2018年12月31日

クジラたちの海、ジュゴンたちの海

 皆さんご承知のとおり、暮れも押し迫った12月26日、日本政府は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を発表しました。
 ついに堂々退場≠オちゃった捕鯨ニッポン。 
 NHKをはじめ各メディアが「IWC脱退(発表予定)」を一斉に報じたのが公式発表に先立つ20日のこと。「脱退」の二文字が新聞の表紙に踊る夢を筆者が見たのがその2日前の晩。まあ、政府の判断が年内に示されるのは9月のIWCブラジル総会後の水産紙報道でわかっていたことなのですが。で、26日には菅官房長官の談話の形で発表され、翌日本当に各紙の1面を飾ることに。

■内閣官房長官記者会見 平成30年12月26日(水)午前 国際捕鯨取締条約からの脱退について|首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201812/26_a.html
脱退の効力が発生する来年7月から行う商業捕鯨は、日本の領海及び排他的経済水域に限定し、南極海・南半球では捕獲を行いません。(引用)

 公式見解に基づけば、南極海のクジラにとっては大きなプラス日本近海のクジラにとっては大きなマイナス
 ただ・・現時点では不確定の情報があまりに多く、商業捕鯨を再開・推進する日本側にとっても、また対応を余儀なくされる国際社会の側にとっても難題山積。見通しを欠いたまま強引に再開を押し通してしまった自民党捕鯨議連(とくに二階幹事長)と水産庁の責任はあまりに大きいといえますが。
 どこがどう問題なのかについては、20日以降の拙ツイログをご参照。


 ここではマスコミ報道をもとにポイントを解説しておきましょう。

@IWC脱退 7月商業捕鯨再開へ (12/26, NHK)
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20181226/0006652.html
再開する商業捕鯨はクジラの資源に影響を与えないよう適切な頭数を算出したうえで捕獲枠を設定して行われる見通しで、小型の船による沿岸での捕鯨のほか、沖合で複数の船が船団を組んで行う捕鯨も再開する方針です。
捕獲するのは、沿岸では主にミンククジラで、沖合ではミンククジラのほか、豊富だと見られているイワシクジラやニタリクジラも対象にすることにしています。
ただ、日本は海の利用などを定めた「国連海洋法条約」を批准していて、捕鯨を行う場合には「国際機関を通じて」適切に管理することが定められています。
このため政府は、「オブザーバー」という形でIWCの総会や科学委員会に関わっていくことにより、定められた条件を満たしていく方針です。(中略)
水産庁では、脱退後、すみやかに商業捕鯨を再開するほか、捕獲するクジラの種類も増やすことで、調査捕鯨の分がなくなってもクジラ肉の流通量が大幅に減ることはないと説明しています。(引用)

A主張通らず「脱退」 政権、IWC運営に不満 商業捕鯨再開へ (12/27, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13828863.html
政府は節目とされた9月のIWC総会前から、水面下で関係各国への根回しを進めた。(引用)

B感情論に振り回されたIWC 脱退は正常化の出発点 (12/20, 産経)
https://www.sankei.com/life/news/181220/lif1812200041-n3.html
科学調査は捕獲区域の日本近海や北太平洋で開始。鯨類資源が十分にある南極海からも撤退せず、目視による非致死的調査の継続に向け、調整を進める。(引用)

C政府、IWC6月末脱退通知 商業捕鯨、網走、釧路、函館など8拠点 (12/27, 北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/262335
商業捕鯨では網走、釧路、函館を含む全国7地域を拠点に、ミンククジラやツチクジラを捕獲する沿岸捕鯨を行い、山口県下関市を拠点にイワシクジラやニタリクジラを捕る沖合での母船式捕鯨を行う。沿岸捕鯨は全国の6業者5隻が操業、沖合操業はこれまで調査捕鯨を担ってきた共同船舶(東京)が実施する。(引用)

