2018年05月23日

調査捕鯨の根拠は支離滅裂──美味い刺身♀本方針案パブコメに意見を!

 先月4月27日、水産庁が調査捕鯨の基本方針に関するパブコメを募集しました。

■「鯨類科学調査を安定的かつ継続的に実施するための基本的な方針(案)」に関する意見募集(パブリックコメント)について
■鯨類科学調査を安定的かつ継続的に実施するための基本的な方針(案)
 実は別件で少々バタバタしてたのと、筆者の勘違いがもとで、締切ギリギリになるまでチェックできず(--;;
 締切直前になってしまったのですが、本日5月23日に水産庁に意見を送りました。

■美味い刺身♀本方針案パブコメ

 パブコメであんまり長いのも誉められたこっちゃないのですが・・意見の最後で述べたとおり、サークル側の捕鯨協会や海員組合と違い、組織票を動員できるほどの団体は日本国内にはありませんからね、クジラの側には。捕鯨政策は圧倒的多数の国民にとって何の関わりもないことですし、家族の犬猫のためならいざ知らず、遠い遠い南極の海に住む野生動物の話。いくら「別に世界の反対を押し切って南極まで押しかけなくてもいいんじゃないの?」という常識的意見が多数を占めたとしても、忙しい日々で時間と労力を割いてわざわざ意見を官庁に送ってくれるのは、よっぽど奇特な方でしょう。
 そうは言っても、もし送ってくれるという方がいらっしゃったら、ぜひ参考にしていただければ幸いですm(_ _)m もう時間が残されていませんが(汗)

 以下にポイントをまとめておきます。
 パブコメ公募サイトに当の方針案のPDFファイルが張っつけてあるので(上掲リンク)、合わせてお読みください。
 まず、今回のパブコメは、昨年の国会で鯨肉に釣られた族議員たちが強引に押し通してしまった美味い刺身*@のもとで制定されるもの。美味い刺身*@の問題点については、以下でおさらいをば。

■美味い刺身*@は廃止を!(プレゼン資料)
http://www.kkneko.com/sasimi/p01.htm
■ちぐはぐ族議員とグルメ好事家官僚が明かした美味い刺身*@のデタラメ
http://kkneko.sblo.jp/article/180420343.html

 それにしても基本的な方針≠ェここまでデタラメでいいのかと、正直あきれ返ってしまいます。
 まず、「第一 鯨類科学調査の意義に関する事項」として、商業捕鯨モラトリアム導入に至る経緯が概略的に述べられていますが、のっけから間違いだらけ
 2段落目の記述(PDF p2)は、あたかも乱獲が起こったのは二十世紀前半までで、IWCが設立されてからは科学的に管理されて乱獲などなかったかのように書かれています。が、とんでもないデタラメです。
 水産庁すら半世紀以上絶滅危惧種と認めているシロナガスクジラは、1960年代まで未だ捕獲され続けていました(南半球で捕獲禁止になったのが1963/64漁期から、北半球まで含めて全面禁漁となったのは1966年以降)。もちろん、日本の捕鯨会社によっても。
 また、1972年まで捕獲枠はBWU制に基づいていました。例のストックホルム人間環境会議で商業捕鯨モラトリアムが提唱されるまで
 BWUとはBlue Whale Unit、シロナガス換算。どういうものかというと、シロナガスなら1頭で1、ナガスなら2頭で1、イワシクジラなら6頭で1という計算で、しかも、ブッコミでいいよという、メッチャクチャいい加減な代物。非科学的なんてもんじゃありません。このBWU制があったせいで、ナガスクジラを捕りつつ、運よくシロナガスを見つけたらそっちを捕る(大きいし一度ですむのだから、当然そうしますわな)なんて真似が許されたのです。全面禁止後半世紀以上経っても絶滅危惧の状態を脱することが出来ないほどシロナガスを追い詰めたのは、専らこのBWU制の所為といっても過言ではありません。
 また、その後も大手捕鯨会社の人間がバイヤーとして関わっていた悪名高いシエラ号などによる密漁・密輸、非加盟国の沿岸基地を利用する規制の裏を掻く悪質な脱法行為等のため、IWCの規制は有効に機能した試しがありませんでした。近年、米国海洋大気局(NOAA)が発表したとおり、あまりにも悪質な規制違反のおかげで捕鯨統計の数字自体が信用できない始末。最も悪質な二大規制違反大国こそ、旧ソ連と日本でした。

■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史

 なんで担当者の水産官僚は基本をちゃんと勉強しなかったんでしょうね・・
 基本方針案では続いて、モラトリアムについて「科学的根拠に基づくものではない」「科学的根拠が欠けている」(引用)といった表現を用いて一蹴していますが、そもそも科学的根拠がはっきり断定できるくらいなら野生生物の絶滅なんて起きてやしません。「不確実性」を理由にモラトリアムが導入されたのは、今では環境問題の文脈で当たり前となった予防原則に基づくもの。予防原則を認めずに「科学的根拠がない!」と言い張り続けているのは、捕鯨業界にどっぷり依存して乱獲を放置した責任を負おうともしない、脳ミソが1970年前のまま凝り固まった御用学者たちです。
 そして、この基本方針案には実に驚くべき表現が。

このような極端な考え方を広く適用すれば、鯨類以外の多くの海洋生物資源の利用も否定されることに繋がりかねない(引用)

 ことあるごとに原則∞原則≠ニ唱える捕鯨サークルのジゾクテキリヨウ原則論≠ナすが、ここには致命的な誤りがあります。
 米国、オーストラリア等の代表的な反捕鯨国は、いずれも漁業・水産物消費の盛んな漁業先進国であり、持続的漁業において日本より先行しているのですから。

■オーストラリアから学ぶ日本の漁業の将来 (小松正之 上席研究員)|東京財団政策研究所
■成長する米国漁業〜自由競争を諦めたところがスタート地点|勝川俊雄公式サイト

 対する持続的漁業の落第生%本の漁業のお粗末ぶりについては、漁業者・NGO・研究者から何度も発信されているとおりで、今更筆者が取り上げるまでもないこと。
 上掲拙提出意見では、新たにカスミ網、啼き合わせ問題を例にツッコミを入れて見ましたが、一貫性のかけらもない水産庁のジゾクテキリヨウ原理主義≠ノついては、これまでも解説してきたところ。

■持続的利用原理主義すらデタラメだった!

 基本方針案の問題点に戻ると、次に出てくるのはモラトリアム見直し問題(PDF p3)。ここにもすり替えが。
 方針案の文面自体を読めばわかりますが、IWCは10年後に「捕獲枠を設定する」なんて言ってやしません。「捕獲枠の設定を検討する=vです。最後の一語をすっ飛ばすところに、水産庁の悪質さがうかがえます。
 実際には、合意できたのは改訂管理方式(RMP)まで。日本の捕鯨会社が犯したような悪質な規制違反を防止するために不可欠の改訂管理体制(RMS)で合意が成立しない限り、モラトリアム解除という次のステップに進むことなどできやしないのです。
seichika.png
 まただんだん長くなってきちゃったので、以下は箇条書きで。

・「附表10(e)の規定どおりに(調査捕鯨を)実施」「国際法を遵守する」「ICJ判決の趣旨を踏まえる」とあるが、合法だと主張して来たはずのJARPAUが附表10(e)違反に問われたにもかかわらず、なぜ違反したのか、どうすれば違法行為の再発を防止できるのかの説明が何一つない。また、ICJ判決で「調査捕鯨の目的が科学目的かどうかは当該国のみの判断には委ねられない」と指摘されたにもかかわらず、その判決の趣旨を踏まえず、調査捕鯨の目的の合法性の判断を外部に委ねる仕組みが出来ていない。

・基本方針案には、商業捕鯨再開が実現しないのは「政治的対立」が原因であることが明記されている。にもかかわらず、その政治的対立を解消する努力をすることなく、各国が反対する調査捕鯨を独断で強行することによって、商業捕鯨早期再開の道が開けるはずはなく、同方針案の表現は矛盾だらけである。

・致死調査と非致死調査を適切に¢gみ合わせるとあるが、何が適切≠ゥの定義や判断基準が何も記されていない。「法令順守」を掲げるのであれば、動物愛護法第41条に定められた動物の科学利用の際の「代替」「削減」「苦痛の軽減」(いわゆる3R)の検討を明記すべき

・妨害行為への対応は、海上保安庁に無駄な業務を強いる予算の無駄遣いである。南極海から撤退して北半球に限定するだけでも、予算は大幅に削減可能。それよりも、持続的漁業の大きな障害となっている密漁対策に充てるべき。

・広報予算を政府と事業実施主体別々に使うのは税金の無駄遣い。デマの発信に税金が注ぎ込まれるのを防ぐ仕組みもない。

 このように問題だらけの基本方針案ですが、

「伝統食文化というが、相撲の女人禁制と同じ」
「南極海でまでやる必要はない」

 といった短いメッセージで十分です。
 利害関係者ばっかり、食通ばっかり、ネトウヨばっかりで国の方針が決められちゃうのは嫌だな〜と思ってくれた方は、ぜひ一言意見を送ってください!

posted by カメクジラネコ at 16:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年03月07日

デマ屋と化した竜田揚げ映画監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その3

◇デマ屋と化したトンデモ竜田揚げ映画「ビハインド・ザ・コーヴ」八木監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その3

 シリーズ3回目。筆者としてもこんなに引っ張らされるとは思いませんでしたけど。
 検証するのはデイリー新潮オンラインの以下の記事。

■反捕鯨の本拠地で「ビハインド・ザ・コーヴ」が最優秀監督賞をもらったワケ
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/03010700/

 記事の日付は2/27になっていますが、URLを見てもわかるとおり、実際には3/1に掲載されたもの。
 正確に言うと、まったく同じタイトル・内容の記事が2日前の2/27午前中にいったん公開されたのですが、なぜか午後には削除されていたのです。それが以下のURL。リンクを開けば「お探しのページが見つかりません。」との表記。


 ちなみに、ヤフー掲載版は上書きされているものの、ライブドア版はデイリー新潮自身のサイトと同様、削除したページとは別のページを新たにアップ。
 筆者は当初、八木氏のコメントが捕鯨サークル的に見てもあまりにヤバすぎる内容だったため、待ったがかかったのではないかと勘繰りましたが、修正もなく再掲されたところを見ると、どうやらデマを放置する気のようですね・・。
 さっそくツッコミに入りましょう。前回同様、Y:が八木氏本人のコメント引用。

英国といえば、国際捕鯨委員会(IWC)の事務局がある反捕鯨の拠点である。(引用)

 この記事を書いた新潮編集者は救いようのない阿呆ですな。八木氏にインプットされたのであれば、救いようのない阿呆は八木氏本人ですが。
 IWCは国際条約に基づき設立された機関であり、同委員会自体は完全に中立です。議長と副議長は捕鯨賛成・反対両派から交互に選ばれる形。現在の議長は日本の森下丈二氏。必ず与党から議長が選出される日本の国会よりよっぽど公平。
 新潮のアホ表現をユネスコの下部審査機関イコモスに当てはめてみましょうか。ネトウヨ風に。

フランスといえば、従軍慰安婦資料の登録を促したイコモスの事務局がある反日の拠点である。

 阿呆です。
 まあ、捕鯨に反対する多くのNGOがあり、市民の多くも反対しており、そもそも英国政府自身が明確な反捕鯨の立場なのは確かに事実ですが。
 冒頭から要らんこと書いて記事のレベルを思いっきり下げる、これが《新潮クオリティという理解でいいんですかね。
 その他の問題点については、以下のとおり週刊新潮WEB取材班に対して質問状を送りました。

■デイリー新潮掲載記事『反捕鯨の本拠地で「ビハインド・ザ・コーヴ」が最優秀監督賞をもらったワケ』への質問状
http://www.kkneko.com/shincho.htm

 重複になりますが、以下に解説します。

Y:「(ザ・コーヴ上映の)その4年後にはオーストラリアから、日本の調査捕鯨は商業捕鯨の隠れ蓑だとして国際司法裁判所(ICJ)に訴えられて、日本に見直しを求めました(編注:その1年後、ICJが示した調査目的の捕鯨が許される条件を満たしているとして、日本は調査捕鯨を再開)。」(引用)

 間違い。事実を指摘すると、オーストラリアがICJに提訴したのは「4年後」ではなく2010年のことで、同政府は数年かけて法的な検討・準備を重ねており、「ザ・コーヴ」の上映とはまったく無関係です。うろ覚えをしたり顔で吹聴しちゃういつもながらのデマ屋ぶり。事実を確認して編注を加えることをしなかった新潮編集部もメディアとしてお粗末ですが。
 また、八木氏の主語をごまかす曖昧な表現は「オーストラリアが見直しを求めたが、ICJの示した条件は満たしており(違法性がなかったので)再開した」とも受け取られかねないものですが、そのような趣旨であれば、やはりまったく事実に反します。
 ICJは2014年3月の判決の中で、日本の調査捕鯨(JARPAII)が国際捕鯨取締条約第8条に定める合法的な調査捕鯨に該当しないこと、同条約附表第10項(d)(e)及び第7条(b)に違反し国際法を破ったとはっきりと認定しています。また、「発給された捕獲許可が科学研究目的であるかは、当該発給国の認識のみに委ねることはできない」(判決文パラグラフ21)、「サンプル数は調査目的に照らして合理的でなければならない」(同22)とも判示しています。同22は、JARPAIIのサンプル数の鯨種毎の相違を日本側が科学的合理的に説明できず、「美味い刺身の安定供給」(〜本川水産庁長官(当時)の国会答弁)による恣意的な設定だったと認定されたことに基づきます(ICJ判決文パラグラフ211及び197)。
 日本政府はJARPAIIを国際法違反とするICJの判決を受け入れており、1年半後に開始された新南極海調査捕鯨(NEWREP-A)は違法なJARPAIIとは別というのが、あくまで日本政府自身の建前です。もちろん建前だ≠ネんて日本政府自身は言いませんけどね。
 JARPAIIは国際条約上の調査捕鯨ではなかったため、そもそも「再開」ではありません。調査捕鯨に該当しないJARPAII同様の違法捕鯨を「再開」したという批判は厳然として存在しますが。
 編注の部分は当然ながら新潮編集部の文責になりますが、これでは「国際条約違反の捕鯨を再開した」という趣旨にも、「もともと違法でなかった調査捕鯨を再開した」という、ICJ判決を認めない趣旨にも受け取れ、どちらであれきわめて問題の大きな表現です。また、「ICJが示した調査目的の捕鯨が許される条件」とは、具体的に何を指しているのか、ICJが提示した条件の「すべて」なのか、それとも「一部」なのかも読者には判然としません。少なくとも、「すべて」でないのは明白な事実なのですが。
 ICJが示した条件の中には、上掲した判決文パラグラフ21「発給された捕獲許可が科学研究目的であるかは、当該発給国の認識のみに委ねることはできない」も含まれています。新潮編集部の脚注の表現はこの条件をも満たしたと受け取られかねないもので、実に悪辣なミスリード。一部さえ満たせば国際条約違反に該当しないと新潮編集部が考えているのであれば、新潮社も遵法精神の非常に希薄な企業といわざるを得ませんが。

アカデミー賞では受賞には至らなかったが、監督の挑戦は続いた。昨年(17年)8月25日から、映画はNetflixを通じて23カ国語版が海外189カ国に配信されるようになった。日本映画としては非常に珍しいケースだ。配信3日後には、シーシェパードの創立者ポール・ワトソンは、日本の調査捕鯨への攻撃を一時中止すると表明した。さらに太地町へ人員を送ることも難航し中止を表明した。そこに今回は、反捕鯨デモの最大拠点ともいえる英国の映画祭での受賞も加わったのだ。(引用)

 これまたビックリ仰天の記述。まるで、配信からたった3日で同映画のシンパによる抗議活動が全世界で巻き起こり、シーシェパードを追い込んだかのよう。何よりSSCSの連中自身が寝耳に水でしょう。
 SSCS、ワトソン本人の発表にもあるとおり、背景にあるのは日本鯨類研究所との米国での法廷闘争、日本側の妨害対策、昨年日本で施行された法律(に対する誤解)であり、同映画の配信にこじつけるのは牽強付会もいいところです。もし、シーシェパードの活動方針を変更させた主因が同映画にあるという具体的な根拠があるのなら、新潮編集部は具体的に明示するのがスジというもの。配信開始翌日、ヨーロッパのどこそこの都市で云千人が参加する「竜田揚げ万歳デモ」が起こったとか。

Y:「また、一般的に言われていることとは逆に、西洋人も油だけでなく生活用品に鯨の髭を使用していたことを紹介しており共感を呼んでいます」(引用)

 八木監督オリジナルのきわめてユニークなコメント。
 文章そのままに解釈すると、「西洋人も油だけでなく生活用品に鯨のひげを使用していた」ことが、「一般的に言われていること」とは逆≠セという趣旨ですね。
 ということは、「西洋人は油だけ使用していた(生活用品には使用していなかった)」という言説が一般に流布していると八木氏はおっしゃっているわけです。米、英、オーストラリア等の国で。
 いや〜〜、初耳ですねえ。2年前からのめり込んだという八木氏と違い、筆者は長年捕鯨問題に関わってきましたが、それらの国々でそんなビックリ言説が一般的≠セなんて話は一度も耳にしたことがありません。
 まず、それらの国々には太地の町立博物館にも引けを取らない、中世・近代の捕鯨に関する史料を展示した立派なミュージアムがあり、庶民に負の側面を含む正しい西洋捕鯨史を伝えていますし、一般教養をお持ちの方であれば、それらの博物館に行ってなくてもコルセットやピアノの弦等にクジラの鬚が使われていたくらいのことは普通に知っていますよ。
 西洋諸国で生活用品に使われていたことと、日本の現代の調査捕鯨の是非に、一体全体何の関係があるのでしょう?
 はたして、いわゆる鯨体完全利用神話が八木氏の念頭にあり、いつものごとく明後日の方向に話が飛躍してしまったのかどうかは定かではありません。
 しかし、いずれにしても、捕鯨サークル当事者(和歌山県・仁坂知事を含む)がデマを積極的に発信し続けたが故に「(日本人と違って)西洋人は油だけ使用していた」という一般的に言われていること≠ェ日本では£闥してしまっているのは事実です。八木氏の映画は、その日本で一般的になってしまったデマを拡散する役割しか果たしていませんが。

■「油目的で肉を捨てていた西洋と異なり、日本はクジラを余すところなく完全利用してきた」って本当?
https://togetter.com/li/1012491

 「この映画を観て初めて知った! 共感した!」という人は、八木氏の脳内にしかいないか(思いきり勘違いしただけ)、八木氏と同水準の奇特な方が1人、2人いただけに違いないと、筆者は確信します。

Y:「鯨を日本人が食として利用、海外では軍事としての利用など、“残虐性”についても真逆であったこと」(引用)

 ここも注目に値するコメント。
 八木氏は動物福祉における残虐性≠フ新たな定義をデイリー新潮上で提唱しました。

 「食として利用」=残虐でない  「軍事として利用」=残虐

 捕獲方法、保管方法、飼育環境、屠殺方法、致死時間、社会行動学知見や生理学的データ等、今日の動物福祉において熟慮勘案されるべき要素をばっさり切り落とす、恐るべき動物フクシ基準。
 いわゆる先進国のほぼすべて、アジア・南米を含む他の多くの国々においても、もはや動物福祉(アニマルウェルフェア)の概念を抜きに動物の取り扱いを語ることはできません。法規制の中身には国によって細かい差異があるものの、基本概念はグローバルスタンダードとしてすでに確立されています。その特徴は、動物福祉後進国・日本において見られがちな感情的な愛護≠ナはなく、科学的指針に基づくアプローチであることです。ちなみに、学問としての生命倫理・環境倫理の中で議論され、またラディカルなNGOが唱えるアニマルライト(動物の権利)は、動物福祉とは別物。
 対象は実験動物、産業動物(畜産)、愛玩動物、野生動物(狩猟・駆除)、展示動物(動物園・水族館)であり、追い込み猟経由のイルカ調達を禁止したWAZA(世界動物園水族館協会)の倫理規約もこの流れに沿ったもの。ユネスコや国連食糧農業機関(FAO)、世界動物保健機関(IEO)等国際機関にも取り入れられています。
 もちろん、その動物福祉後進国の日本においても、動物愛護関連の法規は先進国(特に英国)のそれをお手本にする形で制定され、他の先進国に近づこうと改良≠重ねている段階。八木氏や新潮編集部に言わせれば改悪≠ノなりそうですが。

■5つの自由を知っていますか?|環境省ツイッター式アカウント
https://twitter.com/kankyo_jpn/status/907893415731273728
■アニマルウェルフェアについて|農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html
■アニマルウェルフェア(動物福祉)―日本の状況 
http://www.hopeforanimals.org/animal-welfare/311/
■小泉進次郎が憂慮した東京五輪のおもてなし
http://toyokeizai.net/articles/-/197890

 従来から環境省所管の「動物の愛護及び管理に関する法律」の下に「産業動物の飼養及び保管に関する基準」という法律より弱く基準の不明瞭な(言い換えれば諸外国より遅れた)ガイドラインはあったのですが、最近になって農水省が「アニマルウエルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」と銘打ったガイドラインを掲示しています。実はこれ、2年後に控えた東京オリンピック前に急慮打ち出されたもの。
 そう、FTA(自由貿易協定)の締結やオリンピックの開催も、動物福祉を避けて通ることはできないのです。何しろ、動物愛護議員連盟の国会議員に日本の畜産業における動物福祉の現状は「中国やフィリピンより劣っている」とまで指摘されるほど。
 動物福祉そのものに無知無頓着な市井の反反捕鯨派の主張とは裏腹に、およそ大抵の生き物の取り扱いにおいて日本は他の先進国の水準に達していないのが実情なのです。巷の反反捕鯨が「じゃあ、こっちはどうなんだ」とギャーギャーうるさい家畜の取り扱いにおいても。
 そして、他の先進国に比べて甘い指針さえ存在しない鯨類は、まさにウシやブタ未満≠フ扱いを受けているのです。日本においては。
 捕鯨に関しては、ノルウェーでは銛を撃たれてから死ぬまでに(致死時間)5時間以上かかったケースが報告されてますし、即死率が半分でしかないことも海外では問題視されています。太地は2008年になってようやく屠殺法にフェロー諸島から脊椎切断法を導入したものの、動物福祉とまったく無関係に残虐性を独自解釈し、「海が真っ赤に染まる(=残虐)ところを見られたくない」という理由で致死時間を引き延ばす形に改変されました。追い込み猟の捕獲方法や水族館の飼育展示への批判も、すべて動物福祉の観点で鯨類の特性を科学的に評価したうえでのこと。
 では、世界に類を見ない八木氏の新定義≠ノ基づき日本の動物福祉政策を抜本的に変更した場合、一体どういうことになるでしょう?

 「軍事利用しないこと。後はすべて却下」

 「5つの自由」「1つの自由」のみに。

 1.軍事利用されない自由

 動物実験の「3R」「1R」に。

 1.軍事利用しないこと(Refusal for Military Use)

 鯨類の扱いに目をつぶれば国内でも国会議員を含めて決して少なくない動物福祉推進派は、みんな目が点になるでしょう。海外旅行客は激減、当て込んでいたレストランは閑古鳥、FTAもオリンピックもご破算に。
 もっとも、八木氏は他の動物の取り扱いは別にどうでもよく、「ともかくクジラだけは私の定義≠採用してくれ!」と言いたいのかもしれませんが。
 クジラだけはサベツしてくれ、と。
 八木氏の「海外では軍事としての利用」とは、主に米ロによる軍用イルカのことを指しているのでしょう。
 確かに、軍事利用は間違いなく、米軍自身が主張するあくまで平和のための掃海目的だとしても、用途云々抜きに動物福祉≠フ観点から問題があり、特に水族館飼育とは並列で議論される余地があります。殺人兵士説はゴシップネタとして無視するとしても。これはまた軍用・警察用に使われるイヌやアシカ等他種の動物とも共通する課題です。
 もっとも、反対運動を続けてきたWDCによれば、米海軍は2012年、掃海用のイルカ訓練プログラムを5年後を目処に終了する予定だと発表したとのこと。


 残念ながら、米海軍のこの約束は守られていません。ハワイ連邦地裁によるソナー使用禁止判決が最高裁で覆った件も、ジュゴンの保全を省みない沖縄の辺野古基地移設にしても、世界中から反対の声があがっても一朝一夕に変わらないのは、ヒトの命を軽んじる組織としての特性故でしょう。日本と海外とを問わず。
 「はたして本当に兵器・基地・軍隊・戦争の犠牲は必要なのか?」という命題は、ヒトの倫理としてもっと真剣に考えられるべきことですが。日本と海外とを問わず。
 ともあれ、八木氏の主張には大きな矛盾が2つあります。
 第一に、日本でも動物の軍事利用は行われています。

■防衛医科大学校は回答なしだが、翌日作成のファイルをこっそりup
http://animals-peace.net/experiments/ndmc-animalresearch.html
■レーザー誘起衝撃波を用いたマウス爆傷モデル
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/kyumei/sonota/pdf/05/007.pdf

 八木氏の主張が「日本だけが動物を食用にし、海外では動物を軍用にしている。だから、日本より海外の方が残虐だ」という趣旨なら、単純に間違い
 「他の動物はどうでもいいが、鯨類を軍事利用することだけは残虐であり、よって日本より海外の方が残虐だ」という趣旨なら、非論理的なクジラ差別主義者兼排外主義者という以外の説明はつきません。
 少なくとも軍用イルカを禁止する法規制は日本にはなく、今のところ実績がないというだけの話ですが。
 もう一つ、もっと重大な致命的矛盾は、太地町の組合自身が鯨類の軍事利用に直接関与しているということです。

■軍事用として注目の太地町イルカ 露、ウクライナ等に輸出(週刊ポスト, '14/9/5)
http://www.news-postseven.com/archives/20140829_272949.html

 1989年とだいぶ遡りますが、太地は米軍向けにもハナゴンドウ2頭を輸出したことがあります。つまり、日本・太地は、敵にも味方にも兵士を売る傭兵国家に相当する位置づけでした。
 少なくとも米国が今後太地から再度イルカを購入する可能性はなさそうです。となると、太地の組合は国家にとって長年仮想敵国とされてきたロシアを相手に商売をする死の商人≠ニいっても過言ではないでしょう。
 もっとも、北方領土をめぐって紛争関係にある敵国といっても、こと捕鯨に関しては日本とロシアは密接に結び付いたお友達の関係。なんといっても、かつては「大洋漁業ロシア事業部」と言われるほどのお得意先。両国とも最後まで母船式商業捕鯨を続け、乱獲と悪質な規制違反の限りを尽くした戦後の二大捕鯨大国なのです。ロシアは今では商業捕鯨から撤退し、チュコト半島での先住民生存捕鯨のみ行っていますが、律儀にも日本の捕鯨を支持し続けてくれてますし、日本側も便宜を図り、オーストラリアが領有権を主張する南極海サンクチュアリを傲然と侵襲しても、日本自身が領有を主張する北方領土周辺では非科学的に調査捕鯨を控えるくらいですから。
 八木氏の動物フクシ新定義≠ヘ以下の形に修正を余儀なくされそうです。

 「動物を軍事利用することを残虐≠ニいう。ただし、捕獲した動物を軍事利用する相手に売るだけなら残虐≠ニはいわない」

 支離滅裂の一語に尽きますね。
 こうした主張は、国内の一握りの狂信的な反反捕鯨シンパにはウケるでしょうが、海外の目にはただ非常識としか映らないでしょう。
 八木氏はどうやら動物福祉に関する議論は入り口に立つことさえ拒絶している印象があります。「動物福祉とは何か」をまず一から学ぶという姿勢がまったく見受けられないのです。

感情的にならずに、客観的な証拠を出せば、納得せざるを得なかったのだ。(引用)

 受賞理由は「ともかく情熱的だったから」だったのでは? 感情的にならずに情熱が伝わるもんなんですかねえ。同じ部門にエントリーされた他のどの作品の監督より八木氏が激情を迸らせていたから、審査員もそれにアテられて賞を獲れたのではないかと筆者には思えるのですが・・
 納得したのは救いようのない阿呆の新潮編集部だけでしょう。
 これまで見てきたとおり、八木氏の主張はおよそ「客観的な証拠」を欠いたものばかりですが、中でも最後のコメントがその最たるもの。

