2008年08月20日

実はそっくり、シーシェパードと捕鯨ニッポン

 "クジラの季節"が終わって、当分クジラの話題が巷で盛り上がることはないだろうと思っていたら、IWCサンチアゴ総会から2ヵ月たった今頃になって、捕鯨に関係のあるニュースをマスコミ各社が一斉に報じました。

■シーシェパード3人の逮捕状請求=米国人らに捕鯨妨害容疑−国際手配へ・警視庁 (8/18,時事他各紙)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080818-00000066-jij-soci (リンク切れ)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080818-00000041-mai-soci (リンク切れ)

 というわけで、さっそく《捕鯨報道・マスメディアランキング第3弾》を実施しましたニャ〜。
 今回は前回IWCサンチアゴ総会関連報道で下から3位(同列多数・・)だった信濃毎日新聞が抑制の効いた社説で優秀賞に。最下位はお馴染み捕鯨ヨイショ新聞産経とともに、読売を抜いて毎日がワースト1位タイ。グリーンピース・ジャパン(GPJ)職員逮捕時には、青森版で比較的バランスの取れた記事を載せていたのですが・・。朝日の社説もひどい内容でワースト3位タイ。まあ、新聞社は大所帯だし記者や論説委員にもいろいろいますから、ね。。
 詳細はこちら↓

■捕鯨報道・マスメディアランキング その3・SS逮捕状請求関連報道
http://www.kkneko.com/media.htm#3

 なお、この件に関しては、当局が逮捕状を請求する方針でいることを8/5に産経がスクープしたときも、拙ブログ記事で取り上げております。

■捕鯨ニッポンの体面とヒトの命の重さ
http://kkneko.sblo.jp/article/17661574.html

 最初に筆者の立場について改めて述べておきますが、筆者はGPやSSなどの組織に寄付をしている(もしくは、受けている)わけでもなければ、オトモダチなわけでもありません。GPJに関しては、とりわけ日本の調査捕鯨の実態を詳細に暴いたレポートを発表したことを高く評価していますが、SSの直接行動は日本の反感を買うばかりでクジラにとっては"益なし"であり、まったく評価できるとは思っていません。もっとも、日本への"逮捕状返し"等、ワトソン氏のセンスはある意味たいしたもんだとは思いますが・・。
 GPJの窃盗事件については既に何度も取り上げているので、過去記事を参照していただきたいと思います。

■法と正義2
http://kkneko.sblo.jp/article/16581796.html

 SSの行動を弁護するつもりは毛頭ないことを前置きした上で、今回の日本側の逮捕状請求・国際手配の正当性及び日本の調査捕鯨の違法性や条約違反について、検証してみたいと思います。
 GPJの逮捕時も、全国の窃盗事犯が刑法犯罪の過半数を占める170万件に上ることを取り上げ、マスコミ報道の偏向性について論じました。今回のSSの立件に対しても、公平性の観点は必要でしょう。
 SSに対する容疑がかかっているのは威力業務妨害。最近のデータがネットで引っかからないため古い数字で恐縮ですが(汗)、発生件数は昭和37年で700件ほど、起訴率が約4割不起訴になる確率が非常に高いのが特徴。最近話題になっているインターネットでの犯罪予告などもこれに当たり、昔に比べ多様化し、発生件数も増えていることは疑いないでしょう。暴力団や右翼による脅迫は代表的なものといえます。映画『靖国 YASUKUNI』の上映に際し、映画館側にスクリーンを切り裂かれた事件を仄めかした陰湿極まりない極右団員の脅迫も、訴えられていれば間違いなく威力業務妨害が成立したはずです。
 当局はSSの妨害を「悪質」といっていますが、予定の捕獲数に達しなかっただけで"業務"が不可能だったわけではありません。むしろ、過剰在庫が消化できずに困っていたところをSSのおかげで減産できて助かったとさえいえるはず。関係者は悪天候も理由の一つに挙げていたはずですが、天気に逮捕状を請求できるわけでもありません。脅迫によって上映そのものの中止を余儀なくされ、表現の自由の侵害によって社会にも多大な悪影響を及ぼした右翼の威力業務妨害などに比べれば、決して悪質な部類に入るとはいえないでしょう。

