2009年05月23日

迷いクジラと戸惑う捕鯨ニッポン/石破農相に無謀な脱退論を戒めるコメントをさせたのは誰?

◇迷いクジラと戸惑う捕鯨ニッポン

■「鳴き声」効果なし 田辺の迷いクジラ (5/20,紀伊民報)
http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=167980 (リンク切れ)
■金属音に反応 田辺の迷いクジラ (5/22,紀伊民報)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090522-00000003-agara-l30 (リンク切れ)

 1日1万人の見物客ですから、釧路のクーちゃん負けない経済効果を発揮してくれていますね。過去の経験からか、名前を付けるのは慎重に避けているようですが・・。
 捕鯨シンパが「差別だ!」と言って吠えないのが、不思議っちゃ不思議。捕鯨で大型鯨類を年間千頭前後、イルカを含む歯クジラで言えば未だに年間1万頭以上殺している国で、ラッコやアザラシ、動物園にいてときどき逃げ出したりするアイドルたちのようにカワイイ(?)名前も付けられず。大きな矛盾を前に、誰もが気まずい思いを抱えていることでしょう・・。
 「音が聞こえてないから反応しない」という、鯨研石川氏の見立ては見事ハズレ。聴覚に何らかの支障がある可能性は残っていますが、聞こえてはいるということです。いつも反応寄越さない死体ばっかり相手にしているものだから、こういう場合にどうしたらいいかわからないのも当然でしょうね・・。石川氏に代わってやってきた三重大の吉岡氏も、「音をどう受け止めているか分からない」とサジを投げています。
 この個体は、おそらく体調上の理由か、闘争に負けたか何かで、若い雄同士が作る群れを離れたものと見られます。クリック音なんか使ったって、「こんなとこで飯探してるバカがいる」と無視されるのがオチ。警告音については、必ずシチュエーションに応じた複数のパターンがあるはずです。群れのタイプ、受信者、送信者によっても違うはず(母親が仔クジラに発したもの、特定の血縁個体に発したもの、不特定の群れの構成メンバーに発したものなど)。
 小型歯鯨のイルカ、カラス、ゾウなどの高度な社会性動物では、記号化された音声信号(少なくとも数十以上のバリエーションがある)も確認されています。バンクーバーのシャチでは鳴音による個体識別も行われています。どんな状況で、誰が、誰に向けて発したシグナルか、鯨研はきちんと把握しているでしょうか? 群れや個体に固有でない、捕食者(捕鯨船を指すパターンがあるかどうか知らんけど・・)の危険を知らせる共通の警告音だとわかっていれば、岸壁から移動させられる可能性はあります。しかし、「その場から離れる」よう警告するメッセージか、「その場にとどまる」よう警告するメッセージか、警告音によってニュアンスが異なる可能性もあります。イルカ、カラス、ゾウでも知られているとおり、「仲間に救出を求める」信号もあります。
 それらのサインの意味について分析する研究に、日本の鯨類学は一体どれだけのリソースを割いてきたでしょうか?
 ライバルオスの同性に対する「警告音」などを発してしまったら、挑発に応じないよう「しばらくの間じっととどまってる方が無難だ」という判断が働いて、逆効果になるかもしれません。ニンゲンの可聴域外のシグナルまで拾っているのか、使用したスピーカーの帯域でカバーできているのかも疑問。
 非致死的な社会行動の研究を怠ってきた鯨研が、継続的な目視観察中の群れからほぼ特定できるシチュエーションに応じて発せられた警告音を採取し、データとして保管していたとは思えません。発表された論文のタイトルくらいは目を通すハズでしょうが、専ら非致死的調査を行っている各国の生物学者に対して、「データをぜひうちにも分けてくれ」なんて持ちかけるはずもなし。代わりに、自分たちが調査捕鯨の生データを公開するハメになるのはごめんでしょうしね・・。そもそも、捕鯨業界とつるんで毎年耳垢ほじってるだけの御用学者に、そうした情報を効果的に活用できるはずがありません。
 非致死的研究をずっとさぼってきた日本の鯨類学者が、こういうときに情けないほど無力で役立たずであることが、図らずも明らかになったわけです。
 今からでも決して遅くはありません。業界にべったり依存するのをやめ、まともな生物学者らしく生まれ変わってください。

 

◇ブログご紹介〜石破農相に無謀な脱退論を戒めるコメントをさせたのは誰?