Y:「反捕鯨活動家は、豊富にいる鯨が絶滅種であるように、うまくキャンペーンを繰り広げている。むしろ鯨を過剰に保護しすぎたために、鯨のエサであるオキアミや小魚が減って、生態系が崩れてきています」(引用)

 捕鯨問題ウォッチャーには鯨体完全利用神話と並んで耳タコの都市伝説、それがトンデモクジラ食害論です。
 「豊富にいる鯨が絶滅種であるように」という主張には、野生動物問題全般に対する八木氏の無知が露呈しています。ミナミイワトビペンギンは生息数250万羽、キタオットセイは129万頭、ともにIUCNレッドリストでは3世代減少率に基づき絶滅危惧種(VU:危急種)に指定されています。IUCNでさらに絶滅危惧度の高いEN:絶滅危惧IB類となったニホンウナギは、あえて個体数を算出するなら810万尾。絶滅の恐れがあるかどうかは、個体数の推移や生息環境の悪化等の要因を考慮に入れ、あくまで予防原則に基づき判定されるもので、数のみでは判断できません。
 クロミンククジラはまだ個体数推定の議論に決着がついていない2008年に判定を受けたため、IUCNレッドリスト上ではDD(情報不足)となっていますが、約10年ほどの期間に72万頭から51.5万頭へと激減したことで合意されたため、ガイドラインに従って判定するなら、最も絶滅危惧度の高いCR:絶滅危惧IA類が適用されてもおかしくありません。気候変動の影響を特に受けやすい種であることもWWF等NGOや研究者から指摘されています。
 八木氏はきっと、「豊富にいる各野生生物種が絶滅種であるように、IUCNやWWFはじめ世界中のすべての野生生物保護団体と研究者がうまくキャンペーンを繰り広げている」と言うのでしょう。あるいは、クジラ以外はどうでもいいか。
 「鯨を過剰に保護しすぎた」という主張も真っ赤な嘘。パンダやコアラをはじめ、陸上(淡水域含む)の野生生物種の場合、環境を復元した保護区の設立や増殖事業など、積極的な保護対策を択ることが比較的容易です。しかし、鯨類は増殖・リリースのハードルがきわめて高く(大型種は事実上不可能)、生息環境も汚染や開発の影響を取り除くことが困難です。結局、「保護対象種」「保護区」として名づける以上のことは何もできず、せいぜい獲らない≠フが関の山。保護が求められる他のどの野生生物種と比べても、「過剰に保護されている」どころか「圧倒的に過少な保護しかできていない」のが事実なのです。
 耳タコのトンデモ食害論、「鯨を過剰に保護しすぎた→生態系が崩れた」証明する学術論文は1本も存在しません。サークル自身が掲げる唯一の客観的なショウコ≠ヘただ捕食量をざっくり推定しただけの大隅論文ですが、トータルの摂餌量も単位体重当り摂餌量も鯨類以外の種の方が多いことがわかっています。
 最後の八木氏のコメントで八木氏がぶち上げた食害論等の仮説がトンデモなく間違っていることについては、以下で一次ソースを含め客観的な証拠≠挙げているのでご参照。

■間引き必要説の大ウソ
http://www.kkneko.com/mabiki.htm
■クジラたちを脅かす海の環境破壊
http://www.kkneko.com/osen.htm
■持続的利用原理主義すらデタラメだった!
http://www.kkneko.com/sus.htm
■徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト
http://kkneko.sblo.jp/article/181313159.html
http://www.kkneko.com/kikaku.htm
■びっくり仰天、都合の悪い事実に蓋をする非科学的な水産庁広報資料
http://kkneko.sblo.jp/article/176346053.html
■嘘つきデタラメ捕鯨協会
http://kkneko.sblo.jp/article/103173111.html
■トンデモクジラ食害論を斬る!(リンク集)
http://kkneko.sblo.jp/article/29976279.html

:「今後の目標は、不条理に制限されているIWCやワシントン条約から鯨を外して、自由貿易を可能にすることです」(引用)

 こちらも注目ポイント。「自由貿易」だそうです。
 動物福祉に関しても、野生生物保全に関しても、八木氏は本当に次から次へと物議を醸してくれるものです。国内では避けられがちな捕鯨問題について、両分野にかかわる人々に危機意識を持ってもらうには好都合かもしれませんが・・。
 まず事実を指摘すると、昨年開かれたCITES(ワシントン条約)常設委員会において、日本の調査捕鯨による北西太平洋イワシクジラの海上からの持込問題が議論され、国内メディアでも報じられました。そこで、日本がこれまで多額の水産ODAと引き換えに捕鯨支持を取り付けていたアフリカ諸国も含め、日本が集中的に批判を浴びる形になりました。
 八木氏は「不条理に制限されている」と主張していますが、同問題はそもそも日本政府自身による特殊な留保条件に対し、CITESの正規の規定を他のすべての対象種と同等に適用しただけのことであり、従前から国際法学者によって指摘されながら日本政府の圧力によって先送りされてきたにすぎません。
 CITESにおいて鯨だけが「不条理に制限」されているとの主張は、報道されている事実や背景、条約の趣旨について何一つ知ろうとしない不勉強な人物の妄言にすぎません。「外して自由貿易を」に至っては、「鯨類は野生生物とみなすな」「鯨のみを差別的に扱え」という主張と同義であり、あまりに常軌を逸しています。
 また、IWC(国際捕鯨委員会)から「鯨類を外せ」とは、IWC並びに国際捕鯨取締条約そのものの否定に他ならず、これもナンセンスの一語に尽きます(脱退論であれば以前から存在しますが)。
 こんな暴論を平気で載せてしまっていいのでしょうかね、新潮編集部は? まあ、救いようのない阿呆メディア、煽るだけ煽って購読数を稼げればいい劣悪タブロイド誌らしいといえばらしいのでしょうが。
 こんなネタもありますし。奇しくも同じ映画の話題ながら、「ビハインド・ザ・コーヴ」とは騒ぎ立て方≠ェ対照的。とはいえ、実に新潮らしいですね。

■黒く塗りつぶされた週刊新潮の広告
http://hagex.hatenadiary.jp/entry/2018/03/01/111947

 たとえ売らんかなの新潮がOKだとしても、これは前回で取り上げた「抜け道」と同じく、狂信者の妄言の一言で片付けられる話ではありません。
 なぜといって、外務省は新年度予算でこのガラクタ映画の海外上映に予算を付けてしまったからです
 公的支援をしている人物の口から、政府の公式見解とかけ離れた、日本の信用を一層貶める主張が飛び出すのを放置するのは、外務省として決して許されるべきことではありません。以下は筆者が外務省に送った質問状。

■外務省の来年度の捕鯨関係予算および在英大使館広報、公的支援を受けた広報映画の監督による発言と日本政府の外交方針の整合性について
http://www.kkneko.com/mofa.htm

 DVDがアマゾンで売れていると当人も新潮編集部も強調していますが、そのアマゾンにはこんな感想も寄せられています。クオリティの低さには当初から捕鯨賛成派の間でさえ懸念の声がありましたが。
 
https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/RKRW6MCEBCFYR/ref=cm_cr_dp_d_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=B072QDGTF2
確かに意義ある作品ではあるが、画質、音声、共にランクダウンしたくなるレベルだった。ブツ切りの映像が入れ替わり立ち替わり流され途中で眠くなってしまった。製作者の労苦を考えると残念でならない。ちなみに私は、音声がキンキンして嫌だったのでTVのTREBLEを下げて視聴しました。製作者のサポートができる技術者が出てくることに期待したい。(引用)

 映画制作に携わるクリエーターの方たちをリスペクトする者としては、こんなお粗末な代物を映画と呼ぶこと自体に抵抗を感じてしまうのですけどね。ましてや、スクリーンにかけたり、賞を与えるなど、映画界の名折れではないかと思えてしまうのですが。
 それにしても、これでアカデミー賞を本気で受賞できる気でいたのだからあきれてしまいます。「ハーブ&ドロシー」で多数の映画賞を受賞した実績のある佐々木氏ならいざ知らず。その彼女の方は「アカデミー賞狙う」なんて欲の皮の突っ張った発言はなかったはず。身の程を弁える奥ゆかしさこそ日本人の美徳≠セと思うのですがね・・
 実は、英国のほんの一握りの人たちには好評価を得たらしい「ビハインド・ザ・コーヴ」、日本のある町ではすこぶる評判が悪いとのこと。

https://twitter.com/kumatarouguma/status/897180834116927489
COVEについて面白いのは、以前太地町役場にはなしをききにいったとき(私は移動手段の関係でその場にいなかったのだけど)反捕鯨のCOVEはすごく綺麗に自分たちの伝統をとれていて、それに対しアンチCOVEの方が太地町擁護なのに画像があまりよくない、おすすめできないといわれたはなし(引用)
https://twitter.com/taijinankimeioh/status/965807165226102784
この映画、ただ日本人が鯨の竜田揚げを食べられなくなるという映画だと聞いてますが違うんですか。(引用)

 そう・・肝腎要の太地町。上掲のとおり、役場で「おすすめできない」と言われるほど。筆者は複数筋から同様の話を耳にしています。道の駅等でももう一つの映画「おクジラさま」の方は積極的にPRしているのに対し、「ビハインド・ザ・コーヴ」のパンフ等は置いていないとのこと。
 関係者が撮影までは応じているのですから、筆者が推測するに、その後何か≠ったんでしょうけどね。「『ザ・コーヴ』よりよくない」という映画の品質もさることながら、感情的、情熱的に何か不興を買うようなことをやらかしたのではないかと。
 「表コーヴ」の方は日本発の2本の映画(3本目のフィクションも制作中とのことですが)に触発され、続編が企画されているとのこと。

■反捕鯨映画、続編を計画 「ザ・コーヴ」太地町のイルカ漁批判
http://www.sankei.com/west/news/180204/wst1802040010-n1.html
 続編は、現地で活動家らが撮影した映像が用いられる可能性がある。(引用)

 この分だと、プロレスの舞台は南極海から銀幕に移行しそうですね。ただ、たとえ「ザ・コーヴ2」に太地町の映像が使われることがあっても、上掲の有様では「ビハインド・ザ・コーヴ2」は太地の関係者の協力を得ることは難しいのではないでしょうか。少なくとも、映像はブツ切り、音質はキンキンの素人レベルのものしか作れない御仁ではなく、感情を爆発させもせず、映画のクオリティ面でも申し分なく信頼できる佐々木監督のほうにお願いしたいと思っているのでは。
 竜田揚げ監督には、竜田揚げ以外の映画は作れないとも思いますけど。人種差別撤廃提案ネタとか、「ビハインド・ザ・ヤスクニ」とかなら市場も見込めると考えるかしら?
 筆者としては、沖縄や広島、福島、諫早を舞台にした映画を、むしろ佐々木監督にこそ作ってほしいところ。
 もうこれ以上デマ映画合戦を繰り返すのはやめて、客観的な証拠のみに基づき国際法できっちり蹴りをつけるのが、誰にとっても最善の道だと筆者は考えます。

   ◇   ◇   ◇

 ただ今客観的な評価に資する「徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト」レポート前半総論部分の英訳を進めています。日本語版(リンク上掲)の拡散もよろしくm(_ _)m
posted by カメクジラネコ at 00:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年03月04日

デマ屋と化した竜田揚げ映画監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その2/真に中立な意見とは・その2


◇デマ屋と化したトンデモ竜田揚げ映画「ビハインド・ザ・コーヴ」八木監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その2

前回の続き。
 映画「ビハインド・ザ・コーヴ」監督の八木景子氏は、これまでもかなりぶっ飛んだデマを映画のプロモーション・メディアインタビューを通じて拡散してきました。主なものは前回の記事末のリンクまとめ・拙過去記事で取り上げています。
 八木氏の発信するデマは大きく3つに大別されます。ひとつが、「ベトナム戦争陰謀論」をはじめとする、捕鯨サークル当事者から仕入れた情報を単に垂れ流しているだけのもの。ただし、別に何人も間に挟んだ伝言ゲームというわけでもないのに、エントロピーが急速に増大して一次情報からだいぶ離れてしまうのが氏の発信の特徴。ベトナム戦争陰謀論に関しては、米公文書館まで出向き、独自に情報を入手して手柄を立てようとは思ったんでしょうが、結局絵≠撮っただけで手ぶらで帰ってきておしまい。
 次に、外野の反反捕鯨ネトウヨから吹き込まれたと見られるもの。京大シンポジウムでの「韓国の方が日本よりクジラを殺している」といった嫌韓右翼へのアピールを狙った発言や、人種差別撤廃提案ネタなど。
 最後に、八木氏のオリジナル。同じ京大シンポジウムでよりによって韓国の方に対して偉そうに言っちゃった「韓国はIWC不参加」発言(純度100%のデマ)や、映画上映時のトークイベントでの動物福祉全般に関するかなーりぶっ飛んだ見識など。
 これまでの諸々の発言については、前回の記事末にまとめたリンクをご参照。
 上記のポイントを押えつつ、今回と次回の2回に分け、2本のメディア上の八木氏の発言を取り上げることにしましょう。

 まず、2月26日月曜にOAされたアベマプライムの特集から。
 要約テキスト版は下掲リンク。それにしても拡散しましたね・・


 アベマTVはいわゆるインターネット専門TV局で、免許を持った放送事業者ではありません。アベマプライムは同局の報道番組の位置づけで、以前漁業問題がテーマになったときに、情報を市民に向けてこまめに発信してくれる水産学者の東京海洋大学准教授・勝川俊雄氏や築地仲卸でシースマート代表理事を務める生田與克氏も出演されています。昨年7月放送時は以下の水産庁のヤラセ問題がネタに。解説はこちらもお馴染みの国際政治学者、早大客員準教授・真田康弘氏。

■激震!やらせ発言≠ェ発覚、国際会議を操作する水産庁のモラル|Wedge
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10164

 硬派なニュース番組の路線を貫いていればまあよかったんでしょうが・・担当者の力量差によってムラが激しいのか(それを言ったら正規の放送局も同じですけど)、一言で言えば今回のはお下劣バラエティ
 あるいは、報道で比較するなら、露骨な沖縄ヘイトデマを流したことが問題視され、今月にTOKYO MXでの打ち切りが決定された「ニュース女子」のレベル。
 番組前半がイバンカネタでクジラは後半の1時間でしたが、ゲストの月亭八光氏に鯨肉を無理やり食わせようとする茶番でまあ引っ張るわ引っ張るわ。
 さらに某鯨料理屋の宣伝と映画のシーンがバシバシ入り、ディベートの部分は正味10分もあったかどうか。といってもほぼ一問一答で、八木氏のデタラメコメントで締めてどんどん流す進行だったため、ある意味トンデモ映画そのものの構成に近かったといえます。
 出演者のうち、元読売のジャーナリスト・ジェイク・エーデルスタイン氏のみが反捕鯨の立場で出演。後の4人はゴチゴチの反反捕鯨。外国人訛りのエーデルスタイン氏に対する進行側の配慮がなかったことも手伝い、袋叩きの様相を帯びる有様。ずいぶん昔にやはりTVの討論番組でデーブ・スペクター氏が同様に多勢に無勢の扱いを受けていましたが。
 報道番組・討論番組といっても台本が用意されているのが常ですが、この台本を書いた奴は相当にゲスいですな。
 その点、JAZA/WAZA除名問題を取り上げたテレビ愛知の激論!コロシアムは、用意された資料映像とテロップに一定の先入観・偏見が見られたものの、出演者の構成や進行の点で公平性への配慮もあり、まだマシだったといえます。

■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
https://togetter.com/li/834969

 先に、リンク記事中の内容とは前後しますが、八木氏以外のゲストの方へのツッコミから。

 マグロ漁師の経験もあるリディラバ代表の安部敏樹も「日本の文化は、油、骨、皮までちゃんと使って、しっかりサスティナブルに消費していこうという考え方。クジラの頭数が増えてきたのであれば、商業捕鯨にして良いはず。"それなら捕っていいよね"と国際社会に言ってもらえるまで、水産庁も含め日本はしっかりコミュニケーションしなきゃいけない」と指摘する。(引用)

 おそらく、ウォッチャーの皆さんは「ああ、こいつもか・・」とため息をつかれたことでしょう。
まず、「日本の文化=サスティナブルに消費」という、捕鯨であれ漁業であれ、史実に反する俗説を真に受けている時点でアウト。しかも非論理的で雑な主張。カタカナでかっこつけて「サスティナブル」とか言っても、「消費」にかかってる時点で水産資源管理の根本について何も理解できていない証拠。東大出が泣きますね。
 鯨体完全利用神話については以下をご参照。

■「油目的で肉を捨てていた西洋と異なり、日本はクジラを余すところなく完全利用してきた」って本当?
https://togetter.com/li/1012491

 番組では「元マグロ漁師」の肩書きがしきりに強調され、他所にはプロフィールで「マグロを素手で取る」なんて特技が紹介されてたのですが・・安部氏は30の若さで今は社会企業家。遠洋マグロで一攫千金、陸に上がってさっさと転身というサクセスストーリーが目に浮かびます。であれば、日本の水産業の非持続性と悲惨な現状についてまったく無理解なのも頷けます。
 アベマTVにはぜひ次は「マグロ」をテーマに、今回と同じ4:1のタッグマッチ討論の企画を組んで欲しいもの。他の出演者は勝川氏、生田氏、真田氏、環境ジャーナリストの第一人者である共同通信記者・井田徹治氏で。でもって、安部氏に素朴な持論をぶってボッコボコにのされていただきたいもの。

 もう1人のゲスト、経済評論家の上念司氏は、記事中にはありませんが、反対運動・NGO批判の流れで、ユニセフの子供利用SSCSのクジラと対比させる印象深い発言をしていました。ユニセフ(国連児童基金)が子供の人権を守ることにリソースを集中するのは当たり前すぎる話ですが、同団体に対するデマ由来のいくつかの批判と比べても、上念氏やネトウヨたちの「ユニセフが子供を利用して金集めをしている」との主張は斜め上を走っています。よっぽど日本を国際社会で孤立させたいのでしょうか? まあ、上念氏がソッチ方面の人なのはツイートだけでもよーくわかりますが。

■日本ユニセフ協会に対する不当な批判に対して応えてみる
http://blogos.com/article/173694/

 社会的立場が圧倒的に弱い児童の権利は手厚く優遇されて当然と筆者は思いますが、よもや伊武雅刀の「子供達を責めないで」を地で行く連中がいるとは、想像だにしなかったことです。女性専用車両の一件にしろ、先住民生存捕鯨に対する日本政府のいちゃもんにしろ、社会的弱者に対するやっかみは、むしろ深刻な日本社会の病理と捉えるべきでしょう。
 一応補足しておくと、欧米発の市民運動の胡散臭さ≠強調するのは、モラトリアム当時からの反反捕鯨の常套手段で、これも出所をたどれば梅崎氏に行き着くのですが(拙記事に何度となく登場する反反捕鯨広報コンサルタント・梅崎義人氏については前回記事等をご参照)。私が常々疑問に思うのは、梅崎氏は日本捕鯨協会から一体いくらのコンサルタント料を受け取ったのかということなんですけどね。某御用学者と養鰻業界じゃないけれど、捕鯨業界から感謝の印にでっかいクジラ御殿を提供してもらっていても不思議はない気がします。
 胡散臭い組織≠ェどーーしても気になるという方には、怪しさ全開の巨大組織・日本青年会議所(JC)の工作活動に目を凝らし、ぜひ資金の流れをたどるなり何なりしていただきたいもの。

■ネット工作がバレた途端に垢消し逃亡、日本青年会議所(JC)謹製の憲法改正マスコット「宇予くん」の発言をお楽しみ下さい
http://buzzap.jp/news/20180227-jaycee-net-kaiken-uyokun/

 続いて、アベマタイムズの担当者による文と八木氏のコメントの問題箇所をひとつずつチェックしていきましょう。行頭Yを付けたのが八木氏本人のコメント。強調は筆者。それ以外も内容は大体八木氏の情報提供に基づいているのでしょうが。

(「ザ・コーヴ」受賞後)日本の捕鯨やイルカ漁に対する国際世論の厳しい見方が広がり(引用)

 日本の捕鯨やイルカ漁に対する厳しい国際世論は、たかが1本の映画の影響で一朝一夕に出来上がったものではありません。商業捕鯨モラトリアムの発効も、WAZAの追い込み猟由来のイルカ調達禁止規定も、厳しい国際世論が背景にあってのことですが、まさかシホヨス氏がタイムマシンに乗ってそれらの時代の関係者に映画を観せたとでもいうのでしょうか? バカも休み休み言え、です。
 前世紀に野生生物保全を求める運動が市民権を得て国際政治に影響を及ぼしていく過程で、商業捕鯨によるクジラの乱獲が遡上に上るのは当然の成り行きでした。詳細は拙HPの解説をご参照。

■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史 (4)モラトリアム発効と「国際ピーアール」の陰謀
http://www.kkneko.com/aa4.htm

 そんな中、今回『ビハインド・ザ・コーヴ』を評価したのは、反捕鯨国であるイギリスだった(引用)

 いやはや、盛りましたねえ。イギリスが評価したとは。今年のIWC総会では同政府が捕鯨支持に転向、捕鯨ニッポンとしちゃ万々歳じゃないですか。
 んなわけないでしょ(--;;
 前回で詳しく解説していますが、筆者が向こうに問い合わせたところ、ロンドン国際映画製作者祭はまだ日の浅いマイナーな映画祭で、英国内でも認知度が低いとのこと。会場はクラウンプラザホテルロンドンドックランズというホテル。平日15日の午後、ホテルの一室で行われた1回の上映を観た客は、せいぜい多くて2、30人じゃないですか。八木氏本人なら、実際に映画を観た観客の数字を言えるはずですが。
 しかも、TBSや東京新聞の報道のとおり、「『ザ・コーヴ』と同じプロパガンダだ」との観客の反応もあったわけです。日本国内でさえ、原爆の描写をはじめとする一連の演出に嫌悪感を感じたり、首を傾げた観客が少なくないのですから、大半の観客の反応が好意的だったとは到底考えにくいことです。
 すなわち、人口約6,600万の英国で同映画を評価したのは、同映画祭の審査員を含むせいぜい2桁、ほんの一握りの人たちでしかなかったのが事実のはずです。同映画を酷評する捕鯨推進国・日本人の数の方が多いのは間違いありますまい。アベマTVの担当者の口を借りれば、「『ビハインド・ザ・コーヴ』をボロクソにこき下ろしたのは、捕鯨国である日本だった」と言えちゃいますね。

日本の古式捕鯨発祥の地として知られ(引用)

 間違い。筆者は何度も口を酸っぱくして指摘しているのですが、ちっとも直りませんね。マスコミもですが。
 組織的な形態のいわゆる古式捕鯨が始まった発祥地は、太地ではなく尾州(現在の愛知県知多半島南部)。太地は尾州から技術が持ち込まれた後、網取式の手法を初めて編み出されたというのが有力な仮説。初期の突取式から網取式への転換が図られたのも、乱獲によって初期の対象種が激減したために他なりません。その後、太地で開発された効率的な捕獲法は土佐や九州北部等各地に瞬く間に拡散、乱獲に拍車をかける事態となりました。発祥地の尾州や、やはり伝播先の三崎などでは乱獲が祟って捕鯨自体が自滅しています。
 古式捕鯨史と太地が果たした役割については、下掲の拙記事と二次リンクを参照。

■哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html

1982年以降、大型の鯨を対象とする「商業捕鯨」が全面禁止となり(引用)

 間違い。1982年はIWC年次会議で商業捕鯨モラトリアムの決議が採択された年。実際の発効は1985年です。

町民からも「(中略)」「(中略)」と話す。(引用)

 ・・・。なんでしょうね、このグダグダな日本語は(--;; この記事を書いたWEB担当者は小学校に入り直して国語を一から勉強し直しなさい。上司なり別の担当者に記事チェックさせる作業もしていないのですね、アベマTVは。個人の日記ブログ・ツイートなら多少の粗は許されるでしょうが、これでメディアを名乗っていいんですか? 放送事業者じゃないけれど。
 これも「評価したのは英国」と同じ。太地町にだって無関心な住民もいれば、捕鯨・イルカ猟ないし三軒町長のワンマン行政を快く思っていない人だって当然いるのです。

■和歌山県太地町民の本音。
http://animalliberation.blog.fc2.com/blog-entry-122.html
■「太地町とフェロー諸島のクラクスビークの姉妹都市提携に異議」の記事
https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=1821814097875296&id=100001401694621
https://twitter.com/ishii_atsushi/status/921234334912192512
太地町の「正義」を描いているつもりかもしれませんが、イルカ漁に関わっていない太地町民たちはほとんどでてきません。ドキュメンタリー映画なので、そういう人たちが本当にイルカ漁を支持しているのか、支持しているのであればなぜなのか、を明らかにしてほしかったです。(引用)
(なお、上掲のツイートは別の映画「おクジラさま」に対する意見ですが、偏向の程度は「ビハインド・ザ・コーヴ」の方が数段上)

水産庁によると、イルカとは体長4メートル以下の鯨を指し、基本的には同種の生物だ。(引用)

 ・・・。このWEB担当者は国語だけでなく理科のリテラシーも小学校中学年以下ですな。いや、小学校中学年でも、理科好きの子は上の文のどこがとんでもなくおかしいかすぐわかるでしょう。小学校入り直してきなさい。まあ、質問を受けた水産庁の担当者もさすがに苦笑いするしかないでしょうね。八木氏に理解できるかどうかは心もとないけど。。
 一応正解を述べておくと、「(広義の)クジラは同じ分類群(下目)に属する種の総称で、イルカはそのうちおおよそ体長4メートル以下の種を指す。(狭義のクジラとして、イルカを除くクジラ下目の種を指す場合もある)」です。

捕鯨には、一般に食用肉に加工するなどを目的とする「商業捕鯨」、生活に必要な捕鯨としてIWC(国際捕鯨委員会)に捕獲枠を認められている「先住民生存捕鯨」などがある。(引用)

 まずは単純な間違いの指摘から。「商業捕鯨」の定義は完全な間違い。文を構成する「一般に」「食用」「肉に」「加工」のすべてが間違い。読んで字のごとく商業目的で行われる捕鯨のこと。部位がどこか、用途が食用かなど無関係。母船式捕鯨の場合は加工処理の工程の一部を担いますが、捕鯨の定義は加工ではありません。
 IWCによって定義されている「先住民生存捕鯨」は「生活に必要な捕鯨」ではありません。先住民の先住権への配慮から特別に認められた枠です。先住権を持つ先住民の伝統的なコミュニティの維持に不可欠な要素と認められることが重要です。その背景には、先住民に対する搾取と抑圧の歴史に対する反省があります。そして、先住民を迫害したのは西洋人ばかりではありません。私たち倭人もです。
 太地より圧倒的に長い歴史と持続性を備えていたのがアイヌの捕鯨。しかし、彼らは江戸時代から松前藩に不公正な搾取を受けたうえに、明治政府には強制的に捕鯨を禁止され、捕鯨に依存していた伝統的なコミュニティを破壊されました。それさえなければ、日本で先住民アイヌの伝統文化がきちんと尊重されてさえいれば、国際社会からも二つ返事で先住民捕鯨として認められていたはずなのに。
 のみならず、水産庁と組織を代表するIWCコミッショナー森下丈二氏らは、先住民の権利に対する認識の欠如を臆面もなく露呈してきました。実際のところ、先住民の権利擁護の取り組みにおいては、捕鯨への賛否を問わず先進国の中で日本ほど遅れている国はありません。詳細は以下のリンクをご参照。

■「原住民生存捕鯨」に関する日本政府の考え方について|GPJ
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/archives/ocean/blog/30448/
■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

Y:「国際会議で"いじめ"に遭ってしまっていて」(引用)

 おやおや、まるで国連での北朝鮮代表のようなことをおっしゃる。
 しかし、北朝鮮が国連安保理でいじめ≠ノ遭うのも、日本がICJ、IWC、CITES、各地域漁業機関の会合でいじめ≠ノ遭うのも、仕方がないことです。
 国際秩序を保つために不可欠なルールを破るのが悪いのです。
 もっとも、いじめの程度でいえば、経済制裁によって国民の窮乏・餓死に至っている前者の方が、いじめで言うなら自殺につながりかねないはるかに苛烈なレベルですし、NPT(核不拡散条約)が自衛のための核保有の権利を核大国のみに認めてそれ以外の国との間に線を引く明々白々な不平等条約であるのは否定の余地がありません。
 それに比べれば、後者はそもそも公海・南極海における高度回遊性野生動物という世界共有の財産の管理の話であり、自国の主張が通らないからといって「いじめだ!」と叫ぶのはとんだお門違いというものです。
 日本が国家間の平等を最優先の大義とする国であるならば、核兵器削減・廃絶の枠組としてNPTではなく核兵器禁止条約を推し、米国にも北朝鮮にも批准を促すべきなのです。ところが、実際に日本政府がやったことといえば、差別を容認するばかりか核大国に思いっきりおもねって、国内の被爆者と核廃絶を求める世界中の市民から深い失望を買う始末。
 八木氏は核の脅威と無縁な平和な国で、核について何も知らずに育った人間なわけではありません。何しろ、唯一の被爆国(核実験の被害者は世界中にいますが)日本の国民なのです。そればかりではありません。八木氏は自作の映画の中で広島の原爆投下のシーンをわざわざはめ込んでいるのです。筆者は核兵器禁止の取り組みに対する日本政府の後ろ向きな姿勢を八木氏が批判したのをまったく聞いたことがないのですが。
 結局のところ、八木氏の主張は「国際会議でのいじめ≠根絶しよう」ではなく、ただひたすら「私は南極産竜田揚げが食べたい!」だけなのです。そのためには原爆の悲劇すら利用できてしまう、実に驚くべき人物なのです。

■Ultra double standard of Japan's diplomacy: 100% opposite in nuclear ban and "Favorite sashimi"
http://www.kkneko.com/english/nuclearban.htm
■広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/179410385.html

Y:「日本の政治家はイエスかノーかハッキリ言えない理不尽な状況」(引用)

 これもまったく事実に反します。日本の政治家はモラトリアム当時から、一貫して、捕鯨推進の立場を明確にしてきました。特に自民党は捕鯨業界と密接に癒着した数十人の族議員連盟を抱え、調査を騙る脱法商業捕鯨を継続させ、多額の税金投入を決定してきたのです。永田町の議員の過半数が態度を明確にできない状態だったら、美味い刺身*@が共謀罪国会の最中に超特急で成立するはずがありません。族議員の何人かはこれまでIWC年次会議にも出席したり、あるいは発展途上国に出向いて援助と引き換えにIWC加盟と日本の捕鯨支持を取り付けるなど、率先して働いてきました。まあ、国際会議には業界の連中も同行してるんだから、現地で「自分はイエスかノーかはっきり言えません」なんて口にしたら、それこそ怒られちゃいますわな。2014年の国際司法裁判所(ICJ)による調査違法判決直後には、二階俊博議員(現党幹事長)をはじめとする族議員が鯨肉カレーを頬張りながら気勢を上げたことが、海外メディアでも報じられています。
 八木氏の理不尽な発言は、もはや無知・無理解というレベルではありません。捕鯨支持の内野も外野もみな知っていることについて、まるで正反対の主張を唱えているのですから。
 ただ、このぶっ飛び発言は、捕鯨サークル(鯨研・共同船舶・水産庁)だったら絶対認められない、八木氏オリジナルの持論あってのものかもしれません。

日本が行なっている「調査捕鯨」は 、頭数、年齢分布、食性などの調査が建前だ。(引用)
:「仕方なく抜け道として調査捕鯨を行っている」(引用)

 さあ、ここはきわめて重要なポイントです。
 まず担当者の間違い、調査捕鯨の説明の補足から。生息数の調査は、日本周辺の小型鯨類も含め、目視で行われます。調査「捕鯨」は必要なし。食性の調査は、調査捕鯨による胃内容物調査ではごく限定された断片的情報しか得られず、他の野生動物で普及している非致死的な代替手法の方が優れています。サンプルの年齢組成情報の収集は、日本が掲げる調査捕鯨の正当性の根拠の中で議論の余地がある唯一のものですが、現行の管理方式において不可欠≠ネものではありません。管理方式を改良・補完する手法はいくらでも考えられる中、特定のパラメータの経年変化を特定の精度で求めることだけが解だとする水産庁・御用鯨類学者の主張は、事実に反しています。ひとつ言えることは、年齢組成の変化を調べることを主目的とする経年大量致死調査事業が行われているのは、あらゆる大型野生動物の中で日本の調査捕鯨の対象種となっているクジラのみです(漁業の場合は漁業が主≠ナ漁獲物のデータが資源管理に役立てられる)。まさにサベツそのもの。
 で、問題のキーワード、「建前」「抜け道」
 これは日本の国際法違反を公然と認める発言です。
 記事中の担当者による「調査捕鯨」の説明は、少なくとも国際捕鯨取締条約(ICRW)第8条に基づく「合法的な£イ査捕鯨」の定義ではない、ということです。もちろん、「建前≠ナいいよ」なんて条文には一言も書いてやしません。
 アベマTVの担当者は、わざわざ聞くまでもないイルカとクジラの違いについて水産庁に問い合わせておきながら、肝腎の調査捕鯨の説明については何も尋ねなかったわけです。水産庁なら「あれは建前≠ナすか? 抜け道≠ナすか?」と問われたら、断固として否定するはずですから。本当に間抜けな担当者ですね。。
 では、当事者の捕鯨サークル・日本政府の見解とは相容れない八木氏オリジナルの持論とは何でしょうか?
 八木氏の一連の発言が示唆するのは、「私が決めた正義>>法」という非常識極まりない個人的信念。
 「商業捕鯨は再開しても全然おかしくない」(引用〜Y)んだ、悪いのは国際条約の方なんだ。だから、商業捕鯨はやっていいんだ、と。それがいつのまにか、調査捕鯨なんて建前の看板を下ろして今から堂々と商業捕鯨を名乗ればいいではないか、にまで昇段してしまったのではないでしょうか。もう既成事実なのだから、条約の方を捻じ曲げて、モラトリアム条項を破棄しろと。つまり、八木氏のいう「イエスかノーかはっきりしない」とは、「ノー(商業捕鯨ではなく調査捕鯨だという建前)」ではなく「イエス(これは商業捕鯨だぞ。正義は国際法ではなく我々にある!)」とストレートに叫んでほしいという、氏の願望の現われのように見受けられるのです。国会議員試写会などでさんざんちやほやされたものだから、政治家も官僚も同調してくれると本気で信じていそうですが。
 平然と「抜け道」発言をしてしまう辺り、八木氏は遵法精神の非常に希薄な人物に見えてしまいます。いやはや、シーシェパードも真っ青。
 というより、「ワトソンだって犯罪者なのに逮捕されないじゃないか!」「シホヨスだって立入禁止の場所に入ったじゃないか!」という憤怒が、八木氏をしてここまでの狂気に駆り立てたのでしょうけど。
 違法なことをされたんだから、こっちだって国際条約の抜け道を探るぐらい当然のことじゃないか──と。
 「映画には映画を」「嘲笑には嘲笑を」「サベツにはサベツを」「嘘には嘘を」「違法行為には違法行為を」「原爆投下には南極海捕鯨を」──。
 「目には目を」「やられたらやり返せ」
 不満の捌け口を求めるネトウヨたちの賛同が集まるワケです。
 このうち、「サベツにはサベツを」という八木氏の狂信は、次に取り上げるデイリー新潮記事の末尾のコメントの中に明瞭に示されています。次回で解説しますが。
 さて、日本政府は中国・ロシア・韓国との領土紛争を念頭に、国際法を遵守する姿勢を国際社会に対して前面に打ち出しています。政府関係者が堂々と「国際法は破っていいんだ!」なんて口が裂けても言えるはずがありません。鯨研と共同船舶はただの事業者として粛々と畏まるのみ。
 もっとも、日本捕鯨協会は、過激で支離滅裂な主張を振りまく竜田揚げジャンヌダルクを広告塔として精一杯利用しようと考えているかもしれませんが。そう、まさにデマ屋として価値のある存在だと。
 確かに、日本の調査捕鯨はICJ判決後に始まった南北の新調査捕鯨NEWREP-A/NPも、国際司法の場で審判を受ければ違法と判定されるのは議論を待たないでしょう。イワシクジラ持込のCITES違反も然り。
 そうはいっても、日本政府の公式の立場はあくまで合法=B調査捕鯨そのものから国連管轄権受諾宣言の書き換えまで、あの手この手を駆使しながらも、ギリギリのところで国際司法上の手続を踏まえる(ふりをする)ところまでは譲らなかったわけです。一線を越えたことを認めたうえで「建前で何が悪い」とふんぞり返る真似まではしませんでした。今までのところは。
 官僚の中で唯一うっかりポロッと本音を漏らしてしまったのが、本川一善元農水事務次官(国会発言当時は水産庁長官)でした。彼のポカのおかげで日本のICJ敗訴が決定付けられたわけですが。霞ヶ関のエリートに二の轍を踏みたがる者がいるとは考えにくいことです。
 しかし・・一方で、「ビハインド・ザ・コーヴ」には海外上映に外務省予算が新年度から付くことが決まっています。
 もし、公的な支援を受けている人物に公の場での説明とは異なる本音を代弁させているとすれば、日本政府は二枚舌の謗りを免れないでしょう。たかが美味い刺身≠ナ国際ルールを無視する国に、中国や北朝鮮を非難する資格はありません。逆に、たかが美味い刺身≠ナ国際法を蔑ろにすることが本当に出来てしまう国であれば、一体何をしでかすかわかったもんじゃないと、
 その意味で、八木氏の発言は狂信者の妄言として片付けるだけではすまないものです。
 一方で、「中立派」だったり「捕鯨擁護派」だったりクルクルと忙しい八木氏らしく、最後に「『違法なんだ』(中略)という誤った情報が」(引用)とも述べています。アベマタイムズ記事中では端折られていますが、番組中では八木氏は非常に問題のある発言されていました(全部問題っちゃ問題なのですが)。というのも、ICJからは単に見直しを求められただけで、数を減らしたことでICJに応えた=Aだから違法ではないという趣旨に受け止められるものでした。
 もちろん、これは事実に著しく反します。日本の調査捕鯨(JARPAII)はICJにより国際法違反であるとはっきりと認定されたわけですが、ICJに見直しを求められ、それに問題なく対応して違法性を解消できたのであれば、国連管轄権受諾宣言を書き直してICJへの再提訴を封じる必要などまったくありません。しかし、日本がやったのは、新調査捕鯨に対する国際司法判断を回避する策を講じることだったのです。国際法学者・神戸大教授は次のように批判しています。

明らかに南極海での調査捕鯨の再開は国際法的に危うい、少なくともICJに持って行かれるのはいやだ、というメッセージです。「法の支配」を標榜する日本としてはいかがなものでしょうか。(引用)

 八木氏の言い草は、まるで単に捕獲数が多すぎたのがICJによる違法性の判断の根拠であったかのようですが、実際の判決内容はまったく異なります。鯨種毎のサンプル数の相違(具体的にはクロミンククジラとナガスクジラ及びザトウクジラ)を日本側が科学的合理的に説明できなかったのみならず、日本側証人として法廷に立ったノルウェーの鯨類学者・オスロ大名誉教授ラルス・ワロー氏も日本側の不合理性に同意したからです。判決当時、一部の捕鯨推進派からは「数が少なすぎたから違法だというなら、増やせばいいじゃないか」という意見も飛び出していました。実は、当の八木氏もプロモーションの中で「おかしい」という発言をしていたんですがね・・。もうすっかり忘れてしまったんでしょう。
 判決の詳細については以下をご参照。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html

 実際、NEWREP-Aは捕獲数を333頭に減らしただけで、ICJの指摘に応えるどころか、クロミンク1種に絞って数を減らしたため、不合理性が一段と増したことになります。だからこそ、日本側は国連管轄権受諾宣言書き換えによる逃げの一手に出ざるを得なかったわけです。
 NEWREP-A/NPにしろ、イワシクジラ持込にしろ、国際条約のICRWやCITESに違反する可能性が濃厚ながら、国際司法による判断がまだ下されていないというだけ。この点については次回もさらに取り上げますが。
 八木氏曰く「誤った情報」のうち、水銀問題については筆者個人は正直関心がありません(本人の意思によらず児童が学校給食等で無理やり食わされる場合を除いて)。厚労省が「妊婦は2ヶ月に1度以上食べないこと」と通達を出すほど水銀濃度が高かろうと、フェロー諸島で疫学研究により母親のゴンドウクジラ摂食による水銀暴露と小児の神経症状への影響の相関が報告されようと、住民の毛髪から全国平均の40倍の水銀が検出されて国水研が調査に乗り出したものの全町民ではなく希望者のみだったため疫学的な影響評価が出来ずじまいであろうと、食べたいんだという奴は自己責任で好きにすればいいことです。捕鯨の是非と「食っていいか悪いか問題」はまったくリンクしないのですから。
 気になるという方は、上掲した激コロまとめ中のリンクをご参照。
 というわけで、残りの「誤った情報」について。

Y:「農産物にも税金が投入されているのに、なぜ捕鯨だけ突くのかという、アンバランスさもある」(引用)

 まずこの発言からわかるのは、農産物への補助金がどのようなものか八木氏が何も勉強しておらず、日本の農業政策に恐ろしく無知であることです。本当に「竜田揚げ食いたい」だけで後は頭空っぽなのですね、この御仁は・・。
 稲作農家への補助金は減反(生産調整)や飼料米への転換に応じて支給されるもの、つまり、地産地消・主食の米の生産維持という、きわめて重要な日本の食文化に貢献するのをやめた¥鼾に金が払われる仕組み。しかも、今年度からは減反廃止、さらにTPP参加により一部の重要品目を除き関税も撤廃されます。コメも輸入枠が設けられたうえ、経団連と輸出国の圧力に屈するのは時間の問題。農業者は優勝劣敗の苛烈な国際競争にさらされながら、自助努力で対応を余儀なくされることになります。
 ここで、来年度農水予算(概算決定)をもとに、雑穀生産と捕鯨のケースを比較してみましょう。
 雑穀生産農家には、環境保全型農業直接支払交付金の名目で10a当り3,000円が支給されます。雑穀の生産農家戸数は全国で9,947戸、作付面積は8,367ha(2015年)。先の交付金を1戸当りに換算すると2万5千円程度。この他自治体毎の産地交付金等を合わせても、せいぜいその倍程度。地方自治体の税金投入を含めるとしたら、太地町は捕鯨・イルカ猟関連にさまざまな名目で税金を使っているわけですけど。
 これに対し、捕鯨対策予算は年間約51億円。鯨研・共同船舶・沿岸捕鯨会社の就業者数3百数十名で割れば、使われる国の税金は関係者1世帯当り実に約1,400万円。事業者単位で見れば、沿岸捕鯨事業者各1億円、共同船舶と鯨研の2者で45億円ということになりますが。比較にもなりません。
 高々400年の歴史しかない、ローカルな余禄≠ナしかない古式捕鯨の鯨肉生産とは異なり、雑穀は古来から日本人の9割の人口を支えてきた主食でした。伝統食としては南極産美味い刺身≠謔闊ウ倒的に格上。しかし、採算性と過疎、それに対する行政の無策によって生産量は激減、この百年で栽培面積は千分の1以下にまで減少しました。伝統よりカネを優先する日本の農業政策故に。
 そして漁業。真田氏、勝川氏はじめ漁業問題に詳しい専門家が再三にわたって述べていることですが、捕鯨対策予算は水産資源管理・調査事業のためのトータルの予算を上回っているのです。全国の漁業者を置き去りにして、海面漁業生産の1%に満たない一握りの特定事業者のために、莫大な税金が使われているのです。これほどアンバランスなことはありません。
 八木氏が「他の水産物」と言わず「農産物」と言ったのは、その点を誤魔化す意図もあったのでしょうが。
 他の一次産業と捕鯨との間に厳然として存在する待遇格差、雑穀や漁業の現状については、以下の資料もご参照。上掲の数字について確認したい方は、農水省の予算・センサス関連の資料をチェックしてください。

■美味い刺身*@は廃止を!
http://www.kkneko.com/sasimi/p01.htm

 今回はこの辺で。次回は一度削除されながら復活したデイリー新潮トンデモ記事について解説します。


◇本当に中立な日本人の捕鯨に対する意見・その2

 これも前回の続き。2009年にWEDGEに掲載された慶応大学大学院教授・谷口智彦氏の卓見を再度ご紹介。前回ご紹介した市民・研究者の方々の意見同様、谷口氏は日本の捕鯨文化そのものについてははっきり肯定の立場です。にもかかわらず、元外務官僚としてあくまで日本の広義国益の観点から、冷静にこの問題を分析しておられます。
 以下、同記事の一部を引用させていただきます。多額の税金を注ぎ込まなければ成立しない経済的な不合理性については、谷口氏の指摘した時点よりさらに拡大しましたが、下掲は今日まで続く日本の捕鯨政策の膠着ぶりを的確に言い当てています。やはり八木氏に爪の垢を煎じて飲ませたいもの。

 このように、捕鯨に託した日本の国益とは、経済面を見る限り既にあまりに小さい。これが、議論の出発点に来るべき認識である。我が国が守ろうとしているのは、何か経済とは別の価値だと考えるほかない。
 日本側の姿勢は長年のうち固着を重ね、容易な転換を許さない。
 捕鯨関係者を突き動かしてやまぬ思いとは、反捕鯨勢力との格闘を続けるうち身についた「大義は我にあり」とする信念であり、正論を譲るまいとする正義の感情である。
 「正しいものは正しい」ゆえに、妥協の余地はない。非妥協的姿勢を貫くことそれ自体が価値であり、その保全は国益だと、そう言わんとしているかに聞こえることすらある。
 この状態で、関係者は自ら進んで旗を下ろせない。経済学で言うサンク・コスト(埋没費用)の投下残高がかさみ過ぎ、方針を変えるスイッチング・コストが禁止的に高止まりした状態だと見立てればよい。
 下から内発的に膠着を破るのが困難な場合は、政治が外発的に、トップダウンで状況を動かすのを期待したい。が一般に利害当事者の票田が小さい場合、政治家の大勢はあまり関心を払わぬ中で、「声の大きい少数派」が影響力を奮いやすい。民主主義の逆説だが、この傾向は捕鯨をめぐる政治過程に当てはまる。
 似た構図がマスコミにある。捕鯨への一般的無関心を映して普段は何も書かず、国際会議の対立や、日本に対する攻撃といった派手な話だけ記事にしがちだ。政治家も世論もいつしか「熱く」なり、国益をめぐる冷静な検討は省みられない。(引用)

■メディアが伝えぬ日本捕鯨の内幕─税を投じて友人をなくす
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/721
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2018年02月28日

デマ屋と化した竜田揚げ映画監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その1/真に中立な意見とは

◇デマ屋と化したトンデモ竜田揚げ映画「ビハインド・ザ・コーヴ」八木監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その1

 捕鯨問題ウォッチャーにとって、例年1月前後はクジラの季節=E・のハズでした。クジラの季節≠ニはすなわち、南極海を舞台に違法捕鯨船団が過激な反捕鯨団体シーシェパード(SSCS)とすったもんだの乱闘を繰り広げ、国内のネトウヨたちがいきり立って日の丸ギャング団にエールを送る、それはそれは鬱陶しい季節のこと。筆者らウォッチャーは南極海プロレスとも呼んできました。詳細は以下の過去記事の解説をご参照。

■科学の化けの皮が最後の一枚まで剥がれた調査捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/161982529.html
■南極海捕鯨プロレスに異変!?
http://kkneko.sblo.jp/article/178565457.html

 それが変質し始めたのが、国際司法裁判所(ICJ)による日本の調査捕鯨違法判決以降。観客を沸かせるのに不可欠だった一方のレスラーであるSSCSはどんどんおとなしくなり、上掲記事のとおり2017年には対戦相手と取っ組み合うのをやめてカメラで撮るだけに様変わり。「こんなの格闘技じゃない。視聴率取れないよ」とばかり、日本のマスコミは報道すらしなくなりました。ついには肝腎のSSCSが「もうリングを降りる」と宣言しちゃう始末。
 困ったのは、もう一方のレスラーである日本の違法捕鯨船団。海外ではヒールながら日本国内では英雄扱いの南極海プロレスチーム、日本鯨類研究所・共同船舶・水産庁から成る捕鯨サークル。とにかく盛り上がってくれないことには、多額の税金の拠出根拠がなくなっちゃいますから・・。
 しかし、そんな心配は要らなかった模様。なぜって、プロレスと違って直接対戦する相手がいなくても観衆を盛り上げることのできる新たな余興が登場したからです。
 その新たな出し物とは、女独り相撲──。
 さて、今年1月は捕鯨関連ニュースを検索しても何も引っかからず閑散とした有様だったのですが、2月下旬に入って激増。主役を務めたのがトンデモ反反捕鯨映画「ビハインド・ザ・コーヴ」八木景子監督。そのニュースとは、「ビハインド・ザ・コーヴ」が英国の国際映画祭で賞を獲ったというもの。
 日本語報道の先陣を切ったのがTBS。BS-TBSで悪質な捏造番組「捕鯨論争!大国と闘った男たち」を制作、八木氏にネタを提供しただけあって、お得意様≠フ関係を築いた様子。受賞前の上映・ノミネートの段階で報道した国内メディアはTBSと共同(英語版)のみの模様。

■Japan pro-whaling documentary to be screened at London film festival (共同英語版,2/9)
https://english.kyodonews.net/news/2018/02/d93dee32af84-japan-pro-whaling-documentary-to-be-screened-at-london-film-festival.html
■反捕鯨国の英・ロンドン映画祭で捕鯨擁護作品上映(TBS,2/16)@
http://news.tbs.co.jp/sp/newseye/tbs_newseye3293779.htm(リンク切れ)
https://twitter.com/tbs_news/status/964352083754237952

15日、「ロンドン国際映画祭」で上映されたのは八木景子監督が制作したドキュメンタリー映画「ビハインド・ザ・コーヴ」です。(引用)

 TBS報道の「ロンドン国際映画祭」は致命的な誤報道。なぜなら、別の=uロンドン国際映画祭」が存在するからです。


 さらに、有名なのが1953年に遡る由緒ある英国最大の映画祭、「ロンドン映画祭」(BFI London Film Festival)。

■BFI London Film Festival 2017
https://whatson.bfi.org.uk/lff/Online/default.asp
■BFI London Film Festival|Wikipedhia
https://en.wikipedia.org/wiki/BFI_London_Film_Festival

 一方、八木氏が竜田揚げ映画を出品したのは「ロンドン国際映画祭」でも「ロンドン映画祭」でもなく、こっちの「ロンドン国際映画制作者″ユ」。10年余り前にカール・トゥーニー氏なる人物が立ち上げた、自主制作映画の支援・タレント発掘のための映画祭とのこと。正式名称は「London International FilmMaker Festival of World Cinema」とのことですが、「London Film Fest International」との呼称も使われていたり、非常にまぎらわしいですね。狙った感もなきにしもあらずですが。


 筆者が英国筋に問い合わせたところ、小さな映画祭で国内での注目度は低いとのこと。実際、筆者が確認できた現地報道は2件のみでした。

■Japanese flick to screen at London International Filmmaker Festival (London TV, 2/13)
https://london-tv.co.uk/japanese-flick-screen-london-international-filmmaker-festival/
■Dolphin hunt protesters meet pro-hunt filmmaker (Crawley Observer, 2/20)
https://www.crawleyobserver.co.uk/news/dolphin-hunt-protesters-meet-pro-hunt-filmmaker-1-8386153

 映画産業が成熟した英国だけに、首都ロンドンだけでも毎日のようにたくさんの映画祭が開催されていますが、以下のリストでも該当の映画祭は掲載されていません。


 してみると、反捕鯨の英国人にことごとく絶賛されたかのような日本のマスコミの大げさな報じ方には、首を傾げざるをえません。
 ちなみに、こんな情報も。

日本人の私がいつもうんざりする日本メディア一部超テキトー記事。
「ロンドンの映画祭」はカールトゥーニー(正体不明)が2006年に立ち上げた Film Festival International欧州各地で世界の民族暴力右翼系を「独立系映画」に風にお墨付き与え上映機会与えようという詐欺映画祭(引用)
https://twitter.com/7thclouds/status/965092768530841600
日本のメディア一部の超テキトー「報道」が勝手に嘘記事で「イギリスのロンドンの映画祭」と「報道」したのは誤報というか詐欺報道。
謎のカールトゥーニー緑恐喝全額出資で入場費無料欧州数カ所で開催のFilm Festival International 個人企画個人映画「「国際的」上映開催だ (引用)

 真偽のほどは確認してませんが・・まあ、主催者は元SSCS代表ポール・ワトソン氏以上に怪しいっちゃ怪しいですけどね、印象は(笑) どうやってやりくり出来ているかもですが。陰謀論大好きな八木氏がそこを突っ込まないのは不思議ですね。これは一種のサベツなのでは?
 それはさておき、受賞後の2/18以降には国内各メディアが一斉に報道し始めます。

■捕鯨描いた日本映画に英映画賞(FNN,2/18)A
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00385173.html
■反捕鯨国・英の映画祭、捕鯨問題描いた日本映画が受賞(TBS,2/19)B
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3295471.htm(リンク切れ)
■最優秀監督賞に日本人=捕鯨批判に反論−英映画制作者祭(時事,2/18)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018021800179
■捕鯨擁護「ビハインド・ザ・コーヴ」の八木景子氏に最優秀監督賞 英の映画祭・長編ドキュメンタリー部門 (産経,2/19)C
http://www.sankei.com/entertainments/news/180219/ent1802190001-n1.html
■反捕鯨反論映画に監督賞 八木景子さん (東京,2/19)D
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201802/CK2018021902000121.html
■Japanese director’s pro-whaling documentary wins award at London film festival (ジャパンタイムズ,2/19)
https://www.japantimes.co.jp/culture/2018/02/19/entertainment-news/japanese-directors-pro-whaling-documentary-wins-award-london-film-festival/

 TBSは16日報道の映画祭名の間違いを19日報道で訂正。TVで茶の間に流しちゃったら、いまさら後の祭り≠ナすが。
 TBSとは対照的に、一応ロンドン映画祭との違いまできちんと説明したのが東京新聞記事。
 また、上掲のTBSニュース(1本目)と東京記事では以下の観客のコメントが紹介されています。

「地元の漁業関係者ばかりに焦点があたっている。『コーヴ』がプロパガンダだというなら、この映画だってプロパガンダだ」(引用〜@)
「この映画は子どもや高齢者ばかり取り上げて偏向しており、真の描写、意見がない。コーヴが不公正なら、この映画も同じ」(引用〜D)

 なお、当の八木氏本人は、「ニュートラル(中立)で良い映画と評価してもらえた」(引用〜B)、「捕鯨を擁護する映画にも発表する機会を与えてくださった」(引用〜C)と相変わらず。
 明確に「擁護」「反論」を目的として制作された映画が「中立」なはずもないのですが。
 筆者が非常に奇異に感じるのは、八木氏本人のコメントやネット上の書き込みに示されるように、反反捕鯨映画に発表の機会を与えた英国の姿勢を評価する声がありながら、対する日本では英国と同等に表現の自由が与えられているかどうかを検証する姿勢がマスコミに見られなかったことです。唯一、東京新聞が「ザ・コーヴ」の経緯に触れたのみ(下掲)。その点、映画祭の説明も合わせ、上掲国内報道では東京記事が一番マシといえますが。

「日本での上映時は、保守系団体が抗議活動を展開するなど物議を醸した」(引用〜D)

 そう・・表コーヴ≠フ方は極右団体から威力業務妨害に相当する陰湿な恫喝を受けたため、配給会社が事実上一般の映画館での上映断念に追い込まれたわけです。反日批判にさらされた「靖国 YASUKUNI」と同じく。

■私が捕鯨をやってもいいと思う理由
http://kkneko.sblo.jp/article/13750264.html
■「THE COVE」では伝えきれない太地捕鯨&イルカ漁のダメっぷり1/2
http://kkneko.sblo.jp/article/33346665.html
http://kkneko.sblo.jp/article/33105405.html

 もっとも、不可解なのは、映画祭の主催者がこのトンデモ映画を中立と評価してしまった点。同映画祭のホームページ上では受賞理由が掲載されていないのですが、日本メディアの取材に対しては「捕鯨の賛成・反対に関係はなく」(引用〜A)「捕鯨に対する主張の是非ではなく」(引用〜BC)「倫理的に賛成するわけではないが」(引用〜D)と回答しています。つまり、映画そのものが中立的と評価したのではなく、反捕鯨派へのインタビューが含まれていたという一点に対する評価といえるでしょう。人選と切り取り方は明らかに中立ではないので、これはたちの悪い中立偽装というべきですが。もっとも、そこを見抜いて判断するだけの情報がこの映画にはまったく含まれていないのですから、無理はないかもしれません。何しろ、捕鯨サークル当事者フル出演で反反捕鯨の一方的な主張てんこ盛りのうえに、捕鯨とまったく関係のない(日本捕鯨協会・国際ピーアールのプロパガンダを除き)「ベトナム戦争」「原爆」「真珠湾攻撃」「人種差別撤廃提案」までぶち込んで相手に眩暈を催す代物なのですから・・。
 さて、筆者は映画祭の主催者に以下の抗議文を送りました。残念ながら回答はいただけていないのですが、掲載初日に海外からの該当ページへのアクセスが1千件を突破したので、閲覧した方は当日ロンドンで映画を観(せられ)た観客よりは多かったでしょう。

■Protest to Film Festival International UK about the award to "Behind the Cove"
http://www.kkneko.com/english/btc.htm

 英語で解説しているとおり、「ビハインド・ザ・コーヴ」は自主制作の新人監督の登竜門としての同映画祭受賞作にはあまりにも相応しくない作品です。なんと言っても、外務省の予算までついた肝煎りの国策プロパガンダ映画なのですから。

■妨害対策と国際理解柱 捕鯨関係概算要求で水産庁 (みなと,'17/8/30)
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/72268

 実際、在英日本大使館も宣伝に一役買っています。

■Film screening "Behind the Cove" - London International Filmmaker Festival  (在英日本大使館)
http://www.uk.emb-japan.go.jp/japanuk150/events/film/Beyond_the_Cove.html

 大変不可解なことですが、実は昨年の同じロンドン国際映画制作者祭において、やはり日本人監督ツノダヒロカズ氏による東日本大震災復興支援映画「March」が「最優秀外国語ドキュメンタリー映画賞」を受賞しているにもかかわらず、同大使館は広報を何もしていなかったのです。この待遇の差は一体何なのでしょうか? 東北大震災を乗り越えようとする子供たちの姿を描いたドキュメンタリーを海外に紹介するより、原爆や真珠湾攻撃に南極産美味い刺身≠無理やり絡めて欲望を正当化しようとするトンデモ映画の方が価値が高いと判断する在英大使館の姿勢はまったく理解に苦しみます。捕鯨サークルによるエゴ丸出しの復興予算流用をも髣髴とさせます。マスコミも同罪ですが。


 反反捕鯨世論操作の仕掛け人・梅崎義人氏と八木氏が新宿の鯨肉居酒屋で意気投合したのを契機に制作された「ビハインド・ザ・コーヴ」のトンデモっぷりの詳細については以下を参照。

■クジラの陰謀|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/324-the-whale-plot-j
■「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く〜いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えたトンデモ竜田揚げプロパガンダ映画
https://togetter.com/li/941637
■「ビハインド・ザ・コーヴ」八木監督より怪文書%ヘく
http://kkneko.sblo.jp/article/180026016.html
■広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/179410385.html
■「ベトナム戦争」と「核問題」に直結する本物の陰謀≠暴き、かけがえのない日本の非核文化をサポートしてくれた「グリーンピースの研究者」と、竜田揚げブンカのために「広島長崎の虐殺」を掲げながら贋物の陰謀≠ノ引っかかったトンデモ映画監督
http://kkneko.sblo.jp/article/174248692.html

 なお、半日足らずで削除されたデイリー新潮の幻の記事ニュース女子も顔負けのアベマプライム鯨食宣伝番組を中心に、八木氏のパワーアップしたデマ屋っぷりについて、次回引き続き取り上げます。


◇本当に中立な日本人の捕鯨に対する意見

 黙っているわけでも、美徳≠掲げながら醜悪なエゴを押し付けるでもない、貴重なご意見を以下にご紹介。大半の真っ当な日本人は、きっと謙虚に耳を傾け、頷かれることでしょう。国際会議の場でおよそ議論になっていない「食っていいか悪いか」の一命題にすべてを収斂させる竜田揚げ脳の持ち主、中立とはおよそかけ離れているのにしれっと「中立」を装う八木氏に、ぜひ爪の垢を煎じて飲ませたいもの。

https://twitter.com/synfunk/status/964718699922911232
俺はクジラは食ってもいい派であるのだが、ウナギを始め、漁業資源は事実上制限なく獲り尽くすまで獲る日本の姿をみると反捕鯨派の「あいつらはクジラを食い尽くす」って主張に説得力を感じてしまって困る。(引用)

https://twitter.com/ArisatoCovtha/status/966453515445944320
自分は捕鯨そのものは問題ないと思っているし、他民族の食文化に干渉するのは多文化共生に反していると考える。ただ多くの国が南氷洋捕鯨に反対ならば、それに配慮して沿岸捕鯨に限定すべきであるし、そもそも捕鯨の正当性を力説する前に日本は海洋資源の持続可能性の問題にもっと真剣になるべき。(引用)
https://twitter.com/ArisatoCovtha/status/966453845818720256
そうしないと、何を言っても評価されない。中国・台湾や韓国を盾にできる時代も終わりつつあるようだし…(引用)
https://twitter.com/garasangarasan/status/966468396115099648
私も動物愛護室長の先輩と日本沿岸の捕鯨は食文化もあり理解できるけど、南氷洋まで行って捕鯨するのは、限度を超えているなぁと話していた事があります。(引用)
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2018年01月19日

発想は瓜二つ、持っちまえばこっちのもの>氛沒本の新捕鯨母船と北朝鮮の核

 昨年11月、ワシントン条約(CITES)常設委員会で象牙やウナギの問題とともに日本の違法な調査捕鯨が槍玉に挙げられて以降、クジラに関する目立ったニュースはありませんでしたが、今朝(1/19)になって読売新聞がスクープ記事を発表しました。

■調査捕鯨母船、新船導入へ…事業の継続を明確化 (1/19,読売)
http://www.yomiuri.co.jp/national/20180118-OYT1T50211.html

 おりしも豪ターンブル首相訪日のタイミング。

■豪首脳会談及びマルコム・ターンブル・オーストラリア連邦首相の国家安全保障会議(四大臣会合)特別会合出席 (1/18,外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/au/page1_000470.html

ターンブル首相から捕鯨について問題提起があり,安倍総理より,日本の立場に言及した上で,捕鯨問題が良好な二国間関係全体に悪影響を及ぼさないように努力すべき旨述べ,海上における過激な妨害行為の予防や実効的な対応を求めました。(引用)

 よくまあぬけぬけとこんな言辞が吐けたものです。
 良好な二国間関係全体に要らぬ悪影響を及ぼしているのは、国際法に抵触する美味い刺身*レ的の調査捕鯨そのものです。しかも、日本が行っているのは当の豪州が領有権を主張している海域への侵犯行為に他ならず、日本海の北朝鮮密漁船や東シナ海・南シナ海の中国海軍と国際法上イコールの主権を脅かす行為を、よりによって安全保障における協調が不可欠な米国に次ぐ同盟相手に対してやっちまっているわけです。これほど大きな矛盾、許しがたいダブスタはありません。

■Ultra double standard of Japan's diplomacy : Territorial disputes issue and Japanese research whaling
http://www.kkneko.com/english/territory.htm
■南極海じゃ強行するくせに北方領土じゃやっぱり捕鯨はできない!! ロシアにゃヘイコラ、AUS&NZにはアカンベエ、売国水産庁の超ダブスタ外交
http://kkneko.sblo.jp/article/179086088.html

 水産庁/捕鯨サークルは今回さらに、良好な二国間関係全体にとてつもない悪影響を及ぼすことは必至の母船更新をぶちあげたわけです。
 ここへきて豪中関係の悪化も報じられていることから、捕鯨ニッポンの強気の外交はいわばそこに便乗した悪ノリとも言えますが、訪日した首相にわざわざあてつけるかのように新捕鯨母船のプレゼントを送りつけるようなやり方をすれば豪州国民の対日感情を害するのは確実で、中国との比較においても日本は傲慢∞卑劣∞狡猾という印象が強く植え付けられることになるでしょう。
 豪州緑の党のWhish-Wilson議員も、あまりにも弱腰すぎるターンブル首相の姿勢を以下のように批判しています。


 さて、それでは読売記事の検証に入りましょう。
 まず、最初の小見出し「高齢の船」、母船更新の背景にある日新丸の老朽化について。
 母船更新問題については、前回の年末の記事の中でも取り上げたところ。美味い刺身*@制定から公明党の捕鯨族議員横山信一氏の国会発言に至る一連の経緯により、捕鯨サークルがこの間画策していたのは既に明らかだったわけですが。
 で、拙記事中で詳細に解説しているとおり、船の老朽化は日新丸に限った話ではないのです。これはトンチンカン族議員横山氏自身が取り上げたとおり。本物の伝統漁業を担う全国の多数の零細漁民には自助努力を求めるばかりで事実上放置しておきながら、共同船舶1社だけが破格の厚待遇を受けることになるわけです。予算配分を考えても、日本の水産業全体にとってこれほどの不幸はありません。詳細は前回の記事をご参照。

■北朝鮮化の道を突き進む捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/181930453.html

 次の小見出し「対シー・シェパード」、新船に求められる仕様について。記事では鯨研の2011年と2013年の2回の被害、今年の調査団長・鯨研の御用学者坂東武治氏の「妨害活動に負けない、頑強で足の速い船が必要だ」とのコメントが紹介されています。
 これは坂東氏らサークル関係者によるきわめて悪質なミスリード。
 ひとつは、年間10億円単位の巨額の税金を投じた妨害対策とその効果の実相との大きな矛盾
 以下は当のSSCS自身の情報ではありますが、昨年度には通信衛星を用いて船の位置を把握されうまくまかれたため、1度ヘリからの空撮に成功したものの、まともに日本の捕鯨船団を追跡することさえできませんでした。それがワトソン代表の嘆き節、今年度の妨害中止声明につながったわけです。
 詳細は以下の拙ツイログ参照。


 つまり、船速なんて関係なし
 純粋に妨害対策の見地からすれば、実効的・効率的な妨害対処法をこれで確立できたということになるでしょう。
 その2。SSの「オーシャン・ウォーリアー号は最高速度が時速40キロ超」。実際は25ノット(時速にすると約46キロ)。
 「日新丸の2倍近い」ともありますが、標準的な漁船・貨物船はそもそも20ノット以下。それ以上速度を上げても燃費が落ちて不経済なだけ。
 「妨害活動に負けない足の速い船」、つまり25ノット以上にしようとすれば、ただでさえべらぼうに高い南極産鯨肉の環境負荷をさらに押し上げることになります。
 また、海保の巡視艇並の高速にでもするならいざ知らず(それはそれで「バカも休み休み言え」ですが)、日新丸より少しばかり船足を速めるだけで「妨害に負けない」という保証は何もありません。膨大な公費の投入がそれによって実際に回避できるリスクに対してあまりにも見合っていないのです。対費用効果の検証不足は近年の日本の政策全般にいえることですが。
 逆に、速力に頼らない効果的な妨害戦術を編み出した以上、その必要もないはずなのです。
 坂東氏の科学者にあるまじき根性論的な発言は、何重にも不誠実といわざるをえません。
 その3。仮に捕鯨サークルの言うとおり、船速が妨害対策の要だとしても、新母船を25ノット以上に上げさえすれば「それで安心」などとはたして言えるでしょうか?
 例えば、26ノットに設定したとします。鯨研と同じメンタルのSSCSは、「じゃあうちは27ノットの船を新たに調達しよう」ということになるでしょうね。仮に実力行使が復活するとしての話ですが。
 実際のところ、今回の読売報道で、豪州国内の捕鯨をめぐる議論が活発化し、軟弱な自由党政権があてにならないという理由で、SSCSが支持と寄付金をさらに集めるのはもはや不可避かもしれません。
 そうなったら、またぞろ多額の税金をつぎ込んで、作ったばかりの新母船に更なる改造を加えますか?
 30年間続く、終わりのない軍拡競争の始まり。国民には重い負担がのしかかるばかり。
 延々と繰り返される、ネトウヨのためのエンタテイメント・南極海プロレスショー。
 まさにそれこそが捕鯨サークルの狙い目なのでしょうが。
 少なくともオーストアリアやニュージーランドとの主権侵害問題は発生しなくて済む沿岸調査捕鯨では、でたらめなランダムサンプリングがIWC科学委員会で問題視されましたが、南極海でもSSとの追いかけっこによって、ただでさえ圧倒的に乏しい科学性・客観性がさらに減じることを余儀なくされるでしょう。
 国民の負担も上がり、環境負荷も上がり、国際社会の反発も高め、科学性の方はますますゼロに近づく──ひたすら国際法を蔑ろにするだけの科学を擬装した商業捕鯨。元水産庁長官本川氏いわく「美味い刺身≠フ安定供給のため」の。
 3つ目の小見出し「反発も」では、IKAN事務局長倉澤氏とともに、外務省幹部の「反捕鯨国を強く刺激することは間違いない」とのコメントも紹介されています。
「良好な二国間関係全体に悪影響を及ぼさない」ための「努力」が、特定事業者とどっぷり癒着した水産庁と族議員のごり押しのせいで水の泡と化しかねないことを、外務省幹部も自ら認める形といえるでしょう。
 なお、記事中にある前回10年前に頓挫した経緯は以下をご参照。記事中では「2005年頃」とありますが、GPJが造船会社へのアンケートを実施したのは2007年。これも記者の間違いというより、取材したサークル関係者自身がうろ覚えだったということですが。


 なぜ捕鯨サークルは「千害あって一利なし」の母船更新にここまで拘泥するのでしょう?
 答えは単純。既成事実化です。
 「莫大な税金を投じて建造してしまった以上、運用するしか──南極海に行き続けるしかないんですよ」と。
 もんじゅと同じ。
 あるいは、北朝鮮が「保有しちゃった以上、核保有国と認めろ」と言っているのとまさに同じく、「母船作っちゃった以上、商業捕鯨再開状態を認めろ」と。
 要するに、「もうあきらめろ」と国際社会を脅そうとしているわけです。
 正しい国際法上の手続を一切踏まえることなく。
 国際司法を蔑ろにする程度において、中国も北朝鮮もかすむほどの傲岸さ。何しろ、その理由は南極産美味い刺身≠ネのですから。
 こんな暴挙を国際社会は断じて許してはなりません。
 オーストラリア・ニュージーランドがEUや南米諸国等と協調して国際海洋法裁判所に違法な捕鯨を訴えれば、日本は今度こそ確実に詰みます。

・ICJ判決の無視
・CITES違反
・IWC科学委員会・専門家パネルによる数々の勧告の無視
・北方領土と豪サンクチュアリの二重基準

 この4点セットにより、日本の調査捕鯨には再度国際法違反の審判が下され、完全に息の根を止められるでしょう。
 前回、ICJでの敗訴を予想したときは「可能性が高い」と注記しましたが、次の敗訴は100%間違いなし。
 必要なのは各国政府の勇気と連帯だけです。
posted by カメクジラネコ at 18:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2017年12月24日

北朝鮮化の道を突き進む捕鯨ニッポン

 年末ということで、今回はこの一年の捕鯨をめぐる動向を、各記事の紹介と合わせて振り返ってみることにしましょう。

 一言で言うなら、2017年の捕鯨ニッポンはとある国≠ノますます似通ってきました。
 そう・・世相を表す今年の漢字北≠フ理由となったあの北朝鮮に。
 余談ですが、この一字にした残りの理由はコジツケもいいところ。災害や不作を一部地域に限定するのは不合理ですし、野球だの競馬だの平和時の話題を盛り込むのも矛盾しています。まあ、国内でもう限界に達している政治経済の歪みから国民の目を逸らす役割を見事に果たしてくれたということでしょうね・・。
 捕鯨ニッポンと北朝鮮の相似性については、これまで拙ブログで再三取り上げてきたところ。

■北は人工衛星という名のミサイル、日本は調査捕鯨という名の商業捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/60752017.html
■IWC決議違反の調査捕鯨は国連決議違反の北朝鮮のミサイルと同じ!
http://kkneko.sblo.jp/article/96646061.html

 オーストラリアやニュージーランド、南米等南半球諸国にとって、北≠ェ指し示す国とはすなわち捕鯨ニッポン。
 国際社会の批判に一切耳を貸すことなく、独りよがりの理屈を並べて公海での調査捕鯨を強行する姿勢は、まさしく核開発・ミサイル発射実験を重ねる北朝鮮のそれと瓜二つ。
 さらに、捕鯨ニッポンの独善性・傲慢さは、今年一年世界を引っ掻き回したもう1つの国、トランプ政権の米国にも酷似しています。
 つまり、北朝鮮と米国の悪いところをドッキングさせたのが今の捕鯨ニッポンと言っていいでしょう。
 もっとも、マスコミの偏向に関しては、米国よりやはり北朝鮮の方に近いといえそう。本来あるべきジャーナリズムとしてのチェックの仕事を投げ出す忖度≠ヤりは、専制国家の北朝鮮より一層たちが悪いですけど。

■南極海捕鯨プロレスに異変!?/北方領土問題とクジラ
http://kkneko.sblo.jp/archives/201701-1.html

 北≠ニいえば北方領土=B上掲記事のもう1つのトピック。
 北方領土交渉と日本の捕鯨政策の間には、あまりにも大きな隔たりがあります。自国の領土を侵害されている被害者≠ニしてロシアや中国・韓国・北朝鮮に対して憤っている方々には、同じ日本が南半球で友好国に対して働いている行為がお世辞にも公正・公平とは言えない事実に、ぜひ目を向けてほしいもの。

■南極海で強行できても北方領土で捕鯨はできない!? 売国水産庁の超ダブスタ外交
http://kkneko.sblo.jp/article/178977362.html
■南極海じゃ強行するくせに北方領土じゃやっぱり捕鯨はできない!! ロシアにゃヘイコラ、AUS&NZにはアカンベエ、売国水産庁の超ダブスタ外交
http://kkneko.sblo.jp/article/179086088.html
■Ultra double standard of Japan's diplomacy : Territorial disputes issue and Japanese research whaling
http://www.kkneko.com/english/territory.htm

 つい先日も、日本海における北朝鮮の漁船の違法操業が話題になりましたが、これまた日本が南半球で犯している侵犯行為にそっくり当てはめることができます。海保のやったのと同じ実力行使に臨んだのは、豪政府ではなくSSCSではありましたが・・。詳細は下掲ツイログ参照。


 そしてもうひとつ、やはり北朝鮮とも密接に関係する核≠ノついて。
 被爆国として核なき世界を切に願ってきた日本の市民にとって、今年はひとつうれしいニュースが。核廃絶に向けてイニシアチブを取り、核兵器禁止条約の採択に大きく貢献した市民団体ICANがノーベル平和賞を受賞したのです。
 それに比べ、日本政府と核抑止論信奉者たちの、核大国へのへつらいぶりの情けないことときたら・・。
 北方領土−豪サンクチュアリダブスタ問題と同様、政府の非核外交と捕鯨推進外交の間には途方もないギャップが存在します。ついでにいえば、反反捕鯨論者の唱える奇妙なビョウドウに殺せ§_は、通常兵器を口実に核保有を正当化するのと同質であり、鯨肉食料安保論も北朝鮮の「自衛のための核」という主張と何ら変わりありません。

■広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/179410385.html
■Ultra double standard of Japan's diplomacy: 100% opposite in nuclear ban and "Favorite sashimi"
http://www.kkneko.com/english/nuclearban.htm

 実は、ICANにつながる国際的な反核運動の先駆けとなったのは、日本では反捕鯨運動の代名詞にされ評判の悪かったNGO・グリーンピースでした。

■「ベトナム戦争」と「核問題」に直結する本物の陰謀≠暴き、かけがえのない日本の非核文化をサポートしてくれた「グリーンピースの研究者」と、竜田揚げブンカのために「広島長崎の虐殺」を掲げながら贋物の陰謀≠ノ引っかかったトンデモ映画監督
http://kkneko.sblo.jp/article/174248692.html

 広島・長崎、そして核実験に翻弄された世界各地の市民と連帯し、絶大な権力をふるう核大国にひるむことなく立ち向かったICANやGPとは対照的に、南極産美味い刺身≠食いたいという欲望のために被爆の悲劇を利用し、永田町・霞ヶ関の権力者をパトロンに稚拙なプロパガンダ映画を拡散したのがこちらの御仁。

■「ビハインド・ザ・コーヴ」八木監督より怪文書%ヘく
http://kkneko.sblo.jp/article/180026016.html
■「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く〜いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えたトンデモ竜田揚げプロパガンダ映画
https://togetter.com/li/941637

 まあ、捕鯨協会のブレインとして世論操作を仕掛けた元国際ピーアール・梅崎義人氏の口車に乗せられ、広告塔として利用された可哀相なヒトではありますが・・。
 「裏コーヴ」に遠慮する形で今年ようやく公開となったもうひとつのドキュメンタリー映画「おクジラさま」。
 捕鯨族議員の代表格で和歌山選出の暴言キャラ鶴保庸介氏に向かって、佐々木監督が「日本人のずるさも描く」と言い切った点は、クリエーターとして見上げたものだと思います。
 ただ、残念ながら映画自体はクラウドファンディングに頼ったことも手伝ってか、日本の捕鯨・イルカ猟の負の側面、ずるさ≠ノ十分斬り込めなかったのが惜しまれます。「おクジラさま」評については他所に譲るとして、ここでは佐々木氏と対談した津田大介氏の認識の浅さ≠ノついて指摘しておきます。
 正直、ICJ判決を「炎上」と表現してしまったのは、ジャーナリストとしてあまりにザンネンというほかありません。リベラル方面で受けのいい津田氏の無知・無見識が捕鯨問題のみにとどまっていてくれればまだ幸いなのですが・・。詳細は下掲拙ツイログ参照。


 いわゆる著名人でザンネンなヒトたちは他にも。ある意味、捕鯨問題は隠れナショナリスト≠炙り出す格好のリトマス試験紙といえますが。

■捕鯨デマまたもや拡散〜蔓延する捕鯨歴史修正主義
https://togetter.com/li/1171806
■「捕鯨がオランウータンを救う」なんて冗談キツイよ
https://togetter.com/li/1099173

 ザンネン度=脳ミソ竜田揚げ度≠測定してみたいという方は、ぜひ下掲の診断テストでチェックしてみてくださいね。パート1も合わせて拡散ヨロシク。

■「捕鯨ヨイショ度」診断テスト・パート2
http://www.kkneko.com/sindan2.htm

 さて、外野の話はこの辺にしておきましょう。2017年は、国際司法裁判所(ICJ)による日本の調査捕鯨違法判決後に捕鯨サークル側が最も積極的な動きを見せた年でもありました。
 まずは太地のイルカ猟関連では大きなトピックが4つ。新江ノ島水族館と下関海響館のJAZA脱退、そしてシワハイルカ・カズハゴンドウの2種の新規捕獲枠追加、フェロー諸島クラクスビークとの姉妹都市提携、中国マリンリゾートとの提携。詳細は下掲拙過去記事およびツイログをご参照。

■太地−イルカ−水族館騒動リターンズ
http://kkneko.sblo.jp/article/179421325.html
■イルカビジネスで胃袋を拡げる太地とエコヒーキ水産庁
http://kkneko.sblo.jp/article/179432844.html
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-170821
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-170905

 これらはいわば、硬軟2つの映画を後押しに、太地が一気に攻勢に出た結果といえそうです。今年太地町では森浦湾の生簀計画や研究都市構想につながる道の駅も完成。IWC総会訪問団のビジネスクラス利用ではありませんが、豪華な公衆トイレは、永田町の族議員とのパイプを武器に水産庁を意のままに動かす三軒氏のやり手町長ぶりを物語っています。と同時に、国への補助金と長期展望のない官主導ビジネス頼みで、日本中の過疎地域の地方自治体が抱えるのと同じ構造的な問題に対する根本的解決になっていないことも象徴しています。以下のIKAN記事もご参照。

■太地もうで(1)イルカ生息調査の必要性を説明
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2017/10/post-9a93.html
■太地もうで(2)道の駅/公衆トイレ/地方都市における福祉
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2017/10/post-994b.html

 象牙問題への取り組みでは、日本政府とは対照的に、国として国際社会への協力姿勢を打ち出し、都市を中心に市民の環境問題・動物福祉問題に対する意識も日本以上に高まってきた中国のこと。エンリッチメントを重視する動物園・水族館の世界的な流れと真逆を向く日本流が受け入れられる保障は何もありません。実際、最近の中国メディアは日本の捕鯨問題についてむしろ欧米に近い論調での報道が目立ちます。

■2017年。和歌山県太地町から中国へ売り飛ばされた可哀相なハンドウイルカはなんと約100頭!肉にするより遥かに大儲けできる水族館への生体販売を正当化する恥さらしの日本。中国でも日本のイルカ猟の実態に気づきはじめているというのに。
http://animalliberation.blog.fc2.com/blog-entry-113.html
■太地イルカ漁をめぐる論争、中国が新領域に
https://cetajournal.net/ja/%E5%A4%AA%E5%9C%B0%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%AB%E6%BC%81%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%90%E3%82%8B%E8%AB%96%E4%BA%89%E3%80%81%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%8C%E6%96%B0%E9%A0%98%E5%9F%9F%E3%81%AB/

 こちらは台湾メディアのオピニオン記事。

■你付的門票錢,就是促使海洋公園殘忍對待海豚的最大經濟來源

 太地の捕鯨・イルカ猟に乱獲・規制違反体質が根深く染み付いていることをまざまざと見せつけたのが、新たに捕獲枠を得た2種の枠超過とリリース個体の死亡でした。この件は、動物虐待や密猟野鳥の違法飼育等の告発で定評ある日本国内の動物保護団体LIAが告発、セタベースにも記録されました。LIAにしてみれば、太地のイルカ追い込み猟が、違法な野鳥捕獲・飼育の温床となっている啼き合せ≠ニ同質の悪しきデントウブンカ≠ニみなされるのも当然のこと。
 開いた口が塞がらないのは、太地の(事実上の)オーバーキルを水産庁が追認する形で増枠したこと。クロマグロでは枠超過分を他県分から持ってくる振り替えの裏技≠使い、メディア・関係者から批判を浴びましたが、漁期中に規制を形骸化する身も蓋もないまねまでやってのけたのは、水産行政史上およそ前例がないはず。これではまさにニャンコに鰹節の番をさせるようなもの。
 海外から批判を浴びている今こそ襟を正して節度をアピールする必要があるはずなのに、来年まで待つ最低の忍耐すら示すことができない、およそ自制・自律という概念からかけ離れているのが太地のイルカ猟だと、改めて世界に知らしめてしまったわけです。同時に、水産庁にはまったく管理能力が欠如しているということも。詳細は下掲ツイログ参照。


 沿岸捕鯨に関しても同様に大きな変化がありました。それは今年から新たに加わった北西太平洋調査捕鯨(NEWREP-NP)沿岸調査の網走沖と八戸沖、そしてイワシクジラの増枠。ICJ判決直後のJARPNU変更(縮小)理由との圧倒的な矛盾、日韓による混獲が止まらず絶滅が危惧される希少なミンククジラJ系群を事業者への配慮からターゲットとしたこと、世界遺産知床でのWW事業に水を差すこと、後述するCITESの規約違反が指摘されるイワシクジラを増枠したことなど、国際法に対する不遜な態度と反保全的姿勢において、南半球の自然・文化に対する侵襲性を有するNEWREP-Aとは別の意味で、同計画はともかく悪質。
 蓋を開ければ、網走沖ではウォッチング船を偽装する卑劣な手口を用いたうえに、下手糞な砲手が狙いを外して致死時間を引き延ばす有様。八戸沖では強欲に対するオナイジの罰が当たったのか3頭に終わり、科学的にもまったく無意味でずさんな計画だったことが露呈する始末。

■史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/177973131.html
■八戸の恵比寿神:八戸太郎/オナイジを殺す捕鯨サークル
http://kkneko.sblo.jp/article/180535962.html

 今年最大の捕鯨関連トピックといえるのが、この6月の荒れた国会であれよあれよという間に成立してしまった美味い刺身*@。安保法制・共謀罪法等に比べれば国民生活・権利に直結するとはいえませんが、むしろ国民の無関心に便乗して特定の事業者に異常なまでの便宜を図る、まさに稀代の悪法です。
 超党派でこの悪法を通した立役者といえるのが、FCCJ記者会見の場で真逆の主張を開陳してしまった自民党・江島潔議員、そして国民を裏切って安保法反対の旗をあっさり降ろし希望の党党首に収まった玉木雄一郎議員。玉木議員に至っては「捕鯨国の多くはアフリカやカリブ諸国」という、外野にもあまり見受けられないトンデモな珍説をぶってしまうほど当の捕鯨問題について驚くほど勉強不足な御仁。しかも獣医出身なのだから聞いてあきれます。獣医出身の捕鯨族議員といえば自民党・山際氏も該当しますが。

■美味い刺身*@案は廃案に!
http://kkneko.sblo.jp/article/180052125.html
■美味い刺身*@は廃止に!
http://kkneko.sblo.jp/article/180066359.html
■種子法廃止と捕鯨新法──美味い刺身≠ナ国民の目を欺く売国国会議員たち
http://kkneko.sblo.jp/article/180245823.html
■ちぐはぐ族議員とグルメ好事家官僚が明かした美味い刺身*@のデタラメ
http://kkneko.sblo.jp/article/180420343.html
■美味い刺身*@は廃止を!(プレゼン資料)
http://www.kkneko.com/sasimi/p01.htm

 なお、今月7日には公明党の族議員横山信一氏が捕鯨母船の更新について発言。実際、新年度の捕鯨対策予算のうち、約26億円から約38億円へと大幅に増額された円滑化事業の中に代替母船の検討が含まれています。さっそく美味い刺身*@の裏付けを得た格好。新母船建造問題については上掲載4番目のブログ記事で軽く触れていますが。
 下掲リンクの会議録を読めばわかるとおり、横山氏の発言はFCCJ会見時の自民党江島氏と同様、矛盾に満ちていました。というのも、彼は捕鯨母船に関する質問の直前に漁船対策そのものについて問うていたからです。

■第195回国会 農林水産委員会 第3号 平成29年12月7日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/195/0010/19512070010003a.html

 水産庁長官答弁にもありますが、全国の漁業者はいま、漁船の老朽化と安全性・収益性の悪化、代船と維持費の高コスト化と漁業者側の体力不足という、深刻な構造的問題を抱えています。しかし、それに対する水産庁の施策は、外郭団体を活用したリース条件の緩和や、オーダーメイドから統一仕様の量産品への移行によって建造費抑制をはかる造船業界団体の取り組みを支援するにとどまっています。つまり、結局は漁業者の自助努力任せ。共同船舶という1事業者に対しては、様々な経費を国が全面的に肩代わりする至れり尽くせりの大判振る舞いが認められているというのに。
 だいぶ以前にGPJが120億円〜200億円という試算を提示しましたが、新母船の建造であれ、日新丸と同じく既存のトロール等の改造であれ、そのコストはおそらく100億円は下らないでしょう。外野の反反捕鯨狂人が提唱するような、マルポール条約に抵触しない二重船殻、南極海までの往復によって生じる極端に高い環境負荷を抑えるためのアンモニア冷媒冷凍設備、バイオ燃料エンジン等の仕様を満たすエコシップにしようとすれば、それこそ200億〜300億円を軽く超えるのは必至。エコ嫌いの捕鯨サークルがそこまでやるとは思えませんけど。。
 いずれにしろ、今の共同船舶にはそれだけの費用を銀行から借りて返済する体力などあるはずがなく、最終的にはその巨額の負担を国に押し付けるに決まっています。儲かる漁業制度の特例的な適用の経緯を見ても明らかなように。しわ寄せは漁業者、そしてすべての国民にいくのです。
 水産業界内に存在する歴然たる格差。ビジネスとして成功した勝ち組だからという理由ですらない、ひたすら政治権力との癒着によって生み出された絶対的なヒエラルキー。
 他の捕鯨族議員と同様、横山氏はそのことにまったく無自覚ですが。

 もっとも、捕鯨ニッポンのなりふりかまわぬ国営捕鯨の存続を、国際社会が指をくわえて黙って見ているわけはありません。こちらでも2つ大きな動きがありました。
 その1つが、今年のワシントン条約(CITES)常設委員会で象牙とともに日本が槍玉に挙がったイワシクジラ公海からの持込問題。国際法学者ピーター・サンド教授らから長年指摘され続けてきたことでしたが、事務局もついに重い腰を上げました。会議の席上では、IWCでは盟友のはずの一部のアフリカ諸国からも含め、日本はストレートな批判の集中砲火を浴びる状態に。1年の猶予期間は与えられたものの、日本の国際法(CITES規約)違反認定はもはや避けられない情勢。


 最終的には、おそらく日本は太平洋イワシクジラの条件付留保を変更することで対応しようとするでしょう。ICJ判決後の国連受諾宣言書き換えと同じく、法の支配を嘲弄する卑劣な逃げの手口ですが。
 しかし、これにより、ICJ判決に続き、日本の捕鯨のきわめて悪質な脱法体質の重要な証拠がまたひとつ積み上がることになります。度重なるIWC科学委の勧告無視の事実や、北方領土−豪サンクチュアリダブスタ問題と合わせ、もし次に国連海洋法裁判所(ITLOS)等の場で国際司法の判断を仰いだなら、日本の調査捕鯨は今度こそ「完全にアウト」との判定を下されることは疑いの余地がありません。
 そしてもうひとつの動きは、EUと豪・NZ・中南米12カ国による日本の調査捕鯨への非難声明。


 北朝鮮の核・ミサイル開発の場合であれば、制裁一本槍で同国の国民が困窮し多数の餓死者を出したり、さらに追い詰めて自暴自棄の行動に走る重大なリスクも慎重に考慮しておくべきでしょう。
 しかし、国際社会が国際法の審判に基づき、違法な調査捕鯨に対して実効性のある外交措置を取ったところで、日本が3/4世紀前と同じ暴挙に出ることはありえません。北洋漁業交渉の恨みに囚われた、捕鯨サークル中枢の一握りのメンバー以外の日本人は、さすがにそこまで狂ってはいないはずです。そこは、唯一北朝鮮と日本との大きな違いといえるでしょう。
 地球の裏側の南極の自然にまで食指を伸ばし、飽食の限りを尽くしながらなおも野生動物を貪りたがるならず者国家≠ノ、これ以上の横暴を許さないよう、関係各国の英断に期待したいもの。

 CITES常設委での批判の嵐とEU+12カ国による共同非難声明は、やはり象牙・べっ甲・熱帯木材等の輸入や遠洋漁業の乱獲・捕鯨によってコンサベーション・ギャングとしてたたかれたバブル期の頃を彷彿とさせます。今日の野生動物取引では稀少ペットの輸入の比重が増えたものの、熱帯林関連ではパーム油大量消費や五輪木材調達の問題が指摘されるところですし、象牙も相変わらず後ろ向きの姿勢で他の先進国との差が際立っています。マグロ・ウナギ他近海の水産資源も持続的にきちんと管理されているとは到底言えない状態。ベクトルの点で最悪なのはやはり捕鯨ですが。
 前述したように、国と市民の意識の面ではもはや中国にまで追い抜かれ、世界に厳しい視線を向けられる始末。「金はあっても心の貧しい後進国」というのが、いま世界の目に映る日本の姿なのです。
 思えば、かつてのバブルも幻想に支えられた代物でしたが、安倍バブルは為替・金利の錬金術に支えられた張りぼてにすぎず、将来世代により重いツケがのしかかるだけ。大企業の不正や談合、労働者の搾取が露になり、国際競争力は落ちる一方。そして、教育への投資や報道の自由度、女性や外国人・マイノリティの人権など、民主主義の指標の面でも、日本の評価は下がるばかり。
 中身が空っぽで欧米と対比させひけらかすことしかできないデントウ賛美と、暗く醜い過去の史実を頭から追いやる歴史修正主義に特徴づけられる反反捕鯨ナショナリズムは、そんな現実≠ゥら目を逸らしたい日本人の自尊心をくすぐるために用意されたエンターテイメント≒虚構≠ノすぎません。「世界一のクリスマスツリー」じゃないけれど。
 もちろん、一部のネトウヨ層を除く日本人の多くは、北朝鮮ミサイルショーにもシーシェパード体当たりショーにも、きっともう辟易してきているでしょう。そんな演出にいつまでも引っかかるほど、国民はバカではないはずです。3/4世紀前と同じ愚を繰り返すほどバカでは。米国がトランプのフェイクショーに飽きる方がきっと早いでしょうけど。

 美味い刺身*@に反対・棄権してくれた少数の勇気ある議員を除き、永田町が偏狭なナショナリストと無責任な食通に占められてしまった現状では、残念ながら日本人としてできることは限られています。とはいえ、外圧頼み一辺倒というのも情けない話。
 しかし、度を越した捕鯨サークルの振る舞いに、日本国内でも眉をひそめる動きが広がりつつあります。

 悪法制定に続き厚顔無恥も甚だしいのが、内外の野生生物保全関係者・IUCNをあまりにもバカにした海のレッドリスト水産庁版の発表。一言で言うならレッドリスト詐欺=B喩えるなら、電力業界の意のままに操られた地質学者が、原発施設直下の活断層の危険をゼロと偽って報告するのにも等しいまねを、彼らはしでかしたのです。

■徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト
http://kkneko.sblo.jp/article/181313159.html
http://www.kkneko.com/kikaku.htm
■Japan's red list of marine creatures by Fiseries Agency is too terrible!!
http://www.kkneko.com/english/redlist.htm

 科学者はクリエーターに負けず社会的に非常に高いステータスと影響力を与えられていますが、筆者は職人以上に敬意を払う必要はないと思っています。筆者がリスペクトするのは、肩書きだけの研究者ではなく、保全と市民の啓蒙のために尽力し、自然・命に対する畏敬と愛を忘れることなく、負荷を抑える努力と創意工夫を惜しまない人たちです。
 まさにそれと対照的なのが、日本の御用鯨類学者。捕鯨業界におんぶに抱っこで、陰謀論や人種差別被害妄想に凝り固まるトンデモ映画監督と同水準のザンネンなヒトたち。ヒトの命すら軽視する軽はずみな発言を平気でしてしまうヒトたち。
 最悪のレッドリスト策定に携わり、IUCNでは今年ENへと格上げされたスナメリを含む全鯨種をランク外に突き落とすまねを平然とやってのけた御用学者たちには、研究者を名乗る資格などありはしません。
 不幸中の幸いにして、水産庁のトンデモレッドリストは水産学方面を含む内外のまじめな研究者・NGOから酷評を受けています。今の水産庁に保全施策を委ねるのは百害あって一利なしだと、多くの人が気づき始めています。
 永田町の族議員を旨い刺身≠ナ釣って強引に国政を動かしてきた捕鯨サークルですが、世界でも、そして日本国内でも、思惑どおりに事は運ばなくなりつつあるのです。
 トンデモレッドリストの問題点の認知に際しては、勉強嫌いの御用学者と違って最新版IUCNガイドラインをしっかりチェックした筆者もほんのちょっぴり貢献したつもりですけど。

 最後にもうひとつ、個人的な話をば。今年ようやく小説『クジラたちの海』の英訳が完成しました。


 といっても、拙訳のためだいぶ粗いですが・・。引き続きプロの監訳者募集中。詳細はHPのフォームにてお問い合わせくださいm(_ _)m
 年末年始の休みの間に、続編『クジラたちの海 ─the next aeg─』の挿絵も追加したいと思っています。ニャンコ王子が来て以来、全然タブペンを握ってないのですが(--;;

 2018年がクジラたち野生の生きものたち、そしてニャンコたちにとってより良い一年でありますように──
posted by カメクジラネコ at 17:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2017年10月18日

徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト

 さる今年3月21日、環境省と水産庁が合同で日本の海に棲む野生生物のレッドリストを発表しました。

■環境省版海洋生物レッドリストの公表について|環境省
■海洋生物レッドリストの公表について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/170321.html
■海洋海洋生物レッドリストの公表について|〃

 以下は御三家を中心に日本の主要な環境NGOが共同で出した声明。IKAN(イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク)も加わっています。

■絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の一部を改正する法律案に対する意見書|WWFJ
■日本政府が公表した海洋生物レッドリストに対する意見|NACS-J
http://www.nacsj.or.jp/archive/2017/03/3824/

 海のレッドリスト初公表ということでマスコミも伝えたものの、そのほとんどは環境省版の概要のみでした。そんな中、朝日が科学面で、東京が特報で、水産庁レッドリストの問題点を解説。NGOの意見も取り上げています。

■「海のレッドリスト」に異議 世界は「絶滅危惧」判定、日本で覆る例も (4/20, 朝日)
■Environmental groups doubt Japan’s Red List for marine life (5/21, 朝日英語版)
■問題山積「海洋生物レッドリスト」|NACS-J

 この件については両省庁の報道発表時、筆者もツイッター等で水産学・野生生物保全方面の識者の意見などを紹介したところ。
 リツイートしたドジョウの研究者オイカワマル氏(@oikawamaru)とアナゴやウミヘビの研究者ヒビノ氏(@wormanago)のやり取りは必見。

 
 今回、日本自然保護協会(NACS-J)が水産学の研究者とともに環境担当記者向けにプレゼンした資料を拝借し、水産庁資料をIUCN(国際自然保護連合)のガイドラインと突き合わせて詳細に検証したレポートを作成しました。

■徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト

 ファイルはワードとエクセルの2ファイル。英語版は要点の解説と図表のみ。全141ページ中前半はIUCN非準拠のカテゴリーと基準など問題点の解説、36ページ以降の約100ページは主に評価対象となった小型鯨類を筆者がIUCNガイドラインに沿って判定し直した結果を水産庁の評価と対比させた「真・レッドリスト」という構成です。
 以下、ここでは図表とともに要点をお伝えしましょう。

 実は、日本のレッドリストは従来の環境省陸域版も含め、本家であるIUCNのそれと評価の仕組みが異なっています。
 特に問題なのが「DD(データ不足)」と、今回水産庁がどっちゃりぶち込んだ日本オリジナルの「ランク外」の2つ。

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 2枚目の図は1枚目のNACS-J資料の図1をもとにDDの違いを表したもの。

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 表記が同じでも、IUCNと日本のレッドリストでは要件が異なるのです。IUCNだったらNTと判定する種が日本ではDDにされたり、IUCNならDDに含めるはずの種を日本はランク外に入れちゃったりしているわけです。

 カテゴリーの違い以上に問題が大きいのが、各生物種を判定する際の基準の違い。これは従来の環境省版にもない、今回の海洋生物レッドリストで新たに導入された仕組みです。それが基準E優先主義と独自規格の準基準E。

redlist_j03.png

 この準基準Eがクセモノ。実質は基準Aと変わらないのに、基準Aより設定がとことん甘い(当の種・守りたい人たちの側にとっては辛い)ため、大幅に評価が変わってしまうのです。
 例に挙げたのはケープペンギン、ミナミイワトビペンギン、キタオットセイ、ホシチョウザメ、そしてニホンウナギ。こういう具合。

redlist_j04.png

 酷い代物ですね・・。IUCN・環境省が査定した絶滅危惧種のほとんどは、水産庁方式で判定したら間違いなく格下げを余儀なくされるでしょう。
 河川・汽水域生息する種の扱いでニホンウナギは環境省が判定し、ENと認定されてマスコミが大々的に報じ、注目されました。しかし、もしニホンウナギが水産庁担当の海産種として扱われたとしたら、ニホンウナギを「ランク外」とする判定結果が導かれたうえで、「絶滅の心配はないので、好きなだけウナギを食べていい」というPR に使われ、とめどない乱獲に拍車がかかったことは疑いの余地がありません。
 図5は図4の4種の判定の詳細。水産庁が評価に用いたのと同じ計算です。水産庁版には「500頭になるまでの年数」の欄はありませんが、高校レベルの数学で計算できます。準基準Eによる判定は、専門家にしてみればその程度の楽な仕事=B

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 それでも安心できなかった≠轤オい水産庁は、さらに駄目押しの手順を用意しました。IUCN非準拠のカテゴリーと基準を用いても運悪く$笆ナ危惧と判定されてしまった場合に備え、「付加的な事情の考慮」という定性評価に基づく再判定で定量基準による評価をあっさりひっくり返してしまえる仕組みを設けたのです。これでは何のための基準E優先だったのかわかりません。言ってることが矛盾だらけでもうグチャグチャ。これを使ってDDに落とされたのが唯一ランク外を逃れたナガレメイタガレイ。

 レポートで詳しく述べましたが、水産庁によるレッドリストの政治利用の悪影響は甚大です。最も懸念されるのは、環境省レッドリスト陸域や各自治体のRDBへの波及。もし、それらが水産庁方式へと右へ倣え≠キることにでもなれば、結果的に日本の絶滅危惧種は大幅に減ることになるでしょう。それらの種の境遇に何の変化がなくても。

redlist_j06.png

 水産庁レッドリストとかぶる上掲の各魚種が煽りを受けるのは必至。
 一番心配なのはスナメリ。広島ではスナメリの回遊域が天然記念物として保護され、市民に温かく見守られていますが、「絶滅の心配もないのに守ろうとするんじゃねえよ」と非難を浴びないか気がかりです・・。スナメリに対するあまりに酷い判定については真・レッドリストのスナメリの項を参照。


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 スナメリの他にも、NGO共同声明でも指摘されているとおり、ツチクジラの新種(カラス)発見の件にもまったく言及がないなど、「これで本当に専門家の仕事なのか?」と目を疑いたくなるほど。ツチクジラについては、固有の複雑な社会性(ゴリラに似た父系社会)を持つ可能性が指摘されていますが、IUCNのガイドラインに沿った社会性への配慮はゼロ。また、同種のオホーツク海系群は同海域への適応状況から、海水温の上昇によって生息域が大幅に縮小するリスクがあります。そうした検証も一切なし。

-Evidence Indicates Presence of Undescribed Beaked Whale Species in North Pacific
http://www.sci-news.com/biology/evidence-undescribed-beaked-whale-species-04060.html
-Genetic structure of the beaked whale genus Berardius in the North Pacific, with genetic evidence for a new species
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/mms.12345/abstract

 ツチクジラに限らず、大半の鯨種ではmejor threatの評価欄に「脅かす条件は見当たらない」がズラリと並んでいます。保全の見地が最初から完全に欠落しており、お粗末の一語に尽きます。鯨類が気候変動やプラスチック・重金属や有機塩素化合物等の化学物質による汚染、過剰漁業による餌生物の減少、遺棄魚網を含む混獲、船舶の高速化や交通量の増加、ソナーの影響等々、さまざまな人為的な環境異変によって棲息を脅かされているのはもはや世界に周知の事実なのに。

■クジラたちを脅かす海の環境破壊

 この点は、文献と合わせて上掲のいくつもの要因をきちんと列挙しているIUCNによる評価との圧倒的な差。IUCNは別にクジラをヒーキしたわけではなく、他の野生生物と同等に扱っただけ。クジラについてのみ常軌を逸したサベツを行っているのは紛れもなく水産庁の方。

 では、魚、あるいは漁業者にとって、今回の水産庁レッドリストはどのような意味を持つでしょうか?
 実際のところ、近海の主要な漁業資源の半数が枯渇状態という惨憺たるありさまを改善するのにはまったく役立ちません。それどころか、「乱獲乱獲いうけど、絶滅に瀕する魚は1種もないんだから、それほどたいしたことじゃない」という大きな誤解を国民の間に生みそうです。というよりむしろ、それこそが水産庁の目論見だとしか考えられません。

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 もうひとつの動機は言わずもがな、「絶滅に瀕するクジラはいない」との捕鯨サークルの従来の主張に合わせること。スナメリもツチクジラもシャチもミナミハンドウもハッブスオウギハクジラも、全種をとにもかくにもランク外に引きずり落とさなければならなかったというわけです。実際、水産庁自身の過去の評価(それさえも問題点を指摘されていたのですが)は覆されました。再評価にあたって全基準による再判定もなされてはおらず、その点もIUCNガイドラインに違反しています。
 以下は水産庁の2回の判定と、日本哺乳類学会、IUCN、そして筆者自身の判定結果を比較したもの。(協力:IKAN)

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 各鯨種の評価の詳細はレポートをご参照。レポートでは水産庁が対象に含めなかったヒレナガゴンドウ(事実上絶滅)、ヒゲクジラのミンククジラ(J系群)とクロミンククジラもあえて加えました。
 ここでは1例として、シワハイルカの判定を挙げておきましょう。
 以下はIUCNの基準A計算ツールに水研機構のデータをあてはめて算出した結果。日本近海に限定されるとはいえ、最も絶滅の恐れが高いCRの判定に。

redlist_j10.png

 水研機構による目視調査でこれほどの急減が示されたにも関わらず、水産庁は太地のイルカ漁業者のために今年から新たな捕獲枠を設定してしまいました。絶滅危惧のステータスが明らかになった段階で新たな開発に着手し推進するなど、野生生物・生物多様性保全の立場からは言語道断。逆に言えば、同種を絶滅危惧種に入れさせないことが水産庁にとっての至上命題だったのでしょう。

■イルカビジネスで胃袋を拡げる太地とエコヒーキ水産庁

 なお、9月から始まった今期の追い込み猟で、太地は早速割当を超過するほどシワハイルカを捕獲し、リリースした若い個体も衰弱死していたことが、監視にあたるNGOから報告されています。同種は捕獲の減っている(少なくとも乱獲がその一因である可能性は濃厚ですが)ハンドウイルカの代替品=A水族館向けの新商品≠フ位置付け。
 太地町イルカ猟関係者と水産庁にサステイナビリティの感覚が根本的に欠如していることを改めて明示したといえます。

 NACS-Jは「このままIUCNと異なる基準を維持する場合、『レッドリスト』という名称の使用を停止し、全てのカテゴリー名を変更することが必要ではないか」と指摘しています。筆者もまったく同感。水産庁がやったのはレッドリスト詐欺。例えるなら、金融商品や企業・政府の信用度を示す格付で、世界版ではリスクが懸念されB,C,Dにランクされているものが、日本版では安全な資産としてAAAの評価を得るようなものです。
 水産庁にレッドリストの評価を委ねるのは百害あって一利なし。環境省の仕事に不相応に手を拡げようとしないで、自身の本分:日本の水産業をきちんと管理し、世界に胸を張れるところまで建て直すお仕事に専念して欲しいものです──。

 以下は拙サイト英語版(内容は要約)。水産庁トンデモレッドリスト問題についてはもう一段のアクションも検討中。

■Japan's red list of marine creatures by Fiseries Agency is too terrible!!
posted by カメクジラネコ at 10:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2017年08月03日

八戸の恵比寿神:八戸太郎/オナイジを殺す捕鯨サークル

八戸の恵比寿神:八戸太郎/オナイジを殺す捕鯨サークル──持続的な海との付き合いを変質させたヨソモノ近代捕鯨の重い罪

 去る7月11日のこと、びっくり仰天のニュースが飛び込んできました。

■青森・八戸港拠点の調査捕鯨が18日にも開始 (7/11,デーリー東北)@
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170711-00010000-dtohoku-l02
http://www.daily-tohoku.co.jp/kiji/201707100P178883.html

 何にそんなに驚いたかといって、「八戸沖で調査捕鯨をやる」なんてことは、日本政府が国際捕鯨委員会(IWC)に提出した北西太平洋鯨類科学調査(NEWREP-NP)の計画書には一行も書かれていなかったからです。
 地方紙デーリー東北のスクープの後、実施当日の18日以降に各紙の報道とともに水産庁の発表がありました。

■「平成29年度北西太平洋鯨類科学調査(太平洋側沿岸域調査)」の実施について|水産庁 A
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/170718.html

■八戸沿岸で初 調査捕鯨始まる (7/18,NHK青森)B
http://www3.nhk.or.jp/lnews/aomori/6085148021.html(リンク切れ)
http://archive.is/uGSo5
■三陸沿岸の調査捕鯨開始 青森・八戸港から初 (7/18,共同通信) C
http://www.47news.jp/news/2017/07/post_20170718113203.html
https://this.kiji.is/259869982215995393
■八戸港基地に調査捕鯨始まる 8月半ばまで (7/19,朝日青森) D
http://www.asahi.com/articles/ASK7L2JWYK7LUBNB007.html
■八戸沖での調査捕鯨始まる 8月中旬までの予定 (7/19,デーリー東北) E
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170719-00010003-dtohoku-bus_all
■調査捕鯨船 八戸港から2隻、三陸海岸へ出港 (7/27,毎日宮城) F
https://mainichi.jp/articles/20170727/ddl/k04/020/152000c
■“八戸産”の鯨肉市場デビュー 調査捕鯨で捕獲 高級部位はご祝儀相場 (7/25,デーリー東北) G
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170725-00010001-dtohoku-bus_all
http://archive.is/9iONM

 そして、同20日にはオーストラリア・ニュージーランド(以下、豪・NZ)両政府が強い非難声明を発表。
 さらにはEUも(こちらはマスコミには報じられませんでしたが)。

■豪・NZが捕鯨批判=日本に「深く失望」 (7/20,時事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2017072001055&g=eco
■NZ、豪が調査捕鯨を反対 河井首相補佐官「大変残念」 (7/20,産経BIZ/共同)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170720/mcb1707201852031-n1.htm?utm_content=buffere6cdd&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer
■EUの北西太平洋調査捕鯨(NEWREP-NP)への声明文|ika-net日記
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/eunewrep-np-c06.html

 自国の領海・サンクチュアリを含む南半球の自然を侵す日本の南極海調査捕鯨に対し、豪州・NZ両国政府と国民が憤るのは当たり前の話。その一方で、両国大使館関係者やIWCコミッショナーは、日本の沿岸捕鯨に関しては一定の理解・歩み寄りの余地を示していたのも事実です。市民の反応や、いわゆる過激派シーシェパード(SSCS)を含む反捕鯨団体の抗議活動も、南極海と北半球の日本近海とでは大きな温度差があります。実際、JARPNT/U(NEWREP-NP前の北西太平洋調査捕鯨)が抗議船の妨害活動を受けたことはありません。それもまた当たり前の話なのは、狂信的な反反捕鯨原理主義者以外の日本国民の皆さんなら誰しも頷かれるでしょう。
 ところが、今回各国から公式の抗議声明が出されたのは、NEWREP-NPの口火を切った網走捕鯨でも、母船日新丸による沖合捕鯨でもなく、八戸沿岸の調査捕鯨開始のタイミングでした。
 一体なぜなのでしょう? 八戸で捕鯨を始めたことの何が世界の人々を怒らせたのでしょうか?
 答えはもちろんはっきりしています。今回唐突に浮上した八戸沖調査捕鯨があまりにも問題が大きすぎるからです。
 そもそも八戸捕鯨を含む大枠のNEWREP-NP自体、また八戸と同じく調査海域として新たに付け加えられた網走沖調査捕鯨も、法的・科学的ないし保全の見地から非常に多くの問題点を抱え、擬似商業捕鯨の謗りを免かれない代物。沖合調査はCITES規約違反のイワシクジラの捕獲枠増加で違法性を強め、網走沖は過去の商業捕鯨の乱獲と今日も続く混獲によって絶滅危惧に陥っている希少な野生動物個体群であるミンククジラJ系群をさらに追い詰めるものだからです。詳細は以下をご参照。

■北太平洋新調査捕鯨計画の国際法違反(国際法上の脱法操業)の可能性について|真田康弘のブログ
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-05-22
■史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨=b拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/177973131.html

 ここでは上掲マスコミ報道の記述を中心に、八戸沖調査捕鯨の問題点を解説していきます。以下、背景着色部分引用。
 最大の問題は、冒頭で指摘したとおり、世界に何の通告もなしにいきなり始めたこと。北朝鮮のICBM発射実験レベル。
 寝耳に水だったのはIWC加盟各国・NGOのみならず、科学委員会・専門家パネルで日本の計画書を審査した研究者らも同じ。彼らにしてみれば、「わざわざ日本のために多大な時間と労力を割いたのは一体何だったのか?」と強い不快感を覚えても無理はないでしょう。
 2014年に南極海での調査捕鯨(JARPAU)が国際司法裁判所(ICJ)に違法認定された直後、日本はJARPNUに大幅な修正を加えたうえ、IWC科学委員会に計画書を提出する前、判決が出てから1ヶ月も経たないうちに、三陸沖の春季沿岸調査を始めてしまいました。これは国際捕鯨取締条約(ICRW)附表第30項違反に該当する疑いが濃厚です。調査捕鯨はICRW第8条のもとで締約国が特別許可証を発給していいことになっていますが、事前にIWC事務局に通知するとともに、十分な時間をかけて科学委員会で内容を審査することが義務付けられています。日本は国連受諾宣言を書き換えて逃げてしまったので、違法性に対する司法判断を仰ぐのは難しくなりましたが。

■JARPN IIの違法性について|拙HP
http://www.kkneko.com/jarpn2.htm

 そのときの日本側の言い訳は「同じ計画をちょびっといじっただけだから勝手にやったぞ。文句あっか!」。しかし、今度は新計画で中身を伝えなかった以上、そんな言い逃れは利きません。
 このときのJARPNUは仙台沖でしたが、新計画でも三陸沖調査で同じ違反を繰り返したともいえます。2度目の違反切符。サッカーならイエローカード2枚、出場停止相当。いや、2枚目はやはりレッドカードというべきですが……。
 いわば、日本の調査捕鯨は八戸沖で悪質さ≠一段とエスカレートさせたわけです。IWC・同科学委に対するお座なりな態度からは、国際法と国際機関の尊重および国際社会に対する配慮の欠如が明らか。まさに北朝鮮のICBM発射実験レベルの唯我独尊・挑発外交。
 それが、豪・NZ・EUが日本を強く非難した理由。
 発表が唐突だっただけではありません。
 今回の水産庁の説明は、先の国会の閣僚・官僚の答弁、あるいは自民党の捕鯨族議員江島氏のFCCJ会見でのちぐはぐなコメント(前回の当ブログ記事)と同じく、まったく要領を得ず、合理性を欠くものでした。
 国会で国民への説明責任を果たそうとしない与党の奢りにも等しい姿勢を、世界に対して示したわけです。

 例えば、直前まで八戸沖での実施を直前まで公表しなかったことについて、水産庁の説明は二転三転しています。
 第一報11日のデーリー東北のスクープでは「次の調査地点は調整中であり、決まり次第公表する」(@)。特区獣医学部なり放射性廃棄物処分場じゃあるまいに。直前まで調査地点が決まらないなど、科学調査ではありえない話。
 第一、先だって制定即発効したばかりの美味い刺身*@のもと、調査海域は国がトップダウンで決めることになっていたハズです(同法第6条2)。法律がありながら、なお地元・事業者の顔色をうかがって当日ギリギリまで調整が続いていたなんて、沖縄の声を無視して新基地建設を強引に進めたのとはあまりに対照的ですね・・
 ところが、18日には同じデーリー東北に対し一転して以下の表現に(E)。

 八戸の拠点化は「反対活動の恐れがある」として、実施日の18日まで公表しなかったと

 まあ、処理場を確保するのに一週間前まで未定などということも、同じくありえない話でした(カガク上の目的よりむしろ)。
 しかし、いくら水産庁が口チャックでも、1週間も前の11日の時点で「関係者」がマスコミ記者に対して情報を漏らし、記事にさせていれば台無しです。水産庁が公表を渋った理由は「反対活動から事業者を守るため」であるはずです。つまり、妨害によって被害を被るはずの、それ故に水産庁が庇ったはずの関係者自身は実はまったく気にしていなかったということです。
 それ以上に致命的な矛盾があります。JARPNUから継続する釧路、そして八戸と同様にNEWREP-NPから新規に調査を始めた網走沖の調査は実施の半年も前に公表されていました。IWC-SCでも指摘されているとおり、Jストックの比率が高い網走沖の方が、純粋に保全の見地からは相対的に八戸沖より問題が大きく、反捕鯨団体からより強い反対があるのも網走沖の方であることは自明。
 網走や釧路、下関は安全だが、八戸は危険度が段違いだと水産庁は言っているのでしょうか?一体、八戸市にはSSCSの支部でもあるのでしょうか??
 それとも、焼き討ち≠ノ遭うのを恐れたのでしょうか?(後述)

 さらに、NHK報道ではもっと不可解な記述が。この文脈は網走に関する話ではありません。

水産庁は6月、日本沿岸での調査海域を広げる新たな調査計画をまとめていて (B)

 この6月に日本政府はNEWREP-NPの最終計画書をIWCに提出しました。IWC-SC・専門家パネルの指摘の一部に対する応答としての捕獲枠微修正を含め。このときも八戸沖調査については一言もなかったのみならず、三陸沖調査のJARPNUからの内容や目的の変更についてもまったく言及がなかったのです。しかし、実際には八戸での実施が決まっていたと、NHKは報じているわけです。
 要するに、そのことをIWCに対して伏せたわけです。「反対活動の恐れ」を理由に。
 そして、今後も日本政府は「反対活動の恐れ」を口実に、国際機関に出す計画書に事実を記さず、嘘をつき続けるということを、世界にはっきり示したわけです。

 もうひとつ、各報道と水産庁自身の発表で大きく食い違う説明があります。
 それは、三陸沖調査捕鯨の実施箇所について。
 水産庁自身の公式見解は以下。
 
北三陸から北海道にかけての太平洋側沿岸域
(青森県八戸市八戸港を中心とした沿岸域。その後、ミンククジラの回遊に合わせ、北海道釧路市釧路港を中心とした沿岸域。) (A)

 つまり、JARPNUの太平洋沿岸調査2箇所「釧路沖・三陸沖(仙台沖)」がNEWREP-NPでは「釧路沖・三陸沖(八戸沖)」に変更された形。調査海域が2箇所のままであるのは同じ。
 記事@は一応この説明を踏襲しています。

八戸は太平洋の80頭を釧路と分ける形になる。
前計画に基づく00〜16年度の調査捕鯨は鮎川港(宮城県石巻市)、釧路が拠点。仙台湾内で調査する鮎川は16年度の捕獲上限51頭に対し16頭にとどまるなど、減少傾向が続いていた。

 ところが、18日以降の各記事では一変。

沿岸調査では従来の釧路(北海道)、鮎川(宮城県)両港に加え、八戸、網走港(北海道)を拠点とした。(E)
太平洋沿岸の調査捕鯨は従来、釧路(北海道)、鮎川(宮城)両港を拠点に行われてきたが、本年度から八戸が加わった。(G)
これまで北海道釧路市や宮城県石巻市の沿岸で行われてきましたが、水産庁は6月、日本沿岸での調査海域を広げる新たな調査計画(B)
これまでの鮎川港と北海道釧路港に加え、八戸港と北海道網走港が新たに加わった。(D)
沿岸の調査捕鯨は例年、鮎川港(宮城県石巻市)と釧路港(北海道)を拠点としていたが、生態をさらに詳しく調べるため、本年度から調査海域を幅広くした。(F)

 つまり、2箇所を3箇所に増やしたことになっているのです。JARPNU「釧路沖・仙台沖」からNEWREP-NP「釧路沖・仙台沖・八戸沖」に変更されたと。
 とくにEとGは同じデーリー東北で、同一の記者が同一の取材源からの情報をもとにして記事を書いたはず。にもかかわらず、水産庁発表どおりの説明だったのが、1週間後以降の記事では水産庁とは食い違う説明に置き換わったことになってしまいます。
 ちなみに、Fの毎日の「幅広く」の表現は国語的にも科学的にも完全な誤記。これは記者の能力の問題でしょうが。
 ともかく、この2つを取り違えて報道するなど、許されていい話ではありません。
 調査海域が2箇所か3箇所かによって、それぞれの海域における捕獲数も変わってきてしまいます。
 各記事から八戸沖の捕獲枠が30頭(上限)であるのは確定。
 ですから、もし調査海域が2箇所、つまり@の「80を分ける形」とすれば、釧路沖の捕獲枠は50頭になります。
 一方、3箇所だとすれば、釧路沖と仙台沖がそれぞれ25頭ずつか、あるいは、上記@が示唆する減少傾向の仙台沖分の振り分けと考え、従来のJARPNUの数字と合わせるなら釧路沖が40頭、仙台沖が10頭という配分になるでしょうか。
 あるいはひょっとして、今年は2箇所(釧路沖および八戸沖)にするものの、来年以降に様子を見て仙台沖を付け加える心積もりなのかもしれません。公式見解で「太平洋沿岸域と網走沿岸域」と官僚らしからぬ統一性のない表記になっているのもそれを匂わせます。本来なら沿岸3ないし4箇所を並列で書くか、「太平洋沿岸域とオホーツク海沿岸域」とするべき。
 事実が3箇所であれ2箇所であれ、八戸沖30頭という捕獲枠設定はきわめて重大な問題を引き起こします。
 そもそも、IWC-SC・専門家パネルが日本政府の提出した同計画をレビューした際に、「沿岸2箇所各50頭ずつと沖合27頭では統計的にも整合性がとれない」と指摘したのを受け、修正された最終版で沿岸各40+沖合43頭に変更したハズなのです。
 専門家の仕事をここまでバカにした話はありません。繰り返しになりますが、「一体何のために多大な時間と労力を割いてやったのだ!?」ということです。
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 ひとつ考えられるのは、記事@に裏付けられる、JARPNUでは終盤に釧路沖も仙台沖も枠を消化できなかったため、操業海域を3箇所に増やした可能性。
 つまり、沿岸80頭の捕獲枠とは、すなわち「どこでもいいからともかく80頭分のミンク鯨肉生産(およそ200トン前後)を沿岸捕鯨で確保する」という以上のものではないということ。
 上掲真田氏のリンク資料で説明されている非ランダムサンプリングの設計仕様と合わせ、およそ科学調査の範疇からかけ離れた恣意的な運用は、もはや違法な商業捕鯨以外の何物でもありません
 八戸沖調査捕鯨によって、名目こそ国際条約に基づく科学調査を謳っても、内容は100%商業捕鯨とイコールという新たな調査捕鯨のスタイルを日本は編み出したといえるでしょう。
 その裏には、正規の国際法上の手続きを踏むことなく、なし崩し的にモラトリアムを形骸化させて事実上の商業捕鯨再開状態を作り出そうという日本の思惑が透けて見えます。
 当初は平和利用の人工衛星打ち上げや原発を装いながら裏で着々と準備を進め、世界が気づいたときにはもう手遅れ。「核兵器を作れる能力を備えてしまったのは事実なのだから、四の五の言わずに核保有国と認めてもらおうじゃないか」と胸を張る──そんな北朝鮮とまさにそっくりの開き直り$略にほかなりません。

 以下はその他の問題点の補足。
 上掲した記事@の「仙台湾内で調査する鮎川は16年度の捕獲上限51頭に対し16頭にとどまるなど、減少傾向が続いていた。」という解説に再度ご注目。
 なぜ仙台沖が減少したのでしょうか? 記事中にその説明は一切ありません。
 水産庁も鯨研も、JARPNU終盤の沖合調査および仙台沖調査で(昨年は釧路沖も)捕獲数が大幅に減少した理由について、「調査時期が来遊時期とずれた」というきわめて曖昧な表現以上の説明をしていません。これは単なる憶測にすぎず、調査捕鯨の科学的成果ではありません。これもまた、商売上の都合を優先して漁期≠決めてしまう調査捕鯨がクジラの生態を明らかにするうえでまったく役に立たない証拠ですが。
 付け加えれば、網走沖調査捕鯨を新規に始めた理由として、J系群の太平洋沖への染み出しを増加の根拠とする珍説を掲げた水産庁・鯨研ですが、このトンデモ仮説が一定の妥当性を持つとするなら、仙台沖の捕獲減少によってもミンククジラ(JおよびO系群)の個体数減少が証明されるといっていいでしょう。

生態系を保ちながらクジラを捕獲できる量などを科学的に調べる調査捕鯨(B)
生態解明を通じて日本近海で商業捕鯨できる頭数を詳細に算出するのが目的(E)
胃の内容物などを調べ、水産資源の管理に役立てる。(C)

 見事にちぐはぐな説明。調査捕鯨の何たるかを取材した記者らも当事者も理解していない証拠。当事者は理解していないというより、単に「適当にごまかせばいい」と思っただけなのでしょうが。
 上の2つはRMP精緻化のことを指しているハズですが、RMPは単一種を絶滅させないためのフィードバック型の管理方式で「生態系を保つ」趣旨のものではありません。クジラのみの複数種モデルを立てようとした中途半端な生態系モデルは、ICJ判決後事実上のゴミ箱行き。これとは別目的の胃内容物調査は不必要なモニタリングにすぎず、やはり「生態系を保つ」のに役立つ成果物は皆無。沿岸調査捕鯨は時間的にも空間的にも点の調査にすぎず、沖合(面)・沿岸(点でしかも非固定?)のうえ、ランダムサンプリングも「途中からやめていい」というとんでもない代物のため、やってることはデータ・モデルの精緻化どころかルーズ化。なお、沖合調査は一応「面でランダム」のハズですが、JARPNUではルートが恣意的に変更されたことにIWC-SC・専門家パネルで批判が挙がっています。
 加藤氏は「釧路と鮎川の間で調査海域が必要だった」(E)と言っていますが、点の調査ポイントを変えるだけでは意味がありません。「間ならどこでもいいので、インフラが整備されてるところにしたんだ」なんて、科学者が口にできること自体、首をかしげます。おそらく未解決の多系群判別問題に関係するのでしょうが、想定される回遊ルート・低緯度の繁殖海域を含む生息域全域にまで調査対象海域を広げ、周年調査を十年スパンで行って初めて、精緻な生態調査が完遂できるのです。
 そして、何度も繰り返しますが、調査捕鯨を20年30年続けながら、実際に水産資源管理に役立つアウトプットは何ひとつ出てきませんでしたし、これからも出ようがありません。

 続いて、仙台沖から八戸沖に移す(ないし新たに加える)理由。

「鯨食文化が根付くなど消費市場としての期待がある」(@)
水産庁の高屋繁樹捕鯨室長は「八戸は捕鯨にゆかりがあり、水揚げできる港湾インフラが整っていた」と選定理由を明らかにした。 (E)
加藤秀弘・東京海洋大教授は記者会見で「シロナガスクジラも捕獲されていたゆかりのある海域で、調査のための重要なインフラが整備されている」と立地条件の良さを強調した。(D)
八戸市の大平透副市長は、「八戸は捕鯨の歴史がある地域なので、陸揚げされたクジラが地元でも流通するようになってほしい」と話していました。(B)
八戸魚市場の川村嘉朗社長は「底引き網の休漁期に新たな商材が増えるのは市場にとってもありがたい。八戸に根付く鯨食文化がよみがえる契機となってほしい」と期待を寄せた。(G)

 加藤氏は網走のとき以上にコメントが壊れてますね。シロナガスを絶滅に追いやった乱獲に沿岸捕鯨が当事者として責任があるという話を「ゆかりがある」の一言でまとめてしまうとは、開いた口が塞がりません。加藤氏ら御用学者も捕鯨会社とともに責任を負う当事者ではありますが。
 それにしても、なんともたいしたカガク的動機≠烽ったものです。
 さて、関係者が異口同音に挙げた八戸の「鯨食文化」「捕鯨とのゆかり」とは、一体どのようなものだったのでしょうか?
 八戸で一体何があったか、皆さんご存知ですか?
 ここでも一部引用しますが、この問題に関心のある方はぜひ以下のリンク先の全文に目を通してください。

■ハマの大事件『くじら騒動』|八戸88ストーリーズ H
http://hacchi.jp/programs2/dashijin/88stories/09.html
■『八戸浦”くじら事件”と漁民』に見る、漁民から見た捕鯨 I
https://togetter.com/li/837408
■八戸浦”くじら事件”と漁民  事件を語る唯一の裁判記録を紐解く|八戸自由大学第14回講座より抜粋 J
http://soumai.p-kit.com/page189957.html
■八戸太郎|八戸妖怪巡り K
http://8-nohe.blogspot.jp/search/label/%E5%85%AB%E6%88%B8%E5%A4%AA%E9%83%8E

 漁民たちがこの行動へ至ったのは、事件から遡ること2年前。6月下旬、湊川口(現在の新井田川河口)に広がる砂浜に、魚、ホッキ貝、蟹など多数の死骸が打ち上げられた。漁民たちは、くじら解体の影響では?と疑念をもつ。
 その死骸を手に、村役場へ訴え出た。
 数日前、恵比須浜で長須くじらが一頭解体され、大量の鯨血、鯨油が、海に廃棄されていたからだ。
 その1年前、有力商家と一部の漁業組合理事は、石田屋旅館にて、捕鯨会社と会合を持ち、くじら解体場誘致は大きな利益をもたらすと判断、捕鯨会社による陳情を積極的に後押ししていた。
 それは、漁民たちを無視した強引なものであり、各漁業組合連合会や周辺の村々は硬く結束、大規模な反対運動へと発展し、6月の死骸打ち上げ事件は、更に漁民たちの結束力を強固なものとしていった。
 しかし、県はくじら解体場の設置を許可。
 設置に動いた東洋捕鯨は、恵比寿浜に解体場を建設、操業を開始した。
 瞬く間に、周辺海域は、鯨血に染まり、海面に鯨油が浮かび上がる。骨や臓物は、近隣の沿岸地まで、流れ着く有様で、沿岸部に生息するあわび、昆布などに被害が出始めた。
 鯨の処理方法にも問題があり、周辺は悪臭が立ち込める。
 「このままでは、生活の糧となるイワシまでも消えてしまう。」
 当時、主力魚種のイワシの不漁が続き、その対策を考えていた漁民たち。
 くじらによる汚染はイワシ絶滅に繋がっていくのではないか。
 漁民は不安と焦りで緊張が高まっていく。
 10月、捕鯨操業期間は終了したが、東洋捕鯨は無断で操業を続け、県は黙認。
 漁民たちの怒りは一気に頂点に達した。(H)

興味深い記述としては「捕鯨問題の歴史社会学」にも引用されている「伊藤昇太判事予審決定書」の「由来被告等の地方に於ては鯨を恵比須様と称して之を尊崇するの念熱く、鰯魚は鯨の遊泳に関する多しと為し、沖合遥かに鯨鯢の潮吹きを望見するや、合掌三拝して漁獲に幸あらんと祈るの慣習あり」ですかね
「エビス信仰」は日本各地にあり、北前では鯨を取らなかったり伊豆では寛政六年に捕鯨反対請願が行われていた(くじら取りの系譜 中園茂生)とかは知っていたが、詳細な事例を見ると、おぉっとなるな。
他には鯨会社焼き討ち事件の中心人物の1人とされている吉田契造氏による回顧録の「この地方では藩政時代から鯨をえみす(恵比須)さまとよび、鯨が鰯をつれてくるといってたいへん有り難っていた。その鯨をとる会社だからその設置に反対なのは当然のことであった」(187p)
なども興味深い
「捕鯨を許可する場合の地元の意見、衛生、水質汚濁等について次の『通牒』を出している。これは捕鯨基地設置について、どの町村でも漁民の反対があり、トラブルになっていることをふまえての措置であった。」
(八戸浦"くじら事件"と漁民 327p)
漁民からNIMBY扱いされていて草生える
なおその通牒の中身は「根拠地や設置に関する所在地住民の意向」や「附近海水汚濁と同時に棲息来遊する水産動植物との関係」などを調査し、必要と認めらる事項有れば事項すると有るが、八戸においては無視されていた模様。
「生計の手段を禁じられた漁民が禁漁期にホッキ貝を採ったとして検挙されていた」などの記述をみてうーんとなるなど。
なお期限外に捕鯨している捕鯨会社はお咎め無しだったので漁民がブチギレた模様。(I)

岩織氏は市議の時代に関係者が保存していた裁判記録の保存復元に尽力し、復元された裁判記録を丹念に読み直して、この事件を「公害反対、沿岸漁業権の確保、生活擁護、そして人権擁護があった」と評価し、漁民の怒りと行動の特徴を今回の著書で解き明かしている。
事件当時、酒を提供して決起した漁民を励ましたとして地元の醸造元・六代目駒井庄三郎氏が有罪判決を受けたが、その裁判記録が今日まで保存されていた。記録を提供した八代目駒井庄三郎氏は、「浜を守るための事件だった」とコメント。(J)

恵比寿浜の海を一望できる西宮神社にて、
良き友人だったニンゲン達が仲間のクジラを狩る残虐な光景を見せつけられた八戸太郎は、いったいどんな気持ちになっただろうか?
仲間達の血で真っ赤に染まる恵比寿浜には、もう以前の、漁民達との温かな交流の記憶は微塵も残ってはいなかったであろう。
ソレどころか、恩を仇で返すようなニンゲンの行為に、怒りを覚えないハズはない。
親密だった分だけ、裏切られたショックは大きく恨みは深かっただろう。
八戸太郎が妖怪変化するには十分過ぎる銃爪である。
ソレはまるでジブリ映画『もののけ姫』の劇中で、
自然を守る主(獣神)がニンゲンの兇弾によってタタリガミに変異してしまう状況と同様の経緯だったのだ。
荒ぶる海獣の祟りを裏付けるように、
あんなに大漁を誇り全国的にも有数の鰯産地として知られた八戸の海から、鰯が消えていった。
ソレどころか他の魚介類も姿を消してゆき、漁業が成り立たなくなってしまった。
いきおい漁民達のストレスも、どんどん高まっていったワケだ。
そして遂に、明治44年(1911)11月1日には、歴史的大事件「東洋捕鯨鮫事業所焼討事件」にまで発展し、多くの損害を出したのである。
鯨によってもたらされた繁栄の分だけ、
鯨の血によって奪われた海産資源や失った“信頼”は膨大だった。
『…その後、八戸太郎の恩恵を忘れ去った村人達は八戸太郎の怒りにふれましたとさ。どっとはらい』
これからは、
この一連の“史実”までを八戸太郎伝承として後世に語り継ぐべきなのではないだろうか?(K)

 地元八戸の方の卓越した文章に、グサリと胸をえぐられます。
 しかし、高屋氏をはじめ捕鯨サークルは、史実を後世に語り継ぐどころか、伝統を蹂躙した側の都合のいいように歴史を書き換えようとしたわけです。一連の報道が示すとおり。
 長文になりますが、さらに八戸太郎の物語を引用させていただきましょう。

八戸太郎についての伝承の詳細はこうだ…

その昔、鮫浦の海は連日の大荒れが続き漁をすることが出来ませんでした。
このままでは、村人の生活がダメになってしまいます。
そんなある日、村の若い漁師が果敢にも大荒れの海に漁に出ました。
若者の乗った船はあっと言う間に波に飲み込まれてしまいました。
若者は海の神を呪いながら最後を覚悟しました。
そこに、大きな鯨が現れ若者を助けて、海岸へ連れ帰ってくれました。
村人たちは、その鯨に感謝して、親しみを込めて鮫浦太郎(八戸太郎)と呼びました。
それから毎年その鯨が鮫浦の海に現れると、イワシの大漁が続くようになり、鮫浦の漁師は、八戸太郎を神の使いとして崇めるようになりました。
八戸太郎のおかげで大層、鮫浦の村は潤ったそうです。
実は、この鯨は、海から毎年伊勢参りをしていて、その行為は仲間の鯨も認めるところで、神への仲間入りも認められていたようなのです。
そして、数十年の時が流れ、その年の夏も鮫浦の人々は、八戸太郎を心待ちにしておりました。
しかし、待てど暮らせど八戸太郎は現れません。
とろろが、ある朝、村人は大騒ぎです。
鮫浦の浜(現西ノ宮神社前)に、鯨が打ち上げられ息絶えているではありませんか!
鯨は八戸太郎でした。
体には何本ものモリが打ち込まれています。
そのうちの一本に、紀州 熊野浦と刻印がありました
その年も、伊勢参りに行った八戸太郎は、不覚にも紀州の熊野浦の漁師にモリを打たれたに違いありません。
精一杯頑張って、鮫浦まで逃げてきたのでしょう。
鮫浦の人々は大いに悲しみました。
そして、八戸太郎は石になり、今でも西宮神社の前から海を見つめています。
現在、その石は、鯨石と言われています。

更に、興味深い“物語”が
八戸出身の高名な翻訳家:佐藤亮一氏の著書『鯨会社焼き打ち事件 みちのく漁民一揆の記録 明治四十四年八戸の<浜が泣いた日>』で語られている…(下記、原文まま)

鮫村の恵比寿浜東側の少し離れた海上に、日の出島という岩礁があり、このあたりに大昔から一頭の大鯨が棲息していた。
沿岸のイワシが不漁ときは、この鯨の主「日の出のオナイジ」様は、はるばる海洋の沖まで回遊してイワシの大群を見つけては鮫浦まで追い込み、おかげで漁師達は大漁をしたという話である。
この鯨の主「オナイジ」は、毎年、はるばる、みちのくの南部藩から、和歌山県熊野の権現まで「位(くらい)」をもらいに出向き、その印として、1回ごとに何やらの小石を一つもらって(呑み込んで)帰ってきたものだという。
ある年のこと、伊勢の某という鯨取りの親方が不思議な夢を見た。
夢に一頭の大鯨が現れて言うには、
「俺は、南部のオナイジである。毎年一回、熊野に位をもらいに上ってくるが、今年は三十三年目だ。三十三回位をもらえばもう大願成就、俺も魚神になることになる。だから今年のあがりだけは見逃してくれ、代わりに俺は進んでお前たちに取られてやるから」と言ったという。
翌日その親方は、漁師達を率いていつものとおり沖に出たが、珍しく大きな一頭の大鯨を見つけて捕獲した。
あとで大鯨を捕った漁師達は、この大鯨の肉を食べたが、残らず急病で死んでしまったという。

以上は明治7年7月ごろ、鮫村二子石の久次郎屋の老父が伊勢参りをしたときに、泊まった旅館の番頭が久次郎屋の老父が南部藩の人間だと聞いて話してくれたそうだ。(K)

 そう──八戸の漁師たちにとって大切な神・八戸太郎/オナイジだったクジラを熊野灘で殺したのは紀州の鯨組だったのです。1,100人もの漁民が伝統漁業を守るべく背に腹で立ち上がった暴動事件から百年が過ぎた21世紀、NEWREP-NP八戸沖捕鯨でやはり八戸沖のクジラに一番銛を撃ったのも、同じ太地の捕鯨業者。これを偶然と片付けられるものでしょうか?
 八戸でこの八戸太郎・鯨石とオナイジの物語が創作されたのは、長崎の深沢儀太夫のエピソードと同様、おそらく2、300年前のいずれかの時期でしょう。その当時の八戸の漁民が、熊野の鯨取りたちのことを「自分たちに恵みをもたらしてくれる神を強欲に殺す罰当たりな連中」と考えていたことが、2つ目の逸話のラストシーンからもひしひしと伝わってきます。

■民話が語る古式捕鯨の真実|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html

 さて、記事Eの水産庁高屋室長のコメントに港湾インフラが整っていたとありますが、八戸は往時には水揚日本一を誇り、昨年も全国の漁港中水揚でトップ10(数量7位・金額5位)に入る主要漁港。


 ここまでは「神を殺した近代文明の勝利」といえるのかもしれません。しかし、喜ぶのは早すぎました。
 悲しいことですが、以下は東洋捕鯨の進出以降、八戸太郎/オナイジとの結びつきをすっかり失ってしまった現代の八戸の漁業の実態を象徴する報道。

https://twitter.com/katukawa/status/725102737269075969
八丈島で地元の縄船が細々と獲っていたマグロの群れを、八戸の大型巻き網船が一網打尽。こんなことをしていたら、小規模漁業は消滅します。漁村が衰退するのは当たり前でしょう。(引用)

https://ja-jp.facebook.com/viva.pescador/posts/1012702312143541?fref=nf
(「<塩釜港>はやマグロ 巻き網船初水揚げ」2016/4/27,河北新報〜漁業問題ウォッチャー鈴木氏のFB)
■<塩釜港>クロマグロ、今シーズン初水揚げ (5/19,河北新報)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201705/20170519_13021.html

https://twitter.com/kaku_q/status/794374345694920704
馬鹿だねぇ…。(東奥日報)八戸港にサバ4600トン水揚げ 一日でさばき切れない数量のため、同日は運搬船25隻が計約3300トンを同港第1魚市場に水揚げ。残る11隻の魚約1700トンは4日に入札後、水揚げされる。(引用)

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/794509744459288576
早獲り競争の結果、サバ捌ききれませんでした(;´д`)(引用)

■八戸港にサバ4600トン水揚げ (2016/11/4,東奥日報)
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2016/20161104019339.asp

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/865330436561489920
ついに始まってしまった巻網クロマグロ初水揚げと、私も少し登場する毎日新聞のクロマグロ特集記事についてです。なお水揚げしたのは青森県八戸船籍の第88惣寶丸。八丈島の東沖周辺で操業とのことです。(引用)

■クロマグロなぜ絶滅危機 まき網で幼魚乱獲、政府の規制後手 (5/18,毎日)
https://mainichi.jp/articles/20170518/dde/012/020/004000c
■毎日新聞の太平洋クロマグロの記事とまき網クロマグロの初水揚げ
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-05-18-1

 2017年、八戸の行政は中央の捕鯨サークル+かつて神を殺めた熊野太地の言いなりのまま、再び神を差し出しました。
 八戸太郎/オナイジの嘆きの慟哭が聞こえてくるようです──
posted by カメクジラネコ at 16:23| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系

2017年07月23日

ちぐはぐ族議員とグルメ好事家官僚が明かした美味い刺身*@のデタラメ

 WDCのホームページに美味い刺身*@についての拙解説の英語版・独語版を掲載してもらいました。拡散よろしくお願いしますm(_ _)m


 なお、日本語の詳細な解説は拙HPのプレゼン資料をご参照。

■美味い刺身*@は廃止を!
http://www.kkneko.com/kikaku.htm

◇外国人記者向け会見でちぐはぐ族議員とグルメ好事家官僚コンビが明かした美味い刺身*@のデタラメな中身

 7月6日、日本外国特派員協会(FCCJ)で国会議員・水産庁担当者・NGOの三者が同席する異例の記者会見が開かれました。中身は先の国会で成立した調査捕鯨新法:「商業捕鯨の実施等のための鯨類科学調査の実施に関する法律」、すなわち美味い刺身*@について。
 会見に臨んだのは自民党の参議院議員江島潔氏、水産庁捕鯨室長屋繁樹氏、そして日本で長年捕鯨問題に取り組んできたイルカ&クジラ・アクション・ネットワーク(IKAN)の事務局長倉澤七生氏。
 江島氏はいわゆる永田町の捕鯨族議員、高屋氏は業界団体を天下り先とする水産官僚、そして倉澤氏が一般市民を代表する形。
 ひとつ奇妙なのは、海外プレス向けの説明役を引き受けたのが、同法案を先の国会に提出した民進党徳永エリ議員なり自民党山田修路議員ではなく、江島氏だったこと。建前上FCCJが招いたことになってますが、打診があってから適任者≠ニして彼が抜擢されたのは間違いないでしょう。英語が堪能でいらっしゃるのも理由のひとつなのでしょうけど。いわゆる捕鯨族議員としては、自民党捕鯨議員連盟会長を務める鈴木俊一議員や林芳正議員、鶴保庸介議員、伊東良孝議員、山際大志郎議員らがクジラ(肉)好きとしてしばしば名前が挙がってきましたが、和歌山県選出の鶴保氏や北海道選出の徳永氏、伊東氏を差し置いて元下関市長の江島氏が出てきたのは、今回の美味い刺身*@がどの方面のために制定されたのかを象徴しているといえるでしょう。
 また、以下の江島氏の事務所のFBには非常に不可解な記述が。

https://ja-jp.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1403984883050153&id=562447180537265
昨日、日本外国特派員協会主催の記者会見にゲストスピーカーとしてお招き頂きました。第193国会で江島議員が中心となって案を作成し、超党派の議員立法として与野党の協力の下で成立し、6月23日に施行された「商業捕鯨の実施等のための鯨類科学調査の実施に関する法律」について、スピーチと質疑応答をさせて頂きました。(引用)

 今回美味い刺身*@の法案骨子を作成したのが表向き*ッ進党の族議員チームであることは水産紙報道からも明らかになっています。ただ、提案議員は国会の場でも山本太郎議員の鋭い質問に対して応戦すらせず、ただ黙殺しただけでした。あるいは、公の場で海外記者の質問を受けるのは野党の徳永議員らでは任に耐えないとの判断から、下敷きの下敷き≠作成した江島氏が登場したとの観測も成り立つかもしれません。その場合、徳永氏ら民進党は自民党に名義貸し≠セけしたことになります。真相がどちらであるにせよ、民進党はまったくいいところなしですね。
 なお、江島氏が今月13日に報告に帰った下関市と調査捕鯨利権の深〜い関係については、以下の拙ブログ過去記事もご参照。記事が書かれたのはかつて江島氏とその座を争いつつ後を継いだ中尾友昭氏の市長時代で、今年の市長選で彼は前田晋太郎氏(やはり自民党推薦で安倍首相の元秘書)に敗れましたけど。

■復興予算を食い物にしようとした調査捕鯨城下町・下関市
http://kkneko.sblo.jp/article/56253779.html
■調査捕鯨と下関利権
http://kkneko.sblo.jp/article/69075833.html

 そういうわけで、いわば永田町族議員の中でも捕鯨問題にとくに造詣が深いエース≠ニして登場した江島氏でしたが、どうやら記者のツッコミを軽々とかわすというわけにはいかなかったご様子。
 以下はダム問題をはじめさまざまな環境・社会問題を手がけるジャーナリストまさのあつこ氏のツイート。

調査捕鯨推進の法律について、威勢よく説明した江島参議院議員(元下関市長)だが、外国人記者らに質問されるたびに、ボロボロになっていった。恥ずかしい。(引用)

 いったいどれほどボロボロだったのか、以下に検証していきましょう。もちろん、確認したい方はぜひ直接FCCJの動画(上掲リンク)を視聴してください。

 会見自体は江島氏、高屋氏、倉澤氏がそれぞれ持ち時間10分で説明し、その後記者との質疑応答に。
 このうち通訳を介さず直接英語でプレゼンしたのが江島氏。彼の役割は主に美味い刺身*@の概要説明でしたが。
 江島氏はその中で、いま立法が必要な主な理由のひとつにシーシェパード(SSCS)による妨害活動の激化を掲げました。
 これはまったく的外れもいいところ。
 SSCSの妨害活動が最も激しかったピークは2009年、2010年辺り。SSCS側は日本の捕鯨船団の船と衝突して大破したり、腐ったバター£eを投げつける一方、日本側は日本側で放水砲やいわゆる音響兵器LRADで応戦≠オていました。なお、この頃からすでに円滑化の名目で水産庁が予算をつけはじめ、護衛≠フための船を用意し海上保安庁職員も乗り込んでいました。
 その後はダミー戦略などの手を打ち日本側がSSを翻弄、直接示威行動を空振りに終わらせることが多くなります。日本側は「SSCSのせいで鯨肉生産が減少した」と国際司法裁判所(ICJ)等でも主張していますが、この説明は味方のはずのクジラ博士小松正之氏らも指摘するとおり、合理性を欠きます。JARPAUの大増産の反動で鯨研が債務超過に陥るほど鯨肉販売不振に悩む中、積み増すばかりの過年度在庫を消化するのための自主的減産であったことは火を見るより明らか。いずれにせよ、ICJ判決敗訴により捕獲枠は前計画からの大幅縮小を余儀なくされます。
 判決翌年の休漁=A新計画NEWREP-Aを実施したさらに次の年、SSCSは妨害活動を行わず、抗議対象は北欧のイルカ猟や中国のIUU漁業等にシフトしていました。一方で、この間鯨研は米国の裁判所にSSの支部を訴え、有利な判決を得ながら、なぜか和解して賠償金を被害者側が払うという非常識かつ不可解な行動に。引き換えにSSの米国支部は南極海での活動からリタイア。
 そして、NEWREP-A2年目の昨漁期、SSCS側は新たな高速船を投入するも、捕獲現場の空撮どまりで衝突など物理的トラブルや違法行為はなし。調査捕鯨は順調に計画どおりの捕獲をこなし、実質的にはJARPAU終盤に比べて増産となりました。そして、国内メディアはSSCSと捕鯨船団の遭遇について報道すらしなかったのです。
 つまり、日本のマスコミ各社が判断したとおり、妨害活動が年を追うごとに激化し、その結果調査捕鯨の継続が困難になったとは到底言えないわけです。今年新たな法律を作らなければならない理由は何一つ見当たりません。
 なお、太地のイルカ猟と反対団体の監視活動についても状況は同じ。詳細は以下の拙過去記事をご参照。

■またやっちゃった! 産経パクリ記者佐々木氏のビックリ仰天差別・中傷記事
http://kkneko.sblo.jp/article/163126790.html

 人命尊重、船員の安全向上を図る見地からは、調査捕鯨に予算を付けるのは本末転倒です。人身事故を引き起こしているのはSSCS等による妨害ではなく調査捕鯨事業そのもの。国の予算は重篤な船舶事故の約6割を占める漁船事故対策にこそ充てられるべき。あるいは、労働者の安全基準のダブルスタンダードを認める船員保険法・船員法の改正をこそ急ぐべきなのです。立法府の立場からすれば。江島議員、民進党や共産党を含む美味い刺身*@賛成議員らの、人の命をダシにするあまりに矛盾に満ちた姿勢が、筆者は残念でなりません。

■異常に高い調査捕鯨事業における死亡事故リスク
http://kkneko.sblo.jp/article/30992331.html
http://kkneko.sblo.jp/article/34484278.html
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 お次は霞ヶ関代表高屋氏。彼は日本語でプレゼン。
 以下は彼のコメントの主要部分の抜粋。FCCJの動画上では13分から。

@モラトリアムは商業捕鯨を禁止しておらず、商業捕鯨を当然のものとして許容している。
Aモラトリアムは将来の持続的な商業捕鯨のロードマップを定めたものだ。
Bこの決定を受け日本が鯨類捕獲調査を開始したのは至極当然の成り行きだった。
Cしたがって日本の鯨類捕獲調査はモラトリアムの抜け穴ではなく、モラトリアムに忠実なものとして肯定的に評価されるべき。
D他方で商業捕鯨モラトリアムの解釈を捻じ曲げ、持続的な商業捕鯨の再開やそのために必要な科学的情報の収集を行う鯨類捕獲調査に反対する反捕鯨(国)の政策というものは商業捕鯨モラトリアムや国際捕鯨取締条約の趣旨に反する。
Eわが国の基本方針は持続的商業捕鯨の早期再開であり、そのために鯨類科学調査を実施してきた。
F(同法は)モラトリアムの採択から30年が経過したが、いよいよわが国は持続的商業捕鯨の再開を目指すんだという国内外への力強いメッセージだ。
G捕鯨をめぐる国際的な情勢は非常に厳しいものがある。法律が出来たからといって直ちに商業捕鯨が再開できるというものではない。しかし、これまでの政府方針が法律で明確に裏打ちされたもので、政府としては商業捕鯨再開に向けた動きを加速するよう全力を尽くしていく。
(同氏の発言要約、以下背景着色部分は発言からの引用)

 これらは水産庁捕鯨室長としての公的見解といわざるを得ませんが、明らかな誤りをいくつも含んでいます。

@:確かに、モラトリアムは「一時停止」の意味で、「恒久禁止」ではありません。しかし、「商業捕鯨を当然のものとして許容」するなら、例え一時的といえども捕獲枠ゼロ設定が規約として定められるはずもありません。捕獲枠ゼロの現状を「何の問題もない」と許容するのであれば話は別ですが。
 なお、この見解はあくまで水産庁捕鯨セクション・高屋氏のものであって、政府関係者全員の見方を示したものではありません。当時農水省国際研究課長・外務省漁業室長の立場で捕鯨交渉に携わってきた外務官僚の鈴木遼太郎氏は2008年法律雑誌『ジュリスト』に掲載された評論「捕鯨をめぐる問題--調査捕鯨問題を中心に」の中で、国際捕鯨取締条約(ICRW)の前文解釈について反捕鯨国の見解を俯瞰的に紹介しています。鈴木氏は決して反捕鯨のスタンスを取っているわけではなく、SSCSを強く批判してもいますが、外交官僚として必須の優れた国際感覚・バランス感覚を備えた方といえるでしょう。相手国の主張を「捻じ曲げる」の一言で一蹴してしまう高屋氏は、鈴木氏とは対照的に、霞ヶ関官僚のうちでも業界の利権に常に忠実で、高所大所からの視点を持つことのできないタイプに見受けられます。
 ついでにいえば、IWCで先住民生存捕鯨が認められているとおり、いわゆる反捕鯨国も捕鯨を全否定するものではありません。また、持続的利用は致死的利用に限られるわけでもありません。これは後述のIWCの方向性とも関わる、ICRWにおける「whaling」の定義の問題ともいえます。

■Future IWC for Japan, fishery, the world and whales; the keyword is "Ebisu"
http://www.kkneko.com/english/ebisu.htm

A:Q&Aにも絡みますが、条約中に商業捕鯨のロードマップなんてものはありません。モラトリアムについて定めた条約付表10(e)において、かろうじてそれに近いといえる表現は「1990年までに検討≠キる」の部分。IWCで毎年検討した結果、「やっぱり再開できないね」という結論がずっと覆されていないというだけの話です。

B:調査捕鯨がまさに「モラトリアムの抜け穴」として検討された経緯については、当時調査捕鯨立案に携わった日本の鯨類学研究の第一人者・粕谷俊雄氏による「経費をまかなえる頭数を捕鯨でき、しかも短期では終わらない調査内容の策定」を求められたとの証言や、お馴染み早大真田康弘氏の論文「科学的調査捕鯨の系譜」(下掲)からも明らかですが、この後の倉澤氏のプレゼンにも決定的証拠といえる外務省の機密指定解除文書が登場します。動画必見。それこそまさに「当然の成り行き」として抜け穴の追求が図られたわけです。倉澤氏のプレゼン後も高屋氏はすっとぼけていましたが、彼にとっては加計学園スキャンダルにおける記憶にない怪文書≠ニ同列の扱いなんでしょう。しかし、たとえ当時の担当者でないとしても、現担当者としてシラを切ることは許されない話。

■科学的調査捕鯨の系譜:国際捕鯨取締条約8条の起源と運用を巡って
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ceispapers/ceis22/0/ceis22_0_363/_article/-char/ja/

C:これは真っ赤な嘘日本の鯨類捕獲調査JARPAUはICJで国際法違反の商業捕鯨、すなわち「モラトリアムの抜け穴」であると明確に認定されました。ICJが「肯定的な評価はできない」との裁定を下した時点で、高屋氏の主張は論理的にも完全に破綻しています。国際法違反の認識が欠如したまま、「モラトリアムのもとで商業捕鯨は当然→だから£イ査捕鯨は違法じゃないし、肯定的に評価しろ」との主張をよりによって日本政府の現担当者が述べていること自体、NEWREP-A/NEWREP-NPの違法性を改めて強く疑わざるを得ないといえるでしょう。

Dまず、ICJの判決からも明白なとおり、モラトリアムの解釈を捻じ曲げてきたのは日本政府であり、高屋氏自身です。日本政府は判決自体は表向き受け入れつつ、国連受諾宣言書き換えによってICJへの再提訴を阻止し、国際法のもとでの更なる審判を回避しました。高屋氏に「国際捕鯨取締条約の趣旨に反する」などと口にする資格はありません。その前に外務省に受諾宣言を元に戻すよう要請するのがスジというもの。もっとも、国連海洋法裁判所への提訴は可能なはずで、「反捕鯨国が国際法に反している」と言うなら、さっさと訴えれば済む話ですが。
 IWCが乱獲と規制違反を阻止できずあまりに無力だった反省のもとにモラトリアムが成立した歴史的事実を弁えず、日本が当事者として負っている重い責任に目を背けたまま、反捕鯨国を一方的になじる高屋氏の思考は、時計の針が条約発効時のまま、生物多様性保全の意識が国際社会に浸透する前の乱獲時代のまま止まってしまっているのです。

E後述のQ&Aで内外の記者から突っ込まれているとおり、たとえ再開されても商業捕鯨がビジネスとして成立し得ない状況で、税金を投入する形の調査捕鯨がズルズルと続けられてきたのが実情。詳細は倉澤氏のプレゼンをご参照。
 何度も説明しているとおり、調査捕鯨は商業捕鯨再開にまったく役に立ちません。RMPはすでに合意が成立しており、現在商業捕鯨の再開を阻む壁となっているのはRMS(改訂管理体制)での国際合意。すなわち社会科学的≠ネ管理体制がまったく構築できないことが理由。実は、この点は前述の外務官僚鈴木氏の論文でも理路整然と説明されています。つまり、高屋室長ら水産官僚はここでも知らぬふりを決め込んでいるわけです。
 さらに、米国NOAAの資料が示すとおり、日本の捕鯨業者は旧ソ連とともに、捕獲統計の信頼性を失墜させる悪質なごまかし、規制違反行為を続けてきた違法捕鯨国の二大巨頭。共同船舶の出自である大手捕鯨会社と、凶悪な密漁の限りを尽くした海賊捕鯨との密接な関係も暴露されました。何より、つい3年前まで科学の名を借りてモラトリアムの抜け穴をかいくぐる違法捕鯨を臆面もなく続けてきたのがその乱獲・規制違反捕鯨大国・日本なのです。
 マグロからウナギからホッケから、密漁と乱獲を阻止できず持続的漁業管理能力を世界に証明することが未だ出来ていない日本が、沿岸の資源でそれを立証する努力を怠ったまま、国際社会の信用を得ることなどできるはずがありません。RMSの国際合意の目処がまったく立たないまま、RMPの精緻化で商業捕鯨再開のハードルがクリアできるなどというのは与太話もいいところ。

■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
http://kkneko.sblo.jp/article/116089084.html

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F:後述のQ&Aでも明らかなとおり、口先ばかりで中身がまったく伴っていません。「国内外への力強いメッセージ」北朝鮮の国営放送レベル。もっとも、NHKと産経が1回報じた以外、水産業界紙以外の国内マスコミは美味い刺身*@について取り上げませんでした。同法案審議中に開かれたNGOネットワークによる院内集会の報道に比べても、多いとはいえません。水産庁も国会議員も力強いメッセージ≠国民に届ける努力をしているように見えないのは、どうにも首を傾げざるをえません。

G:については後述。ただ、水産庁担当者が「捕鯨をめぐる国際的な情勢は非常に厳しいものがある」と認識していることは、押えておく必要があるでしょう。
 もっとも、「商業捕鯨再開に向けた動きを加速」に関しては、あまりにデタラメすぎる網走沖・八戸沖の調査捕鯨の強行という、あたかも国際司法判断を無視したままなし崩しにモラトリアム解除の既成事実化を図るかの如き動きとなってすでに現れていますが・・。

 倉澤氏の詳細な図表付のプレゼンについてはぜひ動画をチェックしてください。
 続いてQ&A。先鋒はロイター記者。質問内容は以下。

@捕鯨新法によって予算措置がなされると報じられているが、どの記事を見ても額が出てこない。どれだけお金が注ぎ込まれるのか?
A高齢化等福祉ではなく調査捕鯨にそのような予算を充てることが本当に必要なのか?

 最初の質問に対しては、江島氏・高屋氏とも具体的な数字は何も出さず、「毎年必要な額が算出されて計上される」と回答しました。
 国際機関でどれだけ批判を浴びようと、国が予め予算を保証してくれるというのは、公的助成を求めるにあたって厳しい制約を課され監査を受ける一般の研究者からすればうらやましい話でしょう。
 ここでひとつ、江島氏が以下の重要な証言をしました。動画の時間は45分。

当然これは増額するという方向で予算化する。

 立法した国会議員が「現在年間約51億円の予算をさらに増やす」とこの記者会見の場ではっきり公言されたわけです。予想されたことではありましたが。
 この発言には2つの重要な意味があります。

@捕鯨サークルの利権のために国民に負担がのしかかる。
A水産分野における捕鯨部門の位置付けが旨い刺身*@をバックにさらに格上げし、限られた予算の中、他の水産部門が必然的にしわ寄せを蒙る。

 つまり、捕鯨以外の漁業者の負担も増えることを意味するわけです。
 ロイター記者2番目の質問は、おそらく事前に用意されていたのでしょうが、倉澤氏がプレゼンで指摘した「水産業全体の資源管理・調査の予算がたった46億円ぽっちしかない」という情報をうまく生かしていただけなかったのは残念でした。
 ただ、これに対する江島氏の回答は「軍事費をやめて福祉に回せということと同じ理屈になる」というもの。
 筆者としては、もはや同列の族議員となった紙智子氏ら、与党にホイホイ便乗した共産党の賛成議員に猛省を促したいところ。

 動画49分に質問に立ったのは、ウナギからゴリラまで野生動物問題・環境問題に幅広く精通している日本の環境ジャーナリストの第一人者・共同通信編集部員井田徹治氏。
 さすが井田氏だけあって、核心に迫る質問が二つ。

@商業捕鯨再開に向けた戦略・ロードマップは? それを見せない限り毎年50億の予算をつぎ込むことになってしまう。
A新母船建造の予定は?

 これに対する高屋氏の回答はあまりにも要領を得ないものでした。ロードマップというからには、最低でも一枚以上の具体的な工程表を提示すべきでしょう。プレゼン中のモラトリアムの説明と合わせ、そもそも高屋氏は霞ヶ関官僚の身でありながらロードマップの意味すら理解していないのではないかと疑わざるを得ません。
 もっとも、高屋氏からは一点だけ、各国政府・NGO担当者を仰天させる不用意な発言がありました。

特に来年度のIWCではわが国から議長を出しているということもあり、議論を深めたい。(引用)

 議長というのは水産庁捕鯨担当者出身の東京海洋大教授森下丈二氏のことですが、国際機関で議長のポストを得たからといって、自国に有利なように議事運営を運ぶといった権限の濫用が許されるはずがありません。森下氏の前任のアルゼンチン出身のマキエリ議長は、決して反捕鯨国に有利な議事進行などしませんでした。こうした発言を担当者に許すようでは、先進国としての日本のマナーが問われても仕方がないでしょう。元ドミニカ代表の告発やタンザニア代表の「よい女の子」発言等、日本は国を挙げたODA(札束)による勧奨活動で国際社会から強い顰蹙を買っているのが実情なのです。
 「議論を深める」といえば聞こえはいいですが、参院質疑の山本議員の指摘や倉澤氏のプレゼン、後掲の井田氏の記事でも触れられたとおり、そもそも両勢力の歩み寄りが模索された時期は「あった」のです。すなわち、議論を深めて打開の道を探るチャンスが三回はあったのです。それを蹴ったのは日本側でした。そして、議論の中身が具体的にいかなるものだったか、高屋氏らは口にチャックをしたまま決して国民に明かそうとはしていません。実際には、ICJ判決直後の江島氏ら族議員の鯨肉カレーパーティー、内外の国際法関係者が目を疑った国連受諾宣言書き換え、IWC科学委員会・専門家パネル勧告無視のデタラメな調査捕鯨の強行によって、日本は「議論を深める」どころか「議論をする気などない」という態度を世界に示してきたのが実情なのです。
 世界共有の財産としての鯨類保全の公益性、海洋環境保全上のメリットの議論に対して一切耳を貸す姿勢を示さないまま、「議論を深める」もへったくれもなく、商業捕鯨再開に不可欠な3/4以上の加盟国の支持を得ることなど夢のまた夢の話です。来年の総会以降、日本が新母船建造をちらつかせたりなどすれば、そのとき日本は間違いなく北朝鮮と同列の扱いを受けるでしょう。
 本当に「議論を深め」たいのであれば、明確に違法認定されたJARPAUと同じ「美味い刺身*レ的の違法な商業捕鯨」とのきわめて強い嫌疑がかけられ、国連受諾宣言を書き換えなければ国際司法の審判に耐えられない調査捕鯨を、結論が出るまでの間だけでも停止するのが道理というもの。科学委員会・専門家パネルも数年停止することで科学研究に支障を及ぼすことは考えられないと指摘しているのですから。
 なお、2番目の質問に対する回答の方は、少し具体的でした。高屋氏いわく、「次回2018年のIWC総会におけるIWCの将来に関する議論の帰趨を踏まえて検討する」とのこと。
 捕鯨母船を新たに建造するともなれば、必要な予算は200億円は下らないでしょう。美味い刺身*@基本原則3に基づき国際法を遵守するのであれば、改正されたマルポール条約に従い次期母船は二重船殻にすることが要求されますし、SSCSの新船に負けないよう、また内外の批判に耐えられるよう、高い環境負荷を減らすべく母船をエコシップにするなら、下手をすれば500億円くらいかかるかもしれません。かくも重い負担を国民に押し付けるまねを法案成立直後に推し進める気がないとすれば、ちょっとは賢明といえるかもしれませんが。

 3番目の質問者はドイツのフリーランスジャーナリストの方。質問内容は以下。

@調査捕鯨を続けても商業捕鯨を再開しても、日本人が鯨肉をあまり食べない事実に対する解決にならないのでは。
A商品を売れない産業は畳んでしまうのが当然の理屈だが、なぜ日本政府は経営状況が芳しくない捕鯨に毎年のようにこれだけの予算を注ぎ込む必要があるのか。

 海外記者のこの質問は、狂信的な反反捕鯨ネトウヨ以外の圧倒的多数の日本国民の意見をも代弁しているといえるでしょう。
 それに対する江島氏の回答が以下。

日本人が食べないのではなくて、今現在は鯨肉の値段が非常に高いので、食べたくても食べられない人が多いのが現実だ。私が子供の頃は週半分くらいは鯨肉を食べていた。基本的に日本人はクジラを食べる民族だ。それを示す証拠に、今回の法律で反対した人が2名いたが、後は全員、国民を代表する国会議員は賛成した。「ぜひ商業捕鯨の再開に向けて(調査捕鯨を)すべきだ」というのが今の国民の意見だ。商業捕鯨を再開すれば、当然私たちはもっと鯨肉を食べるようになる。

 最後の一言については、東京新聞の6/14日付の記事で水産庁国際課捕鯨室担当者が「さらに増えるとは考えにくい」と逆のコメントしています。同紙の取材に答えたのは高屋室長ではないのかもしれませんが、国会議員と水産庁との間ですり合わせが出来ていなかったのは否定の余地がありません。
 なお、江島氏は国会議員のほとんどが賛成したことを証拠≠ノ掲げましたが、永田町の多数意見と国民の多数意見が必ずしも同じ比率でないことは、共謀罪法への賛否や加計学園疑惑等の世論調査結果を挙げるまでもないでしょう。日経新聞の世論調査で公海商業捕鯨からの撤退への賛成が多数を占めたことは、倉澤氏がプレゼンで取り上げたとおり。江島氏は全無視しましたけど。
 国会で美味い刺身≠ノ超党派の支持が得られるワケについては、冒頭のWDCの記事(英文)をご参照。

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 それから、江島氏は「基本的に日本人はクジラを食べる民族」と勝手に定義してしまいましたが、その真相については以下をご参照。

■鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性
https://togetter.com/li/977982
■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 極めつけは、この後の別のジャーナリストの方の質問に対する江島氏の回答。
 そう、まさの氏の言ったとおり、江島氏の答弁は「ボロボロ」になっていきます。
 質問内容は以下。

戦後食べられ蛋白源として大事だったのは確かだが、他に食べるものがなかったからで、今は値段が非常に高い。最近TVCMでも鯨肉缶詰のディスカウントセールをやっていた(需要がないから売れないのでは?)

 で、江島氏の回答が以下。

決して昔の戦後食べた量のクジラをまた今食べようということをプロモーションしているわけではない。クジラという資源が確固たるものがあるということ。実際南極には51万頭のクロミンククジラがいる。これは科学調査によってわかっている。これを持続的に食糧資源として活用しようということを日本が目指している。捕ってきた価格は昔の値段とは違うだろうから、商業捕鯨が再開されても高価な肉になると思う。それで需給バランスは自ずと決まってくる。

 江島氏の2つの回答を比べてみれば一目瞭然。
 最初の回答は「昔は安かったのに、今は高いから食べられない→再開すればもっと食べる量が増える(≒捕る量が増え、価格も下がる結果として需要が増える)」との趣旨。
 2番目の回答は「鯨肉が安かった時代に戻すつもりはない→再開されても鯨肉は高いままだろう。需給バランスは自然に決まる(≒庶民は高くて食べられないままで、食べる量は今以上に増えない)」との趣旨。
 要するに、真逆のことを言っているわけです。
 一体どちらを信じればいいのでしょう? 捕鯨問題に関心を寄せる世界中の人々も、納税者たる日本国民も、こんな支離滅裂の回答に納得できるはずがありません。
 江島氏の「戦後の乱獲時代に戻すつもりはない」との弁明を、はたして世界は信じることができるのでしょうか? 信じていいのでしょうか?
 残念ながら、筆者にはまったく信用しかねるのです。

■【図解・行政】鯨肉の消費量(2016年10月)
http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-nourinsuisan20161027j-04-w320

 上掲記事は、日本捕鯨協会のPRコンサルとして「プロモーション」のアドバイスをした梅崎義人氏の古巣の時事通信。そして、グラフの提供元は当の日本捕鯨協会
 あろうことにも、このグラフが現在の消費量と対比させているのは、南極海に7船団も送り出した乱獲最盛期、保全の発想が欠片もなくナガスクジラ等を絶滅危惧種に追いやった最も大きな責任を日本の捕鯨会社が負ってしまった時期のもの。しかしながら、記事中には日本の乱獲の責任については一字たりとも書かれていません。のみならず、記事中の解説は「需要を喚起して消費を増やさないと再開が危ぶまれる」との趣旨で書かれており、そのための参照資料として捕鯨協会提供のグラフを用いています。
 この記事は、江島議員が「そのつもりはない」と述べた「戦後食べた量のクジラをまた今食べよう! 食べなきゃ!」とのメディアとタイアップした捕鯨協会によるプロモーションではないのでしょうか? 同記事にコメントが掲載されており取材を受けたはずの水産庁担当者(高屋氏?)は、なぜ「戦後の乱獲時代に戻すわけにはいかないのだ。仮に再開されても鯨肉は高いままだ」と釘を刺すことをしなかったのでしょうか?
 ある意味筆者には、侵略戦争否定を掲げる遺族会内の捏造主義派と、自らの乱獲の責任に目を背け、史実に反する日本の捕鯨性善説≠ばら撒こうとする日本捕鯨協会とがダブって見えます。同質の歴史修正主義者の集まりとしか思えないのです。
 しかし、国会議員や水産庁の役人たちは、共同船舶と一心同体の日本捕鯨協会に手綱を付けてしっかりコントロールするどころか、一緒になって鯨肉パーティーに興じるばかり。
 江島議員には、外国人記者に説明するだけでなく、ぜひ同じことを国民に向かって改めて説明してもらいたいもの。そして、高屋室長にも、水産庁ホームページの「捕鯨の部屋」のトップにデカデカと日本語と英語で、「商業捕鯨が再開された暁には、日本の捕鯨業者がかつて行ってきた、海賊捕鯨船にバイヤーを乗せたり、捕獲した鯨体の体長をごまかして規制違反を隠蔽するような真似は二度と一切しないことを誓います」と書いてもらいたいもの。そして、口先のみならず、乱獲と規制違反を完全に防止するために必要なRMSについて、国際社会の要求を真摯に受け止める姿勢を示すのがスジでしょう。
 江島議員が説明したとおり、仮に諸々目をつぶって商業捕鯨が再開された場合にも鯨肉の価格が高止まらざるをえない理由については、以下の拙HP・ブログ過去記事で詳細に解説しているのでご参照。

■実質ゼロ%本人の鯨肉消費の実態
http://www.kkneko.com/shohi.htm
■鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?
http://kkneko.sblo.jp/article/174477580.html
■捕鯨は牛肉生産のオルタナティブになり得ない
http://www.kkneko.com/ushi.htm

 なお、高屋氏が補足でいくつか県名を挙げていますが、鯨肉消費量は上位5県でも全国平均の3倍弱程度にすぎません。(上掲リンク)
 江島氏の回答についてさらに筆者から補足。「これは科学調査でわかっている」の科学調査とはIWCの目視調査であり、日本の調査捕鯨の成果ではありません。美味い刺身*@が定義する致死調査が前提の「鯨類科学調査」でもないことになります。
 それと、クロミンククジラ51万頭はあくまで大西洋・インド洋側まで含めた南極海全周分の数字。日本が伝統的≠ノ漁場としてきた範囲は1/3。その外側まで食指を伸ばすのはコストだけ考えても論外(需給バランスを無視して税金を注ぎ込むなら話は別だけど)。「51万頭は全部俺たちのもの」というジャイアンな感覚自体あまりにも独善的で、海外の目には戦前と同じ超拡張主義≠ニ受け取られるでしょう。
 いずれにせよ、51万いるから「多い」「絶滅危惧種じゃない」という感覚もネトウヨレベルの環境リテラシー不足。今日では種単位ではなく個体群/系群単位で扱うのが野生動物保護の常識。日本の捕獲対象海区には2系群がいるとされますが、何十年も調査捕鯨を継続しながら系群混交問題には決着がついていません。また、250万羽いるミナミイワトビペンギンはIUCNレッドリストで絶滅危惧種(VU)の扱いです。クロミンククジラは比較考量可能な時系列データで72万から51万へと大幅な減少を示しており、またその生態から気候変動に対して脆弱で影響を強く受けるとみられています。

■間引き必要説の大ウソ
http://www.kkneko.com/mabiki.htm
■地球温暖化とクジラ
http://www.kkneko.com/ondanka.htm

 高屋氏のもうひとつの補足、「今のところ鯨肉のニーズがなくなっているとは思っていない」について。
 これは高屋氏個人の主観にすぎません。加計学園問題における「はたしていま獣医師は不足しているのか」と同様、定量的な証拠が提示されるべきです。
 倉澤氏のプレゼンにあったとおり、公海商業捕鯨にはそもそも名乗りを挙げる企業が存在しません。それは「ビジネスとして採算が取れるだけのニーズがない」ことの紛れもない証拠。
 上掲拙プレゼン資料では雑穀・もやし・豆腐の生産者の廃業・生産量縮小のケースを紹介しましたが、共同船舶+取引相手への年間51億円の国庫補助金と公平に、生産量に比例する形でこれらの伝統食産業に補助金を投入し、今回の美味い刺身*@で規定された学校給食としての自治体の買い上げや国家的なプロモーションを(やはり生産量に比例する形で)行わない限り、高屋氏の主張が裏付けられることは決してありえません。
 裏を返せば、高屋氏ら水産官僚にとって将来の天下り先への配慮があるから(江島氏いわく「食文化の専門家」としての個人的好みの反映もある?)、あるいは江島氏ら国会議員が、加計孝太郎理事長と安倍晋三首相と同じくらい、共同船舶関係者とツーカーの間柄であるからこそ、忖度≠ノよって極端に偏向した予算配分や今回の美味い刺身*@の拙速な制定が可能になっているのではないかと、そう疑わざるをえません。例の加計&安倍ゴルフツーショットみたいに、毎年の鯨肉パーティーで両者が仲良く盛り上がってるのは紛れもない事実なのですから。いずれにしても、共同船舶という特定の事業者に対する異常な肩入れぶりへの疑惑を、「ニーズはあると思う」の一言で払拭することはできません。

 その次の質問者はビデオジャーナリスト・神保哲生氏。こちらも国民の疑問をストレートに代弁してくれました。

税金を投入してまで調査捕鯨を維持するだけのメリットがあるのかが十分に伝わってこない。さっきの(井田記者の)ロードマップの質問に対しても、商業捕鯨再開の目処があるのかないのかもわからない。
商業捕鯨を再開すればたぶん値段が安くなるという程度の話で、毎年50円億以上の税金をこれから投入することに対する国会・役所としての正当性がなかなか今の説明では見えない。その程度のことでそんなにお金を注ぎ込んでいるのかという印象をどうしても持ってしまう。それだけの金を使う以上、日本の納税者に対して「短期的・長期的に必ずこういうメリットがある」と説明してほしい。

 で、江島氏の回答が以下。

最近は説明不足といわれることがあるので、国民にしっかり説明しなくてはいけないと思っている。
まず一点目、捕鯨というのは日本が独自で食糧資源を調達できる手法の一つだ。これは牛肉や豚肉を輸入するのではない、自分たちの船で公の海に出て天然資源を食糧として確保する、いわば食糧自給をしているということ。もちろんこれで国民の何十%のたんぱく質を供給できるというものではないが、食糧資源調達の多様性ということで日本人としては捕鯨産業をしっかり守るべきだという観点に立っている。
なぜそれを進めるかというと、資源が実際にあるから。それを使うというのは、絶滅に向けて食べつくそうというのでは決してないし、ちゃんと鯨種を見ながら、このクジラは十分あるから食べよう、このクジラはまだ資源が回復していないから捕らないとか、まさにこれが科学に基づいた調査捕鯨の結果得られるデータをもとにして日本が目指している商業捕鯨再開である。これこそがIWCの元々の考え方、設立の発端だったわけである。私どもとしては、早くIWCのメンバーにもう一度原点に立ち返ってきちんとした議論をIWCを通じて進めていきたい。

 読んでおわかりのとおり、江島氏の口から出てきたのは、捕鯨問題ウォッチャーにはもはや耳タコのいわゆる「トンデモ鯨肉食糧自給論」
 残念ながら、江島氏の説明は、やはり金田法相や稲田防衛相と同レベル。これで十分な説明になると考えているなら、江島氏はあまりにも国民をバカにしています。
 南極海捕鯨は日本の食糧安全保障に何一つ寄与しません。日本の食糧安全保障をめぐる議論でクジラのクの字も出てこないのが何よりの証拠。
 上掲拙記事「鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?」で詳細に解説したとおり。
 わが国の食糧安全保障が本当に大事なら、なぜ江島氏は種子法廃止に賛成したのか、理解に苦しむばかりです。(前回の当ブログ記事もご参照)

■主要農作物種子法を廃止する法律案 参議院投票結果
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/vote/193/193-0414-v007.htm

 続いて高屋氏の補足。

日本政府としては水産資源はクジラであれマグロであれサメであれ何にしても科学的根拠に基づいて持続的に利用するべきだと考えている。絶滅の危機にも瀕していない、管理が可能であるものを禁止する必要はまったくないと考えている。そこをきちんと説明するためにも科学的調査を行って証拠を積み上げて説明していく必要がある。どこの国でも同じだが、資源を評価するのは国の責務だ。

 科学的根拠に基づいて持続的に利用するのが日本の国是であるとしたら、公海の太平洋クロマグロも近海の主要な漁業資源もここまでボロボロの状態になるはずがありません。日本政府の真の方針≠ヘ、「クジラやマグロやウナギなど、永田町と霞ヶ関の関係者が美味い≠ニ判断したものに限り、持続的だろうが非持続的だろうがともかく利用するんだ!」です。

■持続的利用原理主義はデタラメ
http://www.kkneko.com/sus.htm

 実際のところ、商業捕鯨がモラトリアム下にあるだけで、「日本でクジラを食べることが禁止されている」、あるいはそれが国際的に議論されているというのは的外れもいいところ。一方で、日本には「絶滅の危機にも瀕していない、管理が可能であるもの(の捕獲・捕殺)を禁止する」法律・条例がたくさんあります。上掲拙プレゼン資料で説明しているとおり。
 ついでに、日本人は歴史的にツル、サル、イヌ、ネコ、オットセイなどの動物を食べてきたわけです。戦前戦中世代の方に聞いたことのある人もきっと多いはずですが、「赤犬が美味い」なんて言われてましたしね。クジラと違い、それらの動物は絶滅危惧と無関係に、社会的・法的に日本では原則として殺す/食べることが認められていません。江島氏や高屋氏は文句を言うべき対象を間違えているわけです。
 要するに、高屋氏らは日本社会のダブスタには完全に目をつぶったまま、「なんでクジラだけ特殊なんだ!」と世界に文句を言っているわけです。まあ、狂信的反反捕鯨論者たちなら「ジンシュサベツだ!」と激怒しても不思議はないでしょう。
 水産官僚がことある毎にそういうくだらない話をするのは、自分たちに課された水産資源を厳格に管理する責務を怠り、その事実から国民の目を逸らすために他なりません。
 「資源を評価するのは国の責務だ」などと、海洋生物のレッドリスト評価をずっと阻んできた水産庁の職員が口にする資格はありません。また、公海資源を評価するのは国際機関であり、日本の責務は協力すること。独断でやって都合よく結果を捻じ曲げていい話でもありません。
 何度も繰り返しますが、「科学的調査を行って証拠を積み上げて説明していく必要」はもはやありません。
 管理方式に関しては国際的合意のもとRMPがすでに完成しており、精緻化なんて誰も求めていないのです(美味い刺身≠継続的に調達したい連中以外)。RMSの合意がない限り、100%無駄な作業。
 高屋氏らは、IWCが求めている「商業捕鯨再開のために不足している証拠」とは具体的に何なのか、NEWREP-A/NEWREP-NPが「その証拠」を集めるために設計され、6年後に「その証拠」が揃い、商業捕鯨が再開されるのか、何一つ答えようとはしません。
 もちろん、それがはっきりしていたなら、当然ながら彼は井田記者の質問に明確に答えることができたわけです。まったく要領を得ないうやむやな答えしかできなかった時点で、高屋氏のコメントには何の重みもありません。

 ラストの質問は再度ドイツの方。

日本はクジラの文化があるとよく聞くが、あくまでそれは地域の文化ではないか。和歌山とか静岡とか限られた地域ではクジラの文化があるといえるかもしれないが、全国的には捕鯨する文化がないのではないか。今の捕鯨産業はかつての地域の文化とはかけ離れたものではないか。

 海外の現場に何度も足を運ばれている井田氏の英語と同じく、こちらの方もなかなか流暢な日本語。そして、日本が標榜する食文化の実態についてもよくご存知でいらっしゃること。
 これに対する江島氏の回答が以下。

クジラの食文化がローカルなものであるというのはそのとおり。沿岸中で日本はクジラを食べていた。ただそれは全国民が食べていたのではなく、確かにローカルなものだ。でもそれは世界のどこの国でもいえるのではないか。我々が言ってるクジラは日本の食文化だというのは決して全国民共通の食文化と言っているのではなく、日本の大事な地域に根付いてきたいろんなローカルな食文化という意味で申し上げている。

 いわゆる日本の鯨食文化が実は「地域限定」であるという事実は、これまでにも水産庁自身が幾度か自白しているところですが、一応これも山本議員の質問に対する文化庁の回答、「現在の日本の捕鯨産業は伝統産業ではない」という証言と同様、法律を立案した当事者である国会議員による公的エビデンスという受け止めていいでしょう。
 ヒトデからヒザラガイからザザムシからハダカイワシから、ローカルな食文化の例を挙げようと思えばきりがありませんが、その中で毎年50億円以上の税金が注ぎ込まれ、赤道の向こうの南極の自然から持ち込んできているものが、一体一つでもあるでしょうか? 

 続いて、江島氏が「食文化の専門家」と持ち上げた高屋氏による補足。

ほとんど江島議員が説明してしまったが、日本の食文化は基本的に地域の食文化の集合体だ。いま外国人の観光客にも人気のあるとんこつラーメンは九州・山口の一部の地域しか昔は食べていなかった。日本を代表する料理である京懐石料理も関西の一部の料理にすぎない。サケを食べる地域は東日本に限定される。私は雑煮の研究をしているが、日本を代表する料理の雑煮はどこで食べても中身が違う。雑煮の中にはクジラを扱っている県もいくつもある。私たちはそれぞれの文化を統合した中で日本の食文化というふうに捉えており、イルカをはじめとするクジラすべてというものをはるか昔、遺跡で見れば縄文時代の歴史からも見ることが可能だ。もちろん捕獲の方法とか使用の方法というのが時代とともに変わっていくということはある。ただし、鯨類を食糧として考えるという考え方というのはその中に受け継がれている。

 いやはや、たいした専門家もあったものです。
 とんこつラーメンが戦後の食糧不足を救済する緊急避難措置としてGHQの許可のもと国民に配給されたのかどうか知りませんが、少なくとも商業生産に1社も名乗りを挙げない中で年間50億円超の税金を投じた科学調査事業の副産物として原料が調達されているなんてシチュエーションにあるはずはないでしょう。
 また、ウナギなども有名な禁忌の話がありますが、日本の一部の沿岸地域には捕鯨ないし鯨食に対する禁忌も存在しました。「鯨類を食糧として考えるという考え方」は決して日本人全体が受け継いできたものではないのです。高屋氏は食べる文化の集合体=国の文化とし、食べない文化を完全に切り捨ててしまっているわけです。文化の統合という言葉を平然と用いるあたり、アイヌに対する、あるいは戦前戦中のアジア地域で言語や伝統的風習を否定し有形文化遺産を破壊した同化主義にみられる、帝国主義・全体主義の発想を匂わせます。

■鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性(再掲)
https://togetter.com/li/977982
■『八戸浦”くじら事件”と漁民』に見る、漁民から見た捕鯨
https://togetter.com/li/837408

 略奪婚・児童労働・寡婦殺害・性器切除などを例に挙げるまでもなく、人権や民主主義(人の倫理)に対して「文化」を持ち出したら一歩も前に進みはしません。環境倫理・動物倫理もそれは同じ。高屋氏の論理は女性や子供の権利を否定する差別的風習を正当化する言い訳と瓜二つ。
 いずれにしろ、江島氏も高屋氏も、産業としての伝統捕鯨や地産地消という食文化の別の概念は受け継ぐ必要がなく、単なる食材にすぎない鯨肉だけは、いくら国民の多くが敬遠しようと多額の税金を補助して存続させなければならないと言っているわけです。南極産美味い刺身≠ヘ、政治的・経済的事情でいくら消失しようが見向きもしない他の諸々の伝統文化とは別格の聖なる食文化であると。彼らはどうでもいい文化と絶対に死守すべき文化を線引きしているわけです。文化を恣意的に定義し、その身勝手な価値観を世界に、南極の自然にまで押し付けているのです。
 筆者が一つ驚いたのは、高屋氏が京懐石料理のウンチクを披露したこと。つくづく庶民の感覚とはかけ離れた人なのだなあと感じました。
 高屋氏なら、仮に水産外郭団体の役員ポストが余ってなかったとしても、ブンカ人類学方面で大学の教職辺りに就けそうですね。それより、さっさと官僚なんかやめて、「食文化専門家」なり「雑煮専門家」なり「とんこつラーメン専門家」として、マツコやさんまの冠番組に出演する方がお似合いなのではないかという気もします・・。

 種子法を平然と廃止し、ギャンブル依存対策・女性議員増の促進・受動喫煙対策等の国民生活に関わる重要な法案を先送りにしながら、自分たちが癒着業界の開くパーティーで南極産美味い刺身≠食い続けたいがための法律は超特急で通してしまい、ちぐはぐでお座なりなコメントで説明責任を果たしたつもりでいる族議員。
 漁業資源管理・調査全体の予算をも上回る莫大な予算を宛がわれた捕鯨セクションで、グルメのウンチクを得意げに披露する食通役人。
 こんなヒトたちに任せていたらこの国は本当に駄目になってしまうと、動画を視聴していて筆者は暗澹たる思いに駆られずにはいられませんでした──。

 なお、以下は記者会見をもとに報道された記事。とくに井田記者のオピニオン記事は必見です。

■山形新聞核心 井田徹治「調査捕鯨へ関与強化 国の支援に正当性なく」 山形新聞2017.7.16
https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/887323587757170688
http://pbs.twimg.com/media/DFBnfM2XgAAL8_P.jpg

■New Japan law a big step toward commercial whaling, officials say (7/6,ロイター)
http://www.reuters.com/article/us-environment-japan-idUSKBN19R11J
■Japan passes whaling bill with view to resume commercial whaling (7/7,ABC)
http://www.abc.net.au/news/2017-07-07/japan-passes-whaling-bill-with-view-to-resume-commercial-whaling/8689226
■Japanese government faces criticism from its own people over new whale hunt plans | WDC
http://au.whales.org/news/2017/07/japanese-government-faces-criticism-from-its-own-people-over-new-whale-hunt-plans
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2017年07月04日

種子法廃止と捕鯨新法──美味い刺身≠ナ国民の目を欺く売国国会議員たち

■種子法廃止で日本農業ピンチ! 外国企業による“種子支配”の恐怖 (6/23, AERAdot.)
https://dot.asahi.com/wa/2017062100047.html
■来年4月に種子法廃止の波紋 生産者と消費者連携「日本の種子を守る会」設立へ (6/26, 東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2017062602000140.html
■【種子法廃止】種子の自給は農民の自立|JAcom
http://www.jacom.or.jp/nousei/closeup/2017/170330-32373.php
■タネが危ない!わたしたちは「子孫を残せない野菜」を食べている。〜野口のタネ店主 野口勲さん|NEXT WISDOM FOUNDATION
http://nextwisdom.org/article/1156/

https://twitter.com/uchidashoko/status/877181437337714689
安倍首相は昨日の会見で「今後とも私がドリルの刃となってあらゆる岩盤規制を打ち破っていく」と述べた。国家戦略特区や、各種の規制改革のことを指しているが、今国会で種子法廃止や農協改革関連法案など、保護・育成すべきものを壊していった。ドリルの刃は明らかに国民の暮らしに向けられている。(引用)
(アジア太平洋資料センター事務局長・内田聖子氏)

https://twitter.com/sayakafc/status/878500805321641984
知ってました?TPPナシになったのに、日本は突然種子法を廃案にした事。タネを守ることは食と農、生物多様性を守るだけでなく、経済的独立に直結。遺伝子組み換え企業と組んだ政府により自家採取等を禁じる法律が世界を席巻。日本にも。(引用)
(国際関係学博士・船田クラーセンさやか氏)

 安倍首相の森友&加計スキャンダルと共謀罪法案をめぐるすったもんだにフォーカスした先の通常国会。その影で、国民が内情をほとんど知らされないまま、政治的な重みを帯びた法律が新たに制定され、あるいは廃止・改正されました。
 新法のひとつが、前々回からお伝えしている調査捕鯨新法美味い刺身*@
 そして、後者が主要農作物種子法(種子法)の廃止と水道法の改正。
 このうち種子法廃止は、まさに日本の食文化・食糧安全保障に直結する話です。
 詳細は上掲リンクをご参照。
 特に一番上のAERAドットの記事は必読。国・官僚・国会議員らのベクトルが美味い刺身*@と180度異なることに、筆者は驚きを禁じ得ません。
 「反捕鯨のバックには米国の牛肉産業がついている」というトンデモ陰謀論は反反捕鯨界隈がしょっちゅう言い触らしていますが、こちらは具体的な根拠や合理性の欠片もないガセネタ。ま、「米国の圧力から国内の畜産業を守るために捕鯨推進が必要だ」と本気で考えている畜産関係者が一人でもいるはずありませんしね・・。
 それに対し、種子法廃止の背景はきわめてストレート。上掲船田氏の指摘どおり、米国トランプ政権がTPPを蹴ったにもかかわらず、なぜ国内法をわざわざ廃止しなければならないのか、国が生産者・国民に対して丁寧な説明責任を果たしているとは到底言えません。自由貿易推進の旗印のもと、官僚と政治家が経済界とタッグを組んで、多国籍種子メジャーに日本の農業を売り渡そうと前のめりになった結果が、この種子法廃止の動きではないのか──。当事者たるJA・日本の農業関係者が将来への不安を掻き立てられるのも無理はないでしょう。
 美味い刺身*@の問題点については、前2回の過去記事及びプレゼン資料をご参照。

■美味い刺身*@は廃止を!

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 さて、種子法廃止によって法の裏付けを失ってしまった生産者・消費者・研究者の危惧の声を、族議員・天下り官僚と一蓮托生で新たな法の裏付けを得た捕鯨サークル関係者は一体どう受け止めているのでしょうか? 「自分たちは聖域だから関係ない」という姿勢なのでしょうか?

捕鯨新法成立しました(泣)
13日参農水委、14日参本会議、15日衆農水委、16日衆本会議と連日国会議事堂に通い続け、貴重な瞬間に出会うことが出来ました。国会議員、議員秘書、国会職員の方々にただただ感謝の気持ちでいっぱいです。
法の名に恥じないようこれからも頑張ります。(引用)
(共同船舶社員・吉村清和氏)

 毎年永田町向けに鯨肉パーティーを用意し、強固なリレーションを構築してきた共同船舶/日本捕鯨協会の自慢げなアピールの声を、全国の農業者の皆さんはどう受け止めているのでしょうか? 有力議員とツーカーの間柄の「食文化を守る会」ほか水産官僚の天下り先と重なる水産系外郭団体の圧倒的な政治力。片や、生産量・消費量/生産者・消費者の数では比較にならないほど多いにも関わらず、政治家・官僚に背を向けられてしまった「日本の種子を守る会」。この2つのギャップを一体どう受け止めればいいのでしょう?
 ある意味筆者には、全国の一次産業従事者(捕鯨以外)と共同船舶の関係が、全国の獣医師・獣医教育界と加計学園の関係ともダブって見えます。
 アエラ記事上の「あまりにも急で、知らない間に決められた」(引用)との農業関係者の声以上に、国民が瞬きする間もなく超特急で可決されてしまった美味い刺身*@ですが、参院委員会質疑の山本議員によるわずか10分の質問によって、日本の鯨肉食が戦後の一時期に急拡大したにすぎず、「全国区の食文化」とはいえないことが改めて示されました。さらに、文化庁も答弁の中で「今日の捕鯨が日本の伝統ではない」という国の立場を明示しました。

 さて、皆さんは、日本にとってより大切な食文化で、国家の食糧安全保障にとってより重要で、法によって守られるべきなのは、「種子」と「南極産鯨肉」のどちらだと思いますか?
 上のツイートで投票やってますので、皆さんもぜひ1票を。

 SNS上で永田町と庶民の感覚のどちらが支持されるかは結果を待つことにして、前者から事実上の聖域扱いを受けている捕鯨/鯨肉食の裏側について、再度確認しておきましょう。

 明治政府によって強制的に潰されたアイヌの捕鯨とは対照的に、日本(倭人)の捕鯨産業は伝統文化を伝統文化足らしめる最も大切な要素といえる持続性を備えていませんでした。「余禄」としての位置づけ、短期的に莫大な利益を上げる商業性および権力との癒着が、伝統文化とは相容れない収奪的性格をもたらしたのです。乱獲と規制違反・密漁・密輸にまみれた無節操さこそが、伝統という言葉から来る奥ゆかしいイメージとは程遠い日本の捕鯨産業の本質でした。鯨肉はそのビジネスとしての捕鯨産業によって提供され、実情を何も知らない消費者に無思慮に購入されていたただのにすぎません。

■日本の鯨肉食の歴史的変遷
http://www.kkneko.com/rekishi.htm
■哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html

 そして、仮に将来商業捕鯨が再開されたとしても、国民1人当たりの生産量は年間数十グラムどまり。政治・経済・環境上のコストを考えれば不合理の一語に尽きます。捕鯨推進政策は日本の食糧安全保障の足を引っ張るマイナスの効果しかもたらさないのです。

■鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?
http://kkneko.sblo.jp/article/174477580.html
■捕鯨は牛肉生産のオルタナティブになり得ない
http://www.kkneko.com/ushi.htm

 にもかかわらず……

   日本の食を支える米や野菜の種子 <<<<< 南極産鯨肉(美味い刺身

 驚くべきことに、これが国民を代表するはずの国会議員たちの出した結論だったのです。

 今国会で与党の自民・公明および維新の議員は、美味い刺身*@・種子法廃止双方に賛成することで、食の問題に対する矛盾に満ちた姿勢を露呈しました。建前のダブルスタンダード
 一方、種子法廃止には反対した民進党や共産党等の野党議員も、美味い刺身*@が共謀罪と同様の問題点を抱えていることや、日本の食文化庇護・食糧安全保障に何一つ寄与しないことなど、中身の議論を完全にすっ飛ばしてしまいました。こちらは立法手続のダブルスタンダード
 結局、美味い刺身*@と種子法廃止いずれにも反対票を投じ、本物の伝統と生物多様性保全を優先する一貫した態度を示してくれたのは、参議院のお2人の議員の方のみでした。

 2つの法律の扱われ方ほど大きな矛盾はないでしょう。それはまた、日本の国会がはたして立法府としてまともに機能しているのか、真剣に問わねばならないほどお粗末な様相を呈していることをも意味しています。
 天下り官僚と一心同体の特定業界の利権のために、連中の開く美味い刺身<pーティーにつられた永田町のセンセー方は、国民を騙す希代の悪法を通してしまいました。法案の中身がグダグダだったことも含め、彼らの資質も厳しく問われます。彼らは立法の専門家であって、決してパフォーマーではないはず。ましてや、グルメ好事家であっていいはずがありません。
 種子法は復活させ、バカげた美味い刺身*@は廃止させましょう! それこそが本当に日本の食を守る道です。
posted by カメクジラネコ at 19:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系