個人的主観≠ヘ、SSCSのワトソン氏の日本に対する単なる個人的主観≠ニ同列にすぎません。
日本では00年末に約1900トンだった鯨肉の在庫量が商業捕鯨国アイスランドからの輸入本格化で一時5000トンを突破。(引用)
木村氏はいかにも元産経記者らしい珍説を披露してくれました。在庫が膨れ上がったのをアイスランドの所為にしたのは、おそらく御用記者らの中でも木村氏が初めてではないでしょうか? 何でもかんでも常に日本以外の所為にしたがるところは産経出身者ならでは。
まず、5000トンを突破した最初のピークはJARPAU増産後の2006年。アイスランドからの鯨肉輸入が17年ぶりに一部再開されたのは2008年です。当然これは無理な増産による自爆。2回目のピークは2009、2010年ですが、在庫量自体は6000トンに届く勢いに達しながら、アイスランドからの輸出量(2010)は500〜600トン(日本側の輸入統計の数字はもっと低く、当年時は税関の保冷倉庫等に眠ったままだったと思われる)。
木村氏はまったく指摘していませんが、ひとつはっきりいえるのは、減産・在庫調整に協力してくれたSSCSと異なり、輸入鯨肉が追い討ちをかける形で、もともと乏しい調査捕鯨の採算性をさらに脅かしているということ。
その次の指摘、鯨肉がドッグフードに使われていたのは単なる事実。海外のNGOの発信で、日本のメディアは産経も含め無視したはずですが。
「戦後の食糧不足の時代ならまだしも、わざわざ南極海まで出かけて行って調査捕鯨をする必要があるのか」という主張も国内で大手を振り始めた。 (引用)
まさに正論でしょうに。この辺りの記述もまた、リベラルないし親韓・親中の主張に対して危機ムードを煽る♂E翼メディアの表現を彷彿とさせます。
次の東京海洋大加藤氏のコメント、現役の鯨類学者の中では大御所で、粕谷氏などとは対照的に、年を取るにつれて一段と御用学者らしくなっていった方ですけど・・。
加藤氏は食文化・鯨肉食の歴史についてご存じない(ふりをしている)ようですね。県別消費量をメディアが記事にした折にも、水産庁が公的に認めたところですが、鯨肉食は地域の限られた食習慣にすぎませんでした。それが戦後に一気に広がったのです。「供給量が増えたのだから(他に食べるものがなかったのだから)、鯨肉を食べる人口が多くなったのは当たり前」なのですよ。そして、その後一貫して消費が減り続ける中、捕鯨会社は魚肉ソーセージなどの形で需要を維持したり、学校や自衛隊等大口の固定消費者を捕まえて凌いだのです。
あきれるのは次の一言。加藤氏は「食の多様性」を「IWC科学委員会で議論すべき」だとお考えのようですね。生物学者が国際会議の場に「食の多様性」云々を持ち出すことに何の疑問も感じないのであれば、ブンカ人類学者にでも鞍替えするのがよろしい。
非致死性の調査も可能だが、期間が100年に及ぶ内容のものもあり(引用)
具体的にどのことを指摘しているのか不明ですが、サンプルサイズに関する言及なのでしょう。非致死的調査は捕鯨ニッポン流致死的調査と異なりいままさに飛躍的な進歩を遂げているところで、今後も短縮の余地は十分あるでしょう。
一方、致死調査に関して言えば、系群判別など20年以上かかって結論を出せていないのです。100年やったところで出やしません。科学委員会で勧告されているとおり、低緯度の繁殖海域の調査など、本当にやるべき調査をやろうとしないからです。
副産物*レ当てでズルズル続けているだけで、科学的には「調査を行う意味がない」のが日本の調査捕鯨なのです。むしろ、生態系アプローチ等、いつまでも結論が出ない目標を掲げるのが捕鯨サークル側の理想。
次の節「捕鯨国ニッポンの論理」。AUSの論理とやらをAUS自身に語らせずラポワント氏に解説≠ウせた以上、公平を期すなら第三者が検証するべきなんでしょうけどね。
