2008年08月14日

ザトウクジラの回復からニンゲンが学ぶべき教訓

 とりあえず別のPCでネットにつなげる環境にはなりましたが、データの復旧はプロのSEさんにお願いすることに・・。ユーザーデータは別棟に置いてあるので、なんとか救出できることを信じたいところ。。
 "クジラの季節"も一段落したことですし、PCトラブル他諸事情もあるもんで(汗)、更新を週1、2ペースに落としたいと思います。本当は、SEO対策上毎日更新したほうが有利なのですが・・。どのみち来年のIWC本会議前にはまた上げざるを得ないでしょうけど。。

 

■ザトウクジラなど個体数回復、自然保護連合調査 (8/12,AFP)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2505278/3211068
■ザトウクジラ個体数は6万頭に、絶滅危機を脱す…IUCN (読売)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080812-00000055-yom-soci (リンク切れ)

 

 IUCNはレッドリストなどで知られる、野生生物保護に関しては最も権威ある国際機関。商業捕鯨に対してもこれまで再三物申してきましたが、日本政府や捕鯨シンパはその声明からしばしば都合のよい部分だけをつまみ食いしてきました。今回もそうした声がすでにチラホラと聞こえているようです。が、担当者は次のように述べて商業捕鯨再開に結び付けようとする動きに釘を刺しています。

「個体数の回復は主に商業捕鯨の停止に起因するもので、調査結果はクジラ保護のために人類がなすべきことを明確に示している」
「絶滅の危険がなくなったから、自動的に捕鯨を開始して良いということではない」


