2011年07月05日

ペンギンバイオロギングVS調査捕鯨/水産庁赤点(byガンツ先生)

◇PRもウソも水産庁の方がGPより何枚も上手だ

■水産庁の調査は本当にグリーンピースより信用できるのか?|JanJanBlog
http://www.janjanblog.com/archives/44625

 してやられました……。詳細は記事の方をチェックいただきたいと思いますが、値を出さないようにすべくテクニックを駆使した感があります。こういう切り抜け方に関しては、霞ヶ関の役人は本当に頭が切れますね。マスコミ/一般市民が注目しない以上、後はウヤムヤにどうとでも誤魔化せてしまうでしょう。β核種の測定が難しく時間がかかるのはいた仕方ありませんが、市民の関心はSr89の半減期より短かったようで・・残念なり(--;;
 6月1日、ちょうど前回の記事を入稿したタイミングで「ストロンチウム調査やります!」という朝日報道が飛び込んできたときは、「やるわきゃねえだろ」と頭から決め付けていたこともあり、本気で感心したんですけどね〜。霞ヶ関に生息するホモ・サピエンスの習性については、裏事情も含めそれなりに理解しているつもりでしたが、今回は判官ビーキだったようです・・
 環境NGOの体質の問題については、まあ実害はないといえるでしょう。しかし、水産庁はすべての国民に対して正しい情報を公開する責任義務を負っており、今回のように恣意的な情報操作の謗りも免れないほどズサンな調査で済ますことは決して許されません。検討などとお茶を濁してないで、実際に汚染が疑われるだけのサンプルをちゃんと使ってただちにやり直すべし!



◇殺さない科学VS殺す科学/ペンギンバイオロギングと調査捕鯨とでは月とスッポン

■南極昭和基地でのアデリーペンギンの生態調査|『どうぶつと動物園』('11夏号)
■第6回日本バイオロギング研究会シンポジウムin2010「バイオロギングによる極域動物研究の最前線」ワークショップ「動物の移動データ解析」講演要旨集|日本バイオロギング研究会・極地研
http://polaris.nipr.ac.jp/~penguin/Official/Personal/atak/Abstract_6thSympo.pdf

 これまでもいくつか紹介してきましたが、今回は日本の調査捕鯨の非科学性・劣位性に直結するネタ
 寄稿者は国立極地研・生物圏研究グループ准教授の高橋晃周氏。下のリンクは高橋氏らが行ったアデリーペンギンのバイオロギングの概要。ペンギンフリーク(ルックスではなく学術的興味のあるヒト!)は是非お読みいただくとして、以下関係する部分を引用・デコしておきます。


 近年、気候変動による野生生物への影響が多くの地域で報告されていますが、その影響が最も懸念されている地域の一つが南極です。南極に生息する生物は寒冷な環境に対してさまざまな適応をしているので、わずかな温度上昇でも、生物の活動に与える影響は大きいと予想されているからです。では実際に南極の生物たちに長期的な変化は見られているのでしょうか? じつは、この素朴な疑問に答えられるほど長い期間にわたって研究されている生物種は多くありません。そんななか、南極に生息するアデリーペンギンの個体数は、各国の南極観測隊に拠って継続的に調査されているため、生態系の変動を示す指標となるのではないかと期待されています。

 クジラ以外の野生動物にも、野生動物としてのクジラにも関心のない反反捕鯨ネトウヨ層を除き、環境問題に意識の高い方はすでにご存知の内容でしょうし、そうでない方もペンギンやアザラシやクジラたちの行く末を懸念されることでしょう。
 ここで赤字/青字部分にご注目。研究論文よりマスコミへのビデオ提供の方が本数が多そうな、どこぞの研究機関と違って、非常に謙虚な物言いですね。本稿で解説されているのですが、実際アデリーペンギンは南極圏生態系の変動を知るうえで非常に優れた、最適の指標動物といえるのです。
 なんてこと言うと、例の研究機関からイチャモンが付きそうですね〜。「『素朴な疑問に答えられるほど長い期間にわたって研究されている生物種は多くない』? いや、いるぞ!」と──
 最近は言葉さえ並べりゃいいと思ってでもいるのか、「生態系」「生態系」と連呼ばかりして、IDCR/SOWERの回数分周回遅れで生態系マイブームに酔ってるらしい鯨研。連中の生態系愛誤ぶりについては、以下の拙記事をご参照。とくに1番目は本件に直接絡むので必読。

