2017年04月13日

太地−イルカ−水族館騒動リターンズ

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 まずは上掲の表、太地イルカ追い込み猟の今年度の捕獲数統計から。一次ソースはセタベースです。

■Drive Hunt Results • Taiji|セタベース
http://www.cetabase.org/category/taiji/

 食用捕殺数は前年度より57頭減りましたが(7頭の事故死を除く)、生体販売が115頭増えたため、トータルの捕獲数は83頭増に。追い込み数(捕獲+リリース)も前年度比380頭増の1,282頭で桁が増えました。
 ちなみに、捕獲後食用屠殺対象でない個体でも死亡するケースが示すように、追い込まれた個体は物理的・精神的ストレスを受け、群れの構成も変化するため、たとえリリースされても生残率が下がると考えられます。逃がせばいいという単純な話ではありません。
 ハナゴンドウは全部捕殺。ハンドウイルカはなぜか今シーズンの食用捕殺はなし(事故死を除く)。もっとも、水族館向け生体捕獲が前年度の7割増にあたる179頭。太地漁協にとっては売価1頭90万円、100万円前後のハンドウ生体はまさに稼ぎ頭であり、売れ筋の主力商品ということになるわけですが。
 過去の年度と比較すると、スジイルカとハナゴンドウが専ら食用向け、カマイルカ、マダライルカ、ハンドウイルカが水族館生体販売向けと鯨種を切り分ける傾向が強まりました。太地側が何の表明もしていないため、収益を優先した一過性のものと判断するしかないのでしょう。イルカ猟・捕鯨そのものに対しては特定のスタンスなど持ち合わせていないJAZA/WAZAとの協議の中で、食用と捕殺用の捕獲を完全に分離するよう求める要請に太地側が早く応えていたなら、そもそも脱退騒動自体回避できたかもしれません。体面ばかりを異常に気にする非合理な太地関係者の態度は理解に苦しみます。もっとも、コビレゴンドウでは一度に捕獲した群れを社会性への配慮など一切せず、食用捕殺・販売用選別・用済みリリースを同時にやってのけているので、やはり改善する気など端からないのでしょうけど・・
 で、ちょうどデータを整理してときに飛び込んできたのが、このとんでもないニュース。

■2水族館、JAZA退会…太地イルカ購入継続で (4/1,読売)
http://archive.is/Bn8o9
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170401-OYT1T50109.html:リンク切れ)
■太地のイルカ購入継続で2水族館がJAZA退会 (4/1,読売大阪)
http://www.yomiuri.co.jp/osaka/news/20170401-OYO1T50026.html
■和歌山・太地町のイルカ購入禁止措置に反発 2水族館がJAZA退会 (4/2,産経WEST)
http://www.sankei.com/west/news/170402/wst1704020058-n1.html
■イルカ入手禁止で 山口と神奈川の水族館が団体退会 (4/2,NHK)
http://archive.is/NgCk6
http://www3.nhk.or.jp/knews/20170402/k10010934611000.html:リンク切れ)
■2水族館がJAZAを退会、太地のイルカ購入禁止で (4/2,和歌山放送)
http://wbs.co.jp/news/2017/04/02/97964.html
■新江ノ島水族館が協会退会 追い込み漁イルカ入手継続 (4/3,神奈川新聞)
http://www.kanaloco.jp/article/241975
■イルカ追い込み漁巡り協会退会 新江ノ島など2水族館 (4/3,朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASK435TK1K43TIPE036.html?ref=tw_asahi
■問われる動物園・水族館の根拠  JAZA脱退の背後にある危機 (4/11,共同通信47ニュース)
http://www.47news.jp/47topics/himekuri/2017/04/post_20170411124556.html
■Aquariums in Kanagawa, Yamaguchi sever ties with national body over Taiji dolphin ban (4/2,ジャパンタイムズ)
http://www.japantimes.co.jp/news/2017/04/02/national/kanagawa-yamaguchi-aquariums-cut-ties-body-banned-dolphins-caught-taiji-drive-hunts/

 まず、ツイッターで指摘した誤報道のチェックから。
 読売、産経の「(太地町立館以外で)退会は初めて」との記述は間違い。静岡のあわしまマリンパークがさっさと脱けています。遅れた朝日の「退会は計3館」も同じ間違い。
 読売の「今年205頭のイルカが捕獲」もひどい間違い。詳細は上掲表をご参照。セタベースの数字もサイトで注記されているとおり公式の数字とは微妙にずれる場合がありえますが、隠したがりの太地の自己申告よりむしろ信用できると筆者は思っています。
 2年前の騒動については、以下の拙ブログ過去記事およびリンクでおさらいをば。

■沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ
http://kkneko.sblo.jp/article/133050478.html
■水族館の未来
http://kkneko.sblo.jp/article/145181677.html
■太地イルカビジネス、JAZAと縁を切って万々歳?/哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html
■「池上彰のニュースそうだったのか!!2時間SP」の中で言及されたWAZAJAZA問題部分まとめ
https://togetter.com/li/837312
■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
https://togetter.com/li/834969
■いるか漁業(追い込み漁)と生体販売の関係
https://togetter.com/li/824325
■野生イルカの展示目的による捕獲問題をめぐって|JWCS
http://www.jwcs.org/data/1608_namiki.pdf
■世界動物園水族館協会からの脱退勧告が意味すること|JWCS
http://www.jwcs.org/data/1511_namiki.pdf

 今回の新江ノ島水族館および海響館の脱退はきわめて不可解といわざるをえません。
何が不可解といって、脱退の判断がJAZAのWAZA残留決定/太地からの入手禁止通達の直後でもなければ、10年後でもなかったからです。
 この当時脱退を仄めかしていた水族館は数館あったものの(詳細は過去記事参照)、結局脱退したのは上掲のあわしまマリンパークのみで、問題の2館はその予備軍の中に含まれていませんでした。
 10年後というのは、何しろイルカは繁殖のスパンが長い動物ですから、JAZAネットワーク内で野生調達に依存せず繁殖による自家調達を確立するための研究・試行を重ねてある程度の目処がつくまで、最低でもそのくらいの時間はかかっていいはずだからです。それが岡田JAZA事務局長の言うところの「しばらくの苦労」。
 報道中の事務局長のコメントにもあったように、わざわざJAZAが前向きに動き始めようというこのタイミングで、突然2館が冷や水を浴びせる真似をしたのは一体なぜでしょうか?
 読売の第一報があった時点で、「政治的動機が裏にあるとしか考えられない」と筆者は指摘しました。 
 そして案の定、翌日2日のNHK報道で海響館・石橋館長のコメントが。

「JAZAの方針が捕鯨を推進する下関市の立場と整合性がとれないことも退会を決めた一因だ」(引用)

 海響館は下関市の公営水族館。そう、あの下関市です。近代捕鯨の大乱獲時代に大いに潤い、いまなお調査捕鯨母船日新丸の母港化誘致運動を積極的に展開している乱獲捕鯨城下町。運営する下関海洋科学アカデミー代表は捕鯨族議員の代表格である林芳正参院議員と懇意の中尾前下関市長、鯨類研究室長は元鯨研の石川氏と、捕鯨サークルと非常に強固なリレーションがある街。以下の過去記事もご参照。

■調査捕鯨と下関利権
http://kkneko.sblo.jp/article/69075833.html
■復興予算を食い物にしようとした調査捕鯨城下町・下関市
http://kkneko.sblo.jp/article/56253779.html

 では、新江ノ島水族館のほうは? 
 同館は首都圏近郊にある人気の高い大手水族館のひとつ。そのうえ日本国内ではイルカの繁殖実績が豊富な館として知られ、ハンドウイルカの繁殖に日本で初めて成功しています。つまり、JAZA内で自家調達・繁殖融通を考えるうえではとても重要なポジションにあったわけです。
 ちなみに、同館で現在飼育しているイルカはいずれも太地産≠ナはなく、近年太地から調達したイルカもいません。野生由来が3頭いますが、いずれも前世紀に壱岐と伊東から入手した個体。
 逆に、JAZAを切り崩すことを望む連中の目で見るなら、同館はまさしく最初に攻め落としたい城だったといえるでしょう。

 さて、一連の報道の中で、両館は異様なまでに太地の顔色をうかがうコメントをいくつか残しています。中にはあからさまな事実誤認も含まれています。

「追い込み漁は国が認める合法的なもの。国の政策に反する禁止規定を設けるJAZAの方針を容認できない」/両館(〜読売記事)

 これは間違い。マスコミ記者ではない業界関係者としては大いに問題アリです。
 第一に、追い込み猟の法的根拠などWAZA/JAZAは問うていません。動物園業界団体としてのWAZA/JAZAが飼育動物一般の入手のガイドラインに沿う形でイルカの調達のルールを設けただけ。
 両水族館の主張は、さまざまな商品・サービスに対して各小売店・業界団体が設けている自主基準を否定するものでしかありません。
 業界の事情に詳しい水族館通のイラストレーター・福武氏、作家・川端氏も以下のように指摘しています。

https://twitter.com/shinobuns/status/848494498443255809
「追い込み漁は禁止されてない。追い込み漁によって捕獲されたイルカの入手をしないとJAZAが決めたの」(引用)
https://twitter.com/shinobuns/status/848197260617826304
「国内法で禁止されてないから悪いことしてないという理屈やんね。だれも国内法の話なんかしてないっちゅうねん」(引用)
https://twitter.com/Rsider/status/848155204016930816
「動物園水族館が、国の法律や条例よりも上のスタンダードを自ら設定するのは別に変なことじゃないんだけど」(引用)

 動物園水族館における展示動物の入手に関する法的なガイドラインは、現在日本には存在しません。EU・英国のような動物園法がそもそもないのです。それに近いといえるのが、法的拘束力を持たない環境省の「展示動物等の飼養及び保管に関する基準」ですが、この中には調達に関する規定がありません(輸送まで)。
 つまり、事実を言えば、合法なのではなく無法地帯なのです。
 自主基準である以上、確かにやめたい会員は勝手に脱会すればいい話です。しかし、少なくとも両館は「違法でないことで縛られたくない」と正しい動機≠述べるべきでした。
 そして、その姿勢は「法律がない以上、水族館では何でも許されるべきだ」との主張につながります。それは、国内法基準がない中でのJAZAおよび加盟各館のエンリッチメント・動物福祉の向上に向けた取り組みをすべて否定することを意味します。

「(追い込み猟は)水産庁が計画だてて執り行ってきたもので、水産庁、太地いさな組合との関係は崩さない」江ノ島(〜神奈川新聞記事)

 主張の前半は事実ではありません。「水産庁が計画だてて執り行ってきた」のが新たな事実として発覚したら、世界的にとんでもない物議を醸すのは間違いありませんが・・。
 上記したように、動物園水族館業の所轄庁といえるのは環境省(及び自治体)。水産庁の出る幕はありません。2年前の騒動当時も自民党の捕鯨族議員が水産庁経由で「JAZAに圧力をかけろ」とまくし立てて問題になりましたが。
 同館は「環境省・JAZAとの関係を崩してでも、水産庁・太地とはがっちりスクラムを組みたい」と言っているわけです。これはびっくりです。同館は「水族館」の看板を引っ下げ、代わりに「新江ノ島魚市場」を名乗るのがスジというものでしょう。

「鯨類の繁殖研修を続けるには、地元の太地いさな組合などとの関係を維持する必要がある」/江ノ島(〜WBS報道)

 たった2年でJAZA内の飼育館のネットワークでの試行の努力を放棄し、「太地との連携が必須」との判定を下すのは明らかに時期尚早です。
 スタッフ研修に関して、太地町立館門外不出の秘伝でも存在し、それがなければ立ち行かないと、新江ノ島の担当者は本気で考えているのでしょうか?
 産経が中国からの受入を報じた太地のスタッフ研修制度が、他館が数年で追いつけないほど絶対的に優れたものだとは、筆者には到底思えません。
 あるいは、太地で飼育されているイルカを、獣医学部の実習訓練用のイメージで、飼育個体へのストレスを考慮せずに研修プログラムを組んでいることが、同町立館の異常に多い死亡率の一因になっているのではないかと勘繰ってしまいます。
 昨年1年だけでハンドウイルカ3頭、マダライルカ1頭が死亡。ほぼ毎年、多い時には年十数頭のイルカを死なせているのが太地町立館です。


 「供養さえすればいい」という身勝手な感覚で、次々に死なせては追い込み猟を使ってどんどん補充するのが太地町立館のスタイル。それはむしろ、追い込み猟という安易な補充手段があるからこそ可能なことであり、それ故に命の価値が軽くなっているといわざるをえません。いまは、飼育動物をできる限り長生きさせようと神経を配り、懸命に努力することが動物園にとって当たり前の時代です。太地の無神経さ、無節操さは、WAZA/JAZAの目指す方向性とは相容れないもの。
 新江ノ島水族館は、本当にそんな太地に寄り添う選択をしてしまっていいのでしょうか?

