2018年01月19日

発想は瓜二つ、持っちまえばこっちのもの>氛沒本の新捕鯨母船と北朝鮮の核

 昨年11月、ワシントン条約(CITES)常設委員会で象牙やウナギの問題とともに日本の違法な調査捕鯨が槍玉に挙げられて以降、クジラに関する目立ったニュースはありませんでしたが、今朝(1/19)になって読売新聞がスクープ記事を発表しました。

■調査捕鯨母船、新船導入へ…事業の継続を明確化 (1/19,読売)
http://www.yomiuri.co.jp/national/20180118-OYT1T50211.html

 おりしも豪ターンブル首相訪日のタイミング。

■豪首脳会談及びマルコム・ターンブル・オーストラリア連邦首相の国家安全保障会議(四大臣会合)特別会合出席 (1/18,外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/au/page1_000470.html

ターンブル首相から捕鯨について問題提起があり,安倍総理より,日本の立場に言及した上で,捕鯨問題が良好な二国間関係全体に悪影響を及ぼさないように努力すべき旨述べ,海上における過激な妨害行為の予防や実効的な対応を求めました。(引用)

 よくまあぬけぬけとこんな言辞が吐けたものです。
 良好な二国間関係全体に要らぬ悪影響を及ぼしているのは、国際法に抵触する美味い刺身*レ的の調査捕鯨そのものです。しかも、日本が行っているのは当の豪州が領有権を主張している海域への侵犯行為に他ならず、日本海の北朝鮮密漁船や東シナ海・南シナ海の中国海軍と国際法上イコールの主権を脅かす行為を、よりによって安全保障における協調が不可欠な米国に次ぐ同盟相手に対してやっちまっているわけです。これほど大きな矛盾、許しがたいダブスタはありません。

■Ultra double standard of Japan's diplomacy : Territorial disputes issue and Japanese research whaling
http://www.kkneko.com/english/territory.htm
■南極海じゃ強行するくせに北方領土じゃやっぱり捕鯨はできない!! ロシアにゃヘイコラ、AUS&NZにはアカンベエ、売国水産庁の超ダブスタ外交
http://kkneko.sblo.jp/article/179086088.html

 水産庁/捕鯨サークルは今回さらに、良好な二国間関係全体にとてつもない悪影響を及ぼすことは必至の母船更新をぶちあげたわけです。
 ここへきて豪中関係の悪化も報じられていることから、捕鯨ニッポンの強気の外交はいわばそこに便乗した悪ノリとも言えますが、訪日した首相にわざわざあてつけるかのように新捕鯨母船のプレゼントを送りつけるようなやり方をすれば豪州国民の対日感情を害するのは確実で、中国との比較においても日本は傲慢∞卑劣∞狡猾という印象が強く植え付けられることになるでしょう。
 豪州緑の党のWhish-Wilson議員も、あまりにも弱腰すぎるターンブル首相の姿勢を以下のように批判しています。


 さて、それでは読売記事の検証に入りましょう。
 まず、最初の小見出し「高齢の船」、母船更新の背景にある日新丸の老朽化について。
 母船更新問題については、前回の年末の記事の中でも取り上げたところ。美味い刺身*@制定から公明党の捕鯨族議員横山信一氏の国会発言に至る一連の経緯により、捕鯨サークルがこの間画策していたのは既に明らかだったわけですが。
 で、拙記事中で詳細に解説しているとおり、船の老朽化は日新丸に限った話ではないのです。これはトンチンカン族議員横山氏自身が取り上げたとおり。本物の伝統漁業を担う全国の多数の零細漁民には自助努力を求めるばかりで事実上放置しておきながら、共同船舶1社だけが破格の厚待遇を受けることになるわけです。予算配分を考えても、日本の水産業全体にとってこれほどの不幸はありません。詳細は前回の記事をご参照。

■北朝鮮化の道を突き進む捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/181930453.html

 次の小見出し「対シー・シェパード」、新船に求められる仕様について。記事では鯨研の2011年と2013年の2回の被害、今年の調査団長・鯨研の御用学者坂東武治氏の「妨害活動に負けない、頑強で足の速い船が必要だ」とのコメントが紹介されています。
 これは坂東氏らサークル関係者によるきわめて悪質なミスリード。
 ひとつは、年間10億円単位の巨額の税金を投じた妨害対策とその効果の実相との大きな矛盾
 以下は当のSSCS自身の情報ではありますが、昨年度には通信衛星を用いて船の位置を把握されうまくまかれたため、1度ヘリからの空撮に成功したものの、まともに日本の捕鯨船団を追跡することさえできませんでした。それがワトソン代表の嘆き節、今年度の妨害中止声明につながったわけです。
 詳細は以下の拙ツイログ参照。


