2013年06月08日

橋下発言に見る反反捕鯨的発想/調査捕鯨と下関利権

◇橋下発言が示す反反捕鯨思想の底流

■慰安婦発言「説明不足だった」=橋下氏、街頭演説で釈明−東京・渋谷(6/6,時事)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013060600823


 慰安婦問題をめぐって物議を醸した大阪市長/日本維新の会共同代表・橋下氏の一連の発言。欧米、韓国、沖縄の反応を読めない時点で、政治家としての資質が強く疑われます。しかし、それは彼が内側しか向いていない$ュ治家であり、日本ではいくら国際感覚が欠如していようと人気政治家としてやっていけるということも意味するのでしょう。
 ネット市民・識者の多くが「宣伝効果」について注意を促したとおり、筆者も観測装置付の巨大アドバルーンという印象を強く覚えました。結果として自民党を大きく利したのを見ても、誰か氏を唆してその気にさせた"回し者"が周辺にいたのではないかと勘繰ってしまいます。
 軍国主義に縛られた戦前の日本は「国家体制のひとつ」にすぎず、慰安婦問題は「国家が引き起こす戦争が招いた人権侵害の事例」にすぎません。韓国であれ米国であれ(内のはずの)沖縄であれ、世界の市民は誰も、慰安婦問題をニッポン/ニホンジン≠フ異質性・特殊性に結び付けようとしているわけではありません。
 慰安婦制度に関する政府の公式記録の有無に拘泥するのは、残りの拉致被害者が存在しないという北朝鮮の言い分をそのまま受け入れるのと何一つ変わりありません。特定失踪者は状況証拠のみ。強制連行された韓国の被害女性の証言と同じ。北朝鮮による拉致は人権問題だが、日本の慰安婦は人権問題じゃない──そんな主張が国際社会に通用すると思っているのでしょうか?
 国連の委員会が問題発言を注視し、日本政府に苦言を呈するのも無理からぬことでしょう。
 それにしても、橋下氏は「自分がどう見られているか」を常に、強烈に意識するタイプなのですね。「誤解」をめぐる弁明はあまりに痛々しいものでした。
 まあ、橋下氏個人が風俗を必要とするかなんて、誰も興味ないことですが……じゃあ、彼自身が銃弾雨あられの状況に置かれたなら、性的エネルギー(?)の発散を必要としたのでしょうか? その欲求不満を解消する方法は、慰安婦制度以外になかった≠フでしょうか? だから、「当時は必要だった」??
 で、今は必要ない? だったら、なんで米軍にわざわざ風俗利用を勧めたの??
 結局、感性・感覚がもう、元防衛局長の「犯す前に言うか」や、暴行事件後の米軍司令官の「買えばよかったのに」と変わらないんですよね・・
 そして、彼を援護する石原氏の発言からは、国家と自己のアイデンティティを同化する意識が顕著にうかがえます。彼らの主張にシンパシーを覚える右翼層も、きっと同様の思考回路の持ち主なのでしょう。
 「僕は違う」「僕だけじゃない」──「僕がかわいい」「僕がかわいそう」──そこが彼らの出発点なのですね・・・


 ところで、「お前らもやっていたじゃないか」という主張、どこかで聞いた気がしませんか?

   橋下氏の主張する米軍等の現地女性の利用 ─ 戦前の日本軍による慰安婦強制連行
   帆船捕鯨等欧米の過去の捕鯨産業の乱獲 ─ 
戦前〜戦後の日本の大手捕鯨会社による南氷洋での乱獲と規制逃れ

 まさにそっくりですね。では、答えは「ビョウドウに正当化しろ」なのでしょうか? 風俗のススメ発言も、《女性という資源の有効活用》につながるのかもしれませんが・・
 この共通の構図はさらに敷衍することができるでしょう。


