2009年05月09日

『正論』v.s.『諸君!』──保守系オピニオン誌の捕鯨関連記事

◇『正論』v.s.『諸君』──保守系オピニオン誌の捕鯨関連記事

■ナショナリズムとクジラ
http://www.kkneko.com/national.htm

 これまで京都(1993年)や下関(2005年)など国内の都市でIWC年次総会が開催されたときは、右翼の凱旋車が100台を越えるほど大集合。拡声器で怒鳴り散らしながら街中を走り回り、近隣の市民の皆さんにさんざん迷惑をかけていたものでした。マスコミはほとんど報じなかったけれど・・。ちなみに、筆者はリアル右翼からなんかLRADっぽいもの(音響兵器?)を向けられたことがあります。一瞬ビビッたけど、特に実害は被りませんでした・・・・。
 捕鯨とナショナリズムとの切っても切れない関係については、HPの方で簡単に解説しているとおり。YahooやGoogleなどのサーチエンジンで捕鯨賛成派のブログを検索したり、2chなどの巨大BBS上の書き込み、MIXIの日記などをざっと眺め回してみれば、ネトウヨ君たちの声の大きさに、誰しもびっくりせずにはいられないでしょう。以前にもそのうちのごく一部をご紹介しましたが、最近も韓国の沿岸捕鯨再開方針を伝えるニュースを受けて、関連BBSではあからさまな差別表現が飛び交い、アプリオリに「日本の捕鯨=善、韓国の捕鯨=悪」とする書き込みが殺到している有様です。検索順位で上位を占めるブログをチェックしてみたら、ブログタイトル、記事タイトル、管理者のハンドルネームを一目するだけで、目を丸くされる方もきっと多いことでしょう。

■まさかの日韓協調路線?|flagburner's blog(仮)
■嫌韓捕鯨擁護ブログリンク (拙過去記事)
■調査捕鯨と捕鯨禁止運動|今日の論点!ブログ意見集
http://www.blog-headline.com/themes/0006/001058/ (リンク切れ)

 さて、以下に紹介するのは、保守系論壇誌『正論』と『諸君!』に掲載された捕鯨関連記事。

■捕鯨を環境テロリストの「玩具」にされたままでいいのか (『正論』'08/6)
http://ci.nii.ac.jp/naid/40015982623

 論者の山田吉彦氏は東海大准教授・海洋政策研究所財団研究員とのことですが、該当オピニオンには引用文献がひとつも明記されておらず、論文と呼ぶにはあまりにも稚拙な内容です。レベルの低い市井の個人ブログ並。タイトルからしていかにもネトウヨブログって感じですが・・。ところどころ日新丸じゃなくて「日進丸」になってたりとか、現IWC事務局長ホガース氏が「ホーガス氏」になってたりとか、編集者の仕事もお粗末。まあ、私もときどき変換ミスくらいはやりますが、要するにそこら辺に転がってるブログレベルということですね。以下、背景着色部分引用、強調筆者。

シー・シェパードの行為は国連海洋法条約の「海賊行為」にあたる。

 該当する条文・条項を明記しないのがプロの研究者らしからぬところですが、結論から言えば、海賊行為にはあたりません。国際指名手配もSUA条約に基づくもの。それも一種の“裏技”に他なりませんけど・・。
 この件が国で議論されたのは今年。水産庁が強硬にごねたにもかかわらず、海賊対処法案にSS対策が盛り込まれなかったのは、海賊行為の定義に強引に当てはめることが国内法としてさえ法的に無理がありすぎたからです。筆者はSSの過激な示威活動も、それに対する捕鯨船団側の過激な自称正当防衛も、ともに容認しませんが。

そのため、日本のような武力を用いた警備や報復を行わない「おとなしい国」が攻撃の標的にされている。

 日本側の過剰反応がSSを煽ってますます行動をエスカレートさせている現状を見ても、矛盾だらけの記述といえますね。もちろん、内外の識者が指摘しているとおり、南極海・公海上で千頭レベルの大規模な実質商業捕鯨を行っている唯一の国が日本だというだけのこと。
 それよりも、この理屈はいかにも『正論』らしい右翼受けする「自衛隊海外派遣論」「核保有論」「9条改正論」にそっくり沿ったものですね。なるほど、わかりやすい。

