2010年02月15日

バンクーバー五輪とクジラ

◇バンクーバー五輪とクジラ〜乱獲捕鯨五輪の過去を忘れ、ガラクタ文化と価値観の押し付けで金メダルを目指すのはやめよう

 いよいよバンクーバー冬季五輪開幕ですね。
 といいつつ、スポーツはやるのも観るのも興味ないうえに、郷土の文化と自然に対する愛着はあっても、愛国心なる感情に欠ける筆者としては、どこの国がいくつメダル獲ったなんてことはどうでもいいし、参加される選手の皆さん一人一人が自分自身納得できる結果を出して欲しいと願うばかりなんですけど・・。カーリングのチーム青森と女子フィギュアの鈴木選手は個人的に応援してるニャ〜♪
 ところで、今回の開会式では、巨大スクリーンに映し出された映像の中にシャチとクジラが登場したという話(筆者は観そびれちった(--;)。映像に合わせて実際に床から潮を吹かせる演出もあったそうだけど、ザトウなのに噴気はシロナガスっぽかったとの苦情もあったとかなかったとか。。
 自然豊かな観光地として、五輪前から日本での知名度も高いバンクーバーについては、改めて説明する必要もないと思いますが、カナダ西海岸の同島周辺海域はザトウクジラやミンククジラを始めとする各種の鯨類の回遊ルートに当たっており、定住型のシャチの生息域になっていることでも有名。シャチが現地の先住民の間で畏敬の対象とされてきたことも、つとに知られています。今回の五輪では、メダルにこのシャチをモチーフにした先住民族のデザインが採用されたことが日本のTVなどでも取り上げられました。
 バンクーバーのシャチについては、海洋写真家の水口博也氏が多くの著作を発表しています。拙小説でもネタにさせてもらいました。ついでに以下の過去記事もご参照。カナダはIWC(国際捕鯨委員会)加盟国ではありませんが、大勢の市民が野生動物としての鯨類に対する深い関わりと愛着を持っているのです。

−捕鯨ニッポンと対極にある、まるで別世界のヒトと野生動物との関係 (拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/26299661.html

 映像のクジラ以外にも、捕鯨ニッポンに住む身にとっては居住まいを正さざるを得ない演出が・・。「何の話だかわからない」という方は、自己中的ベーコン脳度が幾分進んでおりますぞ?
 答えに参りましょうか。今回の開会式では、カナダの先住民族の長老たちが招待客として列席、各国選手団入場の際には歓迎の踊りを披露。中央のモニュメントもトーテンポールをモチーフにしていたりと、式典全体にわたって先住民カラーが色濃く反映されていたんですね。さすがに蛍光色の伝統衣装はディスコみたいで違和感を感じなくもなかったけど。。
 まあ・・商業色の方も強くなっていろいろ批判のあるIOCですから、ある意味政治的利用に近い部分もあるかもしれません。しかし、国際協調・平和共存を訴えるメッセンジャーとしての先住民の存在感と、それが世界中の市民に広く受け入れられているという事実を、IOCのような巨大組織、あるいはスポンサーともなっている大企業が熟知していることを示すといえるでしょう。
 虐げられてきた歴史故に、また現代文明の抱える様々な欠陥に対する処方箋としての位置づけ故に、先住民の伝統に対しては第一級の文化として高い敬意が払われているのです。それがいまの国際社会の潮流なわけです。先住民族の伝統をどれだけ尊重しているかは、その国の文化度と国際感覚を図るバロメーターに他なりません。
 翻って捕鯨ニッポンの実情はどうでしょうか?
 1993年の国際先住民年から、世界の先住民国際10年の2周目に入っていますが、アイヌを公式に先住民と認める決議が国会を通ったのはやっと2年前のこと。しかも、土地や資源に対する権利、過去の同化政策に対する真摯な謝罪、補償問題など本質的な部分は棚上げにされており、国連の定義とは未だに大きなギャップがあるのが現実です。多くの反捕鯨国を含む他の先進諸国においては最大限尊重されている伝統文化を、どこの国よりも蔑ろに扱っている国こそ、とある問題では「デントウブンカ」が口癖の捕鯨ニッポンの真の姿なのです。
 IWCでは先住民生存捕鯨に関する小委員会があり、イヌイット(米アラスカ)やチュコト族(ロシア)、グリーンランド先住民(デンマーク)などの先住民に対しては、特例的に枠が与えられています。先住民問題の文脈を理解している世界中のすべての人々にとっては、まさに当たり前の措置。
 ところがどういうわけか、日本の歴とした先住民たるアイヌの伝統捕鯨に関する情報が発信されることは皆無。2006年にアイヌの方たちが北海道選出の鳩山現首相に伝統捕鯨再開を訴える陳情を行いましたが、残念ながら族議員と一緒の席で鳩山氏が返したのは「商業捕鯨再開に努めている」という場違いな返答だけ。

