2017年12月24日

北朝鮮化の道を突き進む捕鯨ニッポン

 年末ということで、今回はこの一年の捕鯨をめぐる動向を、各記事の紹介と合わせて振り返ってみることにしましょう。

 一言で言うなら、2017年の捕鯨ニッポンはとある国≠ノますます似通ってきました。
 そう・・世相を表す今年の漢字北≠フ理由となったあの北朝鮮に。
 余談ですが、この一字にした残りの理由はコジツケもいいところ。災害や不作を一部地域に限定するのは不合理ですし、野球だの競馬だの平和時の話題を盛り込むのも矛盾しています。まあ、国内でもう限界に達している政治経済の歪みから国民の目を逸らす役割を見事に果たしてくれたということでしょうね・・。
 捕鯨ニッポンと北朝鮮の相似性については、これまで拙ブログで再三取り上げてきたところ。

■北は人工衛星という名のミサイル、日本は調査捕鯨という名の商業捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/60752017.html
■IWC決議違反の調査捕鯨は国連決議違反の北朝鮮のミサイルと同じ!
http://kkneko.sblo.jp/article/96646061.html

 オーストラリアやニュージーランド、南米等南半球諸国にとって、北≠ェ指し示す国とはすなわち捕鯨ニッポン。
 国際社会の批判に一切耳を貸すことなく、独りよがりの理屈を並べて公海での調査捕鯨を強行する姿勢は、まさしく核開発・ミサイル発射実験を重ねる北朝鮮のそれと瓜二つ。
 さらに、捕鯨ニッポンの独善性・傲慢さは、今年一年世界を引っ掻き回したもう1つの国、トランプ政権の米国にも酷似しています。
 つまり、北朝鮮と米国の悪いところをドッキングさせたのが今の捕鯨ニッポンと言っていいでしょう。
 もっとも、マスコミの偏向に関しては、米国よりやはり北朝鮮の方に近いといえそう。本来あるべきジャーナリズムとしてのチェックの仕事を投げ出す忖度≠ヤりは、専制国家の北朝鮮より一層たちが悪いですけど。

■南極海捕鯨プロレスに異変!?/北方領土問題とクジラ
http://kkneko.sblo.jp/archives/201701-1.html

 北≠ニいえば北方領土=B上掲記事のもう1つのトピック。
 北方領土交渉と日本の捕鯨政策の間には、あまりにも大きな隔たりがあります。自国の領土を侵害されている被害者≠ニしてロシアや中国・韓国・北朝鮮に対して憤っている方々には、同じ日本が南半球で友好国に対して働いている行為がお世辞にも公正・公平とは言えない事実に、ぜひ目を向けてほしいもの。

■南極海で強行できても北方領土で捕鯨はできない!? 売国水産庁の超ダブスタ外交
http://kkneko.sblo.jp/article/178977362.html
■南極海じゃ強行するくせに北方領土じゃやっぱり捕鯨はできない!! ロシアにゃヘイコラ、AUS&NZにはアカンベエ、売国水産庁の超ダブスタ外交
http://kkneko.sblo.jp/article/179086088.html
■Ultra double standard of Japan's diplomacy : Territorial disputes issue and Japanese research whaling
http://www.kkneko.com/english/territory.htm

 つい先日も、日本海における北朝鮮の漁船の違法操業が話題になりましたが、これまた日本が南半球で犯している侵犯行為にそっくり当てはめることができます。海保のやったのと同じ実力行使に臨んだのは、豪政府ではなくSSCSではありましたが・・。詳細は下掲ツイログ参照。


 そしてもうひとつ、やはり北朝鮮とも密接に関係する核≠ノついて。
 被爆国として核なき世界を切に願ってきた日本の市民にとって、今年はひとつうれしいニュースが。核廃絶に向けてイニシアチブを取り、核兵器禁止条約の採択に大きく貢献した市民団体ICANがノーベル平和賞を受賞したのです。
 それに比べ、日本政府と核抑止論信奉者たちの、核大国へのへつらいぶりの情けないことときたら・・。
 北方領土−豪サンクチュアリダブスタ問題と同様、政府の非核外交と捕鯨推進外交の間には途方もないギャップが存在します。ついでにいえば、反反捕鯨論者の唱える奇妙なビョウドウに殺せ§_は、通常兵器を口実に核保有を正当化するのと同質であり、鯨肉食料安保論も北朝鮮の「自衛のための核」という主張と何ら変わりありません。

