2013年07月17日

国際クジラ裁判報道ランキング/鶴岡発言の真意

◇ICJ調査捕鯨訴訟報道・マスコミランキング

 国際司法裁判所(ICJ)で3週間にわたって交わされたクジラ裁判のオーストラリア(AUS)・ニュージーランド(NZ)・日本による口頭弁論が16日終了。
 参院選投票を間近に控え、原子力規制委員会の審査やいくつかニュースもあった関係か、全体的に海外メディアに比べて報道量が少なく、具体的な内容も乏しい印象を受けます。そして、いくつかのマスコミ報道は、日本政府の思惑に沿ったすり替えや世論誘導が明らかで、いわゆる大本営発表の形になっていたのは否めません。
 以下、最終弁論前後の報道に絞って、各社がどのように報じたか一つ一つチェックしていきましょう。


■捕鯨訴訟が結審、判決へ 日本、適法性を再度強調 (7/16,共同)
http://www.47news.jp/CN/201307/CN2013071601001927.html
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201307170061.html


 訴訟の最大の争点は、日本が南極海で実施している調査捕鯨が、国際捕鯨取締条約により認められた科学的研究のための捕鯨に当たるかどうか。(引用)


 淡々と伝えるニュートラルな記事。詳細版(中国新聞)ではAUS、NZ、日本の主張をコンパクトにうまくまとめています。
 引用した文も的確。ポイントは「条約により認められた」「〜のための捕鯨に当たるかどうか」という部分。
 日本の国民は「調査捕鯨は科学だ」と信じ込まされているわけですが、「そもそも調査捕鯨って何なの?」ということが問われているわけです。
 AUS・NZ側は「調査捕鯨というからには、まっとうで優れた、本当に必要な科学調査でなきゃダメだ」と主張し、それに対し日本側は「ともかく科学のつもりであれば勝手にやっていいんだ、科学性で判断しちゃダメなんだ」と主張しているわけです。


■捕鯨訴訟が結審、判決へ 日本、適法性を再度強調 (7/16,時事)
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2013071600497


 訴訟で日本が勝利すれば調査捕鯨は維持できるが、不利な判断が示された場合には判決に即した軌道修正を迫られる見込み。(引用)


 時事もわかりやすくまとめています。後述するNHKよりニュートラルでまとも。ただ、日本側弁論の最終日とはいえ、載せたコメントは鶴岡審議官のみで、AUS・NZ側の主張はこの記事では取り上げていません。

■国際司法裁、調査捕鯨裁判の口頭弁論終結 年内にも判決 (7/16,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1603L_W3A710C1FF1000/


 日本側の代表を務める鶴岡公二外務審議官(経済担当)は16日の最終弁論で「ICJが今回の捕鯨裁判を管轄する権限がないこと、もしくは豪州の請求を却下することを要請する」と述べ、日本の主張を全面的に支持するよう訴えた。(引用)


 日経は鶴岡審議官の主張のうち「管轄権」に関する部分を取り上げました。日本側が最終的な結論に持ってきたのがこれ。詳細は7/1の拙記事「ICJ調査捕鯨訴訟で日本は負ける」をご参照。
 AUS・NZは「調査捕鯨の科学性の有無・是非」を追及したわけですが、それに対して日本側は「科学性はある」と弁解しながらも、結局一番の反論は「ICJに管轄権はないから門前払いしろ」だったわけです。本来は門の外で言うべきことを、門に入ってから言っちゃったわけですが・・
 ただ、この鶴岡氏の結論のコメントは日本語表記としても変。そして、大きな問題は「却下」という用語の使い方。鶴岡氏が用いた単語はrejectですが、日本の民事裁判・行政裁判では却下と棄却の使い分けに意味があり(〜wiki)、ここで当てはめるなら前半が「却下」、後半が「棄却」。
 本来なら先決的抗弁で「却下」を求めるべきところ、日本の取った戦術≠フおかげでICJにとっては「却下」でも「棄却」でも大差なくなってしまったとはいえるのですが。日本の国際法・司法に対する認識がどれほどいい加減なものか、新聞記事でも象徴される形に・・。
 今回の訴訟の概略を掴むには、日経(の趣旨)と共同の記事を併せて読む必要があるかもしれません。