−調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研
http://kkneko.sblo.jp/article/18846676.html
−調査捕鯨自体が否定した3つのトンデモ論
http://www.kkneko.com/jarpa.htm
−持続的利用原理主義すらデタラメだった!
http://www.kkneko.com/sus.htm

 それじゃあやってみますかね。アデリーペンギンVSクロミンククジラ。南極圏生態系指標動物としての栄冠に輝くのは果たしてどっち!?

<ラウンド1> 長期的でより精度の高い個体数データが取れている

 繁殖期に氷上のルッカリー(営巣地)で実測なり航空写真でカウントできるので、きわめて精度が高いうえ、営巣地毎の細かいデータの比較ができます。昭和基地周辺の営巣地では1960年代からセンサスが行われており、時系列に沿ったデータが提供されています。

 対するクジラは、海上・船上の目視によるほんの一握りの数字をもとにした完全な机上計算。発見率のパラメータ次第で2倍にも3倍にも。商業捕獲時代のデータはあてにならず、時系列的な比較はできません。さらに、国際鯨類探査10カ年計画(IDCR/SOWER)3周目の数字(そのまま比較すれば大幅減少)をめぐっては「氷の中に隠れたんだ!」とか言って日本側がごね、正確な数字がいつまで経っても出てこない始末。これで指標動物になどできるはずありません。
 第一ラウンドはアデリーペンギンの圧勝!
 ちなみに、アデリーペンギンの総個体数は推計261万番(つがい)とされ、レッドデータブック上では最も頑健という位置づけ。単位体重当りの摂餌量は低代謝のクジラとは比較になりません。主食はオキアミで、捕鯨ニッポンに言わせるなら、シロナガスクジラと競合して回復を妨げる「海のゴキブリ」。競合仮説には明確な科学的根拠がないとはいえ、時系列の正確なデータがないクロミンククジラと異なるのは、全体的には個体数に増加傾向が認められ、要因の一つとしてシロナガスやナガスなどの大型鯨類が商業捕鯨の乱獲(日本含む)によって激減したことが挙げられます。以下もご参照。

−ペンギンとクジラ
http://kkneko.sblo.jp/article/17209502.html
−アデリーペンギン|南極動物図鑑
http://polaris.nipr.ac.jp/~penguin/oogataHP/zukan/adelie/adelie.htm

<ラウンド2> 生態系の変動による応答速度が速い

 個体数の多さに加え、繁殖率もクジラとはもちろん比較になりません。毎年繁殖し通常1巣当り2卵でメスの性成熟年齢は4、5歳。クロミンクは1産1仔、性成熟するのに最低でも7年以上。そして、単位体重当り摂餌量の差も。こうした特性は、気候変動などの要因による環境変化に対し、より敏感に、より素早く反応が起こること、指標動物としてより適性があることを意味します。
 ただし、これはクジラが影響を受けにくいという意味ではなく、繁殖サイクルが長いクジラでは応答が出るまでに時差が生じ、とくに複合的な要因を見極めにくいということ。脂皮厚に関する鯨研のゴニョゴニョ論文を見ればわかるとおり。ちなみに、個体数が少ない猛禽や大型肉食獣は、食物連鎖の高位であることが「敏感さ」につながりますが、食物段階でいえばアデリーペンギンとクロミンクは同じ。
 というわけで、第2ラウンドもアデリーの勝ち!

