■マスコミが伝えきれない調査捕鯨への復興予算流用問題
3.作られた18億円の数字──算定根拠への疑問
http://www.janjanblog.com/archives/84065
市民新聞記事を更新、追加の章を加えました。長官と副大臣の発言など、一部の誤りも訂正しています。
鯨肉土産も復興予算も横流しする捕鯨サークル。今回の問題は、マスコミや野党議員の指摘する「バケットの違い」にとどまりません。18億円という金額自体が、不当に高い要求といわざるを得ません。
これを機会に、調査捕鯨につぎ込まれてきた多額の補助金は、会計検査院など第三者機関の手で徹底的に洗い直されるべきなのです。
◇科学オンチの捕鯨推進教祖・小松正之氏
■「後退する捕鯨外交」−小松正之(中国新聞に寄稿)|周防大島郷土大学のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/kyoudodaigaku108/14224576.html
調査捕鯨政策立案に関わった元水産官僚で現政策研究大学院大学教授の小松正之氏が、「後退する捕鯨外交」と題して中国新聞のオピニオン欄に自論を寄稿。
自らの手で調査捕鯨計画の二期目への移行を仕切った手前、自身の思い描いたシナリオから大きく外れ、捕鯨サークルが苦境に陥ってもがいている現状を見て、苦々しい思いに駆られたのでしょう。もっとも、鯨研の収益を悪化させた一番の原因は無茶な拡大増産であり、すなわち小松氏自身の責任に他ならないのですが。
小松氏自身にとって、捕鯨政策を担った中心人物として世界を相手に強硬姿勢を貫いたことは、自らの「輝かしい業績」であり、きっと強い自負を抱かれていることでしょう。おかげで、『ニューズウィーク』の100人の日本人≠ノも選ばれたわけですし・・。もっとも、以前『AERA』が記事にした、小松氏の暴走≠ノ対する事実上の左遷人事から推察する限り、水産庁側の評価は氏の自己採点と食い違ったようですが・・。
国民の立場から言わせてもらえば、彼は高速道路やダムを造りまくった国交官僚と同じく、捕鯨業界と癒着して国民に高いツケを背負わせた悪玉官僚の代表でしかありません。復興予算流用問題はまさにその象徴といえます。
さて、問題の寄稿文に目を通してみると、一線から退いた所為なのか、ずいぶんと粗が目立ちますね・・。
2段落目に「わが国は」とありますが、アガディール総会におけるいわゆるデソト提案は、IWCが中立の米国主導のもと外部専門家を入れ、日本と豪州等強硬路線の反捕鯨国に対して提示したものであり、日本は交渉のテーブルに着いただけで「妥協案を示した」わけではありません。交渉の場では駆け引きのために、非公式に議長案に対する対案を出しはしたでしょうが。いずれにせよ、最終的にこれを蹴ったのです。さらに、この調停案の内容は、事実上の無規制捕鯨である調査捕鯨の定義替え、(小松氏が強引に拡大した)南極海での捕獲枠の縮小と一種の見返りとしての沿岸捕鯨容認でした。おそらく、自らの功績を台無しにされることへの危機感なのでしょうが、小松氏の記述はあまりにも公平を欠きます。議論された2年前当時も、IWCにおける決定プロセスに対し、水産業界紙上でものすごい剣幕で噛み付いているのですが。
3段落目、南極海での大規模な母船式調査捕鯨は日本独自のもので、アイスランドとノルウェーは進出する気など元々微塵もありません。日本の超拡張主義と一緒くたにされるのも、鯨肉の輸出先としての日本市場で競合する調査鯨肉の価格を下げられるのも、面白くないだけでしょう。デソト提案の内容を見れば一目瞭然、海域も形態も規模も異なる両国の捕鯨とは無関係で、期待するところなど何もないのです。あまりにも素朴にすぎる食糧資源云々については、食糧問題の文脈で決して相手にされるレベルではないので無視しますが・・・
4段落目、SSの妨害に対する海保巡視船派遣などの主張は、小松氏が事業の必要性や拠出額の妥当性に関する議論を無視した強硬な原理主義者だというだけ。「何ら実効策を講じてこなかった」と主張していますが、実際にはその後年間7、8億円もの巨額の税金を投じ、LRADを搭載したり海保職員を搭乗させるなどの対策が取られたものの、軍拡競争¥態で実効が上がらなかったということです。南極海でのプロレスにさらなる国民の血税を注ぎ込んで、本当に血生臭い武力抗争のレベルにエスカレートさせろ、というのが小松氏の主張なのでしょうか?