日本側の証人に立ったやり手国際弁護士出身のアカバン氏(ペレ氏同様とんでもないギャラを払ったんでしょうが・・)、言ってることは何のことはない、捕鯨協会のパンフレットからの引き写しです。捕鯨や日本文化の専門家でも何でもないのだから、当然ですけど。
問題はそれよりも木村記者とこのヤフー記事そのもの。
〈クジラを食す文化と伝統を持つ日本、アイスランド、ノルウェー、その他の先住民族と違い、日本に開国を迫った米国、英国、オーストラリアはかつてクジラを乱獲して照明ランプ用の鯨油だけを採取して他は廃棄した。石油生産で鯨油価格は暴落し、後者の国々は捕鯨から撤退するばかりか反捕鯨を声高に唱え始めた〉 アカバン教授の弁論は続いた。(引用)
アカバン氏はこうした事実を列挙し(引用)
おやおや……アカバン教授らしくない支離滅裂な主張だと思ったら、該当する陳述が見当たりません。
アカバン氏が証言に立ったのは、日本側の口頭弁論に割り振られた5日間のうち、6月2日の午後と7月15日の午前中の2回でした。下掲のPDFファイル、p14-38、p40以降。
http://www.icj-cij.org/docket/index.php?p1=3&p2=1&k=64&case=148&code=aj&p3=2
http://www.icj-cij.org/docket/files/148/17424.pdf
http://www.icj-cij.org/docket/files/148/17458.pdf
実際、アカバン氏も捕鯨史について鶴岡氏と同程度の内容をさらっと流したのですが、それだけです。
開国がどうしたランプがどうしたと、頭蓋骨の中で脳みそが右寄りに傾いちゃった一部の日本人しか言わないようなことは、一っ言も口にしてませんよ。
これって、木村氏が法廷でメモったんですか? ICJがアップした記録資料もチェックせずに?
ていうか、水産庁なり捕鯨協会なりがアカバン氏に渡した原稿≠直接見せてもらったの?
アカバン氏ほどの方なら、そりゃ添削してまともな文章の形で言い直しもするでしょうけどねえ・・・
さて、いかにも素朴な反反捕鯨論者らしいカビの生えた主張に対して、事実誤認を指摘しておきましょう。
「日本」「その他の先住民族」という表現自体国語的に間違っていますが、木村氏ないし原稿を用意した人物(アカバン氏ではなく)の捕鯨史認識と人種・民族観の重大な偏見があることを露呈しています。
IWCでは先住民生存捕鯨の枠が認められているのですが、他国と異なり日本の先住民族であるアイヌには日本政府自身が承認していません。伝統的なサケ漁さえごく最近まで禁止していました。そもそも彼らは歴史的に日本人(倭人)から同化を強いられ、迫害を受け続け、他の先進国で認められている少数民族の権利さえ十分に享受できていないのです。
アイヌは間違いなく立派な捕鯨文化の担い手でした。縄文時代の捕鯨・鯨肉食はアイヌのそれに近く、中国発祥説もあるはるかに時代を下った古式捕鯨とは系譜が違います。日本が認めようとしないアイヌの先住民捕鯨については、過去記事で何度も口酸っぱく説明しているとおり。
一方で、アイスランドにはクジラを食す習慣がほとんどなかったため、日本等に輸出しているわけです。
文中に「と違い」と入ってますが、冗談じゃありません。南極海での乱獲五輪で金メダルを獲ったのはノルウェー。銅メダルが日本(まだ金を狙い中・・)。「日本がアジアを侵略をした事実はない」というのと同レベルの、近代捕鯨史に対する明白な、許されざる事実誤認です。戦前の日本の捕鯨が国際協定にも参加せず、外貨獲得の鯨油目当てで鯨肉を大量に投棄していたのも史実。
捕鯨から撤退した国が反捕鯨を唱え始めた? それが何か? やりながら唱えるのはおかしな話だけど、別にいいじゃない。侵略戦争の愚を犯した国が、「二度と戦争をしません」と誓うのと同じで、実に結構なことです。過ちを繰り返せとでも?
