2015年05月22日

沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ


 物議をかもしているJAZA(日本動物園水族館協会)のWAZA(世界動物園水族館協会)除名か残留か問題
 おおよその経緯については、以下のトゥゲッターの最後のページ、水族館事情通の福武さんの連ツイが要領よくまとまっています。

■WAZAによるJAZAへの協会会員資格停止通告と、これまでの飼育下鯨類をめぐる環境についての一連ツイート
http://togetter.com/li/821186

 水族館と太地町のイルカ追い込み猟との関係については、基本情報として、上掲と併せて以下のリンクをご参照。

■いるか漁業(追い込み漁)と生体販売の関係
http://togetter.com/li/824325
■動物園と水族館について|川端裕人氏facebook
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=829896907065836

 今回の一連の騒動、テレビのニュースしか見てない人は、まるで突然振って湧いたかみたいに、1週間の期限を切られて二者択一を押し付けられたかの印象を持った方が多いでしょう。
 しかし、そもそも10年も前の2005年、WAZAは倫理・動物福祉規定を明確に定めており(決議はさらにその1年前)、イルカの捕獲に関してもあくまでその指針に則るよう、日本に対して求め続けてきたわけです。
 採集に関するものではありませんが、和訳版のある倫理指針(下掲リンク3番目)に目を通せば、「社会が求める動物園・水族館の役割とは何か」、また「それが時代によってどう変化してきたか」をつかみ取ることができるでしょう。
 以下は「動物園・水族館による動物研究の実施に関する倫理指針」からの引用(背景着色部分)

したがって、動物園・水族館で研究する国内の研究者にとっては、「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)、所属機関が規定する指針、そして日本動物心理学会「動物実験の指針」を遵守するのはもちろんのこと、WAZA の本指針を自身の行動規範とするのが望ましいだろう。(〜訳者前書)
動物園生物学(zoo biology)は,保全生物学にとって,「できの悪い兄弟分」であるとみなされることが多かった.しかし,動物園生物学は生物学上の複雑な問題を解明する潜在的可能性をもっており,そのことがいまや認識されつつある.これを如実に示すように,査読つきの学術雑誌に掲載される論文のなかには,動物園や水族館に関連する研究が増えているし,大学から連携を求められることも増えている.動物園・水族館は,査読つきの学術雑誌に掲載されるような高い水準の研究に参加できるこういった機会を逃すべきではない.動物園と水族館は,研究のなかで動物を倫理的に使用するための基準を明確に規定することで,この目的のための基盤をつくることができる.(〜背景)

■WAZA Ethics and Animal Welfare Committee briefing on general principles and practice with particular reference to dolphin capture developments, 2010.
http://www.waza.org/files/webcontent/1.public_site/5.conservation/code_of_ethics_and_animal_welfare/General%20principles,%20reference%20to%20dolphins.pdf
■世界動物園水族館協会(WAZA)による「動物園・水族館による動物研究の実施に関する倫理指針」について
http://www.waza.org/files/webcontent/1.public_site/5.conservation/code_of_ethics_and_animal_welfare/Code_of_Ethics_New%20York_2005%20.pdf

 動物福祉への配慮は、現代の動物園・水族館が社会に認められる大前提として認識されているわけです。背景に続いて、動物福祉のキーワード・「3R」についても明記されています。
 動物福祉(アニマル・ウェルフェア)は、日本では動物の権利(アニマル・ライト)としばしば混同されますが、この2つは実はまったく別物です。
 環境省が所管する〈動物の保護および管理に関する法律〉や各指針、各自治体の動物愛護関連の条例は、すべて動物福祉の概念が基盤となっています。動物福祉とは、動物を利用する産業が自ら内包する不可分の要素なのです。それは愛玩動物実験動物産業動物と同様、展示動物に対しても適用されなければなりません。動物園・水族館が社会に関わる存在である以上は。
 日本の旭川旭山動物園がさきがけとなった生態展示、あるいは広く知られるようになったエンリッチメントの概念は、飼育する野生動物に本来の生息環境に近い環境を用意し、展示にあたって配慮することを意味するわけですが、そこには観客への教育・啓蒙活動/動物園の社会貢献の意義と、当の展示動物の負担を軽減するという動物福祉の両面があります。
 言い換えれば、これは世界の動物園・水族館関係者が、訪れる市民やIUCNをはじめとするNGOと関わり合いながら自ら培ってきた、欠くことのできない≪動物園・水族館文化≫の一部ともいえるわけです。
 いまや、動物福祉の否定は、動物園・水族館そのものの否定にほかなりません。

