2018年08月26日

トンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏はクジラよりカラスがお嫌い?−2


◇日本の調査捕鯨は国際法違反!! CITES公海イワシクジラ持込問題、いよいよ王手!

 昨年取り沙汰された北西太平洋調査捕鯨のワシントン条約(CITES)規則違反問題について、日本での聞き取り調査等を行っていた同事務局が調査報告書を公表しました。
 後は常設委員会の判断次第ですが、鯨肉・脂が科学研究目的ではなく「商業目的」で用いられていることは明らかとし、常設委員会が目をつぶらない限り、公海からのイワシクジラ持込はCITES規約に違反しているとはっきり認定しています。
 日本の調査捕鯨の国際法違反(2例目)確定にいよいよ王手がかかった状態!
 詳細は真田先生の解説をご参照。

■ワシントン条約事務局、イワシクジラの水揚げが条約規定に反するとの報告書を発表|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ


◇究極の生物音痴・トンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏はクジラよりカラスがお嫌い?(その2)

 前回の続き。元記事のリンクは以下。

■クジラの情報 正しく伝えたいと研究者が「鯨塾」を開催(八木景子|ヤフーニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/keikoyagi/20180717-00089302/
■封じ込められてきた鯨の情報 正しく伝えたいと研究者が「鯨塾」を開催(同アーカイブ)
http://archive.is/xmAr2

 さっそく八木氏本人の持論の検証にかかりましょう。引用強調箇所は筆者。

これまで、捕鯨についての正しい情報が一般民間人にあまり伝わってこなかった。
過激な行動をとる活動家への拒否感から、多くの企業やマスコミがこの問題を避けてきたと関係者はいう。その所為もあって、捕鯨関係者と一般民間人の間には明らかに捕鯨に関する情報の溝が広がっていった。その傍ら欧米、特にアメリカではイルカ・鯨に関するテレビや映画が70年代から急速に量産されてきている。2010年に米国のアカデミー賞を受賞した『ザ・コーヴ』という和歌山県・太地町のイルカ漁を批判した映画そのうちの1つであり反捕鯨家の多くが現地へ押し寄せるきっかけにもなった。(引用)

 「一般市民」ではなく、政府機関職員や軍人と対置される「一般民間人」と表現してしまう辺り、捕鯨産業を特殊視する八木氏の認識がにじみ出ていますね。捕鯨サークル関係者は一般民間人とは別格の特殊階級鯨界人で、自分もそちら側に含まれるという認識なのでしょう。
 「関係者」とは、ズバリ利害当事者であるところの捕鯨サークル関係者。まあ、十中八九捕鯨協会でしょう。
 ここに書かれている赤字の部分は、全部八木氏個人の主観です。「そういうことにしておいてほしい」という利害関係者の言うことを鵜呑みにしたうえでの。
 そして、全部デタラメ
 梅崎氏/捕鯨協会が八木氏をどのように誘導しているかが伺える点で非常に興味深いのですが。
 以下、その証拠を、梅崎氏がPRコンサルタントとしてクライアントの日本捕鯨協会に宛てたレポート『捕鯨問題に関する国内世論の喚起』(『日本PR年鑑』1983年版収録)から引用しましょう。

それにも拘らず、政府が捕鯨の維持、存続の方針を変えないのはなぜか。その大きなバックボーンとなっているのが、強固な国内世論である。“クジラ戦争”が激化するにつれて、「捕鯨中止の理由は筋が通らない。不当な圧力をはねのけて、日本人の伝統的な食習慣を守れ」との主張は強まる一方である。本稿においては、捕鯨存続のための国内世論をいかにして形成してきたか、について述べてみたい。(引用)

 おやおや・・八木氏の主張(ないし関係者の主張)とまるっっきり違うことが書かれてますね・・。1983年の時点で、政府の強硬な捕鯨推進政策を正当化するだけの強固な国内世論≠ェ形成され、ますます強まっていたそうですよ?

1974年1月、日本捕鯨協会内に、プロジェクト・チームが置かれた。「捕鯨問題対策協議会」という名のもとに、大洋漁業、日本水産、極洋三社の各捕鯨部から一人ずつ、それに日本捕鯨、日東捕鯨からそれぞれ一人、合わせて五人のメンバーが加わった。国際PRが起用されたのは同年3月であった。これより1ヵ月前に、国際PR・カナダの社長、ディーン・ミラーから、東京に手紙が届いていた。グリーンピースの動きを伝え、効果的なPR活動の必要性を指摘した内容だった。われわれはこれを参考にPRプロポーザルを作成、「捕鯨問題対策協議会」に提出した。これが先方のニーズとぴたり合い、契約締結となった。捕鯨については孤立無援の日本の主張を背負い、国際世論の荒波へ出航したのである。(引用)

 この後国際PRは米・加・英の3拠点でPR活動を展開しますが、惨憺たる失敗に終わります。そこで方針を転換、国内でのPR活動に全力投入することになったわけです。

日本共同捕鯨の設立によって、捕鯨協会の事務局も同社内に移された。それ以降のPR活動は、捕鯨協会の名のもとに、実質的には共同捕鯨によって実施されることになった。日本の捕鯨の維持、存続を計るためには、どのようなPR活動が有効か。クライアントの担当者と検討した項目の中で、全員が再優先の印をつけたのが、国内の世論固めだった。ふたつの戦術を練った。ひとつは論説委員対策、もうひとつはオピニオン・リーダーのグループ化である。(中略)農林水産担当の論説委員は捕鯨の実態や資源管理の実状には明るい。IWCが厳しい資源診断のもとに、増加頭数以下の捕鯨枠を決めている点や、資源減少の恐れがないのに、日本が捕鯨をやめる理由はない点を訴えたところで、全面的な同意は得られなかった。一般の日本人が日常口にすることのなくなった鯨肉を、国をあげてまで守る必要があるのか、という疑問が浮かぶのだろう。(引用)

 マスコミ内で最も事情に通じていたはずの論説委員が当初捕鯨業界サイドの主張に真剣に取り合わなかったのは、決して「過激な行動をとる活動家への拒否感」が理由ではなかったわけです。いやはや、顧客向けの報告書の中での梅崎氏は本当に清々しいほど正直ですねぇ・・。
 付け加えるなら、当事者である元捕鯨会社大手が将来の商業捕鯨への参入を明確に否定したり、以前新母船建造話が持ち上がったときに造船業界が二の足を踏んだのは、国際的に事業を展開しているこれらの企業が消費者や株主に敬遠されるなどビジネスに差し障ることを避けたがったためと考えるのが合理的。
 マスコミに関して言えば、例えば中東の紛争地域に入り込んで取材するとなれば、過激派に命を狙われる危険を考慮せねばならず、現に今も1人日本人ジャーナリストの方が拘束されているわけです。北朝鮮や中国チベット地方等での報道も、相手はテロリストではなく専制主義国家ですが、それに近いリスクがあるといえるでしょう。そのおかげで、中東のような地域で何が起こっているか、日本の一般市民はなかなか情報を得にくいわけです。「身の危険を感じること」と拒否感とではニュアンスがまったく異なりますが。
 NGOの捕鯨反対キャンペーンに対する拒否感からマスコミが捕鯨問題の報道を避けた? 反捕鯨団体は本物のテロリスト≠竦齔ァ国家以上に報道機関の活動を制限すると言いたいのでしょうか?
 沖縄についてはどうでしょうか。辺野古米軍基地移設問題では、海上保安庁や県警・機動隊から暴力的な扱いを受けながらも、反対派の市民が海上デモなどで体を張って必死に抵抗している状況。まあ確かに、地元紙といわゆる本土のマスコミとの間では、基地問題をめぐる報道の質・量に温度差があるように感じます。本土のマスコミの取り扱いが小さいのは、過激な活動家に対する拒否感で説明できることなのでしょうか?
 ジャーナリストの鈴木智彦氏は長年ヤクザの世界を取材し続け、ウナギの密輸・密猟と裏社会との関わりを暴いて一般市民に情報をもたらしてくれましたが、反捕鯨活動家への拒否感は強面のヤクザより圧倒的に上だと八木氏は言いたいのでしょうか?
 バカも休み休み言えです。それこそジャーナリズムに対する侮辱であり、冒涜というものでしょう。NGO活動に対してもですが。
 それにしても、嫌悪感・アレルギーに類する感覚の拒否感という独特の言葉遣いがいかにも八木氏らしいですね。関係者(まず捕鯨協会)はきっと別の単語を使ったでしょうけど。
 事実は梅崎レポートに書かれているとおり。日本のマスコミは彼の撒いた陰謀論という餌≠ノ見事に引っかかり、「強固な国内世論」の醸成に大きな役割を果たしたのです。
 拒否感なる個人的感情に縛られるようでは、企業もメディアも成り立ちゃしませんものね・・。

われわれは論説委員、解説委員に対する緊密なコンタクトと、キメ細かな情報の提供がパブリシティの成功のすべてとは考えていない。(中略)
クジラに対する特別の愛着心をなぜ断ち切らねばならないのか。それも不純な仕掛け、筋の通らない言いがかりによって・・。ジャーナリスト特有の正義感、公正な判断基準、反抗精神を発揮する場を、われわれは提供したに過ぎないのである。(中略)
初会合は77年3月10日に開かれた。クジラ好きの人たちばかりであったため、種々のクジラ料理を用意した。「捕鯨懇」の運営で、われわれがもっとも留意した点は、捕鯨協会の応援グループではなく、自主的な、独立した機関という性格を持たせることであった。(中略)
捕鯨懇は79年11月までに7回の会合を開いた。当初、捕鯨問題に関しては漠然とした知識しかなかった各メンバーは、いまやこの問題の専門家である。(中略)
各分野で活躍するメンバーは、それぞれの立場で、自主的にパブリシティ活動を実施している。(中略)
捕鯨懇はいまや業界にとっては百万の味方といえよう。79年11月の会合では、年2〜3回の頻度では少ないので、もっと会合の回数をふやすことを申し合わせた。そして「外国とケンカできるのはわれわれしかいない」との発言も出た。捕鯨懇の存在で、政府は捕鯨問題を軽視できなくなることは確かである。メンバーに対する“お返し”は会合のたびに、鯨肉のおみやげと若干の交通費を渡すだけである。時間と智恵を商品とする文化人が、なぜこれほど打ち込んでくれるのか。われわれは不思議に思う。ただ、“クジラは大きくて深い存在”という感慨をかみしめているだけである。(引用)

