2011年04月22日

福島第一原発事故と海の野生動物への影響

◇福島第一原発事故と海の野生動物への影響

※JanJanBrog記事をこちらに引っ越しました。

 元データについては、目下のところコウナゴから検出された最大値である4/13、4/18の値を提示しています。鯨肉のセシウム濃度の方は、4/17観測地点5の83.3Bq/Lを使いましたが、4/15観測地点5の186Bq/Lをもとにすると55,800Bq/kgに。このポイントの数値はいったん下がりましたが、観測地点6の方では未だに30Bq/L台で、放出・減衰量というより海況によるのでしょう。

■福島第一原発事故と海の野生動物への影響
http://www.janjanblog.com/archives/37002 (リンク切れ)

 福島第一原発事故の発生から1ヶ月余り、農産物・水産物の放射能汚染が深刻な様相を呈している。4月4日、北茨城沖で採取されたコウナゴから4,080Bq/kgの放射性ヨウ素、447Bq/kgの放射性セシウムが検出された。さらに、いわき沖で採取されたコウナゴからは、4月13日に12,000Bq/kgの放射性ヨウ素及び12,500Bq/kgの放射性セシウムが、4月18日に3,900Bq/kgの放射性ヨウ素及び14,400Bq/kgの放射性セシウムが検出されている。それらのコウナゴから検出された放射性物質の最大値は、放射性ヨウ素で国の定める暫定規制値の6倍、同じく放射性セシウムで29倍にも上る。

  被害を被るのは人間ばかりではない。コウナゴ(イカナゴの幼魚)は食物連鎖の下層に位置する代表的な表層魚の一種である。イカナゴの捕食者には、ヒラメやマダラ、スズキなどの大型魚類、カモメやウ、ウミガラスなど多くの海鳥類、キタオットセイなどの鰭脚類、そして鯨類が含まれる。
  常磐沖には多くの鯨類が回遊しているが、コウナゴを主食とする種もいる。中でも、鹿島灘で小さな群れが観察されてきた絶滅危惧種のスナメリと、仙台湾で沿岸捕獲調査が実施されてきたミンククジラへの影響がとくに懸念される。ちなみに、放射線が動物に与える健康被害については、種の違いよりも性差や年齢差の方が大きいといわれる。さらに、イカナゴは砂地の海底で夏眠する習性があるため、放射能だけでなく津波の被害によっても激減しており、捕食する動物への影響は大きい。
  野生動物の中でも鯨類は寿命が非常に長く、性成熟に達するまでの年齢も高い。寿命の比較的短い他の野生動物に比べ、放射線による発ガンの影響は深刻だ。甲状腺ガンについては、人間では致死率が低いとされるが、海の野生動物の場合は医療行為を受けられるわけでもなく、事情が異なる。もともと繁殖率が低いため、放射線による不妊等の生殖障害の影響や、授乳による母子間汚染も懸念される。
  現在、商業捕鯨は国際委員会により一時停止の措置がとられ、日本政府の委託による調査捕鯨のみが行われている。また、沿岸では定置網での混獲の形で年間100頭を超えるクジラが死亡している。繁殖率の低いデリケートな野生動物の利用の是非をめぐっては議論があるが、海の環境が健全に保たれることが最低限大前提となる。放射能による発ガンや生殖障害による繁殖率の低下は、捕獲によるダメージから立ち直る回復力を奪い、捕鯨継続の大前提が突き崩されることを意味する。
minkecs.png
 上の図は、4月12日に文部科学省が発表した、福島第一原発からの放射性セシウムの海洋への拡散予測と、過去の沿岸調査捕鯨のデータを重ね合わせたものである(出典:文部科学省及び日本鯨類研究所)。紫色は海水の基準値である90Bq/Lを越える海域。放射性物質の濃度の高い海域は、奇しくもコウナゴとその捕食者の分布と重なっている。コウナゴは春のこの時期に仙台湾周辺に集まってくる成長期の若いクジラの主食となっている。文科省のシミュレーションは「4月12日以降は(放射性物質の)排出が停止」との前提に基づいているが、止水板設置などの当座の対策が取られた後も、沖合で採取された海水の分析結果は高い数値を示し続けている。現在のところコウナゴ以外の魚貝類からは高い濃度の放射性物質が検出されていないとのことだが、大型の魚への影響が現れるまでに半年から1年かかるとの見方もある。また、セシウム137の半減期は30年と非常に長い。
  別の角度で見てみよう。4月17日に福島第一原発の沖合30kmの地点で測定された放射性セシウム137の濃度は83.3Bq/L。IAEAの資料によれば、鯨類の筋肉中のセシウムの生体濃縮係数は300倍となっている。単純に当てはめれば、鯨肉中の放射性セシウムの濃度は24,990Bq/kgとなる。もう一度上の図をご覧いただきたい。施設内の各所から地下水や海への汚染水の流出が完全に止まらない限り、放射性物質が今後食物網を通じて海洋生態系全体に拡がり、蓄積していく可能性は否定できない。
  日本政府及び東京電力は、食品汚染に関して「ただちに人体に影響を及ぼす数値ではない」との説明をこの間ずっと繰り返してきた。販売規制や摂取制限は、野生動物たちにとってはまったく意味をなさない。放射能が目でも匂いでもわからないのは、動物たちも一緒である。生物多様性条約締約国会議・名古屋COP10が国内で開かれてから、まだ半年しか経っていない。世界中のどこの国々よりも海の恩恵に頼ってきた私たち日本人は、同じ海に住まう生きものたちへの影響について、もっと真剣に配慮してもよいのではないか。
  東北地方には、魚たちを育てる禁漁区を設けたり、モラトリアムをきっちり遵守したり、乱獲につながる近代技術の導入を自ら拒み伝統的手法を守ってきた、まさに世界に誇れる素晴らしい漁業者の皆さんが大勢おられる。今回の震災では、とりわけそうした零細な沿岸漁業者ほど甚大な被害を被られたことに胸が痛む。一方で、原発推進に長年加担してきた政治力のある漁業団体は、原発震災の部分に関する限り、被害者面だけできる立場にはない。漁業の再生・復興は、「原発と共存」する従来の資源収奪型に戻すのではなく、「海の自然と共存」する漁業へと新たに生まれ変わる形で行われるべきだろう。
  余談になるが、コウナゴの最も主要な捕食者はメロウド(コウナゴの成魚)である。科学的根拠の乏しい鯨食害論を真に受けがちな反反捕鯨論者を中心に、「コウナゴを一番多く食べるのはクジラ」との風説が流布されているようなので、念のため。
  なお、試算や詳細な鯨類等への影響については、下記のリンクを参照されたい。
−食品中の放射性物質の検査結果(厚生労働省報道発表資料)
http://www.maff.go.jp/noutiku_eikyo/mhlw3.html
−海域における放射能濃度のシミュレーションについて(文部科学省報道発表資料)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/04/12/1304939_0412.pdf (リンク切れ)
−Sediment Distribution Coefficients and Concentration Factors for Biota in the Marine Environment(IAEA,2004)
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/TRS422_web.pdf

