2017年04月14日

イルカビジネスで胃袋を拡げる太地とエコヒーキ水産庁

■指定漁業の許可及び取締り等に関する省令の一部を改正する省令案についての意見・情報の募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=550002463&Mode=0
■新たな捕獲対象の追加 パブコメ中|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-8a95.html

 つい先日、水産庁のパブコメに関する情報が回ってきました。
 一般の方ならながめてそのままスルーしちゃうタイトルですが、実はこれ、イルカ猟に関するもの。PDFまで開かなきゃわからないのですが。
 それも、シワハイルカとカズハゴンドウを新たに捕獲対象に付け加えるという、かなりとんでもない話。
 「指定漁業の許可及び取締り等に関する省令」は漁業法のもとで特定の漁業に対する細かい制限措置を定めたもの。ときどき発令されていますが、まぐろ等国際機関の規制がかかった場合に出されるケースが多いようです。5年に1度まとめて更新されることになっていますが、今回はイルカ猟の増枠に限って特別にお達しがあった模様。

■指定漁業の許可及び取締り等に関する省令
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S38/S38F00601000005.html
■指定漁業の許可及び取締り等に関する省令|日本法令一覧
http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewEnkaku.do?i=5uW4lojHPS4qoP8FX9LhbA%3D%3D

 今回の改正の背景についてIKANが水産庁に問い合わたところ、「コビレゴンドウとハンドウイルカの捕獲が『低位で推移しており、安定的な経営が困難』という理由」とのこと(詳細は上掲リンクIKANブログ記事を参照)。これは実にふざけた話。

「国連海洋法条約のもと、海生生物はすでに先に取ったものが勝ちではなくなっている。これまでのように、他の種を取りすぎたために、新しい種を取りたいというのは全く勝手な言い分であり、それをそのまま受け入れる管理当局の水産庁は、管理を放棄しているわけで、これはイルカに限ったことではないから驚くには当たらないかもしれない」(引用)

 ここでちょっと、時期を合わせるように発表された水産庁レッドリストの両種の評価とパブコメの概要資料(1枚きりですが)をチェックしてみましょう。
 日本近海のシワハイルカの個体数について、パブコメ資料の中では5,483頭(2014年)とあります。一方、レッドリストでは006年〜2007年の目視調査で11,811頭。十年足らずの間に半減しています。
 水産庁レッドリストでは、最新の減った値の方を使ってないのがまた嫌らしいところ。スナメリについてはなんとか数が増えたことにしようとして、2015年のデータをギリギリ押し込んだことが、前後で矛盾した記述からも明らかなのですが。
 基準Eを優先したり、準基準Eなるご都合基準を設けたり、勝手なローカルルールを導入している水産庁レッドリストの評価手法は無視し、IUCNの予防原則のグロスタに則り、同サイトで公開しているツールを使って筆者が判定した結果、日本周辺のシワハイルカはいずれもCR「絶滅危惧種U類」でした。
steno.png
 一方、カズハゴンドウの方は、目視調査データに関しては漸増しているものの、やはりレッドリスト資料にご都合主義的記述があります。「混獲・座礁は年2.5件と少ないことなどから」とありますが、2013年には22件発生していますし、2015年の鹿島灘では156頭のマスストランディングが起こっています(大半が死亡)。カズハゴンドウの大量座礁は2011年に東北沖大地震との関連が取り沙汰されましたが、もともとこの種はマスストランディングが多いようです。もちろん、ヒトの目に触れて記録されるものばかりがすべてではありません。ストランディングが起きる要因については、下掲のJAMSTECの解説もご参照。
 いずれにしても、今回の水産庁の設定した700頭を超える捕獲枠は、数年おきに数十頭、ときには100頭以上に上ることもあるマスストランディングを考慮したものにはなっていません。
 また、ゴンドウクジラ亜科・シャチ亜科・アカボウクジラ亜科は社会性が非常に複雑であることが知られています。コビレゴンドウとシャチには閉経があり、高齢雌が育児を担うと考えられていますし、ゴリラに似たツチクジラは父系社会の可能性が指摘されています。捕獲が単純に数だけでは推し量れない繁殖へのダメージをもたらすことは、陸上も含め社会性哺乳類全般についていわれていることで、マッコウクジラの管理に失敗したのも、そうした社会性への配慮のなさが要因でした。
 水産庁レッドリストでは「一般的に社会構造が複雑である可能性があり」との一行のみ。同種の社会性に対して何にも情報を持ち合わせてないことがモロバレ。

 沿岸マグロ漁業者の悲痛な声を無視する水産庁が、なぜ太地に対してだけはかくも手厚い便宜を図ろうとするのか、筆者には理解に苦しみます。
 なお、太地の今シーズンの捕獲表は前回のブログ記事に掲載しています。

 パブコメの提出締切は明日4/15(金)。時間がなくなってしまいましたが、イルカ猟問題に関心のある方は「捕獲する種を新たに増やすことはやめてください」とはっきり声を伝えましょう。
 以下、筆者の提出意見(ちと長くなったのでFAXで送りました)。

 〜 〜 〜 〜 〜
案件番号:550002463
平成29年3月17日付・
指定漁業の許可及び取締り等に関する省令の一部を改正する省令案についての意見

意見:
 指定省令第82条第1項ただし書きに、新たに「しわはいるか」及び「かずはごんどう」を追加することに反対する。

理由:
 鯨類は国連海洋法条約第65条において国際機関を通じて管理する旨定められている。
 カズハゴンドウならびにシワハイルカは日本近海と公海を行き来していると考えられ、また系群構造も不明であることから、とくに国際機関における管理が妥当である。
 両種は生態・個体群動態に不明な点が多いことからも、国連海洋法条約第65条の趣旨に照らして、開発するにあたってIWC、米国等太平洋諸国の協力下でのアセスメントを行わずに、一国の判断で利用を開始するのは早計である。

