2018年10月18日

「さらばIWC! 捕鯨ニッポン堂々退場ス」!? 江島議員発言の真意は?

 9月の国際捕鯨委員会(IWC)フロリアノポリス総会、10月のワシントン条約常設委員会(CITES-SC)ソチ会合と、ボロ負けが続いた捕鯨ニッポン。
 IWC総会で日本提案が否決された直後、政府代表として出席した公明党谷合農水副大臣は「あらゆるオプションを検討する」と表明。脱退への含みを残しつつも、一方で「IWCの可能性を信じ、引き続き様々な形で協力していく」とも発言。かつて国際連盟脱退時に松岡洋右全権代表がぶったパフォーマンスほど内外の受けは芳しくありませんでした。
 その理由は歯切れの悪さのみならず、脱退を示唆したのが今回が初めてではなかったからです。つまり、「またか」と真剣に取り合われなかったわけです。
 日本がこれまで繰り返し掲げてきたIWC脱退フラグ≠ィよび脱退した場合どういうことになるかについては、環境・漁業政策に通じたおなじみ早大客員准教授真田氏が非常にわかりやすく解説してくれていますので、そちらをご参照。

■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案|真田康弘のブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15

 ところが……CITES-SC会合が終わってまだ日も浅い10月15日、IWC脱退の是非をめぐる新たな情報が飛び込んできました。

■「IWC脱退すべき」江島参院議員、下関で総会の報告 (10/15, 山口)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2018/1015/1.html
■IWC脱退を強調 江島参院議員、捕鯨再開へ持論 (10/16, みなと)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/84737
■江島参院議員「IWC脱退」を主張 「国内の産業守るため」 対応など不安の声も 総会報告会(10/16, 毎日山口版)
https://mainichi.jp/articles/20181016/ddl/k35/020/315000c
■自民の捕鯨議連、IWC脱退意向 下関、幹部ら総会報告 (10/16, 朝日山口版)

 注目すべきは、発言したのが江島議員であること、場所が下関であること、そしてその内容
 まず、江島参院議員は自民党捕鯨議員連盟の副幹事長にして同党水産部会長。ただ名前を貸しているだけではなく、積極的に実務をこなしてきた筋金入りの捕鯨族議員。ブラジルまで乗り込んだり(自民党国会議員は江島氏、浜田氏、鶴保氏の3名)、昨年他の重要懸案を差し置いてあっという間に成立した美味い刺身*@(調査捕鯨実施法)の立案に携わった中心人物でもあります。
 そしてもう1つ。いわゆる捕鯨族議員には、沿岸捕鯨地である北海道・和歌山等の地元選出議員と、国が実施する公海調査捕鯨の業界方面とよりつながりが深い議員と2タイプありますが、参院山口選挙区選出の江島議員は後者。元大手捕鯨会社大洋のお膝元であり、捕鯨母船日新丸の母港誘致化を国に積極的に働きかけてきた下関市の元市長でもあります。それも、2002年のIWC下関総会当時の在職。
 ゴミため掲示板で純外野の反反捕鯨狂人が江島氏をしきりに攻撃しているようですが、同氏が最も業界事情に通じ、また捕鯨サークルのために最も汗水流してきた国会議員であることは論を待ちません。
 その江島氏が一連の発言をしたことは、非常に意味深といえます。
 以下は上掲各紙が報じた江島議員の発言のうち注目箇所(引用)。それ以外のIWC批判の部分は特に目新しいものではなし。

「南極海は諦めなければならないので、通年で北半球で操業するようになるだろう」
「自民党としては脱退するつもりでいる」
「年内に脱退を通告すれば、来年6月末に脱退できる」
「調査捕鯨すら次どうなるか分からない。日本が堂々とIWCを脱退し、商業捕鯨を再開する機会は今だ」

