さっそくですが、昨日の記事でお伝えした毎日のインタビュー記事を取り上げたいと思います。
■調査捕鯨妨害:シー・シェパード国際手配 西脇茂利・船団団長「資金のため過激行動」 (8/19,毎日)
http://mainichi.jp/select/world/news/20080818dde041040010000c.html
西脇茂利氏は日本鯨類研究所の調査部長で、昨シーズン調査捕鯨団長を務めた方です。18日夜にはNHKのニュースでもインタビューの模様が放映され、やはり毎日記事と同様の主張をされています(赤いハンカチさん、情報提供ありがとうございます)。調査船団の帰港後にも、産経などいくつかのメディアが西脇氏に取材し、このときもほぼ同様の応答をしているわけですが、今回警視庁の逮捕状請求を受けて再びマスコミに登場し、一段と非難の調子が激しくなっています。4月の産経記事(リンク)をご覧いただくと、微妙なニュアンスの違いがわかるかと思います。
■昨年度の調査捕鯨団長・西脇氏と1問1答 シーシェパード問題 (4/1,産経)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080401/crm0804010102004-n1.htm
まずは一つ一つのコメントに対するツッコミから・・・
「妨害は約14時間。「ヌスビト」「ハズカシイ」と日本語で叫びながら、船の前に回り込んで、破れた網やロープを投げ込んでスクリューに巻き付けようとした。酪酸を投げられ目に入った乗組員もいる。船の前に出て妨害することは絶対にやってはいけない。」(引用)
網やロープの投棄に関しては、SSを弁護できる余地はまったくありません。スクリューの損失も結果的に逮捕状請求にお墨付きを与えたものですし。朝日社説に解説されていますが、グリーンピースを始め他のNGOやそれらを支持する各国の市民は、SSの過激な行動を非難していますし、市民団体の非暴力直接行動とはみなしていません。信濃毎日新聞の社説にあるとおり、SSは活動スタイルを見直すべきですね。
とはいえ、今回のSSメンバー指名手配の根拠となったSUA条約とも絡みますが、一つ他のみなさんが見落としている点について指摘しておきたいと思います。「船の前に出て妨害することは絶対にやってはいけない」というのは誤りです。
詳細は昨日の記事で書きましたが、まずSUA条約の対象はあくまで航行の妨害行為であり、航行と無関係な捕獲活動は含まれません。日本側は、SSのロープによるスクリュー損傷を"取っ掛かり"にSUA条約の対象とみなし、それによって国内法を適用を可能にする形で、威力業務妨害での立件につなげたわけですが、条約の主旨に照らせば、ここでいう業務妨害の"業務"は船舶航行でなくてはなりません。
さて、あたごの漁船衝突で2名の方が亡くなったことはみなさんの記憶に新しいことでしょう。船舶の航行に際しては、軍艦や自衛艦だろうと大型タンカーのような巨大船舶だろうと、あるいは捕鯨船だろうと、必ず守らなくてはならない"交通ルール"があります。海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(COLREG条約)の規定に沿う形で、日本でも海上衝突予防法が定められ、「2隻の船が交差する場合、右側に相手の船を見る方に回避義務がある」と決められています。
昨漁期の接触がどうだったのか検証していませんが、仮にSSの船舶が捕鯨船の右舷側から航行してきたならば、回避義務が生じるのは捕鯨船の方です。「日の丸船団のお通りだ、そこをどけ!」なんて言い草は通用しません。南極の海は決して日本の庭ではないのですから。「相手が避けるだろう」という傲慢な感覚が染み付いてしまったために、人命まで奪うことになったあたごの事故と同様の事態を引き起こせば、重大な責任が生じるのはやはり日本側ということになるのです。