■日本、最終弁論で合法性主張 ICJの調査捕鯨裁判 (7/16,朝日)
http://www.asahi.com/international/update/0716/TKY201307160518.html
■(天下逸品)ふれあいに一番近い島 (7/16,朝日夕)
http://www.asahi.com/culture/articles/OSK201307150017.html


 日本側代理人の鶴岡公二・外務審議官はこの日の法廷で、日本の捕鯨は「科学的知識を得る目的だ」と改めて主張。豪州の訴えが、そもそもICJで扱われる問題ではないとして却下するか、豪州側の主張を退けるかのいずれかを求めた。
 その一方で、来年から国際捕鯨委員会(IWC)で南極海の調査捕鯨の見直し議論が始まることにも触れ、「必要ならば調査捕鯨の計画を修正する用意がある」と説明した。
 日本はこれまでの口頭弁論で、科学研究目的のため限定的な捕鯨を認めた「国際捕鯨取締条約」の条文をもとに、年数百頭の捕鯨の正当性を主張してきた。
 一方、豪州は「実際は肉を売るための商業捕鯨で、科学的根拠はない」と非難。日本は「鯨資源の保護のために必要で、殺さないと取れないデータもある。科学的成果も上げている」と反論した。また「科学には多様な意見があり、一つに定義できない」とし、あくまで条文に基づく司法判断をICJに求めた。
 もし日本に不利な判決が出ても、「北太平洋の捕鯨は裁判の対象外」(日本外交筋)という。ただ、内容によっては捕獲量を減らさざるを得ず、捕鯨の継続が難しくなる可能性はある。 (引用)


 NHKや毎日ほどひどくはありませんが、やや野島記者の主観で起承転結の流れを作った印象があります。
 大手新聞の記事にしては、日本語表現もやや変です。「科学的知識」→「科学的知見」、「科学的根拠はない」→「科学的正当性はない」、「科学には多様な・・」→「科学性については多様な」にすべき。「豪州の訴えが〜を求めた」の文章については、上掲日経記事の解説と同じ。「却下」の使い方は日経と違って一応合っていますが、文章はわかりにくいですね・・
 非常に問題のある記述が、上掲三段目の 「限定的な」。もし、ICRW(国際捕鯨取締条約)8条にその文言が入っていたなら、AUS・NZは文句なしで楽勝できたでしょう。きわめて残念なことに・・。
 日本が現在強行している南極海調査捕鯨(JARPAU)は「限定的でない」からこそ国際的な裁判沙汰になったのです。半世紀以上前の条約起草時には想定外だった、終わりのない年数百頭規模の調査捕鯨という明らかに限度を超える¥況に対処するためには、「きちんと限定すべきだ」というのがAUS・NZの主張です。そのためにICJに判断を仰いだのです。
 書かれていない用語を「条文」に勝手に入れてしまい、しかも同じセンテンスに「年数百頭」と入れることで調査捕鯨の規模を矮小に見せかけようとする、きわめて問題の多い記事です。ミスリードというより明白な誤りなのですが。
 もう一つ問題のある記述は「鯨資源の保護のために必要」。主語が見当たりません。そして、「鯨」と「資源」をくっつけてますね。日本側も"conservation"という単語を度々用いました。反論の余地があるとはいえ、「生態等の研究のために必要」「(間接的に)役に立つ」という趣旨の発言もありました。また、「商業捕鯨(再開)のために必要」「資源の持続的利用のために必要」ということも明言しました。しかし、「クジラを保護≠キるためには毎年数百頭殺す研究が必要不可欠」という趣旨の主張は、少なくとも筆者は聞いていませんでした。日本側は突っ込まれたくないハズ。もしあったとすれば、それこそ大問題です。
 このきわめて曖昧な表現は、「日本の調査捕鯨が、クジラという野生動物を保護するために行われているのだ」という、事実に反する重大な誤解を、朝日新聞読者に招きかねません。
 繰り返しますが、これはまったく事実に反します。毎年数百頭の捕殺を要求する大型野生動物の生態調査は、日本の調査捕鯨以外存在しません。保護を口実にしようとしまいと。調査捕鯨の必要性は、あくまで「商業捕鯨をやるという前提のもとでの鯨資源の管理」という文脈なのです。日本側の主張でさえ。「クジラを保護するため」ではありません。
 殺しておいて保護なんて、日本語として間違っているのは子供だってわかります。せめて「(資源の)保全」でしょう。
 朝日野島記者は、ジャーナリストとしては日本語が稚拙か、野生動物保護全般に無関心か、調査捕鯨を積極的に擁護すべく新聞記者としての立場を利用しているか、いずれかでしょう。たぶん、三番目ではないのでしょうけど・・。目を通したはずの編集委員の質も問われますし。
 「調査捕鯨計画の修正」に関しては、次のトピックで詳細に取り上げます。