 つまり、船速なんて関係なし
 純粋に妨害対策の見地からすれば、実効的・効率的な妨害対処法をこれで確立できたということになるでしょう。
 その2。SSの「オーシャン・ウォーリアー号は最高速度が時速40キロ超」。実際は25ノット(時速にすると約46キロ)。
 「日新丸の2倍近い」ともありますが、標準的な漁船・貨物船はそもそも20ノット以下。それ以上速度を上げても燃費が落ちて不経済なだけ。
 「妨害活動に負けない足の速い船」、つまり25ノット以上にしようとすれば、ただでさえべらぼうに高い南極産鯨肉の環境負荷をさらに押し上げることになります。
 また、海保の巡視艇並の高速にでもするならいざ知らず(それはそれで「バカも休み休み言え」ですが)、日新丸より少しばかり船足を速めるだけで「妨害に負けない」という保証は何もありません。膨大な公費の投入がそれによって実際に回避できるリスクに対してあまりにも見合っていないのです。対費用効果の検証不足は近年の日本の政策全般にいえることですが。
 逆に、速力に頼らない効果的な妨害戦術を編み出した以上、その必要もないはずなのです。
 坂東氏の科学者にあるまじき根性論的な発言は、何重にも不誠実といわざるをえません。
 その3。仮に捕鯨サークルの言うとおり、船速が妨害対策の要だとしても、新母船を25ノット以上に上げさえすれば「それで安心」などとはたして言えるでしょうか?
 例えば、26ノットに設定したとします。鯨研と同じメンタルのSSCSは、「じゃあうちは27ノットの船を新たに調達しよう」ということになるでしょうね。仮に実力行使が復活するとしての話ですが。
 実際のところ、今回の読売報道で、豪州国内の捕鯨をめぐる議論が活発化し、軟弱な自由党政権があてにならないという理由で、SSCSが支持と寄付金をさらに集めるのはもはや不可避かもしれません。
 そうなったら、またぞろ多額の税金をつぎ込んで、作ったばかりの新母船に更なる改造を加えますか?
 30年間続く、終わりのない軍拡競争の始まり。国民には重い負担がのしかかるばかり。
 延々と繰り返される、ネトウヨのためのエンタテイメント・南極海プロレスショー。
 まさにそれこそが捕鯨サークルの狙い目なのでしょうが。
 少なくともオーストアリアやニュージーランドとの主権侵害問題は発生しなくて済む沿岸調査捕鯨では、でたらめなランダムサンプリングがIWC科学委員会で問題視されましたが、南極海でもSSとの追いかけっこによって、ただでさえ圧倒的に乏しい科学性・客観性がさらに減じることを余儀なくされるでしょう。
 国民の負担も上がり、環境負荷も上がり、国際社会の反発も高め、科学性の方はますますゼロに近づく──ひたすら国際法を蔑ろにするだけの科学を擬装した商業捕鯨。元水産庁長官本川氏いわく「美味い刺身≠フ安定供給のため」の。
 3つ目の小見出し「反発も」では、IKAN事務局長倉澤氏とともに、外務省幹部の「反捕鯨国を強く刺激することは間違いない」とのコメントも紹介されています。
「良好な二国間関係全体に悪影響を及ぼさない」ための「努力」が、特定事業者とどっぷり癒着した水産庁と族議員のごり押しのせいで水の泡と化しかねないことを、外務省幹部も自ら認める形といえるでしょう。
 なお、記事中にある前回10年前に頓挫した経緯は以下をご参照。記事中では「2005年頃」とありますが、GPJが造船会社へのアンケートを実施したのは2007年。これも記者の間違いというより、取材したサークル関係者自身がうろ覚えだったということですが。


 なぜ捕鯨サークルは「千害あって一利なし」の母船更新にここまで拘泥するのでしょう?
 答えは単純。既成事実化です。
 「莫大な税金を投じて建造してしまった以上、運用するしか──南極海に行き続けるしかないんですよ」と。
 もんじゅと同じ。
 あるいは、北朝鮮が「保有しちゃった以上、核保有国と認めろ」と言っているのとまさに同じく、「母船作っちゃった以上、商業捕鯨再開状態を認めろ」と。
 要するに、「もうあきらめろ」と国際社会を脅そうとしているわけです。
 正しい国際法上の手続を一切踏まえることなく。
 国際司法を蔑ろにする程度において、中国も北朝鮮もかすむほどの傲岸さ。何しろ、その理由は南極産美味い刺身≠ネのですから。
 こんな暴挙を国際社会は断じて許してはなりません。
 オーストラリア・ニュージーランドがEUや南米諸国等と協調して国際海洋法裁判所に違法な捕鯨を訴えれば、日本は今度こそ確実に詰みます。

・ICJ判決の無視
・CITES違反
・IWC科学委員会・専門家パネルによる数々の勧告の無視
・北方領土と豪サンクチュアリの二重基準

 この4点セットにより、日本の調査捕鯨には再度国際法違反の審判が下され、完全に息の根を止められるでしょう。
 前回、ICJでの敗訴を予想したときは「可能性が高い」と注記しましたが、次の敗訴は100%間違いなし。
 必要なのは各国政府の勇気と連帯だけです。
posted by カメクジラネコ at 18:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系