2012年07月06日

韓国の調査捕鯨参戦宣言が招いた波紋

◇今年のIWC年次総会サプライズ、韓国の参戦宣言によって改めて浮き彫りになった調査捕鯨の問題点

■韓国、捕鯨再開を表明 IWC総会で「調査目的」 (7/5,朝日)
http://www.asahi.com/international/update/0705/TKY201207050252.html
■UPDATE1: 韓国、漁業資源減少で調査捕鯨を開始する方針 豪など反発 (7/5,ロイター)
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK084348420120705
■韓国、領海内で調査捕鯨開始へ ミンククジラが対象 (7/5,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0502F_V00C12A7000000/
■米、韓国の調査捕鯨に懸念 (7/6,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0600W_W2A700C1EB1000/
■韓国が「調査捕鯨開始」表明 (7/5,NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120705/t10013355371000.html (リンク切れ)
韓国政府は、4日、IWC=国際捕鯨委員会の総会で捕鯨の再開を求める国内の漁業者の要望に応えるためとして、調査捕鯨を始める方針を初めて表明しました。
クジラの保護や捕鯨の在り方について話し合うIWCのことしの年次総会は、今月2日から日本などの加盟国が出席し、中米のパナマで開かれています。
この中で、韓国政府代表団のカン・ジュンソク首席は4日、声明を発表し、「捕鯨に従事してきた漁業者やクジラによる水産資源の被害を訴える漁業者の要望に応えるため、調査捕鯨を検討している」と述べ、韓国政府として初めて調査捕鯨を始める方針を表明し、次回のIWCの委員会に調査捕鯨の計画書を提出する考えを明らかにしました。
韓国が、調査捕鯨を始めることになれば、日本に次いで2か国目となります。
カン首席は「IWCの目的はクジラの適切な保護・管理と、秩序ある捕鯨産業の発展であり加盟国は文化の多様性を認めることが不可欠だ」として各国に理解を求めました。
韓国では、1986年に国際的に商業捕鯨が禁止されて以来、捕鯨を中断していますが、主に日本海で漁の網にたまたまかかったクジラの肉は、一部が食用として流通しています。
韓国の通信社、連合ニュースは、韓国政府が調査捕鯨を始める方針を表明したことについて、「漁業者からの強い要望や隣国、日本の捕鯨に対する積極的な態度を考慮した」としており、今後の韓国の対応に注目が集まりそうです。
.NZ外相韓国を批判
捕鯨に反対するニュージーランドのマカリー外相は、声明を発表し、すでに日本によって多くのクジラが捕獲されていて、韓国の今回の発表はクジラを保護するうえで重大な妨げになるとの見方を示しました。
さらに、「韓国による調査捕鯨は、日本が調査捕鯨の名のもとに行っている商業捕鯨と何ら変わりなく、信ぴょう性を全く持たない」として、調査を行うためにクジラを殺す必要はないと韓国の発表を批判しました。
水産庁“計画見極める”
日本は、すでに国際捕鯨取締条約に基づいて南極海と太平洋で調査捕鯨を行っていますが、韓国が調査捕鯨を始める方針を表明したことについて日本の水産庁は、「今後、韓国が行おうとする調査捕鯨の手法や対象となる海域、それに捕獲量などが科学的に妥当かどうか判断したい」と話しており、韓国が提出する調査捕鯨の計画書を見なければ評価できないとしています。
(引用)

 今年は大飯原発再稼働・消費増税をめぐる論議にかき消されて、注目を浴びることはなかろうと思っていた国際捕鯨委員会(IWC)関連の話題が一気にネット中をかけめぐりました。
 韓国の調査捕鯨参戦。その背景と問題点について、以下で解説しておきたいと思います。


 その前に、マスコミ報道についてチェックをば。
 「韓国が、調査捕鯨を始めることになれば、日本に次いで2か国目となります。」とありますが、これは日本語として明らかな間違いです。日経の記述は「調査捕鯨を実施するのは日本と韓国の2カ国となる」、こちらは「現時点で実施している国及び実施の意図を表明した国が合わせて2カ国」という意味で正しい表現。調査捕鯨はノルウェーや旧ソ連など、過去に多くの国が実施しています。当の韓国も’86年に実施。以下も参照。

■実態に見合わない国際捕鯨と知りまり条約は改正すべき(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/25798112.html

 公共放送のニュース報道の質の低下は本当に嘆くべきことですな・・


 さて、本題に入りましょう。

■佐々木農林水産副大臣記者会見概要 (7/5,農水省)
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/v_min/120705.html

