2015年04月03日

乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義

 先日NOAA(米国海洋大気庁)からとある発表がありました。
 私が見つけたときはNOAAのアカウントがツイってから5日経ってましたが、まだ数件しかRTなし。けど、クジラ/捕鯨問題ウォッチャーにとっては重要な内容。
 旧ソ連の衝撃的な違法捕鯨による申告漏れ分を可能な範囲で補正した、20世紀の全期間にわたるクジラの捕獲統計です。

-New Report Estimates Extent of 20th Century Industrial Whaling 
http://www.st.nmfs.noaa.gov/feature-news/3-million-whales 

-First Estimate of Number of Whales Killed During Industrial Whaling 1900-1999 
http://www.afsc.noaa.gov/news/soviet_whaling.htm 

-Emptying the Oceans: A Summary of Industrial Whaling Catches in the 20th Century
http://spo.nmfs.noaa.gov/mfr764/mfr7643.pdf

 殺しも殺したり、その数たるや2,894,094頭
 悲壮なタイトルが示すとおりの、人類の業と罪。

 そのうち、北大西洋が276,442頭、北太平洋が563,696頭、合わせて北半球分が840,138頭
 そして、南半球分が2,053,956頭。北半球の約2.5倍。もっとも、主犯は北半球の国々ですが……。

 NOAAのレポートには国別捕獲統計がなく、正確に同期の取れた数字ではありませんが、前世紀に最も多くクジラを殺した国はノルウェーで約23%、次いで日本が約20%、ロシア(旧ソ連)が発覚した違法捕獲分でイギリスを抜いて3位の約18%、イギリスが約15%
 上位4カ国で、実に全体の3/4以上を占めています。
 日本は百年かけた捕鯨オリンピックで見事銀メダルに輝いたわけです。21世紀に入っても、日本とノルウェーの2ヵ国が引き続き金をめぐって争っているという状況……。

 この1世紀で一番多く殺された鯨種はナガスクジラ(874,068頭)。2番目に殺されたのがマッコウクジラ(761,523頭)。
 この2種だけで、全体の半数以上(56.5%)を占めています。
 以下、3位シロナガスクジラ(379,185頭)、4位イワシクジラ(291,540頭)、5位ミンククジラ(283,905頭)と続きます。
 ※注 ミンクはクロミンクとの合計。イワシクジラには同定される以前のニタリクジラの捕獲が含まれているとみられます。

 ではここで、同レポートの日本に関する言及部分をいくつか抜き出してみましょう。
 まずは、旧ソ連より先に暴露された日本の沿岸捕鯨スキャンダルについて。(背景色引用)

The Japanese were catching many undersized whales in their coastal fishery and falsifying their reports in order to conform to IWC regulations (Kasuya, 1999; Kasuya and Brownell, 1999, 2001; Kondo and Kasuya, 2002).
日本は沿岸捕鯨で(捕獲が禁止されている)体長制限以下の小さなクジラを捕獲していたうえに、IWCに対して虚偽の申告を行ってきた。
(中略)
Finally, it is important to note that some catch totals for the North Pacific are likely to be incorrect to an unknown degree.
The IWC database still contains data from the Japanese coastal fishery that are known to be falsified, notably for sperm whales (Kasuya, 1999); furthermore, analyses of sperm whale length data have raised suspicions about the reliability of the pelagic Japanese catch statistics for this species (Cooke et al., 1983).

 日本の不正な捕鯨と虚偽申告の所為で、このレポートの数字には不確実な部分が残っています。たぶん、金メダルを取れるほどではないでしょうけど……。
 続く記述では、南氷洋捕鯨時代のパナマ船籍の捕鯨船オリンピック・チャレンジャー号のずさんな操業についても触れています。ペナルティに鯨油差し押さえを食らい、売りに出された同号を買い取ったのが、日本の極洋。
 その後、他の大手捕鯨会社もこぞって外国捕鯨母船の枠付購入に走り出します。
 それは、南氷洋の荒廃を決定づけた日本の役割を象徴する出来事でした。(後述)

When this vote was taken in 1982, there were 10 countries still in the business of whaling. Iceland, Norway, Spain, Portugal, and Korea were whaling in the north, while Brazil, Peru, Chile, and the USSR were operating in
the south. Only Japan still had operations in both hemispheres.
(1982年以降)南北両半球で捕鯨を行っている国は日本のみである。

 これこそ、捕鯨国の中で日本がとくに£@かれる理由のひとつ。
 「なぜ日本は南半球でまで捕鯨を続けるのか?」という世界の問いに、日本は誠実に答えた試しがありません。

The following year whaling operations attributed to the Philippines were initiated.
Research into this endeavor has indicated that Japanese nationals owned and operated all facets of this business, which was terminated in 1986.