   A.日本国憲法 / 旧日本軍 / 自衛隊
   B.国際捕鯨取締条約−モラトリアム決議 / 商業捕鯨 / 調査捕鯨


   A.平和運動・反基地運動〜戦争への反省 / 過去の内外の軍国主義 / 自衛隊国防軍化の動きと侵略戦争・慰安婦等の正当化
   B.自然保護・動物愛護運動〜自然破壊・絶滅への反省 / 過去の内外の捕鯨産業による乱獲 / 調査捕鯨への多額の国費投入と動物福祉否定


 憲法で放棄を明確に謳い、持てないはずの「戦力」を、日本はさまざまな屁理屈を付けて持ってしまっています。そして今、この際憲法の方を都合よく変えちゃおうと言っているわけです。侵略の歴史をすっかり忘れて
 それは、国際捕鯨委員会の決議により現在禁止されている商業捕鯨に代わり、科学調査の名目で実質商業捕鯨と変わることなく鯨肉を市場に流している調査捕鯨と、そのまま重なります。国防軍化に相当するのが、商業捕鯨再開の主張にあたるわけですが。とくに、自国の捕鯨産業も重大な責任を負っている乱獲の歴史を戒める姿勢が欠片も見られなくなったところは、本当にそっくりですけどね。
 対外的な関係としては、米国/米軍に対するIWC・米国(捕鯨のほうが日本の好き勝手にやってますけど)、拡張主義の犠牲になった中韓等アジアに当たるのがオーストラリアを始めとする南半球諸国ということになるでしょうか。
 もっとも、まだ縛りのある自衛隊と国防軍の差に比べると、調査捕鯨は実体からして「ほぼ商業捕鯨」ですけど・・


 橋下氏に対しては、「こんな人だったのか・・」と愛想をつかされた方も多いはず。筆者はむしろ彼らしいやと思ったけど・・
 八尾空港の話も、むしろ普天間の危険性を軽視しているだけで、沖縄の負担軽減になってませんし。この辺も、弱者にだけコウヘイに負担を強いる「まず犠牲ありき」という発想が、いかにも反反捕鯨的なのですが・・
 橋下氏の捕鯨論は聞いてませんが(同じ維新の会所属議員の中田宏元横浜市長は捕鯨推進派で知られてますけど)、慰安婦問題と同じ論の立て方をするなら、たぶん聞くまでもないでしょうね・・
 それより、彼の慰安婦論に首を捻った方は、クジラ/反反捕鯨思想についても、ぜひもう一度じっくり考え直してみてください。


参考リンク:
−やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−
http://www.kkneko.com/aa1.htm
−日本の鯨肉食の歴史的変遷
http://www.kkneko.com/rekishi.htm



◇調査捕鯨と下関利権


■調査捕鯨船で出前授業 下関海洋アカデミー、本村小児童らに(5/17,山口新聞)
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2013/0517/5p.html
■下関市:鯨肉買い取り、モニター販売 事業費2640万円計上へ(6/4,毎日山口版)
http://mainichi.jp/area/yamaguchi/news/20130604ddlk35010489000c.html
■ことば:下関と捕鯨(6/7,毎日地方版)
http://mainichi.jp/area/fukuoka/news/20130607ddlk40100385000c.html


 前のトピックに絡みますが、南極海を荒廃させた商業捕鯨の乱獲の歴史から目を背け、その最も歪んだ負の側面を思いっきり持ち上げている自治体があります。そう、調査捕鯨城下町♂コ関市
 同市と調査捕鯨の関係については、これまでも当ブログ記事で何度も取り上げましたが、他の沿岸捕鯨地域とは別格の、中央の捕鯨サークルの中核をなす存在となっています。沿岸捕鯨地でもある石巻をはじめ、311で被災した地域に手厚く盛られるべき復興予算が、鯨研の赤字穴埋めなど無関係な事業に回される中、「自分たちの町にこれだけの経済波及効果があるから」という利己的な理由で調査捕鯨母港化を国に再三申し入れるほど、深〜い「オモイヤリ」を持った自治体です・・。しかも、経済波及効果20億円とやらも、蓋を開ければ紙切れ1枚の薄弱な根拠で、利害を持つ特定の事業者を除けば、市民から見れば税金の形で金が出ていくばかり。
 鯨肉がさっぱり売れず、南極プロレス(VSシーシェパード)もコアなごく一部のファン以外見向きもしない状況の中、下関は存在感を増し、調査捕鯨政策を動かす中心的な役割を帯びてきた感があります。世間の関心が低くなるのは、こういう場合諸刃の剣でもありますね・・
 下関市民の負担の例は、上掲のモニター事業などの記事が端的に示しています。税金でカバーして大幅に値下げ、他の農水産物とはまさに別格の扱いです。もっとも、さも高尚そうに食文化の錦の御旗を掲げていたのが、「国際B級グルメ大会」などと謳うようになったのは、伝統の退廃を象徴するよう。結局、広告宣伝を含めたこの手のイベントの経費に、下関市民の浄財が充てられているのです。余談ですが、記事中にある「急速冷凍に比べて」は急速解凍のことですね。記者の間違いでしょうけど。