 上掲の農水副大臣の会見を読んでもわかるとおり、日本の捕鯨関係者は「韓国がやりたがっているようだ」ということ以外、何の情報も持ち合わせていなかったのです。NHK取材へのコメントでも、水産庁は「実際に韓国からIWCに計画書が提出され、自分のところに回ってくるまで、海のものとも山のものとも判断できない」といっているわけです。
 いいかえれば、韓国政府は今回の提案にあたって、日本との間で事前の摺り合わせ、調整をしていなかったのです。韓国側から計画策定にあたって助言を求めることもなければ、日本側から調査捕鯨の実績を「豊富」に持つ「先輩」としてアドバイスすることもなかったわけです。
 これは、考えてみればとても奇妙なことです。
 日本の捕鯨外交は、多額の水産ODAを提供しているアフリカ・カリブ海・太平洋・一部アジアの発展途上国に対し、召集をかけて詳細なレクチャーを施したり、IWCにおける投票その他の行動に際して逐一指示を与えるというものでした。ジゾクテキリヨウ(名ばかりですが・・)グループの「親分」として君臨することで、力づくで票決を左右してきたわけです。日本に従うこれらの国は、今回先住民捕鯨で物議を醸した(歴史的にはごく最近になって米国から導入)セントビンセント・グレナディーンなど一部を除いて、商業捕鯨/調査捕鯨を実施している国、大型母船を公海・南極海まで派遣する能力を持つ国はありません
 最も距離が近く、文化的系統からいっても近く、国民同士の親近感も強いハズの先進国・韓国との間で、何より間違いなく国内の地域で同程度の鯨肉食の習慣を以前から有し(「宮廷女官チャングム」にも登場!)、商業捕鯨を実施するだけの経済力と一定の需要を持つ国同士でありながら、なぜかIWC内では「ピッタリ息の合った行動」を取ってはきませんでした。韓国はもともと捕鯨国よりのスタンスですが、日本が仕切っているジゾクテキリヨウグループ諸国のように、投票行動等で必ずしも日本と完全に歩調を合わせてきたわけではありません
 もし、公海上での調査捕鯨計画を韓国と日本が合同で実施し、副産物≠烽サれぞれの国内消費のために分け合う形を取るなら、日本一国が南極に出向く形よりは、国際社会の反発に対する抵抗力は格段に増すことでしょう。しかし、それは南と北がひっくり返ってもあり得ない話。
 調査捕鯨を実施中/予定というところまでは一緒。しかし、大宮まで一緒の自民党と民主党と同じで、同床異夢なのです。その先、すなわち日韓それぞれがイメージする捕鯨産業のスタイルと政治的価値はまったくの別物だからです。場合によっては、日本にとって今後、豪州や南米とはまた違った意味で、韓国は厄介な存在となるかもしれません。

 日本の主眼は常に南極にありました。太地をはじめとする沿岸はカモフラージュ。そのために、これまで米国の譲歩提案、外部の交渉専門家を通じた妥協への動きを蹴って、沿岸を自ら捨ててでも公海母船式調査捕鯨の継続に拘ってきたわけです。その推進力の核となっているのは、水産庁の有識者会議でのかつての元締め#ュ言や、最近の鯨研通信からも見てとれますが、米国へのルサンチマン(具体的には北洋漁業交渉時の恨み)と、捕鯨五輪≠ノ優勝した当時の栄光(クジラたちにとっては大災難でしたが・・)への懐古趣味的囚われに他なりません。
 一方、韓国にはわざわざ南極にまで進出し、国際社会から袋叩きにされなければならない(日本みたいに・・)事情はありません。外国の侵略にさらされた側ですから、国内のナショナリズムも南極の海まで自分たちの庭とみなすほどの超拡張主義の色合いは持ち合わせていません。むしろ、そうした日本の尊大な立場との違いを強調する方が理解が得やすいと判断するでしょう・・。
 韓国側の今回の提案には、それなりに戦略的な理由もあります。IWCの混迷を打開するための過去数年の仲裁の取り組みは、主として問題児日本をいかにして宥めるかを念頭に置いていたため、様子見の状態だった韓国は蚊帳の外に置かれた形になりました。現行の実施国以外の新規(再)参入の可能性を完全に断たれることに、それなりの危機感を抱いたことは確かでしょう。密漁も疑われる大量の混獲と市場流通については、環境NGOによって追及され、国際的にも問題視されていたことから、規制強化に対する懸念もあったと思われます。
 そうした規制を逃れる奥の手こそ、調査捕鯨に他なりませんでした。お手本を示したのはもちろん日本。食害云々も日本のプロパガンダをそっくり借用したものですし・・
 そういうわけで、韓国側の今回の動きは、権利を確保する象徴的な意義が非常に強いといえそうです。今のところ近海のみとのことですし、領海内のみか外のEEZを含むのか判然としませんが、規模は日本の現行の三陸沖・釧路沖調査捕鯨と同程度の水準となるでしょう。
 一部に副産物を日本の観光客向けと見る向きもあるようですが、筆者はそれよりも、市場への供給ルートを(根絶の恐れのある)不正規から(海外の批判に対抗できる)正規のものに切り替える意図があると考えます。現地の消費がほとんどないアイスランドと異なり、観光客向けは需要の一角にすぎず、「日本から訪れた食通家たちの落とすカネを目当てに調査捕鯨を始める」とまではいえないと思えます。鯨肉市場を拡大・活性化させることまでは、韓国も目論んではいないでしょう。JARPAUで捕獲数を倍増させ、返って在庫を膨らませて需要の低迷に拍車をかけた日本の愚から、学んでいてくれれば・・・