−アイヌ文化継承のために努力を約束|鳩山由紀夫公式サイト
http://www.hatoyama.gr.jp/weekly/040422.html (リンク切れ)

 実際には、乱獲の責任を負う大手捕鯨会社とつながる沿岸捕鯨を「第三のカテゴリー」などというトンチンカンなネーミングを持ち出してゴリ押ししようとする一方、はるかに古い歴史と海外でも評価され得る高い正当性を有するアイヌ民族の伝統捕鯨については、水産庁は国際社会に対して何一つ働きかけを行ってきませんでした。ちなみに、9千年の伝統があるのはこのアイヌ捕鯨の系統。やはり絶滅した古式捕鯨の歴史は約300年(400年前〜)。丸ごと外から輸入した現在のノルウェー式捕鯨はたったの120年です。
 アイヌの伝統捕鯨復元を正式にIWCの場で申請すれば、米豪のような強硬な反捕鯨国でも二つ返事でゴーサインを出すことに疑いの余地はありません。しかし、日本政府がしてきたことといえば、伝統文化としては100%ニセモノの公海母船式商業捕鯨/調査捕鯨を最優先し、9割方ニセモノに近い沿岸捕鯨をとりあえずカードとして振りかざすだけだったのです。
 捕鯨問題に関する国際交渉を担当する水産庁の森下丈二参事官は、海外マスコミに対し、アイヌのサケ漁と商業捕鯨/調査捕鯨との政策的プライオリティ付けに関して実に信じがたい発言をしたことがあります。それはアイヌからイヌイットからアボリジニから、世界中の少数民族・先住民族の方々が耳を疑い、言葉を失う重すぎる内容でした。発言自体は軽薄・軽率の謗りを免れませんが。以下はロサンゼルスタイムズ紙及びブロガーさんの記事中の訳から引用。


"I would not claim that my government is always consistent," Joji Morishita, director for international negotiations for the Japanese government's Fisheries Agency, said when asked about the discrepancy between how Japan wants its whalers to be treated and the restrictions it imposes on the Ainu community. "You cannot be perfect on every issue and unfortunately that's happening in the case of the Ainu."

我々はいつも首尾一貫しているとは言えない。誰でも全ての点で完全であることは出来ない。それがたまたまアイヌの問題で起こったのだ。

−米国紙がみた調査捕鯨とアイヌ|無党派日本人の本音
http://blog.goo.ne.jp/mutouha80s/e/a863ac35990df463fce164c7633863d5
−Japan's whaling logic doesn't cut two ways (11/24/'07,米ロサンゼルス・タイムズ)
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-whaling24nov24,0,1247872.story?coll=la-home-world

