2008年12月10日

ハワイのザトウクジラの社会性・続き

◇シーシェパードとダイオウイカ 

■謎の巨大イカを追え!|爆笑問題のニッポンの教養 (12/9 23:00-,NHK)
http://www.nhk.or.jp/bakumon/previous/20081209.html

 有名な生きたダイオウイカの映像を捉えた科博の窪寺氏がゲスト。
 もうちっと面白い話が聞けると思ったんですが、爆問太田氏の所為で半分以上台無し。いつものパターンですが・・。このヒトは、「"+"という演算子ってのはそういうものなんだ」といくら言い聞かせても「俺は1+1=3じゃなきゃ嫌なんだ!」 とごねて聞かないようなどうしようもないヒトだから、もう理系のテーマの場合は田中氏1人でやってほしいんですけどね(--;; どうせなら、そこら辺の中学生を捕まえてきて質問させた方が、よっぽどまともな教養番組が出来ますよ・・。
 イカと海洋生態系、クジラとの関係について、有意義なお話もありましたが、その辺は皆さんに各自勉強していただくことにして、全然別の切り口から一言。
 小笠原の初映像のニュース、ニューヨークタイムズの一面を飾ったり、窪寺氏がニューズウィークに「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれたり、スクープとして報じられ世界的に高い評価を受けたにも関わらず、日本ではなぜか関心が薄かったと、ご本人が嘆かれていました。筆者はニュースを知って興奮した1人で、当時記事にも書いたんですが・・。
 日本人って、なんだかんだ言って海の自然について関心が薄く、知識もなければ重要性も理解していないという何よりの証拠じゃないんですか? ダイオウイカの新たな知見は、確かに新聞が一面トップで取り上げるだけの価値があるものでした。少なくとも、強気なんだか及び腰なんだかわからん水産庁のSS「逮捕しちゃうぞ」報道なんぞよりははるかに。

参考リンク:
■ダイオウイカ(当ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/12932913.html

