2017年01月27日

南極海捕鯨プロレスに異変!?/北方領土問題とクジラ

◇南極海プロレス(日本捕鯨船団VSシーシェパード)に異変!?

 米国で史上稀に見る粗暴な政治家が大統領に選ばれ、ポピュリズム・一国至上主義が一層勢いを増しそうでなんとも憂鬱な気分になります。
 とりわけ深刻なのが、世界各国が協調して取り組まないことには解決が望めない地球環境問題。
 温室効果ガス排出国トップ2の米中が手を取り合って真剣に取り組む姿勢を示したこと自体大きな前進といえたのに、そのパリ協定から離脱ということになれば影響は計り知れません。
 野生生物問題もまた然り。
 生きものたちはニンゲンが勝手に引いた国境線を越えて行き来しますし、その製品(生体含む)も船や飛行機で本来の生息場所とはかけ離れた場所へ運ばれます。よその土地や海の自然に対する消費国の責任はきわめて重大。どの国もトランプ大統領に右へ倣えしてエゴをむき出しにすれば、野生動物たちはますます追い詰められることでしょう。
 TPP撤退は地球環境にとって唯一のプラス材料かもしれませんが、米国は環境負荷を下げたり多国籍企業に環境規制を反故にさせないためにTPPを脱けるわけではありませんから、自国にさらに有利な条件で負の部分だけ引き継いだ二国間の貿易協定を結ぼうとするでしょう。そうなったら、どっかの国はいち早く手を挙げそうですし・・ていうか、もう挙げつつありますが。。
 米国の政権交代はクジラたちにとっても逆風となりそうな気配。
 地球温暖化は中国のでっち上げ、ホワイトハウス伝統のファーストドッグも置きたがらず、息子はトロフィーハンティングが趣味というトランプ氏のこと、公海のクジラを守ることの優先順位はこれまで以上に下がりそう。「TPPなしでも米国産牛肉どんどん買いますんで、どうか南極海での捕鯨はお目こぼしを」と日本政府が持ちかければ、二つ返事で乗っかってしまうかもしれませんね・・。
 何より、トランプイズム:ポピュリズム&一国至上主義を日本でそっくりそのまま体現しているものこそ、反反捕鯨にほかなりません。
 わかりやすい敵≠ニスローガンを掲げ、憎悪を煽動する手法も見事にかぶっています。マスコミの抱きこみと大本営化に関してはまだ米国の方がマシといえますが、今後どうなるか心配。

 さて、その捕鯨ニッポンがわかりやすい敵≠ノ設定し、対立を演出することで共存共栄の関係を築いてきた相手であるシーシェパード(SS)、昨シーズンは南極海に船を出しませんでしたが、今回は新造船の投入を宣言。今月に入ってついに日本の調査捕鯨船団を捕捉し、ヘリから撮影した母船日新丸上のクジラの死体の映像を世界中に流しました。折しも、当の安倍首相とターンブル豪首相の首脳会談があったばかりのタイミングで、オーストラリアを中心に各国のメディアが報じました。

■Japanese ship Nisshin Maru found in Australia waters with dead whale on deck: Sea Shepherd (1/15,ABCニュースAU)
http://www.abc.net.au/news/2017-01-15/japanese-ship-nisshin-maru-dead-whale-found-sea-shepherd-says/8183856
■Japanese whaling criticised by Government in wake of Sea Shepherd footage, Shinzo Abe visit (1/16,ABCニュースAU)
http://www.abc.net.au/news/2017-01-16/japanese-whaling-criticised-by-government-sea-shepherd-footage/8184640
■Japan criticised after whale slaughtered in Australian waters (1/16,ガーディアン)
https://www.theguardian.com/environment/2017/jan/16/frydenberg-criticises-japan-after-whale-slaughtered-in-australian-waters

 中国・台湾メディアもご覧のとおり。

■日漁船偷偷在南極捕鯨 (1/15,中國報)
http://www.chinapress.com.my/20170115/%E6%97%A5%E6%BC%81%E8%88%B9%E5%81%B7%E5%81%B7%E5%9C%A8%E5%8D%97%E6%A5%B5%E6%8D%95%E9%AF%A8/
■日罔顧反對聲浪續捕鯨 澳洲:深感失望 (1/16,大紀元)
http://www.epochtimes.com/b5/17/1/16/n8708415.htm
■無視國際法庭禁令 日漁船於南極再偷捕鯨魚 (1/15,自由時報)
http://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/1948441
■日船闖澳海洋保護區 再被拍到偷捕鯨 (1/19,環境資訊中心)
http://e-info.org.tw/node/202545

 ところが、当事者である日本の大手メディアによる報道は日経の1本のみ。ただし、アジアニュースのコーナーなのでこれもオンライン版のみと思われます。いつも騒ぎ立てる産経を始め、なぜか各紙とも沈黙を守りました。

■豪、日本の調査捕鯨を批判 反捕鯨団体が捕獲写真公開 (1/16,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM16H1X_W7A110C1EAF000/

 不可解なことに、NHKと毎日新聞はタイムリーでも重要でもない捕鯨関連報道を前後に流していたりするのです。

■捕鯨支持国拡大へ注力 IWC総会にらみ (1/9,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20170110/k00/00m/020/107000c
■調査捕鯨計画案 約100頭増 (1/17,NHK 北海道 NEWS WEB)
http://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20170117/5641421.html (リンク切れ)
http://archive.is/3rpkE

 毎日の方は共同配信で同記者が水産庁担当者から聞き出しスクープにした模様。従来から続けてきた抱き込み捕鯨外交を強化するというものですが、目新しいものとまでは呼べません。
 NHK北海道に至っては、昨年11月に水産庁がリリースを出し、他紙がとっくに取り上げたことだけ。年が変わって出す理由は皆無。
 他の日本語での報道は以下の海外メディアや通信社のものばかり。

■日本の捕鯨船、南極海でミンククジラ殺害と 豪政府批判 (1/16,BBC)
http://www.bbc.com/japanese/38633486
■シー・シェパード、調査捕鯨の写真公開 「IJC判決後初」 (1/16,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3114239
■豪環境相、日本の南極海での調査捕鯨再開を批判 (1/16,ロイター)
http://jp.reuters.com/article/australia-japan-whaling-idJPKBN1500TB
■安倍訪豪直後に連邦政府、日本の調査捕鯨を批判 (1/16,日豪プレス)
http://www.afpbb.com/articles/-/3114239
■日本、捕鯨禁止に違反、シーシェパードが摘発【写真】 (1/16,スプートニク)
https://jp.sputniknews.com/life/201701163242969/
■日本の捕鯨船にクジラの死骸か、シー・シェパードが写真公開 (1/18,CNN)
http://www.cnn.co.jp/world/35095164.html?ref=rss

 スプートニクが全然関係ない破裂寸前漂流クジラの画像を貼っ付けたのはご愛嬌として。。。
 いわゆる大手マスコミ以外でこの一件を伝えたのが、下掲のビジネスニュースオンラインとハフィントンポスト。

■日本が調査捕鯨を再開、アメリカ人の見方は? (1/16,businessnewsonline)
http://business.newsln.jp/news/201701161618230000.html
 中身はRedditといういわゆる米国版2chの内容を拾ってきただけ。そんなもので「アメリカ人の見方」がわかるはずもないのですが。「○○で鯨肉売ってた」だの、日本在住の反反捕鯨ネトウヨとすぐわかる書き込みも散見されますし。。
 まあ、まともなジャーナリズムとは到底呼べませんわな。これですから。。。

 現在、ポストプロセスの日本語辞書作成のための統計処理が完了していないため日本語の作文に不具合が生じている場合があります。(引用)

■シーシェパード、日本の捕鯨写真を公開 水産庁の反論は?【UPDATE】 (1/16,ハフィントンポスト日本語版)
http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/16/whale-hunting_n_14192392.html

 こちらはハフィントンポスト日本版。水産庁と同紙記者・濱田理央氏のやり取りがあるので、詳細にチェックしていきましょう。
 まずは記事本文と4番目の質問の間違い「ICJ判決後初めての殺害」について。
 記事の誤解のもとはBBCニュース日本語版≠フ「国際司法裁判所(ICJ)が2014年に判断を示して以来、ミンククジラが殺害されるのは初めてだとしている」(引用)とみられます。が、実は各英文報道にはそのような表記がありません。「(第三者が)写真で記録したのは初めて」という意味。つまり誤訳。新調査捕鯨・NEWREP-Aが今回で2期目であるのは当然みんな知っていることです。
 水産庁の担当者は鼻高々に答えていますが、まさか海外報道に目を通していないはずはないので、意図的に記者の誤りに便乗したというのがおそらく正解でしょう。優秀な霞ヶ関官僚さんの英語力や調査力がそんなに低いはずはないですからね・・。
 記事本文、というより安倍首相の間違い「国際的に認められている種類だけを利用する」について。
 これ、まさにトランプ流の真っ赤な嘘です。トランプと同様何にもわかってないのでしょうけど。
 真っ赤な嘘といっても、商業捕鯨モラトリアムから調査捕鯨国際裁判、新調査捕鯨に至る一連の経緯を考えると、きわめて意味深。水産庁も本当は困ってしまうレベル(まともだったらの話ですが)。
 事実を言えば、「国際的に認められている種類」などというものは存在しません。
 もしそんなものがあれば、国際司法裁判所で違法判決が出るはずもなし。誰だってわかりますよね?
 商業捕鯨モラトリアムには「国際的に認められる種類を例外とする」なんて規定は設けられていません。
 つまり、国際的に認められていないものを、日本が勝手に利用しようとしているだけなのです。だからこそ、国際的な反対の声が挙がっているのです。
 安倍首相のこの発言について、もう少し掘り下げてみましょう。
 実はこのコメントは外務省の発表した共同声明の中には含まれていません。捕鯨に関しては以下だけ。

■安倍総理大臣とターンブル豪首相共同声明|外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000120556.pdf

ターンブル首相は安倍総理大臣に対し,日本が今期に南極海において捕鯨を実施することを決定したことに対するオーストラリアの深い失望を伝えた。安倍総理大臣は,新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)の法的及び科学的根拠に関する日本の立場を説明した。両首相は,日本とオーストラリアは,海における人命や財産に対するリスクとなるいかなる行動も容認しないことを改めて強調した。(引用)

 では、出所はというと、以下のフジテレビの報道の模様。そもそも日豪首脳会談自体、日本のマスコミはあまり大きく取り上げていなかったのですが。

■日豪首脳会談 調査捕鯨への過激な妨害行為に厳正な対応求める (1/15,FNN)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00347039.html

これに対して、安倍首相は、捕獲によって鯨の総数に悪影響を及ぼさないと、国際的に認められている種類だけを持続的に利用するとする、日本の立場を説明した。(引用)

 ハフィントンポストの「国際的に認められている」の一言では、読者は「なぁんだ、じゃあ別にいいんじゃん」という反応で終わってしまいそう。
 同紙記事のみでは「国際的に」が一体どういう趣旨なのか、法的にか、(自然)科学的にか、社会的にか、判然としなかったわけですが、FNN報道からはやや科学的(?)なニュアンスの発言だということがわかります。
 ハフィントンポストの濱田記者は、なぜ前半部分を端折ったのでしょうか? 時事通信出身とのことですが、時事通信といえば、いわずと知れた元国際PR・梅崎義人氏がかつて所属し、全体的に捕鯨擁護のトーンが高いメディア。まあ、記者個人の立場が常に媒体と一致するとは限りませんけど。
 いずれにしろ、「捕獲によって鯨の総数に悪影響を及ぼさないと、国際的に認められている種類」はやはり存在しません。
 もし、事実なら、モラトリアムはとっくに解除されています。日本が勝手に主張しているだけで国際的に認められていないが故に、解除されないのです。
 安倍首相の「鯨の総数」という表現も素人的ですが、「悪影響を及ぼさない」はあくまで日本の御用学者の主張。当然のことながら「捕獲によって」の部分には規制の有効性が含まれるべきで、CITES違反の鯨肉製品違法販売や、調査捕鯨の名を借りた美味い刺身*レ的の国際法違反商業捕鯨を日本が続けている以上──しかも歴史的にも大乱獲の前科があるのですから──影響がないという主張を国際社会が認めることはありえません。また、ニホンウナギも太平洋クロマグロも、近海の主要な漁業資源の半数も、持続的に利用などまったくできていないのが日本の漁業の実態ですから、「持続的に利用する」という言葉自体に何一つ説得力がないといえます。
 さらに、何に対する「悪影響」かによっても見方は変わります。炭素固定など重要な生態系サービスを担っている大型鯨類をたかが美味い刺身≠ナ少しでも減らすこと自体、悪影響には違いありません。
 ハフィントン記事中の水産庁の回答の問題点に戻りましょう。以下に1番目の質問と回答を引用。

Q:オーストラリアの海域で現在捕鯨調査をしているのでしょうか?
A:写真を公開は承知しています。実際に調査をしていますが、国際捕鯨取締条約で認められた正当な活動で、問題はないと考えています。(引用)

 見事に噛み合っていませんね・・。
 オーストラリアの指定したサンクチュアリは、同国が主張する南極大陸領土の沖合のEEZの中にあります。
 ただ、水産庁担当者の「実際に調査をしている」という発言は、SSCSが報じた位置情報が正しく、実際に同国(が権利を主張する)海域で勝手に£イ査をやっていること、またその事実を自ら認識していることを裏付けるものといえます。
 水産庁の「国際捕鯨取り締まり条約で認められた正当な活動で、問題はない」というコメントには2つの重要な内容が抜けており、補足が不可欠。
 まず第一に、国際捕鯨取締条約(ICRW)で認められた「正当な活動」と謳って日本が同海域で行ってきた前調査捕鯨・JARPAUは、美味い刺身の安定供給(by本川元水産庁長官)目的でICRWに違反した「正当でない活動」でした。「問題大ありだった」のです。同様に、NEWREP-AもJARPAU以上に問題だらけ。国際法上問題があるかどうかシンプルに判定するにはICJにかける必要がありますが、日本は正々堂々と司法判断を仰ぐのを回避するために国連受諾宣言を書き替えました。「問題がない」のであれば、そんなことをする必要はまったくなかったのです。詳細は下掲の過去記事及び『クジラコンプレックス』(東京書籍)をご参照。

■新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ
http://kkneko.sblo.jp/article/176208780.html
■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 もう一点の極めて重要な問題については後述。
 2番目の質問への回答は1番目と重複する内容で、つまり問題もやはり同じ。違法なJARPAUでの主張の繰り返しです。
 続いて、3番目の質問と回答を引用。

Q:2014年に国際司法裁判所で日本の捕鯨行為を違法とする判決が出ましたが、その後も調査を継続していることに問題はないのでしょうか?
A:確かに違法判決は出ましたが、捕獲するサンプル数の根拠が明確でないといった指摘であり、将来の捕鯨活動を制限するものではありません。2015年秋にサンプル数の根拠を明確にした新しい調査計画を作成し、国際捕鯨委員会に提出しています。(引用)

 さあ、これもトランプ流の嘘。真っ赤な嘘≠ニいうよりは、国民に与える情報を極小に留めることを意図した計算された嘘に近いですが。
 ICJが日本の調査捕鯨の違法性を断じたのは「捕獲するサンプル数の根拠が明確でないから」ではありません。大体、皆さんも「根拠がはっきりしないくらいで違法なのか?」と首をひねるでしょう。
 科学を偽装した美味い刺身の安定供給(by本川元水産庁長官)目的の国際法に反する商業捕鯨だったから、です。
 詳細に解説すると、ICJが指摘した「JARPAUで明確でなかった部分」というのは「サンプル数の根拠」ではないのです。「サンプル数が鯨種毎に食い違う根拠」。ナガスクジラやザトウクジラはほとんどあるいはまったく捕獲しなくても成果ありとしながら、クロミンククジラで桁違いのサンプル数を要求するのは科学的に辻褄が合わない。クロミンククジラのみに捕獲が偏向しているのは、本川元水産庁長官が国会で答弁したとおり、「クロミンククジラが香りや味がよいから」とみなさざるを得ない、と。このことは判決文にもはっきりと明示されています。水産庁やマスコミは国民にこの事実をまったく伝えようとしませんが。
 そして、実際のところ、NEWREP-AはICJの指摘に合わせて改善されるどころか、より「美味い刺身」に専念することで違法性がさらにアップしています。サンプル数の根拠の説明の仕方も違法なJARPAUを踏襲しており、最初に数字ありき≠フ代物です。水産庁担当者いわく「IWCに提出した調査計画」は専門家パネルでさんざんに叩かれました。日本側が大量に送り込んでいる御用学者が無理やり両論併記にしましたが。
 さらに詳細は拙ブログ過去記事及び『クジラコンプレックス』をご参照(NEWREP-Aの違法性については上掲)。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html

 もう一つの表現、「将来の捕鯨活動を制限するものではありません」も、明らかに事実に反します。舌足らずですが。
 大体、将来の捕鯨活動が調査捕鯨を指すのか商業捕鯨を指すのか判然としません。卑しくも官僚たるもの、こんないい加減な言葉遣いをすべきではありません。
 むしろ、この曖昧な表現自体が商業捕鯨と調査捕鯨の線引をはっきりさせる気がない意思の現われともいえますが。
 商業捕鯨の趣旨でいえば、要件が整わず商業捕鯨モラトリアムが解除されない以上、捕鯨活動は制限され続けます。
 調査捕鯨の趣旨でいえば、日本が「制約を受けない擬似商業捕鯨を続けるテクニック」として調査捕鯨を位置づけたのは火を見るより明らかなわけですが、ICJは判決の中で今後許可を発給する際には判決内容を考慮するよう釘を刺しました。
 事実に従えば、日本はICJによって課された国際法上の制約を無視したうえ、国連受諾宣言を書き替えることでそのことを問われないよう手を打った、ということです。
 最後の設問に関しては、おそらくSSは狙ったけど間に合わなかったというところでしょう。特にターンブルはほっとしてるでしょうね。

 ところで、水産庁は今回オンラインメディアのハフィントンポストの取材しか受けていません。記事にしようともない日本のマスコミも腰が引けていますが。
 しかもどういうわけか、CNN(上掲)に対しては、「日新丸から報告を受けるまでコメントは差し控える」(引用)と回答を避けています。なんともちぐはぐな対応。
 その一方で、水産業界紙には直前に以下の記事が。

■水産庁、シーシェパード活動HPに 「捕鯨」への関心喚起 (1/10,みなと新聞)
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/65065

 ウナギやマグロの窮状はじめ、水産庁として国民の関心を喚起すべきことは他に山ほどあるはずですが・・。
 いずれにしても、自分で「関心を喚起する」と言っておきながら、オンラインメディアには中途半端な受け答えに終始し、海外メディアに対してはコメントすら出さないという、あまりに支離滅裂な対応を取っているのです。これは非常に奇異なことです。
 なぜといって、最初に述べたように、これまで捕鯨ニッポンはSSとの対立をPRすることで国内のナショナリズムを煽り、国会議員からネトウヨまでの支持を取り付ける戦略をとってきたからです。
 シーシェパードが違法な暴力的妨害行動に打って出ず、目撃者∞監視者≠フ役割に(今のところ)徹しているのが気に食わない?
 確かに、プロレス番組で視聴率の数字を取りたい立場としては、相手がもっと過激なパフォーマンスを繰り広げてくれないと、日本のヒール≠ヤりが目立っちゃいますものね・・。

 一方のオーストラリアでは、こんな報道もありました。タイムリーというかなんというか。

■Sixteen men arrested over $60m cocaine bust on ex-Japanese whaling boat (1/18,ヤフーニュースAU)
https://au.news.yahoo.com/vic/a/34176592/sixteen-men-arrested-over-60m-cocaine-boat-bust/
■Vic smugglers shipped cocaine on whaling boat (1/19,スカイニュースAU)
http://www.skynews.com.au/news/national/vic/2017/01/19/vic-smugglers-shipped-cocaine-on-whaling-boat.html
■〔オセアニアン事件簿〕麻薬密輸組織、日本の旧捕鯨船利用も (1/24,NNA ASIA)
http://www.nna.jp/articles/show/1561641

 元日本の捕鯨船がコカイン密輸に遣われ摘発を受けたという記事。
 下のスカイニュースででかでかと遣われている画像はもろ調査捕鯨のもの。直接は関係ないですけどね・・同様に豪国内法に違反する行為なのも事実ですけど・・。
 これも、コアラが穴に落っこちたとかいったほのぼのニュースなんかよりははるかに、日本でも報じる意味のある事件のはずですが、やはり日本のマスコミは全スルー。
 この一件を日本語で唯一報じたNNA ASIAでは、以下の非常に興味深い解説を載せています。

■【有為転変】第107回 日豪と韓豪の貿易協定 (1/20,NNA ASIA)
http://www.nna.jp/articles/show/1557202

その一方で日本は、日豪EPAによる2年間の成果を検証することさえしていない。優先順位が低いはずの捕鯨にこだわり、過去の日豪友好関係にしがみつき、既得権益や規制ばかりを重視しているうちに、オーストラリアではいつのまにか韓国産ブランドが席巻していた、という事態は見たくないものだ。(引用)

 オーストラリアにとって、日本は韓国や中国と天秤にかけて計る対象にすぎません。
 南極産美味い刺身≠ノ拘泥することがどれほど日本の国益を大きく損ねる愚かな真似か、私たち日本人はもっと真剣に考え直す必要があるでしょう。


◇北方領土問題とクジラ〜お人好しすぎるオーストラリア

 北方領土とクジラといえば、最近近代捕鯨の操業当時の模様の写真がニュースになりました。日本(和人)の捕鯨会社が、捕鯨を強制的に禁止したアイヌを尻目にシロナガスを乱獲していた事実を示すものでもありますが、ここでするのは別の話。
 上掲で取り上げたハフィントンポスト記事にある水産庁コメントの2番目は、国際的に大きな波紋を呼びかねない重大な問題をはらんでいます。
 以下で何がそんなに大ごとなのかを解説しましょう。
 まず、水産庁の誤り指摘の続きから。
 国際捕鯨取締条約(ICRW)で認められた「正当な活動」という間違った前提≠フもとですが、「科学調査だから問題ない」という主張自体そもそも間違っています。
 国連海洋法条約のもとでは、EEZは資源調査も含めて沿岸国が排他的許認可権を有しています。
 たとえ本物の、条約上正当な調査捕鯨であったとしても(違いますけど)、同海域で実施する前に日本はオーストラリア政府に対してお伺いを立てなければいけないのです。同国の権利を尊重するならば。
 もう一度確認すると、水産庁のコメント「条約で認められた活動」はこの場合意味がありません。条約で認められているか否かは関係ないのです。認められていようがいまいが、日本が勝手に≠竄チていいのは公海と自国EEZ内だけ。他国EEZ(排他的′o済水域)内で調査をやろうと思ったら、当該国の許認可を得る必要があるのです。
 つまり、この場合「オーストラリアの海域だという同国の主張を日本政府は認めない。ここは公海だから我々は堂々と勝手にやるのだ」と明言するのが筋なのです。実際、日本は従来、ICJ法廷をはじめ他の場所ではそう主張してきました。裏でどっぷり癒着しているとはいえ、一応民間の日本捕鯨協会は、オーストラリアを嘲弄する態度を隠そうともしていません。
 ですから、ここで記者に「オーストラリアの海域で」と質問をさせておきながら、水産庁が歯に物が挟まったようなすり替えの回答でごまかしているのは、やはり非常に奇異なことではあります。
 ともあれ、オーストラリア側の反応からも、水産庁のコメントからも、オーストラリアが自国EEZであると主張する海域内で調査捕鯨を実施するにあたり、日本が同国に許諾を得るどころか通知さえ一切していないことは明らかです。

 実は、これは調査捕鯨のセオリーどおりの振る舞いというわけではありません。

■日本のクジラ調査船、ロシア当局が検査 オホーツク海 (2014/8/22,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3023838
(報道当時の拙解説〜ツイログ)
http://twilog.org/kamekujiraneko/date-140822

 これは3年前に起きた事件。
 調査捕鯨船団の1隻(監視船)がロシア当局に一時拿捕されたのはロシア領海内。
 ただし、この調査自体がオホーツク海のロシアEEZ内での目視調査でした。ロシアのオブザーバー科学者も乗船。
 これは旧北西太平洋調査捕鯨・JARPNUの一環として行われたものです。
 当時、日露関係はクリミア半島併合、いわゆる一方的な現状変更≠ニ制裁によって極度に悪化し、一種の嫌がらせとの見方もあります。サケマス流し網操業の禁止等、ロシアEEZ内の日本漁船操業をめぐっても、両国間は緊張状態が続いていますが。
 しかし、ロシアとの関係が冷え込んだ時期ですら、日本はロシアに対して調査実施を申請し許認可を得ていたわけです。
 目視調査ですら。
 そればかりではありません。
 まず、JARPNUにおいては、ロシアEEZ内で日本はクジラの捕殺調査を行っていません。
 オーストラリアサンクチュアリとは対照的に。
 そればかりではありません。
 問題はNEWREP-Aと対をなす新北西太平洋調査捕鯨・NEWREP-NP。NEWREP-A同様、捕殺調査の実施海域を拡大したのですが・・以下の水産庁発表の計画概要のPDFファイル、最後のページにご注目。

■新北西太平洋鯨類科学調査計画案の概要について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-2.pdf

 おわかりでしょうか?
 新調査から、いわゆる北方領土のEEZを捕殺調査の実施海域に加えたのが。
 ただし、3箇所の日本沿岸調査と異なり、沿岸12kmの領海部分は除かれていますが。
 まず、科学的な問題点を指摘しておきましょう。
 NEWREP-NPでは稀少なミンククジラJ系群の比率を調べるなどというトンチキな理由で網走沖沿岸調査を企てています。しかし、対象となるのは一時期の、回遊コースのごく狭い部分にすぎません。もし、本当にデータの精度を高めるうえで捕殺調査が必要なのであれば、一時期、狭い範囲限定の調査をもとに類推に類推を重ねるのではなく、回遊先の索餌海域となるオホーツク海で大々的な捕殺調査を行うべきです。
 それはまさに、オーストラリア(が自国のだと主張する)海域で、NEWREP-Aのクロミンククジラの捕殺調査でやっていることなのですから。
 逆に言えば、ロシアEEZに相当する海域で捕殺調査の必要がないのであれば、目視調査で済ませることができるのであれば、南極海での捕殺調査もまったく必要ありません。
 いずれにしても、網走沖調査捕鯨には下道水産に便宜をはかる以上の意味が皆無だという一語に尽きるわけですが。
 詳細は前回のブログ記事をご参照。

■史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨
http://kkneko.sblo.jp/article/177973131.html

 さて、ここで3つのEEZないし係争区域における日本の調査捕鯨の態様を比較してみましょう。
territoryj.png
 皆さんご承知のとおり、北方領土周辺EEZを実効支配しているのはロシアです。


 周辺のEEZは北方領土同様にロシアにより管理されている。(引用)

 水産庁がNEWREP-NPで計画している同海域での捕殺調査を本当にやるつもりだとしたら、間違いなくロシア政府当局に通知し、了解を得ることでしょう(あるいは既に得たか)。
 さもないと、ロシアの監視船がすっ飛んできてとっ捕まるのは目に見えてますし、ね。
 日本政府は「ここは我々の領土だ!」と拳を突き上げているわけですが、それでもロシアに断りを入れずに、自国の当然の権利として傲然と強行するとは思えません。
 翻って、南極海で日本は一体何をやっているでしょうか?
 友好国のオーストラリアが自国の領海だと主張している海域に、何の通知もなく「当然の権利だ」とばかり傲然と押し入っているのです。
 自国の領土だと主張している海域ですら、ロシアに対しては殊更に配慮しているにも関わらず、です。
 西側同盟の一員として価値観を共有しており、米国に次いで最も親密であるといわれ、両国市民の好感度も良好なオーストラリアに対する態度。
 日本も一応含まれる西側諸国とは国内の民主化・外交政策の両面で大きな隔たりがあり、価値観を共有しているとはいえない国、しかも領土をめぐる軋轢を直接抱えている相手でもあるロシアに対する態度。
 両者に対する日本の待遇に、どれほど途方もないギャップのあることか。
 ICJ判決無視や国連受諾宣言書き換え、そしてこの極端な外交のダブスタに象徴される美味い刺身″ナ優先の日本外交が、いかに世界の人々から奇怪なものとして受け入れられることか。
 硬直的な捕鯨推進政策が一体どれほど大きく日本の国益を損ねていることか。
 今こそすべての日本国民が真剣に考えるべきときです。

 同時に、これはオーストラリア国民にもいえることです。

■日豪首相が会談、多彩な連携 「TPPの早期発効目指す」 (1/16,NNA ASIA)
http://www.nna.jp/articles/show/1558658

■捕鯨問題では双方が要請
一方会談では、安倍首相が調査捕鯨についての日本の立場を説明し、反捕鯨団体による妨害行為について予防や厳正な対処を要請。ターンブル首相は捕鯨に反対するオーストラリアの立場を説明したのみで、日本の要請を受け入れると明言しなかったという。
ただ、ターンブル首相は会談後、日豪関係について「喜びも悲しみも共有する友人(all―weather friend)」と表現し、捕鯨問題が日豪関係全体を損ねるものではないと話した。(引用)

 ターンブル首相のこの発言はあまりにも人が好すぎます。
 「おまえたちがやってることは友人に対してしていいことじゃない」と、はっきりと口にすべきでした。
 日本がオーストラリアのサンクチュアリでやっていることは、日本人を被害者≠フ立場に置き換えるなら、「国立公園に指定されている知床沖に、南半球の国が勝手に浸入し、好き放題密漁をやっている」のと同じ。
 日本でいえばツルやハクチョウに相当する、市民の愛でる野生動物を「美味い刺身≠セ」といって殺され、国家としての主権も踏みにじられながら、うわべだけの友人関係を演出することが、一体どうして国のためになるでしょう?
 オーストラリアの人たちの悲しみを、日本人はまったく共有してなどいないのです。少なくとも、霞ヶ関と永田町にいる連中は。
 捕鯨ニッポンどれだけオーストラリアとその市民をバカにした態度をとっているか、今こそはっきりと認識するべきです。


関連:(たまたま検索していて引っかかりました・・)
■一九四六年十一月に外務省が連合軍総司令部に提出した北方領土問題についての調書
http://www.ne.jp/asahi/cccp/camera/HoppouRyoudo/HoppouShiryou/S1/194611GaumushouChousho.htm
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2016年12月08日

史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた乱獲海賊捕鯨


 11月9日、マスコミ報道が米大統領選一色に染まる中、こっそりとまぎれ込むように流れた1つのニュースが内外の捕鯨問題ウォッチャーに衝撃をもたらしました。

■政府、捕鯨計画100頭増 北西太平洋 網走沿岸でも調査 (11/8-9,北海道新聞)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/economy/agriculture/1-0336135.html
■北西太平洋で314頭=調査捕鯨の新計画案−政府 (11/9,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016110900941&g=eco
■調査捕鯨、政府が年100頭増の計画 対立深まる恐れ (11/9,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASJC9551VJC9ULFA016.html
■捕獲314頭に増加 北西太平洋・新計画案 (11/9,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20161110/k00/00m/020/111000c

 こちらが水産庁の発表。

■新北西太平洋鯨類科学調査計画案の提出について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/161109.html
■新北西太平洋鯨類科学調査計画案の概要について|〃
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-2.pdf
■Proposed Research Plan for New ScientificWhale Research Program in the western North Pacific(NEWREP-NP)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-3.pdf

 今年の漁期で終了した北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNU)を引き継ぐ形で登場したこの北西太平洋鯨類科学調査(NEWREP-NP)、きわめて大きな問題をいくつもはらんでいます。
 名称こそ、昨年度から開始された新南極海鯨類科学調査(NEWREP-A)に合わせ、「捕獲」を「科学」に置き換えていますが、捕殺数は最後の捕獲調査より約100頭・7割も増えています。
newrepnp.png
 数字以上に重大なのは、捕獲数変更のロジックの破綻。
 これまでも、日本の調査捕鯨は国際捕鯨委員会(IWC-SC)とその専門家パネルによって検証され、批判を浴びながらも馬耳東風と聞き流してきました。が、今回のNEWREP-NPは致死調査とその拡張の根拠のこじつけぶりが、NEWREP-Aを含む既存のどの調査捕鯨よりも際立っているのです。計画提案書の体裁だけは傭船の写真とカラーのグラフを並べてきれいに取り繕っているものの、計画の中身は輪をかけてずさんになっているのです。
 特に許しがたいのが、その変更内容が国際司法裁判所(ICJ)の判決直後に加えられたJARPNUの修正と真っ向から矛盾している点。真逆の主張までしれっと入っていたり・・。
 また、NEWREP-NPにおける対象鯨種と捕獲枠の変更は、ICJからきっぱり違法認定されたJARPAUとそっくりのパターンを踏襲しています。
 言い換えれば、NEWREP-NPはJARPAUと同様の明白な違法性を有しているのです。当のJARPAUの後継計画であるNEWREP-A以上に。

 先にNEWREP-NPの具体的な問題点をまとめてみましょう。

@ワシントン条約(CITES)違反のイワシクジラ捕獲大幅増
A稀少なミンククジラの日本海・黄海・東シナ海個体群(Jストック)を積極的に捕殺
B日本政府自身が主張する改定管理方式(RMP)の捕獲枠を大幅に上回る非持続的な目標捕獲数
C下道水産と伊藤議員の顔を立てる網走沿岸調査捕鯨の新規追加が示す露骨な政治的性格
Dニタリクジラ捕獲中止とイワシクジラ・ミンククジラ捕獲増にみられる違法なJARPAUとの共通性とICJ判決の蹂躙
E沖合ミンククジラ再捕獲の根拠およびレジームシフト解明の調査目的と、修正JARPNUとの間にみられる大きな不整合

 このうち@〜Cに関しては、市民団体IKANの抗議声明とブログ記事で詳しく解説しているのでそちらをご参照。

■抗議声明 「日本政府の新北西太平洋鯨類捕獲調査計画(NEWREP-NP)の撤回を!」
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/329-no-newrep-np
■対話の素地ができたって???
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-bfb7.html
■大盤振る舞い?
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-8c13.html
■地域個体群
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-13ef.html
■スロベニアIWC66(3)NGO発言
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/iwcngo-4e71.html

