2017年01月27日

南極海捕鯨プロレスに異変!?/北方領土問題とクジラ

◇南極海プロレス(日本捕鯨船団VSシーシェパード)に異変!?

 米国で史上稀に見る粗暴な政治家が大統領に選ばれ、ポピュリズム・一国至上主義が一層勢いを増しそうでなんとも憂鬱な気分になります。
 とりわけ深刻なのが、世界各国が協調して取り組まないことには解決が望めない地球環境問題。
 温室効果ガス排出国トップ2の米中が手を取り合って真剣に取り組む姿勢を示したこと自体大きな前進といえたのに、そのパリ協定から離脱ということになれば影響は計り知れません。
 野生生物問題もまた然り。
 生きものたちはニンゲンが勝手に引いた国境線を越えて行き来しますし、その製品(生体含む)も船や飛行機で本来の生息場所とはかけ離れた場所へ運ばれます。よその土地や海の自然に対する消費国の責任はきわめて重大。どの国もトランプ大統領に右へ倣えしてエゴをむき出しにすれば、野生動物たちはますます追い詰められることでしょう。
 TPP撤退は地球環境にとって唯一のプラス材料かもしれませんが、米国は環境負荷を下げたり多国籍企業に環境規制を反故にさせないためにTPPを脱けるわけではありませんから、自国にさらに有利な条件で負の部分だけ引き継いだ二国間の貿易協定を結ぼうとするでしょう。そうなったら、どっかの国はいち早く手を挙げそうですし・・ていうか、もう挙げつつありますが。。
 米国の政権交代はクジラたちにとっても逆風となりそうな気配。
 地球温暖化は中国のでっち上げ、ホワイトハウス伝統のファーストドッグも置きたがらず、息子はトロフィーハンティングが趣味というトランプ氏のこと、公海のクジラを守ることの優先順位はこれまで以上に下がりそう。「TPPなしでも米国産牛肉どんどん買いますんで、どうか南極海での捕鯨はお目こぼしを」と日本政府が持ちかければ、二つ返事で乗っかってしまうかもしれませんね・・。
 何より、トランプイズム:ポピュリズム&一国至上主義を日本でそっくりそのまま体現しているものこそ、反反捕鯨にほかなりません。
 わかりやすい敵≠ニスローガンを掲げ、憎悪を煽動する手法も見事にかぶっています。マスコミの抱きこみと大本営化に関してはまだ米国の方がマシといえますが、今後どうなるか心配。

 さて、その捕鯨ニッポンがわかりやすい敵≠ノ設定し、対立を演出することで共存共栄の関係を築いてきた相手であるシーシェパード(SS)、昨シーズンは南極海に船を出しませんでしたが、今回は新造船の投入を宣言。今月に入ってついに日本の調査捕鯨船団を捕捉し、ヘリから撮影した母船日新丸上のクジラの死体の映像を世界中に流しました。折しも、当の安倍首相とターンブル豪首相の首脳会談があったばかりのタイミングで、オーストラリアを中心に各国のメディアが報じました。

■Japanese ship Nisshin Maru found in Australia waters with dead whale on deck: Sea Shepherd (1/15,ABCニュースAU)
http://www.abc.net.au/news/2017-01-15/japanese-ship-nisshin-maru-dead-whale-found-sea-shepherd-says/8183856
■Japanese whaling criticised by Government in wake of Sea Shepherd footage, Shinzo Abe visit (1/16,ABCニュースAU)
http://www.abc.net.au/news/2017-01-16/japanese-whaling-criticised-by-government-sea-shepherd-footage/8184640
■Japan criticised after whale slaughtered in Australian waters (1/16,ガーディアン)
https://www.theguardian.com/environment/2017/jan/16/frydenberg-criticises-japan-after-whale-slaughtered-in-australian-waters