 もうおわかりでしょう。モラトリアム成立当時に発足し、高齢化した「捕鯨懇親会」に代わる、新世代の広告塔として白羽の矢を立てられた人物こそ、新宿の鯨肉居酒屋で梅崎氏が発掘した監督志望の映画業界人・八木景子氏に他ならなかったわけです。
 当時の捕鯨懇と同じように、「外国とケンカできるのは私しかいない!」とばかり、鯨肉嗜好と欧米へのルサンチマンだけで精力的に動いてくれる人材。
 前世紀の懇親会で声をかけ集まったのは、すでに高い知名度の確立した文化人・著名人でしたが、無名の新人映画監督ではあっても強烈なキャラを武器にあることないこと拡散してしまえる八木氏は、むしろ21世紀・インターネット時代の広告塔としてうってつけだったといえるでしょう。
 捕鯨協会/国際PRは、一方的で歪んだ情報をマスコミ・著名人を通じて国民に植え付けたのですから、一般人が「正しい情報」に接する機会は確かに少なかったといえます。ただし、「伝わってこなかった」のではなく、意図的に正しくない情報を流したわけです。この点に関しては、環境保護団体側も日本国内での啓発活動がうまく実を結んでいなかったのも事実ですが。
 梅崎氏の果たした役割、参加メンバーの顔触れを含む捕鯨問題懇親会の詳細については以下の解説をご参照。

■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史 その4:モラトリアム発効と「国際ピーアール」の陰謀
http://www.kkneko.com/aa4.htm

 そして後半の、欧米でイルカ・鯨に関するテレビや映画が「70年代から」「2010年」にかけて「急速に量産」されたという部分ですが、他の環境・野生動物を扱ったコンテンツと比較して鯨類モノ≠ェ突出して多いことを示す(社会)科学的データはありません。また、前回ほんの一部をご紹介したとおり、鯨類モノ≠フ多くは海洋環境問題(捕鯨だけでなく)をきちんと取り上げています。
 ここも八木氏個人の感想=B「急速に量産」って、B級ホラー人食いザメ映画じゃあるまいにねぇ・・。
 むしろ日本国内では、捕鯨懇の成立・梅崎氏自身の著した陰謀本発刊以降、多数の捕鯨擁護コンテンツが量産≠ウれており、4年前に八木氏が突然目覚めるまでの間も、捕鯨サークルにとって都合のいい一方的な情報を国民にインプットする役割を担ってきたのです。こちらもその一部を以下にご紹介。

■捕鯨カルチャーDB
http://www.kkneko.com/culturedb.htm

日本の捕鯨ばかりが海外から残虐だと言われるが、近年注目されている鯨類へのダメージの要因をあげるならば、海中のプラスチックゴミ、漁具による混獲、商業船との衝突、そして音によるストレスで脳や耳に出血までさせてしまう海軍のソナーテストによる甚大な被害を無視出来ないしかし、これらは報道されたり、映画化されたりなど、メディアに取り上げられることが極端に少なく、あたかも日本の捕鯨だけがイルカ・鯨を減らしているというイメージ操作がメディアや反捕鯨活動家によって行なわれ続けている。
日本からの情報発信には言葉の壁を乗り越える事、そしてメディアがこの問題をしっかりと報じてくれるか、が鍵となっている。(引用)

 上掲の八木氏の主張を、ホシナ氏の論説や一般の方のツイートを含め、筆者が前回青字で示した部分とぜひ読み比べてみてください。まるでどちらかが地球外の別世界の出来事ででもあるかのようですね・・。
 「本当に海洋資源を守ることをうたうのならば、マリンデブリ問題も日本が主導するべきでは」というホシナ氏の諌言も、八木氏の心には届かないでしょう。確かに日本人としては大変耳の痛いことですが。柏ニャンニャウェーさんの「海洋プラスチックゴミには目をつぶる一方で、これは引くわ」という感想ツイートにも、八木氏は露ほどの共感も覚えないことでしょう。「私が言いたいのはそんなことじゃない。あなたの考え方はおかしいし、話にならないから無駄」とただ頭ごなしに怒鳴るだけでしょう。実際に京大シンポジウムで参加者の方にそのような応対をしてしまったように。
 きわめて残念なことに、ホシナ氏のように「プラスチック規制・海洋環境悪化への取組で反捕鯨国に大きく遅れを取っているようでは(捕鯨を続けるうえでも)困る!」「なぜG7憲章への署名に拒否したのか!? 捕鯨国だからこそリードすべきではなかったのか!?」と、日本政府を問い質すことすら八木氏にはできないのです。あるいは、「どうせ報道されることが極端に少ないに違いない」と頭から決め付け、G7でプラスチックごみ問題が協議されたニュースも右から左へ聞き流したか、関心がなくニュースそのものさえ知らなかったかもしれませんが。
 自分にとって都合の悪い情報は完璧にシャットアウトできる、ずいぶん便利な目と脳ミソをお持ちなご様子──。
 あえて言うなら、上の主張は八木氏が自身の脳内で作り上げたファンタジーの世界の出来事。
 現実の世界の出来事と一致しているのは、「近年注目されている」の部分だけ。注目されるようになったのはもちろん、研究者および協力関係にあるNGOの努力の賜物ですが。
 「注目され」てるのに「メディアで取り上げられることが極端に少ない」とか、同じ一文の中でここまで矛盾した支離滅裂なことが言えるのもたいしたものですけど・・00。
 「残虐なのは日本の捕鯨だけだ」「クジラを減らしているのは日本の捕鯨だけだ」などと唱えているNGOは世界で1つもありません。あのシーシェパード(SSCS)を含め。前回解説したとおり、乱獲と悪質な規制違反の歴史を持ちトータルの捕殺数で2位に立った捕鯨大国であり、1位のノルウェーと違って南北両半球で捕鯨を続けていること、飽食の限りを尽くす先進国であることから、日本への風当りが強くなるのは当然といえますが。
 そんなことを言っているのは、八木氏が脳内ででっち上げたバーチャル反捕鯨団体だけ。
 前回筆者がごく一部を紹介したとおり、プラスチックごみをはじめとする海の環境問題をテーマとする映画やTV番組は、他の環境問題・野生生物保護問題を取り上げたドキュメンタリーに比べて特に多いわけでも少ないわけでもありませんが、たくさん作られています。だからこそ注目≠ウれ、市民がNGOを通じて行政に声を上げ、反捕鯨先進各国で具体的な規制が進められるようになったのです。エコ嫌いのトランプは捕鯨ニッポンと一緒に足を引っ張ってますけど・・。
 付け加えれば、マイクロプラスチックが話題になったのは確かに近年ですが、一連の問題は前世紀のうちからGPをはじめとするNGOと研究者たちがずっと警鐘を鳴らし続けてきたことばかりです。日本の責任も大きい「漁具による混獲」問題に関して言えば、1992年に国連で公海大型流し網の禁止が実現したのは、「ウミガメ・海鳥・クジラたちを守れ」という捕鯨モラトリアム支持と同程度に大きな国際世論の後押しがあったからです。八木氏の年代なら知っていていいことのはずですが・・。
 要するに、「『日本の捕鯨だけ≠ェ残虐で、クジラを減らしている』と海外から責められている」いうまったく事実に反するイメージ操作が、日本捕鯨協会・元国際PR梅崎氏・映画監督八木氏・市井の反反捕鯨活動家らによって行なわれ続けているのが真実なのです。
 日本自身の海洋プラスチックごみ対策の後進性をスルーしたこと以上に、八木氏がきわめて陰湿なのは、前回紹介した『ソニック・シー』:反捕鯨活動家£c体のIFAW・NRDCの資金援助で制作され、反捕鯨国を中心に海の環境問題(軍事ソナーの問題を含め)を告発し、エミー賞も受賞したドキュメンタリー映画について一言の言及もなかったこと。
 実はこの『ソニック・シー』、海外で好評を博しただけでなく、日本国内でも今年になって世界自然・野生生物映像祭で上映されています。よりによって八木氏の『ビハインド・ザ・コーヴ』と一緒に・・。

■「ビハインド・ザ・コーヴ」の第13回世界自然・野生生物映像祭出品について
http://www.kkneko.com/jwff.htm

 同映像祭で、八木氏のプロパガンダ映画は「もう1つの視点賞」を受賞(筆者なら「トンデモ大賞」ないし「いろいろザンネンで賞」を差し上げるところですが)。「環境保護賞」を獲ったのは『ソニック・シー』でした。
 八木氏は自作の出品や講演のことで頭がいっぱいで、ノミネートされた他の作品にまったく目がいかなかったのでしょうか?
 どうもそうではなかったようです。

https://www.facebook.com/behindthecove/posts/2018-04-09/1222856614483759/
今回、ノミネートされていたもので特に私が一番気になっていたのは同じく鯨を扱ったディスカバリーチャンネルから出品作品「ソニック・シー:海の不協和音」でした。
この映画では、イルカ・鯨が海軍によるソナーテストや商業船による身体のストレスを証明しています座礁した鯨類をスキャン、脳や耳から出血していることや、2001年9月11日(テロ事件時)に商業船が運行停止時にはストレスがなくなったことを解説されていました。正に「Behind THE COVE」の話を裏付ける内容になっていました。
本映画祭は、圧力に関係なく独自に作品を選んでいるそうで、クジラ問題をこれまでとは違った角度で捉えた作品「ソニック・シー:海の不協和音」(環境保護賞)と並び「Behind THE COVE」に「新しい視点賞」をくださった事は大変光栄であり感謝しています。(引用)