 商業捕鯨禁止が決まった翌年、マルコス政権下にあったフィリピンが突然商業捕鯨参入を言い出して世界をびっくりさせます。
 案の定、裏で糸を引いていたのは日本の水産貿易会社でした。
 この一件で、「日本は常に規制の裏を掻く国だ」と世界に強く印象付けることになったわけです。

Japan initially objected to the moratorium but withdrew this objection under U.S. threat of fi sheries sanctions
and thereafter exploited Article VIII of the Convention, which permits member states to issue permits
to kill whales for scientifi c research (so-called “scientific whaling,” see Clapham, 2014).

 日本の調査捕鯨は、世界にはもはや、「いわゆるカガク捕鯨」という皮肉な但し書きなしには見られないわけです。
 大方の日本国民も、そういう見方しかしてないでしょうけど……。

Once the moratorium took effect with the 1985–86 Antarctic whaling season, all nations, other than Norway,
Japan, and the USSR ceased industrial commercial whaling.
Japan, Norway, and the USSR all lodged objections to the ban (under the Convention, an objection lodged within 90 days means that the objecting nation is not bound by any decision of the IWC, and this includes the moratorium).

 いわば悪の御三家的な位置づけですね。この後ソ連が抜けて、代わりにアイスランドが加わるという形ですが。
 あるいは、核(潜在的開発能力)保有国に相当する位置づけといえばいいでしょうか。
 もっとも、商業的にペイする公海/南極海母船式捕鯨に関する限り、その能力を有する国は日本も含めてもはやゼロ。
 それは、名乗りを上げる企業が存在しないことと合わせ、足かけ30年にわたる調査捕鯨という名の社会的実験=i自然科学ではなく)によって日本が自ら証明したこと。
 21世紀に成立し得る捕鯨のスタイルは、聖なる食文化≠ニいう大仰な建前のもと、莫大な税金を投入することによって可能になる官製捕鯨のみ。

After 1966, another 87 blue whales were killed by ships registered in Denmark, South Africa, Australia, Chile, Japan, and Spain (Allison, 2012).
Two of the ships registered in Spain, the Sierra and the Tonna, were actually pirate whaling ships that were not registered with an IWC nation but whose operations were linked to Japan (Clapham and Baker, 2008).

 かの悪名高き海賊捕鯨船、シエラ号トンナ号
 1世紀分の捕鯨について記された報告書にわざわざその名が刻まれるほど、重みのある2隻の船の名。
 その裏で蠢いていたのも、やはり捕鯨ニッポンだったのです。
 えっ!? あのシエラ号の名を知らない??
 世界では捕鯨産業の暗黒史として必ず登場するキーワードなのに。
 「聞いたことはあるけど、海賊シーシェパード(SSCS)に船沈められた被害者だろ」とおっしゃる?
 おやおや・・・なぁんにもご存じないんですねぇ・・・・。
 産経のパクリ記者・・もとい、SSCSバッシング本でウハウハ・・じゃなかった、SSCS評論家であらせられる佐々木正明記者に聞いてみてごらんなさい。
 え? 彼は「クジラはごちそうかカリスマか問題」にしか興味がなさそう? そんな、マツコのローカルネタじゃないんだから(汗)
 まあ、しょせん食い物にしてるだけの評論家だからしょうがないか。。。

 SSCSを過激派たらしめたものこそ、日本の大手捕鯨会社と鯨肉市場をバックに悪行の限りを尽くし、国際規制を有名無実たらしめた海賊捕鯨にほかなりません。
 まあ、SSCSなんて、元代表が海賊ぶってるだけのマニアみたいなもんで、妨害の非人道性でもいま辺野古で海保がやってることに比べりゃかわいいもんですけどね・・・

−最も成功した歴史修正主義|3500-13-12-2-1
−やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−その3:戦後繰り返された悪質な規制違反

 フィリピン捕鯨参入の件も合わせ、海賊捕鯨とぐるみ違反に関するさらに詳しい情報は『ザ・クジラ』(原剛著、文眞堂)をご参照。

 捕鯨オリンピックによって大型種から順に壊滅させていった南氷洋捕鯨の歴史については「やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−」で勉強してもらうことにして、ここで国毎の捕獲統計に基づくグラフをもとに、日本が乱獲に果たした責任の重さについて、改めて検証してみることにしましょう。

