2009年05月28日

沿岸調査捕鯨が日本の漁業の役に立つ!? んなアホな!!

◇クジラ関連ニュース・クリッピング

■沿岸捕鯨再開 合意まで粘り強い交渉を (5/25,西日本新聞社説)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/98090 (リンク切れ)

 全国紙の産経に並ぶ地方紙の捕鯨ヨイショ筆頭株、西日本新聞。内容は中日社説と同レベル。
 捕鯨ニッポンのカガク的ジゾク的捕鯨論は、北朝鮮の唱える核抑止論に瓜二つですね。NPTや6カ国協議を蹴ったならず者国家のように、環境ならず者国家がIWCを蹴って破綻への道を歩みだすことがありませんように・・・


参考リンク:
■IWC中間会合関連報道クリッピング (拙過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/27603022.html

 

◇沿岸調査捕鯨が日本の漁業の役に立つ!? んなアホな!!

■三陸沖鯨類捕獲調査:結果を発表 仙台湾にミンククジラ多く回遊 (5/27,毎日宮城版/河北新報)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090527-00000031-mailo-l04 (リンク切れ)
http://www.sanriku-kahoku.com/news/2009_05/i/090527i-chousahogei.html (リンク切れ)
■2009年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)沿岸域調査(三陸沖鯨類捕獲調査)の終了について (5/26,農水省)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/enyou/090526.html

 シーシェパード口撃が主要任務らしい鯨研は相も変わらず自前のHPで何の発表もせず、農水省はサラリと数行のみ。なので、報道した毎日新聞の地方版と河北新報の記事をチェックしてみましょう。

「沿岸商業捕鯨が行われていた1980年代の環境に戻った」とする調査成果を明らかにした。(引用)

 上記は毎日からの引用ですが、要注意。ここでいう「環境」とは、一体何を指しているのでしょう? 記者は一体どういうつもりでこの用語を用いたのでしょう? 読者の皆さん、理解できました?
 もう一方の河北新報記事を読むと、一体何が言いたかったのか≠ェ少し見えてきます。


未成熟個体が多かったことについて、調査総括の加藤秀弘東京海洋大教授は「長期的な海況変動で餌分布が変化したため、若い個体がそれにつられたのではないか」との見方を示した。「一九八八年の商業捕鯨モラトリアム(凍結)以前の個体分布のようだ」とも話した。(引用)

 そもそも60頭では統計的なサンプルとして有用な数字とはいえないのですが(だから曖昧な表現にとどまっている)、年齢分布が過去のそれに近いといってるだけ。沿岸事業者の捕獲統計データはメチャクチャだったことも指摘されていますし・・。加藤氏はこの点について、もっともらしい解釈(青字部分)を付けています。が、「個体数が戻った」などとは一言も言ってません。当然ですけど。赤字の部分は研究者らしくない蛇足の感想
 毎日の短い記事は、二つの非常に危険な誤解を生みかねない内容となってしまっています。

1.「環境」という言葉を用いることで、「生態系の解明に役立つ調査」というイメージを演出している。

2.「商業捕鯨していた時代のクジラの数に戻った」と匂わせている。「捕鯨によって激減した個体数がモラトリアムの効果で戻った」という見方も成り立ちますが、そう読む読者はいないでしょうね・・。

 そういうわけで、記事としての質は河北新報の勝ち。
 両紙にはもう一点気になる記述が。平均体長が調査開始以来最小(過去5年間の平均6mから5.1m)。今回の調査では未成熟個体の比率が高かった、というだけにすぎないのでしょうが、捕獲数が多いメスの平均体長がオスより小さいのが、統計的にあまり意味がないとはいえ、ちょっと気になります。通常はメスの方がサイズがでかいはず。
 この沿岸調査捕鯨は、漁業とクジラとの競合関係を調べるという建前で行われています。調査捕鯨で南極からわざわざ持ち込んだあぶれ鯨肉のせいで割を食っている沿岸事業者に仕事を与えて不満を封じること本当の動機といえますが・・。とはいえ、この建前の正当性がどれほどのものか、もう少し突っ込んでチェックしてみましょう。