 ここで、ツイッターで拾った反応の一部を紹介しましょう。

https://twitter.com/M_A_F_/status/848157510917693440
「んーーーーーー日本で一番イルカの繁殖に成功してる江ノ島やフグで充分キャラ立ってる上他もすごい海響館がなんで追い込み漁のイルカにこだわるかね」(引用)
https://twitter.com/nukotama001/status/848108324734119936
「あらら・・・、特に江ノ島水族館はバンドウイルカ繁殖が一番成功してたのにねえ。ただの見世物小屋に堕するのか」(引用)
https://twitter.com/adachib/status/848107295477313537
「日本は繁殖だけでショーのイルカをまかなえていない。アメリカはそれができている。死んだら野生からつかまえてきて補充って、教育施設のくせにそんな安易な真似をして恥ずかしくないの? 水族館の役割はサーカスやペットショップとは違うだろうに」(引用)
https://twitter.com/naagita/status/848182120119844864
「新江ノ島水族館のイメージがダダ下がりなんだが……もう行かないだろうな。(^_^;)」(引用)
https://twitter.com/cub_tsuke/status/848162660461928448
「え〜、新江ノ島が? 教育施設としての学術性にもちゃんと気を配ってる水族館という印象だったのにガッカリだ」(引用)
https://twitter.com/momoclocatb/status/848124245590761472
「「新江ノ島水族館」と「海響館」には、絶対に行きたくありません!」(引用)
https://twitter.com/windowmoon/status/848101478791172096
「残念。もう江ノ水には行けないな」(引用)

 以下はWCSの動物イラストレーター・本田公夫氏、IKAN、そして到津の森動物園園長の卓見。一部ここで抜粋させてもらいましたが、全文必読です。

https://www.facebook.com/hiroto.kawabata.98/posts/1278076102247912
「昨年末の段階では江の水には内部的にJAZAに残ろうとする拮抗力もあるという希望的な観測も流れていました。極めて残念です。江の水と海響館は、水族館、とくに鯨類飼育園館の「世間」とJAZAの「世間」の間で前者の世間を選択したということであろうと推察されます。そうでなければ、記事をそのまま真に受けると、太地から20年イルカを買っていないと言っていた江ノ島が「今後も太地町からイルカを購入したい」という理由で退会するというのは解せません」(引用)

■イルカ飼育と福祉について|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-0d0a.html
「海響館はさすが下関、「イルカ猟は合法であり、禁止するJAZAの方針を容認できない」そうである。いやしくも、「教育的な」側面を持つ水族館が、命の大切さや自然の不思議さの前に、産業擁護を自分たちの都合のための言い訳にするって、どうよ?」(引用)

■JAZA(日本動物園水族館協会)を退会した水族館で思うこと
http://www.itozu-zoo.jp/blogs/encho/2017/04/7822.php
「海外から見ると(けだし客観的な見方です)、日本人は獲り尽くすと他へ移動し、獲り尽くすと。そのように映るものです。クジラもイルカも魚類という見方を私たちはしています。果たして私たちの感覚は正常なのでしょうか。たとえそれが魚類であったとしても、蓄養の試みなしに自然からの略奪(ちょっと過激的な言い方かもしれませんね)は許されるのでしょうか」(引用)
「水族館の弱点は、実はここにあります。あまりに身近すぎて、しかも漁撈という文化的な下地も相まって、イルカを含めた魚類に対する思いやり(実は福祉ですが)が欠けているのではないかと思われることです。消耗した(あるいは、された)魚類は補えると思っているように感じます。それは極端な言い方をすれば命の軽視にも繋がる恐れがあります。そのような非難にはどのように応えればいいのでしょうか。論理的回答を求められるところです」(引用)

 さて、新江ノ島水族館および海響館の関係者のみなさん。水族館ファンを含むこうした深い幻滅の声を聞いても、今回の決断が本当に正しいことだったと思いますか?
 今からでも遅くありません。もう一度よーく考え直してみてください。

 ◇ ◇ ◇

 次回は水産庁パブコメについて
posted by カメクジラネコ at 19:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系