2009年06月08日

調査捕鯨による温室効果ガス排出量はやっぱり最低でも年間4万トン(C02換算)以上だった!

◇調査捕鯨による温室効果ガス排出量はやっぱり最低でも年間4万トン(C02換算)以上だった!
 
 
 

 調査捕鯨による温室効果ガス排出量について、どうしても理解できないという一般の方のために、いくつかQ&A形式でお答えしたいと思います。

Q:船舶からのCO2は、エンジンの主機から排出されるものだけではないのでしょうか?



A:船舶で燃料を消費する機関は主機だけではなく、補助ディーゼル(発電機用)、補助ボイラーがあります。
 貨物船の試算では、燃料消費における主機関の比率は空荷航行の場合で8割、積荷航行の場合6割前後です。電力供給の必要な冷凍・冷蔵室や、スリップウェイ・ウインチ等の各種動力設備を備える捕鯨母船・捕鯨船では、主機の燃料消費比率がさらに下がるでしょう。
 また、ボイラーからは温室効果の非常に高いメタンや、大気汚染を引き起こすSOx、NOxなどが大量に排出されます。
 ですので、船舶からのCO2排出量は、主機の推進能力のみから求めることは不可能です。

参考リンク:
■船舶に係る排出量|環境省
http://www.env.go.jp/chemi/prtr/result/todokedegaiH18/suikei/sanko15.pdf
■船舶の運航に係るインベントリー分析|海上技術安全研究所
http://www.nmri.go.jp/lca/lca_hp/pdf/15.pdf

Q:記事中のリンク先にある重油価格が、半年前のものになっているのはなぜでしょうか?

A:リンク先で公表されている重油価格の統計データは、市況価格を調査し確定してからネット上で公開されるため、当然ながら時差があります。拙記事発表時にはC重油が前年11月、A重油が5月が最新値だったというだけにすぎません。記事掲載時にリンクを確認された方はご理解いただいていると思いますが。
 ちなみに、以下の参照リンクをご覧のとおり、’09年6月8日現在のC重油価格は’08年6月、A重油価格は’09年4月時点が最新データとなっています。

■A重油納入価格調査結果推移表|石油情報センター
http://oil-info.ieej.or.jp/price/data/Ajuyu.pdf
■原油リッター価格|太陽光発電メーカー・オージーテック
http://homepage2.nifty.com/ogtech/gennyunedann.html (リンク切れ)

 続いて補足に入りましょう。
 JANJAN記事では、調査捕鯨活動にかかる温室効果ガス排出を「燃料消費中のCO2排出のみ」に限った場合、その排出量は2.7万〜3万トンと見積もりました。これは掲載時の試算ですが、重油価格差が翌月に前年比40円高とさらに10円も値上がりすることを考慮していなかったため、実際には3.9万(A重油のみ)〜4.9万トン(C重油のみ)と見積もられます。
 加えて、鯨肉生産活動に不可欠の存在である補給&中積輸送船第二飛洋丸(旧称オリエンタル・ブルーバード号)8,725トンによる燃料消費も入れる必要があります。本当は、第68福吉丸とか隠し玉のスパイ船も入れるべきだけど・・。
 第二飛洋丸については、正式な調査船団に加わっておらず、共同船舶の所有でもないため、前掲の燃料コストとして計上されていない可能性があります。大雑把な試算ですが、燃費と航行距離をもとにした第二飛洋丸の燃料消費によるC02排出量は、おおよそ2千トン程度と推計されます。
 繰り返しの補足になりますが、仮に商業捕鯨が再開された場合でも、RMS下では目視調査による個体数把握が必須であり、鯨肉生産活動の一部とみなされるのは当然のことです。

■捕鯨がエコ」だなんて冗談キツイ! 大法螺ばっかり吹いている水産庁の天下り団体と産経新聞 (拙過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/28686903.html

