2018年03月04日

デマ屋と化した竜田揚げ映画監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その2/真に中立な意見とは・その2


◇デマ屋と化したトンデモ竜田揚げ映画「ビハインド・ザ・コーヴ」八木監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その2

前回の続き。
 映画「ビハインド・ザ・コーヴ」監督の八木景子氏は、これまでもかなりぶっ飛んだデマを映画のプロモーション・メディアインタビューを通じて拡散してきました。主なものは前回の記事末のリンクまとめ・拙過去記事で取り上げています。
 八木氏の発信するデマは大きく3つに大別されます。ひとつが、「ベトナム戦争陰謀論」をはじめとする、捕鯨サークル当事者から仕入れた情報を単に垂れ流しているだけのもの。ただし、別に何人も間に挟んだ伝言ゲームというわけでもないのに、エントロピーが急速に増大して一次情報からだいぶ離れてしまうのが氏の発信の特徴。ベトナム戦争陰謀論に関しては、米公文書館まで出向き、独自に情報を入手して手柄を立てようとは思ったんでしょうが、結局絵≠撮っただけで手ぶらで帰ってきておしまい。
 次に、外野の反反捕鯨ネトウヨから吹き込まれたと見られるもの。京大シンポジウムでの「韓国の方が日本よりクジラを殺している」といった嫌韓右翼へのアピールを狙った発言や、人種差別撤廃提案ネタなど。
 最後に、八木氏のオリジナル。同じ京大シンポジウムでよりによって韓国の方に対して偉そうに言っちゃった「韓国はIWC不参加」発言(純度100%のデマ)や、映画上映時のトークイベントでの動物福祉全般に関するかなーりぶっ飛んだ見識など。
 これまでの諸々の発言については、前回の記事末にまとめたリンクをご参照。
 上記のポイントを押えつつ、今回と次回の2回に分け、2本のメディア上の八木氏の発言を取り上げることにしましょう。

 まず、2月26日月曜にOAされたアベマプライムの特集から。
 要約テキスト版は下掲リンク。それにしても拡散しましたね・・


 アベマTVはいわゆるインターネット専門TV局で、免許を持った放送事業者ではありません。アベマプライムは同局の報道番組の位置づけで、以前漁業問題がテーマになったときに、情報を市民に向けてこまめに発信してくれる水産学者の東京海洋大学准教授・勝川俊雄氏や築地仲卸でシースマート代表理事を務める生田與克氏も出演されています。昨年7月放送時は以下の水産庁のヤラセ問題がネタに。解説はこちらもお馴染みの国際政治学者、早大客員準教授・真田康弘氏。

■激震!やらせ発言≠ェ発覚、国際会議を操作する水産庁のモラル|Wedge
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10164

 硬派なニュース番組の路線を貫いていればまあよかったんでしょうが・・担当者の力量差によってムラが激しいのか(それを言ったら正規の放送局も同じですけど)、一言で言えば今回のはお下劣バラエティ
 あるいは、報道で比較するなら、露骨な沖縄ヘイトデマを流したことが問題視され、今月にTOKYO MXでの打ち切りが決定された「ニュース女子」のレベル。
 番組前半がイバンカネタでクジラは後半の1時間でしたが、ゲストの月亭八光氏に鯨肉を無理やり食わせようとする茶番でまあ引っ張るわ引っ張るわ。
 さらに某鯨料理屋の宣伝と映画のシーンがバシバシ入り、ディベートの部分は正味10分もあったかどうか。といってもほぼ一問一答で、八木氏のデタラメコメントで締めてどんどん流す進行だったため、ある意味トンデモ映画そのものの構成に近かったといえます。
 出演者のうち、元読売のジャーナリスト・ジェイク・エーデルスタイン氏のみが反捕鯨の立場で出演。後の4人はゴチゴチの反反捕鯨。外国人訛りのエーデルスタイン氏に対する進行側の配慮がなかったことも手伝い、袋叩きの様相を帯びる有様。ずいぶん昔にやはりTVの討論番組でデーブ・スペクター氏が同様に多勢に無勢の扱いを受けていましたが。
 報道番組・討論番組といっても台本が用意されているのが常ですが、この台本を書いた奴は相当にゲスいですな。
 その点、JAZA/WAZA除名問題を取り上げたテレビ愛知の激論!コロシアムは、用意された資料映像とテロップに一定の先入観・偏見が見られたものの、出演者の構成や進行の点で公平性への配慮もあり、まだマシだったといえます。

■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
https://togetter.com/li/834969