 そして、もうひとつの要素が、人工繁殖の確立と野生調達からの脱却という、動物園にとっての持続的な将来を考えるうえで、決して無視できない大きな流れ。
 上に紹介した「保全生態学の出来の悪い兄弟分」という一種の揶揄は、かつての動物園が、ものめずらしい海外の珍獣で客を集める見世物商売・コレクターとしての色彩が強かったこととも、無関係とはいえないでしょう。
 そんな動物園でしたが、現代では責任ある立場として野生動物の保全に積極的に貢献していく姿勢を明確にしています。どこの動物園に足を運んでも、そうした理念が入場口付近のパネルに掲げられているのを、皆さんも目にしているはず。後述の動物園関係者のコメントからも明らかなとおり。
 そして、たゆまぬ努力の結果、いまや動物園で飼育されている動物のほぼ9割が自然からの調達でなくなり、動物園同士の国際的なネットワークにより、血統等各種の詳細な情報を共有し、綿密な繁殖計画を立てることができるようになりました。
 この点で日本の水族館が動物園、あるいは世界の水族館に比べ、かなり立ち遅れている事情については、リンク1番目と3番目をご参照。
 いずれにしても、イルカの供給をいつまでもズルズルと野生個体の捕獲に頼ってきたこと自体が、世界の動物園の潮流から逆行するものだったわけです。

 ところが・・JAZA側はこの10年というもの、イルカ調達問題を棚上げしてきました。かけがえのない文化の一部を自分たちで蔑ろにしている状況に、目をつぶっちゃったわけです・・。
 事態が大きく動いたのは昨年。日本のNGOによる働きかけによるもので、JAZA・WAZA・日本のNGOによる三者会談が開かれました。

■世界動物園水族館協会(WAZA)、日本動物園水族館協会(JAZA)及び、日本のNGO5団体による合同会議|エルザ自然保護の会
http://elsaenc.net/dolphihunt/waza_jaza_ngo/

 よく読むと、この時点ではWAZAも事なかれ主義で、かなり及び腰だったことがわかります。当然、JAZAへの配慮もあったでしょう。
 一方で、太地で行われている追い込み猟の実態について、JAZA・WAZAともにきちんと把握できていなかったことも明らか。

 具体的には、猟期のうち9月のみ、生体取引用に捕獲された群れは選別後すべて逃がすという、WAZAが求めた要件さえ満たされていませんでした。それが海外で暴露的に報道され、ケネディ米国駐日大使のツイートのきっかけにもなりました。
 残念ながら、JAZAは太地に丸投げで、きちんと監査・報告させる仕組みを作れていなかったわけです。監視してたのは反捕鯨団体・・。

Group: 250 dolphins await slaughter, lifetime of captivity at Japan's Taiji Cove | CNN
http://edition.cnn.com/2014/01/18/world/asia/japan-dolphin-hunt/

 さらに、関係者がまったく問題ないかのように嘯く捕殺方法についても、課題が残されたままなのです。しかも、それは捕殺時間の短縮や苦痛の軽減より、作業者の便宜と「海面が血で染まる映像を撮られて騒がれたくない」という動機を優先した結果でした。

脊髄切断法の開発者は楔による血液の体内保持は致死を遅くする恐れがあると指摘している。今後フェローと同じ指標(散瞳)で致死時間を再検討する必要はあろう。(引用)

■和歌山県太地町のいるか追い込み漁業における捕殺方法の改善|水産総合研究センター遠洋水産研究所、太地町漁協
http://www.cypress.ne.jp/jf-taiji/geiruihosatu.pdf

 生体販売によって財政的に支えられている追い込み猟自体に、動物福祉上の問題があることは否定の余地がありません。
 同時に、WAZAの各種の規定に縛られない非加盟組織・館への輸出を、WAZAに加盟しているJAZA及び傘下の水族館が積極的に支えていることをも意味します。
 WAZAにとって、これほど大きな矛盾はないでしょう。このままでは、WAZAが動物園・水族館自身の存在意義を懸けて確立した倫理規定そのものが空文化しかねません。
 WAZAに対して内外から圧力がかかるのは必然でした。それが、理事会全会一致での決定につながったわけです。

 ここまでの流れを見れば、日本の姿勢が問われるのは時間の問題≠セったことが、皆さんもよくおわかりになるでしょう。
 以下の報道でも、動物園関係者の本音が率直に語られています。

