先月4月27日、水産庁が調査捕鯨の基本方針に関するパブコメを募集しました。
■「鯨類科学調査を安定的かつ継続的に実施するための基本的な方針(案)」に関する意見募集(パブリックコメント)について
■鯨類科学調査を安定的かつ継続的に実施するための基本的な方針(案)
実は別件で少々バタバタしてたのと、筆者の勘違いがもとで、締切ギリギリになるまでチェックできず(--;;
締切直前になってしまったのですが、本日5月23日に水産庁に意見を送りました。
パブコメであんまり長いのも誉められたこっちゃないのですが・・意見の最後で述べたとおり、サークル側の捕鯨協会や海員組合と違い、組織票を動員できるほどの団体は日本国内にはありませんからね、クジラの側には。捕鯨政策は圧倒的多数の国民にとって何の関わりもないことですし、家族の犬猫のためならいざ知らず、遠い遠い南極の海に住む野生動物の話。いくら「別に世界の反対を押し切って南極まで押しかけなくてもいいんじゃないの?」という常識的意見が多数を占めたとしても、忙しい日々で時間と労力を割いてわざわざ意見を官庁に送ってくれるのは、よっぽど奇特な方でしょう。
そうは言っても、もし送ってくれるという方がいらっしゃったら、ぜひ参考にしていただければ幸いですm(_ _)m もう時間が残されていませんが(汗)
以下にポイントをまとめておきます。
パブコメ公募サイトに当の方針案のPDFファイルが張っつけてあるので(上掲リンク)、合わせてお読みください。
まず、今回のパブコメは、昨年の国会で鯨肉に釣られた族議員たちが強引に押し通してしまった美味い刺身*@のもとで制定されるもの。美味い刺身*@の問題点については、以下でおさらいをば。■美味い刺身*@は廃止を!(プレゼン資料)
http://www.kkneko.com/sasimi/p01.htm
http://www.kkneko.com/sasimi/p01.htm
■ちぐはぐ族議員とグルメ好事家官僚が明かした美味い刺身*@のデタラメ
http://kkneko.sblo.jp/article/180420343.html
http://kkneko.sblo.jp/article/180420343.html
それにしても基本的な方針≠ェここまでデタラメでいいのかと、正直あきれ返ってしまいます。
まず、「第一 鯨類科学調査の意義に関する事項」として、商業捕鯨モラトリアム導入に至る経緯が概略的に述べられていますが、のっけから間違いだらけ。
2段落目の記述(PDF p2)は、あたかも乱獲が起こったのは二十世紀前半までで、IWCが設立されてからは科学的に管理されて乱獲などなかったかのように書かれています。が、とんでもないデタラメです。
水産庁すら半世紀以上絶滅危惧種と認めているシロナガスクジラは、1960年代まで未だ捕獲され続けていました(南半球で捕獲禁止になったのが1963/64漁期から、北半球まで含めて全面禁漁となったのは1966年以降)。もちろん、日本の捕鯨会社によっても。
また、1972年まで捕獲枠はBWU制に基づいていました。例のストックホルム人間環境会議で商業捕鯨モラトリアムが提唱されるまで。
BWUとはBlue Whale Unit、シロナガス換算。どういうものかというと、シロナガスなら1頭で1、ナガスなら2頭で1、イワシクジラなら6頭で1という計算で、しかも、ブッコミでいいよという、メッチャクチャいい加減な代物。非科学的なんてもんじゃありません。このBWU制があったせいで、ナガスクジラを捕りつつ、運よくシロナガスを見つけたらそっちを捕る(大きいし一度ですむのだから、当然そうしますわな)なんて真似が許されたのです。全面禁止後半世紀以上経っても絶滅危惧の状態を脱することが出来ないほどシロナガスを追い詰めたのは、専らこのBWU制の所為といっても過言ではありません。
また、その後も大手捕鯨会社の人間がバイヤーとして関わっていた悪名高いシエラ号などによる密漁・密輸、非加盟国の沿岸基地を利用する規制の裏を掻く悪質な脱法行為等のため、IWCの規制は有効に機能した試しがありませんでした。近年、米国海洋大気局(NOAA)が発表したとおり、あまりにも悪質な規制違反のおかげで捕鯨統計の数字自体が信用できない始末。最も悪質な二大規制違反大国こそ、旧ソ連と日本でした。
■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史