暴力と金に渦巻いた暗黒世界

 意味不明・・・。ラノベやケータイ小説作家だってもうちっとマシな日本語書くんじゃないの!? 社会科学系のくせに文章全体を通して「てにをは」がメチャクチャで、これでどうして准教授になれたのか首を傾げたくなります。
 その後はありがちな鯨肉郷愁哀歌がだらだらと続きます・・。小学校時代は「けして好物でなかった」けど「希少価値になったせいか」「美味に感じる」ようになったとのこと・・。なるほどなるほど。今時の鯨食マニアはみんなこういう感覚なんでしょうねぇ。白人へのうらみつらみを肴にすればさらに盛り上がるんでしょうが、胃に悪いんじゃないかしらん? 「本来生きるため」に食べていた食糧難時代に戻すとか、今では国内でもまったく説得力を持たない「貴重な蛋白源」に戻すとか、「縄文時代」「弥生時代」の生活に戻すとか、「四足の動物を食べない当時」に戻すとか、捕鯨のルーツである海賊(SSとは違い本物の)や隠れキリシタンへの宗教弾圧を復活させるとか、そういうことは一切言わずに、南極のクロミンククジラに置き換えてでも、ともかく鯨を食べ続ける形だけの習慣を死守せよ!とおっしゃっているのですね・・。
 国内のアイヌ・琉球の人々、あるいは戦前・戦中のアジア諸国の人々の固有の伝統文化を否定する同化政策のように、他者から奪ったもの、近代化に伴い明治以降自ら捨て去ったものも数多い「文化、生活のひとつ」にすぎない捕鯨を、特殊なものとして神聖視する姿勢が具にうかがえます。
 また、日本の捕鯨会社が戦前・戦後を問わず大量の鯨肉を洋上に捨てていた事実も既に明らかですが、山田氏は完全にノーチェック。准教授のくせに不勉強もいいところですね。調査捕鯨とICRW8条の関連については、過去記事と文献をご参照。

■やる夫で学ぶ近代捕鯨史・番外編
http://www.kkneko.com/aa1.htm
■実態に見合わないICRWは改正すべき
http://kkneko.sblo.jp/article/25798112.html

太平洋上に浮かぶ島嶼国は、伝統的に捕鯨を行っていた国もあり、海の恩恵を受ける海洋国として捕鯨に賛成の国が多い。捕鯨反対を表明しているのは、豪州に距離的に近く、影響を強く受けているソロモン諸島だけだ。

 太平洋島嶼国で捕鯨を行っていたのは、既に廃止したIWC未加盟のトンガのみ「海の恩恵を受ける」の一言で、勝手に同盟相手としてくくってしまうところが、いかにも「漁業者の論理は野獣の論理」とまで言われる乱獲の漁業史について無理解な方らしいといえます。捕鯨支持国が多いのは、日本から多額の水産ODAを供与され影響を強く受けているからにすぎません。捕鯨とODAの関連については、近々詳細なデータを公開予定。
 さらに山田氏は、森下氏も否定する捕鯨擁護文化人お得意の食害論を披露したうえ、挙句の果てには

実際にクジラが増え始めた南極海の一部では、クジラに捕食されたためにオキアミが著しく減少したと言われている。日本人が好んで食べる鰯などの小魚が現象していることと、クジラの増加の因果関係も指摘されている。