 そのうえ、ここには船舶からのメタン(地球温暖化係数・GWPはCO2の21倍)等の温室効果ガス及び代替フロンHFCの漏洩(GWPは高いものでC02の1万倍以上)が含まれていません。
 このうち、船舶のボイラー燃焼によって排出されるメタンについては、停泊時・低速時の排出量が増加するため、操業期間中もアイドリングを続ける捕鯨母船のメタン排出量は通常の船舶よりかなり多いと考えられます。もっとも、IMOの海洋環境保護委員会の試算では、外航船舶全体でメタンの排出はCO2排出の1%程度と推測されているようです。
 一方、HFCの排出量についても、同委員会の試算によれば、全体でCO2排出の1〜2%とされています。ただし、こちらは要注意。食料品等低温輸送が必要な貨物で使われるリーファー・コンテナからの冷媒の排出量を、原油タンカーや各種の貨物船等をひっくるめた外航船舶すべてのC02排出量と対比させているからです。


■船舶からの大気汚染の防止・外航船舶からのCO2以外の温室効果ガス排出量の見積り|海洋政策研究財団
http://www.sof.or.jp/jp/outline/pdf/06_04.pdf

 で、今回新たに調査捕鯨船団のHFC排出計算にチャレンジしてみることにしました。算出はかなり難度が高いのですが、冷媒関係の資料を渉猟してざっくりながら数値化に成功。結論を先に述べると、なんと1.6万トン(C02換算)以上という結果に。
 リンク先に詳細がありますのでそちらをご参照いただきたいと思いますが、冷凍空調機器の冷媒には強力な温室効果を発揮する各種HFC等の代替フロンが用いられています。代替フロンは機器出荷の際の封入時の漏出、稼動時の自然漏出(スローリーク)とメンテナンスもしくは事故時の漏出、廃棄時の回収漏れ等の形で大気中に放出されます。その排出量は、2.5kwの家庭用エアコン1台で年間なんと約160kg(CO2換算)。皮肉にも、新型の省エネタイプの方が数字が高くなります。冷媒量が家庭用の4倍になる店舗用エアコンでは約600kg(CO2換算)。

 他の冷凍設備については直接試算したデータが見当たらないので、まず冷媒の充填量を調べてみましょう。業務用大型冷凍機の冷媒充填量は、家庭用エアコンの充填量1kgの500倍に当たる500kg。漁船の冷凍設備に至っては、船の総トン数100トンクラスで約1,500kg、総トン数350トンないし450トンクラスでなんと家庭用エアコンの4千倍に当たる約4,000kg
 冷媒の回収率は32%のため、全充填量の約7割は逃げてしまっている計算です。そのうえ、この4月の朝日報道によればリークの見積が甘かったことがわかり、代替フロン分の排出は想定の2倍に上方修正されました。スローリークとメンテナンス時のリークを合わせた機器稼動時のリーク率を表す排出係数(冷媒充填量に占めるリーク量の比率/年)は、家庭用エアコンの2%(修正前0.2%)に対し、輸送用冷凍冷蔵ユニットでは15%(修正前9%)。上掲の貨物船の冷蔵コンテナの場合、充填量の3〜4倍の量を再補充している、すなわちその分が漏出してしまっているとの見積もあります。
 さて、冷凍倉庫を備えた調査船団中の船舶は3隻、母船日新丸(倉庫容量1,700トン)・補給船第2飛洋丸(容量2,300トン?)・目視船の1隻第2共新丸(容量300トン)です。このうち第2共新丸の冷蔵設備の冷媒充填量を前掲の4,000kgと仮定し、各船の冷媒充填量を冷凍倉庫の容量に基づいて計算してみると、合わせて約53トン。冷凍機の耐用年数を12年として回収不能分を年間当りに換算すると充填量の5.7%、稼動時の漏出が15%、両者を合わせて20.7%なので、年間リーク量はおよそ11トン。冷媒をHFC134Aと仮定した場合、GWPが1,430なので、CO2換算にして約1.6万トン。冷媒がGWP2,000のHFC410Aであれば約2.2万トン、冷媒がGWP1,500のHCFC22であれば約1.7万トン。ま、いろいろ誤差を含め、最低でも1万トンを下ることはないでしょう。
 ちなみに、HCFCはオゾン層を破壊するためモントリオール議定書の規制対象となっており、2005年以降新規生産はほぼなくなっていますが、稼動中の旧機種の再補充用がまだ生産されています。調査船団が冷凍設備を新型に更新していなければ、HCFCが現在でも使われている可能性はあります。わざわざ南極くんだりまで出かけて直接野生動物を捕殺するのみならず、オゾン層破壊物質兼強力な地球温暖化ガスを撒き散らすことで、オゾンホールを拡大させたり氷床を後退させ、クジラたちを含む南極生態系を深刻な脅威にさらしているわけですな・・。
 もう一点、母船日新丸は2007年に船内加工場で火災を引き起こし、この時船員の方1名が亡くなっています。冷凍機に影響があったかどうかは不明ですが、少なくともメンテナンスによる再補充が行われた可能性は高く、その際には冷媒の大半が放出される形になります。
 かてて加えて、鯨肉の在庫率は水産物の平均に比べても異常に高いため、捕鯨船団の排出のみならず、陸上での冷凍冷蔵保管にかかる単位生産重量当りの温室効果ガス排出及び電力消費量は、その分他の食品より大幅に高いことになります。
 捕鯨擁護派は、適当な理由を付けて過剰在庫を正当化しようとしていますが、皮肉なことにその膨大な在庫のせいで環境負荷を押し上げてしまっているのです。捕鯨がエコなんて嘘っぱちもいいところ。