 いやはや、牽強付会なんてレベルじゃありませんね・・。それにしても、八木氏はなぜ、4月にこのFB記事を書いた後、8月にあのヤフーニュース個人記事を書くことが出来てしまうのでしょうか?
 2016年に『ソニック・シー』が公開されたことを知りながら、自作と同じ映画祭に出品され、自身が獲れなかった「環境保護賞」を受賞したことを知りながら、なぜ「映画化されたりなど、メディアに取り上げられることが極端に少なく」「イメージ操作がメディアや反捕鯨活動家≠ノよって行なわれ続けている=vなどと言えてしまうのでしょうか?
 はっきりしているのは、八木氏が(本人の認識しているところでは)自作の内容を裏付け≠トまでくれた『ソニック・シー』の存在を完全に無視・黙殺していることです。
 「『ソニック・シー』はたった1本だが、環境問題に触れない反捕鯨映画はゴマンとあるから、『極端に少ない』でいいんだ」「私の映画の数々の受賞暦に比べたら、エミー賞や世界自然・野生生物映像祭環境保護賞なんて小さい小さい。そんなんじゃ『メディアに取り上げられる』うちに入らない」「IFAW・NRDCなんてきっと弱小団体で、『反捕鯨活動家』のうちのごくごく一握りに決まってる」──そう思ったのでしょうか??
 たとえ他の数多くの欧米発海洋環境ドキュメンタリーの存在を調べる気がなかったとしても、「数少ない例外」という修飾付でも、「これだけは推薦します」といって紹介しますけどね。筆者だったら。礼節を重んじる日本人として。
 八木氏がやるべきは、自画自賛の自作宣伝ではなく、『ソニック・シー』の和訳・国内上映支援、同映画と同じ内容を訴えた著作『War of the Whales』の和訳・国内発行支援、NRDCの対米軍訴訟キャンペーンへの寄付を含む支援の呼びかけではないのでしょうか?
 まあ、「イルカ・鯨が<Xトレスを証明しています」という文章も相当イカレてますが。驚くべき知能の高さですね。反反捕鯨の口にするイルカ狂≠フ中でも、ニンゲンに対してストレスを証明する能力のあるイルカまでいるとは誰も信じてやしないでしょうに。
 FBならまだしも、記事本文も八木氏の文章は主語述語、てにをはがかなりおかしな具合になっています。どうしてこれでプロのクリエーター・映画監督としてやっていけるのか、筆者はいつも不思議に思います(佐々木氏の日本語はほぼ及第点ですけど)。まあ、個人支援企画だからといってきちんと校正しないのはヤフージャパンの責任ですが。
 もう1つの特徴を挙げれば、捕鯨サークル当事者発の一部を除き、八木氏は情報の出所・出典をほとんど明記しません。基本的に、自分の思ったまま、感じたままのことを書き殴っているからでしょうけど。ジャーナリストとしての資質はゼロ。結果として、一方の利害関係者である捕鯨サークル当事者の言うことを鵜呑みにしたうえで、未消化のまま自分の言葉に置き換え、インプットした関係者さえ予想もできないような枝葉≠付け加えてしまうため、見事にトンデモな主張に仕上がってしまうわけです。さらに、収拾がつかないほど裾野を広げて大見得を切っちゃうと。ネトウヨ流人種差別撤廃提案ネタ、「韓国はIWC不参加」、「CITESからクジラを外すのが目標」等の爆弾発言がその典型。
 『ソニック・シー』がディスカバリーチャンネルで公開されたのは2016年のことですが、同作品は2000年にバハマで起こったマスストランディングから鯨類の座礁と人為的な音響妨害の関連を追い続けた、八木氏が太地に押しかける以前から多大な時間と労力をかけて作られた作品です。繰り返しになりますが、監督が何度も謝辞を述べているとおり、反捕鯨団体のIFAW・NRDCからの資金援助がなければ日の目を見ませんでした。音響妨害に関する科学的知見が蓄積していったのは1990年代以降ですが、環境保護団体は以前から船舶交通やソナー(米軍を含め)が鯨類に与える影響を憂慮し続けており、それ故の映画製作タイアップとなったわけです。
 そもそも米国でアクティブソナー中止を求める訴訟が起こったのは2002年のことであり、米海軍を提訴したのは誰あろう『ソニック・シー』をサポートしたNRDC。下級審ではソナー使用の仮差止命令まで出たものの米海軍側が控訴、残念ながら、最高裁では海軍側が勝訴しています。環境/鯨類の「生態学的、科学的、レクリエーション上の価値」とその重要性を認めながらも、野生生物保全への配慮より国防/安全保障上の公益が優先された形。ただし、米海軍は下級審で示された規制の一部を受け入れ、NOAAへの事前申請と環境影響評価提出も義務付けられた他、海産哺乳動物の調査研究に予算を拠出することも約束しています。他の形でソナーの使用中止を求める米海軍に対する提訴はなおも続行中。

■米海軍軍事ソナー訴訟 Winter v. NRDC事件 : 軍事ソナー演習時の環境配慮義務|佐々木浩子・海洋政策研究財団研究員/慶應義塾大学法学研究会
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00224504-20130328-0025

 ある意味では、日本における原発再稼働と活断層の危険性をめぐる訴訟、厚木基地や普天間基地などにおける自衛隊・米軍の航空機による周辺住民の騒音被害、そして何より、先日やはり残念ながら差し戻し審で訴えが棄却されてしまったジュゴン訴訟と通じるものがあります。
 そしてもう1つ。八木氏は証明と言っていますが、気候変動/海洋酸性化、有害物質による汚染、音響妨害等の影響は、現在のレベルの生産・排出等が継続した場合、各種・系統群の死亡率・乳児死亡率・繁殖率がどれだけ下がり、百年後の生息数が何頭になるといった定量的な評価は未だ十分にはできていません。NGO・市民はあくまで「不確実性がある場合は環境/野生生物の利益に」という予防原則≠ノ則って行動しているのです。米海軍や日本の自衛隊は、それより国防上の利益を優先する立場。近代国家といえど死刑制度や軍隊のある国では、ヒトの命さえ絶対的な価値を持つとは言えないわけですが、裁判になれば対立するそれぞれの利益の軽重が斟酌されるのは仕方のないことでしょう。
 軍事ソナー問題に関しては、日本でも八木氏が4年前に突然覚醒する前から、反反捕鯨ネトウヨたちが騒ぎたててきましたが、彼らは米海軍を相手取って法廷闘争を続けるNRDCを寄付などの形で支援するでもなく、ただひたすら日本の捕鯨を正当化するのみでした。そう、まさに「日本だけじゃないのに、なぜ植民地主義や慰安婦問題で日本だけが責められるのか?」と主張するのと同じメンタルで。
 外野の反反捕鯨ネトウヨはともかく、日本捕鯨協会・八木氏らは次のいずれの立場なのかをはっきり明示するべきでしょう。
@国家安全保障上の公益 ≒ 美味い刺身≠フ価値 > 環境・野生生物の生態学的、科学的、レクリエーション上の価値
A美味い刺身≠含む右以外のすべての価値 > 環境・野生生物の生態学的、科学的、レクリエーション上の価値
 筆者個人の価値観は以下ですが。
Bジュゴンやクジラを守ること(環境・野生生物の生態学的、科学的、レクリエーション上の価値) > 武力に頼る″痩ニ安全保障上の公益、美味い刺身≠フ価値

 続いて、注目の超珍説です。

「鯨って絶滅しかけているんじゃないの?だから日本の捕鯨が反対されているんでしょう。」鯨類の生息状況に詳しくない一般民間人の中で、そんな疑問を抱く人は少なくない。実際はどうか、というと答えはNOだ。
鯨という生物は現在86種類以上確認されており、その中でも例えば日本が調査・捕獲している南極海のクロミンク鯨は50万頭以上いることがわかっている。では、なぜ“絶滅の危機にある”というイメージが一人歩きしてしまったのか。事実、戦前・戦後に鯨の中でも一番大きな種類であるシロナガス鯨やザトウ鯨が捕鯨国の乱獲によって絶滅に瀕した時期はあった。その時の強い印象が、いつの間にか鯨種全体の事と捉えられてしまったのであろう。しかし、これは全ての鯨に当てはまる訳ではない。例えるなら、鳥類の中でトキが絶滅しかけているからといって、カラスも同様だと考えるようなものだ。鯨も種類によって少ないものもいれば、豊富なものもいるのだ。(引用)

