2019年12月30日

クジラたちの海・2019

 半年ぶりに2本連続で記事を出しました。大事な内容なのでしっかり読んでくださいね!

■水産庁の発表した2020年の商業捕鯨捕獲枠はインチキだった!!
http://kkneko.sblo.jp/article/186961708.html
■水産庁のリクツに合わせるとアマミノクロウサギは700頭〜1800頭も殺されちゃう!?
http://kkneko.sblo.jp/article/186969749.html

 元号が改まり、日本がIWCを脱退して南極海・公海から撤退する代わりにEEZ内で商業捕鯨を再開した2019年。
 まずツイート、記事等を中心にいくつかのトピックをご紹介しながら、捕鯨再開後の半年間を振り返ってみましょう。

○ウシもクジラも平等≠ノ苦しめたがる捕鯨ニッポン


 連ツイを最後までご一読を(ゴミリプ除く)。ろくでもないツイートがバズるもんです・・たいした動物愛ゴ先進国。

○捕鯨ニッポン、国際法を尊重する気あるの!?

■イワシクジラは何処へ行った? ワシントン条約第71回常設委員会(第18回締約国会議併催)報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/371-inn074-cites71

 昨年の常設委で日本のCITES規則違反は確定。今年の会合では「違法に持ち込まれたブツ≠ヘ処分しろ、没収しろ」とニジェールをはじめ各国から非難轟々だったのですが、議長裁量で違法取引・没収された附属書掲載種標本の処分に関する決議に留意するとの但し書き付きで、報告を求める決議が採択されました。国際法遵守を声高に掲げる国なんだから、強制的な勧告を出されるまでもなく自ら襟を正してくれるものと期待されたわけですが・・はたして国際法を遵守する国として模範的な対応を取れるのか、それとも、期待を平気で裏切るまねをしでかすのか。
 どうやら後者の様子。農水省の食堂で違法な「イワシ鯨ステーキ膳」を堂々と販売してるし・・


 さらには国際法違反の公海イワシ鯨肉を通販で扱いながら堂々とSDGsを掲げる厚顔無恥な業者まで現れるし。水産庁は対応する気ゼロ。

 ここまで国際法・国際機関を足蹴にする国が一体どこにあるでしょう? 「国際ルールを尊重しなよ!」という世界の声をたかがクジラで*ウ視できてしまう国に、中国や韓国を非難する資格があるのでしょうか?

○新スマスイ、いまさらシャチで集客?? 世界の真逆をいく捕鯨ニッポン

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1173890198976860160
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1178991159562997761
■シャチをいれるって?|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2019/09/post-6627c1.html
■「スマスイ値上げ反対署名提出」の報道をうけ、国内外のシャチ飼育の変遷などを考えてみた。 #しかし高校生以上3100円はないわ #幼児1800円はもっとないわ|福武氏のnote
https://note.com/shinobun/n/n9cb33da45db8

 前回のブログで詳述しましたが、神戸市須磨水族館がリニューアルに際してシャチを導入すると発表。筆者もオーナーのサンケイビル広報に直接再考をお願いしたところ。

○海外の若き環境活動家をこき下ろして悦に浸るメンタルはどこから?

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1176798692801540096
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1176450263013441542
■【コラム】トゥンベリさん怒りの演説と、醜悪な日本の大人達|ジャーナリスト志葉玲氏
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20190927-00144349/

 気候変動問題を身を呈した行動で訴えるスウェーデンの10代の環境活動家グレタ氏に日本中の冷笑主義者たちが猛反発。「陰謀」「感情論」といった決めつけや「欧米発の環境保護に対する汚れたイメージ」を強調するアンチキャンペーンの出所は一体どこなのでしょう? そのルーツこそ、日本捕鯨協会/国際ピーアールの反反捕鯨プロパガンダであると、筆者は確信をもって言えます。

○国際裁判敗訴の責任を取らされ(?)思いっきり業界に擦り寄る外務省

 商業捕鯨再開に合わせ、外務省がホームページにトンデモQ&Aコーナーを解説。それにしても、今の漁業室長はどっぷりべったり業界よりですね。永田町と業界に責められた所為なのか知りませんけど・・。
 なお、原の辻遺跡の線刻土器の捕鯨図(?)に関する疑義≠ノついても詳しく解説していますので、連ツイをご参照。

○伊東のヒトと野生動物の明日

 今回の決定は残念ですが、この件については上掲IKANの意見同様、冷静に状況を見極めたいと思います。

○刺身$V法改成立! 日米貿易協定拙速締結、種子法廃止で日本の一次産業従事者をますます苦境に追いやりながら、捕鯨業界にだけは至れり尽くせり!

 改正前もひどかったですが、今回も同じパターン。異議なし採決(衆院)って変だよね!
 唯一の救いは、夏の参院選挙で2議席を勝ち取ったれいわ新撰組の木村議員、船後議員が反対票を投じてくれたこと。党代表で改正前の刺身法の審議でお世話になった山本氏、将来の環境相の呼び声高い辻村氏にもぜひ国会へ行ってほしいもの。

○セレン教のアホは・・

 リンク先資料を読むべし。国水研も落ちたものだというのが正直な感想。まあ、妊婦以外の大人が自分でリスクを負うのは本人の勝手ですが・・。

○贋物の自然、贋物の野生動物

■そうふけっぱらのきつね・解説

 筆者も動画を拝見しましたが、アルパカには目が点に。センスについていけませんでした・・
 千葉県・URに開発の再考を求める署名には筆者も賛同したのですが、残念ながら実らず。身近な野生動物との共存を真剣に考えなかったのに、町興しのためのPR動画に使ってしまうのは、今の時代に神経を疑われても仕方がないのでは。

○大隅氏・ホルト氏訃報

 11月には日本の鯨類研究者を代表する大隅清治氏の訃報が届きました。典型的な御用学者の方ではありましたが、ある意味わかりやすい、裏表のない方だったと思います。
 その後を追うように、梅崎氏らに反捕鯨学者の代名詞として攻撃された著名な鯨類学者のシドニー・ホルト氏も今月逝去されたとのこと。
 真田氏が「二巨星墜つ」と表現されましたが、時代の節目を感じさせます。お2人のご冥福をお祈りいたします。


□クジラたちの未来

 上掲記事で指摘したとおり、来年の商業捕鯨捕獲枠の中身はとてつもなくおかしく、水産庁は糾弾されて然るべきなのですが、全体の捕獲枠を増やさず、網走沖も調査捕鯨より減らしたとは一応言えるでしょう。永田町/業界の圧力を考えると、これでも自省したうちに入るのかもしれません。公平を期した言い方をするならば(本来なら筆者がすべきことじゃないのですけど・・)。
 再開された日本の商業捕鯨は、国際法のうえでも、科学の面でも、大きな問題をはらんでいます。真っ黒とまでは言い切れないのが悩ましいところですが(これも本来なら筆者の立場で口にすべきことじゃないのですけど・・)。
 来年には再びIWC総会が開かれます。ワシントン条約常設委員会会合も。そこで日本は厳しい追及を受けるでしょう。そうあるべきです。
 IWC、CITES加盟各国は、日本を甘やかす、日本に対して遠慮をするということをやってはいけません。それはクジラのみならず、すべての野生動物、自然環境にとってためになりません。ヒトにとっても。
 特にIWCにおいては、日本が今後さらに図々しい態度に出ることがないように、「オブザーバーとしての分を弁えないなら、提訴も考えるぞ」とはっきり釘を刺すべきです。匂わすだけの発言から決議の採択まで、やり方はいろいろあるかと思いますが。
 ただ・・今クジラのために、すべての野生動物のために一番切実に求められるのは、やはり来年の米大統領選でトランプを落っことすことかもしれません。いくら日本の捕鯨外交が独善的といっても、さすがに「トランプよりひどい」とまで言うと言いすぎになっちゃいますし(近いとはいえますけど)。本当にすべての動物にとって百害あって一利なしの政権が出来ちゃったもんです(--;;

 さて、ここでは5年先、10年先、あるいは20年先の話をしたいと思います。
 今年再開された商業捕鯨はRMP(改訂管理方式)という、IWCで一応合意された管理方式に基づいて行われることになっています。無論、国際条約に明らかに∴癆スしないよう必要に迫られた側面もあります。とはいえ、南極海を荒廃させたかつての大乱獲時代と同じものとみなすことは、さすがにできません。日本政府には、歴史を歪曲し美化する修正主義を厳に戒め、日本の捕鯨捕鯨産業が重大な罪を犯したという史実を、国が続く限り後代まで語り継ぐ責務がありますが。
 しかしながら、反捕鯨国の研究者、加盟国も合意したRMPには、依然として「問題がある」のです。
 Jストックに関して公約を破ったり、チューニングしたりするのは、そもそもルール違反。似非RMPの謗りを免れません。チューニングに関してはノルウェーも同罪ですが。
 もっとも、予防原則を基本とし相対的に優れた管理方式といえるRMP自体にも、やはり欠陥はあるのです。

■指定漁業の許可及び取締り等に関する省令の一部を改正する省令案についての意見
https://www.kkneko.com/pubcom6.htm

 上掲した今年3月のパブコメで提出した拙意見でも触れましたが(3点)、問題は4点。パブコメ中で詳述したので、ここではいくつか付記したうえで簡単に触れることにします。

@種・系群の社会構造等にもたらす影響
 RMPでは対象種の個体数のみしか考慮されません。量≠セけを見て、質≠考えていないのです。捕獲の仕方によっては、個体群の人口構造や社会性に影響を及ぼす恐れがあります。実際、大きな雄の個体ばかりを狙い撃ちした過去のマッコウクジラ捕鯨でも、科学者の想定以上に個体群にダメージを与えることになりました。

A国・地域・産業間のアクセスに対する公平性
 RMPには「できるだけ高い捕獲量を得る」という、まさに余計な文言≠ェ入っています。これはもう本当に要らない。取っ払うべきです。
 最大化すべきなのは、鯨類から得られるトータルの《生態系サービス》です。

B産業の側の持続性
 RMPには「捕獲を安定させる」という要件も入っています。ところが、シミュレーションでは、最初にがっつり捕って減らしたうえ、後は増加率をほんの少し下回る程度の捕獲を継続し、100年後に目標水準に持っていくという感じになります。「できるだけ高い捕獲量」と「安定」という2つの要件を、杓子定規に数学的に両立させようとするとこうなっちゃうわけです。
 しかし、このような管理は母船式商業捕鯨とは相容れません。最初に100億円もの莫大な初期投資をしたうえ、20年、30年の償却期間の中で銀行にローンを返済しつつ収益を上げていくというのがそのスタイルだからです。それこそが、乱獲を食い止められなかった根本要因でもありました。一度建造した母船の借金を返すまで返済額を上回る収益を上げることが至上命題となる故に、資源が減っても政治的圧力をかけて規制を遅らせ、南極海の荒廃を許す羽目になったのです。また、消費が落ち込めば工場を建設して魚肉ソーセージに加工するなど、あの手この手でともかく生産に合わせて無理やり需要を作りだしたのです。大手捕鯨会社はそういう商売をせざるをえなかったわけです。それが、伝統食などとは到底呼べないいびつな鯨肉消費の実態でした。
 作っちゃった母船の減船を余儀なくされるような管理を捕鯨産業は受け入れません。RMPにはそうした社会科学的要因の考慮が欠けているといわざるをえません。
 日本の再開商業捕鯨に関しては、いくら採算が取れなくても税金をガンガン注ぎ込んで維持することが法律で決められてしまいましたが、もはやそれは旧ソ連的な官営捕鯨というべきもので、商業捕鯨などとは呼べません。他の一次産業従事者がTPPや日米貿易協定でいくら理不尽な扱いを受けても我慢を強いられる中、共同船舶1社のみが特別扱いを受け続けるのは、公平性の観点から容認できません。
 今のRMPは税金の無駄を許すことにつながります。他でもない日本の国益を損ねます。シミュレーションで母船式捕鯨の経営の安定が見込めない場合は該当枠をゼロとするくらいのことを、あらかじめ要件として組み込んでおくべきです。

C環境破壊の影響
 水産庁は、RMPには環境の悪化もちゃんと組み込まれているんだと説明し、例として「突然の大量死」を挙げていますが、環境の悪化が1回の突発死で終わる(増加率はそのままで)というのはむしろ非現実的。汚染や気候変動、音響妨害などによるストレスを含む直接間接の影響は、繁殖年限・頻度を下げたり、乳児死亡率を上げたり、あるいは今の研究者には予測もつかない形で、静かに、長期に渡って進行し、気づいたときには手遅れという深刻な事態になっていることも十分考えられます。ひとつの事例として、拙HPではクロミンククジラのカドミウム汚染のケースを取り上げましたが。
 予防原則のもととはいえ、直接目に見える個体数の変化のみに着目するのがRMPの考え方。RMPで捕獲に「待った」がかかるのは初期資源の54%を切ったとき。生息環境悪化によって歯止めのない死亡率の増加・繁殖率の低下が進行する場合、発覚した時点で捕獲をやめても、そのまま何年も個体数が下がり続けることは十分あり得るのです。絶滅に瀕する野生生物種で、産業による直接捕獲がない場合でも減少し続けているケースはいくらでもあります。それが何よりの証拠。その場合、水産庁のいう「100年安心」は保障されません。捕鯨が主因かどうかは関係ないこと。水産庁は「不測の事態があっても6年毎に再計算するから大丈夫」と言ってますが、網走沖調査捕鯨計画でのJストックに対する水産庁側の言い分、そして強引な網走沖捕鯨枠設定を見ても、そんなの信用できません。商業捕鯨があることで、数を削がれるだけでも種としての回復力は減殺されますし、対策を講じるために必要な猶予期間も短くなります。「商業捕鯨をやってさえいなかったら、絶滅を防ぐのに間に合ったのに」ということだって考えられるのですから。
 現行のRMPでは駄目なのです。個人的には、論争に終止符を打つためとはいえ、反捕鯨国側の研究者の認識も甘かったと思っていますが。

 「いまさらRMPに文句言うな! IWCで合意したじゃないか!」とおっしゃる? ごもっとも。
 筆者がしているのは、あくまで将来の話です(チューニングとJストック枠はすぐにでもやめるべきですけど)。
 今やったら100%完全な国際法違反となる公海・南極海捕鯨復活の話を一部の捕鯨推進論者(直接の当事者含む)がしているのと同じく。
 国際条約・国際機関は、その中身が時代にそぐわないものとなってきた場合は、やはり何らかの形で新しい時代に相応しく適合させる必要があるでしょう。とりわけ、科学的知見の集積や市民の意識変化により新たな国際合意が急速に形成されるに至った地球環境・生物多様性保全の文脈に関しては。もちろん、拙速であってはいけませんが。
 はっきり言って、「絶滅さえしなければいい」という考えはもう古いのです。
 今日では野生動物の餌付けは基本的によくないこと≠ニされます。それは、「餌付けをしたら野生動物が絶滅しちゃう!」という理由ではありません。渡りなどの生態を変質させたり、生物種同士のバランスを崩すおそれがあるからです。
 沿岸捕鯨が北西太平洋に生息するミンククジラに与える影響も、餌付けが野鳥に与える影響と同様に、そうした側面から検証されなくてはなりません。影響しないわけがないのですが。
 豊かな、健全な生態系を可能な限り豊かなままの形で℃氓フ世代に受け継ぐ──それが、現代の生物多様性保全の考え方です。
 捕鯨推進派の時計の針は、四半世紀以上前のまま止まってしまっているのです。
 そして、「持続的利用=獲って食う」という考え方も甚だ時代遅れ。
 筆者はすでにそのたたき台を提示しました。ベースとなる考え方はずいぶん昔にまとめたものではあるのですが。

■Future IWC for Japan, fishery, the world and whales; the keyword is "Ebisu"
https://www.kkneko.com/english/ebisu.htm

 IWC(International Whaling Committee)のWhalingは、前述した通り、今後は《包括的な鯨類による生態系サービス》の呼称として用いるべき。IWCはIWCのままでいいから。
 筆者は捕鯨(致死利用)のオプションそのものを否定することはしません。
 莫大な税金を注ぎ込まなければ維持できない母船式商業捕鯨は、もはや収支のマイナス要素でしかないとみなすべきですが。
 先住民生存捕鯨は、先住民の主権の回復が十分果たされるまで、やはり別枠で認められるべきと考えます。
 少なくとも、アイヌへの中傷を続ける元政治家や漫画家、「アイヌへの差別はたまたま起こったんだよ。日本人にだってダブスタくらいあるさ、それがどうした!」「云十万円の土産がムニャムニャ」などと超絶無神経な発信をしてしまう森下氏のように、加害者の一員であるという自覚の欠片もない、人権感覚の希薄な日本人や白人(搾取側の民族)がすっかり一掃されない限り、倭人の捕鯨会社の商業捕鯨と同一視はできません。
 海外では保全や動物福祉の観点で批判もあり、反対する人たちの気持ちもわかるのですが、カナダの例のように年間2頭といった程度であれば、目をつぶるべきと筆者個人は考えます。
 先住民の狩猟・漁労よりは、海洋環境問題そのものへの取組、および先進国の白人・日本人等による工場畜産やトロフィーハンティングの問題をやはり優先すべき。
 混獲に関しても、密猟を確実に防止し、技術開発や行政指導の形で削減に向けた努力を続けるという前提で、「命を無駄にしない」利用は認められていいのではないかと筆者は考えます。
 参考までに、以下はドジョウ博士で知られるオイカワ丸氏のツイート。


 故大隅氏は交通事故という表現を使われました(捕鯨に関してですが)。日本人の交通事故死者を10万人当り3人程度とすると、ミンククジラOストックに換算したら年1頭以下。まあ、年間数頭が網にかかり、地場消費されるというのであれば、十分許容範囲といっていいでしょう。できればそのくらいまで減らしたいもの。

 そしてもうひとつ、捕鯨問題の解決に欠かせないと筆者が思っていることがあります。それは、《野生動物保全》《健全で持続的な水産業》《動物愛護(福祉/権利)》この3分野における日本全体での底上げ
 本当は、クジラを守ることはそれらの先駆的な事例となるはずだったんですけどね。乱獲で追い込まれた悲劇の歴史と、海洋生態系の要となる役割を果たし、絶滅に陥りやすいステータスを持つクジラは、まさにモデルケースに相応しい動物のはずでした。
 大変残念なことに、あまりにもこじれてしまったせいで、逆に日本では置き去りにされることになっちゃったんですけど……。

 日本が公海調査捕鯨から撤退し、全体の規模を縮小したことで、海外の環境NGOはリソースを海洋環境全体の問題にもっと振り向けることができるようになりました。それは歓迎すべきことだと思います。
 その一方で、再開した商業捕鯨をめぐって、まだしばらくは政治的綱引き、駆け引きが続くことになるのでしょう。こっちはあまりいいことじゃないですけど・・。
 現状の具体的な課題については、6月の再開直前、そして今月アップした2本の記事でまとめたとおりです。
 ただ、この先の方向性について、「日本人は今後野生動物のクジラとどうつきあっていくべきか」は、やはり次の世代の判断に委ねるべき事柄なのではないかと思っています。
 これまで水産庁等に対して文句ばっかり言ってきましたが、筆者としてはしばらく事態を見守るつもりです。シーシェパードよろしく対立を煽ってばかりいても、クジラにとって何もいいことはありませんし。何しろ、梅崎氏伝来の炎上商法≠ェあちらさんのやり方ですから・・。次の記事を書くとしたら、また半年先、あるいは総会前後くらいになるでしょうか。

 最後に、これはその若い世代の人たちに考えてほしいこと。
 上でも紹介したスウェーデンの環境活動家・グレタさんの言葉を、みなさんはどう捉えたでしょうか?
 大人たち、すなわち筆者自身も含む旧い世代は、なぜ子供たち、あるいはまだ生まれてきていない将来の世代にツケを残す形で地球環境を壊してきてしまったのでしょう? 野生生物を絶滅に追い込んできてしまったのでしょうか?
 科学技術が未熟だったから? もちろん、それもあるでしょう。
 しかし、筆者には、本当の原因は別のところにある気がしてなりません。
 それは、「ニンゲンは地球を、自然を、命を支配しているんだ」という思い込みであり、「それらを管理する、制御する能力があるんだ」という思い上がりなのではないかと。
 結果が事実を突き付けています。環境破壊、野生生物の絶滅は、ニンゲンが自然の管理に(自分たち自身の管理にも)失敗した、その能力がなかったという紛れもない証拠です。
 問題の解決を放置したまま、「今はまだ無理だが、そのうち可能になる」とのオプティミズムに立つことは、筆者にはできません。めまぐるしいITの進化に、私たちはつい錯覚≠引き起こしそうになりますが。
 別に筆者は科学技術の進歩を否定するわけではありません。ただ、ニンゲンはやはりあくまで謙虚に、自然に、命に、向き合うべきなのではないかと思うのです。驕りを捨てない限り、過ちを何度も繰り返し、いずれもっと取り返しのつかない結果を招くのではないかと。気候変動自体、もうそれに近いですが。
 「クジラという野生動物、南極海という自然を我々は管理できるんだ。コントロールできるんだ」というのが、捕鯨を推進する日本の立場の中核をなす思想です。ある意味、非常に西洋的ですけどね。
 それが南極海で悲劇をもたらしました。科学者は乱獲を止められず、シロナガスクジラとミンククジラの関係についての我田引水の推論も完全に誤っていました。
 対象は自然、(ヒト以外の)動物だけではありません。ヒト個人個人の消費行動、一挙手一投足まで監視・予測することが可能になってきた現代。その手の技術を開発し、商品化し、政治的に利用しようと考えるヒトたちの中には「自分たちが管理者≠セ」と、一種の全能感を味わっているヒトもいるかもしれません。しかし、それは何が、何を管理していることになるのでしょうか? はたしてそれを「管理に成功した」と言っていいのでしょうか?
 どれほど文明が進んでも、『惑星をめぐる探査機や、海底地殻を貫通するボーリングマシンや、素粒子でビリヤードをする加速器や、都市を一瞬にして灰にする核爆弾を生み出』そうとも、ヒトのルーツは変わりません。サル目ヒト科に属する社会性動物の一種です。生物としての頚木を逃れることは決してできやしません。
 SF的発想で、テクノロジーによってヒトが自然の、動物としての制約から解放≠ウれる日が遠からずやってくると考えるヒトたちもいますが、近い将来にそうなるとは筆者はまったく思いません。気候変動問題に真剣に取り組むことができず、若い世代にツケを押し付けているようじゃ、無理に決まっています。
 まあ、遠い遠い未来であればわかりませんけどね・・。ただ、もし解放≠ウれる日が来たとしたら、それは知性の到達点だとか勝利だとかそんなものではなく、自然の終焉、ヒトという動物の滅び≠意味するのだと筆者は解釈します。現状では、その域に達するはるか手前で絶滅する可能性が高そうですが・・。まあ、その手のSF小説を読むのも筆者は好きなんですけど。
 繰り返しになりますが、ヒトという動物が生き延びるために、いま本当に必要なものこそ、自然、命に対する謙虚さなのではないか──筆者はそう思うのです。
 ちなみに、『』で引用したのは拙小説『クジラたちの海─the next age─』のメインキャラの1頭、紗樹の台詞。暇な方は休みの間にでも読んでみてね! ついでに、クジラテーマ以外の拙小説が読みたいという奇特な方がいらっしゃれば、HPのフォームからご連絡をm(_ _)m

■クジラたちの海─the next age─
https://www.kkneko.com/nvl/nmokuji.htm


 以下はまったくもって個人的な話ですが、王子を里親に引き渡すことに。拾った時点で最初からそのつもりだったのですが、先方の受入態勢が整わず延びてしまいました。寂しくなりますが、幸せに暮らしてくれることを祈るばかりです。
 今まで自分の拾ったこどもたちと死別したり、里子として譲る度に断食をしてきたので、年末年始に重なりますが今回も断食しながら過ごすことに。
 あと全然関係ないけど、今まだ死にかけたWin7を使ってるので、期限までに移行しなきゃ(--;;
 来年がクジラたちにとって、すべての生きものたちにとって、いい年になりますように。
 それではみなさん、よいお年を。
posted by カメクジラネコ at 18:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2019年12月28日

水産庁のリクツに合わせるとアマミノクロウサギは700頭〜1800頭も殺されちゃう!?

 先日水産庁が発表した2020年の商業捕鯨捕獲枠の重大な問題点については、前回の記事で詳しく解説していますので、まずはそちらをご参照。もう一度図を貼り付けておきます。
2020catchquota_j.png
■水産庁の発表した2020年の商業捕鯨捕獲枠はインチキだった!!
http://kkneko.sblo.jp/article/186961708.html

 今回は水産庁のリクツを他の日本の野生動物に当てはめると一体どういうことになるか、検証してみることにしましょう。すでにツイッターや拙HPの水産庁/外務省Q&Aコーナー・カウンター版でも簡単に解説しているので、そちらもご参照。

■水産庁Q&Aコーナー・カウンター版
https://www.kkneko.com/faq.htm
■外務省Q&Aコーナー・カウンター版
https://www.kkneko.com/faq2.htm

 まずは以下の図から。でっかくてごめんなさいm(_ _)m ナベヅル以上の絵の数は数えないでね! イラストは拙作のアマミノクロウサギ以外はフリー画像をお借りしています。(提供元はHPのリンクコーナーで紹介)
hansyoku.png
 この図では、日本の再開商業捕鯨の対象とされた3鯨種、シャチ、アマミノクロウサギ、マウンテンゴリラ、ナベヅル、ジャイアントパンダ、マイワシ、マサバ、タイヘイヨウクロマグロを比較してみました。

 日本が調査捕鯨〜商業捕鯨の対象にしてきたイワシクジラはIUCNレッドリストでEN(絶滅危惧TB)、マウンテンゴリラやアマミノクロウサギと同じ。美食家垂涎の尾の身を狙った違法な南極海調査捕鯨の対象となり、撤退後も共同船舶社長が公海に再進出して捕獲を目論んでいるナガスクジラはIUCNレッドリストでVU(危急種)、ジャイアントパンダやナベヅルと同じ。絶滅が危惧される国内・国外の代表的な野生動物としてこの4種を採用。

 ニタリクジラはDD(データ不足)ですが、鯨類の中では回遊範囲がやや狭くて定住性の高い方で、多くの地域個体群に分かれ、それぞれの個体数は少ないと考えられます。ニタリクジラはかつてイワシクジラと混同され、同種とされたツノシマクジラが近年になって新種に認定され、さらに現在では高知沖等に生息するカツオクジラも種レベルでニタリクジラと異なると認識され、学名も与えられていますが、IUCNではまだ同種扱い。メキシコ湾系群(カツオクジラ)が一番深刻なCR(絶滅危惧TA)。

 同じくDDのシャチは、よく知られているように、社会性の複雑さでは野生動物でもトップクラス。また、同じシャチでも食性や回遊特性が多様性に富んでおり、少なくとも10くらいのエコタイプに分かれると考えられています。北米太平洋岸やオホーツク海など、同じ海域であっても複数のエコタイプが生息しています。海洋生態系の頂点故に野生動物の中でもずば抜けて繁殖率が低く、有機塩素等による汚染も深刻なことから、当然絶滅危惧種に含まれるべきところ。しかし、このエコタイプの扱いをめぐって議論が続いているため、IUCNではDDのまま棚上げされている状態。
 シャチは現在は学術目的以外捕獲禁止なのですが、今日本近海のシャチは大きな危険にさらされているといえます。NHKのドキュメンタリーで知床の野生の<Vャチたちの興味深い生態が茶の間でも高い関心を呼んでいるにもかかわらず。水研機構では国際漁業資源≠ニしてシャチを扱っており、北西太平洋として推定生息数として7,512頭という数字を挙げています。これ自体もエコタイプを全無視しているうえに過大ではないかと批判されているのですが(下掲リンク参照)、最近はさらに空間分布モデルを用いて目視データを再計算≠オ、べらぼうに高い数値を挙げるようになりました(まだ参考値とはいえ)。空間分布モデル(状態空間モデル)は分布密度と生息域の地理的特性を統計的に処理して野生動物の個体数を弾き出す、最近の野生動物研究でトレンドになっている手法。ただ、まだ発展途上で批判もあります。陸上であれば植生や微気候に野生動物の分布が大きく左右されるのはまだわかるのですが、海洋で、鯨類にあてはめるのはあまりに乱暴な話。天気図をもとに渡り鳥の生息数を判断するようなもの。鯨類の回遊ルートや繁殖域は種分化の過程を経て形成されたもので、海洋の物理的特性のみに基づき生息分布を判断するのは無理があります。それもよりによって、様々なエコタイプに分化した、最もデリケートな野生動物といえるシャチに対して適用するなんて。
 わざわざ大きな数字を見せたがるのは、日本近海のシャチの商業捕獲再開を目指す動きと無関係とは思えません。具体的には、先般発表のあった神戸市須磨水族園のリニューアルに伴うシャチ導入プランの公表。現時点で検討しているのは鴨川シーワールドからの移籍とのことですが、途絶は時間の問題の日本の水族館飼育シャチの頭数・血統管理の現状を踏まえると、行く行くは追い込み猟による野生個体の導入に踏み切る心積もりであったとしても不思議はありません。アイスランドと日本の血統を混血させたところで野生動物保全には一切寄与しませんが。せっかく商業捕鯨が再開しても、外目を気にして調査捕鯨時代以下の枠に抑えられ(それでもチューニングで増やしていますが)、不満を抱える太地にとっては、億単位の稼ぎになるシャチの水族館向け生体販売は大きな魅力。新スマスイのシャチ導入構想は、太地にしてみれば渡りに船でしょう。実は、水産庁は来年の商業捕鯨捕獲枠の発表と同じタイミングで、19日に2018/19猟期の改訂されたイルカ猟捕獲枠を公表しています。変更されたのはオキゴンドウの捕獲枠(70頭→91頭)。電話した際に商業捕鯨枠のついでにこちらについても尋ねたのですが、捕獲枠拡大は太地側の要請による留保分の追加とのこと。捕獲があったわけではなく、「大きな群れが来ているので、2回猟を行えば枠を越えちゃうから増やしてくれ」と求めてきたと。近年捕獲ゼロが続いていたオキゴンに対して皮算用で枠拡大を要求してくる辺り、再開でかなり気が大きくなっているといえそうです。シャチは要注意! ということで今回表に加えました。
 神戸新スマスイ・シャチ導入の件に関しては、筆者も新オーナーとなったサンケイビル広報に直接問い合わせ、再考を強く求めました。なお、水族館問題に詳しいイラストレーターの福武忍氏が日本の水族館によるシャチ飼育の一連の流れを非常にわかりやすく解説されていますので、ぜひご一読を。

