2013年06月23日

ICJ調査捕鯨訴訟解説/キツネとクジラ

◇クジラ国際裁判、捕鯨ニッポンの強気は慢心? 勘違い?

■調査捕鯨:国際司法裁で26日から口頭弁論…南極海対象 (6/23,毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20130623k0000e030130000c.html
■日本、調査捕鯨の正当性主張へ 国際司法裁で手続き (6/18,河北新報)
http://www.kahoku.co.jp/news/2013/06/2013061801001987.htm
■日豪、調査捕鯨で裁判へ…国際司法裁 (6/14,読売)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130614-OYT1T01552.htm


■【在オランダ日本大使館】イルカ漁などに伴うデモの喚起 (6/19,オランダニュース)
http://www.portfolio.nl/article/show/5324


■TPP首席交渉官、鶴岡外務審議官を軸に調整 (3/20,産経)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130320/plc13032016050009-n1.htm
■鶴岡公二|Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B6%B4%E5%B2%A1%E5%85%AC%E4%BA%8C


 南極海での調査捕鯨をめぐり、オーストラリア政府が国際司法裁判所(ICJ)に日本政府を訴えた国際クジラ裁判。いよいよ今月26日に審理が開始されることになり、何紙か報道もされています。
 調査捕鯨の実態≠ヘ9割9分商業捕鯨(詳細は記事下掲のリンク資料@他をご参照)。
 しかし、法律は原則として1本の線を引き、白か黒かをはっきりさせるもの。
 国際法のもとで、日本の調査捕鯨が9割9分贋物である以上、明確に「科学調査ではない」と断じるか、1分の理をもって「科学調査」と言い切ってしまうか──そこがこの裁判の注目ポイント。
 主張の要点は以下。


 豪州:
   A.殺さなくても調査はできる
   B.殺す数が多い
   C.鯨肉を売っている


 日本:
   A.殺さなくては難しい
   B.必要な数だ
   C.売っていいことになっている


 Aには二つのポイントがあります。
 まず、現行の改訂版管理方式(RMP)は、目視調査のみで捕獲枠を算出できるモデルを採用しており、捕殺調査はそもそも必要がありません。日本の調査捕鯨がやっているのは、あくまでオマケの調査(詳細は参考リンクC及びH)。しかも、捕殺調査に著しく偏った形でリソースが注ぎ込まれることで、繁殖海域の特定や、過去のバイアスの検証など、優先順位の高い作業がなおざりにされているのです。
 もう一点、いま野生動物の捕殺調査は日進月歩の発展を遂げています。殺さないのが当たり前の時代(詳細は参考リンクD)。水産資源学の分野における調査でさえ、以下のように「生態を乱さない」利点から、致死的調査から非致死的調査への切り替えを推進しようという動きがあるわけです。日本で、魚で、ですよ?
 長年にわたって要請され、提案されていながら、切り替えの努力を拒み続けてきた日本の水産庁・鯨研が、怠慢の謗りを免れないことだけははっきりしています。


−全自動ロボット、海底の魚を撮影 東大などのチーム (6/19,朝日)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201306190748.html


 上掲トップの毎日記事では「捕獲しないと正確な調査は難しく」とありますね。「捕獲しないとできない」ということがもはやできなくなっているわけです。
 ──できなくはないけど、難しいから殺し続けます──
 脆弱な南極圏の大型野生動物の調査に際して、そんな主張が罷り通る時代だと思っているのでしょうか?
 実際には、「難しい」という主張さえ誤謬があります。捕殺調査は、長期観察で得られる膨大な知識の宝庫を≠ずかなスナップショットのために破壊してしまう手荒でずさんな手法。例えば、その場限りの情報でしかない胃内容物調査は、バイオプシーによる脂肪酸解析より不正確。調査捕鯨では、銛によって胎児の組織などが破壊され、重要な情報が得られないことも。


 Bの数の問題については、日本側が致命的なボロを出しました。


−鯨類捕獲調査改革推進集中プロジェクト改革計画書
http://www.jf-net.ne.jp/fpo/gyoumu/hojyojigyo/01kozo/nintei_file/20121002_kujira.pdf