T.「共存」のハッタリ──脱退するために用意された無茶ブリ提案

 複数のメディアが、9月のIWCブラジル総会の前に、日本政府はすでに脱退の方針を固めていたことを伝えています。
 つまり、「共存」なんて嘘八百。実際、日本提案の中身は、双方の主張を取り入れた譲歩案とはかけ離れたものでした。中立に近いインドには問題点を指摘され、捕鯨賛成派のロシア・韓国も棄権、オーストラリア代表には「なぜこんな絶対通らない提案を出したのかわからない」と揶揄される始末。さらに不可解なことに、水産庁の諸貫代表代理が「東京と相談する」と答えて翌日出てきた修正案は、反対陣営がより受け入れやすくなるどころか、逆にハードルが上がっていたのです。常識で考えればありえないこと。
 それもそのはず。要するに、最初から受け入れられない前提で、純粋に国内向けに脱退の口実≠ノするためにこそ用意されたものだったのです。
 日本は9月のブラジルで、その気もまったくないのに共存≠ニいう言葉をこれ見よがしに掲げるパフォーマンスを繰り広げました。世界に対して大嘘をついていたのです。新基地建設を強行しながら「沖縄の負担を軽減する」などとしらじらしいことを平然と口にするのと同じく。
 日本提案の詳細については以下の解説をご参照。

■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案|真田康弘のブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15
■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html

U.いままさに行われているチョウサ捕鯨≠ニいう名の商業捕鯨

 上掲のとおり、日本は9月のIWC総会前に脱退を決めていました。
 と同時に、これはこの11月12日に南極海に向けて出港した捕鯨船団による新南極海鯨類科学調査(NEWREP-A)の許可証発給前であることを意味します。
 2014年の国際司法裁判所(ICJ)の判決により、NEWREP-Aの前の南極海調査捕鯨(JARPAU)の国際法違反が確定しましたが、そのJARPAUの調査計画の非科学性の論拠のひとつに「研究期間が設定されていない」ことが挙げられました。この批判を受け、NEWREP-Aは12年の期間が設けられ、半分に当たる6年後にレビューを行い、数字を見直すこととしています。
 NEWREP-Aは今年でまだ4年目。半分にも達していません。

https://twitter.com/segawashin/status/1075904691899387904
こんな大規模コホート、医学研究でもなかなか目にしないw。こんだけサンプル集めてろくな論文も出てないって、まともな研究者なら座敷牢で折檻されるレベルだな(引用)

 上掲は小児科医/研究者でもある作家の瀬川深氏のツイート。
 NEWREP-Aは必要なデータが集まり切る前に空中分解、科学調査としての意義が完全に費えることが確定したわけです。オブザーバーとしてIWCに提出する報告以外、2018/19のチョウサ≠ゥら国際査読誌に掲載されるだけの学術論文が書かれることなどありえない話。
 要するに、今南極海で日新丸船団が行っているのは、国際条約で認められている(致死的な)科学調査などではなく、純粋に美味い刺身=i〜本川元水産庁長官)を日本の鯨肉市場に供給するための商業捕鯨に他ならないわけです。JARPAIIと同様、国際法のもとでは決して認められないはずの。
 今季のNEWREP-Aは過去の調査捕鯨の中でも最も、限りなく商業捕鯨に近いといっても過言ではないでしょう。
 上掲産経報道Dで「目視による非致死的調査の継続」とありますが、従来の日本の主張どおり「致死調査が必要不可欠」であるなら、これは無意味です。
 もし、代わりに目視調査を行うことに科学的意義があるとするならば、そもそもこれまでのNEWREP-Aを含む南極海調査捕鯨が不必要(あるいは相対的な必要性)だったことを自ら証明するものにほかなりません。国際法のみならず、日本の動物愛護法における3R≠フ趣旨にも真っ向から反していたことになります。
 違法性がJARPAIIより明確な最後の南極海捕鯨≠ヘ、仮にITLOSに訴えられればほぼ確実にアウトでしょう。ITLOSは、三権分立の建前がすっかり壊れ、米軍基地辺野古移設に関して安倍政権に擦り寄る判断しかできなくなった日本の司法とはきっと異なるでしょうから。
 残念なのは、仮にITLOSで違法判断が下されたとしても(差し止め命令は別にして)、そのころには手遅れで意味がなくなっている可能性が高いことですが。
 ただ、たとえ止められないとしても、最後の最後まで国際法を毀損する真似ばかりする国だったと、日本の汚点が歴史に刻み込まれることになるでしょう。
 日本が自らの国益をあまりにも大きく損ねた共同船舶による母船式捕鯨を完全に断念し、厳格な管理のもとでの太平洋沿岸17頭程度の沿岸捕鯨にとどめるのであれば、日本の北方領土や尖閣諸島周辺海域に相当する南極海をサンクチュアリに指定している国々も、「これで本当に最後ね」ということで政治的に黙認することも、あるいはやぶさかでなかったかもしれません。
 各メディアとも奇妙なほど触れずにすませていますが、日新丸船団は今頃南極海でまさに捕鯨を始めたあたり。
 しかし、南半球諸国の市民がこのまま黙っているとは、筆者には思えません。年明けには強い批判の声が巻き起こったとしても不思議はないでしょう。