 概要資料の中で、シワハイルカの日本周辺海域での推定個体数は5,483頭(2014年)とあるが、2006年〜2007年の調査による推定値は11,811頭であり、10年に満たない期間に半減している。
 IUCNレッドリストの予防原則の趣旨に則り、ガイドラインに基づき近縁種の世代時間を外挿して基準Aによるカテゴリー判定を行ったところ、線形・指数両パターンで基準A1,2ともCR(絶滅危惧種U類)ランクに該当する結果となった。
 日本に生息する個体群として見た場合、シワハイルカは明らかに絶滅危惧種である。
 これが鯨類と同様に国際管理が求められる渡り鳥であれば、渡来数が短期間に半減し、なおかつその原因も究明されていないにもかかわらず、新たに資源としての利用を考えるなどありえないことである。
 系群の分布が日本周辺の外に広がるか、隣接する海域からの移入があるなら、なおのこと国際機関のもとしっかり調査を行い、域外の資源への影響を十分に把握するまで利用を思いとどまるのが、節度ある漁業国の態度である。

 カズハゴンドウについては、2001年に53頭、2002年に85頭、2011年に54頭、2015年に156頭等のマスストランディングがあり、2013年に22件等、単発のストランディングも多い。
 ストランディングの原因は不明であるが、気候変動による海流・水塊の変化に影響を受ける可能性も指摘されている。
 また、ゴンドウクジラ類は社会構造が複雑で種毎に異なる可能性がある。
 複雑な社会性を持つ哺乳類では、性比の偏りや社会行動の変化により繁殖率が低下し、単純な個体数から推測される以上に減少する恐れがあることは広く知られており、IUCNガイドラインにおいても注意喚起されている。
 しかし、水産庁および水研機構の資料を見る限り、同種の社会性に関して調査が行われていないことは明白であり、したがって持続的利用に十分な資源量が確認されたとは到底いえない。
 少なくとも、数年置きに発生しており、今後増加する可能性もあるマスストランディングと、複雑な社会性も十分に考慮に入れた管理方式を別途開発すべきであり、いずれもほとんど情報がない以上、今の段階で利用を開始するべきではない。

 なお、概要資料に「漁業者等からもこれらの鯨種の漁獲枠の設定について要望が相次いでいる」とあるが、「相次ぐ」とは少なくとも次から次へと立て続けに起こることを意味し、それだけの数の漁協が本当に2種の捕獲を求めているのか強い疑問を覚える。
 その要望の切迫性、切実性にもやはり大きな疑問を感じる。

 太地町のイルカ漁業(追い込み)に関しては、今年度の捕獲数は前年度より増加しており、中でも収益の高い水族館向け生体販売の比率が大幅に上がっている。
 既存の対象鯨種の捕獲枠は未消化であり、新たに対象鯨種を追加する合理的理由は見当たらない。

 乱獲に対する自制力を発揮できず、対象鯨種を枯渇させては次々に切り替えることを繰り返してきたのが近代捕鯨の歴史である。イルカ漁業の場合も同様に、有名な太地を例にとれば、静岡から技術を導入した途端漁協間の競争で捕獲数が膨れ上がった経緯がある。
 今回の捕獲枠新設は、そうした非持続性の業≠背負った過去を髣髴とさせる。

 諫早干拓事業、辺野古米軍基地移設、原発立地等をはじめ、沿岸事業者で国策の名のもとに代々続く漁場を手放さざるをえなくなった事例は数多い。また、クロマグロ漁業に携わる沿岸漁業者のように、大手巻網事業者との軋轢・不公平感を抱えながら、資源管理の重要性を理解して減収に涙を呑み規制を受け入れる事業者もいる。

 また、国際法を誠実に遵守する姿勢を内外に示すことや、民主主義の価値観を共有する各国と協調をはかることは、きわめて重要な国策である。

 少なくとも、この省令改正は、水産庁が喫緊に対応すべき、優先度の高い施策であるとはまったく考えられない。持続的漁業の推進を掲げるなら、水産庁にはもっと他にやるべきことが多々あるはずである。

参考資料:
−海洋海洋生物レッドリストの公表について
 整理番号79-81(カズハゴンドウ、マイルカ、ハセイルカ)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/attach/pdf/20170321redlist-48.pdf
 整理番号85-87(シワハイルカ、カマイルカ、サラワクイルカ)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/attach/pdf/20170321redlist-44.pdf
-Guidelines for Using the IUCN Red List Categories and Criteria ver.12, 2016
http://www.iucnredlist.org/technical-documents/red-list-training/red-list-guidance-docs
-茨城県の海岸に打ち上げられた多数のイルカと海洋異変について|JAMSTEC
http://www.jamstec.go.jp/apl/j/column/20150423/
-変容する鯨類資源の利用実態. 和歌山県太地町の小規模沿岸捕鯨業を事例として
http://ci.nii.ac.jp/naid/120003057536

 〜 〜 〜 〜 〜

以下のリンクもチェックのほどヨロシクm(_ _)m

■Taiji - an inflated symbol of perceived culture|WDC
http://uk.whales.org/blog/2017/03/taiji-an-inflated-symbol-of-perceived-culture

■「捕鯨がオランウータンを救う」なんて冗談キツイよ!
https://togetter.com/li/1099173
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2017年04月13日

