2015年07月29日

オーストラリアはネコ殺しをやめよ!(日本もだけど・・)

◇まるで日本の調査捕鯨──オーストラリアはネコ殺しをやめよ!(日本もだけど・・)

 捕鯨・イルカ猟、水族館問題だけでも十分頭が痛いのに、最近は駆除の話ばっかり聞かされてうんざり気味(--;;
 そんな中、またしても厄介な問題が浮上。。
 といっても、問題が起きているのは捕鯨ニッポンではなく、海洋環境保全・野生動物保護・動物福祉・持続的水産業で日本の上を行くクジラの味方≠フハズのオーストラリア──。
 
■猫200万匹を殺処分へ オーストラリアで何が起きた? (7/21,ハフィントンポスト日本語版)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/07/21/australia-government-two-million-feral-felines_n_7837602.html
■The war on feral cats begins (7/16,豪ABCニュース) @
http://www.abc.net.au/am/content/2015/s4274581.htm
■Australian government declares war on feral cats in bid to save native animals (7/16,英ガーディアン) A
http://www.theguardian.com/environment/2015/jul/16/australian-government-declares-war-on-feral-cats-in-bid-to-save-endangered-species
■Australia actually declares ‘war’ on cats, plans to kill 2 million by 2020 (7/16,米ワシントンポスト)
https://www.washingtonpost.com/blogs/worldviews/wp/2015/07/16/australia-actually-declares-war-on-cats-plans-to-kill-2-million-by-2020/
■2 million feral cats to be killed in Australia (7/16,ニュース24) B
http://www.news24.com/Green/News/2-million-feral-cats-to-be-killed-in-Australia-20150716
■Australia's war on cats: Government plans to cull 2 million by 2020 (7/19,英インディペンデント) C
http://www.independent.co.uk/news/world/australasia/australias-war-on-cats-government-plans-to-cull-2-million-by-2020-10398555.html
■Australia declares war on feral cats with plan to 'cull two million by 2020' (7/25,英テレグラフ)
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/australiaandthepacific/australia/11743499/Australia-declares-war-on-feral-cats-with-plan-to-cull-two-million-by-2020.html

 発表を受け、同国以外の世界中のメディアもこのネコ大量殺処分計画を伝えました。ごらんのとおり、派手な見出しが躍っています。
 《DECRARES WAR──戦争宣言》
 地元のABCニュースによれば、「対麻薬、対テロに続く国家をあげての戦争」との位置づけ(〜@)。
 実際、この計画はグレッグ・ハント環境相自身が、同国初の絶滅危惧種担当ポストの長となったグレゴリー・アンドリュースコミッショナーに「《戦争宣言》してプログラムを作成しろ」と発破をかけて出来上がったもの(〜C)。
 まさに鳴り物入りのビッグ・プロジェクト。

 野生化したネコの野生動物に対する影響と、駆除を含めた対策については、以前から議論がありました。オーストラリアのみならず、お隣のNZや欧米でも。

■「好奇心はネコをも殺す」 オーストラリアの野良ネコ駆除作戦 ('10/2/24,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/2701120
■New Zealand Cats Are A Hot Button Issue, Pitting Anti-Feline Advocate Gareth Morgan Against Pet-Owners (7/28,HUFF POST)
http://www.huffingtonpost.com/2013/01/22/nz-to-eradicate-pet-cats_n_2524259.html
■米国のネコ、数十億羽の鳥を毎年殺害 研究 ('13/1/30,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/2924432?pid=10189809
■The impact of free-ranging domestic cats on wildlife of the United States ('13/1/29,Nature) D
http://www.nature.com/ncomms/journal/v4/n1/abs/ncomms2380.html
■(@ワシントン)野鳥VS野良猫 ('13/7/10)
http://www.asahi.com/special/news/articles/TKY201307100378.html
■猫狩り禁止法案に猟師ら反発、野鳥保護を主張 独 ('14/10/13,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3028733

 とはいえ、「戦争を開始する」と宣言し、「5年でネコ200万頭殲滅」という途方もない規模の作戦≠展開するのは、今回が初めて。

 オーストラリア政府の動きに対しては、記事でも紹介されているとおり、さっそく市民から批判の声が沸き上がっています。国際的な動物愛護団体として広く知られているPETAも抗議。大女優にして動物愛護家としても知られ、あの反捕鯨団体シー・シェパード(SSCS)の支援者で船に名前まで冠せられているブリジッド・バルドー氏も猛反発しています。

■豪政府、野良猫200万匹の殺処分を計画 仏女優らが非難 (7/22,AFP) E
http://www.afpbb.com/articles/-/3055210
■Brigitte Bardot to Greg Hunt: killing two million feral cats is ‘animal genocide’ (7/23,英ガーディアン)
http://www.theguardian.com/film/2015/jul/23/brigitte-bardot-to-greg-hunt-killing-two-million-feral-cats-is-animal-genocide
■Brigitte Bardot slams Australia's plan to kill 2 million feral cats (7/22,ヤフーニュース)
http://news.yahoo.com/brigitte-bardot-slams-australias-plan-kill-2-million-052216618.html?soc_src=mediacontentstory&soc_trk=tw

「この動物大量虐殺は非人道的でばかげている。猫たちを殺すことは残虐な上、今回猫を殺しても残った猫たちが繁殖を続けるだろうから絶対的に無益なことだ」 (〜バルドー氏、E)
「過去に行われてきた動物の殺処分は効果がないことが証明されている」 (〜PETA、E)

 一方で、奇妙なエールが他でもない捕鯨ニッポンから上がっています・・・・

「オーストラリア人、鯨油を取るためだけに絶滅寸前までクジラを乱獲し続け、カンガルーやコアラが増えれば何百匹、何千匹という単位で殺処分して、今度は野良猫を200万匹も殺処分するという。こんな国の人たちに、1頭のクジラをほとんど残さずに大切に利用している日本人を批難する権利などない」(引用)

 ツイッターのフォロワーが12万を超えるリベラル系(?)カリスマブロガーのきっこ氏。
 7/22の同氏のつぶやきのうち、このトンデモツイートのRT数は300超えで、新国立競技場建設問題や細野氏の原発関連発言のツイートを押さえトップ。。
 
 エールじゃないって?
 いや、どちらかといえば、やっぱりエールでしょう。オーストラリア政府のネコ殺しを容認し、応援する
 要約すれば、「お前らだってコアラやネコを殺してるんだから、日本人のクジラ殺しに文句言うな」です。
 「どうぞご自由にネコやコアラを殺してください。その代わり、捕鯨に反対しないでください」です。
 沖縄に対する米国のジャイアンぶりを非難しているきっこ氏のこと、さすがに「俺サマはお前らのネコ殺しを非難するが、お前らは俺サマたちのクジラ殺しを非難するなよ!」ではありますまい。。
 「アナタ、猫殺ス。ワタシ、鯨殺ス。コレデオ互イHAPPYネ」と言ってるわけです。

 え? ジャイアンなのはオーストラリアだろって?
 いやいやいやいや。
 自国の犬猫の殺処分は、日本・オーストラリアともにやってます。
 自国の有害鳥獣としての(在来の)野生動物駆除は、日本・オーストラリアともにやってます。
 自国の外来生物の駆除は、日本・オーストラリアともにやってます。
 対象種と数、要件や法的根拠、執行体制等の細かいシチュエーションが、それぞれの事情に応じて異なるだけで。

 調査/文化の名目で、赤道をまたぎ越え、相手国のEEZ(二百海里経済水域)内を通り、ボン条約でも保護が謳われている移動性野生動物を殺し、市場で流通させているのは、日本だけです。
 日本でとくに科学的根拠もなく法的に保護されているオットセイが、日本のEEZを出た途端、オーストラリアから来た漁船に捕殺され、ソテーにして食われることはありません。
 日本で水鳥たちのサンクチュアリとなる国立公園で捕獲が禁じられているツルやハクチョウが、日本のEEZの線上を飛び越えた途端、オージーに撃ち殺され、伝統的な食文化のクリスマスの丸焼きにされることはありません。
 クジラでそれをやっちまってるのは日本だけです。

 合理的な観点に従うなら、明らかにジャイアンなのは日本の側なのです。

 それにしても、引用したきっこ氏の発言は、都市伝説妄信型の最も粗悪な反反捕鯨ネトウヨレベル
 捕鯨問題ウォッチャーには改めて説明する必要もないと思いますが、簡単に指摘しておくと、主産物の比率が鯨油か鯨肉かの違いだけで、東西の捕鯨産業の乱獲体質には何の違いもありませんでした。戦前には輸出用の鯨油が目当てで、鯨肉は外洋でうっちゃっており、非効率だと海外の捕鯨国に渋い顔をされていたことも。近年まで密漁海賊捕鯨とべったりつるんでいたり、規制を逃れるためにデータを改竄したりで、日本は捕鯨国の中でもとりわけ悪質だったと世界に認識されているのです。きっちり史実に基づいて。

■やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−その3:戦後繰り返された悪質な規制違反
http://www.kkneko.com/aa3.htm
■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
http://kkneko.sblo.jp/article/116089084.html

 さて、そうは言ってもすっきりしませんね・・・
 筆者も日本人なので、合理的の一言で片付けられるのはモヤモヤします。
 オーストラリアのネコ殺しは、本当に日本のクジラ殺しと違って正当なのかを、詳細に検証する必要を感じます。
 はたして、ネコの駆除は本当に絶滅危惧種保護に有効なのでしょうか?

 最初に、この計画に強力な論拠を与えている米魚類野生生物局(FWS)とスミソニアン保全生物学研究所による論文について(D)。
 日本語メディアの見出し等で使われている、捕食される野鳥・ネズミ等野生哺乳類の億単位の数字は、推定値のうちの最大値。これらの数字は統計的手法を用いて弾きだしたものですが、この研究ではネコによる捕食以外の人為的要因に基づく死亡率の厳密な定量的測定はしていません
 また、被捕食者の生息地の分断・縮小・改変による捕食のされやすさへの影響についても検証されていません。健康な成体の死亡率に与える影響度合の各死亡要因による差、郊外で被害の大きい在来種に対するクマネズミ等による影響とネコとの関係(実はクマネズミも都市から郊外に進出している)についても精査が必要(関連後述)。
 論文中では、「この研究結果は、他の人為的脅威が生物学的に重要でないと示唆しているわけではない」「絶滅危惧種保全のためにすべての人為的要因が定量化されるべき」と一応言及されているのですが、残念ながら、内外のどのメディアもネコの脅威を煽るばかりで取り上げることはしていません・・。

 捕食のされやすさ≠ノついては、先日NHKで放映された番組中でも、水産総合研究センターのカワウ研究第一人者の方がこんな指摘をしていました。いわく、日本中の川が護岸整備によってコンクリでガッチガチに固められたため、魚たちにとって逃げ場となる水辺の環境が失われ、捕食者のカワウに圧倒的に有利な環境が作られてしまったと。

■所さん!大変ですよ「謎の悪臭に悩む街」
http://www4.nhk.or.jp/taihentokoro/x/2015-07-23/21/26353/

 害鳥呼ばわりされている日本のカワウだって、一時はトキやコウノトリみたいに絶滅が心配される状況にまで追いやられたんですけどね。

 実は、オーストラリアのノネコたちによる希少動物への影響についても、同様に疑問符が付けられているのです。

■オーストラリアで小型有袋類が激減、野生化したネコが原因か ('14/5/8,AFP) F
http://www.afpbb.com/articles/-/3014343
■生物多様性の意味を問う 希少種の生命は、ありふれた種にまさるのか? 『ねずみに支配された島』 ('14/12/26,ウェッジ) G
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4569
■島で外来捕食者を駆除する時の注意点:‘Mesopredator Release’に関連して|むしのみち H
http://d.hatena.ne.jp/naturalist2008/20090318/1237362811
■Cats protecting birds: modelling the mesopredator release effect | Journal of Animal Ecology vol.68
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1365-2656.1999.00285.x/full
■It couldn’t have been us! ('12/5/29,ConservationBytes.com) I
http://conservationbytes.com/2012/05/29/couldnt-have-been-us/?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
■Invasive rats and seabirds after 2,000 years of an unwanted coexistence on Mediterranean islands J
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10530-008-9394-z

さらにジョンソン教授は、ネコは長い間豪大陸に生息していたことと、動物の個体数減少が比較的最近に始まったことから、なぜネコが時を経て在来種に壊滅的な被害を及ぼす捕食動物となったのかという疑問が残ると指摘。北部地域で大規模な開墾や疫病のまん延があったことを示す証拠がないことを鑑みると、牧畜農家たちによる野焼きが今回の事態に影響を与えたようだとの見解を示している。 (〜F)
「おそらく一つの原因で引き起こされているわけではなく、いくつかの効果が重なり合った結果であることをデータが示している。これらの効果は全て、ネコたちの狩りの方法に有利に働く傾向があり、これによって地上に生息する小型動物は絶滅の危機へと追い込まれている」(〜F)

 西欧からオーストラリア大陸にネコが持ち込まれたのは17世紀から19世紀にかけて。200年前にはすでにネコたちはこの大陸にいたわけです。明治元年以降とする日本の外来生物法の定義でいうなら、帰化動物に当たるでしょう。
 それが最近になって急激に被害が大きくなった兆候があるわけです。研究者の指摘するその複合要因について、詳細は明らかになっていません。
 ただ、日本カワウに対する護岸と同じように、牧畜農家の野焼きによる環境変化には強い疑いが向けられるべき。

 その辺りの事情も含め、日本でよく似ている動物を挙げるとするなら、ハクビシンでしょう。移入時期の詳細は不明で、文献から江戸時代にいた可能性が指摘されており、遺伝子解析でも外来生物一般と異なり強いボトルネック効果が見られません。かつては天然記念物(長野県)として保護されながら、TV等でも被害がことさら報じられるようになり、特定外来生物の指定こそ免れているものの、近年有害鳥獣としての駆除数が年間7千頭を越えるまで急激に膨れ上がりました。
 ちなみに、筆者はかなり古い時期に日本列島にやってきたのではないかと疑っています・・

■ハクビシンとクジラ (拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/36133867.html

 一方、タスマニアの南東にあるマクォーリー島では25年前、野生生物保護官がネコの駆除に着手し、2000年に最後の1匹を殺し終えた。しかし、ネコがいなくなるとウサギが13万匹に増え、ネズミも急増した。2006年にはウサギが草を食い荒らした丘が、春の大雨のせいで崩れ落ち、下で営巣していた無数のペンギンを生き埋めにした。(引用〜G)
 ある島に固有の鳥を保全するために、その捕食者となっている外来種であるネコを除去するとします。しかし、ネコは同じく外来種であるネズミも食べています。また、ネズミは鳥の卵やヒナを襲うので、鳥にとっては捕食者でもあります。つまり、この系ではネコが上位捕食者(top predator or superpredator)、ネズミが中位捕食者(mesopredator)となっています。ここでネコを除去すると、ネズミの個体数が増加し、ネコがいる時よりも鳥に与える影響が強くなる可能性があります。(引用〜H)

 これはPETAなどNGOが指摘している駆除の実効性に対する指摘。
 Hで紹介されている論文の一時ソースの絵とグラフは非常にわかりやすいです。
 図解されているとおり、ネコを駆除してネズミだけが残るのが最悪のケース。
 付け加えると、閉鎖系で外から対象種が入ってこない島嶼であればまだコントロールしやすいといえるのですが、大陸であれば出入りが生じて相殺されてしまいます。広大な閉鎖系を大陸上に設けるのは、予算を考えても非現実的。フェンスの強度やメンテナンスの間隔を絶対不可侵のレベルにするのはほぼ不可能。穴掘る動物もいっぱいいるし・・

 IはFと同じタスマニア大学のジョンソン教授のオピニオンで、ネコと同じく悪者扱いで駆除されているラクダやヤギの存在が、必ずしもマイナス面ばかりではないという指摘。ヒトの手で絶滅させられた大型カンガルーのニッチ(生態的地位)をヤギやラクダによって補完されている可能性、アカシア(オーストラリア以外では強い外来種にもなる・・)の森林を健康な状態に保つ役割さえ果たしているのではないかと示唆しています。
 そして、オーストラリアの生態系がすでに劇的に変わってしまっている以上、その場しのぎの駆除一辺倒に依存するより、この際外来種もセットでバランスを考慮するほうが現実的ではないかとも
 
 Jも興味深い事例。地中海で侵略的外来種の代表であるクマネズミが、地中海の島々で海鳥と長期にわたって共存している理由について。
 生態系は本当に絶妙なバランスの上に成り立っています。生物の種と種同士の関係は、食べる・食べられる・競合するの3パターンばかりではありません。微気候やミネラルの供給源の変化など、ほんのちょっとした要因がもとで、野生動物の動態は劇的に変わる場合があります。
 そして、私たちニンゲンの科学は、すでに起こってしまったことの原因について、せいぜい後付けで説明する以上のことはできません。
 「この計画が成功する見込みは薄い」(〜E)とする国際NGOの意見に、筆者も同感です。

■Field efficacy testing Curiosityレジスタードマーク bait for feral cats Roxby Downs, South Australia, 2014 K
http://www.environment.gov.au/system/files/resources/65e6f9c0-7dac-4312-8006-866f495632e0/files/curiosity-roxby-downs.pdf
■Assessing Risks to Non-Target Species during Poison Baiting Programs for Feral Cats L
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0107788

 上掲リンクKは、オーストラリア政府の委託による、毒物を用いたトラップのフィールド上での影響調査の結果の最新版。
 その30ページに、非常に気になる記述が。
 毒餌散布後、カササギの数が50%減少したと報告されているのです(〜K)。
 毒餌の影響なのか、それとも航空機を使った散布作業に対する応答なのかは不明(推測のみで検証されていません)。仮に後者だったとしても、生態系の撹乱であることに違いはありません。
 ディンゴの減少(調査ポイントでの発見率)はさらにひどくて80%(〜K)。
 アボリジニと一緒に大陸にたどり着いたディンゴは帰化動物といえますが、大型草食有袋類の絶滅に大きく関与し、競合するフクロオオカミやタスマニアデビルにも深刻な影響をもたらした当時の侵略的外来種。いまも家畜を荒らす害獣として駆除されているほか、今では西洋人とともに入り込んだイヌとの交雑問題も生じています。
 ただ一方で、ネコやキツネ、ノウサギの捕食者としてそれらの在来種への被害を軽減する役割も(〜K)。なんともかんとも悩ましい位置づけ・・。
 この報告書では、毒餌トラップによる非対象種への影響のうち、空を飛んで移動してしまう肉食・雑食性の鳥について、十分な定量的評価ができていないことも明記されています。書かれているのは推測のみ。
 対象外の野生動物に被害をもたらす懸念はNGOからも表明されていますが、オーストラリア政府はそれに対して応えていません。

 Lの駆除非対象種(つまりネコ以外のすべての野生動物)に対する毒餌のリスク評価ですが、サイズなどをもとに予めリスク評価の対象種を絞ったうえで、221種のうち47種の脊椎動物(絶滅危惧種のタスマニアデビルを含む)が「毒餌を摂取する可能性がある」としています。
 ところが・・ほとんどの非対象種で、通常は生きた獲物を捕食する等の理由により、ネコ用の毒餌による中毒のリスクは少ないだろうと推論し、また時季をずらすなどの対応で駆除計画による非対象種の被害を最小化・ネコへの効果を最大化できると結論づけてしまっています。
 同報告では、肉食・雑食性の非対象種のみならず、大型の草食種が非意図的に摂取する可能性も指摘しながら、分析の範囲を超えるとして評価していません。

 外来生物問題の厄介さは、自然科学の側面ばかりではありません。
 侵略的外来種の法的な取り扱いは、しばしば指摘されるように、政治によって振り回される面が多分にあります。
 日本で例を挙げるなら、遊漁業関係筋の強い政治的圧力によって指定が引き伸ばされ、現在でも漁業権絡みで一部特例扱いの放流が認められているブラックバス問題然り。
 JAによって使い捨てのツール≠ニして重宝されたために、特定外来指定後も規制の抜け穴が残されたままのセイヨウオオマルハナバチ問題然り。
 在来種への甚大な影響が火を見るより明らかでも、いまだ特定外来生物として指定されず、生体販売も飼育も野放しになっているアメリカザリガニ問題然り。
 つい昨日(7/28)ようやく輸入を禁止する旨の発表が環境省からあったばかりのミシシッピアカミミガメ(通称ミドリガメ)については、ニホンイシガメとの競合の問題がずーーっと前から指摘されていたところ。夜店で子供や酔客相手にカメ売ってるオッサンたちの政治力にさえ、日本固有の自然を守ろうという声はかなわなかったわけです。しかも、輸入禁止までまだ5年もかかる始末。
 状況がケースバイケースなだけに、どの種がより有害かを明瞭に示す客観的な指標がないのも一因ですが。

 オージーたちが、固有性の高い自然・ユニークな野生動物の保護に熱心なあまり、外来生物に対するアレルギーがあるのかといえば、必ずしもそうではありません。少なくとも一貫してはいません。
 日本と同じく、そもそも問題を引き起こしたのは持ち込んだ無思慮なオーストラリア人なわけですが。
 例えば、1950年代から今日に至るまで、同国政府はフンコロガシを世界各地から輸入しており、ハイブリッドの新種まで作ったりして野外に放っています。目的は大量に排出される家畜の糞対策、そしてハエ対策。
 日本のセイヨウオオマルハナバチのケース同様、基幹産業である畜産業にとって有益だからという理由で、積極的に外来生物の導入を図ったわけです。
 確かに、掃除屋を務めるフンコロガシが侵略的外来種になる可能性はまずないでしょう。
 しかし、生態系への厳格な配慮から、同じ過ちを引き起こさないという真摯な反省から、外来種を決して持ち込まないという原則を貫く国ではないのです。
 生き物をヒトの社会にとって有益か無益かで線引きする発想、生態系をコントロール可能なものとみなす高邁な態度は、現代の日本に共通のものですが──(後述)。

 もうひとつ。筆者は以前、さる生物学研究者の方に、「外来生物問題を大事に捉えるのは、より深刻な開発の問題から目をそらすことにつながる」とお叱りをいただきました。
 日本のハクビシンやミシシッピアカミミガメにしろ、オーストラリアのノネコにしろ、外来種にはより有利に、在来種にはより不利になる環境改変がなされ、それが在来の絶滅危惧種をさらに圧迫する歪みの元凶になっていることは疑いありません。
 生息域の縮小・分断や植生等の変化、多様性の喪失、気候変動等の影響で、在来種の体力≠ェ落ち、外来種に抵抗できなくなった結果なのです。
 200年前と今世紀とでノネコの影響が明らかに違うのが、その何よりの証拠。
 ネコの密度・分布等の生息状況の変化によらず在来種の被害を増加させた要因があるならば、まずそれを突き止め、取り除くことで、絶滅の危険を大幅に減らすことが可能になります。少なくとも、それを平行して行うことなく、駆除一本で解決を図ろうとするのは、きわめて非効率で誤った施策です。

 そして何より、自然のバランスを崩した責任は100%ニンゲンにあります。
 ネコには100%罪はないのです。
 責任の取らせ方の公正さ、人道的側面が無視されることは、絶対にあってはなりません。


 多くの科学的な疑問点、不確実性、克服されていない課題がある中、ハント環境相はなぜ、ネコという声を持たない弱者に対して、「麻薬・テロの次はおまえたちネコとの戦争だ!」と拳を突き上げたのでしょうか?
 なぜいま?
 なぜネコ相手に?
 なぜ「戦争」という過激な表現を使わねばならなかったのか?
 今回のネコ駆除騒動をさらに詳しく見ていくと、その強い政治性が浮き彫りになってきました。

 皮肉なことに、このオーストラリアのネコ駆逐計画、多くの点で彼らが非難する日本の調査捕鯨に実によく似ているのです。

 オーストラリア政府が発表した計画の詳細と関連資料はこちら。



〈1〉最初に数字ありき

 オーストラリア全域に生息するネコの数については、2千万ないし3千万という見積もりが取り上げられています。
 ところが、肝腎のレポート中にその数字は登場しません
 ネコ(ノラネコ/ノネコ)の生息数に関しては、1984年、1992年、2010年の文献を引いて異なる推計がなされたとするのみで、それらの数字すら記載されていないのです。

「野生猫の密度が大幅に降雨、食品の可用性、他の捕食者および他の因子の存在に依存して変化するので、正確にオーストラリアの野生猫の数を推定することは非常に困難です」(〜Np5)

■IDENTIFICATION OF SITES OF HIGH CONSERVATION PRIORITY IMPACTED BY FERAL CATS O
http://cutlass.deh.gov.au/biodiversity/invasive/publications/pubs/feral-cat-impacted-sites.pdf

 そのうえ、引用元となる2010年の報告(上掲リンクO)でも、「大陸上でのノネコの生息密度や分布の信頼の置けるデータがない」ことを白状しているのです。そのため、この研究では代用的な値が使われています。
 この報告書にあるノネコの影響を受けるリスクの高い絶滅危惧種とその生息域のリストは、既存の文献と研究者へのアンケートに基づき作成されたもので、共通指標に基づく包括的で大々的なフィールドでの調査(島嶼を除く)を行ったうえでスコアが付けられたわけではありません。
 研究者はこのスコアに多くの潜在的バイアスが含まれることを認めていますが、中でも大きいのは実際になされた調査の努力量で、ネコのみならず対象の絶滅危惧種の生息状況の把握が不十分なために、スコアが下がる可能性もあると付け加えています。

 このアクションプランで具体的な数字が示されているのは、絶滅危惧種の数とこの200万というネコの殺処分数のみ。具体性を伴っているのは後者だけといえますが。
 1年目15万頭、3年のうちに100万頭、5年のうちに200万頭。

 Oでは「ラット等のコントロールがセットでなければならない」と明記されています。
 当の政府のストラテジープランでも、ディンゴ・キツネへの対策および野火を三大脅威≠ニ位置づけています。(MP51)

 しかし、今回のオーストラリア政府の計画で数値目標まで据えられているのは、やはりネコのみ。

 一言で言えば、日本の調査捕鯨的
 駆除数を含む具体的な計画を決定するにあたって、厳密な生息数と動態を把握しておく必要がないというのは、きわめておかしなことです。
 これでは、ICJ(国際司法裁判所)で違法認定されたJARPAU(第二期南極海調査捕鯨)やそれに代わって日本が新たに掲げたNEWREP-Aの目標捕獲数の設定と何の違いもありません。
 個体数を把握するため継続的な目視調査が行われてきたクジラのほうがまだマシなほど。
 測定の困難さでいえば、ほとんど海中に潜っているため発見数を個体数に置き換える統計操作の手法を苦心して編み出してきたクジラのほうがよっぽど高く、オーストラリア政府がそこをすっ飛ばせる言い訳にはなりません。
 あえてネコの個体数を把握するうえでの困難さを挙げるなら、変動の幅がクジラに比べ非常に大きいことですが。

 確かに、生態系の一部そのものである野生動物のクジラと、ヒトによって持ち込まれ生態系を壊す侵略的外来種とでは、生息数を突き止めることの意味は異なります。
 しかし、これまで説明してきたように、生息状況と被害の関係の詳細な把握なしに行う場当たり的な駆除は、漫然と行うただの作業──賽の河原の石積みでしかなく、絶滅危惧種を救う実効的な対策とは到底呼べません。

 なぜ数字がいきなりポンと飛び出したのかについては後述。


〈2〉垣間見える別の動機

 Lの表紙を飾る愛らしいbilby(ミミナガバンディクートの英名)。他にも絶滅危惧種たちのベストショットが何枚も使われています。
 いかにも、彼らの命運を心の底から心配しているかのような演出ですね・・・
 しかし、この計画書には、絶滅危惧種とは直接関係ない、別の動機も示されているのです。
 それは感染症・寄生虫の媒介問題。
 確かに、野生動物に対する影響も考えられるのですが、オーストラリアでそれが深刻な被害となっている事実や、駆除によって解決されることを示す研究はありません。
 絶滅危惧種を重篤な感染症から救う目的で、いま急いでネコを駆除する必要があるとはいえないのです。
 この問題はNの7ページに、絶滅危惧種問題に混ぜ込まれる形で表記されています。

 主要な宿主としてネコが問題視されているのは、トキソプラズマと肉胞子虫。被害を受けるのはヒトと家畜。
 トキソプラズマに感染したマウスがネコを恐れなくなるという事例をもとに、他の野生動物でもそれが起こる可能性を指摘していますが、そもそも行動に影響を及ぼすメカニズム自体解明されておらず、オーストラリアでそれが起こっているという証拠もありません。

 トキソプラズマ問題は、ネコ好きの方々には耳タコの話題でしょう。
 症状が現れることは稀。免疫不全だったり、妊婦/胎児の場合は要注意ですが、ネコと常時接触する機会のある女性獣医師と一般とで妊娠時の感染リスクにないという報告も。
 イルカ肉による水銀中毒以上に恐れる必要はまったくありません。
 行動・人格に変化を及ぼす云々という説はあり、尾ヒレがついてトキソプラズマに操られてるなんて都市伝説も一部で流布してますけど・・
 いずれにしろ、トキソプラズマへの感染リスクは生肉食のほうがネコよりはるかに高いのです。
 オーストラリアのノネコであれば、特定の状況下で排便されたその糞にニンゲンが接触し、感染する機会は皆無に近いといえるでしょう。
 詳細は下掲リンクをご参照。

■トキソプラズマ関連
−トキソプラズマ症|ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%BA%E3%83%9E%E7%97%87
−人畜共通感染症について
http://www.wannyan.sakuraweb.com/wannyan/blog.htm
−(拙ツイログ)

 トキソプラズマでネコフォビアを煽るのは、日本でも保護活動への嫌がらせ的に猫嫌いの諸兄が使っている手口ですが、オーストラリア政府も「ネコとの戦争」に市民の理解を得るための手段として使ったことは疑いないでしょう。
 しかし、この計画の背景を考える場合、トキソプラズマ以上に政治的ニュアンスが強いのは肉胞子虫問題。
 肉胞子虫はトキソプラズマやコクシジウムと近縁の寄生性原生生物で、中間宿主と終宿主の異なる多くの種が含まれます。畜産で問題になるもののうち、ネコを終宿主とするのは、ウシ・ブタ・ヒツジのそれぞれに感染する3タイプ。ただ、病原性が一番高いのはイヌ科を終宿主とするタイプです。
 報告書の中でも、いつのまにやら絶滅危惧種問題が脇に置かれ、ヒツジの肉胞子虫症の発症に伴う肉質低下による畜産業界への経済的損失が槍玉に挙げられています。

 すなわち、これは「絶滅危惧種を救うための戦略」ではなく、畜産にダメージを与える「ネコを駆除する戦略」なのです。
 絶滅危惧種の保全・回復状況を示す数値目標を掲げるのではなく、駆除数が指標に用いられたのも、まさにそれが理由。
 駆除のための駆除。ネコ殺しのためのネコ殺し。
 「ネコが畜産農家にとって損失をもたらす害獣だから」というのが、「愛らしいビルビーを守ろう!」というスローガンの裏に隠された真の動機なのです。
 上述したとおり、公平を期すなら日本の有害鳥獣駆除と何の違いもないわけですが、あたかも自然保護のためかのように謳っているのが嫌らしいところ。
 たとえ絶滅危惧種ではなく畜産業を守るためであったとしても、他の感染症とのリスク比較や、気候変動等による畜産業界の損失について、公平な検証がなされるべきでしょう。「ネコとの戦争」を掲げるのであれば。

 絶滅危惧種保護・生態系保全を看板に掲げるやり方は、科学目的を標榜しながら実際には「美味いミンククジラ肉の刺身を安定供給するため」(by 本川水産庁長官)に行われている調査捕鯨を彷彿とさせます。


〈3〉目くらまし・その1──開発とネコ

大半のオーストラリアの在来野生動物にとっては生息地の喪失こそ最大の脅威であるにもかかわらず、オーストラリアの新計画は宅地造成や採掘による開発の厳格な禁止より既存の生息地の再生≠謳っている。(〜A)
環境保護団体は連邦政府の新戦略を概ね歓迎したが、生息地の破壊を防ぐ方策とそのための資金調達が欠如していることに疑問を呈した。(〃)

 これは英ガーディアンの報道ですが、非常に奇妙なことです。
 どこの国の場合とも同じく、これらの野生動物たちを追い詰めている最大の要因は生息域の分断・縮小。ネコ騒動以前に反反捕鯨界隈で騒がれたコアラ殺処分問題ですが、同国を象徴する野生動物であるそのコアラを追い詰めている主因もやはり開発であることはよく知られています。

■宅地開発や道路拡張で棲家を奪われる動物たち|オーストラリアの野生動物保護
http://econavi.eic.or.jp/ecorepo/together/224

 コンサベーション系のNGOは、ネコ駆除計画について一応賛同しているところが多いようですが、注文もつけられています(〜A)。
 オーストラリア環境保護基金代表は「一方でこの戦略は、生息地の喪失・断片化という、絶滅危惧種・生態系にとって最大の脅威に対処することに失敗している。新たな保護区の設置や、特に危機的な場所を重点的に保護する施策に、それ以上の投資をすべきだ」と指摘。
 また、同国最大の環境保護団体プレイス・ユー・ラブ(PYL)は、大々的に打ち出された対ネコ戦争の陰でスルーされかけている問題について、懸念を表明しています。PYLが「ワンストップショップ」と揶揄し、ハント環境相に断念するよう求めているのは、開発計画の承認権限を連邦政府から州に委譲する方針。PYLによれば、それらは連邦政府の基準を満たすアセスメントもないままで、このまま承認されれば絶滅危惧種とその生息地に壊滅的な打撃をもたらすだろうと警鐘を鳴らしています。

 この辺の手口が、日本の捕鯨サークルと非常によく似ているなあと、筆者なんかは思っちゃうわけです。
 「ビルビィを救え!」のスローガンは、「クジラが魚を食い尽くす」「海の生態系を壊す」「(ミンクを間引いて)シロナガスを救え!」と唱えるクジラ食害論・間引き論にもそっくり。

 上述したように、ネコによる被害が激化した背景には、牧畜農家たちによる野焼きが影響している疑いがあります。
 感染症による被害者の側面ばかり同政府は強調しますが、生息地を奪われたり、外来種を持ち込まれたり、駆除の憂き目にあった点も含め、絶滅危惧種にとっては畜産農家こそネコに勝る加害者であることは否定の余地がありません。
 シロナガスやナガス、ザトウなどの大型鯨種がまさに日本を含む捕鯨産業の大乱獲によって絶滅の瀬戸際に追いやられた事実にもかかわらず、その責任を問うことなく、ミンクにすべてのツケを負わせようとしている捕鯨サークルのように、オーストラリア政府はすべてのツケをネコたちに回そうとしているのです。
 畜産、鉱業、開発業者が野生動物たちを追い詰めている事実から人々の目を逸らすために。
 乱獲とそれを招く水産庁の無策から、漁業者と消費者の目を逸らそうとする日本の水産庁と同じく。

 業界団体と違ってロビー活動をするわけでもない動物たちは、わかりやすい悪者としてイメージしやすく、格好の標的にされがちです。
 ニンゲンが代弁しない限り自分たちは立場を主張できない最たる弱者≠ナあるネコたちに、すべての皺寄せが押し付けられているのです。


〈4〉目くらまし・その2──気候変動とネコ

 ガーディアンが挙げた開発による生息地の破壊と並び、野生動物の絶滅の主因といえるのが気候変動。
 新戦略の中で政府は、ちょうど「ネコ200万頭殺処分」と並ぶ2本の柱の形で、2020年までの「2000万本植樹」を打ち出しています。しかし、温室効果ガス排出削減の数値指標は何ひとつ打ち出していないのです。
 ネコではないけど、よそでは外来樹種として軋轢を引き起こしているユーカリ、原産国だからそうした問題は起きないにしろ、アカシアやユーカリは寿命が短く、地球温暖化防止の観点からは炭素の一時貯蔵の役割しか果たせません。熱帯雨林等既存の森林面積の減少を食い止めなければ焼け石に水。
 開発規制の具体策なしで駆除を進めるのと同じく、環境対策としては植樹は気休めでしかないのです。
 ちなみに、イオンの社会貢献植樹が累計ながら1000万本超。環境にやさしいイメージ作りにはもってこいなのでしょうけど・・。

 気候変動対策は温室効果ガスの排出削減が何より最優先であることは言うまでもありません。
 そこで問題になるのが、一昨年の選挙で労働党から政権を取り戻した自由党アボット政権により、大きく後退したオーストラリアの気候変動対策

■オーストラリア、再生エネから火力へ 政権交代で大転換 (3/16,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASH2R4WQQH2RUHBI01B.html
■炭素税廃止に動くオーストラリア、G20で孤立の恐れ ('14/6/30,英フィナンシャルタイムズ)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41098
■「直接行動気候変動対策法案」通過 ('14/11/1,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/80369/
■気候変動局、直接行動計画を批判 ('14/12/23,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/85200/

 実のところ、アボット政権は日本のアベ政権とともに気候変動対策に超後ろ向きな姿勢で批判を受けています。
 アボット首相はG20でも「石炭の重要性」を説く逆行ぶりで浮きまくり。
 さらにはこんなブッ飛んだ話まで。

■気候変動懐疑派センターに政府出資 (4/23,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/95059/
■Climate Hoax Aimed at New World Order, Says Aussie PM Advisor (5/11,TAPBROG)
http://tapnewswire.com/2015/05/its-about-a-new-world-order-under-the-control-of-the-un/

 アボットの側近はトンデモな地球温暖化陰謀論者というわけです・・・。

 オーストラリア政府の報告書(N)には、ネコの被害を被る絶滅危惧種のリストが掲載されていますが、そこに「ネコの捕食と同等もしくはそれ以上の脅威」という項目があります。リストアップされた84種のうち15種に気候変動の影響が挙げられています。
 また、野火の影響は39種。気候変動は乾燥によって天然の火災が発生しやすい状況をもたらしている大きな要因。
 野火の発生はまた、その後に野生動物がネコに捕食されやすくなる大きな要因ともなっています(O)。おそらく、近年の被害の増加にも関係しているでしょう。
 ネコの被害が軽微ないし関係ない在来種も含め、気候変動によって大なり小なりの影響をほぼすべての野生動物が受けていることは疑念の余地がありません。

 植樹がただのパフォーマンスにすぎないことは、誰の目にも明らかです。
 絶滅危惧種のためにアボット政権が本当に戦うべき相手は、ネコではなく、温室効果ガス排出責任の非常に大きい、国内の石炭業界・畜産業界のはず。

 地球温暖化をすり替えや宣伝に利用することはあっても、真剣になどまったく考えていないのは、日本の捕鯨サークルとまったく一緒。
 鯨研は以前、調査捕鯨の存続という利己的な目的のため気候変動問題を口実にしようと目論見ました。
 ところが実際には、遠洋捕鯨は温室効果ガスの大きな排出源なのです。
 一方で、クジラはオーストラリアのユーカリにも勝る重要な炭素固定源。
 自分たちの責任の所在を覆い隠すために、罪のない動物を利用する──。
 その構図は、オーストラリアのネコ駆除と日本の捕鯨で何も変わっていません。

■調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/18846676.html
http://www.kkneko.com/english/blubber.htm
■捕鯨は森林破壊に勝る環境破壊!!(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/35896045.html
http://kkneko.sblo.jp/article/36133867.html
■援用調査捕鯨は地球にやさしくない(拙HP)
http://www.kkneko.com/co2.htm


〈5〉アボノミクス効果?

 オーストラリア政府の打ち出した対ネコ戦争プランには、さまざまな項目が並んでいます(P15〜25)。
 各研究機関から農家等土地所有者、害獣駆除業者、農薬メーカーまで、各方面に予算が配られる仕組みになっています。
 フェンス代、メンテナンスその他の人件費も含まれますが、中にはメディアにも取り上げられたノラネコ通報携帯アプリ開発なんてものも。
 百花繚乱の印象ですが、不明な環境への影響・生態をこれから解明する研究を含め、進展度合はバラバラ。
 これはネコをダシに使ったバラマキプロジェクトのひとつといえるでしょう。
 義援金を募ったり、「誰もが手軽に利用できるアプリ」を武器≠フひとつに加えたのは、国民総動員の「戦争」に民兵として市民も加わってほしいというメッセージが込められているのでしょうが・・。

 ここにも捕鯨ニッポンとの相似形があります。
 東北大震災の復興名目の予算を、ジャンボタニシ駆除や鯨研の赤字埋め合わせに使ったり。
 さらに復興予算があてがわれた調査捕鯨事業で、捕鯨城下町下関市が我田引水の経済効果を当て込み母港招致運動を行ったり。
 「対ネコ戦争」というド派手なキャッチフレーズ、「200万殺猫&2000万植樹」という一見わかりやすい数字を使ったPRには、実はもうひとつの大きな狙いがうかがえます。

■アボット支持率、再び下降線たどる (6/15,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/99150/
■アボット政権支持率遂に大暴落 ('14/5/19,日豪プレス)
http://nichigopress.jp/ausnews/politics/61157/

 昨年からアボット政権の支持率は大きく下がり、今年5月に一時持ち直したものの、再び野党労働党を下回る結果に。
 昨年の世論調査からは、鉱業資源使用税廃止や炭素価格付け制度廃止など、政権交代後の方針転換が世論から反発されているのがわかります。実の妹が同性愛者ながら同性婚に反対しているアボット首相の姿勢に対する批判も。
 そうした不人気を打開するひとつの方策として掲げられたのが、「ネコ殺しと植樹」だったわけです。
 今のタイミングで、それまで存在しなかった「200万殺猫」(2000万植樹)という数字が唐突に飛び出したのは、最初に解説したとおり、ハント環境相が部下に強い指示を与えたから。
 アボット政権がこんなに環境保護に積極的だというPR。
 実際には気候変動にも開発規制にも恐ろしく後ろ向きな、環境にまったく優しくない政権だということを隠すカモフラージュ。
 それ以外の理由は考えられないでしょう。
 まさに安全保障政策、原発推進政策など、国民の過半数の反対を押し切って強引に進める不人気施策に対する批判をかわすべく、絶妙のタイミングで新国立競技場建設の見直しを表明した安倍首相の姿に重なります
 マスコミにがっちり支えられてきた安倍政権が、安保法制問題でようやく支持率低下の兆しを見せ始めたのに比べると、アボット首相の人気はもっと前から下り坂に入っていたわけですが。
 アベ&アボ(ット)コンビ、どこまでも似てますよね・・・

 オーストラリアは野生動物保護、海洋生態系保護、持続的水産業にかけて、総合評価で日本の上を行くお手本というべき先進国。
 お国柄として稀少な野生動物保護に熱心な背景には、フクロオオカミをはじめとする多くの固有種を絶滅させてしまったことへの強い後ろめたさもあるに違いありません。先住民アボリジニを迫害した歴史を含めて。
 アボット首相とハント環境相が、そうした国民の良心の呵責を利用しつつ、重要な環境施策を後退させるならば、そのやり方は到底誉められたものではありません。


《オルタナティブ》

 ハント環境相は、ネコに対して「戦争」を吹っかけると宣言しました。
 テロリストや麻薬マフィアとネコたちを同等に扱おうとしました。敵≠ナあり、悪≠ナあると。
 ハント氏は「ネコを憎んでいるわけではない」と釈明していますが、戦争≠ニいう物騒な用語を用いることと明らかに矛盾しています。
 科学的な見地から淡々と進める野生動物保護政策・外来種対策ではなく、これは「戦争」だとはっきり言ったわけです。

 本来なら、日本国内の狩猟、有害鳥獣駆除、外来生物駆除、犬猫殺処分に対し、外国人がとやかく言えた立場ではないのと同等、オーストラリアの内政問題ですから、日本人の立場で口出しすべきではないのかもしれません。
 しかし、日本は憲法のもと、戦争を放棄した国です。
 世界で起こっているすべての戦争・紛争──パレスチナからイラク・シリア、ウクライナまで──に対し、「NO」と言うのと同じように、オーストラリアで起ころうとしている「対ネコ戦争」に対しても、やはり「NO」と言わないわけにはいきません。
 いままさに、海外で自国が関わりない戦争に先制攻撃までできちゃう「フツウ?の国」にしようと安倍政権が画策している真っ最中なわけですけど・・・・
 アボット首相も、米国に次ぐ事実上の軍事同盟相手として、日本の安全保障に対する考え方がひっくり返ることに歓迎の意向を表明しましたけど・・・・

 戦争の反対は平和
 誰もが知っている答え。言葉の定義が完全に破綻している安倍首相は別にして。
 私たちニンゲンが、ルーツを等しくするとはいえ曲がりなりにも文明的な動物種であるなら、やはり暴力に頼り、相手を攻撃し、殲滅するのではなく、平和的な問題解決を図るべきです。ネコたちに対しても。
 1000%責任を負っているヒトが、それを試みることなく最初から投げ出すことは、決して許されません。

 幸い、平和を愛する(ハズの)日本には、そのための対案が用意されています。殺さずに被害を減らすという。

■小笠原自然環境保護活動について|東京都獣医師会
http://tvma.or.jp/news/2014/05/post-8.html
■天売島のネコが来園しました|しいくにゅーす(旭川市旭山動物園)
http://asahiyamazoo1shiikunews.blogspot.jp/2015/06/blog-post_24.html
■徳之島ごとさくらねこTNR事業|どうぶつ基金
http://blog.livedoor.jp/sakuramimimi/archives/40834271.html

 これらのプロジェクトは現在進行形ですが、小笠原・父島では一定の成果が挙がっています。
 ウトウ・ウミネコ、アマミノクロウサギ、アカガシラカラスバトといった絶滅危惧種のためには、オーストラリアと同様、手っ取り早く殺す方が、あるいは楽かもしれません。
 しかし、面倒だから、金がかかるからという理由で、平和より暴力を選ぶなら、ヒトにはもはや万物の霊長を名乗る資格はありません。ただの暴君に成り下がってしまいます。

 ノネコ・ノラネコ・外猫(地域猫)・飼い猫の間には生物学的な違いはありません。東京都獣医師会は、ワイルドな小笠原のノネコの馴化に成功しています。
 オーストラリアのノネコの場合、ほとんどヤマネコと化しているところもあるでしょうが、挑戦する意義はあるはず。

 絶滅危惧種保護のための予算はすべて、ノネコ自身の生態と個体数動態、ネコの被害が急速に拡大した原因の究明、その他未解明な絶滅危惧種自身の生態解明に注がれるべき。そして、待ったなしの課題である徹底的な開発規制と気候変動対策に振り向けられるべきなのはいうまでもありません。
 これまで説明してきたとおり、また大手動物保護団体が指摘しているとおり、5年で200万頭殺処分という数字には科学的根拠も実現性もありません。
 風呂敷を広げて武器の種類・殺し方を増やし、あれこれ試すのに資金を注ぎ込むのではなく、生かす方法に絞って投じられるべき。単純に非効率です。
 後は、フェンシングによるネコフリー保護区を欲張らずに設定し、徐々に広げ、増やしていくこと。
 ミミナガバンディクート等の絶滅は、最低限のフェンシングで回避できるはずです。危急なのはやはり開発規制と気候変動対策。
 捕鯨ニッポンでさえできていることを、端からできないと匙を投げるのを、オーストラリアはと知るべき。
 正直、1頭も殺してほしくはないところですが、殺処分は日本における殺処分数、年間10万頭以内に。
 そして、人道面に関してはパーフェクトクリアであること。
 人道的側面で「できる限り」などと嘯くのは、やはり日本人に対してあまりにも不誠実です。


 Mの戦略計画の中には、クジラも2箇所ばかりチョロッと登場します。言葉だけで中身は何もありませんが。
 日豪EPAおよび防衛装備協定の交渉時、両首脳の間で密談が交わされたのではないかと囁かれました。
 自民党の捕鯨族議員が抱いたのは、捕鯨をオーストラリアに売ったのではないかという要らぬ疑念でしたが、もちろん真相は真逆。
 日本はオーストラリアに、捕鯨サークル以外の日本の一次産業と平和を売りました。米国に対してと同様。
 オーストラリアは日本に南極のクジラを売りました。
 そうして、似た者同士のアベとアボ(ット)のWIN-WINの関係が築かれたわけです。

 事実、ICJ判決の趣旨に従い中止されるべきだったJARPNU(北西太平洋調査捕鯨)や、穴だらけの張りぼてでありながら強行されようとしている新南極海調査捕鯨計画に対し、オーストラリアは国連安保理に図るなり、ICJに再提訴するなり、毅然とした態度で臨むことが可能だったのです。しかし、アボット政権は何ら策を講じようとはしていません。
 国際裁判の決定的な裁決を勝ち取ったのは、いわば前政権・野党のお手柄といえますから、アボット氏にしてみれば、敵に塩を送るのを嫌がった面もあるでしょう。
 国民のクジラへの関心は、ビルビィへのそれと同様、口先でかわせるという判断も。
 いずれにしろ、アボット氏にとっては日本との商売が優先で、クジラのことなぞどうでもいいわけです。
 ビルビィをかわいがるふりをしながら、政治的に癒着した業界の利益を野生動物より重んじるように。

 そういう意味では、ネコも、クジラも、他の野生動物たちも、みな犠牲者といえるでしょう。
 アボット政権の掲げるプロパガンダ戦争による。
 オーストラリア市民には、国が引き起こそうとしている戦争を止める責任があるはずです。


 最後にもうひとつ、日本の捕鯨とオーストラリアのネコ駆除の共通点について。
 オーストラリアは自国のネコに対して戦争≠仕掛けました。
 日本もまた、はるかな南極の海で戦争を繰り広げました。
 海外のTVで「クジラ戦争」と報じられたように、調査捕鯨船団と実力行使型反捕鯨団体SSCSとの戦争──ではありません。
 両者の争いは、酪酸弾や放水砲、音響兵器が用いられ、双方怪我人を出したにしろ、やはり互いに演出を心がけたプロレスといった方が当たっています。
 戦争の相手は南極の自然。
 両者の違いをあえて言うなら、オーストラリアが一応自衛の要素を持つのに対し、日本は70年前の太平洋戦争にも似た侵略といえますが。

 しかし、その2つには間違いなく共通点があります。
 自然と命に対する支配、そして征服。
 ニンゲンは、生き物たちを増やすも減らすも思うがままに操り、自然を完全にコントロールすることが可能だという、とてつもない傲慢。
 それは、調査捕鯨の動機づけとなる生態系アプローチや、間引き論・食害論といった擁護派の主張に如実に顕れている発想そのものです。
 ネコ駆除計画を推進するオーストラリアの研究者も、調査捕鯨に携わる日本の御用鯨類学者も、その思想の根本に違いはありません。
 しかし……外来生物問題を引き起こしたのも、カンガルーやシカの増加を招いたのも、乱獲の限りを尽くして南極海生態系をズタボロにしたのも、すべてはニンゲンの身勝手さと無知にほかなりません。
 海の自然を管理し、魚もクジラも資源として欲望の赴くままに貪れると思い込む日本の驕慢。
 か弱い野生動物の守護者を自称し、ネコたちをいかようにも制御できると思い上がるオーストラリアの尊大さ。
 今に至ってもなお、新たな外来動物問題は世界中で引き起こされ続けています。種の多様性の喪失はとめどなく進行しています。
 それは、ニンゲンが自らの能力を過信するばかりで、現実から何も学んでいないことの証拠といえないでしょうか。
 そうしたニンゲンの愚かさ・コントロール症候群に対し、小説/映画『ジュラシック・パーク』で警鐘を鳴らしたのはSF界の巨匠クライトンでした。
 福島第一原発事故もまた、ニンゲンの予測能力があてにならないことの証明。
 いま、私たちニンゲンに必要なのは、自然に対する謙虚さであり、これ以上生き物たちに迷惑をかけないよう、自らの振る舞いを改めて見つめ直すことではないでしょうか。


■オマケ・外来生物問題への愚痴(拙ツイログ)
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-150226


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posted by カメクジラネコ at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系