 ここではA、D、Eを中心に検証しておきます。
 さらに詳細を調べたい方は、以下に掲げたICJ判決ならびに修正JARPNU報告の一次ソースおよび解説と、『クジラコンプレックス』(東京書籍)を読んでください。

■JUDGMENT|WHALING IN THE ANTARCTIC (AUSTRALIA v. JAPAN: NEW ZEALAND INTERVENING)
http://www.icj-cij.org/docket/files/148/18162.pdf
■南極海における捕鯨(オーストラリア(以下「豪州」)対日本:ニュージーランド(以下「NZ」)訴訟参加) 判決 |外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000035016.pdf
■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
■Response to SC 65b recommendation on Japans Whale Research Program under Special Permit in the Western North Pacific(JARPNU) |IWC
https://archive.iwc.int/pages/search.php?search=!collection206&bc_from=themes
■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015
■検証JARPNU〜北太平洋の調査捕鯨もやっぱりガッカリだった・・|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/175081634.html

 特に注目すべきは、ICJ判決直後のJARPNU改≠ニの途方もないギャップ。まるで前計画に関する記憶が頭からスッポリ抜け落ちてしまったかのよう。
 加えて、IWC-SC/専門家パネルが多大な労力をかけたJARPNUへのレビューと各勧告を無視する内容となっています。これは国際機関と専門家に対してきわめて失礼な話。
 JARPNUの主目的は3つでしたが、NEWREP-NPでは「ミンククジラのRMPに基づく捕獲枠算出の精緻化」と「イワシクジラの捕獲枠算出」の2つに。これは南極海のNEWREP-Aの第1の主目的と同じ。
 新旧の調査捕鯨:JARPA/JARPNと南北のNEWREPとで、毎年百頭単位という規模も操業スタイルもほぼ変わらないにもかかわらず、主目的が大きく変更されたのはなぜでしょうか?
 答えは非常にシンプル。数々の問題点を指摘されたJARPAU/JARPNUの反省≠踏まえ、ツッコまれた部分は副目的・補助目的に下げ、ややツッコまれにくい「RMPの精緻化」を主目的に据えることで、致死調査の正当化を目論んだわけです。もっとも、提案書にはしおらしい反省の文面は見当たらず、追及された課題をほぼそのままスルーし、パネルが合意した一部分のみを得意満面にひけらかしていますが・・。
 ちなみに、NEWREP-Aの2番目の主目的には「生態系アプローチ」の用語が残っていますが、ターゲットをクロミンク1種に絞ったことで完全に空文化しています。
 要するに、調査捕鯨の設計そのものが、@捕鯨サークル(水産庁・日本鯨類研究所・共同船舶)が妥当とみなす「鯨肉生産量」→A「捕獲枠(サンプル数)」→B「そのサンプル数を正当化し得る口実」→Cサンプル数に合わせて調節したモデルとパラメータの提示(例:「性成熟年齢の0.1歳/年の変化率を検出」)という具合に進められているからです。彼らは「妥当」「最適」の一言で片付けてそこで説明を打ち切り、何食わぬ顔で口笛を吹きながら、《美味い刺身の安定供給》を続けようとしているのです。
 後付けで理由を探し出すのは、日本の鯨類学の第一人者である粕谷氏が当時の真相を暴露したとおり、商業捕鯨モラトリアム直後のJARPAT導入以来の伝統≠ナもありますが。
 十年一日のごとく耳垢の切片を収集するだけの致死的研究とは対照的に、日進月歩の勢いで進歩している非致死的研究ですが、年齢査定等の精度は先行する致死調査の方が現状では相対的に有利な面はあります。それが、主目的に「RMPの精緻化」を据えた理由。

 では、「RMPの精緻化」は、本当に日本の掲げる商業捕鯨再開のために必要不可欠な作業なのでしょうか?
 もちろん、NOです。
 そもそもIWCで商業捕鯨モラトリアムが採択されたのはなぜでしょうか? 答えは、商業捕鯨が文字どおり非持続的で、乱獲・規制違反/規制逃れ・密漁/密輸を阻止することがIWCにできなかったから。「甘すぎる規制と捕鯨会社の抵抗による導入の遅れが招いた乱獲」「基地式捕鯨等の規制の抜け穴」「捕鯨会社によるデータ改竄等の規制違反」「捕鯨会社も関わった密漁・密輸」。この4つに対して、日本の捕鯨業界はきわめて重大な責任を負っています。
 モラトリアムを解除するために必要な最低要件は、あまりにも当たり前のことながら、当事者である捕鯨国・捕鯨産業による真摯な反省と、過去の過ちが二度と繰り返されないように宣誓すること。乱獲・密漁が商業捕鯨そのものと不可分でないということを、世界に対して証明すること。その一環として、IWCの枠組みで確実に乱獲と違法行為を防止するための実効性のある仕組みを構築することが求められているのです。かくして、いくつものハードルが設けられたわけです。
 ハードルのひとつが改訂管理方式(RMP)でした。賛成・反対両派の科学者が喧々囂々の議論を重ねる中でようやく完成したRMP自体は、最も頑健な管理方式として、今日捕鯨以外の漁業にも活用されています。
 ただし、これは机上の理論の話にすぎません。IWCが商業捕鯨の管理に失敗した理由は、科学的な管理方式が未熟だったからだけではないのです。
 日本は商業捕鯨再開というゴールを目指すハードル競走で、まず1つ目のハードルをクリアしました。すでにクリアしたのです。1つは。
 しかし、1つハードルを飛び越えたくらいで、目指すゴールは見えてはきません。
 RMPの完成で自然科学(資源学)上の課題を克服したといっても、社会科学的に実効性のある管理体制を構築できない限り、そんなものは絵に画いた餅にすぎません。
 改訂管理体制(RMS)をめぐる議論はすったもんだの末頓挫したまま。RMSの合意が成立しない限り、RMPは適用されません。今は机上のシミュレーションをグダグダ繰り返しているだけ。つまり、日本はこの2つめのハードルを飛ばせてもらえないのが実情です。
 過去の乱獲・規制違反・密漁に対する反省がまったく見られないどころか、つい2年前まで調査捕鯨という抜け道を利用して国際法に反する罪を犯し続け、ネットでは日本の業者によるワシントン条約違反の違法な鯨肉通販がいまなお大手を振ってまかり通っている有様なのですから。ドーピング疑惑がぬぐえないので、トラックをそれ以上走らせてもらえないわけです。

 結論からいえば、いくらRMPを精緻化しようがしまいが、商業捕鯨再開の道が開けることは決してありません。
 日本が本当に¥、業捕鯨再開を目指すのであれば、やるべきことは2つめのハードルを飛ばせてもらうために、過去にドーピングをやってしまったことを正直に認めて平身低頭謝罪したうえで、今後は絶対にドーピングをしないことを宣誓し、世界に信用してもらうことです。
 ところが、いま日本がやっているのは、ドーピングについてはあくまでもシラを切り続け、1つ目のハードルの高さを自分で勝手に微調整して、「どうだ、もうちょっと高く跳べるぞ!」と何度も繰り返し跳び跳ねているだけのことなのです。まったく無意味なパフォーマンスにすぎないのです。
seichika.png
 繰り返しますが、「RMPが精緻でないから商業捕鯨が再開できない」わけではありません。一般の方々が捕鯨サークルの主張を読めば、まずそう誤解して受け止めてしまうでしょうが。
 かつての基地式捕鯨や、違法認定されたJARPAUと同様の脱法行為を繰り返している以上、NEWREP-AおよびNEWREP-NPはむしろ間違いなく商業捕鯨再開へのステップを後退させているのです。
 RMPの精緻化は対象・指標となる特性値とその精度、サンプル数の設定がきわめて恣意的で、すべて日本が勝手に決めているだけ。どのようなケースで、どれくらい精緻化すべきか≠ニいう国際的に合意された科学的基準・必要要件は何一つ存在しません。
 今回、JARPNで獲り続けてきたニタリクジラの捕獲枠をゼロにした理由も適当に言葉を並べただけ。真の動機は「鯨肉が不人気で売れなかったから」に違いありませんが・・。
 対照的に捕獲数を大幅に増加させたイワシクジラに関しては、ICJに「期限を切らずにズルズルやる調査は科学じゃない」と言われたこともあり、捕獲枠算出を急いでやりたいと言っていますが、急ぐ意味はまったくありません。急いだところで実地に適用されることなどないのですから。
 前回の総会では、ミンククジラで17頭の捕獲枠を例外的に%K用するよう求めましたが、RMSの合意とモラトリアムの解除というステップを踏まない以上、もちろん却下。例外が認められる余地はないのです。
 精緻化は、仮に商業捕鯨が再開された場合には、当然データもあがってくるわけですから、それをもとにボチボチやればいい話。獲りすぎは許されることではありませんが、枠に満たないからといって責めを負う漁業はありません。鯨研が債務超過に陥るほど過年度在庫を発生させ、他の一次産品とは桁違いの税金を投入して販促を促しているのが実情なのですから、供給不足を心配するのは杞憂もいいところ。
 また、RMPを精緻化する手法はいくらでも考えられます。非致死調査によっても。
 例えば、現在致死調査に割り当てられているリソースをすべて目視調査に振り向けることで、生息数と動態に関するデータの推定精度が上がり、それに従ってRMPも間違いなく精緻化できます。
 また、繁殖海域を特定することによっても、非致死調査では確定されなかった系群構造に関する解明が飛躍的に進み、やはりRMPの精緻化に寄与するでしょう。
 さらに、致死調査によるRMPの精緻化への寄与は、IWC-SCのJARPAレビューで指摘されたとおり、あくまで潜在的可能性の域でしかありません。NEWREP-Aレビュー勧告に対する日本側の回答では、クロミンククジラの2つの系群(交雑問題はまだ未解決)に対するRMP実装シミュレーション試験(RMP/CLA)をそれぞれ7回試行した結果、うち1回で年齢構成を加味した修正版のMCLA(捕獲枠算出アルゴリズム)の方がわずかながら減っています。また、100年間の保全上の枯渇リスクは1つの試行を除いてみな上がっています。公平な観点からは、(旧来の捕鯨産業にとっては)獲れる数が多いほど旨みがあり、(クジラにとっては)保全上のリスクが低ければ低いに越したことはないわけですが、「リスクが一定以下なら後者は切り捨てていい」というのが日本の言い分(SC/66b/SP/10)。
 しかし、何をもって最適≠ニするかは日本が好き勝手に判断していいことではありません。日本は国際的に合意された最もシンプルな管理方式に対し、独善的な価値観に基づく修正を加え、捻じ曲げようとしているわけですが、RMPで設定された枠からさらに減らすことこそ最適との見方も十分成り立つのです。
 法律にしろ、国際条約にしろ、時代に見合った形で条文そのものを直したり、運用を工夫して適合させていくのは当たり前の話。多額の税金を注ぎ込まなければ維持できない特定の一国・一産業のみの利益を優先せず、炭素固定や海洋生産性の向上、レジームシフトの緩和等、クジラの生態系サービスでの寄与による、漁業を含む人類の福利を最大化するために「捕獲枠を最適化する」のももちろんアリです。
 もし、日本が決着済みのRMPをこね回すのをやめないのであれば、本会議で管理方式について再度議論するか、資源学に偏っているIWC-SCに保全・生態系サービスに関わる研究者の視点を加えるべきなのです。

■Future IWC for Japan, fishery, the world and whales; the keyword is "Ebisu"
http://www.kkneko.com/english/ebisu.htm

 NEWREP-NPの主目的「RMPの精緻化」について要約すると以下のとおり。

「RMPの精緻化は商業捕鯨の再開と無関係」
「どの対象でどの程度精緻化するかを日本が好き勝手に決めており、公的・客観的な基準は何もない」
「RMPは非致死調査で精緻化できる」
「RMPの最適化≠ヘ定義次第で変わり、国際的・学際的な議論と合意がはかられるべき」

 もちろん、その真の主目的≠ヘ明々白々。調査捕鯨という形で北太平洋産美味い刺身を供給し続けること本川一善元水産庁長官が国会でうっかり答弁してしまい、国際裁判の判決文に未来永劫記されることになったJARPAUの動機と何ら変わらないのです。
 「調査捕鯨によるRMPの精緻化」は美味い刺身にとって最適≠ニいう意味でしかないのです。

 それでは、日本政府が公開した計画提案書に沿ってさらにツッコミを入れていきましょう。@〜Eの要点と「RMPの精緻化」という主目的が無意味なことを押えておけばいいので、面倒臭い方は結論まで飛ばしてください。

 提案書(PDF)は全163ページですが、ICJ判決への対応についてはP52からの別添1にまとめられています。たった4ページ。非致死調査の検証に関する記述は本文2.4、2.5および3.1.1(P16〜P24)。概略(P1〜P3)、本文3章、別添1で基本的に同じ内容が繰り返されています。
 まず、提案書の中で「IWC-SC推奨」と何やらサプリや健康グッズの宣伝じみた文言が幾度も登場しますが、そもそもSCメンバーには日本の御用学者も多数加わっています。これが常に玉虫色の両論併記の形となり、国内報道であたかもIWC-SCが調査捕鯨を支持しているかのように伝えられる理由。
 中には誤解を招く表現もあります。提案書のP1他で「JARPNU最終レビューワークショップは『将来ISTを改訂する際には年齢データを組み込むべきだ』と記した」とありますが、これは提案者日本の主張がレビューの報告文書に記載されたというだけのこと。パネルは系群構造仮説を絞り込む作業に進捗があった点に関しては合意しているものの、更なる進展には課題があると指摘しています(詳細は上掲拙ブログ過去記事のJARPANUレビュー解説)。
 要するに、致死調査に基づくRMPの精緻化には依然として未解決の宿題が積み残されており、NEWREP-AにおいてもNEWREP-NPにおいても先述した潜在的可能性≠フ範囲に留まっているわけです。

 3箇所の非致死調査の検証の部分は、いずれも「慎重に検討した」うえで「非致死的手法では実現不能」という結論を先に述べながら、その後に「非致死的手法の実行可能性を検証する」とあり、矛盾に満ち満ちています。結論が最初からはっきりしているなら、非致死調査を並行でやる必要などありません。予算と時間の無駄。
 もちろん、致死調査はポーズであり、「国際裁判所に言われたとおり、非致死調査をちゃんとやってますよ」という日本国民および国際社会の目を欺くメッセージにすぎません。対外的なイメージを気にしているだけで、その時点で科学的合理性など欠片もないのです。
 潜在的可能性≠ノ留まっている致死調査の貢献に対し、非致死調査も一般的な動物学の科学的研究手法としてはすでに十分成熟し洗練されたものになっているとはいえ、日本の掲げる主目的に照らした場合、現状では致死調査と同様潜在的可能性≠ノ留まっているのは事実でしょう。
 先行研究事例を参考に、その分野の先駆者に教えを濃い、想定した成果が得られなかった場合は手法のどこがまずかったか丹念に検証しながら、実地の運用に耐えるよう改良を重ねていくのが、常識的な科学調査のプロセスです。そのための検証であれば問題はないのですが、提案書の記述からは「言われたから仕方なく形だけやっているんだ」というお座なりな意識しかうかがえず、具体的な課題とそれを克服するためのアイディアが何も記されていません。
 2、3年ブランクがあっても影響は小さく無視できるとNEWREP-Aのレビューで専門家パネルが指摘した以上、本来であれば、「代替による致死的調査の削減≠検討する」よう求めたICJの判決の趣旨に従い、今後数年間は全リソースを非致死調査の検証と開発に振り向けるべきなのです。
 致死的手法と非致死的手法との比較考量はすべて定性的な説明にとどまっており、具体的な精度等を並べた定量的な対照表はありません。P23に意味のないチャートがありますが、非致死に「?」と入っているとおり、「実現不能」と結論を出してしまっている本文の記述とも矛盾しています。鯨研茂越氏の準備中≠フ論文からも、該当する定量的資料の抜粋もありません。レビューどころか書き終わってもいない論文を根拠に「実現不能」と結論をまとめてしまうのはあまりにも拙速にすぎます。
 そもそも、まともな比較検証ができるはずはないのです。ICJ判決後のJARPNU改≠ナ、たった2シーズン、全サンプル数の1割のみを非致死調査にあてがっただけ。致死と非致死の割合を9:1に設定する科学的合理性は何もなく、むしろICJ判決直後で国連管轄権受諾宣言の書換という荒業で国際司法の追及を逃れる手を思いつく前のことで、単に判決に萎縮≠オて捕獲数を減らすポーズを取っただけに見えます。致死調査を完全に優先し、その間に片手間でやっただけでは、まともな検証とは到底呼べません。JARPA/JARPAUは足掛け20年間、致死調査の技術自体は商業捕鯨時代からある程度確立されていたのですから、公平に双方の手法を比較するためにも、同じだけのリソースが注がれるべきです。
 現物がない茂越論文をもとに「北太平洋ミンククジラではバイオプシーサンプリングが困難だ」と、ICJ判決以前からずーっと掲げられてきたのと同じ非致死的手法を選ばない口実が述べられていますが、障害や困難を工夫しながら乗り越えることで、短期間に目覚しい発展を遂げてきた非致死的手法の今日をまるで理解していません。というより、見て見ぬふりをしているわけですが。
 提案書でも取り上げられている、主要な目的に関わる年齢査定のための代替研究の一例がこちら。

■Epigenetic estimation of age in humpback whales
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1755-0998.12247/abstract

 ヒトとマウスで開発されたこのエピジェネティクス(後天的な遺伝子の性質変化の研究)による年齢解析手法が野生動物として初めて適用されたのがザトウクジラ。日本の御用鯨類学者以外の世界中の動物学者が、この手法の登場と進展を快く歓迎することでしょう。
 DNAメチル化技術自体開発されて10年しか経っていませんが、この事例では2007〜2011にかけて採集されたサンプルをもとに研究され、論文は2014年の発表。ザトウだって決して一朝一夕に、たまたま開発できたわけではないのです。「ザトウの値は太平洋ミンクにそのまま当てはめられない」なんて理由にもなりません。それは研究者としての努力の放棄。同様のリソースを傾ければ、数年のうちにミンククジラの代謝に合わせる較正作業は十分可能なはずです。まともな研究意欲を持ち合わせた科学者なら。

 一方で、致死調査に対する批判的検証の方は一切なされていません。
 耳垢栓を用いた年齢・性成熟年齢の査定は100%完璧ではありません。標本採集・保存・加工・読み取り(顕微鏡による目視計数である意味古風な職人技)の過程で劣化・誤差が生じます。実は、北太平洋ミンクの耳垢栓の年輪の可読率は雄で45%、雌で41%でしかありません(JARPNT/U期間、p79)。同じくイワシでは63%。しかも、ミンクの沿岸調査で比率の高い未成熟ほど判読の難度が上がります。要するに、程度の問題なのです。
 北太平洋のミンクは南半球のクロミンクより縞が不鮮明。それ故に、技術改良の研究に人員と研究費が投じられてきたわけですが、それであれば、ザトウで実用化されたDNAメチル化技術をミンク用にカストマイズする作業を敬遠する理由は何もありません。
 もうひとつ、致死調査の重大な欠陥の一例を挙げましょう。妊娠雌は捕殺時に銛を撃ち込まれるショックのあまり、一種の堕胎をすることがあります。胎児は貴重な科学的情報もろとも失われます。毎漁期、こうしたデータの欠損≠ェ生じているのです。
 これは致死的手法すべてに言えることですが、経時的に膨大な情報を蓄積していく貴重な科学的資源であるサンプル=生きた野生動物を、ほんの一部の限定的な情報取得のため、瞬間的なスナップショットとして切り取るために破壊してしまう、きわめて短絡的で欠陥の大きな手法です。非致死調査で長期間にわたって追跡していけば得られたはずの科学的成果を無に帰せしめ、有用な研究のためのリソースを奪い、進展を大きく妨げているのです。
 また、非致死調査より致死調査を優先した4つの判定基準には「コストの妥当性」が入っていますが、NEWREP-Aの提案書に投げているだけで、検証結果について具体的な言及が何もありません。リンク先のNEWREP-Aの資料にも、定性的なコメントのみでコスト比較の試算結果などはやはり載っていません。
 実際には、非致死調査のバイオロギングは普及の結果コストが大幅に下がっている一方、調査捕鯨は鯨肉販売不振もあいまって税金投入が年間50億円を突破し、クジラ以外の水産研究予算の総額を上回る大きなお荷物と化しているのが事実なのです。
 日本はICJ判決で求められた、致死的サンプリングのコストの公正で厳密な相対的評価、致死を選択する結論を裏付けるだけの分析などやってはいないのです。この点1つとっても、NEWREP-NPおよびNEWREP-AはJARPAUと同じ国際法違反の謗りを免かれません。
 JARPAUを違法と認定したICJの判決では、鯨肉売却益が得られることが日本が致死調査を選好≠キる動機だと結論付けられました。そして、日本が致死調査を削減・代替するべく非致死調査の実行可能性を探る努力を払うことなく、JARPAと類似した目的でさらに捕獲数を拡大させたことを問題視したのです。JARPAUとJARPAとの関係は、目的をすり替えて捕獲枠拡大を狙ったNEWREP-NPとJARPNU改≠ニの関係にそっくりそのまま当てはまります。

 P18では、まるで手放しで賞賛されたかのごとく、JARPNU最終レビューワークショップの肯定的評価のみを取り上げています。しかし、同WSではICJ判決後のヤッツケ変更に対するあからさまな苦言をはじめ、多くの勧告が出されました(詳細は同じく拙解説記事)。別添にもそれらの勧告リストは含まれず、あるのは系群構造問題に関する日本側の補足説明のみ。そのうえ、NEWREP-NPはJARPNT/Uの拡張版じゃないんだと言い訳し、勧告のうち都合の悪いものは無視する姿勢を鮮明にしています。

 続いて、これまでJARPNUで捕獲し続けてきたニタリクジラ(修正前50、修正後25)の致死調査をバッサリ削除した理由について。P18で、ミンクおよびイワシとは違ってニタリの優先度は低いと、恣意的で定性的な、きわめて大雑把な表現でごく短く述べています。参考文献に(see in 2008)としかありませんが、これは2008年のRMP実装試験に関する第2回IWC-SC中間ワークショップで、複数の系群構造仮説についてRMPの実装シミュレーションを行った結果、4つのうち3つの仮説について追加調査の必要はない点で合意したという報告。
 
■Abundance estimate of western North Pacific Bryde's whales for the estimation of additional variance and CLA application|IWC
https://iwc.int/document_1800
■Research proposal accompanying management variant 2 of the RMP Implementation for western North Pacific Bryde’s whale |ICR
http://www.icrwhale.org/pdf/SC-60-PFI9.pdf

 2008年時点の情報に基づいてニタリクジラを殺す必要がないと判断できるなら、JARPNUでのその後の8年間の捕殺(年50頭および25頭)は不要だったということにほかなりません。
 鯨研側は「主目的が変わったんだからいいんだ」と弁明するでしょうが、致死調査の対象選択にあたって目的の方をいくらでもデザインできることが証明されたといえます。
 JARPNUレビューで日本側が提示した査読論文のうち、2008年以降ニタリの致死調査(胃内容物)をもとにして書かれたのは2012年のたった1本のみ(残りは非致死調査)。その論文の結論は「クジラの生息域は餌生物の選択と密接に関連していることが示唆された」というもので、誰でもわかる当ったり前のことを確認しただけ。
 太平洋ニタリクジラは系群構造への異論が少なくバイオプシーサンプリングの難易度が低い点で太平洋イワシクジラに近く、両者の違いはRMP/ISTが実施済みか未だかくらい。ニタリで精緻化の必要がないなら、イワシもあえて調査捕鯨を使って精緻化する必要はないはずです。
 摂餌生態の調査に関しては、カタクチイワシの占める比率が大きいニタリのほうがミンクやイワシより選択的嗜好性が高いのは確かで、それが今回致死調査不要とした理由。しかし、専らナンキョクオキアミを食べる南極のクロミンクは、当然ながら選択的嗜好性が太平洋ニタリよりさらに高いのです。動機が生態系アプローチであれ環境変化のモニタリングであれ、この大きな矛盾は致命的。
 
 クロミンククジラ(南半球) > ニタリクジラ(北太平洋) > ミンククジラ(北太平洋)
     殺さなきゃダメ         殺さなくていい        殺さなきゃダメ

 動物種のサベツがヘイトスピーチより鶴保沖縄北方相の土人発言より重大事だと考える狂信的な反反捕鯨論者たちなら、「ミンクやイワシを殺してニタリを殺さないのはジンシュサベツだ!」と吠えそうですね。
 それでも、捕獲を増やしたミンク/イワシと枠そのものをなくしたニタリとの扱いの差はやはり主観的な好み≠ニしか考えられず、サベツだとの指摘は当たっているといえるでしょう。
 そして、その真の動機≠ニして強く疑われるのは、JARPNUで調査副産物である鯨肉がニタリクジラでは前2種より不人気で、入札でも敬遠され売れ残ってしまったこと(詳細はIKA-NETニュース57号参照)。本川元水産庁長官流に言えば、「ミンクは美味いし、イワシも一部で人気があるが、ニタリは刺身にしても美味くないから安定供給の必要はない」との判断で外したというわけです。
 狂信的な反反捕鯨論者たちなら、やはり「美味いウシやミンククジラを殺して不味いニタリクジラを殺さないのはジンシュサベツだ!」と吠えそうですね。
 ニタリで必要ないのなら、クロミンクを毎年殺して胃の中身を調べ続ける必要もまったくありません。JARPAUでクロミンクに捕獲を集中させてナガスやザトウを獲らずにICJに矛盾を指摘されたのと同様、こうした科学的合理性のない捕獲対象の取捨選別は、国際裁判にかけられれば間違いなく判事にアウトの宣告を受けるでしょう。実際、高価値種と低価値種を恣意的に分けたことが、ICJ判決でJARPAUが美味い刺身*レ的の違法捕鯨として認定されるにあたって決定的な証拠となったのです。

 ASM(50%が性成熟に達する年齢)の推定については、確かに非致死的手法だとややハードルが高め。しかし、この計画書では、ASMの変化率の検出精度とサンプル数の関係について何も記されていないのです。
 大体、NEWREP-Aの捕獲数333頭は、日本の捕獲対象となる太平洋側2海区中心の2系群について、ASMの0.1%の変化率を90%の確率で検出できるサンプル数として算出されました。いかにも333頭という数字に合わせて後付けした印象がぬぐえませんが・・。
 サンプル数の差を考慮すると、南のクロミンクと北の3鯨種とで、ASMの変化率および検出率に違う値を当てていることになります。あるいは、クロミンクで333頭も捕殺の必要がないか、北の3鯨種ではASMに関して統計的に有意な結果が得られないということになりかねません。

 今回のNEWREP-NPの各鯨種のサンプル数の算出根拠は、ミンククジラ太平洋側127頭が「O系群の個体数の変化率(成熟雌1頭当りの出生率の30%の変化)を検出するのに53頭、107頭、160頭の3パターン用意した中で真ん中が一番適切だ」、同オホーツク海側47頭が「JとOの比率を調べるため、とりあえず暫定的に47にしてみた」、イワシクジラ140頭が「最大持続生産率(MSYR)を4%、自然死亡率(M)を0.05と仮定してみたら140が最適なんだ」と、見事にバラバラ(P35、別添12および別添17)。O系ミンクに関して、なぜ検出する変化率が30%でなければならないのかの説明もなし。サンプル数の設定で成熟雄が埒外なのは、非致死調査に対して雄の性成熟年齢の検出を要求していることともまったく矛盾しています。
 やはり南のクロミンクの333頭と同様、最初に数字ありきで後からこじつけたとしか思えません。
 太平洋側のうち127頭から107を引いた残り20頭はJストック。一方、オホーツク海側の47頭のうち33頭はOストックになる勘定。沿岸調査3箇所の系群比率がそれぞれ想定どおりになるとの前提付ですが、O系群における変化率を検出するなら、網走沖での33頭を加えれば沖合調査で27頭を加える必要はなくなるはずです。いずれにしても、太平洋ミンクは性・年齢に応じて回遊ルートが変わる生態を持っており、仙台沖・釧路沖の沿岸30kmのごく狭い範囲、特定の一時季に捕獲を集中させる調査設計では、捕獲対象の性比・年齢比にも大きな偏向が生じると考えられます。ランダムサンプリングとはいえない以上、年級や生殖状態に応じた行動パターンの変化等による見かけの出生率の変化を検出する可能性が生じますし、真の出生率の変化との区別もつきません。
 ニタリ削除と同様、このサンプル数が設定された真の動機≠推し量るなら、太平洋側ミンクは「2箇所の沿岸事業者のための50頭枠を維持したうえ、沖合調査再開の余地を残した」、網走沖は「下道水産と伊藤議員の顔を立てるべく、仙台・釧路沖と同等の枠を与えた」、イワシは「日新丸の積載能力から、裏作(南極海が表作)の目標生産量として妥当な線にした」といえそうです。
 もう一点補足すると、JARPNU終盤では沖合ミンクは実績としてほとんど捕獲されず、ICJ判決後はレジームシフトを口実に捕獲枠をゼロにしました。理由のひとつとして考えられるのは、鯨肉の過年度在庫を消化するための、南極産と沿岸事業者にミンク鯨肉を譲る形の減産調整。もうひとつは、311の福島原発事故直後に常磐沖で採取されたコウナゴから1万Bq/kgを超える放射性物質が検出され、仙台沖に回遊していた若いミンククジラがこれを捕食して汚染された可能性があること。高濃度の汚染が疑われる年級群もその後沖合に回遊ルートを移動させているはずなので、捕獲する可能性があったのは日新丸船団のJARPNU沖合調査だったわけです。いつごろ収束するか様子を伺っているのではないかと筆者は勘繰っています。
 いずれにしても、多くの渡り鳥のように繁殖海域と索餌海域とを往復するクジラの繁殖サイクルは年単位なので、0.1%ずつ日数でずれたりするわけでもなく、6歳・7歳・8歳ないしそれ以降に繁殖を開始する個体の割合に年毎に差が出るというだけの話。再生産は妊娠率、乳児死亡率等それ以外の要素も関わってくるのですから、単独の特性値の微妙な変化をチェックしたところで参考程度のものでしかなく、致死調査が絶対必要という根拠になどなりえません。RMPの改善には、間接的情報でしかない性成熟年齢より目視による推定個体数推移の精度を上げるほうがより有用です。

 最悪なのが、致死的な胃内容物分析を正当化する言い訳。
 非致死的手法の脂肪酸プロファイル分析は、今日では野生動物の摂餌生態調査で幅広く使用されています。
 提案書では「空間的モデリングのためにクジラが捕獲された時点の胃内容物を明らかにすることが大事なんだ」との主張が短く述べられていますが、これは稚拙なごまかし以外の何物でもありません。
 「クジラが捕獲された直前の胃内容物の情報のみしかわからないというのが正しい説明。
 彼らは「2ヶ月間のみ=A港から30km以内のみ=A特定の鯨種の胃の中身のみ£イべればレジームシフトが解明できるし、逆にそれがわからないと海洋生態系について理解できないんだ」という、とんでもなく乱暴な主張をしているのです。
 仙台沖・釧路沖の生態系は外部と切り離された独立の系で、クジラと餌生物の一部(カタクチイワシ・イワシ・サンマ等)のみから構成され、それらの種は出入りをせず、他の海の生物種との相互作用もなく、調査期間の2ヶ月以外は系が停止しているのだ、と。これでは、網走・釧路・仙台の沖の海はガラスで仕切られた実験水槽の扱いも同然です。
 クジラが餌にしている魚の捕食者にはオットセイ等の鰭脚類、各種海鳥、大型魚、イカ類他多数いますし、幼魚時代には競合種や同種の成魚、大型プランクトンも捕食者になりえます。クジラのように食性を変えるタイプもいれば、食性自体は変わらなくても生物量自体が大きく変動することで捕食量が変わってくるタイプもいます。海況の変化にも大きく影響を受けます。回遊する前や先の海域での捕食・被食関係も変化します。そうした情報を定量的に比較考量することを一切せず、ただひたすらクジラの胃の中身だけ調べ続ければ、「海の自然がすべてわかって漁業に役立つ」かのような言い草は、あまりにも非科学的です。
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 生態系アプローチで考慮されるのは構成種と種間関係のごく一部で、現実の生態系とはかなり隔たりがある単純化されたモデルにすぎません。データが不十分な場合は適当なパラメータをあてがう仕様≠ネのですが、そのときの値の取り方次第でいくらでも結果がいじれてしまうという代物。現状では単一種の管理の方が合理的だと水産研究者も指摘しています(下掲リンク参照)。
 構成種と種間関係の入力を増やし、その品質を揃え、モデルをより充実させることで、生態系モデルの精緻化は可能ですが(その代わりシミュレーションは複雑になり膨大なデータ処理が必要になるでしょう)、特定の一種のみを毎年何十頭も殺して胃の中身を調べても、ますますいびつになるだけで、最適化≠ノはまったく寄与しません。

■持続的利用原理主義すらデタラメだった!(拙HP)
http://www.kkneko.com/sus.htm

 本当に胃内容物調査を活かすつもりなら、すべての海域・すべての時季で、すべての捕食者の胃内容物調査を同精度でやるべきなのです。
 もっとも、パフォーマンスを考えれば、コストがかかるだけの超拡張版調査捕鯨などやる必要はなく、バイオプシー脂肪酸解析で十分でしょう。
 ミンククジラもイワシクジラも未知の食害エイリアンではありません。その摂餌生態は、選り好みせず臨機応変に利用可能な餌資源を利用する何でも屋タイプで、野生動物としては至ってポピュラー。サンマが多い年はサンマを、イワシが多い年はイワシを食べるなんて、素人でもわかる当たり前の話で、「だから何?」です。画期的な科学的発見などどこにもありません。これからも、それ以上意味のある知見など決して得られやしません。
 JARPNT/Uの20年間、この胃内容物調査を延々やってきたわけですが、そこからは水産資源管理に活用できる、釧路・仙台両地域の漁業の発展(ないし乱獲の防止)に資するいかなるアウトプットも出てきてはいません。命を奪ったうえで得られたその膨大なデータは、骨董コレクターの収集メモやゲームの入手アイテムリストと同じくらい、(鯨肉好きと業界以外の)社会にも科学にも貢献することのない無価値なガラクタなのです。
 実際のところ、海面漁業生産の1%にすぎない鯨肉生産のための調査捕鯨に回される年間50億円の予算は、クジラ以外の水産水産資源調査に充てられる年間予算34億円を上回っており、明らかに必要な沿岸の漁業資源管理のために投じられるべきリソースを奪っています。そのおかげで、近海の主要な漁獲対象魚種の半数は長年資源状態が低位のまま、FAO白書の統計でも日本だけが将来の漁業生産が落ち込む地域として予測される始末。
 例えるなら、調査捕鯨は報酬ばっかり高くて仕事のできない無能な穀潰し取締役
 捕鯨サークルは日本の水産業を蝕む癌と言っても過言ではありません。