 国内の野生動物を大量に有害駆除し、多くの絶滅危惧種/個体群を抱えながら開発信仰から脱け出せず、ときにはブンカの名を借りて他国や公海の自然を蝕む形で野生動物の生体や死体(製品)を大量に輸入してきた、GDPの数字とはおよそかけ離れた時代遅れの動物観・自然観を持つ一国の人たちを除けば、誰もがうなずくことでしょう。
 ザトウクジラの商業捕鯨が全面的に禁止されたのは比較的早く、シロナガスとほぼ同時期の1966年(南太平洋では1963年)。もちろん、密漁を防ぐ手立てはありませんでしたし、規制が厳格に守られていたかどうかについても様々な異議が唱えられているところです。「始めに捕鯨ありき」という立場の日本の鯨研のように業者とつるんでいない専門家が「順調に回復に向かっている」と確認できるまで、40年以上というあまりに長い時間を要した厳然たる事実をしっかりと認識し、近代商業捕鯨の罪の深さを自覚することが何より大切でしょう。
 もっとも、千頭から6万頭になったといっても、全世界でたった6万頭というのは非常に心もとない数字です。絶滅危惧U類を脱したといっても、準絶滅危惧種(現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種)の状態にあることに変わりはありません。生息条件の変化が例えばどのようなものかは、皆さんも容易に想像がつくものと思いますが・・。そしてまた、地域個体群によっては、南太平洋の島嶼系群のように、絶滅の危機を脱したとはまったくいえないものも含まれています。日本はJARPAUの中で、わざわざ稀少個体群に直接的なダメージを加えることを計画中であると世界に宣言しているわけですが・・。
 もう一点、ザトウクジラが回復に至るまでの遠い道のりには、ニンゲンによる管理の入り込む余地はまったくありませんでした。IUCNの担当者が述べているとおり、効を奏したのは何らかの積極的な保護策ではなく、商業捕鯨の停止という自制のみだったのです。
 大洋の自然について、亜熱帯出身の草原のサルの一種にすぎないニンゲンはあまりに無知でした。調査捕鯨に形を変えることでモラトリアムすら実質的に無効化してしまうほど自己管理能力のない捕鯨産業に、南極の自然を管理する能力などあるはずもなかったのです。日本の調査捕鯨が築き上げた膨大な耳垢と生殖器官のコレクションの山は、南極海生態系の解明という観点からはおよそ役に立たない、あまりに偏向したいびつなガラクタの山に他なりませんでした。業者にとっては副産物の鯨肉は"宝の山"だったでしょうが・・。
 既に何度か取り上げていることではありますが、日本の捕鯨関係者がこれまで声高に謳ってきたクロミンククジラ間引き論と、ザトウクジラの回復の関係について、ここで少し説明しておきたいと思います。
 自然の進化の過程でニッチの交代劇が起こるのは普通のことですが、これは南極の生態系で起こっていることとは次元の異なる話なのです。まず、大型鯨類が人為的な乱獲によって激減した穴を埋める形で、カニクイアザラシやミナミオットセイなどいくつかの種は確実に増えたものとみられます。これらの動物を間引きしようという話はちっとも聞こえてきませんが・・。徐々に進行する自然なニッチの変化と決定的に異なる点は、ザトウクジラやシロナガスクジラがカニクイアザラシとのオキアミをめぐる種間競争に敗れ、ニッチを奪われたわけではないということです。「カニクイアザラシにご飯をとられてザトウやシロナガスが食いっぱぐれた、その所為で増えることができない」という間引き説には、いかなる根拠もありません。個体数の絶対数と生息密度の減少そのもの、そしておそらく社会行動学的理由によって、繁殖率が大幅に低下してしまったことが原因なのですから。陸上の野生動物であれば、トキやパンダのような人工繁殖が唯一の解決手段と認識されることでしょう。対象が対象だけに、現状では物理的に不可能ですが・・。
 オキアミ"余剰"モデル自体そもそも眉唾モノとはいえ、繁殖率の低さという深刻な問題を克服できない限り、餌生物資源の配分をニンゲンの側で調整しようなどとしても、別の繁殖率の高い競合種が取って代わるだけで、激減した当の鯨種にとってはまったく役に立つはずがありません
 一方、クロミンククジラの増加については、"余剰"モデルに基づく純粋な仮定でしかない話と、70年代の商業捕鯨時代のものでバイアスが除去できず未だにもめているデータに基づく間接証拠のみです。捕鯨モラトリアム後に日本が行ったJARPATのデータによれば、クロミンククジラの個体数には増減傾向が見られないということで、IWC科学委の見解は一致していますクロミンククジラが増えたことを示す証拠はないということです。そして、クロミンクの間引きをしなかったにもかかわらず、捕獲禁止から40年の歳月を経たいま、より繁殖率の低いはずのザトウクジラに、やっとのことで回復の兆しが見えてきました。
 ザトウクジラの回復は、確かに吉兆です。当のザトウクジラにとって。愛鳥家にとってのハクチョウやオシドリなどのように、アクセスのしやすさや多彩なパフォーマンスから親しみやすい同種を愛する、オーストラリアや日本を始め世界中の多くの観鯨家たちにとって。生きたクジラとの共存を目指す新しい文化にとって。南極の自然とそこに暮らすたくさんの生きものたちにとって。捕鯨さえなくなれば、南極海が今後サンクチュアリとして厳格に保全されていきさえすれば、まだ回復の見込みが残っていることを示されたシロナガスクジラたちにとっても。
 ただし、間違っても、捕鯨業界にとっての吉兆だなどと思わないように。ザトウクジラの遅すぎる回復は、過去の乱獲の罪とともに鯨類学研究の稚拙さや管理能力の欠如という明白な事実を突きつけているのですから。
 日本の鯨類学者は、ザトウクジラの回復を何一つ予見できず、間引きの実効性も立証できないどころか反証を示されてしまいました。にもかかわらず、彼らの一部はミンク間引き論を依然として主張し続け、また別の一派は「ゴキブリはクロミンクじゃなくて実はザトウなんです」と臆面もなく吹聴するようになりました。まさに恥知らずとはこのことです。
 商業捕鯨再開の最低限の前提は、まず現実を直視することです。それがまったくできていないからこそ、捕鯨ニッポンは世界から信用されないのです。
 余談になりますが、捕鯨擁護論者がしばしば引き合いにするゴキブリは、野生動物のニッチの交代とまったく無関係です。同じく、マングースも外来生物ですし、捕鯨ニッポンらしい幼稚な自然管理の発想が元凶なので場違いもいいところなのですが、それ以上に理解に苦しむ表現。日本の捕鯨関係者の言語センスはゴキブリ並──などといったら、ゴキブリたちもさぞかし迷惑がるでしょうね・・・

posted by カメクジラネコ at 01:16| Comment(5) | TrackBack(0) | 自然科学系
この記事へのコメント
地球生命の大先輩であるゴキちゃんたちは尊敬されるべき存在であって、人間社会に寄生して繁栄しているごく一部のメンバー、まるで税金に喰らいついて利権にたかっている一部のニンゲンみたいな、が嫌われているだけですね。