 中国・台湾メディアもご覧のとおり。

■日漁船偷偷在南極捕鯨 (1/15,中國報)
http://www.chinapress.com.my/20170115/%E6%97%A5%E6%BC%81%E8%88%B9%E5%81%B7%E5%81%B7%E5%9C%A8%E5%8D%97%E6%A5%B5%E6%8D%95%E9%AF%A8/
■日罔顧反對聲浪續捕鯨 澳洲:深感失望 (1/16,大紀元)
http://www.epochtimes.com/b5/17/1/16/n8708415.htm
■無視國際法庭禁令 日漁船於南極再偷捕鯨魚 (1/15,自由時報)
http://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/1948441
■日船闖澳海洋保護區 再被拍到偷捕鯨 (1/19,環境資訊中心)
http://e-info.org.tw/node/202545

 ところが、当事者である日本の大手メディアによる報道は日経の1本のみ。ただし、アジアニュースのコーナーなのでこれもオンライン版のみと思われます。いつも騒ぎ立てる産経を始め、なぜか各紙とも沈黙を守りました。

■豪、日本の調査捕鯨を批判 反捕鯨団体が捕獲写真公開 (1/16,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM16H1X_W7A110C1EAF000/

 不可解なことに、NHKと毎日新聞はタイムリーでも重要でもない捕鯨関連報道を前後に流していたりするのです。

■捕鯨支持国拡大へ注力 IWC総会にらみ (1/9,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20170110/k00/00m/020/107000c
■調査捕鯨計画案 約100頭増 (1/17,NHK 北海道 NEWS WEB)
http://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20170117/5641421.html (リンク切れ)
http://archive.is/3rpkE

 毎日の方は共同配信で同記者が水産庁担当者から聞き出しスクープにした模様。従来から続けてきた抱き込み捕鯨外交を強化するというものですが、目新しいものとまでは呼べません。
 NHK北海道に至っては、昨年11月に水産庁がリリースを出し、他紙がとっくに取り上げたことだけ。年が変わって出す理由は皆無。
 他の日本語での報道は以下の海外メディアや通信社のものばかり。

■日本の捕鯨船、南極海でミンククジラ殺害と 豪政府批判 (1/16,BBC)
http://www.bbc.com/japanese/38633486
■シー・シェパード、調査捕鯨の写真公開 「IJC判決後初」 (1/16,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3114239
■豪環境相、日本の南極海での調査捕鯨再開を批判 (1/16,ロイター)
http://jp.reuters.com/article/australia-japan-whaling-idJPKBN1500TB
■安倍訪豪直後に連邦政府、日本の調査捕鯨を批判 (1/16,日豪プレス)
http://www.afpbb.com/articles/-/3114239
■日本、捕鯨禁止に違反、シーシェパードが摘発【写真】 (1/16,スプートニク)
https://jp.sputniknews.com/life/201701163242969/
■日本の捕鯨船にクジラの死骸か、シー・シェパードが写真公開 (1/18,CNN)
http://www.cnn.co.jp/world/35095164.html?ref=rss

 スプートニクが全然関係ない破裂寸前漂流クジラの画像を貼っ付けたのはご愛嬌として。。。
 いわゆる大手マスコミ以外でこの一件を伝えたのが、下掲のビジネスニュースオンラインとハフィントンポスト。

■日本が調査捕鯨を再開、アメリカ人の見方は? (1/16,businessnewsonline)
http://business.newsln.jp/news/201701161618230000.html
 中身はRedditといういわゆる米国版2chの内容を拾ってきただけ。そんなもので「アメリカ人の見方」がわかるはずもないのですが。「○○で鯨肉売ってた」だの、日本在住の反反捕鯨ネトウヨとすぐわかる書き込みも散見されますし。。
 まあ、まともなジャーナリズムとは到底呼べませんわな。これですから。。。

 現在、ポストプロセスの日本語辞書作成のための統計処理が完了していないため日本語の作文に不具合が生じている場合があります。(引用)

■シーシェパード、日本の捕鯨写真を公開 水産庁の反論は?【UPDATE】 (1/16,ハフィントンポスト日本語版)
http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/16/whale-hunting_n_14192392.html