5段落目、小松氏は「冷凍能力やクジラの引き上げ能力の低下が著しい」と指摘。まるで、老朽化で冷凍庫が駄目になり、すぐにも腐りかねないかのような言い草ですが・・。しかし、「儲かる漁業」審議会に提出されたKKPの計画書では、船体リフレッシュの項目として「急冷室床板の交換」を掲げているだけ。関連設備が旧式で、小松氏レベルの舌の肥えた最近の美食家への訴求力がないため、彼らの欲求を満たすよう新式の設備と入れ替えて品質を向上させろ、という話なのです。
次節からが今年の年次会議に関する内容。2段落目に、「米アラスカ先住民による生存捕鯨の捕獲枠が検討され、認められた」とあります。事情を知らない方が読めば、「今まで認められなかったものが、今回突然遡上に上り、捕獲していいことになったのか」と誤解しかねない記述ですね。実際には、従来の捕獲枠が5年毎の区切りで「更新」されたにすぎません。確かに、アイヌの捕鯨再開を求める機会にはなったかもしれませんが、日本の捕鯨会社による商業捕鯨とは一切関係ないのです。ついでながら、日本側は例年どおり沿岸小型捕鯨の捕獲枠要求をくり返しています。
問題は、3段落目以降の南極海ミンククジラ(クロミンククジラ)に関する部分。まず、個体数の調査年度の記述(生息数の次の括弧とじの部分)が間違っていますね。国際鯨類探査十ヵ年計画(IDCR/SOWER)の2周目(CP2)の実施年は1985/86-1990/91、同じく3周目(CP3)は1992/93-2003/04。目視調査は一度に1海区分しか行えないため、6海区分のデータがそろうまで最低でも6年以上かかります。資料を見て早とちりしたのでしょうが、基本を忘れてしまうのは困りもの。
さらに、「30%の減少は統計的に意味のある差ではないと科学委員会で結論付けられた」とありますが、ものすごく乱暴な"異訳"です。もし、報告をきちんと読んだのであれば、恣意的なすり替えといわざるを得ません。
以下に国際捕鯨委員会科学委員会(IWC-SC)の今年の報告の該当部分を抜粋しましょう(リンクは記事末)。
The confidence interval for the ratio of the total estimated abundance from CPII and CPIII included 1.0
and thus a null hypothesis of no change in overall abundance between the two periods would not be
rejected. Nevertheless, the Committee considered that a change was quite likely, and discussed possible reasons for a decline in the estimated abundance of whales in the surveyed areas.(引用)
小松氏は前段の部分のみ抜き出した上で"異訳"したわけですが、同じ科学委の結論である次のセンテンスの指摘はすっぽり抜け落ちています。
統計では、例えば信頼区間を95%とした場合、2周目と3周目の調査時の(実際の)生息数が同じだったと仮定して、無作為に標本を抽出した場合に、測定値と同じく20万頭以上もの差が生じる確率が5%以上(6%や7%だろうと)あれば、「虚無仮説が棄却されない(有意性がない)」という見方をします。有意性の解釈(数学的な有意性と、実質科学的な有意性との区別がつかない非専門家の誤解)については、下のリンクもご参照。
いずれにしても、この結果は、「データが30%に及ぶ減少を示したとしても、元となる生息数に変化がない可能性も(統計的に)無視することはできない」といっているにすぎません。そして、「変化している(約20万頭、30%分減少している。実際に減っているか、別の理由で)可能性が高い」と科学委は明確に結論付けています。調査データの精度が粗いため、間違いなく減っていると断言できない、というだけなのです。「安定している」などという結論は報告のどこにも書いてありません。日本側は確かにそう(「全部氷の下に隠れてるんだ!」と・・)主張し続けてきましたが、十分な根拠のない定性的な仮説にすぎず、科学委の総意としての結論は得られていないのです。
ところが、小松氏は、その科学委の報告を無視し、「つまりミンククジラは資源として安定し、持続利用が可能である」などと勝手に断定してしまったのです。
繰り返しになりますが、南極海に生息するクロミンククジラの生息数についての、両陣営の科学者による数年に及ぶ議論で明らかになったのは、調査の結果として10年ほどの間に30%もの減少が示され、「実際に減っている可能性がある(ただし、変化していない可能性もゼロではない)」ということです。
「科学的」「持続的」というフレーズが好きな小松氏ですが、彼の最も大きな罪の一つは、クロミンククジラに対し「海のゴキブリ」という非科学的な呼称を付け、「間引かないと増えすぎて大変なことになる」などと科学的根拠などかけらもない俗説を流布させたことでした。減少を強く疑わせる結果が示されたこの調査期間中にも。一体いつから「安定」でいいことになったのでしょうか? 水産ODAによるIWC票買い疑惑に関する見解もそうでしたが、まさしく信用の置けない霞ヶ関官僚の典型と言わざるを得ません。