V.規制に縛られない「オブザーバー」でやりたい放題!?

 「オブザーバー」とは読んで字の如し、傍観(聴)者=B
 会議の場に居合わせて、議論の様子を直接見聞きし、それを市民に伝えることができるのは、例えばNGO(非政府機関〜市民団体)にとってみれば大きなメリットと呼べるでしょう。もっとも、最近はネットを通じた動画中継という手段も登場しましたが。
 しかし、一国政府が加盟国からオブザーバーへと鞍替えすることに、一体何の意義があるというのでしょう?
 IWCでは議長裁量で発言の機会が与えられる時もありますが、オブザーバーに出来ることはただ言いたいことを言うだけ=B他の国際機関や議会では発言権さえない場合も少なくありません。
 北海道記事Cなどでは年間約1,800万円の分担金が要らなくなるとしていますが、9月のブラジル総会の日本代表団の旅費は推計7,000万円。オブザーバーになってからも総会(隔年)/科学委員会(SC)会合(毎年)に相応の人数が参加すると考えられるので、その出席費用で浮いた分など結局消し飛んでしまいます。ちなみに、外務省は(脱退に伴う)紛争解決のための国際弁護費用等の予算約8,000万円を新年度の概算要求で計上しています。
 つまり、加盟国の立場でこそ得られたはずのプレゼンス/影響力、何より貴重な1票を失い、ただの外野に成り下がるだけ。
 まあ、多額のODAと引き換えに加盟国になってもらった被援助捕鯨支持国を放り出すわけにもいきませんし、陣頭指揮≠キべく参加する必要はあるのでしょうが。
 いずれにせよ、加盟国の立場で変えられなかったものを、オブザーバーに格落ちして変えられるはずがないのは、誰が考えても容易にわかること。菅官房長官の発言は矛盾だらけ。
 もちろん、IWCのオブザーバーとなる目的は別のところにあります。
 それが、IWC/国際捕鯨取締条約(ICRW)の縛りから逃れつつ、国連海洋法条約(UNCLOS)65条のもとで商業捕鯨を行う体裁を取り繕うこと。
 該当するのは「through the appropriate international organizations」の部分。IWCにオブザーバーとして参加すれば、この「through」の条件を満たすと日本は考えたわけです。まあ、ある意味UNCLOSの瑕疵ともいえるかもしれません。
 日本側の解釈が正しい場合、捕鯨推進サイドにとってこれはいいことづくめ=B
 これでうるさいこと何も言われずにすむと。「ちゃんと通じてるだろ、文句あっか!」の一言でおしまいだと。
 ただし、あくまで日本が正しい場合ですけどね・・。
 IWC非加盟で(大型鯨類の)捕鯨を行っているのはカナダとインドネシアの2カ国のみ。ともに年間の捕獲数は1桁で、内容的にもIWCにおける先住民生存捕鯨の定義から外れるものとはいえません。
 一部メディアや識者が指摘していますが、日本が捕獲数や規模、商業的性格の点で両国とはまったくレベルの違う捕鯨会社による捕鯨を、条約加盟国の立場ではなく単なるオブザーバーとして強行した場合、どこかの国に訴えられないという保証は何もありません。後は国際海洋法裁判所(ITLOS)がどう判断するかという話になります。

W.商業捕鯨+チョウサ捕鯨???

