2009年02月19日

日本の調査捕鯨の違法性を追及する内外の動き/非致死的調査だけど・・・

◇日本の調査捕鯨の違法性を追及する内外の動き

■豪環境相、「殺さない調査捕鯨」実現へ作業部会 (2/18,日経)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20090218AT2M1802918022009.html (リンク切れ)
■豪環境相、3月にクジラ調査会合 日本の捕鯨阻止目指し (産経)
http://sankei.jp.msn.com/world/asia/090218/asi0902182020005-n1.htm (リンク切れ)
■The Australian Senate Condemns Japanese Violence (2/16,SS)
http://www.seashepherd.org/news-and-media/sea-shepherd-news.html
■動かない豪政府+自分を撃沈した中川 昭一氏 (2/17,flagburner's blog(仮))
http://blog.goo.ne.jp/flagburner/e/acbb4d12aad99e1b0f6f6563645895ba

 日本の調査捕鯨より低コストで有意義な非致死的調査を実施したオーストラリア、科学的成果を今後具体的に活かしていくということですね。産経の報道では米国も参加するそうですよ。政権が変わってから、仲裁案をまとめたホガース議長もさんざんたたかれてますし。米豪が連携した場合、日本がさらに苦しい立場に置かれることは否めませんね。
 そのオーストラリア、日本の捕鯨と暴力行為に対する非難声明が決議されました。音響兵器まで持ち出すわ特攻までやるわ、非難されるのは当たり前。
 で、その違法性についてですが──

■捕鯨に対する日本政府の方針に関する質問書&答弁書 (2/18-26)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/169/syuh/s169038.htm
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/169/touh/t169038.htm
■パナマから船籍剥奪された「Oriental Bluebird」が「Hiyo Maru Two」と名前を変えて調査捕鯨に同行している (1/25,フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ)
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/59904665.html

 日本の調査捕鯨は、CITES(ワシントン条約)によって定められた手続を無視したため、パナマ政府に船籍を没収された補給船オリエンタルブルーバード号を改名(飛洋丸─>OB号─>第2飛洋丸に転々としたそうな。慌ててペンキ塗っただけだから、下の名前が見えとるとさ!)。姑息なごまかしの手口で、数多くの国際条約を蔑ろにする真似を平気でやってきたわけです。日本の国会でも参院喜納議員が質問趣意書を提出しましたが、森下参事官が答弁書を作ったせいだか、ノラリクラリと逃げるばっかりで具体的な答えにまったくなってませんね・・。まるで酔っ払った中川前財務相みたいです。
 ってことで細かくチェック。

◆一.北西太平洋鯨類捕獲調査で許可している鯨種の捕殺は、国際捕鯨取締条約(昭和二十六年条約第二号)の規定に従って実施しているものであり、また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(昭和五十五年条約第二十五号)により禁止されているものではない。

 一部海域でなぜか留保対象外にしているイワシクジラや、留保品目であっても必要な手続きをしていない点など、CITESに抵触するのは明確です。で、よく読んでみると、文脈を微妙に言い換えてすり抜けようとしていることがわかります。確かに、留保対象はイワシの一部だけですから、残りは禁止されてませんしねえ。手続き違反についてはなあんにも答えていませんしねぇ。さすが森下さん、キャリア官僚!
 捕殺は──禁止されていない──要するに、調査捕鯨がCITES違反行為を行っているということを、水産庁は答えたくないわけです。大体、理由を聞いてるのに全ッ然答えないで、しらばっくれてますし・・。

 次の質問趣意書では、「調査捕鯨に際して、CITESに抵触する部分は有るや無しや?」と聞いたほうがよさそうですね。
 この件については、今後米豪など各加盟国にもCITES事務局と直接掛け合って、年次総会などの場で日本政府を徹底低に追及してもらいたいところ。

◆二.我が国は科学的根拠に基づく鯨類資源の持続可能な利用を目指しており、利用可能な鯨類資源が存在する南極海での捕鯨を一律に禁止することは、科学的・客観的な理由に基づかないものであるため、賛成することはできない。

 サンクチュアリはICRW以前の国際捕鯨規制の中でとられてきた管理の一つですし、UNEPやIUCNの提唱する科学的な生態系管理手法に合致するものです。日本に合わせていたら、世界各地の自然保護区の設定は日本を含めてすべて非科学的になっちゃうでしょう・・。

◆三.御指摘のパナマ船籍の船舶は、共同船舶株式会社が私契約に基づき調査船への補給活動等に従事させているものと承知している。なお、このような私契約に基づく活動について、当該船舶の旗国であるパナマ政府の許可等が必要であるとは承知していない。

 びっくり! SSのスティーブ・アーウィンは民間の船舶でしょうが。オランダやオーストラリアにぶーたら言ったのはどこの誰じゃい。
 かんぽの宿の件も私企業の私契約ではありますな・・。鳩山総務相はこの件に関しちゃ正しいし、国民の税金注ぎ込んでるのは同じなんですから、鯨研の委託先の共同船舶の提携企業が違法行為をしていれば不適格事業者として外されるのは当然なんじゃないですか?