動物園の社会的な使命は展示だけでなく、種の保全にも積極的に関わることだ。絶滅危惧種の繁殖は海外との連携が欠かせず、世界動物園水族館協会から除名されると貴重な機会を失うことになりかねい。問題をうまく解決してほしい」(東山動物園副園長・黒澤氏)
日本を含む世界の動物園は希少な動物の種の保存や遺伝的な多様性を失わせないために、動物の交換などによる繁殖を頻繁に行っているが、国際組織から除名されれば、こうした枠組みに入れなくなるおそれがある。希少な種の保護や繁殖の計画を決める国際会議などに日本の協会が出られなくなるおそれもあり、除名されれば日本の動物園にとって打撃となる(旭川旭山動物園元園長・小菅氏)
日本では動物園の90%余りが繁殖させた動物を飼育しているのに対して、水族館ではイルカを含めて繁殖活動があまり行われていない。今回指摘された捕獲方法より、安易に野生の生き物を入れるという発想に問題があり、日本動物園水族館協会は水族館でも繁殖に向けて努力するという姿勢を示して、国際組織に残るべきだ(〃)

日本の水族館や動物園は、太地町から安くイルカが手に入れられるので保全への取り組みを棚上げしてきた。WAZAは、2005年に世界動物園水族館保全戦略をまとめ、自然から生物を収奪するのではなく、自然保護センターとしての役割を水族館が果たしていくことを求めた。欧米では、野生の生き物を捕まえて飼い、ショーをするということを否定する動きが強まっている。イルカなどの海洋生物は頭がいい生き物ととらえている。そういう世界の動向を分析し、日本の戦略を構築することができていなかった。イルカショーは、本来の行動や習性を伝えるものだったのか、ただの見せ物だったのか。国民の水族館に対する意識も問われる。海洋生態系の保全は国際的にますます重視されつつあり、イルカは問題の一端にすぎない(JAZA前会長・富山市ファミリーパーク園長・山本氏)

■イルカ展示、曲がり角 追い込み漁認めぬ国際組織に残留 (5/21,朝日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11765125.html

ここでWAZAを脱退すれば、日本はいまだに野生の生物、動物を捕まえて展示する低レベルな国だと世界から評価されかねません。日本の動物園はすでに展示動物はほぼすべて繁殖させたものでまかなっています。ところが、水族館は今も展示生物は海から捕ってくればよいという考え方が根強い。食文化に対する指摘なら当然反論すべきですが、今回は展示生物をどこから調達すべきなのかという問題だということを日本の水族館も冷静に考える必要があると思っています」(動物園職員)

■日本いじめじゃない? 水族館の野生イルカ問題は世界のスタンダード (5/21,週プレNEWS)
http://yukan-news.ameba.jp/20150521-13/

 ここで一般市民のみなさんの反応をツイッターから拾ってみましょう。

このニュースが出るまでイルカを太地町から購入していたとは知りませんでした。
動物園の役割が種の保存、繁殖にまで及んでいる中、当然、水族館もそうだと思っていたけど... (引用)
https://twitter.com/mii_sang3791/status/601209987583475712

産業としてのいるかの追い込み漁が残酷かどうかとは切り離して、そもそも動物園、水族館が展示のために野生生物を捕獲する行為は最低限にせねばならない、その努力を怠っている…という話だったんだなこのニュース。(引用)
https://twitter.com/ktgwtky/status/600921636796116993

 この辺が、おそらく日本国民の最大公約数的な意見ではないでしょうか。

 してみると・・テレビでの取り上げ方の異様な偏りぶりに、改めて首をひねらざるをえませんね・・。
 クジラ・イルカが絡む問題の例に漏れず、この一件もマスコミの伝える情報からは全体像がまったく見えてきません。
 5/19のフジTV「みんなのニュース」では、ゲストが「動物園が困るので残留すべき」と明言したところ、キャスターがあわてて引き取り、「文化が〜」と話をすり替えてすぐにCMに移ってしまいましたし。。
 今回の一連の報道では、どこのメディアも、当事者であるJAZA・WAZA、会員であるいくつかの動物園・水族館への取材は行っていますが、肝腎の日本のNGOの主張は英字紙のJapanTimesを除いてどこも取り上げていません。直接には動物園・水族館と関係ないハズの捕鯨関係者のコメントを流すなら、こちらにも取材しないと著しくバランスを欠くと思うのですが・・

 昔からの捕鯨サークルのオトモダチ新聞・産経は付ける薬がないとして、とくにひどかったのがやはりNHKニュースウォッチ9
 21日の環境省でのJAZA会長(鴨川シーワールド館長)荒井氏の会見は、筆者もネット動画で視聴していたのですが、NHKの巧妙な編集には脱帽するほかありません。
 まず、「残留のメリットが大きい」「飼育下で繁殖させる目標はあったが、努力が足りなかったのは事実」「野生からの導入に頼っていたところは反省しなければならない」といった、同会長の重要な発言を思いっきり端折りました。
 そして、放映されたのは次の1カット。

「太地町の追い込み漁 捕鯨の文化を批判しているわけでも非難しているわけでもなく (*) 残念ながらそれを認められなかったのでこのような結論に至っておりまして」

 この(*)の部分を非常にうまくつなぎ合わせて、1つの文章に再構成しています。まるで、JAZAが捕鯨文化を正しいと主張し、「それ」がWAZAに否定されたかのように。
 事実はまったく異なります。WAZAはそもそも加盟組織・傘下館の展示動物の調達方法のみを問題にしており、「水族館と無関係に行われる」追い込み猟に対しては何の意見も持ち合わせていません。日本政府や太地町に対して何らかの要求を突きつけたわけでもありません。あくまでWAZA自身の加盟組織であるJAZAに対する要請です。親子関係に当たる民間団体同士の問題にすぎないのです。
 動物園・水族館の展示動物の調達のあり方が問われたにもかかわらず、太地の追い込み猟の是非こそが主題であるかのように見せかける、きわめて悪質な印象操作。9日の報道は他のマスコミよりマシだったから、ちょっとは見直したとこだったのに・・。
 IWC年次会議後に「ニュージーランドの真の狙いは日本のイメージの悪化」とぶち上げたのとまったく同じパターン。

■NHK、ニュージーランドにケンカを売る
http://togetter.com/li/720977

 スポーツ紙じゃあるまいに、冒頭から12分もの時間を1人のスポーツ選手の進退問題に割いて、オスプレイの事故をたった2分で済ませたり、安倍首相のポツダム宣言よお知らん答弁を伝えなかったりする大本営放送らしいなあとは思いますが・・・
 そんな具合で、連日のように、沖縄の基地問題以上の扱いを続ける日本のメディア。ところが、街頭インタビューがほとんど見当たりません。特にJAZAが会員投票の末、残留を決めてからは。
 各TV局はなぜ、イルカ飼育水族館にレポーターを派遣して、入場客に
「ショーに使われていたイルカが太地の追い込み猟で捕獲されていたことを知っていましたか?」
「太地で獲ったイルカの群れを、殺して食べるものと、水族館で見世物にするものとで選別していることについて、どう思いますか?」
と尋ねないのでしょうか?
 それほど国にとっての一大事と考えるなら、なぜ同じ設問の世論調査を行わないのでしょうか?
 考えれば考えるほどおかしなことです。

 この問題に対しては、自民党がJAZAの幹部を呼びつけて説明を求めたり、元の所管でもないのにWAZAに対して水産庁が撤回を要求するなど、国として民間団体の問題に口を出し、明白な政治的圧力を加えたこと明らかになっています(産経発信ですけど・・)。

「13日に自民党内で開かれた会合で」「水産庁などは、追い込み漁は、資格停止の撤回を求める方針だ」(引用)
■21日までにイルカ問題を回答 日本動物園水族館協会、会員投票で (産経,5/13)
http://www.sankei.com/life/news/150513/lif1505130035-n1.html

 もっとも、林農相は19日の会見でそ知らぬふうを決め込まれたのですが・・。
「直接の所管ではございませんので、直接どうこうというコメントはできませんが」(引用)
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/min/150519.html

 で、結局、JAZAが残留を決定した後、太地町長三軒氏同席で開かれた自民党捕鯨議連の会議で、「JAZAを脱けた水族館を支援しろ」という、とんでもない意見まで飛び出す始末。
 動物園・水族館業界の問題に対して、国として支援をするのであれば、各水族館が今回の決定による不利益を被らないよう、つまりJAZAに留まって恩恵を受けられるように、繁殖に成功している水族館との間で技術協力の橋渡しを支援するなど、いくらでも常識的な対応が考えられるでしょうに。自民党の捕鯨族議員が出したのは、それと真逆の、まさに常識を完全に覆す驚くべき結論だったわけです。

■自民“協会やめる場合には水族館に支援を”(NHK,5/21)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150521/k10010086811000.html

