◇クロミンククジラの最新推定生息数の意味と南大西洋サンクチュアリの意義
■沿岸捕鯨の再開要求へ IWC総会パナマで開幕 (7/3,中国新聞-共同配信)
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201207030108.html
■南大西洋のクジラ禁漁区案を否決、国際捕鯨委員会総会 (7/3,AFP)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2887559/9207550?ctm_campaign=txt_topics
今年もクジラの季節≠ェやってきましたが、大飯再稼働に消費増税法案採決&民主ゴタゴタでマスコミはクジラどころではなさそうですね。
今回注目に値するのは、ずーっとごね続けてきた南極海ミンククジラの推定生息数がようやく合意にこぎつけたこと。
■IWC/64/Rep 1 Annex G (国際捕鯨委員会科学委員会レポート)
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=iwc%2F64%2Frep%201%20annex%20g&source=web&cd=1&cad=rja&sqi=2&ved=0CDEQFjAA&url=http%3A%2F%2Fiwc.int%2Findex.php%3FcID%3D3061%26cType%3Ddocument%26download%3D1&ei=IAhpUcWRCIbtiAfzs4HQBg&usg=AFQjCNHgCJ0wmTfIdnKiVvERPauZttXlxQ&bvm=bv.45175338,d.aGc
まず、当の捕鯨関係者から巷のウヨガキ君たちまでお経のように唱え続けてきた76万頭という数字は、昔の、暫定的な数字。
10年の区切りで行われてきた目視探査(IDCR-SOWER)の2周目の、6海区を全部足し合わせたものなのですが、日本の研究者が提唱したOK法(岡村氏&北門氏)という解析モデルの方を採用したうえで、これが72万頭という補正済みの数字に置き換えられました。
そして、直近の3周目について同様に算出した結果が51.5万頭という数字。比較対照が可能なのはこの2つの数字です。
ちなみに、鯨研通信#453で解説されてますが、OK法は平均の群サイズのパラメータの取り方次第で個体数を過大推定する危険性≠フある、日本に有利なモデル。反捕鯨国側からもう一つのより安全に配慮したモデルも提唱されていたのですが、結局モデルについては譲歩した代わり、過大推定のリスクを下げる補正を加えることで決着したということのようですね。
実際、これまでの科学委での議論では、日本側は2周目について従来の76万(仮置きの中央値)の95%信頼限界の上限を上回る値に据える、とんでもない真似を平然とやってきたわけです。自然死亡率問題やエコパスモデル問題ではないけれど・・。それというのも、原発擁護の核物理学者・工学者よろしく、捕鯨サークルの御用学者も「結論先にありき」で式をいじったからです。つまり、実測(生)データをどう料理しようと、2周目から3周目に至る時点で激減した事実は書き換えられないため、3周目の数字を76万頭になるべく近づけるよう仕組んだわけです。いままでさんざん「ミンクは76万!」「ミンクは76万!」とお経を唱え続けたもんだから。
ま、国際会合の場でそんな無理が通るはずもなく。
ただ、外向けに合意したものの、国内向けにだけはどうやら「51万はほんとの数字じゃないんだ!」と言いたげな様子。氷問題(曰く、「氷の下に潜ってるから見かけ上3周目は少ないんだ!」という日本側の難癖)の解決は、いくらそんな文句を並べたところで埒が開く話ではなく、同じ解析モデルを適用して数字の差を説明できるかどうかにかかっているわけです。奇妙なことに、OK法はトラックライン(調査船の航行コースの設定)が対象動物の分布に対して中立でないと精度が落ちると説明されており、むしろこの問題の対処には不向きなんですけどね・・。氷の分布と個体数密度にどの程度の相関があるかを実際に検証しない限り、計算式をどういじったところで解決にはなりません。
むしろ、古いデータはこの際きっぱりとゴミ箱行きにし、航空センサスなどで増減傾向も含め新たに測り直すほうが、よほど科学に即した決着がつけられるはず。調査費も、十年揉めた間にコーヒー代から参加者の宿泊・出張費までかけたコストを考えれば、高いとはいえますまい。大体、カネがないはずの鯨研が、SSCSの妨害船を調査≠キるためにわざわざ豪で飛行機をチャーターする真似さえしているのですから。これもまた、日本の捕鯨産業によりかかる形での調査研究の限界を露呈したという言い方もできますが。そして実際、科学委のレポート中でも航空センサスの必要性について言及されています。
今回の合意は、外向けには妥協の姿勢を示しつつ、内向けには数字が置き換わった経緯を詳細に説明することなく、「本当はもっと多いんですよ」の一言で誤魔化す意図が透けて見えます。
しかし、常識の観点からいえば、72万→51万を減少と捉えない人はいないでしょう。「氷の下に隠れているんだ」云々は、単なる定性的な解釈のみで定量評価はまったくできていません。確実なのは、同じ測定・算出手法を用いた2つの時系列データを比較すると、明らかに大幅な減少傾向が読み取れるということだけです。
繁殖率の低い大型野生動物が激増することはあり得ませんが、環境変化で激減する可能性は十分あるのです。ホッキョクグマ、イッカク、アデリーペンギン等と同じく、クロミンククジラが気候変動に対して脆弱で、影響をもろに受けたという推測も成り立つわけです。
実際、上掲の科学委のレポートには、CP2とCP3(2周目と3周目)の数字の差を説明する理由として、5つ目に以下のように明記されています。
5. a genuine decrease in abundance of Antarctic minke whales.