 検討中の傷害罪については、日新丸の乗組員(海保の職員)に酪酸入りビンを投げつけて軽症を負わせたというもの。実際には薬品がちょっと目に入っただけの模様(被害に遭われた方にはお悔やみ申し上げますが)。ちなみに、全国の傷害罪の認知件数は3万4千件以上(H17年度)です。被害の軽重度がどの辺に位置付けられるかについては、皆さんのご想像にお任せしたいと思います。対象が特定できていないということですが、威力業務妨害と別に追加でわざわざ請求するかどうかは不明。おそらくないと思われます。というのも、傷害罪も威力業務妨害と同じく刑法の国外犯規定の対象にはならず、日本が独自に立件するためには"裏技"が必要だからです。
 そう、読売や毎日記事などでも解説してありますが、日本の捜査当局はSSをしょっぴくために"裏技"を活用することを決めました。それが海洋航行不法行為防止(SUA)条約。この条約はIMO(国際海事機関)で1988年に締結された条約で、もともと船舶の不法奪取や破壊行為を念頭に置いたもの。現実に、東南アジアや中東など世界各地の海域で貨物船や漁船などを標的にし、船員や旅客が命を奪われることも稀ではない海賊行為やシージャックが起こっているわけで、それらのケースを主に想定したものといえるでしょう。日本は1998年に加入し、締約国は120カ国余り。詳細については下のリンクにある条文に目を通していただければと思います。
 SUA条約の条文は、見てのとおり国際条約らしく非常にわかりづらい代物で、交錯する各国事情に鑑み折衷を余儀なくされたことがよくわかります。「何らかの行為を行うこと又は行わないことを自然人又は法人に強要する目的で行われることを要件とするか否かについては、国内法の定めるところによる。(第三条2)」などの条文はその典型ですね・・。第2条の1で、軍艦が適用除外とされている時点でがっくりきますし(まあ当然でしょうけど・・)。第4条には一段とわかりにくい記述が。「この条約は、船舶が一の国の領海の外側の限界若しくは隣接国との境界を越えた水域に向かって若しくは当該水域から航行し若しくは航行する予定である場合に適用する。」つまり、公海は定義に入らないことになります。同条2で「締約国の領域内で容疑者が発見されれば適用」といってるので、この4条1の規定はあまり意味がなさそうですが・・。
 一方、例えばGPのゴムボートなども対象船舶に該当しますから、"危険行為"をあえて続行しようとしたり、南極海でのGPの調査"航行を妨害した"として日本の調査船団を訴えることも、あるいは可能かもしれませんね。下手をすれば、なだしおやあたごの二の舞になるところだったのですし。
 また、この条約は航行の妨害及び生命・財産に危害を加えることを対象にしたものですから、航行と関係ない捕鯨操業活動の妨害は対象になりません。酪酸ビン投入の立件に難があることに加え、調査船団側からも炸裂して衝撃を加え人体に影響がないとは言い切れない警告弾を実際に投げ返していますから、こちらを追及されると具合がよろしくないわけです。IPCOに手配し各国の協力を仰ぐうえでも、警視庁の立件はあくまで「SSが投げ入れたロープによるスクリューの損害でなければならなかったのです。
 さて、そうはいっても、一部のマスコミも指摘していますが、第十条、第十一条で定められているとおり、犯罪人引渡条約を日本との間で交わしている米韓以外で容疑者が見つかった場合は、当該国の法律に則り、引き渡すか引き渡さないかを当該国側が判断することになります。引き渡さない場合は当該国側で訴追の手続きをすることになっています。条約の主旨に鑑みれば、無法者が野放しにならないよう締約国のどこかが処罰すれば別によいということになりますから。国のメンツなんて関係ありませんからね。
 SS側はおそらく、米国以外に容疑者を既に移動させているでしょう。米国もリップサービス以上に本腰を入れて捜査するとも思えませんが・・。ワトソン氏自身の言うとおり、彼を指名手配すりゃいいのに・・と筆者なんかは思ってしまいます。指揮系統の解明などと嘯いている新聞もありますが、日本側だってまったく考えてないでしょう。容疑者が日本に送られてくる可能性があるとさえ思ってないでしょう。
 今回の捕鯨ニッポンの"パフォーマンス"は、まさしくSSのやり口をそっくり踏襲したものだと筆者は考えます。捕鯨=白、反捕鯨=黒とのイメージを国民に定着させるための。そして、国民の後押しを後ろ盾に、来年のIWC総会で商業捕鯨再開を始めとする無理な要求を一方的に突きつけるための。
 捕鯨が国民の関心の中心から遠く離れ、需要も大幅に落ち込んでいたのが、GP逮捕報道によってナショナリスティックな捕鯨シンパがネットを中心に一時的に盛り返したことに味を占め、クジラ論争が一段落してまた関心が薄れてしまう前に今回の報道を流させ、何とか捕鯨支持層の引き止めを図ろうと考えたのでしょう。東京地検の鯨肉横領疑惑の捜査を中途で打ち切らせ、GPJ職員の逮捕劇をウラで指示した、おそらく捕鯨議連関係筋の圧力をもってすれば、SS指名手配報道が出るタイミングを計ることなど雑作もないでしょうし。結局、彼らは世界の目などまったく気にしておらず、内側しか見ていないのです。