太地−イルカ−水族館騒動リターンズ

17taiji.png
 まずは上掲の表、太地イルカ追い込み猟の今年度の捕獲数統計から。一次ソースはセタベースです。

■Drive Hunt Results • Taiji|セタベース
http://www.cetabase.org/category/taiji/

 食用捕殺数は前年度より57頭減りましたが(7頭の事故死を除く)、生体販売が115頭増えたため、トータルの捕獲数は83頭増に。追い込み数(捕獲+リリース)も前年度比380頭増の1,282頭で桁が増えました。
 ちなみに、捕獲後食用屠殺対象でない個体でも死亡するケースが示すように、追い込まれた個体は物理的・精神的ストレスを受け、群れの構成も変化するため、たとえリリースされても生残率が下がると考えられます。逃がせばいいという単純な話ではありません。
 ハナゴンドウは全部捕殺。ハンドウイルカはなぜか今シーズンの食用捕殺はなし(事故死を除く)。もっとも、水族館向け生体捕獲が前年度の7割増にあたる179頭。太地漁協にとっては売価1頭90万円、100万円前後のハンドウ生体はまさに稼ぎ頭であり、売れ筋の主力商品ということになるわけですが。
 過去の年度と比較すると、スジイルカとハナゴンドウが専ら食用向け、カマイルカ、マダライルカ、ハンドウイルカが水族館生体販売向けと鯨種を切り分ける傾向が強まりました。太地側が何の表明もしていないため、収益を優先した一過性のものと判断するしかないのでしょう。イルカ猟・捕鯨そのものに対しては特定のスタンスなど持ち合わせていないJAZA/WAZAとの協議の中で、食用と捕殺用の捕獲を完全に分離するよう求める要請に太地側が早く応えていたなら、そもそも脱退騒動自体回避できたかもしれません。体面ばかりを異常に気にする非合理な太地関係者の態度は理解に苦しみます。もっとも、コビレゴンドウでは一度に捕獲した群れを社会性への配慮など一切せず、食用捕殺・販売用選別・用済みリリースを同時にやってのけているので、やはり改善する気など端からないのでしょうけど・・
 で、ちょうどデータを整理してときに飛び込んできたのが、このとんでもないニュース。

■2水族館、JAZA退会…太地イルカ購入継続で (4/1,読売)
http://archive.is/Bn8o9
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170401-OYT1T50109.html:リンク切れ)
■太地のイルカ購入継続で2水族館がJAZA退会 (4/1,読売大阪)
http://www.yomiuri.co.jp/osaka/news/20170401-OYO1T50026.html
■和歌山・太地町のイルカ購入禁止措置に反発 2水族館がJAZA退会 (4/2,産経WEST)
http://www.sankei.com/west/news/170402/wst1704020058-n1.html
■イルカ入手禁止で 山口と神奈川の水族館が団体退会 (4/2,NHK)
http://archive.is/NgCk6
http://www3.nhk.or.jp/knews/20170402/k10010934611000.html:リンク切れ)
■2水族館がJAZAを退会、太地のイルカ購入禁止で (4/2,和歌山放送)
http://wbs.co.jp/news/2017/04/02/97964.html
■新江ノ島水族館が協会退会 追い込み漁イルカ入手継続 (4/3,神奈川新聞)
http://www.kanaloco.jp/article/241975
■イルカ追い込み漁巡り協会退会 新江ノ島など2水族館 (4/3,朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASK435TK1K43TIPE036.html?ref=tw_asahi
■問われる動物園・水族館の根拠  JAZA脱退の背後にある危機 (4/11,共同通信47ニュース)
http://www.47news.jp/47topics/himekuri/2017/04/post_20170411124556.html
■Aquariums in Kanagawa, Yamaguchi sever ties with national body over Taiji dolphin ban (4/2,ジャパンタイムズ)
http://www.japantimes.co.jp/news/2017/04/02/national/kanagawa-yamaguchi-aquariums-cut-ties-body-banned-dolphins-caught-taiji-drive-hunts/

 まず、ツイッターで指摘した誤報道のチェックから。
 読売、産経の「(太地町立館以外で)退会は初めて」との記述は間違い。静岡のあわしまマリンパークがさっさと脱けています。遅れた朝日の「退会は計3館」も同じ間違い。
 読売の「今年205頭のイルカが捕獲」もひどい間違い。詳細は上掲表をご参照。セタベースの数字もサイトで注記されているとおり公式の数字とは微妙にずれる場合がありえますが、隠したがりの太地の自己申告よりむしろ信用できると筆者は思っています。
 2年前の騒動については、以下の拙ブログ過去記事およびリンクでおさらいをば。

■沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ
http://kkneko.sblo.jp/article/133050478.html
■水族館の未来
http://kkneko.sblo.jp/article/145181677.html
■太地イルカビジネス、JAZAと縁を切って万々歳?/哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html
■「池上彰のニュースそうだったのか!!2時間SP」の中で言及されたWAZAJAZA問題部分まとめ
https://togetter.com/li/837312
■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
https://togetter.com/li/834969
■いるか漁業(追い込み漁)と生体販売の関係
https://togetter.com/li/824325
■野生イルカの展示目的による捕獲問題をめぐって|JWCS
http://www.jwcs.org/data/1608_namiki.pdf
■世界動物園水族館協会からの脱退勧告が意味すること|JWCS
http://www.jwcs.org/data/1511_namiki.pdf