 胃内容物調査と同様に許しがたい欺瞞に満ちているのが、レジームシフトに関する記述。
 はっきり言ってあまりにもふざけています。
 というのも、ICJ判決後のJARPNU改≠ナ、これまで毎年100頭の捕獲枠を設定してきた沖合調査ミンククジラ捕獲をゼロにした理由について、日本側は以下のように説明しているからです。

目視数の減少と餌生物(カタクチイワシ)の分布パターンの変化は、ミンククジラの沖合の分布を変化させる可能性がある。可能な説明として、レジームシフトのような大規模な海洋環境の変化が挙げられる。しかし、その主要なメカニズムは不明なため、われわれはこの種の捕獲を取りやめることを決め、沖合でのこの種の致死調査を継続するよりも、将来の調査計画におけるこの種の取り扱いについて再考することにした(SC/66a/SP/10,p4)。

 そして、ご丁寧に水産庁のカタクチイワシとサンマの漁協予報(日本語)のリンクまで貼っ付けています。
 無論、このわずか2年の間に、レジームシフトのメカニズムが解明したわけではありません。
 「やっぱりやめるのやーめた」です。
 なぜ前言を撤回することにしたのかも、JARPNUの計画の修正の誤り≠ノ対する弁明も、今回の計画書には一言もありません。
 ひたすら支離滅裂の一語に尽きます。
 レジームシフトは北極振動等地球規模の気候・海況変化と魚種交代のメカニズムを結び付ける概念。もちろん、クジラはレジームシフトを引き起こすエイリアンなどではありません。
 クジラの餌生物の切り替えはわかりやすいボトムアップ型の順応的変化です。新しい理論を構築しなければ説明がつかず、そのための追加の情報が切実に求められるような未知の現象ではありません。今までずっと続けてきたのと同じ、殺して胃を切り開く作業を今後何年継続しようと、これまでわかっている以上の新たな科学的知見は決して出てきやしません。
 50億もの予算を投じるのであれば、レジームシフトの海洋生態系全体への影響について調査研究がなされるべきであり、そのために必要とされるのはクジラの胃内容物のサンプルをこれ以上積み上げることではありません。優先順位は最下位。
 要するに、気候変動をテーマにした脂皮厚論文(後述)と同様、もっともらしい用語を散りばめて、美味い刺身*レ的の捕鯨に科学の体裁を装わせようとしただけなのです。
 言葉を弄ぶばかりでおよそ専門家に値しない鯨研の御用学者らに、レジームシフトの謎を解き明かせるなどとは、筆者には到底信じられません。他機関に共同研究を呼びかけていますが、乗らないのが賢明というものでしょう。
 レジームシフトの問題については、クジラの恵比寿〜漁業の救世主≠ニしての側面を、別途改めて取り上げたいと思います。

 地球温暖化/気候変動については、「global warming」の用語を2回、「climate change」を1回使っていますが、この提案書で使い分ける理由はなく、鯨研の研究者の環境問題に対する認識不足が伺えます。
 「調査捕鯨の提供する情報がこの問題に対する洞察に役立つ」と主張しているのですが、南極海も含めておよそ30年やってきた中で、気候学者にとって有用な情報は何ひとつ出てきやしませんでした。脂皮厚の変化について論じた論文がネイチャーに掲載され、ここぞとばかり胸を張った鯨研でしたが、統計処理を誤っていて使えないことがIWC-SCで指摘され、ICJでも恥をかくことに。
 サンプル数算出根拠の項目で「出生率の変化は気候変動やレジームシフト等の海洋環境の変動の結果」とありますが、問題は複合的な環境要因の切り分けが、調査捕鯨のみではまったくできないことです。生態的特性値の変化がどの程度気候変動に起因し、どのくらいの割合が違う要因に基づくのか、調査捕鯨の結果は何も教えてくれません。気候変動に対して捕獲対象の鯨種が他の野生動物に比べてどのくらい脆弱なのか、あるいはタフなのかも、クジラのみを毎年ガンガン殺し続けたところで答えは決して得られやしないのです。

 同様に問題があまりにも大きすぎる網走沖のJストック捕獲問題について。
 まず、現在IWCで合意されている北西太平洋ミンククジラの2系群合わせた個体数の数字は25,000頭。しかし、計画書ではOストックについてサブエリア毎の合算値として約46、000頭、Jストックについて約16,000頭の値をシミュレーションに用いています。この時点ですでに先走っていますが。
 そのシミュレーションの図表の1つが計画書のP41の図7。そのうちMSYR(ちなみに、図では「MSRY」となっていますが、これは単純な表記ミス)1%と仮定した上のほうは完全な連続減少モード。
 この図1つとってみても、J系群はIUCNのレッドリストの定義上の絶滅危惧Tb(EN)、あるいは最低でも危急種(VU)に指定されてまったくおかしくはないステータスです。
 提案書でも、その場合の減少の理由については混獲を挙げているとおり、日本と韓国の混獲が半端ないのは事実。
 「疑わしきは野生動物の利益に」という国際的なグロスタに従えば、混獲にダメージを上乗せする大掛かりな経年捕獲調査などありえません。
 ところが、日本側は既存のデータをもとにJストックの比率を網走沖30%、釧路沖および仙台沖各20%としたうえで、(MSYR1%のケースでは)「34頭獲っても獲らなくても減少モードに変わりないのだから影響はない」とのすさまじい理由で、網走沖での新規捕獲を正当化しようとしているわけです。
 そもそも、時期も未定のまま枠の数字だけ出てくるというのがきわめておかしな話。新たに網走沖調査を追加した真の動機が政治であるのは見え見えですが、絶滅危惧個体群の捕獲を強行するのに掲げた口実を聞けば、野生動物保護に携わる世界中の関係者が目を丸くすることでしょう。いわく、「Jストックの太平洋側での混淆率が増えているっぽい。それは日本海側からあふれて太平洋に浸み出している、つまり増えているからだ」と(別添7)。
 しかし、比較されている過去のデータのうち、専ら成熟個体を捕獲していた80年代の商業捕鯨のデータは52頭のうちJストックが2頭で不明が4頭。この数では、統計学的にも最近の調査捕鯨のデータと比較可能だとは考えられません。P95の図2では両者の捕獲場所が比較されていますが、沿岸ギリギリで幼若個体も獲る調査捕鯨と商業捕鯨とでは、重なっているようでよく見るとずれています。これでは時系列データとして比較するのは妥当とはいえません。
 いずれにしても、仮に分布や回遊パターンに変化があったとして、それを増加の証と捉えるのはあまりにも乱暴すぎます。渡り鳥を例にとれば、ある中継地でのカウント数が増えたことのみをもって「増加の証拠」と捉える野鳥研究者などおりますまい。
 証拠もないのに決め付けで捕獲を強行するのは、絶滅が懸念される野生動物なら適用されて当然の「予防原則」に明らかに反します。
 Jストックの個体数動態について検証したいのであれば、さまざまな要因が考えられ、そのどれかも特定できない間接証拠の収集を真っ先に考えるのでなく、国際協力に基づく繁殖海域・回遊ルートの特定と目視調査に全リソースを振り向けるべきでしょう。もちろん、混獲の実態調査と削減のための方策を開発し運用することも、商法捕鯨再開を早めるうえで役立つでしょう。少なくとも、デモンストレーションじみた網走捕鯨に比べれば。
 網走捕鯨の問題については、社会的側面も見過ごせません。
 伝統とは名ばかりの典型的な移植近代捕鯨としての網走捕鯨の性格については、リンク上掲のIKANブログ記事をご参照。
 何度も繰り返すとおり、北海道で伝統的にミンククジラを獲っていたのは、明治政府に政治的理由で捕鯨を強制的に禁じられたアイヌです。その性格も侵襲的な和人の近代捕鯨とは大きく異なっていました。

■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 2007年にはこんなニアミス事件≠ェ発生。

■“「かわいそう」「気分悪くなった」と観光客” くじらウオッチング船の眼前で、捕鯨船が捕鯨作業…北海道
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1022397.html

 自分たちのショバだとばかり、羅臼町にヤクザじみた逆クレームを入れたのが、太地と共同で当の捕鯨船を保有していた下道水産社長。今年のIWC総会で吼えたのと同じ振る舞いですね・・。
 このときはツチクジラでしたが、NEWREP-Aでターゲットに加えたミンククジラは、知床の観光の目玉でもあるホエール・ウォッチングの対象として、シャチやマッコウとともに親しまれている鯨種です。
 しかも、エリアはユネスコによって世界自然遺産に認定された知床国立公園に重なっています。Jストックはその知床の近海も生息域に含む絶滅危惧個体群なわけです。
 知床が世界自然遺産に認定されるにあたっては、同地域の漁業の持続性に対して厳しい要件がつけられました。
 NEWREP-NPによるJ-ストックの捕獲数は、日本政府自身が持続可能な枠として設定した17頭を超える34頭。
 科学の名を借りた非持続的な乱獲が、世界自然遺産に生息する絶滅危惧個体群に対して行われることなど、許されていいはずがありません。
 網走捕鯨を取り下げないなら、知床は危機遺産に指定されても文句は言えないでしょう。
 この場所での捕鯨が一体どのような意味を持つのか、世界の人々にどう受け止められるか、捕鯨関係者以外のすべての北海道民・日本国民がもっと真剣に考えるべきです。

 目視調査に関しては、IWC-SCのガイドラインを完全に遵守して計画されたトラックライン(航路)どおりに実施することを保証するとしています。奇妙なのは、捕獲調査に関して同様の宣誓が見られないこと。というのも、JARPNUレビューでは、トラックラインを勝手に外れて捕獲していたことが発覚し、調査結果に信頼が置けないと苦言を呈されたからです(詳細はIKA-NETニュース64号)。口先で何を言おうが、実効性のある仕組みがない以上、日本が同じことを繰り返さない保証≠ヘありません。日本は常に規制の裏を掻く狡い国なのではないかと、世界から強い疑いの目を向けられているのはわかっているはず。科学調査の建前でさえこれなのに、どうして商業捕鯨の再開を認められるでしょうか。

 最後に、ICJ判決への対応を記した別添1の最後の項目、海外を含む他の国際機関との連携について。海外の研究機関は、連携するのが当たり前の非致死の目視調査に関するIWC-POWERと、ノルウェーのLkarts Norway(バイオプシー銃等調査ツールを開発している企業)のみ。他はすべて日本国内、遠洋水研等水産庁所管の身内機関や、これまで共著論文数を稼ぐためにサンプルを投げてきた大学等で、JARPA/JARPN時代とたいして代わり映えしません。

結論:

 JARPAUが「美味い刺身の安定供給(by本川元水産庁長官)捕鯨」なら、NEWREP-NPは「政治捕鯨」「乱獲捕鯨」「絶滅危惧種捕鯨」であり、性格的には「デタラメ捕鯨」「開き直り捕鯨」「挑発捕鯨」と言い表すことができるでしょう。
 そこには、科学的正当性の更なる喪失と露骨な独善性、過激なまでの侵襲性の増大が見て取れます。
 また、捕鯨ニッポンから世界に向けて発せられた強いメッセージが表れています。国民に対しては必ずしも明瞭ではないのですが。
 大げさに聞こえるかもしれませんが、NEWREP-NPは国際法の尊重・生物多様性保全・動物福祉・持続可能な漁業に対抗する反逆の狼煙にほかなりません。
 国際社会が時間をかけて培ってきた以下の4つのベクトルを、一気に逆転させようとしているのです。

「とりわけ絶滅危惧種に対しては、不確実性を都合よく解釈せず、予防原理に則り、環境・野生動物の利益≠優先しよう」
「乱獲の歴史と現状を直視し、非持続的に魚を貪る漁業を改め、持続可能な水産業に変えていこう」
「たとえ科学目的であっても動物の命を殺すことは極力控え、致死的な手法に頼らず削減していく努力をしよう」
「国際法秩序を尊重し、よその地域にまでエゴを押し付けず、対話を優先して実力行使に訴えるのを控えよう」

 1つ目の流れは、レッドリストをとりまとめ、国家や大手NGOを傘下に収める最も権威ある野生生物保護組織である国際自然保護連合(IUCN)や、ワシントン条約(CITES)・生物多様性条約(CBD)・ボン条約(CMS)といった野生生物関連の国際条約にとって、まさに柱≠なす基本理念にほかなりません。
 特定事業者と族議員への配慮を優先し、予防原則の真逆をいく口実でJストックをターゲットに網走捕鯨の新規追加を目論む日本の姿勢は、その理念を正面から脅かすものです。国内を含む世界中の野生生物保全関係者に強く警鐘を打ち鳴らすだけのインパクトがあります。

 2つ目の流れは、FAO白書が示すとおり、持続的漁業後進国・日本が世界から取り残されているのが実情。その距離はますます開く一方です。
 12/5の読売夕刊に、「商業捕鯨『再開』譲らぬ」と題するNEWREP-NPについての報道がありました(オンライン記事はなし)。
 その中の森下IWCコミッショナーの発言に、すべてが要約されています。

「持続可能な形で水産資源を利用する、という筋を通せないと、マグロなどでも極端な保護を主張する国際世論が高まる恐れがある」(引用〜読売記事)

 あからさまな嘘ばかりで構成されたこの発言には、真実〜日本の漁業の非持続性を覆い隠し国民の目を欺く意図が明白に表れています。特に、太平洋クロマグロで顕著な刹那的荒稼ぎ′^の乱獲を続けるために、批判や規制の流れに抵抗するために、クジラという生贄を彼らは必要としているわけです。
 今回日本は、国際的に合意された持続的利用のためのRMPに基づき自ら試算した17頭と比べても10倍に上る過大な捕獲枠を、規制に縛られない調査名目で要求しました。南極海を荒廃させた過去の捕鯨会社による大乱獲を再現する意思の表れだと、世界が受け止めないはずはないでしょう。

 3つ目の流れは、いわゆる動物実験の3R。
 対象が野生動物であり、殺す場所が実験室ではなくフィールドであるというだけで、調査捕鯨はまさに非人道的で不必要な動物実験にほかなりません。国際的な学術誌への調査捕鯨論文掲載が拒まれてきた理由もそれ。
 ICJは判決の中で、致死的手法削減し非致死的手法によって代替するための検証の努力や、ザトウとナガスの捕獲削減・中止によって示される「より低い精度での結果の受け入れ」に言及しました。そして、JARPAUの規模拡大が、IWC決議と同ガイドラインのみならず、「必要以上に致死的手段を用いない」とする日本自身の科学政策方針にも反するものだとズバリ指摘してみせたのです。
 「RMPの精緻化」は別に必要不可欠≠ネものではありません。商業捕鯨再開のためにさえ。
 今回のNEWREP-NPの提案書で、日本は言葉をはぐらかすように「目的に沿いさえすれば」捕獲数を増やすことすら正当化されるのだと主張しだしています。
 たとえ、ICJ判決の趣旨を汲まない水産庁の政策方針が、目的≠フカストマイズによって安直な致死調査とその拡大を許すものであったとしても、日本政府自身の別の科学政策方針にはやはり明確に反しています。環境省及び農水省の。
 ここで改めて『3Rの原則』について説明しておきましょう。

・Replacement (代替法の利用)
・Reduction (使用動物数の削減)
・Refinement (実験方法の洗練、実験動物の苦痛軽減)

■実験動物の福祉|環境省
https://www.env.go.jp/council/14animal/y143-21/mat01-1.pdf
■「農林水産省の所管する研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」の制定について|農水省
http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/tuti/t0000775.html

 日本の捕鯨サークルは、この3Rに関して世界に挑戦状を突きつけました。彼らの提唱する≪新3Rの原則≫は以下。

・Restoration (致死への復古[いったん中止・削減しながら再度致死的手法へと回帰する])
・Raising (嵩上げ[削減するどころかわざわざ増量する])
・Remissress (怠慢[代替手法や削減の検討・検証をまともに行わず、適当な口実でごまかす])

 致死対象の鯨種に対して掲げられた「目的」と「その目的のために必要」との決まり文句のセットは、「必要だから必要だ」「重要だから重要だ」というトートロジーじみた主張です。JARPAUはICJより「致死調査を用いることへの客観的説明がない」と指摘を受けたわけですが、なぜ特化しているのか、突出しているのかについて、提案書に書かれているのは客観的根拠というよりあくまで主観的な説明にとどまっています。中でもお座なりな説明で済ませている「ニタリ削除の相対的な理由」「暫定的な網走枠」からは、犠牲を減らすために努力をしようとの意思が微塵も感じられません。3Rの趣旨・社会的要請に対する無理解そのもの。
 鳥インフルエンザの調査の公益性の高さは、たかが美味い刺身≠ニは比較になりません。しかし、環境省はそれを口実に、野鳥を対象にした調査捕鯨スタイルの大規模経年致死調査を実施したりなどしていません(詳細は上掲リンクのJARPNU検証記事参照)。
 ある意味で、殺しの拡大志向、無思慮に命を貪る社会≠ヨの道しるべを提示したのが、新調査捕鯨計画だといえるでしょう。その影響は、クジラ以外のすべての動物に波及していくでしょう。
 動物福祉に関わるすべての人々は、日本の調査捕鯨の本質にもっと強い関心を払うべきです。

 公平を期すなら、4つ目の流れは米国・ロシア・中国という大国のせいでいままさに危機に瀕しているのが事実ではあります。しかし、日本は白々しい嘘と国連受諾宣言の書き換えという姑息極まりない手法を用い、国際法の最高権威に唾を吐いて判決を反故にし、「よりによって南極のクジラ≠ナそれをやるのか!?」と世界に衝撃を与えました。
 国民の大多数が関心を持たず、現政権のブレインが「友好国との信頼関係を損ねるくらいなら実にちっぽけな狭義国益にすぎない」と有識者の本音を代弁した、遠い南極の野生動物〜たかが美味い刺身に対し、そのような超法規的手法に訴えることができてしまうのです。そのうえ、現政権の閣僚の1人は、世界で最も緊密な軍事同盟関係にあり、重要な価値観を共有すると互いに公言している間柄の米国に対し、「永遠に分かり合えないという不信感」「埋めようのない価値観の違い」と口にしてしまえるのです(人権尊重の価値観を共有する先進国の閣僚とは到底思えない妄言を連発した捕鯨族議員・鶴保氏ですけど・・)。
 これには北朝鮮も中国もロシアもびっくりです。たかがクジラ≠ナ……飽食・廃食大国の高級料亭で供される南極産美味い刺身を固守する目的で、西側諸国の一員のはずの日本がそれをやってしまえるのなら、彼らの現状変更≠ノ大義名分が与えられるのは、ある意味当然のことでしょう。
 JARPNU改≠フ萎縮モードから、お尻をたたきながらあかんべえをするNEWREP-NPの嘲笑モードへの変化は、「IJC判決に対する無視・逃げ切り宣言」にほかならず、国際法と国際機関、友好国に対する愚弄以外の何物でもありません。網走捕鯨の新規追加は、JARPAUでの南半球ザトウ50頭捕獲と同様、北朝鮮じみた国際社会への示威のニュアンスも帯びています。

 残念ながら、オーストラリアはICJ提訴アプローチを掲げた当時とは政権が代わってしまい、安倍政権との当たり障りのない関係を優先するあまり、国民の愛する身近な自然・野生動物を脅かす、日本にとっての尖閣諸島と同様に自国の領土・領海問題にも直結するところの公海調査捕鯨問題に対し、国際法に基づいて粛々と解決をはかる道をあきらめかけているように映ります。
 IWCも、お互い耳を塞いだまま言いたいことを言い合うだけで、何も変えられない以前の膠着状態に戻りかけています。
 しかし、NEWREP-NPは、「ダメなものはダメ」と言い切れない──本当の友好関係を築くためには避けて通れないはずですが──反捕鯨国とその市民に、思いっきりバケツで冷水を浴びせるものです。
 悲しいことに、捕鯨ニッポンは変わりませんでした。その絶好の機会だったはずのICJ判決で、自ら襟を正すことができませんでした。日本人としては内心忸怩たるものがありますが・・。
 世界はいまこそ毅然とした態度で臨むべきです。曖昧になあなあで済ませ続けるべきではありません。それは、すべての自然、すべての動物たち、必要とされる良き漁業にとって、ためになりません。
 もう一度、国際法の下できちんと決着を着けることを、真剣に考え直すときです。
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2016年11月20日

捕鯨国際会議の裏側──IWC66で水産庁は国民に何を伝え、何を伏せようとしたか

 10月20日から28日までスロベニアで開催された第66回国際捕鯨委員会本会議の模様については、期間中ツイッターでお伝えしてきたとおり。


 なお、会議の模様は動画で実況中継もされました。

■国際捕鯨委員会スロベニア会合公式HP及びユーチューブアカウント
https://iwc.int/iwc66
https://www.youtube.com/channel/UCLtg7GtpJ_eTaJuPqRyOOhQ

 詳細については以下もご参照。

■66th Biennial Meeting of the International Whaling Commission (IWC66) | IISD
http://www.iisd.ca/iwc/66/
■What happened at the International Whaling Commission Meeting 2016? | WDC
■What happened at the International Whaling Commission 2016 meeting | GP-UK

 国内マスコミの社説は全国紙3紙、地方紙2紙。日経と朝日は南極産美味い刺身≠ノ常軌を逸した熱情を注ぐ国の姿勢に首をひねる大方の国民の意見を代弁する内容で○。後は環境音痴・科学音痴をさらけ出すトンデモ鯨食害論全開で×(詳細はツイッター)。

■クジラめぐる不毛な溝埋めよ (11/1,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO09015410R01C16A1EA1000/
■調査捕鯨 本当に展望はあるのか (11/1,朝日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12636100.html
■調査捕鯨 継続には国民的議論が大切だ (10/30,読売)
www.yomiuri.co.jp/editorial/20161030-OYT1T50124.html (リンク切れ)
■国際捕鯨委員会 機能不全を解消するには (11/7,西日本新聞)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/287335
■捕鯨を巡る対立 粘り強い説得が必要だ (11/12,北海道新聞)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0092118.html

 永田町の捕鯨族議員では、自民党から伊東良孝衆院議員と金子恭之衆院議員、民進党から野田国義参院議員が出席。金子議員、野田議員とも、一部のアフリカ・カリブ海諸国等から成る捕鯨支持国との会食付打ち合わせの模様を報告してくれています。金子議員は筆者がリプライ付けたツイート1個消しちゃいましたけど。。これらの国々の大半は捕鯨産業と何一つ所縁もなければそこから入る益もありません。日本からODAを優先配分してもらえる以外には。

■第66回 国際捕鯨委員会〔IWC〕総会出席のアフリカ諸国政府代表との夕食会|金子やすしオフィシャルサイト
http://www.kaneko-yasushi.com/archives/date/2016/10/25
http://www.kaneko-yasushi.com/archives/date/2016/10/26
■IWC(国際捕鯨委員会)総会へ出席・党捕鯨議連にて報告|野田くによしオフィシャルサイト
http://nodakuniyoshi.net/report/%ef%bd%89%ef%bd%97%ef%bd%83%e5%9b%bd%e9%9a%9b%e6%8d%95%e9%af%a8%e5%a7%94%e5%93%a1%e4%bc%9a%e7%b7%8f%e4%bc%9a%e3%81%b8%e5%87%ba%e5%b8%ad%e3%83%bb%e5%85%9a%e6%8d%95%e9%af%a8%e8%ad%b0%e9%80%a3%e3%81%ab/

 水産官僚や族議員らとともに出席していたのが三軒一高太地町長と下道吉一日本小型捕鯨協会会長。すったもんだの一幕もありましたが、業界関係者にとっては世界にどう見られようと関係ないのでしょう・・

■スロベニアIWC66(3)NGO発言|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/iwcngo-4e71.html
■IWC 66 Day Three | ORCALAB
http://orcalab.org/2016/10/26/iwc-66-day-three/

 で・・以下が水産庁の公式結果報告。

■「国際捕鯨委員会(IWC)第66回総会」の結果について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/161029.html

 上掲の概要を以下のIWC及びNGOの報告と比較してみましょう。税金で送られている日本政府代表団の報告には、実際に審議され採決された重要な決議すら一部しか列記されていません。彼ら捕鯨サークルが、国際会議でどのようなことが話し合われたのかを如何に国民の目から隠したがっているかがよぉくわかります。

■Five Resolutions Adopted on Day Four of the IWC Plenary | IWC
https://iwc.int/day-four-special-permit-whaling
■Decisions taken at IWC 2016 | WDC
http://uk.whales.org/wdc-in-action/decisions-taken-at-iwc-2016
■IWCスロベニア会議 その4決議など|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/iwc-9fbe.html

 詳しい解説はNGOと専門家がバッチリしてくれてますので、筆者の方では要点を1枚の絵にまとめてみました。
iwc66reso.png

 さらに、設立70周年を記念する今年のIWC総会にぶつけるように、日本は自国が法の裏を掻くダーティーな国であることをアピールするかの如く、ネタをわざわざ3つも提供してくれました。

@ICJ判決の反省なく新南極海調査捕鯨NEWREP-Aを強行
A日本の業者が海外向け通販サイトでワシントン条約違反の鯨肉缶詰を販売
B沿岸捕鯨に続き遠洋でも改めて明らかになった過去の商業捕鯨のデータ改竄

■Illegal sale of Japanese whale meat exposed by WDC on eve of international whaling meeting | WDC
http://uk.whales.org/news/2016/10/illegal-sale-of-japanese-whale-meat-exposed-by-wdc-on-eve-of-international-whaling-0#.WAT7uLfjrH4.twitter
■Japan Repeatedly Falsified Whaling Reports (9/13,Seeker)
http://www.seeker.com/new-investigation-finds-japan-repeatedly-falsified-whaling-reports-2004275176.html
■What's the catch? Validity of whaling data for Japanese catches of sperm whales in the North Pacific | ROYAL SOCIETY
http://rsos.royalsocietypublishing.org/content/2/7/150177
■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015
■新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ(拙ブログ記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/176208780.html

 また、関連するトピックとして大きいのが、日本の調査捕鯨操業海域とばっちり重なるロス海MPA(海洋保護区)がようやくCCAMLRで日の目を見たこと。国内ではAFP以外取り上げられず。水産庁のプレスリリースも、閉会日は同じなのに、なぜか3日後に配信されてます。サンクチュアリの意義に対する日本政府の非合理で非科学的なダブスタは決して許されるものではありません。

■CCAMLR to create world's largest Marine Protected Area | CCAMLR
https://www.ccamlr.org/node/92518
■世界最大の海洋保護区、南極ロス海に設置へ 国際会議で合意 (10/28,AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3105973
■Major diplomatic coup for New Zealand as world's largest marine reserve finally gets the tick (10/28,NZHERALD)
http://www.nzherald.co.nz/world/news/article.cfm?c_id=2&objectid=11737669
■「南極の海洋生物資源の保存に関する委員会 (CCAMLR) 第35回 年次会合」の結果について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/161031_3.html

 
 閉会後、お馴染みの森下日本政府代表が以下のように発言。これだけ読むと、あたかも日本が理性的・抑制的に振る舞ったかの印象を受けます。

■対話の窓が開かれた=日本政府代表−IWC (10/29,時事)

 当然のことながら、「相手の立場を理解し、主張に耳を傾けること」「お互いに独善的な原理主義を捨てること」「妥協点を探ること」が対話の大前提のはず。

mses.png
■Future IWC for Japan, fishery, the world and whales; the keyword is "Ebisu"

 上掲は筆者が自身のスタンスをいったん脇に置いたうえで提案するIWCのあるべき将来像。「whaling」の定義を拡張することで、IWCは条約と整合性の保たれた現実的かつ理想的な国際機関に脱皮することが可能になります。漁業にとってもはかりしれない利益をもたらし、日本がリーダーシップを発揮して国際社会に貢献し、プレゼンスを大きく高めることだってできるはずなのです。

 しかし・・残念ながら、日本の唱える「対話」は口先だけにすぎませんでした。

■対話の素地ができたって???|IKAN
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-bfb7.html
■抗議声明 「日本政府の新北西太平洋鯨類捕獲調査計画(NEWREP-NP)の撤回を!」

 NEWREP-NPは、JARPAU、JARPNU、NEWREP-Aより輪をかけてひどい、眩暈がするほどの超ガラクタ調査捕鯨です。
 国民の一人として国の誠意を少しでも信じた筆者がバカだったと、ひたすら残念でなりません……。
 次回、「調査捕鯨という名の乱獲・超ガラクタNEWREP-NP」の予定。
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2016年10月09日

野生動物をことごとく貪る捕鯨推進派の持続的利用原理主義は百害あって一利なし

ゾウ、ヨウム、ハヤブサ、トカゲ、カエルまで、みんな捕鯨のとばっちり!