 先に、リンク記事中の内容とは前後しますが、八木氏以外のゲストの方へのツッコミから。

 マグロ漁師の経験もあるリディラバ代表の安部敏樹も「日本の文化は、油、骨、皮までちゃんと使って、しっかりサスティナブルに消費していこうという考え方。クジラの頭数が増えてきたのであれば、商業捕鯨にして良いはず。"それなら捕っていいよね"と国際社会に言ってもらえるまで、水産庁も含め日本はしっかりコミュニケーションしなきゃいけない」と指摘する。(引用)

 おそらく、ウォッチャーの皆さんは「ああ、こいつもか・・」とため息をつかれたことでしょう。
まず、「日本の文化=サスティナブルに消費」という、捕鯨であれ漁業であれ、史実に反する俗説を真に受けている時点でアウト。しかも非論理的で雑な主張。カタカナでかっこつけて「サスティナブル」とか言っても、「消費」にかかってる時点で水産資源管理の根本について何も理解できていない証拠。東大出が泣きますね。
 鯨体完全利用神話については以下をご参照。

■「油目的で肉を捨てていた西洋と異なり、日本はクジラを余すところなく完全利用してきた」って本当?
https://togetter.com/li/1012491

 番組では「元マグロ漁師」の肩書きがしきりに強調され、他所にはプロフィールで「マグロを素手で取る」なんて特技が紹介されてたのですが・・安部氏は30の若さで今は社会企業家。遠洋マグロで一攫千金、陸に上がってさっさと転身というサクセスストーリーが目に浮かびます。であれば、日本の水産業の非持続性と悲惨な現状についてまったく無理解なのも頷けます。
 アベマTVにはぜひ次は「マグロ」をテーマに、今回と同じ4:1のタッグマッチ討論の企画を組んで欲しいもの。他の出演者は勝川氏、生田氏、真田氏、環境ジャーナリストの第一人者である共同通信記者・井田徹治氏で。でもって、安部氏に素朴な持論をぶってボッコボコにのされていただきたいもの。

 もう1人のゲスト、経済評論家の上念司氏は、記事中にはありませんが、反対運動・NGO批判の流れで、ユニセフの子供利用SSCSのクジラと対比させる印象深い発言をしていました。ユニセフ(国連児童基金)が子供の人権を守ることにリソースを集中するのは当たり前すぎる話ですが、同団体に対するデマ由来のいくつかの批判と比べても、上念氏やネトウヨたちの「ユニセフが子供を利用して金集めをしている」との主張は斜め上を走っています。よっぽど日本を国際社会で孤立させたいのでしょうか? まあ、上念氏がソッチ方面の人なのはツイートだけでもよーくわかりますが。

■日本ユニセフ協会に対する不当な批判に対して応えてみる
http://blogos.com/article/173694/

 社会的立場が圧倒的に弱い児童の権利は手厚く優遇されて当然と筆者は思いますが、よもや伊武雅刀の「子供達を責めないで」を地で行く連中がいるとは、想像だにしなかったことです。女性専用車両の一件にしろ、先住民生存捕鯨に対する日本政府のいちゃもんにしろ、社会的弱者に対するやっかみは、むしろ深刻な日本社会の病理と捉えるべきでしょう。
 一応補足しておくと、欧米発の市民運動の胡散臭さ≠強調するのは、モラトリアム当時からの反反捕鯨の常套手段で、これも出所をたどれば梅崎氏に行き着くのですが(拙記事に何度となく登場する反反捕鯨広報コンサルタント・梅崎義人氏については前回記事等をご参照)。私が常々疑問に思うのは、梅崎氏は日本捕鯨協会から一体いくらのコンサルタント料を受け取ったのかということなんですけどね。某御用学者と養鰻業界じゃないけれど、捕鯨業界から感謝の印にでっかいクジラ御殿を提供してもらっていても不思議はない気がします。
 胡散臭い組織≠ェどーーしても気になるという方には、怪しさ全開の巨大組織・日本青年会議所(JC)の工作活動に目を凝らし、ぜひ資金の流れをたどるなり何なりしていただきたいもの。

■ネット工作がバレた途端に垢消し逃亡、日本青年会議所(JC)謹製の憲法改正マスコット「宇予くん」の発言をお楽しみ下さい
http://buzzap.jp/news/20180227-jaycee-net-kaiken-uyokun/

 続いて、アベマタイムズの担当者による文と八木氏のコメントの問題箇所をひとつずつチェックしていきましょう。行頭Yを付けたのが八木氏本人のコメント。強調は筆者。それ以外も内容は大体八木氏の情報提供に基づいているのでしょうが。

(「ザ・コーヴ」受賞後)日本の捕鯨やイルカ漁に対する国際世論の厳しい見方が広がり(引用)