 特殊階級鯨界人≠フくせに「鯨類の生息状況に詳しくない」八木氏ならではのデタラメ
 「50万頭いるから絶滅危惧種じゃないハズだ」というのは、生物音痴らしい八木氏の思い込みにすぎず、完全な誤り
 個体数はあくまでIUCNの判定基準の1つにすぎません。より重視されるのは減少傾向。
 ミナミイワトビペンギンの個体数は250万羽(2007年)ですが、絶滅危惧種(VU:危急種)。キタオットセイの個体数は129万頭(2014年)ですが、やはり絶滅危惧種(VU:危急種)。ホシチョウザメの個体数は810万尾(2008年)ですが、最もリスクの高い絶滅危惧種(CR:絶滅危惧TA)。ニホンウナギは個体数に換算すればおよそ4,500万尾(2011年)いると考えられますが、それでも絶滅危惧種(EN:絶滅危惧TB)。
 IUCNレッドリストにおけるクロミンククジラのカテゴリーはDD(データ不足)。ただし、これはIWCでIDCR/SOWER(国際鯨類探査十ヵ年計画)の結果をめぐる議論に決着がつく前の判定(2008年)で、IUCNの基準に正しく従うなら、最もリスクの高い絶滅危惧種(CR)に該当することになります。気候変動に対して脆弱なことや、カドミウムの高蓄積と腎障害の発症を示す調査データなどからも、同種は今まさに絶滅に瀕しているといっても決して過言ではないのです。
 八木氏はまた「シロナガス鯨やザトウ鯨が捕鯨国の乱獲によって絶滅に瀕し時期はあっ=vとあたかも過ぎたことのように主張していますが、こういう書き方がまた八木氏の嫌らしいところ。シロナガスクジラは過去形ではなく今現在$笆ナに瀕しています(EN)。八木氏は触れていませんが(これまた嫌らしいことに)、ナガスクジラも同じく絶滅危惧種(EN)。前回解説したとおり、南半球ナガスクジラは1920年比でわずか4%以下に落ち込んだまま。戦後の乱獲五輪でトップに躍りだし、同種を絶滅危惧種に追い込んだ主犯は間違いなく日本の捕鯨業界そのナガスクジラを違法判決の下ったJARPAUで捕獲対象にし、今なお北大西洋から輸入しているのも日本。
 ザトウクジラに関しては、確かに捕獲禁止が早かったこともあり、現在は回復が順調に進んでいるとみられますが、それでも1940年代の半分の水準に達するまでまだ年数がかかると見られています。今日野生生物種の保全を議論する際には種ではなく個体群/系群を対象にするのは常識。同種も紅海・アラビア海系群やオセアニア島嶼系群は絶滅危惧種(EN)に指定されています。ところが、やはりナガスと同じように日本は島嶼系群を含む南半球ザトウクジラを違法なJARPAUで捕獲対象に設定。実際には捕獲せずにオーストラリア・ニュージーランドに対する脅迫カードに使ったわけですが。主に日本の捕鯨による乱獲が原因で減少した北太平洋の系群も、他の海域に比べると回復が遅れています。もっとも、なぜか日本はモラトリアムからこの方調査捕鯨の対象に含めていないのですが。紅海系群やオセアニア島嶼系群のように絶滅危惧種指定を受けているわけではなく、古式捕鯨でも主要な捕獲対象となっていたのに。
 ミンククジラもIUCNではLCの扱いですが、系群単位で見た場合、東シナ海・黄海・日本海系群(Jストック)は過去の乱獲と現在の混獲により、IUCNの基準で正しく判定されれば間違いなく絶滅危惧種(EN)相当。減少が強く疑われる絶滅危惧系群に対し、日本は「どうせ混獲で減っているんだから少しくらいたいしたことはない」という驚くべき言い訳のもと、IWC科学委員会の勧告も無視して捕獲を強行しているのです。日本はまさに絶滅危惧種(系群)を新たな捕鯨のターゲットにしたのです。あろうことにも、NEWREP-NPにおける同種の捕獲枠は、日本が自ら持続可能な捕獲枠として算出し、IWCに提案した17頭をも大幅に上回っているのです。調査捕鯨は規制を回避して乱獲を可能にする裏技以外の何物でもありません。
 さらに、昨年からイルカ猟の新たな対象種として捕獲枠が追加されたシワハイルカは、IUCNレッドリストの正しい基準に従うなら大幅な減少が見られ、ENに相当する絶滅危惧個体群。その他の捕獲対象種も、日本近海の個体群として見た場合はデータ不足ないし絶滅危惧カテゴリーに含まれるものばかり。
 ところが、水産庁は昨年IUCNの判定基準・カテゴリーとは似ても似つかない独自の基準に基づく偽ブランド≠フ海洋生物レッドリストを発表。IUCNで絶滅危惧種にランクされる鯨種もすべて「ランク外」に蹴落とされてしまいました。国内の野生生物保全関係者が特に驚いたのが、各都道府県レッドデータブックで絶滅危惧種にしっかり登録され、広島では天然記念物としても保護されているスナメリ、そしてツチクジラと近縁の新種カラスの扱い。
 つまり、事実は八木氏の主張とまったく逆なのです。海外で「すべての鯨種が(IUCNの基準における意味での)絶滅の危機にある=vと唱える団体・国は存在しませんが、日本という国は「すべての鯨種が絶滅の危機にない=vというIUCNのレッドリスト判定を無視する誤ったイメージを一人歩きさせようと目論んだのです。
 水産庁と御用学者の許しがたいレッドリスト詐欺*竭閧ノついての詳細はこちら。

■徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト
http://www.kkneko.com/redlistj.htm

 いずれにしても、野生生物の絶滅の意味については注意深く見ていく必要があります。
 確かに、70〜80年代当時、商業捕鯨モラトリアムを求める国際世論が盛り上がる中で「クジラを絶滅から救え!」というフレーズがしばしば用いられてきました。今以上にクジラの生態・生息状況に関する情報が乏しく、生物多様性の概念、その保全の意義がまだ浸透していなかった時期です。一方で、旧ソ連や日本による大規模で悪質な密猟もまだ発覚していませんでした。当時IWC科学委員会の科学者たちが全鯨種のモラトリアムに否定的だったのは、乱獲を食い止める実効性を発揮できなかった水産資源学オンリーの立場で、生物多様性保全・生態系サービスの認識が欠如し、密猟・規制違反に関する情報もなかったためです。
 基本的に野生生物はすべて、「絶対絶滅しない」などと断言・保証することはできません。
 IUCNレッドリストでランクが一番低いLC(Least Consern):軽度懸念種(あまり適切な和訳とはいえないのですが)は、将来絶滅する恐れが低いということであり、決してリスクがゼロであることを意味しません。
 気候変動(地球温暖化)や開発、上掲で取り上げた(八木氏自身も取り上げている)化学物質汚染や船舶交通の増加、音響妨害などの要因は、十分な定量的評価ができていないものの、すべての鯨種≠フ生息に影響をもたらし、絶滅リスクを引き上げているのです。
 重要なポイントは2つ。
@日本の捕鯨・イルカ猟対象種ももちろん♀C洋環境悪化の影響を受ける。
A日本の捕鯨・イルカ猟の捕殺による直接的なダメージは、海洋環境悪化によるダメージにさらに付け加えられ、場合によっては掛け合わされる。

■クジラたちを脅かす海の環境破壊
http://www.kkneko.com/osen.htm

 常識がある人なら、@にすぐ思い至るでしょう。ホシナ氏や柏ニャンニャウェーさんのように。
 ところが、八木氏の場合は「甚大な被害を無視出来ない」と言ったそばから、自分で無視することが平気で出来てしまうわけです。

 今日の環境問題においては、複数の要因が互いにどのように作用し合うかを考慮しないわけにいきません。
 日本の小型捕鯨の対象であるツチクジラ、太地等でのイルカ猟の対象であるハンドウイルカやコビレゴンドウ、オキゴンドウ等は人為的な音響妨害にとりわけ敏感です。ヒゲクジラも聴覚が優れているうえに音声によるコミュニケーションに依存する社会性を持つため、やはり音響妨害の影響を受けます。日本はそれらの鯨種に対し、騒音被害(米軍との合同演習等を含む)+捕鯨という二重のダメージを与えているわけです。あるいは騒音被害×捕鯨。
 ミンククジラ、ザトウクジラなどのヒゲクジラが索餌の際に頼りにする硫化ジメチルは、プラスチック片によっても生成されるため、海鳥同様誤食するリスクが非常に高く、有害物質の蓄積による長期的な影響が懸念されます。つまり、日本がやっているのはプラスチックごみ+捕鯨(プラスチックごみ×捕鯨)。G7憲章署名拒否の日本はプラスチックごみの影響もさらに上乗せしたといえますが。
 実は、捕鯨サークルの御用学者らの言い分は、「健康なうちに殺しちゃうんだから考えなくていい」というもの(聞いた一般の皆さんはびっくりするでしょうけど・・)。しかし、もっとも頑健といわれるPBRやRMPも現時点の目視個体数/捕獲数(それも数年・十数年置き)をもとにしたフィードバックでしかありません。しかも、日本やノルウェーは捕獲数を目いっぱい増やせるよう勝手にパラメータをいじっているわけですが。
 有害化学物質の蓄積による影響は表面化するまでに時間がかかり、死亡に至らなくても繁殖率を低下させる形で作用します。また、有害物質を回収するなどしてすでに汚染された海洋を元の状態に復元するのは、陸上・陸水よりはるかに困難です。「気づいたときには手遅れ」ということになりかねません。捕鯨は明らかに、海洋環境悪化に苦しめられる鯨類から、汚染に対する耐性、回復に必要な体力≠ニ時間的猶予を奪っているのです。
 IUCNレッドリストで絶滅危惧種に分類されないからといって安心できない要素はもう1つあります。
 それは、そもそも絶滅のおそれのなかった種を乱獲によって絶滅寸前に追いやり、規制されてもなおその裏をかいて、絶滅危惧の度合を高めてきた捕鯨産業・鯨肉市場の体質にあります。
 以下は、これも少し前の記事ですが、主要な反捕鯨NGOが捕鯨に反対する理由。あくまで捕鯨に対する反対理由であって「食べるな」ではないので、日本語の見出しには問題がありますが。

■英国で活動する環境保護団体の皆様に聞きました「クジラを食べるな」その理由
http://www.news-digest.co.uk/news/features/2020-whaling-antiwhaling.html

 どこも、「すべての鯨種が今現在(IUCNレッドリストにおける意味での)絶滅危惧状態にある」という主張はしていません。そのような主張をしているのは「日本だけ、捕鯨だけが残虐」と同じく、八木氏の脳内にあるバーチャル反捕鯨団体だけ。
 いずれも、日本の捕鯨を許せば「また絶滅に追いやられてしまう」という趣旨。そうした懸念を抱かれるのは実にもっともなこと。
 日本の捕鯨は世界に「まったく信用されていない」のです。持続可能な水産業で先進各国に大きく遅れを取っていることも含め。
 モラトリアム成立後も、日本の捕鯨業界が直接間接に関わった密輸・密猟は後を断ちませんでした。
 捕鯨会社自身が公式報告の数字をごまかしていた事実が発覚した他、日本の大手捕鯨会社の関係者がバイヤーとして関わった海賊捕鯨船は絶滅危惧種のシロナガスまで密猟していました。
 絶滅危惧種として早期に捕獲が禁止されたコククジラ・セミクジラで、密猟された疑いが濃厚な死体が座礁し報告された事例もあります。
 最近でもアイスランドの捕鯨業者がシロナガスとナガスのハイブリッドを捕獲していることが発覚、日本を含む研究者が連名で懸念を表明しました。ハイブリッドと外的特徴の変わらない禁止対象種のシロナガスが誤って捕殺されるリスクはきわめて高いといえます。また、違反の発覚を恐れて投棄による証拠隠滅が図られたことがはたしてなかったかも、甚だ疑わしいところ。
 そして何より、つい4年前まで美味い刺身の安定供給目的で行われ続けていた国際法違反の南極海調査捕鯨。CITES規約違反(現在チェックメイトの段階)の現北西太平洋調査捕鯨──。
 八木氏は次の段落でいけしゃあしゃあと事実を捻じ曲げていますが。
 日本の捕鯨業界を単純に美化し、過去を粉飾する八木氏のような歴史修正主義者が出てくればなおのこと。悪いことは全部外国の所為にしてしまう欺瞞に満ちたプロパガンダ映画『ビハインド・ザ・コーヴ』によって、日本の信用度はさらにガタ落ちしたといえます。以前は河野談話に相当する「もう過去のような乱獲はしません」という反省の弁も聞かれていたのですが・・。
 国際社会が「これなら大丈夫だね」と認められる、これまでのような違法捕鯨のリスクをすべて除去できる完璧な管理システムについて合意することなしに、「商業捕鯨をやらせろ」と要求すること自体、「盗人猛々しい」の一語に尽きるのです。

