2016年12月08日

史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨


 11月9日、マスコミ報道が米大統領選一色に染まる中、こっそりとまぎれ込むように流れた1つのニュースが内外の捕鯨問題ウォッチャーに衝撃をもたらしました。

■政府、捕鯨計画100頭増 北西太平洋 網走沿岸でも調査 (11/8-9,北海道新聞)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/economy/agriculture/1-0336135.html
■北西太平洋で314頭=調査捕鯨の新計画案−政府 (11/9,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016110900941&g=eco
■調査捕鯨、政府が年100頭増の計画 対立深まる恐れ (11/9,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASJC9551VJC9ULFA016.html
■捕獲314頭に増加 北西太平洋・新計画案 (11/9,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20161110/k00/00m/020/111000c

 こちらが水産庁の発表。

■新北西太平洋鯨類科学調査計画案の提出について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/161109.html
■新北西太平洋鯨類科学調査計画案の概要について|〃
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-2.pdf
■Proposed Research Plan for New ScientificWhale Research Program in the western North Pacific(NEWREP-NP)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-3.pdf

 今年の漁期で終了した北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNU)を引き継ぐ形で登場したこの北西太平洋鯨類科学調査(NEWREP-NP)、きわめて大きな問題をいくつもはらんでいます。
 名称こそ、昨年度から開始された新南極海鯨類科学調査(NEWREP-A)に合わせ、「捕獲」を「科学」に置き換えていますが、捕殺数は最後の捕獲調査より約100頭・7割も増えています。
newrepnp.png
 数字以上に重大なのは、捕獲数変更のロジックの破綻。
 これまでも、日本の調査捕鯨は国際捕鯨委員会(IWC-SC)とその専門家パネルによって検証され、批判を浴びながらも馬耳東風と聞き流してきました。が、今回のNEWREP-NPは致死調査とその拡張の根拠のこじつけぶりが、NEWREP-Aを含む既存のどの調査捕鯨よりも際立っているのです。計画提案書の体裁だけは傭船の写真とカラーのグラフを並べてきれいに取り繕っているものの、計画の中身は輪をかけてずさんになっているのです。
 特に許しがたいのが、その変更内容が国際司法裁判所(ICJ)の判決直後に加えられたJARPNUの修正と真っ向から矛盾している点。真逆の主張までしれっと入っていたり・・。
 また、NEWREP-NPにおける対象鯨種と捕獲枠の変更は、ICJからきっぱり違法認定されたJARPAUとそっくりのパターンを踏襲しています。
 言い換えれば、NEWREP-NPはJARPAUと同様の明白な違法性を有しているのです。当のJARPAUの後継計画であるNEWREP-A以上に。

 先にNEWREP-NPの具体的な問題点をまとめてみましょう。

@ワシントン条約(CITES)違反のイワシクジラ捕獲大幅増
A稀少なミンククジラの日本海・黄海・東シナ海個体群(Jストック)を積極的に捕殺
B日本政府自身が主張する改定管理方式(RMP)の捕獲枠を大幅に上回る非持続的な目標捕獲数
C下道水産と伊藤議員の顔を立てる網走沿岸調査捕鯨の新規追加が示す露骨な政治的性格
Dニタリクジラ捕獲中止とイワシクジラ・ミンククジラ捕獲増にみられる違法なJARPAUとの共通性とICJ判決の蹂躙
E沖合ミンククジラ再捕獲の根拠およびレジームシフト解明の調査目的と、修正JARPNUとの間にみられる大きな不整合

 このうち@〜Cに関しては、市民団体IKANの抗議声明とブログ記事で詳しく解説しているのでそちらをご参照。

■抗議声明 「日本政府の新北西太平洋鯨類捕獲調査計画(NEWREP-NP)の撤回を!」
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/329-no-newrep-np
■対話の素地ができたって???
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-bfb7.html
■大盤振る舞い?
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-8c13.html
■地域個体群
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-13ef.html
■スロベニアIWC66(3)NGO発言
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/iwcngo-4e71.html

 ここではA、D、Eを中心に検証しておきます。
 さらに詳細を調べたい方は、以下に掲げたICJ判決ならびに修正JARPNU報告の一次ソースおよび解説と、『クジラコンプレックス』(東京書籍)を読んでください。

■JUDGMENT|WHALING IN THE ANTARCTIC (AUSTRALIA v. JAPAN: NEW ZEALAND INTERVENING)
http://www.icj-cij.org/docket/files/148/18162.pdf
■南極海における捕鯨(オーストラリア(以下「豪州」)対日本:ニュージーランド(以下「NZ」)訴訟参加) 判決 |外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000035016.pdf
■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
■Response to SC 65b recommendation on Japans Whale Research Program under Special Permit in the Western North Pacific(JARPNU) |IWC
https://archive.iwc.int/pages/search.php?search=!collection206&bc_from=themes
■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015
■検証JARPNU〜北太平洋の調査捕鯨もやっぱりガッカリだった・・|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/175081634.html

 特に注目すべきは、ICJ判決直後のJARPNU改≠ニの途方もないギャップ。まるで前計画に関する記憶が頭からスッポリ抜け落ちてしまったかのよう。
 加えて、IWC-SC/専門家パネルが多大な労力をかけたJARPNUへのレビューと各勧告を無視する内容となっています。これは国際機関と専門家に対してきわめて失礼な話。
 JARPNUの主目的は3つでしたが、NEWREP-NPでは「ミンククジラのRMPに基づく捕獲枠算出の精緻化」と「イワシクジラの捕獲枠算出」の2つに。これは南極海のNEWREP-Aの第1の主目的と同じ。
 新旧の調査捕鯨:JARPA/JARPNと南北のNEWREPとで、毎年百頭単位という規模も操業スタイルもほぼ変わらないにもかかわらず、主目的が大きく変更されたのはなぜでしょうか?
 答えは非常にシンプル。数々の問題点を指摘されたJARPAU/JARPNUの反省≠踏まえ、ツッコまれた部分は副目的・補助目的に下げ、ややツッコまれにくい「RMPの精緻化」を主目的に据えることで、致死調査の正当化を目論んだわけです。もっとも、提案書にはしおらしい反省の文面は見当たらず、追及された課題をほぼそのままスルーし、パネルが合意した一部分のみを得意満面にひけらかしていますが・・。
 ちなみに、NEWREP-Aの2番目の主目的には「生態系アプローチ」の用語が残っていますが、ターゲットをクロミンク1種に絞ったことで完全に空文化しています。
 要するに、調査捕鯨の設計そのものが、@捕鯨サークル(水産庁・日本鯨類研究所・共同船舶)が妥当とみなす「鯨肉生産量」→A「捕獲枠(サンプル数)」→B「そのサンプル数を正当化し得る口実」→Cサンプル数に合わせて調節したモデルとパラメータの提示(例:「性成熟年齢の0.1歳/年の変化率を検出」)という具合に進められているからです。彼らは「妥当」「最適」の一言で片付けてそこで説明を打ち切り、何食わぬ顔で口笛を吹きながら、《美味い刺身の安定供給》を続けようとしているのです。
 後付けで理由を探し出すのは、日本の鯨類学の第一人者である粕谷氏が当時の真相を暴露したとおり、商業捕鯨モラトリアム直後のJARPAT導入以来の伝統≠ナもありますが。
 十年一日のごとく耳垢の切片を収集するだけの致死的研究とは対照的に、日進月歩の勢いで進歩している非致死的研究ですが、年齢査定等の精度は先行する致死調査の方が現状では相対的に有利な面はあります。それが、主目的に「RMPの精緻化」を据えた理由。