 日本の捕鯨やイルカ漁に対する厳しい国際世論は、たかが1本の映画の影響で一朝一夕に出来上がったものではありません。商業捕鯨モラトリアムの発効も、WAZAの追い込み猟由来のイルカ調達禁止規定も、厳しい国際世論が背景にあってのことですが、まさかシホヨス氏がタイムマシンに乗ってそれらの時代の関係者に映画を観せたとでもいうのでしょうか? バカも休み休み言え、です。
 前世紀に野生生物保全を求める運動が市民権を得て国際政治に影響を及ぼしていく過程で、商業捕鯨によるクジラの乱獲が遡上に上るのは当然の成り行きでした。詳細は拙HPの解説をご参照。

■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史 (4)モラトリアム発効と「国際ピーアール」の陰謀
http://www.kkneko.com/aa4.htm

 そんな中、今回『ビハインド・ザ・コーヴ』を評価したのは、反捕鯨国であるイギリスだった(引用)

 いやはや、盛りましたねえ。イギリスが評価したとは。今年のIWC総会では同政府が捕鯨支持に転向、捕鯨ニッポンとしちゃ万々歳じゃないですか。
 んなわけないでしょ(--;;
 前回で詳しく解説していますが、筆者が向こうに問い合わせたところ、ロンドン国際映画製作者祭はまだ日の浅いマイナーな映画祭で、英国内でも認知度が低いとのこと。会場はクラウンプラザホテルロンドンドックランズというホテル。平日15日の午後、ホテルの一室で行われた1回の上映を観た客は、せいぜい多くて2、30人じゃないですか。八木氏本人なら、実際に映画を観た観客の数字を言えるはずですが。
 しかも、TBSや東京新聞の報道のとおり、「『ザ・コーヴ』と同じプロパガンダだ」との観客の反応もあったわけです。日本国内でさえ、原爆の描写をはじめとする一連の演出に嫌悪感を感じたり、首を傾げた観客が少なくないのですから、大半の観客の反応が好意的だったとは到底考えにくいことです。
 すなわち、人口約6,600万の英国で同映画を評価したのは、同映画祭の審査員を含むせいぜい2桁、ほんの一握りの人たちでしかなかったのが事実のはずです。同映画を酷評する捕鯨推進国・日本人の数の方が多いのは間違いありますまい。アベマTVの担当者の口を借りれば、「『ビハインド・ザ・コーヴ』をボロクソにこき下ろしたのは、捕鯨国である日本だった」と言えちゃいますね。

日本の古式捕鯨発祥の地として知られ(引用)

 間違い。筆者は何度も口を酸っぱくして指摘しているのですが、ちっとも直りませんね。マスコミもですが。
 組織的な形態のいわゆる古式捕鯨が始まった発祥地は、太地ではなく尾州(現在の愛知県知多半島南部)。太地は尾州から技術が持ち込まれた後、網取式の手法を初めて編み出されたというのが有力な仮説。初期の突取式から網取式への転換が図られたのも、乱獲によって初期の対象種が激減したために他なりません。その後、太地で開発された効率的な捕獲法は土佐や九州北部等各地に瞬く間に拡散、乱獲に拍車をかける事態となりました。発祥地の尾州や、やはり伝播先の三崎などでは乱獲が祟って捕鯨自体が自滅しています。
 古式捕鯨史と太地が果たした役割については、下掲の拙記事と二次リンクを参照。

■哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html

1982年以降、大型の鯨を対象とする「商業捕鯨」が全面禁止となり(引用)

 間違い。1982年はIWC年次会議で商業捕鯨モラトリアムの決議が採択された年。実際の発効は1985年です。

町民からも「(中略)」「(中略)」と話す。(引用)

 ・・・。なんでしょうね、このグダグダな日本語は(--;; この記事を書いたWEB担当者は小学校に入り直して国語を一から勉強し直しなさい。上司なり別の担当者に記事チェックさせる作業もしていないのですね、アベマTVは。個人の日記ブログ・ツイートなら多少の粗は許されるでしょうが、これでメディアを名乗っていいんですか? 放送事業者じゃないけれど。
 これも「評価したのは英国」と同じ。太地町にだって無関心な住民もいれば、捕鯨・イルカ猟ないし三軒町長のワンマン行政を快く思っていない人だって当然いるのです。