◆四/五.捕鯨母船日新丸は共同船舶株式会社が所有する船舶であり、お尋ねの点については、民間企業の問題であることから、政府としてお答えする立場にない。また、水産庁には御指摘のような補助金はない。
 公的な調達先の事業能力に関して把握してないのは問題ですな。


 新母船の建造費、いまはなくても今後補助金を出すつもりじゃないんですか?

◆六/七.お尋ねの条約の締結については、その締結により我が国が負うこととなる義務と、我が国が締結済みの他の条約により我が国が負っている義務との関係について十分な整理が必要であること等から、慎重に検討しているところである。

 UNEPの「移動性野生動物の種の保全に関する条約」(CMS)の話。森下さん、非科学的・非合理的なこと言わないでくださいよ。
 これはもう環境省が主導権を握って水産庁を黙らせないとダメですな。日本の数多くの渡り鳥などを始めとする野生動物の危機です。日本が環境問題で国際的なイニシアチブを握るだなどと、一体どの口がいえるのですか!? ふざけるのも大概にしてほしいですね。

◆八.政府としては、捕鯨問題をめぐっては、異なる考え方があるが、感情的な対立に流されることなく、冷静に科学的議論を行うことが重要であると考えている。政府としては、引き続き我が国の立場への理解を各国に求めていく考えである。

 以下同文。。

◆九.平成十七年から平成十九年までの「再就職状況の公表」では、平成十六年八月十六日以降の三年間に、水産庁の課長・企画官相当職以上で退職し、財団法人日本鯨類研究所に再就職した者は、中山博文、役職は専務理事、大谷博美、役職は参事の二名である。

 喜納議員が過去にさかのぼって出せといってるのに、三年分しか出さないとは怠慢もいいとこですな。渡り先渡り元も提示してほしいんですがね。


 

◇非致死的調査だけど・・・

■ザトウクジラに接近せよ|地球ドラマチック (2/18 19:00-,NHK教育)
http://www.nhk.or.jp/dramatic/backnumber/156.html

 昨年フランスのTV局が制作した研究者の密着ドキュメンタリー。
 監修は例に漏れず大隈氏と並ぶ日本の鯨類学界の大御所で「南極海里海論者」の東京海洋大教授加藤秀弘氏。最近はほとんどこのヒトばっか呼ばれてますね。まあ、さすがに著作権者のいる番組の中味に対して偏向監修まではしていないようですが。
 ところで、アニマルプラネット/ディスカバリー制作のSS密着ドキュメンタリーはどうするつもりなのでしょう? 同局制作の他の環境・動物関連のドキュメンタリー番組は、NHKの同じ番組枠でこれまで頻繁に放映しているんですけどね。政治的にとかく横槍が入りやすい公共放送ですから、無視される可能性が大な気がしますが。
 話を戻しましょう。この番組は、クジラジラミの遺伝子解析によりザトウクジラの系統群判別を試みるフランスの鯨類学者の取り組みを追ったもの。最初は面白そうな研究だと思ったんですが……蓋を開けてみると、なんだかなあ・・という内容でした(--; 非致死的調査ということで持ち上げたいのは山々なんですが、これじゃ鯨研と同レベルだなあ。
 トンガのルルツ島で、母子個体から直接クジラジラミを採取しようと、水中カメラマンの手を借りて何度もアタック。強引な手法による負荷と得られる研究成果を天秤にかけると、筆者がレビュアーだとしたら、「ボツ」と言い渡したくなります。
 クジラジラミというのは、昆虫のシラミとは関係ないカニ・エビ・ミジンコと同じ甲殻類の一種。細かくは、端脚類のワレカラ(よく海藻に擬態してくっついている甲殻類の仲間)の近縁です。クジラの体表(主に頭部やヒレの周囲で見られる。セミクジラやコククジラ、ザトウクジラなど低速で沿岸性の鯨種に多い)に間借りしていますが、血は吸いません。生態については不明な点が非常に多いようです。
 本来であれば、致死的標本採集が大得意な鯨研から情報が大量に発信されていていいはずなんですけどね・・。
 筆者ははじめ、海中で一定の期間浮遊生活を送った後、最終的にクジラの体表に“着床”するんだろうと思っていました。同じ甲殻類の一種でやはりクジラの体表に見られるフジツボは、海中と体表とを行き来する生活環であることは間違いないはずですし。が、近縁種であるヨコエビやワレカラの仲間は、ザリガニのように母親が抱卵し、卵の中で最終形態にまで変態してから孵化するそうです。ワレカラには、親が保育嚢を持っていて、仔ワレカラを育てる種もいるとか。さすがにそうした興味深い生態は、鯨研得意の致死的調査じゃ無脊椎動物だってわかりませんわな
 ワレカラも水産資源でないため、研究事例は少ないそうですが、クジラジラミの生態に関する情報はそれ以上に白紙に等しいようですね。先日の鯨研発の論文一覧にも、該当するものはありませんでしたし。寄生対象であるクジラの回遊に合わせて環境が激変するわけですが、クジラジラミの繁殖・生活環がどうなっているのか、保育嚢の有無や母子関係など、詳しく調べれば非常におもしろい動物のはずですが、ホンッットに鯨研は肝腎なところで役立たずですね。
 まあ、クジラジラミは食えませんし、生態を調べたって捕鯨業界にとっちゃ一文の得にもならないから、鯨研の先生方はモチベーションが働かないんでしょうが・・。
 ただ、番組中では、通常主にナガスクジラに見られ、ザトウクジラでは観察例がない種が、ルルツのザトウで同定されたとも。ナガスがザトウと直接接触する(それもシラミが移動できるような形で)ことがあり得るのか? それとも、これまでザトウで見逃されていただけなのか? 海中を浮遊・移動して別の宿主にたどり着く可能性もあるのか(ワレカラは少しは泳ぐようですし)? 番組中でカメラマンの手に移動して爪で体を固定しようとしたということですから、成体のクジラジラミの運動性が高く、主に母親から子供へという形で直接移動していることは間違いないのでしょうが。
 もっとも、クジラジラミが別のクジラにどのようにして引越しているかわかったのは、後からの話。爪でしっかり固定している動物を生きたクジラから“引っぺがす”という計画の前提に、そもそも無理があったのでは。このカメラマンにしても、アプローチを続けてある程度慣れた時点で、たまたま親子とも眠っている場面にでくわしたから運よく採取できたのであって、接触したときに目が覚めたりしたら、重大な事故に至っていたかもしれません。
 また、ルルツから別の島に移動する個体もいると解説されていましたが、要するに、あまり高い負荷を与えすぎると繁殖に適さない場所だと判断して去ってしまうということ。「系統群判別が進めば保護に役立つ」といいますが、これでは本末転倒です。統計的に有意な標本数が得られない、対象が偏る、情報が間接的すぎる、もっと優れた手法が既にあるなど、多くの欠陥があります。
 やはり番組中で出てきたのですが、大体ザトウクジラは派手なパフォーマンスで知られているとおり、フリッパリングやテイルスラップなど各種の示威行動を頻繁に行うため、そのときに皮膚が剥がれ落ちるわけです。クジラジラミなんかじゃなくて、そいつを使って直接クジラの個体そのものの遺伝子解析をすればすむ話。この研究者、せっかくたまたま皮膚片を採取できたのに、「目的のシラミがいなかった」とかいって放り投げてたみたいですね(--; 独創的な研究として評価されることを優先したのか。まあ、クジラジラミそのものを研究する意義ももちろんないわけじゃありませんが、それは鯨類学というよりクジラジラミ類学
 以前取り上げた、日本の水中写真家による強引な撮影もそうでしたが、メキシコ政府と同じようにトンガ政府も規制をもっと厳しくしなきゃいけませんね。繁殖海域での母子個体への直接のアプローチは、観光ダイバーはもとより、プロのカメラマンだろうと科学者だろうと、要件をもっときっちりと厳格に審査して制限すべきです。