真の減少傾向である可能性を、日本の御用学者も参加しているIWC科学委は否定することができなかったわけです。
それ以外の4つの理由については、実際の減少傾向と矛盾するものではなく、このこともしっかり明記されています。分布域の移動や群サイズの変化も、環境異変の影響によるものと捉えることもできます。大規模な捕殺調査も某かの影響を与えていないとも限りませんが・・。
結論の部分でもやはり以下のとおりはっきりと記されています。
At present, the sub-committee is unable to exclude the possibility of a real decline in minke whale abundance between CPII and CPIII.
日本の御用学者の主張も一応"they believed"の形で取り上げられてはいます。曰く、減少は環境変動によるものではなく、すべて測定プロセスにおけるエラーで、隣に移ったか、氷の下に逃げた所為なんだと・・。頭から決め付けてかかっているのですね。事故は起こらないんだ、地震や津波は起こらないんだ、という前提で事を進める電力会社&御用学者と実にそっくりです。
日本側はJARPAT/Uのデータセットと解析の結果を来年には用意するとのことですが、果たして生データもオープンにできるのでしょうか? それまでの間に都合の悪い数字をいじったりしないか心配になります・・。大飯の地下の活断層の写真を隠そうとした関電ではないけれど。前回の記事で取り上げたように、何しろ水産庁は放射能測定において重要な採集地点のデータの公開を拒むくらいなのですから。
さて、直近の生息数の激減している野生動物に対し、温暖化による影響の検証もなく、日本が南太平洋で商業規模の捕獲をごり押しするならば、人為的影響を排除する系統をせめて大西洋で確保するというブエノスアイノス・グループ(南米反捕鯨5カ国)による南大西洋サンクチュアリの提案は、いたって合理的といえます。これは日本側の主張する屋上屋などではありません。せっかく用意された屋根を、当の日本が壊して台無しにしてしまったのですから。
実際のところ、日本では大量の水鳥が狩猟によって捕獲されているわけですが、大規模生息地・集団渡来地は保護区として指定されています。先日『東京マガジン』でネタになっていましたが、シカやイノシシ、サルなども国立公園内では原則捕殺禁止。保護区・国立公園内で毎年数百・数千頭規模の野生動物を捕獲し、肉を商業ベースで市場に流すことなど、日本も含めどこの国だってやってるはずがありません。コアゾーンを設定する形のサンクチュアリ形式の野生動物保護には、何の非科学性もありません。少なくとも、ユネスコや日本の環境省以上の非科学性は。
仮にクロミンクの個体数を6海区全部合わせて51万とすれば、76万に対して3千頭程度と試算されてきたRMPの捕獲枠はさらに2千頭程度にまで下がるでしょう。2海区+αの現行のJARPAUの計画捕獲数は、商業捕鯨で許可されるはずの数字を上回る規模になっているということです。日本のきわめてイレギュラーな科学名目の商業捕獲が、本来厳格な保護区に設定されるべき南極海で強行され続けるなら、せめて南大西洋の個体群について保護の原則を優先させようとの主張はきわめて妥当。
残念ながら、造反を防ごうと躍起になった民主党執行部よろしく何かアメをちらつかせたのか、今回の総会での提案も否決されてしまいましたが、従来捕鯨国陣営とみなされることもあったデンマークはサンクチュアリ提案賛成に回った模様。捕鯨を行っているフェロー諸島・グリーンランドは自治領、アイヌの(国際的な意味での)主権をほとんど認めようとしない日本政府と異なり、デンマークは先住民の権利保護には敏感。地球の裏側の原生自然にまで出向いて行っている大掛かりな公海捕鯨を推進する日本とは、立場を明確に異にするということでしょう。
ここ数年のコンセンサスを目指す動きに水を差す昨年の議場退場の手口で、いつも米国に尻尾を振ってこびへつらってばかりいる日本の表の顔と対蹠的な、北朝鮮/戦前の超拡張主義をうかがわせる裏の顔をのぞかせた捕鯨ニッポン。ボン条約を批准せず、南大西洋の人々にとって身近な移動性野生動物を私物化しようと目論む唯我独尊の国に対しては、これ以上甘い顔をする必要はないように思います。今回日本から提案されている小型沿岸捕鯨(稀少なミンククジラの個体群Jストックへの影響大)の否認は当然ながら、これまでナーバスな日本の心情を慮って二つ返事で通してきたSSCS非難決議も、通してやる義理はもはやありませんね。
どうせやるなら、深刻な放射能汚染の被害を海の自然に対してもたらした東電非難決議を、日本以外の全会一致で可決させるべきでしょう。厳密な定義に従えばSSCSと同じくテロとはいえないでしょうが、連中のチャチな真似事とは比較にならない、まさに海に対する核テロ。危うく日本の核のゴミ捨て場にされるところだった同盟国のパラオなど太平洋諸国も、さすがに黙ってはいないはずでしょうしね・・。
記事にまとめるのもメンドイので、しばらくツイッターでつぶやいてますニャ〜
https://twitter.com/#!/kamekujiraneko
2012年07月04日
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