 ──と、ウヨガキ君顔負けのでたらめを吹聴する始末。もちろん、そのような科学的事実はありません。浮魚の魚種変動メカニズムについて研究している日本の水産学者たちも、こんなトンデモ論をまことしやかに口にされたら、さぞかし困惑するでしょう。
 続いて山田氏は、豪州政府のSS捜査を昨年3月のロンドン中間会合の非難決議と結び付けています。SSの危険行為(テロ行為ではない)に対する声明は、それ以前から淡々と処理されてきたことで、豪警察の対応とは無関係。日本の水産庁からの要請はありましたが。欧州各国も、「それとこれとは別」というだけの話。昨漁期は捕鯨船乗員の方が実際に船から転落して亡くなられましたが、当然ながら妨害活動とは無関係。これまでに事故で何名もの人命を失ってきたのも、GPの監視船に対してCOLREG条約違反の針路妨害を行ったのも、日本の捕鯨船団側です。捕鯨そのものです。「日本の体制をあざ笑う環境テロリスト」ではありません。この件については後述。
 「バラバラな各省庁の対応」という最後の章になってやっと、唯一参考になる記述が見られます。

海洋基本法の制定に向けた議論の中で、当初、水産関係者の中には、「漁業法」があり、漁業法で守られている漁業権などの既得権を保持するため、海洋基本法は不必要なものであると考える者もいた。海洋基本法が制定されると、今まで漁業者のためだけの水産庁の思索も総合海洋政策本部の傘下に組み入れられ、他省庁とのバランスを考えた思索に改められると考えたのだろう。

 注記すれば、水産庁が庇う既得権の所持者は大手水産業界と水産系ゼネコンであって、零細漁業者は蚊帳の外です。国連海洋法条約の延長で国際監視・規制が強化されるのを嫌う関係者は、むしろ触れられたくない話で、消極的になるのも当然。二百海里規制の流れも頭によぎるのでしょう。論者は思い至らなかったみたいですが。
 一方、NGOの側は海洋基本法制定に際して、海棲哺乳類の保護に留意するようにとパブリックコメントを送っています。政府として対応を一本化するのは大いに結構。天下り官僚と特定業界(捕鯨&水産コンサル・ゼネコン)の便宜のために、広義国益を犠牲にすることはあってはなりません。
 おしまいには、次はカジキだ、マグロだという相も変らぬ一つ覚え。クロマグロやミナミマグロなどに対する厳格な規制の必要性を痛感している日本の良識ある水産関係者も、この手の有害なプロパガンダにはもういい加減うんざりしているでしょう。 

 山田氏の主張を典型とする保守系論壇の捕鯨推進論は、衆院議員山際氏と同水準の素朴な捕鯨教信者のそれといえます。

 続いて、もうひとつの保守系雑誌に掲載された記事をチェックしてみましょう。

■日本捕鯨vs.環境テロリスト、南氷洋大海戦の帰趨 (『諸君!』'09/2)
http://ci.nii.ac.jp/naid/40016376235

 タイトルは上掲の『正論』同様勇ましい限りで、いかにも右翼受けを狙ったものらしく受け取れます。が、山田氏の論説と異なり、中身は比較的おとなしく、関係者の証言で構成されたルポらしい体裁を整えています。著者の富坂聰氏は気鋭のジャーナリスト。
 冒頭1ページ半にわたる覚せい剤密輸など海上犯罪に関する記述は、やや蛇足・脱線気味で、どうせやるなら鯨肉密輸・密漁問題への言及が欲しかったところ。
 続く反捕鯨団体SSとGPに関する解説の中で、GPJ側のコメントが。正論の記事中でも引き合いにされていますが、2006年のアークティックサンライズ号と日新丸との衝突事故で、COLREG条約に違反していたのは日本の捕鯨船団側である可能性が濃厚です。筆者の解析では、当時左舷側に位置していた日新丸側に回避義務があったにもかかわらず、漁船と衝突し死亡事故を引き起こすに至った海自のイージス艦あたご同様、日新丸は倣岸に汽笛を鳴らしただけで回避行動をとりませんでした。捕鯨船団側も、GP(Jで取材を受けた担当者)も、ともに国際条約に通じていなかったということかもしれませんが・・。
 「名前や所属を出さないでくれ」と頼んだらしい“海の治安維持に詳しい人物”が、なぜSSの船に工業用ダイヤモンドで強化されたカン・オープナーなんて代物が付いてるのを知っているのかは謎(ホンマかいな?)。まあ、SSに問い合わせても答えないでしょうが。
 記事中、調査捕鯨団長の石川氏は、まるで日本人すべてが捕鯨を支持し捕鯨に直接関わっているかの如く強弁し、国と国との対立の構図、「野蛮な日本人」に対する差別へと無理やり結び付けています。また、石川氏は「豪州やNZが裏で船の位置情報をSSに流している」だの、「偽のSOSにだまされた」だのと根拠のない被害妄想じみた憶測を並べ立てています。相手の裏を掻こうと必至になっている調査船が、科学調査として不可欠なランダム航行を本当に偽りなくやっているかどうかの方が、筆者にはよっぽど疑わしく思えますがね・・。