 日本は再開後の商業捕鯨をIWCで合意された改定管理方式(RMP)のもとで行うとしています。
 捕獲対象となる3鯨種のうち、ミンククジラについては年69頭程度(最小17頭、最大123頭)との試算があります。

■ミンククジラ オホーツク海・北西太平洋|国際漁業資源の現況
http://kokushi.fra.go.jp/H29/H29_50.html

 実はこの17頭という数字、2年前の前回のIWC総会時に日本が要求したもの。しかし、オーストラリア等の反対で通りませんでした。
 なぜ否決されたかといえば、答えは簡単。「非科学的だから」。
 北太平洋のミンククジラは太平洋側のO系群と日本海側のJ系群の2つの個体群に分かれることまでは知られているのですが、さらにO・Jそれぞれが複数の系群に分かれる可能性があり、まだIWC-SCで合意は得られていません。水産研究・教育機構の「国際漁業資源の現況」においても示されているとおり。「日本側がやや正しそう」というぐらいでは、やはりゴーサインは出せません。それは非科学的なこと。
 つまり、日本は科学をいったん脇に置いて、「どうか日本の沿岸捕鯨会社に温情をかけてやってくださいよ、17頭ぽっちだからいいでしょう?」という情緒に訴えかける提案をしたのです。しかも、「その代わり、南極海・公海からは撤退しますんで」という、政治的には着地点となり得る、結果的には脱退することで2年後に自ら招いたのと同じ条件を付けることなく。
 他所で指摘されたとおり、現行の沿岸調査捕鯨によるミンククジラの捕獲数は網走沿岸47(J系群を含む)、太平洋沿岸(釧路・八戸・鮎川)80、太平洋沖合(43)で計170頭。
 ここで皆さんもお気づきになられたかもしれません。
 日本の今年までの調査捕鯨によるトータルの捕獲枠が、IWCで合意された管理方式に基づき持続可能とされる捕獲枠をも上回っていることに。
   調査捕鯨 > 商業捕鯨
 モラトリアム後の日本の調査捕鯨はそもそも、国際ルールからの逸脱を可能にするためにこそ編み出された裏技=B商業捕鯨であれば従わなければならない規制にも縛られることなく出来てしまうところがミソ。
 今回の脱退報道で、事情を知らない一般市民が「これで鯨肉の供給が増えるかもしれない」と誤解する一方、市場関係者が「減ること」を懸念したのは、まさにそれが理由なわけです。
 ただ、上掲NHK報道@では、水産庁が「大幅に減ることはないと」と回答。
 しかし、これはきわめておかしな話です。発表どおり公海から撤退する場合、国産鯨肉の8割方を占める南極海からのクロミンククジラ300頭と北西太平洋公海からのイワシクジラ134頭分の鯨肉はそっくり失われるのですから。
 さらに、@で水産庁自身が「調査捕鯨の分がなくなっても」と説明しているにもかかわらず、上掲産経報道Bでは「科学調査は──」とあり、情報が錯綜しています。後者は森下氏個人の持論かもしれず、記事を書いたのがパクリ記者佐々木正明氏なので、信憑性にやや疑問符がつくところではありますが。
 実際、公海上で行われるNEWREP-AとNEWREP-NP沖合≠ヘ法的根拠を失います。
 しかし、沿岸の非常に狭い範囲で行われてきた(オホーツク海側および太平洋側)NEWREP-NP沿岸は、日本のEEZ内であるため、国際法の上では日本が勝手にやってしまうことが可能。
 「流通量を維持する」という裏の目的≠ナ、RMPを忠実に守っていたのでは決して満たせない分をチョウサ≠ナ補充する超裏技≠ウえ使われかねません。
 その場合、実際には「混獲 + 商業&゚鯨(沿岸+沖合) + 調査&゚鯨」の≪三本立て≫という形で、場合によっては沿岸のミンククジラだけでトータル300頭を超えてしまうことになりかねないのです。
 IWC-SCで合意されているミンククジラの北太平洋における推定生息数は約25,000頭。しかし、同種は太平洋中に均等に分布しているわけではありません。若い個体が岸寄りを通り、成熟に伴って沖合にルートがずれていくのがミンククジラの回遊生態。沿岸での目視数は数百頭どまり。そして、沿岸調査捕鯨で百頭を超える捕獲を行ってきたことで、釧路沖の枠≠満たせなかったり、新規の八戸では開始初年度3頭に留まるなど、乱獲が強く疑われる状態でした。太地イルカ追込猟によるオキゴンドウやコビレゴンドウとも似た状況。
 このうえさらに捕獲数が増やされることになれば、若い年級群に集中的なダメージが加わって人口構造が大きく変わり、かつて商業捕鯨時代にマッコウクジラ捕鯨で犯したのと同じ愚を繰り返すことになるでしょう。
 以下はアイスランドの捕鯨会社社長ロフトソン氏による、日本のIWC脱退についてのコメント。