 23ページにご注目。「儲かる漁業」補助金を受けるにあたって、副産物の採算性をもとに生産量の目標が設定されたわけです。歩留まりを1頭当り4トンとすれば600頭ですか・・。この数字はJARPAU(南極海調査捕鯨)・JARPNU(北西太平洋調査捕鯨)を併せた年間の生産量ということになるのでしょうけれど。
 JARPAのTからUへの大増産も、売れない鯨肉が冷凍倉庫に直行して赤字を増やしただけで、科学的成果が倍増したとは到底いえません。千頭近い計画目標は、RMPで試算された日本の操業海域2海区における商業捕鯨捕獲枠に匹敵します。ランダムサンプリングで未成熟個体が多いことから鯨肉生産量はやや低くなりますが。
 ほとんど同じ数を獲って、商業利用に備えた事前の予備調査だなどという言い訳が通用するはずがありません。
 もともと、国際捕鯨取締条約(ICRW)の起草時に念頭に置かれていた調査捕鯨は、単発で数頭というレベルでした(詳細は参考リンクB)。日本の調査捕鯨は、まさに想定外の脱法行為なのです。


 CのICRW8条の問題については、同じくリンクB、E、Fをご参照。

 ま、赤字穴埋を優先して、「儲かる漁業」だと臆面もなく白状した時点で、副産物ではなく主産物だったことはバレバレです。

 上掲4番目のリンクに、ICJのあるオランダ・ハーグでのデモへの日本大使館による邦人向けの注意喚起があります。トルコやブラジルと異なり、オランダ市民が暴徒と化すことも、あるいは日本の大久保のように、日本人に対して「殺せ!」と罵声が浴びせられることもないはずですけどね・・・


 さて、ICJに向けた日本側の取り組みについて、お馴染み捕鯨業界の御用新聞サンケイさんが3月に報じた記事の内容を見て、筆者は首を捻りました。
 このICJ調査捕鯨訴訟を担当する鶴岡外務審議官が、TPPの首席交渉官やサミットの首相付シェルパ(首脳会談等をセットする事務方トップ)にも抜擢された豪腕と称される方だったからです。まさに局長級の大べテラン、事務次官になる日も近そうですね。「複雑な利害関係を豪腕でまとめるタフ・ネゴシエーター」という産経記事の表現は、Mr.捕鯨問題担当の元水産官僚で現政策研究大学院大学教授の小松氏を思わせます。小松氏には大変失礼ながら、渉外能力では氏や森下氏の上ということでしょう。
 もっとも、赴任先はインドネシア以北でほぼ北半球(Wikipedia)。TPPと同じく過去にもウルグアイラウンドの首席交渉官を務めたほか、国連代表代理や条約局長を歴任しているところを見ると、貿易・経済と国際法には強そうですが、捕鯨・水産分野は畑違いに見えます。
 国際法廷に日本がわざわざトップクラスの人材を送り込むのは、一体どういう了見なのでしょうか?
 というのも、TPPでの対米交渉(トレードオフ)とICJでの対豪対決は、性格をまったく異にしているからです。

 TPPは文字どおり政治の綱引き。族議員の票田と、同じく一連托生の財界、そして防衛面における最重要パートナー、まっこうから利害の対立する三者(あるいは二者)に対するパフォーマンスが求められる場。相容れない利害を調整するというより、体面と実利をイコールであるかに見せかけるテクニックが要求されるといったほうがいいのでしょうが・・。
 そう、ジャイアン(米国)に媚びるスネオ(日本)の台詞の台本を書いてきたのは外務官僚であり、米国とのパイプを押えることで民主党の脱官僚政治主導を粉砕したのもこの人たち。日本の中で誰よりも米国の利益を最優先で慮る彼らが、米国をねじ伏せる豪腕≠発揮するはずもありますまい。TPPの帰趨については、誰もが予想がついているはずです。
 米国にベッタリおもねりつつ、国内向けには善戦≠オたかに思わせる手腕こそが、ここでいう豪腕≠ノなるのでしょう。
 確かに、オーストラリアも、日本にとって経済・防衛両面で重要なパートナーであり、米国の次に大切なトモダチのハズ。しかし、ことこの問題に関しては、文字どおり対決であり、交渉の二字が出る幕はありません。残念ながら、その段階はすでに過ぎ去ってしまったのです。
 実際には、国際捕鯨委員会(IWC)の場で、米国と外部専門家のデソト氏を仲介役に現実的な落としどころを探る交渉は進められていたのです。しかし、日本側はその時点で調整能力の高い人材を充てることをせず、終始内向きで歩み寄りの姿勢を欠いていたため、折り合いをつけることができなかったのです。
 国際法廷で、豪腕の利害調整役が一体どのように腕を振るう余地があるのでしょう? 「本当は殺さなきゃならない南のザトウを、わざわざ殺さないでやるっつってんのに、豪がごねてやがるんだ」なんて口にしようものなら、判事の心象を悪くすることは請け合いでしょうに。