 今回の新江ノ島水族館および海響館の脱退はきわめて不可解といわざるをえません。
何が不可解といって、脱退の判断がJAZAのWAZA残留決定/太地からの入手禁止通達の直後でもなければ、10年後でもなかったからです。
 この当時脱退を仄めかしていた水族館は数館あったものの(詳細は過去記事参照)、結局脱退したのは上掲のあわしまマリンパークのみで、問題の2館はその予備軍の中に含まれていませんでした。
 10年後というのは、何しろイルカは繁殖のスパンが長い動物ですから、JAZAネットワーク内で野生調達に依存せず繁殖による自家調達を確立するための研究・試行を重ねてある程度の目処がつくまで、最低でもそのくらいの時間はかかっていいはずだからです。それが岡田JAZA事務局長の言うところの「しばらくの苦労」。
 報道中の事務局長のコメントにもあったように、わざわざJAZAが前向きに動き始めようというこのタイミングで、突然2館が冷や水を浴びせる真似をしたのは一体なぜでしょうか?
 読売の第一報があった時点で、「政治的動機が裏にあるとしか考えられない」と筆者は指摘しました。 
 そして案の定、翌日2日のNHK報道で海響館・石橋館長のコメントが。

「JAZAの方針が捕鯨を推進する下関市の立場と整合性がとれないことも退会を決めた一因だ」(引用)

 海響館は下関市の公営水族館。そう、あの下関市です。近代捕鯨の大乱獲時代に大いに潤い、いまなお調査捕鯨母船日新丸の母港化誘致運動を積極的に展開している乱獲捕鯨城下町。運営する下関海洋科学アカデミー代表は捕鯨族議員の代表格である林芳正参院議員と懇意の中尾前下関市長、鯨類研究室長は元鯨研の石川氏と、捕鯨サークルと非常に強固なリレーションがある街。以下の過去記事もご参照。

■調査捕鯨と下関利権
http://kkneko.sblo.jp/article/69075833.html
■復興予算を食い物にしようとした調査捕鯨城下町・下関市
http://kkneko.sblo.jp/article/56253779.html

 では、新江ノ島水族館のほうは? 
 同館は首都圏近郊にある人気の高い大手水族館のひとつ。そのうえ日本国内ではイルカの繁殖実績が豊富な館として知られ、ハンドウイルカの繁殖に日本で初めて成功しています。つまり、JAZA内で自家調達・繁殖融通を考えるうえではとても重要なポジションにあったわけです。
 ちなみに、同館で現在飼育しているイルカはいずれも太地産≠ナはなく、近年太地から調達したイルカもいません。野生由来が3頭いますが、いずれも前世紀に壱岐と伊東から入手した個体。
 逆に、JAZAを切り崩すことを望む連中の目で見るなら、同館はまさしく最初に攻め落としたい城だったといえるでしょう。

 さて、一連の報道の中で、両館は異様なまでに太地の顔色をうかがうコメントをいくつか残しています。中にはあからさまな事実誤認も含まれています。

「追い込み漁は国が認める合法的なもの。国の政策に反する禁止規定を設けるJAZAの方針を容認できない」/両館(〜読売記事)

 これは間違い。マスコミ記者ではない業界関係者としては大いに問題アリです。
 第一に、追い込み猟の法的根拠などWAZA/JAZAは問うていません。動物園業界団体としてのWAZA/JAZAが飼育動物一般の入手のガイドラインに沿う形でイルカの調達のルールを設けただけ。
 両水族館の主張は、さまざまな商品・サービスに対して各小売店・業界団体が設けている自主基準を否定するものでしかありません。
 業界の事情に詳しい水族館通のイラストレーター・福武氏、作家・川端氏も以下のように指摘しています。

https://twitter.com/shinobuns/status/848494498443255809
「追い込み漁は禁止されてない。追い込み漁によって捕獲されたイルカの入手をしないとJAZAが決めたの」(引用)
https://twitter.com/shinobuns/status/848197260617826304
「国内法で禁止されてないから悪いことしてないという理屈やんね。だれも国内法の話なんかしてないっちゅうねん」(引用)
https://twitter.com/Rsider/status/848155204016930816
「動物園水族館が、国の法律や条例よりも上のスタンダードを自ら設定するのは別に変なことじゃないんだけど」(引用)

 動物園水族館における展示動物の入手に関する法的なガイドラインは、現在日本には存在しません。EU・英国のような動物園法がそもそもないのです。それに近いといえるのが、法的拘束力を持たない環境省の「展示動物等の飼養及び保管に関する基準」ですが、この中には調達に関する規定がありません(輸送まで)。
 つまり、事実を言えば、合法なのではなく無法地帯なのです。
 自主基準である以上、確かにやめたい会員は勝手に脱会すればいい話です。しかし、少なくとも両館は「違法でないことで縛られたくない」と正しい動機≠述べるべきでした。
 そして、その姿勢は「法律がない以上、水族館では何でも許されるべきだ」との主張につながります。それは、国内法基準がない中でのJAZAおよび加盟各館のエンリッチメント・動物福祉の向上に向けた取り組みをすべて否定することを意味します。

「(追い込み猟は)水産庁が計画だてて執り行ってきたもので、水産庁、太地いさな組合との関係は崩さない」江ノ島(〜神奈川新聞記事)

 主張の前半は事実ではありません。「水産庁が計画だてて執り行ってきた」のが新たな事実として発覚したら、世界的にとんでもない物議を醸すのは間違いありませんが・・。
 上記したように、動物園水族館業の所轄庁といえるのは環境省(及び自治体)。水産庁の出る幕はありません。2年前の騒動当時も自民党の捕鯨族議員が水産庁経由で「JAZAに圧力をかけろ」とまくし立てて問題になりましたが。
 同館は「環境省・JAZAとの関係を崩してでも、水産庁・太地とはがっちりスクラムを組みたい」と言っているわけです。これはびっくりです。同館は「水族館」の看板を引っ下げ、代わりに「新江ノ島魚市場」を名乗るのがスジというものでしょう。

