2008年06月30日

オウムとクジラ──江川紹子氏の捕鯨擁護論批判

 オウムの一種のヨウムはクジラと同じく動物界の天才である……という話ではありません。
 うちに大挙して訪れていたネトウヨさんたちは、どういうわけか環境保護団体グリーンピースのことをしきりにオウム呼ばわりしてしていました。
 筆者には、2つの団体の間には"団体である"という以外、1つの共通点も見出すことができません。鯨研という名目上科学機関でありながら株式と寄付で成り立っている財団法人、共同船舶という国から独占的に事業を委託され補助金も受けている特異な企業と同じくらい──あるいは、日本という国家="人の集まり"と同程度には、無関係です。国家や宗教団体と違い、GPを"崇める"人は一人もいないので、むしろ"より遠い"といえるかもしれませんが・・。
 私的に流用されていた疑いのある鯨肉を確保して検察に提出した行為を、リンチや毒ガスを使った無差別殺人と同列に扱う感覚は、筆者には到底理解できません。
 オウムは、カリスマ性を武器に私欲を満たしただけの人物と、彼にすり寄り、あるいは依存して、人間性や倫理観を組織に埋没させ失ってしまったカルトのメンバーの集まりです。戦前の日本軍、北朝鮮の諜報員、アルカイダのテロリスト、いずれも同列でしょう。一方GPは、オゾン層破壊や気候変動、有害物質の規制などに関わる種々の国際会議で研究者によるレポートを提出し、同時にメディアに向けた直接行動で市民に対し広く"問題の所在"を伝えることをモットーに実績を積み重ねてきた国際NPOです。コーディネーターに要求されるのは、スキルと徹夜仕事に耐えるタフさ(・・)のみで、カリスマ性が顔を出す余地はありません(ある意味欠陥なのかもしれませんね・・)。
 ネットの巷では、(結果として不起訴となったが、再審理請求中の)横領と(結果として容疑者として強制逮捕されたが、裁判によって確定したわけではない)窃盗との法律上の比較論議が喧しくなされています。
 横領に関しては、決して捕鯨に反対しているわけではない捕鯨会社の社員が、不正に目をつぶることができず、不利益を承知で日の下にさらけだした内部告発の内容を、筆者は全面的に信じるに値するものであると感じました(詳細はGPのレポート参照)。それに対し、東京地検は「嫌疑不十分」ではなく「嫌疑なし」として不起訴にしました。これは明らかに、事前の照会に対する説明とは食い違う共同船舶側の弁明を鵜呑みにして、詳細な調査をまったく行わなかったということです。市民Webニュースでも指摘されているとおり、担当者はやる気があったにもかかわらず、上からストップの圧力がかかった疑いがきわめて濃いと思われます。
 窃盗については、GPJ側の弁護士や法学者の説明もあるように、法律上の解釈については意見が分かれています。結論については裁判の結果を待つよりありませんが、IWC総会前のタイミングを狙った強制捜査は明らかに不要なものでした。そのうえ、関与していたはずのインターナショナルのスタッフの身柄を英国に要求しないのであれば、逆に日本の警察の卑屈ぶりを世界にさらけ出すことになるでしょう。組織の関与を理由に拘留延長の決定を下したこととも矛盾しています。もっとも、勢いに乗って突っ走れば、事が外交問題にまで発展することは避けられないでしょう。しかし、それは自業自得というものです。
 今回の行動が、GPにとって日本でのイメージダウンにつながったことは否定できません。ただ、"緊急性"に関しては、日本の調査捕鯨の諸々の問題点を、IWC作業部会での議論の俎上に乗せるためにも、サンチアゴ年次会議前のタイミングでぶつけることが非常に重要な意味を帯びていたということを補足しておきたいと思います。

 以上は、当ブログの過去記事で一通り書いてきた内容です。ところで、ネトウヨのオウム・GP同列論の出自がわかりました。なんと、他でもないオウム関連事件でも活躍したあの著名なジャーナリストである江川紹子氏の日記だったのです。
 まずはリンク先の江川氏の雑記帳をご覧いただいたうえで、氏の論法を一つ一つ検証しましょう。

■目的のために手段は…? (6/22,江川紹子ジャーナル)
http://www.egawashoko.com/c006/000264.html

 冒頭から"某カルト教団"を絡めていますが、なんでGPと違って名指しでないのかは不思議なところ。また、チベットの抗議行動(金門橋の建造物侵入)は氏の中では"浄化"されているのだそうです。法律論のうえで、浄化されているかされていないか、江川氏が感覚的に下した判断によって、法的な扱いが異なるべきだといいたいのでしょうか? GPスタッフも支持者も、"浄化"するのもされるのもまっぴらごめんだと思いますがね・・。こんな言葉がポロリと出てくるなんて、どっぷり漬かって取材してるうちに洗脳されたんじゃないかと心配したくもなります。。
 江川氏はこの件について、基本的にマスコミ情報を頼るばかりで、自ら裏をとった形跡がありません。GP側の資料で読んだのは星川局長のブログだけで、肝心のレポートにも目を通していない模様。環境保護を手がけたことが一度もない、この分野にかけては疎いずぶの素人なら、"ネコに小判"で事の重大性がまったく理解できなかったという可能性もありますが・・。調査捕鯨の疑義に関しては、最低でも『世界』3月号の東北大石井准教授の論説くらいは目を通しておくべきでしょうし、本来ならIWCから直接資料を取り寄せてしかるべきです。どうも氏は、影響力の高いプロのジャーナリストとしての自身の発言力について自覚がなさすぎるようです。
 GP側の弁護士の主張は、単に判例に基づく法解釈に関するもので、カルトの"浄化"とはまったく無関係です。この人はほんとに浄化というコトバが大好きなのですね。。