 こちらはハフィントンポスト日本版。水産庁と同紙記者・濱田理央氏のやり取りがあるので、詳細にチェックしていきましょう。
 まずは記事本文と4番目の質問の間違い「ICJ判決後初めての殺害」について。
 記事の誤解のもとはBBCニュース日本語版≠フ「国際司法裁判所(ICJ)が2014年に判断を示して以来、ミンククジラが殺害されるのは初めてだとしている」(引用)とみられます。が、実は各英文報道にはそのような表記がありません。「(第三者が)写真で記録したのは初めて」という意味。つまり誤訳。新調査捕鯨・NEWREP-Aが今回で2期目であるのは当然みんな知っていることです。
 水産庁の担当者は鼻高々に答えていますが、まさか海外報道に目を通していないはずはないので、意図的に記者の誤りに便乗したというのがおそらく正解でしょう。優秀な霞ヶ関官僚さんの英語力や調査力がそんなに低いはずはないですからね・・。
 記事本文、というより安倍首相の間違い「国際的に認められている種類だけを利用する」について。
 これ、まさにトランプ流の真っ赤な嘘です。トランプと同様何にもわかってないのでしょうけど。
 真っ赤な嘘といっても、商業捕鯨モラトリアムから調査捕鯨国際裁判、新調査捕鯨に至る一連の経緯を考えると、きわめて意味深。水産庁も本当は困ってしまうレベル(まともだったらの話ですが)。
 事実を言えば、「国際的に認められている種類」などというものは存在しません。
 もしそんなものがあれば、国際司法裁判所で違法判決が出るはずもなし。誰だってわかりますよね?
 商業捕鯨モラトリアムには「国際的に認められる種類を例外とする」なんて規定は設けられていません。
 つまり、国際的に認められていないものを、日本が勝手に利用しようとしているだけなのです。だからこそ、国際的な反対の声が挙がっているのです。
 安倍首相のこの発言について、もう少し掘り下げてみましょう。
 実はこのコメントは外務省の発表した共同声明の中には含まれていません。捕鯨に関しては以下だけ。

■安倍総理大臣とターンブル豪首相共同声明|外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000120556.pdf

ターンブル首相は安倍総理大臣に対し,日本が今期に南極海において捕鯨を実施することを決定したことに対するオーストラリアの深い失望を伝えた。安倍総理大臣は,新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)の法的及び科学的根拠に関する日本の立場を説明した。両首相は,日本とオーストラリアは,海における人命や財産に対するリスクとなるいかなる行動も容認しないことを改めて強調した。(引用)

 では、出所はというと、以下のフジテレビの報道の模様。そもそも日豪首脳会談自体、日本のマスコミはあまり大きく取り上げていなかったのですが。

■日豪首脳会談 調査捕鯨への過激な妨害行為に厳正な対応求める (1/15,FNN)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00347039.html

これに対して、安倍首相は、捕獲によって鯨の総数に悪影響を及ぼさないと、国際的に認められている種類だけを持続的に利用するとする、日本の立場を説明した。(引用)