来年SSは2隻追加投入とのこと。もし、GPその他の団体、豪州他の政府が力を合わせ、捕鯨船と出力が同等以上の船を相当数用意して、ロープや酪酸ビンを投げるような過激な暴力行為も一切控え、必ず相手の右舷側から進路が交差するように航行すれば、上記の通り捕鯨船側が進路変更をしなければなりません。そうすれば、文句を言われる筋合いのない正当な抗議活動になるでしょう。左舷側のクジラを捕殺から庇うことはできませんが・・。JARPAUのあまりに杜撰な科学性を考慮すれば、ついでに採水や目視観察の記録をとるだけでも科学調査の名目は十分成り立つでしょう。で、捕鯨船に針路を変えさせるのは副次("副産物")的効果というわけですね。捕鯨船側が避けなければ、鯨研・共同船舶側が今度は威力業務妨害(に相当する当該SUA条約加盟国の法律)の加害者になります。これだと一時的に船舶からの温室効果ガス排出が増えちゃいますが、調査捕鯨船団が過去20年間大量のCO2を排出し続け(商業捕鯨時代も含めればもっとですが)、今後も何年も高い環境負荷をかけ続けるつもりでいることを考えれば、ここで一気に潰してしまったほうがはるかに地球のためというものでしょう。
ひとつ問題が。日本の捕鯨船団は、"副産物"の収益に加え、国民の税金9億+αが注ぎ込まれているからこそ、南極海での長期操業が可能になっているわけです。それに対抗するだけの船や人員を確保するためには、相当な資金が必要になるでしょう。こればっかりは、6億円を広報に注ぎ込んでいる鯨研や捕鯨協会の宣伝力を見習わないと、なかなか調達できそうにありませんね。SSとGPに手を組ませるのも無理がありそうですし。。
「慌てるのはやめようと話し合っていた。危険なのでデッキに出るのもやめた。乗組員間で連携がとれパニックにはならなかった。」(引用)
少々揚足取りになりますが、危険なのでデッキに出るのもやめたのは全員ですか? 妨害行動を受けている間ずっとですか? それなら怪我人を出さずに済んだのでは? 慌てず、連携をとって、乗組員が表に出るのをやめさせればよかったのでは? ま、放水で"対抗"していた所為ということのようですが。
また、産経記事では「向こうの人命も守りながら妨害に耐えた」と答えていますが、耐えたことにならないのでは? 日本側の放水により、誤って向こうが転落して死人が出る可能性もあったのではありませんか? 口先だけでなく、放水もやめて"耐える"べきだったのでは? 針路を変えさせられたくなかったから? 捕殺作業を続けたいから? 人命よりも???
上記に絡みますが、南極海は自分たちの領分であり、調査船団の活動はすべてに優先すると頭から決め、人命をその下に置いているのと違いますか?
「彼らは映像配信が念頭にあるので、より過激な映像を欲しがっている。元々行儀は悪かったが、衛星通信など装備が良くなり、船も速くなってきた。潤沢な資金が入ってきているように思う。」
これについては異論はありませんが……映像配信は鯨研もやっていますよね? マスコミやネットシンパ向けに。年間6億円という、研究費の何倍もの大金を広報費に注ぎ込んでいるんじゃなかったんでしたっけ? これまでに国の財布から100億円を超える"潤沢な資金"が調査捕鯨に注ぎ込まれたのでは? ついでに、非公開船を含めた捕鯨船団の仕様も公開したらいかがでしょうか?
「妨害行為を正当化するばかりでカルト集団と一緒のように思う。言いたいことはない。日本の捕鯨を阻止すると言えば寄付金が集まる。調査捕鯨が続く限り彼らの食いぶちは続くだろう。」(引用)
「言いたいことはない」と言いつつ言いたい放題ですな。ジャーナリストの江川氏と同様、カルトの定義を主観で決めてかかっているようですね。筆者もSSはチンピラだと思ってはいますが、西脇氏の定義に当てはめるなら、科学の名を借りた商業捕鯨を正当化するばかりの捕鯨サークルはまさにカルト集団と一緒でしょう。
最後の一文は正しいですね。SSの連中の食い扶持をなくすためにも、調査捕鯨をとっととやめるべきです。
「綿密な計画を立てているのに調査が思うように進まず、精度が悪くなる。」(引用)
綿密な計画? 在庫調整のための捕獲数調整、ですか? SSの妨害活動もその計画のうちに入っているのでは? 目視調査の精度が悪くなるのは採集作業の所為だと、同僚の藤瀬氏が鯨研通信で書いていたはずですが。
さて・・とりわけ問題なのがその後の一言です。
「また、乗組員が家族や親類に「悪いことをしている」と誤解され、こらえきれずにやめていく。調査捕鯨の将来には大きなマイナスだ。」(引用〜毎日記事)
「帰国後、家族から『危険だろう』と説得を受け、やむを得ず辞めていったメンバーが何人も出た。10年来、一緒にやってきて、これからも頑張っていこうという者も辞めていった。」(引用〜産経記事)
同じように見える2紙の回答、よくよく読めば全然違う主旨になっています。どちらが本当なのでしょうか?