「捜査機関をおだてて利用するつもりが、逆に、捜査機関に踏み込まれる材料を自ら提供していた構図は、ほとんど自作自演の喜劇に近い」(以上引用)
 江川氏は、星川氏がブログ上で紹介した「横領されたと思われる鯨肉がどのように市場へ流れているかを含め、徹底的に問題の全体を洗い出したい」という担当検事のコメントを引いて、上記の結論を下したわけです。担当検事がGPに煽てられて「徹底的に問題の全体を洗い出したい」と述べた、と言っているわけです。ところが、GPがいつ、どうやって検察を煽てたのか、江川氏は一切何の検証もしていません。筆者には、担当事件に関わりなくまっとうな検事が示す姿勢の表明としか受け止められなかったのですが。もし、「徹底的に問題を洗い出す」と担当検事が言っていたにも関わらず、問題の一つも明らかにされずに「嫌疑なし」とされたなら、プロのジャーナリストであれば、その判断の過程で一体何があったのかを疑うのが自然な感覚ではないのでしょうか?

確かに、「問題」は提起された。「議論」もある程度は起きた。けれども、それは「鯨を捕ることはよくないのではないか」という方向での議論ではない。(以上引用)
 江川氏ほど斜め読みの得意な方も珍しいのではないでしょうか? GPはこの件に関して「鯨を捕ることはよくないのではないか」などという議論は一切提起していません。それは、反捕鯨団体ってのは、こういうことを言っている連中だ」という先入観から導き出した、江川氏自身の勝手な思い込みでしかありません。
 GPは間違いなく、日本の現行の調査捕鯨が様々な問題点を抱えていることを浮き彫りにしました。日本で議論が十分に起こったといえませんが、新聞の中には社説や解説の中で、きちんと"両成敗"の主張を展開しているところが出てきていますし、さらに多くの市民がGPの引き出した成果(手法ではなく)を高く評価しています。江川氏は、この第三の議論のついては目に入らないか、意図的に無視しているといわざるをえません。
 最悪なのは最後のセンテンス・・・・。

なぜ鯨はダメで、牛はいいわけ? どうして鯨を殺すのは残酷で、イラクあたりで人間をバンバン殺しているわけ? 鯨は守らなきゃいけないけど、カンガルーを食べてもいいのはなぜ? 
 牛に共食いをさせ(=肉骨粉をエサにまぜ)るような自然の摂理に反する行為を続け、狂牛病まで出ている国の人から、鯨食だけが悪食扱いされるのも、なんだか納得がいかない。飽食の日本はともかく、世界には飢えている人がたくさんいて、この食糧危機の中で、種の保存に影響がない範囲で鯨を海洋資源として活用することが、まっとうに議論されない、というのもおかしな話だ。
(以上引用)