※ 追記1
 震災の影響で昨年中止されていた三陸沖調査捕鯨(実施主体は地域捕鯨推進協会)が、本年度は実施に移され、既に石巻市場に副産物である鯨肉が出荷されている。放射能検査については、1検体で筋肉中のセシウム137の値が0.7Bq/kgと一応低い値になっている。イカナゴ自体が地震・津波の影響を強く受けたこともあり、イサダ等他の餌生物が利用されたことなども理由としては考えられる。ただ、現在捕獲・検査されている対象は、記事中に図示したように過去の三陸沖調査捕鯨で対象とされてきた仙台湾に集まる群れではなく、鮎川から北北東の南三陸町沖合で捕獲されたものである点も注意されたい。今後も値が提示されたサンプルの性・年齢・採集海域など詳細な情報に注視する必要がある。
 問題は、この値が十分に低い、影響がないといえるかどうかだ。水産庁・関係者はあくまで食品としての安全性の視点しか持ち合わせていない。児童の尿中から検出された放射性セシウムが数Bq/lで水道水や食品の規制値より低いからと、胸を撫で下ろす親はおるまい。猛禽、水鳥、鰭脚類、鯨類等、寿命が長い高次捕食者への被曝の影響に対しては、決して警戒を怠ってはならない。
 河北新報の記事を読むと「ミンククジラが海の生態系に及ぼす影響を探るため」と、まるでクジラや放射能や重金属などニンゲンの文明由来の廃棄物であるかのような書きぶりだが、もちろんクジラはすべての海洋生物と同じく生態系を構成する自然の一部であり、あまりにも馬鹿げた表現といわざるを得ない。エチゼンクラゲやナルトビエイなどの「有害海棲生物」とさえ比較にならないほど、漁業と海洋生態系に甚大な被害を及ぼしたのは、もちろん福島第一原発事故であり、分を弁えず誤った政策を選択した日本という国、ニンゲンという愚かな動物である。復興も道半ばで財政破綻寸前のこの国に、環境影響評価・科学研究予算配分についてここまで優先順位をひっくり返すような余裕はないはずである。記者個人は鯨類の致死的調査も必要だとの立場であるが、それはあくまで放射能による海洋生態系への影響を調べる包括的な調査の一環としてであり、現行の副産物ありきの三陸沖調査捕鯨はまったくその体裁をなしていない。調査は汚染がより懸念される海域を中心に、鯨類以外も含め対象種を幅広く設定し、セシウム以外の放射性元素、筋肉以外の部位についても、徹底的に行われるべきである。(2012年4月22日)