 
◇ハワイのザトウクジラの社会性・その2 


 昨日取り上げた「動物奇想天外」ザトウクジラ特集、もう1つの"愛誤解説"について解説しておきます。
 雄の闘争シーンに絡んで「強い者が勝つ」としきりに強調していましたが、これも誤解を生みやすい間違った表現です。これではまるで、「遺伝子を残せるのはマッチョな雄のみ」と言わんばかり。典型的な古臭いダーウィニズム(実際には、進化という生物学的な枠組の理論の文脈とはかけ離れた、資本主義や優生主義を擁護する"思想"・・)の考え方ですね・・。
 ナンキョクオットセイのハレムに関する定説が覆されたことは以前取り上げましたが(これもニンゲンのソレと混同するのが過ちのもと・・)、自然界は「強ければ勝つ」なんて単純な世界ではありません。競争の結果、肉体的に秀でた雄が優位に立つということはありますが、これは多くの動物種で"戦略のひとつ"にすぎません。遺伝子をより多く遺す"適応価"の高い個体を"強者"という言葉で定義するとするなら、ここでいう強さの意味は、むしろ強(したた)かさになるでしょう。この強かさも、ニンゲン社会のそれとはやはりニュアンスが異なるわけですが。そして、"運のよさ"(特に環境に異変が起きた場合は、それまで主流でなかった戦略が優位になるケースがある)や、"優しさ"も強さのうちといえるでしょう。さらに現在の科学では説明のつかない"強さ"もあるでしょう。
 ザトウクジラの社会性に関する研究は、まだ十分に進んでいるとはいえません。北半球のザトウクジラの7割は冬季をハワイで過ごすようですが、沖縄・小笠原方面、あるいはバハ・カリフォルニアで冬を過ごすグループとの間で、社会行動に何らかの違いが見られるかもしれません。以前にも触れたように、3つのグループは索餌海域が重なっており、互いの間を行き来する個体も見つかっていますが。北大西洋、あるいは南半球にも複数のザトウクジラの系統群があり、こちらは北太平洋の個体群とほぼ完全に切り離されています。それぞれの海域の間で社会行動に差があることは十分考えられるでしょう。「派手な乱闘」は、ハワイで顕著に見られる"文化"なのかもしれませんし・・・。
 雄の間で闘争を繰り広げるということは、ザトウクジラの場合は雌に配偶者を選択する強い権限があるということを意味します。雄の性淘汰は雌のトレンドに左右されるわけですが、ハワイでは"マッチョな雄"に"人気"があったとしても、よそではそうとは限りませんし、ね。子育てのための営巣地や周辺のリソースを確保する(雌は当然理想的な営巣地を確保できた雄を選ぶ)といった、雄の間で激しい闘争をする合理的な理由が、クジラの場合はとくに見当たりません。繁殖可能な雌雄の個体数比に大きな隔たりがあるわけでもないはずですし。雌のトレンドには気まぐれな要素が入ってくる余地がかなりあるんじゃないかと、筆者には思えます。
 また、他の動物で見られるスニーカー戦略が、ザトウクジラの間でも見られる可能性は高いのではないでしょうか。繁殖エリアは限られているとはいえ海の中ですし、他の雄がケンカにいそしんでる間に隙を見て雌を引っ掛けてちゃっかり・・というのは大いにあり得そう。ザトウクジラの雄同士に強い社会的結び付きがあるとすれば、闘争に際して"数に頼む"戦略もありそうですね。そうすれば、肉体的な"腕っ節"より、チームを組める"統率力"や"カリスマ性"がカギを握る要素になるかもしれません。交尾機会はグループのうちの1頭だけとなると、他の雄には利益がありませんが、その辺は昨日触れたセミクジラの雄の利他行動(・・)の事例もありますし。
 1年の授乳期間があるため、繁殖サイクルが最低2、3年以上のザトウクジラで、エスコートの習性が見られるのは、自分の子供を守ってくれる"頼れる雄"かどうかが、雌にとって雄を判定する重要な基準となっていることも意味するでしょう。エスコートの期間がどのくらいに及ぶのか、回遊時や索餌海域でも同種の随伴行動が見られるのかどうかわかりませんが、たとえ冬季の繁殖期間のみに限定されるとしても、仔クジラにとってサメなどによる捕食のリスクが高まる時期ですから、雄のエスコート能力は雌にとって重要な意味を帯びてきます。となると、"強さ""父性""利他性(自分以外のこどもが対象)"という3つが、理想の雄に求められる要素ということになるでしょう。
 行動習性としてはおそらくエスコートの方が先で、"乱闘"は
雌が雄のエスコート能力を測る指標として後から発達した行動なのではないかとも推測できます。他の雄を近寄せないというのは、雌の選択権が強ければあまり大きな意味がないので。雄の心理としては当然張り合うでしょうけども・・。
 もう1点、前述した尾ビレ標識を用いた非致死的個体識別が明らかにした異なる繁殖海域間の移動も、繁殖に直接絡んでくる話なので、どういうタイプの個体が移動しているのか、性・年齢等によって差異があるのか、詳しい研究を待ちたいところです。というのも、索餌海域では年毎の分布に違いがあったとしても、餌生物の資源状態によって容易に説明がつくわけですが、冬季であればまったく違う解釈が求められ、特に意味がないのか、それとも繁殖に関わるのか、2つに1つと考えられるからです。移動するのは年に1割、2割程度と以前とあるレクチャーで聞いた記憶があるのですが、決して少ない数字ではありません。自分の生まれ育った故郷の海に"郷愁"を感じる保守的なタイプと、冒険心に富んだタイプにはっきり分かれているのか、少なからぬ割合の個体が数年したらよそへ移るのか。
 ご存知のとおり、少なくともゾウやカラス並のコミュニケーション能力を持ち、記号的音声で情報を伝達し合っている社会性動物
ですから、北太平洋に棲んでいるザトウクジラたちは、おそらく自分のホームと異なる繁殖海域が他に2つあることを情報として知ってはいるはず。そして、引越しの動機が気まぐれでないとすれば、そうした情報の共有とともに、雌雄ともに前年の繁殖の失敗による"心境の変化"が挙げられるでしょう。こうした移動は、捕鯨のような危機的環境異変に対する"保険"や、種・個体群内の遺伝的多様性の確保の意味とともに、"流行の飛び火"といった形で雌の新しいトレンドを生み出し、社会行動を変化させるきっかけになるのかもしれません。
 ザトウクジラは歌を歌うことでも有名ですが、雄が繁殖海域で披露する歌には、当然ながら自分の"強さ"を雌とライバル雄の両方に誇示する意味があるものと考えられます。歌の旋律は海域、系統群によって異なり、その年代の流行もあるとのことですから、多くの鳥のさえずりと同じく、ミーム・すなわち文化的要素が強い後天的行動といえます。ここでも、海域間を移動する個体が、ミームに変化をもたらす重要な要素となりそうです。きっと旋律の中には「自分のこれまでの戦績は何勝何敗です(サバ読み含む)!」とか、「お子さんを笑わせるのは得意です!」とか、「セキュリティなら当社にお任せを!」とか、そういういろんなPRの文句が含まれているんでしょうね。で、"流行を先読みする能力"も、雌が雄を評価する際の資質になると・・。
 仮にハワイの騒々しい雄の闘争が主流だとすれば、この先何百万年か後には──ニンゲンの捕鯨や環境汚染の所為で絶滅しないことが前提ですが──、雄の頭部のコブが発達してホヤやサボテンの如く刺だらけに変形し、イッカクのように比べっこで穏やかに決着をつけるように進化するかもしれませんね。シャチなどの天敵に対する防御も兼ね備え、実用性も高いですし。フジツボを大量に装着して、甲殻武装するってのもアリ?
 というわけで、余興で図示してみましたニャ〜。名称はサボテンクジラとかテッカメンクジラになりそうですが。ラテン語で学名を付けると何になるだろニャ〜? 敏捷性が落ちて沿岸性がより強くなりそうですね。でも、「フューチャーイズワイルド」に出てくるクジラペンギンには勝てないだろニャ〜・・・