■和歌山県太地町民の本音。
http://animalliberation.blog.fc2.com/blog-entry-122.html
■「太地町とフェロー諸島のクラクスビークの姉妹都市提携に異議」の記事
https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=1821814097875296&id=100001401694621
https://twitter.com/ishii_atsushi/status/921234334912192512
太地町の「正義」を描いているつもりかもしれませんが、イルカ漁に関わっていない太地町民たちはほとんどでてきません。ドキュメンタリー映画なので、そういう人たちが本当にイルカ漁を支持しているのか、支持しているのであればなぜなのか、を明らかにしてほしかったです。(引用)
(なお、上掲のツイートは別の映画「おクジラさま」に対する意見ですが、偏向の程度は「ビハインド・ザ・コーヴ」の方が数段上)

水産庁によると、イルカとは体長4メートル以下の鯨を指し、基本的には同種の生物だ。(引用)

 ・・・。このWEB担当者は国語だけでなく理科のリテラシーも小学校中学年以下ですな。いや、小学校中学年でも、理科好きの子は上の文のどこがとんでもなくおかしいかすぐわかるでしょう。小学校入り直してきなさい。まあ、質問を受けた水産庁の担当者もさすがに苦笑いするしかないでしょうね。八木氏に理解できるかどうかは心もとないけど。。
 一応正解を述べておくと、「(広義の)クジラは同じ分類群(下目)に属する種の総称で、イルカはそのうちおおよそ体長4メートル以下の種を指す。(狭義のクジラとして、イルカを除くクジラ下目の種を指す場合もある)」です。

捕鯨には、一般に食用肉に加工するなどを目的とする「商業捕鯨」、生活に必要な捕鯨としてIWC(国際捕鯨委員会)に捕獲枠を認められている「先住民生存捕鯨」などがある。(引用)

 まずは単純な間違いの指摘から。「商業捕鯨」の定義は完全な間違い。文を構成する「一般に」「食用」「肉に」「加工」のすべてが間違い。読んで字のごとく商業目的で行われる捕鯨のこと。部位がどこか、用途が食用かなど無関係。母船式捕鯨の場合は加工処理の工程の一部を担いますが、捕鯨の定義は加工ではありません。
 IWCによって定義されている「先住民生存捕鯨」は「生活に必要な捕鯨」ではありません。先住民の先住権への配慮から特別に認められた枠です。先住権を持つ先住民の伝統的なコミュニティの維持に不可欠な要素と認められることが重要です。その背景には、先住民に対する搾取と抑圧の歴史に対する反省があります。そして、先住民を迫害したのは西洋人ばかりではありません。私たち倭人もです。
 太地より圧倒的に長い歴史と持続性を備えていたのがアイヌの捕鯨。しかし、彼らは江戸時代から松前藩に不公正な搾取を受けたうえに、明治政府には強制的に捕鯨を禁止され、捕鯨に依存していた伝統的なコミュニティを破壊されました。それさえなければ、日本で先住民アイヌの伝統文化がきちんと尊重されてさえいれば、国際社会からも二つ返事で先住民捕鯨として認められていたはずなのに。
 のみならず、水産庁と組織を代表するIWCコミッショナー森下丈二氏らは、先住民の権利に対する認識の欠如を臆面もなく露呈してきました。実際のところ、先住民の権利擁護の取り組みにおいては、捕鯨への賛否を問わず先進国の中で日本ほど遅れている国はありません。詳細は以下のリンクをご参照。

■「原住民生存捕鯨」に関する日本政府の考え方について|GPJ
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/archives/ocean/blog/30448/
■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

Y:「国際会議で"いじめ"に遭ってしまっていて」(引用)

 おやおや、まるで国連での北朝鮮代表のようなことをおっしゃる。
 しかし、北朝鮮が国連安保理でいじめ≠ノ遭うのも、日本がICJ、IWC、CITES、各地域漁業機関の会合でいじめ≠ノ遭うのも、仕方がないことです。
 国際秩序を保つために不可欠なルールを破るのが悪いのです。
 もっとも、いじめの程度でいえば、経済制裁によって国民の窮乏・餓死に至っている前者の方が、いじめで言うなら自殺につながりかねないはるかに苛烈なレベルですし、NPT(核不拡散条約)が自衛のための核保有の権利を核大国のみに認めてそれ以外の国との間に線を引く明々白々な不平等条約であるのは否定の余地がありません。
 それに比べれば、後者はそもそも公海・南極海における高度回遊性野生動物という世界共有の財産の管理の話であり、自国の主張が通らないからといって「いじめだ!」と叫ぶのはとんだお門違いというものです。
 日本が国家間の平等を最優先の大義とする国であるならば、核兵器削減・廃絶の枠組としてNPTではなく核兵器禁止条約を推し、米国にも北朝鮮にも批准を促すべきなのです。ところが、実際に日本政府がやったことといえば、差別を容認するばかりか核大国に思いっきりおもねって、国内の被爆者と核廃絶を求める世界中の市民から深い失望を買う始末。
 八木氏は核の脅威と無縁な平和な国で、核について何も知らずに育った人間なわけではありません。何しろ、唯一の被爆国(核実験の被害者は世界中にいますが)日本の国民なのです。そればかりではありません。八木氏は自作の映画の中で広島の原爆投下のシーンをわざわざはめ込んでいるのです。筆者は核兵器禁止の取り組みに対する日本政府の後ろ向きな姿勢を八木氏が批判したのをまったく聞いたことがないのですが。
 結局のところ、八木氏の主張は「国際会議でのいじめ≠根絶しよう」ではなく、ただひたすら「私は南極産竜田揚げが食べたい!」だけなのです。そのためには原爆の悲劇すら利用できてしまう、実に驚くべき人物なのです。

■Ultra double standard of Japan's diplomacy: 100% opposite in nuclear ban and "Favorite sashimi"
http://www.kkneko.com/english/nuclearban.htm
■広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/179410385.html

Y:「日本の政治家はイエスかノーかハッキリ言えない理不尽な状況」(引用)

 これもまったく事実に反します。日本の政治家はモラトリアム当時から、一貫して、捕鯨推進の立場を明確にしてきました。特に自民党は捕鯨業界と密接に癒着した数十人の族議員連盟を抱え、調査を騙る脱法商業捕鯨を継続させ、多額の税金投入を決定してきたのです。永田町の議員の過半数が態度を明確にできない状態だったら、美味い刺身*@が共謀罪国会の最中に超特急で成立するはずがありません。族議員の何人かはこれまでIWC年次会議にも出席したり、あるいは発展途上国に出向いて援助と引き換えにIWC加盟と日本の捕鯨支持を取り付けるなど、率先して働いてきました。まあ、国際会議には業界の連中も同行してるんだから、現地で「自分はイエスかノーかはっきり言えません」なんて口にしたら、それこそ怒られちゃいますわな。2014年の国際司法裁判所(ICJ)による調査違法判決直後には、二階俊博議員(現党幹事長)をはじめとする族議員が鯨肉カレーを頬張りながら気勢を上げたことが、海外メディアでも報じられています。
 八木氏の理不尽な発言は、もはや無知・無理解というレベルではありません。捕鯨支持の内野も外野もみな知っていることについて、まるで正反対の主張を唱えているのですから。
 ただ、このぶっ飛び発言は、捕鯨サークル(鯨研・共同船舶・水産庁)だったら絶対認められない、八木氏オリジナルの持論あってのものかもしれません。

日本が行なっている「調査捕鯨」は 、頭数、年齢分布、食性などの調査が建前だ。(引用)
:「仕方なく抜け道として調査捕鯨を行っている」(引用)