「鯨類の繁殖研修を続けるには、地元の太地いさな組合などとの関係を維持する必要がある」/江ノ島(〜WBS報道)

 たった2年でJAZA内の飼育館のネットワークでの試行の努力を放棄し、「太地との連携が必須」との判定を下すのは明らかに時期尚早です。
 スタッフ研修に関して、太地町立館門外不出の秘伝でも存在し、それがなければ立ち行かないと、新江ノ島の担当者は本気で考えているのでしょうか?
 産経が中国からの受入を報じた太地のスタッフ研修制度が、他館が数年で追いつけないほど絶対的に優れたものだとは、筆者には到底思えません。
 あるいは、太地で飼育されているイルカを、獣医学部の実習訓練用のイメージで、飼育個体へのストレスを考慮せずに研修プログラムを組んでいることが、同町立館の異常に多い死亡率の一因になっているのではないかと勘繰ってしまいます。
 昨年1年だけでハンドウイルカ3頭、マダライルカ1頭が死亡。ほぼ毎年、多い時には年十数頭のイルカを死なせているのが太地町立館です。


 「供養さえすればいい」という身勝手な感覚で、次々に死なせては追い込み猟を使ってどんどん補充するのが太地町立館のスタイル。それはむしろ、追い込み猟という安易な補充手段があるからこそ可能なことであり、それ故に命の価値が軽くなっているといわざるをえません。いまは、飼育動物をできる限り長生きさせようと神経を配り、懸命に努力することが動物園にとって当たり前の時代です。太地の無神経さ、無節操さは、WAZA/JAZAの目指す方向性とは相容れないもの。
 新江ノ島水族館は、本当にそんな太地に寄り添う選択をしてしまっていいのでしょうか?

 ここで、ツイッターで拾った反応の一部を紹介しましょう。

https://twitter.com/M_A_F_/status/848157510917693440
「んーーーーーー日本で一番イルカの繁殖に成功してる江ノ島やフグで充分キャラ立ってる上他もすごい海響館がなんで追い込み漁のイルカにこだわるかね」(引用)
https://twitter.com/nukotama001/status/848108324734119936
「あらら・・・、特に江ノ島水族館はバンドウイルカ繁殖が一番成功してたのにねえ。ただの見世物小屋に堕するのか」(引用)
https://twitter.com/adachib/status/848107295477313537
「日本は繁殖だけでショーのイルカをまかなえていない。アメリカはそれができている。死んだら野生からつかまえてきて補充って、教育施設のくせにそんな安易な真似をして恥ずかしくないの? 水族館の役割はサーカスやペットショップとは違うだろうに」(引用)
https://twitter.com/naagita/status/848182120119844864
「新江ノ島水族館のイメージがダダ下がりなんだが……もう行かないだろうな。(^_^;)」(引用)
https://twitter.com/cub_tsuke/status/848162660461928448
「え〜、新江ノ島が? 教育施設としての学術性にもちゃんと気を配ってる水族館という印象だったのにガッカリだ」(引用)
https://twitter.com/momoclocatb/status/848124245590761472
「「新江ノ島水族館」と「海響館」には、絶対に行きたくありません!」(引用)
https://twitter.com/windowmoon/status/848101478791172096
「残念。もう江ノ水には行けないな」(引用)

 以下はWCSの動物イラストレーター・本田公夫氏、IKAN、そして到津の森動物園園長の卓見。一部ここで抜粋させてもらいましたが、全文必読です。

https://www.facebook.com/hiroto.kawabata.98/posts/1278076102247912
「昨年末の段階では江の水には内部的にJAZAに残ろうとする拮抗力もあるという希望的な観測も流れていました。極めて残念です。江の水と海響館は、水族館、とくに鯨類飼育園館の「世間」とJAZAの「世間」の間で前者の世間を選択したということであろうと推察されます。そうでなければ、記事をそのまま真に受けると、太地から20年イルカを買っていないと言っていた江ノ島が「今後も太地町からイルカを購入したい」という理由で退会するというのは解せません」(引用)

■イルカ飼育と福祉について|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-0d0a.html
「海響館はさすが下関、「イルカ猟は合法であり、禁止するJAZAの方針を容認できない」そうである。いやしくも、「教育的な」側面を持つ水族館が、命の大切さや自然の不思議さの前に、産業擁護を自分たちの都合のための言い訳にするって、どうよ?」(引用)

■JAZA(日本動物園水族館協会)を退会した水族館で思うこと
http://www.itozu-zoo.jp/blogs/encho/2017/04/7822.php
「海外から見ると(けだし客観的な見方です)、日本人は獲り尽くすと他へ移動し、獲り尽くすと。そのように映るものです。クジラもイルカも魚類という見方を私たちはしています。果たして私たちの感覚は正常なのでしょうか。たとえそれが魚類であったとしても、蓄養の試みなしに自然からの略奪(ちょっと過激的な言い方かもしれませんね)は許されるのでしょうか」(引用)
「水族館の弱点は、実はここにあります。あまりに身近すぎて、しかも漁撈という文化的な下地も相まって、イルカを含めた魚類に対する思いやり(実は福祉ですが)が欠けているのではないかと思われることです。消耗した(あるいは、された)魚類は補えると思っているように感じます。それは極端な言い方をすれば命の軽視にも繋がる恐れがあります。そのような非難にはどのように応えればいいのでしょうか。論理的回答を求められるところです」(引用)

 さて、新江ノ島水族館および海響館の関係者のみなさん。水族館ファンを含むこうした深い幻滅の声を聞いても、今回の決断が本当に正しいことだったと思いますか?
 今からでも遅くありません。もう一度よーく考え直してみてください。