 ハフィントンポストの「国際的に認められている」の一言では、読者は「なぁんだ、じゃあ別にいいんじゃん」という反応で終わってしまいそう。
 同紙記事のみでは「国際的に」が一体どういう趣旨なのか、法的にか、(自然)科学的にか、社会的にか、判然としなかったわけですが、FNN報道からはやや科学的(?)なニュアンスの発言だということがわかります。
 ハフィントンポストの濱田記者は、なぜ前半部分を端折ったのでしょうか? 時事通信出身とのことですが、時事通信といえば、いわずと知れた元国際PR・梅崎義人氏がかつて所属し、全体的に捕鯨擁護のトーンが高いメディア。まあ、記者個人の立場が常に媒体と一致するとは限りませんけど。
 いずれにしろ、「捕獲によって鯨の総数に悪影響を及ぼさないと、国際的に認められている種類」はやはり存在しません。
 もし、事実なら、モラトリアムはとっくに解除されています。日本が勝手に主張しているだけで国際的に認められていないが故に、解除されないのです。
 安倍首相の「鯨の総数」という表現も素人的ですが、「悪影響を及ぼさない」はあくまで日本の御用学者の主張。当然のことながら「捕獲によって」の部分には規制の有効性が含まれるべきで、CITES違反の鯨肉製品違法販売や、調査捕鯨の名を借りた美味い刺身*レ的の国際法違反商業捕鯨を日本が続けている以上──しかも歴史的にも大乱獲の前科があるのですから──影響がないという主張を国際社会が認めることはありえません。また、ニホンウナギも太平洋クロマグロも、近海の主要な漁業資源の半数も、持続的に利用などまったくできていないのが日本の漁業の実態ですから、「持続的に利用する」という言葉自体に何一つ説得力がないといえます。
 さらに、何に対する「悪影響」かによっても見方は変わります。炭素固定など重要な生態系サービスを担っている大型鯨類をたかが美味い刺身≠ナ少しでも減らすこと自体、悪影響には違いありません。
 ハフィントン記事中の水産庁の回答の問題点に戻りましょう。以下に1番目の質問と回答を引用。

Q:オーストラリアの海域で現在捕鯨調査をしているのでしょうか?
A:写真を公開は承知しています。実際に調査をしていますが、国際捕鯨取締条約で認められた正当な活動で、問題はないと考えています。(引用)

 見事に噛み合っていませんね・・。
 オーストラリアの指定したサンクチュアリは、同国が主張する南極大陸領土の沖合のEEZの中にあります。
 ただ、水産庁担当者の「実際に調査をしている」という発言は、SSCSが報じた位置情報が正しく、実際に同国(が権利を主張する)海域で勝手に£イ査をやっていること、またその事実を自ら認識していることを裏付けるものといえます。
 水産庁の「国際捕鯨取り締まり条約で認められた正当な活動で、問題はない」というコメントには2つの重要な内容が抜けており、補足が不可欠。
 まず第一に、国際捕鯨取締条約(ICRW)で認められた「正当な活動」と謳って日本が同海域で行ってきた前調査捕鯨・JARPAUは、美味い刺身の安定供給(by本川元水産庁長官)目的でICRWに違反した「正当でない活動」でした。「問題大ありだった」のです。同様に、NEWREP-AもJARPAU以上に問題だらけ。国際法上問題があるかどうかシンプルに判定するにはICJにかける必要がありますが、日本は正々堂々と司法判断を仰ぐのを回避するために国連受諾宣言を書き替えました。「問題がない」のであれば、そんなことをする必要はまったくなかったのです。詳細は下掲の過去記事及び『クジラコンプレックス』(東京書籍)をご参照。

■新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ
http://kkneko.sblo.jp/article/176208780.html
■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 もう一点の極めて重要な問題については後述。
 2番目の質問への回答は1番目と重複する内容で、つまり問題もやはり同じ。違法なJARPAUでの主張の繰り返しです。
 続いて、3番目の質問と回答を引用。

Q:2014年に国際司法裁判所で日本の捕鯨行為を違法とする判決が出ましたが、その後も調査を継続していることに問題はないのでしょうか?
A:確かに違法判決は出ましたが、捕獲するサンプル数の根拠が明確でないといった指摘であり、将来の捕鯨活動を制限するものではありません。2015年秋にサンプル数の根拠を明確にした新しい調査計画を作成し、国際捕鯨委員会に提出しています。(引用)