 はるかに長い歴史を持つ全国各地の沿岸漁業を、開発や原発のために金と引き換えに葬り去ることを躊躇しなかった国が、高々40年ほど前に伊豆地方から導入した1漁法を「聖なる伝統」として祀り上げ、マスコミを動員し、世界から必死で庇おうとしている姿は、米国を盾に沖縄を踏みにじり続けるもうひとつの日本と比べたとき、どれほど対照的なことか。
 あるいは、森下IWC日本政府代表が、LAタイムズの取材で「ダブスタはあるものだ」と平然と言ってのけたアイヌの伝統的サケ漁の扱いとの・・あるいは、諫早干拓事業で泣きを強いられた漁業者との、その途方もない格差には、ただ声を失うばかりです。
 21日の日本TV系ミヤネ屋のTV欄見出しは、「JAZA脅迫まがいの勧告受諾」とあります。
 脅迫まがいとは、「辺野古移設を呑まなければ、危険な普天間基地の撤去はしないぞ」と沖縄の人々に迫る日本政府の態度を指すのでは?
 悲惨な戦争は二度とごめんだという沖縄の人々の価値観、平和と安全保障に関する多様な価値観を無視して、米国の権威を借り力を誇示する特定の考えを押し付けることが平気でできてしまう日本政府が、その一方で、国連海洋法のもとで国際的管理が求められる野生動物に対して、動物福祉のグローバルスタンダードを受け入れることを、なぜ激しく拒絶するのでしょうか?
 太地はうやうやしく讃え、沖縄は傲然と踏みつけにする日本。
 なぜ、これほどまでにも圧倒的な違いが生まれるのでしょう? これは差別ではないのでしょうか?

 WAZAは、動物園の展示動物の標準としての取り扱いを、イルカに対しても同じように求めたにすぎません。それは、今回残留票を投じてくれた多くの日本の動物園関係者がきちんと証言してくれているとおり。
 欧州とは比べ物にならないほど粗末に扱われる歴史的建造物や景観、ダムに沈められ渋滞解消目的の道路に潰される遺跡や街並、後継者もなく一握りの高齢者に支えられる風前の灯の伝統産業、かつては主食だったのにアレルギーの児童の需要があってさえ高価で入手しずらくなった雑穀はじめ、飽食の影で日の当たらない数多くの地方の伝統食etc.etc.

 弱肉強食の市場経済の論理に、消滅の危機を迎える地方の深刻な構造的問題に、なすすべもなく翻弄される伝統がゴマンとある中で、太地の捕鯨とイルカ猟だけは、どれほど変質しようと、乱獲規制違反の重大な責任があろうと、持続性を確立できなかった負の歴史を負っていようと、不可侵の聖域として死守されねばならないと訴える、不可思議な国・ニッポン。
 TPPで国の根幹をなす農業を米国に売り渡そうとしながら、水族館の問題では鎖国を謳う、不可解な国・ニッポン。
 それでいて、5年先の東京五輪に向け、原発・財政・災害対策はじめ山積する国内の課題もそっちのけで、「クール・ジャパン」「オモテナシ」を掲げて必死に世界に媚を売る、表と裏の顔のかけ離れた国・ニッポン。

 TVに映った町長さんの健康状態、咽喉の腫れ具合もちょっと気になったのですが・・太地は今のままで本当にいいのですか?
 動物園の国際的な使命と理念を理解し、WAZAとの関係を壊したくない動物園関係者の方々のまっすぐな声は、あなた方の耳に届きましたか?
 記者会見に臨んだ町立くじらの博物館館長・林氏は、会見の席で「キリンとか陸上の動物園の動物もいずれ同じ目に遭う」という趣旨の発言をされてしまったようですが、業界人でありながら動物園を取り巻く諸事情をまったく理解できていなかったことに驚きを禁じえません。自分の無知・不勉強を露呈することになった和歌山県知事・仁坂氏のイタすぎるイジメ発言もそうですが・・。
 マスコミや反反捕鯨応援団、愛国主義者の諸兄は、いつでもあなた方を精一杯持ち上げてくれるでしょう。国会議員のセンセー方も誉めそやしてくれるでしょう。
 しかし、日本人の誰もが、不利益を被ってまで、あなた方を支持し、絶賛してくれるとは限らないと、今回の件で身にしみて感じられたはずです。
 収益の不足分を埋め合わせる生体販売の手法は、消耗品を繰り返し買い上げてくれる顧客として水族館をあてにしたのは、誤りであったと気づかれたはずです。
 韓国ではこのようなニュースもありました。