saboten.png


☆補足:感情と科学

 筆者の記事を読んで、「擬人的な比喩表現は間違いだから避けろ」と言いながら、「自分の表現の方が擬人的じゃないか」と眉をひそめる方もいらっしゃるでしょう。筆者はあえてかなり踏み込んだ擬人化表現を用いています。
 擬人化には、“正しい擬人化”“間違った擬人化”があります。
 “間違った擬人化”とは、ニンゲンの有史以降の文明社会特有の現象、あるいは抽象概念をニンゲンのミームである文字や音声・記号に置き換えたものを、ニンゲン以外の動物に無理やり当てはめようとすること。今回ネタにした、構成からして愛誤的なTBSの「動物奇想天外!」、子供には難解な社会生物学流の解釈を噛み砕いた表現とオヤジギャグ演出で説明しようとして見事に失敗しているNHKの「ダーウィンが来た!」など、最近の日本の動物系TV番組に典型的にみられるのがこれ。海外の正統派環境ドキュメンタリーを少しは見習って欲しい・・昔のほうがまだマシだった(--;
 一方、“正しい擬人化”とは──擬人化という表現がむしろ過ちなのですが──生物学的な合理性のある動物(ヒトというサルの一種を含む)の感情・感覚・一部の後天的社会行動を指す表現です。
 例えば、母性愛、父性愛、互いの心理状態に関する情報を交換する社会的なコミュニケーション、"利他行動を誘発する感情"は、ときに自己犠牲という"エラー"を引き起こすことはあるものの、遺伝子の存続にとって有利な「柔軟性のある様々な一連の行動のバリエーション」の引き金となる素因であり、脳という制約のある物理的なプラットフォームを最も効率的に活かせるメカニズムです。こういう"冷たい書き方"をすると、まるで心や愛情を貶めているかのように受け取られるかもしれませんが、要するに動物(ヒト含む)の心とは、決して不自然なものではない、進化の過程で発達してきた合理性がある、ということです。
 筆者の感覚では、「科学(生物学)によって合理性を説明できる」ということが、心を貶めることになるとはまったく思いません。もちろん、科学によって解明されていない(ニンゲンの未熟な科学ではできない)ところもいっぱい残されていますが・・。むしろ、何か得体の知れない、不自然な、不可解な、神秘的・超常的な"何か"にその出自を求めることの方が、筆者としてはバリバリの違和感を覚えます。それは、「自分たちが特別の存在でありたい」という"願望"を反映しただけの妄想にすぎません。「自然な、ありのままの存在である」ということは、"安心"できることです。付け加えれば、心がなぜ《こう》なのかということ、そこに《価値》を認めるかどうかについては、科学は一切関知するものではありませんし、またさせるべきでもありません。
 筆者は、(自然な由来を持つところの)動物の心というものに、"命"とともに大きな価値を認めたいと思っています。一方、ニンゲン特有?の知性だか理性だかというシロモノ──しばしばヒト同士を峻別する物差しにしたり、ヒトを含む他の個体の命を奪ったり自然を壊すことを正当化する"だけ"のために掲げられる──に、たいした価値があるとは思えません。というか、そのニンゲンの1個体として長らくニンゲンの群れの中で過ごしているうちに、そう体感するようになってしまったというのが正直なところですが・・。(ヒトを含む)殺しの正当化をやめ、犠牲を減らす社会を築くことができてこそ(その過程に入るだけでも・・)、初めてヒトが他の動物にない固有の尊厳を自らに見出せる存在になったといえるのではないでしょうか? また、そのためにこそ知性や理性を活かすべきではないのでしょうか?

参考リンク/文献:
■ハレムじゃないよ・・(当ブログ過去記事)

http://kkneko.sblo.jp/article/15343947.html
■クジラとバカの壁(拙HP)
http://www.kkneko.com/inteli.htm
『動物は何を考えているか』(ドナルド・グリフィン著、渡辺政隆訳、どうぶつ社)

http://book.akahoshitakuya.com/b/488622251X 
posted by カメクジラネコ at 01:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系
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