 では、クジラで潤っているのは一体下関の誰≠ネのでしょうか?

 ここで最初の記事に着目してみましょう。いわゆる出前授業の話ですが・・。
記事中に出てくる下関海洋アカデミーは同市にある水族館「海響館」を運営する公益財団法人。石川氏は捕鯨問題ウォッチャーならご存知でしょうが、調査捕鯨団長を務めたこともある元鯨研の研究者で、昨年開設された鯨類研究室に室長として入られた方ですね。鯨研が大赤字で口減らしを余儀なくされたという事情も背景にはあったのでしょうけど。


−公益財団法人下関海洋科学アカデミー定款
http://www.kaikyokan.com/teikan.pdf


 上掲は同機関の定款。保護・保全のための普及啓発ではなく、捕殺・利用の普及啓発事業をやっちゃってるのは悲しいですけど・・。ところで、最後のページに「最初の評議員」のリストが載っています。理事長は中尾友昭市長
 で、6番目の林俊作氏、大津屋(醤油メーカー)の社長で林芳正農相の従弟の方。でもって、俊作氏は昨年委員長代理も務めた下関教育委員会委員にして、山口県のPTA連合会会長だったりもするわけです。こうした人脈を通じて出前授業が行われているのでしょうね・・


−林芳正|Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9E%97%E8%8A%B3%E6%AD%A3


 ご承知のとおり、参院山口選挙区選出の参議院議員・林芳正氏は、安倍政権で農相の座を見事射止めました。彼は自民党の捕鯨議員連盟の幹事長を務め、最も熱心な捕鯨推進族議員。威勢のいいアンチSSの国会質問も目立ちましたが、捕鯨族議員の中ではパーティーに呼ばれてナガスの尾の身をつつくだけではない事情通のお一人とはいえたでしょう。それは母船式捕鯨の町・下関の地盤があってのこと。
 Wikipediaによれば、林一族は県内のバス会社、ガス会社などを経営する名家ということで、一見水産関係とのリレーションはなさそうに見えますね。
 が・・前述の林俊作氏が経営する醤油メーカー・大津屋さん、こんなこともされてました。


−水産大学校訪問記(^O^)|〜MARUSO の 想い〜下関・大津屋まるそ醤油
http://ohtsuya.blog129.fc2.com/blog-entry-39.html
−世界初。くじら醤油はこうして生まれました。|ヤマカ醤油
http://yamaka1872.bi.shopserve.jp/yamaka_brand/
−マル幸商事 会社概要
http://www.marukou-inc.co.jp/pc/contents22.html