<ラウンド3> 繁殖生態に関する情報が揃っている

 これはきわめて重要。ご存知のとおり、IWC科学委から繁殖海域と関連情報を取得しろとせっつかれても日本は無視し続けているため、事実上科学的データは白紙の状態。繁殖生態が詳細に掴めていなければ、指標生物にしようがありません。繁殖への影響を詳細に分析できないからです。
 もちろんアデリーペンギンの繁殖はその場で調査されているので、情報量はクロミンクの比ではありません。で、非常に興味深いことが明らかになっています。全体では増加傾向にありますが、南極半島部の営巣地では気候変動が主な原因と見られる個体数減少が起こっているのです。
 気温や海氷の状態の変化は、餌となるオキアミの量や分布の変化を通じてペンギンの繁殖に影響を及ぼします。これはとくにヒゲクジラの中で氷縁をニッチとするクロミンクも同様
 高橋氏によれば、今年の昭和基地周辺の営巣地では、トウゾクカモメさえ持て余すほど抱卵を中断して放棄された卵が見つかったとのこと。ペアは抱卵のため10日から2週間ずつ交代で巣を守り、パートナーが餌を取ってくるわけですが、十分な餌を確保できなかったことが原因とみられます。さらに、なぜ餌が捕れなかったかといえば、今年は基地周辺の氷が厚く張り出し、通常餌を捕るのにペンギンが利用するクラック(氷の裂け目)が営巣地周辺で発達せず、何十キロも氷上を歩かないと海に出られないような状況だったから。雛の孵化率は調査記録の中で最低の3割程度に留まったとのこと。
 こうしたきめ細かい分析が可能なのは、繁殖に関する科学的知見がきちんと得られているからこそ。鯨研の粗悪なガラクタ論文とは比較にならない成果が挙がっているのです。
 第3ラウンドもアデリーの完勝!

<ラウンド4> 殺さない調査のため影響を与えずに膨大な情報が得られる

 上掲リンクで紹介したとおり、バイオロギングはいままさに日進月歩の飛躍的な技術進歩を遂げている野生動物学のトレンド一方、調査捕鯨に代表される致死的調査は、一瞬のスナップショットのみ切り取って貴重な科学的データの宝庫を破壊してしまう、きわめて欠陥の多い手法
 調査捕鯨で国際的に評価されたのは、調査がはじまる前の外野の数学者による論文1本のみというあまりにも情けない始末。「生態系」がどうのと口実をコロコロ替えるだけで、中身は30年間何一つ変わりゃしません。耳垢をスライスしたり、牛の卵子とクジラの精子を掛け合わせるだのくだらん研究にサンプルだけ提供して、論文執筆者に名前を載せてもらったり。「ますますひどくなっている」という対外的評価は、あまりに対照的な非致死的研究の発展ぶりを考えれば当然といえるでしょう。
 アデリーペンギンではGPSデータを使って捕食行動を解析する努力がなされていますが、気候変動の影響を明確に関連付けるためには、詳細な行動記録のデータが欠かせません。鯨研の致死的調査からは机上の推論だけで一歩も先に進まず、南極圏生態系への影響を知りたい研究者と市民に必要な情報を提供できないのです。
 またしてもアデリーの勝ち!

<ラウンド5> 必要な科学的情報を得るためのコストが安い

 日本も含めて各国が競い合うように、クジラなど大型海棲動物を含むさまざまな野生動物を対象に、様々な調査研究が行われるようになり、個人の研究者・少人数のグループが個性的な調査に意欲的に取り組んでいます。データロガーは深海の水圧に耐えるものでも安ければ10万程度で手に入る時代に。
 副産物の収益で50億円前後の予算を賄い、それでも足が出て税金を10億円以上注ぎ込んでいる国家プロジェクトで、延々と1種だけ代わり映えしないケンキュウを続けるという日本の調査捕鯨は、まさに異常としかいいようがありません。
 財団法人の鯨研なのに対し、国立の極地研は、オゾン層観測からペンギンの生態まで、地学・天文・気象・生物と幅広い分野にまたがる国際的にも重要な研究を多く手がけていますが、年間の科学研究費補助金は3億円(’10、件数35件)。クジラオンリーで毎年10数億円出し続けるのはあまりにも馬鹿げた、他の分野の科学を愚弄する話だとさえいえるでしょう。 