「周りは氷の海ですから、一歩間違えれば大変な事故にもつながりかねません。」(石川氏のコメント)

 そのとおり。大変な事故が今漁期発生しました。そして、「一歩間違えた」のはあなた方です。隠し立てせずに国民に対して説明責任を果たすべきではないのですか、石川殿? 人命を奪ったのはSSではありません。「何とかしてほしい」のはあなた方です。
 記者も乗せられてしまっている、素朴で感情的・勧善懲悪的な捕鯨擁護論は軽く受け流すとして、次の2章は大変読み甲斐のある内容です。
 まず、「すたれゆく鯨文化」の中で、富坂記者は太地町民にインタビューを行い、彼らの葛藤「日本自身の捕鯨の是非への複雑な反応」を引き出しています。

「(イルカの血で染まった入江の)様子が道路から丸見えなんだよ。あれを見ると捕鯨の黄金期を知っている俺たちでも、もうそんな時代じゃないなっていうのは分るんだよ」

「エコだとかって言葉には正直、虫唾が走るよ。それに欧米人に野蛮だといわれるのも腹が立つ。だが、逆に『われわれの食文化だ』って胸を張れる現実がいまの日本にあるのかって言えば、これもないんだよ……。(中略)(同町立博物館のイルカセラピーに対し)片方であんなにたくさんのイルカを殺して食べているんだよ。イルカに触れに来た観光客に、『さあ、ここの名物です』ってイルカやクジラの肉を出せるのか?この町はもうクジラ問題では脳死状態だ」

「(前略)中学を出た子供が三回遠洋に行けば家が建ったといわれた。そのころは船員年金にも上限がなかったから、当時の漁師のなかにはいま月額五十万円くらいの年金で悠々自適に暮らしておるもんもいる。でも、いまじゃそんなもん全部昔話でしかない。現実はただの貧しい漁師町で、観光で何とか食っていこうとしているんだ。それもクジラに頼ってね。ただ、この町もいまや世代交代や入れ替わりで、もう住民の七割以上はクジラにも関心はないんじゃないかなあ」


 捕鯨にすがる関係者の中には現実がまったく見えなくなっている方もいますが、厳しい現実をきちんと直視できる方々も決して少なくないということですね。

「捕鯨が日本の文化だとすれば、漁師町の沿岸捕鯨こそがそれのはず。その捕鯨の町の人々がクジラにこだわらなくなれば、それはどういう文化なのだろう?」と富坂記者は疑問を呈しています。

 記者の取材はさらに築地関係者へ。

「クジラが売れるわけがない。(中略)値段は水産庁が決め、鯨肉の流通も半ば強制的にわれわれ卸の方に割り振られてくるのですが毎回四苦八苦です」

 富坂記者はなかなか凄腕のインタビュアーらしく、マスコミの記者より本音を引き出すのがお上手ですね。さらにGPJスタッフにも取材して過剰在庫問題を取り上げ、「手法の問題を一旦横に置けば、日本が調査捕鯨という名の下で毎年千頭ものクジラを殺す正当性があるのかという指摘には耳を貸さざるを得ないのではないか」と結んでいます。報道の公正性・バランスという点でも、鯨研のオトモダチ新聞・産経(右系だけど)などよりよほど格上。
 最終章は「大義名分なき政府方針」と題し、取材拒否の海上保安庁広報に代わり、複数のOBによるきわめて興味深い解説が。