■「クジラの血が体に流れる」アイスランドの鯨捕りは日本のIWC脱退と商業捕鯨再開の方針をどう見たか (12/25, 木村正人/ヤフーニュース)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20181225-00108985/
「日本のように約30年間も『調査捕鯨』を継続するのは少し行き過ぎだと思います。日本は調査を分析するために50年前の方法を使っています。このため、他の国の研究者は日本の調査結果を用いて比較できないのです」
「商業捕鯨と同時に捕鯨について必要なすべての調査を実施できます。それが、私たちがアイスランドで行っていることです」(引用)

 もし、日本が商業捕鯨と同時並行で調査捕鯨を行い、それによって鯨肉供給を確保しようとするならば、それは文字通り乱獲≠ノ他ならず、同時に非合法な捕鯨=密猟≠ナあることも意味します。
 その場合、たとえ沿岸限定であっても日本は国際訴訟リスクを抱えることになるでしょう。

X.EEZ内で母船式??? 共同船舶の悪あがき

 一連のIWC脱退関連報道の中で、筆者が最も眉をひそめたのが「(共同船舶の)母船式捕鯨が生き残る(かもしれない)」という情報でした。
 「母船式捕鯨」と明記したのは27日の北海道新聞記事C(小森美香記者)のみ。26日のNHK報道@では、沖合捕鯨は「複数の船が船団を組」むと母船への言及はなく、母船日新丸以外のキャッチャーボートを使う形態も考えられたのですが。
 また、27日の朝日報道など、いくつかの新聞は下関の関係者への取材をもとに「独自の水揚・解体施設のない下関市では、母船式捕鯨が行えないと(流通拠点が他の沿岸捕鯨地に移るなどして)同市の産業にとってプラスにならない」という趣旨の報道をしています。
 少なくとも、関係者には正式な決定事項として「下関市を拠点に実施するのは母船式捕鯨だ」と伝えられてはいないのでしょう。詳細な情報がきちんと与えられていないのは他の沿岸捕鯨地に対しても同様とみられますが。
 ちなみに、筆者も情報開示請求の件のついでに「7月以降の日新丸の運用はどうするつもりか?」と水産庁国際課に尋ねてみましたが、「まだ検討中」という以上の返事はありませんでした。まあ、決まっていたとしても筆者に教えるつもりはないでしょうけど。
 下関市の要望に応える形にするのであれば、早々に北海道新聞にリークしたのはあまり賢明とはいえないでしょう。
 両者は間違いなく競合関係にあるからです。鯨肉全体の市場という意味でも、ミンククジラ鯨肉単一の市場をめぐっても。
 公海母船式捕鯨すなわち共同船舶による鯨肉供給によって市場が左右されてきたのは事実であり、沿岸捕鯨事業者の不満を解消するために「沿岸調査捕鯨」が立案され、補助金が拠出されたわけです。
 しかも、沖合捕鯨の対象とされる3鯨種のうち、遠洋性のイワシクジラは調査捕鯨でもほとんど公海で捕獲されており、EEZ内では数頭が限度で(こっそり公海に出て密猟すれば話は別ですが)、探鯨のコストもランダムサンプリングの調査捕鯨と遜色ないほど大きくなると予想されます。ちなみに、JARPNII時代にはサンプリングのコースを外れていたことがIWC-SCで問題になりましたけど。
 また、ニタリクジラは入札でも売れ残った不人気鯨種。水産庁は営業努力次第という言い方をしたようですが、他の2種より価格を下げなければ売れない以上、経営を圧迫するのは明らか。
 そうなれば、直接競合するミンククジラの枠をめぐり、両者の間で軋轢が生じるのは自明のことでしょう。
 そして、事実上EEZ内のみでは採算が取れるはずがない母船式捕鯨の救済措置をはかった水産庁と自民党の捕鯨族議員が、これからも共同船舶に肩入れし続けるのもまた疑いの余地がありません。
 結局、皺寄せはクジラたちに押し付けられることになるでしょう。

