2008年09月05日

調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研

■衝突の経緯、争う構え=「責任感じる」前艦長−イージス艦事故で海難審判・横浜 (9/4,時事)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080904-00000049-jij-soci (リンク切れ)

 「喉元を過ぎれば・・」ということなのでしょうか?
 勝浦の漁協の方もおっしゃっていましたが、口裏合わせの臭いを強く感じさせます。どこぞの大手捕鯨会社と同じですね。国に気兼ねして捜索を途中で打ち切るよう頼んでしまった親族の方の気持ちを考えると、いたたまれない思いでいっぱいになってしまいます。 

 
◇調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研 


 またぞろ鯨研発のトンデモ学説が登場。

■Whales losing blubber, claims controversial Japanese study (8/26,英ガーディアン)
http://www.guardian.co.uk/environment/2008/aug/26/whaling.conservation?gusrc=rss&feed=networkfront
■Decline in energy storage in the Antarctic minke whale (Balaenoptera bonaerensis) in the Southern Ocean | Polar Biology
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00300-008-0491-3
■日本の研究結果「クジラの皮下脂肪は減少」の余波 (9/3,AFP)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2513193/3285753

 最初に一点、AFP通信の日本語訳では「18年で17kgの減少」となっていますが、これは1年間の減少値の誤りです。そんなに少ないはずもないのですが・・。2番目のリンク先のPolarBiologyの掲載論文の出版元には、要約が掲載されています。
 以下に、その要点をお伝えしましょう。

   @ JARPAの結果、クロミンククジラの脂皮厚が相当程度減少していることがわかった。
   A 温暖化によってオキアミが減少したことが原因かもしれない。
   B 調査捕鯨は温暖化研究に貢献している。
   C ザトウクジラが増えてオキアミが減少したことが原因かもしれない。
   D ザトウクジラを間引いたほうがよい。
   E この調査結果は致死的調査でしか得られない。

 まず、鯨研が先日発表した査読論文リストから脂皮厚に関連するものを調べたところ、2006年に発表された論文が一つありました。これは調査結果の検証のみで、"温暖化説"や"ザトウ競合説"には触れられていません。

■Characteristics of blubber distribution and body condition indicators for Antarctic minke whales (Balaenoptera bonaerensis) | Mammal Study
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalstudy/31/1/31_1_15/_article

 同じ年、日本国内の捕鯨問題に取り組む市民団体のネットワークであるIKANが、水産庁に質問状を送っています。調査捕鯨による鯨肉歩留調整疑惑を追及する内容だったのですが、ここで水産庁側が示した回答の中に、脂皮厚減少の分析結果に触れる記述があります。

http://homepage1.nifty.com/IKAN/hogo/hogei/faans.pdf (リンク切れ)
http://homepage1.nifty.com/IKAN/hogo/hogei/070209.html (リンク切れ)