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 捕獲量ランキング1位と4位のナガスクジラ、イワシクジラについては、『南氷洋捕鯨史』(中公新書)の著者で捕鯨賛成派の板橋守邦氏も、資源収奪の責任が日本にあると指摘しています。
 ナガスクジラの捕獲量をみると、日本はノルウェー、イギリスに続いて銅メダルの3位、全体のおよそ2割というところ。数字だけでいえば、ノルウェーの方がトータルで倍近く捕っていることになります。
 しかし、年間捕獲量の記録で言えば、チャンピオンはやはり日本でした(13,060頭、1962)。2位のノルウェーも僅差とはいえ(12,974頭、1954)。
 さらに、資源状態の悪化の様相が濃くなる後期になればなるほど、トータルの捕獲量に占める日本の割合がどんどん高くなっていきます。
 日本の捕獲量は、1950年代に入った頃は1割だったものが、最盛期の1960年代半ばには5割超にまでに膨れ上がります。
 グラフを見れば一目瞭然。そして、これはほぼすべての対象種についていえることでした。

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 こちらがイワシクジラの捕獲数に占める日本の割合。
 規制がやや厳しくなってから主要なターゲットになった鯨種ですが、このイワシクジラの捕獲比率に関しては、日本がダントツの1位で5割に達します。
 ニタリクジラも同じく日本の比率が圧倒的に高く、5割弱。ミンクとマッコウは、旧ソ連と日本で1位、2位を分け合う格好。
 まさしく、乱獲の総仕上げ、息も絶え絶えの状態にあるクジラたちにトドメを刺す役割を果たしたのが、後発国の日本と旧ソ連だったのです。
 もっとも、大洋漁業ソ連事業部≠ニ揶揄された同国の鯨肉も日本市場向け。
 マグロやウナギと同じく、世界中の乱獲を支えてきたのが日本人の胃袋だったわけです。

 では、日本が主役の座を奪う前に、すでに追い詰められていたシロナガスとザトウについてはどうでしょうか。

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 日本の貢献≠ヘおよそ1割。シロナガスに関する限り、絶滅寸前に追いやった主要な責任がノルウェーと英国にあるのは否定できません。
 しかし……グラフを見て、皆さんはあることに気付きませんか?
 日本の捕獲の比率は、戦前の一時期に急激に膨れ上がります。ちょうど太平洋戦争が始まる1941年、日本は3280頭のシロナガスを殺してノルウェーから首位の座を奪い、束の間の栄光に輝きます。
 そう……第二次大戦と戦後の中断さえなければ、この順位も入れ替わっていたかもしれません。
 シロナガスクジラは、その大きさ故にナガスクジラより先に狙われたため、日本が参入した時点で先攻組に壊滅的なダメージを被っていたわけです。
 もし、南氷洋進出の西洋捕鯨国とのギャップがもっと短ければ、あるいは戦争のタイミングがずれていたら、ナガスと同じく最終的に引導を渡す役割を果たした捕鯨国が日本だったことは、想像に難くありません。
 付け加えれば、捕獲禁止後にシエラ号が密漁したシロナガスやナガスの鯨肉の行き先も、日本にほかなりませんでした。

 これらのグラフから示される日本の捕鯨のもうひとつの際立った特徴、それは多くの鯨種でトータルや他の捕鯨国に比べて捕獲数のピークが後ろにずれていること。特に顕著なのがナガスクジラですが。
 日本がもし、持続的水産業の模範国であったなら、対象資源の危機を素早く察知し、警報が鳴る前に自ら捕獲数を絞ることができていたはず。
 実際に日本がやったことといえば、国際機関の規制にとことん抵抗することばかりでした。
 まさに持続的利用の落第生であったことを、近代捕鯨史は如実に示しているのです。
 残念ながら、その悪しき伝統は、今日の日本の水産業に広く受け継がれてしまったのが実情です。マグロ、ウナギからホッケに至るまで。漁業問題ウォッチャーが正しく認識しているように。

 このように、密漁に関しても、乱獲に関しても、捕鯨ニッポンの責任はきわめて重大なのです。

    ◇ ◇ ◇

「油目当てにクジラを乱獲したのは西洋人だ! 日本の捕鯨は伝統で乱獲なんてするはずがない! もちろん、密漁なんてするわけない!」
 ネット上ではしばらく前から、そうした100%事実に反する誤った歴史認識が横行しています。
 ごく一握りの狂信的な反反捕鯨論者が叫んでいるだけだったら、まだ無視してもいいでしょう。
 しかし、国を代表する立場にある安倍首相の発言を聞くと、不安を覚えざるをえません。少なくとも、「海洋哺乳類を冷酷に乱獲していた」のは厳然たる事実なのですが……

安倍首相は9日、海洋哺乳類を冷酷に乱獲しているとの海外の認識とは違い、捕鯨を行っている地域は漁の期間が終わる時には必ず鎮魂の儀式を行い捕獲の対象を敬っていると説明した。「このような日本の文化が理解されないことは残念だ」(ガーディアン)