 さあ、これもトランプ流の嘘。真っ赤な嘘≠ニいうよりは、国民に与える情報を極小に留めることを意図した計算された嘘に近いですが。
 ICJが日本の調査捕鯨の違法性を断じたのは「捕獲するサンプル数の根拠が明確でないから」ではありません。大体、皆さんも「根拠がはっきりしないくらいで違法なのか?」と首をひねるでしょう。
 科学を偽装した美味い刺身の安定供給(by本川元水産庁長官)目的の国際法に反する商業捕鯨だったから、です。
 詳細に解説すると、ICJが指摘した「JARPAUで明確でなかった部分」というのは「サンプル数の根拠」ではないのです。「サンプル数が鯨種毎に食い違う根拠」。ナガスクジラやザトウクジラはほとんどあるいはまったく捕獲しなくても成果ありとしながら、クロミンククジラで桁違いのサンプル数を要求するのは科学的に辻褄が合わない。クロミンククジラのみに捕獲が偏向しているのは、本川元水産庁長官が国会で答弁したとおり、「クロミンククジラが香りや味がよいから」とみなさざるを得ない、と。このことは判決文にもはっきりと明示されています。水産庁やマスコミは国民にこの事実をまったく伝えようとしませんが。
 そして、実際のところ、NEWREP-AはICJの指摘に合わせて改善されるどころか、より「美味い刺身」に専念することで違法性がさらにアップしています。サンプル数の根拠の説明の仕方も違法なJARPAUを踏襲しており、最初に数字ありき≠フ代物です。水産庁担当者いわく「IWCに提出した調査計画」は専門家パネルでさんざんに叩かれました。日本側が大量に送り込んでいる御用学者が無理やり両論併記にしましたが。
 さらに詳細は拙ブログ過去記事及び『クジラコンプレックス』をご参照(NEWREP-Aの違法性については上掲)。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html

 もう一つの表現、「将来の捕鯨活動を制限するものではありません」も、明らかに事実に反します。舌足らずですが。
 大体、将来の捕鯨活動が調査捕鯨を指すのか商業捕鯨を指すのか判然としません。卑しくも官僚たるもの、こんないい加減な言葉遣いをすべきではありません。
 むしろ、この曖昧な表現自体が商業捕鯨と調査捕鯨の線引をはっきりさせる気がない意思の現われともいえますが。
 商業捕鯨の趣旨でいえば、要件が整わず商業捕鯨モラトリアムが解除されない以上、捕鯨活動は制限され続けます。
 調査捕鯨の趣旨でいえば、日本が「制約を受けない擬似商業捕鯨を続けるテクニック」として調査捕鯨を位置づけたのは火を見るより明らかなわけですが、ICJは判決の中で今後許可を発給する際には判決内容を考慮するよう釘を刺しました。
 事実に従えば、日本はICJによって課された国際法上の制約を無視したうえ、国連受諾宣言を書き替えることでそのことを問われないよう手を打った、ということです。
 最後の設問に関しては、おそらくSSは狙ったけど間に合わなかったというところでしょう。特にターンブルはほっとしてるでしょうね。

 ところで、水産庁は今回オンラインメディアのハフィントンポストの取材しか受けていません。記事にしようともない日本のマスコミも腰が引けていますが。
 しかもどういうわけか、CNN(上掲)に対しては、「日新丸から報告を受けるまでコメントは差し控える」(引用)と回答を避けています。なんともちぐはぐな対応。
 その一方で、水産業界紙には直前に以下の記事が。

■水産庁、シーシェパード活動HPに 「捕鯨」への関心喚起 (1/10,みなと新聞)
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/65065

 ウナギやマグロの窮状はじめ、水産庁として国民の関心を喚起すべきことは他に山ほどあるはずですが・・。
 いずれにしても、自分で「関心を喚起する」と言っておきながら、オンラインメディアには中途半端な受け答えに終始し、海外メディアに対してはコメントすら出さないという、あまりに支離滅裂な対応を取っているのです。これは非常に奇異なことです。
 なぜといって、最初に述べたように、これまで捕鯨ニッポンはSSとの対立をPRすることで国内のナショナリズムを煽り、国会議員からネトウヨまでの支持を取り付ける戦略をとってきたからです。
 シーシェパードが違法な暴力的妨害行動に打って出ず、目撃者∞監視者≠フ役割に(今のところ)徹しているのが気に食わない?
 確かに、プロレス番組で視聴率の数字を取りたい立場としては、相手がもっと過激なパフォーマンスを繰り広げてくれないと、日本のヒール≠ヤりが目立っちゃいますものね・・。