 ぶったまげたトンデモ食害論については、筆者や猫玉さん、marburg_aromatics_chemさん、Adarchismさんをはじめ市民ブロガーのみなさんが何度も何度もな・ん・ど・も、さんざん繰り返し、あの捕鯨ニッポンを代表する立場の森下参事官でさえ曖昧表現三段活用法を使って否定してくれているにもかかわらず、一向に火の粉が衰える気配がありません。『SCIENCE』のような科学専門誌から『TIME』のような一般誌まで論文・記事が掲載され、世界でもすでに知れ渡っていることなのに、日本でのみ常識と非常識が逆転しているのはあまりに恥ずかしいことといわざるを得ません。これもひとえに、捕鯨サークルと梅崎氏を始めとする宣伝マンのせいですが・・・
 で、今回の沿岸調査捕鯨の結果報告に合わせ、胃内容物の82%を占めていたというイカナゴ(地方名メロウド)に関する文献を拾ってみました。

■イカナゴ資源管理に関する研究|三重県水産研究所
http://www.mpstpc.pref.mie.jp/SUI/100aniv/85.HTM
■研究紹介:生態系アプローチ|Finding
the balance of nature and man (水研センター・清田外洋生態系G長のHP)http://cse.fra.affrc.go.jp/kiyo/home/pop/intro/Research.html
■平成15年イカナゴ類層や海況の資源評価|北海道区水産研究所
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests15/details/1572.pdf
■イカナゴシンコ(新仔)の漁況予報|兵庫県水産技術センター
http://hyogo-nourinsuisangc.jp/18-panel/pdf/h19/suisan_01.pdf
■瀬戸内海における最近の漁獲量減少傾向〜クラゲが魚を駆逐する?|広島大学海洋生態系評価論研究室
http://home.hiroshima-u.ac.jp/hubol/essay/gyojelly2.html

 一番上のリンクには、半世紀をかけた地道な研究の成果が記されています。もちろん、クジラのクの字も出てきません
 魚探(魚群探知機)の導入により新仔の漁獲が飛躍的に増大、資源の急激な減少を招いたこと。当初、親魚の禁漁を指導しようと試みたものの、科学的資源管理手法が「容易に漁業者には受け入れられず、資源の回復は進まなかった」こと。爆笑を買った」との記述も見られますね。これ、よくあるパターン”です。
 漁業者の自制力、「海の自然への理解」って、しょせんこの程度の代物なのです。真に優れた漁業者とは、その「無知」を自覚して、短期的損益を覚悟のうえで研究者の助言に真摯に耳を傾けられる人たち。関係者であれば、言われずとも黙って頷くはずのこと。そして、残念ながら日本の近代捕鯨事業者の中には、まっとうな漁業者はスズメの涙ほども存在しなかったようですが・・。三重のイカナゴ漁のケースでいえば、漁業者の理解を得て、こうした資源管理が成果を挙げるまでには、結局30年、40年の歳月を要しています。
 イカナゴの捕食者には、ヒラメやマダラなどの大型魚類、カモメやウ、ウミガラスなど多くの海鳥類、そして海棲哺乳類がいます。海棲哺乳類の中には、クジラ以外の鰭脚類も当然含まれます。調査捕鯨を行った仙台湾のイカナゴ資源と関係するのはキタオットセイ。2番目のリンクは水産総合研究センター(「捕鯨はエコ」と言い出したIWC政府代表中前氏が理事長やってるとこですが・・)の研究者の方のHPなのですが、キタオットセイについてはちゃんと非致死的な生態調査に取り組んでおられる模様。

・東北沖における浮魚相の長期変動に対するキタオットセイの反応
仙台湾におけるキタオットセイとイカナゴと漁業の相互関係
非捕殺的手法による海生哺乳類の食性推定

 実はもうひとつ、捕食者の中にはイカナゴ自身(親魚)も入っていたりします(1番目のリンク)。

イカナゴ親魚が仔魚を共食いする現象についても、飼育実験や野外調査を通じて定量的評価が試みられ、再生産に及ぼす影響がきわめて大きく、リッカー型再生産関係を形成する主な要因となっていることが明らかとなった。伊勢湾産イカナゴの加入量は、基本的には親魚量によって決定されることがわかり、翌年漁期のために適切な親魚量を確保するという「再生産型資源管理」の有効性が理論的に裏付けられた。(以上引用)