「07年の調査団の母船に海上保安庁から人員を乗り込ませたのは政治家からの圧力が強かったからですが、庁内には日本の捕鯨を疑問視する意見も少なくないのです(中略)そんな海保に対し調査団の方でも不満がくすぶっていたようです」

「調査団の方としては海保がもっと激しく戦って反捕鯨の団体を追い払ってくれると考えていたのでしょう。それが期待はずれだったということです。しかし海保の任務は日本人の安全を守ること。だから危険な衝突が予測されれば回避という道を選ぶのは当然のことです。ただ、調査団にはそれが不満だったようです。船内では意見の食い違いが深刻だったという話も聞きましたからね」

 極めつけは、上記の海保OBの証言を認める石川団長の談話。

「私たちも『いつ自動小銃が火を噴くんですか?』なんて聞いたことはありましたね」

 とんでもないヒトです・・・・。よもや鯨研理事でもある捕鯨船団長が、ここまでの神経の持ち主だったとは・・・・。シチュエーションを考えれば、ブラックジョークにしてはあまりにたちが悪すぎます。武器の危険性を頭と体に叩き込んでいる海保の職員が、“軽口”のつもりでこんな台詞を吐かれたら、不快な思いをするのは当たり前でしょう。
 
石川殿、あなたのその「命に対する軽はずみな感覚」こそは、重大な人身事故を招いてなお沈黙を続ける鯨研/共同船舶の体質そのものではないのですか!? 前団長石川氏のこの台詞、そして現団長西脇氏の「憎しみ」発言を合わせると、筆者は本当に恐ろしくて背筋が凍りつきます。発想はまさしくテロリストのそれ。日本国民の税金を、南極海での血みどろの人殺しに使わせることなど、絶対にやめさせなくてはなりません。この二人には調査団を率いる資格などありません。最低でも、この二人を調査事業に一切関与させない、もしくは二人の属する鯨研を事業委託先から外すべきです。
 富坂記者は引き続き、昨期の調査団からの海保外しを「危険な兆候」と警告する海保OBの方の談話を紹介しています。

「(前略)昨年、海保のメンバーが衝突回避のために捕鯨を中断させて逃げたことで、彼らが予定していた捕獲頭数を大きく下回った。そうなると調査捕鯨にかかる費用が補填できないのです。だから邪魔な海保をはずして対決しながら何が何でも捕獲目標を達成しようというのでしょう。そうなれば双方が正面からぶつかり、互いに引かなければどんどんエスカレートし危険です」

 同誌は2月号(1月発行)ですが、この海保OBの方の予測は見事に的中したわけです。
 昨シーズン(08/09)は、「いつ自動小銃が火を噴くんだ」などと平気で口にする連中が、ゴムボート上の人間に向けて音響兵器を発射、危うく人命が奪われるところでした。SSの抗議行動とまったく無関係に、失われた人命も実際あったわけですが。
 SSの過激な直接行動は許されるものではありません。しかし、「目には目を」とばかり一層危険な“反撃”に出た時点で、日本の捕鯨船団にSSを非難する資格はありません。まさしく同類。テロリスト同士。SSのやり方をよしとせず、IWCの場で冷静な非難声明を発表させた国際社会も、これではケンカ両成敗のスタンスを取らざるを得ず、むしろSSに対する同情と日本に対する非難の声が増すばかりでしょう。海保の方々はもちろん、プロフェッショナルとしてそのことを十分理解されているからこそ、このように苦言を呈されているわけですが。