Y.太平洋版NAMMCO(第二IWC)は米加中露韓抜きのぼっち機関≠ノ(つまり無理)

 「第二IWC」については野党を含む族議員が勇ましいだけで、菅官房長官も水産庁筋も「これからの検討課題」とやや引いた姿勢を見せています。
 おそらく「IWCオブザーバーに留まる」ことが外務省との落としどころとなっていそう。
 まあ、そんな動きを見せれば日本に対する海外からの風当たりが一段と強まることは避けられないわけですが。
 それだけではありません。
 ワールドワイドのIWCに頼らず捕鯨をしようと思ったら、対象鯨種の回遊先がEEZに含まれる沿岸国に対して合意を得るか、ともに参加する地域漁業(捕鯨)機関のもとで管理されなければなりません(UNCLOS#63)。
 つまり、北欧の捕鯨国が組織している北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)の北太平洋版となる捕鯨管理機関には、以下の国々に頭を下げて加盟してもらう(少なくとも許諾を得る)ことが不可欠なのです。
 ミンククジラ・イワシクジラ・ニタリクジラの3種の日本の捕獲対象となる系群の回遊/生息域は、いずれも太平洋の米国領島嶼にかかっています。
 さらに、カナダ、中国、韓国、北朝鮮、ロシアも、沿岸国として日本の管理に物申す資格のある国ということになります。
 カナダと米国は今年10月に開催されたワシントン条約(CITES)常設委員会で連携して日本の公海イワシクジラ持込問題を徹底的に追及しました。カナダはIWC非加盟で小規模な先住民生存捕鯨を行ってはいますが、国民の鯨類保全に対する関心が非常に高い国でもあります。
 中国は違法象牙の最大の市場がある国ですが、CITESで象牙の大胆な禁止を表明したうえ有言実行で規制を始め、なおも密輸入は止まっていないものの、国際社会からかなり高い評価を得ています。それも、象牙の国際市場閉鎖に後ろ向きなばかりでなく、国際社会に対する対決型捕鯨外交の姿勢を鮮明にする日本と対比される形で。
 中国・台湾・香港メディアによる日本の捕鯨政策に関する報道や論点は欧米メディアとほとんど変わらず、市民の日本に対する視線も冷めています。加盟国の中で捕鯨支持国に分類されているものの、IWC総会へはもうしばらく出席していません。鯨肉市場もなく、せっかくの国際評価を台無しにするだけで何のメリットもない以上、第二IWCに参加して日本に塩を送るまねをするとは考えにくいことです。

■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 ロシア代表はブラジル総会で「対立を煽るだけ」と明確に主張したうえで日本提案を棄権。かつては日本と並ぶ規制違反捕鯨大国だったとはいえ、今は先住民生存捕鯨のみでIWC加盟の恩恵を享受しており、第二IWCに参加する理由はなし。北方領土問題で日本側がさらなる譲歩を申し出れば考えるでしょうが。まあ、譲歩なら安倍首相がすでに十分すぎるくらいしちゃってますけど・・。
 そして、これ以上ないほど二国間関係が冷え切った韓国。
 韓国もロシアとともにブラジル総会で日本提案を棄権。詳細は上掲拙解説記事をご参照。
 捕鯨問題は徴用工訴訟問題に直結します。当然クジラカード≠ヘ自国に有利な形でキープするでしょう。日本がこの件で「ICJ提訴をしない」と確約すれば、あるいは考慮するかもしれませんが。