 ここ半月余り、TVは連日のように豊洲・五輪施設関連報道に明け暮れ、視聴者の身としてはいささか食傷気味。
 確かに、築地市場移転問題は食・漁業に直結することで決して疎かにはできません。振り回される市場関係者が本当にお気の毒ですし、東京都は移転の遅延に伴って発生した損害について、真摯に補償等の対応に努めるのがスジでしょう。そして、どのような形であれ、うやむやな説明でごまかしたり、強弁で押し切るのでなく、市場関係者や消費者が完全に納得のいく形で決着が図られるべきです。
 それにしても、莫大な税金を使ってすでに施設が完成し、いよいよ引越しという間際になってからでは、あまりにも騒ぐのが遅すぎないでしょうか? 五輪施設も同様ですが。
 移転の是非、五輪招致の是非をめぐる当時の報道の質・量に比べ、小池劇場≠ノ注がれるエネルギーの膨大さには、ある種の違和感を禁じ得ません。「この間一体何をやっていたのか!?」という問いは、歴代知事、都の担当者、都議会ばかりでなく、マスコミに対しても向けられるべきでしょう。
 偏った報道の裏には、今国の内外で起きているさまざまな出来事から国民の目を逸らす意図もあるのではないか──つい、そんなふうに勘繰ってしまいます。

 そのひとつ、CITES(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:通称ワシントン条約)の締約国会議がこの9月下旬から南アフリカ・ヨハネスブルクで開かれました。
 3年に1度開かれる、いま絶滅の危機にある世界中の野生生物の帰趨を左右するきわめて重要な国際会議です。
 そこでは間違いなく小池劇場≠ノ負けないドラマが繰り広げられていました。
 プレイヤーは、国益(ないしは業界益)を背負った各国政府代表団。そしてNGO(非政府組織)、いわゆる市民団体。野生動物たちの声を代弁する気ぐるみやマスコットも登場しましたが。
 その中で、とくに存在感を示した役者が3カ国あります。
 それは中国インド、そして日本
 中でも日本は、残りの2カ国とも異色の役回りを演じ、一際目立っていました。
 「どんなふうに」って?
 それは、会議に参加したNGOと研究者の方々が報告の中で教えてくれています。
 CITES#COP17にオブザーバーとして参加したJWCS(野生動物保全論研究会)、JTFF(トラ・ゾウ保護基金)、早稲田大学の国際政治学者・真田康弘氏、会場を取材した朝日新聞アフリカ支局の三浦英之氏による現地からの報告をもとに、日本がどういう具合に脚光を浴びたのか、追ってみることにしましょう。


 以下、背景着色部分引用。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/780065662383382528
クロサンゴ・アカサンゴについての審議が行われています。日本は「サンゴについてはワシントン条約は何の役にも立たない、なぜならサンゴはあらゆる場所で密漁され、小さな漁港に運び込まれるからだ」という。海生種について全面的に国際取引規制を拒絶する姿勢がありありと表れている

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/780516854049759238
前回の締約国会議でサメ関係で決議を妨害しようとしてきたのは日本・韓国・中国だったのですが、今日の審議では中国も表立って今日審議の決議に反対しない立場を取り、決議にいちゃもんをつけまくる日本だけが「悪代官」として浮いてしまっていました。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/781526466974609408
カナダが提案したハヤブサの附属書TからIIへのダウンリストが3分の2に達せず否決。日本はダウンリストに賛成と発言。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782508977032687616
ヨウムの国際取引禁止の提案、日本は附属書格上げの要件を満たしていないと反対の発言。

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/782573163934806016
お昼のサメ関係のサイドイベントにて。水産庁の中の人「この問題は地域漁業機関で扱うべき」と相変わらずのオウム返し。その後で南太平洋地域の政府間組織代表より「サメでは地域漁業機関は全然ダメだったやん」ときっちり反論され、すっかり会場の人に(・∀・)ニヤニヤされちゃいました。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782655613138509824
マレーシアのミミナシオオトカケ全種を附属書Tにする提案に、日本は附属書T掲載の要件に満たないと発言。日本、韓国、インドネシアの反対で、附属書Uで輸出割当量ゼロで合意。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782862611553607680
日本はナミビア・ジンバブエ案の修正を提案し、それを受け入れた提案が秘密投票になりましたが、どちらも否決。この会議の前にマリとベナンの政府代表は、象牙の国内市場閉鎖の議題が合意されたので日本も附属書T格上に賛成するのではと話していたのですが。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782950653769515008
附属書Uのスワジランドのミナミシロサイの自然死したサイの角や密猟から押収した角を国際取引できるようにする提案は、秘密投票で賛成26 棄権17 反対100で否決。日本は保全ができているとして取引支持の発言をしていました。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782971726850383872
クロトガリザメSilkysharkを附属書Uに掲載する提案に日本はサメの識別など実行が負担、掲載の要件を満たしていないと発言。そして秘密投票を提案。結果は賛成111棄権5反対30で採択。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782976277586247685
オナガザメ属全種を附属書U(国際取引に許可が必要)に掲載する提案に日本はまたしても反対。サメとエイは附属書Uにしても保全の利点がないと発言。提案国は附属書Uに掲載して持続可能な漁業をめざしている。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/782987499417309185
イトマキエイ属の附属書Uにまたしても日本は反対。生息数が掲載の要件を満たしていない、附属書Uは保全の利点がないとサメと同じ趣旨の発言。コンセンサスができず投票へ

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/783000739308273664
メキシコ提案の観賞魚の附属書U掲載に日本は掲載要件を満たしていないので、自国の種だけ国際取引禁止にする附属書Vを提案。投票で賛成69棄権15反対21で採択

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/783285742193836032
全体会議で委員会の合意を決議しています。クェートからハヤブサのダウンリストが否決された件で、再議論を提案。投票で再議論が否決。日本は再議論に賛成していました。

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/783246893308637185
チチカカ湖にしか生息しないチチカカミズガエルの付属書T掲載提案に、生息国が提案してるのに日本は「科学的根拠が不明確だ」と一人いちゃもんつけるも、議長から「コンセンサスをブロックしないね」と迫られ撤回。水にあるもの皆反対というCITES水産外交の象徴的場面でした。

 なんというか・・もうここまで来ると、「アッパレ」というほかないですね・・・・。
 もちろん、現実の国際交渉の場のこと、個々の種の取引に関する議論では国毎に立場が分かれますし、どの国であれ必ずしも一貫したスタンスが取れるわけではありません(自国の産業に奉仕する面も含め)。
 そんな中、日本はあくまで教条主義的な持続的利用原理主義≠ノ固執し、『(保護のための規制強化には)なんでもかんでも反対!!』の姿勢を貫いた点で、「なんとも不思議な国だ」と世界に強烈に印象付けることに成功したといえます。
 「野生動物はとにかく消費して金に換えないと気がすまない国」だと。自国に直接の利害がほとんどない対象でさえ。
 実際、日本に対する印象は他国との相対評価で大きく下がった点は否めません。欧米のみならず、いま国際政治の舞台で先進国に肩を並べるほど大きな存在感を示している新興国・中国とインドとの比較において。

https://twitter.com/miura_hideyuki/status/781129304029749248
ワシントン条約会議で環境団体のブースを回る。日本人としてはいたたまれない。浴びせられる質問は同じ。「なぜ日本は象牙市場の閉鎖に反対?」「日本人にはそこまで象牙が必要?」。釈明するが合理的な説明にならない。アフリカ諸国が象牙市場の全面閉鎖を訴え、米中が賛成、日本はそれに反対している

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/783051118108696578
サメ系付属書U提案が採択に必要な3分の2を大幅に上回る約4分の3の多数で委員会採択。前回サメ系に反対した韓国は終始沈黙、中国も玉虫色発言を行い、日本が経済的利害のないこの提案に固執し多数の途上国が賛成するなか惨敗しました。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/782553807163121664
日本は、「密猟を増加させるような著しい違法取引」に寄与する国に限って閉鎖すべきと主張していた。これによると、閉鎖対象は、一部アフリカの無法地帯くらいに限定されてしまう。一方、中国は違法取引に関係のない市場など、この世に存在しないと主張、拍手を浴びた。日本の主張は顧みられなかった。

https://www.facebook.com/yasuhiro.sanada.7/posts/1072613156184764
EUはどんな話題にも発言してかんできます。米国にしてもたいがいの場面で発言します。アフリカ諸国もどんどん発言します。しかし日本は私が聞いていた限りでは、第一委員会ではこの日最後に扱った唯一の植物以外の提案であるハヤブサの付属書掲載TからUへの格下げに賛成発言をしただけでした。存在感がなくてとても残念です。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/783553058022289408
一つ一つの国の方向性を観察しても、この10年間で大きく変わった国が多いのが印象的です。保護のもと結束する大多数のアフリカ諸国、大きな問題は残るものの大胆な保護の強化をする中国、再び毅然とした姿勢を示す米国。その中、産業利用一辺倒の政策を20年来全く変えぬ日本は発展を忘れた「化石」

https://twitter.com/miura_hideyuki/status/783679824971886594
会議の実感。中国は国際政治に長けている。日本はどうか。その近視眼的な方策は島国でこそ通用する理論であり利益だ。世界の風をリアルに感じ、大勢を読んで大胆に動く。そんな政治家や官僚が今の日本には圧倒的に足りない

https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=285215&comment_sub_id=0&category_id=256
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:eyZOEgHH5LAJ:www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php%3Fcomment_id%3D285215%26comment_sub_id%3D0%26category_id%3D256+&cd=5&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
象牙取引を巡っては、オバマ米大統領と中国の習近平国家主席が昨年9月の首脳会談で、国内取引の禁止に取り組むことで合意した。アッシュ氏は「中国側は今年中に取引禁止に向けたスケジュールを示すと約束した」と明らかにし「日本も共に立ち上がるべきだ」と付け加えた。

 こちらはおなじみの水産学者・東京海洋大・勝川俊雄准教授のコメント。

https://twitter.com/katukawa/status/783191073438904321
今回のワシントン条約締約国会議は、これまでと違う。中国の方向転換によって、日本が孤立するという新しいステージに突入したような印象を持ちます。

https://twitter.com/katukawa/status/782805366543220737
自然保護のシンボルともいえる象牙は、世界的な関心が高い。「日本は、持続性よりも目先の金が大切な国」という風に受け取られかねない。国益を考えたときに妥当な判断だったのだろうか?

■ワシントン条約の象牙規制

 実際、中国とインドの両国は、悪役∞引き立て役を自ら買って出た日本に事実上助けられる格好で、国際的な好感度≠大幅にアップさせるのに成功したといえるでしょう。とくに中国は必ずしも進歩的な発言ばかりではなかったのですが。

https://twitter.com/JWCSJWCS/status/780357390411718656
CITES CoP17 サイドイベント 中国政府による、中国のCITESの法執行。満席です。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/782545130888855552
インド政府主催トラ保護サイドイベント。1973年に狩猟でトラ個体数が激減し、狩猟禁止にし9の保護区を作った。その後危機もありながら今は28に。密猟防止強化。野生動物保護リーダー国。背景にガンジーの動物たちも生きる権利ありの信念が。

https://twitter.com/JTEFstaff/status/782865269672771584
これに対し、インドとナイジェリアは象牙の資源利用に依存しない、地域によりそったプログラムが実際に成立することを強調していたことも重要だ。

 何しろ、一方の日本はといえば、こんなところまでしっかり見られちゃう始末・・・・。

https://twitter.com/NakaweProject/status/782290681435918336/photo/1
Sleaze at @CITES!!! Japan delegates treat South East Asian & African delegates to big dinner drinks night before #shark vote at #CITESCoP17

https://twitter.com/JTEFstaff/status/782480807353090048
政府が、自国のポジションへの指示を訴えるために、浮動票の国々を選んで、パーティーやディナー、1日旅行にでかけることは、私が知る限り、1994年以来、何度もあった。

 さすがにこれでは、以下のような指摘も免れないでしょう。

https://twitter.com/Sanada_Yasuhiro/status/783538357687189505
今回の#CITES COP17を通して出席した感想ですが、敢えて先進国・新興国のなかでよせばいいのに唯一嫌われ役を買って出て悪目立ちし、なのにやたら弱く格好の藁人形役とされ敗れる様は、「日本のCITESショッカー外交」と言えるかも、とも思いました。キィ。

 筆者がとくに憂慮するのは、このCITESショッカー外交国民の総意を得たものではないのに、日本のキャラクター≠ニして世界に受け止められてしまうことです。
 これらは経産省・水産庁・環境省の役人が国民の声を聞かぬまま天下り先ともなる業界擁護のために勝手に動いた結果です。さらにいえば、自国の主張が世界に受け入れられる見込みもまったくない中、業界への忠誠を必死にアピールする内向きの動機に基づくものなのです。
 国際会議の場で、ただひたすらジゾクテキリヨウ教という空疎な念仏を唱え続ける日本の役人たちが、世界中の人々の目にどれほど滑稽に映ったことか。
 それに対し、中国は間違いなく外交ポイントを稼ぎました。同国がかつての日本にも重なる一大消費国として重大な責任があるのは事実ですが、米国を始め各国と協調しながら前向きに取り組む姿勢を強く打ち出したことで、国際社会に歓迎されたのです。実効的な政策について強く問われることなく、非難をかわすことができたのは、半ば日本のおかげといっても過言ではないでしょう。中国の方から頼むまでもなく、独り勝手にエゴイスティックな行動に終始し、ショッカーのイメージを一国でかぶってくれたわけですから。
 環境外交での完全敗北は、他の分野にも影響を及ぼさずにはいないでしょう。
 IWC日本政府代表・森下氏ら捕鯨関係者の言説に端的に示される持続的利用原理主義≠ェ日本の国益にとってどれほど有害か、すべての日本国民が知るべきです。

以下、締約国会議に参加したNGOによるイベントのお知らせ
ワシントン条約第17回締約国会議報告会
●主催:認定NPO法人 野生生物保全論研究会(JWCS)
●共催:NPO法人 アフリカ日本協議会
●日時:10月14日(金)18:30−20:30
●会場:地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)
posted by カメクジラネコ at 19:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2016年08月27日

金を払ってSSCSと和解の怪! 司法判断から逃げ続ける卑劣な鯨研と共船

 最後のJARPNU(北西太平洋調査捕鯨)沖合調査が終了し、10月にスロヴェニアで開かれるIWC年次会議まで、しばらくクジラは世間の話題に上らないだろうと思っていたら、唐突にニュースが流れ込んできました。

■調査捕鯨の妨害しない 米の反捕鯨団体と合意 (8/23,NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160823/k10010650891000.html
■捕鯨妨害、永久に禁止=米シー・シェパードと合意−豪団体は活動継続の意向・日本側 (8/23,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016082300406&g=eco
■シー・シェパード 調査捕鯨妨害、永遠に禁止 日鯨研合意 (8/23,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20160823/k00/00e/040/178000c
■シー・シェパード、捕鯨妨害禁止で日本側と合意 米での訴訟決着 (8/23,日経/共同)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H40_T20C16A8CR0000/
■逆風続く調査捕鯨 豪、NZなど根強い反対 妨害禁止合意 (8/23,東京/共同)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201608/CK2016082302000245.html
■「妨害永久に行わない」合意に抜け穴…拠点移し、高速新造船を投入 ワトソン容疑者「南極海に戻る」と豪語(8/23,産経)
http://www.sankei.com/world/news/160823/wor1608230032-n1.html
■妨害禁止「一定の効果」 調査捕鯨、米シー・シェパードと合意=訂正・おわびあり (8/24,朝日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12525379.html

日本側が金銭を支払う一方(引用〜NHK)

 これを聞いて、誰もが一瞬「えっ!?」と耳を疑ったことでしょう。
 裁判で事実上勝っている被害者が、一体なぜ加害者に金を払う必要があるのか、と。
 ネット上では「盗人に追い銭」という感想が聞かれますが、盗人より暴漢に近いとはいえ、あながち間違いとも言い切れないでしょうね。
 NHKは同記事中、他紙も第二報で、今回の取り決めは米国以外のSSオーストラリア支部等には「適用されない」とする当事者のコメントを伝えています。
 「じゃあ、一体全体何のために金を払ったの??」と、疑問はますます膨れあがるばかり。

■捕鯨妨害「禁止」 この合意では安心できぬ (8/26,産経)
http://www.sankei.com/affairs/news/160826/afr1608260011-n1.html
■[捕鯨妨害禁止] 安全性は確保されるか (8/25,鹿児島新聞)
https://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201608&storyid=78229
■捕鯨妨害禁止、安全確保の取り組み続けよ (8/25,世界日報)
http://www.worldtimes.co.jp/opnion/editorial/71537.html
https://vpoint.jp/opnion/editorial/71203.html

 今のところのマスコミの反応はこのくらい。国民の抱く素朴な疑問とはおよそかけ離れた内容で、違和感は強まる一方です。なお、最後の世界日報およびビューポイントは統一教会系メディア。いかにもそれっぽい感じ・・。
 そんな中、唯一ごくまともなツッコミを入れてくれたのが、こちらのコラムニストの保科省吾氏。

■暴力集団シー・シェパードに日本側が和解金を支払う謎 (8/25,メディアゴン)
http://mediagong.jp/?p=18812
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160825-00010000-mediagong-ent&p=1

だが、なぜ正当な理由で得た賠償金を返さなければならないのか。さっぱり分からない。
民事裁判だから原告(鯨類研究所)被告(米のシー・シェパード)とも、なんらかの利があって双方合意したということか。では、日本鯨類研究所の利とはなんなのか。シー・シェパードのそれはなんなのか。
もっと調べないと真実は分からないが、筆者はシー・シェパードにも日本鯨類研究所にもある種の怪しさを感じてしまうのである。(引用)

 当事者である日本鯨類研究所(鯨研)および共同船舶(共船)とSSCSの発表をチェックする前に、まず上掲の朝日と産経の記事中の重大な誤りについて、指摘しておきましょう。
 朝日記事(農水担当野口陽記者)は、アナログ版では8/24の三面、かなり大きな扱いです。
 オンライン記事の方は「訂正・おわびあり」とあり、鯨研が写真した写真のキャプションが間違っている旨追記されています。ちなみに、野口記者が日新丸と間違えた補給船の名称はサン・ローレル号パナマ船籍で船会社は韓国だったりします。いわゆる便宜置籍船。この辺も日本の調査捕鯨のいかがわしさ。

国際司法裁判所(ICJ)は14年、捕獲数が多く肉を販売しており、実質的に商業捕鯨に当たるとの理由で、南極海での調査捕鯨を違法と判断(引用)

 捕鯨の賛否によらず、捕鯨問題・ICJ調査捕鯨裁判の経過をウォッチしてきた人は、この一文を見てあからさまに眉をしかめたことでしょう。実際、和田浦の外房捕鯨の社長である庄司義則氏も「この記述は明らかな誤りです」(引用)と指摘するほど。

■シーシェパード(SS)と日本鯨類研究所の和解報道に関連して (8/25,外房捕鯨株式会社)
http://gaibouhogei.blog107.fc2.com/blog-entry-761.html

 国際捕鯨取締条約(ICRW)8条のもとで副産物≠フ利用は認められており、従来日本の調査捕鯨の合法性の拠り所とされてきました。「肉を販売したこと」が「違法判断の理由」と書いてしまった野口記者は、捕鯨問題の基礎中の基礎もまったく勉強していないことが明らかです。
 ただし、庄司氏の次の主張も明白な誤り。

「ICJが日本の調査捕鯨が擬似的な商業捕鯨であると認定した」と誤った報道をすることにより(引用〜外房捕鯨ブログ)

 無知な野口記者と異なり、事情を知っているはずの庄司氏のコメントは狡猾な誘導といわざるをえません。外房捕鯨は現在IWCの規制対象外となっている日本近海のツチクジラとゴンドウを捕獲対象としており、本来なら南極海母船式捕鯨とは一線を画する立場であっていいはずですが・・捕鯨支持国向けのレクチャーを引き受けたり、侵襲的で硬直的な性格も含め、中央の捕鯨サークルとどっぷり一体化してしまっているのは、きわめて残念なことです。
 ICJは、JARPAUは「商業捕鯨モラトリアム違反」である、すなわち商業捕鯨だったとはっきり認定しています。そして、その証拠として、本川一善水産庁長官(当時)による「刺身にしたとき非常に香りと味がいいミンククジラを安定的に供給するため」との国会答弁を採用し、判決文にもきちんと明記されました。要するに、科学が主目的≠ナ鯨肉が副産物≠ナさえあれば、JARPAUは商業捕鯨ではなく合法的な調査捕鯨として認められていたのです。しかし、ICJは、鯨肉こそが主産物であり、その安定供給がJARPAUの主目的だったときっぱり認定したのです。
 読者の皆さんには改めて説明の必要もないと思いますが、詳細はこちら。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html

 朝日記事に話を戻しましょう。
 「捕獲数が多く」も詳細な補足が必要。ナガスクジラやザトウクジラは捕獲数が少数ないしゼロでも「成果あり」としながら、クロミンククジラのみ大量経年致死調査が「不可欠」とする矛盾を日本側が説明できなかったことがその理由。詳細は上掲拙記事解説をご参照。
 判決後に「じゃあ、捕獲数を増やせばよかったんだ」と外野の捕鯨推進派が訴えたものの、日本はNEWREP-Aで対象種をクロミンク1種のみに絞ったうえ、捕獲数を333頭に縮小、ますます矛盾だらけになったのが実情です。

調査捕鯨を日本が続けるのは、鯨が増えていることを証明するデータを集め(引用)

 こちらも完全な間違い。NEWREP-Aの主目的は「RMPの高精度化」「生態系モデルの構築」。
 なお、クロミンククジラについては、IWC科学委員会におけるJARPAレビューの中で「調査期間中の増加の停止」が確認されています。
 いま「増えている」と日本側が主張しているのは、「商業捕鯨対象になりえる」との理由で唯一の捕獲対象としたクロミンククジラではなく、ザトウクジラとナガスクジラ。ただし、ナガスクジラについてはIWC科学委員会で生息数について合意されてはおらず、どちらも日本をはじめとする捕鯨会社の乱獲によって激減した状態から少し回復しつつあるとみられるだけで、「増えている」という言葉を用いるのは大きな誤解のもとです。
 詳細はこちら。

■間引き必要説の大ウソ|拙HP
http://www.kkneko.com/mabiki.htm

 続いて、おなじみパクリ記者佐々木正明氏がリオからわざわざ届けてくれた産経記事。ただ、朝日ほどひどくはないといえ、いつもの佐々木節でたいした中身はなく、適当に書いた作文≠ヌまり。

一方、ワトソン容疑者は最近、「フランスを出る」「南極海に戻る」などとの発言を繰り返しており(引用)

 佐々木氏はこんなことを書いているのですが、以下の海外報道が出た25日の2週間前には、当のポール・ワトソンは米バーモント州に入っていた模様。まともなジャーナリストだったら穴に隠れたくなるくらい恥ずかしいチョンボ。
 不思議でならないのは、こんなガサツな作文で原稿料を要求できる佐々木記者と支払える産経の神経。ろくに裏取りもしないで駄文を書く暇があったら、リオでちゃんと仕事すりゃいいのにね・・

■US anti-whaling group to stop interfering with Japanese (8/25,FOX NEWS)
http://www.foxnews.com/world/2016/08/25/us-anti-whaling-group-to-stop-interfering-with-japanese.html
■Sea Shepherd's Paul Watson Returns to the U.S (8/25,MarEx)
http://www.maritime-executive.com/features/sea-shepherds-paul-watson-returns-to-the-us

 マスコミ報道チェックはこんなところで、当事者の発表内容を検証してみることにしましょう。

■対シーシェパード訴訟での調停合意のお知らせ|日本鯨類研究所
http://www.icrwhale.org/160823ReleaseJp.html
■妨害差止訴訟・豆知識|〃
http://www.icrwhale.org/10-A-b.html
■米国第九巡回区控訴裁判所の法廷意見|〃
http://www.icrwhale.org/pdf/daikyujunkaihoutei.pdf
■米国第九巡回控訴裁判所・命令|〃
http://www.icrwhale.org/pdf/karishobunmeirei.pdf

 鯨研&共船v.s.シーシェパードの場外プロレスの経緯は、上掲2番目のリンクにあります。
 まず、2011年に捕鯨サークルの2角をなす鯨研・共船が米国のワシントン州米連邦地裁に妨害行為の禁止を求めて提訴。同地裁が仮差止命令の申し立てを却下したため、翌2012年に鯨研&共船側が第九巡回上訴裁に控訴。こちらで鯨研&共船側の言い分が概ね通ったわけです。
 その後SSCS側が命令を無視したため、法廷侮辱罪として賠償金255万ドル(約3億円)を課せられ、実際に連中は支払ったわけです。
 法廷侮辱罪の罰金は「原告の弁護士費用・経費及び被告の妨害により生じた損害」(引用) 3億円が懐に入ったといっても、決してまんまと大金をせしめたわけではありません。どんな裁判の賠償請求の場合も同じですが。
 つまり、船や機材などの修理代や弁護費用等にかかった実費分を加害者に払わせたはずなのに、その一部(金額不明)をわざわざ返してしまったのです。まさに保科氏の言うとおり、「さっぱり分からない」ですね・・。
 民事賠償請求で、そのような和解が一体起こりえるでしょうか?
 示談金(通常相当な高額)を加害者側≠ェ支払う代わり、刑事告訴を取り下げるという取引なら、よく聞く話です。しかし、このケースでは金を払ったのは被害者≠フ方なのです。
 暴行を受けた被害者側が、すでに裁判自体は勝訴目前(判決には至っていないものの、原告の主張に沿って差止命令を出した状態)のステータスでありながら、損害補填のために得た賠償金を「和解金」の名目で返すなんて話は、およそ聞いた試しがありません。
 朝日記事に写真があるとおり、13年に実害を蒙ったのは韓国企業が所有するサン・ローレル号。鯨研&共船がSSCSから得た賠償金は同号の補修費用に充てられるべきですが、こうなると彼らが本当に受け取れたのか疑わしくなってきますね・・。
 ちなみに、この3億円と同額の予算が「調査捕鯨円滑化事業」の名目のもとSSCS妨害対策費として2009年度から付けられ、その額は年を追う毎に膨れ上がって年間11億円を越え、東北大震災のあった2011年には復興予算まで流用して約23億円が確保されました。
 修理費用にも充てずSSCSに金を戻すくらいなら、国庫に返還するのがスジというもの。
 産経佐々木記者にしろ朝日野口記者にしろ、納税者の視点が圧倒的に欠如しているといわざるをえません。
 報道されているとおり、SS-AUSによる妨害は継続が考えられ、オーストラリアで米国と同様に司法による解決をはかることは不可能です。
 ちなみに、豪連邦裁による日本の調査捕鯨裁判の経緯については、下掲リンク先をご参照。まじめに賠償金を払ったSSCSと異なり、共船は豪裁判所の命令をガン無視。出廷要求にすら応ぜず。

【共同船舶はオーストラリア連邦裁判所法廷侮辱罪での罰金100万豪ドル(約8750万円)支払い命令を無視して未だ納めず】
http://textream.yahoo.co.jp/message/1834578/a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa/1/75954

 SS-USからの資金の流れがなくなるといっても、妨害の規模が縮小するという具体的な根拠は何もありません。産経佐々木記者は抜け穴≠ニ表現していますが、民事の取り決めにすぎず、日本の脱法調査捕鯨と同じ意味での国際法の網の目をかいくぐる抜け穴とは言えないものの、外れてはいません。新船はすでに建造済み、実行部隊はもともとAUS支部、支援者には寄付を直接そっちへ送るよう呼びかければ済む話で、SS側が実質的に困る要素はほとんどないと言っていいでしょう。つまり、今回の決定を受けて、国から安全対策にかける予算が減ることはないのです。日本国民には何の利益もないのです。
 一方、NEWREP-Aでは妨害による計画への支障を減じる万全の対策を講じている旨も、水産庁は公言しています。
 要するに、今回の当事者同士の表向きの和解は、情勢の変化を何ももたらすわけではないのです。
 当事者以外には詳細がベールに包まれたこの不可解な和解は、さらに大きな疑念を呼び起こします。

妨害禁止で合意したのは、訴訟費用がSSに重くのしかかったためとの見方がある(引用〜朝日)

 誰の見方なのか記事には書かれていませんが、朝日野口記者にこう耳打ちしたのは、鯨研・共船関係者に間違いないでしょう。
 しかし、2つの観点でこの見方≠ヘ決定的に間違っています。
 SSCSにとって少なからぬ費用負担となったのは、訴訟費用というより3億円の賠償金(大半は船等の損害賠償)のはず。産経・佐々木氏が以前記事にしていますが、オランダの宝くじ団体から入手した11億円が年間予算に相当するとすれば、3億円の損失は確かに痛いでしょう。
 ただ、弁護士委託等のそれ以外の訴訟関連費用より、南極海に船を送る妨害活動の経費の方がはるかにコストがかかります。反訴によって賠償金を減額させる、あるいは相手からも賠償金を得るという戦術も考えられるでしょう。敵≠ナある相手から金を受け取り、秘密の協定を交わしたうえで手を引くのは、SS流の直接行動をこれまでずっと支持してきたサポーターたちにとってみれば裏切り行為と映るもので、今回の和解自体が同団体のイメージダウンにつながり、寄付収入の減少の形で打撃を与えても不思議はありません。まさに本末転倒です。
 もうひとつ、もし本当に金がなくてSS側が困っているとすれば、なぜ鯨研・共船側から手を差し伸べてやる必要があるのでしょうか? SSCSが本当に財政的に行き詰まり、訴訟費用の負担に喘いでいるなら、鯨研・共船側から救済を申し出なくても、SSCS自らの判断で訴訟ないし妨害活動ないしはその両方を断念するでしょう。鯨研・共船側から、自分たちの蒙った損失分の補償金を返上してまで、彼らに援助≠オてやる理由は何もないはずです。共謀者でない限り。
 すなわち、SS側の不利益とは別に、鯨研・共船側にとってここで妥協を成立させておきたい強固な理由があるはずなのです。仇敵と握らなければ確実に失うもの、あるいはそうすることで得るものが。

本合意の詳細は、裁判所により公開された永久的妨害差止に関する情報を除いて合意条項に基づき対外秘となっている。(引用〜鯨研プレスリリース)

 鯨研・共船側から返還された額が相当大きかった──おそらく3億円の大部分が返ったのでしょう──疑いとともに、お互いにとってそうしたデメリットを補って余りある何かが、この密約の裏に隠されているのは否定の余地がありません。
 誰もがこう疑問を抱いて当然でしょう。

日本鯨類研究所の利とはなんなのか。シー・シェパードのそれはなんなのか(再引用〜メディアゴン)

 以下は筆者の推理。
 まず、SSCS側の大きな利について。


I am now free to travel in the USA and France(引用)

 これはワトソンの8/19のFB。まさに鯨研のプレスリリース直前のコメント
 それに対して、彼が「フランスを出たがってる」と書いてしまったお間抜けな産経佐々木氏が、悔しまぎれにつぶやいています。


米国は日本と犯罪人引き渡し条約を結んでおり、日本側が要求すれば米国はそれ相当の対応をしなくてはなくなります(引用)

 しかし、ワトソン本人の発信を見る限り、びくついている様子は微塵もなさそうです。米国が日本からの彼の身柄請求に応じること、あるいはそもそも日本からの身柄請求自体が来ないことを、確信したうえでの発言と受け取れます。
 むしろ、引退・代代わりもささやかれていたワトソンは、この春のタイミングでSS-USAの代表兼総責任者に復帰し、潮目が変わって℃ゥ由の身になったかの如く晴れ晴れとした風情で、当分米国に腰を落ち着けて任務に励むかに見受けられます。
 ちなみに、死刑存続国家である日本は、欧州諸国との間で犯罪人引渡し条約を結べず、条約を締結したのは米国と韓国のたった2国という先進国として恥ずかしいありさま。
 いずれにしろ、ワトソンがわざわざ直前のタイミングで自信にあふれるコメントを公表したことは、極秘事項の中に彼の身柄に関する事柄が含まれているのではないかという、強い疑念を呼び覚まします。
 というより、SSCS側にとって、南極海で捕鯨を継続している当事者との、金を受け取ることも含めて自分たちに不利を強いる取引に応じるだけの十分な利得があるとすれば、それは「ほぼ3億の返還」+「ワトソンの自由」以外に考えられないという気がするのです。

 では、鯨研・共船側にとっての大きな利とは一体何でしょうか?
 こちらの答えはより明瞭です。
 鯨研・共船側のねらい≠示すヒントは、彼らの発信している情報の中に隠されています。

反訴も含め正式に収束(引用〜プレスリリース)
連邦地裁に差し戻しとなった、永久差し止めの審理は、2016年10月11日に開廷の予定(引用〜鯨研リンク2番目)

 鯨研・共船の行動から明らかなのは、「金を払ってでも、今ここで和解しておく必要があった」ということです。
 では、もし仮に和解をしなかったとしたら、一体何が起こったでしょうか?

 ここで仮定を置くことにしましょう。
 まず、鯨研・共船側の主張が全面的に正しい場合。
 上述の流れで、暫定差止命令と同様に、SSCSに対して永久差止の判決が米連邦裁から下されることになるでしょう。和解による合意内容より厳しいものになった可能性さえあるでしょうね。
 それに対してSSCS側が反訴した場合。
 反訴の内容は、調査捕鯨船団側も人命に危害を加え得るLRADや放水による武力≠ナ応じ、自分たちにも被害が生じたとする主張を展開するものになるでしょう。
 ただ、それで狙えるのは損害賠償額の減額程度と考えられます。「先に手を出したSSCSが悪い」と米判事が判断すれば、それでおしまいでしょうね。
 鯨研・共船側にとっては、「自分たちも暴力をふるった」というエビデンスが残るマイナスイメージくらいで、マスコミを掌握できている間は国内で非難が高まる恐れはないとみていいでしょう。
 どちらもいま沖縄・辺野古で海保が、高江で機動隊が武器ひとつ持たない市民に対してふるっている圧倒的な暴力に比べればたいしたことではないと筆者は思いますけど・・。
 こうして裁判が鯨研・共船側ほぼ完全勝利の形で結審します。
 その後は、SS-USAと本部がそのまま加担し続ける形で、妨害活動が続行されるケースが考えられます。
 しかし、判決はすでに確定し、永久差止命令が下りているため、SSCSは妨害を行う度に法廷侮辱罪で罰金を命じられるでしょう。毎年、SSCS側は3億円を失い、日本側の懐には3億円が転がり込みます。しかも、再犯を繰り返すのは悪質との理由で罰金額は年を追う毎に引き上げられるでしょうね。また、米国内での公益団体としての認可は取り消され、非合法組織としての扱いを受けることになるでしょう。SSCSの台所事情が訴訟費用が痛手になるほどなら、存亡の危機に立たされるのは必至です。
 おや・・おかしいですね。鯨研・共船側にはまったく何のデメリットも存在しません。むしろ、願ったりかなったり。対策を十分に練ってある妨害を後数年だけ辛抱すれば、目障りな連中が勝手に自滅してくれるわけですから。

 次に、もうひとつの仮定に沿った展開を考えてみましょう。
 それは、鯨研・共船の思惑から逸れる、予想外の要素が裁判に付け加わった場合。
 そんなことがあるでしょうか? 主席判事がSSCSのパフォーマンスに対して「義足や眼帯がなかろうとおまえら海賊だ」と不快感も露に表明した以上、ひとつのきっかけで判決内容が覆ったりするでしょうか?
 実は、鯨研・共船にとって予想外の事態は、すでにあったのです。
 もちろん、米司法がSSCSの妨害を肯定することはないでしょう。どちらにしたって、SSCSの有罪はほぼ確定です。
 しかし、和解の形で終わらず、裁判がこのまま進行した場合、判決文は2013年2月に公表された控訴審の法廷意見の主旨とはまるで別のものに置き換えられることになるでしょう。
 そう・・その予想外の要素≠ニは、国際司法裁判所によるJARPAUの違法判決。
 賠償が課せられた期間は2012年/13年から2013/14年までの2シーズン、つまりJARPAUのとき。
 米連邦控訴裁の差止命令には、ICJの判断は一切加味されていないのです。シンプルに日本の調査捕鯨は国際法上合法だという前提に立っていたのです。

国際捕鯨取締条約の第8条は、締約国によって発給された調査許可に従って行われる場合、鯨類の捕獲を認めている。日鯨研は、日本からそのような許可を受けている。(引用〜鯨研リンク3)
捕鯨に関して公共の利益を定義している法は、捕鯨条約法と海産哺乳類保護法であり、両者とも捕鯨取締条約の下で発給された科学許可に従った捕鯨を認めている。日鯨研の活動はそのような許可の下で行われており、よって、海洋生態系に関する議会の政策と合致する。(引用〜鯨研リンク3)

 この部分は完全に差し替えを余儀なくされます。JARPAUは、ICRWと米国海産哺乳類保護法に背く違法行為であり、海洋生態系に関する米議会の政策に真っ向から反するものなのです。国際法の最高権威によって、すでにそういう判定が下りているのです。
 つまり、和解の形で途中で裁判を収束させず、続行させた場合には、10月のIWC年次総会が開かれるタイミングで、国民から忘れられつつある日本の調査捕鯨の違法性に、米裁判所による再認定という形で、改めてスポットライトが当てられることになるのです。
 そう・・それこそは、盗人に追い銭≠やってでも、捕鯨サークルとしては回避すべき事態なのです。ついでにいえば、NEWREP-Aに対して新たな妨害が企てられた場合には、その違法性が議論の焦点にならざるをえないでしょう。
 ICJ判決後、日本は調査捕鯨の看板を挿げ替えたり、国連のICJ受諾宣言の書き換えをやったり、国際司法判断からともかく逃げ続けてばかりいました。今回の一連の顛末も、蓋を開ければその延長にすぎなかったわけです。

 どう考えても被害者らしくない、まともな日本人の目にはあまりにも奇異に映る鯨研・共船の行動の裏には、「自分たちの違法行為を白日のもとにさらしたくない」というエゴイスティックな動機が働いていたと考えれば、皆さんもすべてがストンと腑に落ちるでしょう。
 捕鯨問題に詳しい環境外交のエキスパート・東北大の石井敦准教授は、捕鯨サークルとSSCS等の過激な反捕鯨団体の関係を指して「逆予定調和関係」と呼んでいます。
 今回の一連の経緯から、まさにお互い持ちつ持たれつ≠フ関係が改めて浮き彫りになったといえるでしょう。

   *   *   *

おかげさまで、HPリニュアル版、まとめ、ともに好評をいただいております。
引き続き周知にご協力くださいm(_ _)m

■クジラを食べたかったネコ
■「油目的で肉を捨てていた西洋と異なり、日本はクジラを余すところなく完全利用してきた」って本当?
posted by カメクジラネコ at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2016年08月07日

太地を庇って沖縄を脅す捕鯨族議員・鶴保氏のとてつもないダブスタ

 和歌山県選出の自民党参議院議員である鶴保庸介氏は、太地を地元に抱えるだけあって、捕鯨族議員の中でも最も活躍してきた族議員中の族議員のお1人といえます。
 あたかもシーシェパードと張り合うかのような彼の過激な見解については、当ブログでも幾度か紹介してきたとおり。
 この7月の参議院で4回目の当選を果たした鶴保氏は、今回の第3次安倍第2次改造内閣で初入閣、内閣府特命担当大臣 (沖縄及び北方対策、クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策担当)に。
 その鶴保氏、大臣就任早々、とんでもない発言で世間を賑わしました。