 同日の朝日夕刊には御蔵島のイルカの記事。女性ダイバーとイルカの写真が紙面一杯に掲載され、文章も感傷的(と反反捕鯨層なら噛み付くでしょう・・)。野生動物・海洋生態系保護に関心の高い層にアピールして、紙としてバランスを取ったつもりかもしれませんが……AUSの沿岸でクジラに親しんでいる市民が見たら一体どう感じるでしょう?


 やれやれ……まだ悪質とまでは言い切れない朝日でこんなに引っ張っちゃいましたね(--;;
 続いて、ワースト3位の発表に行きましょう。「トホホ賞」読売さん。次点が産経佐々木記者(6/28の拙ブログ記事ご参照)。いまのところ産経の記事が確認できないため、後で読売を抜くかもしれませんが・・


■調査捕鯨裁判…「言い尽くした」日本、豪は自信 (7/16,読売)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130716-OYT1T01029.htm
■国際司法裁判 科学的な調査捕鯨は有益だ(7月15日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130714-OYT1T00805.htm
http://the-japan-news.com/news/article/0000382249


 残念な社説≠フほうは、天木氏のブログと拙ツイログ及び過去記事をご参照。
 '09の同社社説で示された「調査≠フために年間1000頭近い鯨を捕獲する必要があるのか、といった疑問は、日本国内にもある」との見解は、AUSにプレゼン資料として取り上げてもらいたかったくらい、価値があったんですけどね・・。

 記事については、AUSの主張に対して日本が反論するという体裁にはなっているのですが、朝日よりはマシという感じ。
 一点、これは記者の誤解によるものでしょうが、日本側の主張として「持続可能な捕獲数を調査するため」という表現を使っているのは誤り。日本の趣旨は、「持続可能な捕鯨(再開)のため」「調査捕鯨自体は持続的」。
 「持続可能な捕獲数」自体は、調査捕鯨なんてやらずとも、RMPを使えば推定個体数だけで何の問題もなく℃Z出できます。日本側は「精度を上げられる」と主張しているわけですが、精度を上げるためにもっと出来ること、必要なことが他にあり、調査捕鯨の所為で着手できていないのが実情。
 朝日記事と同様、この表現だと「調査捕鯨しなきゃ捕獲数がわからないのか・・」と読者が受け取めてしまう恐れがあります。


 続いて、ワースト2位。「大本営賞」は一応′共放送のハズのNHK


■国際捕鯨裁判が結審 年内にも判決 (7/16,NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130716/k10013077741000.html


 この判決について異議申し立てや控訴などはできず、双方とも判決に従うとしているため、オーストラリア側の主張がすべて認められるようなことになれば、日本が行ってきた南極海での調査捕鯨ができなくなるだけに、判決の行方が注目されています。(引用)


■捕鯨裁判 判決で大きな影響も (7/17,NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130717/k10013084881000.html
http://textream.yahoo.co.jp/message/1834578/a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa?comment=63155


 判決は早ければ年内にも出される見通しで、内容次第では日本の捕鯨の将来に大きな影響を及ぼすことになりそうです。
(中略)
 また、判決の行方は、捕鯨国と反捕鯨国の対立から行き詰まりを見せている、IWC=国際捕鯨委員会の議論にも影響を与えるのは必至とみられています。
 IWCのフレデリック・シュメ副議長は、NHKのインタビューに対して、「両国の法廷闘争は、捕鯨委員会の議論にマイナスの影響を与えると思う。判決次第では建設的な対話がより難しくなる」と指摘し、合意を得るための交渉が今後ますます困難になるのではないかと懸念を示しました。(引用)