下の産経での西脇氏の回答は、「"妨害活動で乗組員の身に危険が及ぶのではないか"と家族が心配している」という意味でしょう。これはすんなり理解できます。家族の不安を理由に辞める乗組員がいるのは当然で、それに対して西脇氏がSSに憤りを覚えるのも、まあ仕方ないことだと筆者も思います。もっとも、火災やクレーン事故、自殺について切り離すのはどうかと思いますが。家族だったら同じように不安を感じるはずですよ。
そしてまた、この先鯨肉の"国定価格"を上げても下げても、苦しい台所事情は変わらず、母船老朽化の問題も抱えている中で、マルシップの検討も選択肢に入っているのでは? 何しろ、日本は資本主義国なのですし。海員組合に株を持たせているのか、覚書か何か交わしているのか知りませんが、組合員全員の完全待遇を補償しきれるわけではありませんし、やはり不安を覚える社員はいるのではないですか? 横流しで御殿を建てているベテランは別にして。
一方、上の毎日での回答は、「"調査捕鯨=悪いこと"と、乗組員が家族に誤解されている」という意味ですね。他に解釈のしようがありません。毎日新聞がかなり致命的な誤植をしたのであればいざ知らず。
しかし、それは本当に"誤解"なのですか? その誤解は、SSが乗組員の家族に植え付けているのですか? その方法は、鯨研側に好意的なはずの日本のマスコミが間接的に伝える報道によるもののはずですよね?? 悪口三昧SSを叩いて捕鯨をせっせと応援しているハズの国内メディアの情報をもとに、共同船舶社員の家族が「調査捕鯨は悪いことなんじゃないか・・」と誤解してしまっており、調査捕鯨の実態について知っているはずの社員本人や、ほかでもない鯨研の調査部長が、その誤解を解くことができないと言っているのですか???
まさか、それはいくらなんでもあり得ないことでしょう。
それとも、広報に6億円も費やしているにも関わらず、日本のメディアに対して直接働きかけられないSSの流す情報に完敗するほど、鯨研の広報能力は稚拙だということでしょうか? 国からの補助金をも上回る金額を、社員の家族以外への広報に全部注ぎ込んでいる所為ですか? それもまた、実にバカげた話ですね。ネトウヨさんたちが聞いたら激怒しませんか?
もう一つの解釈があります。この回答、質問は毎日・産経ともに「妨害の影響は?」というものですが、記事を編集した毎日の記者もしくは回答時の西脇氏自身が、故意にあるいはうっかり異なる主旨の回答をしてしまった(載せてしまった)という可能性です。
ここで、西脇氏のうっかりミスだったと想定してみましょう。どういうミスをすれば、「"調査捕鯨=悪いこと"と、乗組員が家族に誤解されている」という回答になるでしょうか?
実は、この回答に似たコメントを、ある人物≠ェ別の場でしたことがあります。そう、共同船舶社長が、GPJ逮捕時に一部マスコミに寄せた不思議に弱気なコメントです。GPJと元共同船舶社員が詳細に暴いた、鯨肉の私物化・横流しや、解体鯨肉の洋上投棄、ランダム・サンプリングという科学的手順を無視し改竄したデータをIWCに報告するといった、調査捕鯨の中で行われてきた数々の不正行為の実態こそが「乗組員が家族に"誤解"を受けるような"悪いこと"」だったとすれば、西脇氏の発言はぴったり辻褄が合います。
SSのバカっぽいパフォーマンスなんぞで退職を願い出る社員、仕事を辞めろと勧める家族など、1人もいるはずがありません。しかし、GPJの発表を通じて調査捕鯨の闇が世間に明らかにされたことで、実態をよく知っている社員、知らされた家族は、負い目を感じて辞める人が何人もいて当然でしょう。もっとも、会社の不正が噂された程度で収入の伝手をほっぽりだす社員は、やはりどんな会社だろうといないはずです。
捜査当局が途中で不起訴にしてしまい、マスコミも多くが味方しているはずなのに、共同船舶社員は一体何故何人も辞めてしまったのですか?