−商業捕鯨再開を安倍首相が示唆 “日本文化”を理由に、国際判決に背くのか?海外メディア反発 (NewSphere,'14/6/10)

 自民党をはじめとする各党の捕鯨族議員らが、ICJ判決直後に鯨肉パーティーを盛大に開いて気勢を上げたときも、彼らがあまりにも素朴な捕鯨ニッポン性善説に毒されているようにしか見えませんでしたし。
 捏造された歴史に酔いしれる日本人が急増しているとしたら、それはとても由々しき事態です。

 いま、ヒトラーを髣髴とさせるウルトラナショナリズム首相の威勢のよい啖呵に呼応するかの如く、アジア諸国への侵略行為を中心に、この国の負の歴史を書き換えようとする動きが、これまでになく活発になっています。
 南京大虐殺、従軍慰安婦、沖縄集団自決、etc.etc...
 そんな日本の歴史修正主義に対しては、隣国の韓国・中国のみならず、欧州や同盟国である米国でも、眉をひそめる見方が少なくありません。
 負の歴史から目を逸らし、過去の過ちを正当化しようとすれば、日本は国際的信用を失うだけです。
 反省なしの未来志向などありえません。
「うるせえな、昔のことでグチグチ言うんじゃねえよ。そんなことより前行こうぜ、前」
 国のトップがそんな態度を示せば、むしろ、国際社会から強い疑念を呼び招いて当然でしょう。再び過ちを繰り返さない保証はどこにもないのですから。

 繰り返しになりますが、乱獲においても、密漁においても、日本が世界で最も悪質な捕鯨国のひとつだったことは否定の余地がありません。
 国際司法裁判所(ICJ)にはっきりと違法認定を受けたにも関わらず、水産庁長官の国会発言(「刺身にすると美味いミンク鯨肉の安定供給のため」)もスルーして、反省と検証ひとつなく、再度看板をすげ替えただけの密漁捕鯨を繰り返そうとしているのだから、過去形とすら呼べません。現在進行形

 以前は国際会議の場において、河野談話・村山談話に相当する「乱獲への真摯な反省」を代表団も口にしていたものです。
 そのころはまだ、「調査捕鯨はかつて乱獲を招いた商業捕鯨とはまったく違うんだ」と世界を納得させるために、世界に対して二度と過去の過ちを繰り返さないと表明することが最低限必要不可欠だと、担当者も理解していたということかもしれません。
 残念ながら、最近ではそうした表向きの反省の言葉さえ、滅多に聞かれなくなりましたけど……。
 ある意味で、日本の商業捕鯨と調査捕鯨は、旧日本軍と自衛隊の関係の相似形ともいえました。
 二度とあのような戦禍を引き起こさないという約束が、自衛隊の存在を内外に認めさせるうえで、絶対に必要なものだということは、日本国民であれば誰しもうなずくはずです。
 調査捕鯨の方は、ICJ判決が示すとおり、化けの皮が剥がれてみれば、ほぼ商業捕鯨と変わらなかったわけですが。
 その調査捕鯨同様、自衛隊が再び侵略戦争への道を開く実質的な軍隊とイコールでないことを、一国民としては祈るばかりです。
 つい先日、安倍首相が「わが軍」と口走っちゃったばかりですけど……。
 本川長官が国会で「ミンクは刺身にすると美味い!」と言っちゃったように………。
 
 確かに、西洋の捕鯨国も過ちを犯しました。
 乱獲の悲劇を起こした責任を、彼らは負わなければなりません。
 二つの大戦・ファシズムによって、あまりにも多くの人命を犠牲にした責任から、彼らが決して逃れられないように。
 しかし、それは日本の捕鯨が招いた乱獲や悪質な密漁に対する免罪符には、一切なりえません。
 日本が、自らのファシズム・アジアの国々に対する侵略戦争の加害責任を否定することが、断じて許されないように。
 「いや、その2つはまったく違う。西洋の捕鯨は悪≠セが、日本の捕鯨は善≠ネんだ」という主張は、八紘一宇ではないけれど「西洋の戦争・全体主義は悪≠セが、日本がやったのは正義≠フ戦争であり、侵略もファシズムもなかったんだ」という主張とそっくりそのまま重なります。
  
 私たち日本人は、日本人であるが故に、戦争責任の否定とまったく同じ流れで流布される根拠のない日本の捕鯨性善説≠全力で打ち消さなければなりません。それは世界の恥です。
 自らの犯した罪と真正面から向き合うことをしない限り、本当の未来は決して手に届かないのですから。
posted by カメクジラネコ at 01:43| Comment(5) | TrackBack(0) | 社会科学系