 NHKの報道の内容は、一見中立公正であるかのように見えますが、「すべて認められるようなことになれば」「できなくなるだけに」といった表現は典型的な煽り。南極海での調査捕鯨が、(あたかも領土係争中の島の如く)一歩も譲れない重要な国益=A1億の日本国民にとって重大な関心事であるかのよう。天下の公共放送のニュースを見て、そういう気分にさせられてしまう視聴者が多いのも、残念ながらこの国の現実ですが・・。
 IWC副議長のインタビューについては、確かにそういう懸念もあるのですが、NHKは背景の説明を一切省略しています。
@まず、行き詰まりを打開するために、アイルランドが公海母船式捕鯨を禁止する代わりに沿岸捕鯨を認める妥協案を提示した(’97)。米国は別途日本に同様の提案を打診している。日本はこれを蹴った。
A同じく、行き詰まりを打開するために、外部専門家デソト氏を招いて双方の譲歩を目指した。(’09)
Bところがこれも日本とAUSが譲らず、行き詰まった。結果としてAUS・NZによるICJ提訴の運びとなった。
 そして、合意を得るための交渉が困難になるのは、「日本側実質勝利」というケースのみです。この影響は非常に甚大。後に説明する理由で、おそらく日本は自発的に「削減」を表明するはずですが、その後は完全に固定化しかねません。
 一方、AUS実質勝利であれば、日本側がそれに従うという誓約を守る限り、スムーズにさまざまな建設的な議論ができるようになるのは疑いの余地がありません。
 NHKの記事は、あたかも「AUSの所為で交渉が困難になる」と受け取られかねません。提訴したのは確かにAUSですが、責任が大きいのは明らかに南半球諸国の反対を押し切って調査捕鯨を強行し続けてきた当事国である日本です。


 続いて、いよいよワースト1位の発表。「偏向報道大賞・こどもまで洗脳できたで賞」毎日新聞ブリュッセル支局の斎藤義彦記者に進呈。


■質問なるほドリ:なぜオーストラリアは捕鯨に反対なの?=回答・斎藤義彦 (7/15,毎日)
http://mainichi.jp/opinion/news/m20130715ddm003070050000c.html
■調査捕鯨:日本「条約順守」…訴訟が結審 国際司法裁判所 (7/17,毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20130717k0000m030073000c.html


 豪州は「調査捕鯨はクジラを殺すのが目的」などと動物保護の世論を意識し、日本に攻撃的な議論を仕掛けたが、日本は「条約を順守している」と法律論で応じた。
 (中略)日本が16日、「管轄権」問題を前面に打ち出したのは、豪州の提訴を事実上、門前払いする効果を狙った戦略だ。
(中略)
 キャンベル豪州代表は16日、「今回の件に適用されない」と反論したが、国際法に詳しいブリュッセル自由大のフランクス教授は「理論的には却下もありうる。日本は最初から主張もできたが戦略的に後回しにしたのでは」とみる。
 (中略)
 豪州側はワロウ氏が09年に日本で叙勲されたことまで持ち出し、証人の中立性を疑う攻撃的議論を展開。
ワロウ氏が「豪州側の証人より中立だ」と反論すると法廷はどよめいた。
豪州側は同氏から否定的見解を引き出そうと詰問を約1時間続けた。
 日本側は「冷静に応じる」として調査捕鯨が合法との法律論を述べ、科学的実績も紹介。
豪州など先進国が価値観を他国に押し付ける「“倫理的十字軍”の時代は終わった」とけん制した。
(中略)
 日本捕鯨協会の分類によると判事の出身国は10カ国が反捕鯨で過半数だ。
(中略)
 日本はモラトリアム実施の際、クジラの科学的データの不足が指摘されたことから、商業捕鯨再開のため、合法的に調査捕鯨を始めたと主張している。


 ここまで悪質な記事は久しぶりに見ました。さすがにサンケイ佐々木記者も真っ青・・。
 子供・家庭をターゲットにした超えげつない振り仮名付き解説記事については拙ツイログの批判とリンク先をご参照。以下では17日の記事をチェックします。