 正直、筆者は一瞬目を疑ったほどです。
 南極海捕鯨が不可になるのは国際法規上当然の帰結であり、「オプションを精査」するまでもなく、とっくに知られていたことでした。これまで捕鯨サークルに近い筋から発せられてきた脱退論は、国民に対してその事実を伏せたまま説かれていたわけです。外野のそれは単に無知なだけですけど。
 ところが、今回は捕鯨サークルに最も近いところにいる自民党議員の口からじかに「南極海は諦めなければならない」との言葉が飛び出したのです。
 美味い刺身法$R議中、自由党山本太郎参院議員が反対質問の中で南極海からの撤退を促したことはありましたが、賛成派の国会議員が南極海捕鯨断念に言及したのは初めてのこと。具体的なスケジュールが上ったのもやはり初めて。
 さて、ハッタリとは何でしょうか? それは交渉を有利に進めるために相手を惑わす見せかけの言動。その気もない嘘をつくことで何らかの成果を得ることを目的としているわけです。
 例えば、沖縄県知事選挙で米軍基地の県外移設を訴えて有権者を安心させ、当選してから態度を翻した仲井眞元知事の手口などがそれに当たるでしょう。
 しかし、今回の江島発言がもしハッタリだとすれば、誘導する対象は誰なのでしょう? 国内向けか、それとも国外向けか。捕鯨賛成派なのか、あるいは反対派なのか。
 捕鯨推進派の従来のハッタリは、確かに二重の意図を含んでいました。
 ひとつは、対立を演出することで保守的な国内シンパの煽情的な支持をとりつけるため。まさに文字通りのハッタリ。もうひとつは、IWCでちらつかせることで反捕鯨国の譲歩を引き出すため。前述のとおり、無駄に繰り返したことや、実際に沿岸と公海のバーター提案があっても肝心の日本側が応じなかったこともあり、こちらは効果がなかったわけですが。
 しかし、よりによって地元の下関市で、それも「南極海調査捕鯨支援の会」主催の報告会で、不安をそそるだけのハッタリをかますことが、江島議員にとって、あるいは自民党にとってどんなメリットがあるというのでしょう? 報告会参加者の口にした「不安」に対しても、江島氏は「再開する機会は今しかない」と言葉を濁すのみで、考え直す姿勢は見受けられませんでした。
 単に国内の反応を推し量るための観測気球≠ニいうわけでもなさそうです。
 なぜなら、江島氏は「党ではなく、あくまで私自身の私見だが」と前置きもしませんでした。それどころか、上掲のとおり、脱退は自民党/捕鯨議連としての総意である旨発言したのです。 
 もし観測気球≠打ち上げるのであれば、「地元の沿岸捕鯨を守るため」という言い訳も立つ、野党の徳永議員辺りにその役を押し付けるでしょうね・・。
 外交上のブラフ、すなわちIWCの反捕鯨国に対する牽制の意味はどうでしょうか? オーストラリアやブエノスアイレスグループを慌てふためかせ、思い切った譲歩を引き出す作戦??
 それも考えにくいことです。
 なぜなら、交渉の場がないからです。
 次回のIWC総会は2020年。谷合副大臣の発言の趣旨に則り、2年後の総会の場で「オプションを精査した結果、わが国としてはやはり脱退しかないとの結論に至りました。それで(もう本当に妥協の余地はゼロだという理解で)いいですね?」と反対陣営に迫るのが、正しいハッタリのかまし方≠ニいえるでしょう。
 ところが、江島氏の示したスケジュールに従えば、肝心のIWCの場で加盟各国と折衝する暇もなく、バタバタと勝手に脱退することになってしまいます。
 カードを切る前に、ターンが回ってくる前に、席を立ったまま勝負を投げ出して帰ってこないというパターン。
 これではまったく外交カードとしての意味をなしません。
 一部報道や、公明党の捕鯨族議員横山氏のブログ上の発言などから、対ユネスコライクな兵糧攻め=A分担金減額作戦も「オプション」には含まれていたようですが、このカードを使う間もなし。
 おそらく、全額未払だと投票権を失うだけでメリットがなく、結局効果が見込めない。それならやめても同じこと──という判断なのでしょうが。

 これまでの、ただ騒ぎ立てるだけに留まっていた脱退ムードと明らかに違うのは、江島氏の下関報告会の前に開かれた自民党捕鯨議連の報道からもうかがえます。

■IWC脱退論が噴出 反捕鯨国の強硬姿勢に自民党捕鯨議連 (10/9, みなと)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/today
■「IWC脱退含め見直しを」 自民会合、商業捕鯨めぐり議論 (10/6, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13711404.html