国として認めたはずのIUCNもCITESもなかったことにして庁詐ホゲーをやっている水産庁が、都合のよい数字だけを利用したがるのはミエミエですね。
Posted by beachmollusc at 2008年08月14日 07:20
突然すみません。いつも興味深く読ませてもらってます。まだまだ勉強中ですが、海の生態系に関心を持っています。ご教授いただければ幸いです。
前々から疑問だったのですが、南極のミンククジラって、最低でどのくらいいるのでしょうか?ご存知でしたら教えていただけないでしょうか。日本の言ってる数字は多めに言っていると聞いたことがあります。もちろん、海の野生動物だから正確な数字はわからないのかもしれませんが、最低、このくらいはいるだろうという最低値は何頭なのでしょう。一方的な質問で申し訳ありませんが、日本のデーターは信用できなさそうだけれど英語がよくわからず、また、国際捕鯨会議とかIUCNとか、いろんなところがあって、よくわからないのが本音です。人によって言うことが違うような気がするし、団体によって認識が違ったりするものなのでしょうか。国際基準というか、世界的にみて本当はこれしかいないのだということを知りたいと思ってます。国際基準で思考することが大切だと思います。よろしくお願いします。
Posted by blue at 2008年08月14日 09:48
>beachmolluscさん
ゴキブリさんは2億年以上前から出現してるんですよね。洞窟のコウモリの糞や、林床の朽葉の分解に一役買ったり、生態系の中ではかなり貴重な役割を果たしてますし。ネズミとかカラスとかもそうですが、雑食性のたくましい種が何とかしぶとく生き残って貧弱な都市生態系を支えてるのに、嫌われまくりで不憫なことこの上ないですわ。。いずれにしろ南極のクジラとの接点はゼロですが・・。「嫌われ者のイメージ」を演出しようというそのやり方がどうにも嫌らしい。
関係ないけど、PCがとんじゃって凹んでるいまゴキブリさんのタフさが欲しいとつくづく思いますニャ〜。。。

>blueさん
お越しいただきありがとうございますm(_ _)m ぜひがんばってクジラのことも勉強してください(^^;
まず、ミンククジラといわれるクジラには実際には3種類いて、ミンククジラ、クロミンククジラ(ミナミミンククジラ)、ドワーフミンククジラと呼ばれています。ミンククジラは北半球に生息していますが、南側の生息限界は実はわかっていなくて、南極周辺にもいる可能性はあります。クロミンククジラは主に日本が南極の調査捕鯨で捕獲している種。ドワーフミンククジラは小型の亜種ですが、遺伝的にはミンククジラに近いといわれています。
数については国際捕鯨委員会(IWC)が調べているところで、いまはっきりした数字は出ていません。調査には日本の船も使われています。目視調査といって、読んで字の如く船の上から見て数えて、統計処理を施して推測しているのですが、南極海を3べん回って調べてみて、一番最近の調査では1周目のときに比べて大きく数字が下がってしまったため、IWCの中で揉めているところです。
日本は76万頭(クロミンククジラ)という数字をずっと言い続けてきましたが、これが1周目の数字です。もっとも、調査は南極の周りの海を6つの海区に区切って、1年に1海区ずつ、およそ10年がかりで調べるものですから、場所と年の違う数字を無理やり合計しただけでは正確な数字とはいえないわけです。いずれにしろ、既に"賞味期限"の切れた古い数字ですから、本当ならもう使ってはいけないのです。大幅に減ったという但し書きを付けるならともかく。
もう一点、野生動物の種は棲む地域(海域)によってさらに小さな個体群(系統群)という遺伝的なまとまりを持つグループに分かれます。野生動物を保護するに当たって大事なのは、この個体群毎の数字です。クジラの場合、赤道に近いほうに繁殖海域がいくつかあり、それぞれが個体群に当たると考えられますが、クロミンククジラではその区別がまだはっきりしていません。意味のない調査捕鯨ばっかりやって、肝心の調査をしていない所為なのですが。
詳しい数字はこちらでも載せています。ちょっと長くてややこしい話になってしまいますが。
http://chikyu-to-umi.com/kkneko/jarpa.htm
Posted by ネコ at 2008年08月15日 00:49
IDCR(SOWER)2周目(CPII)の暫定数値が約76万頭で
3周目(CPIII)終了時(2003/04期)が約36万頭(362,000)。