 一方のオーストラリアでは、こんな報道もありました。タイムリーというかなんというか。

■Sixteen men arrested over $60m cocaine bust on ex-Japanese whaling boat (1/18,ヤフーニュースAU)
https://au.news.yahoo.com/vic/a/34176592/sixteen-men-arrested-over-60m-cocaine-boat-bust/
■Vic smugglers shipped cocaine on whaling boat (1/19,スカイニュースAU)
http://www.skynews.com.au/news/national/vic/2017/01/19/vic-smugglers-shipped-cocaine-on-whaling-boat.html
■〔オセアニアン事件簿〕麻薬密輸組織、日本の旧捕鯨船利用も (1/24,NNA ASIA)
http://www.nna.jp/articles/show/1561641

 元日本の捕鯨船がコカイン密輸に遣われ摘発を受けたという記事。
 下のスカイニュースででかでかと遣われている画像はもろ調査捕鯨のもの。直接は関係ないですけどね・・同様に豪国内法に違反する行為なのも事実ですけど・・。
 これも、コアラが穴に落っこちたとかいったほのぼのニュースなんかよりははるかに、日本でも報じる意味のある事件のはずですが、やはり日本のマスコミは全スルー。
 この一件を日本語で唯一報じたNNA ASIAでは、以下の非常に興味深い解説を載せています。

■【有為転変】第107回 日豪と韓豪の貿易協定 (1/20,NNA ASIA)
http://www.nna.jp/articles/show/1557202

その一方で日本は、日豪EPAによる2年間の成果を検証することさえしていない。優先順位が低いはずの捕鯨にこだわり、過去の日豪友好関係にしがみつき、既得権益や規制ばかりを重視しているうちに、オーストラリアではいつのまにか韓国産ブランドが席巻していた、という事態は見たくないものだ。(引用)

 オーストラリアにとって、日本は韓国や中国と天秤にかけて計る対象にすぎません。
 南極産美味い刺身≠ノ拘泥することがどれほど日本の国益を大きく損ねる愚かな真似か、私たち日本人はもっと真剣に考え直す必要があるでしょう。


◇北方領土問題とクジラ〜お人好しすぎるオーストラリア

 北方領土とクジラといえば、最近近代捕鯨の操業当時の模様の写真がニュースになりました。日本(和人)の捕鯨会社が、捕鯨を強制的に禁止したアイヌを尻目にシロナガスを乱獲していた事実を示すものでもありますが、ここでするのは別の話。
 上掲で取り上げたハフィントンポスト記事にある水産庁コメントの2番目は、国際的に大きな波紋を呼びかねない重大な問題をはらんでいます。
 以下で何がそんなに大ごとなのかを解説しましょう。
 まず、水産庁の誤り指摘の続きから。
 国際捕鯨取締条約(ICRW)で認められた「正当な活動」という間違った前提≠フもとですが、「科学調査だから問題ない」という主張自体そもそも間違っています。
 国連海洋法条約のもとでは、EEZは資源調査も含めて沿岸国が排他的許認可権を有しています。
 たとえ本物の、条約上正当な調査捕鯨であったとしても(違いますけど)、同海域で実施する前に日本はオーストラリア政府に対してお伺いを立てなければいけないのです。同国の権利を尊重するならば。
 もう一度確認すると、水産庁のコメント「条約で認められた活動」はこの場合意味がありません。条約で認められているか否かは関係ないのです。認められていようがいまいが、日本が勝手に≠竄チていいのは公海と自国EEZ内だけ。他国EEZ(排他的′o済水域)内で調査をやろうと思ったら、当該国の許認可を得る必要があるのです。
 つまり、この場合「オーストラリアの海域だという同国の主張を日本政府は認めない。ここは公海だから我々は堂々と勝手にやるのだ」と明言するのが筋なのです。実際、日本は従来、ICJ法廷をはじめ他の場所ではそう主張してきました。裏でどっぷり癒着しているとはいえ、一応民間の日本捕鯨協会は、オーストラリアを嘲弄する態度を隠そうともしていません。
 ですから、ここで記者に「オーストラリアの海域で」と質問をさせておきながら、水産庁が歯に物が挟まったようなすり替えの回答でごまかしているのは、やはり非常に奇異なことではあります。
 ともあれ、オーストラリア側の反応からも、水産庁のコメントからも、オーストラリアが自国EEZであると主張する海域内で調査捕鯨を実施するにあたり、日本が同国に許諾を得るどころか通知さえ一切していないことは明らかです。