 水産大学校とのふく醤油・くじら醤油共同開発プロジェクト、最初に手がけてたのはここ。その後、魚醤やポン酢などに特化し棲み分けている同業者のヤマカ醤油に引き継がれましたが。ちなみに、ヤマカ醤油のHPには「地産地消にこだわります」などと書かれていますが、南極産調査鯨肉はまさに地産地消の究極のアンチテーゼ。それに、搾りかすはどうしてるんでしょうね・・
 さらに、同プロジェクトを追っていくと、水産大学校、山口県食品開発協議会とともに、仕掛け人のある企業の名が浮かび上がってきます。下関の鯨専門店・マル幸商事
 同社の主要取引先にご注目。共同船舶の名があるのは当然として、南極海で大乱獲を繰り広げた大手捕鯨御三家のマルハニチロ系列会社に極洋。そしてウナギ偽装事件を引き起こしたうおいちと同じくマルハニチロ子会社の神港魚類の名も。
 これが、デントウショクブンカの担い手。下関の政治と業界の関わり、です。
 調査捕鯨母港化によって、市が税金をつぎ込んで販売促進イベントを行うことで直接潤うのは、マル幸商事のような特定の事業者。後は東京など域外の事業者。

 中尾市長と林農相の選挙等における緊密な協力関係については、以下もご参照。


−市民の反応に見る 市民の底力見せた下関市長選の結果|人民の星
http://ww5.tiki.ne.jp/~people-hs/data/5365-3.html

−中尾友昭|Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%B0%BE%E5%8F%8B%E6%98%AD

 経済効果を謳った母港化は、「おらが国に空港/高速道路/新幹線/原発を!」という我田引水利益誘導型の政治のまさに典型。それらの事業は、得てして住民の真の利益に寄与するとは限らず、政治家と癒着した特定の事業者を一時的に潤すばかりで、後は負担ばかりがのしかかるというパターンに。同じように、調査捕鯨という一大国家事業がダシにされているのです。競合自治体が名乗り出ないだけ、政治家が「業績」を看板にするのも楽勝。それを前面に出せてしまう辺りが、安倍氏のお膝元でもある保守地盤の政治風土らしいといえますが。


 下関市民の皆さん、それでいいのですか? 税金の無駄遣いくらい目を瞑る? 
 けれど、このままでは下関市は、世界から「南極の自然を食い物にする町」という烙印を押されることになりますよ。本当にそれでいいの!?


 最初に掲げた記事の三番目をご覧いただきましょう。「下関と捕鯨」の関わり──それは、実業家が天然資源で一発当てようとして始めた、炭鉱と同レベルの伝統と無縁な近代捕鯨です。同市が最も賑わった最盛期の60−70年代ですが、シロナガスクジラが徹底的に衰微し、遅すぎる捕獲禁止措置が講じられたのはようやく64年のこと。日本は後発国として参入が遅れたことが理由で、シロナガスに対する責任は小さいとはいえ、『南氷洋捕鯨史』でも指摘されているとおり、ナガスクジラ乱獲に対する責任は世界で最も重い捕鯨国です。無秩序な大乱獲、南極の荒廃と引き換えに下関市の繁栄があったといっても、過言ではないでしょう。
 過去に対する深い反省、強い戒めなしに、手放しで捕鯨を礼賛することが、日本の中でどの地域よりも許されないのが下関市です。いまの下関市の前のめりな捕鯨推進行政は、世界に対してあまりに恥ずかしいものです。


 出前授業を受けた子供たちへ。
 悲惨な歴史を招いた戦前と同じように、おとなが偏った考え方で、公平・公正に情報を伝えることをせず、君たちを一つの方向へ誘導しようとしているとしたら、とても悲しいことです。あるいは、おとなに対する幻滅を味あわせることになるかもしれません。どうか一部のおとなの言うことだけを決して鵜呑みにせず、自分で真実を確かめるようにしてください。


参考リンク:
−中尾 友昭下関市市長の下関港「調査捕鯨」団基地化計画?|flagburner's blog(仮)
http://blog.goo.ne.jp/flagburner/e/63f388ec5de4364d6979e3020a0d7381
−東北の被災地を足蹴に復興予算をせしめた厚顔無恥な捕鯨サークル(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/59017147.html
−復興予算を食い物にしようとした調査捕鯨城下町・下関市(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/56253779.html
−捕鯨ニッポンの縮図──下関市(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/17238001.html
−林芳正代議士の車が当て逃げ|長周新聞
http://www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/hayasiyosimasadaigisinokurumagaatenige.htm

posted by カメクジラネコ at 19:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系
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