 さあ、ここはきわめて重要なポイントです。
 まず担当者の間違い、調査捕鯨の説明の補足から。生息数の調査は、日本周辺の小型鯨類も含め、目視で行われます。調査「捕鯨」は必要なし。食性の調査は、調査捕鯨による胃内容物調査ではごく限定された断片的情報しか得られず、他の野生動物で普及している非致死的な代替手法の方が優れています。サンプルの年齢組成情報の収集は、日本が掲げる調査捕鯨の正当性の根拠の中で議論の余地がある唯一のものですが、現行の管理方式において不可欠≠ネものではありません。管理方式を改良・補完する手法はいくらでも考えられる中、特定のパラメータの経年変化を特定の精度で求めることだけが解だとする水産庁・御用鯨類学者の主張は、事実に反しています。ひとつ言えることは、年齢組成の変化を調べることを主目的とする経年大量致死調査事業が行われているのは、あらゆる大型野生動物の中で日本の調査捕鯨の対象種となっているクジラのみです(漁業の場合は漁業が主≠ナ漁獲物のデータが資源管理に役立てられる)。まさにサベツそのもの。
 で、問題のキーワード、「建前」「抜け道」
 これは日本の国際法違反を公然と認める発言です。
 記事中の担当者による「調査捕鯨」の説明は、少なくとも国際捕鯨取締条約(ICRW)第8条に基づく「合法的な£イ査捕鯨」の定義ではない、ということです。もちろん、「建前≠ナいいよ」なんて条文には一言も書いてやしません。
 アベマTVの担当者は、わざわざ聞くまでもないイルカとクジラの違いについて水産庁に問い合わせておきながら、肝腎の調査捕鯨の説明については何も尋ねなかったわけです。水産庁なら「あれは建前≠ナすか? 抜け道≠ナすか?」と問われたら、断固として否定するはずですから。本当に間抜けな担当者ですね。。
 では、当事者の捕鯨サークル・日本政府の見解とは相容れない八木氏オリジナルの持論とは何でしょうか?
 八木氏の一連の発言が示唆するのは、「私が決めた正義>>法」という非常識極まりない個人的信念。
 「商業捕鯨は再開しても全然おかしくない」(引用〜Y)んだ、悪いのは国際条約の方なんだ。だから、商業捕鯨はやっていいんだ、と。それがいつのまにか、調査捕鯨なんて建前の看板を下ろして今から堂々と商業捕鯨を名乗ればいいではないか、にまで昇段してしまったのではないでしょうか。もう既成事実なのだから、条約の方を捻じ曲げて、モラトリアム条項を破棄しろと。つまり、八木氏のいう「イエスかノーかはっきりしない」とは、「ノー(商業捕鯨ではなく調査捕鯨だという建前)」ではなく「イエス(これは商業捕鯨だぞ。正義は国際法ではなく我々にある!)」とストレートに叫んでほしいという、氏の願望の現われのように見受けられるのです。国会議員試写会などでさんざんちやほやされたものだから、政治家も官僚も同調してくれると本気で信じていそうですが。
 平然と「抜け道」発言をしてしまう辺り、八木氏は遵法精神の非常に希薄な人物に見えてしまいます。いやはや、シーシェパードも真っ青。
 というより、「ワトソンだって犯罪者なのに逮捕されないじゃないか!」「シホヨスだって立入禁止の場所に入ったじゃないか!」という憤怒が、八木氏をしてここまでの狂気に駆り立てたのでしょうけど。
 違法なことをされたんだから、こっちだって国際条約の抜け道を探るぐらい当然のことじゃないか──と。
 「映画には映画を」「嘲笑には嘲笑を」「サベツにはサベツを」「嘘には嘘を」「違法行為には違法行為を」「原爆投下には南極海捕鯨を」──。
 「目には目を」「やられたらやり返せ」
 不満の捌け口を求めるネトウヨたちの賛同が集まるワケです。
 このうち、「サベツにはサベツを」という八木氏の狂信は、次に取り上げるデイリー新潮記事の末尾のコメントの中に明瞭に示されています。次回で解説しますが。
 さて、日本政府は中国・ロシア・韓国との領土紛争を念頭に、国際法を遵守する姿勢を国際社会に対して前面に打ち出しています。政府関係者が堂々と「国際法は破っていいんだ!」なんて口が裂けても言えるはずがありません。鯨研と共同船舶はただの事業者として粛々と畏まるのみ。
 もっとも、日本捕鯨協会は、過激で支離滅裂な主張を振りまく竜田揚げジャンヌダルクを広告塔として精一杯利用しようと考えているかもしれませんが。そう、まさにデマ屋として価値のある存在だと。
 確かに、日本の調査捕鯨はICJ判決後に始まった南北の新調査捕鯨NEWREP-A/NPも、国際司法の場で審判を受ければ違法と判定されるのは議論を待たないでしょう。イワシクジラ持込のCITES違反も然り。
 そうはいっても、日本政府の公式の立場はあくまで合法=B調査捕鯨そのものから国連管轄権受諾宣言の書き換えまで、あの手この手を駆使しながらも、ギリギリのところで国際司法上の手続を踏まえる(ふりをする)ところまでは譲らなかったわけです。一線を越えたことを認めたうえで「建前で何が悪い」とふんぞり返る真似まではしませんでした。今までのところは。
 官僚の中で唯一うっかりポロッと本音を漏らしてしまったのが、本川一善元農水事務次官(国会発言当時は水産庁長官)でした。彼のポカのおかげで日本のICJ敗訴が決定付けられたわけですが。霞ヶ関のエリートに二の轍を踏みたがる者がいるとは考えにくいことです。
 しかし・・一方で、「ビハインド・ザ・コーヴ」には海外上映に外務省予算が新年度から付くことが決まっています。
 もし、公的な支援を受けている人物に公の場での説明とは異なる本音を代弁させているとすれば、日本政府は二枚舌の謗りを免れないでしょう。たかが美味い刺身≠ナ国際ルールを無視する国に、中国や北朝鮮を非難する資格はありません。逆に、たかが美味い刺身≠ナ国際法を蔑ろにすることが本当に出来てしまう国であれば、一体何をしでかすかわかったもんじゃないと、
 その意味で、八木氏の発言は狂信者の妄言として片付けるだけではすまないものです。
 一方で、「中立派」だったり「捕鯨擁護派」だったりクルクルと忙しい八木氏らしく、最後に「『違法なんだ』(中略)という誤った情報が」(引用)とも述べています。アベマタイムズ記事中では端折られていますが、番組中では八木氏は非常に問題のある発言されていました(全部問題っちゃ問題なのですが)。というのも、ICJからは単に見直しを求められただけで、数を減らしたことでICJに応えた=Aだから違法ではないという趣旨に受け止められるものでした。
 もちろん、これは事実に著しく反します。日本の調査捕鯨(JARPAII)はICJにより国際法違反であるとはっきりと認定されたわけですが、ICJに見直しを求められ、それに問題なく対応して違法性を解消できたのであれば、国連管轄権受諾宣言を書き直してICJへの再提訴を封じる必要などまったくありません。しかし、日本がやったのは、新調査捕鯨に対する国際司法判断を回避する策を講じることだったのです。国際法学者・神戸大教授は次のように批判しています。