 実は、これは調査捕鯨のセオリーどおりの振る舞いというわけではありません。

■日本のクジラ調査船、ロシア当局が検査 オホーツク海 (2014/8/22,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3023838
(報道当時の拙解説〜ツイログ)
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-140822

 これは3年前に起きた事件。
 調査捕鯨船団の1隻(監視船)がロシア当局に一時拿捕されたのはロシア領海内。
 ただし、この調査自体がオホーツク海のロシアEEZ内での目視調査でした。ロシアのオブザーバー科学者も乗船。
 これは旧北西太平洋調査捕鯨・JARPNUの一環として行われたものです。
 当時、日露関係はクリミア半島併合、いわゆる一方的な現状変更≠ニ制裁によって極度に悪化し、一種の嫌がらせとの見方もあります。サケマス流し網操業の禁止等、ロシアEEZ内の日本漁船操業をめぐっても、両国間は緊張状態が続いていますが。
 しかし、ロシアとの関係が冷え込んだ時期ですら、日本はロシアに対して調査実施を申請し許認可を得ていたわけです。
 目視調査ですら。
 そればかりではありません。
 まず、JARPNUにおいては、ロシアEEZ内で日本はクジラの捕殺調査を行っていません。
 オーストラリアサンクチュアリとは対照的に。
 そればかりではありません。
 問題はNEWREP-Aと対をなす新北西太平洋調査捕鯨・NEWREP-NP。NEWREP-A同様、捕殺調査の実施海域を拡大したのですが・・以下の水産庁発表の計画概要のPDFファイル、最後のページにご注目。

■新北西太平洋鯨類科学調査計画案の概要について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-2.pdf

 おわかりでしょうか?
 新調査から、いわゆる北方領土のEEZを捕殺調査の実施海域に加えたのが。
 ただし、3箇所の日本沿岸調査と異なり、沿岸12kmの領海部分は除かれていますが。
 まず、科学的な問題点を指摘しておきましょう。
 NEWREP-NPでは稀少なミンククジラJ系群の比率を調べるなどというトンチキな理由で網走沖沿岸調査を企てています。しかし、対象となるのは一時期の、回遊コースのごく狭い部分にすぎません。もし、本当にデータの精度を高めるうえで捕殺調査が必要なのであれば、一時期、狭い範囲限定の調査をもとに類推に類推を重ねるのではなく、回遊先の索餌海域となるオホーツク海で大々的な捕殺調査を行うべきです。
 それはまさに、オーストラリア(が自国のだと主張する)海域で、NEWREP-Aのクロミンククジラの捕殺調査でやっていることなのですから。
 逆に言えば、ロシアEEZに相当する海域で捕殺調査の必要がないのであれば、目視調査で済ませることができるのであれば、南極海での捕殺調査もまったく必要ありません。
 いずれにしても、網走沖調査捕鯨には下道水産に便宜をはかる以上の意味が皆無だという一語に尽きるわけですが。
 詳細は前回のブログ記事をご参照。