 引用1段目、おそらく内外の捕鯨問題ウォッチャーの大多数は、AUS(特に1周目)が予想以上に控え目だったのに対し、日本は最初からエンジンフル回転という感じで超攻撃的な弁論を展開していたことに同意されるでしょう。AUSのメディアがドレフュス司法長官の談話を引いていますが、取材した海外メディアの関係者はみな、守る側の日本の「offensive」ぶりに目を丸くしたに違いありません。ICJ判事たちもまず間違いなくそう受け止めたことでしょう。
 斎藤記者の目にはAUSの主張が「動物保護の世論を意識」したものに感じられ、「攻撃的」な印象を受けたようですが、実際にはむしろ逆です。AUS国内での各種の発言・論調に比べれば、弁論は明らかに抑制されており、「動物保護派」なら不満を覚えるほど慎重な言い回しに終始していました。当然そうあるべきですけど・・。で、日本側は「言ってることがずいぶんと違うんじゃねえか?」と必死に当てこすっていたわけです。攻撃的≠ノ。
 AUS側が積極的に攻めたのは「科学性」に関する部分。「動物保護の世論を意識」という斎藤記者の指摘は、度のきついメガネ越しの主観でしかありません。環境保護でも野生動物保護でもなく「動物保護」という用語を使う辺りが恣意性を感じますね・・。
 加えて、対する日本側は「法律論で応じた」というより、「科学性」と「法律論」を度々切り替えて誤魔化す応戦スタイルを示していました。
 2、3段目では斎藤記者の無知が露呈。上掲日経記事の解説と過去記事で説明したとおり、門の中に入って「門前払い」もへったくれもありゃしません。
 奇妙なのは、外野のフランクス教授のいう「日本の戦術」について、斎藤記者が具体的な説明を一切していない点。フランクス氏もおそらく筆者と同じ見解に違いないでしょうが、これは「科学性について十分な論議をさせない時間稼ぎと論点の拡散」を狙う戦術であり、マナー違反です。筆者にいわせれば墓穴
 4段目、日本側証人ノルウェー・オスロ大ワロウ氏の証人喚問については、AUSがかなりポイントを稼いだサンプルサイズの設定など肝腎の証言の内容には一切触れず。斎藤記者のメガネは、日本側に都合の悪いところは完全にカットして見えなくなるよう加工が施されてるんでしょうねぇ・・。
 ワロウ氏は捕鯨国ノルウェーの学者、日本側の証人であって、日本とのスタンスはイコールではないものの、そもそも最初から中立でなどあり得ません。なぜ日本で叙勲されたのか、日本人を含めて関心を寄せるのは当然のことですが、斎藤記者はジャーナリストとして疑問すら感じなかった模様・・。
 これではまるで、「ワロウ氏が中立かどうか」が争点として争われたかのよう。記事としてはまさにゴミ。斎藤記者は、ただの挨拶代わりのちょっとしたジャブの応酬を、まるで訴訟の核心であったかのように報じ、あえてカモフラージュに使ったわけです。すり替えの意図があったのは明白。
 5段目、科学的実績は「ある」というだけで、具体的には紹介されていません。精子の活性とか、しょうもない研究で論文数を稼いでるのを、法廷でばらしたくはないもんね・・。調査目的に掲げられた項目の多くは、未だに不明で成果が挙がっているとは到底いえないか、脂皮厚推移のように明らかに結論が飛躍している内容の乏しい研究ばかり。そんなものは実績とは言えないと、AUSは口酸っぱく説明してきたはず。
 6段目、やはり捕鯨協会とリレーションがあるのでしょうかね。記事の中で協会の名前を出したのは唯一斎藤記者のみ。判事の出身国に強い興味を抱いたのも、サンケイと毎日斎藤記者、後は日テレくらい。
 最後、「クジラの科学的データの不足が指摘されたことから〜始めた」との記述について。まあ、始めた理由は誰の目にも明らかですが・・。データの不足については、2期にまたがるJARPAをもってしてもまだ埋め合わされてなどいません。そして、不足のままでも管理が行えるようにと「わざわざ捕鯨国側に配慮して」開発された管理方式こそがRMP(改訂管理方式)でした。
 ここは斎藤記者の作文ではなく日本側の主張を取り上げたにすぎませんが、「AUSの主張はこれですべて論破してやったぞ」というつもりで、結びに持ってきた節がうかがえます。捕鯨協会の指導を受けたのでしょうか?
 捕鯨協会に情報を聞けるくらいなら、IWCの過去の経緯についてきちんと勉強するべきでしたね。


