2008年05月04日

聞いて呆れる食文化

 とあるTV番組(グルメではない)中で、鯨肉料理が登場したとのこと。長崎の高級料亭の卓袱料理のメニューの中に、一品として含まれていたのです。
 卓袱(しっぽく)料理といえば、観光地長崎の超高ベーな郷土料理として知られ、中国風の円卓や食器がその特徴。その歴史を紐解くと、意外な事実に行き当たります。
 もともとは、鎖国時代に中国・オランダとの交易により日本の玄関口として機能していた長崎/出島に伝来した、中国の精進料理が原型だったというのです。
 当時の出島には大勢の唐人(中国人以外を含む外国人)が住み着いており、彼らとの交流の中で伝えられ、日本風のアレンジが加えられたのです。すなわち、「輸入された食文化」だったのです。古来、1人ずつ箱膳が置かれる"個食"が日本人の食スタイルでした。それが、卓袱料理では卓を囲んで大皿から銘々箸でつまみながらワイワイやる中国スタイルへと明らかに変化しました。菜食文化は台湾の"素食"が有名ですが、中国にもやはり同様の菜食文化があります。長年「不殺生の文化」を貫いてきた日本に合っていたことが、海外の食文化だった卓袱料理が日本で受け入れられ、定着した理由の一つでしょう。卓袱料理のうち、禅僧の広めた懐石形式のものを普茶料理といいますが、そちらのほうがより原型に近く、むしろ主流だったと考えられます。
 日本人は海外の文化を取り入れ、勝手にアレンジして、日本古来のものとも輸入国のものとも"似て非なるもの"を創造し、あっという間に旧来の文化そっちのけで普及させてしまうことが大の得意です。それこそが、日本の文化の本質とさえ呼べるでしょう。それは、捕鯨産業そのものの歴史にも見て取ることができます。
 長崎は、最大級の鯨組の一つで、詳しい史料が残っている益富組を始め、いくつもの鯨組が乱立した古式捕鯨の盛んな地域でした。突取式から網取式への漁法の転換も、益富組の開祖が編み出したとされます(他説もある)。鯨組による古式捕鯨は、「銅鉱に次ぐ大規模マニファクチャー」といわれるように、この時代の日本の産業の中で最も商業色が強く、"税収"目当てに各藩がこぞって動いたこともあり、捕獲量は短期間に急増しました。捕獲量は益富組だけでも享保から幕末までの130年間に2万頭を越えます。そして、鈍足の(ニシ)コククジラとセミクジラ、マッコウクジラ、網取式によって初めて捕獲が可能となったザトウクジラなど、日本近海の沿岸性の鯨種に対して少なからぬ影響を及ぼしたと考えられるのです。玄海灘などに網を張って待ち伏せされれば、特に日本海側の個体群がダメージを被ることは避けられなかったでしょう。当時、日本近海にまで進出していたアメリカによる帆船捕鯨も無関係とまでいえませんが、主要な捕獲対象は脳鯨油の採れるマッコウクジラであり、特にセミクジラとコククジラの減少は日本の古式捕鯨に主な責任があったことは否定できないのです
 主として不漁により明治8年に益富組は解散、ここに長崎の伝統的古式捕鯨は幕を閉じます。その後、明治30年に新たにノルウェー式の捕鯨が英国の貿易商によって持ち込まれました。卓袱料理の場合と同じく、これまでの日本古来の産業文化はまったく異なる海外の産業文化へとあっさり置き換えられたわけです。日本近海のクジラの個体群は、この明治日本の近代捕鯨によって古式時代とは比較にならないほどの大打撃を被ることとなりました
 日本の文化を総体的に眺めれば、「クジラを捕り続けること」「クジラを食べ続けること」に"拘ること"が、日本の文化性とは無関係であることに改めて気づかされます。逆に日本らしくないとさえいえますね。ハイカラなイメージに惹かれ、がむしゃらに海外文化の輸入に努めるのと引き換えに、食や産業、街並などの数多くの伝統文化を過去に置き去りにしてきた日本。捕鯨もそうしたところで、何の問題もありません。その方が返って日本らしいというもの。あるいは、和洋折衷の新たな文化を創造するのもいいでしょう。「殺さない文化」、「観て楽しむ文化」を積極的に取り入れ、日本風にアレンジすることで。

 今回届いた情報をきっかけに、一つ企画を思いつきました。鯨肉を使った珍メニュー・珍レシピなどのリストを作れば、「聞いて呆れる食ブンカ」の実態が一目でわかることでしょう・・。筆者にとっては、かな〜りストレスのたまる辛い作業になりそうですが(--;;

 

参考リンク:
■南極海における捕鯨と日本における捕鯨史 | PENGUIN TARO
http://hello.ap.teacup.com/koinu/652.html
■小呂島の捕鯨史|小呂島の歴史
http://www.fuku-c.ed.jp/schoolhp/eloro/dai13wa.html
■生月捕鯨歴史|山画日和 なすび歴史館
http://www53.tok2.com/home/nasubi/history/hogei/index.html
■日本の鯨肉食の歴史的変遷(拙HP)
http://www.kkneko.com/rekishi.htm
 

posted by カメクジラネコ at 11:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系
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