それは、不正が真実だからに他ならないのではありませんか?
SSに関するインタビューでありながら、西脇氏の頭からはこのことが離れなかったのかもしれませんね。
インタビューに関わった鯨研の西脇氏自身、論文も出している鯨類学者の1人です。
ところで、日本にはもう1人、故西脇昌治氏という著名な鯨類学者がいらっしゃいました。鯨類学のバイブルとされる『鯨類・鰭脚類』(東大出版会)を著し、鯨研の前身である財団法人鯨類研究所に在籍したこともあり、その後東大、琉球大の研究の傍ら教鞭をとられ、82年には日本哺乳動物学会会長にも選出されました。海外との親交も広く、米国に本部がある国際海獣学会の終身会員に推薦されています。今の日本の鯨類学の大御所といえる粕谷氏と大隈氏の師となったのも西脇氏でした。日本の鯨類学の礎を築いたお1人といえます。
西脇氏は84年に亡くなりましたが、戦後直後に南氷洋捕鯨の監督官に赴任した時の模様を綴った氏の日記が出版されました。1990年に北泉社より刊行された『南極行の記』(副題:1947/48 捕鯨船団での日々)。当時の捕鯨操業の様子が詳細に分かる貴重な資料で、捕鯨問題に関心のある方にはぜひ一読してもらいたい本です。監修と序文を粕谷氏が担当し、大隅氏が後記に解説を寄せています(この人は当時からほんっとに相変わらずでしたが・・)。
ここで、その西脇博士の日記の一部を引用させていただこうと思います。
1月10日 (前略)最後に上った第二文丸のFinは65 feetだったが、mammary glandがthickness 13 cmもありmilk presentだったが、involutingとして我慢して違反にはしなかった。会社の奴等で癪にさはる奴(例へば漁撈兼作業課長、解剖係等)をギャフンと言はすには良い材料だが、私の判定一つで日本の世界に対する成績が悪くなるのだから、正確を第一とし(即ち信義ある調査を第一とし)判定に於ては我が日本に有利にせねばならない。その為に来たのでは無いか。私の感情で国権を侵してはならない。夜食後長嶺と一杯やりながら話す。早く東京へ帰り度い事ばかりだ。
※ 乳腺にミルクがあり、泌乳していたことを示す。しかし、この場合は、乳腺は退縮中で、泌乳活動を終えつつあるとみなして、仔連れ鯨捕獲の違反の疑いがあるのを目こぼしした。このようなことは日本の捕鯨では普通のことであり、会社や行政からも目こぼしを期待されたが、研究者にとっては耐えがたいことでもあったので、後には研究者は監督官を兼任しないケースが増えた。(粕谷氏注)
1月27日 (前略)大きな白の二頭連だと思ったら、小さい三分の二位のが小さい息をまぜて居る。船の連中は、あれは長須が混って居るので、子連れでは無いと言ふ。雌の肥り方。噴気。背鰭。背色等長須の様でもあり、子供の様でもある。しかし、私より実際に目の肥えた連中であり、しかも、監督官の面前で禁令を破って見せる様な事もあるまいと、その侭追尾させる。始めは小さいのが後からついて泳いで居たが、敵(捕鯨船)に追ひかけられたと気がついてからは、小さいのを前にして大きな白が後から揃って泳いで行く。そして、大体の場合♂が敵に近い方に居て♀を守ってやって居る。此の前第三文丸に乗った時は二頭連(夫婦)は一回も見なかったのだが、今日はどうも二頭連ばかりでその中の一頭をやっつけるのは可哀そうだ。しかし可哀想がってばかり居ては漁は出来ないし、当方が可哀想になる、早く帰れる為に犠牲になってくれよと祈ってやまぬ。そして今日の親子(?)の愛情又は夫婦の愛情を見せられては、それを打ち壊して自分の利益にのみ汲々として居る人間達。捕鯨業が嫌になった。母船では感ぜられない嫌な気分だ。遂に追尾成功。♂鯨はあへない最後をとげてしまった。それは大きな、♂にしては全く稀な程大きな85,6 feetもある奴ではあったが、それをやっつけた時、そして私に自らの功を話に来た時の、砲手の喜色満面ニタリとして残忍な笑ひを忘れる事は出来ない。私が、それと全く反対の気持ちで居るのも知らないで。それでもまあ♂で良かった。あれが♀であり、あの小さいのが、長須では無くて、子供だったら。小さいのは育たないかも知れない。此の点が国際協定のやかましく言ふ所であり、鯨を如何に可愛がるかと言ふ点だ。♂が自分が倒れても♀と子を守らうと言ふ精神、次代に示す♂の愛情は生物界いづれも変わらないだらう。犠牲になった♂の冥福を祈り、その犠牲によってのがれ得た♀の、そして小さき者の幸福を祈るや切。(後略)