 ◇ ◇ ◇

 次回は水産庁パブコメについて
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2017年04月12日

広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン

dabsta.png
■Ultra double standard of Japan's diplomacy: 100% opposite in nuclear ban and "Favorite sashimi"
http://www.kkneko.com/english/nuclearban.htm

 今回は英語版を先に出しました。
 正直英語が超苦手な筆者ですが、国際司法裁判所(ICJ)でボロ負けして以降、判決全無視と卑劣な受諾宣言書き換え、ガラクタ調査捕鯨NEWREP-Aの強行に同じくNEWREP-NPの拡大宣言、トンデモ捕鯨礼賛映画裏コーヴ≠活用した愛国歴史修正主義者煽動etc.と、捕鯨サークルがなりふりかまわぬ姿勢に転じたこともあり、日本語/英語双方での発信強化を決めた次第です。

■核兵器禁止を目指す初の国連会議 日本の空席には「#wishyouwerehere」(3/29,ライブドアニュース)
http://news.livedoor.com/article/detail/12863111/
■核禁止条約交渉、日本は不参加=「国際社会の分断深める」と軍縮大使−国連 (3/28,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017032800199&g=pol
■核禁止条約、対立を危惧=岸田外相 (3/28,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017032800293&g=pol
■米国連大使、核兵器禁止「現実的でない」 (3/28,BBCジャパン)
http://www.bbc.com/japanese/39414602
■「核兵器禁止」日本は賛同せず 被爆国なのにどうして?【NPT再検討会議】 (2015/5/24)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/05/24/npt-ban-nuclear-weapon-humanitarian-pledge_n_7429810.html
■Japan abstains as nuclear arms ban treaty talks start at U.N.(3/28,ジャパンタイムズ)
http://www.japantimes.co.jp/news/2017/03/28/national/japan-abstains-talks-start-u-n-nuclear-arms-ban-treaty/
■世界の核兵器、これだけある|朝日新聞
http://www.asahi.com/special/nuclear_peace/change/

先月国連で開かれた核兵器禁止条約(NWC)締結に向けた国際交渉への参加を日本が蹴ったニュースを見て、たぶん国民の多くが「なんで?」と首をひねったことでしょう。
 広島・長崎の原爆の悲劇は絶対に忘れてはならない、繰り返してはならない歴史として、直接被爆を体験していない世代も含め、私たち日本人の心に刷り込まれています。そのハズです。
 ですから、岸田外相や高見沢国連大使の、(少なくとも拉致被害者家族と同等以上に)心に深い傷を負い続けてきた被爆者の方々にまったく寄り添おうとしない、冷淡で突き放した言い方に対し、国民の感覚との大きなズレを感じたことでしょう。
 世界で最初に核攻撃による甚大な被害を受け、多数の尊い人命を奪われた日本が、核兵器廃絶を外交の最優先課題に据え、非人道的な兵器を認めないという価値観を共有する約110カ国の先頭に立って核のない世界を目指すことは、大変理にかなっています。
 世界中の心あるすべての人々が、きっと日本の姿勢に共感してくれるはずです。オバマ前米国大統領が示してくれたように。
 心を持たないシステムたる国家の場合、話はそう簡単ではありません。しかし、核兵器保有を正当化する大国の代表者は、真実に裏打ちされた日本の主張に対し、歯に物が挟まったような、あるいは冷淡で突き放した利己的かつ非人間的な言い訳≠オかできないはずです。彼らは被爆者の目をまっすぐに見ることができないはずです。そして、そのことは間違いなく世界に伝わります。
 日本が核兵器禁止条約での議論をリードすれば、確実に目標に一歩近づいたことでしょう。なんでもかんでも手っ取り早く武力で解決を図ろうとする、文明の後退を匂わせる昨今の世界情勢に、一石を投じることができたでしょう。
 世界における日本の存在感も格段に大きくなったはずです。TV局に厨二病的日本スゴイ番組をせっせと作らせるより。一過性のどんちゃん騒ぎにすぎない五輪なんか開くより。武器の流入を黙認しながら情勢が悪化するとそそくさと撤退する超中途半端なPKO派遣なんかより。
 ところが、残念なことに、日本政府はまったく逆の選択をしました。核保有国のお先棒を担ぎ、彼らに格好の口実を与えました。自称唯一の被爆国である日本が、具体的な核廃絶への道筋を何一つ示さないまま、「(核兵器禁止条約交渉を)現実的・効果的でないと平然と言ってのけちゃったんですから。これで、本来なら後ろめたさでいっぱいになるはずの言い逃れの文句を、彼らも安心して堂々と使えるわけです。
 参加した被爆者や核廃絶を求める世界中の市民の間からなんと情けない国だろうと失望の深いため息が聞こえてくるのは、あまりにも当然のことでしょう。
 そもそも日本が米国等の核保有国とタッグを組みながら推している核不拡散条約(NPT)は、既存の核大国を別格扱いする身も蓋もない差別的な不平等条約です。イスラエルやインド、パキスタンは参加せず、問題児の北朝鮮は脱退し、2010年代からは世界の核兵器の数はほぼ横ばいと、実効的な成果を挙げてきたとはとてもいえません。それ以前に今世紀に入ってからは、削減はもともと非合理に量産した米ロが主で、他の核保有国は変化なし、新興核保有国の登場まで許したのが実情です。核保有国には「誠実に核軍縮交渉を行う」ことが義務づけられていたにもかかわらず、ちっとも誠実に履行などされませんでした。一方、質量的に大国と対抗できる軍備を揃える技術も金もない国にとって、核はむしろより手軽な脅しのカードに使えるオプションとなってしまいました。だからこそ、業を煮やした世界中の非核保有国とNGOがNWCの制定に向けて準備を進めてきたわけです。
 しかし、そのように停滞した状況を打開する行動を一切とることなく、唯一の被爆国を謳いながら指をくわえてながめてきたに等しかったのが日本でした。そんな日本の言い訳は矛盾だらけで、ひたすら見苦しいの一言に尽きます。
 気候変動枠組条約にしろ、生物多様性条約にしろ、核以外の非人道的な大量殺傷兵器禁止条約にしろ、よその国の顔色ばかりうかがっていたら何も進みやしないのは、あらゆる国際条約でいえることです。対人地雷禁止条約とクラスター弾禁止条約には、米ロ等核大国とも重複する肝腎の保有国が批准していませんが、日本は加わっています。NWCに対する日本の態度は、地雷敷設で多大な人的被害を被ったカンボジアがオタワ条約に参加しないのに等しいものです。あるいは、後にパリ協定につながり、後ろ向きだった米国や豪州も参加させることにつながった京都議定書を最初から「無駄だ」と一蹴するのに等しいことです。
 破綻を前提とするのでない限り、できるだけ多くの国々が参加する筋の通った法的枠組を作ったうえで、消極的な国に方針の転換を粘り強く促すことこそ、現実的で効果的な唯一の道といえるでしょう。
 さて、筆者はもちろん、国に一刻も早く核廃絶を達成してほしい一日本人として、次の国政選挙では景気よりNWC早期加盟の是非を候補者・政党を選択する際の重要な基準に据えるつもりでいます。