■広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/179410385.html
■Ultra double standard of Japan's diplomacy: 100% opposite in nuclear ban and "Favorite sashimi"
http://www.kkneko.com/english/nuclearban.htm

 実は、ICANにつながる国際的な反核運動の先駆けとなったのは、日本では反捕鯨運動の代名詞にされ評判の悪かったNGO・グリーンピースでした。

■「ベトナム戦争」と「核問題」に直結する本物の陰謀≠暴き、かけがえのない日本の非核文化をサポートしてくれた「グリーンピースの研究者」と、竜田揚げブンカのために「広島長崎の虐殺」を掲げながら贋物の陰謀≠ノ引っかかったトンデモ映画監督
http://kkneko.sblo.jp/article/174248692.html

 広島・長崎、そして核実験に翻弄された世界各地の市民と連帯し、絶大な権力をふるう核大国にひるむことなく立ち向かったICANやGPとは対照的に、南極産美味い刺身≠食いたいという欲望のために被爆の悲劇を利用し、永田町・霞ヶ関の権力者をパトロンに稚拙なプロパガンダ映画を拡散したのがこちらの御仁。

■「ビハインド・ザ・コーヴ」八木監督より怪文書%ヘく
http://kkneko.sblo.jp/article/180026016.html
■「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く〜いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えたトンデモ竜田揚げプロパガンダ映画
https://togetter.com/li/941637

 まあ、捕鯨協会のブレインとして世論操作を仕掛けた元国際ピーアール・梅崎義人氏の口車に乗せられ、広告塔として利用された可哀相なヒトではありますが・・。
 「裏コーヴ」に遠慮する形で今年ようやく公開となったもうひとつのドキュメンタリー映画「おクジラさま」。
 捕鯨族議員の代表格で和歌山選出の暴言キャラ鶴保庸介氏に向かって、佐々木監督が「日本人のずるさも描く」と言い切った点は、クリエーターとして見上げたものだと思います。
 ただ、残念ながら映画自体はクラウドファンディングに頼ったことも手伝ってか、日本の捕鯨・イルカ猟の負の側面、ずるさ≠ノ十分斬り込めなかったのが惜しまれます。「おクジラさま」評については他所に譲るとして、ここでは佐々木氏と対談した津田大介氏の認識の浅さ≠ノついて指摘しておきます。
 正直、ICJ判決を「炎上」と表現してしまったのは、ジャーナリストとしてあまりにザンネンというほかありません。リベラル方面で受けのいい津田氏の無知・無見識が捕鯨問題のみにとどまっていてくれればまだ幸いなのですが・・。詳細は下掲拙ツイログ参照。


 いわゆる著名人でザンネンなヒトたちは他にも。ある意味、捕鯨問題は隠れナショナリスト≠炙り出す格好のリトマス試験紙といえますが。

■捕鯨デマまたもや拡散〜蔓延する捕鯨歴史修正主義
https://togetter.com/li/1171806
■「捕鯨がオランウータンを救う」なんて冗談キツイよ
https://togetter.com/li/1099173

 ザンネン度=脳ミソ竜田揚げ度≠測定してみたいという方は、ぜひ下掲の診断テストでチェックしてみてくださいね。パート1も合わせて拡散ヨロシク。

■「捕鯨ヨイショ度」診断テスト・パート2
http://www.kkneko.com/sindan2.htm

 さて、外野の話はこの辺にしておきましょう。2017年は、国際司法裁判所(ICJ)による日本の調査捕鯨違法判決後に捕鯨サークル側が最も積極的な動きを見せた年でもありました。
 まずは太地のイルカ猟関連では大きなトピックが4つ。新江ノ島水族館と下関海響館のJAZA脱退、そしてシワハイルカ・カズハゴンドウの2種の新規捕獲枠追加、フェロー諸島クラクスビークとの姉妹都市提携、中国マリンリゾートとの提携。詳細は下掲拙過去記事およびツイログをご参照。

■太地−イルカ−水族館騒動リターンズ
http://kkneko.sblo.jp/article/179421325.html
■イルカビジネスで胃袋を拡げる太地とエコヒーキ水産庁
http://kkneko.sblo.jp/article/179432844.html
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-170821
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-170905

 これらはいわば、硬軟2つの映画を後押しに、太地が一気に攻勢に出た結果といえそうです。今年太地町では森浦湾の生簀計画や研究都市構想につながる道の駅も完成。IWC総会訪問団のビジネスクラス利用ではありませんが、豪華な公衆トイレは、永田町の族議員とのパイプを武器に水産庁を意のままに動かす三軒氏のやり手町長ぶりを物語っています。と同時に、国への補助金と長期展望のない官主導ビジネス頼みで、日本中の過疎地域の地方自治体が抱えるのと同じ構造的な問題に対する根本的解決になっていないことも象徴しています。以下のIKAN記事もご参照。

■太地もうで(1)イルカ生息調査の必要性を説明
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2017/10/post-9a93.html
■太地もうで(2)道の駅/公衆トイレ/地方都市における福祉
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2017/10/post-994b.html

 象牙問題への取り組みでは、日本政府とは対照的に、国として国際社会への協力姿勢を打ち出し、都市を中心に市民の環境問題・動物福祉問題に対する意識も日本以上に高まってきた中国のこと。エンリッチメントを重視する動物園・水族館の世界的な流れと真逆を向く日本流が受け入れられる保障は何もありません。実際、最近の中国メディアは日本の捕鯨問題についてむしろ欧米に近い論調での報道が目立ちます。

■2017年。和歌山県太地町から中国へ売り飛ばされた可哀相なハンドウイルカはなんと約100頭!肉にするより遥かに大儲けできる水族館への生体販売を正当化する恥さらしの日本。中国でも日本のイルカ猟の実態に気づきはじめているというのに。
http://animalliberation.blog.fc2.com/blog-entry-113.html
■太地イルカ漁をめぐる論争、中国が新領域に
https://cetajournal.net/ja/%E5%A4%AA%E5%9C%B0%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%AB%E6%BC%81%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%90%E3%82%8B%E8%AB%96%E4%BA%89%E3%80%81%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%8C%E6%96%B0%E9%A0%98%E5%9F%9F%E3%81%AB/

 こちらは台湾メディアのオピニオン記事。

■你付的門票錢,就是促使海洋公園殘忍對待海豚的最大經濟來源

 太地の捕鯨・イルカ猟に乱獲・規制違反体質が根深く染み付いていることをまざまざと見せつけたのが、新たに捕獲枠を得た2種の枠超過とリリース個体の死亡でした。この件は、動物虐待や密猟野鳥の違法飼育等の告発で定評ある日本国内の動物保護団体LIAが告発、セタベースにも記録されました。LIAにしてみれば、太地のイルカ追い込み猟が、違法な野鳥捕獲・飼育の温床となっている啼き合せ≠ニ同質の悪しきデントウブンカ≠ニみなされるのも当然のこと。
 開いた口が塞がらないのは、太地の(事実上の)オーバーキルを水産庁が追認する形で増枠したこと。クロマグロでは枠超過分を他県分から持ってくる振り替えの裏技≠使い、メディア・関係者から批判を浴びましたが、漁期中に規制を形骸化する身も蓋もないまねまでやってのけたのは、水産行政史上およそ前例がないはず。これではまさにニャンコに鰹節の番をさせるようなもの。
 海外から批判を浴びている今こそ襟を正して節度をアピールする必要があるはずなのに、来年まで待つ最低の忍耐すら示すことができない、およそ自制・自律という概念からかけ離れているのが太地のイルカ猟だと、改めて世界に知らしめてしまったわけです。同時に、水産庁にはまったく管理能力が欠如しているということも。詳細は下掲ツイログ参照。


 沿岸捕鯨に関しても同様に大きな変化がありました。それは今年から新たに加わった北西太平洋調査捕鯨(NEWREP-NP)沿岸調査の網走沖と八戸沖、そしてイワシクジラの増枠。ICJ判決直後のJARPNU変更(縮小)理由との圧倒的な矛盾、日韓による混獲が止まらず絶滅が危惧される希少なミンククジラJ系群を事業者への配慮からターゲットとしたこと、世界遺産知床でのWW事業に水を差すこと、後述するCITESの規約違反が指摘されるイワシクジラを増枠したことなど、国際法に対する不遜な態度と反保全的姿勢において、南半球の自然・文化に対する侵襲性を有するNEWREP-Aとは別の意味で、同計画はともかく悪質。
 蓋を開ければ、網走沖ではウォッチング船を偽装する卑劣な手口を用いたうえに、下手糞な砲手が狙いを外して致死時間を引き延ばす有様。八戸沖では強欲に対するオナイジの罰が当たったのか3頭に終わり、科学的にもまったく無意味でずさんな計画だったことが露呈する始末。

■史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/177973131.html
■八戸の恵比寿神:八戸太郎/オナイジを殺す捕鯨サークル
http://kkneko.sblo.jp/article/180535962.html

 今年最大の捕鯨関連トピックといえるのが、この6月の荒れた国会であれよあれよという間に成立してしまった美味い刺身*@。安保法制・共謀罪法等に比べれば国民生活・権利に直結するとはいえませんが、むしろ国民の無関心に便乗して特定の事業者に異常なまでの便宜を図る、まさに稀代の悪法です。
 超党派でこの悪法を通した立役者といえるのが、FCCJ記者会見の場で真逆の主張を開陳してしまった自民党・江島潔議員、そして国民を裏切って安保法反対の旗をあっさり降ろし希望の党党首に収まった玉木雄一郎議員。玉木議員に至っては「捕鯨国の多くはアフリカやカリブ諸国」という、外野にもあまり見受けられないトンデモな珍説をぶってしまうほど当の捕鯨問題について驚くほど勉強不足な御仁。しかも獣医出身なのだから聞いてあきれます。獣医出身の捕鯨族議員といえば自民党・山際氏も該当しますが。

■美味い刺身*@案は廃案に!
http://kkneko.sblo.jp/article/180052125.html
■美味い刺身*@は廃止に!
http://kkneko.sblo.jp/article/180066359.html
■種子法廃止と捕鯨新法──美味い刺身≠ナ国民の目を欺く売国国会議員たち
http://kkneko.sblo.jp/article/180245823.html
■ちぐはぐ族議員とグルメ好事家官僚が明かした美味い刺身*@のデタラメ
http://kkneko.sblo.jp/article/180420343.html
■美味い刺身*@は廃止を!(プレゼン資料)
http://www.kkneko.com/sasimi/p01.htm

 なお、今月7日には公明党の族議員横山信一氏が捕鯨母船の更新について発言。実際、新年度の捕鯨対策予算のうち、約26億円から約38億円へと大幅に増額された円滑化事業の中に代替母船の検討が含まれています。さっそく美味い刺身*@の裏付けを得た格好。新母船建造問題については上掲載4番目のブログ記事で軽く触れていますが。
 下掲リンクの会議録を読めばわかるとおり、横山氏の発言はFCCJ会見時の自民党江島氏と同様、矛盾に満ちていました。というのも、彼は捕鯨母船に関する質問の直前に漁船対策そのものについて問うていたからです。

■第195回国会 農林水産委員会 第3号 平成29年12月7日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/195/0010/19512070010003a.html

 水産庁長官答弁にもありますが、全国の漁業者はいま、漁船の老朽化と安全性・収益性の悪化、代船と維持費の高コスト化と漁業者側の体力不足という、深刻な構造的問題を抱えています。しかし、それに対する水産庁の施策は、外郭団体を活用したリース条件の緩和や、オーダーメイドから統一仕様の量産品への移行によって建造費抑制をはかる造船業界団体の取り組みを支援するにとどまっています。つまり、結局は漁業者の自助努力任せ。共同船舶という1事業者に対しては、様々な経費を国が全面的に肩代わりする至れり尽くせりの大判振る舞いが認められているというのに。
 だいぶ以前にGPJが120億円〜200億円という試算を提示しましたが、新母船の建造であれ、日新丸と同じく既存のトロール等の改造であれ、そのコストはおそらく100億円は下らないでしょう。外野の反反捕鯨狂人が提唱するような、マルポール条約に抵触しない二重船殻、南極海までの往復によって生じる極端に高い環境負荷を抑えるためのアンモニア冷媒冷凍設備、バイオ燃料エンジン等の仕様を満たすエコシップにしようとすれば、それこそ200億〜300億円を軽く超えるのは必至。エコ嫌いの捕鯨サークルがそこまでやるとは思えませんけど。。
 いずれにしろ、今の共同船舶にはそれだけの費用を銀行から借りて返済する体力などあるはずがなく、最終的にはその巨額の負担を国に押し付けるに決まっています。儲かる漁業制度の特例的な適用の経緯を見ても明らかなように。しわ寄せは漁業者、そしてすべての国民にいくのです。
 水産業界内に存在する歴然たる格差。ビジネスとして成功した勝ち組だからという理由ですらない、ひたすら政治権力との癒着によって生み出された絶対的なヒエラルキー。
 他の捕鯨族議員と同様、横山氏はそのことにまったく無自覚ですが。