 以下背景着色部分引用。

■干拓事業並みの捕鯨 (5/21,紅海だより)
http://inlinedive.seesaa.net/article/119942178.html

「巨額の税金を投入して、国際世界で商業捕鯨を認めさせました。そして、商業捕鯨の参入業者はありませんでした」というシナリオは、ダムはつくったけれど、利用する業者はありませんでしたという構図と同一です。確固たる再開後のロードマップどころか企画もないのにそんなものやるほうが無茶です。


 JANJANさんでのODA記事をご紹介いただきました。いつもながらNAOKIさんのレトリックの妙には舌を巻きます。筆者も見習いたい・・


■新型インフル 列島震撼! ※ただしイケメンに限るw (5/22、ルシエルさんのブログw)
http://marpi.blog.so-net.ne.jp/20090521

 舌鋒鋭いルシエルさんのブログ。GPのQ&Aコーナーに。

脅す訳ではないが,この国で反捕鯨を謳うのは本当に死と隣り合わせの青春なのだw


 筆者もそろそろ危険領域かもニャ〜w

 

■IWC小作業部会について石破農相は「雰囲気はずいぶんと改善をしたと聞い」たそうだ (ドイツ語好きの化学者のメモ)
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/61329972.html

 先日お伝えした作業部会の結果を受けた石破農相の記者会見(農水省HP)を化学者さんが拾ってくれています。

「科学的知見に基づいて議論」 とあるが、そのデータの集め方と解釈が問題となっているのに、石破農相は、水産庁捕鯨班とその取り巻きのブリーフィングを信じているのだろうか。

もしかして、「クジラ食害論」 を 「科学的知見」 と思っているのだろうか。
調査捕鯨の本当の目的とは、科学的調査ではなく、単なる鯨肉の確保と翌年の調査費用の捻出である。事故米問題や無許可専従問題では、あれほど農林水産省改革を唱えていたのに、本当に知らないのだろうか。


 こちらも光るコメント。
 で、注目すべきは、抜書きしてくださった石破大臣の談話の以下の部分。

これは、常に秤(はかり)にかけて議論すべきことであって、「では、もう、やめた」と、「こんなもの留まる意味なし」ということになった時に、さて、その時は、それはもう、「よくぞやった」みたいな話になるのかも知れないが、本当にそれで、これから先、我が国の目指していることが成就するか、それに資するものであるか、といえば、私はそうではないと思っております

 石破氏の言葉どおりに「よくぞやった!」と喝采を送る強硬派のIWC脱退論者は、いつも鯨肉パーティー開いて気勢を上げている自民党捕鯨議連で間違いないと筆者は睨んでいますが、石破氏はさすがに距離を置かれているようですね。雄弁で頭が切れるエリート議員石破氏だけあります。筆者はちょっと肌が合わないタイプなのですが、その点は見直しました。
 東北大の石井准教授らが指摘してきたように、「こんなものに留まる意味なし」となれば、「成就」どころか完全に道が閉ざされてしまうということを、石破氏はよくご存知でいらっしゃる。
 もっとも、化学者さんが指摘されるように、「科学的知見」とやらについての部分は、官僚のブリーフィングを丸呑みしている感も否めません。となるとやはり、脱退批判についても、果たしてどこまで石破氏自身の持論なのか、少々わからなくなってきましたねぇ・・・
 では、石破氏に「脱退論に釘を刺す」よう進言したのは、一体誰なのか???
 ここで一つ疑問が沸いてきます。
 捕鯨に関しては、水産庁捕鯨班と水産ODAの司令塔である海外漁業協力局とが直接関与する部局といえます。さらに、民主党牧山議員が昨年の決算委員会で質問されたように(リンク参照)、ODA庁費は農村振興局など農水省の他部局にまたがって予算が計上されていることからも、およそ省ぐるみで捕鯨利権・ODA利権に関わっている可能性もあります。
 ともあれ、「科学的知見」云々のお決まりのフレーズは、当然ながら捕鯨班のレクチャーでしょう。じゃあ、脱退論否定も捕鯨班の指示? 水産庁捕鯨班・鯨研・共同船舶の捕鯨サークルは、天下り団体・議連とも一連托生・護送船団式運命共同体志向で、「こんなもの留まる意味なし!」と吠えているヒトたちではなかったのでしょうか??
 一方、常軌を逸した脱退論の高まりに「冗談よしこちゃん!!」と内心戦々恐々としているのは、間違いなくとばっちりを被る外務省関係筋。海上保安庁筋など、他省で余波をかぶってひどい目に遭ったところも、やはり同じ心境でしょうが。
 ただ、同じ農水省・水産庁の中でも、前外務省漁業室長でIWC政府代表団の一員も務めたこともある鈴木国際研究課長のように、冷静に調査捕鯨問題を分析されているバランス感覚の優れた方もいらっしゃいます(『ジュリスト』(‘08/10/15)。天下り天国とはいえ、農水官僚は決して一枚岩で利権まみれの官僚益にしがみついているわけではなく、真に国民のための広義国益とは何なのかを見据えることのできる誠実な官僚も少数ながらおられるはず。
 まさか、外務官僚が農相に直接レクチャーしたとは考えられないので、誰か外交にも通じたまともな官僚が、石破農相に別途こっそり耳打ちした、という可能性はなきにしもあらず。あるいは、外務官僚−>中曽根外相−>石破農相というルートかもしれませんが。
 実はもう1名、可能性は低いかもしれませんが、意外な候補がいらっしゃいます。当の森下参事官。
 彼の持続的利用原理主義には正直辟易しますが、森下氏にはこれまでの歴代担当者と一線を引く部分があります。食文化論を「私は関心があまりない」とバッサリ切って捨てたこと。そして、素朴な食害論についても極論を否定し、「一部のホットスポットでは可能性があるかもしれない」と非常に妥当な表現をされています。わざわざ「鯨論・闘論」コーナーを立ち上げたことも含め(筆者の投稿は無視されましたけど)、決して誠意のない方ではないと思えます。
 もっとも、彼は最近疲れてるんだか、さまざまな場で市民団体グリーンピースを目の仇にして口撃しておりますし、持続的利用教に絶対の自信を持っているが故に、チャチな子供だましの文化論や食害論なんて要らない」と考えているだけなのかもしれませんが・・。
 森下氏自身は、IWCに代わる新組織の立ち上げも「いざとなったらやむなし」との立場を表向き崩してはいない模様。ただ、この間の交渉における彼のコメントなどを見ていると、「伝家の宝刀」を振りかざすことはさすがにためらっている……というより、避けたがっているようにも見えますね。好意的にすぎる見方かもしれませんが。
 一番の根拠は、優秀な官僚であれば、ハードランディングという破綻への道が賢明な選択だと考えるわけがなく(平気でそんなことを言うのはバカな政治家だけ)、森下氏は確かに優秀には違いないということ。これも好意的見方かもしれませんけどね。
 石破農相、森下参事官。現実的な観点からいえば、今回はハードランディングを回避しながら最大の譲歩を引き出せる最後のチャンスだったはずですよ。米国の政策転換によって、あなた方は一層難しい舵取りを迫られることになりました。一体どうするつもりですか? このままでは、“秤の先”は一層困難な方向へと傾いていくばかりですよ。
 調査捕鯨の死守とハードランディング回避は、残念ながら両立させることは不可能です。はっきりしているのは、いくらその場ではさんざん叩かれることになっても、広義国益の見地からすれば、早めの決断ほど吉だということです。鈴木氏や谷口氏らがもっともな理由を提示してくれています。化学者さんがご指摘くださっているように、農相の場合「農水省改革」という字句どおりの大義名分も掲げられます。筆者のデータも使ってくれてよし(無理か)。
 沈着冷静な石破農相であれば、思い切った決断をしてくれる──とまで期待するのは、さすがに甘いですかね、抵抗勢力があまりに大きすぎて。やっぱり民主党に賭けるしかない?