参考リンク:
(クジラジラミ写真)
http://www.vill.zamami.okinawa.jp/whale/kujirajirami.htm (リンク切れ)


 

◇捕鯨批判ブログご紹介

■IWCから「伝統的な捕鯨を復古しろ」と忠告ですw (2/6,不条理日記)
http://himadesu.seesaa.net/article/113744377.html

 自称ネトウヨさんにも話のわかる方はいらっしゃいますが、保守派サイドから「調査捕鯨反対沿岸捕鯨賛成論」がもっと出てこないのはやっぱり不思議ではありますね。

■WWFジャパンが管理捕鯨容認に変わったのは皇室への配慮と分析されている (2/17,フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ)
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/60233635.html

 WWFJが“宗旨替え”してすぐ引っ込めた話ですね。いまも若干配慮が伺える主張ではありますが・・。まあ、予防原則やマルチインパクトについてきちんと明記しているので、筆者としては問題ないと思いますが、社会学的・政治学的視点はGPの方が持ち合わせているといえるでしょうね。
 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社のレポートですか。保険会社ですよねぇ。A○Fは日本じゃ活動してないようですし、SSは共同船舶だけだから、損害保険じゃないですよねぇ。訴訟リスク保険??
 つくづくおもしろいですニャ〜、ニンゲンって動物は・・・

posted by カメクジラネコ at 02:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 自然科学系
この記事へのコメント
記事を紹介していただき、ありがとうございます。
WWFジャパンの件は、その会社から返答があり、「皇室との関係については根拠はなく、単なる推測である」として、謝罪がありました。
このレポートを読んだときは、何か捕鯨関係の宮中行事があるのかと思いました。
Posted by marburg_aromatic_chem at 2009年02月19日 20:08
>marburg_aromatic_chemさん
おもしろいレポートですよね。なんでわざわざこんな要らないこと書いたんだか。
捕鯨と皇室の関係では、昔、昭和天皇が生物学フリークだってんで地球の友かどっかが手紙を送った(返事はなし)という話がありますが、他は聞きませんね。
ただ、担いでるので日本政府と真っ向から対立する方針は立てにくいという"説"はあるようですが・・
Posted by ネコ at 2009年02月20日 00:44
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/26915339
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック