2016年08月27日

金を払ってSSCSと和解の怪! 司法判断から逃げ続ける卑劣な鯨研と共船

 最後のJARPNU(北西太平洋調査捕鯨)沖合調査が終了し、10月にスロヴェニアで開かれるIWC年次会議まで、しばらくクジラは世間の話題に上らないだろうと思っていたら、唐突にニュースが流れ込んできました。

■調査捕鯨の妨害しない 米の反捕鯨団体と合意 (8/23,NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160823/k10010650891000.html
■捕鯨妨害、永久に禁止=米シー・シェパードと合意−豪団体は活動継続の意向・日本側 (8/23,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016082300406&g=eco
■シー・シェパード 調査捕鯨妨害、永遠に禁止 日鯨研合意 (8/23,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20160823/k00/00e/040/178000c
■シー・シェパード、捕鯨妨害禁止で日本側と合意 米での訴訟決着 (8/23,日経/共同)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H40_T20C16A8CR0000/
■逆風続く調査捕鯨 豪、NZなど根強い反対 妨害禁止合意 (8/23,東京/共同)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201608/CK2016082302000245.html
■「妨害永久に行わない」合意に抜け穴…拠点移し、高速新造船を投入 ワトソン容疑者「南極海に戻る」と豪語(8/23,産経)
http://www.sankei.com/world/news/160823/wor1608230032-n1.html
■妨害禁止「一定の効果」 調査捕鯨、米シー・シェパードと合意=訂正・おわびあり (8/24,朝日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12525379.html

日本側が金銭を支払う一方(引用〜NHK)

 これを聞いて、誰もが一瞬「えっ!?」と耳を疑ったことでしょう。
 裁判で事実上勝っている被害者が、一体なぜ加害者に金を払う必要があるのか、と。
 ネット上では「盗人に追い銭」という感想が聞かれますが、盗人より暴漢に近いとはいえ、あながち間違いとも言い切れないでしょうね。
 NHKは同記事中、他紙も第二報で、今回の取り決めは米国以外のSSオーストラリア支部等には「適用されない」とする当事者のコメントを伝えています。
 「じゃあ、一体全体何のために金を払ったの??」と、疑問はますます膨れあがるばかり。

■捕鯨妨害「禁止」 この合意では安心できぬ (8/26,産経)
http://www.sankei.com/affairs/news/160826/afr1608260011-n1.html
■[捕鯨妨害禁止] 安全性は確保されるか (8/25,鹿児島新聞)
https://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201608&storyid=78229
■捕鯨妨害禁止、安全確保の取り組み続けよ (8/25,世界日報)
http://www.worldtimes.co.jp/opnion/editorial/71537.html
https://vpoint.jp/opnion/editorial/71203.html

 今のところのマスコミの反応はこのくらい。国民の抱く素朴な疑問とはおよそかけ離れた内容で、違和感は強まる一方です。なお、最後の世界日報およびビューポイントは統一教会系メディア。いかにもそれっぽい感じ・・。
 そんな中、唯一ごくまともなツッコミを入れてくれたのが、こちらのコラムニストの保科省吾氏。

■暴力集団シー・シェパードに日本側が和解金を支払う謎 (8/25,メディアゴン)
http://mediagong.jp/?p=18812
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160825-00010000-mediagong-ent&p=1

だが、なぜ正当な理由で得た賠償金を返さなければならないのか。さっぱり分からない。
民事裁判だから原告(鯨類研究所)被告(米のシー・シェパード)とも、なんらかの利があって双方合意したということか。では、日本鯨類研究所の利とはなんなのか。シー・シェパードのそれはなんなのか。
もっと調べないと真実は分からないが、筆者はシー・シェパードにも日本鯨類研究所にもある種の怪しさを感じてしまうのである。(引用)

 当事者である日本鯨類研究所(鯨研)および共同船舶(共船)とSSCSの発表をチェックする前に、まず上掲の朝日と産経の記事中の重大な誤りについて、指摘しておきましょう。
 朝日記事(農水担当野口陽記者)は、アナログ版では8/24の三面、かなり大きな扱いです。
 オンライン記事の方は「訂正・おわびあり」とあり、鯨研が写真した写真のキャプションが間違っている旨追記されています。ちなみに、野口記者が日新丸と間違えた補給船の名称はサン・ローレル号パナマ船籍で船会社は韓国だったりします。いわゆる便宜置籍船。この辺も日本の調査捕鯨のいかがわしさ。

国際司法裁判所(ICJ)は14年、捕獲数が多く肉を販売しており、実質的に商業捕鯨に当たるとの理由で、南極海での調査捕鯨を違法と判断(引用)

 捕鯨の賛否によらず、捕鯨問題・ICJ調査捕鯨裁判の経過をウォッチしてきた人は、この一文を見てあからさまに眉をしかめたことでしょう。実際、和田浦の外房捕鯨の社長である庄司義則氏も「この記述は明らかな誤りです」(引用)と指摘するほど。

■シーシェパード(SS)と日本鯨類研究所の和解報道に関連して (8/25,外房捕鯨株式会社)
http://gaibouhogei.blog107.fc2.com/blog-entry-761.html

 国際捕鯨取締条約(ICRW)8条のもとで副産物≠フ利用は認められており、従来日本の調査捕鯨の合法性の拠り所とされてきました。「肉を販売したこと」が「違法判断の理由」と書いてしまった野口記者は、捕鯨問題の基礎中の基礎もまったく勉強していないことが明らかです。
 ただし、庄司氏の次の主張も明白な誤り。

「ICJが日本の調査捕鯨が擬似的な商業捕鯨であると認定した」と誤った報道をすることにより(引用〜外房捕鯨ブログ)

 無知な野口記者と異なり、事情を知っているはずの庄司氏のコメントは狡猾な誘導といわざるをえません。外房捕鯨は現在IWCの規制対象外となっている日本近海のツチクジラとゴンドウを捕獲対象としており、本来なら南極海母船式捕鯨とは一線を画する立場であっていいはずですが・・捕鯨支持国向けのレクチャーを引き受けたり、侵襲的で硬直的な性格も含め、中央の捕鯨サークルとどっぷり一体化してしまっているのは、きわめて残念なことです。
 ICJは、JARPAUは「商業捕鯨モラトリアム違反」である、すなわち商業捕鯨だったとはっきり認定しています。そして、その証拠として、本川一善水産庁長官(当時)による「刺身にしたとき非常に香りと味がいいミンククジラを安定的に供給するため」との国会答弁を採用し、判決文にもきちんと明記されました。要するに、科学が主目的≠ナ鯨肉が副産物≠ナさえあれば、JARPAUは商業捕鯨ではなく合法的な調査捕鯨として認められていたのです。しかし、ICJは、鯨肉こそが主産物であり、その安定供給がJARPAUの主目的だったときっぱり認定したのです。
 読者の皆さんには改めて説明の必要もないと思いますが、詳細はこちら。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html

 朝日記事に話を戻しましょう。
 「捕獲数が多く」も詳細な補足が必要。ナガスクジラやザトウクジラは捕獲数が少数ないしゼロでも「成果あり」としながら、クロミンククジラのみ大量経年致死調査が「不可欠」とする矛盾を日本側が説明できなかったことがその理由。詳細は上掲拙記事解説をご参照。
 判決後に「じゃあ、捕獲数を増やせばよかったんだ」と外野の捕鯨推進派が訴えたものの、日本はNEWREP-Aで対象種をクロミンク1種のみに絞ったうえ、捕獲数を333頭に縮小、ますます矛盾だらけになったのが実情です。

調査捕鯨を日本が続けるのは、鯨が増えていることを証明するデータを集め(引用)

 こちらも完全な間違い。NEWREP-Aの主目的は「RMPの高精度化」「生態系モデルの構築」。
 なお、クロミンククジラについては、IWC科学委員会におけるJARPAレビューの中で「調査期間中の増加の停止」が確認されています。
 いま「増えている」と日本側が主張しているのは、「商業捕鯨対象になりえる」との理由で唯一の捕獲対象としたクロミンククジラではなく、ザトウクジラとナガスクジラ。ただし、ナガスクジラについてはIWC科学委員会で生息数について合意されてはおらず、どちらも日本をはじめとする捕鯨会社の乱獲によって激減した状態から少し回復しつつあるとみられるだけで、「増えている」という言葉を用いるのは大きな誤解のもとです。
 詳細はこちら。

■間引き必要説の大ウソ|拙HP
http://www.kkneko.com/mabiki.htm

 続いて、おなじみパクリ記者佐々木正明氏がリオからわざわざ届けてくれた産経記事。ただ、朝日ほどひどくはないといえ、いつもの佐々木節でたいした中身はなく、適当に書いた作文≠ヌまり。

一方、ワトソン容疑者は最近、「フランスを出る」「南極海に戻る」などとの発言を繰り返しており(引用)

 佐々木氏はこんなことを書いているのですが、以下の海外報道が出た25日の2週間前には、当のポール・ワトソンは米バーモント州に入っていた模様。まともなジャーナリストだったら穴に隠れたくなるくらい恥ずかしいチョンボ。
 不思議でならないのは、こんなガサツな作文で原稿料を要求できる佐々木記者と支払える産経の神経。ろくに裏取りもしないで駄文を書く暇があったら、リオでちゃんと仕事すりゃいいのにね・・

■US anti-whaling group to stop interfering with Japanese (8/25,FOX NEWS)
http://www.foxnews.com/world/2016/08/25/us-anti-whaling-group-to-stop-interfering-with-japanese.html
■Sea Shepherd's Paul Watson Returns to the U.S (8/25,MarEx)
http://www.maritime-executive.com/features/sea-shepherds-paul-watson-returns-to-the-us

 マスコミ報道チェックはこんなところで、当事者の発表内容を検証してみることにしましょう。

■対シーシェパード訴訟での調停合意のお知らせ|日本鯨類研究所
http://www.icrwhale.org/160823ReleaseJp.html
■妨害差止訴訟・豆知識|〃
http://www.icrwhale.org/10-A-b.html
■米国第九巡回区控訴裁判所の法廷意見|〃
http://www.icrwhale.org/pdf/daikyujunkaihoutei.pdf
■米国第九巡回控訴裁判所・命令|〃
http://www.icrwhale.org/pdf/karishobunmeirei.pdf

 鯨研&共船v.s.シーシェパードの場外プロレスの経緯は、上掲2番目のリンクにあります。
 まず、2011年に捕鯨サークルの2角をなす鯨研・共船が米国のワシントン州米連邦地裁に妨害行為の禁止を求めて提訴。同地裁が仮差止命令の申し立てを却下したため、翌2012年に鯨研&共船側が第九巡回上訴裁に控訴。こちらで鯨研&共船側の言い分が概ね通ったわけです。
 その後SSCS側が命令を無視したため、法廷侮辱罪として賠償金255万ドル(約3億円)を課せられ、実際に連中は支払ったわけです。
 法廷侮辱罪の罰金は「原告の弁護士費用・経費及び被告の妨害により生じた損害」(引用) 3億円が懐に入ったといっても、決してまんまと大金をせしめたわけではありません。どんな裁判の賠償請求の場合も同じですが。
 つまり、船や機材などの修理代や弁護費用等にかかった実費分を加害者に払わせたはずなのに、その一部(金額不明)をわざわざ返してしまったのです。まさに保科氏の言うとおり、「さっぱり分からない」ですね・・。
 民事賠償請求で、そのような和解が一体起こりえるでしょうか?
 示談金(通常相当な高額)を加害者側≠ェ支払う代わり、刑事告訴を取り下げるという取引なら、よく聞く話です。しかし、このケースでは金を払ったのは被害者≠フ方なのです。
 暴行を受けた被害者側が、すでに裁判自体は勝訴目前(判決には至っていないものの、原告の主張に沿って差止命令を出した状態)のステータスでありながら、損害補填のために得た賠償金を「和解金」の名目で返すなんて話は、およそ聞いた試しがありません。
 朝日記事に写真があるとおり、13年に実害を蒙ったのは韓国企業が所有するサン・ローレル号。鯨研&共船がSSCSから得た賠償金は同号の補修費用に充てられるべきですが、こうなると彼らが本当に受け取れたのか疑わしくなってきますね・・。
 ちなみに、この3億円と同額の予算が「調査捕鯨円滑化事業」の名目のもとSSCS妨害対策費として2009年度から付けられ、その額は年を追う毎に膨れ上がって年間11億円を越え、東北大震災のあった2011年には復興予算まで流用して約23億円が確保されました。
 修理費用にも充てずSSCSに金を戻すくらいなら、国庫に返還するのがスジというもの。
 産経佐々木記者にしろ朝日野口記者にしろ、納税者の視点が圧倒的に欠如しているといわざるをえません。
 報道されているとおり、SS-AUSによる妨害は継続が考えられ、オーストラリアで米国と同様に司法による解決をはかることは不可能です。
 ちなみに、豪連邦裁による日本の調査捕鯨裁判の経緯については、下掲リンク先をご参照。まじめに賠償金を払ったSSCSと異なり、共船は豪裁判所の命令をガン無視。出廷要求にすら応ぜず。

【共同船舶はオーストラリア連邦裁判所法廷侮辱罪での罰金100万豪ドル(約8750万円)支払い命令を無視して未だ納めず】
http://textream.yahoo.co.jp/message/1834578/a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa/1/75954

 SS-USからの資金の流れがなくなるといっても、妨害の規模が縮小するという具体的な根拠は何もありません。産経佐々木記者は抜け穴≠ニ表現していますが、民事の取り決めにすぎず、日本の脱法調査捕鯨と同じ意味での国際法の網の目をかいくぐる抜け穴とは言えないものの、外れてはいません。新船はすでに建造済み、実行部隊はもともとAUS支部、支援者には寄付を直接そっちへ送るよう呼びかければ済む話で、SS側が実質的に困る要素はほとんどないと言っていいでしょう。つまり、今回の決定を受けて、国から安全対策にかける予算が減ることはないのです。日本国民には何の利益もないのです。
 一方、NEWREP-Aでは妨害による計画への支障を減じる万全の対策を講じている旨も、水産庁は公言しています。
 要するに、今回の当事者同士の表向きの和解は、情勢の変化を何ももたらすわけではないのです。
 当事者以外には詳細がベールに包まれたこの不可解な和解は、さらに大きな疑念を呼び起こします。

妨害禁止で合意したのは、訴訟費用がSSに重くのしかかったためとの見方がある(引用〜朝日)

 誰の見方なのか記事には書かれていませんが、朝日野口記者にこう耳打ちしたのは、鯨研・共船関係者に間違いないでしょう。
 しかし、2つの観点でこの見方≠ヘ決定的に間違っています。
 SSCSにとって少なからぬ費用負担となったのは、訴訟費用というより3億円の賠償金(大半は船等の損害賠償)のはず。産経・佐々木氏が以前記事にしていますが、オランダの宝くじ団体から入手した11億円が年間予算に相当するとすれば、3億円の損失は確かに痛いでしょう。
 ただ、弁護士委託等のそれ以外の訴訟関連費用より、南極海に船を送る妨害活動の経費の方がはるかにコストがかかります。反訴によって賠償金を減額させる、あるいは相手からも賠償金を得るという戦術も考えられるでしょう。敵≠ナある相手から金を受け取り、秘密の協定を交わしたうえで手を引くのは、SS流の直接行動をこれまでずっと支持してきたサポーターたちにとってみれば裏切り行為と映るもので、今回の和解自体が同団体のイメージダウンにつながり、寄付収入の減少の形で打撃を与えても不思議はありません。まさに本末転倒です。
 もうひとつ、もし本当に金がなくてSS側が困っているとすれば、なぜ鯨研・共船側から手を差し伸べてやる必要があるのでしょうか? SSCSが本当に財政的に行き詰まり、訴訟費用の負担に喘いでいるなら、鯨研・共船側から救済を申し出なくても、SSCS自らの判断で訴訟ないし妨害活動ないしはその両方を断念するでしょう。鯨研・共船側から、自分たちの蒙った損失分の補償金を返上してまで、彼らに援助≠オてやる理由は何もないはずです。共謀者でない限り。
 すなわち、SS側の不利益とは別に、鯨研・共船側にとってここで妥協を成立させておきたい強固な理由があるはずなのです。仇敵と握らなければ確実に失うもの、あるいはそうすることで得るものが。

本合意の詳細は、裁判所により公開された永久的妨害差止に関する情報を除いて合意条項に基づき対外秘となっている。(引用〜鯨研プレスリリース)

 鯨研・共船側から返還された額が相当大きかった──おそらく3億円の大部分が返ったのでしょう──疑いとともに、お互いにとってそうしたデメリットを補って余りある何かが、この密約の裏に隠されているのは否定の余地がありません。
 誰もがこう疑問を抱いて当然でしょう。

日本鯨類研究所の利とはなんなのか。シー・シェパードのそれはなんなのか(再引用〜メディアゴン)

 以下は筆者の推理。
 まず、SSCS側の大きな利について。


I am now free to travel in the USA and France(引用)

 これはワトソンの8/19のFB。まさに鯨研のプレスリリース直前のコメント
 それに対して、彼が「フランスを出たがってる」と書いてしまったお間抜けな産経佐々木氏が、悔しまぎれにつぶやいています。


米国は日本と犯罪人引き渡し条約を結んでおり、日本側が要求すれば米国はそれ相当の対応をしなくてはなくなります(引用)

 しかし、ワトソン本人の発信を見る限り、びくついている様子は微塵もなさそうです。米国が日本からの彼の身柄請求に応じること、あるいはそもそも日本からの身柄請求自体が来ないことを、確信したうえでの発言と受け取れます。
 むしろ、引退・代代わりもささやかれていたワトソンは、この春のタイミングでSS-USAの代表兼総責任者に復帰し、潮目が変わって℃ゥ由の身になったかの如く晴れ晴れとした風情で、当分米国に腰を落ち着けて任務に励むかに見受けられます。
 ちなみに、死刑存続国家である日本は、欧州諸国との間で犯罪人引渡し条約を結べず、条約を締結したのは米国と韓国のたった2国という先進国として恥ずかしいありさま。
 いずれにしろ、ワトソンがわざわざ直前のタイミングで自信にあふれるコメントを公表したことは、極秘事項の中に彼の身柄に関する事柄が含まれているのではないかという、強い疑念を呼び覚まします。
 というより、SSCS側にとって、南極海で捕鯨を継続している当事者との、金を受け取ることも含めて自分たちに不利を強いる取引に応じるだけの十分な利得があるとすれば、それは「ほぼ3億の返還」+「ワトソンの自由」以外に考えられないという気がするのです。

 では、鯨研・共船側にとっての大きな利とは一体何でしょうか?
 こちらの答えはより明瞭です。
 鯨研・共船側のねらい≠示すヒントは、彼らの発信している情報の中に隠されています。

反訴も含め正式に収束(引用〜プレスリリース)
連邦地裁に差し戻しとなった、永久差し止めの審理は、2016年10月11日に開廷の予定(引用〜鯨研リンク2番目)

 鯨研・共船の行動から明らかなのは、「金を払ってでも、今ここで和解しておく必要があった」ということです。
 では、もし仮に和解をしなかったとしたら、一体何が起こったでしょうか?

 ここで仮定を置くことにしましょう。
 まず、鯨研・共船側の主張が全面的に正しい場合。
 上述の流れで、暫定差止命令と同様に、SSCSに対して永久差止の判決が米連邦裁から下されることになるでしょう。和解による合意内容より厳しいものになった可能性さえあるでしょうね。
 それに対してSSCS側が反訴した場合。
 反訴の内容は、調査捕鯨船団側も人命に危害を加え得るLRADや放水による武力≠ナ応じ、自分たちにも被害が生じたとする主張を展開するものになるでしょう。
 ただ、それで狙えるのは損害賠償額の減額程度と考えられます。「先に手を出したSSCSが悪い」と米判事が判断すれば、それでおしまいでしょうね。
 鯨研・共船側にとっては、「自分たちも暴力をふるった」というエビデンスが残るマイナスイメージくらいで、マスコミを掌握できている間は国内で非難が高まる恐れはないとみていいでしょう。
 どちらもいま沖縄・辺野古で海保が、高江で機動隊が武器ひとつ持たない市民に対してふるっている圧倒的な暴力に比べればたいしたことではないと筆者は思いますけど・・。
 こうして裁判が鯨研・共船側ほぼ完全勝利の形で結審します。
 その後は、SS-USAと本部がそのまま加担し続ける形で、妨害活動が続行されるケースが考えられます。
 しかし、判決はすでに確定し、永久差止命令が下りているため、SSCSは妨害を行う度に法廷侮辱罪で罰金を命じられるでしょう。毎年、SSCS側は3億円を失い、日本側の懐には3億円が転がり込みます。しかも、再犯を繰り返すのは悪質との理由で罰金額は年を追う毎に引き上げられるでしょうね。また、米国内での公益団体としての認可は取り消され、非合法組織としての扱いを受けることになるでしょう。SSCSの台所事情が訴訟費用が痛手になるほどなら、存亡の危機に立たされるのは必至です。
 おや・・おかしいですね。鯨研・共船側にはまったく何のデメリットも存在しません。むしろ、願ったりかなったり。対策を十分に練ってある妨害を後数年だけ辛抱すれば、目障りな連中が勝手に自滅してくれるわけですから。