■済州島の海に戻されるイルカのポクスニとテサニ|ハンギョレ
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/20631.html

 中国その他の地域でも、いずれはそういうことになるでしょう。動物福祉・エンリッチメントは、世界中のすべての動物園・水族館が、存続のためにいずれは必ず取り入れなければならない課題なのですから。 
 この副業に頼るやり方では将来は決して明るくないということを、妙案を編み出し、国際舞台で渉り合ってきたあなた方なら、もう理解できているはずです。
 太地漁協が不快な嫌がらせFAXに憤る気持ちもわかります。生イルカを売ってる得意先のハズの韓国・中国からの非難が届くのは、正直筆者も理解できませんが・・ていうか、それ本当に海外から来てるの?? これまた産経情報だけど。。

 息の長い地域の活性化のためのヒントは、あなた方が自身の持つコンテンツの価値を真剣に見つめ直すなら、いくらでも見出せるはずです。
 代わり映えのしないユルキャラやB級グルメ、ショッピングモール等に頼ってあっという間にもとの木阿弥に戻ってしまう非持続的な町興しではなしに、あるいは、原発立地自治体のように魂まで金と引き換えに売り渡してしまうのでなしに、個性を活かしながら世界に打って出る道を、才覚に恵まれたあなた方なら模索することができるはずです。

「訪日オーストラリア人にも白川郷や熊野古道は人気がある。しかしこれは、伝統的な文化体験等を嗜好する国民性によるところが強いと思われ」
「オーストラリア人は、日本への再訪意欲が外国人平均よりも高い。リピーターは、ゴールデンルート以外の観光地への訪問意欲が高く、また、日本での平均滞在日数が14 日間と長いため、地方の体験型観光にもチャンスがある」(引用)

外国人観光客のプロモーション手法を情報発信!〜平成24 年度海外経済(観光)セミナー開催報告〜|自治体国際協会
http://www.clair.or.jp/j//economy/docs/seminarhoukokusho.pdf

 即時に太地のイルカ猟・捕鯨をやめろと要求するつもりはありません。
 それが国際条約に違反するものだとしても、最終的に決めることができるのはあなた方です。
 それに引き換え、沖縄には自らの道を決めることすら、日米両政府に許されていないのは、あまりにも理不尽だと思いますが・・。
 日本でも世界でも、強大な力、理不尽な運命に翻弄されている人々は数え切れないほどいます。
 その中で、たくさんの応援団が、絶大な権威が、がっちりと守ってくれる太地は、とてつもなく恵まれているといえるのではないですか?
 しかし、あなた方が声高く叫ぶ自分たちの伝統≠ヘ、世界には決して理解されないでしょう。
 最初からバイアスのかかった目で美化することしかできない映画監督が、The Coveに対抗すべく、いくら演出を凝らして英語で世界に発信したとしても。
 なぜなら、あなた方を庇っている日本が、沖縄を、沿岸漁民を、内外の数多くの伝統を、今なお蔑ろにし続けている国だからです。

 江戸時代の網取式捕鯨はとっくに消滅しました。出漁を強行する誤った判断で鯨組は壊滅し、その後ブランクを経て伝統捕鯨とは似ても似つかないノルウェー式の近代捕鯨事業が持ち込まれました。
 町史に記されているとおり、現在の形態のイルカ追い込み猟は1969年に伊豆から導入されたもので、伝統の重みにおいて明治政府に無理やり潰されたアイヌの捕鯨の足元にも及びません。
 網取式捕鯨がイルカ追い込み猟のルーツだというのは、ただの詭弁にすぎません。
 しょせん張りぼてで飾った贋物だと冷たい軽蔑の視線を浴びながら、ご神体≠ノしがみつき続けるのですか?
 突きん棒漁への切り替えは、そこまで受け入れがたいことなのですか? 古式捕鯨から舶来ものの近代捕鯨への転換に比べれば、はるかに些細なことなのに。
 世界に開かれた、伝統と国際協調を融和させることに成功した町として、世界中から賞賛と尊敬を勝ち得る未来よりも、追い込み猟という形式に固執することのほうが大事なのですか?
 何が本当に町の将来のためになるか、よく考えてください。

参考リンク:
−捕鯨の町・太地は原発推進電力会社にそっくり
http://kkneko.sblo.jp/article/78450287.html
−太地−ブルーム姉妹都市騒動の背景
http://kkneko.sblo.jp/article/31722747.html
−民話が語る古式捕鯨の真実
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html
−NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html
posted by カメクジラネコ at 03:19| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系