 ここで、「敗訴すれば南極海での調査捕鯨ができなくなる」という毎日記事の記述について捕捉しておきます。確かに、判決は当事国を法的に拘束するのですが、「判決を遵守させる機関」が存在しないため、現実には必ずしも判決通りになるとは限りません。
 代表例がニカラグア事件。いかにも米国らしい反応といえますが・・。核実験事件のフランスもICJの仮保全措置には耳を貸しませんでした。このとき、大気圏内核実験を中止するよう訴えたのは、今回日本の調査捕鯨を提訴したのと同じオーストラリアとニュージーランド。被爆国日本ではなく(詳細は参考リンクJをご参照)。
 ICJの事例や限界については、朝日GLOBE特集3ページ目をご参照(参考リンクI)。
 そういうわけで、仮にICJで南極海調査捕鯨中止命令が出たとしても(一審のみなので控訴審はなし)、日本が頑として従わないことも一応可能です。
 ただし、その場合は、日本は「南極のクジラを屠るために国際法規を無視するとんでもない国」だと、汚名を着せられることになるでしょう。そしてまた、南極の野生動物を殺し続けることが、日本にとって譲れない核心的利益であると、世界に対して声を大にアピールすることをも意味します。あたかも、1970年代当時の米国の反共政策やフランスの核政策のように。いまでいえば、中国の一党独裁やイスラエルのシオニズムのように。
 世界中の市民は、そこに戦前の拡張主義の亡霊の復活を見て取ることでしょう。

「判決は争った政府だけでなく、両国の一般の人たちも納得させ、法律の専門家の検証にも堪えられなければいけませんから」(ICJ所長ぺテル・トムカ氏〜参考リンクI)


 上掲のように、ICJという国際機関の性格を考えるなら、結論の範囲は自ずから限られてくるでしょう。ICJは、秩序を乱し対立を煽るために存在する機関ではないからです。
 豪側の詰めの甘さと、ICJの律儀さが、筆者にとっては不安要素です。
 仮に、ミナミマグロ事件のケースのように、白黒の結論を出したうえで、日本側に自制と譲歩を求める勧告を付け足した場合、日本政府・マスコミは国民向けに諌言部分を注意深く取り除き、誇らかに勝利宣言をして終わってしまうことになりかねません。
 逆の場合は、上記のように日本が暴発するリスクが伴います。


 日本の外交を司る専門家集団が、ICJの位置づけ、国際社会の動向を読むこともできず、大切なパートナー相手に「打ち負かしてやる」と息巻くばかりだとすれば、それはあまりにも情けないことです。
 外交政策の意思決定のプロセスが見えない(というよりあまりにも愚かなことを考えているように見える)程度が、戦前の状況を彷彿とさせるのが、何より恐ろしく感じるのです。

 ICJにはぜひ、可能な限り調査捕鯨の本質を明らかにする答えを提示して欲しいと願ってやみません。
 しかし、真の解決は、日本が自ら矛を収め、南半球の自然にまで強欲に食指を伸ばすのをやめることによってしか得られないのです。
 日米、日中の「win-win」もそもそもご都合的な見せかけですが、日豪の捕鯨法廷闘争に「win-win」はありません。
 勝ちも負けも要りません。
 南極の自然が平和を取り戻し、ニンゲンが自然に対する節度を取り戻す──それが求める答えであるべきではないでしょうか?