■「消化できないものお口に」 鶴保沖縄相、予算の減額示唆 (8/5,琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-329681.html
■安倍政権 「基地と振興リンク」方針 県民の批判必至 (8/5,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20160805/rky/00m/010/007000c
■鶴保・沖縄北方相「振興策と基地問題、確実にリンク」 (8/4,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASJ845HW7J84ULFA00Y.html
■振興策と基地「大きな意味ではリンク」 鶴保沖縄相、振興に「手段尽くしたい」 (8/5,沖縄タイムス)
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/56004
■菅長官、沖縄振興予算の減額否定せず=鶴保氏は翁長知事と会談へ (8/5,時事)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016080500408&g=pol
■安倍政権の沖縄予算 減額方針 法の理念と乖離 (8/5,琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-329683.html

@「振興策と基地問題は確実にリンクしている」 (引用〜朝日他)
@’「基地問題によって、振興策の中身を含め変わっていくのは十分当たり前のことだ。そういう意味では、振興策と基地問題は確実にリンクしている(引用〜琉球新報)
@’’沖縄振興というなかで、沖縄の大変な割合を占める基地問題、それに関心のある県民感情、歴史的経緯で基地というものは避けて通れないだろう。そういう大きな意味では振興策と基地問題は確実にリンクしていると思う」(引用〜沖縄タイムス)
Aまた、親交があったという国際政治学者の若泉敬氏の「沖縄県民の苦しみに全国民が寄り添うことができないのは、政治としておかしい」との言葉を紹介。「志を継いであげたいとの思いがある。沖縄振興を第一義的に考え、ありとあらゆる手段を尽くしたいと意欲を示した。(引用〜〃)
B基地の問題に対する態度をリンクさせようとする情勢を私はつくりたくない(引用〜琉球新報2)
C「予算額を減らすのは当然。消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよでは、全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」(引用〜琉球新報他)
D「お金は限られた資源だ」(引用〜時事)

 「基地問題と振興策はリンクさせない」としてきた政府のこれまでの立場を完全に覆す、沖縄からしてみればまさに掌を返す仕打ち。
 安倍政権の変節、約束破りはこれが初めてではありませんし、マスコミがそれらをスルーし、国民もいい加減慣れっこになってしまっているのが返って恐ろしいところなのですが・・。
 Cなどは、安倍政権の尖兵を買って出た新人大臣の勇み足にも映りますが、内容的には菅官房長官の4日の記者会見の発言を追認しただけにすぎません。
 従来の政府方針どおりなら、沖縄・北方担当相は防衛省と一線を画する立場で粛々と(菅官房長官語)振興のことだけ、「何が沖縄の人たちのためになるのか」だけ考えていればいいはず。そのためにこそ、沖縄・北方担当大臣という役職があるはず。
 鶴保氏は、就任初っ端から、他省の顔色を伺い、道を譲る姿勢を明確にしたわけです。早急に移設を進め、沖縄県内で米軍基地をたらい回しし、過重な負担を押し続けるためのカード≠ニして振興費をちらつかせるのが自身の役目だと、鮮明に示したわけです。
 てんでバラバラの仕事をつなぎ合わせた内閣府特命担当大臣というポストが、若手議員が本物の閣僚≠ノ昇る手前のステップ、見習い大臣%Iな役職にすぎないと象徴するかのよう。
 もっとも、すでに以下のような話も出ており、いまの日本のマスコミが健全だったなら、甘利元経産相同様糾弾されて、政治キャリアもここで詰んでいたかもしれませんが……。

■“スネ傷”4人が堂々と初入閣…東京地検が狙う新大臣の疑惑 (8/4,日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/187061

今村雅弘復興担当相(69)と鶴保庸介沖縄北方担当相(49)は、六本木や新橋のキャバクラの飲食代「政治資金」から支払っていた(引用)

■政治資金でキャバクラ支出/鶴保元国交副大臣の支部 ('14/11/28,四国新聞)
http://www.shikoku-np.co.jp/national/political/20141128000587

元国土交通副大臣の鶴保庸介参院議員(和歌山選挙区)が代表を務める自民党和歌山県参議院選挙区第2支部(和歌山市)が、女性が接客するキャバクラやラウンジの飲食代5回分、計約25万6千円政治活動費として支出していたことが28日、2013年分の政治資金収支報告書で分かった。
また12年の報告書でもラウンジやクラブの飲食代3回分、計約17万円政治活動費として支出していたことも判明。会計責任者は「誤解を招く支出だった」としている。
報告書や領収書によると、東京・六本木のキャバクラで13年2月に約8万8千円、6月に六本木の別のキャバクラ3万円などを支出。(引用)

 鶴保発言の細かい検証に入る前に、メディアとネットの反応を見てみましょう。

■基地問題とリンク 菅官房長官が「沖縄振興費」削減を示唆 (8/5,日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/187169

 「工事が進まなければ予算が少なくなるのは当然。跡地利用が遅れると、予算が少なくなっていくのは現実問題としてそうでないか」と語り、沖縄振興と基地問題をリンクさせないとしてきた政府の方針を事もなげに撤回した。
 今年1月に沖縄の基地負担軽減と振興策を協議する「政府・沖縄県協議会」の初会合では、振興策を基地問題とリンクさせないことを双方が確認していた。(引用)

■<社説>基地と予算リンク論 恫喝政治の表れだ 沖縄への揺さぶりやめよ (8/6,琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-330355.html

 安倍政権は法の精神をも踏みにじる。沖縄振興の根拠法である沖縄振興法には第1章第1条に「沖縄の自主性を尊重しつつ総合的かつ計画的な振興を図る」とある。辺野古の新基地建設について県知事や地元名護市長が反対し、選挙でも反対の民意が示されたのに、基地建設を進めようとするのは、沖縄の自主性を全く顧みていないということだ。(引用)

https://twitter.com/mas__yamazaki/status/761424262385192960
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/761424744906301440
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/761425191524151296
鶴保庸介沖縄・北方相は就任会見で「沖縄の振興策と基地問題は確実にリンクしている」と述べ、米軍普天間飛行場の同県名護市辺野古への移設作業が遅れた場合、沖縄振興予算を減らす可能性に言及(朝日)。言うことを聞かない者にはカネをやらない大臣
鶴保庸介議員という、沖縄問題への歴史的な理解がなく、テレビ討論では野党議員を馬鹿にする傲慢な態度を見せる人間を沖縄問題担当相に据えた安倍晋三首相の意図は、こういう無慈悲な政策を高圧的に実行できる資質を評価しての「配置」だろう。予算を人質に自国民を脅す政権を、民主主義とは呼ばない。
朝日新聞は、鶴保大臣の談話について「翁長雄志知事を牽制するもの」と書いているが、「予算額を減らすのは当然。消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよでは、全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」等という暴言は「牽制」レベルの話じゃない(引用)

https://twitter.com/kimuratomo/status/761538592975953921
「消化できないものお口に」鶴保沖縄相、予算の減額示唆』政府に逆らう自治体は兵糧攻めだ。政府に逆らう者を当選させたら大損だぞ。いよいよ牙剥き始めた安倍政権からのこの恫喝メッセージ、一体どれだけの国民が他人事ではないと理解出来ているか(引用)

 おそらく、沖縄の市民の皆さんは、鶴保氏がどんな人物か、まだよくわかってらっしゃらないでしょう。
 しかし、筆者には、彼の捕鯨問題に対するこれまでの発言に実によく似ているなあと感じるのです。鶴保氏らしさがにじみ出ているとでもいうのか。
 一言で言うなら、非合理で支離滅裂。
 もうひとつ感じるのは、沖縄と、地元和歌山の太地町との扱いの間にある、途方もない落差。究極のダブルスタンダード

 鶴保氏のちぐはぐぶりは、上掲の5つの発言それぞれが真っ向から矛盾していることでもわかります。
 @は各紙が記者会見から見出し等に用いた、自民党・安倍政権の沖縄に対する立場を明瞭に示したもの。ただ、他紙が省いたその前段の部分を、沖縄の地元紙2紙が別々に取り上げています。
 @’(〜琉球新報)は、単に菅氏の発言をなぞって言い換えた形。一方、@’’(〜沖縄タイムス)は・・句点でつないだこの二つの文を読んだ沖縄の方々は、一瞬目が点になり、続いて腸が煮えくり返ったことでしょう。
 菅官房長官に歩調を合わせ、「基地と振興策の直接リンク」「振興予算の減額」をより明瞭な形で言い直した鶴保沖縄・北方担当相は、「県民感情」「歴史的経緯」にあえて触れたうえで、「予算額を減らすのは当然」「血税の無駄遣い」につないだわけです。
 過重な基地負担に喘ぎ、凶悪犯罪に打ちひしがれた「県民感情」、独立国だった琉球を併合され、太平洋戦争で戦場と化し、米軍に長らく占領され今日まで本土と異なる扱いを受け続けている「歴史的経緯」に配慮するならば、沖縄振興法の主旨に鑑みるならば、基地負担の減少が一向に進まず事実上の新設である県内移設を推進しながら、なぜ減額という形でリンクしえるのでしょうか?
 基地負担が確実に軽減され、県民感情が和らいだ暁には、振興予算の減額が検討されるのも道理でしょう。「そういう意味でのリンク」なら、沖縄の皆さんも納得するでしょう。
 菅氏の発言には、シンプルに沖縄の「県民感情」「歴史的経緯」より「日米安保」を優先するという血も涙もない合理性≠ェ見て取れます。
 それに対し、鶴保氏の発言はわけがわかりません。「なだめ役」「ごまかし役」ですらないのです。
 @’’とCの、沖縄県民の神経を逆撫でするばかりの発言は、政権の立場から見てさえ、「まったく言う必要のない余計な一言」以外の何物でもありますまい。
 同様にAとC、鶴保氏自身の発言と、彼が引用した若泉氏の発言を並べてみましょう。

「沖縄県民の苦しみに全国民が寄り添うことができないのは、政治としておかしい」
「全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」

 これが「志を継い」だ人間の発言だと、皆さんは思いますか?
 同一人物が、同日の記者会見の席でした発言だと、皆さんは信じることができますか?
 Bも、@、Cを平然と言ってのけた人間が、同じ口で何の憚りもなく発せられるということ自体、信じがたいことです。
 彼は、発言の整合性を取るということが、ひとつの記者会見の中でさえ出来ない人物といえます。もちろん、会見中に多少の齟齬が見られるのは、どれほど高い学歴を持つ政治家でも同じですけど。
 しかし、彼の発言には、沖縄の人たちを煙に巻くという意図さえも感じられず、ただひたすら支離滅裂な印象を受けてしまうのです。
 これは一種の二重人格なのでしょうか?? 首相に対しては自己愛性パーソナリティ障害という分析もありますけど・・。
 というより、筆者には、脈絡を考える気/能力のない人間が、つらつらと言葉を発しただけとしか思えないのです。単に沖縄のことを真剣に考えてなどいないだけで。
 そして、その背景には、仮想敵相手の言葉遊び・ディベートごっこでやり込めた高揚感に浸る反反捕鯨思考──竜田揚げ脳の影響があるように思えてならないのです。

 鶴保氏のこの迂闊な発言は、菅氏の発言・安倍政権の方針が内包する大きな矛盾を赤裸々にさらけ出してくれました。もう気づかれた方も多いでしょう。

■復興予算 34%使い残し 15年度 事業遅れ1.9兆円超 (7/30,東京)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201607/CK2016073002000133.html
■<復興予算>34%未執行 用地取得の調整難航 (7/30,河北新報)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201607/20160730_71014.html
■復興予算9兆円が未使用 11〜14年度、検査院調査 (4/7,朝日)
http://www.asahi.com/articles/ASJ455JF4J45UTIL039.html

 さて、震災の被害を受けた東北の皆さん。とりわけ福島第一原発事故による放射能汚染の影響を被った福島の皆さん。
 復興相「予算額を減らすのは当然。消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよでは、全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」と鶴保氏とまったく同じことを言われたら、皆さんはどう感じますか?
 事業が遅れたから、「住民合意といった調整が難航」(毎日)したから、「予算額を減らされるのは仕方がない」と納得しますか?
 「沖縄と東北は違う」? もし、そう言われたとしたら、沖縄の皆さんはどう感じますか?
 福島の皆さん。もし、復興予算に関して、「福島第二原発の再稼働」「県内の原発新設」を条件にされ、受け入れなければ「復興予算の減額は当然」と迫られたら、皆さんはどう思いますか?
 国の安全保障のために米軍基地という迷惑施設を押し付けられた沖縄と、首都圏への電力供給のために原発という迷惑施設を押し付けられた福島と。そこに共通する差別の構造を指摘する声は前々からありました。そのどちらも、住民・現地企業を懐柔する振興名目の補助金とリンクしていた側面があったのも確かでしょう。
 いずれにしろ、これで沖縄に突きつけられたものが、偏に沖縄だけの問題だけではないということを、国民の誰もがはっきりと悟ったことでしょう。鶴保氏の発言によって。
 医師きむらとも氏の「いよいよ牙剥き始めた安倍政権からのこの恫喝メッセージ、一体どれだけの国民が他人事ではないと理解出来ているか」という言葉が、ずっしりと重みを伴って聞こえます。

 本来ならば、鶴保氏は沖縄・北方担当相の立場から、消化しきれなかった予算額は翌年度に繰り越したり、改めて沖縄振興事業に充当するなどの手を打つべきだと、菅官房長官に対して進言すべきだったはずです。東北の復興予算においてそうした措置がとられているように。
 しかし、鶴保沖縄・北方担当相は、あくまで沖縄県民の苦しみに寄り添うどころか、「消化できないものをお口に」云々と沖縄県民を嘲り、居丈高な菅官房長官語とダブルで追い討ちをかけたわけです。
 もし、本土の東北・福島に対してできることを、沖縄に対してやらないとするならば、そこにあるのは厳然たる差別にほかなりません。

 鶴保庸介殿。沖縄・北方担当相として沖縄という地域を代弁することなく、国の権威の側に立ち、沖縄の主体性を尊重せず県民の感情を踏みつけにすることが、なぜあなたにできるのですか?
 山崎雅弘氏のツイート「沖縄問題への歴史的な理解がない」との指摘は、鶴保氏が「歴史的経緯」という言葉を口にしながら「減額は当然」と言い切ってしまえることだけでも明らかですが、問題は彼が「沖縄に疎い」「歴史に疎い」の一言では片付けられません。
 沖縄の皆さんにぜひとも読んでいただきたいのが、彼が地元の地域紙わかやま新報にスペースを作ってもらって発信している以下のブログ記事。

■捕鯨文化を粘り強く発信 佐々木さんの映画制作に支援を ('15/7/22,わかやま新報)
http://www.wakayamashimpo.co.jp/2015/07/20150722_52442.html

こうしたことが続く欧米社会とは永遠に分かり合えないのではないかという不信感、そして埋めようのない価値観の違いに絶望感すら抱きます。安全保障法制が議論されている昨今、今後こうした欧米社会と価値観を共有し、さまざまな事態に連携して対処していくことができるのだろうか、とは私の考えすぎでしょうか。
イスラムの問題をひきあいに出すまでもなく、自分たちの価値観を押し付けることこそ世界の平和を乱すものである、という強い信念で、われわれの文化や考え方を押し付けるのではなく、粘り強く発信し、理解を求めていくしかないのだろうと思うのです。
例えば同性婚について、これまでさまざまな迫害がありましたが、連綿と続く努力のなかでいまや世界的に容認の方向であるといっていいでしょうし、少なくとも今現在認めていない国々に対して認める国が圧力をかけたり、不満を表明したりすることはないでしょう(引用)

■大物活動家の入国を拒否 史上初の処置、法定化も視野に(2/9,〃)
http://www.wakayamashimpo.co.jp/2016/02/20160209_58092.html

それが怖くて行政は滅多に入国拒否という強硬手段に訴えることはありませんでした。私はこれまで何度も何度も法務大臣にこうした慣例を破るよう迫ってまいりましたが、今回が初めての処置と成りました。(引用)

 上の同姓婚云々の、あまりにも支離滅裂すぎて意味不明(事実にも反する)のトンデモ持論については、以下の記事中の解説をご参照。

■オーストラリアは本当に庭先の自然を荒らす海の無法者&゚鯨ニッポンから潜水艦を買うの?|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/170101475.html

 鶴保氏は国交政務官等は務めてきましたが、農水の政務官・副大臣は歴任していません。
 しかし、太地の捕鯨・イルカ猟のためなら、法務大臣に「慣例を破るよう」迫ることはできるわけです。
 国際司法裁判所の調査捕鯨違法判決直後に鯨肉カレーパーティーを開き、調査捕鯨の非科学性を精一杯世界にアピールしてみせた自民党捕鯨議員連盟の中心メンバーの1人(幹事長代理)として、彼は精力的に活動してきました。
 海外の活動家1人の入国手続に関して法相にまで圧力をかけたのは、上掲のブログでご本人が口にしているとおりですが、これ以外にも、他の捕鯨族議員とともに国の捕鯨政策を左右していたことは疑いの余地がありません。
 水産官僚が日新丸改修のために南極海調査捕鯨の1年休漁を検討していたときに「けしからん」と怒鳴りつけたり、民間団体であるJAZA(日本動物園水族館協会)を呼びつけてWAZA残留の経緯について説明を要求したりしたときも、きっとその場にいらしたことでしょう。

■「反捕鯨陣営」に逆襲する日の丸 ('15/6,FACTA)
http://facta.co.jp/article/201506030.html

鶴保議員は国際的な法律事務所の有力弁護士と議論を重ねるだけでなく、「海外での訴訟経験が豊富な大手企業も回り、世界を相手にした法廷闘争やPR合戦のノウハウを蓄積している」(自民議員)とされる。(引用)

 三軒太地町長いわく外堀≠ナある南極海調査捕鯨を死守するために、ここまでやれてしまうのが鶴保議員なのです。
 太地の捕鯨に寄り添うあまり、「安全保障法制が議論されている昨今、今後こうした欧米社会と価値観を共有し、さまざまな事態に連携して対処していくことができるのだろうか」という、内閣の一員に加わるはあまりに強烈で意味深な言葉をわざわざ口にしてしまえる人物なのです。
 今回の記者会見で、「消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよ」とか、「資源」などという言葉が口をついて出てしまったのも、クジラが一番弁舌をふるう機会の多いネタ、彼の十八番だったからでしょう。

 皮肉なことですが、調査鯨肉はJARPAIIの無理な増産が祟り、鯨研/共同船舶がイベントで無料で配布したり、あの手この手の販促PRを展開しても国民にそっぽを向かれ、過年度在庫が積み上がり、鯨研自身も債務超過に陥ったことを水産庁も正直に白状しているとおり。「消化できないものを無理やりお口開けて食べてくださいよでは、全国民の血税で使われているお金を無駄遣いしているという批判に耐えられない」という彼の台詞は、調査捕鯨事業にこそピタリと当てはまるものだったのです。
 そして、予算云々に関して言えば、今年度政府予算で宛がわれた捕鯨関連予算はなんと51億円。なんと前年度比2.5倍を超える金額です。TPP関連の一部を除き、農水予算でここまで至れり尽くせりの大盤振る舞いを受けている分野はありません。しかもこれ以外にも水産外郭団体による別立ての基金が27億円用意されています。
 沖縄振興予算の方は3350億円ですが、調査捕鯨予算の拠出先は従業員300人程度の1事業所(鯨研&共同船舶)が中心なのです。沖縄県民143万人と比べるなら、振興予算を百倍の30兆円にしないと釣り合いません。

 どうして鶴保氏は、南極産美味い刺身のために多額の予算を付けたり、米国やオーストラリア、国際司法裁判所にあの手この手で対抗したり、活動家を追い払うため法相に慣例を破るよう要求することはできるのに、沖縄に対しては「予算額を減らすのは当然」とまで冷淡になれるのでしょう? 反捕鯨団体の監視とは比較にならない、まさに人権侵害以外の何物でもない機動隊や海上保安庁の暴力に苦しめられる高江・辺野古の市民を守ってくれないのでしょう?
 ひとつはっきりしているのは、鶴保氏にとっての優先順位が「太地>>米国>>沖縄」だということ。
 彼が差別してるのは人≠ナす。
 クジラやイルカと「猿」と「馬」と「カラス」ではなく。
 それらの動物を平等≠ノ殺すためなら、様々な機関に政治的圧力をかけることも辞さないが、同じ日本の中で同じ人である沖縄の人々がかくも理不尽な差別的待遇を受けている事実に対し、闘うことをしようとはしない政治家なのです。

 鶴保氏の素朴にすぎる捕鯨美化の意識がこの先変わることがあるとは思いません。「南半球の人々に身勝手で傲慢な価値観を押し付け、南極の自然に欲をかくのはやめてほしい」と頼むだけ無駄でしょう。
 しかし、沖縄・北方担当相のポストに就いた以上、県民の心を踏みにじる無知で無神経な発言を繰り返すことは二度と許されないはずです。そこは捕鯨の是非とリンクする話ではありません。
 少なくとも、強大な敵≠ニ闘っている点で、太地と沖縄には共通点があります。もっとも、沖縄との大きな違いは、太地にはそれを上回るさらに強大な味方がついているということですが。
 太地を守るために発揮している政治的豪腕を、沖縄のために行使することは、鶴保氏には可能なはずです。できないはずがありません。
 それをしないというのなら、日本の独善的な捕鯨政策を裏で支える国会議員の沖縄に対する究極のダブスタが、調査捕鯨や太地のイルカ猟に関心のある世界中の人々にもいずれ知れ渡ることとなるでしょう。それが太地のためになるとは、筆者には思えません。

関連リンク:
■沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ|拙ブログ過去記事
■米大使ツイート騒動|拙ブログ過去記事
■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
http://togetter.com/li/834969
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2016年08月03日

びっくり仰天、都合の悪い事実に蓋をする非科学的な水産庁広報資料

 水産庁が実に驚くべき資料を立て続けに公表しました。


 上の資料は、「水産基本計画の変更」について審議するべく、7月13日に水産庁で開かれた水産政策審議会企画部会で使用されたもの。
 そして、下の資料は、農水省ホームページにもあるとおり「消費者の皆さん、農林水産業関係者、そして農林水産省を結ぶビジュアル・広報誌」(引用)。ちなみに、編集を下請けしているのはKADOKAWA。
 何が驚き≠ゥといって、水産資源状態の枯渇とそれに伴う国際規制強化の動きについて、乱獲の当事者である日本の漁業者とそれを監督する責任のある水産庁ではなく、別の誰かの所為にしていること。
 その誰か≠ニは、具体的にいうと「外国(中国・台湾等の周辺国および島嶼国)」「環境保護団体」そして「クジラ」──。

 上掲のファイルをもとにツッコミを入れていきましょう。まずは審議会資料の方から。
 プレゼン3ページ目、真ん中の段、1番右と左、「科学的根拠に基づかない規制」「『環境保護』勢力の圧力増大」は言っていることがほとんどダブっていて2つに分ける意味がありません。まあ、強調したかったんでしょうが・・。
 そのうえ、3番目は科学的根拠に基づ≠ゥず、札束外交・力ずくで言うことを聞かせるやり方を掲げているのですから、自己矛盾もいいところ。
 捕鯨に関しては、「科学的根拠に基づく生物資源の利用全体の観点も見据え、調査捕鯨の継続による商業捕鯨を再開」と、なにやら国語の苦手な中学生の作文状態・・。
 「U−2.太平洋マグロの国際的な資源管理」、【課題】で日本自身の乱獲に一言も触れられていません。
 最大消費国として重い責任を持つはずの日本が、経済規模でも漁業への依存度でも比較にならない太平洋の小さな島国にその責任をなすりつけている図は、みっともないの一語に尽きます。
 前月には同じ企画部会で国内の資源管理について議論がなされ、クロマグロについてもちょびっとだけ触れられましたが、大手巻き網の産卵親魚漁獲集中問題への言及はなし。
 実はこのとき、企画部会委員でもある全漁連常務理事の大森敏弘氏が、とんでもない意見を述べています。


 気候変動、外国漁船の影響のほか、開発行為等、水環境政策など、さまざまな資源の変動要因があるのではないか。これらをしっかりと分析・評価する精度をあげる研究をしていくべき。その上で、漁業者の乱獲が減少要因であれば、厳しい管理措置の実施も何ら避けるものではない。(引用)

 大森氏自身が下線で強調しているこの指摘、言い換えれば「自分たちの責任だとはっきりしない限り、いくら魚が減っていようと規制は受け入れず獲り続けるぞ」ということ。
 つまり、全漁連役員の用いる「持続的」という言葉は、水産資源の持続性を保証するという意味でないのです。
 これは非持続的な乱獲志向の大手事業者に常に寄り添う業界団体幹部の認識であり、日本のすべての漁業者の皆さんがそういう感覚に縛られているとは思いませんが・・。
 密漁に関わる日本の裏社会、あるいは温室効果ガスを大量に放出する産業界の責任を追及し、減船や漁獲削減に対する補償を求めたり、国に実効的な規制を要求するのは、至極正当なことでしょう。
 しかし、「じゃあ、俺たちも獲り続けるよ」というのは、海の自然・魚と長年つきあい、配慮してきた人たちの口にする言葉ではありません。
 例えるなら、全漁連のこの指摘は、気候変動による高潮で国土が水没しつつある島嶼国が、「俺たちの責任じゃないんだから、俺たちはCO2をガンガン排出し続けるぞ」と、無頓着に自国を沈めたがるのと一緒です。
 してみると、翌月の審議会で配布された国際管理に関する資料が、すべての責任を日本の漁業者以外に押し付ける内容になっているのは、業界団体の不満を和らげるガス抜きの配慮と見て取れるわけです。
 なお、クロマグロの問題については、漁業問題に精通する茂木陽一氏のブログの解説を合わせてご参照。

■生クロマグロ水揚げ日本一の境港を訪れて
http://uminchumogi.blog111.fc2.com/blog-entry-455.html

 で、P18からが捕鯨。相変わらず部門の規模に似合わない大きな扱いですが・・。

(注1)環境NGOの活動はその後、公海流し網漁業の禁止、マグロ延縄漁業による海鳥の混獲問題、クロマグロやサメの貿易規制提案等、他の漁業・魚種に拡大(引用)

 P19中のこの一文にはもう笑うしかありません。なぜって?

■(資料2) 漁場環境の保全及び生態系の維持|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/shingikai/pdf/pdf/61data2.pdf
 
 上掲はまさに同じ企画部会で使われたもう一つの資料
 P5に「生物多様性に配慮した漁業の推進」と題して海鳥やウミガメに対する混獲削減に向けた取り組みと一層の改善の必要性が紹介されています。
 そう・・混獲問題に関しては、日本の研究者も米国等海外と協力し、まさに科学的根拠に基づ≠「て、漁業者・国民の理解を求めているところなのです。
 ところが、水産庁自身も率先して漁業者に呼びかけているハズのこうした取り組みに対し、同日に配られた資料1の総論と上掲の記述はまるで「環境保護団体の圧力で、科学的根拠に基づかず仕方なくやる羽目になった」とでも言いたげな様子。
 実際には、環境NGOの指摘に基づく海洋生態系保全のための国際共同研究とは対照的に、科学的根拠に基づかない=A科学≠フ皮をかぶった美味い刺身目的の調査になっているのこそ、調査捕鯨なのです。
 その証拠に、P20は非科学的な珍説のオンパレード。
 環境外交の専門家・早大真田氏もばっさり斬り捨てています。


水産庁の新方針、「クジラのせいで魚が減っているのだ。クジラがどのくらい餌を食べているかはお腹を割いてみなければわからないのだ。だからクジラを科学調査目的でとるのだ」という国際司法裁判所の口頭弁論でもでさんざんけちょんけちょんにされた例の説をまたもや大々的に開陳(p. 20)。
「おなかを割かないと何を食べたかわからない」という理屈に対しては、勿論「じゃあ、なんで特定の種類のクジラばっかりとっているんだろうね。北太平洋で魚など食べ物を食べているのは、日本の調査捕鯨の理屈では、特定のクジラだけなんだ。φ(`д´)メモメモ… 」と外国の科学者たちからこき下ろされている今日この頃です。(引用)

 世界中の研究者から白い目を向けられるようなプレゼン資料を、よりによって国の所轄機関が発表してしまうとは、なんとも恥ずかしい限りです。
 ラッコ先生に倣い、筆者も個別にチェックしてみましょう。

増加したクジラによるこの捕食行動が、漁業に深刻な影響を与えていると懸念されている。(引用)

 まず、「クジラが増加した」という表現が科学的にはきわめて不正確。
 正しくは、「商業捕鯨の乱獲によって激減した鯨種のうち、捕獲禁止後一部は回復に向かっているとみられる」です。
 そして、「漁業に深刻な影響を与えている」ことを立証する論文はどこにもありません。
 まさに非科学的な懸念そのもの。放射脳≠ネらぬクジラ食害脳なのです。
 間引き説を唱えた捕鯨御用学者・大隅氏らが、「鯨類は○○トンの魚を食べる」という、科学リテラシーの弱いネトウヨに受けそうな珍説を披露しましたが、これは南極のオキアミも非商業漁獲対象種も全部ぶっ込んだ数字。
 いずれにしても、数字は「深刻な影響」を意味しません。
 クジラと同じように科学的には意味のない、分類群による大雑把な推計を挙げるなら、魚もイカ等の無脊椎動物もトータルでは鯨類の捕食量を圧倒的に上回ることでしょう。魚(商業漁獲対象種)と魚(非商業漁獲対象種)を分けても、やはり同様にクジラの上をいくでしょう。
 単位体重当り摂餌量で比較すれば、代謝の高い鰭脚類や海鳥類が鯨類を上回ることも確実です。これは食害の効果≠ェより高いことを意味します。
 付け加えれば、資料2には「有害生物による漁業被害防止対策の推進」の項もあるのですが、そこに記載があるのは大型クラゲ・トド・ザラボヤのみ。クジラへの言及はありません。
 まじめな研究者であれば、水産庁所属であっても否定するのが当たり前の話なのです。

 水産庁は、生態系を構成する野生動物にすぎないクジラを、まるでエイリアン、ヒトに対抗する文明種族か何かのように、「クジラと漁業の競合」を掲げています。
 「生態系の一部であるクジラ」と、経済の論理で動く人間の「漁業」とでは、天と地ほどの開きがあります。
 水産庁が故意に狙った$}説に対抗すべく、こちらもなるべくわかりやすいよう図を用意してみました。

oomachigai.png

 食害論については、先日更新したこちらのまとめとリンク先をご参照。

■間引き必要説の大ウソ|拙HP
http://www.kkneko.com/mabiki.htm

 トンデモ図説の隣、P20の右側について。
 文章自体を正しく直してあげましょう。このプレゼンを作成した庁の担当者が国語と水産学双方に疎いとしか思えないのですが・・

2.このため鯨類資源調査においては、致死調査の一貫として、鯨類の胃内容物を調査。
  鯨類資源調査の主目的
(1)致死調査の例
  致死調査によってわかる情報
●資源の構成(耳垢栓による年齢組成分析など)
●系群の分布(組織サンプルの遺伝解析)
●摂餌生態(胃内容物)
(2)非致死調査の例
  非致死調査によってわかる情報
●資源量(目視による個体数推定)
●資源の構成(組織サンプルの化学分析)
●系群の分布(組織サンプルの遺伝解析)
●摂餌生態(組織サンプルの化学分析、バイオロギング)

 筆者が青字で付け足した、水産庁が省いた項目について補足。
 RMP(改訂管理方式)では年齢構成の情報自体不要。日本はこれを調べる目的を掲げて調査捕鯨をやっていますが、そもそも「必要不可欠」な作業ではないのです。日本の主張する精度の改善とは、「調査捕鯨のデータを活用すると、もしかしたら捕獲枠を1割くらい増やせるかもしれない」という話で、商業捕鯨再開の前提でも何でもありません。そのために必要な年齢査定は、DNAメチル化技術で非致死調査によっても可能。後は精度の問題。その精度でなければならないという理由もやはりないのですが。
 摂餌生態については、胃内容物調査はその場限りのスナップショット的情報しか得られないため、むしろ非致死調査の脂肪酸解析の方が優れています。

 続いてP21。
 「イルカはIWCの管理対象外」とあるのは間違い。正確にはまだ規制対象外」。小型鯨類も国連海洋法条約のもとで国際機関が管理するのがスジですが、現在できておらず、IWCできちんと管理・監視すべきだという議論が続いています。
 「科学的根拠に基づく適切な資源管理の下で実施」
 現行では日本の独断で管理しており、イシイルカ等で適用されている管理方式(PBR)を太地の追い込み猟の対象種に対しては恣意的に適用しないなど、科学的にも大いに問題があると批判を受けています。
 「反捕鯨団体による妨害活動」について。
 日本側もLRAD、放水等人命に関わる応戦をしているので五十歩百歩。いずれにせよ、いま沖縄の辺野古や高江で海保と機動隊がやっている非人道的・暴力的な行為に比べれば百倍も千倍もマシ。
 「イルカ漁業への抗議・妨害」について。
 太地イルカ猟関係者はWAZA/JAZAに嘘をついて「生体用と食用の捕獲を分ける」という約束を破ったり、ハナゴンドウの捕獲枠を超過した疑いがあるなど、甚だ信用が置けません。監督者でありながら物申すことができない県・水産庁の責任でもあります。
 世界イルカデーの行動は合法的な市民のデモ。
 先進国であれば市民誰にでも認められた権利です。アイヌの存在そのものを否定したり、在日外国人に対し「殺せ」「レイプしろ」と叫んで子供の安全を脅かす卑劣で陰湿な極右団体のヘイトスピーチとは次元が違います。在特会は(勝手に?)何度か太地に捕鯨・イルカ猟の応援に入っていますが、水産庁は沈黙を守っています。これでは水産庁自身の人権感覚が問われても仕方ありません。
 これは同時に、以前と異なり、過去に日本の捕鯨会社が犯した乱獲や密猟という大きな過ちを認めるどころか、嘘で塗り固めて否定しようとする歴史修正主義と相まって、国際社会に対する日本の国全体のイメージを大きく失墜させるものといえます。