■ヒートポンプについて、私は無知だった −2020年の温暖化ガス排出量目標値(中期目標値)との関連で考える−|中西準子のホームページ
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak466_470.html
■代替フロン漏れ、想定の2倍 国、温室ガスの排出量修正 (3/21,朝日)
http://www.asahi.com/eco/TKY200903200258.html (リンク切れ)
■地球温暖化防止のための冷凍空調機器業界の取り組み ('08/12/9,日本冷凍空調工業会)
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g81209b10j.pdf
「冷凍空調機器に関する使用時排出係数等の見直しについて」(3/17,経産省製造産業局)
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90317a02j.pdf

 というわけで、船舶の燃料消費のC02分と船舶の冷凍設備のHFC分という2要素だけの合計でも、年間の温室効果ガス排出量は4万トン(C02換算)を確実に超えてしまっているのです。
 仮に4.5万トンとすれば、調査捕鯨による鯨肉生産を5千トンとして鯨肉生産1kg当りに直した数字は9kg。排出量を見積最大値の5.5万トンとすれば、鯨肉生産1kg当りでは11kgに。さらに陸上輸送分とLCAについても考慮する必要があります。鉄鉱・鉄鋼・造船にかかる温室効果ガス排出(特に大きいのが鉄鋼の生産重量当りの電力消費と石炭燃焼によるC02排出)その他諸々の数値が含まれなければなりません。ですが、こちらはもっと大変なのでまた別の機会に譲りたいと思います。
 