参考リンク:
@調査捕鯨の科学性を解体する
http://togetter.com/li/486896
Aミナミマグロ事件関連(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/34240502.html
B実態に見合わない国際捕鯨取締条約は改正すべき(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/25798112.html
C調査捕鯨は不必要or商業捕鯨は不可能(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/54058582.html
DペンギンバイオロギングVS調査捕鯨(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/46531519.html
E調査捕鯨の正体は「儲かってないけど儲けたい商業捕鯨」だった(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/58981151.html
F完全商業捕鯨化に向けKKP発進(拙HP)
http://kkneko.sblo.jp/article/60376356.html
G無価値に等しい調査捕鯨の科学性(拙HP)
http://www.kkneko.com/paper.htm
H調査捕鯨自体が否定した3つのトンデモ論(拙HP)
http://www.kkneko.com/jarpa.htm
I国際司法裁判所特集 (3/17,朝日GLOBE)
http://globe.asahi.com/feature/article/2013031400006.html?page=3
J紛争の平和的解決
http://itl.irkb.jp/il/gPecefulSolution.html



◇キツネとクジラ


■奇跡の原っぱ「そうふけっぱら」の豊かな自然を守ろう!|亀成川を愛する会
http://www.kamenari-love.com/
http://blog.livedoor.jp/kamenarigawa/

■「そうふけっぱらのキツネを守れ!」全国的にも重要な草地の保全を訴える緊急シンポを開催しました。|日本自然保護協会
http://www.nacsj.or.jp/diary2/2013/02/post-320.html
■全国的にも貴重な「そうふけっぱら」が危機に! 工事の中断と保全を求める要望書を提出しました。|日本自然保護協会
http://www.nacsj.or.jp/katsudo/shimousa/2013/03/post-8.html
■キツネが暮らす千葉の草原を残すため、署名活動にご協力ください!【全国・署名・〜2013.6.30】|BD10.jp
http://www.bd10.jp/2013/05/02/news/


■<奇跡の原っぱ>絶滅危惧種のホンドギツネが生息 (6/20,毎日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130620-00000022-mai-soci
■千葉ニュータウン:「奇跡の原っぱ」消滅危機 キツネ/トンボ…絶滅危惧27種 40年ぶり宅地造成で (6/16,毎日)
http://mainichi.jp/feature/news/20130616ddm041040047000c.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130616-00000006-mai-soci
■千葉ニュータウン:市民ら署名集め開始 造成工事本格化で希少生物危機、URに工事中断など求め (3/31,毎日千葉版)
http://mainichi.jp/area/chiba/news/20130331ddlk12040147000c.html


■都心部まで一時間なのに、すぐそばに里山がある贅沢な空間|UR都市機構
http://www.ur-net.go.jp/chiba-nt-tomonokai/machi/makinohara/town/art_01.html
■経営改善計画の進捗状況|UR都市機構
http://www.ur-net.go.jp/ir/info_torikumi.html
■「31日放送予定」「問題が多過ぎてシリーズ化しないと無理」…TBS噂の東京マガジンで千葉ニュータウンの開発失敗|白井市速報
http://blog.livedoor.jp/shiroish/archives/24880854.html


■ごんの気持ち、伝わった 南吉オリジナル版テキスト作成 (6/18,朝日)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201306180501.html


 北はいちゃもんのつけようのない絶滅危惧種のゼニガタアザラシから、北限の下北のニホンザル、同じく北限の辺野古のジュゴン、全国のシカやクマたちまで、「殺せ」の大合唱が聞こえる殺伐とした国、捕鯨ニッポン。先進国の中でも、日本ほど野生動物が住処を奪われ、狩り立てられ、限界以上に追い詰められている国はないでしょう。

 ゼニガタアザラシの昨年度の漁業被害は4500万円とのことですが、台風一つでも百億単位の被害が出ます。
 一方、解説記事が載った翌22日の朝日、「日豪EPA先送り」と同じ紙面に「エサ代支援100億円」の見出しが。
 損失額を単純に比較するなら、自分たちが生きるための行いしかしない野生動物以上の実害を一次産業に与える敵は、枚挙に暇がないはずです。
 台風や、米国や、政財界のような、かないっこない強者が相手のときは泣き寝入りし、補助金にすがっても、相対的には微微たる被害でしかない野生動物という弱者が相手のときは、長期的な実効性を見極めることもなく「まず殺せ」では、万物の霊長の名が泣きませんか?