 まとめのP22「基本計画における方向性」
 この1ページだけで「科学的根拠に基づく」と4回も連呼しているのが可笑しくなってしまいます。トンデモ図説のせいで台無し。
 従来の捕鯨政策の延長で、とくに目立った変化はないのですが、今まで以上に北朝鮮を髣髴とさせる硬直した姿勢が見て取れます。
 「生物資源全般の科学的根拠に基づく持続的な利用」を謳うなら、南極の自然に手を出す前に日本がやるべきことはあるはずです。

(1)なぜICJ判決で負けたか、国民にきちんと説明し、責任を果たすこと。
 国民に対して嘘をつき続けるのをいい加減やめ、水産庁トップの「美味い刺身の安定供給のため」発言によって自ら首を絞めたことを明示すること。

(2)公海調査捕鯨をただちにやめること。
 NEWREP-Aの続行は、日本に「国際法的・科学的な正当性」がないことを証明し、世界の信頼を失うばかりです。

(3)南極のクジラ殺しのみを神聖視するダブスタをやめること
 オオハクチョウやキタオットセイやハダカイワシ、多くの昆虫、食用に適さないわけではなく市場がないという理由で網にかかりながら遺棄される多くの魚等、クジラと同じ意味において科学的・持続的に利用可能でありながら日本が現在(ほとんど)利用していない生物資源はいくらでもあります。
 少なくともそこには、南半球のたくさんの人々が生態系サービス・非消費的な経済的価値に浴している野生動物をよそから乗り込んで強奪していく行為によって生じる、彼らの感情を逆なでし、生かす文化≠踏みにじり、友好国との外交関係に支障を来たすという、きわめて高い障害はありません。
 筆者自身は無理にやれというつもりはありませんけど……。

(4)乱獲体質を改め、真の持続的水産業先進国へと脱皮すること。
 日本には水産物の持続的利用で世界を仕切り、発展途上国を指導する資格などまったくありません。
 論より証拠、世銀レポートでも、漁業生産で世界平均23.6%の成長が見込まれる中、唯一日本のみがマイナス成長(-9.0%)と予測されている国なのです。
 日本は持続可能な漁業のできない落第生≠ナあることを示す何よりの証拠。国民に対して嘘をつき続けるのは、北朝鮮にも劣る、先進国としてあまりにも情けないことです。

■世界漁業・養殖業白書 2014年(日本語要約版)|FAO
http://www.fao.org/3/a-i3720o.pdf
■世界銀行レポート FISH TO 2030:世界の漁業は成長し、日本漁業のみが縮小する|勝川俊雄公式サイト
http://katukawa.com/?p=5396

 V章の「海外漁業協力等の推進」、札束外交については、以下をご参照。

■捕鯨推進は日本の外交プライオリティbP!? ──IWC票買い援助外交、その驚愕の実態──|拙HP
http://www.kkneko.com/oda1.htm

 さて、P22の最下段、「政府広報の展開、国内・海外へのマスコミの情報発信のやり方を工夫」の一環といえるのが、農水省広報誌affの鯨特集。
 引き続き、ざっとaffの記事をチェックしていきましょう。

 P1、「日本遺産に認定された鯨と生きた人々の物語」
 日本遺産認定に関しては以下の記事を参照。残念ながら、太地をはじめとする古式捕鯨も、やはり持続性のない乱獲の歴史に他なりませんでした。

■哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/175388681.html

「畏敬(いけい)と感謝の念を持ち大切に利用されてきた鯨」
 従来はアイヌの捕鯨につながる縄文時代の真脇遺跡の例を挙げるケースが多かったのですが、次頁も含め見当たりませんね・・。代わりに登場したのが壱岐・原の辻の遺跡からの出土品。
 ただ、同地方は大陸・朝鮮半島由来の出土品が多く、捕鯨技術もおそらく大陸からもたらされたものでしょう。鯨と船(?)が線刻されたと見られる土器は紀元前1世紀のもので、時期的にも新宮の徐福伝説と重なります。

■太地の捕鯨は中国産!? 捕鯨史の真相|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/18025105.html

 短いうえに強引にまとめた段落ですが、捕鯨問題ウォッチャーは既にご承知のとおり、日本人はこの文章のように単純化された畏敬と感謝の念のみでない、もっと複雑に入り乱れた感情をもってつきあってきたのです。
 江戸時代初期から捕鯨の乱獲と非人道性に対する批判もあれば、仔鯨殺しへの悔恨の情もあれば、「鯨一つ捕れば七浦枯れる」と戒める地域もあったのです。
 そして、鯨油を売って外貨を獲得することしか頭になかった戦前の捕鯨会社は、南極海で獲ったクジラの肉の大半を捨てていました。大切に利用してきた民族がやることではありません。

■鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性|Togetterまとめ
http://togetter.com/li/977982
■真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史|拙HP
http://www.kkneko.com/aa1.htm

「捕鯨の近代化と環境保護主義の台頭」
 規制と環境保護の台頭を自ら招いた日本の捕鯨産業による乱獲と密猟について、一言も言及がありません。
 「食料難に苦しんでいた日本人を救ってくれたのが南極海の鯨」に対し、恩を仇で返すとはまさにこのことです。ライターの下境氏の責任ではなく、すべては捕鯨サークル・水産庁が悪いのですが・・。

P2、「畏敬の念を示す祭事や史跡のシンボル」として、ここで北海道のモヨロ貝塚が紹介されていますが、日本という国は先住民アイヌに対して畏敬を示すことなく、和人よりは持続的で歴史の長かった彼らの伝統捕鯨を強制的に廃止させたのです。

■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 その下には和田浦の小型捕鯨を紹介。
 繰り返しになりますが、「捕鯨の対象は国際管理下にはないツチクジラ」は間違い。正しくは「未規制」です。
 「地元で捕れる物を食べる」とありますが、和田浦の外房捕鯨は北海道沖まで出張っています。地元とはいえず。

 P3。鯨肉は単に割高なだけ。バレニン教≠ノ騙されないように。
 あと、グルメ紹介サイト「クジラ横丁」のドメイン取得者はあろうことにも鯨研。「写真提供/日本鯨類研究所」って、よく恥ずかしくないよね……。
 以下をご参照。

■完全商業捕鯨化に向けKKP発進|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/60376356.html
■鯨料理トンデモ<激Vピ一覧|拙HP
http://www.kkneko.com/shoku.htm

 P4、ここでおなじみ森下丈二氏が登場。東京海洋大教授だけで、現IWC日本政府代表の肩書きがないのが不思議。

 「唐突な商業捕鯨停止提案とIWCでの多数派工作」
今では反捕鯨の立場をとっている国を含め、欧米諸国はかつて鯨油を目的とする捕鯨を盛んに行っていました。1960年代には大規模な母船式捕鯨を展開して乱獲状態となり(引用)

 非常に計算された、狡猾な日本語表現。文字で起している以上、そう断定せざるをえません。
 前半の句点までの主語は「欧米諸国」。後半は主語がありません。
 1960年代、戦後の南極海商業捕鯨の最盛期に最も多く船を出し、トータルで最も多くクジラを殺していたのは日本です。この時期に一番多くナガスクジラとシロナガスクジラを殺していたのも日本
 日本の捕鯨産業の責任について一言も触れない、ここまで卑劣な歴史修正主義が一体あるでしょうか!?

アメリカが唐突に商業捕鯨の停止の提案を行ったのは、1972年6月、スウェーデンで開催された国連人間環境会議でした。(引用)

 さあ、耳タコの陰謀論が出てきましたね・・。
 きわめて不可解なのは、森下氏自身が以前、食害論の否定と同様、日本捕鯨協会/国際ピーアールの世論操作に自分は関わっていないと言わんばかりに「当時に直に関わっていたわけではないので何とも言えません」と発言していること。竜田揚げ効果で態度を翻したのかもしれませんが・・。
 ベトナム戦争陰謀論についての詳細は以下をご参照。

■クジラの陰謀|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/324-the-whale-plot-j
■検証:クジラと陰謀|Togetterまとめ
http://togetter.com/li/942852
■「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く〜いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えたトンデモ竜田揚げプロパガンダ映画 |Togetterまとめ
http://togetter.com/li/941637

「捕鯨に関する日本の見解とかたくなな反捕鯨国の姿勢」

 上掲したとおり、南半球ナガスクジラについてはIWC科学委員会で合意された生息数の数字はありません。日本の一部捕鯨関係者が勝手にそう言ってるだけ。

反捕鯨国にとっては、捕鯨国に科学的データを持ち出されてもやすやすと譲歩するわけにはいかない事情もあるのでしょう。
反捕鯨勢力が国際世論を醸成し、今や調査捕鯨にまで「悪」のレッテルを貼ろうとする反捕鯨団体や、鯨やイルカを「カリスマ的動物」として特別視する人たちが登場しています。こうなると科学の範ちゅうの話ではありません。(引用)

 おやおや・・現実と真逆の印象操作をなさってますね。
 国際司法裁判所(ICJ)はなぜ、日本の調査捕鯨を違法と断じたのでしょうか? 「カリスマ的動物」を特別視する反捕鯨勢力が国際世論を醸成したから? ICJまで調査捕鯨に「悪」のレッテルを貼った??
 答えはNOです。その
 日本の調査捕鯨が国際司法機関によって「違法」という事実に即したシンプルな「悪」のレッテルを貼られたのは、判決文にもしっかり記されているとおり、南極産鯨肉を美味い刺身「カリスマ的美食」として特別視する人が日本に存在するからです。反捕鯨国に「いくら科学的データを持ち出されても」、判決直後に永田町で鯨肉パーティーを開いたりする面々に尻をたたかれ、担当官僚も「やすやすと譲歩するわけにはいかず」、看板をかけかえたり、国連の受諾宣言を書き換えるみっともない真似をせざるをえないするわけです。確かに、もうこうなると「科学の範疇」ではありませんけど……。

■ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
■とことん卑屈でみっともない捕鯨ニッポン、国際裁判に負けて逃げる|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/166553124.html

 「鯨を含む『カリスマ的動物』に対する規制の強化」

 ここで斜めに走るのがお好きな森下氏らしい、トンデモ食料自給論が登場します。

 「多様性の維持」こそが食料安全保障のキーワードなのですが、すでに極端なモノポリー(独占)が進行しているのです。(引用)

 いかにも飢餓と貧困の現場から遠く離れたところで飽食三昧に暮らしている日本の官僚らしい主張ですね・・。
 彼が引用した元FAOの台詞は、国際的な食糧市場を牛耳るGM等のバイオメジャーによって商業作物の種苗が囲い込まれ、途上国で非商業的・伝統的に利用されてきた植物の栽培・利用技術が失われようとしている現状を指したもの。事情は日本においても同様で、地域野菜や雑穀が高齢化・過疎化に加えTPP加入により市場経済への適合をますます迫られることによって、いま絶滅の危機にあるわけです。多額の税金と石油を投じて南極にクジラを屠りにいくことで解決する話ではまったくありません。TPP参入をはじめ、食の多様性を喪失させる方向へと邁進しているのは日本政府に他ならないのですから。国民の目を欺くことで、日本の自給率低下を加速させ、多国籍企業の支配を手助けする効果ならあるでしょうが。
 それにしても、多様性≠ニいう言葉で国民を惑わす手口が原発推進派に実にそっくりです。
 捕鯨がいかに日本の食糧安全保障に寄与しないかについては、こちらで詳細に論じているとおり。

■鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/174477580.html

鯨を前例として、国際会議の場で科学的根拠のないまま、あれもダメ、これもダメと絶滅危惧種の提案や利用を厳しく制限する提案が続出し、ゾウなどの大型の陸上動物、マグロやサメが「カリスマ」のリストに加えられようとしていることです。こうなると、多様性はさらに失われます。(引用)

 そんなにいうなら、いっそ生物多様性条約(CBD)に対抗する食の多様性条約でも提案したらどうかと思いますが・・。
 ゾウ、マグロ、サメと、注意深い管理を求めるだけの生態学的・社会科学的根拠が明確にある野生動物に対し、科学的根拠なく「カリスマ」というレッテルを貼って規制の足を引っ張ろうとする森下氏は、もはや生物多様性の敵といっても過言ではないでしょう。水産庁自身の資料に「生物多様性に配慮した漁業の推進」も入っているのにね・・。
 「未曽有の干ばつや家畜の伝染病が発生すれば、人類は危機的状況」(引用)に陥った場合、南極産鯨肉が2000%助けにならないのは前掲ブログ記事で指摘しているとおり。無知な大衆の危機感を煽るやり方は、過激な市民団体≠フ模倣なのかもしれませんが・・。
 「捕鯨は国家主権の問題」(引用)という日本に右へ倣えの主張をしているのは、日本から多額の援助を受け、農水省から手取り足取りレクチャーを受け、現実的に公海母船式捕鯨を実施する可能性ゼロの国だけです。

「カリスマ的」といった概念を持ち込めば、「私たちの文化は他の文化より勝っている」という文化帝国主義的な議論になりかねません。鯨についても異なる考え方がある。意見の相違があっても相手を尊重する。これもまた、鯨に対する見方の「多様性」であり、まずはこの合意を議論の前提として求めていくべきです。(引用)

 そもそも「クジラはカリスマだ!」と主張している反捕鯨派を筆者は知りませんし、森下氏自身の発明した誘導目的のキャッチコピーだとしか思えないのですが、文化帝国主義≠ヘ森下氏本人のカラーです。南半球の殺さない文化∞生かす文化≠蔑ろにすることといい、アイヌに対するダブスタ発言といい。「意見の相違があっても相手を尊重する」ということをまったくしていないのは、傲慢な超拡張主義的食ブンカを南半球の人々と自然に強引に押し付け続ける日本に他なりません。

■米国紙がみた調査捕鯨とアイヌ|無党派日本人の本音
http://blog.goo.ne.jp/mutouha80s/e/a863ac35990df463fce164c7633863d5
■Japan's whaling logic doesn't cut two ways (LATimes,2007/11/24)
http://articles.latimes.com/2007/nov/24/world/fg-whaling24

「商業捕鯨/先住民生存捕鯨等を行っている国々」

 日本の調査捕鯨の捕獲数を入れないなら意味のない数字。日本はノルウェー・アイスランド産鯨肉の市場となっていることも注意。
 同ページの最後に登場するウーマンズフォーラム魚ですが、NGO(非政府組織)の呼称に似つかわしくない、政府・業界の立場をそっくり代弁する御用団体。詳細はこちら。

■モラトリアム発効と「国際ピーアール」の陰謀|拙HP
http://www.kkneko.com/aa4.htm

 最後のP5は、調査捕鯨の正当化。

持続可能な捕獲量を計算するには目視で得た現在の生息数だけでなく、将来の変動を予測する必要があります。ある鯨種が全体として高齢化していれば今後、減少していくことになるわけです。また若い個体が多くても栄養状態が悪く、成熟が遅れがちだと増えにくいと言えます。(引用)

 持続可能な捕獲量を計算するためのRMPは、生息数のデータのみで将来の変動を予測することのできる安全な方式として考案されたもの。これも繰り返しですが、そもそも調査捕鯨は要らないのです。「必要だから」やっているのではなく、「1割くらい捕獲枠を増やせるかもしれない」という理由でやっているのです。
 クロミンククジラの「栄養状態が悪く」なっているという論文を鯨研はネイチャーに提出、胸を張って宣伝しようとしましたが、統計処理に問題があったと他の研究者に突っ込まれました。なんでそこまできちんと書かないのかしら?
 ICJ判決を受け、今までお座なりにやっていた非致死調査にやっと少しだけ腰を入れ始めたことも、記載がありません。まるで最初から一所懸命取り組んでいたかのよう。それが事実なら、ICJで敗訴することは決してありませんでした。

「北西太平洋における競合の模式図」

 さっきの非科学的きわまりない審議会資料、しっかり使ってますね〜。

例えば南極海ではクロミンククジラの資源が安定していることや、近年ザトウクジラなどほかの鯨種が急増していること、これによって将来、クロミンククジラの餌環境が脅かされてその資源の動向にも影響を与える可能性が否定できないことなど、資源管理をするうえで重要な事実が分かってきています。(引用)

 再掲ですが、以下を参照。

■間引き必要説の大ウソ|拙HP
http://www.kkneko.com/mabiki.htm

 「ザトウがミンクを脅かす」という従来無責任に流布していたのとは真逆の説についてですが、これはあくまで可能性の一つにすぎません。いくつもの可能性が考えられるのですが、特定種の致死調査に特化した調査捕鯨ではそのどれが正しいのか判別することができないのです。詳細は以下を参照。

■調査捕鯨の科学的理由を"後から"探し続ける鯨研|拙ブログ過去記事
http://kkneko.sblo.jp/article/18846676.html

 その他、NEWREP-Aの問題点の数々については、前回の記事とリンクをご参照。

■新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ|拙ブログ過去記事


 大越船長のコメント「調査捕鯨を止めてしまえば、これらの技術は失われ、復活させるのは難しいでしょう。」(引用)について。高齢化や経済的理由で伝統産業の担い手が失われるままに放置されている日本ですが、それらに比べれば近代捕鯨の技術が復活困難だとは到底呼べません。調査捕鯨が科学目的ではないと白状しているに等しいですが……。

 7月号のaffの特集は鯨と鰻の2本立て。
 クジラの5ページに対し、ウナギに割いたのはたったの2ページ、しかも1ページは丸々どうでもいい豆知識解説。
 かろうじて一言だけ「乱獲」と入ってはいるものの、「資源管理は避けられない課題」とあり、「クジラのページに書いてあるとおり日本が持続的利用を推進する国なら、なんで今まで出来なかったんだろう??」とまともな読者なら首をひねるでしょうね。
 そしてやはり、密漁にも密輸にも、絶滅危惧種指定にも、一っっっ言も触れていません。
 この構成だけ見ても、農水省/水産庁が、一体何から国民の目を逸らしたいのかは一目瞭然でしょう。
 こちらに読者アンケートがあるので、鯨と鰻の特集を読んでひどいと思った人は、該当欄の「悪い」にチェックを入れて送っておきましょう!

■農林水産省広報誌「aff(あふ)」2016年7月号アンケート
https://www.contact.maff.go.jp/maff/form/d448.html
posted by カメクジラネコ at 23:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系

2016年07月24日

新調査捕鯨NEWREP-Aはやっぱり「美味い刺身」目当ての違法捕鯨だ

 今年は2年ぶりの国際捕鯨委員会(IWC)年次会議の年。
 国際司法裁判所(ICJ)の判決によって南極海調査捕鯨が1年中断し、昨シーズン装いも新たにNEWREP-Aとして再開されてから、初めて開かれる本会議でもあります。
 例年は6月頃に開かれることが多いのですが、今年の総会は10月、前回に引き続きスロベニアで開催されます。
 各国代表が集まる本会議の前、6月には科学者のメンバーから成る科学委員会の年次会合が開かれました。
 今年のIWC総会の焦点は間違いなく、国際法上違法との認定が下されながら、日本が再開を強行してしまったNEWREP-Aに当てられるでしょう。
 いわば前哨戦に当たる科学委員会では、新調査捕鯨はどのような評価を下されたのでしょうか?

 まず、NEWREP-Aをめぐる一連の経緯をざっとおさらいしておきましょう。
 ICJ判決後、わずか半年余りで策定された、NEWREP-Aは、文字通りヤッツケとしか思えない代物でした。IWC科学委員会(IWC-SC)のもとに設けられた専門家パネルでは、「捕獲が必要と立証できてない」とボロボロにこきおろされ、29個もの宿題(勧告)がつきつけられました。昨年のSC会合でも、日本は結局宿題を片付けることができず、「日本は宿題をやってきませんでした」(分析は不完全であり、十分な評価をすることができない)という点で合意に達したという恥ずかしいありさま。
 詳細な経緯については、以下の参考リンク及び『クジラコンプレックス』(石井敦・真田康弘著、東京書籍)をご参照。

■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015
■新調査捕鯨計画専門家パネル報告|〃
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/307-rwnprc2015-snd
■日本の調査捕鯨は違法か|〃

 そしてとうとう、日本は宿題をうっちゃらかしたまま南極に捕鯨船を出しました。
 1年経ち、本当は調査捕鯨を実施する前に片付けておくべきだったはずの宿題は、結局どうなったのでしょうか? 昨年の会議では、「専門家パネルの勧告にきちんと対応すること、その進捗状況を翌年の科学委で再審査すること」で合意も成立していました。
 はたして、新調査捕鯨1年目の成果≠ヘ一連の疑問に応えたといえるのでしょうか?

■調査捕鯨、賛否両論を併記=IWC科学委の報告書 (7/9,時事)
■調査捕鯨継続は両論併記 IWC科学委が報告書 (7/9,共同)■調査捕鯨  継続にIWCが両論併記 (7/10,毎日)

日本はIWCから求められた作業に十分対応しているとの意見と、対応が不十分なため継続は正当化できないとの意見の両論を併記した(引用〜共同記事)

 国内の報道では、賛成派と反対派でただ意見が割れているだけに見えます。ヒトによっては、反捕鯨派が難癖つけてるだけという受け止めかたもあるでしょう・・。
 これらの報道はいずれも水産庁が発表し、農水記者クラブ記者が「両論併記」と見出しをつけてそのまま垂れ流す形。
 何度も解説しているとおり、両論併記になるのは日本側が大量にメンバーを送り込んでいるから。
 実際に、IWC-SCのレポートに書かれている記述を引用してみることにしましょう。先に両者の結論から。

■Report of the Scientific Committee SC66b 

Some members commented that although the work required to fulfil the Committee’s recommendations from last year is still in progress, these tasks remain incomplete and the results thus far have not demonstrated that the NEWREP-A programme requires lethal sampling to achieve its stated objectives.
They noted that the Expert Panel had also advised that a short (e.g. 2 – 3 year) gap in the existing series to complete the recommended further analyses would not have serious consequences for monitoring change.
Therefore, in their view, continuation of lethal sampling in the 2016/17 season has not been justified.
一部のメンバーは、勧告を履行するために必要な作業はまだ進行中だが、これらのタスクは依然として不完全であり、NEWREP-Aプログラムは目標を達成するために致死的サンプリングが必要であることを立証していないとコメントした。彼らは「分析を完了するために2-3年の空白があっても深刻な影響はもたらさない」と専門家パネルが助言していたことも指摘した。
Other members commented that the proponents had responded satisfactorily to most of the recommendations of the Expert Panel, noting that some of the suggested further analyses have already been completed, while others are in progress or will be addressed within a reasonable timeframe.
他のメンバーは、「提案者は専門家パネルの勧告のほとんどに対応した。さらなる分析の一部はすでに完了したし、他は進行中か、合理的な期間内に対処されるだろう」とコメントした。
(引用〜p101)

 この結論は科学的な結論というよりむしろ主観的な意見に見えますが・・さて、正しいのはどちらの言い分でしょうか?
 その具体的な議論の内容をまとめたのがレポートのP92〜100にかけての表。統計の専門的記述を一部端折って筆者が抄訳したのがこちらの表。
table23sc66.png

 注目してほしい要点は以下。
 日本の報道機関は「十分対応している」と伝えましたが、実際には専門家パネルの29の勧告のうち、「完了」したのはたったの2つ。日本側が「合理的な水準に達した」と勝手に判断しているものが2つ。合わせてもたったの4つ。しかも、そのすべてで委員会側で異なる解釈、追加注文が入っています。
 日本自身が「要対処」と認めているものが7つ。
 「1、2年かかる」と言っているのが4つ。
 この11のうち6つは目的A、プログラムの主/副目標に直接関わる内容です。
 委員会コメントには、勧告の3つで「進捗や成果が同会合でまったく報告されなかった」とありますし、「新規情報なし」も1件(総消費量の推定に関する非致死的研究)。
 一体これのどこが「十分対応」といえるのでしょう!?
 提案者である日本政府側のコメントのうち、委員会と特に立場を大きく異にするものを赤枠で囲んでいます。
 中でもふざけているのが勧告3と勧告26、勧告27に対するコメント。
 勧告3では、SC、専門家パネルの見解をまるっきり無視して、優先順位を自分で勝手に落としています。
 勧告26は333頭のサンプル数設定の根拠に対する勧告ですが、委員会側がサブセットの選り好み等不可解な問題点について具体的に指摘しているにもかかわらず、それらの疑問には答えずしらを切って自己正当化を繰り返すばかり。
 さらに、勧告27のコメントに至っては、「やる気がない」旨を明言し、逆に要求を突きつけている有様。
 非致死調査について十分な検証を求めたICJ判決のことなど、もはや頭からすっぽり抜け落ちてしまったかのよう。
 森下IWC政府代表は「誠意をもってできるだけ対応したい」と表明していたはずですが、専門家の勧告に対するこうした不遜で傲慢な態度からは、誠実さなど微塵も感じられません。
 レポートの中では、昨季のNEWREP-Aによって得られた情報についても触れられています。
 そこにはわざわざ枠囲みで、「トラックラインの変更の根拠を説明するように」(p101)と、日本側も主目的に関わる重要な勧告と認めている勧告26に関連する重要な問題点が指摘されています。今回、SSCSの妨害がなかったにも関わらず、サンプリングが高緯度側に大幅に偏り、性比が極端だったことにも関係しているのでしょう。
 また、科学的に最も重要な指標のひとつである脂肪組織の総重量については、333頭中5頭でしか計測していないことが発覚。日本側はなんと、「運用上の都合で測れなかった」と一言言い訳していますが、これも科学的なプライオリティではなく鯨肉の鮮度を優先して作業時間を割り振った結果でしょう。調査捕鯨の科学上の重大な欠陥がまたひとつ俎上に上ったといえます。
 この一点をもっても、日本の調査捕鯨が科学を第一義として設計されたものでないということをはっきりと示しています。
 「美味い刺身(by本川元水産庁長官)」を供給できるかどうか──それこそが、彼らの判断基準であり、優先順位なのです。

参考:
posted by カメクジラネコ at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学系

2016年06月25日

ホームページリニューアル

当方が運営している捕鯨問題中心のウェブサイトのデザインを一新しました。

「クジラを食べたかったネコ」
renual.png

これでやっとHTML5準拠、ほぼデバイス非依存になった(ハズ)(^^;;
最近はツイッターとブログに発信の比重を移していますが、基本的に時事ネタをブログで、トピック単位の情報をホームページでお届けしていければと思っております。ほぼ体裁中心の改装作業でしたが、内容もボチボチ改善していく予定です。

不具合等お気づきの点や、ご意見・ご感想があれば、HP設置フォーム、ツイッター等でぜひお知らせくださいm(_ _)m
posted by カメクジラネコ at 18:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 特設リンク

2016年05月22日

太地イルカビジネス、JAZAと縁を切って万々歳?/哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!

 今回は太地ネタ2本。まずはイルカ猟関連の報道から。

◇太地イルカビジネス、JAZAと縁を切って万々歳?

■太地イルカの取引4割増 和歌山、15年度漁期 (5/12,共同)
http://this.kiji.is/103223288249189883?c=39546741839462401

 JAZAのWAZA除名騒動が巷をにぎわせたのが、ちょうど昨年の今頃。皆さん、覚えてますか? 覚えてますよね??
 もう忘れちった(><)という方は、下掲の過去記事及びリンクを読んで、一連の経緯を復習してニャ〜。

■沖縄を切り捨て太地を庇う、自民党と日本政府のすさまじいダブスタ
http://kkneko.sblo.jp/article/133050478.html
■水族館の未来
http://kkneko.sblo.jp/article/145181677.html
■またやっちゃった! 産経パクリ記者佐々木氏のビックリ仰天差別・中傷記事
http://kkneko.sblo.jp/article/163126790.html

 12日の共同配信記事の意味するところは明らか。
 振り返れば、マスコミやネットでの反応がいかに大げさで、無意味なものだったことか。
 民間の業界団体であるWAZAが、展示動物の調達に関するグロスタの指針を、イルカという特殊な政治的動物にも適用させることを、加盟する会員組織にも求めただけのことなのに、あたかも外国が攻めてきたかのごとき、北朝鮮を髣髴とさせる苛烈な反発が日本国内で巻き起こったわけです。市井のネトウヨのみならず、国会議員や和歌山県知事のような公的立場にある人々からも。
 今回の報道が改めて浮き彫りにしたとおり、買い手が他にいくらでもある太地にとっては、困ることなど何もなかったのです。
 実際には逆だったのです。もし、JAZAが勧告に耳を貸さずWAZAから除名されていたなら、(「国際交流などどうでもいい」というごく一握りの水族館以外の)動物園・水族館の多くが多大な不利益を被るところでした。
 このことは当時も各方面(筆者も含め)から指摘されていたことなのですが……。
 それどころか、太地のイルカビジネスにとっては、うるさい注文をつけてくる、堅苦しい、しち面倒くさいだけの顧客と縁が切れて、逆に大いに潤ったわけです。一時的な不利益すら被ることなく。
 ハンドウイルカの生体販売価格は9月で1頭100万円、10月以降90万円。食用では1頭2〜3万円(〜下掲毎日記事)。ちなみに、今猟期は生け捕られたハンドウ50頭が9月中の捕獲でした。
 今シーズンは前年度比4割増。金額で表すと、いさな組合の売上はおよそ8千万円から1億2千万円に。実に4千万円分の増収。ホクホクですね。
 さらに、これに公社が調教済オプションを上乗せすると1頭当り500万円前後に。こちらに卸した頭数は今のところ不明ですが。
 一方、食用のイルカ肉の売上は全部合わせても。

■[記者の目] 和歌山・太地 イルカ追い込み漁=稲生陽(和歌山支局) ('15/9/9,毎日)
http://mainichi.jp/articles/20150909/ddm/005/070/074000c
■財団法人 太地町開発公社 平成25年度損益計算書|太地町議会議員 漁野尚登のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/33027399.html

 以下は2猟期分の太地追い込み猟の捕獲数内訳を示した表。ソースはセタベース。
1516taiji.png
■DRIVE HUNT RESULTS | Ceta-Base
http://www.ceta-base.org/taiji/drive/results.php

 冒頭にリンクを掲げた共同記事の記述について、ちょっとチェックしてみましょう。以下、背景着色部分引用、強調筆者。
 生体販売の数字117頭は合っていますが、936頭の方はセタベースと一致しません。リリースした個体を含むのか、突きん棒との合算なのか否か、この大ざっぱな書き方だと判然としませんが・・。

 日本動物園水族館協会(東京)が追い込み漁で捕獲された個体の入手禁止を加盟施設に義務付けて以降初の漁期だったが、規制の有効性が改めて問われそうだ。(引用)

 上掲したように、これはWAZAおよびJAZAという業界団体内の規約に各会員が従うかどうかの話でしかないのですから、よそがそれを「問う」こと自体まったくの筋違いです。(法的な)規制は現在存在しないのです。
 「義務付けて以降初の漁期」という表現も正しいとはいえません。WAZAでは十年以上前からイルカの入手方法について議論され、2004年の年次会議で既に太地追い込み猟の非人道性を強く非難する決議を出しています。これは調達も含め展示動物の福祉に配慮するWAZAの倫理規約に即した内容であり、イルカを特殊視して日本を悪者扱いしたものではありません。WAZAもJAZAも、日本・太地に遠慮して、この間厳格な運用を怠っていたという謗りは免れませんが。
 繰り返しますが、そもそも規制なんてものは何もないのです。必要なのは、日本の動物愛護・動物福祉面での法整備と運用。その中で、実効性を伴う展示動物の調達における倫理指針をきちんと設けることであり、あるいはCITES(ワシントン条約)、CMS(ボン条約・日本は未批准)等の国際法において同様に具体的な規制基準を設けるよう促していくことです。
 現状を例えるなら、製品の安全性や品質についてメーカーの業界団体が法的拘束力のない自主基準を設けるだけでは、未加盟の業者がいくらでも売ることができてしまい、消費者が不利益を被り続けるのと同じこと。
 法的な規制が導入されるまでは、<消費者=水族館を利用する人々>が<サービスの提供者=水族館>を賢く選ぶしかないのです。
 持続可能な水産物の指標となるMSC(マリンエコラベル)と同様、イルカの調達方法について他の展示動物と同様に動物福祉に配慮されているかどうか、水族館を娯楽サービスとして消費している一人ひとりの消費者の姿勢が、改めて問われて≠「るのです。
 動物園・水族館についてはそもそも展示も含めさまざまな議論があり、日本の水族館は他の先進国に比べ何周分も遅れているのは事実です。イギリスではとっくの昔に水族館のイルカ飼育はなくなり、米国では『ブラックフィッシュ』効果でシーワールドがシャチの飼育・繁殖を断念しました。他の先進国でも批判が強まっています。新興国として太地産イルカの需要が高まっている中国・韓国等でも、既に反対の声が上がっています。そんな中、日本の水族館消費者のほとんどは、何の疑問も抱かずにショーを愉しんでいるのが実情です。
 しかし、消費者が情報を入手し、相対的によりよい方を選択することは可能であり、またその手段が提供されるべきです。いま現在は飼育・展示施設のほとんどのイルカが太地産ではありますが、非人道的な捕殺と決別した水族館か、イルカ殺しと共存共栄の路線を未だに歩みながらその事実を伏せる水族館か、そこは見極めるべきでしょう。
 気になるのは最後の一文。昨年にも報道されたとおりですが。

 昨年8月の受注時には、例年並みの約150頭の申し込みがあった。(引用)

■No drop in orders for Taiji dolphins despite restriction (8/11,JapanTimes)
http://www.japantimes.co.jp/news/2015/08/11/national/taiji-moratorium-means-aquariums-may-reducing-dolphin-shows/

 要するに、太地が今年4割も増収を達成したのは、受注が増えたからではないわけです。
 太地が捕獲したイルカを求める水族館・卸売業者(輸出)の購入順は抽選で決める仕組みになっていますが、今年はそのアタリの確率が高かったわけです。
 主な理由は、表にもあるとおり、売れ筋のハンドウイルカの捕獲が大幅に増えたこと。積極的に捕獲したのか、たまたま沿岸への来遊が昨年より多かったのかわかりませんが。
 もし、わざわざがっつくようにハンドウイルカの捕獲数を増やしたのだとすれば、WAZA/JAZA、あるいは内外の反イルカ猟団体・市民に対するアテツケ「自分たちはダメージなど負っていないのだ」という姿勢のアピールにも映ります。太地町長三軒氏ら関係者の発言を踏まえれば、何の不思議もないと思いますが……。
 そんなところも、米国や日本の圧力に屈せず、「核を持つのをやめろ」と批判されればされるほど頑なさを増し、核開発への道を突き進もうとする北朝鮮にそっくり。