 続いて、トンチンカン八木節炸裂の件・・やっとここまできましたか・・。もう一度引用し直しましょう。

例えるなら、鳥類の中でトキが絶滅しかけているからといって、カラスも同様だと考えるようなものだ。鯨も種類によって少ないものもいれば、豊富なものもいるのだ。(引用)

 元川元水産庁長官の「美味い刺身≠フ安定供給」も歴史に残る見事なオウンゴール発言でしたが、これまた強烈ですね。
 日本ではクジラ好きよりずっと層の厚い野鳥好きの皆さんは、この一文を見てきっと目を丸くされていることでしょう。ここまでバカな奴がいるのか、と。
 一言でクジラといった場合、一般の日本人の方がイメージとして思い浮かべる種は、セミクジラかマッコウクジラあたりでしょう。最近ではザトウクジラの方が多いでしょうか。食べる方専門の方はミンククジラかもしれませんが・・。イルカならやっぱりハンドウイルカ(バンドウイルカ)でしょうね。
 一言でカラスといった場合、一般の日本人の方がイメージとして思い浮かべる種はハシブトガラスないしハシボソガラスでしょう。小学校中・高学年なら、はっきり種名を言える子もきっと多いに違いありませんが。
 広義・狭義の定義の差はあれど、「クジラ」、「イルカ」という種≠ェいないのと同様、「カラス」という種≠ヘいません。3つとも総称≠ナす。
 クジラ、すなわち(鯨偶蹄目)クジラ下目(Cetacea)という分類群に属する種が今わかっている範囲で約86種(研究者によりますが、ここは八木氏/石川氏に合わせましょう)。
 カラスとは広義には(スズメ目)カラス科(Corvidae)、狭義にはカラス属(Corvus)の鳥類(鳥綱:Aves)を指します。鳥好きはみんな知ってのとおり。
 カラス科は25属128種、カラス属は46種ほど(〜ウィキペディア)。
 このうちカラス属に限っても、その中にはCRが2種(バンガイガラス、クバリーガラス)、ENが1種(フロレスガラス)、VUが1種(ヒスパニオラガラス)が含まれ、準絶滅危惧(NT)に該当する種も数種います。さらに、ハワイガラスに至っては野生下絶滅(EW)。原因はよくわかっていませんが、寄生虫病の影響が指摘されています。飼育下で繁殖された個体の再導入が何度か試みられ、2017年までに放鳥された個体のうち11羽は順応したとみられていましたが、今年発生した噴火の影響が懸念されています。地域絶滅後中国から再導入されたトキや、野生下絶滅後再導入されたコウノトリによく似た境遇(絶滅のおそれはさらに高い)。

■Rare Hawaiian crows released into native forests of Hawai’i Island

 カラスの中にもトキのように絶滅しかけている種がいるにもかかわらず、この御仁は「カラスはカラスというだけでトキと違って絶滅しない」と言いきってしまえるのです。これは実に驚くべきことです。
 何度も繰り返しますが、現在海外の反捕鯨活動家=A環境保護団体には、クジラの種すべてが(IUCNの定義の上で)絶滅危惧種であると唱えている者はいません。八木氏の脳内のバーチャル反捕鯨活動家だけ。
 しかし、反反捕鯨論者の中には間違いなく同列の間違いを犯している人物がいるのです。「絶滅しそう」より「絶滅なんかしない」の方がよっぽど有害でひどい過ちですが。しかも、その人物は捕鯨協会・水産庁・鯨研の関係者と懇意にし、外務省の予算を受け取り、ブラジルまで押しかけてせっせと広報活動に従事しているのです。
 八木氏が石川氏に事前に原稿のチェックをお願いしていたら、さすがにマズイと思って赤を入れてくれたでしょうにね(彼じゃそのままスルーしたかもしれないけど)。
 実は筆者はカラス、大好きなんですよ。当ブログの読者さんやフォロワーさんはご存知の方も多いでしょうが。
 筆者が身近でよく観察できるのはハシブトガラス、ハシボソガラス、オナガですが、カケスやホシガラスも森・山で見かけたことがありますし。仕事で疲れたときには、彼らの営巣地がある家から40分ほど離れた森へ行き、夕空を円舞する彼らの幻想的な姿に心を和ませたものです。
 全身黒色に包まれた美しい鳥──ただの黒ではなく、構造色の羽毛はときに鉱物のような光沢を放ちます。
 鳥類の中でも夫婦の絆がとりわけ強く、発情期に限らず行動をともにし、ペアを観察していると微笑ましい仕草につい口元がほころんでしまいます。
 ゾウやクジラに負けないバリエーションを持つ音声言語で社会的なコミュニケーションを交わし、遊びを開発する能力に長けることでも広く知られています。
 ヒトに迫害を受けながらも適応力で切り抜け、それでもなおヒトのそばでたくましく生き抜いてきた鳥。
 スカベンジャーとして生態系で大切な役割を担ってきたのに。東洋では八咫烏:神聖な神の遣いとして崇められていたはずなのに、伝統なんかほっぽりだして害鳥扱いされて。
 なんて不憫な鳥なんだろうと同情せずにはいられません。


 一体何が八木氏をして「いつのまにか種全体のことと捉えさせてしまった」のかはわかりません。よっぽどカラスという生き物が嫌いで、カラスという生き物についてほんの少しでも勉強しようという気さえかったのでしょうね。クジラと同じく。
 「ビハインド・ザ・コーヴ」上映会でのトークショーや観客とのやりとりでもぶっ飛んだ発言が飛び出しますが、とある上映会では、捕獲したイルカの親子を引き離すことについて「かわいそうだとは思うが、ペット店の犬猫と何の違いがあるのか」と平然と言ってのけたそうです。水族館・動物実験・レッドリスト等々と同じように、愛玩動物行政においても日本と他の先進国の間には大きな隔たりがあり、その具体例としてよく挙げられるのが生体販売の8週齢規制問題。動物愛護に関心のある方ならみな知っていることなのですが。

■「捕鯨ヨイショ度」診断テスト・パート2
http://www.kkneko.com/sindan2.htm

 ああ、このヒトは本当に、本当に生きものが嫌いなのだなあ・・とため息が漏れます。
 クジラの敵であり、カラスの敵であり、すべての生きものの敵なのだなあ・・と。
 否、このとんでもない生物音痴を広告塔として祀り上げて利用している日本捕鯨協会こそ、すべての生きものの敵に他なりません。
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posted by カメクジラネコ at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

トンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏はクジラよりカラスがお嫌い?−1


◇捕鯨票買ODA最新記事

■捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!? (6)セントビンセント・グレナディーンのケース
http://www.kkneko.com/oda6.htm

 ホームページに最新の情報を加えた解説記事を掲載しましたのでぜひご一読くださいm(_ _)m

◇究極の生物音痴・トンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏はクジラよりカラスがお嫌い?(その1)
 夏になると増えるものといえば、蚊、熱中症患者、ビールの消費量、後は……そうそう、平和について考えさせられる季節だけあって(?)歴史修正主義者/陰謀論者も挙げられるでしょうか。数が増えてるというより、声がでかくなるというのが正解でしょうけど・・。
 過去記事でも何度か取り上げてきましたが、よその国の謀略のせいにしたり、過去を正視せず事実をねじ曲げ美化したり、都合のいい相対主義を持ち込んで自己正当化するのは歴史修正主義者と反反捕鯨論者の共通属性。だからこそ、この2つの層はもろにカブッているわけですが。
 そんな夏という季節にふさわしい(?)捕鯨問題の解説記事が登場。

■海に親しむこの季節に考えるクジラ・そしてマリンデブリのこと (8/10, 日本気象協会)
https://tenki.jp/suppl/kous4/2018/08/10/28351.html

 論者はホラー漫画家ホシナコウヤ(小川幸辰)氏。掲載されたのは、気象情報サービスを手がける一般財団法人・日本気象協会のウェブサイト。同協会は気象庁を外局に持つ国交省所管の元公益法人ですが、捕鯨サークルと特に関係があるようにも思えません。お天気関連のコラムなんていくらでも作れるでしょうにね・・。
 残念ながら、このオピニオン記事には非常に多くの誤謬が含まれています。まあ、主なソースが水産庁の『捕鯨問題の真実』なので、仕方ないっちゃ仕方ないのですが・・。
 権威ある国の機関であるハズの水産庁の広報資料『捕鯨問題の真実』ですが、前南極海調査捕鯨(JARPAU)が国際司法裁判所(ICJ)に国際法違反、「美味い刺身≠フ安定供給目的の違法な商業捕鯨」と認定されるに製作・公表されただけあって、まあデタラメばっかりの代物。真実ならぬポストトゥルースです。
 以下、ホシナ氏が付け加えた尾鰭の部分も含め、ざっと問題点を指摘しておきましょう。

室町末期から江戸時代初期にかけて、船団による捕鯨が徐々に形成され始め、17世紀末には紀州(和歌山県)の太地で投網による狩猟と本格的な捕鯨船団の組織が発足し、近世〜近代捕鯨が幕開けします。船団捕鯨は、長崎、土佐、東海、関東など各地に広がっていきます。引用)
ペリーの日米通商条約も、捕鯨のための補給という理由のためでした。日本の古式捕鯨が適正な漁獲量であったことは、日本の近海にクジラが多く居たことからもわかります。(引用)

 組織的な古式捕鯨(突取式)の発祥地は太地ではなく尾張。太地等紀州や関東には尾張から技術が伝えられ、各地で乱獲のため瞬く間に捕獲が激減、鯨組間の競合や途絶が起こります。そんな状況を打開してターゲットをザトウクジラにまで拡大すべく開発されたのが網取式で、太地発というのが有力仮説。沖合での外国捕鯨船操業の影響も一部にはあるものの、特にコククジラ、セミクジラ、ザトウクジラに関しては、日本自身の捕鯨による乱獲が枯渇の主因であるのは史料からも明らかです。

■哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html
■民話が語る古式捕鯨の真実
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html

 ちなみに、ペリー来航の真の動機については興味深い説も。まあ、たかが一産業にすぎない捕鯨のためってのは、国が外交で動くには弱すぎますものね・・。

■黒船来航の真意を知らない人に教えたい本質
https://toyokeizai.net/articles/-/222796

日本は一貫して捕鯨については欧米の後追いをする控えめな後進国だったのです。(引用)
 