■捕鯨で負けたのに徴用工でまたICJ提訴? クジラは平等に殺せ、でもヒトの人権ダブスタはOK?
http://kkneko.sblo.jp/article/185024459.html

 また、同国NGOは今回の日本の商業捕鯨再開に対して「韓半島(朝鮮半島)沖のミンククジラが絶滅危機を迎える」と痛烈に批判。J系群のことを指していますが、懸念は実にもっともな話。

■「日本が商業捕鯨すれば韓半島沖のミンククジラ絶滅危機」|中央日報日本語版
https://japanese.joins.com/article/588/248588.html

 北朝鮮は日本の調査捕鯨を「犯罪行為」として強く非難。ネタとして利用しているといってもいいでしょう。
 ま、誘うのは日本政府の自由ですが、はたしてどう応じることやら。また、国際社会からどんな目で見られることやら・・。
 ついでにいえば、日本のIWC脱退は戦前の自国の国際連盟脱退のみならず、同国のNPT脱退とも同列に受け止められるでしょうしね。

■広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/179410385.html

 要するに、太平洋で商業捕鯨を実施するための、IWCに代わる国際機関の設立など、夢のまた夢の話なのです。作ったところで加盟国は日本一国だけ。ぼっち機関=Bそれでは国際法の要件は満たせません。
 外務官僚はきっと理解しているでしょうが。

Z.紛争激化か!? 海賊捕鯨国VS正義のシーシェパード

 上掲のとおり、日本が再開するのが母船式捕鯨であれば、たとえEEZ内のみであっても事情が大きく異なります。
 AISは「妨害」を理由に切り続けるでしょうし、IWC脱退で中立の立場の国際監視員を受け入れる義務もなし。
 そもそも遠洋マグロ漁業についても、IUUを完全に排除する監視制度が不十分なことがNGOからは指摘されているところですが。
 日本の捕鯨産業の過去の行状を振り返れば、ぐるみ違反を含む規制違反は数知れず。
 脱退でIWCの規制を外れ、誰も見張る者がいなければ、それこそ一体何をしでかすかわかったものではありません。
 そこで出番となるのがご存知シーシェパード。
 あるいは、南極海ではなく日本近海、EEZの境界付近でプロレスが始まる可能性もなきにしもあらず。
 もちろん、その場合は海上保安庁、あるいは海上自衛隊が対応することになるでしょう。商業捕鯨船の護衛という新たな任務が課せられ、国庫負担が増えることでしょう。
 捕鯨サークル的には、ネトウヨ応援団がかつてなく盛り上がり、鯨肉需要もほんのちょっぴり喚起できるかもしれませんが。
 しかし、人命に関わるようなトラブルが発生する懸念も捨てきれず。日本に対してはさらに厳しい目が向けられるでしょう。
 クジラにとってはもちろん、日本の国益にとっていいことはひとつもありません。

   ◇   ◇   ◇

 最後に──
 拙ファンタジー小説『クジラたちの海』では、南極海は主鯨公のクロミンククジラ族・クレアたちクジラの楽園として描かれています。
 そして、続編『クジラたちの海─the next age─』では、辺野古のアマモの森はたった3頭の生き残りとなった〈ザンの郡〉のジュゴン族・イオのかけがえのな故郷として。
 クジラたちの楽園には、これでやっと平和が訪れたことになるのかもしれません(まだ安心できない要素も残っていますが・・)。
 しかし、イオたちの故郷に土砂が投入され、おぞましい赤土の色に浸食されていく様は、あまりに胸の痛むものでした。

 ビジョンもなく、採算が採れるはずなどないのに、意地で決定された国際機関脱退と母船式商業捕鯨の再開。
 当分護岸工事に着手できないにもかかわらず、県民投票前に見せしめで土砂が投じられた辺野古の海。

 自制のきかない日本という国の暗澹たる未来を暗示するようで、筆者は新年を喜ぶ気になれません。

 願わくば、南極海の野生動物たちに永遠の平和を。そして、辺野古の美しい海にも再び平和が取り戻せる日がきますように──。

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『クジラたちの海』
『クジラたちの海─the next age─』


 ついでにポーズとる王子。拾ったときはあんなにチビチビだったのに、すっかり青年の顔になりました・・

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