 捕鯨議連最古参の1人である鈴木俊一会長が、過去の脱退検討時には外務省と官邸が非協力的だったと内幕を明かした一方、会合に出席した外務省幹部も歩調を合わせて「党と政府一体で対応する」と積極姿勢を見せており、頓挫してきた今までとは違うぞ、今度こそ前進させるんだ、との姿勢を誇示しています。
 ICJ判決の前、水産庁が老朽化した日新丸の改修のために1年の休漁を検討した際、「けしからん」と官僚を叱りつけ、乗員をリスクにさらし調査期間を遅らせてでも突貫で改修工事をやらせて出漁させた、泣く子も黙る自民党捕鯨議連が、本気度を見せつけたわけです。

 あるいは、江島議員の発言の裏には、ハッタリをかます余裕などないほどの、もっと重大な裏事情があるのかもしれません。
 美味い刺身*@の成立を受け、今年度には老朽化した日新丸に替わる代替捕鯨母船の調達の検討のための予算が組まれました。そのとき、鯨研関係者が、夏季の運用を念頭に置いた漁業資源調査兼用の多目的船に言及しています。イワシクジラ調査捕鯨がCITES違反により出来なくなる可能性が高いことは、この時点ですでに認識されていたわけです。
 裏作≠フ主力・北太平洋イワシクジラの捕獲が不可能になったことで、公海調査捕鯨はそれを支えていた二本柱の1つを失ったわけです。
 不採算事業の公海調査捕鯨を多額の財政出動により何とかここまで延命させてきたものの、ついに限界に来たということでしょう。このうえ、莫大な経費がかかる母船新造に加え、失うイワシ鯨肉収入分を毎年公費で補填するやり方では到底もたないと。
 そのことを強く示唆しているのが、江島議員の「調査捕鯨すら次どうなるか分からない」との発言。これは必ずしも法的にという意味ではなく、裏作≠ェ不可能になって調査捕鯨の運用体制が持続″「難になったという趣意に違いありません。(古参の議員たちがその辺をちゃんと理解できているかはやや心もとないですけど・・)
 そしてもうひとつ。前回の記事でお伝えした、CITES-SCの裁定を受けた後の日本捕鯨協会の「自分たちは国際条約に違反していない!」との、現実を受け止められない、悲鳴に近い嘆き節がすべてを物語っているのかもしれません──。
 復興予算流用、儲かる漁業、ICJ判決無視のための国連受諾宣言更新、刺身新法と、これまで可能な限りの手を尽くしてくれた大恩ある自民党議連の江島氏に「調査捕鯨の先も見通せない」「南極はあきらめるしかない」とここまではっきり言われてしまうと、頼りきってきた共同船舶/鯨研/捕鯨協会としても、さすがに黙り込むしかないのでしょう。
 脱退を決断した折には、共同船舶の上役はともかく、日新丸の乗組員の皆さんへの補償・転業支援のための予算をきちんと組んで欲しいもの。これまで捕鯨対策予算を下回っていた漁業全体の資源管理・調査予算が新年度からようやく上乗せされましたが、調査船を使った事業を拡大することで、再雇用先を創出し、日本の水産業の発展に真に貢献してもらうことも可能なのではないでしょうか。

 筆者自身は今までになく現実味を帯びていそうな感触を持っていますが、もちろん今回の「脱退」がブラフである可能性も依然として残っています。
 ブラフというより、目指しはしたものの、スケジュール的に来年6月までには間に合わないという場合もあるでしょう。
 公海母船式捕鯨を断念するとしても、国連海洋法条約の縛りがあるため、沿岸・EEZで商業捕鯨を再開するためには、ノルウェーやアイスランドが組織したNAMMCO(北大西洋海産哺乳動物委員会)の北太平洋版に相当する新たな国際管理機関を立ち上げる必要があります。
 北太平洋での国際管理機関となれば、最低でもロシア・韓国(捕鯨支持ながら総会で日本提案を棄権)、中国(同じく欠席)、そして米国やカナダの合意を得て、6月までに協定を結ぶことができるかが鍵になるでしょう。
 同海域で曲がりなりにも商業捕鯨の対象となり得るのは、先のIWC総会で捕獲枠ゼロ解除を要求したミンククジラくらい。その捕獲枠は、やはり日本自身が前々回の総会で提示した「太平洋岸で17頭」ということになるでしょう。さすがに脱退したからといって、口うるさく唱えてきた科学≠フ錦の御旗を引っ込め、チューニングして割り増しというわけにはいかないでしょうしね。
 それも、江島氏いわく「捕鯨文化を守るためには致し方ない」こと。
 まあ、捕鯨業者の中にも、再開の念願さえかなえばそれでいいと思っているところもありそうですし。