なんで担当者の水産官僚は基本をちゃんと勉強しなかったんでしょうね・・
基本方針案では続いて、モラトリアムについて「科学的根拠に基づくものではない」「科学的根拠が欠けている」(引用)といった表現を用いて一蹴していますが、そもそも科学的根拠がはっきり断定できるくらいなら野生生物の絶滅なんて起きてやしません。「不確実性」を理由にモラトリアムが導入されたのは、今では環境問題の文脈で当たり前となった予防原則に基づくもの。予防原則を認めずに「科学的根拠がない!」と言い張り続けているのは、捕鯨業界にどっぷり依存して乱獲を放置した責任を負おうともしない、脳ミソが1970年前のまま凝り固まった御用学者たちです。
そして、この基本方針案には実に驚くべき表現が。
このような極端な考え方を広く適用すれば、鯨類以外の多くの海洋生物資源の利用も否定されることに繋がりかねない(引用)
ことあるごとに原則∞原則≠ニ唱える捕鯨サークルのジゾクテキリヨウ原則論≠ナすが、ここには致命的な誤りがあります。
米国、オーストラリア等の代表的な反捕鯨国は、いずれも漁業・水産物消費の盛んな漁業先進国であり、持続的漁業において日本より先行しているのですから。
■オーストラリアから学ぶ日本の漁業の将来 (小松正之 上席研究員)|東京財団政策研究所
■成長する米国漁業〜自由競争を諦めたところがスタート地点|勝川俊雄公式サイト
■ニュージーランド Archive|〃
対する持続的漁業の落第生%本の漁業のお粗末ぶりについては、漁業者・NGO・研究者から何度も発信されているとおりで、今更筆者が取り上げるまでもないこと。
上掲拙提出意見では、新たにカスミ網、啼き合わせ問題を例にツッコミを入れて見ましたが、一貫性のかけらもない水産庁のジゾクテキリヨウ原理主義≠ノついては、これまでも解説してきたところ。
■持続的利用原理主義すらデタラメだった!
基本方針案の問題点に戻ると、次に出てくるのはモラトリアム見直し問題(PDF p3)。ここにもすり替えが。
方針案の文面自体を読めばわかりますが、IWCは10年後に「捕獲枠を設定する」なんて言ってやしません。「捕獲枠の設定を検討する=vです。最後の一語をすっ飛ばすところに、水産庁の悪質さがうかがえます。
実際には、合意できたのは改訂管理方式(RMP)まで。日本の捕鯨会社が犯したような悪質な規制違反を防止するために不可欠の改訂管理体制(RMS)で合意が成立しない限り、モラトリアム解除という次のステップに進むことなどできやしないのです。
まただんだん長くなってきちゃったので、以下は箇条書きで。
・「附表10(e)の規定どおりに(調査捕鯨を)実施」「国際法を遵守する」「ICJ判決の趣旨を踏まえる」とあるが、合法だと主張して来たはずのJARPAUが附表10(e)違反に問われたにもかかわらず、なぜ違反したのか、どうすれば違法行為の再発を防止できるのかの説明が何一つない。また、ICJ判決で「調査捕鯨の目的が科学目的かどうかは当該国のみの判断には委ねられない」と指摘されたにもかかわらず、その判決の趣旨を踏まえず、調査捕鯨の目的の合法性の判断を外部に委ねる仕組みが出来ていない。
・基本方針案には、商業捕鯨再開が実現しないのは「政治的対立」が原因であることが明記されている。にもかかわらず、その政治的対立を解消する努力をすることなく、各国が反対する調査捕鯨を独断で強行することによって、商業捕鯨早期再開の道が開けるはずはなく、同方針案の表現は矛盾だらけである。
・致死調査と非致死調査を適切に¢gみ合わせるとあるが、何が適切≠ゥの定義や判断基準が何も記されていない。「法令順守」を掲げるのであれば、動物愛護法第41条に定められた動物の科学利用の際の「代替」「削減」「苦痛の軽減」(いわゆる3R)の検討を明記すべき。
・妨害行為への対応は、海上保安庁に無駄な業務を強いる予算の無駄遣いである。南極海から撤退して北半球に限定するだけでも、予算は大幅に削減可能。それよりも、持続的漁業の大きな障害となっている密漁対策に充てるべき。
・広報予算を政府と事業実施主体別々に使うのは税金の無駄遣い。デマの発信に税金が注ぎ込まれるのを防ぐ仕組みもない。
このように問題だらけの基本方針案ですが、
「伝統食文化というが、相撲の女人禁制と同じ」
「南極海でまでやる必要はない」
といった短いメッセージで十分です。
利害関係者ばっかり、食通ばっかり、ネトウヨばっかりで国の方針が決められちゃうのは嫌だな〜と思ってくれた方は、ぜひ一言意見を送ってください!