 大変残念に思うのは、毎日新聞の姿勢です。15日の斎藤記者の解説記事はあまりにも公平性を欠く内容でした。同紙はラマレラ特集など他の記者の手による過去の一連の記事でも、強い捕鯨擁護色が見受けられましたが。
 朝日の石氏、読売の岡島氏と並ぶ大手新聞三社の環境記者として知られた元毎日編集委員の原剛氏が著した『ザ・クジラ』は、捕鯨問題のバイブルとして高い評価を受けました。が、同紙では上から圧力がかかった話も聞いています。


 最近、とある野生動物が開発によって追い詰められている問題について、他紙にはなかなか取り上げてもらえない中、同紙のある記者の方が深い理解を示してくださり、心強い詳細な論説記事を書いてくださいました。その動物は、ミンククジラのJストックと同様、地域によっては間違いなく絶滅の危機に脅かされていますが、レッドリストに指定されているわけではありません。
 記事では「本当に必要な開発なのか」を問い、「目先の豊かさより、野生動物の暮らせる豊かな自然を後世に遺すことの大切さ」を訴えていただけました。「自然と命を大切にする本物の日本の伝統」、地域に語り継がれてきた、野生動物との上手な付き合いの歴史についても取り上げてくださいました。
 記者といっても、同じ新聞社に勤めていてさえ、自然保護・野生動物保護に対する認識が天と地ほど違うこともあるのだと、改めて思い知らされます。
 そのとある野生動物と、取り巻く自然を守りたいと願っている日本人とまったく同じように、グレートバリアリーフなど南半球の海を回遊する野生動物として、ミンククジラやザトウクジラを守り続けたいと切に願っているAUSやNZの市民の皆さんがたくさんいるのです。
 自国の過ちを何一つ省みることなく、よその国の過去をあげつらう、斎藤氏のような人物が日本で新聞記者を務め、記事を配信していることに、筆者は日本人の一人として恥ずかしい思いでいっぱいになります。
 ドップリ捕鯨礼賛の価値観に侵され、業界よりの記事しか書くことのできない記者に、提灯記事を書かせる毎日新聞の姿勢は、決して容認できるものではありません。


参考リンク:
−ICJ調査捕鯨訴訟で日本は負ける (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/70305216.html
−却下|ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%B4%E4%B8%8B
−日本の調査捕鯨を正当化する社説を掲げた読売新聞 (7/15,天木直人のブログ)
http://www.amakiblog.com/archives/2013/07/15/
−筆者のツイログ (7/16a.m.2時台)
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-130716
−読売新聞にベストバランスメディア賞を(勝手に)授賞!
http://kkneko.sblo.jp/article/34727956.html
−捕鯨報道・マスメディアランキング (拙HP)
http://www.kkneko.com/media.htm



◇鶴岡発言から見えてくる日本の戦略


■日本政府代理人 鶴岡公二外務審議官による最終陳述及び最終申立て(仮訳)
国際司法裁判所(ICJ)における「南極における捕鯨」訴訟|外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page24_000038.html
http://www.mofa.go.jp/files/000007683.pdf
■日本政府代理人 鶴岡公二外務審議官による冒頭陳述
国際司法裁判所(ICJ)における「南極における捕鯨」訴訟(仮訳)|外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page4_000117.html
■日本政府代理人 鶴岡公二外務審議官による談話
国際司法裁判所(ICJ)における「南極における捕鯨」訴訟|外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000056.html


 さて、いま見たら、仮訳とはいえ外務省も日経と同じく棄却の代わりに「却下」という用語を使っちゃってますね(汗)
 最終日の弁論はパリ西部大のペレ氏と鶴岡審議官の2名のみ、予定時間より30分近く早目に幕を閉じてしまいました。結論と挨拶だけであっさり終わったという印象です。