■56 シャチ 北西太平洋|水産研究・教育機構
http://kokushi.fra.go.jp/H30/H30_56.html
■日本沿岸のシャチのこと|ika-net日記
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_f95d.html
■太地シャチ捕獲事件から10年|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/coastal-small-whales/81-10yearssincetaiji5
■1997年に捕獲された5頭のシャチ最後の1頭の死に際して|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/coastal-small-whales/79-lastorcapassedaway20080923
■「スマスイ値上げ反対署名提出」の報道をうけ、国内外のシャチ飼育の変遷などを考えてみた。 #しかし高校生以上3100円はないわ #幼児1800円はもっとないわ|福武氏のnote
https://note.com/shinobun/n/n9cb33da45db8

 ミンククジラはIUCNによる種としての評価はLC(低懸念種)。商業捕鯨で乱獲され激減したヒゲクジラの中では最も順調に回復が進んでいるとされるザトウクジラ(それでも捕獲禁止から半世紀も経ってようやくという感じ)と同じですが、同種が母船式捕鯨のターゲットとされたのは世論の目が厳しくなった商業捕鯨末期だったことが理由といえます。ただし、海域によってはミンククジラも早くから乱獲されていました。特に激減したのが前回の記事で詳述したJストックです。同系群を絶滅危惧状態に追いやった乱獲の主犯は日本と韓国(日本統治時代を含む)の商業捕鯨。
 Jストックに関しては、まだ日本が商業捕鯨を再開していなかった2年前、筆者がIUCNレッドリストガイドラインに基づいて評価しました。結果はアマミノクロウサギと同じEN。日本のレッドリストに合わせてLP(絶滅危惧地域個体群)としましたが。ただし、日本の調査捕鯨計画書に示されたものすごーく非保全的な数字を用いたので、IWC公式の数値を用いて再評価すればCRでも不思議はないところ。IUCNには是非ともサブポピュレーションとしてJストックの評価をレッドリストに挙げてもらいたいものです。拙判定の詳細については、下掲リンクのPDF97頁をご参照。

■徹底検証! 水産庁海洋生物レッドリスト
https://www.kkneko.com/redlistj.htm
https://www.kkneko.com/sasimi/true_redlist_1710b.pdf

 残る哺乳類と鳥類の4種は、ありがたいことに徐々に個体数が回復しています。特にアマミノクロウサギは2015年の調査で約15,000〜39,000頭(奄美大島のみ)と顕著に回復していることが判明しました。マングースの駆除が奏功したと考えられます。激増≠オたといわれるザトウクジラと比べるならまさに超激増≠ニいえますが、繁殖率を考えれば不自然な話ではありません。アマミノクロウサギは1産1、2子で、ウサギ目の種としては非常に繁殖率が低いといえるのですが、ゴリラやパンダ、クジラに比べればやはり圧倒的に繁殖率が高いです。レッドリストで評価基準となる3世代時間はミンククジラの場合およそ20年ですが、アマミノクロウサギであればその10分の1に(あまりに短すぎるので、評価に際しては10年のスパンが採用されますけど)。クジラを海のゴキブリ≠ノ喩えたミスター捕鯨問題・小松氏(後述)の言葉を借りるなら、島のゴキブリ∞島のノミ=Bもちろん、そんな非科学的な表現はクジラであれアマミノクロウサギであれ絶対に許してはならないのですが。
 実際にはもちろん、上掲の表では無視している自然死亡率を考慮しないわけにはいかないのですが、それでも繁殖率の数字自体も保全を考える際に欠かせないな生物学的指標です。もっとも、これまで捕鯨擁護派は「(ミンククジラは)繁殖率が高い!」と声高に主張し続け、その比喩として海のゴキブリなんてレッテルを貼ったわけです。表に示したとおり、確かにミンククジラは他の鯨種に比べるとちょっぴり繁殖率が高いといえますが、シャチの中にはミンククジラを専門に捕食するエコタイプがいるほどで、その分自然死亡率もより大きな他の鯨種より高いのは間違いありません。でなければ、種分化から数十万年の間それぞれの鯨種がバランスを保つことなど不可能だったはず。繁殖率は北のミンクと同じくらいの南半球に棲む近縁種クロミンククジラは、繁殖率が相対的に低いザトウクジラやナガスクジラが徐々に回復しているのに対し、個体数が安定ないし減少傾向にあるとみられています。
 低い繁殖率が壁≠ノなってゴリラやパンダ、シロナガスクジラの回復ペースが遅々としたものに留まっているのに対し、アマミノクロウサギで劇的に保全策の効果が表れたのは、やはり繁殖率の高さ故に他なりません。それくらい繁殖率の差は重要なのです。ちなみに、筆者の計算はアマミノクロウサギに関しては保守的(保全的)に低く見積もっており、実際にはもっと大きな数字になるはず。一方、ジャイアントパンダについては中国の保護増殖事業で双子の養育技術が確立されたので、やや高めの見積にしています。野生状態であれば増えるペースはもっとゆっくりしたものになります。
 余談ですが、アマミノクロウサギのIUCNレッドリストは2019年の更新ながら、査定は3年も前の2016年、上掲したのと別のデータが採用され、それでも旧い数値と比較するとやや増加していながら傾向は減少で、その他も全体に(筆者が注目している他種の評価内容に比べ)記述が少なく、利用等のステータスに至っては空欄だったり、やや奇妙な印象が拭えません。実は、アマミノクロウサギの査定のポイントは個体数の増減傾向ではなく、生息域の縮小(B1ab+2ab)。開発による生息域(主に森林)の減少こそが、アマミノクロウサギをして絶滅危惧種たらしめる根本要因なのです。
 より保守的(保全的)なデータを用いて慎重な判定を下すのは、もちろん大変結構なことです。水産庁ならゼッッッタイそんなことしませんから。海のレッドリストでメチャクチャやって、IUCNも日本哺乳類学会もアマミノクロウサギと同じEN以上の判定をしたスナメリまで「ランク外」にしちゃったくらいですから。日本の水産庁に比べればだいぶマシとはいえ、IUCNで鯨類の評価をしている研究者チームであるCSGは、ミナミセミクジラをLCと評価したり、あまり保全的でないところがあるため(一応反捕鯨国の研究者が多いはずなんですけど)、アマミノクロウサギがあくまで予防原則に従って評価されることは、筆者には正直羨ましく思えるほどです。

 続いてマウンテンゴリラについて補足。といっても、ゴリラの保全の話ではなく、日本の捕鯨政策の立案に深く関わった元水産官僚・小松正之氏のゴリラへの言及について。韓国メディアの取材に対し、これまでクジラに関して展開してきた原理主義的な持論に拘るあまり、ついにゴリラ食文化を容認する発言までしてしまいました。「ゴリラの殺害に反対するのは傲慢だ」と。野生生物保全の立場からは絶句するしかありません。アフリカの野生動物にとって、今ブッシュミート問題がどれほど深刻であるか、小松氏はまったく理解していないのです。日本がODAを用いてIWCに味方として引き入れたコンゴ民主共和国にもマウンテンゴリラが生息しています。食文化を神聖視する日本の捕鯨擁護論が、世界の野生生物保全にどれほど有害な影響を及ぼしていることか。
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When Komatsu was asked about eating gorilla meat, he defended the practice, claiming it was "arrogance" to object to the killing of gorillas while it was part of the social structure and culture of African people.(引用)
■Japan's killing culture (7/6, KoreaTimes)
http://www.koreatimes.co.kr/www/opinion/2019/07/197_271790.html

 魚3種については、10年のスパンで数字を出しやすいため採用。改めて説明の必要もないかと思いますが、マサバもタイヘイヨウクロマグロも乱獲が深刻。詳細は漁業問題のスペシャリスト、東京海洋大・勝川俊雄氏や早稲田大・真田康弘氏が各所で解説してくれていますので、皆さんもぜひしっかり勉強してください。ちなみに、今年はABC評価対象の日本近海の主要な漁業資源のうち低位の評価をされた種・系群が一見減ったかのようにみえますが、漁業法改正後にマサバ等の評価が別枠扱いになったためで、乱獲・資源枯渇状態が改善したとはいえないのでご注意。
 これらの魚種を表に入れたのは、水産庁・外務省の「獲るのは資源量のたった1%以下なんだぞ。魚だったら3%〜30%、漁業にあてはめたらゼロになっちゃうぞ。十分保守的なんだぞ!」という主張にはまったく科学的根拠がないということを説明するため。サメ類など繁殖率の低い一部の種を除き、魚と比較すること自体、大間違いもいいところです。

 前置きが長くなりましたが、水産庁のリクツを当てはめた数字が以下の表。シャチ、アマミノクロウサギ、ナベヅル、ジャイアントパンダ、マウンテンゴリラについて。
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 野生動物保全派の皆さん。あるいは、NHKスペシャル知床シャチ特集を観て感動した全国の視聴者の皆さん。水産庁がシャチの商業捕獲を禁止していることについて、どう思われますか? 「そんなの当たり前だろ」と思います? 思いますよね!? しかし、同じ水産庁のミンククジラJストックに対する考えを当てはめれば、年75頭ないし約350頭も捕獲できてしまうことになります。世界中の水族館でシャチ飼育が終焉を迎えつつあり、周回遅れの中国の水族館にシャチを供給していたロシアも内外の強い反対を受けて商業捕獲を許可しないことを決めた今のご時勢に、新スマスイどころか全国の水族館にシャチがあふれ返ることになるでしょう。太地の漁協はウハウハ儲かっちゃって笑いが止まらないでしょうが。
 ちなみに、漫画『ゴールデンカムイ』でシャチを食べるシーンが登場しますが、座礁したシャチが一部で利用された可能性はあるものの、海で最高位のレプンカムイとして畏まわれたシャチを積極的に捕獲するまねはアイヌの人々はしませんでした。一方、高松の呼称で一部の地域の和人には食べられていたようです。いずれにしても、シャチは戦後沿岸で油脂目的に乱獲されました。食用油として使うなら立派な食文化だと捕鯨推進派は主張するのでしょうが・・。

 上掲したように、小松氏に言わせるなら、年10頭ないし46頭のマウンテンゴリラの食用捕獲に反対を唱えるのは「傲慢」ということになるのでしょう。

 中国のジャイアントパンダも食用にされていた時期があります。絶滅危惧種の世界的代名詞となった同種ですが、国を挙げた保護増殖事業で堅実に個体数を伸ばしていることから、IUCNではナガスクジラより一足早くランクをENからVUへとダウンリストされました。実際にはまだ野生復帰の試みが緒についたばかりで道のりは遠いといえるのですが。一方で、日本をはじめ各国の動物園に飼育個体が貸し出され、財政+外交という保全以外の形で利用≠ウれてもいます。重慶等の保護施設で増やしたパンダのうち、年18頭ないし84頭の個体は養殖パンダ≠ニして食用に回されるべきなのでしょうか?

 ナベヅルは全生息数のおよそ9割が日本に渡り、鹿児島県出水市等で越冬します。観光のシンボルとして自治体が人工給餌を含む保護活動に積極的に乗り出し、渡来数が順調に増えているのはいいのですが、越冬地が過密になりすぎて感染症が広がるリスクも懸念されています。科学的間引き♀ヌ理が必要として、年150頭ないし約700頭を撃ち殺して食用にすべきでしょうか?
 ちなみに、食文化としてみた場合、江戸時代にはツル類は塩漬けなどの形で食用にされ、美味であるとして珍重されていました。中でもナベヅルは「最も美味」であったと。タンチョウは入札で売れ残ったニタリレベル(それでも現代なら改善できるでしょうけど)、ナベヅルはナガスの尾の身や若いミンクの畝須という感じですね・・。永田町の国会議員クラスの食通家なら、「是が非でも食ってみたい! 年に1度や2度は試食会を開いて、名うてのシェフに調理された究極のナベヅル料理に舌鼓を打ちたい!」と思うかもしれません。たとえ商業的に採算が取れなかったとしても、国や自治体が補助金を出してツル食文化を維持すべきなのでしょうか?


 アマミノクロウサギは天然記念物に指定されるまでの1920年頃までは地元で身近な食材として食用にされ、毛皮も利用(余すところなく?)されていたとのこと。また、婦人病の薬としても利用されていたとされ、産後に女性に与えるため捕獲する専門の業者までいたそうです。まあ、サイの角と同じく迷信と判断すべきでしょうけど・・。
 さる社会学者も指摘したとおり、今の鯨肉食文化≠フ伝統≠ヘモラトリアム後、捕鯨協会/国際ピーアール(広報コンサルタント)/マスコミの宣伝で形成されたもの。ミンクは古式時代アイヌ以外は知らず。ニタリは商業は戦後の小笠原くらいで、調査時代不人気で売れなかったものを冷凍技術とプロ≠フ腕で改良、文化としてはまさにポッと出≠ニいっていいのです。大赤字を出して販売をやめたガリガリ君ナポリタン味≠税金使って復活させるみたいな話。地域住民による地場消費であり、土着の伝統文化の形態としても、野生動物に与える影響という点でも、アマミノクロウサギ食文化はクジラ食文化やゴリラ食文化に比べればまだ正当性があるといえるのでしょう。
 科学的に安全だから、持続利用可能だから、地域固有の伝統食文化を守るためにも、アマミノクロウサギは年約700頭ないし約1,800頭を食用に捕獲するべきなのでしょうか? 仮に水産庁・捕鯨御用学者にRMPなりPBRに基づき、チューニングもした捕獲量を算出させたなら、筆者が出した大きい方の数字よりさらに上乗せされたとんでもない数字を出してくるに違いないでしょう。

 アマミノクロウサギ、トキ、コウノトリといった象徴的な絶滅危惧種(トキとコウノトリは既に地域絶滅種ですが)の保全策を国や自治体が打ち出すことに、異を唱える人はいないでしょう。しかし、トキやコウノトリを地域振興のシンボルとして掲げ開発事業を推進し、やはり絶滅危惧種(VU)であるサシバの営巣木のある雑木林を切り拓いたり、生態系に強い影響を及ぼす侵略的外来種であるアメリカザリガニを田んぼに撒いたりすることには、首を捻ってしまいます。環境省の担当者がある問題に関して「アマミノクロウサギは絶滅危惧種だから1頭たりとも殺されてはいけない」と述べたそうですが、その一方で「土用のウナギは予約を」と宣伝してしまうのは(炎上しましたけど)、強い違和感を覚えざるをえません。反反捕鯨論者がビョウドウに動物の問題に関心を払っていたなら、きっと「サベツだ!」と怒りだすことでしょう。

 皆さんは、アマミノクロウサギを原告≠ノして奄美でのゴルフ場開発の差し止めを求めた自然の権利訴訟を覚えていらっしゃるでしょうか? 残念ながら、裁判は事実上門前払いの形になり、ゴルフ場開発はそのまま推進されてしまいました。ちなみに、捕鯨問題に精通するジャーナリストである立教大・佐久間淳子氏は、自然の権利訴訟の中心メンバーとしてアマミノクロウサギを始めとする奄美の野生生物の保全問題に携わったお1人。


 いまアマミノクロウサギについては、ユネスコの世界遺産登録を目指して環境省と自治体が前のめりといっていいほど強く保全の取組をアピールしようとしています。ただ・・ゴルフ場開発を止められなかった頃に比べれば、やっと保全に目が向けられるようになった、時代が、節目が変わったんだな・・と一概に喜ぶ気にはなれません。なぜなら、本来野生生物の保全とは、絶滅危惧種が絶滅危惧種でなくなること≠目指すものでなければならないはずだからです。アマミノクロウサギに関しては、生息域の縮小≠何とかしない限り、絶滅危惧種の指定が解除されることは決してないのです。その肝腎の部分の取組が、筆者にはどうにも弱い気がしてなりません・・。保全に真剣に取り組んでいる人たちが、「絶滅危惧種のままシンボルとして利用し続けたいから、開発問題・生息地の回復については不問にしておきたい」などとは、よもや考えていたりはしないと思いますけど。

 ミンククジラJ系群は、日本の海に生息する、立派な日本在来の野生動物です。ただし、日本だけの野生動物でもありません。韓国や中国、ロシアの周辺海域、公海との間も行き来しますし、国際条約のもとでも国際機関主体の管理が求められる《人類共有の財産》です。それを言ったらアマミノクロウサギだって同じこと、「日本人だけの財産だ、獲って食おうが守ろうが日本人の勝手だ!」なんてことは絶対言っちゃいけないはずですが。その言っちゃいけないことを、国会議員から市井のネトウヨまで平気で叫んでいるのがクジラに他ならないのですけど・・。
 Jストックの今のステータスをアマミノクロウサギと比べても、明らかに絶滅の危機に瀕しているといえます。アマミノクロウサギより繁殖率が断然低く、推定生息数も少なく、大きく増加に転じたとみられるアマミノクロウサギと異なり混獲による減少が強く疑われています。アマミノクロウサギよりステータスが悪いのに、アマミノクロウサギの自動車事故以上に混獲されているのです。実数で越えているので、生息数比はさらに大きくなります。繁殖率を考慮すればダメージもより大きいといえるでしょう。アマミノクロウサギの自動車事故については啓発活動以上の対策ができているとは言いがたいのが実情ですが、混獲されたクジラはDNA登録さえすれば肉にして売ることができると法律で定められ、漁業者にとって混獲を減らすモチベーションにすらつながりません。漁網の損耗分を多少肉で賄えるならいいかくらい。Jストックが希少な個体群であるという情報を水産庁は流しません。漁業者にとってはクジラはクジラ、単なる害獣、あるいは漁獲物のレベル。トキやコウノトリ、ニホンオオカミやニホンカワウソを乱獲で絶滅に追いやった頃の日本人の認識と大差ないのです。一方、韓国の混獲については前回の記事で一次資料とともに詳述していますが、同国は混獲数を減らすため立場の異なるオーストラリアと協同で取り組んでいます。その甲斐あってか(母数が減りすぎた可能性も捨てきれませんが)、かつては密漁も合わせ日本の数倍に上るともされた韓国の混獲数は、現在では日本を下回る数字に押えられています。今の日本の野生動物であるクジラに対する態度は、韓国と比べても明らかに非保全的なのです。韓国は昨年のIWC総会でも日本提案を棄権し、IWCの枠組に留まっているわけですが。
 しかもそのうえで、水産庁は同系群の捕獲が避けられない網走沖商業捕鯨まで認めてしまったのです。環境省が「1頭たりとも殺させない」方針を示したアマミノクロウサギとはあまりにも対照的に。

 自動車(道路)やマングースやゴルフ場開発は、アマミノクロウサギという《在来種にとって進化史上唐突に出現した、適応困難な人為的な環境変化》という意味で科学的には等価といっていいでしょう。もちろん、問題はどのくらい適応が困難(不可能)かであり、保全の観点からは在来種の個体群動態にどの程度の負の影響をもたらすかが定量的に評価されたうえで対策の優先順位が決められるべきですが。
 クジラたちにとっての捕鯨船や漁網もまた然り。《在来種にとって進化史上唐突に出現した、適応困難な人為的な環境変化》。まったく同じです。そのうえ、保全策を講じたとしてもアマミノクロウサギより早く回復することは絶対にできません。
 実際には、そもそも環境省には鯨類保全に関わる予算・権限・責任がありません。水産庁に丸投げです。そして、その水産庁は保全する気など皆無で、レッドリストを強引に捻じ曲げ、日本近海のすべての鯨種に「ランク外」の烙印を押し、アマミノクロウサギであれば約700頭〜約1800頭に相当する絶滅危惧系群の定置網と商業捕鯨による捕獲を許し、市場に肉を流通させているのです。
 日本の野生動物であるにもかかわらず、日本人で保全に関心を持ってくれる人が圧倒的に少ないのです。ある意味、一般的に無名な植物や無脊椎動物以上に。《人類共有の財産》であると認識してくれる人が。国会議員ではれいわ新選組のたったお2人だけ。後は「殺せ!」「外国人に文句を言わせるな!」の大合唱。あるいは、まったくの無関心。人口の大部分は後者のはずですけど。
 一体こんなことが許されていいんでしょうか? 日本の自然保護、野生生物保全はこれでいいのでしょうか?

 以前、筆者が「侵略的外来種はやっぱり問題だよね」という話をしたとき、様々なことをご教授いただいた、とある動物(クジラ以外)がご専門の生物学者の方に「外来種だけ≠槍玉に挙げるのは、開発の問題の目くらましになるだけで、野生生物にとって益がないよ」と釘を刺されました。筆者もそのとき、もっともだと反省した次第です。
 筆者は地域の自然保護運動にも直接関わった経験があるので、外来種駆除に伴う、決して割り切ることのできない命を奪うことへの辛さ=A文字通り《賽の河原の石積み》を余儀なくされるしんどさ≠焉A身をもって知っています。そうした負担を将来的に少しでも軽減するためにも、次から次へと新たな外来種問題が発生するのを未然に防ぐことができないという理不尽な状況をなくすためにも、何より必要な抜本的な対策こそ、IUCNも推奨するホワイトリスト方式です。予防原則の観点からは当たり前の話なのに、外来種問題を強調する方面からそうした声があまり(というかほとんど)聞かれないのも、筆者には少々理解に苦しみます。
 アマミノクロウサギは国と自治体が音頭を取って積極的に保護を訴えています。まあ、応援するのも結構ですが(肝腎の開発問題・生息地回復の取組が抜け落ちていないかのチェックはもっと大事)、日が当たっていない、国にもメディアにも見離され、置き去りにされている野生動物の問題にももっと目を向ける必要があるのではないでしょうか? 事実、そうした野生動物がいるのですから。ミンククジラJ系群のように。
 クジラもさることながら、国の対応が真逆で、絶滅危惧の深刻度と国民の関心──というよりメディアの注目度との間に最も開きがあるのは、やはり日本全国の野生動物の中で一番絶滅に近い、今年遅まきながらIUCNに地域個体群としてCRに認定された南西諸島のジュゴンでしょう。また、固有の生物群集に重大なリスクをもたらす外来種問題でありながら、なぜかまったく振り返られていないのも、約束違反のずさんな処理が明らかになった辺野古沖への岩ずり投入問題に他なりません。奄美大島も土砂の調達元、(国内)外来生物の供給源になっていたかもしれないのです。同県・玉城知事が対抗措置として条例を制定し、やっと追加搬入は阻止できるようになったものの、すでに強行された土砂の所為で手遅れになった可能性もあります。代替先となる県内での土砂採取による自然破壊も依然として懸念されますし。
 SNS等を通じて野生動物の保全について発信する方々には、その辺のバランス感覚をもう少し考えていただけたらと願ってやみません。

 野生動物保全の真の味方≠フお手本といえるのが、夏の参院選で旋風を巻き起こしたれいわ新選組の候補であり、NGO職員として環境政策の立案過程も知り抜いているプロフェッショナル、辻村千尋氏。辻村さんは選挙中も、選挙後の今も全国各地を飛び回り、外来種問題から米軍基地、ダムやリニアなどの巨大開発問題まで、全方位で野生動物保全に関わる国の政策の問題点を追及し、必要な施策を訴えてこられました。壁≠ェ巨大すぎて厚いからといって決して臆することなく、不人気の動物だからといって決して見放すことなく。彼はジュゴンも、クジラも、見捨てないでくれました。本気で野生動物保全のことを考えてくれる、正真正銘の本物だと信じられる方です。今の日本で一番環境大臣に相応しい人物です。セクシーとか中身のない発言しかできない、国の恥さらしの誰かさんと違って。
 辻村さんの「爪の垢を煎じて呑め」とまでは言いませんが、保全派≠フ方々にはぜひ彼の姿勢を見習ってほしいもの。「アマミノクロウサギを守るのももちろん大切だけど、同じ南西諸島のかけがえのないジュゴンの住みかを奪わないで!」と、沖縄県民の皆さんと連帯し、声を挙げ続けていきましょう。
 そして、ジュゴンの百分の1でいいので、間違いなく絶滅が心配される日本の野生動物の1種(系群)であるミンククジラJストックのことにもぜひ関心を持ってくださいね。

※追記:10月に(IUCNではなく)日本のレッドリストの方で環境省がアマミノクロウサギの緩和を検討していると報道された件について
 IUCNと日本のレッドリストは一応別物なのですが(陸上は海と違ってほぼ準じているけど)、IUCNと同じく生息域の縮小が判定基準であれば、ダウンリストの理由は分布域の(再)拡大ということになるでしょう。開発に対する筆者の懸念さえ≠竄筐X憂ということになるかもしれません。もっとも、仮にVUに格下げされたとしても、やはり絶滅危惧種の範疇であり、生息面積の狭さが主因である事実も変わりはありません。「開発はたいした問題じゃない」とか「ガンガン食べてもいい」とはまったく思いませんけど・・・
posted by カメクジラネコ at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2019年12月26日

水産庁の発表した2020年の商業捕鯨捕獲枠はインチキだった!!

