2008年10月25日

科学的懐疑と科学への懐疑

 本日は書評をば。日本語訳が出たのが昨年9月なので、とうに旬を過ぎちゃってますし、ただの読書感想文ですが・・。
 ちょっとまだバタバタが続いておりまして、せっかくお越しいただきながら恐縮ですm(_ _)m

 

『NEXT』マイクル・クライトン著、早川書房

 マイクル・クライトンの新作。前作『恐怖の存在』で地球温暖化懐疑論をぶちまけ、「どうしちゃったの、クライトン?」という反応を各界(私も含む)から引き出したクライトンでしたが、今作ではいくらか軌道修正できた模様。巻末の著者の主張は、実にもっともで頷ける話。本編があまりに生々しすぎるので、「ここはノンフィクションだ」と改めて注釈したほうがよかったくらいだけど。
 今作のテーマは遺伝子工学。訳者注にあるように、文章構成にDNAの二重螺旋パターンを盛り込むなど、趣向もかなり凝っています。おもしろいんだけど、読者はいちいち「このキャラはどっちだったっけ?」と確認しないとこんがらがってしまうのが難・・。
 読み終えて本を閉じてみると、やはりいかにもクライトンらしい作品だなあという感じです。アクの強すぎるシニカル路線、紋切り型の登場人物、設定上抜け目のないハズのキャラがトンマなことを次々にやらかすところ(まあそうでないと話が進まないんだけど・・)、この辺りのマイナス面は、クライトン小説の持ち味とも切り離せないので、大目に見るしかないのでしょう。1、2作しか手に取ったことのない読者ならともかく、何作も読んでしまうと、さすがに食傷気味ですが。それでも、他の作家には真似のできない、知的なエンターテイメント小説に仕上がっています。
 トランスジェニックのチンプ、オラン、ヨウムのネタは、本筋である遺伝子特許と倫理の問題へのツッコミ方に比べ、やや中途半端な感があり、この素材だけでもう1本独立した作品を書いてほしいところ。
 米国では遺伝子ビジネスが、本書を読んで笑えるどころか、寒気がするところまで進んじゃっているわけですが、日本でももはや絵空事ではありませんね。ES細胞は日本じゃ韓国や米国より真面目な研究が進んでるみたいですが、行政機関、マスコミ、産業界にはやっぱり勘違いしているヒトが多いと思われますし。そういえば、ヒトとチンプのハイブリッドの話も、昔どっかの大新聞が仰々しく一面で取り上げたことがありましたっけ。クライトンが耳にしてたらネタに使ったことでしょう・・。
 ウミガメの遺伝子操作の話は少々強引。ちょうどノーベル賞受賞で話題になったクラゲの蛍光遺伝子の導入は、実験室ではネズミやカエルなどでやってますし、台湾ではメダカを使ったビジネスなんかも実際あるようですが、オサガメとなるとやっぱり無理がありすぎ。ただの人工孵化さえ制御が難しいのだから。成熟までの期間はアカウミガメで20年とか40年とかかかりますが、オサガメだってそんな短くないはずなので、タイミング的に辻褄が合わないし。成功しても、親になって戻ってくるまで絶対生きられません。クライトンとしては、「おバカなエコフリークキャラ」を登場させたかっただけなのでしょうが・・。著者は、該当する誰かさんに対して、どうやら個人的に何か恨みでもあるみたいですね・・(前作の訳注参照)。
 特に捕鯨と関連する部分はありませんが、"当たり前の教訓"はいくつもあります。研究機関は科学者の集まりであり、その科学者はニンゲンという不完全な存在だということ。彼らもまた、周囲に流され、欲望に負け、過ちを犯すのです。彼らの言うことが常に絶対正しいとは限らないし、とりわけ「倫理と科学」とは明確に切り分けられなければなりません。社会が彼らに"任せっきり"にすることは、あってはならないのです。本書に書かれている、背筋の凍りつくような世の中にしたくなければ・・。
 トランスジェニックチンプとヨウムは、現実であったらこんな和やかな大団円は決して迎えられなかったでしょう。日本の捕鯨シンパが「殺さないのは差別だ」と息巻いて、身柄を請求することは確実です。そして、鯨研の「致死的研究」に供され、供養のために市場で肉を売られてしまうでしょう。
 上巻に一箇所GPが登場します。暇なヒトは探してみてください。まあ、笑えるっちゃ笑えるんですが・・。これはどこまでノンフィクションの引用記事なんだろうなあ??

posted by カメクジラネコ at 19:32| Comment(0) | TrackBack(1) | 自然科学系
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恐怖の存在の著者マイケル・クライトン氏、死去
Excerpt: 11月4日にマイケル・クライトン氏が66歳で亡くなった。早すぎる死である。残念だ。ジュラシック・パークの原作者で知られているが、私にとっては地球温暖化に疑問を投げかけた人物として記憶に止めておきたい。..
Weblog: 札幌生活
Tracked: 2008-11-06 19:29