 一方、IWCはどうなるでしょうか?
 日本の財政負担がなくなることで空中分解、消滅の危機!?
 いや、たぶんそうはならないはず。
 EUと英国、ユネスコや国連万国郵便連合と米国も何やらすったもんだしていますが、EUやユネスコ以上に大きなダメージを受けることはないでしょう。
 日本の調査捕鯨のせいでこれまで余計な負担を強いられていた部分もあるのですし。
 POWER(日本とIWC共同の北太平洋鯨類目視調査)をどうするといった問題もありますし、日本の声かけで入っただけの支持国の間では混乱は否めないでしょうが。

 そうはいっても、筆者としては日本が引き続きIWCに留まり、あるいは脱退したとしても早期に再加盟して、国際貢献し続けてくれることを願ってやみません。環境省とウォッチング業界・自治体の横断組織にバトンタッチしてもらったうえで。水産庁も一緒に残ったほうがいいでしょうが、捕鯨セクション以外で・・。
日本はいまや座間味、小笠原、知床等全国各地で、ハワイやフロリアノポリスに負けず、ホエール・ウォッチングが盛況なWW大国の1つ。IWCで持続的なWWのノウハウを提供し、共有することができるはずです。
 そしてもう1つ。この前のIWC総会では「生態系において鯨類の果たす役割を解明する作業を推進する」決議が可決されました。残念ながら、日本はこの決議にも反対する非科学的な態度を示してしまったのですが。非消費的利用による直接的な恩恵のみならず、鯨類は炭素固定、低緯度や表層海域への栄養塩類供給による生産力向上等の形で多くの生態系サービスをもたらしてくれます。気候変動、プラスチック・有機塩素・重金属汚染、音響・船舶交通の増加等、鯨類を取り巻く海洋環境の悪化に適切に対処し、保全することは、漁業を含む人類の福利に必ず貢献するはずです。
 昔から、八戸や三崎や高知など各地で、クジラは魚を追い込んでくれたり、魚群の居場所を知らせてくれる恵比寿様として大切にされてきました。巷でもてはやされるクジラ食害論に科学的根拠はありませんが、クジラを大事にすることが漁業にとっても恩恵をもたらすことには、きちんとした科学的な裏付けがあるのです。
 表層の浮き魚を中心にした海面漁業の対象種には、魚種交代のメカニズムが働き、漁獲量が極端に乱高下して安定しない、食糧生産・漁業経営の面からは困った性質があります。実は、その時々に多い魚種を摂餌するクジラは、魚種交代の変動の振幅を緩やかにし、豊漁貧乏になったり、減りすぎるのを抑制してくれるのです。
 以下の図は魚種交代のシミュレーションにクジラ(選択的に摂餌する捕食者)の存在を加えた結果(わかりやすくするために効果を少々オーバーに見せています)。
benefit1.png
oomachigai.png
 元ネタはこちら。

■生態学第14回「魚種交替現象」(2001年9月20日)
http://minato.sip21c.org/oldlec/ecology_p14.html

 日本の捕鯨賛成派からはクジラを過保護に守りすぎと揶揄されるオーストラリア、ニュージーランド、米国等反捕鯨国の方が、せっせとクジラを殺している日本より海が豊かなのが何よりの証拠。
 IWCに残り、各国からクジラの保全について学ぶことは、乱獲の果てに疲弊しきっている日本の漁業を持続的に上向かせるためのヒントをきっともたらしてくれることでしょう。
posted by カメクジラネコ at 19:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系