 さて、ポール・ワトソン氏は「ばかばかしい」「政治的だ」と日本側の動きを一蹴し、さらに張り切ってプロジェクト・ムサシ発動などと抗議活動をエスカレートさせることを示唆しています。SSがどういう団体か知っていれば当然予測できたはずですが・・。

 SSが気に入らないという人たちのために、筆者がここで2つ合理的な提案をしましょう。

 まず一つ、オーストラリアのような反捕鯨国が喜んで容疑者の首を差し出すように仕向ける方法があります。
 東京地検による共同船舶の鯨肉横領・横流し疑惑を再調査させ、会社による内輪の聞き取りと説明だけではなく、徹底的に"真実を洗い出す"こと。国費を投入した条約下の科学調査でありながら、「共同船舶が被害者だから横領は不成立だ」という論拠を持ち出すのは、国外犯規定の例外扱いができそうな条約を外務省に探させて担ぎ出してまで反捕鯨団体を立件しようとする姿勢と真っ向から矛盾するものです。捕鯨関係者に嫌疑がかかった場合は抜け道を提供し、相手が反捕鯨団体の場合は逆に網から零れても無理やりすくいとる形で、法律を権力にとって実に都合のよい道具として解釈・運用している点は同じかもしれませんが・・。重要なのは、国の都合に合わせて法を恣意的に使い分けるのではなく、フェアな姿勢を世界に示すことです。さらに、SUA条約を前例のない形で引っ張り出すのであれば、同じ国際条約であるCITESの規定に従い、最低でもナガスクジラやニタリクジラ、イワシクジラ(日本は留保しているが手順に従っていない点を指摘されている)を調査捕鯨の捕獲対象から外すべきです。ザトウクジラはつい先日IUCNが格下げしましたが、これも捕殺計画を完全に中止すれば、オーストラリアなどは進んで日本の捜査に協力するようになるでしょう。
 そしてもう1つ、すべてを片付ける究極の方法があります。
 容疑者をたとえ逮捕したところで、日本の団体でない以上、組織そのものに対しては何の手も打てやしません。日本がSUA条約を振りかざそうと、SSが米国を含む他国からテロ認定されることはないでしょう。威力業務妨害や傷害事件をひっきりなしに起こす日本のそこら辺の暴力団・チンピラと変わらないレベルで、人命を奪うアルカイダなどの本物のテロ組織とはまったく違うのですから、同列に扱うはずがありません。日本のテロ認定が異常だと世界から白い目で見られるだけです。
 では、どうすればいいのでしょう? もうあの連中がネットやテレビで映像を流すのを見たくない(水産庁や捕鯨シンパも最近YouTubeなど活用してますし、鯨ポータルでもネット中継なんぞやったはずですが・・)SS憎しという方々にはお誂えの方法──彼らの過激で目障りな示威行動をやめさせ、支持基盤を失わせ、収益源を断つ唯一にして合理的な最善の手──それは、日本が南極での調査捕鯨から撤退することです。SSなんぞさっさとぶっ潰しましょう。


参考リンク:
■平成18年版犯罪白書のあらまし
http://www.moj.go.jp/HOUSO/2006/table.html#01
■海洋航行不法行為防止条約
http://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/seajack.htm

 HPのメディア・ランキングでお伝えしたように、毎日の調査船団の西脇氏に対するインタビュー記事がツッコミどころ満載だったので"料理"するつもりでしたが、明日のブログにて取り上げたいと思います。

posted by カメクジラネコ at 02:32| Comment(5) | TrackBack(1) | 社会科学系
この記事へのコメント
>毎日の調査船団の西脇氏に対するインタビュー記事

実は下記NHKでも発言しておられます。
(どういうわけかまったく活字にはなっておりません・・まだリンクが切れいなっていない模様です)

    ↓

調査捕鯨妨害 3人国際手配へ
http://www.nhk.or.jp/news/k10013575051000.html

8月18日19時12分


「環境の名を借りたテロリスト、まさにテロリストだと思う」

「これは日新丸に投げ込まれた薬品びん」
「ここに書いてあるように、DANJER!と書いてあるように劇薬扱い」
「ガラスの破片と液体を被ったという状態で怪我人が出たんですけど、かなり恐怖だったというのは確かです」