復興予算流用問題に対する、「復興予算は全部東北のものという権利主張のつもりか」という官僚擁護の発言も、まさに小松氏が霞ヶ関的思考回路の持ち主であることを示していますが。
2節目の最後の段落で、小松氏は国際捕鯨取締条約(ICRW)8条、調査捕鯨に関する条項を引いて、「国民への十分な鯨肉供給量を賄えない」と結んでいます。ICRWは加工と取得金の国による管理を義務付けているだけ。「売って儲けろ」なんて一言も書いてません。「調査の結果生じた"副産物"を売った金は、きちんと調査経費に充てろ」というのが主旨。副産物の供給のために調査をやるのではまさに本末転倒。科学調査の名を借りた商業捕鯨以外の何物でもありません。ついでに、在庫が有り余っている以上、国民への供給量を賄えない状態にはなりません。水産庁側の説明も「畝須等の高級品だけが売れている」。つまり、国民のためなどではなく、高級料亭を利用するほんの一握りの美食家のために継続を目論んでいるのが調査捕鯨なのです。
最後の節、韓国の調査捕鯨参戦宣言については、7月6日及び14日の拙ブログ記事をご参照。
同2段落目、まるで民主党の所為であるかのような言いぶりですが、自滅です。その責任があるのは小松氏。仮に3年前に自民党が勝って政権交代がなかったとしても、大勢は何も変わらなかったでしょう。民主党政権になる前から、坂を転げ落ちる予兆は十分にあったのですから。
最後の段落は、本当に無責任の一言に尽きます。
確かに、小松氏が水産庁を去った後、同庁はきわめて中途半端に、消極的に軌道修正し、現状黙認路線を取ってきました。しかし、巨額の補助金が必要になったそもそもの発端は、小松氏が先導した誤った捕鯨外交の強硬拡大路線に他なりません。ツケを回したのはまさに小松氏自身。この論説そのもので同氏が主張しているように、海保巡視艇派遣や諸々の追加設備投資、販促活動等を国の肝煎りでやるとなれば、補助金がますます膨れ上がるだけです。それこそ国民の理解が得られるはずなどないではありませんか。
小松氏が100人の日本人≠ノ選ばれたのは、外交手腕が優れていたからではありますまい。対米追従が基本の日本の外交官の中で、彼が異色のキャラだったというだけの話。そして、昨今の政治家の如く、威勢のいい強腰の姿勢がウケたというだけ。
真に優れた外交官とは、耳に心地よいばかりの言を弄して外交上も財政上も高いツケを国民に背負わせた小松氏のような無責任な官僚ではなく、駐中国大使の丹羽氏のように、極右政治家の愚挙に対し、たとえ苦い薬であっても大局的見地から真に国のためになる諌言を勇気を持って呈することのできる人物ではないでしょうか。
関連リンク:
■鯨類捕獲調査改革推進集中プロジェクト改革計画書
http://www.jf-net.ne.jp/fpo/gyoumu/hojyojigyo/01kozo/nintei_file/20121002_kujira.pdf
■Report of the Scientific Comimittee:IWC/64/Rep1
http://www.iwcoffice.org/cache/downloads/6r8jq8llm4cgso0sc0k000w8c/64-Rep1rev1.pdf (リンク切れ)
http://iwc.int/index.php?cID=2893&cType=document
■統計学入門・有意性検定の考え方
http://www.snap-tck.com/room04/c01/stat/stat01/stat0105.html
■捕鯨政策の裏側(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/13459966.html
■持続的利用原理主義さえデタラメだった/小松氏ウヨガキ化?(〃)
http://kkneko.sblo.jp/article/37285308.html
■小松氏(@romakomatsu)の復興関連ツイート
https://twitter.com/romakomatsu/status/215292321204404224
■筆者のツイート
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-121030
◇お知らせ
柿もハヤトウリも今年は不作。生り年に原発にやられた感じ・・。
さて、日新丸はいつ出港するのやら・・選挙期間中にこっそり出そうですね。今期は小幅改造で事故の心配はしなくてもいいのかもしれませんが・・。
今後も、「完全商業捕鯨化に向けKKP発進・アンチSSからバレニンにキャッチを変更」「シャチとザトウクジラの深すぎる愛(NHK特集関連)」など、お伝えしたい内容はたくさんあるのですが、余裕がなければTwilogへのリンクで済ませるかもしれません(汗
もうひとつお知らせ。『クジラたちの海』の続編、『クジラたちの海──the next age』の執筆にかかる予定。
前作は米軍の核事故がメインテーマでしたが、今回はもちろん「311・フクシマ」です。ジュゴン(沖縄基地問題)も登場予定。毛色がまったく変わり、いろいろ辛い内容になるかもしれません。詳細は次回以降に。