 昔の日本人は決してこうではなかったはずなのです。


 ここで、最後の朝日記事のリンクをご一読。
 文学作品の受け止め方は人それぞれでいいのですが、筆者がこどもの頃『ごんぎつね』を読んだときの感想は、教科書版・自筆原稿版それぞれの模範解答のいずれでもありませんでした。
 野生動物に対して、「いたずら」「贖罪」の部分だけ妙に擬人化されすぎている一方、こどものいたずらに死をもって報いるやり方は明らかにヒトのそれではない、つまり擬人化とはいえないことに、大きな矛盾を感じたのです。せいぜい判断能力のない未成年者の業務上過失致死、母の病死に対するトータルの責任は兵十の方が重いはず。。
 相手が野生動物という弱者であれば、逆のパターンならまだ頷けるのですけどね・・
 もちろん、作者の新美南吉が悪いわけではなく(黒井健氏作画の絵本の雰囲気は大好き)、それは私たちの社会における動物と(動物の一種にすぎない)ニンゲンの一方的すぎる関係に対する素朴な疑問だったのですが・・
 昭和を代表する童話作家新美南吉の作品には、それでも、ヒトと(ヒト以外の)動物との距離の近さが表れています。それは賢治の作品についても然り。
 それらのベースにあったのは、「目線の低さ」を特徴とする、日本人の旧き良き動物観でした。


 さて、日本の民話で主役級の登場獣物に抜擢されることの多いキツネ。
 筆者は正直、クジラよりネコ目の動物のほうが好みのタイプ。キツネももちろん例外に漏れず。
 食用としての捕獲もゼロではなかったようですが、狸以上に食べた話は聞きません。キツネにとっては幸いなことだったでしょうが。稲荷神信仰が各地に伝わることもあり、大切にしてきた動物だったのでしょう。移入動物であるネコとともに、農作物を荒らすネズミを捕食する益獣としての位置づけも関係していたのかもしれません。
 キツネの民話は全国に数多いのですが、それらの物語に登場するキツネはどれも本当にユニークで、世界中の人々に胸を張って堂々と語り聞かせてあげたいものばかりです。
 ただし・・・当のキツネから生息地を奪い、どんどん追い詰めているようでは話になりません。

 タヌキは新宿御苑の辺りに出没するとTVで何回か取り上げられたりもしましたが、キツネは食性と行動圏の違いから、類縁の近いタヌキに比べ現代の都市環境には馴染みにくいようです。

 そんな中、千葉ニュータウン内でとても美しいキツネの姿が撮影されました(毎日記事写真)。
 食害問題の根っこにあるのは、種の多様性の喪失、自然の貧困化です。自然が不安定になったから。いわば自然のしっぺ返し。可能な限り多くの種が生きられる自然を残すことが、ヒトと野生動物との調和を取り戻すことにつながるはず。
 多様性を最もバランスの取れた状態に保つ里山については、最近比較的クローズアップされるようになりましたが、同様の機能を持つ生態系ながら、日本ではほぼ消滅しつつある半自然が草原。
 千葉ニュータウンの開発が当初の計画どおりに進まなかったため、偶然残された形といえますが、それだけに「奇跡の原っぱ」といえるでしょう。

 せっかく残った奇跡が、いま無残にも根こそぎにされようとしています。
 千葉ニュータウンは独立行政法人のUR都市再生機構(旧宅地開発公団→住宅都市整備公団)と千葉県企業庁の共同事業。半世紀前に策定された計画の期限がまもなく切れるということで、駆け込みの開発が急ピッチで進められ、亀成川の水源の森にも伐採の手が及んでいます。
 会計検査院に未利用地を処分しろとURが指摘されたようですが、土地は県の所有。アベノミクスで民間の金利・住宅ローンは逆に上がり、マイホームを考えていた人が慌てている中、これから造成してマンションを建て、売りに出すころには、住宅需要は最悪のどん底になってたりしませんか?
 会計検査院は、長期的な財政収支を検証しないでいいのですか? それで果たして改善≠ノなるのでしょうか?
 URはその経営改善計画の中でも「不採算事業の見直し」を謳っています。開発の再開にあたって採算性をチェックしたのでしょうか? 少なくとも、十分な検証をするまでは一時中止するべきではありませんか?
 このままでは不良資産がますます増え、その一部は千葉県民が負担を余儀なくされるのではありませんか? 県有地にすることで、URの損失を実際いままで被ってきたわけだよね・・
 『平成狸合戦ぽんぽこ』の舞台のモデルとなった多摩ニュータウンと同様、千葉NTも初期入居区は街自体の老朽化が進行しています。『東京マガジン』で取り上げられた暫定商業施設問題、訴訟になっている住民の足・北総鉄道の高運賃問題、印西市の放射性廃棄物中間処理施設設置問題、羽田対抗と千葉市のクレームでルートと時間帯が変更されたことによる成田発着便の騒音問題etc.etc. 千葉NTはそうしたさまざまな問題を抱えています。県とURは、住みよい街づくりが道半ばのまま、既存の住民のアメニティを置き去りにしたまま、他の郊外マンション地域と客の奪い合いに奔走するのでしょうか?
 それはURの名に入っている都市再生からはかけ離れた事業なのではありませんか?


