2008年06月11日

世界に類を見ない日本発の異常な21世紀型"公害"

■鯨の町住民から水銀40倍 (6/16/'08,AERA)
http://ci.nii.ac.jp/naid/40016065595


 先月紹介した調査捕鯨に関する記事と併せ、必読です。遅きに失した感もありますが、最近になって日本のマスコミもようやく重い腰を上げ始めたようですね。
 詳細は記事に目を通していただきたいと思いますが、わかっていたこととはいえ、事態がここまで進行してしまったことに改めて驚きを覚えます。放置したのは行政なのですが・・。
 調査機関の研究者がズバリ指摘するとおり、大至急全町民の綿密な健康調査を実施すべきです。中には水俣病の汚染地域の住民より毛髪水銀濃度の高い人もおり、既に症状が出ている疑いがある人も複数いるのですから、これ以上見て見ぬふりをすることは許されません。
 これほど危急の事態であるにもかかわらず、太地町はAERAの問合せに対し、町長名を出さず「ノーコメント」と言ってきています。まさか、ニコル氏などが指摘している過去の密漁・規制違反のみならず、人命に関わる重大問題まで「表に出すまい」というのですか!? 本当に、呆れて開いた口が塞がりません……。
 もちろん、責任は許可を出した農林水産大臣(歴代)、捕鯨班始め関わった水産官僚、関わった族議員、和歌山県知事、太地町長、捕鯨業者、全員にあります。厚労省にも。上の方でふんぞり返っている連中は、たぶん全員が早晩「消費をセーブするかどうかは食べる人の勝手で、ワレワレハ関係ナイ」とまたぞろ言い逃れの発言を始めるでしょうが。
 しかし、そうはいっても、危険な鯨肉を食べ続けてきた太地町の人たちには間違いなく自己責任がありました。熊本や新潟の水俣病患者の方々、その他砒素ミルクから中国製冷凍餃子に至る、これまで国内で起こった数々の食品による健康被害に遭われた方々は、自らに何一つ責任のない純粋な被害者でしたが、彼らはそうではありませんでした。NGOなどが積極的に知らせようとしても、彼らは耳を塞ぎ、信じようとはしませんでした。マスコミと行政が代わってその責任を果たすべきだったとはいえ。情報にアクセス"できなかった"、危険性を認識"できなかった"わけではないのです。実際、肝臓と腎臓は「さすがにヤバイ」と判断し、食べずに産業廃棄物として業者に処理させていたのですから。ついでにいえば、これも「余すことなく利用してきた」との謳い文句がウソだという証拠ですね。あまりしつこく言うと、ネット右翼の揚足取りと同レベルになっちゃいますからやめますが・・。
 内外のイルカ問題に携わるNGOなどは、何度も何度も再三にわたって水銀汚染の問題を警告し続けてきました。一方、ネット右翼の人たちの言説を見ると「自分たちがイルカやゴンドウの肉を食べるわけじゃない、調査捕鯨のミンクの肉は大丈夫だ」という論調で、伝統捕鯨のメッカ太地の人たちの健康に対する気遣いはまったく感じられませんね・・。いかにも自分たちの身に危害が及ばなければ、後は知ったこっちゃないというタイプのヒトたちらしい反応といえますが。
 もっとも、筆者も正直、イルカにもニンゲンにも心やさしい市民運動関係者の皆さんと違い、殺してきたヒトたちに対して、イルカやクジラたちに対する以上に同情する気にはなれません。どうしても自業自得だと思えてしまいます「毎日食べてるから元気だ」と繰り返す業者の台詞は、科学的事実を頑なに拒み、迷信にすがりつく古代人、未開人そのものです。「お好きなように」とつい言いたくなってしまいます。しかしながら、太地の人々の自尊心をかくも肥大させ、破滅への道を突き進ませてしまったのは、"捕鯨の聖地"に仕立て彼らをせっせと煽てあげた捕鯨協会と水産庁、文化人やメディア人からなる応援団であり、その意味ではやっぱり彼らは被害者、犠牲者ということになるかもしれません。
 ですから、あえて忠告しましょう。今からでもいいからともかくおやめなさい。ゼロにしなくてもいい。一時的にでもいい。たかがプロパガンダのキャッチコピーのために、自分と他人の命と健康まで犠牲にするバカな真似はおやめなさい。別に本物の伝統文化だと思い込んでいたっていいけど、本物だとしても、人の命に比べれば取るに足らないくだらんものです。家族や周りの人たちのことも含めてお考えなさい。あなたが食べれば、他の人たちも「みんな食べてるから大丈夫だろう」といって心理的ハードルが下がるのですよ。結局のところ、捕鯨産業のためにもなりませんよ。世界からも、日本国内でも"イルカの祟り"だと思われますよ。鯨肉がますます敬遠されて消費量がさらに落ちますよ。非科学的といっても、それが大衆の心理なのですから・・。
 水俣病患者の方々は、公害を垂れ流す非ニンゲン的な企業の行為によって地獄の苦しみを味わいました。肉体的な苦痛だけではありません。自分たちに何ら責任がないにも関わらず、いわれなき差別を受けたのです。あるいは、それは日本社会に独特の風潮、一種のブンカなのかもしれません。健康被害の実態が隠し通せなくなったとき、伝統の担い手として担ぎ上げられてきた太地町は、"奇病の町"として、日本中から手のひらを返したように白い目で見られることになりかねませんよ。それでいいのですか? 水俣と違い、自らそんな愚かな選択をするつもりですか?
 回避することはできます。あなた方の意志次第で。
 一時の痛みさえ乗り越えれば、クジラとの結び付きを失うことなく、歴史は歴史として否定せず、知識と経験とスキルを活かし、クジラと共に生きる新たな道を選ぶことだってできます。和歌山で既にウォッチングが始まっているのですし、知名度も抜群なのですから。それも、あなた方の意志次第です。
 あなた方はとても恵まれているのだから。世界中には、仕事も、権利も、命まで、理不尽に奪われている人が数え切れないほど大勢います。あなた方のように、国から、たくさんの人々から、かくも絶大な声援を浴びることもなく。問題の所在すら知られずに。

 

 今回の件は、社会学的側面のみならず、生物学的な教訓も示しています。
 イルカ・クジラの仲間は生態系の頂点です。その"上"はありません。ここが食物連鎖の階梯の最上階なのです。生態学的に。そして、生化学的に。クロミンククジラのカドミウム濃縮の問題についてはホームページ上で取り上げましたが、生態濃縮の仕組みと生理学的な機構によって定められた臨界なのです。シャチやサメなどの天敵もいますが、彼らはいわゆる"何でも屋"で、メニューのごく一部にすぎません。イルカ、クジラを常食・多食できる動物は存在しないのです。
 草原のサルにすぎなかったニンゲンは、水銀など重金属の排出能力が低く、イルカの肉を食べられるような"身体の造り"にできてはいません。進化の過程で獲得する必要がなかったのですから、そういう適応をしてこなかったのですから、当たり前の話です。バクテリアのように、有機水銀の代謝能力をプラスミドのやりとりで一朝一夕に獲得する真似はできません。この先いくら食べ続けようと。
 不自然なものを食べれば、病気になります。ニンゲンは動物なのですから。

posted by カメクジラネコ at 00:59| Comment(4) | TrackBack(0) | 自然科学系