 
 ペレ氏は8つのまとめを上げましたが、鶴岡氏が最終的に要求したのは2点。筆者が指摘した日本の主要な論点3点のうち、やはり@に主眼を置いていたことが伺えます。詳細は7/1の記事をご参照。
 一点、このときの記事について補足したいと思います。
 AUSの義務的管轄権(選択条項)受諾宣言を引き合いにしてICJに管轄権がないとする日本の主張は、NZの権利、そしてICJに解決を託そうとするすべての国連加盟国の権利を過剰に制約しかねない危うさをはらんでいます。
 ICJ規定62条及び63条に記されるとおり、ICJは裁判とその条約解釈に影響を受ける国の参加を認めています。条約そのものの審議ではなく、提訴国が要件を満たすかどうかのみを理由に、手続に参加した他の国に対しても判決による拘束を求めることは、今後のICJの運用のあり方にも重大な一石を投じることになるでしょう。
 まあ、AUS・NZ側が共同戦線を張った理由も、確かにこの部分の補強にあったんでしょうけどね。どちらが頼んだか知りませんけど。
 そういうわけで、ICJが中立公正な審議をモットーとする国際社会の良識の府≠ナあるなら、少なくとも日本側が第一に要求している「却下」はないと筆者は考えます(そうでないと困ります・・)。

 鶴岡氏がフランス語も英語もペラペラなのはさすがと思いましたが、AUS・NZ側が両国とも司法長官を代表にしてきたのに対し、ご自身が政府代理人トップの立場で出席したことに対しては、内心どう感じていらっしゃるでしょうね・・
 鶴岡氏の最終陳述の中で筆者が注目したのは一点なのですが、その前にせっかくなのでいくつか補足しておきましょう。


4.致死的調査からのデータを使用した科学論文の発表を拒否する科学雑誌をコントロールすることはできません。(引用)

 査読雑誌に不掲載となった理由は、キャンペーンのせいでも、日本の研究者が英語が下手だったからでも(本当にそうならそれはそれで問題ですが)、「真実を示す機会」がなかったからでもありません。詳細はAERA('08/4/7)『捕鯨ナショナリズム煽る農水省の罪』にあるとおり、身内の水産官僚ですら「科学性は5、6割」とのたまう程度の代物だったからですよ。ついでにいえば、一定の水準を満たさなければ調査捕鯨論文と同様に弾かれるというだけの話です。
 7.ホエールウォッチング(WW)の分科委員会の件については、AUSも謝罪した方がいいでしょう。が、IWCの場で非消費的利用について議論することに対し、当初捕鯨サークルは「なんで捕鯨委員会なのにWWなんかやるんだ!」と相当バカにしていたことも確かでしょ。
 8.ワロー教授の件は、捻じ曲げたのではなく引き出しただけ。ま、役割は完璧に果たしてくれたと思いますが。
 12.脱退はただのブラフ。そんなことより、国内の少数派と多様な価値観を尊重していただきたいもの。判事もわかってるでしょうが・・

 で、筆者が注目したのは以下。特に下線部分。

10.裁判所長,裁判所の裁判官の皆様,私達の目を将来へと向けましょう。JARPAIIは,来年,IWCの科学委員会によって見直しが行われます。日本は,これまで多くの資源と努力を費やしてきたこの計画について,真剣かつ建設的に科学的な見直しがなされる機会をとても楽しみにしています。日本としては,見直しにおける議論とその結論を十分に検討した上で,必要であれば,調査捕鯨の計画を修正する用意があります。(引用)

 合法性についても、850頭のサンプルサイズの科学性についても、あれだけ「完璧」だといわんばかりの主張をしていたのに、急にしおらしくなった印象がありますね。
 完璧だったら、見直しの必要などありません。
 さんざん正当化してきた挙句、「修正する用意がある」と突然言い出すのは、あまりに大きな矛盾です。
 科学は何も決めません。そして、科学政策は、予算の範囲で、優先順位を付けて決めるものです。
 科学は「聖域」にはなり得ません。日本だってこれまでそのような扱いなど決してしていませんでした。ただ一つの事業、南極海で強行されてきた調査捕鯨を除いて。
 この鶴岡氏の発言にはがあります。レールはとっくに引かれていました。 