 正直筆者は『諸君!』を見直しました。記事のクオリティとして『正論』の山田氏の論説とは月とスッポン。でも、今月で休刊なんですよね・・。ま、この記事を書いた富坂記者が一流のジャーナリストということなんでしょうが。全体を通して、『WEDGE』2月号の谷口論説や読売社説(2/5)と同じく、非常にバランスの取れた構成になっています。
 個人見解を出せない捕鯨擁護左翼、共産党や核丸派よりなんぼかマシ。彼らの場合、旧き良き荒稼ぎ時代を夢想する労組・全日本海員組合の顔を立てているつもりなのかもしれませんが・・。一党独裁共産主義とリベラリズムとは別物ですし。日本共産党殿、あなた方がやるべきことは、重篤な人身事故を幾度も引き起こし、ライフジャケット装着徹底など安全管理・労務管理の基本を怠り情報を伏せ続け、コスト削減のために外国人労働者に同じく過酷な労働を低賃金で強いることを検討している共同船舶に対してきちんと物申すことではないのですか? 無論、それは労働者の命を二の次にする本末転倒の労組、全日本海員組合についても言えることですが。
 国内総会で、環八チーマー大決戦!とばかり集結して市街を駆け抜ける右翼の街宣車、捕鯨問題に携わるNPOを左翼・愚民とこき下ろす数多くのウヨガキブログ、『正論』の山田氏の主張、捕鯨ヨイショでSS相手に奮戦する産経、櫻井よしこ氏の「新潮」コラム、国家主権を盾にRMSを全否定する超ネオコン議員・山際大志郎氏の例を見ればわかるとおり、捕鯨擁護派の大多数をナショナリストが占めていることは事実です。その根っこには、敗戦(あるいは開国)以来抱え込んでいるアングロサクソン・コンプレックス/ルサンチマンが潜んでいるわけですが・・。
 一方で、現実をストレートに伝えた今回の『諸君!』、今年に入って中庸を心得た社説を掲載した読売、また以前拙ブログにコメントを寄せていただいた大変真摯な「自称ネトウヨ」の方など、捕鯨の賛否を単純に右・左に振り分けられないことも、また事実といえるでしょう。それも、流れが着実に変わってきていることを示す証左かもしれません。

参考リンク:
■拙ブログへのコメント(nayutaさん)
http://kkneko.sblo.jp/article/25721112.html#comment



◇反反捕鯨論者のための復習帳

  一部の反反捕鯨論者が、鯨研発の科学誌掲載論文が十分多いと勘違いしているようなので、補足しましょう。

 「20年間に158本」は、まさしくたったのそれだけなのです。本職の方々にはわざわざ説明の必要などない話ですが、参考までにネットで拾える情報を示しておきましょう。以下のリンクは、日本ウミガメ協議会の亀崎氏と北大教授の松石氏のサイト。

■学界発表・論文|日本ウミガメ協議会
http://www.umigame.org/J1/katsudou_gakkai.html
■業績書|北海道大学 松石研究室
http://minke.fish.hokudai.ac.jp/office-m/info/gyoseki.pdf

 ちなみに松石氏はネズミイルカ等を対象にした鯨類・水産学者の1人でもあり、中には鯨研関連論文も含まれています。その松田氏だけで論文数は122編(内査読論文49編)。亀崎氏は41編、2000年から2005年までの学会発表も25編。
 われらが鯨研は、NPOや大学の個人研究者(研究室)に完全に負けてますね。国庫から多額の補助金・研究助成費を支給され、年収1千万円の理事を11人も抱えご大層な管理機構も備える大所帯の研究機関としては、あまりに恥ずかしい数字。セタシアンリサーチにインターナショナルを冠するのが恥ずかしくなるC級の組織です。博物館の会報だの、クジラとウシのキメラ研究だの(それさえ試料を外に投げているだけ・・)、内容のお粗末ぶりを併せて考えれば、情けなくて涙が出るほどです。学校に出前して「給食に鯨肉を」などと宣伝してる暇があったらせっせとまともな論文を書くべきでしょう。科学者個人個人について言えば、生物学の進展に貢献できるまともな成果を出したいなら、さっさと非致死的研究に鞍替えした方が無難ですが・・。
 ちなみに、お笑いキメラ研究について、反反捕鯨論者の中には、ヤマメやクロマグロの増殖技術の例を引き合いにして生物学(というより小学生レベルの教養)に関する無知をさらけ出している御仁もいるようです。果たして、牛にクジラを妊娠させて殖やせるでしょうか? いくら捕鯨賛成派でも、まともな方ならつい吹き出してしまうでしょうが・・・
 つづいて、非致死的研究のバイオプシーについて。中には、生殖組織を用いた研究と遺伝学的研究の区別もつかない反反捕鯨論者もいるようですが、読者の皆さんにはそこまで説明する必要はないでしょう・・。
 補足すると、バイオプシーによる脂肪酸解析は、即時的でしかない胃内容物調査より餌生物解析手法として優れていることも、既に研究者によって指摘されています。
 もっとも、水産庁・森下参事官による国際科学誌批判は瞠目に値します。