 回答内容自体はかなり間の抜けたもの・・。「その年の調査海域、調査時期、気象を含む海洋環境の違いにより大きく変動する」のは、鯨肉の量のみならず調査捕鯨で収集したすべての生物学的特性値に当てはまること。つまり、調査結果がそもそもあてにならないと言っているに等しいのです。「それでも分析が可能だ」ということは、すなわち鯨肉生産量のブレについても当然科学的な説明がついていなければならないということです。
 また、回答では「クロミンククジラの資源増加や、他の鯨種の増加によるクロミンククジラ一頭あたりの餌の量の減少が背景にあるのではないか」という説明もあります。ミンクが増えていることにしても、ミンクが減ってザトウが増えていることにしても、どっちに転んでも捕鯨推進の理由になるというずいぶん虫のいい論法ですが・・。後者の場合、これまでさんざん触れ回っていた≪クロミンク=ゴキブリ仮説≫が完全に逆だったということに他ならず、日本の鯨類学者には申し開きの余地もないはず。前者はJARPAレビュー会合で完全に否定されており(後述)、後者については今回取り上げた論文の主張Cと重なっています。
 もっとも、水産庁がIKANに回答した時点では、まだ上記の2006年『Mammal Study』掲載論文で「分析結果が判明した」ばかりの段階だったはずで、鯨研の関係者が適当に吹聴していただけの憶測にすぎなかったといえます。だからこそ、レビュー会合でたたかれたわけですが。
 2年前に開かれたIWC科学委員会によるJARPAT(第1期南極海鯨類捕獲調査)のレビュー会合では、18年の間にクロミンククジラの何らかの増減傾向を示す有意なパラメータ(生物学的特性値)の変化はなかったことで合意されています。つまり、上の水産庁の回答にもある≪クロミンク=海のゴキブリ説≫は、ここでゴミ箱入りになったわけです。脂皮厚は繁殖率や自然死亡率などポピュレーション(個体数動態)に直接絡んでくるデータではないため、話題にはならなかったのかもしれません。しかし、体長・体重等の鯨体計測データはJARPAレビューでも俎上に上っているはずです。仮に、平均または年齢毎の体重が"相当程度"減っていたとしたら、さすがに無視されることはないでしょう。この点に、脂皮厚減少の原因をオキアミ減少に求める仮説に対する第一の疑問が湧いてきます。
 ここで示された18年間の脂皮の減少分を、重量に換算すると約300kg。体重が10tとすれば3%で、決して小さな数字ではありません。捕食したオキアミの栄養がすべて皮下脂肪に変わるわけではないため、筋肉や内臓等他の組織に回される分を含めれば、体重の減少はこの程度では済まないはずです。これはかなりおかしな話です。また、摂餌量との関連をいうのであれば、捕獲調査の項目にしっかり組み込まれている胃内容物の重量データも同様に相関していなければなりません。脂皮厚のデータは間接証拠にしかならないのに対し、胃内容物の重量は摂餌量の増減をより直接的に反映するデータのはずですから。(*注参照)
 論文の要約では、「脂皮厚の減少は他のパラメータと独立した現象だ」としていますが、もし体重や体長の平均値の方には増減傾向が見られないとすれば、上記のACの推測は間違っている可能性が高くなります。
 実際、脂皮厚の減少から考えられることはいくらでもあるでしょう。例えば、海水温の上昇への適応もその一つ。四六時中海中にいるクジラですから、わずかな水温上昇にも敏感に反応することが考えられます。年間0.02cmという変化の程度、そして前述のとおり体重には変化がないと仮定するなら、この可能性が最も高いといえるでしょう。Aと同じく、原因は地球温暖化に求められますが。
 おそらく、他の多くの野生動物でも、気温や水温の変化に対応して、体温を調節するために皮下脂肪や体毛量が変化する傾向は当てはまるはずです。そして、この結果を南極圏の環境変動と結論づけるためには、他の鯨種、ペンギン、アザラシ等でも同様に脂皮厚を計測する調査が必要で、クロミンククジラの脂皮だけを測ってもまったく無意味です。
 Eは、鯨研側がこの研究論文を宣伝に使おうとした大きな動機と考えられます。
 RMP(改訂管理方式)の運用には目視データのみで事足り、系群解析も生態系の解明もバイオプシーで代替可能となったいま、「レベルが低いのになんで致死的調査なのか?」と科学誌の多くから論文掲載を拒否されているのが調査捕鯨の現状です。そんな中、「脂皮の厚みはさすがに殺して解体しなければ測定できないぞ(おまけに温暖化はトレンドだ)」と考え、科学界での旗色が多少変わることを期待したのでしょう。
 NGOの中には、超音波での非致死的代替手法があると主張しているところもあります。これに対しては、「超音波で海中を泳ぐ生きたクジラの脂皮厚を測定するのは現実的でない」という反論はもっともです。ただ、ガーディアン誌上で指摘されていますが、鯨体のいくつかでは銛による損傷があまりに激しかったためデータが採れませんでした試料を台無しにしてしまうような手法が優れているとは決していえますまい。