 ただ、一連のニュース、特に日本政府担当者の発言を聞いていて、憤りとともに非常に強く感じたことがあります。
 それは、モヤモヤ感・とてつもない違和感
 というのも、別の分野の国際交渉をウォッチしてきた者の目には、日本政府のあまりにも煮え切らない卑屈な態度が、まるで別人格≠フように映ったのです。英語版記事では「ジキルとハイド」という表現を使いましたが。
 実際のところ、とある国際交渉の場において、日本政府はまるっきり逆の態度を取り続けてきました。すでに拙HP、ブログにお越しいただいたことのある皆さんには、何のことかもうおわかりですよね?
 原爆については日本は被害者の立場(太平洋戦争ではむしろ加害者の側面が大きいにしろ)ですが、商業捕鯨の乱獲・規制違反・密漁密輸の責任については日本はノルウェーに次ぐトップ2の加害者の立場です。南極海の荒廃をもたらし、多数の野生動物の命を奪った日本が、捕鯨推進を外交の最優先課題に据え、ジゾクテキリヨウという価値観を共有(?)する30カ国余りの捕鯨支持国の先頭に立って商業捕鯨再開を目指す──それが捕鯨外交なのです。
 非核平和ではよその国に遠慮しまくっている日本が、美味い刺身≠ノなると態度を一変させることができちゃっているのです。
 国際捕鯨委員会(IWC)の議論で、日本側のトップとして交渉にあたった前/現ミスター捕鯨問題≠スる小松正之氏と森下丈二氏も、≪原理原則≫を前面に押し出して一歩も譲歩する姿勢を示しませんでした。小松氏は国際法違反認定されたJARPAUの拡大路線とODA票買いの音頭を取り、森下氏は2009年の外部専門家を交えた和解協議だったデソト交渉を破談させました。まあ、「海のゴキブリ」発言で有名な小松氏はぶち上げ型、森下氏はサークルの核である日本捕鯨協会とは一線を画する斜めの主張がむしろ持ち味で、お二人のカラーはだいぶ異なりますけど。森下氏の方は最近微妙なニュアンスの変化がうかがえるものの、残念ながら極端なジゾクテキリヨウ原理主義から脱することはできていません。
 永田町の捕鯨族議員は何かと言えば「脱退しろ!」と拳を突き上げ(しかも鯨肉カレーなんぞ頬張りながら)、担当者も会議の場で脱退カードをこれ見よがしにちらつかせ、自らが決議を拒むことを正当化してきました。NWC参加問題での広島・長崎への仕打ちとは対照的に、IWCでは太地と二人三脚でぴったりと寄り添い、南極の自然を勝手に1地方自治体・特定漁協にとっての外堀≠ノしてしまいました。
極めつけは2014年のICJ判決に対する日本の不誠実かつ不遜極まりない態度。当時、各新聞も社説で「調査を名目にするのはやっぱりおかしい。南極海からはもう撤退した方が現実的≠ナはないか」とまともな国民の多くの声を代弁しました。しかし、当の捕鯨サークルは馬耳東風と聞き流したわけです。
 ヤッツケ・デタラメ新調査捕鯨の強行と国連受諾宣言書き換えは、岸田外相や高見沢国連大使の言うところの「対立・分断を深める」行為以外の何物でもありません。公海での違法な調査捕鯨に固執し続けるのは反発を強めるばかりで逆効果であり、日本の国是「商業捕鯨(沿岸捕鯨)再開」すらもますます遠ざける悪手といわざるをえません。
 実際のところ、捕鯨文脈における日本の独善的な行動は北朝鮮と瓜二つ。この辺はブログで何度も指摘しているところ。
■北は人工衛星という名のミサイル、日本は調査捕鯨という名の商業捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/60752017.html
■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
■IWC決議違反の調査捕鯨は国連決議違反の北朝鮮のミサイルと同じ!
http://kkneko.sblo.jp/article/96646061.html

 もっとも、その北朝鮮はICJ判決後に日本の国際法違反の調査捕鯨を「犯罪行為」と強く非難しています。

■北朝鮮 日本の捕鯨を「犯罪行為」と批判 ('15/11/2, 聯合ニュース)
http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2015/11/02/0300000000AJP20151102004500882.HTML