 もっとも、捕鯨ニッポンのなりふりかまわぬ国営捕鯨の存続を、国際社会が指をくわえて黙って見ているわけはありません。こちらでも2つ大きな動きがありました。
 その1つが、今年のワシントン条約(CITES)常設委員会で象牙とともに日本が槍玉に挙がったイワシクジラ公海からの持込問題。国際法学者ピーター・サンド教授らから長年指摘され続けてきたことでしたが、事務局もついに重い腰を上げました。会議の席上では、IWCでは盟友のはずの一部のアフリカ諸国からも含め、日本はストレートな批判の集中砲火を浴びる状態に。1年の猶予期間は与えられたものの、日本の国際法(CITES規約)違反認定はもはや避けられない情勢。


 最終的には、おそらく日本は太平洋イワシクジラの条件付留保を変更することで対応しようとするでしょう。ICJ判決後の国連受諾宣言書き換えと同じく、法の支配を嘲弄する卑劣な逃げの手口ですが。
 しかし、これにより、ICJ判決に続き、日本の捕鯨のきわめて悪質な脱法体質の重要な証拠がまたひとつ積み上がることになります。度重なるIWC科学委の勧告無視の事実や、北方領土−豪サンクチュアリダブスタ問題と合わせ、もし次に国連海洋法裁判所(ITLOS)等の場で国際司法の判断を仰いだなら、日本の調査捕鯨は今度こそ「完全にアウト」との判定を下されることは疑いの余地がありません。
 そしてもうひとつの動きは、EUと豪・NZ・中南米12カ国による日本の調査捕鯨への非難声明。


 北朝鮮の核・ミサイル開発の場合であれば、制裁一本槍で同国の国民が困窮し多数の餓死者を出したり、さらに追い詰めて自暴自棄の行動に走る重大なリスクも慎重に考慮しておくべきでしょう。
 しかし、国際社会が国際法の審判に基づき、違法な調査捕鯨に対して実効性のある外交措置を取ったところで、日本が3/4世紀前と同じ暴挙に出ることはありえません。北洋漁業交渉の恨みに囚われた、捕鯨サークル中枢の一握りのメンバー以外の日本人は、さすがにそこまで狂ってはいないはずです。そこは、唯一北朝鮮と日本との大きな違いといえるでしょう。
 地球の裏側の南極の自然にまで食指を伸ばし、飽食の限りを尽くしながらなおも野生動物を貪りたがるならず者国家≠ノ、これ以上の横暴を許さないよう、関係各国の英断に期待したいもの。

 CITES常設委での批判の嵐とEU+12カ国による共同非難声明は、やはり象牙・べっ甲・熱帯木材等の輸入や遠洋漁業の乱獲・捕鯨によってコンサベーション・ギャングとしてたたかれたバブル期の頃を彷彿とさせます。今日の野生動物取引では稀少ペットの輸入の比重が増えたものの、熱帯林関連ではパーム油大量消費や五輪木材調達の問題が指摘されるところですし、象牙も相変わらず後ろ向きの姿勢で他の先進国との差が際立っています。マグロ・ウナギ他近海の水産資源も持続的にきちんと管理されているとは到底言えない状態。ベクトルの点で最悪なのはやはり捕鯨ですが。
 前述したように、国と市民の意識の面ではもはや中国にまで追い抜かれ、世界に厳しい視線を向けられる始末。「金はあっても心の貧しい後進国」というのが、いま世界の目に映る日本の姿なのです。
 思えば、かつてのバブルも幻想に支えられた代物でしたが、安倍バブルは為替・金利の錬金術に支えられた張りぼてにすぎず、将来世代により重いツケがのしかかるだけ。大企業の不正や談合、労働者の搾取が露になり、国際競争力は落ちる一方。そして、教育への投資や報道の自由度、女性や外国人・マイノリティの人権など、民主主義の指標の面でも、日本の評価は下がるばかり。
 中身が空っぽで欧米と対比させひけらかすことしかできないデントウ賛美と、暗く醜い過去の史実を頭から追いやる歴史修正主義に特徴づけられる反反捕鯨ナショナリズムは、そんな現実≠ゥら目を逸らしたい日本人の自尊心をくすぐるために用意されたエンターテイメント≒虚構≠ノすぎません。「世界一のクリスマスツリー」じゃないけれど。
 もちろん、一部のネトウヨ層を除く日本人の多くは、北朝鮮ミサイルショーにもシーシェパード体当たりショーにも、きっともう辟易してきているでしょう。そんな演出にいつまでも引っかかるほど、国民はバカではないはずです。3/4世紀前と同じ愚を繰り返すほどバカでは。米国がトランプのフェイクショーに飽きる方がきっと早いでしょうけど。