非西洋圏のイラン出身で人権問題にも造詣が深いアカバン氏が、事実にあまりにも反することを端折ったのは、賢明だったとはいえるでしょう。
木村氏が勝手に捏造(妄想?)したのではなく、そういう原稿が用意されていたという前提での話ですけど。
日本の味方なんかしたばっかりに、こんなふうに顔に泥を塗られて、アカバン氏もさぞかしいい迷惑でしょう。
そもそもオーストラリアは近隣国との兼ね合いから南極海の排他的経済水域(EEZ)について自らICJに留保を申し立てているのに、その海域について裁判を起こせる権限があるのかと日本側は弁論を締めくくった。 (引用)
文章がメチャクチャ。ICJの仕組み、今回の裁判の文脈を木村氏が何一つ理解していない証拠ですが。
「近隣国」ってどこ? 「南極海のEEZ」ってなに?
AUSの関係者自身首を捻るよ(--;; なんつう舌足らずな。これでジャーナリストを名乗ってるんだから、ほんっっとに腹立ちます(--;;;
以前に当方で解説し、日本政府関係者も理解したうえで攻めた部分でもありますが、近隣国なんて関係ないです。これは主張し合ってる国同士を意識した話。
AUSの義務的管轄権受諾宣言には、「南極海」なんて語句は一語も入っていません。読めばわかることですが、領海、EEZ等の境界画定紛争に係る訴訟への応訴義務については保留するといっているだけです。
日本はAUSの揚げ足を取り、「JARPAUの操業海域はAUSのEEZに隣接するし、調査捕鯨は一応科学だけど境界画定紛争に関わる"exploitation"=《営利的、搾取的な資源開発》に相当するから、お前らには訴える権利はないんだぞ」と主張したのです。
文脈としては、「日本が応じる必要はない(先決的抗弁で突っぱねることができた)」とICJが判断した可能性はあるものの、過去の事例からも受諾宣言は訴える権利を縛るものではなく、また日本が応訴してしまった以上、墓穴を掘ったのは日本側だといえますし、時間稼ぎの戦術であることも見え見えでしたが。
「AUSが近隣国との兼ね合いから南極海のEEZについて留保を申し立てたので、その海域について裁判は起こせない」というロンリではありません。木村氏は国際ジャーナリストとしてはあまりにも勉強不足。
次の段落は元同僚の佐々木氏と同じですね。木村氏も日本の納税者でありながら「日本がこの訴訟のためいくら費やしたのか?」「敗訴した場合有権者の理解を得られるのか?」にはまったく関心がないようです・・
以前にも指摘しましたが、日本はメンツにこだわりさえしなければ、もっと安上がりに勝つ方法があったのですよ。
次の節「判決の行方」。佐々木氏がネタにした豪紙ダービー記者のコメント。
木村氏は「公平性を期す」などと殊勝なことを述べていますが、ここにあるダービー記者自身の意見は反捕鯨の立場と切り離された公平な情勢分析≠ノすぎず、記事自体の公平性はまったく担保されていません。
「日本鯨類研究所の財政問題」とその主因について、自分で分析できないのも情けない限り。
日本に調査捕鯨を行う権利を認めた上でIWCに差し戻す形の判決になった場合、再び出口のない議論が繰り返されるのか、商業捕鯨再開に向けて捕鯨国、反捕鯨国双方の大胆な妥協が図られるのかを予測するのは時期尚早だ。 (引用)
調査捕鯨を行う権利自体はICRW8条で認められている格好ですから、ICJはあくまで「日本のJARPAUが国際法における定義上の調査捕鯨≠ノ該当するかどうか」判断するだけです。その判断がIWCに差し戻される形にはなり得ません。
今回の判決の如何によらず、「商業捕鯨再開」という話にはなりません。まったく別のハードルがあるからです。「大胆な妥協」は既に試みられ、破棄されました。もう一度同様の妥協を図ることは不可能ではないでしょうが、お互いが再度歩み寄ることは望み薄でしょう・・。特に日本側に関していえば。
AUSが負けるか、ダービー氏らの指摘する中庸の判決がなされた場合、少なくとも母船更新まで現状維持です。もっとも、計画&゚獲数は、儲かる漁業補助金を受け取るためにKKPで設定されたラインにまで削られるでしょう。つまり、ICJの判決とは無関係に利己的な理由で調整されるということ。おそらくそれでも収益は改善されず、国が注ぎ込む税金はますます膨れ上がることになるでしょうが・・
本当に賢明な官僚なら、そんなバカげたことを望むはずないんですけどね・・・
さて、最後の節「傍聴席に陣取った韓国大使」。「日本が初の国際裁判に本気で臨んだ本当の理由」(冒頭から引用)だそうですが・・韓国政府関係者が傍聴していたからといって、そんなに騒ぐことかしらん?