 そうはいっても、問題はもちろんあります。
 日本海側を回遊しているミンククジラは、Jストックと呼ばれる数が非常に少ない個体群。だからこそ、日韓の混獲による影響の深刻さが取り沙汰されてきたわけです。網走の業者の捕鯨を小型沿岸捕鯨として認めるよう、日本は今回独自に要求していますが、これも認められればJストックは混獲されるリスクを負います。日本側はRMP(管理方式)等の議論において、「混獲を数字に含めないように」という、科学的根拠を無視した非科学的な主張を頑強に唱え続けています。まさにダブルパンチ。ついでにいえば、福島の事故によるセシウムは阿賀野川を通じて今後10年のスパンで日本海に流入し続けますし、大飯や柏崎をはじめ日本海側にズラリと立ち並ぶ(韓国も3ヶ所が日本海側)原発にもしものことがあれば、ミンククジラを含む日本海に生息する野生動物は壊滅的な打撃を被るでしょう。

 今回、小型沿岸の提案に際して日本政府代表が「モラトリアムの撤廃を求めるものではない」とまさに異例の意思を表明しています。小型捕鯨協会会長は真逆のことも言ってますけど・・。

http://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/220787138629865472

 しかし、将来的にもし商業捕鯨が再開された場合、捕獲枠をめぐって日本と韓国はライバル関係となります。もともとなきに等しいパイですから、争いは熾烈を極めることになるでしょう。場合によっては、タッグを組んで、脱退をちらつかせつつ、科学委の勧告を無視して総枠の拡大を強固に要求し、規制機関としての実効性を奪う手に出るかもしれませんが。そう、まさに乱獲の抑止に失敗したかつてのIWCそのもののように。
 現状では、資源を健全に保つために、調査捕鯨・沿岸捕鯨・混獲を包括的にコントロールすべく、日韓がお互いに「譲り合う」という図を、筆者は想像することができません。
 日本の捕鯨サークルは、国内の捕鯨擁護世論醸成にあたって、ナショナリズムを鼓舞する効果的な手法を積極的に採用してきました。韓国に対して「弱腰」の姿勢を示せば、嫌韓右翼と層がほぼ重なる応援団から猛反発を食らうことは必至でしょう。ま、韓国側も然りでしょうけど・・。領土問題と絡め、双方の国粋主義者たちがまたぞろ鍔迫り合いを始めることになりかねません。
 「モラトリアムの撤廃を求めない」との発言の裏には、日本政府の思惑が読み取れます。混乱を招き、国際条約と規制機関の存在意義を失わせるだけの、商業捕鯨再開という非現実的な要求を、日本はこれまでずっとIWCの場で要求し続けてきました。しかし、実際のところ、水産庁・外務省は「モラトリアム下における調査捕鯨形態の捕鯨存続」が最善の策だと考えているのです。これは南大西洋サンクチュアリ問題と同じく、何一つ譲歩などしていないのに譲歩したふりを装う、見せかけ外交≠フ手口に他なりません。まさに北朝鮮やイスラエルのような国際社会の問題児を彷彿とさせる。
 原発事故ではないけれど、制定当時のICRW(国際捕鯨取締条約)においてまさに想定外だった実質商業捕鯨とイコールの調査捕鯨という裏ワザを駆使することで、絶滅の危惧のある貴重な野生動物が大量に殺され続けるのを、国際社会はなす術もなく指をくわえて見ているしかないのが現状なのです。
 今回の韓国の参戦宣言は、調査捕鯨の問題点を改めて浮き彫りにしたといえるでしょう。
 まさに調査捕鯨こそが問題なのです。

posted by カメクジラネコ at 17:59| Comment(0) | TrackBack(1) | 社会科学系
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