 真っ赤な嘘です。が、先に以下の記述の問題点から。

こんな乱獲をして、問題が出てこないわけがありません。第二次大戦後、世界的な乱獲によるクジラ頭数の減少枯渇が問題となって、適切な捕鯨環境を整備する目的で、1948年、IWC=国際捕鯨委員会(International Whaling Commission)が発足します。(引用)

 ここはソースにない、ホシナ氏が勝手に付け加えてしまった部分ですが、間違いです。IWCは戦前のジュネーブ捕鯨条約/国際捕鯨協定を継承・発展する形で定められた国際捕鯨取締条約(ICRW)のもと設立した機関で、当初捕鯨産業を国際ルール下に置くという以上の意味合いはありませんでした。IWCのもとでも科学的管理はなされず、乱獲は手遅れになってモラトリアムが叫ばれるまでずっと続きました。なお、セミクジラやコククジラは戦前の段階で捕獲禁止。日本は抵抗して戦前の協定には加わりませんでしたが。

■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史
http://www.kkneko.com/aa1.htm

かつて、IWCが発足する以前の20世紀前半には、過当競争が頂点に達し、各国がクジラの捕獲頭数を競ったために「捕鯨オリンピック」などと言う言葉も使われていたそうです。最盛期の1930年にはなんとシロナガスクジラが3万頭も捕獲され、以降シロナガスクジラは激減すると、今度はナガスクジラを乱獲し始めるという残酷さ。特にノルウェーとイギリスのナガスクジラ類の乱獲は、1960年代まで続きました。ナガスクジラが激減し、捕獲が禁止されると、今度はロシア(当時はソ連)がザトウクジラの乱獲を始めます。1950年代から70年初頭にかけて、多い年には一年で15000頭ものザトウクジラが乱獲されました。それほどの資源量が、人類にとって本当に必要だったのでしょうか。(引用)

 総枠だけ決めて後は早い者勝ち≠フオリンピック方式は後進的な日本の漁業の問題点としてしばしば指摘されるところですが、IWCのもとでも典型的なオリンピック方式が1950年代まで続き(科学的根拠がなく乱獲に拍車をかけたシロナガス換算:BWU制はその後も継続)、国別捕獲枠が設定された後は日本の捕鯨会社同士で他国の枠を買い取り、熾烈な競争が繰り広げられるに至ります。
 近代捕鯨のピークは第二次世界大戦を挟んで2つあるといえます。シロナガスクジラ中心だった戦前の捕鯨オリンピック前半は、確かに日本は規制に参加しない後発国で、ノルウェーから首位の座を奪ったのはやっと1941年のことでしたが、戦後の最盛期では日本が捕鯨オリンピックの主役でした。シロナガスのピークはごく短期でしたが、ナガスクジラの捕獲数は1950年代後半から1960年代初めにかけて3万頭台が続き、60年以降の捕獲数トップはすべて日本が占めます。要するに、クジラたちを最後まで追い詰め、引導を渡したのが捕鯨ニッポンの役割だったわけです。
 トータルの捕獲数では、日本はノルウェーに次ぐ2位、つまり乱獲五輪で銀メダルを獲ったわけですが、最終的に日本が南極海乱獲捕鯨の覇者≠ノ立ったといえるでしょう。現場の砲手など捕鯨関係者自身が南極海の明らかな荒廃を肌で感じながら、なおも手を緩めることが出来なかったという事実がそれを裏付けています。

■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
http://kkneko.sblo.jp/article/116089084.html

 捕鯨オリンピックの三強はノルウェー・日本・ロシア(旧ソ連)でした。3国とも現捕鯨国(ロシアは現在は先住民生存捕鯨のみ)。
 なぜホシナ氏は「一貫して捕鯨については欧米の後追いをする控えめな後進国だった」という完全に誤った情報を発信してしまったのでしょうか?
 犯人は水産庁
 近代捕鯨史を学んでいる方であれば、ホシナ氏の記述のおかしな点に気づかれるでしょう。そう、「ノルウェー・イギリスのナガスクジラ乱獲の後、ロシアがザトウクジラの乱獲を始める」という部分。
 水産庁史料『捕鯨の真実』のp19、世界の捕鯨の解説図に国別捕獲頭数の推移を示したグラフが掲載されていますが、どういうわけか、シロナガスクジラとザトウクジラの2種しかありません。日本がノルウェーと並んで戦後の乱獲の主犯となったナガスクジラがないのです。その事実は、反反捕鯨が代替わりして歴史修正主義が蔓延する以前は、捕鯨賛成派の間でも一定の理解があったはずなんですがねえ・・。
 さらに、非常に奇妙なことに、ザトウクジラのグラフの方には、国別頭数といいながら、主要な捕鯨国であるノルウェーが見当たらないのです。
 ザトウクジラは1900年代後半から1910年代前半にかけ年間数千頭捕獲され、1910年からの4年間は1万頭を越えていました。捕獲数トップがノルウェー。捕鯨問題ウォッチャーなら知ってのとおり、ザトウクジラは近代捕鯨初期にターゲットとされた種。それ故、捕獲が禁止されるのも1963年(南極海以外は1966年)とシロナガスクジラと同じタイミングで、ナガスクジラより先なのです。つまり、合法的な@衰lのピークは戦前
 すなわち、シロナガス、ザトウとも、1960年代後半から1970年代の捕獲はただの乱獲ではなく、旧ソ連による違法な密漁なのです。1947年から1972年にかけて、旧ソ連が実際に捕獲したザトウクジラの数は48,651頭。しかし、公式に報告されたのは2,820頭で、その6%にも満たない数字でした。事実が発覚したのは1990年代に入ってからですが、おかげでロシアはトータルの捕獲数で英国を抜いて3位に。「ドーピングで獲った銅メダル」みたいなもの。
 水産庁がナガスクジラのグラフ、ザトウクジラ捕獲数のノルウェー分、捕獲統計の修正を余儀なくしたロシアの違法捕鯨についての説明を完全に省いたため、ホシナ氏の誤解を生んだのでしょう。近代捕鯨史についてきちんと勉強していれば避けられた誤解とはいえ。
 実は、NOAAのレポートで悪質な規制違反を行った国としてロシアとともに名指しされたのが日本でした。捕鯨オリンピックのドーピング2大国。水産庁がだんまりを決め込むのも当然かもしれません。決して褒められた話じゃありませんが。
 戦前の協定未加盟、戦後の監督官ぐるみ違反、大手捕鯨会社がバックに絡んだ海賊捕鯨船シエラ号事件、その後も続く密漁・密輸と、連綿と続く違法・脱法体質で日本はまさに一貫して≠「たとはいえます。
 『捕鯨の真実』の編纂に携わった捕鯨セクションの担当水産官僚が、ナガスクジラの捕獲数グラフや規制違反の情報を伏せ、国民の目から隠そうとしたことに対しては、たとえ日本捕鯨業界や自民党捕鯨議員連盟等に忠誠を示し奉仕する意図があったとしても、卑劣にして狡猾≠ニの謗りは免かれません。

調査によるとたとえばナガスクジラは12000頭(引用)

 この数字(南半球)は日本政府が勝手に主張しているだけで、IWC科学委員会での合意は得られていません。同種は1920年には南半球に30万頭以上はいたと推測されており、わずか4%にすぎません。捕獲禁止から40年以上の年月が経つにもかかわらず、回復は遅々として進んでいないのが事実なのです。増えているという日本の主張は、最高級鯨肉部位の1つとされるナガスの尾の身″Dきの永田町の食通のために年間数頭捕獲してきた調査捕鯨のデータに基づいています(目視含む)。『捕鯨問題の真実』のp9にグラフが載っていますが、2つの海区を2年置に調査したデータのうち、V・W区側では2005/06年から2007/08年にかけて大幅に減少しているのに無理やり指数近似を当てはめています。
 いずれにしても、ナガスクジラはIUCNの定義上疑いを差し挟む余地のない絶滅危惧種であり(EN:絶滅危惧TB)、絶滅危惧に追いやった主犯が日本の捕鯨業界といっていいのですが、その日本はあろうことにもワシントン条約(CITES)で同種を留保しているのです。

■Balaenoptera physalus|IUCNレッドリスト
http://www.iucnredlist.org/details/2478/0

ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラのこの頭数を維持した場合に、そのうちの4%ほどを毎年漁獲した場合、それらのクジラが食料とするイワシ、サバ、カツオなどの漁獲量が増加する、というシミュレーションも出ています。(引用)

 内外の研究者も含めて強い批判のあるトンデモ鯨食害論の中でも最悪の主張。筆者は該当論文を存じ上げないのですが、確かに『捕鯨問題の真実』p14には出典がまったく明記されていない当該グラフが載っていますね・・。生態系モデルを使わないと出てき得ない数字ですが、少しパラメータをいじるだけでまったく異なる結果が出力されるのが生態系モデルの都合のいい≠ニころ。日本の捕鯨御用学者が掲げる生態系モデルに対しては、種数が少なすぎ、しかもほとんど商業漁業対象種で占められる、肝心のシャチが考慮されていない、海鳥・鰭脚類等より代謝・繁殖率の高い競合種が考慮されていない(クジラを間引く結果もっと魚が減る)、クジラがいるおかげで栄養塩類の水平・鉛直分布が変化し漁業生産を増加させる効果が考慮されていない、気候変動・海洋酸性化・有機塩素/重金属/プラスチック汚染が鯨類の再生産に与える影響も考慮さていないなど、問題を数え挙げればきりがありません。クジラを獲ればビンナガが増えるに至っては、相当ろくでもないパラメータ調整を行ったことが火を見るより明らかで、ろくでもないシミュレーションを提供した人物は研究者の風上にも置けない輩です。
 トンデモな食害論が仮に事実であれば、日本周辺では魚がガンガン増えまくっていいはずですが、現実には近海の主要漁業対象種の半数が資源枯渇状態で、FAOの将来予測においても唯一漁業生産が大幅に減少している有様。一方、鯨類を手厚く保護しているので魚が激減していて然るべき米国・オーストラリア・ニュージーランド等の反捕鯨国は、水産資源の持続的管理に関して日本よりずっと先行しているのです。乱獲と水産行政の無策無能をクジラの所為にして憚らないのは、水産庁の許しがたい欺瞞です。
 なお、トンデモ食害論・生態系アプローチの問題点については以下を参照。
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■持続的利用原理主義すらデタラメだった!
http://www.kkneko.com/sus.htm
https://yarchive.emmanuelc.dix.asia/1834578/a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa_1/board47126.html
■びっくり仰天、都合の悪い事実に蓋をする非科学的な水産庁広報資料
http://kkneko.sblo.jp/article/176346053.html
■捕鯨に関する資料集|3500-13-12-2-1
http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-152.html
■クジラを捕らないと魚はいなくなるのか?|トゥゲッター
https://togetter.com/li/13920
■「クジラが魚食べて漁獲減」説を政府が撤回|JANJANニュース(魚拓)
http://megalodon.jp/2009-0713-2240-37/www.news.janjan.jp/living/0906/0906290018/1.php