一点、韓国が参考にする可能性のある日本の戦術≠ノついて、外交筋のコメントと合わせて指摘しておきましょう。あまり現実的で賢いやり方ではないと、韓国自身思ってるでしょうけど・・
韓国と中国はともに義務的管轄権受諾宣言を提出していません。日本が訴えても応訴する義務はないということです。
ではなぜ、「応じる可能性はないとは言い切れない」などと外交筋≠ェ言い始めたのでしょう?
万が一、今回の日本v.s.AUSの裁判で、ICJが「AUSに訴える権利なし」という判決を出して日本側の勝訴となった場合、韓国も同じ手を使える可能性がなくはない、ということです。
仮に日本のやり方が通用するとしたら、それこそ日本と同じように応訴したうえで、「応訴する必要のない国を訴えるおたくがおかしいんだよ。だって、そのやり方でおたくAUSに勝ったじゃない?」とやり込めることも、まったく不可能ではないでしょう。
ま、この形での日本の勝利は一番あり得ないパターンだと思いますし、韓国も「ダメだこりゃ」と思ったでしょうけどね・・
まさか、本丸≠フ判断材料にするためにAUSをダシにする考えが日本の外務関係者にあったとも思いませんけど・・
安倍政権の右傾化を指摘する声は強いが、日本はICJに提訴されれば自動的に応じる義務を受け入れている。 (引用)
実におかしな文章ですね。「自動的に応じる義務」の表現は2回目ですが、間違いです(繰り返しですけど)。「安倍政権は別に右よりじゃないんだよ」という木村氏のメッセージなのでしょうか・・。
受諾宣言を日本が提示したのは2007年、政権を民主党に渡す前。差し替える動きでもあれば、さらに要注意といえるでしょうけど・・
いずれにせよ、体制の右左とICJへの受諾宣言を結びつけるトンチンカンな主張も、木村氏が初めてでしょう。紛争処理は全部ICJに任せて、軍備は一切放棄しますというなら話は別ですが。
今回の口頭弁論、日本にとっては領土紛争を国際法廷で解決する姿勢を国際社会に示す良い機会だったとも言えそうだ。(引用)
結局、「中韓両国に対する威嚇にはなったぞ」と言いたいんでしょうかね・・
今回の調査捕鯨訴訟が、領土紛争の解決に際して参考になるとはとても思えません。日本が国際裁判で、貿易・防衛面で親密な協力関係を築いている友好国を相手に、相当えげつないやり方をする国だということは、世界にすっかりバレてしまいましたけど・・。応援団≠熕キり上がらなかったし・・・
「総力戦」「本気」「本当の理由」がこの程度だとしたら、木村記者以上に日本という国自体がトホホな国ということになってしまいます。
国際法廷を舞台に、調査捕鯨の非科学性をはじめとする事実が包み隠さず詳らかにされたとしても、国民の関心が薄く(英語の壁もあるでしょうが)、疑問を持たなければ、こういった粗雑なちょうちん記事でいくらでも誤魔化してしまえると、政府が勘違いしたとしたら、ある意味不幸だとはいえるでしょう。
霞ヶ関の皆さん。マスコミの皆さん。
市民はそれほど簡単には騙せませんよ。
参考リンク(過去記事):
−ICJ調査捕鯨訴訟で日本は負ける
http://kkneko.sblo.jp/article/70305216.html
−ICJ調査捕鯨訴訟の核心─憲法とICRW/御用新聞のトホホ記者・佐々木氏の珍解説
http://kkneko.sblo.jp/article/70152801.html
−国際クジラ裁判報道ランキング/鶴岡発言の真意
http://kkneko.sblo.jp/article/71016491.html
−ICJ調査捕鯨訴訟解説
http://kkneko.sblo.jp/article/69890851.html
現在小説を鋭意英訳中ですが、先にICJ記事の英訳を進めることにしました・・
引き続き翻訳協力者募集中m(_ _)m