1月30日 (前略)鯨は一時間おきに次々と上る。0430に上げた第三文丸の白皮をはがすと乳がほとばしり出た。指に付けてなめて見る。甘い。しかし幾分苦味が残る様な気がする。しかし、収縮中のものであると見倣す、not lactatingとする。中々難しい所だ。日本の監督官が乳を乳で無いと言ったとなると問題だ。乳腺としては乳を分泌して居ても、収縮の過程にあって子供には勿論授乳して居ないし、乳頭からも出ない。此の状態を言ふのである。watch交代後某監督官が室に来て、方針を変更したと言ふ。今迄は違反が出なければ反って疑がはれるからうんと辛くしたが、橋立の様子を見ると(橋立は違反五頭出してGHQから叱られ本省から制限体長の強化及対捕鯨船の処罰を言って来た)。違反は出せないと思ふから、甘くして、見て見ぬふりをしようと言ふ。こんな自分の成績や感情で行動する官吏が居るからいつ迄たっても駄目なのだ。かふいう奴こそ追放すべきである。もっと日本の立場を理解して、尺長のあるものを計り直して引下げ違反を出したりしなければ良いのだ。甘くすると言ふ今後の甘くしかたが見物だ。私は最後迄同じ方針で行かう。正確を基礎としてまけられるものはまけるが、此のまけると言ふのは人情では無く、その時の判断であり、出来得れば我が国に有利にとなる様に考へれば良いのだ。甘くばかりしてまけてばかり居て日本の監督官は信用出来ぬと言ふ事になれば、それこそ世界に対して大変な事になる。(後略)
※ 仔連れの母鯨は捕獲禁止で、捕れば砲手は処罰される。仔を連れていたか否かは捕獲の現場を見なければわからないので、泌乳の有無でこれを判断する。ここでは「泌乳なし」といつわりの記録をして違反を見逃したのである。(粕谷氏注)
この日記を読んた筆者の感想は、西脇博士は日本人として、そして人間として、とてもまっすぐな方だったのだなあというものでした。
西脇昌治氏はその後もう1漁期監督官を務めた後、小型鯨類の飼育技術者の育成や、近海の海獣類動物地理学的研究などの方面で活躍されました。亡くなったのはIWCでモラトリアム決議が通るより前ですし、御存命だったとしても、氏が捕鯨活動そのものに反対することはなかったでしょう。しかし、きっと是は是、非は非として筋を通されたに違いありません。
大隈氏曰く、「外国に幅広い友人知己を持ち、それらの方々に誠実に対処された。その情熱が時として爆発して、無理解な人には迷惑と感じられることもあったようであるが、それは先生の真面目さの証拠であった」という方なのですから。
粕谷氏が序文に「日本復興がなり、鯨肉は嗜好品に類し、捕鯨船団は報道管制をして秘かに出港している近ごろの有様を著者は何と見るであろうか」と載せていますが、商業捕鯨時代の日本の規制違反が国内メディアでまったく取り上げられないことや、GPJのレポート、JARPAの科学性がゼロに等しいと海外の研究者からさんざん叩かれている現状を、もし西脇博士が目にされたとしたら、さぞかし嘆かれるのではないでしょうか?
現鯨研調査部長である西脇茂利氏が、故西脇昌治氏とたまたま同姓なのか、血縁関係にあるのかは存じませんが、少なくとも日本の鯨類学の権威ある大先輩として認識されているはず。
さて、西脇殿。今の鯨研が、故西脇博士に対して恥ずかしくない、胸を張れるだけの仕事をしていると、本当に思いますか──?