 いずれにしろ、別にクジラで測る必要など最初からありません。「海中に広く分布するオキアミの生態を探ることは極めて困難なため、オキアミを主食とするミンククジラなどのエネルギー貯蔵量を監視することが最も効果的」というのが、そもそもコジツケもいいところ。それを言うなら、副産物の商業販売と政府の補助で補填しなければならないほど巨額の経費を必要とする調査捕鯨より、南極生態系の構成種全般で調査するほうがはるかに効果的かつ合理的です。
 今回、鯨研が調査捕鯨がいかに科学的か、温暖化などの研究に役立つかを知らしめようと海外のマスコミにまで宣伝した研究は、その内容を見る限り、レベル・重要度のきわめて低いものであることがわかります。〈A→B〉と〈C→D〉のうち、はたしてどちらが原因なのか? 両方であれば、その割合はどれくらいか? それとも他に原因が考えられるのか? この調査結果だけではまったく結論が得られないからです。
 結局、はっきりしているのは、ただクロミンククジラの脂皮厚が過去20年ほどの間に薄くなったということだけなのです。
 「地球温暖化は南極生態系にどのような影響をもたらすか」という明確な研究目的のもとに、調査研究の総合的なプランを練るとすれば、現行のJARPAUの優先順位は限りなく低くなることでしょう。「いくらなんでも温暖化研究で調査捕鯨はねえだろ」ってことを、日本を含む世界中の地球科学者、生物学者に一度ピシャッと言ってもらえるとすっきりするんですけどね・・。日本の及び腰政策や捕鯨の環境負荷と合わせて。ここで私がいくら書いてもなかなか説得力を持ちませんし。。
 この研究の結論は、そういう意味では科学的というより政治的なものに他なりません。考えられる他のいくつもの要因を無視し、2つのみを取り上げているわけですが、一つは地球温暖化研究という時流に乗ったトピックと結び付けることで調査捕鯨に対する印象を高めるため、もう一つはザトウクジラの捕獲を正当化する競合仮説で、まさしく結論先にありきなのです。これは、調査の結果得られた事実をもとに、その原因を科学的に突き止めていくという、本来あるべき科学者の姿勢とは真っ向から反するものです。

参照リンク:
■JARPAレビューの結果と温暖化研究貢献論への批判
http://www.kkneko.com/jarpa.htm
 
*注:
 水産庁・鯨研は胃内容物調査を「南極海生態系の解明に必要な致死的調査」と位置付け、調査捕鯨の正当化を図ろうとしました。しかし、餌生物の調査としてはバイオプシーよる脂肪酸解析に劣ることが既に指摘されています。一方で、JARPAの調査項目の中では、胃内容物のサンプルは捕獲した全個体を対象としておらず、プライオリティが脂皮厚計測より下に置かれています。分析は用途毎に別途試料として保管し日本に持ち帰る必要がありますが、重量計測は全個体で可能。サンプル数を始めとする調査項目間の優先順位の決定に際して、"副産物"の商業利用への配慮などを考えない純粋な科学目的の調査であったなら、このようなことは決してあり得なかったでしょう。

posted by カメクジラネコ at 00:53| Comment(2) | TrackBack(1) | 自然科学系
この記事へのコメント
オーストラリアのニック・ゲールズも
《そもそもそのようなデータを得る必要があるのか。そのデータから何か科学的に重要なことが導き出されるのか》
と述べております。まさにその通りだと思います。

      ↓


「日本の研究は方法論そのものに欠陥がある。彼らが利用している統計も簡単すぎる他にも因果関係を適切に説明できる統計モデルが存在する」

「たとえ脂肪層の減少が事実としても、その原因といわれるものに説得力がない。他にももっと説得力のある理由が考えられる。ひょっとするとオキアミやクジラの数量とは何の関わりもない複合的な原因かも知れない。日本の調査捕鯨科学者は、ミンク・クジラの妊娠率が非常に高いとしており、自分たちの立論が自分たちのデータと矛盾していることに気づいてない」

(ゲールズ博士は、クジラを捕殺せずに得ることが不可能なデータもあることを認めたが)
「重要なのは、そもそもそのようなデータを得る必要があるのか。そのデータから何か科学的に重要なことが導き出されるのかということだ」

http://www.25today.com/news/2008/09/post_2649.php
http://www.abc.net.au/science/articles/2008/09/02/2353229.htm?site=science&topic=latest
Posted by 赤いハンカチ at 2008年09月05日 23:31
>赤いハンカチさん
いつも興味深い情報ソースを提供していただきありがとうございます。日豪プレスの和訳記事はチェックしてませんでした(^^; Googleばかりに頼っていると零れる情報が結構ありそう・・。こうした情報は、オーストラリアなどより日本でこそもっと周知されるべきですね。
Posted by ネコ at 2008年09月06日 02:18
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JARPA/JARPAII の謎報告書
Excerpt: なんか知らんが、「調査捕鯨」団の一員である日本鯨類研究所が JARPN/JARPNII や JARPA/JARPAII について誇大史に残る成果発表をしていた。
Weblog: flagburner's blog(仮)
Tracked: 2009-11-04 20:21