 まさに捕鯨擁護プロパガンダの請売そのもの
 まず事実をいえば、ここに書かれてある主張はすべてGPのものではありません。つまり、GPの横領告発とも逮捕とも何ら関係ないのです。「イラクあたりでバンバン」に至ってはまさに逆です(しかも、どこまでいい加減な書きっぷりでしょう・・これでよくプロを自認できるものです)。イラク戦争でアメリカをバックアップしたのは、他ならぬ捕鯨を推進している日本政府であり、内外で反対運動に参加し、湾岸戦争による多国籍軍の核関連施設破壊、ペルシャ湾の汚染などの問題を告発する詳細なレポートを提出したのは、日本の調査捕鯨にも反対しているGPのほうでした
 一体江川氏は、ジャーナリストとしてこれらの主張を展開している団体なり個人に直接コンタクトし、その主旨を確かめたのでしょうか? それとも、捕鯨協会の雇ったPRコンサルタントがでっち上げたバーチャル反捕鯨団体の存在を真に受けただけなのでしょうか? 筆者も、これほど単純素朴な捕鯨擁護論にお目にかかるのは久方ぶりです。。調査捕鯨の問題点のみならず、捕鯨問題全般について、水産庁・捕鯨業界の宣伝文句を何一つ検証することなく丸呑みにしている辺り、報道に携わる職業人以外の個人ブロガー・・というより、まるで拙ブログにも出没しているネトウヨとまったく同レベルではありませんか。
 ところで、日本は牛を殺していないのですか? 「両方殺さなければ差別になる」というのが、江川氏のいう平等論なのでしょうか? 動物の取扱を人種差別の問題にこじつければどういう凄まじい結論になるか、常識的な論理的思考の持ち主ならわかるはずですが。これまた請売りの食糧危機論を引き合いにしているところから、江川氏が生態学についても社会学についてもまったく無知無理解だということがわかります。一つ付け加えておきますが、日本の食糧廃棄量は年間2千万トン以上、人口当りでは世界最悪です。現在の鯨肉の年間生産量は0.5%にもなりません。しかも、政府業界あげての販促活動にもかかわらず、鯨肉在庫は異常に膨れ上がっていくばかり。
 GPが「自信に満ちた態度に見える」「日本の人々の心情を軽蔑」というのも、江川氏個人の先入観、被害妄想でしかありません。GPのサイトや資料をご覧になった方々は、その腰の低さに驚くことでしょう。取り上げる外部のメディアによって脚色されてしまうことは確かにありますが・・。一つだけ、ネトウヨ捕鯨シンパを勢いづかせているという指摘は、まあ当たっていなくもないかも・・。
 「目的のために手段を選ばず」という記事タイトルを見る限り、江川氏は手段のほうを批判しているかに見受けられますが、中身を読んでいくと、実際にはかなり稚拙な捕鯨擁護論を振りかざして目的そのものを否定しています。問題提起と結論との間で、奇妙な議論のすり替えが起こっているのです。
 まさしく江川氏の持論どおり、「目的は理解できるが手段は選んだほうがいい」とGPを煽ててみせれば、建設的な提言だという評価もあり得たでしょう。しかし、江川氏のこの日記上に書かれているのは、主観に基づくGPの存在否定であり、多少スパイスは効いていても薬になる助言や苦言とはおよそかけ離れています。アドバイスを装って、国・業界・右翼の共感ばかりを気にかけ、自分も多数派の攻撃側に"乗っかる"ことで安心を得ているのではないか──そう思われても仕方がないのではありませんか、江川さん?
 中でも、"お前たちの所為"で「捜査機関が介入するハードルを引き下げた」という江川氏の論理は、明らかにおかしなものです。
 GPが越したハードルが高すぎたから、あなたは文句を言ってるんじゃないの? 引き下げられて困るのは、どの市民団体も使う手を使ってGPが捜査された場合でしょ。だとしたら、GPを叩くのは筋違いというもの。江川氏のリクツは、権力側が狙う萎縮効果をそっくり認めるものに他なりません。「何もするな」「疑問を持つな」「お上に逆らうな」と。「そんなことするから"ああ"なるのだ」と。氏ほどのジャーナリストならとっくにわかっているはずですが。公安関係者はあなたの論評に、「GPをしょっぴいた甲斐があった」と大喜びでしょうね。
 今回の逮捕劇は、14年前にオウムによって引き起こされた松本サリン事件で、被害を受けながら濡れ衣を着せられてしまった河野氏の立場にむしろ近いようにすら、筆者には思えます。日本のジャーナリズムは、十分な検証を行わずに村八分的に"容疑者"をバッシングすることの愚を、もう忘れてしまったのでしょうか? 揃って「右へならえ」してしまったマスコミ(一部そうでないところもあるのは救い)のお粗末ぶりには目を覆いたくなります。これでは、権力を監視する"第4の権力"として市民が頼れる存在には程遠いといわざるを得ません。今回、事件報道の際に不可欠であるはずの"容疑者の動機"の詳細な分析をしたメディアは、残念ながらありませんでした。それこそは調査捕鯨の隠れた暗部に他ならないのですが・・。
 江川氏がどうかは知りませんが、GP側の肩を持って自分のステータスに傷がつくのを、自分まで袋叩きのめ目に遭うのを恐れる風潮も、言論界にはきっとあるでしょう。そんな風評など恐れずに声援を送るヒトも決して少なくはありませんが、失うのが怖いほどのステータスなど持っていない、名もない市民ブロガーのほうがまだ勇気のある方が多そうですね・・。
 筆者自身はもともと江川氏のファンというわけではなかったので、「何じゃこりゃ」と顔をしかめただけでしたが、一応リベラル派のジャーナリストとして氏を評価していた方々の中で、今回の日記を目にして深い幻滅を味わった、失望したという声を多く耳にしたことも付け加えておきましょう。まあ、個人個人で価値観が異なるのは当たり前ですし、共感を覚えた著名人のちょっとしたコメントに裏切られた気持ちになるのは誰しもままあることですが・・。でも、さすがにコレは落差が激しすぎるよねぇ。。。 

■グリーンピース告発レポート・奪われた鯨肉と信頼 
http://greenpeace.or.jp/docs/oceans/wm2008/doss.pdf

■窃盗口実NGOいじめ、警視庁公安部らグリーンピース・ジャパンを強制捜査・捕鯨問題で
http://www.news.janjan.jp/living/0806/0806200117/1.php (リンク切れ)
http://janjan.voicejapan.org/living/0806/0806200117/1.php
■グリーンピース職員の拘留に対する不服申し立てが棄却|カナダde日本語
http://minnie111.blog40.fc2.com/blog-entry-958.html

posted by カメクジラネコ at 01:30| Comment(12) | TrackBack(1) | 社会科学系