 米国こそが最たる核保有国であり、日本がその核の傘に依存しているのも、核不拡散条約がきわめて不平等な条約であることも、確かに事実ではあります。戦争はすべからく残虐なものであり、「核さえなくせばいい」わけではないのも。
 しかし、いくら正論≠セからといって、それは北朝鮮が核を持つことを正当化する口実にはなりません。
 戦争も、差別も、「どれがより残虐な兵器か」「どれがより陰湿な差別か」をめぐる議論に終始して、現実を一歩も変えようとしないなら、私たちの社会は一歩も前へ進むことができなくなります。それでは戦争も差別もない世界など決して実現できやしません。
 太地のイルカ猟に関しても、まったく同じことがいえると思いませんか?
 昨年騒動が持ち上がった際は、マスコミが必死に太地を擁護する一方で、「水族館が太地からイルカを買っているなんて知らなかった」という声も多数聞かれました。
 「ウシを殺してイルカを殺さないのはサベツだが、同じ種・群れのイルカを追い込んで水族館で芸をさせるものと殺すものとに選別するのはサベツではない」との感覚で、イルカショーを存分に愉しむことができるという特殊思考の方以外は、きっとそこに大きな矛盾を感じられることでしょう。
 家族連れで、アベックで、水族館を楽しむのも結構。
 しかし、本当の裏側を知らずに心の底から楽しむことができますか? 最近はバックヤードを案内する企画も流行っていますけど。
 いまあなたの目の前で演技をしているイルカは、いくら愛嬌たっぷりに見えても、仲間を殺され、子供と引き離され、その仔イルカも家族の絆を失って命を落としているかもしれないのです。
 そこにあなたは癒しを見出せますか?
 大切なのは、「水族館がどこへ向かっているのか」ということ。
 今年、太地から新たにイルカの供給を受けた水族館として報道されたのは、以下の「志布志湾大黒イルカランド」「わくわく海中水族館シードーナツ」の2館。
 ※ 23日になって読売が報道したため、リンクを追加。JAZA非加盟施設リストの「じゃのひれドルフィンファーム」を確信犯施設(赤太字)に。

■串間の施設に新入りイルカ、太地町から4頭 (5/1,読売)
http://www.yomiuri.co.jp/kyushu/nature/animalia/20160502-OYS1T50050.html
■新たなイルカお目見え 上天草市の水族館 (3/22,熊本日日)
http://kumanichi.com/news/local/main/20160322003.xhtml
■太地の生け捕りイルカ販売増、「入手禁止」1年 (5/23,読売)

 なお、昨年は太地に同調する姿勢を示していた館が4館(太地町立館は除く)ありましたが、実際にJAZAを脱退したのは現時点では「あわしまマリンパーク」のみ。

■Five aquariums may quit association over Taiji dolphin ban (5/25,JapanTimes)
http://www.japantimes.co.jp/news/2015/05/25/national/five-aquariums-might-quit-jaza-over-taiji-dolphin-ban/

 以下に、引き続き太地のイルカビジネスを支える形で貢献する可能性のあるJAZA非加盟館をリストアップしておきます。赤太字は今年JAZAから脱退ないし太地からイルカを購入したり入札に参加したことが判明している確信犯的施設。
 ニンゲンが自然・野生動物に対する絶対君主∞暴君≠ニして振る舞い、生殺与奪の権利を振りかざし、同じイルカを食い殺したりショーを鑑賞したり好きなように愉しむことをよしとする方は、以下の施設を応援してお金を落とすのも一興。
 「そんなの嫌だ」という方は、最低でも現JAZA加盟の水族館を訪れるようにしましょう。

★JAZA非加盟水族館

 わくわく海中水族館シードーナツ(熊本)
 犬吠埼マリンパーク(千葉)
 あわしまマリンパーク(静岡)
 新屋島水族館(香川)
 海きらら(長崎)
 仙台うみの杜水族館(宮城)※

※ このうち、昨年開館したばかりの仙台うみの杜水族館は、東日本大震災で被害を受け、閉館となった加盟館のマリンピア松島水族館の代わりに新設されましたが、経営は八景島グループ。飼育動物はマリンピア松島から委譲されています。イルカは横浜の八景島シーパラダイスからも持っていったとのこと。早急にJAZAに加盟してもらいましょう。

☆JAZA非加盟イルカ飼育施設

 ドルフィンファンタジー伊東(静岡)
 イルカ島海洋遊園地(三重)
 淡路じゃのひれアウトドアリゾート(兵庫)
 南紀田辺ビーチサイドドルフィンin扇ヶ浜(和歌山)
 日本ドルフィンセンター(香川)
 本島イルカ村(香川)
 室戸ドルフィンセンター(高知)
 壱岐イルカパーク(長崎)
 つくみイルカ島(大分)
 志布志湾大黒イルカランド(宮崎)
 ドルフィンファンタジー石垣島(沖縄)
 ルネッサンスリゾートオキナワ/もとぶ元気村(沖縄)

*太地イルカ追い込み猟と不可分の施設

 太地町立くじらの博物館(以下すべて和歌山)
 ドルフィン・ベェイス
 ホテルドルフィンリゾート
 和歌山マリーナシティ

リスト参考資料:
■「日本の施設で飼育されているイルカたち  水族館はイルカの飼育に適しているか?」|ヘルプアニマルズ
http://www.all-creatures.org/ha/saveDolphins/aquariumreport.pdf
■加盟園館検索|日本動物園水族館協会
http://www.jaza.jp/z_map/z_seek00.html

参考リンク:
■いるか漁業(追い込み漁)と生体販売の関係
http://togetter.com/li/824325
■WAZAによるJAZAへの協会会員資格停止通告と、これまでの飼育下鯨類をめぐる環境についての一連ツイート
http://togetter.com/li/821186
■「池上彰のニュースそうだったのか!!2時間SP」の中で言及されたWAZAJAZA問題部分まとめ
http://togetter.com/li/837312
■激論!コロシアム【イルカが消えるだけじゃない!?日本を追い込む"やっかいなニュース"の真相!】(2015.6.13放送)
http://togetter.com/li/834969


◇哀しき虚飾の町・太地〜影≠フ部分も≪日本記憶遺産≫としてしっかり伝えよう!

■平成28年度「日本遺産(Japan Heritage)」の認定結果の発表について|文化庁
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2016042501.html
■「日本遺産」 新たに19件が選ばれる (4/25,NHK)
http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/700/243220.html
■捕鯨文化語る「鯨とともに生きる」が日本遺産に認定 (4/25,WBS和歌山放送)
http://wbs.co.jp/news/2016/04/25/79967.html
■熊野灘の捕鯨文化が日本遺産に (4/26,紀伊民報)
http://www.agara.co.jp/news/daily/?i=313618&p=more
■捕鯨文化が日本遺産に 命に感謝する物語 (5/3,紀伊民報)
http://www.agara.co.jp/column/ron/?i=313960&p=more

 先月、文化庁が熊野灘の捕鯨文化を「日本遺産」として認定しました。
 報道をチェックしたところ、19件のうちとくに和歌山の捕鯨の名を挙げたのは、各大手紙地域版と地域紙くらい。ただ、NHKは全国ニュース(Web版でのみ)で代表例のひとつとして言及した模様。
 日本の捕鯨推進派はこれまで、ことあるごとにブンカブンカと口うるさく吠えてきたわけですが、一口に伝統文化といってもピンからキリまであります。捕鯨・鯨肉食文化が一体どの程度格調高い文化≠ネのか、数ある日本文化の中でどのように重く位置づけているのか、われわれ日本人にとってすらイマイチピンとこなかったわけです。
 何しろ、1970年代までは、新聞の社説はどこも蛋白自給論までで、日本捕鯨協会/国際ピーアールがこのキャッチコピーをひねり出すまで「伝統」を持ち出していたところは一紙もなかったくらいですから。
 以下は2009年の記事ですが、その後も今年まで文化勲章受賞者と文化功労者の中に捕鯨関係者は見当たりません。

■文化の日に《ほげ〜ぶんか》について考える(拙ブログ過去記事)
http://kkneko.sblo.jp/article/33456331.html

 そもそも日本は、経済優先・開発優先で、街の景観から歴史的建造物、遺跡、あるいはダムの底に沈められた由緒ある有形無形の文化遺産まで、他の先進国と比較しても伝統の価値に重きを置いてきたとはいえない国です。
 国際的には、国際捕鯨委員会(IWC)においても先住民生存捕鯨に定義される一部の捕鯨に限り、別格の扱いを受けています。迫害されてきた歴史を持つ各地の先住民・少数民族の伝統に対しては一目置かれるべきだというのが、国際社会の共通認識であればこそ、当然の措置といえるでしょう。その定義に間違いなく当てはまるはずだったアイヌの捕鯨は、かつて日本政府が政治的意図のもとに潰してしまったわけですが……。
■倭人にねじ伏せられたアイヌの豊かなクジラ文化
http://kkneko.sblo.jp/article/105361041.html

 それら、ないがしろにしてきた数々の文化に優劣をつけ、国が税金を投じてアピールするのは、反反捕鯨論者の主張するところのサベツに当たるのではないかという気がしますが……。
 ともあれ、今回の文化庁の指定で、やっと箔が付いた形になるのかもしれません。
 しかし、はたして本当にそういえるのでしょうか?
 さっそく中身を検証してみることにしましょう。
 日本遺産は一年前から同庁が始めた認定制度で、2年目の今年は19件、昨年分と合わせて33府県の37件がこれまで指定されています。「おらが県にも!」と知事や国会議員の先生方が鶴の一声を発するだけですんなり通っちゃう、あるあるパターン≠ノはまってるようにも見えます。この分だと、おそらく各都道府県毎にまんべんなく2、3件ずつ登録させる格好になりそう・・。空港や新幹線じゃないけど。
 びっくりするのは、和歌山県/文化庁が付けたタイトル。なんと「鯨とともに生きる」
 もっとも、認定された日本遺産の「ストーリー」をながめてみると、どれも明らかに町興し・観光誘致のための宣伝文句のレベルに見えます。「飛鳥を翔(かけ)た女性たち」とか「政宗が育んだ“伊達”な文化」とか「よみがえる村上海賊“Murakami KAIZOKU”の記憶」とか。筆者にはもはや、イタイオヤジがかっこつけて命名したふざけたタイトルとしか思えません・・。格調どころか、軽薄な印象さえ受けてしまいます。
 また、文化庁のサイトに掲載されている申請の様式やそのボリュームも、学生向けの課題レポートにしか見えません。これでは「申請した者勝ち」になるのは目に見えているでしょう。
 認定にあたっては、「単に地域の歴史や文化財の価値を解説するだけのものになっていないこと」と但し書きもついているのですが、そのプラスアルファの部分に、筆者はどうも商売っ気を感じてしまうのです。そこを除いてしまえば、どれも単なる解説にしか見えません。
 そういう意味では、下部機関イコモスが提案国から提出される膨大な資料を時間をかけて審議するユネスコの世界遺産ともまったくの別物。まさに商店街・商工会のブランドに国がお墨付きを与えたにすぎないように思えます。
 さらに、都道府県・市町村レベルですでに文化財指定されたものも含まれており、一種の非効率な二重行政の謗りは免れません。定義と性格がはっきりしないのは、むしろ国の日本遺産の方ですが。
 当の和歌山県の提出した資料がこちら。

■平成28年度「日本遺産(Japan Heritage)」認定概要
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2016042501_besshi02.pdf

M ◎和歌山県(新宮市,那智勝浦町,太地町,串本町)
≪鯨とともに生きる≫
(ストーリーの概要)
鯨は,日本人にとって信仰の対象となる特別な存在であった。人々は,大海原を悠然と泳ぐ巨体を畏れたものの,時折浜辺に打ち上げられた鯨を食料や道具の素材などに利用していたが,やがて生活を安定させるため,捕鯨に乗り出した。
熊野灘沿岸地域では,江戸時代に入り,熊野水軍の流れを汲む人々が捕鯨の技術や流通方法を確立し,これ以降,この地域は鯨に感謝しつつ捕鯨とともに生きてきた。当時の捕鯨の面影を残す旧跡が町中や周辺に点在し,鯨にまつわる祭りや伝統芸能,食文化が今も受け継がれている。(引用)


 新宮市からは既に県の指定文化財になっている鯨踊が登録されています。
 ところで、同市には日本の古式捕鯨のルーツが実は中国にあるという、ストーリーとしても非常に面白いネタがあるのですが、こっちは日本遺産のセットに入れなかったのでしょうか?

■太地の捕鯨は中国産!? 捕鯨史の真相
http://kkneko.sblo.jp/article/18025105.html

 確かに、日本遺産自体が格調高いものとは言いがたい、客寄せ目的の薄っぺらなキャッチフレーズになってしまっているなら、和歌山の申請だけが特におかしいとはさすがにいえません。
 村上海賊や呉の軍港そのものを復活させろなんて声はどこからも挙がるわけがありませんし、ユネスコ世界遺産の石見銀山や富岡製糸場にしたって、今から稼働させろなんて誰もいいやしませんしね。
 古式捕鯨の記録や史跡、あるいは派生的な伝統舞踊等に対しては、いくら海外の過激な反捕鯨活動家だって、否定する理由は何もありませんし、そもそも意味がありません。近代以前の捕鯨産業の歴史的価値については、現在は日本の公海捕鯨に強く反対している米国や豪州等の反捕鯨国でも、日本以上に尊重され、博物館等を通じてきちんと後世に伝える努力がなされているのですし。
 もっとも・・江戸時代に太地の鯨組を仕切っていた和田氏の子孫でいらっしゃる太地亮氏は、和歌山県の申請内容について以下のように指摘しています。まあ、学芸員の資質をめぐるすったもんだは、部外者の関知するところではないのですが・・。

https://twitter.com/mackujira/status/727327944314523649
1999年、「南紀熊野体験博」が開催され、県より小冊子が発行されました。その中に太地町が資料を提供して「和田頼治は太地角右衛門と相談、網取捕鯨を考案」とあったので、同一人物であることを伝え、県に指摘して、増刷で訂正していただきました。太地町では現在でも誤りが多いです。(引用)

https://twitter.com/mackujira/status/730597315174506497
日本遺産で太地町の「和田の石門」の名称、説明に誤りがあり、訂正が必要。(引用)

 太地亮氏はこのほかにも、今日はマスコミや当の太地町自身が真逆のことを吹聴している、子持ちクジラを積極的に捕獲していたこと等、古文書をもとに風説の過ちを指摘されています。
 「親子連れには決して手を出さない日本の人情捕鯨=vという都市伝説の大きな過ちについては、筆者も再三発信してきたところ。子殺しの伝統≠フみは、それ以外に古式時代から継承した部分など一片もない調査捕鯨で格段にエスカレートした格好ですが。
 太地亮氏は他にも非常に興味深い指摘をされています。


角右衛門頼治は今より300数十年前の当時、自然保護の立場から、「海を渡って来る鳥魚は、みな処を求めて寄って集まるものなれば、海べりの岩も海硝も大事に守り、損ぜざらまじき事」と、人間と自然・動物との調和を述べております。(引用)

 この精神こそは、日本遺産として国内外に声高にアピールする価値のある、最も尊い文化だと筆者には思えます。
 鯨肉という単なる食材、竜田揚げといった単なるレシピなどとは比較にならない、伝統の核心というべきものだと。
 和歌山県選出で捕鯨問題の発信を多数なさっている鶴保庸介参院議員には、ぜひ自然海岸の厳格な保全を国策として協力に推進していただきたいもの。
 何しろ、現代の日本の海岸はテトラポッドだらけ、ガッチガチにコンクリで固められ、持続的な水産資源管理に使われるべき水産予算の相当の部分が水産ゼネコンの手に渡っているのが現状。よく知られているとおり、反捕鯨国の代表格オーストラリアの方が、自然海岸の保全に関しては日本を圧倒的にリードしているありさまなのですから。

■サーフライダーによる海岸保全の世界的なうねり|海洋政策研究所
https://www.spf.org/opri-j/projects/information/newsletter/backnumber/2005/110_1.html

◎フランスやオーストラリアでは沿岸域の開発や海岸事業にはすぐには着手しないことが原則となっている。
◎沿岸域の総合管理という考え方は常識で、縦割りの行政による利害の対立は少ない。さらに、どの国の海岸状態も日本と比べると自然海岸の残存率は極めて高い。また、管理システムの特徴と同時に市民の社会参加も際立って高い。(引用)

 もし、この誉れ高き捕鯨文化の真髄が、日本からすでに失われているとするならば、私たち日本人はまずその失われた精神を取り戻すところから始めなくてはならないでしょう。
 それをせずして、形骸化したブンカを全国区にし立て、南極の自然を貪る口実にするなら、それは捕鯨を含む、先人の築いた由緒あるわが国の伝統文化に対する愚弄以外の何物でもありません。

 太地亮氏がご先祖の興した事業を誇りにされるのは当前のことと思います。
 ただ・・残念ながら、太地の古式捕鯨が自然保護に資した部分は、この一点をおいてのみでした。
 古式捕鯨はすでに過去のものであり、先述のとおり批判する意味はありません。西洋の過去の捕鯨と同じく。
 ただし・・それが現代の捕鯨推進・擁護に強引に結び付けられ、その病理を覆い隠す隠れ蓑として利用されているとなれば、話は別です。
 仁坂和歌山県知事は当初、イルカ追い込み猟までこの日本遺産に抱きこむ意欲≠示していました。

■捕鯨文化、日本遺産に申請 和歌山県、追い込み漁盛り込まず (2/10,共同)
http://this.kiji.is/70112918748218870

仁坂吉伸知事は太地町のイルカ追い込み漁も対象とすることに意欲を示していたが、「申請テーマからそれる」として盛り込まれなかった。(引用)

 
仁坂知事は当初、太地町のイルカ追い込み漁も対象に考えていましたが、盛り込まれませんでした。また和歌山市と海南市が申請していた「紀州徳川家の『父母状』を継承する街」は認定が見送られました(引用〜上掲和歌山放送)

 見送りの理由がまたなんともぼんやりしてますが・・。さすがに知事以外の県関係者は、海外にPRするにはあまりにも逆効果が大きいと理解していたのでしょうけど。
 それでもなお、仁坂知事は驚くべき文化認識をあからさまに表明しています。

太地町などで続く反捕鯨活動に対しては「鯨を殺すな、食べるなという人たちでも、祖先は捕鯨文化の下にいる。思想は自由だが、われわれがこういう文化を持って懸命に生きてきたことに対する尊敬の念はあってしかるべきだ。彼らの文化レベルが高ければ、古式捕鯨文化が脈々と息づいてきた日本遺産の意義は分かってもらえるはずだ」と話した。(引用〜上掲紀伊民報記事)

 仁坂知事のコメントからは、はちきれんばかりにふくれあがった自尊心・優越感が読み取れます。
 前述のとおり、反捕鯨国でも過去の伝統捕鯨まで否定されてはいません。乱獲と密猟の史実を「共存」という空疎な言葉でごまかす日本と異なり、殺す文化から生かす文化へとクジラとの付き合い方が移り変わったにすぎないのです。太地への水族館生体販売ビジネス導入の経緯が端的に示すように、文化の内実を都合よくコロコロと変質させてきた日本と比べても、伝統文化を尊重する姿勢がないなどとはいえません。
 「自分たちの文化レベルは高いが、白人なり捕鯨に反対する者の文化レベルは低いのだ」などと口にする時点で、その人物は文化人と呼ぶにはあまりにも程度が低いといわざるをえません。
 もちろん、本当に仁坂氏の言うとおり、日本の文化レベルが高かったなら、アイヌの捕鯨は日本政府によって滅ぼされることなく、諸外国の先住民生存捕鯨と同じように認められていたことでしょう。
 仁坂知事のこうした常軌を逸した発言には、古式捕鯨の客観的な史実とはかけ離れた美化・理想化が如実に現れているといえます。
 祖先から受け継いだものがすべて善≠ニは限らないのです。人権思想も民主主義も平和主義も、過去の過ちから学んだ結果として社会に浸透していったのです。
 思い出すのは、ユネスコの明治産業遺産登録騒動と、南京大虐殺の記憶遺産登録に対する日本政府・ネトウヨの猛反発。
 歴史の中で耳障りのよい部分だけを切り取り、演出を施して華々しく喧伝したがる一方、影の部分・負の側面については口を閉ざすばかりか、政治的に圧力をかけてもみ消そうと図る始末。
 まさに文化の政治利用
 「尊敬の念」とは、誰かに強要するものではありません。
 仁坂知事がここまでおっしゃるなら、本当に古式捕鯨が神聖崇高な代物だったのかどうか、しっかり検証してみることにしましょう。
 知事の言う、それを持って「懸命に生きてきた」文化の中身が、いったいどのようなものであったかを。

 「ストーリーとして提供する」のが日本遺産のコンセプトなら、太地の捕鯨が加担した乱獲・密猟・侵襲性・非持続性という「負の歴史」に触れずにすませるわけにはいきません。「ともに生きる」はあまりにも実態とかけ離れたネーミングです。
 それらも含めて淡々と史実を伝える分にはおおいに結構。しかし、紀伊民報がタイトルに掲げた「命に感謝する物語」は、後ろ暗い側面をバッサリそぎ落とした子供向けフィクションであり、歴史修正主義以外の何物でもありません。
 江戸時代の日本の捕鯨は、持続可能性を保障する具体的な資源管理の方策を欠いていました。当時の鯨捕りが不漁に際して行ったのは、科学的根拠のない儀式的な供養のみでした。経験に基づき、漁獲努力量(今でいうCPUE)が適正か過大かを推測し、フィードバックする仕組みを、古式捕鯨は持ち合わせていませんでした。なぜなら、クジラは「余禄」だったからです。不漁が続けば、漁場を拡大するか、近隣の組を併呑するか、あるいは単に廃業するか。
 この辺りは、効率的な近代装備が乱獲への甘い罠≠ナあることを見抜き、自重した水産業の鑑≠ニいうべき海女漁や、シャチとの間で獲物を分け合う感覚を間違いなく有していたアイヌの捕鯨との決定的な差でした。
 突取式捕鯨が発祥地である尾張や導入された関東各地で、あっという間に乱獲による自滅に陥ったことは、当時から理解されていました。
 日本で最初に組織的な捕鯨が開始されたと考えられるのは、新聞報道も含めてしばしば誤解されていますが、太地ではなく尾張地方(今の愛知県知多半島南部)です。
 それはあまりにも悲惨な代物でした。
 以下は随筆家/僧侶の三浦浄心が発祥地尾州から関東に持ち込まれた鯨漁の模様を慶長見聞集の中で伝えたもの。乱獲による資源枯渇の実態が手に取るようにわかる内容です。

文禄の比ほひ、間瀬助兵衛と云て、尾州にて鯨つきの名人相模三浦へ来りしが、東海に鯨多有を見て、願ふに哉と、もり綱を用意し、鯨をつくを見しに、鯨、子を深くおもう魚なり。故に親をばつかずして子をつきとめいかしをく。二つの親、子をおのが腹の下にかくし、をのが身を水の上にうかべ、剣にて肉を切さくをわきまへず、親子ともに殺さるゝ。(中略)
此助兵衛鯨をつくを見しより、関東諸浦の海人まで、もり綱を支度し鯨をつく故に、一年に百二百づゝ毎年つく。はや廿四五年このかたつきつくし、今は鯨も絶はて、一年にやうやう四つ五つつくと見えたり。今よりこの世鯨たえ果ぬべし。(引用)

子持ち鯨ばっかり殺していると「今より後の世、鯨たえ果ぬべし」と言った三浦浄心や、一産一子の鯨類において子鯨ばかり捕っていたら年々減っていくのは当然とした「西海鯨鯢記」の著者谷村友三、かなり慧眼だったし、よっぽど自然の事考えていたのでは?(引用)

■鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性
http://togetter.com/li/977982

 古式捕鯨前期の突取式の技術は、このように沿岸性で泳速の遅かったコククジラ、セミクジラに深刻なダメージをもたらしました。セミクジラに関しては、米国等外国の帆船式捕鯨による影響も一部にはあったと見られますが、日本近海での操業時期や捕獲数から推量しても、相対的には当時の日本の捕鯨産業のほうが資源枯渇の責任が大きかったのは否定の余地がありません。
 そして、その乱獲を招いた尾張の鯨取りを招聘し、技術を取り入れ、さらに発展させたのが太地だったのです。

■太地浦鯨方成立の概略|太地角右衛門と熊野捕鯨
http://www.cypress.ne.jp/taiji/3.html

この頃になると、太地浦では兄の金右衛門組とするものの、三組の鯨組(金右衛門頼奥・角右衛門頼治・忠兵衛頼則)となり、また他の地域でも鯨組が多く出来て競合しておりました。そのため、乱獲となり、捕鯨業は衰退しつつありました。(引用)

■多田吉左衛門と網掛突取捕鯨 太地亮著|津室儿のブログ
http://tumurojin.blogspot.jp/2012/05/blog-post_30.html

このような技術革新の結果、当時、乱獲によるためか、突き取り捕鯨の主な対象だった脊美鯨が減少し、熊野での各浦々の鯨組同士の競合が起こり、捕獲した鯨をめぐり争いが絶えなかったため、延宝三年(一六七五年)、熊野の七浦庄屋が突取捕鯨に関する取り決めを行った。(引用)

 そして、こうした状況に対し、江戸時代の日本の捕鯨業者が発揮したのは、乱獲によって資源枯渇を招いたことへの反省、痛めつけられた資源を回復させるための自然への配慮ではなく、利益を維持するため新たな獲物に乗り換える知略だったのです。そのようにして登場したのが網取式捕鯨でした。

https://twitter.com/mackujira/status/728041572307079168
(突取捕鯨と網取捕鯨の差)突取捕鯨で鯨に打つ銛は約100本。潜ると銛が抜けるのがほとんど。逃走されると高価な銛の費用損失が大きかった。従い、鯨を逃せば赤字となった。網取捕鯨では鯨網で動きを止めたので逃走されず、銛もねらい打ちできたので消耗が少なく有利だった。(引用)

 言い換えれば、突取式では銛を打っても捕獲し損ねる場合が非常に多かったことということ。当然、逃走したクジラは死亡したはずです。つまり、当時の不十分な統計では推し量れない資源へのダメージがあったことをも意味します。残念ながら、太地をはじめとする古式捕鯨業者には、それが自然にとって何を意味するのか、胸に手を押し当てて考える気はなかったようですが……。
 ちなみに、今日では生存捕鯨の規制でも銛打ち数が基準となっています。
 日本の捕鯨産業は、乱獲による衰微の歴史を真摯に振り返り、自制に向かうのではなく、さらに効率的な網取式に切り替え、対象種をこれまで捕獲が容易でなかったザトウクジラにまで拡張したうえで、なおも減少の明らかなコククジラやセミクジラにダメージを与え続けました。この辺りは、近代捕鯨が乱獲を防げなかった大きな要因であるBWU制(シロナガス換算)の重大な欠陥(ナガス・イワシを捕りながらシロナガスを追い詰め続けた)にも通じるものがあります。

 ちなみに、網取式捕鯨の発祥地についても諸説ありましたが、一応関係者の間では太地が定説というお話。

https://twitter.com/mackujira/status/727384216694976512
平成18年(2006年)、太地町で「第5回日本伝統捕鯨地域サミット」があり、全国より研究者が集まりました。太地町の「捕鯨発祥地」の解釈について、「延宝5年の網掛突取捕鯨の地」と規定したように思います。(引用)

 ただし、太地が開発した翌年の1678年にはもう、遠く離れた大村(長崎)深澤組が網取捕鯨業を始動したとされます。

■近世日本における捕鯨漁場の地域的集中の形成過程|岡山大学経済学会
http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/journal/14930

 深澤氏が太地を訪れて網取の技術を伝授されたのは1684年とする見方もありますが、いずれにせよ歴史的には瞬く間に広まったといって差し支えないでしょう。
 莫大な利益を生むことがたちまち知れ渡り、網取式の技術は高知や山口、九州北部にまで伝播しました。太地の関係者が出張して教えたり、逆に各地から太地にまで教えを乞いに来るなどして、全国にあっという間に広まったわけです。みんなが同じことをやりだしたらどういうことになるか、誰も関心を持ち、時間をかけて検証することなく、ただ「同じように大金をせしめたい」という欲望から拡散してしまったということです。
 太地では、網取式導入初期の捕獲数が100頭近くまでふくれあがります。

鯨は、“一頭で七郷が潤う”と言われ、当時セミクジラ1頭で約120両にもなり、年間95頭捕れた天和元年(1681 年)には、6,000両を超す莫大な利益をもたらした。このことは、遠く離れた大阪にも伝わり、井原西鶴の著書「日本永代蔵」には、鯨を取って得られる金銀が、使っても減らないほど蓄えられ、檜造りの長屋に200人を超す漁師が住み、船が80隻もあり、鯨の骨で造られた三丈ほどの「鯨鳥居」があるなど、この地域の繁栄ぶりが記述されている。(引用〜和歌山県日本遺産ストーリー)

https://twitter.com/mackujira/status/727303732828889088
1683年暮れから翌春のわずか数ヶ月間で、太地では座頭鯨91頭、背美鯨2頭、児鯨3頭を捕獲して太地は全国に知られることになりました。網取捕鯨法は突取捕鯨法では難しい座頭鯨捕獲に開発されました。そして「太地角右衛門大金持よ、背戸で餅つく表で碁うつ、沖のど中で鯨打つ」と唄われました。(引用)

 一方、技術的に圧倒的に優位に立った太地組に対し、近隣の鯨突組は脅威を感じて禁止を訴えます。

また、紀州藩内の鯨突方の組織が網取捕鯨の組織力と実績に驚異を感じ、突取捕鯨が行えなくなったとの認識があったものと思われるが、紀州藩に訴え、一旦この技術での捕鯨を禁止された。そこで角右衛門は逆に紀州藩に願い出て、訴訟の結果、翌年には網掛突取捕鯨の使用が再び許可されたという経緯があった。(引用〜『多田吉左衛門と網掛突取捕鯨』)

 この辺りも、その後の漁業者と捕鯨会社、あるいは今日の沿岸/沖合ないし競合する漁業種間の軋轢に通じるものがありますね。
 この禁止措置は1680年のわずか1年のみで、翌年には解除されました。
 結果的に紀州藩が、莫大な収益をもたらす太地の肩を持ったということでしょう。まさに政治力のおかげ

 太地町の年間90頭を越えるザトウクジラ捕獲は、完全なオーバーキル、過剰捕獲です。それにしても、和歌山県の日本遺産登録資料中の記述の、なんと無自覚でノーテンキなことか。
 太地の古式時代の年間捕獲数は40頭前後とみられますが、最大の鯨組・壱岐の益富組をはじめ、全国に乱立した鯨組がこぞってこれだけの規模の捕獲を行っていたとすれば、全国では年数百頭のオーダーになります。
 当時の日本の古式捕鯨による捕獲数の推計については、以下の過去記事を参照のこと。

 
■NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html

 性成熟まで10年かかるザトウクジラを、年数百頭、子持ちまで捕獲してオーバーキルにならないはずがありません。

■生息数推定|小笠原海洋センター
http://bonin-ocean.net/estimation

北太平洋では、近代捕鯨が開始される以前、1900年代はじめのザトウクジラの生息数は10,000〜15,000頭で、西部北太平洋だけでも2,500頭とみられていました。しかし、捕獲が禁止になる前年の1965年頃には、この数は1,000頭にまで減っていたと推定されています。
 対象をザトウクジラに限った全国のトータルでは、江戸時代の網取式捕鯨の方が、明治以降のノルウェー式近代捕鯨の年間捕獲数(最大でも1914年の160頭)を間違いなく上回っていたと考えられます。
 米国等の帆船式捕鯨はザトウクジラを捕獲対象としておらず、セミクジラと違ってほぼ100%日本に乱獲の責任があります。
 北太平洋西部の系統群が東部より大幅に少なく、近代捕鯨開始以前から2500頭程度と非常に低水準にあった理由は、間違いなく太地をはじめとする日本の古式捕鯨による過剰捕獲が原因としか考えられません。その後も、舶来の技術でもってさらに絶滅寸前にまで追い詰めたわけですが。網取式の技術革新と同じ過ちを繰り返す、海女漁とまさに対照的な節操のなさがここにも露呈しています。 
 要するに、非持続的な乱獲漁法を全国に広めたのが太地なのです。前述のとおり、網取式以前からすでに乱獲は起こっていたので、乱獲の祖とまではいえませんが。
 続いて、太地等の古式捕鯨に対する「決して乱獲しない持続捕鯨=vと並ぶもうひとつの都市伝説、「決して子持ちを殺さない人情捕鯨=vについて、さらに詳しく検証しましょう。

https://twitter.com/mackujira/status/710490993813024768
太地町で公職にいた方が、明治11年の鯨船遭難に関連して、神津島で「背美の子持ちは捕らえない」と語りました。1791年、太地角右衛門頼徳は同島役所に「背美の子持ちを含め、捕らえる」の内容の公文書を送っているのを知らずに。(引用)

 公文書に書いてある内容とは真逆のことを流布させてしまうのは、どっかのトンデモ竜田揚げドキュメンタリー映画監督とも共通していますね・・。
 実際、太地の仔鯨殺しについてはそれ以外にも様々な文献史料が残されています。前掲のまとめ『鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性』も合わせてご参照。
 例えば、以下は同町に伝わる鯨歌の一節。 

お脊美子持ちを突き置いて、脊美の子持ちを突きおいて、春は参ろぞ伊勢様へ、きぬた踊りは面白や、なおもきぬたは面白や。
太地網方舵取り掛けよ、月に子持ちを二十五持ち、子持ちを月に、月に子持ちを二十五持ち。(一部引用〜砧踊り歌)

明日の子持ちは覚右衛門様組よ、親も取り添え子も添えて。
ここのお家はめでたいお家、鶴と亀とが舞をする。
とろりとろりと船漕ぎ寄せて、春は参ろぞ伊勢様へ、かけて参ろぞ伊勢さまへ。
組の栄へは網組よ、子持ち連魚賑々と、寄せて掛け取る羽差し水主。
いつまでも旦那かわらず網組よ、右はかわらず網組よ。
今年も一じゃ、大きな大たろ取り済ました。(引用〜明日の子持ちぶし)