そして家畜を飼育して食べるよりも、野生生物を適切な量を守り狩猟するほうがエネルギーコストや食料分配の上からも正しいことは言うまでもありません。(引用)

 これも物事を単純化しすぎた誤った主張です。言うまでもなく・・と言いたいところですが。
 少なくとも莫大な燃料を消費する遠洋漁業・遠洋捕鯨には当てはまりません。狩猟では現在の地球人口のごく一部しか養えず、食料分配の観点からはむしろ問題大ありです。菜食・昆虫食の方がはるかに現実的。再生産率の高い魚種を対象にした沿岸漁業ならまだ貢献できるでしょうが。

■鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?
http://kkneko.sblo.jp/article/174477580.html
■捕鯨は牛肉生産のオルタナティブになり得ない
http://www.kkneko.com/ushi.htm

 ──とまあ、さんざんにこき下ろしてきましたが、その後に来る文章はなかなかの卓見です。ホシナ氏は最低限のバランス感覚はお持ちのようですね。誰かさんと違って・・。

しかし、「クジラ食は日本の文化だ」と言うには、現代日本の現実と食い違う点が多くあります。和牛の肥育のために高カロリーの飼料を与え霜降りの高級肉を作り、普段から牛肉や豚肉、鶏肉を常食にしている日本人が、クジラを食文化だ、と果たして胸を張って言えるのでしょうか。
また、クジラなどの海洋動物の多くが苦しんでいるマリンデブリ、すなわち海に投棄された人工ゴミの問題があります。プラスチックやビニールなどの石油生成品は、自然で溶解せず、クジラが大量にそれらを飲み込んで健康を害し死にいたる、ということが起きています。既に世界60カ国以上の国でプラスチック販売への規制法が行われ、EUでは使い捨てプラスチックの販売禁止法案が策定されました。今年6月のG7サミットでは「海洋プラスチック憲章(Ocean Plastics Charter)」が発議されました。これは、世界的環境問題となっているプラスチックごみによる海洋汚染にG7として対策に乗り出すことを宣言するものでしたが、日本とアメリカは国内産業への影響を理由に拒否しました。
本当に海洋資源を守ることをうたうのならば、マリンデブリ問題も日本が主導するべきでしょう。そうなってはじめて、日本の捕鯨への立場は、正当なものであると証明できるのではないでしょうか。(引用)

 ついでに、ホシナ氏と同意見の一般の方のツイートもご紹介。これこそが正常な反応というものでしょう。

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1010190323128008704
えーっ…海洋プラスチックゴミには目をつぶる一方で、これは引くわ(引用)

 そして、以下は同オピニオン記事で紹介されている報道へのリンク。他のリンクソースはバリバリ捕鯨サークル当事者のものですが、こちらは論者本人がきちんと海洋環境の問題にアンテナを張り巡らし、このニュースに触れて、捕鯨サークルの主張に対し違和感を感じられたということでしょう。誰かさんと違って・・。こちらのオンライン記事からも一部引用しておきます。

■「G7マイナス2」 海のプラごみ対策、日米はG7文書に署名せず (2018/6/12, ニュースフィア)
https://newsphere.jp/politics/20180612-2/

しかし、環境保護団体グリーンピースなどは、拘束力のない任意の合意で問題解決は難しく、青写真が描かれたことは評価するものの、計画自体は生ぬるいと述べている(ドイチェ・ヴェレ)。(引用)
UNEPによれば、すでに世界60ヶ国以上で使い捨てプラスチック製品の使用禁止や課税が行なわれているというが、ドイツのメルケル首相は、欧州だけや各国レベルでの取り組みでは十分ではないと述べている(ドイチェ・ヴェレ)。(引用)

 では、なぜこのような動きが起こったのでしょう? それは、反捕鯨団体として悪名(?)高いグリーンピース(GP)やクジラ・イルカ保護協会(WDC)が精力的に啓発キャンペーンを展開して一般市民に情報を提供し、スタッフ・ボランティア会員・賛同する著名人が自ら先頭に立ってビーチクリーンアップ等の活動に参加し、さらに各国のマスコミ・政治家・政府職員に強力かつ粘り強く働きかけたからこそ、課税や禁止法制定等の具体的政策やG7での憲章制定という形で結実したのです。
 最近では、これらの団体のツイッターやフェイスブックでも、捕鯨問題(日本以外を含む)以上に気候変動や海洋汚染に関する問題提起が多くなっています。捕鯨に触れるツイートはたぶん10回に1回もないでしょう。
 こちらはWDCの制作した、プラスチック海洋汚染問題についての啓発サイト。子供にもわかりやすく問題を伝えられるよう動画等を駆使した、大変素晴らしいコンテンツですね。センスの高さにもうならされます。

■NOT WHALE FOOD
https://notwhalefood.com/

 同じくこちらはGP日本支部のサイト。ロビイングとその成果としての各国政府・企業の声明も具体的に示されています。

■プラスチック・フリーの暮らしをつくろう!
http://plasticfreelife.jp/about-us/
あなたのような一人ひとりからの支持を得て、 韓国と台湾の政府にマイクロプラスチック製品を禁止させることに成功しました。これは大きな勝利です! また、エスティローダー、アムウェイ、LG、コーセーなどの国際的な化粧品ブランドが、 マイクロビーズ製品を段階的に廃止すると発表しました。香港の小売り流通業A.S.ワトソンズと759ストアも、マイクロビーズ製品を段階的に廃止することを約束しています。 (引用)

 日本政府、コーセー以外の日本の企業の名がないのは残念なことです。ホシナ氏の指摘するとおり、これでは日本の捕鯨への立場が正当なものだとは到底言えませんね。
 プラスチックごみ規制に向けた国際的な動きは、もちろん一朝一夕に始まったものではありません。マイクロプラスチック汚染の実態が明らかになってきたのは近年のことですが、廃プラスチックが鯨類や海鳥・ウミガメを始めとする海洋生物に与える影響については前世紀から警鐘が鳴らされ続けてきました。昨年のG7環境相会合の場でも海洋プラスチックごみ問題はパリ協定とともに俎上に上りました。さらに、以下は昨年の国連広報センターのプレスリリース。

■国連海洋会議が開幕: 海洋環境破壊を食い止めるための自主的コミットメントが本格化
http://www.unic.or.jp/news_press/info/24623/
各国は「行動の呼びかけ」の採択により、ビニール袋や使い捨てプラスチック製品をはじめ、プラスチックとマイクロプラスチックの利用を減らすための長期的かつ本格的な戦略の実施に合意します。(引用)

 日本国内で初めて使い捨てプラスチック製ストロー廃止(2020年までに)を掲げたのが外食大手すかいらーく。海外とは逆に、廃止に批判的な$コが挙がっているみたいですが・・。なお、「ヤフーニュース個人」については後述。

■すかいらーくなど、日本でプラスチック製ストロー廃止の動きと、アメリカや海外の取り組み (8/23, 安部かすみ|ヤフーニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/abekasumi/20180823-00094175/

 対する日本の取組はどうなっているでしょうか? G7に合わせる形で今年6月に改正海岸漂着物処理推進法が成立しましたが、中身は具体的な数値目標や罰則規定等が何もない単なる企業へのお願い≠ノ留まっており、実効性があるとは到底いえません。G7憲章署名拒否と合わせ、使い捨てプラスチック製品の製造・流通の段階的禁止にまで踏み込んでいるEU等に比べ、後ろ向きの姿勢ばかりが目立ちます。
 プラスチック汚染についての研究や海外の動向については、環境ジャーナリストの第一人者である共同通信の井田徹治記者が丁寧な記事を何本も書いてくださっています。日本にも事実を伝えようと尽力してくれるプロのジャーナリストがいてくれるのは、まだせめてもの慰めといえますが。

■プラごみ年3億トン発生、損害は1兆円超 OECD (8/6, 共同配信記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33836590W8A800C1CR0000/
■深海魚70%にプラスチック粒子 大西洋、水深600メートルまで (7/14, 共同通信)
https://this.kiji.is/390786503330612321?c=39546741839462401
■北極の海氷にプラ粒子 世界最悪レベルで蓄積  (5/21, 共同配信記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30748970R20C18A5CR0000/
■視点:署名拒否は責任放棄だ (6/22, 京都新聞)
https://twitter.com/TETSUJIDA/status/1010333956133158912/photo/1

 このように海洋プラスチック問題については、何周分も遅れた日本を除き、国際的な規制の動きが加速しつつあります。クジラたちはプラスチック汚染以外にも様々な海の環境破壊に直面していますが、GPやWDCといった環境保護団体は、やはりプラスチックごみ問題と同じく、市民の啓発や各国政府・国際機関へのロビイングに努めています。捕鯨問題以上に。
 こちらはWDC、GP同様国際的な反捕鯨運動を牽引してきた天然資源保護協議会(NRDC)及び国際動物福祉基金(IFAW)の協力のもとに制作されたドキュメンタリー映画『Sonic Sea(ソニック・シー)』。ディスカバリーチャンネル以外のカナダCBC等各国のTV局でも放映され(残念ながら日本のNHKはまだですが)、全米テレビ芸術科学アカデミー主催のニュース&ドキュメンタリー・エミー賞の2部門で受賞しています。映像としても大変見応えのあるクオリティの高い作品です。画質・音質に難のある誰かさんのトンデモプロパガンダ映画と違って・・。

■Sonic Sea
https://www.sonicsea.org/
■“Sonic Sea” Wins Two Emmy Awards | NRDC
https://www.nrdc.org/media/2017/171016-1

 『Sonic Sea』以外にも、海外では鯨類を取り巻く環境の悪化について取り上げ、一般市民に訴えるドキュメンタリー映画・TV番組が数多く製作されてきました。そのうちのほんの一部をご紹介。