 燃料消費量と冷凍設備の仕様については、もちろん当の共同船舶は承知しているはず。水産庁や独立行政法人の水研センターと異なり建前上1私企業ですし、「不都合な真実」について自ら公開する気はさらさらないでしょう。しかし、国民の血税を投じた事業で利益を得ている以上は、企業としての社会的責任をきちんと果たしてもらいたいものです。「土産」騒動の経緯や人命喪失につながった重大な事故への対応を見ても、この会社はコンプライアンスの概念とは無縁に思えますが・・・
 JANJAN記事は産経記事の虚報──水産庁の見解を捻じ曲げ、水研センターの公式調査であると偽り、「船舶の燃料消費のみ」という事実に反する主張を展開し、排出量について極端に過少な数字を挙げた──を明らかにしただけのものであり、鯨肉生産と牛肉生産の比較は行っておりません。また以前ブログでお伝えしたとおり、「牛肉生産は鯨肉生産よりエコである」という、産経と同レベルの逆の主張が存在するとすれば、それも否定せざるを得ません(筆者はそんなものを見たことはありませんが)。結論として、同等の条件で両者を比較するのは非常に困難であるという点は、研究者クラスの方であれば容易に同意されることと思います。反・反捕鯨論者の「捕鯨はエコ」という素朴な主張は、検証の余地すらない信仰レベルのお話。
 もう一つの視点として、オルタナティブの問題があります。実は最も合理的なのは、両者とも排出量の低い豚肉や鶏肉に切り替えれば済む、という答え。海外でなら十分通用するはずの「植物蛋白で十分だろ!」という主張を声高にいえないのは、優れた伝統菜食文化を失ってしまった日本人としては大変悲しいものがありますが・・。
 そして、肝心なのは、年間1900万トン以上という世界の年間食糧援助量の3倍に達する膨大な食糧廃棄量を徹底的に削り、その分の生産量を減らすこと。これは何を減らしても削減につながり、また手っ取り早く減らすほどより実効的です。そういう意味では、捕鯨を潰すのはかなり合理的な選択とはいえますけどね・・。
 地球温暖化問題にまったく無理解で、一般的な対策に関する議論の文脈を完全に無視する反・反捕鯨論者の滑稽なロンリは、温暖化の促進につながるだけなので無視するとして、公平・公正な観点から見た場合、「捕鯨がエコ」であると主張できる道がたった一つだけ残されています。それは、実際に具体的な排出削減対策を講じてそれを世界に示すこと。要するに、単位生産量当りでも総量でもいいのですが、より大胆な排出削減策を、先に打ち出し、数字で示した方が勝ち。
 牛肉生産については、上掲論文にもあった有機農法への切り替え、メタン回収・再利用技術の導入、システイン含有飼料への切り替えなど、効果的に排出削減を図る技術が既に存在します。それに対して、捕鯨船・捕鯨母船の燃費改善とLCA負荷削減はかなり難題。新造船で多少の改善は図れるかもしれませんが、新規に莫大な環境負荷が発生することに。冷媒についてはアンモニアを利用した漁船用冷凍設備が実用化されているものの、現時点ではまだ普及には至っていません。
 はっきりした高い削減効果が期待できる最も合理的なオルタナティブは、遠洋母船式捕鯨から沿岸捕鯨への切り替えです。後は、牛肉生産については畜産業界・日本政府(農水省)・畜肉輸出国政府(米豪等)の、鯨肉生産については共同船舶・日本政府(農水省)のやる気次第。
 捕鯨サークルが沿岸捕鯨への切り替えという簡単で現実的な選択肢をとるなり、斬新な代替技術の導入を確約するなりして(ハードルが高いうえに鯨肉販売価格を更に押し上げる高コスト体質に直結しますが・・)、地球温暖化対策に積極的な姿勢を具体的に打ち出すのであれば、そして、それが畜産業界の行動より勝っているならば、「捕鯨はエコ」という主張は確かに一定の正当性を持ち得るでしょう。
 ただし、日本の農水省がどちらかをエコヒーキすることは許されない話。なぜって、政府にとっては日本のトータルの排出量を減らすことが第一義だからです。公平にバックアップするか、もしくは第三者に検証させてコストパフォーマンスの優れた方を優先するべき。

■「鯨肉は牛肉よりエコ?」報道に関する公開質問状 (拙過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/29378622.html
■捕鯨は牛肉生産のオルタナティブになり得ない (拙HP)
http://www.kkneko.com/ushi.htm

 最後に、もう一点補足しておきましょう。オバカな御用新聞や応援団と異なり、一昨年にノルウェーの捕鯨擁護団体ハイノース・アライアンスが、産経よりはマシながら日本の遠洋捕鯨とは無関係な「捕鯨はエコ」主張を展開したときも、捕鯨サークル自身は沈黙を守っていました
 それには一つの大きな理由があると考えられます。鯨肉と牛肉その他との置換が可能だという議論は、彼らにとっては“諸刃の剣”となって自らに跳ね返ってくる非常にキケンなもの。
 
今回の一件が、産経の暴走によるのか、裏でやっぱりつるんでいたのかはもちろんわかりませんが、筆者に横槍を入れてもらってホッとしているヒトも、中にはいるかもしれません。
 おそらく彼らは、「捕鯨はエコ」という主張を二度としないでしょう。「環境に優しい捕鯨」に生まれ変わるべく真剣に努力を払うこともしないでしょう。環境負荷をバンバン増やすことを至上命題とする持続的利用論と唯我独尊的食文化論に、これまで以上にしがみつくことでしょう。

posted by カメクジラネコ at 20:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系
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