 次に、もうひとつの仮定に沿った展開を考えてみましょう。
 それは、鯨研・共船の思惑から逸れる、予想外の要素が裁判に付け加わった場合。
 そんなことがあるでしょうか? 主席判事がSSCSのパフォーマンスに対して「義足や眼帯がなかろうとおまえら海賊だ」と不快感も露に表明した以上、ひとつのきっかけで判決内容が覆ったりするでしょうか?
 実は、鯨研・共船にとって予想外の事態は、すでにあったのです。
 もちろん、米司法がSSCSの妨害を肯定することはないでしょう。どちらにしたって、SSCSの有罪はほぼ確定です。
 しかし、和解の形で終わらず、裁判がこのまま進行した場合、判決文は2013年2月に公表された控訴審の法廷意見の主旨とはまるで別のものに置き換えられることになるでしょう。
 そう・・その予想外の要素≠ニは、国際司法裁判所によるJARPAUの違法判決。
 賠償が課せられた期間は2012年/13年から2013/14年までの2シーズン、つまりJARPAUのとき。
 米連邦控訴裁の差止命令には、ICJの判断は一切加味されていないのです。シンプルに日本の調査捕鯨は国際法上合法だという前提に立っていたのです。

国際捕鯨取締条約の第8条は、締約国によって発給された調査許可に従って行われる場合、鯨類の捕獲を認めている。日鯨研は、日本からそのような許可を受けている。(引用〜鯨研リンク3)
捕鯨に関して公共の利益を定義している法は、捕鯨条約法と海産哺乳類保護法であり、両者とも捕鯨取締条約の下で発給された科学許可に従った捕鯨を認めている。日鯨研の活動はそのような許可の下で行われており、よって、海洋生態系に関する議会の政策と合致する。(引用〜鯨研リンク3)

 この部分は完全に差し替えを余儀なくされます。JARPAUは、ICRWと米国海産哺乳類保護法に背く違法行為であり、海洋生態系に関する米議会の政策に真っ向から反するものなのです。国際法の最高権威によって、すでにそういう判定が下りているのです。
 つまり、和解の形で途中で裁判を収束させず、続行させた場合には、10月のIWC年次総会が開かれるタイミングで、国民から忘れられつつある日本の調査捕鯨の違法性に、米裁判所による再認定という形で、改めてスポットライトが当てられることになるのです。
 そう・・それこそは、盗人に追い銭≠やってでも、捕鯨サークルとしては回避すべき事態なのです。ついでにいえば、NEWREP-Aに対して新たな妨害が企てられた場合には、その違法性が議論の焦点にならざるをえないでしょう。
 ICJ判決後、日本は調査捕鯨の看板を挿げ替えたり、国連のICJ受諾宣言の書き換えをやったり、国際司法判断からともかく逃げ続けてばかりいました。今回の一連の顛末も、蓋を開ければその延長にすぎなかったわけです。

 どう考えても被害者らしくない、まともな日本人の目にはあまりにも奇異に映る鯨研・共船の行動の裏には、「自分たちの違法行為を白日のもとにさらしたくない」というエゴイスティックな動機が働いていたと考えれば、皆さんもすべてがストンと腑に落ちるでしょう。
 捕鯨問題に詳しい環境外交のエキスパート・東北大の石井敦准教授は、捕鯨サークルとSSCS等の過激な反捕鯨団体の関係を指して「逆予定調和関係」と呼んでいます。
 今回の一連の経緯から、まさにお互い持ちつ持たれつ≠フ関係が改めて浮き彫りになったといえるでしょう。

   *   *   *

おかげさまで、HPリニュアル版、まとめ、ともに好評をいただいております。
引き続き周知にご協力くださいm(_ _)m

■クジラを食べたかったネコ
■「油目的で肉を捨てていた西洋と異なり、日本はクジラを余すところなく完全利用してきた」って本当?
posted by カメクジラネコ at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系