明らかに南極海での調査捕鯨の再開は国際法的に危うい、少なくともICJに持って行かれるのはいやだ、というメッセージです。「法の支配」を標榜する日本としてはいかがなものでしょうか。(引用)

 八木氏の言い草は、まるで単に捕獲数が多すぎたのがICJによる違法性の判断の根拠であったかのようですが、実際の判決内容はまったく異なります。鯨種毎のサンプル数の相違(具体的にはクロミンククジラとナガスクジラ及びザトウクジラ)を日本側が科学的合理的に説明できなかったのみならず、日本側証人として法廷に立ったノルウェーの鯨類学者・オスロ大名誉教授ラルス・ワロー氏も日本側の不合理性に同意したからです。判決当時、一部の捕鯨推進派からは「数が少なすぎたから違法だというなら、増やせばいいじゃないか」という意見も飛び出していました。実は、当の八木氏もプロモーションの中で「おかしい」という発言をしていたんですがね・・。もうすっかり忘れてしまったんでしょう。
 判決の詳細については以下をご参照。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html

 実際、NEWREP-Aは捕獲数を333頭に減らしただけで、ICJの指摘に応えるどころか、クロミンク1種に絞って数を減らしたため、不合理性が一段と増したことになります。だからこそ、日本側は国連管轄権受諾宣言書き換えによる逃げの一手に出ざるを得なかったわけです。
 NEWREP-A/NPにしろ、イワシクジラ持込にしろ、国際条約のICRWやCITESに違反する可能性が濃厚ながら、国際司法による判断がまだ下されていないというだけ。この点については次回もさらに取り上げますが。
 八木氏曰く「誤った情報」のうち、水銀問題については筆者個人は正直関心がありません(本人の意思によらず児童が学校給食等で無理やり食わされる場合を除いて)。厚労省が「妊婦は2ヶ月に1度以上食べないこと」と通達を出すほど水銀濃度が高かろうと、フェロー諸島で疫学研究により母親のゴンドウクジラ摂食による水銀暴露と小児の神経症状への影響の相関が報告されようと、住民の毛髪から全国平均の40倍の水銀が検出されて国水研が調査に乗り出したものの全町民ではなく希望者のみだったため疫学的な影響評価が出来ずじまいであろうと、食べたいんだという奴は自己責任で好きにすればいいことです。捕鯨の是非と「食っていいか悪いか問題」はまったくリンクしないのですから。
 気になるという方は、上掲した激コロまとめ中のリンクをご参照。
 というわけで、残りの「誤った情報」について。

Y:「農産物にも税金が投入されているのに、なぜ捕鯨だけ突くのかという、アンバランスさもある」(引用)