 ジゾクテキリヨウ原理主義を世界に強硬に押し付けようとするこの水産官僚は、先住民族文化に対する国際的なスタンダードをまるっきり無視し、いけしゃあしゃあとこんなことを言ってのけたのです。今でも口を開けば「云十万の土産物がどうしたこうした」とお経のように唱え続け、先住民の由緒ある文化を“たかが商業捕鯨”と同列に扱う、あまりにも粗末な文化観を隠すことさえできない始末。日本がこのような人物を高級官僚に据え、世界に恥を晒しているのは、国民としてあまりに耐え難いことです。
 さて、北京五輪と石原都知事の招致運動に絡めて以前記事にしましたが、「オリンピック」という単語は、実は近代捕鯨の歴史と切っても切れないものだったりします。ノルウェー・イギリス・ロシアなどとともに、日本の大手捕鯨会社は南極海で乱獲の限りを尽くし、シロナガスを始めとする大型鯨類に壊滅的なダメージを与えました。累計捕獲量が銅メダル(3位)にとどまったのは、単に後発組だったからにすぎません。他国の業者が撤退した後も企業間で貪欲にメダルを争い合うことで乱獲の総仕上げをし、重大な責任を負っているはずの大手御三家の合弁企業から出発した共同船舶が、今なお出場者が誰もいない舞台で、ウヨガキ応援団にエールを送られながら「俺達が金メダルだ!」と虚しい叫び声をあげ続けているというわけです。ここ2、3年はシー・シェパード(SSCS)という競争相手がやっと見つかったおかげで、右サイドの一部は盛り上がってきてる感じですが・・・
 問題は、日本の立場を代表する水産官僚が、海外向けには自国の捕鯨会社の乱獲に対する責任を(小声で)認める一方で、国内では「深い反省」の周知徹底を図る努力を怠るのみならず、他人の迷惑をまったく顧みずにネットで気炎を上げる無名のウヨガキから、外野とはいえ高いネームバリューのある雁屋哲氏を始めとする文化人・著名人、公共放送を世論操作の道具として利用する捕鯨サークルと縁の深い人類学者秋道智彌氏らに至るまで、素朴で幼稚にすぎる捕鯨ニッポン性善説が幅を利かせている状況に対して見て見ぬふりをし続けていることです。
 日本の国策捕鯨は、環境負荷削減への取組を一切行わずデータも公開しないという点で、あらゆる産業の中で文字通り最悪であるばかりでなく、歴史教育の面でも最悪。アイヌの伝統をあっさり無視して「調査捕鯨は文化だ」と海外メディアに言いふらしてしまう低レベルの閣僚や政治家たちがゾロゾロいて、日本の評判を地に貶めているという点で、文化施策としても最悪。補助金事業としての透明性・情報公開・説明責任が蔑ろにされる稀有な聖域として扱われているという点でも最悪。という具合で、まさしく最悪のオンパレード。捕鯨サークルは悪の金メダルを独占している感じですね・・・
 商業捕鯨モラトリアムは、科学者の警告が無視され、規制が後手後手に回り続けて完全に機能不全に陥っていたIWCが、自ら招いた反動にすぎません。日本捕鯨協会の委託を受け、捕鯨推進のための広報戦略の筋書を描いたPRコンサルタント・梅崎義人現水産ジャーナリストの会会長らがでっち上げた陰謀説には、根拠がないことが既に明らかになっています。捕鯨モラトリアムを挟んで、捕鯨オリンピックはプロパガンダ合戦と陣(票)取り合戦へと移行したといえるかもしれません。こちらも主要な対戦相手は"Whale Wars"シリーズを売るSSCSということになるんでしょうか・・・
 海賊だのエコテロリストだのと罵りつつも、本音を明かせばずっとずっとよき宿敵(とも)でありたいと願っているライバルSSCS相手に、国内世論を無理やり煽りたてて、金メダルを求め続けている捕鯨ニッポン──。
 そんなバカバカしい泥仕合(naokiさん曰く八百長プロレス)でメダル獲ってどうすんですか??
 どうせならもっとマシなメダルを目指しましょうよ。食糧廃棄量最少とか。フードマイレージ最少とか。菜食人口比率最多とか。犬猫殺処分数最少とか。有害鳥獣駆除件数最少とか。沿岸漁業資源枯渇最少とか。自然海岸最長とか。歴史的景観保全施策最良とか。少数民族のステータス最上とか。ぜーんぶ今は先進国で最下位クラスだけど・・・・

参考リンク:
−五輪落選とクジラ (拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/32671327.html
−捕鯨問題総ざらい!!! 16. 伝統のアイヌ捕鯨は別だよ! (拙ブログ特設リンク)
http://kkneko.sblo.jp/category/765307-1.html

posted by カメクジラネコ at 01:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系