■捕鯨援助で本当に利益を得ているのは誰か? (拙HP)
http://www.kkneko.com/oda4.htm
■『鯨論・闘論』(日本捕鯨協会運営の「鯨ポータル・サイト」内の市民対話コーナー)
http://www.e-kujira.or.jp/geiron/morishita/1/ (リンク切れ)

posted by カメクジラネコ at 01:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系
この記事へのコメント
マッコウクジラの件ですが、「クジラが嫌うと言われている音」は何か根拠があるのでしょうか。イルカの混獲を防ぐために実験されたこともありますが、効果がほとんどないとも言われていますし。音が乱反射する港内では、何だか拷問のような気もします。

ところで、IWC年次会合直前で忙しい時期に森下氏は、5月23日開催の「楽水会総会・記念講演会」で基調講演を行います。http://www.e-kujira.or.jp/event/evt00083.html
一般参加が可能かどうかわからなかったことと、捕鯨サークルの話を聞きに行ってインフルエンザに感染しても困るので、後で資料を請求することにしました。

それにしてもタイトルが、「我が国水産業の国際戦略 〜IWC国際捕鯨委員会からの視点〜」と「鯨から見た我が国の国際漁業の方向」とあり、捕鯨サークル内での自画自賛・我田引水講演ですね。パネルディスカッションの参加者の肩書は、別のサイトにありましたが、共同船舶社長も参加するのでは内容も偏っており、時間の無駄だと思いました。
http://suisankaiyo.com/pf1/pg/blog/Ikeda/read/581/

ただし遠藤愛子氏は博士論文で、沿岸捕鯨と調査捕鯨の競合についても論じており、さらに現所属先の海洋政策研究財団では、大久保彩子氏が日本の捕鯨外交の再検討について論文も出しているので、中間派かもしれませんね。
Posted by marburg_aromatics_chem at 2009年05月23日 04:38
>marburg_aromatics_chemさん
鯨研はでしゃばっただけで結局サジ投げちゃいましたね・・
講演会の情報もありがとうございます。なんでしょう、年次総会前の決起(血気)集会ですかね。。森下参事官にバランス感覚を期待するのはやっぱり無理かなあ・・・
Posted by ネコ at 2009年05月24日 01:01
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