 美味い刺身*@に反対・棄権してくれた少数の勇気ある議員を除き、永田町が偏狭なナショナリストと無責任な食通に占められてしまった現状では、残念ながら日本人としてできることは限られています。とはいえ、外圧頼み一辺倒というのも情けない話。
 しかし、度を越した捕鯨サークルの振る舞いに、日本国内でも眉をひそめる動きが広がりつつあります。

 悪法制定に続き厚顔無恥も甚だしいのが、内外の野生生物保全関係者・IUCNをあまりにもバカにした海のレッドリスト水産庁版の発表。一言で言うならレッドリスト詐欺=B喩えるなら、電力業界の意のままに操られた地質学者が、原発施設直下の活断層の危険をゼロと偽って報告するのにも等しいまねを、彼らはしでかしたのです。

■徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト
http://kkneko.sblo.jp/article/181313159.html
http://www.kkneko.com/kikaku.htm
■Japan's red list of marine creatures by Fiseries Agency is too terrible!!
http://www.kkneko.com/english/redlist.htm

 科学者はクリエーターに負けず社会的に非常に高いステータスと影響力を与えられていますが、筆者は職人以上に敬意を払う必要はないと思っています。筆者がリスペクトするのは、肩書きだけの研究者ではなく、保全と市民の啓蒙のために尽力し、自然・命に対する畏敬と愛を忘れることなく、負荷を抑える努力と創意工夫を惜しまない人たちです。
 まさにそれと対照的なのが、日本の御用鯨類学者。捕鯨業界におんぶに抱っこで、陰謀論や人種差別被害妄想に凝り固まるトンデモ映画監督と同水準のザンネンなヒトたち。ヒトの命すら軽視する軽はずみな発言を平気でしてしまうヒトたち。
 最悪のレッドリスト策定に携わり、IUCNでは今年ENへと格上げされたスナメリを含む全鯨種をランク外に突き落とすまねを平然とやってのけた御用学者たちには、研究者を名乗る資格などありはしません。
 不幸中の幸いにして、水産庁のトンデモレッドリストは水産学方面を含む内外のまじめな研究者・NGOから酷評を受けています。今の水産庁に保全施策を委ねるのは百害あって一利なしだと、多くの人が気づき始めています。
 永田町の族議員を旨い刺身≠ナ釣って強引に国政を動かしてきた捕鯨サークルですが、世界でも、そして日本国内でも、思惑どおりに事は運ばなくなりつつあるのです。
 トンデモレッドリストの問題点の認知に際しては、勉強嫌いの御用学者と違って最新版IUCNガイドラインをしっかりチェックした筆者もほんのちょっぴり貢献したつもりですけど。

 最後にもうひとつ、個人的な話をば。今年ようやく小説『クジラたちの海』の英訳が完成しました。


 といっても、拙訳のためだいぶ粗いですが・・。引き続きプロの監訳者募集中。詳細はHPのフォームにてお問い合わせくださいm(_ _)m
 年末年始の休みの間に、続編『クジラたちの海 ─the next aeg─』の挿絵も追加したいと思っています。ニャンコ王子が来て以来、全然タブペンを握ってないのですが(--;;

 2018年がクジラたち野生の生きものたち、そしてニャンコたちにとってより良い一年でありますように──
posted by カメクジラネコ at 17:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系