「逮捕者が出ましたというのが1つのステップだと思うんで、次はやっぱ逮捕、シーシェパードとかこういう環境テロリストの撲滅にまい進していただきたい」
Posted by 赤いハンカチ at 2008年08月20日 07:33
失礼しました、“DANJER!”→“DANGER!”です。



それと『イワシクジラ(日本は留保しているが〜』についてですが、実は
日本は北太平洋の個体群については留保しておりません。

       ↓

イワシクジラ(北太平洋の個体群並びに東経0度から東経70度及び赤道から南極大陸に囲まれる範囲の個体群を除く)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/wasntn.html
Posted by 赤いハンカチ at 2008年08月20日 07:55
SSの○印達と違ってPETAの皆さんは面白いことをやります。
http://www.eatthewhales.com/
2001年のIWC委員会の時にクジラを食えというキャンペーンをやったそうですね。その後で上のURLのサイトを作っているし、バカボンのパパのような連中なのだ(合掌)。
http://blog.peta.org/archives/2007/04/eat_the_whales_1.php
Posted by beachmollusc at 2008年08月20日 13:41
先のミンククジラの頭数についてのコメントでは詳細のお答えありがとうございました。赤いハンカチさんも、ありがとうございました。(お礼遅くなって失礼しました)。
今回の記事もニュースをみるのに、とても参考になりました。ひとつ気になったのは(本筋とは関係ない、大したことではないのですが)
> 鯨ポータルでも内容をハサミでいろいろちょん切ったネット中継
と、ありますが、私はほぼ全部観ていましたが編集されているようには見えませんでした。
カメクジラネコさんは細かい情報を精査して、なるほどと思わせてくれるお話を聞かせてくれるのですが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというような記述があると、少し、おやっと思ってしまいます(編集の件、私の間違いでしたらお許しください)。
いずれにせよ、賛成も反対もメディアを利用することは間違いなく、そうした「偏り」をどれだけ考慮して、上手にメディアを利用して、自分なりに「判断」するかは難しいところですよね。
これからも、ご主張を大いに参考にさせていただきますね。
失礼しました。
Posted by blue at 2008年08月21日 02:17
>赤いハンカチさん
NHKの情報ありがとうございます。助かりました。
イワシクジラのこの例外規定はなんで付けたんでしょうね。イワシは商業捕獲期間が比較的短く、生態に関するデータも少ないはずなんですが。北太平洋と南極のこの海区で、日本が弁解の余地もないほどの規制違反や乱獲をやってのけた負い目でもあるんでしょかね。。CITES関連は私はあんまりフォローできてないんですが、いろいろとツッコむ余地がありそうです。ここでも"便宜上"ミンク2種といってますし、イワシの一部個体群を留保するなら、科学的には北のミンクのオホーツク側の系群も外して然るべきですし。カワゴンドウを留保する意味もわかりません。生態と数を考えればカワイルカと同じくらいピンチのはず。開発に日本が絡んででもいるのか。。リンクいただいた農水省のページの記述がふるってますな。クジラ以外のジンベイザメとかは科学的理由がないとでも言いたいのか。どちらかというと、クジラだけじゃあまりにもあからさまだからというのが理由かもしれませんが・・。

>beachmolluscさん
PETAは結構でかいとこなんですけどね(--; このロンリは昔の宮澤賢治も引っかかりかけたことがありますが。まあ、いろんなとこがありますわ。
味方にするとまた面倒なので、コッチの業界の方々は知らんぷりを決め込んでますが、ネトウヨの青二才君たちは混乱するかもしれませんねぇ。

>blueさん
ハサミの表現はよくなかったですね。ゴメンナサイ。どこのメディアだって細部まで全部報じられたわけじゃありませんし。
が・・基本的に「森下劇場」になってませんでしたか? 一方の当事者による解説や"翻訳"入りでは、やはり中立公正な(はずの)報道機関の中継と同列に扱うことはできないでしょう。
まあ、そもそも私には明確なスタンスがあるので、偏っているのは当然だと思ってください。大切なのは、多様な情報源を持つこと(耳を塞がないこと)、双方の主張を聞いた上で後は自分で判断すること、ですから。案外難しいことだと思いますが・・。
Posted by ネコ at 2008年08月21日 03:53
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Excerpt: 鯨のことだったら、この方の右に出る者はいないと勝手に思っているので、昨日からチェキしてたんだけど、このところ珍しく3日間くらい更新...
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