 逆説的に聞こえるかもしれませんが、イカナゴの場合、親魚があまり多いと返って再生産率が落ちるのです。これもまた、イカナゴ以外の魚種にも見られる、よくあるパターン。一定の周期で大きな魚種変動を引き起こすメカニズムのうちの一つと考えられます。年齢分布がある程度分散されていれば、極端な変化は起きないと考えられるので、まじめな水産研究機関≠ヘそれに沿った資源管理・漁況予測を行っているわけです。
 素朴な間引き論者からは、「イカナゴを守るためにイカナゴを間引けといったトンチンカンな主張が飛び出してきそうですね・・。
 イカナゴを取り巻く生態系を本当に把握しようと思ったら、すべての捕食者(親魚含む)の個体数・摂餌量の解明に等価のリソースを投入しなくてはなりません。しかも、胃内容物調査はバイオプシーによる脂肪酸解析と異なり、捕殺直前に食べた餌生物しかわからず、「この時季の捕食者のひとつ」といっているにすぎません。まさに調査捕鯨の科学的不必要性を示すもの。
 また、イカナゴの幼魚はカイアシ類などの小型の動物プランクトンと珪藻、成魚は各種の小動物(同種の稚魚含む)を捕食します。漁業資源の動向を見極める上では、餌生物の資源状態は捕食者以上に重要。研究者であれば常識でしょう。また、競合種の資源状態の把握もやはり捕食者以上に重要。
 実は、イカナゴにとって脅威になっているのはクジラではなく、同じエサを奪い合う関係にあるクラゲの方(5番目のリンク)。何しろ、ニンゲンによる汚染や生態系の種構成変化に強いですからね・・。
 もう一つ、温暖化による海水温や潮流の変化の把握も重要。特に仙台湾のような内湾であれば、こうした物理的変化が生態系に与える影響は深刻です。クジラはまだよそへ行けばいいでしょうが・・。

 もう一つの参考資料をご紹介。

■中日新聞は「クジラ食害論」を信じているのだろうか|ドイツ語好きの化学者のメモ
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/61376980.html

 上掲ブログで、ミンククジラの餌生物のもう一種であるサンマについて解説してくれていますが、サンマの最大の捕食者はスルメイカ。繁殖率・個体数・生物量(バイオマス)を考慮するなら、ミンククジラの間引き効果は完全に相殺されてしまうでしょう。むしろ、スルメイカの再生産率を上げて、逆にサンマの漁獲量を減らしてしまう可能性の方が高いとさえいえます。
 クジラと漁業のみに焦点を絞った“作業”は、漁業にとって有害以外の何物でもありません。
 
森の中のたった2本の木の関係だけを見て、森全体がわかるはずがないでしょう。特定の海域、特定の時季、特定の対象種に限って大量の経年胃内容物サンプリングを行うという、すさまじいまでに偏向した異常でいびつな生態学調査は、世界でも例をみません。科学的あまりに無意味だからです。
 最初に業態存続ありきの調査捕鯨からは、漁業管理に本当に役立つ成果など決して上がってくることはありません。断言。

posted by カメクジラネコ at 01:16| Comment(3) | TrackBack(0) | 自然科学系
この記事へのコメント
「食害論」関係になると思いますが、6月19日発売予定の岩波新書、川崎健著「イワシと気候変動」の内容に期待しています。著者は、イワシの資源量変化の研究からレジームシフト仮説を提唱した研究者です。何年もかけて、やっと世界に認められた理論なのに、「クジラのせいでイワシが減った」と騒ぐ人たちは、日本人が世界に誇るべき先駆的研究を侮辱しています。残念なことです。「クジラ食害論」を仮説としても、出発点としては認めますが、証拠を積み上げていく段階で仮説が合わなくなったら、新しい仮説で再検討するべきです。まあ、理系センスがない人に何を言っても無理なので、放置するしかないですね。
Posted by marburg_aromatics_chem at 2009年05月28日 06:59
イカナゴの共食いは始めて知りました。
自然は過酷ですね。
まあ、鯨食害論を大っぴらに吹聴する前から、ミンククジラがイカナゴを捕食するから駆除しようという話は出ていたので、むしろ鯨研的には本丸なのかもしれませんが、環境が戻ったというよりは状況がそれっぽくなってるというだけですね。
流石トンデモ食害論、健康食品の個人で異なる効能みたいだ(食害論も主観で異なりますのテロップを入れないとダメだ)。

まあ、環境を語るなら鯨以外の要素を見ないと、木を見て森を見ないってそのままの状況ですね。
Posted by 猫玉 at 2009年05月28日 18:48
>marburg_aromatics_chemさん
出発点にいつまでもしがみついているか、「いや、ミンクじゃなくてザトウが増えた」とかすっとぼけて摩り替えるヒトたちですからね。。元締めの水産庁が偏向してるせいで、真面目に研究されている水産学者の皆さんは本当にいい迷惑なんじゃないでしょうか。

>猫玉さん
うちのメダカさんも体長差が大きいと危険だったり(^^;
テロップはテレビに1mに近づかないと読めなくて2秒だけとか。食害マルチ商法は不正競争防止法違反だと思います・・・
Posted by ネコ at 2009年05月29日 01:45
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