座頭の子持ちや、あさなあさなすだちでそだつ、あしたりゃ座頭つれよいさ、ソリャソリャデイチュウジャ。(一部引用〜魚踊り。デイチュウ=銛の刃先。長崎から導入されたデンチュウ銛の呼び名が変化したもの)

 このうち魚踊りは今回の日本遺産の登録文化財リストにも含まれています。覚右衛門讃歌については後述。
 一片の憐憫の情もなく、それでもあえて「子持ち」のフレーズを入れて何度も連呼してしまうあたりが、筆者は正直理解に苦しみます。これらの鯨歌の節からは、彼らがクジラの子をシラスと同程度の感覚で捉えていたようにすら見えます。三浦浄心の嘆きとはあまりにも対照的。
 歌ばかりではありません。元太地町長庄司五郎町長が代表を務めた熊野太地浦捕鯨史編纂委員会がまとめた『熊野の太地 鯨に挑む町』(平凡社)の1ページ目には、上野の国立博物館所蔵の子持ちザトウの捕獲絵図もしっかり収録されています。
 そして、こちらは同じくセミの捕獲絵図。

■背美鯨捕鯨絵図|太地角右衛門と熊野捕鯨
http://www.cypress.ne.jp/taiji/ezu2.html

何鯨ニよらず子持鯨及見候得者、鯨船寄り集り、子江銛を突候而しらせ綱を付、船を引せ申候得者、母鯨子をいたわり、介抱致候様ニ仕候処を、船之銛を段々突鯨を弱らせ、子の頭江鼻もりと申候銛を突、地方江潜入候得者、母鯨何所迄も慕来るを、もりを突また者網ニも懸ケ申候而取得申候。右者座頭鯨せひ鯨児鯨同様ニ御座候。(中略)
「鯨記」も「一、子持鯨は憐れなり。先ず子を突大小に順ひ森(※銛)二、三本、或は十本も突て網を扣て遠く去ざる様にするときは、母鯨二、三里行きても又立帰り、子をひれの下に隠し、己が身に森を受終に死す、誤て子を殺しぬれば半死の鯨も迯去なり。」と記していますが、山見を行いながらひたすら鯨を待つ者にとり、さまざまな条件を付けて捕鯨を躊躇していたのでは莫大な資本を必要とする捕鯨業は成り立たなかったでしょう。(引用)

 ここで太地亮氏のいう「さまざまな条件」には、持続的水産業であれば必須の捕獲規制も含まれることは論を待ちません。
 福本和夫氏が『日本捕鯨史話』の中で銅鉱に次ぐ日本屈指の大規模マニュファクチャーと表現した古式捕鯨は、莫大な収益をもたらし、藩の財政を支える重要な産業であったが故に、正当化されなければなりませんでした。
 動物福祉への配慮はいうに及ばず、自主的な捕獲削減、休漁などもってのほか。
 再度慶長見聞集からの引用。

文禄の比ほひ、間瀬助兵衛と云て、尾州にて鯨つきの名人相模三浦へ来りしが、東海に鯨多有を見て、願ふに哉と、もり綱を用意し、鯨をつくを見しに、鯨、子を深くおもう魚なり。故に親をばつかずして子をつきとめいかしをく。二つの親、子をおのが腹の下にかくし、をのが身を水の上にうかべ、剣にて肉を切さくをわきまへず、親子ともに殺さるゝ。哀なりりることどもなり。心有人は二目とも見ず。殺生このむ人は慈悲の心なきゆへ、世のあわれをも知らず。罪のむくひをわきまへざるのおろかさよ。(中略)
かくのごときの大殺生、天竺、諸越にも聞及ばず。一寸の虫に五分の魂有と俗にいへるなれば、五十ひろ百ひろ有鯨の魂いかばかりならん。佛は十悪罪のはじめに殺生を出せり。五戒も殺生を第一とす。此殺生の根源を尋るに、慈悲心なく欲よりおこる。三毒といふも、どんよくを第一とせり。鯨殺す人、生死の海にちんりし、六道四生の業のがれがたしといへり。

 ひとつはっきりいえるのは、仔鯨を人質≠ノ取れば、大物のメスを逃がすことなく容易に捕獲できることを理解したうえで、彼らはそういうやり方をあえて好んで用いたということ。
 子連れの積極的捕獲が意味するのは、浄心がズバリ指摘した、金に目のくらんだ冷血漢の血も涙もない所業のみではありません。
 繁殖メスと仔鯨の積極的な捕獲は、持続性の基本への無理解の証に他なりません。
 今日の水産資源管理においても、体長制限は基本中の基本。「育つまで待つ」という、伝統的な狩猟・漁労、あるいは林業においては不可欠の認識が、太地をはじめとする日本の古式捕鯨事業者には皆無だったということです。
 もっとも……未成熟個体を多数殺しながら「あれは実の親子じゃないからいいんだ」とのとんでもない言い訳を平然と言ってのけた鯨研の調査捕鯨にしても、サバからマグロまで国際的批判を浴びながら科学的な規制の導入を拒み続ける乱獲漁業にしても、古式捕鯨のこの伝統≠受け継ぎ、現代流により発展させたものだという見方もできますが。

■非科学的な動物"愛誤"団体──その名は「鯨研」
http://www.kkneko.com/icr.htm

 一産一仔で性成熟まで何年もかかる、繁殖率の低い大型動物で、こんなやり方を認めてしまう狩猟を、筆者は知りません。少なくとも伝統として長年続けられてきた、自然と共存する持続的な狩猟の事例としては。
 こどもを人質に取る卑劣で冷酷なやり方に「伝統」の枕詞をかぶせてしまうのは、およそ日本の捕鯨礼賛論者のみでしょう。
 いったいそのどこに人間らしさ≠ェあるのでしょうか?
 その疑問を抱いたのは、当時でさえ、三浦浄心ばかりではありませんでした。

■鯨文化:鯨を弔った鯨墓・鯨塚など
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/3011/kujirahaka.html
■丹後の伝説:45集 鯨とり、捕鯨
http://www.geocities.jp/k_saito_site/bunkn45.html

嘗て鯨をとりしが子鯨、母鯨にそうて上となり下となりて其の情態甚だ親しく、既に母鯨の斃る頃も、頑是なき児の母の死骸にとり付きて、乳を飲む様にも見えたり、よって屡々これを取除かんとすれども遂に離れず、拠無く子・母共殺すに至る。いかなるものもその様を見てはその肉を食うに忍びず、此処に葬りて墓を建て供養せり、定めてこの墓の鯨もザトウなるべし(京都府与謝郡伊根町 在胎鯨子塔)

 日本海を望む丹後半島に位置する伊根町では、太地や西海地方のような鯨組はありませんでしたが、1656年から1928年までに約350頭、年1、2頭ほど寄り鯨を捕獲していたことが記録されています。
 集団心理と慣れ=A大金の入手を正当化する理論武装によって感覚の麻痺してしまった常習的な鯨組と違い、このときの彼らは、母子クジラを殺した深い自責の念に苛まれ、その肉に手をつけることができなかったのでしょう。
 ちなみに、鯨塚の中にはこんなものも含まれていたりします。

■千葉県浦安市:鯨塚「大鯨の碑」|東京湾岸内・外の鯨塚
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/3011/haka-toukyou.html

この大鯨は当時の価格で金弐百円もの高値で売れ、大金を手にした両氏はすっかり有名人になり、どこへ行っても英雄扱いされたそうです。両氏は大鯨捕獲劇のことで仕事も手につかなくなり、このことに終止符を打つために考えた末に年配者の知恵から稲荷神社に大鯨の碑を奉納し、祀ったとのことです。これが大鯨の碑建立の経緯であります。(引用)

 まとめでも述べていますが、古式捕鯨地以外も含め、突発的な飢饉から救済されたことへの感謝から、利用せず単に座礁したイルカ・クジラを祀ったものまで、鯨供養碑は全国各地にあり、建てられた経緯や動機も実に様々でした。
 飢餓からの救済に関していえば、戦後の日本がまさに南極海のクジラに大恩があることを、私たち国民は決して忘れてはならないでしょう。飽食・廃食の限りを尽くしながら、高級料亭や居酒屋で尾の身を貪る腐敗した政治家や芸能人らが、日本人である筆者には忘恩の輩に思えてならないのですが。

 付け加えれば、日本には「鯨一頭七浦枯れる」という、日本遺産でこれ見よがしに掲げられた「七浦賑わう」の謳い文句とは裏腹の諺も、各地に伝えられてきました。

 神奈川県の三崎地方では「流れ鯨を拾うと祟る」という諺があり、流れ鯨を拾ってきた船元の家は栄えた例はないと言い伝えられている。三崎の西の浜の延命地蔵の境内の「鯨塚」は、この流れ鯨の祟りを恐れて供養に建立されたものだという。(引用〜『ザ・クジラ』(文眞堂))

 くしくも、三崎地方は、先述の尾張から持ち込まれた捕鯨が乱獲の末あっという間に廃れた地域と重なります。小魚を追い込んで豊漁をもたらしてくれる恵比寿様≠フイメージのみならず、過去の苦い体験も人々の記憶に残っていたのでしょう。
 漁場の汚染を招く沿岸捕鯨会社の進出に猛烈に反発した漁民の反対運動については、こちらのまとめも参照。

■『八戸浦”くじら事件”と漁民』に見る、漁民から見た捕鯨
http://togetter.com/li/837408

 なお、『多田吉左衛門と網掛突取捕鯨』に「座頭鯨を仮死状態にする技術」とありますが、これは背中に包丁で切り込みを入れて脊椎を損傷させ、半身不随にすることで動きを止めるという、今日の動物福祉の観点からすればまさに身の毛もよだつ屠殺法。

https://twitter.com/mackujira/status/727016113528143872
太地角右衛門頼治が1677年に網取捕鯨法を開発していますが、頼治は1662年に勢子船を塗船8挺櫓15人乗りに、櫓も改良しています。網方では組織を分業化し大規模化しました。近隣の他地域の捕鯨業が廃業の中、太地が生き残り、明治まで専業化できたのは、このためです。(引用)

 太地地方の鯨組の場合、一時は5組にまで分派して互いに競合し合っていたものが統合されます。今日の資本企業と同じく、規模が大きくなればなるほど、自制≠ェ困難になることは容易に想像できます。燃費データを改竄してでも生き残りを図る大手自動車メーカーではありませんが。
 漁場に関しては、太地と近隣の古座浦、三輪崎等の間で定書が交わされていましたが、規制の遵守をめぐるいざこざも起きています。後にこれらの経営権も太地が買収することになりますが。
 江戸初期の組織的な鯨組のルーツに関しては、水軍のカモフラージュだったとの見方もあります。紀伊藩主として封じられた徳川頼宣(家康の第十子)が捕鯨訓練の名目で数百隻から成る水軍を仕立て、鯨を敵船に見立てた調練を行いトラブルになったことが『紀伊南竜公』に記されています。
 成り立ちからして、日々の糧を得るための持続的漁労とは相容れない存在だったといえるでしょう。
 つまり、現代の捕鯨産業の病理の端緒が、この時代からすでに現れていたともいえます。

 続いて、太地の鯨組を統括した和田氏について。創業した頼元の孫にあたり宰領を務めた頼治の系列が覚(角)右衛門を、相談役を務めた頼興の系列が金右衛門を代々名乗っていました。頼興が頼元の長子・頼照の長男、頼治が同じく次男。頼興が病弱だったため、家督を継いだのは弟の頼治の方。
 以下、いくつか太地町の捕鯨史編纂委員会の資料から気になる箇所を抜き出してみましょう。元太地町長も編纂に関わっただけあって、非常に正直で赤裸々な内容となっています。

この関係は明治初年までも変わることがなく、また宗家筋は代々金右衛門を、頼治の筋は覚右衛門を襲名した。またこの両家はたびたび血族結婚を重ねている。頼治の母は頼照の後妻で、頼治は頼興の異母兄弟である。頼治の母は秀吉が朝鮮の捕虜の女に生ませた女の、そのまた女の子で、耳環をはめ、里人に「朝鮮婆沙摩」と称せられたと『太地系譜』にあるが、村の内外にそれに似た記録もなく、伝承もないので、真偽のほどは保証のかぎりでない。(引用〜P73)

ただし、この保守的な世襲制度は、人の才能の発展を抑圧し、妨げる大きな弊害を伴い、人間進化の基本原則に反する非民主的な制度である。最初はそれによって、専門技術を優秀にしても、停滞するとたちまち形式主義に陥ってしまう。そこに太地鯨方が、後代ジリ貧に陥り、無理をしてついに崩壊し去った主因がある。明治十一年の大遭難や、時代の大変革もさることながら。頼元や頼治の堅実で、進取的な伝統を、後代の和田鯨方は継承し、発展させえなかったのも、そこに最大の原因があろう。(引用〜P105)

太地鯨方の象徴は和田(太地系を含める)一族であった。和田鯨方と称して、旧藩時代は金右衛門や覚右衛門は殿様とさえ呼ばれた。居館は町内にあったけれど、明治中期に小学校が建設された際、その屋敷跡を校庭として使用したほどに広大であった。(中略)全盛時代には、新宮水野藩主が和歌山の本藩から借金するのに、覚右衛門が保証人として署名したと伝えられている。
当時の大名生活を語るものにその墓石がある。土佐室津の多田の代々の墓型も特異なもので、幅一メートル、長さ二メートル弱の石の寝棺を石蓋で覆い、その枕頭に碑が建てられている。石はこの地にない花崗岩なので、この一つの墓を造るのに、鯨一頭の代金を要したと伝えられている。和田代々の墓は巨大な五輪塔で、全く大名のそれに異ならず、むろん鯨一頭の資では足るまい。(引用〜P136)

しかし幕末から明治にかけて、この規定(※筆者注:基本給・賞与の支給や補償)が果たして実行されたか否かははなはだ疑わしい。今年九一歳になる鯨方最後の名刃刺し君太夫の未亡人は「わがらの家には多少なりとも水田があったから、朝から晩まで田の中を、ぱちゃぱちゃはい回って、どうにか生きてきたけれど、一升の米でどうして家族何人もの家が暮らしていけるだ、そりゃほんとにみじめなものじゃった」と、当時を思い出して年老いた声をふるわせた。明治維新前後を生きぬいて来た村の古老たちは、みんな同様の苦しい生活を体験している。米飯はおろか麦飯でも、それだけで堅い飯を食うことは一年のうちに何回しかなかった。(中略)しかし、和田の一門がそこまで陥らないずっと以前から、水主や下働きの大多数の村民一同は、これに似た生活を耐え忍んできたとみてよいのではあるまいか。(〜P143)

かれ(覚右衛門/覚吾)は才知もあり闊達な人物だった、しかし父祖代々大庄屋に任じられ、名門を誇るかれは封建色で固まっていた。村の最高権威者をもって自認する彼は傲慢だった。ある年、近村に疫痢流行の兆しがあった。たまたまかれが隣村への一本道である村はずれに来かかると、その隣村の山道から降りて来た一婦人に出会わした。見ると季節物の山桃の実を笊に入れていた。太地に売りに来るところだったのだ。かれは「この不届き者!」と大喝すると、笊を取りあげて、その山桃の実を路上に投げ捨ててしまった。婦人は驚いて逃げ帰った。山桃は疫痢を媒介するからと、かれは信じていたからの行為だった。老幼の差別なく叱り散らすかれに、村民たちはただただ畏怖していなければならなかった。(引用〜P145)

当の宰領覚右衛門、金右衛門両家はもとより、和田一門は一切の家産をその善後処置に投入しなければならなかった。それでも強気一点張りの覚吾(覚右衛門)は百方奔走して、北海道の根室漁場の開発を企画して人を派遣したり、資金調達のために大阪に出て、熊野の物産の扱いで生計を図りつつ苦闘した。そのうち休業していた太地では、無断で一門の者が開業せんとして悶着を生じたり、覚吾はこの苦難中大阪で遊んでいると悪評を立てられたり、ついに収拾不可能に陥った。こうして日本の水産業界に最大の企業組織鯨方の端緒を開くと同時に、その中心勢力たりえた太地鯨方は、ここに栄誉ある三〇〇年の歴史を閉じたのであった。(中略)ひとたび改進を怠れば、世襲という封建の階級に安住する結果を生じて、腐敗するばかりだったからである。しかも旧来の地位を保たんとして、そこから権威主義が生まれ、事大主義が生まれて来る。巨大な墓石はよくそれを象徴しているかに見える。民謡鯨歌の歌詞・曲譜にさえもそれが見られる。元来、日本の民謡は労働生産を賛美するところから生まれたもので、したがって、鯨歌なども、その範疇を出るものではない。(中略)ところが太地のあや踊り歌曲などはそれからはずれてしまっているのだ。(中略)いつしか元禄・享保の江戸中期の町民芸能の影響を受けて生産の祝い歌というよりも、たんなる祝い歌、覚右衛門賛歌中心へと移行したことを示している。(中略)太地の鯨歌・鯨踊りが、早くから町内青年の魅力を失った原因はここにあると思える。こうした些細な現象からも、和田中枢部が封建事大主義から抜けきれず、停滞した非進歩性が十分にうかがわれよう。(引用〜P155)

 で、この『熊野の太地 鯨に挑む町』の解説に対しては、とくに背美流れの部分を中心に、太地亮氏が古文書をもとに強い調子で反駁しています。

■太地捕鯨史の現状 (3/5,熊野新聞)
https://twitter.com/mackujira/status/705980375307137025

 同書で背美流れの描写のもとになっているのは、太地五郎作氏著『熊野太地浦捕鯨乃話』
 このうち、指摘@子持ち鯨捕獲に関しては、確かに亮氏の指摘に分があり、五郎作氏が盛った≠アとは否定できないでしょう。
 しかし、他の指摘に関しては、亮氏の主張するように「裏づけのない」「なんら根拠のない」でたらめな大法螺ばかりを五郎作氏が吹聴したとまでは思えません。第三者の立場からすれば、解釈について両論ありとみなすしかないでしょう。
 以下、熊野新聞記事の指摘をひとつずつチェックしてみましょう。

A時刻について
 冬至の「八つ時」は1時半頃ではなく、1時50分頃。ただし、八つ時といった場合、ジャスト1時50分を指すとも限りません。13:50〜15:40の間のいずれかの時間とみなすことも可能。金右衛門が正確な腕時計をはめていたはずもないのですが。雨天で辺りが夕暮れ時くらい暗かったことも十分考えられるでしょう。

B天候について
 五郎作氏の記述は「殊に天候も宜しく無い」で、獲物のセミの大きさ、時刻、天候等を総合的に勘案してやめたほうが無難ではないかと諌めた、という話になっています。「無理な鯨船出航だった」という記述はありません。
 宰領/相談役の指示もないまま、微妙なシチュエーションで、獲物を前に帰港するかどうかを使用者が判断することはできないでしょう。
 最終的には無理だったかどうかは結果論であり、事故のリスクの高低をどう見るかで金右衛門/五郎作氏と角右衛門/亮氏の見解が異なるという話になります。
 金右衛門の日記にない記載への疑問については後述。

C角右衛門と金右衛門の口論について
 金右衛門は本来和田氏の宗家で、単なる山見担当者ではなく宰領を補佐する鯨方のトップ2。五郎作氏は山見の作業内容について詳細に説明していますが、主として金右衛門が担い、金右衛門に差し支えがある際には角右衛門が担うことになっています。つまり、宰領補佐兼山旦那役の金右衛門に対し、角右衛門の方は宰領兼山旦那補佐役だったわけです。
 角右衛門が経営者としての総括的判断業務に専念し、本部にこもっていたため来遊すら把握しなかったというのは、亮氏の推測であり、筆者には無理があるように思います。角右衛門が常にではないにしろ、経営に直結し自身が担う可能性もある山見の現場に足を運ぶこともあったと考えるのは自然でしょう。逆に、角右衛門が金右衛門に絶大な信頼を寄せ、現場を安心して任せきりにしていたとみるのは、後代にまで続く両家の確執を考えると矛盾があります。
 金右衛門の日記は淡々と簡潔に起きた出来事を並べていますが、奇妙なことに、配置された各船の行動を記してはいても、山見が個々の段階に応じて出していたはずの舟に対する指示に関する記述が含まれていません。亮氏のいう「連携」の具体的中身がないのです。これでは鯨漁に山見は不要といわんばかり。金右衛門自身が総指令役の山旦那≠ナあるにもかかわらず。
 二人の口論について記述がないのもやや不自然ですが、山見の動きが日記に記されていないのは、金右衛門自身が席を立ち、自らは指示を出さず別の場所で漁の模様をながめていたからだと考えれば辻褄は合います。日記を書いた時点では、宰領と相談役それぞれの責任について触れたくなかったという事情もあるかもしれません。
 五郎作氏が両者の口論をあえて遺そうとした背景については、さらに後述。

D明治11年度の不漁について
 15億円は誤り、当時の7千円は現在の通貨換算でおよそ1億5千万円。
 この年度が「不漁でなかった」とする太地亮氏の見解は誤りであると、筆者は判断します。
 クジラは通年獲れるわけではなく、漁期中の上り(春)と下り(秋)の回遊の時期に集中します。下り鯨は黒潮に逆らうコースになることから沿岸により接近するので獲りやすく、一方で上り鯨のほうは繁殖海域から索餌海域に向かう季節にあたるため痩せているという事情もあります。
 注目すべきは7頭の内訳。ザトウクジラ2頭、セミクジラ1頭、そしてコククジラ4頭。
 コククジラは初期から乱獲されて減少していたため、4頭はたまたまと当時の関係者も見ていたはずです。年度前半のピークがすぎても、収益の高いセミクジラはたった1頭、網取式後期に捕獲の過半を占めてきたメインのザトウクジラもたった2頭。このペースではザトウで年間10頭いくかも疑わしく、網取開始期の90頭台とはそれこそ雲泥の差。金右衛門、角右衛門とも、この状況を不漁と認識していたのは間違いないと思われます。大阪での借り入れが不意になり北海道への事業進出が頓挫したことで、年越しへの不安がより一層煽られたのも事実でしょうが。
 ちなみに、明治年間の土佐津呂組及び浮津組の年平均捕獲頭数はそれぞれ17頭、年平均収入は約1万6千円及び約1万9千円でした(〜『日本の捕鯨』高橋氏)。

E対象のセミクジラの大きさについて
 B同様、「技術的に無理な大きさだった」と大きさのみに原因を問うことは五郎作氏はしていません。獲物が大きかったことは亮氏自身もHP中で書いています。
 熊野新聞の記事中では、「では、何が遭難事故を引き起こした原因なのか」がはっきり書かれていませんが、天候/海況、時間、獲物の大きさという諸々の条件に加え、深追いしすぎて獲物を断念する判断が遅れた人災の側面が強かったといえるでしょう。
 リスクをやむをえないものとみなすかどうかという主観のみで、結局のところ、両者の結論にそれほど大きな差があるとは思いません。

 勝浦町長も務めた太地五郎作氏は、太地亮氏と単なる同姓ではありません。どちらも由緒ある和田一門のお家柄。
 といっても、亮氏が角(覚)右衛門系、五郎作氏が金右衛門系。伊東潤氏の時代小説『鯨分限』の主人公のモデル、太地覚吾こと角右衛門頼成が亮氏の曽祖父、一方の五郎作氏は太地覚吾と同時代の金右衛門頼秀の実子という間柄。どちらが宗家かについても両者で見解が分かれている模様。何をもって宗家と呼ぶかにもよるのでしょうが・・。

■太地浦捕鯨図の屏風 石垣記念館で特別展示 ('13/7/14,紀南新聞)
http://www.kinan-newspaper.co.jp/history/2013/7/14/03.html

五郎作は明治7年、太地生まれ。下里郵便局長を退任した翌年の大正8年に勝浦町長、同11年に和歌山信用組合専務理事、戦後は和歌山信用金庫理事長を務めた。父親は捕鯨創始者の子孫で、太地鯨組の山旦那(クジラの来遊を見張り、鯨舟を指揮する山見の責任者)だった。(引用)

 背美流れについて、唯一直接当時の状況が記述された史料といえるのが金右衛門の日記『脊美流れの控え』。熊野新聞の太地亮氏の主張のうち、それ以外の部分は他の史料が示す間接証拠に基づく太地亮氏の推測です。『南海奇賞鯨之記』は太地を訪れた医師が見聞を記したものですが、発行されたのは事故より半世紀も前で、角右衛門頼成は生まれてもいません。
 一方、太地五郎作氏の著書『熊野太地浦捕鯨乃話』の方も、自身の実父である金右衛門頼秀の日記を引用しています。事故当時の五郎作氏は4歳ということになりますが、著書の記述は父頼秀の体験談に基づくものと見て差し支えないでしょう。
 昭和生まれの現代人・太地亮氏と違い、五郎作氏は幼少期に事故とその対応に追われる父親を目の当たりにし、当時の状況をより近しい身(価値観も含め)で知り得る立場にあったわけです。
 実際のところ、古文書の記述が常に正しいとは限りません。人が書いたものである以上、当たり前の話ですが。
 例えば、古式捕鯨について記された最初の史料とされる『西海鯨鯢記』ですが、そこでは発祥地が尾州ではなく隣の三河国と書かれており、著者が国名を勘違いしたものと考えられています。

 もっとも、太地亮氏と太地五郎作氏のお2人の見解が両極端に近いほど異なるのは、それ以外の要因もありそうです。
 五郎作氏の著述する金右衛門と角右衛門は、確かにややステレオタイプで歌舞伎じみて見えます。
 引用したとおり、主に『熊野太地浦捕鯨乃話』をもとにしている『熊野の太地 鯨に挑む町』では、金右衛門と角右衛門の人格が対照的に描かれ、ややもすれば角右衛門の方が悪者に映りがちです。
 それは五郎作氏自身が、実父金右衛門頼秀と従叔父に当たる角右衛門頼成との関係をそのように見ていたことの現れでしょう。また、そこにはきっと金右衛門自身の視点も反映されていることでしょう。百名以上の人命を失い、長く続いた太地鯨方の歴史に幕を閉じさせた責任の過半は頼成にあると、金右衛門自身が考えていたとすれば、角右衛門像の辛辣な描写も腑に落ちます。それが恨み節の形で実子・五郎作氏に口頭で伝えられていたことは想像に難くありません。
 先祖を一にするはずの和田両家・角右衛門頼成と金右衛門頼秀の不和・不仲は何に起因するのでしょうか。おそらく、若くして家督を継いだ頼成が、近隣の鯨組を買収したうえ北海道への事業進出を図るなど、強引な経営手腕をふるい、結果として借金のトラブルで一門が危機に見舞われるに至った経緯に対する、頼秀の不満からきているとみるのが妥当でしょう。あるいは、この2人の代以前から、両家の間にすでに何らかの亀裂が走っていたのかもしれませんが。
 さらに、上で『熊野の太地 鯨に挑む町』から引用した、角右衛門に対する数々の悪評(同書p73,p145,p156)が立てられた背景には、古老が語ったような(p143)村内の大きな格差の問題が横たわっていたことも否定できないでしょう。
 一方、太地亮氏は曽祖父・頼治を崇敬に値する高潔な人物として描いています。フィクション小説に登場する主人公のモデルにふさわしいヒーロー・英雄的存在として。
 要するに、どちらも自身の先祖を贔屓して、お互い精一杯持ち上げているわけです。
 しかし、英雄として持ち上げるのも、悪人としてあげつらうのも、二人の間に優劣をつけるのも、いずれも過ちです。客観的な史実を反映した人物像とはいえません。太地亮氏、太地五郎作氏、どちらの人物描写にしても。残念ながら、先祖を尊崇してやまないこの両者の表現は、主観の檻から脱することができてはいません。 宗家と分家の確執を今に至っても引きずっているとも映ります。
 過去の時代の人々に感情移入しすぎ、没入しすぎて、距離を置いて冷静に客観的に見ることができなくなっては、本当の太地の歴史を伝えることはできないのではないでしょうか。無論、和田家の子孫であるということの枷から自由になるのは、実際には非常に困難なことかと思いますが。
 確かに、子孫である太地亮氏にしてみれば、『熊野の太地 鯨に挑む町』の角右衛門の描き方に不満を抱かれるのも無理からぬ部分はあるでしょう。
 しかし、同書にはこうも記されています。

かれは高慢だったが、あながちに憎むべき悪人だったとは思われぬ。(引用〜P159)

 一方で、金右衛門に対しても、途中で退座し沖合いの漁夫の間でも論議にのぼったとあるように、温厚堅実といっても程度の問題であると指摘されてもいます。
 まあ、部外者の目からすれば、どっちもどっちという感じですが……。
 ただ、角右衛門と金右衛門のどちらも、とても人間らしかったとはいえます。完全無欠の伝統捕鯨を主導した、非の打ち所のない完璧な人物などではなく。そんなのはもちろん、作り話の中にしか登場するはずはないのですが。
 過去の人物に理想を押し付けるのは過ちです。
 その当時の人々の行い、倫理観や価値観を、現代に無理やり当てはめようとするのも、やはり間違いといえます。
 フィギュアスケートの織田選手の先祖が虐殺を働いた織田信長だからといって、現代を生きる子孫の人物評価とは何ら関係がないのと同様に。

 こうした太地古式捕鯨の裏話、ドロドロした人間関係の部分は、今回の日本遺産登録で、後ろ暗いところなど一点もない美化された太地像を内外にアピールしたい太地町・和歌山県・日本政府としては、都合の悪いものと映るかもしれません。
 太地五郎作氏の「脊美の子持ちは夢にも見るな」の美談を、太地亮氏の再三の指摘にもかかわらず、未だに太地町が掲げ続けているのも、古式捕鯨時代からの冷血無慈悲な非人道性にスポットが当たることを、好ましくないと判断しているからと想像できます。
 フェロー諸島から導入した屠殺方法を、動物福祉の観点ではなく、血の色で海面が染まって見えないことを優先する形でアレンジしたのと、まさに同じように。
 そう・・問われるべきは、古式捕鯨時代の鯨獲りたちの人間性ではないのです。
 都合のいい、美しい神話の形で、現代の蛮行が正当化されることはあってはなりません。

■太地調査報告|立教大学日本学研究所
http://www.rikkyo.ne.jp/grp/nihongaku/hp/seika/16Taiji.pdf

明治1 9 1886 日本水産会社が出資、鯨組が2 組となる(引用)

 さあ、ここで早くも南極海で乱獲の限りを尽くした捕鯨会社大手の名が登場しました。陰謀デマを流した張本人・産官癒着の象徴たる米澤邦男氏が副社長のポストを得たあの日水が、太地にまで触手を伸ばします。
 そして、『熊野の太地 鯨に挑む町』でも明記されているとおり、南氷洋捕鯨最盛期には太地町から砲手が何人も輩出されました。この時期太地町は最も潤い、クジラ御殿が立ち並んだわけです。
 乱獲の尖兵として銛打ちを供給し、公海・南極海の自然を荒廃させた重大な責任が、間違いなく太地町にはあるのです。

■乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
http://kkneko.sblo.jp/article/116089084.html

 古式捕鯨時代にすでに萌芽が見られた自制力のなさは、沿岸のイルカ猟においても同様でした。

「1969年に太地町立くじらの博物館内にある水族館で飼育するイルカ類の捕獲を要請されたことをきっかけに,生け捕り捕獲を行う追い込み漁を開始した。当初は7隻のグループで追い込み漁を行っていたが,小型鯨類の商業的価値が増加するにつれ,追い込み漁を操業する別のグループがあらわれた。その結果,2つのグループ間での漁獲競争がおこり,1回の捕獲頭数が600から800頭を越える場合もあった(P241)

■変容する鯨類資源の利用実態 和歌山県太地町の小規模沿岸捕鯨業を事例として|国立民族学博物館調査報告
http://ir.minpaku.ac.jp/dspace/bitstream/10502/4429/1/SER97_011.pdf

 最悪なのがこれ。密猟
 日本の捕鯨の最もな強力な擁護者として太地町に滞在したC・W・ニコル氏が直接現場を目の当たりにした体験談の信憑性は、太地亮氏、太地五郎作氏の推測に基づく脚色された主張に比べても、はるかに高いといわざるを得ません。


なお、この告発に対し、従来日本の捕鯨を支持してきた論客の一人であるC. W. ニコルも、太地町に住んでいた際操業違反を目撃していた事実を告白し、「味方に嘘をつくのは許し難い」「日本の捕鯨を支持するのはこれを最後にしようと思う」と述べている。C. W. ニコル「徒然の記3:裏切られた信頼」東京新聞2001年10月17日付。(引用)

■やる夫で学ぶ近代捕鯨史−番外編−その3:戦後繰り返された悪質な規制違反
http://www.kkneko.com/aa3.htm

 半世紀に及ぶモラトリアムのおかげで、北太平洋のザトウクジラの生息数はなんとか2万頭にまで回復したと見られています。
 今ではさまざまなパフォーマンスを繰り広げたり、歌を披露してくれたり、最も観察しやすい大型鯨種として、日本の沖縄や小笠原でも人気が高く、ホエールウォッチングの定着に貢献したザトウクジラですが、網取式捕鯨時代には一番多く捕獲された主要な対象種でした。
 古式捕鯨時代の日本人は、クジラたちが歌を歌うことなど誰1人として知りませんでした。
 クジラの社会生態について、彼らは何ひとつ知りませんでした。
 ただ、親子の絆が深いことのみを狡猾に利用しようとしただけなのです。金儲けのために。
 都合のよい一部を切り取っただけの捕鯨礼賛ストーリーをばらまき、子供たちに、世界中の人々に、嘘をつくのはやめにしましょう。
 どうしても歴史を伝えたいなら、影の部分もしっかり包み隠さず伝えましょう。
 隠そうとすることのほうがよっぽど恥ずかしいことです。
 違いますか、仁坂知事? 三軒町長?

■捕鯨の町・太地は原発推進電力会社にそっくり
http://kkneko.sblo.jp/article/78450287.html
■NHK、久々に捕鯨擁護色全開のプロパガンダ番組を流す
http://kkneko.sblo.jp/article/31093158.html
■民話が語る古式捕鯨の真実
http://kkneko.sblo.jp/article/33259698.html
■鯨塚解説
http://kkneko.sblo.jp/article/71443019.html
posted by カメクジラネコ at 11:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系