 12月20日、水産庁が来年(2020年)の商業捕鯨の捕獲枠を発表しました。昨年のIWC脱退、商業捕鯨再開の発表も暮れも押し迫った慌ただしい最中のことでしたが。
 
■令和2年の捕鯨業の捕獲枠について|水産庁
https://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-40.pdf
https://www.jfa.maff.go.jp/e/whale/attach/pdf/index-7.pdf
■捕鯨頭数上限、20年は据え置き(12/20,共同)
https://this.kiji.is/580722546714018913
■20年捕鯨枠、295頭 水産庁(12/20,時事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019122001180&g=eco

 実を言いますと、共同の記事見出しを最初に見ちゃったものですから「『20年は据え置き』だと!? あの強欲な共船が20年間も我慢するなんて、そんなの認めるはずが・・いやしかしまさか」とか思ってびっくりしちゃったわけです・・。まあ、そんなわけないんですけどね。2020年の捕獲枠。
 まず、共同記事見出しの背景は水産紙報道の説明どおり。在庫が余ってるから後1年は業界的にもつ、というわかりやすい話。


 筆者が注目したのは「混獲数」でした。2019年とまったく同数。筆者はまた目を疑いました。「おっ!? これは!?」と。
 Jストックが高率で捕獲対象に含まれる網走沖(オホーツク海沿岸)での商業捕鯨の捕獲枠がプラスされず、Jストックの混獲数がプラスされないからこそのこの表の数字であろうと。
 常識≠ナ考えるなら。
 おさらいすると、今日野生動物の保全・管理は種単位ではなく個体群単位で考えるのが常識。日本近海に生息し、日本のEEZ内限定商業捕鯨で捕獲対象となり得るミンククジラには2つの個体群、Oストック(北西太平洋・オホーツク海系群)とJストック(東シナ海・黄海・日本海系群)があります。実際には、Oストック・Jストックそれぞれがさらに複数の系群に分かれている可能性があるという多系群仮説が提唱されており、IWC科学委員会では長年すったもんだの議論がされ、未だに決着がついていません。まあ、単系群仮説の方が有利なのかもしれませんが、予防原則の観点からはやはり複系群だった場合のリスクが優先されるべき。
 で、日本の商業捕鯨再開にあたり、海外でも一番懸念されていたのが、この希少なミンククジラ個体群であるJストックの捕獲だったわけです。国際法学者は、日本の商業捕鯨が国連海洋法条約に違反していることを示す具体的根拠の1つとしても掲げています。国連海洋法裁判所で争われた場合、重要な争点となり得ると。

■Japan Goes Rogue and Resumes Commercial Whaling | NRDC
https://www.nrdc.org/onearth/japan-goes-rogue-and-resumes-commercial-whaling
■Whales targeted by Japan face extinction threat (7/1, Phys.org)
https://phys.org/news/2019-07-whales-japan-extinction-threat.html
■Japan’s Resumption of Commercial Whaling and Its Duty to Cooperate with the International Whaling Commission
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3457554

 懸念を示していたのは、いわゆる反捕鯨国のNGOや研究者らばかりではありません。韓国でも注目されていました。日本IWC脱退時の韓国報道にもあるとおり、韓国海洋水産部や同国内のNGOも日本がJストックを捕獲することに強い憂慮を表明しています。この問題は、元徴用工問題とも絡んだ国際裁判の火種になる可能性もはらんでいるのです。
 拙記事含む以下の各リンクもご参照。

■史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/177973131.html
■韓国海洋水産部「日本の商業捕鯨再開に深刻な憂慮」(7/2,中央日報日本語版)
https://s.japanese.joins.com/JArticle/255076
■「日本が商業捕鯨すれば韓半島沖のミンククジラ絶滅危機」('18/12/28,中央日報日本語版)
https://s.japanese.joins.com/JArticle/248588
■捕鯨で負けたのに徴用工でまたICJ提訴?
http://kkneko.sblo.jp/article/185024459.html

 こうした経緯に加え、実は筆者は捕鯨再開直後に水産庁国際課に対して「なぜ混獲数が実数に比べてこんなに少ないのか?」と電話で問い合わせていました。そのときの回答が「7月から実施する今年の商業捕鯨は太平洋沿岸のみなので、Jストックは除外している」というものだったため、筆者は納得したわけです。
 筆者はついつい早合点してしまいました。捕鯨反対派に格好の攻撃材料を与えるだけだし、オブザーバーの立場としての国際訴訟リスクを考えればやむをえないと判断し、Jストックが対象となる網走沖での捕鯨は断念したのだと。網走の業者である下道水産を説得したのだろうと。太地や外房和田浦の業者が地先の海を離れた釧路沖・三陸沖まで出張っているのを考えれば同じことですし。ついでに、一番声のでかい共同船舶は関係ないし・・。
 網走沖をやめるとすればまさに英断であり、珍しく英語版の発表をいち早く公開したのも、その辺を宣伝したかったんだろうと勝手に想像しちゃったわけです・・。
 で、ツイートに加え「網走沖でのJストックの捕鯨を見送った水産庁の英断に感謝します!」とホームページの水産庁・外務省Q&Aカウンターコーナーに書いちゃったのです。一応考え直して「確定ではない」とのツイートも付け加えましたが。
 考えが甘すぎました(−−;; 報道が金曜の晩でなければ先に問い合わせていたところだったのですが・・。
 週が明け、水産庁国際課に電話したところ、「網走沖やります」と断言され、筆者は言葉を失ってしまいました・・・
 混獲の数字についてただすと、なんとOストックでもJストックでもなく、「海区のみ」(11区と7区:捕鯨を操業しているのと同じ、オホーツク海沖および東北・北海道の太平洋沖)の混獲数だと。ちなみに、2019年とぴったり同数なのは、オホーツクでの混獲実績のデータが更新されなかったためとのこと。
 録音なんぞしてないし、当節(安倍政権下で)そんなことしても意味ないですが・・今にしてみると、7月に問い合わせたとき、「今回は太平洋岸のみだから」との回答の中で先方がはっきりと「Jストックを除外」という言葉を発したかは正直記憶が曖昧だったかもしれません。発言でも出てきた気はするのですが・・。ただし、筆者は最低でも「なるほど。対象がO系群のみでJストックが含まれないからですね?」と念押ししたのは間違いありません。その後も、「Jストックを対象にした網走沖での操業許可は何とか見直してもらえないだろうか」という意見を再三伝えました。そのときに、担当者が「いや、系群とは全然関係なく、操業海区の数字です」とはっきり答えてくれなかったのは大変残念でなりません。「太平洋岸のみ」さえ事実ではなかったわけですが。私は7月の電話の中で「今回混獲分を控除していただいたことを大変感謝しております」とやはり複数回謝意を伝えました。こんなことなら礼なんて言うんじゃなかった(−−;; ほんと、アホみたいですわ・・・。当然、ホームページの「英断に感謝」は即削除しました・・。
 まあもともと、網走沖きっとやるんだろうなあ・・とは思っていたのです。やめるなんてたぶんできないだろうなあ・・とは。水産庁のことですし。当節下道水産と伊東議員に対して筋を通すのは無理だろうとは。下道水産の社長はオブザーバー参加したIWC総会でも威圧的な発言で世界を驚かせたほどですし。
 しかし、まさか混獲数にJストックの大部分が含まれない一部だけの数字を出してくるなどとは予想もしませんでした。一杯食わされた感でいっぱいです・・。その理由を「海区」にしたことも、予想の斜め上のさらに斜め上。本当に開いた口が塞がりません。
 今回の発表から、水産庁はこれまで世界に対して、また国民に対して公にしてきた約束≠いくつも破ったことが明らかになりました。それをまとめたのが以下の表。
2020catchquota_j.png
 水産庁に合わせ、英語版も用意。
■Japan Fisheries Agency cheated at the announced whaling catch quota!!
https://www.kkneko.com/english/catchquota2020.htm

 表中の参照リンクは以下。

■Population (Abundance) Estimates | IWC
https://iwc.int/estimate
■「令和2年の捕鯨業の捕獲枠について」の解説|ジャーナリスト佐久間淳子氏FB
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=2631613780249251&id=1488463901230917
■日本沿岸希少種ミンククジラ混獲の実態|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/12-minke-bycatch-at-jp
■Characteristics of the Cetacean Bycatch in Korean Coastal Waters from 2011 to 2017 | KoreaScience
http://www.koreascience.or.kr/article/JAKO201811459666480.page
■Cruise Report of the New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP) in 2017 -Coastal component off Abashiri in the southern Okhotsuk Sea- | IWC SC/67B/SCSP/07
https://archive.iwc.int/pages/search.php?search=&k=2499406a3b&modal=&display=list&order_by=field73&offset=0&per_page=240&archive=0&sort=DESC&restypes=&recentdaylimit=&foredit=
■50 ミンククジラ オホーツク海・北西太平洋|水産研究・教育機構
http://kokushi.fra.go.jp/H30/H30_50.html

 表中に記したとおり、結論からいうと、水産庁が公に表明している2つの方針「系群毎の管理」「資源量の1%以下」は守られていません。外務省Q&Aでも「捕獲対象種の推定資源量の1%以下であり,極めて保守的な数値となっています」と述べていますが、これは嘘だったということです。
 もう1つの公約「100年間捕獲を続けても資源が減少しない$準を維持する」(吉川農水相、当時)も、守られない可能性がきわめて高いといえます。予防原則を尊重するなら当然守られるべき公約なのですが。
 日本政府の国民・世界に対する公約≠ノついては以下の拙HPコンテンツもご参照。

■外務省Q&Aコーナー・カウンター版(Q7)
https://www.kkneko.com/faq2.htm

 細かい解説に入りましょう。まず、下掲リンクは2011年の韓国の研究者によるJストック管理に関する論文。

■Status of J stock minke whales (Balaenoptera acutorostrata)
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19768354.2011.555148

 元データには日本の調査によるものも使用しています。採用した推定生息数は6,260頭(最低値5,247頭)で、IWCの合意値より大きめですが、そこから算出したPBRの値が52.5頭。PBR(潜在的生物学的間引き可能量)はRMPと並び保守的とされる管理指標で、日本の小型鯨類管理にも用いられています。ただし、やはりチューニングが可能なのが曲者。ともあれ、IWC合意値より甘いデータを用いてさえ52頭であり、同論文では混獲に対して強い警鐘を鳴らしています。
 韓国の混獲については、Kogia_simaさんが同国のオンライン論文データベースから最新の情報を拾ってきてくれ、表で紹介しています(上掲リンク)。2011年から2017年の7年間で511頭、年平均では73頭。以前は年100頭を越えるとみられていた韓国の混獲数はその後下がっていますが、年73頭でもやはりPBRの値を越えてしまっています。ちなみに、混獲対策についてはオーストラリアも韓国に協力していました。同国の混獲が減ったこと自体は歓迎すべきなのですが、そもそも母数が減った、クジラがいなくなりすぎたことが原因とも考えられるため、一概には喜べません。野生動物では往々にしてあることですが。ついでにいうと、「韓国の方が日本より多くクジラを殺している」というのは完全なデマ≠ネのでご注意。筆者らウォッチャーが何度も繰り返し指摘していることですが・・。

 本日26日水産庁への電話確認で判明した網走沖での商業捕鯨捕獲枠は21頭。沿岸枠が100頭なので、残りの太平洋沿岸(釧路・八戸・鮎川)で79頭。
 2017年のNEWREP-NP網走沖の捕獲に占めるJストックの割合が、47頭中の28頭で約6割。以下の図は上掲リンクの日本側のIWC提出資料からの引用。
joabasiri.png
 つまり、来年の網走沖商業捕鯨で平均12頭、13頭くらい絶滅が危惧されるミンククジラJストックが捕獲されてしまう可能性があるのです。年によって1桁の場合もあれば、逆に20頭近くほとんどJストックが占める場合もあるかもしれません。

 水産庁に尋ねて得られた唯一の混獲*h止対策が、沿岸10マイル以内の禁漁区設定。
 実は、太平洋岸の釧路や鮎川沖でもJストックが2割ほど混ざっていました。ただ、Jストックの方がより沿岸よりのコースを取ること、雄の比率、未成熟個体の比率が高いこともあり、沖合側で肉の多く採れる$ャ熟した雌を狙う商業捕鯨であれば、Jストックの混獲≠ヘかなり抑えることができるでしょう。太平洋岸であれば。
 まあ、商業捕鯨になってからの手探り≠はじめ、一体何のための沿岸調査捕鯨だったんだという話ではありますけど・・。
 しかし、網走沖でJストックの混獲≠回避するのは、どう考えたって不可能です。水産庁側も回答を避けたとおり。網走沖でのJストックとOストックの分布(捕獲地点)は明らかに混在しており、体長の平均差(J<O)も未成熟個体の比率が高いためで、成熟雌ではほとんど差がありません。仮に差があったとしても、鰭を撃って致死時間を引き伸ばすような網走の業者が、目視でサイズの大きな雌だけに確実に照準を合わせる真似ができるなどとは、筆者には到底信じられませんけど・・。
 のみならず、それ以外に混獲≠防ぐ手立てを講じる気もありませんでした。調査捕鯨では6月より7月の方が混獲@ヲが上がることがわかっています(5割→7割)。7月の雄のJストックの比率はほぼ100%。一方、6月の雌は5割に届かないほど。しかし、水産庁はJストックの混獲<潟Xクを少しでも減らすために漁期を設定するという考えもなく、完全に業者任せだというのです。
 大体、定置網や刺し網ならいざ知らず、1頭1頭のクジラを狙って銛を撃つ捕鯨で混獲≠ニいう言い方をしちゃいけないんですが。

 ここで以下の今年2月に開かれた記者会見におけるミスター捕鯨問題Uこと東京海洋大森下丈二氏の発言にご注目。以下はジャーナリスト佐久間氏のFBからの引用。

森下氏は、
 「捕獲の対象は0-Stock、太平洋側です。J-Stockは対象にしません。」
と答えてくれた。
 筆者は驚いて、次のように食い下がった。
 佐久間:確認です。網走ではやらないということですか。
 森下 :いいえ。そこは今言えませんけど、網走でも獲り分けは可能です。(引用)


 繰り返しますが、水産庁が示した獲り分け≠フ手段は沿岸10マイル以内禁止のみ。ほんっとに言いっぱなしで無責任なヒトですね・・。
 上述したとおり、水産庁が網走の業者と捕鯨族議員の圧力に屈したのは仕方がないことだったかもしれません。しかし、だからといって混獲の数字を誤魔化すのは言語道断です。
 海区毎の数字には科学的な意味など何一つありません。それは漁業調整のためにヒトが勝手に海の上に引いただけの線で、生物群集の分布境界でも何でもないのですから。
 今回発表した水産庁の捕獲枠の定義に従うなら、捕鯨業者と同じ海区で定置網にかかったクジラは捕鯨業の捕獲のうちに含められ、業者がいない海区で定置網にかかったクジラは捕鯨業の捕獲に含められないといっているのです。どちらも同じクジラの個体群で、たまたま回遊して網にかかった場所が違っただけなのに。にもかかわらず、トータルの推定資源量は北西太平洋全域の数字を使っているのです。これほど非科学的な話はありません。
 海区毎で分けるというのなら、拙作表3の形にすべき。あるいは、捕鯨が行われない海区も合わせそれぞれ海区毎の数字を出したうえで、それらの合計を捕獲可能量とすべき。
 もちろん、一番科学的に正しいのは、Jストック・Oストックそれぞれの商業捕鯨枠、混獲控除数、推定資源量をすべてきちんと出すことですが。算出ではそれでやったと言いながら、水産庁はなぜ公表した捕獲枠でわざわざ数字を一部だけ切り取ったものに挿げ替えるまねをするのでしょうか? 捕獲の実数を少なく見せかける以外の動機は考えられません。そして、捕獲の実数を少なく見せる必要に迫られたのは、絶滅が危惧されるJストックを対象にする網走沖捕鯨を実施することが政治的にあらかじめ決められ、「1%以下」の公約と整合性が取れなくなったからに他なりません。

 実を言うと、水産庁はミンククジラの商業捕鯨の操業海域を北緯35度以北と定めています。沿岸捕鯨に業者が参加している太地の沖合ではやりません。同じく、対象海域にはギリギリ入っているものの、やはり業者の拠点がある外房沖でもほとんど捕ら(れ)ないでしょう。太地と外房の捕鯨業者は、東北・北海道の沖までわざわざ出張っていくわけです。地元の、地先の海ではやらず。まあ、伝統としてそれはどうなの?とは思いますけど・・。
 なぜ網走でそれができないのでしょう? 絶滅危惧系群の混獲≠回避するという、これ以上ない立派な大義名分があるにもかかわらず。業者と族議員が「何が何でも網走でやるんだ!」と要求するから?
 オホーツク海での捕鯨を要求しているのは、下道水産だけではありません。紋別アイヌ協会会長の畠山氏は、IWCでは認められているところの先住民生存捕鯨の再開を再三にわたって水産庁に陳情されているのですが、水産庁の回答は常になしのつぶでてあったと。IWCを脱退した以上、国際法上の問題はクリアされたにもかかわらず。
 仮にアイヌの方が紋別・オホーツク沿岸で捕鯨を再開した場合、確かにJストックが対象に含まれる可能性は高いでしょう。しかし、例えば、今の日本と同じステータスであるIWC非加盟のオブザーバーとしてホッキョククジラを捕獲しているカナダや、今議論されている米国先住民族マカ族によるコククジラの捕獲のように、年間2頭というレベルであれば、筆者個人は目をつぶっていいと考えます。半年前のブログで書いたとおり、長年捕鯨反対の立場で物申してきた身としては苦渋の決断でしたが、基本方針案パブコメでも母船式捕鯨より先住民生存捕鯨を定義すべきと進言しました。
 しかし、水産庁は無視し続けています。下道水産のみに便宜をはかり続けているのです。

■捕鯨とアイヌのサケ漁──食文化にこだわる日本人よ、なぜこのダブスタを許すのか
http://kkneko.sblo.jp/article/185158688.html
■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html
■美味い刺身♀本方針案パブコメ
https://www.kkneko.com/pubcom6.htm
■「アイヌ先住権復興を目指す〜クジラ漁業をめぐって〜」 |アイヌ政策検討市民会議
https://ainupolicy.jimdofree.com/%E5%B8%82%E6%B0%91%E4%BC%9A%E8%AD%B0%E3%81%AE%E8%A8%98%E9%8C%B22016-2017/%E7%AC%AC%EF%BC%95%E5%9B%9E%E5%B8%82%E6%B0%91%E4%BC%9A%E8%AD%B02017%E5%B9%B46%E6%9C%8818%E6%97%A5/%E7%95%A0%E5%B1%B1%E6%95%8F-%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%8C%E5%85%88%E4%BD%8F%E6%A8%A9%E5%BE%A9%E8%88%88%E3%82%92%E7%9B%AE%E6%8C%87%E3%81%99-%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%83%A9%E6%BC%81%E6%A5%AD%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%90%E3%81%A3%E3%81%A6/

 一体、これほどのダブルスタンダードが許されていいのでしょうか!?
 科学、国際法遵守、野生動物保全、先住民の権利──すべての面で、日本が再開した商業捕鯨はあまりにも欺瞞に満ちています。
 国連海洋法裁判所で審判を仰ぐべきだと筆者は考えます。

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posted by カメクジラネコ at 18:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2019年06月27日

商業捕鯨の未来は「low enough」かどうかにかかっている

 今年1月にIWCブラジル総会の旅費の開示請求結果に関する記事を1本書いてから、当ブログはお休みをいただいておりました。というのも、年末に日本のIWC脱退が決まったことを受け、再開される商業捕鯨がどのようなものになるか蓋を開けてみないとわからないため、しばらく様子を見ていたわけです。この間も引き続きツイッターでの情報発信は行っていましたし、ホームページの方にも新コンテンツを2つ用意しましたが。

■再開商業捕鯨改正省令案パブコメ
https://www.kkneko.com/pubcom6.htm
■水産庁Q&Aコーナー・カウンター版
https://www.kkneko.com/faq.htm
https://getnews.jp/archives/2163906

 上掲は、水産庁が3月に募集した商業捕鯨再開に関連する改正省令案のパブコメへの拙提出意見。下掲は、水産庁がICJ判決前に作成し、敗訴後も誤った内容を訂正せず放置しているQ&Aコーナーへの無知なSNSユーザーの感想がなぜか今頃になってバズッたため、仕方なくカウンター版を用意した次第。なお、こちらのコンテンツはガジェット通信さんにも転載していただきました。
 3月に送ったパブコメで、筆者はあえて大幅に譲歩し、条件付で捕鯨を認める意見を送りました。また、先住民生存捕鯨(アイヌ捕鯨)の定義を新たに設けるようにとかなり踏み込んだ提言もしました。正直、苦渋の決断でしたが(政府の脱退方針ではないけれど)。
 大胆な譲歩の理由は2つ。
 まず、日本の捕鯨問題ウォッチャーは主に5つの属性に分けられます。漁業問題ウォッチャー、野生動物/生態系保全問題ウォッチャー、政治問題ウォッチャー、動物(福祉/権利)問題ウォッチャー、そしてクジラ・イルカフリーク。詳細はまた後日論じたいと思いますが、このうち前3つに該当する方々は、美味い刺身*@に反対してくださった参院議員お2人に代表されるように、基本的には沿岸捕鯨容認の立場。ただ、これらの方々が南極海/公海調査捕鯨問題を注視し、捕鯨協会とマスコミによって醸成された反反捕鯨世論≠ノも臆することなく意見を述べてくれたからこそ、捕鯨に関して日本国内にも多様な意見があるということを世界に示し、民主主義国としての面目を(かろうじて)保つことができたのは否めません。
 これらの方々の立場からすれば、日本が公海捕鯨から完全に撤退し、水産予算のいびつな配分や復興予算流用といった不公正な官業癒着がなくなり、絶滅危惧種/系群をしっかり守る措置が講じられたうえで、一定範囲の節度ある沿岸捕鯨に収まるのであれば、これ以上捕鯨問題に注目する理由もなくなるでしょう。ある意味、ようやく「大宮」にたどり着いたといえるかもしれません(といっても若い世代の方には意味わからんでしょうけど・・)。
 また、4の動物問題ウォッチャーの見地からしても、科学の名のもとに南極海で大型の野生動物が年間数百頭の規模で殺され続けるという異常な差別的状況≠ェ解消されれば、捕鯨問題は犬猫生体販売・動物実験・工場畜産・動物園/水族館・スポーツハンティングなど他の動物問題と同じ地平で論じられるテーマの1つに落ち着くことになるでしょう。ゼロを要求しないことに対しては、純真な方たちが多いラディカルな層にはもどかしく思われるかもしれません。しかし、状況の改善にまったく寄与しない動物実験即時全廃論や、ヴィーガン全体に偏見が向けられ普及を妨げる一握りの活動家の違法な暴動のように、当の動物たちにとって逆の効果を招いてしまっては元も子もありません。「急いては事をし損じる」の慣用句どおり。
 沿岸の商業捕鯨をどうするかについては、10年後、20年後、この国を担う将来の世代の判断に委ねていいのではないかと、筆者は考えます。最終的にはその方がクジラたちにとっても有益だろうと。
 捕鯨問題に関して実は国内で一番声の小さかった5番目の層の人たち(筆者は属さず)にとっては、むしろこれからの方が責任重大ということになるでしょうが。
 そしてもう1つ。批判のトーンを抑えたのは、いうまでもなく日本政府に自重を促すため。
 日本のIWC脱退・商業捕鯨再開に対する反捕鯨国の公式の反応、海外メディアの論調が抑制的なのも同じ理由です。4月にナイロビで開催されたIWC科学委員会会合が和やかなムードで進行したのも。
 「日本が自重してくれるのを信じましょう」と。7月1日までは。
 対する日本側も、国際社会に対して公式に自重≠約束しています。以下は外務省の大菅岳史報道官が4月にワシントンポスト紙に寄稿した意見(別オピニオン記事に対する反論)。日本の捕鯨産業による乱獲・悪質な規制違反・違法な調査捕鯨に対する十分な反省が見受けられないのは、筆者としては大いに不満なところですが、そこには目をつぶりましょう。重要なのは、大須賀報道官が日本政府を公式に代表する立場として「low enough」とはっきり名言したことです。

■Japan’s whaling is sustainable and responsible (4/22,ワシントンポスト/外務省)
https://www.washingtonpost.com/opinions/japans-whaling-is-sustainable-and-responsible/2019/04/22/b309abd6-62d2-11e9-bf24-db4b9fb62aa2_story.html?noredirect=on&utm_term=.5432342be11f
https://www.mofa.go.jp/files/000487051.pdf
Japan will conduct its whaling activities only within its own territorial sea and exclusive economic zone and will have catch limits low enough to ensure the long-term sustainability of the affected species.(引用)

 なるほど、あくまで日本のEEZ内で、「low enough」なんですね……。わかりました。だったら、大目に見ましょう──
 シーシェパードの活動家レベルを除く、欧米・豪/NZ・南米諸国をはじめとする反捕鯨国の大方の一般市民はたぶんそのように受け止めることでしょう。本当に¢蜷{賀氏/日本政府の公式見解のとおりであれば。
 しかし……非常に残念なことですが、この日本の国際社会への約束≠ノは大きな疑念を差し挟む余地があります。
 まず、反論の元記事が「stock」=系群(個体群)への言及であったにもかかわらず、「stock」とは書かずに「species」=種(すべての系群を含む)としてしまっている点。これはかなり姑息な誤魔化し。要するに反論にもなっていないわけですが。
 さらに疑いを強めているのが、上掲拙パブコメに対する水産庁の回答。系群毎の管理をするよう求めたにもかかわらず、すっとぼけて知らんぷりをしたわけです。
 今日では保全・管理の対象となる単位は種ではなくあくまで個体群。これは基本中の基本。常識中の常識。
 淡水魚や昆虫等、在来の野生生物保全の場で、他地域の同種の異なる系群が人為的に持ち込まれることによる遺伝子汚染≠フ問題がしばしば取り上げられるのもこの文脈。
 実際のところ、「系群管理」はほかでもない水産庁が調査捕鯨を正当化すべくこれまで国際社会に公言してきたことなのです。
 以下は水産庁が再開を控えたこの6月にアップデートしたプレゼン資料。Q&Aの方はほったらかしたままですが・・。PDFの16ページに注目。

■捕鯨をめぐる情勢|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-29.pdf
資源管理は系群毎に行う(引用)

 商業捕鯨再開の代わりに終了する調査捕鯨に関する記述とはいえ、肝腎の商業捕鯨になったらそれを投げ出していいとするのは断じて許されない話。日本自身を含めた国際社会への裏切り以外の何物でもありません。
 そしてもう一点。大須賀氏は(従来の水産庁見解も)触れていませんが、「to ensure the long-term sustainability(長期的な持続可能性の確保)」は混獲や気候変動・プラスチック汚染等による海洋環境悪化の影響も必ずコミで保証されなければなりません。「いや、知らないよそんなの」では決して済まされないのです。
 持続的利用は環境が健全であることが大前提。野生生物を絶滅、あるいは絶滅寸前にまで追いやってきた主な要因は生息地の破壊と乱獲のセット。生息環境が健全でさえあれば耐えられる捕獲圧でも、生息環境が悪化すれば耐えることができなくなってしまうのです。それは歴史が証明していること。そして、今日の野生生物保全において基本となる共通認識であり、それ故に予防原則が求められるのです。
 ちなみに、再開商業捕鯨の対象となる3鯨種(特にミンククジラとニタリクジラ)の主な餌生物となっているカタクチイワシは、マイクロプラスチックで汚染されている割合が非常に高いことが指摘されています。一方、やはり3鯨種の餌生物で特にイワシクジラが好むカイアシ類は、マイクロプラスチックに対して非常に脆弱であり、仮にカイアシ類が汚染によって減少した場合、イワシクジラなどの捕食者に大きな影響が及ぶ可能性があります。カイアシは多くの魚の主要な餌生物でもあるので、回り回って結局ミンククジラやニタリクジラも影響を蒙ることになるでしょう。(まあ、不自然極まりない捕食者であるヒトが汚染された鯨肉を食べてマイクロプラスチックを体内に溜め込んだとしても、筆者の知ったこっちゃないですけど・・)

■Ingestion of microplastics by fish and other prey organisms of cetaceans, exemplified for two large baleen whale species
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0025326X19303479?via%3Dihub

 不安要素といえば、共同船舶森英司社長が開いた記者会見の内容がまた実にとんでもない代物でした。

■商業捕鯨再開で年2千トン想定 (4/21, 共同)
https://www.47news.jp/3673424.html

 厚顔無恥も極まれりというところ。通常、企業のトップの会見は株主・投資家を意識したものですが、同社の主要な株主は元大手捕鯨会社から譲り受けた水産系外郭団体なので、一般企業のそれと同列には扱えない話。
 さすがに水産庁も、共船に対し満額回答≠ナ応じる真似はしないでしょう。そこまで壊れてはいないと信じたいもの。
 実際、その後の朝日新聞報道から、捕獲枠の公表がG20後に先送りされたことに対し、共船の裏の顔≠ナある捕鯨協会がヤキモキしているのがうかがえます。裏を返せば、森社長が会見を開いて報道させたのも、世論の支持を得て捕獲枠をなんとか過大な方向に引っ張りたいとの思惑によるのでしょう。

■商業捕鯨枠公表、G20後に先送り 業界「早く示して」 (4/25, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/ASM6S5G78M6SULFA02X.html

 ともあれ、永田町の族議員と強固なリレーションを保持し、毎年のように盛大なパーティーを開いてきた共船/協会のこと、同庁に対して強い圧力をかけているでしょう。そして案の定、業界の声を代弁する代表的な捕鯨族議員である国民民主党の玉木議員と徳永議員が同党議連の会合に外務省と水産庁の担当者を呼んだことも明らかに。霞ヶ関側は明言を避けたようですが。

■旧民進系議連 捕鯨再開で国際訴訟懸念 (4/21, みなと新聞)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/92200
水産庁は「IWC脱退後もIWC科学委へのオブザーバー参加を続ける」「訴訟させない努力、訴訟で勝てるような準備をする。国際機関を通じての協力していくことでリスクを減らせると考えている」と語るにとどめた。(引用)

 外務省/水産庁が永田町の族議員に対する説明でこうした及び腰の表現を用いたのは──好意的に解釈するなら──共船/族議員に請われるまま過大な捕獲枠を設定すれば、それだけ国際訴訟リスクが増大することを一応♂っているということでしょう。
 ついでにこちらは産経のパクリ記者・佐々木正明氏のスクープ(?)記事。

■訴訟リスクの商業捕鯨 法的課題の対策急務 (6/16, 産経)
https://www.sankei.com/life/news/190616/lif1906160039-n1.html
今回、入手した政府の内部文書では、新たな国際機関の創設には「時間が必要」と指摘。さらにこの国際機関には「北西太平洋諸国の参加が得られるか不透明」とも明記されている。
北西太平洋諸国とは、捕鯨国のロシアや韓国などを指し、日本政府はこれらの国々の加盟協力を得るのは難しいと判断しているとみられる。日本だけで国際機関をつくるわけにもいかず、政府がこの法的課題を解消することが困難であることを事実上認めている。(引用)

 脱退方針公表直後の1月の段階で法的リスクが厳然として存在することをズバリ指摘したのは、捕鯨問題に精通した研究者であるお馴染み真田氏、石井氏、大久保氏。

■IWC脱退による商業捕鯨再開は脆い前提に立っていないか? (1/9, 真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ)
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2019-01-09
https://twitter.com/ishii_atsushi/status/1085764238692339712
オブザーバー参加だけで、国連海洋法条約第65条を満たしていると解釈するのは明らかに無理があり、違法行為として認識されます。資源も土地も少なく、領土紛争を抱えている日本は国際法を重視するべきで、違法行為を行うべきではありません。(引用)
IWC脱退、関西の反応は(もっと関西) (1/21, 日経関西版)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40368500T20C19A1AA2P00/
一方、東海大学の大久保彩子准教授は「国際社会から国連海洋法条約の違反を問われる可能性がある。得るものが少ないうえ、捕鯨の規模も小さくなるリスクが増えた」と話す。(引用)

 また、霞ヶ関はきちんと認識しているとおり、ロシアと韓国の参加が必須の第二IWCの設立が絶望的なのも、筆者らが従前から指摘してきたこと。

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1140247927861829633
■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html
■太平洋版NAMMCO(第二IWC)は米加中露韓抜きのぼっち機関≠ノ(つまり無理)
http://kkneko.sblo.jp/article/185294238.html

 落ち着くところに落ち着くか。それとも国際法違反で沿岸捕鯨も含めてジ・エンド≠ゥ──。
 すべては、7月に始まる日本の捕鯨を世界が「low enough」とみなせるかどうかにかかっています。
 ひとつ釘を差しておきますが、日本が「low enough」とみなすかどうかじゃありませんよ? 世界が、です。
 筆者個人が「low enough」とみなす(反捕鯨国の市民も大方同意するだろうと考える)条件は以下。ツイッター及びパブコメでも表明しているところですが。

・ミンククジラJ系群を捕獲しない。
・イワシクジラも捕獲しない。
・RMPをチューニングしない。

 少し細かく補足しましょう。
 ニタリクジラに関しては一応4月のIWC科学委会合でRMP適用試験が済んでいます。この試算で提示された数字を超えないこと。共船の要求する生産量にはまったく届かないはずですが。
 それと、ニタリクジラとは種・亜種レベルで異なるカツオクジラを誤って捕獲しないこと。両種の分布境界は黒潮、すなわちその年によって境界線も移動するため、その点を考慮した操業海域の管理が必要になります。高知沖での捕獲は控えるのが無難。
 ミンククジラに関しては、J系群を捕獲しないのは無論のこと、O系群も多系群問題が片付いていないため、少なくともIWC科学委で再評価されるまでは極小(具体的には、日本政府自身がかつて表明した最小の数字。もちろん沖合と沿岸の合算で)にとどめるの賢明。オブザーバーの資格でやるなら当然の気配りといえますが。
 イワシクジラについてはパブコメで詳細に指摘しているとおり、(単系群の場合)北太平洋東側諸国(米・加)との共有財産=B一方、同種についてもミンク同様多系群問題が浮上しており、やはりIWC科学委で議論に決着がつくまでは捕獲ゼロが望ましいといえます。イワシクジラの捕獲は国際訴訟リスクを最も高めると肝に銘じておくべき。

 美味い刺身法制定(脱退で事実上ゴミ箱行も同然ですが)、休漁拒否&日新丸突貫修理、国連受諾宣言の書き換えといったこれまでの一連のやり口を振り返ると、一体どちらに転ぶか、現時点では予断を許さない状況。
 判断材料としては、共船の要求は(クジラにとって)マイナス、共船の焦燥はプラス、G20後への先送りはマイナスという感じ。
 外を向けば、昨今の世界情勢、米国をはじめブラジル・豪州・欧州等が自国中心の内向き志向に陥っているのはマイナス。クジラにとってはまさに逆風。
 ついでに参議院選挙もマイナス。安倍外交といえば、トランプとプーチン相手に接待や貢物の限りを尽くし媚びまくったあげく手のひらを返されてばっかりという目も当てられない有様ですが、そんなやったふり♀O交の中で国内的には唯一、あたかも成果を挙げたかのように見える!WC脱退/商業捕鯨再開を、同政権/自民党はここぞとばかり利用しようとするでしょうしね。水産官僚も官邸に人事権を握られ他省庁同様に忖度≠迫られたろうことは想像に難くありません。ただし、国連海洋法裁判所(ITLOS)に訴えられた場合、「low eough」でなければ日本の敗訴は避けられず(枠が少なくても負ける可能性はあり)、訴訟リスクへの対応準備が整っていることが大前提。したがって、もし枠を増やす方向で進める場合、「訴訟させない努力」(〜上掲みなと新聞記事)とはすなわち日本を訴えてくる可能性のある反捕鯨国との裏取引以外にないといえます。このご時勢だと本当にやりかねないのが怖いところですけど・・・
 各国がエゴをむき出しにしてなりふりかまわず行動してよしとするトランプ流が席巻している間は、日本がそこに便乗しようと企んだとしても不思議はないかもしれません。何しろ捕鯨サークルのことですから。場合によっては、日本近海のクジラたちにとってはもうしばらく受難の時代が続くかもしれません──せっかく南極海に平和が訪れたというのに。「気候変動なんて中国の陰謀だ!」「こっちは体張って守ってやってるのに、米国が攻撃されても日本の連中はソニーのテレビで観てやがるだけなんだぞ! こんな不不公平な話があるか!」「日本が要求する辺野古基地移設は米国の土地の収奪だろ。金よこせ!」等々、トンデモなんてレベルじゃない支離滅裂の発言を繰り返す狂信的な人物がやりたい放題やっている間は。災難はクジラに限らずすべての野生生物の身に降りかかっていますけど・・
 しかし、過激な煽り文句で支持者を躍らせる極右ポピュリズムが長続きするはずはないのです。
 エコ嫌いトランプが退場すれば大きなプラス。
 これまでのように、法の裏をかこうとしたり、被援助支持国を札束であしらいながら道具として利用するやり方を続けるなら、そのときこそ日本の捕鯨は詰む≠アとになるでしょう。
 はたしてそれは、日本にとって賢明な選択といえるのでしょうか?

 筆者としては、水産庁がIWCオブザーバーとしての自覚のもと、誠実に慎ましく振る舞い(日本人の美徳≠ノもとることなく!)、十分「low enough」と世界に認められる捕獲枠を設定し、管理を徹底するのであれば、自身の役割は終わったものとみなし、商業捕鯨の是非については次の世代の手に委ねることもやぶさかではありません。
 逆に、「low enough」が真っ赤な嘘だった場合は、捕鯨問題が未だに収束しておらず、日本の水産行政や野生動物の保全施策全体に有害な影響を及ぼしていることを、これからも口酸っぱく説き続けざるをえませんが──
posted by カメクジラネコ at 23:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会科学系

2019年01月14日

垣間見えた捕鯨ニッポンの接待外交

 年末に脱退を決めた日本が加盟国として参加する最後の機会となった、9月の第67回国際捕鯨委員会(IWC)総会。開催されたブラジル・フロリアノポリスに日本が送り込んだ、国会議員7名を含む総勢62名の代表団の旅費について、当方は行政文書情報開示請求を行いました。そのうち水産庁分の資料が今月8日やっと手元に。
 一月早く届いた農水省(水産庁以外)と外務省の分は解説を交えて以下の記事で公開した次第。

■今年のIWCブラジル総会の日本政府代表団の旅費(の一部)が明らかに!
http://kkneko.sblo.jp/article/185144503.html
■IWC67日本政府代表団旅費等参加費用情報公開請求
https://www.kkneko.com/iwc67delegatesexp.htm

 開示期限を延長した水産庁分がそろったところで、今回修正を加えて再度アップしました。
iwc67_delegates_exp.png
 開示決定から開示まで1週間かかるとのことで、年末年始休暇を挟むためもっと遅れるものと思っていたのですが──内外メディアの取材攻めにも遭っていたことでしょうし──水産庁殿にはお忙しいところ速やかに対応していただきました。また、送料として請求したゆうパックの料金が改訂されていたとのことで、わざわざ10円切手1枚と郵便料金表のコピーも同封。開示担当の漁政課も几帳面なお仕事ぶりで頭が下がります。
 ただ……国民としては、10円分の切手よりも、やはり数十、数百万円、あるいは数億円単位の税金の無駄の方が気になるところ。
 判明した旅費総額(外務省/農水省/水産庁)は51,191,194円
 脱退報道の中で、日本政府のIWCへの拠出金が年間約1,800万円(IWCの収入の6%)を占めることも明らかになりましたが、たった1回の年次総会の旅費だけに、分担金の3倍近い国費(国会議員5名を除く)が投入されていたことになります。
 代表団メンバーの航空運賃はビジネス2クラス、プレミアムエコノミー、エコノミーの4パターンあることも判明。
 ブラジルまでの往復で200万円かかっているのが、国会議員2名、秘書官2名、そして今回判明した山口次長と前参事官の2名の合わせて6名。しめておよそ1,200万円。これだけで総額の4分の1近くを占めます。
 飛行機代だけで1名200万円もかかるというのは、庶民の感覚ではなかなか理解しづらいところ。IWC以外の地域漁業管理機関(RFMO)で水産庁のナンバー2である次長が出席しているのはWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)くらい。
 高額な旅費に見合うだけの結果が求められて当然というもの。
 将来長官、事務次官のポストが約束されている立場で、妥協の道を見出すためにこそ地球の裏側にまで馳せ参じたのであれば、そのことに失敗した山口次長は責任を取るべきでしょう。
 また、もし求めていた結果が最初から脱退(につながる提案否決)そのもの≠ナ、予定通り副大臣に啖呵を切らせたのであれば、次長や族議員らのブラジル外遊に最後の記念旅行以上の意味はないことになります。もはや壮大な税金の無駄遣い以外の何物でもありません。地方議会の視察という名の慰安旅行≠ナはないけれど。
 そして、蓋を開ければ「我が国堂々退場ス」。しかも、水面下では遅くとも春の時点で脱退方針は固まっていたというのですから、これでは話になりません。
 ともあれ、このおよそ5千万円が国会議員5名分を除いた日本政府負担分のすべて──ではありませんでした。
 実は、今回のブラジル総会で、水産庁の開示対象から漏れていた費用≠ェ発生していたのです。
 それが、通訳料の明細から判明した、本会議期間中他の加盟国代表に対して非公式に行っていた接待の費用。初日レセプション、1回のバイ会談(二国間会談)、4回の夕食会が開かれていたのです。
 開示に先立つ決定通知の中で、水産庁が部分不開示とした理由のひとつが「非公式会談及び夕食会の相手国名は、公にすることにより、相手国の意思に一方的に反することになり、我が国との関係に悪影響を及ぼすおそれがある」。で、筆者は早合点してしまったのですが、肝腎の費用に関する資料はなし。
 水産庁国際課曰く、「(通訳料と異なり)旅費に該当せず」との判断で外したとのこと。10円分の切手なんて誰もケチったりしないから、こちらはちゃんと明らかにしてほしかったとこですけどねえ・・・。
 電話での問合せには「水産庁負担は一部」と回答。外務省・農水省と割り勘でしょうかね。会食費は各議員も自分の分は政務活動費から出したのかもしれませんが(庶民だからわからないんですよ〜)。
 バイ会談はホテルの一室の使用料金くらいでしょうが、レセプション・夕食会はIWC事務局が宿泊先に指定したホテルサンチンホ内、あるいは近隣のレストランを借り切ったはず。それぞれの国の代表に、国会議員7名(脱退話をしたのであれば国民民主党の族議員・徳永氏は呼ばれなかった?)、次長・代表代理ほか上級官僚数名(+通訳4名)の会食であれば、食費だって最低でも1名1万円は下らなかったでしょう。レセプション・夕食会には、今回出席した被援助支持国24カ国代表は全員呼ばれたに違いありません。仲間はずれにしたら離反を促すだけですものね。また本会議初日に開かれたレセプションパーティーには、おそらく北欧の同盟国や捕鯨支持オブザーバーも参加し、さらに人数/費用が膨らんだとみてよさそうです。
 とすると、各夕食会の費用は最低でも40万円はかかっていたはず。初日のレセプションはざっくり60万円として、ざっくり推定した期間中の接待費用はおおよそ220万円。当事者の感覚が庶民のそれからどの程度ズレているかにもよりますが、300万円かかっていたとしても不思議はないかもしれませんね。

 初日に続き4日繰り返された会食は、被援助支持国向けのキズナを確認する≠かりやすい接待といえるでしょう。
 気になるのは、国名が墨塗りで伏せられた1対1のバイ会談の相手。仮にとしましょう。
 X≠ニのバイ会談は一体何のために行われたのでしょうか?
 まず思い浮かぶ理由は、日本提案の採択に向けた交渉。
 総会後の記事でも解説したとおり、横山議員が名前を挙げたニカラグアは、期間中に日本の説得に応じて反捕鯨陣営から捕鯨支持陣営に寝返ったわけではなく、それ以前に宗旨替えしていたことがはっきり判っています。

■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html

 それ以外で、一連の決議において従来と異なる投票行動をした国はありません。
 日本提案を支持することが最初からわかっている国は、X≠フ候補ではないはずです。意味がないのですから。
 となると、想定できる相手は2通り。ロシアないし韓国に同調を促すため。あるいは、反捕鯨陣営を代表する米国ないし豪州との間で落としどころを探るため。
 蓋を開ければ、ロシア・韓国はともに棄権。米・豪とお互い歩み寄った形跡もまったくありませんでした。
 GDP世界3位の大国日本の栄えある国会議員7名と水産庁次長以下手練の官僚が、サシの極秘会談の場を設けて懸命な説得をしたにもかかわらず、投票結果に微塵も影響を与えることができなかったとすれば、あまりにも情けない話です。
 上掲拙記事およびリンクでも解説しているとおり、そもそも日本提案は妥協とは程遠い、コンセンサスを得られるはずのない代物でした。オーストラリア代表も首をかしげたように、わざと通らないよう″られたとしか考えられない内容だったのです。
 日本提案には「南極海・公海からの撤退」が含まれていませんでした。IWCで妥協点を見出すために前向きの努力をする気など端からなかったのです。それはただ、脱退の口実にするための国内向けの演出にすぎなかったのです。
 とすれば、X≠ニの秘密裏のバイ会談がなぜ行われたかもおのずと察しがつくというもの。
 そう・・この総会がお開きになった後、日本が脱退するつもりであることを伝えるため──。
 12月27日の朝日新聞も総会前の関係国への根回し≠ノ言及していますが、とくにX≠ノ対してはブラジル現地で伝えておく必要があると、日本政府は判断したのでしょう。
 では、1対1の密談を行った相手X≠ニは一体どの国??
 ロシアと韓国には、第2IWC∞太平洋版NAMMCO≠フ可能性を模索するうえで早めに伝える意義はあったかもしれません。
 しかし、X≠ェロシアである可能性はゼロ。脱退を知りながら、棄権したうえ日本の立場を失わせる発言までするとはさすがに考えられません。同様に韓国もなし。
 ノルウェーとアイスランドの北欧2カ国にも先に知らせる意味はありそうですが、であればバイ会談、すなわちどちらか1国とではなく、三者会談(もしくはバイ会談2回)になっていたでしょう。事前の根回しは両国にも行っていた可能性がありますが。
 豪州はどうでしょうか? 南極海撤退の見込みも含め、事前に伝える意義はあるでしょう。
 ただし、その場合、11月に日本を発った最後の南極海調査&゚鯨は絶対に不可能になっていたはずです。
 その他諸々の事情も勘案し、同国である可能性はやはりゼロ。同じくNZもなし。
 米国は?
 そう……日本が安全保障面でどっぷり依存し、外交で最も神経を使う最重要同盟国・米国こそ、密談の相手であった可能性が高いのではないかと、筆者は推理しています。
 きっと、「日米の仲≠セから先に伝えておくけど、反捕鯨陣営のよその国には絶対内緒にして!」と頼み込んだんでしょうね。
 脱退の通知先であるにもかかわらず、欧州や豪州、あるいは非加盟国のカナダと異なり、米国政府は日本の脱退表明に対して特に公式に声明を出しておらず、反応が鈍いことがそれを示唆しているかもしれません。もともと温度差はありますし、エコ嫌いトランプ政権下ではありますけど。
 ただ、この場合、続く10月にソチで開かれたワシントン条約常設委員会会合でも、日本がIWC脱退予定であること、すなわち、来期以降北太平洋公海でのイワシクジラ捕獲も中止する方向で調整していることを米国は承知していたことになります。それによってソチでの米国の立場・主張が変わることはなかったでしょうが、ある種の茶番だった可能性もあり。
 もう1つのX′補、それはセント・ヴィンセント・グレナディーン(SVG)
 被援助捕鯨支持国は現在捕鯨を行っておらず、将来的にも商業捕鯨に参入することもまた考えられません。それらの国々がIWCに加盟し、総会に参加する国益上の理由はただ1つのみ。それは日本の援助。
 過去に水産官僚としてIWC交渉に携わったミスター捕鯨問題こと小松正之氏は、今回の日本のIWC脱退方針を批判する主張の中で、被援助支持国が日本の脱退によって置き去り≠ノされる問題点を指摘しました。
 日本がこれらの国々の分担金を肩代わりしていたことをドミニカの元環境相が暴露しましたが、現在もマスコミ報道で40カ国とされる捕鯨支持国のおよそ4分の1は総会に来なかったり、分担金未払で投票権が停止していたりします。日本が抜ければ、これ以上IWCに居残り続ける理由もありません。せいぜいSAWS(南大西洋サンクチュアリ)等反捕鯨国の提案採択を邪魔するくらい。もう嫌がらせ以外の何物でもありませんけど・・。
 ただし、1ヶ国だけ、直接利害を有する国があります。それがIWCの管理下で先住民生存捕鯨を行っているSVG。
 ブラジル総会で先住民捕鯨枠は承認されたとはいえ、ブエノスアイレスグループの批判にさらされているSVGとしては、後ろ盾となる日本の脱退は不安要素といえるでしょう。
 もっとも、日本が同国に対して約束できるのは援助の積み増しくらいしかなさそうですが。
 SVGは首相が総会直前の8月に訪日しており、このときにも脱退見込について情報がインプットされた可能性があるかもしれません。

■捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!? (6)セントビンセント・グレナディーンのケース
https://www.kkneko.com/oda6.htm

 X≠フ第3候補は前述のニカラグア
 捕鯨ニッポンヨイショ同盟新参の同国にとって、他の被援助支持国と一緒に日本が用意した宴の卓を囲むのは少々決まりが悪いことかもしれません。そのため、日本側でレセプション参加に替わる便宜を別に用意してあげて、そのことを伝えた・・という可能性もなきにしもあらず。あまりないと思いますけど。
 拙表の試算ではホテルの一室の利用料のみとしましたが、仮にX≠ェ米国であった場合、外務省はセキュリティ面で入念な対策を施し、その費用が上乗せされた可能性もありそう。以前ウィキリークスで盗聴が暴露されて騒動になったこともありますし。
 とういうわけで、筆者の推理では1に米国、2にSVG、3、4がなくて、5にニカラグア。
 X≠ノついて「いや、違う。私はこの国だと思う!」といったご意見がある方は、ぜひお聞かせください。

 さて、水産庁/外務省に対してレセプション名目の費用の開示請求を改めて行うかどうか検討してみましたが、すでに脱退しちゃったことでもありますし、とりあえず試算で済ませようと思っています。水産庁国際課の担当者に露骨に嫌そ〜〜にされ、これ以上煩わせるのもどうかな・・というのもありますし。再開後のビジョンもろくに描けていないのに族議員の号令で突っ走っちゃって、難題山積ですものね。
 まあ、X≠ェどこの国であろうと、日本のIWC脱退が重大な外交上の失策であり、ブラジル総会でこれほど多額の税金を使う必要もなかったのは間違いありませんが。
posted by カメクジラネコ at 23:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年12月31日

クジラたちの海、ジュゴンたちの海

 皆さんご承知のとおり、暮れも押し迫った12月26日、日本政府は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を発表しました。
 ついに堂々退場≠オちゃった捕鯨ニッポン。 
 NHKをはじめ各メディアが「IWC脱退(発表予定)」を一斉に報じたのが公式発表に先立つ20日のこと。「脱退」の二文字が新聞の表紙に踊る夢を筆者が見たのがその2日前の晩。まあ、政府の判断が年内に示されるのは9月のIWCブラジル総会後の水産紙報道でわかっていたことなのですが。で、26日には菅官房長官の談話の形で発表され、翌日本当に各紙の1面を飾ることに。

■内閣官房長官記者会見 平成30年12月26日(水)午前 国際捕鯨取締条約からの脱退について|首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201812/26_a.html
脱退の効力が発生する来年7月から行う商業捕鯨は、日本の領海及び排他的経済水域に限定し、南極海・南半球では捕獲を行いません。(引用)

 公式見解に基づけば、南極海のクジラにとっては大きなプラス日本近海のクジラにとっては大きなマイナス
 ただ・・現時点では不確定の情報があまりに多く、商業捕鯨を再開・推進する日本側にとっても、また対応を余儀なくされる国際社会の側にとっても難題山積。見通しを欠いたまま強引に再開を押し通してしまった自民党捕鯨議連(とくに二階幹事長)と水産庁の責任はあまりに大きいといえますが。
 どこがどう問題なのかについては、20日以降の拙ツイログをご参照。


 ここではマスコミ報道をもとにポイントを解説しておきましょう。

@IWC脱退 7月商業捕鯨再開へ (12/26, NHK)
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20181226/0006652.html
再開する商業捕鯨はクジラの資源に影響を与えないよう適切な頭数を算出したうえで捕獲枠を設定して行われる見通しで、小型の船による沿岸での捕鯨のほか、沖合で複数の船が船団を組んで行う捕鯨も再開する方針です。
捕獲するのは、沿岸では主にミンククジラで、沖合ではミンククジラのほか、豊富だと見られているイワシクジラやニタリクジラも対象にすることにしています。
ただ、日本は海の利用などを定めた「国連海洋法条約」を批准していて、捕鯨を行う場合には「国際機関を通じて」適切に管理することが定められています。
このため政府は、「オブザーバー」という形でIWCの総会や科学委員会に関わっていくことにより、定められた条件を満たしていく方針です。(中略)
水産庁では、脱退後、すみやかに商業捕鯨を再開するほか、捕獲するクジラの種類も増やすことで、調査捕鯨の分がなくなってもクジラ肉の流通量が大幅に減ることはないと説明しています。(引用)

A主張通らず「脱退」 政権、IWC運営に不満 商業捕鯨再開へ (12/27, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13828863.html
政府は節目とされた9月のIWC総会前から、水面下で関係各国への根回しを進めた。(引用)

B感情論に振り回されたIWC 脱退は正常化の出発点 (12/20, 産経)
https://www.sankei.com/life/news/181220/lif1812200041-n3.html
科学調査は捕獲区域の日本近海や北太平洋で開始。鯨類資源が十分にある南極海からも撤退せず、目視による非致死的調査の継続に向け、調整を進める。(引用)

C政府、IWC6月末脱退通知 商業捕鯨、網走、釧路、函館など8拠点 (12/27, 北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/262335
商業捕鯨では網走、釧路、函館を含む全国7地域を拠点に、ミンククジラやツチクジラを捕獲する沿岸捕鯨を行い、山口県下関市を拠点にイワシクジラやニタリクジラを捕る沖合での母船式捕鯨を行う。沿岸捕鯨は全国の6業者5隻が操業、沖合操業はこれまで調査捕鯨を担ってきた共同船舶(東京)が実施する。(引用)

T.「共存」のハッタリ──脱退するために用意された無茶ブリ提案

 複数のメディアが、9月のIWCブラジル総会の前に、日本政府はすでに脱退の方針を固めていたことを伝えています。
 つまり、「共存」なんて嘘八百。実際、日本提案の中身は、双方の主張を取り入れた譲歩案とはかけ離れたものでした。中立に近いインドには問題点を指摘され、捕鯨賛成派のロシア・韓国も棄権、オーストラリア代表には「なぜこんな絶対通らない提案を出したのかわからない」と揶揄される始末。さらに不可解なことに、水産庁の諸貫代表代理が「東京と相談する」と答えて翌日出てきた修正案は、反対陣営がより受け入れやすくなるどころか、逆にハードルが上がっていたのです。常識で考えればありえないこと。
 それもそのはず。要するに、最初から受け入れられない前提で、純粋に国内向けに脱退の口実≠ノするためにこそ用意されたものだったのです。
 日本は9月のブラジルで、その気もまったくないのに共存≠ニいう言葉をこれ見よがしに掲げるパフォーマンスを繰り広げました。世界に対して大嘘をついていたのです。新基地建設を強行しながら「沖縄の負担を軽減する」などとしらじらしいことを平然と口にするのと同じく。
 日本提案の詳細については以下の解説をご参照。

■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案|真田康弘のブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15
■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html

U.いままさに行われているチョウサ捕鯨≠ニいう名の商業捕鯨

 上掲のとおり、日本は9月のIWC総会前に脱退を決めていました。
 と同時に、これはこの11月12日に南極海に向けて出港した捕鯨船団による新南極海鯨類科学調査(NEWREP-A)の許可証発給前であることを意味します。
 2014年の国際司法裁判所(ICJ)の判決により、NEWREP-Aの前の南極海調査捕鯨(JARPAU)の国際法違反が確定しましたが、そのJARPAUの調査計画の非科学性の論拠のひとつに「研究期間が設定されていない」ことが挙げられました。この批判を受け、NEWREP-Aは12年の期間が設けられ、半分に当たる6年後にレビューを行い、数字を見直すこととしています。
 NEWREP-Aは今年でまだ4年目。半分にも達していません。

https://twitter.com/segawashin/status/1075904691899387904
こんな大規模コホート、医学研究でもなかなか目にしないw。こんだけサンプル集めてろくな論文も出てないって、まともな研究者なら座敷牢で折檻されるレベルだな(引用)

 上掲は小児科医/研究者でもある作家の瀬川深氏のツイート。
 NEWREP-Aは必要なデータが集まり切る前に空中分解、科学調査としての意義が完全に費えることが確定したわけです。オブザーバーとしてIWCに提出する報告以外、2018/19のチョウサ≠ゥら国際査読誌に掲載されるだけの学術論文が書かれることなどありえない話。
 要するに、今南極海で日新丸船団が行っているのは、国際条約で認められている(致死的な)科学調査などではなく、純粋に美味い刺身=i〜本川元水産庁長官)を日本の鯨肉市場に供給するための商業捕鯨に他ならないわけです。JARPAIIと同様、国際法のもとでは決して認められないはずの。
 今季のNEWREP-Aは過去の調査捕鯨の中でも最も、限りなく商業捕鯨に近いといっても過言ではないでしょう。
 上掲産経報道Dで「目視による非致死的調査の継続」とありますが、従来の日本の主張どおり「致死調査が必要不可欠」であるなら、これは無意味です。
 もし、代わりに目視調査を行うことに科学的意義があるとするならば、そもそもこれまでのNEWREP-Aを含む南極海調査捕鯨が不必要(あるいは相対的な必要性)だったことを自ら証明するものにほかなりません。国際法のみならず、日本の動物愛護法における3R≠フ趣旨にも真っ向から反していたことになります。
 違法性がJARPAIIより明確な最後の南極海捕鯨≠ヘ、仮にITLOSに訴えられればほぼ確実にアウトでしょう。ITLOSは、三権分立の建前がすっかり壊れ、米軍基地辺野古移設に関して安倍政権に擦り寄る判断しかできなくなった日本の司法とはきっと異なるでしょうから。
 残念なのは、仮にITLOSで違法判断が下されたとしても(差し止め命令は別にして)、そのころには手遅れで意味がなくなっている可能性が高いことですが。
 ただ、たとえ止められないとしても、最後の最後まで国際法を毀損する真似ばかりする国だったと、日本の汚点が歴史に刻み込まれることになるでしょう。
 日本が自らの国益をあまりにも大きく損ねた共同船舶による母船式捕鯨を完全に断念し、厳格な管理のもとでの太平洋沿岸17頭程度の沿岸捕鯨にとどめるのであれば、日本の北方領土や尖閣諸島周辺海域に相当する南極海をサンクチュアリに指定している国々も、「これで本当に最後ね」ということで政治的に黙認することも、あるいはやぶさかでなかったかもしれません。
 各メディアとも奇妙なほど触れずにすませていますが、日新丸船団は今頃南極海でまさに捕鯨を始めたあたり。
 しかし、南半球諸国の市民がこのまま黙っているとは、筆者には思えません。年明けには強い批判の声が巻き起こったとしても不思議はないでしょう。

V.規制に縛られない「オブザーバー」でやりたい放題!?

 「オブザーバー」とは読んで字の如し、傍観(聴)者=B
 会議の場に居合わせて、議論の様子を直接見聞きし、それを市民に伝えることができるのは、例えばNGO(非政府機関〜市民団体)にとってみれば大きなメリットと呼べるでしょう。もっとも、最近はネットを通じた動画中継という手段も登場しましたが。
 しかし、一国政府が加盟国からオブザーバーへと鞍替えすることに、一体何の意義があるというのでしょう?
 IWCでは議長裁量で発言の機会が与えられる時もありますが、オブザーバーに出来ることはただ言いたいことを言うだけ=B他の国際機関や議会では発言権さえない場合も少なくありません。
 北海道記事Cなどでは年間約1,800万円の分担金が要らなくなるとしていますが、9月のブラジル総会の日本代表団の旅費は推計7,000万円。オブザーバーになってからも総会(隔年)/科学委員会(SC)会合(毎年)に相応の人数が参加すると考えられるので、その出席費用で浮いた分など結局消し飛んでしまいます。ちなみに、外務省は(脱退に伴う)紛争解決のための国際弁護費用等の予算約8,000万円を新年度の概算要求で計上しています。
 つまり、加盟国の立場でこそ得られたはずのプレゼンス/影響力、何より貴重な1票を失い、ただの外野に成り下がるだけ。
 まあ、多額のODAと引き換えに加盟国になってもらった被援助捕鯨支持国を放り出すわけにもいきませんし、陣頭指揮≠キべく参加する必要はあるのでしょうが。
 いずれにせよ、加盟国の立場で変えられなかったものを、オブザーバーに格落ちして変えられるはずがないのは、誰が考えても容易にわかること。菅官房長官の発言は矛盾だらけ。
 もちろん、IWCのオブザーバーとなる目的は別のところにあります。
 それが、IWC/国際捕鯨取締条約(ICRW)の縛りから逃れつつ、国連海洋法条約(UNCLOS)65条のもとで商業捕鯨を行う体裁を取り繕うこと。
 該当するのは「through the appropriate international organizations」の部分。IWCにオブザーバーとして参加すれば、この「through」の条件を満たすと日本は考えたわけです。まあ、ある意味UNCLOSの瑕疵ともいえるかもしれません。
 日本側の解釈が正しい場合、捕鯨推進サイドにとってこれはいいことづくめ=B
 これでうるさいこと何も言われずにすむと。「ちゃんと通じてるだろ、文句あっか!」の一言でおしまいだと。
 ただし、あくまで日本が正しい場合ですけどね・・。
 IWC非加盟で(大型鯨類の)捕鯨を行っているのはカナダとインドネシアの2カ国のみ。ともに年間の捕獲数は1桁で、内容的にもIWCにおける先住民生存捕鯨の定義から外れるものとはいえません。
 一部メディアや識者が指摘していますが、日本が捕獲数や規模、商業的性格の点で両国とはまったくレベルの違う捕鯨会社による捕鯨を、条約加盟国の立場ではなく単なるオブザーバーとして強行した場合、どこかの国に訴えられないという保証は何もありません。後は国際海洋法裁判所(ITLOS)がどう判断するかという話になります。

W.商業捕鯨+チョウサ捕鯨???

 日本は再開後の商業捕鯨をIWCで合意された改定管理方式(RMP)のもとで行うとしています。
 捕獲対象となる3鯨種のうち、ミンククジラについては年69頭程度(最小17頭、最大123頭)との試算があります。

■ミンククジラ オホーツク海・北西太平洋|国際漁業資源の現況
http://kokushi.fra.go.jp/H29/H29_50.html

 実はこの17頭という数字、2年前の前回のIWC総会時に日本が要求したもの。しかし、オーストラリア等の反対で通りませんでした。
 なぜ否決されたかといえば、答えは簡単。「非科学的だから」。
 北太平洋のミンククジラは太平洋側のO系群と日本海側のJ系群の2つの個体群に分かれることまでは知られているのですが、さらにO・Jそれぞれが複数の系群に分かれる可能性があり、まだIWC-SCで合意は得られていません。水産研究・教育機構の「国際漁業資源の現況」においても示されているとおり。「日本側がやや正しそう」というぐらいでは、やはりゴーサインは出せません。それは非科学的なこと。
 つまり、日本は科学をいったん脇に置いて、「どうか日本の沿岸捕鯨会社に温情をかけてやってくださいよ、17頭ぽっちだからいいでしょう?」という情緒に訴えかける提案をしたのです。しかも、「その代わり、南極海・公海からは撤退しますんで」という、政治的には着地点となり得る、結果的には脱退することで2年後に自ら招いたのと同じ条件を付けることなく。
 他所で指摘されたとおり、現行の沿岸調査捕鯨によるミンククジラの捕獲数は網走沿岸47(J系群を含む)、太平洋沿岸(釧路・八戸・鮎川)80、太平洋沖合(43)で計170頭。
 ここで皆さんもお気づきになられたかもしれません。
 日本の今年までの調査捕鯨によるトータルの捕獲枠が、IWCで合意された管理方式に基づき持続可能とされる捕獲枠をも上回っていることに。
   調査捕鯨 > 商業捕鯨
 モラトリアム後の日本の調査捕鯨はそもそも、国際ルールからの逸脱を可能にするためにこそ編み出された裏技=B商業捕鯨であれば従わなければならない規制にも縛られることなく出来てしまうところがミソ。
 今回の脱退報道で、事情を知らない一般市民が「これで鯨肉の供給が増えるかもしれない」と誤解する一方、市場関係者が「減ること」を懸念したのは、まさにそれが理由なわけです。
 ただ、上掲NHK報道@では、水産庁が「大幅に減ることはないと」と回答。
 しかし、これはきわめておかしな話です。発表どおり公海から撤退する場合、国産鯨肉の8割方を占める南極海からのクロミンククジラ300頭と北西太平洋公海からのイワシクジラ134頭分の鯨肉はそっくり失われるのですから。
 さらに、@で水産庁自身が「調査捕鯨の分がなくなっても」と説明しているにもかかわらず、上掲産経報道Bでは「科学調査は──」とあり、情報が錯綜しています。後者は森下氏個人の持論かもしれず、記事を書いたのがパクリ記者佐々木正明氏なので、信憑性にやや疑問符がつくところではありますが。
 実際、公海上で行われるNEWREP-AとNEWREP-NP沖合≠ヘ法的根拠を失います。
 しかし、沿岸の非常に狭い範囲で行われてきた(オホーツク海側および太平洋側)NEWREP-NP沿岸は、日本のEEZ内であるため、国際法の上では日本が勝手にやってしまうことが可能。
 「流通量を維持する」という裏の目的≠ナ、RMPを忠実に守っていたのでは決して満たせない分をチョウサ≠ナ補充する超裏技≠ウえ使われかねません。
 その場合、実際には「混獲 + 商業&゚鯨(沿岸+沖合) + 調査&゚鯨」の≪三本立て≫という形で、場合によっては沿岸のミンククジラだけでトータル300頭を超えてしまうことになりかねないのです。
 IWC-SCで合意されているミンククジラの北太平洋における推定生息数は約25,000頭。しかし、同種は太平洋中に均等に分布しているわけではありません。若い個体が岸寄りを通り、成熟に伴って沖合にルートがずれていくのがミンククジラの回遊生態。沿岸での目視数は数百頭どまり。そして、沿岸調査捕鯨で百頭を超える捕獲を行ってきたことで、釧路沖の枠≠満たせなかったり、新規の八戸では開始初年度3頭に留まるなど、乱獲が強く疑われる状態でした。太地イルカ追込猟によるオキゴンドウやコビレゴンドウとも似た状況。
 このうえさらに捕獲数が増やされることになれば、若い年級群に集中的なダメージが加わって人口構造が大きく変わり、かつて商業捕鯨時代にマッコウクジラ捕鯨で犯したのと同じ愚を繰り返すことになるでしょう。
 以下はアイスランドの捕鯨会社社長ロフトソン氏による、日本のIWC脱退についてのコメント。

■「クジラの血が体に流れる」アイスランドの鯨捕りは日本のIWC脱退と商業捕鯨再開の方針をどう見たか (12/25, 木村正人/ヤフーニュース)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20181225-00108985/
「日本のように約30年間も『調査捕鯨』を継続するのは少し行き過ぎだと思います。日本は調査を分析するために50年前の方法を使っています。このため、他の国の研究者は日本の調査結果を用いて比較できないのです」
「商業捕鯨と同時に捕鯨について必要なすべての調査を実施できます。それが、私たちがアイスランドで行っていることです」(引用)

 もし、日本が商業捕鯨と同時並行で調査捕鯨を行い、それによって鯨肉供給を確保しようとするならば、それは文字通り乱獲≠ノ他ならず、同時に非合法な捕鯨=密猟≠ナあることも意味します。
 その場合、たとえ沿岸限定であっても日本は国際訴訟リスクを抱えることになるでしょう。

X.EEZ内で母船式??? 共同船舶の悪あがき

 一連のIWC脱退関連報道の中で、筆者が最も眉をひそめたのが「(共同船舶の)母船式捕鯨が生き残る(かもしれない)」という情報でした。
 「母船式捕鯨」と明記したのは27日の北海道新聞記事C(小森美香記者)のみ。26日のNHK報道@では、沖合捕鯨は「複数の船が船団を組」むと母船への言及はなく、母船日新丸以外のキャッチャーボートを使う形態も考えられたのですが。
 また、27日の朝日報道など、いくつかの新聞は下関の関係者への取材をもとに「独自の水揚・解体施設のない下関市では、母船式捕鯨が行えないと(流通拠点が他の沿岸捕鯨地に移るなどして)同市の産業にとってプラスにならない」という趣旨の報道をしています。
 少なくとも、関係者には正式な決定事項として「下関市を拠点に実施するのは母船式捕鯨だ」と伝えられてはいないのでしょう。詳細な情報がきちんと与えられていないのは他の沿岸捕鯨地に対しても同様とみられますが。
 ちなみに、筆者も情報開示請求の件のついでに「7月以降の日新丸の運用はどうするつもりか?」と水産庁国際課に尋ねてみましたが、「まだ検討中」という以上の返事はありませんでした。まあ、決まっていたとしても筆者に教えるつもりはないでしょうけど。
 下関市の要望に応える形にするのであれば、早々に北海道新聞にリークしたのはあまり賢明とはいえないでしょう。
 両者は間違いなく競合関係にあるからです。鯨肉全体の市場という意味でも、ミンククジラ鯨肉単一の市場をめぐっても。
 公海母船式捕鯨すなわち共同船舶による鯨肉供給によって市場が左右されてきたのは事実であり、沿岸捕鯨事業者の不満を解消するために「沿岸調査捕鯨」が立案され、補助金が拠出されたわけです。
 しかも、沖合捕鯨の対象とされる3鯨種のうち、遠洋性のイワシクジラは調査捕鯨でもほとんど公海で捕獲されており、EEZ内では数頭が限度で(こっそり公海に出て密猟すれば話は別ですが)、探鯨のコストもランダムサンプリングの調査捕鯨と遜色ないほど大きくなると予想されます。ちなみに、JARPNII時代にはサンプリングのコースを外れていたことがIWC-SCで問題になりましたけど。
 また、ニタリクジラは入札でも売れ残った不人気鯨種。水産庁は営業努力次第という言い方をしたようですが、他の2種より価格を下げなければ売れない以上、経営を圧迫するのは明らか。
 そうなれば、直接競合するミンククジラの枠をめぐり、両者の間で軋轢が生じるのは自明のことでしょう。
 そして、事実上EEZ内のみでは採算が取れるはずがない母船式捕鯨の救済措置をはかった水産庁と自民党の捕鯨族議員が、これからも共同船舶に肩入れし続けるのもまた疑いの余地がありません。
 結局、皺寄せはクジラたちに押し付けられることになるでしょう。

Y.太平洋版NAMMCO(第二IWC)は米加中露韓抜きのぼっち機関≠ノ(つまり無理)

 「第二IWC」については野党を含む族議員が勇ましいだけで、菅官房長官も水産庁筋も「これからの検討課題」とやや引いた姿勢を見せています。
 おそらく「IWCオブザーバーに留まる」ことが外務省との落としどころとなっていそう。
 まあ、そんな動きを見せれば日本に対する海外からの風当たりが一段と強まることは避けられないわけですが。
 それだけではありません。
 ワールドワイドのIWCに頼らず捕鯨をしようと思ったら、対象鯨種の回遊先がEEZに含まれる沿岸国に対して合意を得るか、ともに参加する地域漁業(捕鯨)機関のもとで管理されなければなりません(UNCLOS#63)。
 つまり、北欧の捕鯨国が組織している北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)の北太平洋版となる捕鯨管理機関には、以下の国々に頭を下げて加盟してもらう(少なくとも許諾を得る)ことが不可欠なのです。
 ミンククジラ・イワシクジラ・ニタリクジラの3種の日本の捕獲対象となる系群の回遊/生息域は、いずれも太平洋の米国領島嶼にかかっています。
 さらに、カナダ、中国、韓国、北朝鮮、ロシアも、沿岸国として日本の管理に物申す資格のある国ということになります。
 カナダと米国は今年10月に開催されたワシントン条約(CITES)常設委員会で連携して日本の公海イワシクジラ持込問題を徹底的に追及しました。カナダはIWC非加盟で小規模な先住民生存捕鯨を行ってはいますが、国民の鯨類保全に対する関心が非常に高い国でもあります。
 中国は違法象牙の最大の市場がある国ですが、CITESで象牙の大胆な禁止を表明したうえ有言実行で規制を始め、なおも密輸入は止まっていないものの、国際社会からかなり高い評価を得ています。それも、象牙の国際市場閉鎖に後ろ向きなばかりでなく、国際社会に対する対決型捕鯨外交の姿勢を鮮明にする日本と対比される形で。
 中国・台湾・香港メディアによる日本の捕鯨政策に関する報道や論点は欧米メディアとほとんど変わらず、市民の日本に対する視線も冷めています。加盟国の中で捕鯨支持国に分類されているものの、IWC総会へはもうしばらく出席していません。鯨肉市場もなく、せっかくの国際評価を台無しにするだけで何のメリットもない以上、第二IWCに参加して日本に塩を送るまねをするとは考えにくいことです。

■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 ロシア代表はブラジル総会で「対立を煽るだけ」と明確に主張したうえで日本提案を棄権。かつては日本と並ぶ規制違反捕鯨大国だったとはいえ、今は先住民生存捕鯨のみでIWC加盟の恩恵を享受しており、第二IWCに参加する理由はなし。北方領土問題で日本側がさらなる譲歩を申し出れば考えるでしょうが。まあ、譲歩なら安倍首相がすでに十分すぎるくらいしちゃってますけど・・。
 そして、これ以上ないほど二国間関係が冷え切った韓国。
 韓国もロシアとともにブラジル総会で日本提案を棄権。詳細は上掲拙解説記事をご参照。
 捕鯨問題は徴用工訴訟問題に直結します。当然クジラカード≠ヘ自国に有利な形でキープするでしょう。日本がこの件で「ICJ提訴をしない」と確約すれば、あるいは考慮するかもしれませんが。

■捕鯨で負けたのに徴用工でまたICJ提訴? クジラは平等に殺せ、でもヒトの人権ダブスタはOK?
http://kkneko.sblo.jp/article/185024459.html

 また、同国NGOは今回の日本の商業捕鯨再開に対して「韓半島(朝鮮半島)沖のミンククジラが絶滅危機を迎える」と痛烈に批判。J系群のことを指していますが、懸念は実にもっともな話。

■「日本が商業捕鯨すれば韓半島沖のミンククジラ絶滅危機」|中央日報日本語版
https://japanese.joins.com/article/588/248588.html

 北朝鮮は日本の調査捕鯨を「犯罪行為」として強く非難。ネタとして利用しているといってもいいでしょう。
 ま、誘うのは日本政府の自由ですが、はたしてどう応じることやら。また、国際社会からどんな目で見られることやら・・。
 ついでにいえば、日本のIWC脱退は戦前の自国の国際連盟脱退のみならず、同国のNPT脱退とも同列に受け止められるでしょうしね。

■広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より美味い刺身≠ェ上──壊れた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/179410385.html

 要するに、太平洋で商業捕鯨を実施するための、IWCに代わる国際機関の設立など、夢のまた夢の話なのです。作ったところで加盟国は日本一国だけ。ぼっち機関=Bそれでは国際法の要件は満たせません。
 外務官僚はきっと理解しているでしょうが。

Z.紛争激化か!? 海賊捕鯨国VS正義のシーシェパード

 上掲のとおり、日本が再開するのが母船式捕鯨であれば、たとえEEZ内のみであっても事情が大きく異なります。
 AISは「妨害」を理由に切り続けるでしょうし、IWC脱退で中立の立場の国際監視員を受け入れる義務もなし。
 そもそも遠洋マグロ漁業についても、IUUを完全に排除する監視制度が不十分なことがNGOからは指摘されているところですが。
 日本の捕鯨産業の過去の行状を振り返れば、ぐるみ違反を含む規制違反は数知れず。
 脱退でIWCの規制を外れ、誰も見張る者がいなければ、それこそ一体何をしでかすかわかったものではありません。
 そこで出番となるのがご存知シーシェパード。
 あるいは、南極海ではなく日本近海、EEZの境界付近でプロレスが始まる可能性もなきにしもあらず。
 もちろん、その場合は海上保安庁、あるいは海上自衛隊が対応することになるでしょう。商業捕鯨船の護衛という新たな任務が課せられ、国庫負担が増えることでしょう。
 捕鯨サークル的には、ネトウヨ応援団がかつてなく盛り上がり、鯨肉需要もほんのちょっぴり喚起できるかもしれませんが。
 しかし、人命に関わるようなトラブルが発生する懸念も捨てきれず。日本に対してはさらに厳しい目が向けられるでしょう。
 クジラにとってはもちろん、日本の国益にとっていいことはひとつもありません。

   ◇   ◇   ◇

 最後に──
 拙ファンタジー小説『クジラたちの海』では、南極海は主鯨公のクロミンククジラ族・クレアたちクジラの楽園として描かれています。
 そして、続編『クジラたちの海─the next age─』では、辺野古のアマモの森はたった3頭の生き残りとなった〈ザンの郡〉のジュゴン族・イオのかけがえのな故郷として。
 クジラたちの楽園には、これでやっと平和が訪れたことになるのかもしれません(まだ安心できない要素も残っていますが・・)。
 しかし、イオたちの故郷に土砂が投入され、おぞましい赤土の色に浸食されていく様は、あまりに胸の痛むものでした。

 ビジョンもなく、採算が採れるはずなどないのに、意地で決定された国際機関脱退と母船式商業捕鯨の再開。
 当分護岸工事に着手できないにもかかわらず、県民投票前に見せしめで土砂が投じられた辺野古の海。

 自制のきかない日本という国の暗澹たる未来を暗示するようで、筆者は新年を喜ぶ気になれません。

 願わくば、南極海の野生動物たちに永遠の平和を。そして、辺野古の美しい海にも再び平和が取り戻せる日がきますように──。

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『クジラたちの海』
『クジラたちの海─the next age─』


 ついでにポーズとる王子。拾ったときはあんなにチビチビだったのに、すっかり青年の顔になりました・・

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posted by カメクジラネコ at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年12月08日

捕鯨とアイヌのサケ漁──食文化にこだわる日本人よ、なぜこのダブスタを許すのか

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1039819492992249856
先住民生存捕鯨の枠自体なくせと? 先日は紋別で警察にアイヌのサケ猟が阻止される事件があったが、アイヌのサケ猟は行政が「文化を評価」した上でごく一部の枠を与える形で「許可」を出す。それは「人種差別に繋」がらないの? 反捕鯨国の米・豪等では先住民が主体的に天然資源を管理している。

 今回もまずはツイートをご紹介。元ツイは公明党の捕鯨族議員・横山信一氏で、発信は9月11日、開会中のブラジル・フロリアノポリスの国際捕鯨委員会(IWC)総会の会議場から。前回紹介した徴用工訴訟関連より1桁少なくバズッてはいませんが、横山議員の元ツイの倍近くはRTをいただいております。
 で、拙ツイート内に出てくる「先日の事件」というのがこちら。北海道とネット以外ではあまり話題になっていませんが。

■アイヌ先住民権訴え"無許可"サケ漁 (10/24, NHK札幌)
https://www.nhk.or.jp/sapporo/articles/slug-n4a465c1a4f8a
アイヌの人たちの権利をめぐっては、スイスのジュネーブにある人種差別撤廃条約委員会で先月30日、日本政府に対し天然資源や土地に関する権利が十分に保障されていないとして改善を求める勧告が出されています。(引用)
■サケ漁の自由求める 紋別アイヌ協会、道に意見書 (10/10, 北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/236419
■儀式用サケ捕獲「アイヌの権利」知事らに意見書 (10/10, 読売)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20181009-OYT1T50118.html (リンク切れ)
アイヌ政策検討市民会議(世話人代表・丸山博室蘭工業大名誉教授)は「アイヌの正当な権利を制限する同規則は憲法違反であり、日本が締結している国際人権規約にも反する」と指摘。畠山会長は「昔、奪われた権利を返してほしいだけだ」と訴えている。(引用)

 アイヌのサケ漁をめぐるトラブルは今回が初めてではなく、前段がありました。今年は北海道警に漁を阻止された紋別アイヌ協会会長の畠山敏氏ですが、実は昨年も伝統儀式のためのサケ漁を強行しようとし、警察にいったん阻止されたものの、その後捕獲を実施できたのです。
 密漁?? 国際法違反を二度もやらかした調査捕鯨、あるいは、ナマコをはじめ北海道中で横行しているヤクザのそれと同じく? いえ。以下のブログ記事(管理人は浦河町のアイヌの方のために特別採捕の手続を手伝われてきた方)に昨年の経緯が詳しく書かれています。

■もう一つの日本文化 (アイヌ・先住民族の漁業権回復)|もうひとつの日本文化(アイヌ文化)徒然ブログ
https://fine.ap.teacup.com/makiri/218.html
■もう一つの日本文化 (政府は、畠山さんの国連先住民族権利宣言に基づくサケ捕獲権を収奪できるのか?)|〃
https://fine.ap.teacup.com/makiri/215.html
■もう一つの日本文化(地元河川での鮭捕獲アイヌへの奇妙な事実〜政府はアイヌの鮭捕獲を容認か・その1)|〃
https://fine.ap.teacup.com/makiri/190.html
■もう一つの日本文化(地元河川での鮭捕獲アイヌへの奇妙な事実〜政府はアイヌの鮭捕獲を容認か・その2)|〃 
https://fine.ap.teacup.com/makiri/191.html

 なんと驚くべきことに、畠山氏ご本人も知らないうちに、同氏名義の特別採捕許可証が作成・提出されていたというのです。高橋はるみ道知事の捺印付の当該文書の画像も記事中に掲載。
 事実なら指摘されているとおり、北海道オホーツク総合振興局・北海道警・地元紋別漁協の共謀による不法行為といえます。今流行り(?)の私文書(畠山氏の申請書)および公文書(同知事の許可証)の偽造。法律違反を犯したのはアイヌの畠山氏ではなく行政当局。マスコミが報道を拒んだのも、今時分の日本であれば返って信憑性を裏付けた格好ですね。
 以下は北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授の丹菊逸治氏のツイート。まさに氏が指摘したとおりのトラブル。

https://twitter.com/itangiku/status/1068739301653934081
アイヌ民族の伝統的な価値観では、正義と公平を重んじます。調和よりもです。アイヌ伝統社会でも人々は「周囲に合わせる」けれど、それは同調圧力ではなく、自分だけ損しないためです。行動が似ているからといって、同じ価値観だと思うとトラブルになります。(引用)

 倭人の社会の明文化されない暗黙のルール≠フもと、事なかれ主義でなあなあですませようと勝手に申請書まで用意するやり方が、正義と公平を重んじるアイヌの価値観に反するものとして受け入れられなかったと。結局、翌年は警察による実力阻止という形になり、一部マスコミにも書かれる事態に至ったと。
 上掲ブログ記事4番目には先住民捕鯨と日本の沿岸捕鯨問題に関する言及も。

仮に日本政府が【沿岸捕鯨は日本文化の一部】として認め、【畠山さんのようなアイヌが、地元河川で何百年、何千年と鮭を捕ってきた権利】を認めないのであれば、現在においても【アイヌは法的には等しく国民でありながらも差別されている】ことになるだろう。(引用)

 実は、ニュースで登場した畠山氏はサケ漁だけでなく、アイヌの伝統捕鯨復活も提唱されていた方。以下は2010年の別のアイヌ支援NGOの記事。

■「アイヌ民族と漁業権」|アイヌ民族情報センター活動日誌
https://blog.goo.ne.jp/ororon63/e/80a9bbdd2126b2c72bbf6f9886e573c1
■「アイヌ民族と漁業権」続き|〃
https://blog.goo.ne.jp/ororon63/e/2052259f7b2fb6f82e95834aff968074

 以下が渦中の畠山氏が安倍首相・高橋道知事・北海道警に宛てて出した声明文。9月には、上掲読売記事にコメントを寄せたアイヌ政策検討市民会議が同氏を招き、札幌で緊急集会を開いています。

https://ainupolicy.jimdo.com/
■カムイチェㇷ゚に対する私たちの権利を、日本国は侵害しないでください|アイヌ政策検討市民会議
https://ainupolicy.jimdo.com/app/download/16423758996/MonbetsuAinuAssociation_statement20181008.pdf
さる2018年8月31日と翌9月1日、私たち紋別アイヌ協会が古式伝統にのっとり、毎年恒例のイチャㇽパ(先祖供養の儀式)・カムイチェㇷ゚ノミ(サケを迎える儀式)のため、カムイチェㇷ゚(サケ)をさずかるべくチㇷ゚(丸木舟)を藻別川に降ろそうとしたところ、北海道警察の車両数台に場所を占拠され、また川岸に立ち並んだ約10人の警察官に行く手を阻まれて、私たちは川に降り立つことすら、かないませんでした。
それに先だつ8月には、北海道本庁・北海道オホーツク総合振興局、また北海道警察紋別警察署から、計7度にもわたって職員・署員らが当協会にやってきて、「北海道知事あてに特別採捕許可を申請せよ」と、しつこく迫られました。また8月下旬には、警察車両がこれみよがしに近所に停車し続け、外出のたびに追尾を受けました。
これは日本国行政機関(北海道警察、北海道庁)による先住民族に対するパワーハラスメントそのものです。私たちが有する当然の権利を、このように全否定されて、これほどの屈辱はありません。(引用)
■緊急集会 アイヌ民族とサケ漁 〜紋別におけるサケ漁阻止問題をめぐって〜|アイヌ政策検討市民会議
https://ainupolicy.jimdo.com/app/download/16308955896/20180916.pdf

 シーシェパード等の反捕鯨活動家よろしく、北海道警がアイヌの伝統漁業を実力行使で妨害したことに対しては、アイヌの漁業者S.Shiikuさんらも以下のようにコメントしています。

https://twitter.com/shinshukeshiiku/status/1037286204788682752
伝統文化を名目にしての商業的な漁は出来ない」って言うなら多分、日本全国の「漁(猟)法」の全てが「出来なくなる」
特に「沿岸捕鯨」(引用)
https://twitter.com/shinshukeshiiku/status/1037287684354404352
例に挙げた沿岸捕鯨なんて「伝統だ、文化だ」って言ってるけど「商業的な漁」だよね、どう見てもさ。
「伝統文化を名目にしての商業的な漁は出来ない」って奴に反して無い?(引用)
https://twitter.com/shinshukeshiiku/status/1037290107617701888
本当に伝統文化だって言うなら木製和船をちょんまげふんどし姿で櫂漕ぎして、銛を打ち込んで捕鯨すべきだよ、あんなキャッチャーボート何かで捕らないでさ。(引用)
https://twitter.com/watashidesu543/status/1037264850739638273
アイヌの網漁がおかしいと言う前に「日本の伝統だ!」とか言い張ってる「捕鯨」は何とかならないの?
日本の伝統ならば最低限、木造船に乗ってふんどしとちょんまげは必要でしょ。(引用)

 アイヌの方々と支援者はこのように指摘しているわけです。
「日本政府は国際会議の場で伝統文化を声高に主張し、調査の名目で南極海での捕鯨を強行し、沿岸捕鯨も実質的に継続しているではないか。なのに、なぜアイヌによるサケ漁を認めないのか? それはダブスタではないのか? 人種差別ではないのか?」と。
 一方、横山氏ら捕鯨族議員や外野の反反捕鯨シンパの人たちは、こう言い張っているわけです。
「IWC/国際社会は先住民の捕鯨を認めているではないか。なのに、なぜ日本の商業捕鯨は認めないのか? それはダブスタではないのか? 人種差別ではないのか?」と。
 以下は捕鯨サークルを代表する人物、長年IWC日本政府代表のポストに就き今年のブラジル総会までの2年間IWC議長も務めた、現東京海洋大学教授・森下丈二氏の主張。

■鯨論・闘論 「どうして日本はここまで捕鯨問題にこだわるのか?」[ご意見:38]|くじら横丁(サイト運営鯨研)
https://www.e-kujira.or.jp/whaletheory/morishita/1/#c38
アンカレッジのホテルのロビーの土産物店では,アラスカ先住民がホッキョククジラのヒゲから作った小さなかごが,ひとつ何十万円という値段で売られていました。これには商業性はないというのは,理屈にならない理屈です。(引用)

 上掲のS.Shiikuさんのコメントと見事にシンクロしていますね。
 「日本の沿岸捕鯨を認めるなら、(現在認められていない)アイヌのサケ漁も認めろ」(「禁止するなら両方禁止しろ」との皮肉)
 「先住民生存捕鯨を認めるなら、(現在認められていない)日本の商業捕鯨も認めろ」( 〃 )
 この2つの文章で一見矛盾するかに見える沿岸捕鯨の実態について、少し細かく説明しておきましょう。
 IWCの管理下にあるミンククジラなどの大型鯨類は現在国際条約上商業捕獲を禁止されています。日本の沿岸捕鯨会社は現在IWCの管理下に置かれていないツチクジラやコビレゴンドウを捕獲しています(小型沿岸捕鯨)。また、禁止対象であるハズのミンククジラも、科学調査の名目で国が許可を出し、副産物≠スる鯨肉を売る形で業態としての捕鯨を存立させています。それがいわゆる沿岸調査捕鯨(北西太平洋鯨類科学調査・オホーツク海側沿岸/太平洋側沿岸)で、実施主体は沿岸捕鯨会社4社から成る日本小型捕鯨協会。ただし、小型沿岸捕鯨の対象種も国連海洋法条約に基づきIWCの管理下に置くべきだとの議論がありますし、国際司法裁判所(ICJ)およびワシントン条約常設委員会により国際法違反の判定が2回も下った公海(南極海および北西太平洋)母船式調査捕鯨同様、沿岸調査捕鯨に対しても国際法に違反する嫌疑がかかっています。つまり、法的に黒ないしグレーな代物を、伝統文化を全面に押し出すことで無理やり正当化させているのが実情なのです。
 S.Shiikuさんの指摘するとおり、現行の沿岸商業捕鯨は文字どおり文化の名を冠するビジネスにほかなりません。
 一方、アイヌのサケ漁は法律上どのように扱われているのでしょうか? それが記されているのが漁業の調整について定めた以下の北海道の規則。

■北海道内水面漁業調整規則 第52条(試験研究等の適用除外)
http://www5.e-reikinet.jp/cgi-bin/hokkaido/D1W_resdata.exe?PROCID=-2013679344&CALLTYPE=1&RESNO=1&UKEY=1543806641288
この規則のうち水産動植物の種類若しくは大きさ、水産動植物の採捕の期間若しくは区域又は使用する漁具若しくは漁法についての制限又は禁止に関する規定は、知事の許可を受けた者が行う試験研究、教育実習、増養殖用の種苗(種卵を含む。)の自給若しくは供給又は伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発(以下この条において「試験研究等」という。)のための水産動植物の採捕については、適用しない。(引用)

 内水面漁業調整規則自体はどの都道府県にもある規則ですが、「伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発」とあるのは北海道のみ。その点に限れば、アイヌの伝統漁業への配慮を謳った北海道ならではのルールといえなくもないかもしれません。この一文が加えられた経緯を、2005年の記者会見で道知事(現在と同じ高橋氏)が述べています。

■知事定例記者会見 平成17年7月8日(金)|北海道庁
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/tkk/hodo/pressconference/h17/h170708gpc.htm
アイヌ民族による秋サケの採捕について
  三つ目は、アイヌ民族による秋サケの捕獲についてでございます。昨年「まちかど対話」で日高管内に入りましたときに、萱野さんにお会いをした際に、ご要望があった件でございます。サケというのは、アイヌの人間にとっては特別な意味があると、アイヌ民族の儀式用に使用する秋サケの捕獲について、ちゃんと位置づけてくれというお話がありました。それを受けていろいろと関係部局で議論をさせたわけですが、北海道内水面漁業調整規則というものがありまして、内水面漁場管理委員会への諮問等の事務処理手続がまだ残っておりますが、国との協議も終了いたしましたので、秋サケが本格的に来遊する前の8月下旬にも規則を具体的に改正する予定です。改正内容は、制限・禁止規定の適用除外事項に「伝統的な儀式若しくは漁法の伝承」ということを新たに明記するということを考えております。「伝統的な儀式」ということを事項の中に入れますのは、全国初でございます。もう一つ、事務の繁雑さという話もありましたので、申請許可を北海道ウタリ協会に一本化するということで、申請事務の簡素化も行おうということを考えております。以上の中身につきまして、ウタリ協会さんとは当然事務的にもいろんな打ち合わせをさせていただきながらやってまいりましたが、萱野さんご本人にも私ども支庁からご説明をし、了解いただいていると報告を受けております。(引用)

 発言中にある「北海道ウタリ協会」はいまネトウヨ方面に利権云々とたたかれている現北海道アイヌ協会のこと(改称は2009年)。「萱野さん」とはアイヌ初の国会議員を務められた故萱野茂氏(後で詳述)。
 実際にこの文言を含める規則の改正が行われたのは、萱野氏が亡くなった後の2010年のことで、高橋知事が約束してから5年もかかっています。
 そして、「アイヌ協会に申請許可を一本化する」という話は実現しませんでした。
 漁獲対象種・数量・区域・期間・使用漁具等詳細を明記した申請書および「許否の決定に関し必要と認める書類の提出」(同規則第5条2)を知事に提出しなければならず(第52条2)、「終了後、遅滞なく、その経過を知事に報告し」なければならず(52条6)、「必要な制限又は条件を付け」られ(52条5)、変更しようと思ったら新たに申請書を提出し再度許可を得なければならず(52条7)、漁の間も許可証を携帯しなければなりません(第30条)。すべて知事の権限に委ねられているのです
 もし、アイヌの漁業者の総意に基づき、アイヌ協会が主体的に許認可の判断を行う形になっていたら、日本は「先住民の権利に関する国連宣言」(国連先住民族権利宣言)の趣旨に即してアイヌの伝統サケ漁を認めていると世界に胸を張ることができたでしょう。日本の反反捕鯨界隈からしばしば非難される反捕鯨国オーストラリアのトレス海峡諸島民によるジュゴン・ウミガメ猟や、カナダおよび米国の先住民によるサケ漁のように。北米西海岸では先住民のトライブが彼ら独自のやり方でサケ漁業の管理を主権的に行っていましたが、権利を勝ち取る裁判を経て、現在は資源評価を担うスタッフや取締官、紛争を処理する裁判所などの体制も整え、連邦政府と共同で天然資源の管理を行っているのです。主体性を完全に奪われているアイヌのサケ漁とは対照的に

■先住民にサケを獲る権利はあるか? コロラド大学ロースクール教授 チャールズ・ウィルキンソン講演会
基本的かつ普遍的に認められる先住民の主権について〜アメリカにおける先住民の主権とサケ捕獲権〜|北大開示文書研究会
http://hmjk.world.coocan.jp/wilkinson/wilkinson.html
アイヌは代々の住み場所から追いやられ、サケなどに対する漁業権も失いました。さっき市川弁護士が説明されたように、現在でも北海道知事の許可なしには、川を遡上してきたサケの1尾を捕獲することすら許されません。しかも、アイヌにサケ捕獲が許可されるのは、文化的・教育的な目的に必要と知事が認めた場合に限られます。そうやって同化政策がどんどん加速するにともない、アイヌ差別が広がりました。現在、アイヌ(コタン)は実質的に土地を保有しておらず、漁業権も行使できない状況です。ただ個人としての地権者、漁業権者がいるだけです。(引用)

 そればかりではありません。改正された北海道内水面漁業調整規則には驚くべき附則が付けられていました。

■北海道内水面漁業調整規則 附則4 一部改正〔平成8年規則75号・22年1号〕(リンク上掲)
毎年8月1日から翌年3月31日までの間におけるさけの採捕及び7月1日から11月30日までの間におけるからふとますの採捕に係る第52条の適用については、当分の間、同条第1項中「試験研究、教育実習、増養殖用の種苗(種卵を含む。)の自給若しくは供給又は伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発」とあるのは、「試験研究、教育実習、増養殖用の種苗(種卵を含む。)の自給若しくは供給、伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発又は知事がさけ及びます資源の保護培養に資すると認める事業」とする。(引用)

 赤字下線に部分にご注目。なぜわざわざこのような断り書きを付け足したのでしょうか?
 はっきりしているのは、この一文によって「漁協が優先しますよ」ということを強調していることです。
 要するに、倭人の漁協が「獲らせてやってもいい」と首を縦に振った場合だけ許可してあげますよ──ということ。
 以下のS.Shiikuさんと丹菊氏の連ツイは必読。

https://twilog.org/kamekujiraneko/date-180905
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280210175971328
多くの和人共がこの記事に「申請すれば良い」と、言ってますが。実際の所、アイヌがアイヌ単体で北海道に「特別採捕許可申請」しても「申請受理して貰えません」、和人はその事がどういう事なのかをしっかり考えた方が良い。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280512337821696
北海道における鮭の特別採捕の許可を出すのは最終的には道知事ですが、実際には伝統儀礼の内容などを説明するだけではなく、地元の漁協の許可を取る必要があります。また、どの川でも可能というわけではなく、ケースバイケースです。「アイヌは許可を申請すればいいだろ」で簡単にすむわけではない。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280666293960706
なんぼ言ってもわかんねえんだな、アイヌが河川に遡上したサケマスを獲る為には「和人の許可」が居る、そしてその許可を貰うためには「和人の懐に金なり何なりの「得する事」」が無いと「和人はアイヌの話も聞かない」って意味が。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280797886111744
そもそも、かつて「鮭の水揚げ日本一」をうたい、現在「破壊され、忘れられたアイヌ文化の復興」を掲げてる俺の住んでる町で「河川におけるサケマスの特別採捕許可」が「申請も出来ず」に居ることで分かるだろう。そしてその「申請も出来ない理由」がどういう事なのかも結局「和人の都合」だと言う事も(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037280906266857473
「申請受理してくれない」どころか「その為に関係支庁に行った事」すら「無かった事」にする、挙げ句は「川に揚がったサケが欲しいならふ化場のサケを売ってやる。」とか「自分でわざわざ捕らなくても良いでしょ。」とか言って和人の北海道職員がニヤニヤとしてる顔を見せられるのがせいぜい。(引用)
https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037282212926783488
うちの町を含む当管内の河川に遡上したサケマスは「管内増殖事業団」が捕獲し、採卵し人工受精させたサケマスの受精卵を「他の地域の河川に売ってる」から「河川遡上親魚が「1匹でも」減る可能性が有る事」には「決して許可を出したりはしない」またその儲けは「当地方の各漁業協同組合」にも流れてる(引用)

 上掲した「もうひとつの日本文化(アイヌ文化)徒然ブログ」の記事からも引用。

この特別採補許可、当初の申請時はなかなか許可が出なかった・・・というよりも許可申請書を受理してもらえなかった、地元漁協の協力を得て受理してもらったと聞いている。
また、担当の道職員からは「サケが欲しかったら、道立水産孵化場で何匹でもあげますよ。」などというアイヌへの侮蔑的発言があったとも聞いている。(引用〜@)

 ところで、捕鯨問題ウォッチャーには「試験研究等の適用除外」という項目にピンときた方も多いのではないでしょうか。そもそも水産学者や生態学者が調査を行いたい場合に申請する、他の都道府県では専らそのために定められた事項なわけです。
 そう、まさに国際捕鯨取締条約(ICRW)第8条に基づく調査捕鯨の特別許可証発行と同じスタイル。ICJが判決文の中で「発給された捕獲許可が科学研究目的であるかは、当該発給国の認識のみに委ねることはできない」と言及し、IWCで「致死調査の必要性を立証できていない」と報告されているにもかかわらず、日本政府は強行しているわけです。
 アイヌのサケ漁の場合は、いくら当事者のアイヌ漁業者が申請しても、漁協〜道職員の恣意的な判断によって受理さえしてもらえないのが実態なのに。「申請されたサケ漁が伝統目的であるかは、当該先住民漁業者の認識のみに委ねることはできない」と言わんばかりに。
 関係者の方々の証言する、「サケが欲しければ孵化場のサケをいくらでもあげますよ。自分で獲らなくたっていいでしょ。買ったサケを生簀に入れて銛で突けば?」という道職員の発言には、あからさまな侮蔑の感情が見て取れます。異なる民族の文化を上から目線で一方的に評価したうえで「買ったって同じだろ」と伝統性を言下に否定することが、彼らには出来てしまえるのです。そこには相手を理解しようと努め、尊重する姿勢など微塵もうかがえません。
 上掲ブログ記事(リンク@)には畠山氏が申請したことになっている%チ別採捕許可証に記された数量は「60尾以内」
 たったの60尾。法的には同列の特別許可採捕であるハズの調査捕鯨よりずっと少ないですね。現在の沿岸調査捕鯨の捕獲枠は126頭。過去の南極海調査捕鯨の最大捕獲枠は違法認定されたJARPAIIの850頭。もちろん、漁獲量(トン数)では比較にもなりません。雀の涙。祭事用・自給用以外で商業漁業として成立する数字でないのは明らかです
 北海道全体でも2015年度に実際特別採捕の許可を得たのは11団体だけ。それらの捕獲数を合計しても、現行の調査捕鯨による捕獲総数にも届かないでしょう。
 対する紋別漁協(組合員160名)のサケ・マス出荷量(生鮮冷凍のみ)は2016年で約2,900トン、金額では15億円以上

■もんべつの水産2017|紋別市
http://mombetsu.jp/syoukai/files/2017mombetsunosuisan.pdf

 第一、北海道の規則上は「伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存」の名目でしか認められていないのです。だからこそこの数字なのでしょう。
 ICRW草案の時点では調査捕鯨の捕獲数は数頭程度と想定されていましたし、ICJでも日本側証人として出廷したノルウェーの鯨類学者ワロー氏が妥当な調査捕鯨の数字として「less than 10」と述べました。にもかかわらず、日本は科学調査の名目で毎年数百頭ものクジラを殺し続け、年間数千トンもの鯨肉を市場に提供してきたのです。
 この差は一体何を意味しているのでしょうか? 差別的なダブスタ以外の何だというのでしょうか?
 ここで思い出していただきたいのが、2007年にロサンゼルスタイムズ紙記者のインタビューに対してしれっと言ってのけた森下氏の以下の発言。

■驚き呆れる捕鯨官僚の超問題発言
http://kkneko.sblo.jp/article/30322511.html
■Japan's whaling logic doesn't cut two ways (2007/11/24, LAタイムズ)
http://articles.latimes.com/2007/nov/24/world/fg-whaling24
"You cannot be perfect on every issue and unfortunately that's happening in the case of the Ainu." (引用)
■米国紙がみた調査捕鯨とアイヌ|無党派日本人の本音
http://blog.goo.ne.jp/mutouha80s/e/a863ac35990df463fce164c7633863d5
「我々はいつも首尾一貫しているとは言えない。誰でも全ての点で完全であることは出来ない。たまたまアイヌの問題でそれが起こったのだ。(引用)

 国際会議で日本政府の立場を代弁する上級官僚の口から、ここまで無神経な発言が飛び出すこと自体、とても信じがたいことです。
 国際法上禁止されているハズなのに、違法なハズなのに、伝統文化の名の下で、事実上継続してしまっている日本の沿岸捕鯨。
 国内法上特例として許可されるハズなのに、合法なハズなのに、行政による恣意的な判断の下で、事実上伝統文化としての継続が不可能になってしまっているアイヌのサケ漁。
 法を捻じ曲げて解釈するやり方がいかにも日本的(倭人的)だという点で、どちらも共通しているとはいえるかもしれませんが。
 ここでもう一度、最初に掲げた横山議員の元ツイを振り返ってみることにしましょう。

「食文化を評価するのは人種差別に繋がりかねない議論だ。日本の主張は、先住民捕鯨であれ、商業捕鯨であれ、科学的な根拠に基づき判断すべきと。最も明快。」(引用)

 横山氏のこの主張は、以下の水産庁の公的立場を踏襲したものでもあります。

A■捕鯨を取り巻く状況|水産庁
 http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/w_thinking/
先住民生存捕鯨について
商業捕鯨モラトリアム下であっても、IWCは先住民生存捕鯨を認めており、我が国もこの捕鯨に賛成しています。ただし、
・先住民の定義が確立されておらず、人種差別的な適用が懸念されること
・そもそも鯨の資源管理は科学的根拠に基づき行うべきであること
が原則であり、操業者が先住民であるか否かは、資源管理上は大きな問題ではないことから、会議の場においてこれらの点について指摘を行っているところです。(引用)

 「懸念されること」「行うべきであること」が並列で「が原則であり」にかかっている、日本語としてとんでもなくおかしな表現で、この頁を執筆した担当官僚の国語能力を強く疑ってしまいますが、それはそれとして、ここで問題の先住民生存捕鯨について解説しておきましょう。
 企業による商業捕鯨が禁止されても、IWCでなお別枠として認められているのが先住民生存捕鯨。そこには条件がつきます。「社会・文化的、栄養上の必要性があること」、そして「地域的消費に限られること」。加盟国が申請し、技術委員会による審査をパスし、科学委員会の勧告に基づき総会で承認された捕獲枠設定に従わなりません。国境を越えた管理が求められるグローバルコモンズとして、国際機関の管理下にきっちり置かれるわけです。
 北海道内水面漁業調整規則第52条が条文どおりに♂^用されていたならば、先住民捕鯨との差はないといえるでしょう。ただし、許可されるか否かの判断基準は、先住民捕鯨の定義に収まるかどうかと、科学的資源評価のみ。先住民以外の第三者の利害を優先する附則4に相当する条文はどこにもありません。
 確かに、伝来の土地と天然資源に対する先住民の主権を謳った国連先住民族権利宣言の観点からすれば、先住民側にはやや不満が残るかもしれません。商業捕鯨が全面禁止されている中、先住民のみに特例として認められている点で、破格の厚遇といえるのもまた事実ですが。
 先住民生存捕鯨の定義をめぐっては、厳格な適用を要求する保全NGO側、捕獲枠を維持・拡大したい当事国・先住民側との間でせめぎ合いもみられます。近年物議を醸しているのは、地域的消費・商業性に関して厳しい目が向けられているグリーンランド捕鯨と、そもそも19世紀後半に移民が持ち込んだいわゆるヤンキー捕鯨をルーツとするセントビンセント・グレナディーン(SVG)の捕鯨。このうちSVGと日本の関係については以下の拙HP解説をご参照。実は、SVGの捕鯨が開始されたのは、アイヌの捕鯨が明治政府によって強権的に廃絶に追い込まれた時期と重なります。

■(6)セントビンセント・グレナディーンのケース
https://www.kkneko.com/oda6.htm

 もっとも、ラディカルな反捕鯨の立場の南米諸国を含め、加盟国政府の中に条約上の先住民生存捕鯨そのものを否定する国はありません。自らの都合でけなしながら支持する日本の立ち位置がむしろ特異といっていいでしょう。
 水産庁がIWCの先住民生存捕鯨に対して「人種差別的な適用が懸念される」と(反対しないと言いつつ)珍妙な異を唱えているのは、「先住民だけに認めて日本人(倭人)に認めないのは差別≠カゃないか!」との趣意であるのは明らかです。横山氏の発言もまた然り。
 自分たちがあたかも差別の被害者≠ナあるかのような目線でのこうした難癖って、どこかで見覚えがありませんか?
 そう、女性や、LGBT・障害者・当の先住民族等のマイノリティを優遇する政策への逆差別との批判。女性に一定割合の議席や管理職ポストを配分する行政府や企業の方針、あるいは障碍者雇用率──まさに所轄官庁の厚労省まで数字をごまかしていたことが発覚したところの──をめぐる議論と重なっているのです。これまで権利を存分に享受してきたはずのマジョリティの側にいながら、「マイノリティが過度≠ノ優遇されることで自分たちが不利益を被るのではないか」との被害妄想にも等しい極端な発想に基づいているわけです。
 しかし、格差を生み出すもととなったのは迫害の歴史そのものです。先進国の先住民優遇政策はそもそも、本来享受できたはずなのに後から移入してきた異民族に阻害されてきた、土地や資源などにアクセスする権利などの主権の回復を補償する意味合いを持っているのです。
 上掲の水産庁公式見解は、日本以外のIWC加盟国(捕鯨の賛否問わず)の先住民政策や国連先住民族権利宣言に対する無知、というより無視に基づいているとみなさざるをえません。人種差別そのものに対する無知無理解とともに。
 一応日本政府は2008年に遅きに失しながらもアイヌを先住民として認めています。それも国会の場で。先住民の定義がうんたらと平気で口にしてしまう水産官僚は、トンデモな中国陰謀論に取り憑かれた極右思想の元札幌市議と同水準の認識しか持てないのでしょうか?
 グリーンランド政府が先住民捕鯨擁護の文脈で国連先住民族権利宣言を持ち出すのは一理あるでしょう。しかし、日本政府は決して素知らぬふうに聞き流せる立場にはないはずなのです。捕鯨擁護に熱心な御用文化人類学者たちも。
 アイヌの捕鯨が明治時代に禁止された経緯は、まさに先住民のたどった抑圧・搾取の歴史の最もわかりやすい事例なのですから。

■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 話をアイヌのサケ漁に戻しましょう。
 紋別漁協が千トン単位のサケの漁獲をあげているのに、畠山氏に60尾ほどのサケ漁さえ認めないのは、「科学的根拠に基づく判断」だと横山氏はいうのでしょうか?
 そうでなければ筋が通りませんね。「最も明快」だとおっしゃる以上は。
 もし違うとすれば、アイヌが伝統のサケ漁を自主的に実施する行為を「許可を得ない単なる密漁=vとしか彼はみなしていないことになります。紋別のアイヌ漁師VS北海道警騒動に対し吹き上がったネトウヨたちとまったく同じように。
 横山氏をはじめとする捕鯨族議員、そして水産庁の公的立場からは、アイヌのサケ漁は「漁業ではない」のでしょう。あくまで単なる密漁=B
 確かに、畠山氏が強行しようとして警察に阻止されたサケ漁は、どれほど伝統的手法に則ろうと、真に伝統の保存を目的としていようと、法律上は非合法ということになるのでしょう。
 しかし、丹菊氏はこう指摘しています。

https://twitter.com/kamekujiraneko/status/1037277871197188097
先住民族のさまざまな伝統文化が現在まで(あるいはつい最近まで)違法行為として維持されてきたことが判っている。伝統漁業や伝統狩猟を制限された場合、先住民族の多くは密漁(密猟)の形で文化を伝えてきた。アイヌの場合も漁業権が得られなければ密漁しかなかった。(引用)

 捕鯨の場合も、国際法でモラトリアムが定められてからは伝統文化≠調査捕鯨という名の脱法行為(JARPAIIとJARPNII/NEWREP-NPはすでに違法が確定)として維持してきたとはいえますが。
 それはしかし、先住民による伝統を死守するための苦渋の選択とは似て非なるものです。合法的な商業捕鯨時代から行われていたあの手この手の規制逃れの手口の延長
 C・W・ニコル氏は太地の捕鯨会社による密猟をじかに目撃。沿岸ではモラトリアム以前から厳格に捕獲が禁じられてきたセミクジラの切断された頭部が打ち上がったり、座礁個体から銛先が出てきたことも。また、モラトリアム後には鯨肉の代替需要を見込んだイルカの漁獲量が一気に膨れ上がりました。
 捕鯨ニッポンの密輸・密猟・規制違反の目的は伝統文化の維持などではなく、持続性なんて後回しのビジネスの維持だったのですから。
 いずれにせよ、彼らは伝統文化の中身について議論はしないのです。「人種差別に繋がりかねない」(引用〜横山氏)から。
 その発言が真に意味するところは何でしょうか?
 北海道内水面漁業調整規則第52条において「伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存」と明記されたにもかかわらず、北海道担当当局が受付の段階で排除する形で正しく運用されてこなかったのは、ひょっとして横山氏らの意を汲んでのことではないのでしょうか?
 アイヌにだけ特別な形でサケ漁獲の枠を設けるのは、倭人の漁協との「差別に繋がりかねない」。高橋道知事が故萱野氏に約束した道の漁業規則改訂は、横山氏らの視点からすれば「人種差別に繋がりかねず」好ましくないことだったに違いありません。
 しかし、現行の北海道のアイヌ農林漁業対策事業自体、逆差別≠フ観点からすれば問題視されうる要素を含んでいるのです。ネトウヨ方面に「利権ガー」と騒がれるような。

■アイヌ農林漁業対策事業|北海道
アイヌ農林漁業対策事業の概要
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/kei/sen/grp/H28ainugaiyou.pdf

 事例の中にサケの記述があるのですが、それはアイヌ民族の伝統としてのサケ漁の話ではありません。アイヌの戸数や受益割合が一定以上の場合、補助金が出る仕組み。紹介されているのは、アイヌ漁家を含む漁協がサケ加工処理施設を導入する際に助成金が下りるというケース。
 申請する事業の内容にアイヌ特有の事情は何もありません。倭人の漁協との違いは、ただ構成員にアイヌがいるかどうかだけ。アイヌの伝統文化の存続や主権とは関係ない、低所得層へのそれと何も変わらない優遇制度なのです。一種のバラマキという見方もできなくはないでしょう。
 もしそれができるのであれば、取り上げられてきた先住民としての権利を回復してほしいというアイヌの漁業者の方々の切実な要請を断る理由などないはずです。 
 横山氏は北海道出身で国政進出前は道議を務めておられた方。なおかつ、北海道の漁協長によって構成される北海道水産政治協会を支持母体にしています。今年のIWCブラジル総会開催中の当記事の中でも、横山氏は「捕鯨族議員のレベルが高い」とお伝えしましたが、捕鯨だけでなく漁業全体をカバーする水産族議員といえるでしょう。北大水産学部を出て博士論文を書き(内容は噴火湾のアカガレイの摂餌生態)、函館水産試験場科長を務め、メディアも「水産学博士」の肩書きを紹介するほど。


 つまり、アイヌのサケ漁問題には二重に関係してくる政治家といえます。
 彼が地盤である北海道の漁協の利益を最優先するのは、まあ当たり前ではあるでしょう。以下のツイートからもそれはうかがえます。

https://twitter.com/gagomeyokoyama/status/775603202066554880/photo/1
山形県遊佐町の枡川鮭ふ化場の建設現場に来ました。建設に尽力されてきた尾形組合長と。ここから旅立つ鮭は、4年後に北海道ではメジカと呼ばれる高級なブランド鮭になります。遊佐町はメジカのふるさとです。(引用)

 ここで放流された稚魚が成長して回帰する際に北海道沿岸で漁獲されることから、北海道と山形の漁協が連携。横山氏はその実現の影の立役者だったわけです。倭人の漁協に奉仕する水産族議員らしいお仕事ですね。
 横山議員のブログがこちら。国会議員としては発信量の多い方といえそうです。最近は9月のIWC総会関連の記事で止まっていますが、参院法務委員長として忙殺されておいでのようですから、まあ仕方ありませんね。法務委員を務められるなら、外国人労働者の人権問題についても捕鯨に負けない分量の記事を書いて欲しかったところですけど。

■よこやま信一公式ブログ
https://ameblo.jp/gagome-yokoyama/

 右側のカテゴリーを見ると、農業・食文化が248本、水産業が196本と記事数で抜きん出ています。3番目が震災復興・災害対策。それに対し、アイヌ文化はたった3つ、働き方改革(2)に次ぎ2番目の少なさ。
 その3本は博物館・民族共生公園の整備事業に関するもの2本、遺骨問題が1本。
 与党公明党議員の横山氏は、遺骨の返還事業及びハコモノ整備とそこでの東京五輪に合わせた集客イベントの展開がアイヌ政策の中心的課題と考えておられるようですね。これらはすでに内閣官房アイヌ政策推進会議が掲げている施策でもありますが。

■アイヌ遺骨問題を考える (2013/6/20, よこやま信一公式ブログ)
https://ameblo.jp/gagome-yokoyama/entry-11555814642.html
これはアイヌの人々の尊厳を損なう悲しい歴史でもあります。速やかな返還を目指して議連として活動していくことを決意しました。(引用)

 アイヌのサケ漁に対する主権を認めないのは、尊厳を損なうことにはあたらないのでしょうか?
 ここで「議連」という言葉が登場しましたが、実は横山議員は「アイヌ政策を推進する議員の会」のメンバー。水産族議員であるばかりでなく、アイヌ族議員でもあるハズなのです。

■河川でのサケ漁、新法で容認を 道アイヌ協会など要望 (2016/10/2, 北海道新聞〜先住民族関連ニュース)
https://blog.goo.ne.jp/ivelove/e/66084cc1051b909f3ad9b25795e2cf56
政府の作業部会では新法の中心となる生活向上に向けた施策として、雇用の安定など6項目を検討課題として列挙。これ以外の検討課題として、伝統的なサケ漁の復活も挙がっている。内閣官房アイヌ総合政策室は「道の特別採捕の実績を把握することなど、どういう手順で検討するかという所から今後議論することになる」と話している(引用)
■アイヌ新法、来年国会提出 政府、「先住民族」初明記 (8/14, 共同通信)
https://this.kiji.is/402011969156695137

 赤字傍線のとおり、残念ながら、検討さえ10月の段階で緒についたばかりの模様。
 道知事の改正前の会見にもあったとおり、国会議員となった萱野氏はサケ漁の問題をずっと訴え続けてきました。国がアイヌが先住民であることを国会で認めた2008年には「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が設置され、北海道ウタリ協会(当時)理事長の加藤氏からもサケ漁に関する要望が出ています。

■ アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会(第2回)議事概要 |官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai2/haifu_siryou.pdf
明治初期、生活のための捕獲を保障されていた共有漁場などを奪われた歴史的経緯などから、漁業権の一般の権利侵害を伴わない範囲での一部付与などは、必要不可欠な事柄なのです。(引用)

 議論を始めるまでになぜ10年もかかったのでしょうか?
 新法と言えば、美味い刺身*@(調査捕鯨実施法)なんて、2014年のICJ判決に危機感を抱いた捕鯨協会の要請を受け、野党民主党(当時)の族議員として玉木氏らが検討を始めたのが2015年。それから2年であっというまに国会に上梓。同じ国会の種子法、今国会の水道法や入管法の改悪≠烽ミどいものでしたが、捕鯨に至っては自由党の山本太郎議員の質疑10分だけであっという間に成立。短時間に審議・可決された法律としてはギネスものでしょう。公明党を代表する捕鯨族議員として横山氏も草案に加わっていたはず。
 調査捕鯨事業に関わる共同船舶等の雇用者は前JARPAIIの時点で330人(慶応大・谷口智彦氏、2009年)、アイヌの人口は北海道だけで16,786人(北海道アイヌ協会、2013年)。
 この温度差は一体何なのでしょうか?
 横山殿。
 貴殿に対して「捕鯨に反対しろ」などと野暮なことは言いません。
 来年1月に提出予定のアイヌ新法には、現在の漁協と同格の漁業権を付与する形で、アイヌの漁業者が主体的に伝統漁業を行う権利を認める文言を必ず入れてください。
 道の漁業団体を支持母体とし、アイヌ議連にも名を連ねる貴殿なら、(倭人の)漁協団体を説得することができるはずです。
 今国会で審議されている改正漁業法では、漁業権の規制が緩和され、企業が参入する余地が増えることになります。漁業法改正の必要性と問題点については東京海洋大学准教授・勝川俊雄氏の解説をごらんいただきたいと思いますが、それが可能であるならアイヌに漁業権を賦与することにはまったく何の問題もないはず。野党は猛反発していますが、企業はともかく、アイヌに漁業権を与えることで北海道の漁協のサケ漁が脅かされることなどありえません。
 改正漁業法の条文に組み込むのは間に合いそうにありませんが、アイヌ新法には確実に明記できるはずです。
 捕鯨・北海道の漁業・アイヌのサケ漁のすべてに関わる立法府の人間として、この許すまじきダブスタを解消してください。
 森下氏らが国際社会に対して「たまたま起こった」などという苦しまぎれの弁明をもう二度としなくてすむように。

 アイヌのサケ漁について、もう少し掘り下げてみましょう。

B■アイヌ社会とサケ|みんぱくリポジトリ
http://hdl.handle.net/10502/5602
日々の食事の主たるメニュ0で、食材は季節によって変化するが、魚の割合はおよそ2〜3割を占めたと推定される[LEE1968;渡辺1988]。そしてその大部分はサケ・マス類である。(引用)

 萱野氏は「主食」という言い方をされていますが、量的な割合もさることながら、冬越しのために欠かせない保存食であり、交易品としても重要でした(江戸時代に入ると次第に松前藩による搾取にすり替わっていきますが)。

サケ類はその部位すべてを食べることができ、身(魚肉)はもちろんのこと、卵巣(イクラ・筋子)、精巣(白子)、軟骨の多い頭、また目、内臓、骨、皮からひれにいたるまで、残すところは殆どなかったという。(引用〜B)

 鯨体完全利用神話の方は、戦前も戦後も捕鯨会社が洋上でバンバン投棄しておりデタラメでしたが、こちらは本物。食用以外に、皮も上衣や靴として加工、膠としての利用もされていました。
 そして、サケをめぐる豊かな精神文化。コタン間の交流もサケ抜きには語れませんでした。
 
そして、この地縁集団の標識となるのが共通の首長と、サケ産卵場のなわばり、住居新築の際の協力、サケに関わる集団儀礼であるといわれるように、共同体の根幹はサケと深く結びついていた[渡辺1977]。(引用〜B)

 そのサケの恵みを取り上げられ、つながりを絶たれるのは、まさに倭人にとってみればコメ・稲作に関する文化を奪われるのも同然といっても、決して大げさな表現ではないでしょう。
 丹菊氏はこう述べられています。

https://twitter.com/itangiku/status/1068736514622812160
「アイヌだけに鮭漁を認めるのは不公平」というのはどうでしょう。和人社会は昔から「分業」社会です。でもアイヌ伝統社会は分業せず、鮭漁も自分でしていた。その価値観が祭祀や食事、道徳観などとつながっている。「伝統鮭漁」はたんなる銛や網の技術だけの問題ではないのです。(引用)
https://twitter.com/itangiku/status/1068737449956827137
アイヌにとって、鮭はたんなる魚ではないし、鮭漁はたんなる銛や網の技術ではない。だから「和人から鮭を買って生け簀に入れて、そこで銛で突けばいい」と言われれば怒るのも当たり前です(実話ですよ)。鮭への意識は鮭漁禁止以来今まで保持され続けてきた。簡単にはなくならないのです。(引用)

アイヌのサケ漁の伝統の奥深さに比べれば、捕鯨サークルや外野の反反捕鯨の説く鯨肉食文化なんぞ、ガリガリくんナポリタンを多額の税金で存続させるのと変わらないと筆者は思いますが。
 南極産クロミンククジラに手をつけだしたのはたったの半世紀前。消費者に敬遠されるからといって極低温冷凍設備やドリップを防ぐ解凍技術に頼ったり、フレンチシェフにクジラ肉のポワレカキのフライ添えカフェドパリバターソースだのわけわからん創作料理をこしらえさせて政治家らが集うパーティーで振る舞ったり。そんなもの、ただの食材でしかありません。伝統文化に値しない食ブンカ

■トンデモ鯨料理一覧
https://www.kkneko.com/shoku.htm

 記事の最後に、萱野茂氏の晩年の著書、平凡社新書の『アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心』から、少し長くなりますが引用しましょう。昨年にはちくま学芸文庫版も出ています。


第1章 四季のくらし サケはアイヌの魚
 サケのことを北海道ではふつう秋味というが、アイヌはカムイチェㇷ゚(神の魚)、またはシエペ(シ=本当に、エ=食べる、ペ=もの、しゃべるときはシペという)と呼んだ。
 北海道というとクマとアイヌが主役で、有名なのはイヨマンテ(クマ送り)で、あたかもクマの肉を主食にしていたように思われがちだ。しかし、私が物心ついて約七〇年、その間に村でクマが獲れたのは昭和一六年頃に二谷勇吉さんが一頭、そのあと昭和三五年に貝沢健二郎さんが二頭か三頭、私の弟貝沢留治が昭和四〇年ごろに一頭獲っただけであった。
 こうしてみると、一〇年に一頭にもならないほどなので、クマの肉はめったに口に入るものではなく、クマの肉のことをアイヌたちは、カムイハル(神の食べ物)というほどであった。
 これに対しサケのほうはアイヌがシエペ(本当の食べ物、主食)という言い方で大切にした食べ物であり、本当に当てにしてくらしていたのである。
(中略)
 アイヌたちが定住の場を決めたのは、サケの遡上が止まるところまでであり、主食として当てにしていたことがそのことからはっきりわかるはずだ。世界中でアイヌ民族だけが使っていたと思われるマレㇷ゚(回転銛)など、サケを獲る道具は約一五種類もあり、サケの食べ方は大ざっぱに数えて二〇種類。その中には生のまま食べる食べ方もあり、獲ってすぐでなければできない料理もある。
 アイヌは自然の摂理にしたがって利息だけを食べて、その日その日の食べ物に不自由がないことを幸せとしていたのである。それなのに日本人が勝手に北海道へやってきて、手始めにアイヌ民族の主食を奪い、日本語がわからない、日本の文字も読めないアイヌに一方的にサケを獲ることを禁じてしまった。
 これはアイヌ民族の生活をする権利を、生きる権利を、法律なるものでしばったわけで、サケを獲れば密漁だ、木を伐れば盗伐だ、と手枷足枷そのものであった。
 話を古いほうへ戻すが、昭和六年か七年のこと、秋の日にわが家の建て付けの悪い板戸を開けて巡査が入ってきて、立ったまま、清太郎(アレㇰアイヌ)行くか、と父にいった。
 父は板の間にひれ伏し、はい行きます、といったままで大粒の涙をポタッポタッと落とした。それを見た私は、あれっ、大人が泣いていると思ったが、次が大変であった。
 父は巡査に連れられ平取のほうへ歩き出し、私が泣きながら父の後を追いかけると、私を連れ戻そうと大人たちが追ってくる。その大人たちの顔に私と同じに涙が流れていたのを、つい昨日のように思い出すことができる。
 毎晩こっそり獲ってきて子供たちに口止めしながら食べさせていたサケは、日本人が作った法律によって、獲ってはならない魚になっていたというわけであった。
 父が連れていかれたあとで、祖母てかっては、「シサㇺカラペヘ チェㇷ゚ネワヘ クポホポンノ ウㇰワエッヒネ カムイト゚ラノ ポホウタㇻ エパロイキヒ アコパㇰハウェ シサㇺ ウタㇻ ポロンノウッヒ アナッネ ソモアコイパッハウェー」と嘆きの言葉をもらしながら泣いていた。
 この意味は、「和人(日本人)が作ったものがサケであるまいに、私の息子が少し獲ってきて、神々と子供たちに食べさせたことで罰を受け、和人がたくさん獲ったことは罰せられないのかい」ということである。
 私はこれまでパスポートを必要とする旅を二四回していて、行った先ではなるべくその国の先住民と称せられる人びとと交流をしてきたが、侵略によって主食を奪われた民族は聞いたことがない。
 現在のサケとアイヌの関わりがどうなっているかを述べよう。北海道全土の漁協が獲っているサケの数は数千万匹という。その中でアイヌ民族が書類を出して獲らせてもらえる数といえば、登別アイヌが伝統的漁法であるラウォマㇷ゚(やな)で五匹獲れるのと、今一ヵ所は札幌アイヌがアシリチェㇷ゚ノミ(新しいサケを迎える祭り)のために獲れるのが数年前まで二〇匹であった。
 この本をお読みになる日本人の方々よ。あなたが悪いのではないが、あなたたちの先祖が犯した過ちが今もなお踏襲されているのはまぎれもない事実なのであり、それを正すも正さないもあなたたちの手に委ねられていることを知ってほしい、と私は思っている。
 もし、よその国から言葉も風習もまったく違う人たちがどさっと日本へ渡ってきて、おまえたち、今日から米を食うな、米食ったら逮捕するぞ、という法律を押しつけたらどうであろうか。これと同じことをアイヌに対して日本人はしたのである。
 こう私はいい続け、書き続けているが、私が語り続けてきたことにまったく反応がないのはなぜだろうか。
 私は、アイヌ民族の食文化継承のために必要なサケはどうぞご自由に、といってほしいだけで、そうむずかしい注文をしているわけではないはずだ。
 私が生まれ育ったシシリムカペッ(沙流川の河口から四キロほどのところ)に、頑丈なやなが設置され、一匹のサケも遡上できなくなり、キツネやカラス、シマフクロウ、クマなど上流で腹を空かせて待っているものたちがいることだろう。こうした動物たち、そしてアイヌに、有史以来食べる権利を持っていたものたちのために、やなを三日に一度でいいから開けられないものだろうか。
 川は誰のものなのか、漁業組合なるものの占有物ではないはず。その流域でくらしている生きとし生きるものたちの共有財産であったものを、一部の人たちの思いのままにしていいのだろうか。(引用。強調は筆者)

 『アイヌ歳時記』には昭和初期、幼少期の萱野氏自身の豊かな自然体験、アイヌ語で祖母や父に教えられた逸話・訓話や生活の知恵が、同化政策によって押し付けられた言語であるところの日本語による確かな筆致で描かれています。目に浮かぶ情景に胸打たれるとともに、読み進む毎に痛みが心に突き刺さってきます。なぜならそれは、連綿となく受け継がれてきた大切な仕来り、かけがえのない自然がひとつひとつ失われてゆく過程そのものだからです。
 合わせて以下もご一読を。

■アイヌの主食は鮭、なぜ捕るなと言うのか?・・萱野茂氏の主張(4・終)|始まりに向かって
https://blog.goo.ne.jp/blue77341/e/f09be0a0e923aa0d9139a9e22464abc9

 萱野氏らが国を相手取った二風谷ダム訴訟で強制収用の違法性の審判は下ったものの、奪われた土地・自然は水底に沈められたままという大きな犠牲を払ったうえで、1997年にはアイヌ文化振興法が成立しました。しかし、その内容は先住権の回復というには程遠い内容でした。
 しかも、倭人とアイヌの、対等とは到底言いがたい、歪んだ関係はまだ続いたままです。萱野氏がこれをご覧になったらさぞかし嘆かれることでしょう。

■沙流川の今。2016年7月29日|流域の自然を考えるネットワーク
http://protectingecology.org/report/6462
清流であった沙流川のアイヌの聖地を水没させた違法ダム「二風谷ダム」。ダムは満杯に泥で埋まっている。国の膨大な予算を使って計画された当時の役割を、完全に失っているダムである。
雨が降る度に、沙流川は泥水が流れ、今なおダムは泥を溜め続けている。(中略)
そして、支流の額平川には、新たに「平取ダム」が建設中である。
平取ダム建設中の額平川も、そこへ合流する宿主別川もご覧のように酷い泥水となっている。これでは、清流・沙流川は更に酷い泥川にされてしまう。沙流川からシシャモの姿が消えるカウントダウンが始まった。
正面の山はアイヌの祈りの場といわれる神聖な山「チノミシリ」である。チノミシリに「穴を穿ち、ダム堤体を取り付け、麓を水没させる」平取ダム。(引用)
■二風谷ダム裁判判決文
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/5596/
■二風谷ダム訴訟判決から20年(2017/3/26, 八ッ場あしたの会)
https://yamba-net.org/20469/

 水産庁の上掲公式HP「捕鯨の部屋」にはこんなことが書かれています。

捕鯨についての基本的考え方
( 2 )食習慣・食文化はそれぞれの地域におかれた環境により歴史的に形成されてきたものであり、相互の理解精神が必要である。(引用〜A)

 一体どの口が言えるのでしょう??
 加害者たる倭人の一人として、筆者はただただ深く恥じ入るばかりです。
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2018年12月05日

今年のIWCブラジル総会の日本政府代表団の旅費(の一部)が明らかに!

 今年9月にブラジル・フロリアノポリスで開催された国際捕鯨委員会(IWC)の第67回総会については、動画で配信された会議の模様やオブザーバー参加したNGOの話をもとに当ブログで取り上げたところ。
 今年の総会にはオブザーバーを除く加盟国政府だけで400名を越える参加者が集まりました。このうちの62名が日本政府代表団。実に7分の1近くを日本が占めていたことになります。もちろんダントツで最多。他の加盟国はほぼ1桁で、代表1名のみのところも少なくありません。
 10月にソチで開かれたワシントン条約常設委員会(CITES-SC)も日本からは18名が出席、参加者数で他国を大きく引き離していました。
 どちらもクジラがらみ。
 すべての産業界にとって無関係ではいられない国連気候変動枠組条約、その昨年の締約国会議(COP)23に参加した政府関係者は197カ国で約9千人(1ヶ国当たりでは50人弱。多く派遣しているのは先進国でしょうが)。100人に上る政府代表団が送られるのは、後はサミットくらいのものでしょう。
 実際のところ、国際交渉で10人以上の政府要員を派遣するだけで、その国にとってよほど重要な案件のはず。それはIWCやCITES-SCへの日本以外の国からの参加人数を見てもわかります。
 もちろん、かかる経費だって決してバカにならないのですから。
 というわけで、筆者は外務省および農水省に対し、今回の総会への日本政府代表団の旅費その他参加費用に関する書類の行政文書開示請求を行うことにしました。
 農水省に関しては、情報公開窓口で農水省分と水産庁分を農水大臣宛・水産庁長官分宛に分けて出してくれと言われたため、開示請求を2通分作成することに。外務省も本来は本省分と在外公館(大使館等)分に分かれるそうですが、こちらは一括で応じてくれました。さらに、開示可否の決定通知を受けたうえで、不足分(開示実施手数料−開示請求手数料)にあたる印紙を貼って開示実施方法等申出書を送付。ようやくブツが手元に。面倒くさいですね。用意する方も大変でしょうけど。あと、フォーマットを省庁間で統一した方がもっと効率的だろうにとも思いましたが。
 農水省・外務省とも部分開示でしたが、とくに農水省は一部不開示とした理由を5項目詳述しており、いずれも合理的な内容で異存はありませんでした。懇切丁寧な対応をしていただいた両省の担当部署の方々にはお礼申し上げます。水産庁以外。
 ていうか、水産庁(国際課捕鯨室)だけ開示決定期限を1ヶ月延長してきたんですよね〜。「権利利益を侵害される可能性のある第三者の意見聴取及び当該行政文書開示・不開示の審査に時間を要するため」という理由で。
 メンバーに庁外の業界団体関係者がいたからということなんでしょうが、すでに当事者であって第三者とはいえないはず。国際会議出席にかかった旅費・宿泊費等の費用を開示するだけで「権利利益を侵害される」可能性のある第三者とは一体誰なのでしょう? 例えば、業界団体の人間には国会議員並にビジネスクラスの航空券やランクの高いホテルの部屋を用意したことが国民に知られると、それが権利利益の侵害にあたったりする? そりゃ、侵害する方とされる方が逆≠ネのと違いますか? 税金使ってるのに。四の五の言わずにとっとと開示してほしいものです。
 さて、現物は農水省がA4用紙36枚、外務省がA4用紙27枚。墨塗りは一部のみで、必要な支出金額はすべて開示していただきました(水産庁以外)。それを一覧表にまとめたのがこちら。表下部の補注もご参照。
iwc67_delegates_exp.png
 同じ表を以下の拙HPでも公開しています。

■IWC67日本政府代表団旅費等参加費用情報公開請求
https://www.kkneko.com/iwc67delegatesexp.htm

 今回明らかになったのは、IWCに参加登録した日本代表団全62名のうち、農水省2名、外務省18名の分。また、資料上は匿名でしたが、在クリチバ領事館のスタッフの方6名がおそらくリストの最後に加わったと考えられます。
 今年のブラジル詣でに加わったのは、このほかに国会議員5名、下関市2名(市長と議長)、同じく太地町2名(町長と議長)。水産庁の幹部クラス官僚5名も確認。残る22名が水産庁職員および業界関係者ということになりますね。
 自民党3名、公明党1名、国民民主党1名の族議員は議院ないし国会委員会の職務扱いで、残念ながら情報公開法の対象外。
 太地町のお2人の分については同町議会の漁野尚登議員が、過去の総会同様、町に対して開示請求されたとのこと。
 今回筆者の方では下関市に対する請求をあえて行うことはしませんでした。おそらく太地町と同額程度と考えられるため。
 で、判明した金額が20,115,297円
 これでまだ≪62分の26≫にすぎません。国会議員では≪7分の2≫。
 水産庁の27名分を除いた残りの推計を含めた35名分で、およそ4千万円
 たった1回のブラジルツアーで家(土地付き)1戸建っちゃいますね・・。
 仮に、政務官と秘書官を除く外務省本省7人分の平均を水産庁の27人にあてはめると、およそ3千万円。しめて約7千万円
 都内の新築マンションが買えますね・・。
 少し細かく見ていきましょう(会計検査院の目で)。
 判明している26名分の旅費のうち8割は航空運賃です。ブラジルはフロリアノポリス開催ということで、渡航費がかさむのはやむをえないかもしれません。
 ただ、その航空運賃の6割近くは岡本政務官と谷合副大臣およびそれぞれの秘書官、計4名の分です。
 谷合副大臣と山本秘書官の航空運賃はそれぞれ2,013,960円。サンパウロ−フロリアノポリス間のブラジル国内線はエコノミーですが、東京−サンパウロ間はルフトハンザ航空のビジネスクラスを使用。岡本政務官は復路で米西海岸2都市に立ち寄っており、谷合副大臣より50万円高い値段(その後カナダへ)。
 それにしても、1度の往復で200万円とはすさまじいですね。会社の業務であれ個人の旅行であれ、比較サイトで格安航空、キャンセル待ちを探す庶民には想像もつかない金額です。とある研究者の方いわく「200万円くれたら10回か11回分国際会議を回ることが出来て、論文も捗るなあ・・」とのこと。しかも、当人の出張がなければ必要のない随行秘書の分で2倍に。議員・政府高官として、万が一にも遅れて会議に出席できなくなることがあってはならないという事情もわかりますが。
 さればこそ、せめて参加する国会議員は谷合氏と岡本氏の2名に絞るべきでした。
 また、会場でのスピーチは初日を谷合副大臣、最終日を岡本政務官といった形で分担すればよく、2人とも丸々5日間会議に張り付いている必要はなかったはずです。外交の場で政府の顔≠ニしての役割を演じるのが彼らの仕事であり、どうせ実務を担当するのは官僚なのですから。そうすれば宿泊費は1泊分ですみ、秘書官含め5日分の宿泊代と日当、40万円ちょっと浮いたはずです。
 実は、今回の総会にはオーストラリアからも与党自由党の上院議員アン・ラストン氏が出席していました。役職は谷合氏に相当する国際開発・太平洋担当副大臣。ラストン議員も日本の岡本氏と同様に豪州政府を代表して初日にスピーチを行ったのですが、内政を優先してとんぼ返り。そのことに対してNGOや豪州国内からは批判の声もあがりました。
 しかし、筆者はラストン議員・豪州政府の判断は賢明だったと思います。長くいたところで税金の無駄になるだけなんですから。
 日本の国会議員が7人も内政をほったらかしてブラジルまで押しかけ、会期中丸々居座るのではなく、2人だけ出席して「本当はずっと会議の行方を見守りたいところですが、地震と豪雨により被災した国民が大勢おります故、1日だけ顔を出させていただくことにしました」とでもスピーチしておけば、国内のみならず対外的にもむしろ日本の株はあがったことでしょう。
 それ以外の議員5名の旅費は、秘書の同行なし、航空運賃と宿泊費は谷合副大臣と同じ(まさかエコノミーで行くはずもないし・・)と仮定したうえでの推計ですが、やはり合わせて1千万円を超えます。また、おそらくブラジルでこれら国会議員に随行し通訳等の世話をするために在クリチバ領事館から追加のスタッフが派遣されたと思われるので、その分余計な支出が増えるとともに、領事館の業務が手薄になったんじゃないかと心配になります。
 はたして、地球の真裏のブラジルまで国会議員7名を擁するこれだけ大がかりな代表団を送り込んだだけの成果は挙がったのか──という点に関していえば、もうすでに結果は出ちゃったわけですが……。

■税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
http://kkneko.sblo.jp/article/184463999.html
■IWC67会議報告−1日目〜その他のこと|ika-net日記
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/index.html
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/index.html
■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案 [クジラ]|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15

 判明した一部だけで2千万円、推計で7千万円と言う莫大な税金をかけ、国会議員7名を含む大代表団を送る必要があったとは、筆者には到底思われません。
 過去のIWC総会においても、日本は他の加盟国より相対的に多くのメンバーが出席し、族議員の誰かも加わってはきました。が、今回はとくにコストパフォーマンス的に最悪の外交だったといえるのではないでしょうか。(安倍首相の外遊のそれについてはここでは問わないとして・・)

 日本政府がIWCを脱退する/しないの判断を下すとしたのが今月。
 はたして「我が代表堂々退場ス」ということになるのかどうか。
 9月のブラジルが本当に参加する最後の機会だったとしても、もっと他にやり方があったでしょうにね。

参考リンク:
第66回IWC総会参加費用|太地町議会議員 漁野尚登のブログ
https://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/34527636.html
平成30年 第2回 太地町議会定例会開催のお知らせ|〃
https://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/35172444.html

 近日中にアイヌのサケ漁と捕鯨のダブスタに関する記事をアップする予定です。
posted by カメクジラネコ at 18:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年11月22日

捕鯨で負けたのに徴用工でまたICJ提訴? クジラは平等に殺せ、でもヒトの人権ダブスタはOK?

 今月久々に拙ツイートがバズりまして──まあバズッたといっても高々RT360ほどで、著名人の日常の呟き程度にすぎませんけど。まずは件の一連のツイート(筆者+VARDIGAさん、榧世さん)をご紹介。


 上掲引用RTの元ネタは、日本の最高裁にあたる韓国大法院が第二次大戦中のいわゆる徴用工の新日鉄住金に対する損害賠償請求を認めた判決に関する産経新聞記事。またぞろネトウヨが吹き上がって1,500RTされてますが、その1/5以上の反響はあったことになりますかね。。

@■徴用工問題で日本政府、国際司法裁に提訴へ 大使召還は行わず (11/6, 産経)
https://www.sankei.com/politics/news/181106/plt1811060004-n1.html
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181106-00000042-san-pol
■徴用工 国際司法裁判所に提訴へ 韓国の異常性を世界へ周知、日本単独の場合も韓国に説明義務あり (11/6, 夕刊フジ)
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/181106/soc1811060016-n1.html
A■菅官房長官、国際裁判辞さず 韓国元徴用工判決で意向示す (11/6, 共同)
https://this.kiji.is/432396931954852961
B■徴用工判決は「暴挙、国際秩序への挑戦」 河野外相批判 (11/6, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/ASLC65JB8LC6UTFK015.html

 この件に関しては同日共同通信と朝日新聞も取り上げています。「政府は」で始まり「固めた」で締めくくる大本営張りの産経に対し、共同は菅官房長官、朝日は河野外相の6日の記者会見と出所が明確。官房長官は「国際裁判も含めあらゆる選択肢を視野に」「(今後の対処方針に関しては)手の内を明かすことになるので差し控えたい」としか述べておらず、河野外相も「あらゆる手段を取る用意がある」とややぼかした言い方。どうも、名無しの「政府高官」や「外務省幹部」の意気込み≠竕ッ測のみで「提訴へ」と書いてしまった産経の勇み足、先走りに映ります。「政府は──判断した」が同系列のフジじゃ「政府は──判断したようだ」になっていたり、相変わらずのクオリティ。一応政府部内にいる同紙のシンパが情報源なんでしょうけど。
 実は同趣旨の報道は先月末の韓国大法院の判決当日にも。

C■日本政府、対韓国「戦略的放置」強める 徴用工判決、国際司法裁判所への提訴も視野 (10/30, 産経)
https://www.sankei.com/politics/news/181030/plt1810300039-n1.html
■安倍首相「あり得ない判断」=徴用工訴訟、国際裁判も (10/30, 時事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018103000804&g=pol

 国際裁判提訴の動きに対してはさっそく懸念の声が。以下は東京海洋大准教授・勝川俊雄氏、早大客員准教授真田康弘氏、日本通NZ人ガメ・オベール氏のツイート。

韓国の徴用工判決問題で、国際司法裁判所(ICJ)に提訴すれば日本が勝てるという見通しが大勢なんだけど、本当に大丈夫なのかな。捕鯨の裁判の時は、楽勝ムードだったのに、蓋を開ければ完敗だったので、ちょっと不安です。(引用)


 河野外相いわく「友好関係の法的基盤を根本から覆すものだ。極めて遺憾で、断じて受け入れられない」(引用〜A)「暴挙」「国際法に基づく国際秩序への挑戦だ」(引用〜B)とのことですが、オーストラリア・ニュージーランド首脳にはぜひそっくり言葉を日本に対して突きつけてほしいもの。産経記事「国際協定や実定法よりも国民情緒を重視する韓国への視線は、政府内で冷め切っている」(引用〜C)はやはり一握りの産経シンパがそう言ってるだけなのでしょうが、国際協定や実定法よりごく一部の″走ッ情緒・美味い刺身@~しさを優先する国が言えるこっちゃありませんわな。まあ「一体どの口が」という話です。
 それにしても、「国際司法裁判所(ICJ)」というキーワードが登場したにもかかわらず、日本がそのICJで調査捕鯨をめぐって豪州・NZと争い、敗訴したという重要な事実に触れた記事は1つもなし。上掲真田氏、勝川氏、榧世さんのようにすぐピンと来た記者が1人もいなかったとすれば、日本のマスジャーナリストはお先真っ暗ですな。。外務官僚は単にすっとぼけてるだけにしろ。
 そんな中、唯一自身のメルマガで調査捕鯨訴訟に言及したのが元大阪府知事の橋下徹氏。

■橋下徹"徴用工問題、日本が負けるリスク" (11/14, ブロゴス)
https://blogos.com/article/338621/

日本の悪い癖は、法的な論戦になるときに、きちんとした備えをしないこと。最近では、クジラの調査捕鯨について、国際司法裁判所の場で必ず日本の主張が通ると高を括っていたら、なんと日本の主張は完全に排斥された。(引用)

 「完全に排斥された」とまで言い切っちゃうと、捕鯨サークル(水産庁・鯨研・共同船舶/捕鯨協会)が気を悪くしそうですね(実際には附表第30項違反に関しては日本側の主張が通っています)。まあ、ほぼ完敗に近いボロ負けだったのは事実。「美味い刺身≠フ安定供給目的の国際法違反」とはっきり認定されたわけですから。捕鯨サークル関係者の中には「いや、負けたわけじゃないんだ」と矮小化を図ろうとしている御仁もいますが、橋下氏らの信用を得るには至ってないと。
 ともあれ、保守派論客の橋下氏さえ、韓国政府を提訴した場合の日本政府のリスクを懸念しているわけです。
 徴用工訴訟問題そのものについては以下もご参照。ネトウヨ/産経読者諸兄は吹き上がる前に確認しておくべきでしょう。どうやら調査捕鯨国際裁判敗訴の判例がなくてさえ、日本政府側にとってかなり分が悪そうです。

■徴用工問題は本当に「解決済み」だったのか? 日本政府が60年以上にわたり隠蔽してきた日韓基本条約の欺瞞 (11/6, リテラ)
https://lite-ra.com/2018/11/post-4356.html
■徴用工判決と日本政府のブーメラン事情
https://www.youtube.com/watch?v=kZJGp7oZAN0&feature=youtu.be
■元徴用工問題 本質は人権侵害/元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明 (11/6, 赤旗)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-11-06/2018110601_02_1.html
■[インタビュー]日本の弁護士「日本が強制徴用国際裁判で負ける可能性もある」 (11/9, ハンギョレ)
http://japan.hani.co.kr/arti/international/32062.html
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181109-00032062-hankyoreh-kr
■日本弁護士「強制徴用賠償、ICJでも日本が負ける」…その根拠は? (11/7, 中央日報日本語版)
https://japanese.joins.com/article/872/246872.html
■河野外相「個人請求権は消滅していない」…「しかし解決済み」 (11/17, 中央日報日本語版)
https://s.japanese.joins.com/article/j_article.php?aid=247222
■韓国徴用被害を無視した日本企業、中国では年内に基金設立を推進 (11/5, ハンギョレ)
http://japan.hani.co.kr/arti/international/32029.html
■「中国には賠償、韓国には憤怒」強制徴用問題、日本の対応はなぜ違う? (11/2, レコードチャイナ)
https://www.recordchina.co.jp/b657935-s0-c10-d0058.html

 ちなみに、以下は慰安婦問題関連の報道ですが、登場する小和田氏はICJ判事として調査捕鯨訴訟にも携わっています。

■日韓請求権協定締結時に外務省 (2013/8/7, 赤旗)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-07/2013080701_04_1.html

 同「解説」は、「何が『紛争』に当たるか」について、一方の当事国が「ある問題について明らかに対立する見解を持するという事態が生じたとき」と明記。また、紛争の発生時期については「何らの制限も付されていない」とし、「今後、生じることのあるすべての紛争が対象になるべき」だと説明しています。
 そのうえで、日韓間で紛争が生じた場合は、「まず外交上の経路を通じて解決するため、可能なすべての努力を試みなければならないことはいうまでもない」と指摘しています。(引用)

 韓国文政権の方針がまだはっきりしませんが、今後どのような対応を取ると考えられるでしょうか? まずは高齢の被害者への人道的配慮を優先すべく、当該企業に日韓両政府も加わる形での基金による解決を目指そうとするでしょうが、それでもなお日本政府が強硬に突っぱね、6日の産経記事どおりICJ提訴に踏み切ったとしたら? 
 実際、中国の強制徴用被害に対しては、上掲リンクのとおり西松建設・三菱マテリアル等の加害企業が和解金を支払ったり、基金の設立を進めています。強制徴用問題におけるダブスタは橋下氏から赤旗や韓国紙まで指摘しているとおり。ことは人権、ウシやカンガルーとクジラを比べるのとはわけが違うと思いますけどね。アイヌサケ漁問題に対する森下丈二前IWC議長のダブスタ容認発言ではありませんが、ヒトのダブスタはOKとする産経や反反捕鯨ネトウヨの心理は筆者には理解できかねます。
 後は2つに1つ。外務省筋の見立てのとおり、応訴しないか。あるいは、勝てる見込みが十分高いと見て応訴するか。
 どちらを選択した場合にも、2014年の日本ICJ敗訴は相当なインパクトがあります。
 筆者自身も、韓国政府が応訴しない可能性もある程度高いのではないかと思っています。理由のひとつは、たとえ勝算が十分があるとしても裁判に絶対はないこと。もうひとつは、被害者にもう時間的猶予が残されていないのにズルズルと裁判を長引かせるのは──まず日韓請求権協定に基づく仲裁手続が先行するはずですし、物別れに終わってからICJ提訴、審理に時間を割くことになるでしょうから──人道的見地から賢明とはいえないという理由。その場合、韓国政府自身が被害者に一定の補償をする泣き寝入りの形にはなるでしょうが。
 そして、もう1つ。たとえ日本のICJ提訴を無視した場合でも、国際社会における韓国のイメージが傷つく恐れはないから。これは応訴しないことによるデメリットがない(日本企業に責任を取らせることができない点を除き)という意味ですが。
 一体なぜ、産経や同紙シンパの外務省幹部が説くように「韓国の異常性を世界に知らしめる」のではなく、「日本の異常性が世界に知らしめられる」ことになってしまうのでしょう?
 もう説明は要りませんよね。筆者及び識者がツイートしたとおり。
 とはいえ、補足しておきましょう。

 ICJで裁判を開くには原則として紛争当事国の同意が必要で、手続きには(1)相手国の同意を経て共同付託する(2)単独で提訴した上で相手国の同意を得る−という2つの方法がある。政府は韓国から事前に同意を得るのは難しいことから単独提訴に踏み切る。
 その場合も韓国の同意は得られないとみられ、裁判自体は成立しない可能性が高い。だが、韓国に同意しない理由を説明する義務が発生するため、政府は「韓国の異常性を世界に知らしめることができる」と判断した。(引用〜C)

 上掲はリンクした11月6日の産経記事に書かれているICJ提訴の流れ。夕刊フジに至っては見出しで「説明義務あり」とまで言い切っちゃってますが、まったくのデタラメです。10月30日の記事は原川貴郎記者の署名がありますが、こちらの記事は無署名。何も勉強せずに適当なこと書いて給料もらえるんだから産経所属記者は楽でいいですねぇ。外務省内のシンパが吹聴したとしたら、その御仁もおそろしく無能ですが。
 ICJで裁判を開くには、「1ヶ国以上」がICJに付託することが必要。逆に言えば、一方の当事国が相手国の同意なしに勝手に訴えてもICJが妥当と判断すれば受理されます(強制管轄権受諾国同士の場合)。

第53条 1.一方の当事者が出廷せず、又はその事件の防禦をしない場合には、他方の当事者は、自己の請求に有利に裁判するように裁判所に要請することができる。(引用)

■国際司法裁判所規程|国際連合広報センター
http://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/icj/statute/

 実際の手続は3つ。
(1)特別の合意(紛争当事国同士による共同付託)
(2)条約の(管轄権)条項
(3)一方的宣言(強制管轄権受諾国同士の場合)

■国際司法裁判所(ICJ)-よくある質問- 5 . なぜ国家間の紛争のなかで、ICJで取り扱われないものがあるのですか?|国際連合広報センター
http://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/icj/faq/#a5

 日韓請求権協定は紛争の解決を仲裁委員会に委ねており、ICJの管轄権条項は含まれていないため、(2)はなし。竹島問題でネトウヨ方面にも知られているとおり、韓国は強制(義務的)管轄権を受け入れていないため、(3)もなし。つまり、ICJでの裁判が成立するのは韓国政府が同意する(1)の場合のみ。
 産経記事にある「同意しない理由を説明する義務」なんてものは、国際法規上は存在しないのです。
 なお、上掲ICJ規定53条には「その事件の防禦」とありますが、これは先決的抗弁等の形でICJで審理されるべき事案ではないと受理を拒否するよう申請するパターン。
 この先決的抗弁に関しては、ICJ調査捕鯨訴訟の判決が出る半年前に筆者が公開した過去記事で詳細に解説しています。

■ICJ調査捕鯨訴訟で日本は負ける
http://kkneko.sblo.jp/article/70305216.html
■Japan will lose the legal suit on of whaling in the Antarctic at the ICJ
https://www.kkneko.com/english/icj.htm

 お読みいただければわかるでしょうが、日本は当時強制管轄権をほぼ無条件で受諾していたため、「同意するか、あるいはICJが受理すべきでないとする妥当な理由を説明する義務」を負っていたわけですが、この先決的抗弁を使わず「いったん同意しておきながら、裁判の中で同意を拒むみっともない説明」をしてしまったため、判決が出る前から「異常性を世界に知らしめ」てしまったわけです。
 さらにそのうえで、調査捕鯨の国際法違反が確定した1年半後、看板をすげ替えた新たな調査捕鯨計画をぶち上げ、再びICJで違法性を追及されるのを回避すべく、受諾宣言を書き換えてしまったのです。海洋生物資源に関しては国連/ICJの管轄権を受け入れない、と。韓国等とまったく同じ立場。
 いや、もっとはるかに悪質ですね。裁判で認定された違法行為を繰り返すため、わざわざ受諾宣言を書き換えたんだから。

■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 拙記事中で実際に海外から巻き起こった大ブーイングと合わせて解説しているとおり、この時点で日本政府は自らの異常性を間違いなく世界に知らしめていたのが事実なのです。
 今回の徴用工判決問題に関して、韓国政府は「同意しない理由を説明」する必要は何もないわけですが、ICJ、あるいは国際社会に対して淡々と一言言明することはできるでしょう。
 日本が調査捕鯨に関してICJの管轄権を受け入れていないのと同様、韓国には応訴する義務はありません」と。
 被害者の人権救済の観点から国際法を従来と異なる視点で解釈する韓国政府と、南極産美味い刺身≠フために国際法に基づく秩序をぶち壊した日本と、一体どちらが異常だと国際社会が判断するかは、自明のことだと思えます。上掲真田氏らが指摘するとおり。純粋に国際法の見地からみても、少なくとも海外の識者は「どっちもどっちだね」という判断をするに違いありません。産経やネトウヨが「それとこれとは話が別だ!」と吹き上がったら、やはり日本の異常性の方が圧倒的に際立つことになるでしょうが。
 「度重なる韓国の不誠実な対応についてもアピール」(引用〜@)したところで(「戦略的放置」と上から目線の一方で海外に必死に媚びるのは、それだけで相当みっともない気がしますが)、調査捕鯨裁判における一連の対応で、国際法・国際協調をとことん軽視する国として日本の信用はすでに地に落ちています。「韓国の方が日本よりクジラを殺している」というデマをばらまくトンデモ竜田揚プロパガンダ映画の海外上映に対する予算計上じゃありませんが、下手すりゃ火に油を注ぐだけでしょう。
 日本企業に賠償金を支払わせることはかなわないとはいえ、結局国際裁判には韓国が実質戦わずして勝ったも同然ということに。
 では、韓国が応訴した場合は? 徴用工問題と直接関係はないものの、やはり真田氏が指摘するとおり「あんた判決事実上守ってないよね」と足元を見られる可能性はあるでしょう。また、人権の観点のみならず、自らの国際法違反を棚に上げたまま「国際ルール違反といえる行為は枚挙にいとまが」(引用〜C)と一方的に韓国を非難する日本の矛盾に満ちた独善的態度ゆえに、ギャラリーはほとんど韓国の味方で占められることになりかねません。まさか提出資料や口頭弁論でそんな産経ばりの主張を展開するほど外務省は愚かではないでしょうが。
 もっとも、ICJの場で正面から争った場合、よしんば韓国側が勝ってしまったりすれば、政権当事者を含む日本の保守層が憤懣のあまり完全に壊れてしまいそうです。そうなると、北朝鮮の核問題等を抱える中、両国関係に深刻な亀裂を生みそうですし、在日韓国人の方々の身の安全にも差し障りかねません。そういった意味でも、韓国政府としては応訴しない可能性が若干高いのではないかと思えます。ほかでもない日本に対する配慮≠ゥら。
 とはいえ、調査捕鯨訴訟でほぼ全面敗訴したからといって、ネトウヨ連中の心象が悪化した程度で、別に日豪関係にヒビが入ったわけではありません。それどころか、つい先日安倍首相がダーウィンを訪問、安全保障面での協調をはじめ良好な関係を築けているのです。相手が韓国だからといって、それができないはずはありません。国民のほんの一部にすぎないネトウヨや政府部内の産経シンパがいくら感情的に韓国を毛嫌いしているからといって。違うのですか、安倍首相? 河野外相?
 応訴するしないいずれの対応を取るにせよ、韓国側はきっとこのクジラカードを使ってくるでしょう。以下の拙記事で解説していますが、元産経のジャーナリスト・木村太郎氏が「傍聴席に陣取った韓国大使」として紹介しているとおり、韓国政府は日本政府の国際訴訟対応のまずさをしっかりウォッチしていたのですから。

■元産経木村正人氏もやっぱりトホホ反反捕鯨記者
http://kkneko.sblo.jp/article/73531621.html
■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる(再掲)
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html
■安倍政権が総力戦で臨んだクジラ裁判の行方 ('13/8/26,ヤフーニュース)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20130826-00027574/

 日本政府/企業は戦時中の振る舞いそれ自体を真剣に反省し誠実に対応すべきですし、ヒトの権利について日本人あるいは中国人と韓国人との間に線を引くことはあってはなりません。それこそ、ジゾクテキリヨウなどよりはるかに重要な原理原則のはずです。
 とはいえ、本川一善氏や森下氏をはじめとする歴代の水産官僚、日本捕鯨協会&共同船舶、捕鯨族議員らが、国際法を遵守するという国家として貫くべき道理を捻じ曲げるまねさえしなければ、日本の受けるダメージはもう少し小さなものとなっていたでしょうにね・・。

 余談ですが、以下は韓国ではなく日本が国際的イメージダウンを強いられる、産経や外務省幹部(?)の想定と逆のパターンについての考察。日本が狡い手口で国際裁判から逃げたため、日本の対外イメージはもう落ちるとこまで落ちちゃいましたけど。

■捕鯨ニッポンが最悪のドツボにはまる可能性
http://kkneko.sblo.jp/article/93046598.html

 ところで、河野外相の「あらゆる手段を取る用意がある」、菅官房長官の「あらゆる選択肢を視野に」って、どこかで聞いたことがあると思いませんか?
 そう、谷合農水副大臣がIWCブラジル総会の最終日にぶった中途半端な堂々退場演説あらゆるオプションを精査せざるを得ない」

■「さらばIWC! 捕鯨ニッポン堂々退場ス」!? 江島議員発言の真意は?
http://kkneko.sblo.jp/article/184709374.html

 先月には水産紙等で自民党捕鯨議連が国際捕鯨委員会(IWC)脱退の方針を「固めた」かのように報じられましたが、調査捕鯨利権関係団体の抵抗もあり不透明になっている模様。自民党議連・水産庁は年末に方針を示す旨明らかにしていますが、蓋を開ければ「なあんだ、またハッタリか」で終わってしまうかもしれません。
 徴用工判決についても、韓国大法院判決について、また提訴した場合のICJの判断について、事前に分析することはいくらでも可能だったはず。あるいは、こちらも「薮蛇になりかねない」と見送られ、河野外相の勇ましい発言もいつのまにか「聞かなかったことにしてくれ」ということになるやもしれませんね・・。

 日本の捕鯨外交の異常さには、昨今の日本の外交全体の歪みと稚拙さが端的に表れているといえます。国際交渉の中で議論を主導したわけでも、具体的成果があがったわけでもないのに、御用メディアが勝手に持ち上げてくれるため、目立つのは内向きのパフォーマンスばかり。居丈高で独善的な姿勢では捕鯨外交が突出していますが、それ故に返ってさまざまな矛盾が露呈する形になっています。存在感を示せているのは、漁業・野生動物関連国際会議でのヒール≠チぷりだけ。
 公明党谷合氏や自民党江島氏ら捕鯨族議員は、自分たちがIWCでの「共存」を訴えたのにあたかも反捕鯨国のせいで失敗したかのように主張しています。しかし、日本提案の中身は「共存」とは程遠く、IWCでは仲良しのハズの韓国やロシアにも棄権されてしまった代物。
 橋渡し*を自認しながらまったくその役割を果たせていないのは、核廃絶の文脈でも、貿易ルールの文脈でも同じ。
 唯一の被爆国として核廃絶こそ国民の悲願であり、一方では核大国米国と強固な安保同盟関係にある日本として、双方を取り持つことはまったくできていません。国連軍縮総会で決議案を出しても、核保有国には冷たくあしらわれ、核兵器禁止条約加盟国からもクレームがつく始末。捕鯨外交で太地町や下関市を手厚くバックアップするくせ、広島市や長崎市をサポートしようとはしませんでした。
 自国の産業界にとっても一大事でありながら、米中の橋渡しにも失敗し、APECは宣言を出せず。NHKや産経等の国内メディアはまるで中国習近平主席と「握手した」ことがすばらしい外交成果であったかのように誉めそやしていますが。
 対韓国とは対照的におもねってばかりの対米・対露外交もまた然り。
 米国ペンス副大統領が「FTA」とツイートで明言しているにもかかわらず、日本政府は「FTAじゃない」と強調するばかり。食糧危機になったら何一つ役に立たない捕鯨推進の口実に食糧安全保障を掲げながら、一次産業を衰退させ自給率を下げる方向へとまっしぐら。
 安倍首相は露プーチン大統領とのジョーク外交≠継続中。やはり提灯メディアは安倍外交の成果を謳っていますが、二島先行返還もプーチン氏本人にはその気なし。欧米の経済制裁対象になっているにもかかわらず、その彼の側近が経営する国営石油会社に安倍氏は国民の年金を貢ぐ気でいるとの一部報道も。
 ちなみに、北方領土周辺海域では日本は調査捕鯨を実施していませんが、科学的根拠は何もなし。中国と韓国の徴用工への対処方針と同じく、豪州南極海サンクチュアリとのダブスタの謗りは免れません。
 海洋プラスチックごみ対策でも他の先進国に周回遅れ。サンマをはじめとする国際漁業資源管理でも、日本はリーダーシップをとれず。
 そんなのばっかり。
 自分たちがICJでボロ負けした事実をコロッと忘れ、ICJ判決に続きワシントン条約常設委員会でも2回目の国際法違反認定を受けた事実も眼中になく、「韓国の異常性を世界に知らしめてやるのだ」と胸を張れてしまうのは、もはや深刻な社会病理現象といったほうがいいでしょう。
 いい加減日本スゴイ病≠治療し、韓国や反捕鯨国を見下す前に、自分たちの至らなさと素直に、謙虚に向き合うことこそ、いま私たちに求められているのではないでしょうか──?
posted by カメクジラネコ at 16:30| Comment(1) | TrackBack(0) | 社会科学系

2018年10月18日

「さらばIWC! 捕鯨ニッポン堂々退場ス」!? 江島議員発言の真意は?

 9月の国際捕鯨委員会(IWC)フロリアノポリス総会、10月のワシントン条約常設委員会(CITES-SC)ソチ会合と、ボロ負けが続いた捕鯨ニッポン。
 IWC総会で日本提案が否決された直後、政府代表として出席した公明党谷合農水副大臣は「あらゆるオプションを検討する」と表明。脱退への含みを残しつつも、一方で「IWCの可能性を信じ、引き続き様々な形で協力していく」とも発言。かつて国際連盟脱退時に松岡洋右全権代表がぶったパフォーマンスほど内外の受けは芳しくありませんでした。
 その理由は歯切れの悪さのみならず、脱退を示唆したのが今回が初めてではなかったからです。つまり、「またか」と真剣に取り合われなかったわけです。
 日本がこれまで繰り返し掲げてきたIWC脱退フラグ≠ィよび脱退した場合どういうことになるかについては、環境・漁業政策に通じたおなじみ早大客員准教授真田氏が非常にわかりやすく解説してくれていますので、そちらをご参照。

■国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案|真田康弘のブログ
https://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-09-15

 ところが……CITES-SC会合が終わってまだ日も浅い10月15日、IWC脱退の是非をめぐる新たな情報が飛び込んできました。

■「IWC脱退すべき」江島参院議員、下関で総会の報告 (10/15, 山口)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2018/1015/1.html
■IWC脱退を強調 江島参院議員、捕鯨再開へ持論 (10/16, みなと)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/84737
■江島参院議員「IWC脱退」を主張 「国内の産業守るため」 対応など不安の声も 総会報告会(10/16, 毎日山口版)
https://mainichi.jp/articles/20181016/ddl/k35/020/315000c
■自民の捕鯨議連、IWC脱退意向 下関、幹部ら総会報告 (10/16, 朝日山口版)

 注目すべきは、発言したのが江島議員であること、場所が下関であること、そしてその内容
 まず、江島参院議員は自民党捕鯨議員連盟の副幹事長にして同党水産部会長。ただ名前を貸しているだけではなく、積極的に実務をこなしてきた筋金入りの捕鯨族議員。ブラジルまで乗り込んだり(自民党国会議員は江島氏、浜田氏、鶴保氏の3名)、昨年他の重要懸案を差し置いてあっという間に成立した美味い刺身*@(調査捕鯨実施法)の立案に携わった中心人物でもあります。
 そしてもう1つ。いわゆる捕鯨族議員には、沿岸捕鯨地である北海道・和歌山等の地元選出議員と、国が実施する公海調査捕鯨の業界方面とよりつながりが深い議員と2タイプありますが、参院山口選挙区選出の江島議員は後者。元大手捕鯨会社大洋のお膝元であり、捕鯨母船日新丸の母港誘致化を国に積極的に働きかけてきた下関市の元市長でもあります。それも、2002年のIWC下関総会当時の在職。
 ゴミため掲示板で純外野の反反捕鯨狂人が江島氏をしきりに攻撃しているようですが、同氏が最も業界事情に通じ、また捕鯨サークルのために最も汗水流してきた国会議員であることは論を待ちません。
 その江島氏が一連の発言をしたことは、非常に意味深といえます。
 以下は上掲各紙が報じた江島議員の発言のうち注目箇所(引用)。それ以外のIWC批判の部分は特に目新しいものではなし。

「南極海は諦めなければならないので、通年で北半球で操業するようになるだろう」
「自民党としては脱退するつもりでいる」
「年内に脱退を通告すれば、来年6月末に脱退できる」
「調査捕鯨すら次どうなるか分からない。日本が堂々とIWCを脱退し、商業捕鯨を再開する機会は今だ」

 正直、筆者は一瞬目を疑ったほどです。
 南極海捕鯨が不可になるのは国際法規上当然の帰結であり、「オプションを精査」するまでもなく、とっくに知られていたことでした。これまで捕鯨サークルに近い筋から発せられてきた脱退論は、国民に対してその事実を伏せたまま説かれていたわけです。外野のそれは単に無知なだけですけど。
 ところが、今回は捕鯨サークルに最も近いところにいる自民党議員の口からじかに「南極海は諦めなければならない」との言葉が飛び出したのです。
 美味い刺身法$R議中、自由党山本太郎参院議員が反対質問の中で南極海からの撤退を促したことはありましたが、賛成派の国会議員が南極海捕鯨断念に言及したのは初めてのこと。具体的なスケジュールが上ったのもやはり初めて。
 さて、ハッタリとは何でしょうか? それは交渉を有利に進めるために相手を惑わす見せかけの言動。その気もない嘘をつくことで何らかの成果を得ることを目的としているわけです。
 例えば、沖縄県知事選挙で米軍基地の県外移設を訴えて有権者を安心させ、当選してから態度を翻した仲井眞元知事の手口などがそれに当たるでしょう。
 しかし、今回の江島発言がもしハッタリだとすれば、誘導する対象は誰なのでしょう? 国内向けか、それとも国外向けか。捕鯨賛成派なのか、あるいは反対派なのか。
 捕鯨推進派の従来のハッタリは、確かに二重の意図を含んでいました。
 ひとつは、対立を演出することで保守的な国内シンパの煽情的な支持をとりつけるため。まさに文字通りのハッタリ。もうひとつは、IWCでちらつかせることで反捕鯨国の譲歩を引き出すため。前述のとおり、無駄に繰り返したことや、実際に沿岸と公海のバーター提案があっても肝心の日本側が応じなかったこともあり、こちらは効果がなかったわけですが。
 しかし、よりによって地元の下関市で、それも「南極海調査捕鯨支援の会」主催の報告会で、不安をそそるだけのハッタリをかますことが、江島議員にとって、あるいは自民党にとってどんなメリットがあるというのでしょう? 報告会参加者の口にした「不安」に対しても、江島氏は「再開する機会は今しかない」と言葉を濁すのみで、考え直す姿勢は見受けられませんでした。
 単に国内の反応を推し量るための観測気球≠ニいうわけでもなさそうです。
 なぜなら、江島氏は「党ではなく、あくまで私自身の私見だが」と前置きもしませんでした。それどころか、上掲のとおり、脱退は自民党/捕鯨議連としての総意である旨発言したのです。 
 もし観測気球≠打ち上げるのであれば、「地元の沿岸捕鯨を守るため」という言い訳も立つ、野党の徳永議員辺りにその役を押し付けるでしょうね・・。
 外交上のブラフ、すなわちIWCの反捕鯨国に対する牽制の意味はどうでしょうか? オーストラリアやブエノスアイレスグループを慌てふためかせ、思い切った譲歩を引き出す作戦??
 それも考えにくいことです。
 なぜなら、交渉の場がないからです。
 次回のIWC総会は2020年。谷合副大臣の発言の趣旨に則り、2年後の総会の場で「オプションを精査した結果、わが国としてはやはり脱退しかないとの結論に至りました。それで(もう本当に妥協の余地はゼロだという理解で)いいですね?」と反対陣営に迫るのが、正しいハッタリのかまし方≠ニいえるでしょう。
 ところが、江島氏の示したスケジュールに従えば、肝心のIWCの場で加盟各国と折衝する暇もなく、バタバタと勝手に脱退することになってしまいます。
 カードを切る前に、ターンが回ってくる前に、席を立ったまま勝負を投げ出して帰ってこないというパターン。
 これではまったく外交カードとしての意味をなしません。
 一部報道や、公明党の捕鯨族議員横山氏のブログ上の発言などから、対ユネスコライクな兵糧攻め=A分担金減額作戦も「オプション」には含まれていたようですが、このカードを使う間もなし。
 おそらく、全額未払だと投票権を失うだけでメリットがなく、結局効果が見込めない。それならやめても同じこと──という判断なのでしょうが。

 これまでの、ただ騒ぎ立てるだけに留まっていた脱退ムードと明らかに違うのは、江島氏の下関報告会の前に開かれた自民党捕鯨議連の報道からもうかがえます。

■IWC脱退論が噴出 反捕鯨国の強硬姿勢に自民党捕鯨議連 (10/9, みなと)
https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/today
■「IWC脱退含め見直しを」 自民会合、商業捕鯨めぐり議論 (10/6, 朝日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13711404.html

 捕鯨議連最古参の1人である鈴木俊一会長が、過去の脱退検討時には外務省と官邸が非協力的だったと内幕を明かした一方、会合に出席した外務省幹部も歩調を合わせて「党と政府一体で対応する」と積極姿勢を見せており、頓挫してきた今までとは違うぞ、今度こそ前進させるんだ、との姿勢を誇示しています。
 ICJ判決の前、水産庁が老朽化した日新丸の改修のために1年の休漁を検討した際、「けしからん」と官僚を叱りつけ、乗員をリスクにさらし調査期間を遅らせてでも突貫で改修工事をやらせて出漁させた、泣く子も黙る自民党捕鯨議連が、本気度を見せつけたわけです。

 あるいは、江島議員の発言の裏には、ハッタリをかます余裕などないほどの、もっと重大な裏事情があるのかもしれません。
 美味い刺身*@の成立を受け、今年度には老朽化した日新丸に替わる代替捕鯨母船の調達の検討のための予算が組まれました。そのとき、鯨研関係者が、夏季の運用を念頭に置いた漁業資源調査兼用の多目的船に言及しています。イワシクジラ調査捕鯨がCITES違反により出来なくなる可能性が高いことは、この時点ですでに認識されていたわけです。
 裏作≠フ主力・北太平洋イワシクジラの捕獲が不可能になったことで、公海調査捕鯨はそれを支えていた二本柱の1つを失ったわけです。
 不採算事業の公海調査捕鯨を多額の財政出動により何とかここまで延命させてきたものの、ついに限界に来たということでしょう。このうえ、莫大な経費がかかる母船新造に加え、失うイワシ鯨肉収入分を毎年公費で補填するやり方では到底もたないと。
 そのことを強く示唆しているのが、江島議員の「調査捕鯨すら次どうなるか分からない」との発言。これは必ずしも法的にという意味ではなく、裏作≠ェ不可能になって調査捕鯨の運用体制が持続″「難になったという趣意に違いありません。(古参の議員たちがその辺をちゃんと理解できているかはやや心もとないですけど・・)
 そしてもうひとつ。前回の記事でお伝えした、CITES-SCの裁定を受けた後の日本捕鯨協会の「自分たちは国際条約に違反していない!」との、現実を受け止められない、悲鳴に近い嘆き節がすべてを物語っているのかもしれません──。
 復興予算流用、儲かる漁業、ICJ判決無視のための国連受諾宣言更新、刺身新法と、これまで可能な限りの手を尽くしてくれた大恩ある自民党議連の江島氏に「調査捕鯨の先も見通せない」「南極はあきらめるしかない」とここまではっきり言われてしまうと、頼りきってきた共同船舶/鯨研/捕鯨協会としても、さすがに黙り込むしかないのでしょう。
 脱退を決断した折には、共同船舶の上役はともかく、日新丸の乗組員の皆さんへの補償・転業支援のための予算をきちんと組んで欲しいもの。これまで捕鯨対策予算を下回っていた漁業全体の資源管理・調査予算が新年度からようやく上乗せされましたが、調査船を使った事業を拡大することで、再雇用先を創出し、日本の水産業の発展に真に貢献してもらうことも可能なのではないでしょうか。

 筆者自身は今までになく現実味を帯びていそうな感触を持っていますが、もちろん今回の「脱退」がブラフである可能性も依然として残っています。
 ブラフというより、目指しはしたものの、スケジュール的に来年6月までには間に合わないという場合もあるでしょう。
 公海母船式捕鯨を断念するとしても、国連海洋法条約の縛りがあるため、沿岸・EEZで商業捕鯨を再開するためには、ノルウェーやアイスランドが組織したNAMMCO(北大西洋海産哺乳動物委員会)の北太平洋版に相当する新たな国際管理機関を立ち上げる必要があります。
 北太平洋での国際管理機関となれば、最低でもロシア・韓国(捕鯨支持ながら総会で日本提案を棄権)、中国(同じく欠席)、そして米国やカナダの合意を得て、6月までに協定を結ぶことができるかが鍵になるでしょう。
 同海域で曲がりなりにも商業捕鯨の対象となり得るのは、先のIWC総会で捕獲枠ゼロ解除を要求したミンククジラくらい。その捕獲枠は、やはり日本自身が前々回の総会で提示した「太平洋岸で17頭」ということになるでしょう。さすがに脱退したからといって、口うるさく唱えてきた科学≠フ錦の御旗を引っ込め、チューニングして割り増しというわけにはいかないでしょうしね。
 それも、江島氏いわく「捕鯨文化を守るためには致し方ない」こと。
 まあ、捕鯨業者の中にも、再開の念願さえかなえばそれでいいと思っているところもありそうですし。

 一方、IWCはどうなるでしょうか?
 日本の財政負担がなくなることで空中分解、消滅の危機!?
 いや、たぶんそうはならないはず。
 EUと英国、ユネスコや国連万国郵便連合と米国も何やらすったもんだしていますが、EUやユネスコ以上に大きなダメージを受けることはないでしょう。
 日本の調査捕鯨のせいでこれまで余計な負担を強いられていた部分もあるのですし。
 POWER(日本とIWC共同の北太平洋鯨類目視調査)をどうするといった問題もありますし、日本の声かけで入っただけの支持国の間では混乱は否めないでしょうが。

 そうはいっても、筆者としては日本が引き続きIWCに留まり、あるいは脱退したとしても早期に再加盟して、国際貢献し続けてくれることを願ってやみません。環境省とウォッチング業界・自治体の横断組織にバトンタッチしてもらったうえで。水産庁も一緒に残ったほうがいいでしょうが、捕鯨セクション以外で・・。
日本はいまや座間味、小笠原、知床等全国各地で、ハワイやフロリアノポリスに負けず、ホエール・ウォッチングが盛況なWW大国の1つ。IWCで持続的なWWのノウハウを提供し、共有することができるはずです。
 そしてもう1つ。この前のIWC総会では「生態系において鯨類の果たす役割を解明する作業を推進する」決議が可決されました。残念ながら、日本はこの決議にも反対する非科学的な態度を示してしまったのですが。非消費的利用による直接的な恩恵のみならず、鯨類は炭素固定、低緯度や表層海域への栄養塩類供給による生産力向上等の形で多くの生態系サービスをもたらしてくれます。気候変動、プラスチック・有機塩素・重金属汚染、音響・船舶交通の増加等、鯨類を取り巻く海洋環境の悪化に適切に対処し、保全することは、漁業を含む人類の福利に必ず貢献するはずです。
 昔から、八戸や三崎や高知など各地で、クジラは魚を追い込んでくれたり、魚群の居場所を知らせてくれる恵比寿様として大切にされてきました。巷でもてはやされるクジラ食害論に科学的根拠はありませんが、クジラを大事にすることが漁業にとっても恩恵をもたらすことには、きちんとした科学的な裏付けがあるのです。
 表層の浮き魚を中心にした海面漁業の対象種には、魚種交代のメカニズムが働き、漁獲量が極端に乱高下して安定しない、食糧生産・漁業経営の面からは困った性質があります。実は、その時々に多い魚種を摂餌するクジラは、魚種交代の変動の振幅を緩やかにし、豊漁貧乏になったり、減りすぎるのを抑制してくれるのです。
 以下の図は魚種交代のシミュレーションにクジラ(選択的に摂餌する捕食者)の存在を加えた結果(わかりやすくするために効果を少々オーバーに見せています)。
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 元ネタはこちら。

■生態学第14回「魚種交替現象」(2001年9月20日)
http://minato.sip21c.org/oldlec/ecology_p14.html

 日本の捕鯨賛成派からはクジラを過保護に守りすぎと揶揄されるオーストラリア、ニュージーランド、米国等反捕鯨国の方が、せっせとクジラを殺している日本より海が豊かなのが何よりの証拠。
 IWCに残り、各国からクジラの保全について学ぶことは、乱獲の果てに疲弊しきっている日本の漁業を持続的に上向かせるためのヒントをきっともたらしてくれることでしょう。
posted by カメクジラネコ at 19:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系