 では、「RMPの精緻化」は、本当に日本の掲げる商業捕鯨再開のために必要不可欠な作業なのでしょうか?
 もちろん、NOです。
 そもそもIWCで商業捕鯨モラトリアムが採択されたのはなぜでしょうか? 答えは、商業捕鯨が文字どおり非持続的で、乱獲・規制違反/規制逃れ・密漁/密輸を阻止することがIWCにできなかったから。「甘すぎる規制と捕鯨会社の抵抗による導入の遅れが招いた乱獲」「基地式捕鯨等の規制の抜け穴」「捕鯨会社によるデータ改竄等の規制違反」「捕鯨会社も関わった密漁・密輸」。この4つに対して、日本の捕鯨業界はきわめて重大な責任を負っています。
 モラトリアムを解除するために必要な最低要件は、あまりにも当たり前のことながら、当事者である捕鯨国・捕鯨産業による真摯な反省と、過去の過ちが二度と繰り返されないように宣誓すること。乱獲・密漁が商業捕鯨そのものと不可分でないということを、世界に対して証明すること。その一環として、IWCの枠組みで確実に乱獲と違法行為を防止するための実効性のある仕組みを構築することが求められているのです。かくして、いくつものハードルが設けられたわけです。
 ハードルのひとつが改訂管理方式(RMP)でした。賛成・反対両派の科学者が喧々囂々の議論を重ねる中でようやく完成したRMP自体は、最も頑健な管理方式として、今日捕鯨以外の漁業にも活用されています。
 ただし、これは机上の理論の話にすぎません。IWCが商業捕鯨の管理に失敗した理由は、科学的な管理方式が未熟だったからだけではないのです。
 日本は商業捕鯨再開というゴールを目指すハードル競走で、まず1つ目のハードルをクリアしました。すでにクリアしたのです。1つは。
 しかし、1つハードルを飛び越えたくらいで、目指すゴールは見えてはきません。
 RMPの完成で自然科学(資源学)上の課題を克服したといっても、社会科学的に実効性のある管理体制を構築できない限り、そんなものは絵に画いた餅にすぎません。
 改訂管理体制(RMS)をめぐる議論はすったもんだの末頓挫したまま。RMSの合意が成立しない限り、RMPは適用されません。今は机上のシミュレーションをグダグダ繰り返しているだけ。つまり、日本はこの2つめのハードルを飛ばせてもらえないのが実情です。
 過去の乱獲・規制違反・密漁に対する反省がまったく見られないどころか、つい2年前まで調査捕鯨という抜け道を利用して国際法に反する罪を犯し続け、ネットでは日本の業者によるワシントン条約違反の違法な鯨肉通販がいまなお大手を振ってまかり通っている有様なのですから。ドーピング疑惑がぬぐえないので、トラックをそれ以上走らせてもらえないわけです。

 結論からいえば、いくらRMPを精緻化しようがしまいが、商業捕鯨再開の道が開けることは決してありません。
 日本が本当に¥、業捕鯨再開を目指すのであれば、やるべきことは2つめのハードルを飛ばせてもらうために、過去にドーピングをやってしまったことを正直に認めて平身低頭謝罪したうえで、今後は絶対にドーピングをしないことを宣誓し、世界に信用してもらうことです。
 ところが、いま日本がやっているのは、ドーピングについてはあくまでもシラを切り続け、1つ目のハードルの高さを自分で勝手に微調整して、「どうだ、もうちょっと高く跳べるぞ!」と何度も繰り返し跳び跳ねているだけのことなのです。まったく無意味なパフォーマンスにすぎないのです。
seichika.png
 繰り返しますが、「RMPが精緻でないから商業捕鯨が再開できない」わけではありません。一般の方々が捕鯨サークルの主張を読めば、まずそう誤解して受け止めてしまうでしょうが。
 かつての基地式捕鯨や、違法認定されたJARPAUと同様の脱法行為を繰り返している以上、NEWREP-AおよびNEWREP-NPはむしろ間違いなく商業捕鯨再開へのステップを後退させているのです。
 RMPの精緻化は対象・指標となる特性値とその精度、サンプル数の設定がきわめて恣意的で、すべて日本が勝手に決めているだけ。どのようなケースで、どれくらい精緻化すべきか≠ニいう国際的に合意された科学的基準・必要要件は何一つ存在しません。
 今回、JARPNで獲り続けてきたニタリクジラの捕獲枠をゼロにした理由も適当に言葉を並べただけ。真の動機は「鯨肉が不人気で売れなかったから」に違いありませんが・・。
 対照的に捕獲数を大幅に増加させたイワシクジラに関しては、ICJに「期限を切らずにズルズルやる調査は科学じゃない」と言われたこともあり、捕獲枠算出を急いでやりたいと言っていますが、急ぐ意味はまったくありません。急いだところで実地に適用されることなどないのですから。
 前回の総会では、ミンククジラで17頭の捕獲枠を例外的に%K用するよう求めましたが、RMSの合意とモラトリアムの解除というステップを踏まない以上、もちろん却下。例外が認められる余地はないのです。
 精緻化は、仮に商業捕鯨が再開された場合には、当然データもあがってくるわけですから、それをもとにボチボチやればいい話。獲りすぎは許されることではありませんが、枠に満たないからといって責めを負う漁業はありません。鯨研が債務超過に陥るほど過年度在庫を発生させ、他の一次産品とは桁違いの税金を投入して販促を促しているのが実情なのですから、供給不足を心配するのは杞憂もいいところ。
 また、RMPを精緻化する手法はいくらでも考えられます。非致死調査によっても。
 例えば、現在致死調査に割り当てられているリソースをすべて目視調査に振り向けることで、生息数と動態に関するデータの推定精度が上がり、それに従ってRMPも間違いなく精緻化できます。
 また、繁殖海域を特定することによっても、非致死調査では確定されなかった系群構造に関する解明が飛躍的に進み、やはりRMPの精緻化に寄与するでしょう。
 さらに、致死調査によるRMPの精緻化への寄与は、IWC-SCのJARPAレビューで指摘されたとおり、あくまで潜在的可能性の域でしかありません。NEWREP-Aレビュー勧告に対する日本側の回答では、クロミンククジラの2つの系群(交雑問題はまだ未解決)に対するRMP実装シミュレーション試験(RMP/CLA)をそれぞれ7回試行した結果、うち1回で年齢構成を加味した修正版のMCLA(捕獲枠算出アルゴリズム)の方がわずかながら減っています。また、100年間の保全上の枯渇リスクは1つの試行を除いてみな上がっています。公平な観点からは、(旧来の捕鯨産業にとっては)獲れる数が多いほど旨みがあり、(クジラにとっては)保全上のリスクが低ければ低いに越したことはないわけですが、「リスクが一定以下なら後者は切り捨てていい」というのが日本の言い分(SC/66b/SP/10)。
 しかし、何をもって最適≠ニするかは日本が好き勝手に判断していいことではありません。日本は国際的に合意された最もシンプルな管理方式に対し、独善的な価値観に基づく修正を加え、捻じ曲げようとしているわけですが、RMPで設定された枠からさらに減らすことこそ最適との見方も十分成り立つのです。
 法律にしろ、国際条約にしろ、時代に見合った形で条文そのものを直したり、運用を工夫して適合させていくのは当たり前の話。多額の税金を注ぎ込まなければ維持できない特定の一国・一産業のみの利益を優先せず、炭素固定や海洋生産性の向上、レジームシフトの緩和等、クジラの生態系サービスでの寄与による、漁業を含む人類の福利を最大化するために「捕獲枠を最適化する」のももちろんアリです。
 もし、日本が決着済みのRMPをこね回すのをやめないのであれば、本会議で管理方式について再度議論するか、資源学に偏っているIWC-SCに保全・生態系サービスに関わる研究者の視点を加えるべきなのです。

■Future IWC for Japan, fishery, the world and whales; the keyword is "Ebisu"
http://www.kkneko.com/english/ebisu.htm

 NEWREP-NPの主目的「RMPの精緻化」について要約すると以下のとおり。

「RMPの精緻化は商業捕鯨の再開と無関係」
「どの対象でどの程度精緻化するかを日本が好き勝手に決めており、公的・客観的な基準は何もない」
「RMPは非致死調査で精緻化できる」
「RMPの最適化≠ヘ定義次第で変わり、国際的・学際的な議論と合意がはかられるべき」

 もちろん、その真の主目的≠ヘ明々白々。調査捕鯨という形で北太平洋産美味い刺身を供給し続けること本川一善元水産庁長官が国会でうっかり答弁してしまい、国際裁判の判決文に未来永劫記されることになったJARPAUの動機と何ら変わらないのです。
 「調査捕鯨によるRMPの精緻化」は美味い刺身にとって最適≠ニいう意味でしかないのです。

 それでは、日本政府が公開した計画提案書に沿ってさらにツッコミを入れていきましょう。@〜Eの要点と「RMPの精緻化」という主目的が無意味なことを押えておけばいいので、面倒臭い方は結論まで飛ばしてください。

 提案書(PDF)は全163ページですが、ICJ判決への対応についてはP52からの別添1にまとめられています。たった4ページ。非致死調査の検証に関する記述は本文2.4、2.5および3.1.1(P16〜P24)。概略(P1〜P3)、本文3章、別添1で基本的に同じ内容が繰り返されています。
 まず、提案書の中で「IWC-SC推奨」と何やらサプリや健康グッズの宣伝じみた文言が幾度も登場しますが、そもそもSCメンバーには日本の御用学者も多数加わっています。これが常に玉虫色の両論併記の形となり、国内報道であたかもIWC-SCが調査捕鯨を支持しているかのように伝えられる理由。
 中には誤解を招く表現もあります。提案書のP1他で「JARPNU最終レビューワークショップは『将来ISTを改訂する際には年齢データを組み込むべきだ』と記した」とありますが、これは提案者日本の主張がレビューの報告文書に記載されたというだけのこと。パネルは系群構造仮説を絞り込む作業に進捗があった点に関しては合意しているものの、更なる進展には課題があると指摘しています(詳細は上掲拙ブログ過去記事のJARPANUレビュー解説)。
 要するに、致死調査に基づくRMPの精緻化には依然として未解決の宿題が積み残されており、NEWREP-AにおいてもNEWREP-NPにおいても先述した潜在的可能性≠フ範囲に留まっているわけです。

 3箇所の非致死調査の検証の部分は、いずれも「慎重に検討した」うえで「非致死的手法では実現不能」という結論を先に述べながら、その後に「非致死的手法の実行可能性を検証する」とあり、矛盾に満ち満ちています。結論が最初からはっきりしているなら、非致死調査を並行でやる必要などありません。予算と時間の無駄。
 もちろん、致死調査はポーズであり、「国際裁判所に言われたとおり、非致死調査をちゃんとやってますよ」という日本国民および国際社会の目を欺くメッセージにすぎません。対外的なイメージを気にしているだけで、その時点で科学的合理性など欠片もないのです。
 潜在的可能性≠ノ留まっている致死調査の貢献に対し、非致死調査も一般的な動物学の科学的研究手法としてはすでに十分成熟し洗練されたものになっているとはいえ、日本の掲げる主目的に照らした場合、現状では致死調査と同様潜在的可能性≠ノ留まっているのは事実でしょう。
 先行研究事例を参考に、その分野の先駆者に教えを濃い、想定した成果が得られなかった場合は手法のどこがまずかったか丹念に検証しながら、実地の運用に耐えるよう改良を重ねていくのが、常識的な科学調査のプロセスです。そのための検証であれば問題はないのですが、提案書の記述からは「言われたから仕方なく形だけやっているんだ」というお座なりな意識しかうかがえず、具体的な課題とそれを克服するためのアイディアが何も記されていません。
 2、3年ブランクがあっても影響は小さく無視できるとNEWREP-Aのレビューで専門家パネルが指摘した以上、本来であれば、「代替による致死的調査の削減≠検討する」よう求めたICJの判決の趣旨に従い、今後数年間は全リソースを非致死調査の検証と開発に振り向けるべきなのです。
 致死的手法と非致死的手法との比較考量はすべて定性的な説明にとどまっており、具体的な精度等を並べた定量的な対照表はありません。P23に意味のないチャートがありますが、非致死に「?」と入っているとおり、「実現不能」と結論を出してしまっている本文の記述とも矛盾しています。鯨研茂越氏の準備中≠フ論文からも、該当する定量的資料の抜粋もありません。レビューどころか書き終わってもいない論文を根拠に「実現不能」と結論をまとめてしまうのはあまりにも拙速にすぎます。
 そもそも、まともな比較検証ができるはずはないのです。ICJ判決後のJARPNU改≠ナ、たった2シーズン、全サンプル数の1割のみを非致死調査にあてがっただけ。致死と非致死の割合を9:1に設定する科学的合理性は何もなく、むしろICJ判決直後で国連管轄権受諾宣言の書換という荒業で国際司法の追及を逃れる手を思いつく前のことで、単に判決に萎縮≠オて捕獲数を減らすポーズを取っただけに見えます。致死調査を完全に優先し、その間に片手間でやっただけでは、まともな検証とは到底呼べません。JARPA/JARPAUは足掛け20年間、致死調査の技術自体は商業捕鯨時代からある程度確立されていたのですから、公平に双方の手法を比較するためにも、同じだけのリソースが注がれるべきです。
 現物がない茂越論文をもとに「北太平洋ミンククジラではバイオプシーサンプリングが困難だ」と、ICJ判決以前からずーっと掲げられてきたのと同じ非致死的手法を選ばない口実が述べられていますが、障害や困難を工夫しながら乗り越えることで、短期間に目覚しい発展を遂げてきた非致死的手法の今日をまるで理解していません。というより、見て見ぬふりをしているわけですが。
 提案書でも取り上げられている、主要な目的に関わる年齢査定のための代替研究の一例がこちら。

■Epigenetic estimation of age in humpback whales
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1755-0998.12247/abstract

 ヒトとマウスで開発されたこのエピジェネティクス(後天的な遺伝子の性質変化の研究)による年齢解析手法が野生動物として初めて適用されたのがザトウクジラ。日本の御用鯨類学者以外の世界中の動物学者が、この手法の登場と進展を快く歓迎することでしょう。
 DNAメチル化技術自体開発されて10年しか経っていませんが、この事例では2007〜2011にかけて採集されたサンプルをもとに研究され、論文は2014年の発表。ザトウだって決して一朝一夕に、たまたま開発できたわけではないのです。「ザトウの値は太平洋ミンクにそのまま当てはめられない」なんて理由にもなりません。それは研究者としての努力の放棄。同様のリソースを傾ければ、数年のうちにミンククジラの代謝に合わせる較正作業は十分可能なはずです。まともな研究意欲を持ち合わせた科学者なら。

 一方で、致死調査に対する批判的検証の方は一切なされていません。
 耳垢栓を用いた年齢・性成熟年齢の査定は100%完璧ではありません。標本採集・保存・加工・読み取り(顕微鏡による目視計数である意味古風な職人技)の過程で劣化・誤差が生じます。実は、北太平洋ミンクの耳垢栓の年輪の可読率は雄で45%、雌で41%でしかありません(JARPNT/U期間、p79)。同じくイワシでは63%。しかも、ミンクの沿岸調査で比率の高い未成熟ほど判読の難度が上がります。要するに、程度の問題なのです。
 北太平洋のミンクは南半球のクロミンクより縞が不鮮明。それ故に、技術改良の研究に人員と研究費が投じられてきたわけですが、それであれば、ザトウで実用化されたDNAメチル化技術をミンク用にカストマイズする作業を敬遠する理由は何もありません。
 もうひとつ、致死調査の重大な欠陥の一例を挙げましょう。妊娠雌は捕殺時に銛を撃ち込まれるショックのあまり、一種の堕胎をすることがあります。胎児は貴重な科学的情報もろとも失われます。毎漁期、こうしたデータの欠損≠ェ生じているのです。
 これは致死的手法すべてに言えることですが、経時的に膨大な情報を蓄積していく貴重な科学的資源であるサンプル=生きた野生動物を、ほんの一部の限定的な情報取得のため、瞬間的なスナップショットとして切り取るために破壊してしまう、きわめて短絡的で欠陥の大きな手法です。非致死調査で長期間にわたって追跡していけば得られたはずの科学的成果を無に帰せしめ、有用な研究のためのリソースを奪い、進展を大きく妨げているのです。
 また、非致死調査より致死調査を優先した4つの判定基準には「コストの妥当性」が入っていますが、NEWREP-Aの提案書に投げているだけで、検証結果について具体的な言及が何もありません。リンク先のNEWREP-Aの資料にも、定性的なコメントのみでコスト比較の試算結果などはやはり載っていません。
 実際には、非致死調査のバイオロギングは普及の結果コストが大幅に下がっている一方、調査捕鯨は鯨肉販売不振もあいまって税金投入が年間50億円を突破し、クジラ以外の水産研究予算の総額を上回る大きなお荷物と化しているのが事実なのです。
 日本はICJ判決で求められた、致死的サンプリングのコストの公正で厳密な相対的評価、致死を選択する結論を裏付けるだけの分析などやってはいないのです。この点1つとっても、NEWREP-NPおよびNEWREP-AはJARPAUと同じ国際法違反の謗りを免かれません。
 JARPAUを違法と認定したICJの判決では、鯨肉売却益が得られることが日本が致死調査を選好≠キる動機だと結論付けられました。そして、日本が致死調査を削減・代替するべく非致死調査の実行可能性を探る努力を払うことなく、JARPAと類似した目的でさらに捕獲数を拡大させたことを問題視したのです。JARPAUとJARPAとの関係は、目的をすり替えて捕獲枠拡大を狙ったNEWREP-NPとJARPNU改≠ニの関係にそっくりそのまま当てはまります。

 P18では、まるで手放しで賞賛されたかのごとく、JARPNU最終レビューワークショップの肯定的評価のみを取り上げています。しかし、同WSではICJ判決後のヤッツケ変更に対するあからさまな苦言をはじめ、多くの勧告が出されました(詳細は同じく拙解説記事)。別添にもそれらの勧告リストは含まれず、あるのは系群構造問題に関する日本側の補足説明のみ。そのうえ、NEWREP-NPはJARPNT/Uの拡張版じゃないんだと言い訳し、勧告のうち都合の悪いものは無視する姿勢を鮮明にしています。

 続いて、これまでJARPNUで捕獲し続けてきたニタリクジラ(修正前50、修正後25)の致死調査をバッサリ削除した理由について。P18で、ミンクおよびイワシとは違ってニタリの優先度は低いと、恣意的で定性的な、きわめて大雑把な表現でごく短く述べています。参考文献に(see in 2008)としかありませんが、これは2008年のRMP実装試験に関する第2回IWC-SC中間ワークショップで、複数の系群構造仮説についてRMPの実装シミュレーションを行った結果、4つのうち3つの仮説について追加調査の必要はない点で合意したという報告。
 
■Abundance estimate of western North Pacific Bryde's whales for the estimation of additional variance and CLA application|IWC
https://iwc.int/document_1800
■Research proposal accompanying management variant 2 of the RMP Implementation for western North Pacific Bryde’s whale |ICR
http://www.icrwhale.org/pdf/SC-60-PFI9.pdf

 2008年時点の情報に基づいてニタリクジラを殺す必要がないと判断できるなら、JARPNUでのその後の8年間の捕殺(年50頭および25頭)は不要だったということにほかなりません。
 鯨研側は「主目的が変わったんだからいいんだ」と弁明するでしょうが、致死調査の対象選択にあたって目的の方をいくらでもデザインできることが証明されたといえます。
 JARPNUレビューで日本側が提示した査読論文のうち、2008年以降ニタリの致死調査(胃内容物)をもとにして書かれたのは2012年のたった1本のみ(残りは非致死調査)。その論文の結論は「クジラの生息域は餌生物の選択と密接に関連していることが示唆された」というもので、誰でもわかる当ったり前のことを確認しただけ。
 太平洋ニタリクジラは系群構造への異論が少なくバイオプシーサンプリングの難易度が低い点で太平洋イワシクジラに近く、両者の違いはRMP/ISTが実施済みか未だかくらい。ニタリで精緻化の必要がないなら、イワシもあえて調査捕鯨を使って精緻化する必要はないはずです。
 摂餌生態の調査に関しては、カタクチイワシの占める比率が大きいニタリのほうがミンクやイワシより選択的嗜好性が高いのは確かで、それが今回致死調査不要とした理由。しかし、専らナンキョクオキアミを食べる南極のクロミンクは、当然ながら選択的嗜好性が太平洋ニタリよりさらに高いのです。動機が生態系アプローチであれ環境変化のモニタリングであれ、この大きな矛盾は致命的。
 
 クロミンククジラ(南半球) > ニタリクジラ(北太平洋) > ミンククジラ(北太平洋)
     殺さなきゃダメ         殺さなくていい        殺さなきゃダメ

 動物種のサベツがヘイトスピーチより鶴保沖縄北方相の土人発言より重大事だと考える狂信的な反反捕鯨論者たちなら、「ミンクやイワシを殺してニタリを殺さないのはジンシュサベツだ!」と吠えそうですね。
 それでも、捕獲を増やしたミンク/イワシと枠そのものをなくしたニタリとの扱いの差はやはり主観的な好み≠ニしか考えられず、サベツだとの指摘は当たっているといえるでしょう。
 そして、その真の動機≠ニして強く疑われるのは、JARPNUで調査副産物である鯨肉がニタリクジラでは前2種より不人気で、入札でも敬遠され売れ残ってしまったこと(詳細はIKA-NETニュース57号参照)。本川元水産庁長官流に言えば、「ミンクは美味いし、イワシも一部で人気があるが、ニタリは刺身にしても美味くないから安定供給の必要はない」との判断で外したというわけです。
 狂信的な反反捕鯨論者たちなら、やはり「美味いウシやミンククジラを殺して不味いニタリクジラを殺さないのはジンシュサベツだ!」と吠えそうですね。
 ニタリで必要ないのなら、クロミンクを毎年殺して胃の中身を調べ続ける必要もまったくありません。JARPAUでクロミンクに捕獲を集中させてナガスやザトウを獲らずにICJに矛盾を指摘されたのと同様、こうした科学的合理性のない捕獲対象の取捨選別は、国際裁判にかけられれば間違いなく判事にアウトの宣告を受けるでしょう。実際、高価値種と低価値種を恣意的に分けたことが、ICJ判決でJARPAUが美味い刺身*レ的の違法捕鯨として認定されるにあたって決定的な証拠となったのです。

 ASM(50%が性成熟に達する年齢)の推定については、確かに非致死的手法だとややハードルが高め。しかし、この計画書では、ASMの変化率の検出精度とサンプル数の関係について何も記されていないのです。
 大体、NEWREP-Aの捕獲数333頭は、日本の捕獲対象となる太平洋側2海区中心の2系群について、ASMの0.1%の変化率を90%の確率で検出できるサンプル数として算出されました。いかにも333頭という数字に合わせて後付けした印象がぬぐえませんが・・。
 サンプル数の差を考慮すると、南のクロミンクと北の3鯨種とで、ASMの変化率および検出率に違う値を当てていることになります。あるいは、クロミンクで333頭も捕殺の必要がないか、北の3鯨種ではASMに関して統計的に有意な結果が得られないということになりかねません。

 今回のNEWREP-NPの各鯨種のサンプル数の算出根拠は、ミンククジラ太平洋側127頭が「O系群の個体数の変化率(成熟雌1頭当りの出生率の30%の変化)を検出するのに53頭、107頭、160頭の3パターン用意した中で真ん中が一番適切だ」、同オホーツク海側47頭が「JとOの比率を調べるため、とりあえず暫定的に47にしてみた」、イワシクジラ140頭が「最大持続生産率(MSYR)を4%、自然死亡率(M)を0.05と仮定してみたら140が最適なんだ」と、見事にバラバラ(P35、別添12および別添17)。O系ミンクに関して、なぜ検出する変化率が30%でなければならないのかの説明もなし。サンプル数の設定で成熟雄が埒外なのは、非致死調査に対して雄の性成熟年齢の検出を要求していることともまったく矛盾しています。
 やはり南のクロミンクの333頭と同様、最初に数字ありきで後からこじつけたとしか思えません。
 太平洋側のうち127頭から107を引いた残り20頭はJストック。一方、オホーツク海側の47頭のうち33頭はOストックになる勘定。沿岸調査3箇所の系群比率がそれぞれ想定どおりになるとの前提付ですが、O系群における変化率を検出するなら、網走沖での33頭を加えれば沖合調査で27頭を加える必要はなくなるはずです。いずれにしても、太平洋ミンクは性・年齢に応じて回遊ルートが変わる生態を持っており、仙台沖・釧路沖の沿岸30kmのごく狭い範囲、特定の一時季に捕獲を集中させる調査設計では、捕獲対象の性比・年齢比にも大きな偏向が生じると考えられます。ランダムサンプリングとはいえない以上、年級や生殖状態に応じた行動パターンの変化等による見かけの出生率の変化を検出する可能性が生じますし、真の出生率の変化との区別もつきません。
 ニタリ削除と同様、このサンプル数が設定された真の動機≠推し量るなら、太平洋側ミンクは「2箇所の沿岸事業者のための50頭枠を維持したうえ、沖合調査再開の余地を残した」、網走沖は「下道水産と伊藤議員の顔を立てるべく、仙台・釧路沖と同等の枠を与えた」、イワシは「日新丸の積載能力から、裏作(南極海が表作)の目標生産量として妥当な線にした」といえそうです。
 もう一点補足すると、JARPNU終盤では沖合ミンクは実績としてほとんど捕獲されず、ICJ判決後はレジームシフトを口実に捕獲枠をゼロにしました。理由のひとつとして考えられるのは、鯨肉の過年度在庫を消化するための、南極産と沿岸事業者にミンク鯨肉を譲る形の減産調整。もうひとつは、311の福島原発事故直後に常磐沖で採取されたコウナゴから1万Bq/kgを超える放射性物質が検出され、仙台沖に回遊していた若いミンククジラがこれを捕食して汚染された可能性があること。高濃度の汚染が疑われる年級群もその後沖合に回遊ルートを移動させているはずなので、捕獲する可能性があったのは日新丸船団のJARPNU沖合調査だったわけです。いつごろ収束するか様子を伺っているのではないかと筆者は勘繰っています。
 いずれにしても、多くの渡り鳥のように繁殖海域と索餌海域とを往復するクジラの繁殖サイクルは年単位なので、0.1%ずつ日数でずれたりするわけでもなく、6歳・7歳・8歳ないしそれ以降に繁殖を開始する個体の割合に年毎に差が出るというだけの話。再生産は妊娠率、乳児死亡率等それ以外の要素も関わってくるのですから、単独の特性値の微妙な変化をチェックしたところで参考程度のものでしかなく、致死調査が絶対必要という根拠になどなりえません。RMPの改善には、間接的情報でしかない性成熟年齢より目視による推定個体数推移の精度を上げるほうがより有用です。

 最悪なのが、致死的な胃内容物分析を正当化する言い訳。
 非致死的手法の脂肪酸プロファイル分析は、今日では野生動物の摂餌生態調査で幅広く使用されています。
 提案書では「空間的モデリングのためにクジラが捕獲された時点の胃内容物を明らかにすることが大事なんだ」との主張が短く述べられていますが、これは稚拙なごまかし以外の何物でもありません。
 「クジラが捕獲された直前の胃内容物の情報のみしかわからないというのが正しい説明。
 彼らは「2ヶ月間のみ=A港から30km以内のみ=A特定の鯨種の胃の中身のみ£イべればレジームシフトが解明できるし、逆にそれがわからないと海洋生態系について理解できないんだ」という、とんでもなく乱暴な主張をしているのです。
 仙台沖・釧路沖の生態系は外部と切り離された独立の系で、クジラと餌生物の一部(カタクチイワシ・イワシ・サンマ等)のみから構成され、それらの種は出入りをせず、他の海の生物種との相互作用もなく、調査期間の2ヶ月以外は系が停止しているのだ、と。これでは、網走・釧路・仙台の沖の海はガラスで仕切られた実験水槽の扱いも同然です。
 クジラが餌にしている魚の捕食者にはオットセイ等の鰭脚類、各種海鳥、大型魚、イカ類他多数いますし、幼魚時代には競合種や同種の成魚、大型プランクトンも捕食者になりえます。クジラのように食性を変えるタイプもいれば、食性自体は変わらなくても生物量自体が大きく変動することで捕食量が変わってくるタイプもいます。海況の変化にも大きく影響を受けます。回遊する前や先の海域での捕食・被食関係も変化します。そうした情報を定量的に比較考量することを一切せず、ただひたすらクジラの胃の中身だけ調べ続ければ、「海の自然がすべてわかって漁業に役立つ」かのような言い草は、あまりにも非科学的です。
suiso.png
 生態系アプローチで考慮されるのは構成種と種間関係のごく一部で、現実の生態系とはかなり隔たりがある単純化されたモデルにすぎません。データが不十分な場合は適当なパラメータをあてがう仕様≠ネのですが、そのときの値の取り方次第でいくらでも結果がいじれてしまうという代物。現状では単一種の管理の方が合理的だと水産研究者も指摘しています(下掲リンク参照)。
 構成種と種間関係の入力を増やし、その品質を揃え、モデルをより充実させることで、生態系モデルの精緻化は可能ですが(その代わりシミュレーションは複雑になり膨大なデータ処理が必要になるでしょう)、特定の一種のみを毎年何十頭も殺して胃の中身を調べても、ますますいびつになるだけで、最適化≠ノはまったく寄与しません。

■持続的利用原理主義すらデタラメだった!(拙HP)
http://www.kkneko.com/sus.htm

 本当に胃内容物調査を活かすつもりなら、すべての海域・すべての時季で、すべての捕食者の胃内容物調査を同精度でやるべきなのです。
 もっとも、パフォーマンスを考えれば、コストがかかるだけの超拡張版調査捕鯨などやる必要はなく、バイオプシー脂肪酸解析で十分でしょう。
 ミンククジラもイワシクジラも未知の食害エイリアンではありません。その摂餌生態は、選り好みせず臨機応変に利用可能な餌資源を利用する何でも屋タイプで、野生動物としては至ってポピュラー。サンマが多い年はサンマを、イワシが多い年はイワシを食べるなんて、素人でもわかる当たり前の話で、「だから何?」です。画期的な科学的発見などどこにもありません。これからも、それ以上意味のある知見など決して得られやしません。
 JARPNT/Uの20年間、この胃内容物調査を延々やってきたわけですが、そこからは水産資源管理に活用できる、釧路・仙台両地域の漁業の発展(ないし乱獲の防止)に資するいかなるアウトプットも出てきてはいません。命を奪ったうえで得られたその膨大なデータは、骨董コレクターの収集メモやゲームの入手アイテムリストと同じくらい、(鯨肉好きと業界以外の)社会にも科学にも貢献することのない無価値なガラクタなのです。
 実際のところ、海面漁業生産の1%にすぎない鯨肉生産のための調査捕鯨に回される年間50億円の予算は、クジラ以外の水産水産資源調査に充てられる年間予算34億円を上回っており、明らかに必要な沿岸の漁業資源管理のために投じられるべきリソースを奪っています。そのおかげで、近海の主要な漁獲対象魚種の半数は長年資源状態が低位のまま、FAO白書の統計でも日本だけが将来の漁業生産が落ち込む地域として予測される始末。
 例えるなら、調査捕鯨は報酬ばっかり高くて仕事のできない無能な穀潰し取締役
 捕鯨サークルは日本の水産業を蝕む癌と言っても過言ではありません。

 胃内容物調査と同様に許しがたい欺瞞に満ちているのが、レジームシフトに関する記述。
 はっきり言ってあまりにもふざけています。
 というのも、ICJ判決後のJARPNU改≠ナ、これまで毎年100頭の捕獲枠を設定してきた沖合調査ミンククジラ捕獲をゼロにした理由について、日本側は以下のように説明しているからです。

目視数の減少と餌生物(カタクチイワシ)の分布パターンの変化は、ミンククジラの沖合の分布を変化させる可能性がある。可能な説明として、レジームシフトのような大規模な海洋環境の変化が挙げられる。しかし、その主要なメカニズムは不明なため、われわれはこの種の捕獲を取りやめることを決め、沖合でのこの種の致死調査を継続するよりも、将来の調査計画におけるこの種の取り扱いについて再考することにした(SC/66a/SP/10,p4)。

 そして、ご丁寧に水産庁のカタクチイワシとサンマの漁協予報(日本語)のリンクまで貼っ付けています。
 無論、このわずか2年の間に、レジームシフトのメカニズムが解明したわけではありません。
 「やっぱりやめるのやーめた」です。
 なぜ前言を撤回することにしたのかも、JARPNUの計画の修正の誤り≠ノ対する弁明も、今回の計画書には一言もありません。
 ひたすら支離滅裂の一語に尽きます。
 レジームシフトは北極振動等地球規模の気候・海況変化と魚種交代のメカニズムを結び付ける概念。もちろん、クジラはレジームシフトを引き起こすエイリアンなどではありません。
 クジラの餌生物の切り替えはわかりやすいボトムアップ型の順応的変化です。新しい理論を構築しなければ説明がつかず、そのための追加の情報が切実に求められるような未知の現象ではありません。今までずっと続けてきたのと同じ、殺して胃を切り開く作業を今後何年継続しようと、これまでわかっている以上の新たな科学的知見は決して出てきやしません。
 50億もの予算を投じるのであれば、レジームシフトの海洋生態系全体への影響について調査研究がなされるべきであり、そのために必要とされるのはクジラの胃内容物のサンプルをこれ以上積み上げることではありません。優先順位は最下位。
 要するに、気候変動をテーマにした脂皮厚論文(後述)と同様、もっともらしい用語を散りばめて、美味い刺身*レ的の捕鯨に科学の体裁を装わせようとしただけなのです。
 言葉を弄ぶばかりでおよそ専門家に値しない鯨研の御用学者らに、レジームシフトの謎を解き明かせるなどとは、筆者には到底信じられません。他機関に共同研究を呼びかけていますが、乗らないのが賢明というものでしょう。
 レジームシフトの問題については、クジラの恵比寿〜漁業の救世主≠ニしての側面を、別途改めて取り上げたいと思います。

 地球温暖化/気候変動については、「global warming」の用語を2回、「climate change」を1回使っていますが、この提案書で使い分ける理由はなく、鯨研の研究者の環境問題に対する認識不足が伺えます。
 「調査捕鯨の提供する情報がこの問題に対する洞察に役立つ」と主張しているのですが、南極海も含めておよそ30年やってきた中で、気候学者にとって有用な情報は何ひとつ出てきやしませんでした。脂皮厚の変化について論じた論文がネイチャーに掲載され、ここぞとばかり胸を張った鯨研でしたが、統計処理を誤っていて使えないことがIWC-SCで指摘され、ICJでも恥をかくことに。
 サンプル数算出根拠の項目で「出生率の変化は気候変動やレジームシフト等の海洋環境の変動の結果」とありますが、問題は複合的な環境要因の切り分けが、調査捕鯨のみではまったくできないことです。生態的特性値の変化がどの程度気候変動に起因し、どのくらいの割合が違う要因に基づくのか、調査捕鯨の結果は何も教えてくれません。気候変動に対して捕獲対象の鯨種が他の野生動物に比べてどのくらい脆弱なのか、あるいはタフなのかも、クジラのみを毎年ガンガン殺し続けたところで答えは決して得られやしないのです。

 同様に問題があまりにも大きすぎる網走沖のJストック捕獲問題について。
 まず、現在IWCで合意されている北西太平洋ミンククジラの2系群合わせた個体数の数字は25,000頭。しかし、計画書ではOストックについてサブエリア毎の合算値として約46、000頭、Jストックについて約16,000頭の値をシミュレーションに用いています。この時点ですでに先走っていますが。
 そのシミュレーションの図表の1つが計画書のP41の図7。そのうちMSYR(ちなみに、図では「MSRY」となっていますが、これは単純な表記ミス)1%と仮定した上のほうは完全な連続減少モード。
 この図1つとってみても、J系群はIUCNのレッドリストの定義上の絶滅危惧Tb(EN)、あるいは最低でも危急種(VU)に指定されてまったくおかしくはないステータスです。
 提案書でも、その場合の減少の理由については混獲を挙げているとおり、日本と韓国の混獲が半端ないのは事実。
 「疑わしきは野生動物の利益に」という国際的なグロスタに従えば、混獲にダメージを上乗せする大掛かりな経年捕獲調査などありえません。
 ところが、日本側は既存のデータをもとにJストックの比率を網走沖30%、釧路沖および仙台沖各20%としたうえで、(MSYR1%のケースでは)「34頭獲っても獲らなくても減少モードに変わりないのだから影響はない」とのすさまじい理由で、網走沖での新規捕獲を正当化しようとしているわけです。
 そもそも、時期も未定のまま枠の数字だけ出てくるというのがきわめておかしな話。新たに網走沖調査を追加した真の動機が政治であるのは見え見えですが、絶滅危惧個体群の捕獲を強行するのに掲げた口実を聞けば、野生動物保護に携わる世界中の関係者が目を丸くすることでしょう。いわく、「Jストックの太平洋側での混淆率が増えているっぽい。それは日本海側からあふれて太平洋に浸み出している、つまり増えているからだ」と(別添7)。
 しかし、比較されている過去のデータのうち、専ら成熟個体を捕獲していた80年代の商業捕鯨のデータは52頭のうちJストックが2頭で不明が4頭。この数では、統計学的にも最近の調査捕鯨のデータと比較可能だとは考えられません。P95の図2では両者の捕獲場所が比較されていますが、沿岸ギリギリで幼若個体も獲る調査捕鯨と商業捕鯨とでは、重なっているようでよく見るとずれています。これでは時系列データとして比較するのは妥当とはいえません。
 いずれにしても、仮に分布や回遊パターンに変化があったとして、それを増加の証と捉えるのはあまりにも乱暴すぎます。渡り鳥を例にとれば、ある中継地でのカウント数が増えたことのみをもって「増加の証拠」と捉える野鳥研究者などおりますまい。
 証拠もないのに決め付けで捕獲を強行するのは、絶滅が懸念される野生動物なら適用されて当然の「予防原則」に明らかに反します。
 Jストックの個体数動態について検証したいのであれば、さまざまな要因が考えられ、そのどれかも特定できない間接証拠の収集を真っ先に考えるのでなく、国際協力に基づく繁殖海域・回遊ルートの特定と目視調査に全リソースを振り向けるべきでしょう。もちろん、混獲の実態調査と削減のための方策を開発し運用することも、商法捕鯨再開を早めるうえで役立つでしょう。少なくとも、デモンストレーションじみた網走捕鯨に比べれば。
 網走捕鯨の問題については、社会的側面も見過ごせません。
 伝統とは名ばかりの典型的な移植近代捕鯨としての網走捕鯨の性格については、リンク上掲のIKANブログ記事をご参照。
 何度も繰り返すとおり、北海道で伝統的にミンククジラを獲っていたのは、明治政府に政治的理由で捕鯨を強制的に禁じられたアイヌです。その性格も侵襲的な和人の近代捕鯨とは大きく異なっていました。

■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 2007年にはこんなニアミス事件≠ェ発生。

■“「かわいそう」「気分悪くなった」と観光客” くじらウオッチング船の眼前で、捕鯨船が捕鯨作業…北海道
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1022397.html

 自分たちのショバだとばかり、羅臼町にヤクザじみた逆クレームを入れたのが、太地と共同で当の捕鯨船を保有していた下道水産社長。今年のIWC総会で吼えたのと同じ振る舞いですね・・。
 このときはツチクジラでしたが、NEWREP-Aでターゲットに加えたミンククジラは、知床の観光の目玉でもあるホエール・ウォッチングの対象として、シャチやマッコウとともに親しまれている鯨種です。
 しかも、エリアはユネスコによって世界自然遺産に認定された知床国立公園に重なっています。Jストックはその知床の近海も生息域に含む絶滅危惧個体群なわけです。
 知床が世界自然遺産に認定されるにあたっては、同地域の漁業の持続性に対して厳しい要件がつけられました。
 NEWREP-NPによるJ-ストックの捕獲数は、日本政府自身が持続可能な枠として設定した17頭を超える34頭。
 科学の名を借りた非持続的な乱獲が、世界自然遺産に生息する絶滅危惧個体群に対して行われることなど、許されていいはずがありません。
 網走捕鯨を取り下げないなら、知床は危機遺産に指定されても文句は言えないでしょう。
 この場所での捕鯨が一体どのような意味を持つのか、世界の人々にどう受け止められるか、捕鯨関係者以外のすべての北海道民・日本国民がもっと真剣に考えるべきです。

 目視調査に関しては、IWC-SCのガイドラインを完全に遵守して計画されたトラックライン(航路)どおりに実施することを保証するとしています。奇妙なのは、捕獲調査に関して同様の宣誓が見られないこと。というのも、JARPNUレビューでは、トラックラインを勝手に外れて捕獲していたことが発覚し、調査結果に信頼が置けないと苦言を呈されたからです(詳細はIKA-NETニュース64号)。口先で何を言おうが、実効性のある仕組みがない以上、日本が同じことを繰り返さない保証≠ヘありません。日本は常に規制の裏を掻く狡い国なのではないかと、世界から強い疑いの目を向けられているのはわかっているはず。科学調査の建前でさえこれなのに、どうして商業捕鯨の再開を認められるでしょうか。

 最後に、ICJ判決への対応を記した別添1の最後の項目、海外を含む他の国際機関との連携について。海外の研究機関は、連携するのが当たり前の非致死の目視調査に関するIWC-POWERと、ノルウェーのLkarts Norway(バイオプシー銃等調査ツールを開発している企業)のみ。他はすべて日本国内、遠洋水研等水産庁所管の身内機関や、これまで共著論文数を稼ぐためにサンプルを投げてきた大学等で、JARPA/JARPN時代とたいして代わり映えしません。

結論:

 JARPAUが「美味い刺身の安定供給(by本川元水産庁長官)捕鯨」なら、NEWREP-NPは「政治捕鯨」「乱獲捕鯨」「絶滅危惧種捕鯨」であり、性格的には「デタラメ捕鯨」「開き直り捕鯨」「挑発捕鯨」と言い表すことができるでしょう。
 そこには、科学的正当性の更なる喪失と露骨な独善性、過激なまでの侵襲性の増大が見て取れます。
 また、捕鯨ニッポンから世界に向けて発せられた強いメッセージが表れています。国民に対しては必ずしも明瞭ではないのですが。
 大げさに聞こえるかもしれませんが、NEWREP-NPは国際法の尊重・生物多様性保全・動物福祉・持続可能な漁業に対抗する反逆の狼煙にほかなりません。
 国際社会が時間をかけて培ってきた以下の4つのベクトルを、一気に逆転させようとしているのです。

「とりわけ絶滅危惧種に対しては、不確実性を都合よく解釈せず、予防原理に則り、環境・野生動物の利益≠優先しよう」
「乱獲の歴史と現状を直視し、非持続的に魚を貪る漁業を改め、持続可能な水産業に変えていこう」
「たとえ科学目的であっても動物の命を殺すことは極力控え、致死的な手法に頼らず削減していく努力をしよう」
「国際法秩序を尊重し、よその地域にまでエゴを押し付けず、対話を優先して実力行使に訴えるのを控えよう」

 1つ目の流れは、レッドリストをとりまとめ、国家や大手NGOを傘下に収める最も権威ある野生生物保護組織である国際自然保護連合(IUCN)や、ワシントン条約(CITES)・生物多様性条約(CBD)・ボン条約(CMS)といった野生生物関連の国際条約にとって、まさに柱≠なす基本理念にほかなりません。
 特定事業者と族議員への配慮を優先し、予防原則の真逆をいく口実でJストックをターゲットに網走捕鯨の新規追加を目論む日本の姿勢は、その理念を正面から脅かすものです。国内を含む世界中の野生生物保全関係者に強く警鐘を打ち鳴らすだけのインパクトがあります。

 2つ目の流れは、FAO白書が示すとおり、持続的漁業後進国・日本が世界から取り残されているのが実情。その距離はますます開く一方です。
 12/5の読売夕刊に、「商業捕鯨『再開』譲らぬ」と題するNEWREP-NPについての報道がありました(オンライン記事はなし)。
 その中の森下IWCコミッショナーの発言に、すべてが要約されています。

「持続可能な形で水産資源を利用する、という筋を通せないと、マグロなどでも極端な保護を主張する国際世論が高まる恐れがある」(引用〜読売記事)

 あからさまな嘘ばかりで構成されたこの発言には、真実〜日本の漁業の非持続性を覆い隠し国民の目を欺く意図が明白に表れています。特に、太平洋クロマグロで顕著な刹那的荒稼ぎ′^の乱獲を続けるために、批判や規制の流れに抵抗するために、クジラという生贄を彼らは必要としているわけです。
 今回日本は、国際的に合意された持続的利用のためのRMPに基づき自ら試算した17頭と比べても10倍に上る過大な捕獲枠を、規制に縛られない調査名目で要求しました。南極海を荒廃させた過去の捕鯨会社による大乱獲を再現する意思の表れだと、世界が受け止めないはずはないでしょう。

 3つ目の流れは、いわゆる動物実験の3R。
 対象が野生動物であり、殺す場所が実験室ではなくフィールドであるというだけで、調査捕鯨はまさに非人道的で不必要な動物実験にほかなりません。国際的な学術誌への調査捕鯨論文掲載が拒まれてきた理由もそれ。
 ICJは判決の中で、致死的手法削減し非致死的手法によって代替するための検証の努力や、ザトウとナガスの捕獲削減・中止によって示される「より低い精度での結果の受け入れ」に言及しました。そして、JARPAUの規模拡大が、IWC決議と同ガイドラインのみならず、「必要以上に致死的手段を用いない」とする日本自身の科学政策方針にも反するものだとズバリ指摘してみせたのです。
 「RMPの精緻化」は別に必要不可欠≠ネものではありません。商業捕鯨再開のためにさえ。
 今回のNEWREP-NPの提案書で、日本は言葉をはぐらかすように「目的に沿いさえすれば」捕獲数を増やすことすら正当化されるのだと主張しだしています。
 たとえ、ICJ判決の趣旨を汲まない水産庁の政策方針が、目的≠フカストマイズによって安直な致死調査とその拡大を許すものであったとしても、日本政府自身の別の科学政策方針にはやはり明確に反しています。環境省及び農水省の。
 ここで改めて『3Rの原則』について説明しておきましょう。

・Replacement (代替法の利用)
・Reduction (使用動物数の削減)
・Refinement (実験方法の洗練、実験動物の苦痛軽減)

■実験動物の福祉|環境省
https://www.env.go.jp/council/14animal/y143-21/mat01-1.pdf
■「農林水産省の所管する研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」の制定について|農水省
http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/tuti/t0000775.html

 日本の捕鯨サークルは、この3Rに関して世界に挑戦状を突きつけました。彼らの提唱する≪新3Rの原則≫は以下。

・Restoration (致死への復古[いったん中止・削減しながら再度致死的手法へと回帰する])
・Raising (嵩上げ[削減するどころかわざわざ増量する])
・Remissress (怠慢[代替手法や削減の検討・検証をまともに行わず、適当な口実でごまかす])

 致死対象の鯨種に対して掲げられた「目的」と「その目的のために必要」との決まり文句のセットは、「必要だから必要だ」「重要だから重要だ」というトートロジーじみた主張です。JARPAUはICJより「致死調査を用いることへの客観的説明がない」と指摘を受けたわけですが、なぜ特化しているのか、突出しているのかについて、提案書に書かれているのは客観的根拠というよりあくまで主観的な説明にとどまっています。中でもお座なりな説明で済ませている「ニタリ削除の相対的な理由」「暫定的な網走枠」からは、犠牲を減らすために努力をしようとの意思が微塵も感じられません。3Rの趣旨・社会的要請に対する無理解そのもの。
 鳥インフルエンザの調査の公益性の高さは、たかが美味い刺身≠ニは比較になりません。しかし、環境省はそれを口実に、野鳥を対象にした調査捕鯨スタイルの大規模経年致死調査を実施したりなどしていません(詳細は上掲リンクのJARPNU検証記事参照)。
 ある意味で、殺しの拡大志向、無思慮に命を貪る社会≠ヨの道しるべを提示したのが、新調査捕鯨計画だといえるでしょう。その影響は、クジラ以外のすべての動物に波及していくでしょう。
 動物福祉に関わるすべての人々は、日本の調査捕鯨の本質にもっと強い関心を払うべきです。

 公平を期すなら、4つ目の流れは米国・ロシア・中国という大国のせいでいままさに危機に瀕しているのが事実ではあります。しかし、日本は白々しい嘘と国連受諾宣言の書き換えという姑息極まりない手法を用い、国際法の最高権威に唾を吐いて判決を反故にし、「よりによって南極のクジラ≠ナそれをやるのか!?」と世界に衝撃を与えました。
 国民の大多数が関心を持たず、現政権のブレインが「友好国との信頼関係を損ねるくらいなら実にちっぽけな狭義国益にすぎない」と有識者の本音を代弁した、遠い南極の野生動物〜たかが美味い刺身に対し、そのような超法規的手法に訴えることができてしまうのです。そのうえ、現政権の閣僚の1人は、世界で最も緊密な軍事同盟関係にあり、重要な価値観を共有すると互いに公言している間柄の米国に対し、「永遠に分かり合えないという不信感」「埋めようのない価値観の違い」と口にしてしまえるのです(人権尊重の価値観を共有する先進国の閣僚とは到底思えない妄言を連発した捕鯨族議員・鶴保氏ですけど・・)。
 これには北朝鮮も中国もロシアもびっくりです。たかがクジラ≠ナ……飽食・廃食大国の高級料亭で供される南極産美味い刺身を固守する目的で、西側諸国の一員のはずの日本がそれをやってしまえるのなら、彼らの現状変更≠ノ大義名分が与えられるのは、ある意味当然のことでしょう。
 JARPNU改≠フ萎縮モードから、お尻をたたきながらあかんべえをするNEWREP-NPの嘲笑モードへの変化は、「IJC判決に対する無視・逃げ切り宣言」にほかならず、国際法と国際機関、友好国に対する愚弄以外の何物でもありません。網走捕鯨の新規追加は、JARPAUでの南半球ザトウ50頭捕獲と同様、北朝鮮じみた国際社会への示威のニュアンスも帯びています。

 残念ながら、オーストラリアはICJ提訴アプローチを掲げた当時とは政権が代わってしまい、安倍政権との当たり障りのない関係を優先するあまり、国民の愛する身近な自然・野生動物を脅かす、日本にとっての尖閣諸島と同様に自国の領土・領海問題にも直結するところの公海調査捕鯨問題に対し、国際法に基づいて粛々と解決をはかる道をあきらめかけているように映ります。
 IWCも、お互い耳を塞いだまま言いたいことを言い合うだけで、何も変えられない以前の膠着状態に戻りかけています。
 しかし、NEWREP-NPは、「ダメなものはダメ」と言い切れない──本当の友好関係を築くためには避けて通れないはずですが──反捕鯨国とその市民に、思いっきりバケツで冷水を浴びせるものです。
 悲しいことに、捕鯨ニッポンは変わりませんでした。その絶好の機会だったはずのICJ判決で、自ら襟を正すことができませんでした。日本人としては内心忸怩たるものがありますが・・。
 世界はいまこそ毅然とした態度で臨むべきです。曖昧になあなあで済ませ続けるべきではありません。それは、すべての自然、すべての動物たち、必要とされる良き漁業にとって、ためになりません。
 もう一度、国際法の下できちんと決着を着けることを、真剣に考え直すときです。
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