■Blue Planet I | BBC
https://www.bbc.co.uk/programmes/b008044n
■Blue Planet II | BBC
https://www.bbc.co.uk/programmes/p04tjbtx
■How We Can Keep Plastics Out of Our Ocean | National Geographic
https://www.youtube.com/watch?v=HQTUWK7CM-Y
■Ocean Rescue | Sky
https://skyoceanrescue.com/
■A Plastic Ocean
https://plasticoceans.org/
■The Islands and The Whales
http://theislandsandthewhales.com/

 で、ここからがいよいよ本題・・。
 日本気象協会/ホシナコウヤ氏のオピニオン記事は、基本的に捕鯨推進サイドの発信する情報をもとに書かれた捕鯨ヨイショ記事には違いないのですが、海洋環境保護に後ろ向きな日本の姿勢についても忌憚のない意見を述べられている点は高く評価できます。
 こちらに比べれば百倍も千倍もマシに思えるほど……。

■クジラの情報 正しく伝えたいと研究者が「鯨塾」を開催(八木景子|ヤフーニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/keikoyagi/20180717-00089302/
■封じ込められてきた鯨の情報 正しく伝えたいと研究者が「鯨塾」を開催(同アーカイブ)
http://archive.is/xmAr2
 
 ICJ判決後に突然クジラに興味が沸き、日本捕鯨協会のコンサルタントとして世論操作戦略を練った水産ジャーナリスト・梅崎義人氏と新宿の鯨肉居酒屋で意気投合、水産庁には記者会見のサポートを受け、自民党本部で一般公開前に族議員向けの試写会の場が用意され、さらに外務省には海外上映のための予算まで付けてもらった(〜水産紙報道)国策プロパガンダ映画、その名も『ビハインド・ザ・コーヴ』を制作したお馴染みトンデモ竜田揚げ映画監督八木景子氏の新ネタ=B
 これは通常のヤフーニュース記事ではなく「Yahoo!ニュース個人」という動画クリエーター向け支援企画サイトの記事。取材費はヤフージャパンが負担とのこと。
 公開日に保存されたアーカイブとタイトルが変わっていますが、本文は修正されていない模様。見出しの余計な部分を切ったのは、1行タイトルで趣旨が伝わるようにしたいというヤフー担当の判断でしょう。ちなみに、アーカイブを取得したのは筆者ではありません。
 同企画コーナーには、八木氏の格上のライバル(?)佐々木芽生映画監督も太地での取材記事を2本寄稿しています。

https://news.yahoo.co.jp/byline/sasakimegumi/
■アメリカと日本でクジラを追った日本人漁師「人生に悔いはなし」 (8/21, 佐々木芽生|ヤフーニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/sasakimegumi/20180821-00093935/

 こちらのポータルトップページでも注目クリエーターの先頭に佐々木氏の名が(八木氏の名はなし)。


 先に佐々木氏の8月の記事の問題点に簡単に触れておきましょう。

「もったいないですよね」(中略)偉大なクジラがペットフードの材料だったことは、アメリカでも殆ど知られていない。「クジラを救え!」と声高に唱えている活動家たちがこのラベルを見たらどう思うだろうか。 (引用)

 事実を言えば、特にマッコウクジラ捕鯨に関しては日本もまったく同じです。大手捕鯨会社はサイドビジネスとして毛皮獣養殖を手がけたほか(つまり飼料用)、ペットフードとして海外に輸出したりもしていました。
 今日のノルウェーでも鯨肉はペットフードとして加工販売されており、2009年には4トンの鯨肉がペットフードメーカーの倉庫から見つかり、安全性への懸念が指摘されています。

■日本の鯨肉食の歴史的変遷

 「殆ど知られていない」とありますが、少なくともNGO関係者は欧米の捕鯨会社を含めた近代捕鯨史をきちんと理解しています。一方、佐々木氏が日本の捕鯨会社の行状について知らなかったことは記事からも明らかでしょう。「(偉大なクジラを<Cヌに食わせるのは)もったいないですよね」という佐々木氏・脊古氏の感覚と、高濃度の有機塩素で汚染されている可能性のある鯨肉を家族≠ェ口にすることを心配する欧米市民の感覚、双方の動物観・クジラ観(「欧米人は偉大だと思っているに違いない」という勝手な思い込みを含め)の差は拭いがたいものがありそうです。

脊古らが捕獲したのは、主にナガス、イワシ、マッコウクジラ。(引用)

 佐々木氏が故意に省略したのかは定かではありませんが、動画の中で脊古氏ははっきり「グレイホエール、コククジラ」とコメントしています。しかし、コククジラは戦前から国際条約上捕獲が禁止されていました。
 むむ・・もしかして、脊古氏は米国の捕鯨会社で密漁していた??? どうやらそうではなさそうです。
 実は、1965年から数年間、米国はコククジラを対象に数十頭規模の調査捕鯨を行っていたことがあります。おそらく、脊古氏の在籍していた捕鯨会社は、現在の日本の共同船舶と同じく位置づけで国の委託を受けたのでしょう。しかし、1969年にカリフォルニア沖で大規模な石油流出事故が発生、コククジラ数頭が死体となって海岸に打ち上げられたため、「海洋環境破壊にさらされているクジラを今更捕鯨とは何事か!」と環境保護団体から猛烈な反発が巻き起こります。この事件を契機に、米国政府は調査捕鯨の中止を決定、鯨類各種が種の保存法対象種にリストアップされるに至ったのです。
 詳細は環境外交・漁業外交のプロフェッショナル・早大客員准教授真田康弘氏の論文をご参照。

■科学的調査捕鯨の系譜--国際捕鯨取締条約第8条の起源と運用を巡って|真田康弘
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ceispapers/ceis22/0/ceis22_0_363/_article/-char/ja/

 今回の佐々木氏の記事には第三者の立場からの視点がなく、映画・書籍『おクジラさま』より中立性の点で後退しているように見受けられるのは残念です。表現もちょっぴり竜田揚げじみてますし・・。
 ただ、映像はまさしくプロの作り。
 一方、八木氏の撮影した動画の方は、冒頭の下関市内の様子を写したシーンでフレームのパン、ティルトの際の手振れが素人かと思うほどひどく、筆者は気になって仕方がありませんでした。
 だからこそ、八木氏より佐々木氏の方がある意味厄介だとも言えるのですが・・。

 さて、本家竜田揚げ記事に話を戻しましょう。
 脊古氏を物語の中心に据えた佐々木氏に対し、八木氏が主役に選んだのは石川創氏
 ただ、ドキュメンタリー監督・ライターとして影の役割に徹している佐々木氏とは対照的に、八木氏の記事は取材した鯨塾と下関市について書かれた最初の二段落以降、見出しと直接関係ないバリバリの主観に基づく八木氏自身の持論(石川氏のではなく)を全面に展開しています。主役・主演は八木氏本人。
 ちなみに、元鯨研で調査捕鯨船団長を務めたこともある下関鯨類研究室長の石川氏は、あの「いつ自動小銃が火を噴くんですか?」発言のお方・・。関係筋によれば、船団長当時の彼はSS憎しのあまり壊れてしまっていたとのことですが。
 実は石川氏自身は、八木氏が梅崎氏・米澤氏に刷り込まれて盲信しているベトナム戦争陰謀論について、以下のとおりかなりつれない態度を示しています。

■月とマッコウクジラ|下関鯨類研究室
http://whalelab.org/2017isana19.pdf
ベトナム戦争は1975年に終結しており、IWCにおけるアメリカの10年にわたるモラトリアム実現へ熱意までもが、ベトナム戦争と関連があったかという点については疑問が残るところだ(引用)

 もっとも、上掲エッセイ記事では代わりに同じくらいトンデモなアポロ陰謀論をご開陳。
 氷点下でも凍らない化学合成エンジンオイル「モービル1」はストックホルム会議のたった2年後、ベトナム戦争終結より前≠フ1974年に市販されており、旧ソ連が仮に独自開発が進んでいなかったとしても容易に入手・解析できたはず。膨大な航宙技術のうちたった1素材で数年先行するためだけに、NASAと無関係なセクションのリソースまで注ぎ込んだとは何とも考えにくいことです。根拠のない我田引水の憶測という点で梅崎&米澤ベトナム戦争陰謀論と大差なし。
 米ロはトランプ・プーチンの蜜月よりずっと以前から、宇宙開発の分野では国際協調へと舵を切っています。国際社会に絶大な影響力を行使してきた大国アメリカが、宇宙開発というきわめて重要な分野で大胆な方針転換ができるのに、たかがクジラで♀本的政策が一貫していることを「陰謀で始めたけど引っ込みがつかなくなった」との無茶な説明で済ませること自体、米国民に対して大変失礼な話というもの。外交・国際政治に無知無頓着な専門バカらしい発想なのかもしれませんが。
 まあ確かに、日本政府自身のベトナムや沖縄に対する責任など眼中になく、陰謀論好きの共通属性で、八木氏とはウマが合いそうですけどね。
 最初の2段落にも突っ込みどころはありますが、また長くなるので(汗)、石川氏のぶっ飛び発言、下関市と国の捕鯨政策については過去記事をご参照。「ベトナム戦争と捕鯨」についても改めてリンクをご紹介。

■『正論』v.s.『諸君!』──保守系オピニオン誌の捕鯨関連記事
http://kkneko.sblo.jp/article/28972939.html
■調査捕鯨と下関利権
http://kkneko.sblo.jp/article/69075833.html
■復興予算を食い物にしようとした調査捕鯨城下町・下関市
http://kkneko.sblo.jp/article/56253779.html
■検証:クジラと陰謀
https://togetter.com/li/942852
■「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く〜いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えたトンデモ竜田揚げプロパガンダ映画
https://togetter.com/li/941637
■「ベトナム戦争」と「核問題」に直結する本物の陰謀≠暴き、かけがえのない日本の非核文化をサポートしてくれた「グリーンピースの研究者」と、竜田揚げブンカのために「広島長崎の虐殺」を掲げながら贋物の陰謀≠ノ引っかかったトンデモ映画監督
http://kkneko.sblo.jp/article/174248692.html

 今回はここまで。上掲記事の青字の部分をよーく覚えておいてくださいね。
 次回、いよいよ八木氏オリジナルのトンデモカラスサベツ論を徹底解析!
posted by カメクジラネコ at 19:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系