594,000 (CV = 12.8%), 769,000 (CV = 9.4%) and 362,000 (CV = 8.0%) for CPI, CPII and CPIII
http://www.iwcoffice.org/_documents/sci_com/SCRepFiles2005/AnnexGsq.pdf

これがいわゆる“半減か?”で騒がれた根拠です。(70数万頭から30数万頭に“半減”?)

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勿論これは生物学的半減を意味するものではなく
統計学的半減を意味しています。

と分かってはいても大本営はどうしてもこの“半減”なる言葉が気に入らなかったようです。
国民に与えるイメージとしてもよくないですし。(笑)

でIDCR(SOWER)4周目からは南極観測船「しらせ」が随行するようになりました。
それは『ミンククジラは海氷域に移動した』なる仮説を実証するためのものであるようです。
そのために水研のS氏を乗船させています。

その水研のS氏、今年の科学委員会でも
その『ミンククジラは海氷域に移動した』なる仮説を主張しておられるようです。
      ↓
http://www.iwcoffice.org/_documents/sci_com/SCRepfiles2008/Annex%20G%20FINAL%20sq.pdf

もうここまでくると当分の間は推定生息数の発表はないと思われます・・。

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ところで2000年の捕鯨総会で
「著しく(統計学的に)減少した海区がある」
と騒がれたわけですがどうもそれはW区のようです。
なにしろ(1988/89)84815→(1998/99)13409と約6分の1に大激減しておりますから。
(IDCR Estimates)
http://www.iwcoffice.org/_documents/sci_com/SC59docs/SC-59-IA4.pdf
(27頁目の表 Table 3 The estimates of abundance)

W区は日本の操業の本拠地の内のひとつ、大本営は焦ったというわけです。

なおその27頁目の表、IDCRとJARPAとの違いが出ていてちょっと面白いです。
Posted by 赤いハンカチ at 2008年08月15日 08:00
>赤いハンカチさん
わざわざIWCのソースまで引っ張ってきていただいてありがとうございます。
そうでしたね、連中が76万、76万とギャーギャー騒いでたのがもうずいぶん昔の気がしてたもんで(--; IDCR1周目から2周目で統計上(!)増えたときには「それ見たことか」といわんばかりの反応だった気もしますが。。
鯨研通信のJARPAレビュー報告で藤瀬氏は「もうじき科学委で合意できそうだ」なんてことを書いてますが、どうなんでしょうね? 減った数字は見せたくない一方で、これがないと再開の目処が立たなくなる事情もあると思いますが。もしかしたら、彼らは来年の総会の時には思いっきり開き直るつもりでいるのかもしれません。
去年の会合の年齢構成モデルの資料、面白そうなので余裕があればチェックしたいところなのですが・・結論はレビュー会合のそれと同じなんでしょうけど。4区は20年前に比べると数字が1桁も減ってますね・・。JARPAの推定値がSOWERよりいい加減になるのは、藤瀬氏が白状しているとおり、採集作業に足を引っ張られてるんだから当たり前ですわな。数字もさることながら、仮にS氏の仮説が正しいとすれば、それはそれで大きな問題。原因が捕鯨の所為なのか温暖化の所為なのか両方なのか、いずれにしろ、これほどの短期間で著しい生態・行動の変化を引き起こした責任はきっぱりととってもらわんと。これも、予測できない結果を招いた日本の鯨類学者の無能さをまた一つ証明しただけの話といえますが。
ところで、いまJARPA REVIEWのAPPENDEX6を引っ繰り返してるとこなのですが、もし関連資料をご存知でしたらついでに教えていただけると助かりますにゃ〜m(_ _)m 事務局に問い合わせても部外者だけに返信に3、4ヶ月待たされるし、サイト内検索かけても引っかからないもんで(--;
Posted by ネコ at 2008年08月16日 01:15
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