−2年ぶり調査捕鯨 ミンク初の水揚げ 石巻・鮎川(河北新報・4月17日)
http://www.kahoku.co.jp/news/2012/04/20120417t15008.htm (リンク切れ)
−放射能影響調査等における水産物の放射性セシウム及びヨウ素濃度の測定結果(水産総合研究センター ・4月18日)
http://www.fra.affrc.go.jp/eq/result_Cs_I.pdf

※ 追記2 
 2013年3月30日に、飯舘村放射能エコロジー研究会主催のシンポジウムが開かれ、福島周辺の野生動物の異常が報告された。
 福島市内のニホンザルの調査結果によれば、被爆量は外部被爆年間数mSv、内部被爆10mGy程度であるが、白血球の大幅な減少などが見られるとのこと。
 記事中に提示した、高濃度の放射性物質を含むイカナゴを1ヶ月間摂取したと仮定した場合、ミンククジラ、スナメリともに、その内部被爆量は数十mSvに及ぶ可能性がある。
 ニホンザルと同様の異常が起きていないか、詳細な調査が求められる。(2013年4月12日)

−福島原発周辺で「動植物異常」相次ぐ(東洋経済オンライン)
http://toyokeizai.net/articles/-/13516?page=5



◇原発・捕鯨関連ニュースクリッピング

 海洋汚染に関わるニュースが出回ってますね。

■高濃度汚染水、海洋流出は4700兆ベクレル 福島2号機 東電推定、通常制限量の2万倍 (4/21,日経)
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819595E0E3E2E2938DE0E3E2E6E0E2E3E39F9FE2E2E2E2 (リンク切れ)
■海に流れた汚染水、4700兆ベクレル 低濃度の3万倍 (〃,朝日)
http://www.asahi.com/national/update/0421/TKY201104210192.html (リンク切れ)

 日経記事の解説の方が述べているとおり、前提がおかしい気がしますね。クラックが出来たのは本震か最大余震の時でしょうし、トレンチにほぼ満杯になっていたのを発見したのは先月27日(これも直前まで空だったとは考えにくい)、1日にいきなり発見したのは、それまでピットの方向に線量計を向けなかったからでは? むしろ作業員の被曝管理がきちんと出来ているのか不安になります。こういう場合、安全を見越して最少ではなく最大の推計値をきちんと出してほしいものですね。
 それにしても目が回る数字。日経、毎日、東京に比べ朝日はツッコミがイマイチ。NHKに至っては、「750万倍が1200倍に減ってよかったー」といわんばかり。前回の記事で別の場所から漏れている可能性が大なのは指摘しましたが、保安院の言うとおり、取水口側のすさまじいダダ漏れが止まり、急場しのぎとはいえ諸々の対策を講じて影響が最小限に留まっていることを祈りたいものです。

■福島原発の放射性物質、「生態系濃縮」が始まった? (4/6,中央日報)
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=138870&servcode=300&sectcode=300

 韓国メディアの方がきちんと伝えてるね・・。ノルウェーの研究所の件、ソースはここですね。

■Bioaccumulation of 137Cs in pelagic food webs in the Norwegian and Barents Seas
http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6VB2-47426JM-7&_user=1227244&_coverDate=12/31/2003&_rdoc=1&_fmt=high&_orig=gateway&_origin=gateway&_sort=d&_docanchor=&view=c&_acct=C000049104&_version=1&_urlVersion=0&_userid=1227244&md5=a9f65b9530557556c7c09ad9bb65b79e&searchtype=a
http://twitter.com/#!/katukawa/status/56204969103200256