■化粧品に動物実験は必要? (4/24,朝日)
https://aspara.asahi.com/blog/science/entry/NIsEzxqNKG (リンク切れ)

 さて……次の二つの<方向性>のうち、あなただったらどちらを選択しますか? 日本国民の多数派はどちらを選択するでしょうか?

A.科学的必要性の軽重を判断し、代替手法の開発・置換を進めるなり絶対数を減らすことで、なるべく犠牲の少ない社会を目指す。
B.殺す科学にイチャモンをつけることは絶対認めない。例外や差別なくみんな殺せ。どれほど低レベルのガラクタ研究だろうと殺した者勝ちである。

 持続的利用の原理原則を口酸っぱく唱えるファンダメンタリスト・森下氏に言わせると、致死的研究が本当に必要なのかどうか、研究のプライオリティと社会倫理的尺度からの許容度とを天秤にかけ、第三者のレビュアーが判断を下すことは、一切認められないそうです。原理原則が大好きな森下参事官のことですから、まさか「日本の調査捕鯨のみ例外的扱いをしてくれ」なんて言うわけないでしょう。ですよねぇ、森下さん? すべて捕鯨ニッポン流の“殺す科学”の基準に合わせろと言ってるんですよねぇ??
 社会が「やめよう」「減らそう」と言った途端、「原理原則を歪めてはならない!」と森下氏は猛反発し、むしろ一般市民にとってまったく必要と思えないものにまで、ジャンジャン致死的実験を拡大させるように進言するでしょう。「お互い認められないことを認めよう」と訳のわからないことをのたまって、勝手に動物実験を毎年のように倍増させる仕事に、きっと今すぐにでも着手するでしょう。そして、調査捕鯨を礼賛する捕鯨シンパは、「どうせウシやカンガルーを殺しているんだから、ネズミやイヌやネコやその他の動物も差別なく平等にどんどん殺さなければナラナイ」と大合唱するでしょう。
 つまり、彼らの選択肢はA.ではなくB.ということです。
 筆者はA.を選択します。残念ながら日本は、動物福祉の分野において他のOECD加盟国からはるか後方に位置している状態です。しかし、本来この国は、日本人は、命を大切にする文化・精神を持っていたはずです。南極の野生動物に摩り替えた偽食ブンカなどより、はるかに重みのある、自らの伝統を取り戻すことさえできれば、欧米以上に犠牲を減らすことは可能なはず──そう信じたいと思います。そしてまた、A.を選択してくれる方が日本国民の過半数を占めることを信じたいと思います。もし、ビョウドウのロンリに基づくB.より、A.こそが正しい道だと思える方であれば、捕鯨擁護論者の奇怪な主張のおかしさに気づくでしょう。
 なぜ、権威ある科学誌が掲載論文の査読制度を設けているのか?──そのことをまったく理解していない森下参事官の持論が、捕鯨協会のポータルサイトに出入りしているコアな捕鯨シンパ以外の国民に受け入れられる主張だとは、筆者はまったく思いません。そんなくだらない御託を、あたかも日本人の総意に基づくかの如く、世界に向かって説きまくる森下氏も、彼の属する水産庁も、鯨研と無用な致死的ガラクタ論文を平気で掲載する日本の科学(?)誌発行者も、やはり日本の恥です。
 自覚して恥じ入るどころか、臆面もなくひけらかす辺りが、世界一の大量廃棄国家として食の面でも命を粗末にしているのみならず、科学の分野においてもOECD加盟国にあるまじき動物福祉最貧国として、捕鯨ニッポンが世界から軽蔑の視線を浴びる所以です。後進性を堂々と自慢する捕鯨擁護派の特殊なロンリに、いずれ国民がそっぽを向くのは時間の問題でしょう。