<ラウンド6> 各国の協力によって国際調査が実施されており、
政治によって結果が左右されない

 業界と密接に癒着し副産物を市場に流し、調査計画まで恣意的に作られている状況では、データ自体が国際社会から信頼を得られません。南極圏生態系のモニタリングは、世界中のすべての国の利害が一致するはずの課題。各国の協力のもと、中立的な調査研究が保証されるべき。ペンギンの非致死的調査であれば、データにいちゃもんはどこからもきません。クジラに罪はありませんが・・。
 モニタリングの指標動物にしたいのであれば、最低でも調査計画にあたって海外に門戸を開くと共に、副産物販売をやめることが前提
 そーゆーわけで、アデリーペンギンVSクロミンククジラの指標動物対決は6:0で勝負アリ!



◇オマケ

 組織の立場・利益と、個人の心情・感情とは、はっきりと切り分けなければならないのですが、私たちはつい両者を混同したり、取り違えたりしてしまいがち。それもニンゲンという動物の多々ある欠陥の一つといえますが。カリスマ性を備えた人物を前面に立てることで、バックにある集団の論理をオブラートで包んでカモフラージュし、特に若い世代を惹き付ける戦術は、右も左も、赤も緑もなく、国境を越えた普遍性を持っています。
 池上彰の「いい質問ですね〜」にしても、渡部陽一の「戦場カメラマン」なる肩書きやスローテンポのしゃべりにしても、計算づくのキャラ設定であり、TVで顔を売るために用意された道具。蓋を開ければどちらも底の浅いこと浅いこと。ただの一夜漬けの知識を、お茶の間向けに噛み砕いて巧みに提供するテクニックに長けているだけ。たとえこどもじみたパフォーマンスであっても、電波に乗せられて届く単なる一方通行の映像にすぎなくとも、視聴者は一種の錯覚でしかない親近感・好感を覚え、果ては人柄と全然関係のないニュース>氛沛d要な細部が徹底的に削ぎ落とされ、特定の視点のみから論じられた解説>氛氓、中身を問いもせずにすんなりと受け入れるようになってしまう。それも、煎じ詰めれば帰属意識という、悲しい動物・ニンゲンに顕著な習性の故。
 そして、永田町・霞ヶ関も、演出装置であるマスメディアも、対極にあるはずのリベラル市民運動界隈も、結局のところ同じ力学法則に縛られているように思えてなりません。同じ土俵で戦う必要がある以上、如何ともしがたいことかもしれませんが……。
 この「ギョーカイ」でも双方で人気を博しているカリスマがいます。小松正之氏が「世界が選ぶ100人の日本人」にランクインしたのは、寝技をモットーとするこれまでの日本の外交官とは異なるタイプで、定着した日本人のイメージから離れてたという、ただそれだけの話です。何しろ言ってることはムチャクチャなんだから。石原と同レベルのアホ、P・ワトソンは言わずもがな。
 この社会性哺乳類の性癖・心理をより的確に把握し、誘導・操作できた方が勝者だとすれば、反反捕鯨世論をここまで育てあげてきた捕鯨サークルの圧倒的勝利。欧米に対する根深いルサンチマンを見事に引き出した国際PR/捕鯨協会は、クジラよりニンゲンという動物をまさに知り尽くした組織だったといえるでしょう。
 最近は、クジラに限らず原発から沖縄基地問題まで、ムードに流される傾向が一段と強くなった気がするこの頃。冷静に距離を置いて客観的に評価・分析する作業の方は、ますます蔑ろにされてますね・・・
posted by カメクジラネコ at 03:31| Comment(1) | TrackBack(0) | 自然科学系
この記事へのコメント
鯨ウマスよ
ネコも食べたらいいのに
Posted by 鯨ウマス at 2011年09月03日 07:11
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