−鯨類捕獲調査改革推進集中プロジェクト改革計画書
http://www.jf-net.ne.jp/fpo/gyoumu/hojyojigyo/01kozo/nintei_file/20121002_kujira.pdf


 捕獲数の削減は、IWC-SCの議論とも今回のICJ訴訟の行方とも無関係に、元から決まっていたことでした。
 JARPA2は目標生産量に基づいて設定し直されます。
 赤字にならないように。
 日本側はおそらく、この削減を「科学による修正」、「AUS等の声に配慮し、大幅に譲歩した結果」として大喧伝するでしょう。
 まさにいい子ぶりっ子です。
 無論、ICJの裁決次第で流れは変わってきます。
 可能性は少ないものの、AUS・NZ側の完勝に近い判決が出れば、母船式調査捕鯨はほぼ「ジ・エンド」でしょう。北西太平洋の裏作≠セけでは商業的に$ャ立しません。(本物の)調査捕鯨をやることは可能でも。長きに渡り背負い続けてきた理不尽な重荷を、日本はやっと降ろすことができるわけです。後1年で打ち切られる「儲かる漁業」補助金に代わるカンフル剤を探す必要もなくなり、多くの水産関係者はさぞかしホッとするでしょう。おそらく、良識ある一部の水産官僚・外務官僚も含め。
 中途半端な判決となった場合、そして同じく可能性はかなり少ないですが、日本側のほぼ完勝となった場合、当初日本側が思い描いたとおりにことが運ぶだけです。そして、AUSもNZも実効的な対抗策を失います。
 もし完勝したら、外交上日本はとてつもない得点を稼いだことになります。大金星を挙げた鶴岡氏の株も急上昇するでしょう。「AUSやNZのために必要もないのに身を削って、筋を曲げて数を減らしてやるなんて、日本ってなんて素晴らしく奥ゆかしい国なんだろう!」と当分の間自画自賛しまくりでしょうね・・。美しいのが大好きな誰かさんなんか大はしゃぎでしょう。
 赤字を解消するのが本当の理由なのに。
 最初は超攻撃的にAUSをこき下ろしていた日本が、しまいになって謙虚ぶったからといって、ICJが甘い点を付けてあげる必要はありません。

 今回の裁判は、私たちの日本にとって、水産業界にとっても、しがらみ、重い足枷から解き放たれる、実質最後のチャンスかもしれません。
 KKPの内容は、まだ昨年の段階で練られたもの。アベノミクスの為替誘導の所為で円安が一気に進み、燃油はさらに高騰しています。高級料亭で尾の身をつつきたがる庶民離れした小成金も若干増えたかもしれませんが、鯨研/共同船舶にとっては収益を悪化させる要因のほうが確実に効いているはずです。
 以前に決めた計画、目標生産量では、調査捕鯨事業は赤字体質から脱却できないでしょう。
 さらに、補助金で出来たのは一時的に寿命を延ばすための小幅改造だけです。
 先の見通しなど何もないのです。
 永田町の族議員のルサンチマンのために、あまりに不合理な、非常識な、地球の裏側での公共事業(プロレス)をこれ以上続けることは、納税者、しわ寄せを食う漁業者にとって、何一つためになりません。
 調査の名を借りた公海母船式捕鯨には、ここらで花道を用意して、おいとましていただきましょう。それが唯一の、合理的で、常識的な道です。AUSやNZではなく、日本にとっての。

参考リンク:
−国際司法裁判所規定|国際連合広報センター
http://www.unic.or.jp/information/international_court_of_justice/
−Written Observations of New Zealand | ICJ
http://www.icj-cij.org/docket/files/148/17256.pdf

posted by カメクジラネコ at 20:37| Comment(0) | TrackBack(1) | 社会科学系
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鯨肉の消費減少≒南極海「調査捕鯨」の存続の危機、と言いたいんだろうけど(Mar 28, 2014)
Excerpt: 今回は、ムスリムの人達を対象に行われた鯨肉の試食会と、南極海「調査捕鯨」に関する裁判に関するネタ。
Weblog: flagburner\'s blog(仮)
Tracked: 2014-03-28 21:35