 まずこの発言からわかるのは、農産物への補助金がどのようなものか八木氏が何も勉強しておらず、日本の農業政策に恐ろしく無知であることです。本当に「竜田揚げ食いたい」だけで後は頭空っぽなのですね、この御仁は・・。
 稲作農家への補助金は減反(生産調整)や飼料米への転換に応じて支給されるもの、つまり、地産地消・主食の米の生産維持という、きわめて重要な日本の食文化に貢献するのをやめた¥鼾に金が払われる仕組み。しかも、今年度からは減反廃止、さらにTPP参加により一部の重要品目を除き関税も撤廃されます。コメも輸入枠が設けられたうえ、経団連と輸出国の圧力に屈するのは時間の問題。農業者は優勝劣敗の苛烈な国際競争にさらされながら、自助努力で対応を余儀なくされることになります。
 ここで、来年度農水予算(概算決定)をもとに、雑穀生産と捕鯨のケースを比較してみましょう。
 雑穀生産農家には、環境保全型農業直接支払交付金の名目で10a当り3,000円が支給されます。雑穀の生産農家戸数は全国で9,947戸、作付面積は8,367ha(2015年)。先の交付金を1戸当りに換算すると2万5千円程度。この他自治体毎の産地交付金等を合わせても、せいぜいその倍程度。地方自治体の税金投入を含めるとしたら、太地町は捕鯨・イルカ猟関連にさまざまな名目で税金を使っているわけですけど。
 これに対し、捕鯨対策予算は年間約51億円。鯨研・共同船舶・沿岸捕鯨会社の就業者数3百数十名で割れば、使われる国の税金は関係者1世帯当り実に約1,400万円。事業者単位で見れば、沿岸捕鯨事業者各1億円、共同船舶と鯨研の2者で45億円ということになりますが。比較にもなりません。
 高々400年の歴史しかない、ローカルな余禄≠ナしかない古式捕鯨の鯨肉生産とは異なり、雑穀は古来から日本人の9割の人口を支えてきた主食でした。伝統食としては南極産美味い刺身≠謔闊ウ倒的に格上。しかし、採算性と過疎、それに対する行政の無策によって生産量は激減、この百年で栽培面積は千分の1以下にまで減少しました。伝統よりカネを優先する日本の農業政策故に。
 そして漁業。真田氏、勝川氏はじめ漁業問題に詳しい専門家が再三にわたって述べていることですが、捕鯨対策予算は水産資源管理・調査事業のためのトータルの予算を上回っているのです。全国の漁業者を置き去りにして、海面漁業生産の1%に満たない一握りの特定事業者のために、莫大な税金が使われているのです。これほどアンバランスなことはありません。
 八木氏が「他の水産物」と言わず「農産物」と言ったのは、その点を誤魔化す意図もあったのでしょうが。
 他の一次産業と捕鯨との間に厳然として存在する待遇格差、雑穀や漁業の現状については、以下の資料もご参照。上掲の数字について確認したい方は、農水省の予算・センサス関連の資料をチェックしてください。

■美味い刺身*@は廃止を!
http://www.kkneko.com/sasimi/p01.htm

 今回はこの辺で。次回は一度削除されながら復活したデイリー新潮トンデモ記事について解説します。


◇本当に中立な日本人の捕鯨に対する意見・その2

 これも前回の続き。2009年にWEDGEに掲載された慶応大学大学院教授・谷口智彦氏の卓見を再度ご紹介。前回ご紹介した市民・研究者の方々の意見同様、谷口氏は日本の捕鯨文化そのものについてははっきり肯定の立場です。にもかかわらず、元外務官僚としてあくまで日本の広義国益の観点から、冷静にこの問題を分析しておられます。
 以下、同記事の一部を引用させていただきます。多額の税金を注ぎ込まなければ成立しない経済的な不合理性については、谷口氏の指摘した時点よりさらに拡大しましたが、下掲は今日まで続く日本の捕鯨政策の膠着ぶりを的確に言い当てています。やはり八木氏に爪の垢を煎じて飲ませたいもの。

 このように、捕鯨に託した日本の国益とは、経済面を見る限り既にあまりに小さい。これが、議論の出発点に来るべき認識である。我が国が守ろうとしているのは、何か経済とは別の価値だと考えるほかない。
 日本側の姿勢は長年のうち固着を重ね、容易な転換を許さない。
 捕鯨関係者を突き動かしてやまぬ思いとは、反捕鯨勢力との格闘を続けるうち身についた「大義は我にあり」とする信念であり、正論を譲るまいとする正義の感情である。
 「正しいものは正しい」ゆえに、妥協の余地はない。非妥協的姿勢を貫くことそれ自体が価値であり、その保全は国益だと、そう言わんとしているかに聞こえることすらある。
 この状態で、関係者は自ら進んで旗を下ろせない。経済学で言うサンク・コスト(埋没費用)の投下残高がかさみ過ぎ、方針を変えるスイッチング・コストが禁止的に高止まりした状態だと見立てればよい。
 下から内発的に膠着を破るのが困難な場合は、政治が外発的に、トップダウンで状況を動かすのを期待したい。が一般に利害当事者の票田が小さい場合、政治家の大勢はあまり関心を払わぬ中で、「声の大きい少数派」が影響力を奮いやすい。民主主義の逆説だが、この傾向は捕鯨をめぐる政治過程に当てはまる。
 似た構図がマスコミにある。捕鯨への一般的無関心を映して普段は何も書かず、国際会議の対立や、日本に対する攻撃といった派手な話だけ記事にしがちだ。政治家も世論もいつしか「熱く」なり、国益をめぐる冷静な検討は省みられない。(引用)

■メディアが伝えぬ日本捕鯨の内幕─税を投じて友人をなくす
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/721
posted by カメクジラネコ at 11:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系