■史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/177973131.html

 さて、ここで3つのEEZないし係争区域における日本の調査捕鯨の態様を比較してみましょう。
territoryj.png
 皆さんご承知のとおり、北方領土周辺EEZを実効支配しているのはロシアです。


 周辺のEEZは北方領土同様にロシアにより管理されている。(引用)

 水産庁がNEWREP-NPで計画している同海域での捕殺調査を本当にやるつもりだとしたら、間違いなくロシア政府当局に通知し、了解を得ることでしょう(あるいは既に得たか)。
 さもないと、ロシアの監視船がすっ飛んできてとっ捕まるのは目に見えてますし、ね。
 日本政府は「ここは我々の領土だ!」と拳を突き上げているわけですが、それでもロシアに断りを入れずに、自国の当然の権利として傲然と強行するとは思えません。
 翻って、南極海で日本は一体何をやっているでしょうか?
 友好国のオーストラリアが自国の領海だと主張している海域に、何の通知もなく「当然の権利だ」とばかり傲然と押し入っているのです。
 自国の領土だと主張している海域ですら、ロシアに対しては殊更に配慮しているにも関わらず、です。
 西側同盟の一員として価値観を共有しており、米国に次いで最も親密であるといわれ、両国市民の好感度も良好なオーストラリアに対する態度。
 日本も一応含まれる西側諸国とは国内の民主化・外交政策の両面で大きな隔たりがあり、価値観を共有しているとはいえない国、しかも領土をめぐる軋轢を直接抱えている相手でもあるロシアに対する態度。
 両者に対する日本の待遇に、どれほど途方もないギャップのあることか。
 ICJ判決無視や国連受諾宣言書き換え、そしてこの極端な外交のダブスタに象徴される美味い刺身″ナ優先の日本外交が、いかに世界の人々から奇怪なものとして受け入れられることか。
 硬直的な捕鯨推進政策が一体どれほど大きく日本の国益を損ねていることか。
 今こそすべての日本国民が真剣に考えるべきときです。

 同時に、これはオーストラリア国民にもいえることです。

■日豪首相が会談、多彩な連携 「TPPの早期発効目指す」 (1/16,NNA ASIA)
http://www.nna.jp/articles/show/1558658

■捕鯨問題では双方が要請
一方会談では、安倍首相が調査捕鯨についての日本の立場を説明し、反捕鯨団体による妨害行為について予防や厳正な対処を要請。ターンブル首相は捕鯨に反対するオーストラリアの立場を説明したのみで、日本の要請を受け入れると明言しなかったという。
ただ、ターンブル首相は会談後、日豪関係について「喜びも悲しみも共有する友人(all―weather friend)」と表現し、捕鯨問題が日豪関係全体を損ねるものではないと話した。(引用)

 ターンブル首相のこの発言はあまりにも人が好すぎます。
 「おまえたちがやってることは友人に対してしていいことじゃない」と、はっきりと口にすべきでした。
 日本がオーストラリアのサンクチュアリでやっていることは、日本人を被害者≠フ立場に置き換えるなら、「国立公園に指定されている知床沖に、南半球の国が勝手に浸入し、好き放題密漁をやっている」のと同じ。
 日本でいえばツルやハクチョウに相当する、市民の愛でる野生動物を「美味い刺身≠セ」といって殺され、国家としての主権も踏みにじられながら、うわべだけの友人関係を演出することが、一体どうして国のためになるでしょう?
 オーストラリアの人たちの悲しみを、日本人はまったく共有してなどいないのです。少なくとも、霞ヶ関と永田町にいる連中は。
 捕鯨ニッポンどれだけオーストラリアとその市民をバカにした態度をとっているか、今こそはっきりと認識するべきです。


関連:(たまたま検索していて引っかかりました・・)
■一九四六年十一月に外務省が連合軍総司令部に提出した北方領土問題についての調書
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/HoppouShiryou/S1/194611GaumushouChousho.htm
posted by カメクジラネコ at 19:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系
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