 自分のことを棚に上げて? そりゃ、どんぴしゃブーメランでしょうに・・。
 そう、国際社会の目から見れば「どっちもどっち」。むしろ、たかが美味い刺身≠ナ国際法違反の悪いお手本を世界に示してしまう日本の方が、ずっと奇異に映るでしょうね。
 要するに、NWCとIWCの二つの国際会議における日本の態度は、到底同じ国のものとは思えないのです。
 南極産鯨肉=美味い刺身≠フためならあれほど傲岸不遜に振舞うことのできる国が、内外で共感する市民が圧倒的に多いはずの反核平和に関しては、すっかり萎縮してとことんしおらしくなってしまうのですから。
 「日本人の美徳」、慎ましさ、奥ゆかしさ?
 広島・長崎の声を犠牲にしてまで発揮した度を越した謙虚さの美徳も、オーストラリア・ニュージーランド両国が主権を主張しているサンクチュアリにまで一方的に押し入って美味い刺身≠強奪している時点で台無しですよ。
 もっとも、日本人の中にはこれでもまだ生温すぎるとお思いの御仁もいらっしゃるようですが。
 そう、「日本人の美徳である耐え忍ぶ、あうんで分かり合える、という素晴らしい民族性が今、仇となっている」という教育勅語も顔負けの迷言を残したウルトラナショナリスト、トンデモ竜田揚げ映画「ビハインド・ザ・コーヴ」を製作した八木景子氏。

■いろんな意味で「The Cove」を超えたトンデモ竜田揚げプロパガンダ映画=uBehind the Cove」の真っ赤な嘘|トゥゲッター
http://togetter.com/li/941637
■暴かれる陰謀|YOICHI MOGI
http://uminchumogi.blog111.fc2.com/blog-entry-446.html
■「ベトナム戦争」と「核問題」に直結する本物の陰謀≠暴き、かけがえのない日本の非核文化をサポートしてくれた「グリーンピースの研究者」と、竜田揚げブンカのために「広島長崎の虐殺」を掲げながら贋物の陰謀≠ノ引っかかったトンデモ映画監督|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/174248692.html
■Talk-back to an Oscar winner: Keiko Yagi's doc, BEHIND THE COVE, opens in Los Angeles | TrustMovies
https://trustmovies.blogspot.jp/2016/12/talk-back-to-oscar-winner-keiko-yagis.html

 八木氏が熱情を込めて作ったこのノンフィクション映画≠ノは、なんと驚くべきことに、原爆のワンシーンが登場します。これには外国人も日本人も(まともな人は)ドン引き。リンク、まとめの感想をご参照。
 ICJ判決まで捕鯨問題に無関心だった方が、新宿の鯨肉居酒屋で捕鯨協会のコンサルタントを務めた世論操作の立役者・梅崎義人氏と意気投合し、何かに突き動かされるように(とご本人もおっしゃってますが)作り上げたというこの作品。国内でも海外の映画祭でもクオリティについてはさんざんな評価を受けました。そんな無名の監督の初作であるにもかかわらず、なぜか永田町の国会議員を招いた試写会がセットされたり、記者レクのサポートまで水産庁がお膳立てしたり。安倍昭恵夫人の秘書さんじゃないけれど、何とも至れり尽くせりのアシストです。担当者はきっと「公務じゃない」とさえ言わないでしょうけど。
 氏はこれまでにも映画後のトークショーやメディアインタビュー、あるいは漁業問題のプロフェッショナル・茂木氏とのやり取り等各所で、人権・外交・環境・動物・漁業問題に関する相当とんちんかんな見識を開陳されてきましたが・・どなたか、八木監督の核兵器廃絶に向けたメッセージ、メディアへの寄稿を目にされた方はいらっしゃいますか? 今回のNWC交渉日本不参加に対する発言を聞かれた方は?
 まあ、本当に南極産美味い刺身≠フことしか頭にないんでしょうねえ・・なんともザンネンな御仁です。
 13日に渋谷で上映との話ですが、核兵器禁止条約交渉に対する日本政府の不甲斐なさに対し、せめて何か一言でもガツンと言ってくれるといいんですけどねえ。
 ちなみに、八木監督のお好きな阿吽の呼吸という言葉、核廃絶の足を引っ張る米国に歩調を合わせる日本にこそまさにぴったりあてはまる表現だと、本当に核問題に関心のある&はみなさんお思いになったことでしょう。当人にはちんぷんかんぷんかもしれませんが・・。

 筆者はむしろ、日本政府としての反核平和の哲学とジゾクテキリヨウ(美味い刺身=jの哲学の扱いは、今と正反対であるべきだと思います。美味い刺身≠ネんぞ優先順位の最下位でよろしい。
 毎年52億円の捕鯨対策予算は全部、「核兵器のない世界」を構築するための事業に振り向けるべきです。復興事業にたかった23億円や、これまでODAに注ぎ込んできた1千億円の予算も返納してもらいたいところ。縁故主義が支配的でガバナンスの未熟な発展途上国にODAを大盤振る舞いし、旅費を持ち、担当役人にはよい女の子≠ワで手配し、手練手管を駆使して多数派工作を進めてきた捕鯨推進外交のエネルギーも、今後はすべて非核グループの結束と拡大のために注がれるべきです(コールガール接待しろとは言いませんが)。
 美味い刺身@~しさに国際法を蹂躙し、南極海の平和を欲望でかき乱す、そんなエゴむき出しの行為をやめられない国がいくら平和を口にしたところで、世界に対して説得力を持つはずがないではありませんか。

 ◇ ◇ ◇

 次回(近日中)太地イルカ猟問題の予定
posted by カメクジラネコ at 18:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系