 ネズミイルカの生物濃縮は165倍とありますが、この数字は餌生物によって左右されると見るべきでしょう。オキアミとの記述がありますが、バレンツ海のネズミイルカはたぶんニシンやシシャモ、底魚、イカ等が主食でしょう。甲殻類や頭足類の方が魚類よりCsの濃縮係数は低く、元のコウナゴがすさまじい濃度になっているのでスナメリやミンクなどはやはり心配になります。ちなみに、186Bq/Lを165倍すれば30,690Bq/kg。気がかりなのは当の野生動物と生態系への影響で、不自然な鯨肉の捕食者はどうでもいい・・といいたいとこですが、ヒトの成熟個体はともかく、この値は暫定規制値の61倍。より厳格なEUの乳児食品基準値と比較すれば153倍です。IAEAの濃縮係数を用いた上の数字とEUの乳児基準との比は279倍・・。

■平静を取り戻しつつあるコートジボワール、新政権が初閣議 (4/20,AFP)
http://www.afpbb.com/article/politics/2796346/7110404?utm_source=afpbb&utm_medium=topics&utm_campaign=txt_topics
<blockquote><script type="text/javascript" src="http://jss.afpbb.com/sdata/newsdelivery/sblo/js/sjis/7110000/ad2b203044cba0dec5f6e44c09199e36.js" charset="Shift_JIS"></script></blockquote>

 大使館封鎖で日本でも突然話題に上ったアフリカのコートジボワール。
 国名を聞いても日本との関係、とりわけクジラ/捕鯨・水産ゼネコン利権との関係がピンとこないという方(普通の日本人はほとんどそうでしょう・)は以下の2本の記事をご参照。

■捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!? (3)日本に捕鯨支持という踏絵≠踏まされる開発途上国 (拙HP)
http://www.kkneko.com/oda3.htm
■日本 捕鯨解禁のため、賄賂と女性を使って小国を買収 ('10/6/29,人民網日本語版)
http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2010-06/29/content_20378228.htm

 仏の過干渉がいいとは言いませんが、えげつなさの点で日本のIWC票買い援助にはかないません。内紛の真っ只中の2006年、鯨肉大好き・自民党捕鯨議連の山際元衆院議員が何故か足を運んでいますが、民主化や部族対立の調停に一体どれだけの役割を果たせたんでしょうかね? 白人との対抗意識に燃えた国による、結局同じ「上から目線」での援助ではなく、無国籍の市民の手になる草の根援助でしか民主化の道は切り開けないのではありませんか? 以下はコートジボワール大使岡村氏のブログから引用。

■コートジボワール日誌
http://blog.goo.ne.jp/zoge1/e/635242cf53180a6d1f1a90f5800fcb91


そして、今回の事態に、アフリカ諸国が一番激しく反発している、という事実です。アフリカでせっかく定着しつつある、民主主義と平和と、そして繁栄への道を、コートジボワールが台無しにしている。そのことへの、アフリカ諸国の人々の強い怒りです。
(引用)

■福島第1原発:牛に「ごめん」 警戒区域化で最後の世話 (4/21,毎日)
http://mainichi.jp/select/today/news/20110422k0000m040122000c.html

 畜産農家の皆さん、一時帰宅の折には家畜は畜舎から解放してきてください。どのみち出荷できないんだから。法律改正も、どこぞの連中がギャーギャー吠えてる安楽死の人員・薬剤その他の手配も、その後の処分も間に合うわけなし。そもそも一時帰宅でそんな時間なし。現地には既に野良牛さんも結構な数見られるようで、むしろ先に解放したヒトたちを筆者としては誉めたいです。後のこと、今考えてもしょうがないですよ。誰もが予想はつくと思うけど・・。
 被曝は避けられないけど、束の間であっても自由に生きて自由に死ぬ方が、この子たちにとってはマシかもしれないね・・・。筆者の郷里には、奈良時代に共に行脚した姫との別れを悲嘆して入水自殺した牛の物語が伝わっています。今と違って純粋なパートナーだった時代の、日本人が動物たちと目線を近しくしていた頃の話。どのみち殺して金にかえるだけの私有財産としか見ていないニンゲンとの別れを、嘆き悲しむ牛もいなかろう。
 野良牛や野良ワンコが闊歩し、ときどきヘンなカッコした二足歩行動物が出入りする放射能汚染地帯──なんともシュールな絵です。
posted by カメクジラネコ at 02:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/44489047
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック