2008年06月15日

2つの企業と報道のあり方

■商業捕鯨再参入、水産大手3社は否定 「良いことない」 (6/13,朝日)
http://www.asahi.com/business/update/0613/TKY200806130280.html (リンク切れ)
http://news24.2ch.net/test/read.cgi/bizplus/1213366260/
■アグリビジネスの巨人"モンサント"の世界戦略|BS世界のドキュメンタリー (6/14,NHK-BS1)
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/080614a.html
■青森県警が本格的な窃盗捜査 グリーンピース「謝らない」 (6/13,J-CAST)
http://www.j-cast.com/2008/06/13021808.html?p=all
■“鯨肉横領”乗組員を不起訴処分へ (6/11,日テレ)
http://www.news24.jp/111403.html (リンク切れ)

 
 まずは一番上の朝日の記事をご一読。目新しい話ではないのですが、IWCを前に一般の日本人の方には基礎知識として持っておいてもらったほうがいいでしょう。
 かつての大手捕鯨会社である日本水産・極洋・マルハニチロ(旧大洋)の3社は、「仮に商業捕鯨が再開されたとしても参入する意志は微塵もない」と明言しています。読めばわかるとおり、実にサッパリサバサバとした調子でコメントされてますね。以下引用。

「世界で魚を販売する企業として、鯨にかかわって良いことは全くない」(日水・小池邦彦取締役)
「昔食べた人は懐かしいだろうが、 他の肉のほうがおいしいのでは」(日水・佐藤泰久専務)
「若い人は鯨肉を食べない」(極洋・多田久樹専務)
「捕鯨船は数十億円の投資がかかり、収支があわない」(マルハニチロ・河添誠吾常務)

 大きな理由は2点。一つは、ビジネスとして成立しないこと
 HPの最新記事でも述べたように、鯨肉にはもはや適正価格が存在せず、健全な市場原理が働きません。現行の調査捕鯨のスタイルでは、国の補助と財団の融資を受けていてさえ、赤字が膨らんでいるのです。公的援助がなくなったら、株式会社として利益を出資者に還元できるはずもありません。税金を注ぎ込んだ国の委託事業の形で、公益法人が株を持つ極めて特殊な独占企業が手がけてこそ、曲がりなりにも成り立って(?)いるわけです。
 もう一つは、水産物中心の食品商社に脱皮したこれらの企業にとって、国際市場で消費者に敬遠されることは死活問題を意味します。捕鯨業界との関係を維持することは、デメリットでしかないのです。たとえ関係者に捕鯨シンパがいたとしても(実際多数いるでしょうが・・)、会社としては捕鯨会社としての過去からきっぱり縁を切ったことにしておきたいわけです。企業としては当たり前の判断でしょう。
 資本主義社会においては、一にも二にもお客様……じゃなくて、投資家が最優先です。神様はお客様ではなく投資家です。お客様を大事にするのは、それが100%投資家のためになるからです。あるいは、投資家への配当を増やす限りにおいてのみ大事にするのです。両者の利益が相反する場合、企業はいささかのためらいもなく投資家の方を選び、消費者を切って捨てます。食品などの偽装を始めとする不正行為は、いってみればコストを押えて利潤を増やすハイリスクハイリターン戦略にすぎず、しくじってバレたら損害を最小にする行動をとります。だから、賠償を回避するためにまず謝罪に応じず、不可避になった時点で一転して土下座するわけです。実にわかりやすい行動原理ですね。。社会貢献や環境への取り組みもまた然り(嘘がなければ悪いことではありませんけど・・)。
 商業捕鯨に代表される遠洋大規模漁業は、野獣の論理とまでいわれたこの利潤追求の経済原理と、自然の再生産率とのギャップがあまりに大きい故に成立し得ないということが、経済学者によって指摘されていました。その警告は、南極海の大型鯨類の壊滅という不幸な形で的中してしまいました。
 特殊な"国策企業"である共同船舶の場合は、目下のところ純粋な利潤追求ビジネスとはいえません。しかし、別の観点からみれば、国に不採算部門を押し付け、マスコミと文化人という無償の優秀な広報係に支えられ、不自然に高い付加価値を商品に添加することに成功しました。企業としては他に例を見ない他力本願型≠ニいえますが、見事な生き残り戦略といえるでしょう。産業界と行政が密接に結び付き、企業努力が官との関係構築に傾注される、日本の企業社会に典型的な公共事業依存体質があったからこそ、成り立ったといえますが。

 さて、ここでいったん捕鯨と直接関係のない話に。2番目のリンクは、アグリビジネスを手がける巨大な多国籍企業モンサントのドキュメンタリー。農薬と遺伝子操作技術を用いて世界の食糧支配をもくろむ同社のビジネス戦略と、その影の部分にスポットを当てた番組で、今年仏で制作されたものです。米国政府と癒着し、科学を政治の道具にしてデータを捏造し、あるいは障害とみなす研究者を排除し、第三世界の農民を犠牲にし……まあなんというか、そのあまりに悪辣な手口をみると、日本の捕鯨サークルなんて小悪党にすぎなく思えてきてしまいきます。。
 会員とウォッチャー以外の日本人には意外に知られていないことですが、番組中にも登場したグリーンピースは、国際NGOの中でも遺伝子操作問題に最前線で取り組んでいるところです。欧米の市民は誰も、クジラ愛護に特化した保護団体、ましてや人種差別の意図を持つ組織として見ていません。もし、そうだとしたら「モンサントなんか相手にしないでジャップに集中しろ!」と攻撃されるでしょうからねぇ。。日本がさっさと、少なくとも南極での捕鯨から撤退してくれれば、GPはより巨大な敵にエネルギーを傾けることができるでしょう。
 ネット右翼の主張を見ると、捕鯨以外の点で共通する部分もありますから、二百海里内の沿岸捕鯨あたりで妥協して、GPが捕鯨問題から手を引いたならば、今度はアングロサクソンの多国籍企業相手に戦う組織の強力な支持者が増えることになるかもしれません。まあ、ただの野次馬的愛国心だけで吠えているのであれば、彼らの食や環境の問題に対する関心が"和解"後も持続するかどうかは甚だ心許ない気がしますが・・。ついでに付け加えれば、GPJのとった鯨肉確保の直接行動は、巨大企業相手に結果を勝ち取るために市民団体が培ってきた手法を踏襲したに過ぎないともいえます。
 共同船舶/捕鯨サークルとモンサントとは、大きく隔たったところと非常に似通った面とがあります。
 一番大きな相違点は戦略性の有無でしょうか・・。捕鯨ニッポンも、条約の抜け穴を利用した"調査"への鞍替えや、ODAを使った票買いなど、強かな面も持ち合わせてはいます。ただ、それはむしろ、自分から泥沼に突っ込む、無謀で投げやりな"北朝鮮に似た強かさ"といえます。合わせて、一方が血も涙もない明瞭な合理的経済至上主義なら、他方は産・官・学のジメッとした腐れ縁と惰性とナショナリズムが混じり合った、きわめて不合理であやふやなものが核≠ノなっているところも対照的ですね。
 そして類似点。科学者に対する中傷メールのIPアドレスを調べたところ、モンサント社内と提携広告代理店が出所だったという話、筆者は「やることは東西変わらんもんだニャ〜」と思ってしまいました。。捕鯨業界も、不自然なネット世論調査やニュースコメントなどでせっせと動員をかけてきたことでしょう。都合のいいようにデータを捏造する点も、過去の規制違反に始まり、生データ隠し、ランダムサンプリングの虚偽に至るまで、捕鯨産業が裏でコソコソとやり続けてきたことと符合します。粕谷氏のように不正をよしとしないカタブツ研究者を煙たがるところも。また、メキシコのトウモロコシで現に起こっている野生の在来種と遺伝子組替品種の交雑問題について、モンサント側はなんと「自然界の秩序の一部」とコメントしたそうですが、これなどは「野生動物がニンゲンに資源として利用されないのは無駄である」といってのける日本の鯨類学の大御所大隈氏の、独特の自然観・価値観とある種通じるものがあります。食糧問題の解決を、恥も外聞もなく口実として掲げられる辺りも・・。

 二つの企業でそれぞれ動く金は比較にならないでしょう。しかし、やはり捕鯨サークルが"巨悪"に他ならないことを示す報道がありました。手口の"汚さ"という点では本当に負けていません。それが3、4番目のリンク。
 先日の不起訴報道、実は水産庁も「寝耳に水」("土産"と同じく)の不確定なものだったとのこと──。
 配信は日本テレビ(4番目)と共同通信(一昨日の記事リンク)ですが、両記事のニュアンスの違いにも注目してみましょう。読者にはパッと見ただけではわからないことですが、この記事はどうやら記者(日テレのほうでしょう・・)がコネのある関係者に取材して独自に書いたものらしく、東京地検の公式発表ではありませんでした。しかし、一体だれが、どのような立場で、いかなる責任のもとに、具体的にどのような発言をしたのか、ここでは一切触れられていないのです。
 今回の事件は、別に政治家の汚職でもなんでもありません。公職にある社保事務所職員による億単位の公金横領事件が立て続けに起こりましたが、「起訴の方針を固めた模様」なんて報じたメディアが一体あったでしょうか?? 民間船会社の社員に対する、金額的にはたいしたことのない刑事告発で、マスコミが"見込み"記事を流す意図は一体何なのでしょう???

「もうTVで言っちゃったことだし、そういうことにしとこうヨ。どうせ船も出ちゃったんだから、事情聴取だってもう無理っしょ。面倒なことはもうやめにしてさ。そういうわけで、不起訴ってことでヨロシク♪ ああ、目障りな連中はしょっぴいといてね♪」
 それを、食文化を守る会の鯨肉パーティーに水を差さないようにと、わざわざこの日に流したと。日テレの編集局の上のほうの人間で、ジャーナリストとしての取材ではなく、鯨肉を漁りに来た輩がいたんでしょうかねぇ。。そして、発生現場でもある船は、容疑者を乗せてさっさと検察の手の届かない海の上に出てしまったわけです。マスコミを抱き込んでおいて正解だったと、きっと関係者はホクホク顔でしょう。
 こんなのアリですか?

 大企業と大国相手にひるむことなく、独立性を保って市民の立場に立った調査報道に取り組む欧州のテレビ局に比べ、日本のマスコミのなんと情けないことでしょう。公共放送は「間をとる」ことが中立性だと思いこみ、民放も官民癒着に自分まで"混ぜて"もらおうとするのですから・・。
 小悪党という前言は撤回しましょう。産・官・学・政に報までが結び付いた癒着集団・捕鯨サークルは間違いなく巨悪です。

posted by カメクジラネコ at 01:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系
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