 次に、生存捕鯨の問題についての補足。
 既に何度も説明済みですが、先住民の権利擁護・補償政策において、米国・豪州・NZ等などの反捕鯨国より百歩も二百歩も遅れているのが捕鯨ニッポンです。森下水産庁参事官のように、「云十万の土産が云たらかんたら」と呪文のように呟いている、恐ろしいほど無理解・無神経な国際交渉担当者もいますし・・。森下殿、そんなことより監督官の"土産"についてきちんと説明責任を果たしてもらいたいんですがね!?
 さらに、日本捕鯨協会は、障害者への差別表現を豪州政府に対して公然と用いることを、胸を張って「正しい」と主張するブッ飛んだ組織です。2chからMIXIまで、韓国人や白人に対する露骨な差別表現を好んで多用するウヨガキ君でネット中あふれ返っているのが、この国の悲しい現実です。そして何より、世界各地で差別政策正当化の口実としてしばしば用いられるのが、捕鯨擁護論と瓜二つの「固有の伝統論」であることも忘れてはならないでしょう。

参考リンク:
■アイヌの捕鯨 (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/15783244.html


 
※注記

 心優しい温厚な読者の方々より、「煽りすぎだ」「一般人の個人サイトにあまり刺々しい攻撃を加えるのはいかがなものか」とごもっともなご批判をいただいております。
 まあ、確かに、当方を「反捕鯨の金字塔」などと勝手に宣言してつっかかってくるネット極右などと、同レベルと受け取られるのは確かにプラスではないかもしれません。良識ある市民ブロガーの皆さんのサイトが多数ありますから、その意味では心配はしておりませんが。本来であれば、上掲山田氏や山際氏、石川氏、森下氏など公人・マスコミ人・文化人・関係者の批判に専念すべきなんでしょう。残念ながら、無名の筆者の力では、影響力の差を克服することはなかなかできない相談ですが・・。

 上記のとおり、当ブログ・コンテンツのクオリティ向上のため、一般化に耐え得る箇所を除き、狂人と極右の妄言は取り合わない方針といたします。
posted by カメクジラネコ at 01:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系
この記事へのコメント
こんにちは。
富坂聰氏、こういう仕事もされていたんですね。
足で稼ぐいい物書きさんだなと、改めて思いました。
本職は、中国関係のルポルタージュものという人です。
ちょっと関係のないTBをお送りしますが、
私がたびたび取り上げている、
大陸中国での日本企業の雇用条件の悪さを知ったのは、この人の仕事のおかげでした。
その問題を反日運動があったころに早くも取り上げ、
「靖国問題が原因、などと納得するな。デモしている人の主勢力は、都市部で外資系企業に勤めている人たちで、日本企業への反感が大きなウェートを占めているのだ」と現地ルポしてはったんです。
(不幸なことに、完全に無視されてましたけど……)
Posted by デルタ at 2009年05月12日 20:57
>デルタさん
コメントありがとうございます。
なるほど、いかにも現場に足を運ぶタイプのジャーナリストらしい方ですね。
TBの件、申し訳ないm(_ _)m いま商用スパムTBが結構来ていて、要言及リンクの設定になっています。なぜかあまり防げてないんですが(汗
Posted by ネコ at 2009年05月13日 01:22
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