 上掲リンクにあるとおり、URは自身のサイトで「都心部まで一時間なのに、すぐそばに里山がある贅沢な空間」と謳っています。しかし、里山以上に固有の自然をより強調できるそうふけっぱらの自然を潰して、「贅沢な空間」を売りにすることはできません。
 ちなみに、URに担がれてしまったナチュラリストのケビン・ショート氏も、亀成川を愛する会にはガイド役として自然観察会に度々参加しています。


 昔の計画を見直さず、貴重な自然の価値に配慮しないやり方は、ある意味ダム開発を思わせます。川野辺ダムのケースでは、熊本県知事が行政の庁として英断を下しました。
 元知事の沼田武氏は、弟の沼田眞氏が今回の運動を担っている日本自然保護協会の会長を務めていたこともあり、ゴルフ場農薬禁止等の条例を打ち出しました。同じく元知事の堂本暁子氏は国会議員時代から環境派として知られ、三番瀬の埋立計画を白紙に戻しました。
 現職の森田健作知事の環境政策、誰かパッと思いつく県民の方いますか? 不法投棄問題でも千葉の悪名は高いままだし・・。
 投票率がジリ貧の県知事選挙、次に新顔が出てきたらヤバイことになりませんか? 三選をもし目指すなら、ここらでイメージアップをはかりませんか? 県内外の市民の注目が集まっている「奇跡の原っぱ」を残すという英断を下してくれれば、県民の好感度も一気に増すこと間違いなしですよ?
 「そうふけっぱらのきつね」という民話の中には、菓子屋さんが登場します。県企業庁で、きつねブランドのお菓子でも売り出しませんか? 原作に従えば和菓子だけど、焼き菓子のフィナンシェなんかもきつねのイメージにピッタリですよ。そうふけっぱらを残すことでブランド価値を高めれば、事業としてはとても無難だと思いませんか? マンションみたいな大博打と違って・・。
 こんな時代なのですから、事業の多角化もありでしょう。「自然と調和する住宅都市の再生」は、URの事業として決して不釣合いなものではないはずです。
 森田知事、ぜひ英断を!


参考リンク:
−そうふけっぱらのきつね
http://www.inbaryu.sakuraweb.com/
−ハクビシンとクジラ(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/36133867.html
−害獣ゼニガタアザラシ、でも「希少」 (6/21,朝日)
http://digital.asahi.com/articles/TKY201306200641.html
−家畜エサ代支援100億円 円安で高騰 農水省、緊急対策 (6/22,朝日)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201306210592.html
−台風とクジラ(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/32901480.html
−筆者を見舞ったワンコ事件(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/31241524.html
−動物観・自然観をよその国々と比べてみると・・(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/14521088.html
−東洋VS西洋?(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/15855631.html

posted by カメクジラネコ at 18:35| Comment(0) | TrackBack(1) | 社会科学系
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日本政府が国際司法裁判所の判決を無視したら笑えないんだけど(Jun 27, 2013)
Excerpt: 昨日、日本政府が行ってる南極海「調査捕鯨」について、オーストラリア政府が差し止めを求めてる裁判の第1回目口頭弁論が国際司法裁判所(ICJ)で行われた。
Weblog: flagburner\'s blog(仮)
Tracked: 2013-06-27 21:27